JP3723949B2 - 潜在捲縮性生糸の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の目的】
この発明は、新規な生糸の製造方法に関するものであり、これまで困難とされていた絹本来の性質を損なわないようにして、品質的に優れた潜在的捲縮性能を持たせてなる新規な生糸を確実且つ効率的に生産するための新規な製造方法を提供しようとするものである。
【0002】
【従来技術】
絹糸は、軽くてソフトで神秘的な光沢があり、それによる布帛は、肌に柔らかい上、優美なドレープ性を有している等他繊維には見られない優れた性質を備えており、古来より貴賓と感性ある衣料を生み出す高価な繊維、布帛として珍重されてきた。
このように秀れた素材の絹糸も、ナイロン、ポリエステルのような熱可塑性合成線状重合物からなる繊維のような可塑性とセット性とがないため、その加工糸としての利用、特に捲縮加工糸織編み物の分野に適用することが困難なため、従前までは強撚糸としての利用を試み、ジョーゼット、デシンのようなシボ立ちで差別化するとか、または織り組織を工夫して風合を改善する等の範囲内での利用に止まらざるを得ず、伸縮性のあるバルキー性を活かしてソフト感を演出するファブリックの領域での商品開発を進めていく余地が少なかった。
【0003】
そのため、これまでにもそれらの情況を打破しようとする幾つかの試みがなされてきている。
例えば、昭和37年特許公告第16853号公報に開示された発明に代表されるような、(1)絹糸に樹脂加工を施した後、加熱賦型することによって絹糸に捲縮性を付与しようとする捲縮生糸の製造方法や、その欠点を改善しようとして提案された昭和47年特許公告第14043号公報掲載の発明のような、(2)生糸を精練するに際し、芒硝を添加してセリシンの練減を緩和して含有セリシンの残存率を10%程度とし、その膠着力を利用して賦型性を残した状態で加熱−セット−解撚を行い、再度精錬して捲縮糸となす方法等がそれである。
【0004】
しかしながら、上記(1)の製造方法によって得られる生糸では、樹脂が生糸を覆ってしまうために、絹本来の性質を変質してしまって商品価値を落としてしまうという致命的な欠陥を避けることができなかったし、また、上記(1)に対処すべくして提案されることとなった(2)の捲縮絹糸の製造方法の場合でも、必要なセリシン残存率を10%程度に管理すること自体が極めて困難であるばかりではなく、残存セリシンがそれよりも少なくなってしまうと、加撚後において絹繊維の膨潤および加熱による賦型性に与える影響が極めて少なくなり、捲縮絹糸としての品質、風合い、弾性等の面で支障を来し、逆に、この方法でセリシン残存率を高くしてしまうと、施撚時には膠着セリシンに災いされて剛性抵抗を大きくし、また、その解撚時にはフィラメントの分離難を惹起して、捲縮絹糸の製造が難しくなってしまうという課題を残すものであった。
【0005】
この発明は、以上のようなこれまでの実態を正確に認識しながらも、最近の我が国における経済環境の変化、特に関税障壁が崩されて、安価な絹糸あるいは絹糸関連商品が安価にして大量に輸入されるという事態に直面し、品質的に秀れた絹糸および絹糸関連商品を提供してきた伝統ある我が国絹織物業界も、単に品質の優位性だけでは最早経済効果を上げていくことが難しい事態に追い込まれつつある現状から、絹糸の新たな領域における商品開発を可能とする性状の付与、実現のために、従前から困難とされてきた伸縮性のある絹糸を、従前までに提案されてきた方法とは異なり、絹糸本来の良さを確実に残し、且つ工業生産性に適うようにした新たな方法で製造可能とする技術の開発、研究に取り組まざるを得ず、幾多の試行錯誤を繰り返す中、遂に、この発明者等は、それらの課題を見事に解決し得る技術として、糸の前処理として柔軟剤によるソフト性の改善と酵素によるタンパク質分解作用を併用することに着眼し、セリシンを積極的に除去することなく充分に残存せしめながら、しかも、セリシンとフィブロインセグメントの界面の解離抵抗を少なくするという画期的な技術開発に成功したものであり、以下では、その構成を、実験データーを併用しながら詳細に説明していくこととする。
【0006】
【発明の構成】
この発明の潜在捲縮性生糸の製造方法は、基本的に次に開示するとおりの構成から成り立っている。
即ち、生糸原糸を、蛋白質分解作用のある酵素と界面活性剤との混合溶液に浸漬する第1浸漬工程、浸漬して膨潤化した飽水状態のままの生糸を、平滑柔軟および固着防止のための処理剤に浸漬させる第2浸漬工程を経た後、合糸して所定の繊度となしてから、強撚−高温高圧湿熱セット−解撚法によって実質的に無撚の潜在捲縮性を付与する工程を実施し、最後に70°C〜80°C前後のアフターセット工程を経ることにより、生糸原糸に対し、含有セリシン残存率が40%以上に維持されるよう規制して柔軟処理を施し、100℃未満の温水浸漬、または通常の精錬、染色工程によって捲縮構造が発現されると共に、伸縮性のあるバルキー糸となるまでの気乾状態においては集束性が維持されようにしたことを特徴とする潜在捲縮性生糸を製造する方法である。
【0007】
このように、この発明の潜在捲縮性生糸は、生糸の含有するセリシン残存率を40%以上に保持するようにして潜在捲縮性生糸を実現している構成が、極めて新規且つ重要な構成要件となっている。
更に、この発明は、以上のとおりの製造工程で製造される潜在捲縮性生糸(集束されて1本糸条)と共に、その潜在捲縮性生糸を100℃未満の温水浸漬、または通常の精錬、染色工程を経ることによって得られる伸縮性のある捲縮性絹糸(バルキー糸)も包含している。
【0008】
生糸に捲縮性を付与する手段としては、フィラメントを密着させて1本の糸条としているセリシンが、セット−解撚してフィラメントを分離させる上で大きな障害をなしていることが既に知られている。
そこで、理論上からは、生糸からセリシンを完全に取り除き、セット−解撚加工処理をすれば確実に生糸に捲縮性を付与することが可能となるが、所謂従前からの生糸がそうであったように、煮繭から製糸後、残存セリシンをできるだけ取り除き、セリシンによる膠着作用をなくして製糸工程にできるだけ支障を来すことがないようにする必要があったにも拘らず、フィブロフィンを包んでいるセリシンを除去しすぎてしまうと、絹固有の特徴ある性状をなくしてしまうことから、通常10〜20%前後のセリシン残存率に止めたものとしてきた事実からも裏付けられるとおり、セリシンを完全に除去して生糸に捲縮性が付与されたとしても、それらは、生糸としての価値の劣るものに帰してしまう。
【0009】
したがって、既に上述の従来技術の項において見てきたとおり、従前までは、捲縮加工処理上で問題となるセリシン残存率は必要最小限に止めて絹の特性を維持するようにすると共に、絹固有の性状維持の上で除き切れない残存セリシンによる弊害を他の手段、即ちその膠着性を押さえ込むための疎水性合成樹脂処理によってどうにか捲縮性絹糸を実現してきたが、この発明は、それら従前までの考え方に真っ向から対峙し、可能な限り含有セリシン残存率を高め、なお且つ捲縮性が潜在的に付与されるようにした画期的な潜在捲縮性生糸であり、それから得られる捲縮性絹糸である。
【0010】
この40%以上ものセリシンを残存させて実現される画期的な潜在捲縮性生糸は、その新規な製造方法、特にその前処理工程における柔軟処理の採用が、極めて新規且つ重要な役割を果たしている。
この柔軟処理工程は、カセ状の生糸原糸に対して第1浸漬工程と第2浸漬工程とが引き続き実施される工程であって、略40%以上(少なくとも、30%以下の残存率では、加撚−セット−解撚法によっても賦型効果、即ち潜在捲縮性を付与する効果が充分期待できないことを確認している。)、好ましくは45%以上、更に最適には60〜80%前後の含有セリシン残存率に定着せしめ、しかも、実質的に無撚の潜在捲縮性を付与する強撚−高温高圧湿熱セット−解撚法による工程において、残存セリシンによる膠着で強撚−高温高圧湿熱セット−解撚法が有効に実施できなくなる弊害を未然に対処してしまうものである。
【0011】
なお、この柔軟処理工程において、含有セリシン残存率の上限を規制するものではないが、第1浸漬工程および第2浸漬工程を経ることにより、自ずと5〜10%程度のセリシンが除去されてしまうことと、略90%以上にセリシンが残存していると、それ以下のセリシン残存率によるものと比較し、やや捲縮性の付与(強撚−高温高圧湿熱セット−解撚法によって得られる)効果が低下する傾向が見られることとから、含有セリシン残存率を90%以上の値に設定することは必ずしも望ましいことではない。
【0012】
先ず、第1浸漬工程では、カセ状の生糸原糸を蛋白質分解作用と膨潤作用のある酵素剤、例えば、アミラーゼやプロテアーゼ(みどり十字社製、商品名「パパインC」)等といった天然酵素や、洛東化学社製「エロチンASL−300」(商品名)、大和化成社製「プロチン」(商品名)、ナガセ工業社製「ビオラーゼAPL」(商品名)等の化学酵素の何れかあるいは双方の組合わせによるものと、ノイゲン(商品名)等の界面活性剤との混合溶液に浸漬する工程である。
そして、続く対2工程では、第1工程で飽水状態としたままのカセ状の生糸原糸を、平滑柔軟および固着防止のための処理剤に浸漬する工程である。
以下、これらの製造工程がより明確に把握されるものとするために、この発明が包含する製造方法の最も代表的な実施例を示すことにする。
【0013】
【実施例】
第1浸漬工程
カセ状の生糸原糸を、蛋白質質分解作用のある天然酵素としての「プロテン」(商品名)、ノイゲン(商品名)等の界面活性剤、ハイドロサルファイト(商品名)等の漂白剤を、水1リットル当り、天然酵素が約0.2g、界面活性剤が約0.6g、漂白剤が約0.02g程度の割合となるように配合し、100℃未満、好ましくは40〜70℃に温度調節された溶液に対し、浴比1:6程度のカセ量にして15〜18時間程度浸漬してセリシンを膨潤させる。
この浸漬工程のドレッレシング条件、特にその処理時間によって含有セリシン残存率の値が大略決定されてしまう。
処理時間が長くなるに連れ、その値を低下させ、20時間を越えると、この処理工程だけで含有セリシン残存率が60%以下となることが確認されており、この工程および次の第2浸漬工程で振湯されて更にセリシンの溶出が進行すること、また、捲縮性を付与する後述の工程における摩擦擦過現象でもセリシンが粉末状となって脱落、飛散してしまうこと等を勘案すると、この浸漬工程における要処理時間は、15〜18時間程度、最適には15時間程度とされるべきである。
【0014】
第2浸漬工程
上記第1浸漬工程で得られたを飽水状態のままで膨潤化させたカセ状の生糸原糸を、精練乳化均染剤としてのロ−ト油に、平滑柔軟剤(平安油脂社製、商品名「リスコールA−7」)と固着防止剤(平安油脂社製、商品名「ルマールUN」)とを加え(平滑柔軟剤が、水に対して約12%程度、 固着防止剤が、同じく水に対し約8%程度の割合とし)、20〜50℃の 範囲内に温度調整した処理液に対し、浴比1:6程度のカセ量にして5〜 6時間浸漬する。
第1浸漬工程に引き続いて実施されるこの工程のドレッシングで、振湯したり、5〜6時間の浸漬後に、当該処理液内に浸漬放置されたままとされてしまうと、セリシンの溶出が進行して、この発明の重要な構成要件の一つでもある含有セリシン残存率の目標が達成されなくなる虞も出てくることから、これらの条件を勘案した適格な処理コントロールがなされなければならない。
【0015】
以上の如く、第1浸透工程および第2浸漬工程を終えてから、脱水、乾燥し、 含有セリシン残存率を40%以上、望ましくは45%以上、更に理想的には、 略60%の値に定着させると共に、以降の工程に支障を来さない性状の生糸原 糸に加工処理した上、合糸または集束性改善のために、低撚で合撚して所定の 繊度とし、それらを糸繰りしてボビンアップすることにより、後述する捲縮性 を付与する前処理工程を完了する。
【0016】
以上のようにして柔軟処理を伴う浸漬(下漬け)工程を終えた生糸原糸は、次に捲縮性を付与する工程に回される。
先ず、加撚処理;
浸漬(下漬け)工程を終えてボビンアップされた生糸原糸を、撚糸機により2000〜4000(T/m )の強撚糸とする。
セット処理;
強撚糸に加工処理された生糸を真空状態に保持し、130〜150℃の湿熱高温処理を15〜30分間実施し、湿熱高温蒸気を完全にフィラメント内
へ浸透させ、生糸に撚糸構造をセットする。
解撚処理
セット処理後、再び5〜10分間真空状態下に保持して水分を除去してから、前記加撚処理時とは反転方向に2000〜4000(T/m )で施撚し、仮撚状態、即ち、生糸フィラメントには撚糸癖が植え付けられたままで実質的に無撚に近い状態に戻してしまう。
【0017】
引き続き、上記加撚−セット−解撚処理が施されて捲縮性を付与する工程を経た生糸に対し、更に集束性を保持するための手段として、アフターセット(約70〜80℃15分程度)を行い、製品として所定の繊度にするため、必要に応じて合撚して仕上げられ、集束性に秀れた潜在捲縮性生糸が実現されることとなる。
【0018】
以上のようにして得られる潜在捲縮性生糸から、捲縮性絹糸を実現する捲縮発現処理は、100℃未満の温水浸漬でも可能であるが、通常の絹の精錬条件、例えば、重炭酸ソーダ0.1〜0.15g/l 、絹練石鹸0.2〜0.3g/l を溶かした熱水中で1〜2時間煮沸する手段によっても、セリシンが溶出して捲縮が発現する。
この発明の潜在捲縮性生糸より得られる捲縮性絹糸は、捲縮発現に伴う収縮率が5%以上となって、従来の絹糸に見られない優雅で緻密なバルキー性(膨らみ)を伴っている。
【0019】
【作 用】
以下では、次のような条件下で得られた潜在捲縮性生糸および捲縮性絹糸の特性を、具体的な実験結果による表1で示すことにする。
*条 件*
生糸原糸(21中/2片) を2本引き揃えて合撚し、84Pd 、120T/m (Z撚)の糸とし、カセ取りを行った。この糸に対し、柔軟処理として、前記実施例で示したとおりの第1浸漬工程および第2浸漬工程によるドレッシングを行い、24hr気乾後、ボビンアップした。この試料を加撚(S撚;2200T/m )→ 熱セット(147°Cで20分)→ 解撚(Z撚;2200T/m )の捲縮性を付与する加工工程を行い、更に3ply に合撚250d とした後、湿熱75°Cで15分間のアフターセットを実施して潜在捲縮性生糸を得た。この際、第1浸漬工程におけるドレッシング条件と解撚条件(特に撚糸張力)とによってセリシンの除去率に差を生じることがあったため、含有セリシン残存率の異なる試料毎に分類して実験を試みた。
【0020】
一方、上記試料との比較のために、第1、第2浸漬工程を全く経ていないもの、および第2浸漬工程だけを行ったものに、前記実施例で示したとおりの第1浸漬工程および第2浸漬工程によるドレッシングを行ったものと、全く何の処理も行わない生糸原糸250d [(21中/2片)×2]×3plyをカセ取りしたものとを、夫々捲縮発現処理して比較試料に加えた。
なお、含有セリシン残存率は、
で算出することができる。
また、収縮率は、
生 糸 の 長 Lmm(0.1mg/dの加重下)
捲縮発現後の 長 lmm(0,1mg/dの加重下)
とした場合、
収縮率(%)=(L−l/L)×100
で表される。
【0021】
捲縮絹糸の性能を示す捲縮伸長率と捲縮弾性率とは、JISL1090に準拠して次ぎに依った。
l1 mm : 初加重 (2 mg/d)をかけた時のカセ長
l2 mm : 垂下加重(0,1 g/d)をかけて30秒経過した時のカセ長
l3 mm : 垂下加重を除去し、2分間放置して再び初加重をかけた時のカ セ長
とした時
捲縮伸長率(%) : ( l2 − l1 / l1 ) ×100
捲縮弾性率(%) : ( l2 − l3 / l2 − l1 )×100
で表される。
【0022】
この捲縮伸長率および捲縮弾性率の測定の対象となった試料3種類が、写真1中に等倍外観図(イ)、(ロ)、(ハ)として示されている。
(イ) 生糸250d (21中/2片) ×2]×3ply を10回巻きし、更に折り 返してカセ状で懸架したもの(カセ長315mm)。
(ロ) 潜在捲縮性生糸250d (21中/2片) ×2]×3ply を、(イ)と同 様にしてカセとし、懸架したもの(カセ長は同じく315mm、収縮お よび捲縮なし)。
(ハ) 潜在捲縮性生糸から捲縮性を発現させてなる捲縮性絹糸250d (21中/2片) ×2]×3ply を、(イ)と同様にしてカセとし、懸架し たもの(カセ長大きく変化、収縮および捲縮発現)。
【0023】
また、写真2は写真1の(イ)に、写真3は写真1の(ロ)に、そして写真4は写真1の(ハ)に夫々対応し、夫々各試料の20倍拡大外観図を示しており、また、写真5〜7は、各試料の電子顕微鏡写真であって、写真5は写真1の(イ)に対応する標準的生糸を、写真6は写真1の(ロ)に対応する潜在捲縮性生糸を、そして写真7は写真1の(ハ)に対応する捲縮性絹糸を示すものである。
そして、写真8は、それら試料による垂下加重実験結果による寸法変化を示す外観図であって、同(イ)は写真1の(イ)に、同(ロ)は写真1の(ロ)に、そして、同(ハ)は写真1の(ハ)に夫々対応している。
次ぎに示す表は、上記各試料において、含有セリシン残存率を変えてなる試料各種、その他試料の実験結果を一覧表としたものである。
【0024】
【表 1】
【0025】
【効 果】
以上のとおり、この発明は、絹本来の性質を損なうことなく、本来困難とされてきた品質的に優れた潜在的捲縮性能を持つ生糸とそれを製造する方法、およびそれから得られる伸縮性捲縮絹糸を実現することに成功したものであり、その結果、絹製品として待望視されてきた新素材が、極めて効率的且つ安価に提供可能となって絹製品の開発領域を大いに広げ、新規需要を喚起して絹織物業界は固のこと、ニット業界やファッション業界等といった他の業界にまでも多大の影響を及ぼして、その発展に寄与していくものと予想される。
【0026】
特に、この発明の潜在捲縮性生糸は、捲縮機能が潜在していて、気乾状態ではフィラメントの集束性と直線性とを維持し続けるという性状が備わっている。しかも、生糸原糸に比して平滑、柔軟であるため、製織ならびに製編、更にはその準備工程における障害が極めて少なくなるという秀れた特徴をも兼ね備えている。したがって、ノンサイズで製織可能になることにも当然繋がるという利点も有している。
繊維としてのこれらの特徴、利点は、自由な織り物、編み物の設計の可能性を生み出し、前記のとおりの新商品開発の領域を広げる上で大きな要因となり、その実現に大いに貢献するものといえる。
【0027】
しかも、上記のような秀れた特徴を有する潜在捲縮性生糸で製織あるいは製編された織り物、編み物生地は、その後、特殊な処理工程を必要とすることなく、通常の精錬、染色工程だけで潜在化していた捲縮性能が発現し、それまでの製織
あるいは製編工程に都合の良い集束性と直線性とを維持し続けてきたフィラメント部分が、いとも簡単、確実に捲縮して1本1本の繊維が捲縮性絹糸となって、高密度でソフトな膨らみのある外観の衣料素材に変身し、他の原料素材では到底実現不可能な絹固有の独特の風合いを有する秀れた生地が実現されてしまうという特筆すべき特徴を発揮するものである。
加えて、ナイロン、ポリエステル等といった化学繊維や、その他の加工糸を含めた他繊維との複合糸開発によって独特の新素材を生み出す可能性を秘めていることも、この捲縮性絹糸の価値を更に一層高めるものとなっている。
なお、この捲縮性絹糸は、150℃近い高温の熱履歴をもっていることから、通常の生糸の先染めのような加熱条件が加わったとしても何等捲縮性能に支障を来す虞もない。
【0028】
このように、絹繊維として旧くから待望視され続けてきたこの発明のこれらの潜在捲縮性生糸および捲縮性絹糸は、この発明が包含する極めて新規な製造手段、即ち、従前までには予想もされていなかった含有セリシン残存率40%以上、望ましくは45%以上、更に理想的には略60〜80%程度という高残存率下に維持し、蛋白質分解、平滑柔軟処理を前処理に採用して残存セリシンによる弊害を無くし、その後の捲縮性能の付与工程を可能にするという画期的な製造方法の確立によってもたらされるものであって、その結果、確実且つ安価な潜在捲縮性生糸および捲縮性絹糸の提供が保証されるものであることから、この秀れた製造方法は高い評価がなされなければならない。
【0029】
叙上の如く、この発明は、極めて新規且つ画期的な製造方法によって、これまでその実現化が願い続けられていた潜在捲縮性生糸および捲縮性絹糸を、安定的に、しかもより絹本来の性状を生かした秀れた繊維として実現し得たものであることから、その経済性と相俟って、絹繊維の付加価値が高められる効果により、このところ輸入物に席巻され続けてきた我が国の絹業界の今後の展望に明るい陽射しをもたらすものとなって、絹業界はもとよりのこと、絹関連業界からも高い評価がなされるものと予想される。
【図面の簡単な説明】
【図 1】この発明の潜在捲縮性生糸および捲縮生糸の収縮性、弾性的性能等の測定試験のために試料としたものの等倍外観を写した写真であり、
(イ) 生 糸 250デニールの等倍外観写真。
(ロ) 潜在捲縮生糸250デニールの等倍外観写真。
(ハ) 捲縮絹糸 250デニールの等倍外観写真。
【図 2】第1図(イ)の20倍拡大外観写真。
【図 3】第1図(ロ)の20倍拡大外観写真。
【図 4】第1図(ハ)の20倍拡大外観写真。
【図 5】第1図(イ)に相当するものの走査型電子顕微鏡写真。
【図 6】第1図(ロ)に相当するものの走査型電子顕微鏡写真。
【図 7】第1図(ハ)に相当するものの走査型電子顕微鏡写真。
【図 8】(イ) 生糸原糸250d (21中/2片) ×2×3ply を10回巻きし、更に折 り返してカセ状とした上、所定時間、所定重量で垂架後、開放したも のの外観写真(カセ長315◆で前後のカセ長に変化無し)。
(ロ) この発明の潜在捲縮性生糸250d (21中/2片) ×2×3ply を、上 記(イ)同様にして試験し、開放したものの外観写真(カセ長315 ◆で前後のカセ長に変化無し、収縮および捲縮無し)。
(ハ) この発明の潜在捲縮性生糸250d (21中/2片) ×2×3ply を捲縮 発現させた捲縮性絹糸を、上記(イ)同様にして試験し、開放したも のの外観写真(カセ長大きく変化、収縮および捲縮発現)。
Claims (1)
- 生糸原糸を、蛋白質分解作用のある酵素と界面活性剤との混合溶液に浸漬する第1浸漬工程、浸漬して膨潤化した飽水状態のままの生糸を、平滑柔軟および固着防止のための処理剤に浸漬させる第2浸漬工程を経た後、合糸して所定の繊度となしてから、強撚−高温高圧湿熱セット−解撚法によって実質的に無撚の潜在捲縮性を付与する工程を実施し、最後に70°C〜80°C前後のアフターセット工程を経ることにより、生糸原糸に対し、含有セリシン残存率が40%以上に維持されるよう規制して柔軟処理を施し、100℃未満の温水浸漬、または通常の精錬、染色工程によって捲縮構造が発現されると共に、伸縮性のあるバルキー糸となるまでの気乾状態においては集束性が維持されようにしたことを特徴とする潜在捲縮性生糸を製造する方法。
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