JP3695058B2 - 能動型振動制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両エンジン等の振動体で発生する振に、振動体及び支持体間に介在する制御振動源が発生する制御振動を干渉させることにより、支持体側に伝達される振動の低減を図るようにした能動型振動制御装置に関し、特に、制御振動源を駆動させるための制御アルゴリズムが、制御振動源と残留振動を検出する手段との間の伝達関数を含むものにおいて、温度変化に伴う前記制御振動源と、前記残留振動を検出する手段との間の伝達特性の変化に対して対処することができるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
本発明のような能動型振動制御装置の場合、制御振動源と残留振動を検出する手段との間の伝達関数は、その能動型振動制御装置の適用対象装置,適用対象設備等の特性のばらつきによって、微妙に異なる。また、適用対象装置等の使用に伴う特性変化等によって、当初の状態からは変化してしまう可能性があるため、高精度の振動低減制御を実行するためには、能動型振動制御装置を適用対象装置に組み込んだ後に伝達関数を同定したり、適用対象装置の定期検査毎に伝達関数を同定することが望ましい。
【0003】
そこで、本出願人は、先に特開平6−332471号公報に開示されるような技術を提案している。すなわち、この公報に開示された従来技術は、制御音源や制御振動源からインパルス信号に応じた同定音や同定振動を発生させ、その応答を残留騒音や残留振動を検出する手段で計測することにより、能動型騒音又は振動制御装置や、この能動型騒音又は振動制御装置の制御アルゴリズムに必要な伝達関数を同定するようになっている。そして、そのインパルス信号に応じた同定音や同定信号を発生するタイミングを、騒音源や振動源から騒音や振動が発生していない状態から発生する状態に移行する直前に限ることにより、演算負荷の大幅な増大を招くことなく、また、人間等に不快感を与えることなく、伝達関数の同定が行えるようになっていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
確かに、上述したような先行技術によれば、能動型騒音又は振動制御装置や、能動型騒音又は振動制御装置を適用した対象装置毎に、制御に必要な伝達関数を同定することは可能であるから、高精度の騒音又は振動の低減制御等が期待できる。
【0005】
ここで、能動型騒音又は振動制御装置を構成する構成品のうち、例えばゴム等の弾性体、或いは、ゴム等の弾性体内部に減衰力発生可能に流体を封入してなる流体封入式のマウントインシュレータ等、温度変化によりその特性が変化しやすいもので形成されている構成品を含んで形成される場合、能動型騒音又は振動制御装置が取り付けられた場所の雰囲気温度が変化したとき、或いは、能動型騒音又は振動制御装置が稼働することによって装置自体が発熱し、この発熱等によって、能動型騒音又は振動制御装置に温度変化が生じたとき等には、これら温度変化に応じて能動型騒音又は振動制御装置の特性が変化し、すなわち、制御音源又は制御振動源と、残留騒音又は残留振動を検出する手段との間の伝達特性が変化してしまう。
【0006】
しかしながら、上記の先行技術では、騒音源や振動源から騒音や振動が発生していない状態から発生する状態に移行する直前に限って、伝達関数を同定するようになっている。そのため、能動型騒音又は振動制御装置が稼働することに伴い生じる温度変化、或いは気温の変化等による稼働中の周囲の温度変化等によって、伝達特性の変化が生じた場合等には、実際の伝達特性に応じた伝達関数とは異なった伝達関数、つまり、騒音源や振動源から騒音や振動が発生していない状態における伝達関数に基づいて制御音や制御振動を発生させることになるから、最適な制御を行うことができないうえ、発散に至ってしまう可能性があるという問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、上記従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、稼働中の温度変化に伴う伝達特性の変化に、適切に対処することのできる能動型振動制御装置を提供することを目的としている。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る能動型振動制御装置は、振動源から発せられる振動と干渉する制御振動を発生可能な制御振動源と、前記振動の発生状態を表す基準信号を生成し出力する基準信号生成手段と、前記干渉後の振動を検出し残留振動信号として出力する残留振動検出手段と、前記基準信号及び前記残留振動信号に基づき、前記制御振動源及び前記残留振動検出手段間の振動の伝達系の伝達関数を含む制御アルゴリズムを用いて、前記振動が低減するように前記制御振動源を駆動する能動制御手段と、を備えた能動型振動制御装置において、車両に適用され、前記振動源はエンジンであり、前記制御振動源は、前記エンジンと車体側部材との間に介在する支持弾性体を備えた制御振動源であって、前記伝達系の温度を検出する温度検出手段と、当該温度検出手段で検出した温度に応じて前記伝達関数を補正する伝達関数補正手段と、を備え、前記温度検出手段は、前記エンジンが始動してからの経過時間に基づいて、前記支持弾性体の温度を予測するようになっていることを特徴としている。
【0019】
この発明によれば、振動源から発せられる振動と干渉する制御振動が制御振動源から発生され、これによって、振動源から発生される振動が低減される。前記制御振動源は、能動制御手段によって駆動制御され、具体的には、振動の発生状態を表す基準信号と、干渉後の振動を検出した残留振動信号とに基づいて、制御振動源と残留振動検出手段との間の伝達系の伝達関数を含む制御アルゴリズムを用いて、駆動制御される。
【0020】
このとき、温度検出手段によって、制御振動源と残留振動検出手段との間の伝達系の温度が検出され、検出された温度に応じて前記伝達関数が補正される。そして、補正された伝達関数に基づいて制御アルゴリズムが実行されて、制御振動源から制御振動が発生される。
【0021】
よって、例えば、制御振動源と残留振動検出手段との間の伝達系に、温度変化によって振動の伝達特性が変化しやすいものが介在している場合等には、温度変化によってその振動の伝達特性が変わることから、制御振動源と残留振動検出手段との間の伝達系の伝達特性も変化することになる。したがって、制御振動源を駆動する能動制御手段での処理に用いられる、伝達系の伝達特性を、温度検出手段で検出した伝達系の温度に基づいて補正することにより、現在の伝達系の伝達特性に応じて制御振動源が制御されることになる。よって、現在の伝達系の伝達特性に応じた制御振動が発生されることになって、適切な振動低減処理が行われることになる。
また、このとき、制御振動源は、振動源としてのエンジンと車体側部材との間に介在する支持弾性体を備えた制御振動源であって、エンジンが始動してからの経過時間に基づいて、伝達系の温度が予測される。つまり、エンジンが始動するとその振動を低減させるために制御振動源が作動し、この作動に伴って発熱が生じると、この発熱によって支持弾性体に温度変化が生じる。よって、エンジンが始動してからの経過時間に応じて支持弾性体に温度変化が生じるとみなすことができるから、例えば、エンジンが始動してからの経過時間と、これに伴う支持弾性体の温度との対応を実験等によって予め求めておけば、エンジンが始動してからの経過時間を検出することによって、容易に、支持弾性体の温度を予測することができる。
また、支持弾性体は、エンジンと車体側部材との間に介在しているから、その振動特性の変化は伝達系の伝達特性の変化の一因となり、特に、支持弾性体が、温度変化に対してその振動特性が大きく変化する、例えばゴム等で形成されている場合等には、支持弾性体の特性変化は、伝達系の伝達特性の変化に大きく起因することになる。よって、この支持弾性体の温度を予測し、この支持弾性体の温度に基づいて伝達関数を補正することによって、より適切な伝達関数が設定される。
【0022】
また、本発明の請求項2に係る能動型振動制御装置は、前記伝達関数補正手段は、予め前記伝達系の温度に対して所定の温度範囲毎に設定した伝達関数候補のうち、前記温度検出手段で検出した温度が含まれる温度範囲に対応する伝達関数候補を、前記伝達関数として選定するようになっていることを特徴としている。
【0023】
この発明によれば、制御振動源と残留振動検出手段との間の伝達系の温度に対して、予め所定の温度範囲毎に、それぞれの温度範囲に応じた伝達関数候補が実験等によって設定され、所定の記憶領域に記憶されている。そして、伝達関数補正手段によって、温度検出手段で検出された伝達系の温度に基づいて対応する温度範囲が特定され、これに応じた伝達関数候補が前記伝達関数として設定される。そして、この伝達関数に基づく制御アルゴリズムに基づいて、能動制御手段により制御振動源が駆動制御される。
【0024】
よって、温度検出手段で検出した温度が含まれる温度範囲から、設定すべき伝達関数候補が直接選定されるから、伝達関数補正手段での伝達関数の補正処理が容易に行われる。
【0025】
また、本発明の請求項3に係る能動型振動制御装置は、前記伝達関数補正手段は、予め前記伝達系の温度に対して所定の温度範囲毎に設定した、基準伝達関数の特性を補正する補正値のうち、前記温度検出手段で検出した温度が含まれる温度範囲に対応する補正値を選定し、当該補正値をもとに補正した前記基準伝達関数を、前記伝達関数として設定するようになっていることを特徴としている。
【0026】
この発明によれば、予め設定した基準伝達関数の特性を補正する補正値が、制御振動源と残留振動検出手段との間の伝達系の温度に対して、所定の温度範囲毎に設定されて所定の記憶領域に格納されている。この補正値は、例えばゲイン或いは位相等であって、予め実験等によって設定される。そして、伝達関数補正手段によって、温度検出手段で検出された温度が含まれる温度範囲が特定され、これに応じた補正値が選定され、この補正値によって基準伝達関数が補正され、温度検出手段で検出された温度に応じた伝達関数が設定される。
【0027】
よって、各温度範囲毎に応じた補正値と、基準伝達関数とのみを記憶しておけばよいから、各温度範囲毎の伝達関数を記憶する場合に比較して、記憶領域はより少なくてすむ。
【0038】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係る能動型振動制御装置によれば、伝達関数補正手段によって、温度検出手段で検出した温度に応じて、制御振動源及び残留振動検出手段間の伝達関数を補正するようにしたから、温度変化に伴う振動の伝達系の伝達特性の変化に応じた伝達関数に基づいて、制御振動源を適切に駆動することができる。
また、このとき、エンジンが始動してからの経過時間に基づいて、伝達系の伝達特性の変化に起因する支持弾性体の温度を予測するようにしたから、より適切な伝達関数を設定することができると共に、例えば温度センサ等を設けることなく、容易に支持弾性体の温度を予測することができる。
【0039】
また、本発明の請求項2に係る能動型振動制御装置によれば、温度検出手段で検出した温度に基づいて、予め温度範囲毎に設定した伝達関数候補の中から、対応する伝達関数候補を選定してこれを伝達系の伝達関数として設定するようにしたから、伝達関数の補正処理を容易に行うことができる。
【0040】
また、本発明の請求項3に係る能動型振動制御装置によれば、温度検出手段で検出した温度に基づいて、予め温度範囲毎に設定した補正係数の中から、対応する補正係数を選定し、これに基づいて基準伝達関数を補正しこれを伝達系の伝達関数として設定するようにしたから、各温度範囲毎の補正係数と基準伝達関数とのみを記憶しておけばよいから、より少ない記憶領域で実現することができる。
【0044】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至図5は、本発明の第1の実施の形態を示す図であって、図1は、本発明に係る能動型振動制御装置の実施の形態の一例を車両に適用した概略構成図である。
【0045】
まず、構成を説明すると、エンジン30が駆動信号に応じた能動的な支持力を発生可能な能動型エンジンマウント1を介して、サスペンションメンバ等から構成される車体35に支持されている。なお、実際には、エンジン30及び車体35間には、能動型エンジンマウント1の他に、エンジン30及び車体35間の相対変位に応じた受動的な支持力を発生する複数のエンジンマウントも介在している。受動的なエンジンマウントとしては、例えばゴム状の弾性体で荷重を支持する通常のエンジンマウントや、ゴム状の弾性体内部に減衰力発生可能に流体を封入してなる公知の流体封入式のマウントインシュレータ等が適用できる。
【0046】
一方、能動型エンジンマウント1は、例えば図2に示すように構成されている。すなわち、この実施の形態における能動型エンジンマウント1は、エンジン30への取り付け用ボルト2aを上部に一体に備え且つ内部が空洞で下部が開口したキャップ2を有し、このキャップ2の下部外面には、軸が上下方向を向く内筒3の上端部がかしめ止めされている。
【0047】
内筒3は、下端側が縮径した形状となっていて、その下端部が内側に水平に折り曲げられて、ここに円形の開口部3aが形成されている。そして、内筒3の内側には、キャップ2及び内筒3内部の空間を上下に二分するように、キャップ2及び内筒3のかしめ止め部分に一緒に挟み込まれてダイアフラム4が配設されている。ダイアフラム4の上側の空間は、キャップ2の側面に孔を開けることにより大気圧に通じている。
【0048】
さらに、内筒3の内側には、オリフィス構成体5が配設されている。なお、本実施の形態では、内筒3内面及びオリフィス構成体5間には、薄膜状の弾性体(ダイアフラム4の外周部を延長させたものでもよい)が介在していて、これにより、オリフィス構成体5は内筒3内側に強固に嵌め込まれている。
【0049】
このオリフィス構成体5は、内筒3の内部空間に整合して略円柱形に形成されていて、その上面には円形の凹部5aが形成されている。そして、その凹部5aと、底面の開口部3aに対向する部分との間が、オリフィス5bを介して連通するようになっている。オリフィス5bは、例えば、オリフィス構成体5の外周面に沿って螺旋状に延びる溝と、その溝の一端部を凹部5aに連通させる流路と、その溝の他端部を開口部3aに連通させる流路とで構成される。
【0050】
一方、内筒3の外周面には、内周面側が若干上方に盛り上がった肉厚円筒状の支持弾性体6の内周面が加硫接着されていて、その支持弾性体6の外周面は、上端側が拡径した円筒部材としての外筒7の内周面上部に加硫接着されている。
【0051】
そして、外筒7の下端部は上面が開口した円筒形のアクチュエータケース8の上端部にかしめ止めされていて、そのアクチュエータケース8の下端面からは、車体35側への取り付け用の取り付けボルト9が突出している。取り付けボルト9は、その頭部9aが、アクチュエータケース8の内底面に張り付いた状態で配設された平板部材8aの中央の空洞部8bに収容されている。
【0052】
さらに、アクチュエータケース8の内側には、円筒形の鉄製のヨーク10Aと、このヨーク10Aの中央部に軸を上下に向けて巻き付けられた励磁コイル10Bと、ヨーク10Aの励磁コイル10Bに包囲された部分の上面に極を上下に向けて固定された永久磁石10Cと、から構成される電磁アクチュエータ10が配設されている。
【0053】
また、アクチュエータケース8の上端部はフランジ状に形成されたフランジ部8Aとなっていて、そのフランジ部8Aに外筒7の下端部がかしめられて両者が一体となっているのであるが、そのかしめ止め部分には、円形の金属製の板ばね11の周縁部(端部)が挟み込まれていて、その板ばね11の中央部の電磁アクチュエータ10側には、リベット11aによって磁化可能な磁路部材12が固定されている。なお、磁路部材12はヨーク10Aよりも若干小径の鉄製の円板であって、その底面が電磁アクチュエータ10に近接するような厚みに形成されている。
【0054】
さらに、上記かしめ止め部分には、フランジ部8Aと板ばね11とに挟まれるように、リング状の薄膜弾性体13と、力伝達部材14のフランジ部14aとが支持されている。具体的には、アクチュエータケース8のフランジ部8A上に、薄膜弾性体13と、力伝達部材14のフランジ部14aと、板ばね11と、をこの順序で重ね合わせると共に、その重なり合った全体を外筒7の下端部をかしめて一体としている。
【0055】
力伝達部材14は、磁路部材12を包囲する短い円筒形の部材であって、その上端部がフランジ部14aとなっており、その下端部は電磁アクチュエータ10のヨーク10Aの上面に結合している。具体的には、ヨーク10Aの上端面周縁部に形成された円形の溝に、力伝達部材14の下端部が嵌合して両者が結合されている。また、力伝達部材14の弾性変形時のばね定数は、薄膜弾性体13のばね定数よりも大きい値に設定されている。
【0056】
ここで、本実施の形態では、支持弾性体6の下面及び板ばね11の上面によって画成された部分に流体室15が形成され、ダイアフラム4及び凹部5aによって画成された部分に副流体室16が形成されていて、これら流体室15及び副流体室16間が、オリフィス構成体5に形成されたオリフィス5bを介して連通している。なお、これら流体室15,副流体室16及びオリフィス5b内には、エチレングリコール等の流体が封入されている。
【0057】
かかるオリフィス5bの流路形状等で決まる流体マウントとしての特性は、走行中のエンジンシェイク発生時、つまり、5〜15Hzで能動型エンジンマウント1が加振された場合に高動ばね定数,高減衰力を示すように調整されている。
【0058】
そして、電磁アクチュエータ10の励磁コイル10Bは、コントローラ25からハーネス23aを通じて供給される電流である駆動信号yに応じて所定の電磁力を発生するようになっている。
【0059】
コントローラ25は、マイクロコンピュータ,必要なインタフェース回路,A/D変換器,D/A変換器,アンプ等を含んで構成され、エンジンシェイクよりも高周波の振動であるアイドル振動やこもり音振動・加速時振動が車体35に入力されている場合には、その振動を低減できる能動的な支持力が能動型エンジンマウント1に発生するように、能動型エンジンマウント1に対する駆動信号yを生成し出力するようになっている。
【0060】
ここで、アイドル振動やこもり音振動は、例えばレシプロ4気筒エンジンの場合、エンジン回転2次成分のエンジン振動が車体35に伝達されることが主な原因であるから、そのエンジン回転2次成分に同期して駆動信号yを生成し出力すれば、車体側低減が可能となる。そこで、本実施の形態では、燃焼タイミングに同期するように、エンジン30のクランク軸の回転に同期した(例えば、レシプロ4気筒エンジンの場合には、クランク軸が180度回転する度に一つの)インパルス信号を生成しこれを基準信号xとして出力するパルス信号生成器26(図1)を設けていて、その基準信号xがエンジン30における振動の発生状態を表す信号としてコントローラ25に供給されるようになっている。
【0061】
一方、電磁アクチュエータ10のヨーク10Aの下端面と、アクチュエータケース8の底面を形成する平板部材8aの上面との間に挟み込まれるように、エンジン30から支持弾性体6を通じて伝達する加振力を検出する荷重センサ22が配設されていて、荷重センサ22の検出結果がハーネス23bを通じて残留振動信号eとしてコントローラ25に供給されるようになっている。荷重センサ22としては、具体的には、圧電素子,磁歪素子,歪ゲージ等が適用可能である。
【0062】
そして、コントローラ25は、供給される残留振動信号e及び基準信号xに基づき、適応アルゴリズムの一つである同期式Filtered−X LMSアルゴリズムを実行することにより、能動型エンジンマウント1に対する駆動信号yを演算し、その駆動信号yを能動型エンジンマウント1に出力するようになっている。
【0063】
具体的には、コントローラ25は、フィルタ係数Wi (i=0,1,2,……,I−1:Iはタップ数)可変の適応ディジタルフィルタWを有していて、最新の基準信号xが入力された時点から所定のサンプリング・クロックの間隔で、その適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を順番に駆動信号yとして出力する一方、基準信号x及び残留振動信号eに基づいて適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を適宜更新する処理を実行するようになっている。
【0064】
適応ディジタルフィルタWの更新式は、Filtered−X LMSアルゴリズムに従った下記の(1)式のようになる。
i (n+1)=Wi (n)−μRT e(n) ……(1)
ここで、(n),(n+1)が付く項は、サンプリング時刻n,n+1,における値であることを表し、μは収束係数である。また、更新用基準信号RT は、理論的には、基準信号xを、能動型エンジンマウント1の電磁アクチュエータ10及び荷重センサ22間の伝達関数Cを有限インパルス応答型フィルタでモデル化した伝達関数フィルタC^でフィルタ処理をした値であり、基準信号xと伝達関数フィルタC^との関数である次式(2)として表すことができる。ここで、基準信号xの大きさは“1”であるから、伝達関数フィルタC^のインパルス応答を基準信号xに同期して次々と生成した場合のそれらインパルス応答波形のサンプリング時刻nにおける和に一致する。
【0065】
T =f(x,C^) ……(2)
また、理論的には、基準信号xを適応ディジタルフィルタWでフィルタ処理して駆動信号yを生成するのであるが、基準信号xの大きさが“1”であるため、フィルタ係数Wi を順番に駆動信号yとして出力しても、フィルタ処理の結果を駆動信号yとしたのと同じ結果になる。
【0066】
さらに、コントローラ25は上記のような適応ディジタルフィルタWを用いた振動低減処理を実行する一方で、その振動低減制御に必要な伝達関数Cをモデルタ化した伝達関数フィルタC^を、ヨーク10Aの温度変化に応じて更新する処理をも実行するようになっている。
【0067】
すなわち、コントローラ25には、アクチュエータケース8を貫通してヨーク10Aに挿入して配設された、例えば熱電対等で形成される温度センサ28の温度検出値tが入力され、コントローラ25では、この温度センサ28からの温度検出値tに基づいて、予め設定された所定周期で、前記伝達関数フィルタC^を更新する伝達関数更新処理が実行される。
【0068】
この伝達関数更新処理では、入力される温度センサ28からの温度検出値tに基づいて、予め温度範囲毎に設定し所定の記憶領域に格納した伝達関数フィルタC^N (N=1〜4)のうち、温度検出値tに対応する温度範囲に応じた伝達関数フィルタC^N を選定し、この伝達関数フィルタC^N を、それまでの伝達関数フィルタC^と置き換えるようになっている。そして、前記振動低減制御処理においては、この置き換えられた新たな伝達関数フィルタC^に基づいて処理を実行するようになっている。
【0069】
次に、第1の実施の形態の動作を説明する。
すなわち、能動型エンジンマウント1内の流体共振系の共振周波数を20Hzに調節している結果、5〜15Hzの振動であるエンジンシェイク発生時にもある程度の減衰力がこの能動型エンジンマウント1で発生するため、エンジン30側で発生したエンジンシェイクが能動型エンジンマウント1によってある程度減衰されると共に、図示しない他の流体封入式エンジンマウント等によってもエンジンシェイクは減衰されるから、車体35側の振動レベルが低減される。なお、エンジンシェイクに対しては、特に磁路部材12を積極的に変位させる必要はない。
【0070】
一方、アイドル振動周波数以上の周波数の振動が入力された場合には、コントローラ25は、所定の演算処理を実行し、電磁アクチュエータ10に駆動信号yを出力し、能動型エンジンマウント1に振動を低減し得る能動的な支持力を発生させる。
【0071】
これを、アイドル振動,こもり音振動入力時にコントローラ25内で実行される処理の概要を示すフローチャートである図3に従って具体的に説明する。
まず、そのステップ101において所定の初期設定が行われた後に、ステップ102aに移行し、所定の記憶領域に形成された、伝達関数フィルタ格納領域に格納されている伝達関数フィルタC^が読み込まれる。そして、ステップ102bに移行し、読み込まれた伝達関数フィルタC^に基づいて更新用基準信号RT が演算される。なお、このステップ102bでは、一周期分の更新用基準信号RT がまとめて演算される。
【0072】
そして、ステップ103に移行し、カウンタiが零クリアされた後に、ステップ104に移行して、適応ディジタルフィルタWのi番目のフィルタ係数Wi が駆動信号yとして出力される。
【0073】
ステップ104で駆動信号yを出力したら、ステップ105に移行し、残留振動信号eが読み込まれる。そして、ステップ106に移行して、カウンタjが零クリアされ、次いでステップ107に移行し、適応ディジタルフィルタWのj番目のフィルタ係数Wj が上記(1)式にしたがって更新される。
【0074】
ステップ107における更新処理が完了したら、ステップ108に移行し、次の基準信号xが入力されているか否かを判定し、ここで基準信号xが入力されていないと判定された場合には、適応ディジタルフィルタWの次のフィルタ係数の更新又は駆動信号yの出力処理を実行すべく、ステップ109に移行する。
【0075】
ステップ109では、カウンタjが出力回数Ty (正確には、カウンタjは0からスタートするため、出力回数Ty から1を減じた値)に達しているか否かを判定する。この判定は、ステップ104で適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を、駆動信号yとして出力した後に、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を、駆動信号yとして必要な数だけ更新したか否かを判断するためのものである。そこで、このステップ109の判定が「NO」の場合には、ステップ110でカウンタjをインクリメントした後に、ステップ107に戻って上述した処理を繰り返し実行する。
【0076】
しかし、ステップ109の判定が「YES」の場合には、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数のうち、駆動信号yとして必要な数のフィルタ係数の更新処理が完了したと判断できるから、ステップ111に移行してカウンタiをインクリメントした後に、所定時間待機する。この所定時間は、上記ステップ104の処理を実行してから所定のサンプリング・クロックの間隔に対応する時間が経過するまでの時間である。そして、サンプリング・クロックに対応する時間が経過したら、上記ステップ104に戻って上述した処理を繰り返し実行する。
【0077】
一方、ステップ108で基準信号xが入力されたと判断された場合には、ステップ112に移行し、カウンタi(正確には、カウンタiは0からスタートするため、カウンタiに1を加えた値)を最新の出力回数Ty として保存した後に、ステップ102aに戻って、上述した処理を繰り返し実行する。
【0078】
このような図3の処理を繰り返し実行する結果、コントローラ25から能動型エンジンマウント1の電磁アクチュエータ10に対しては、基準信号xが入力された時点から、サンプリング・クロックの間隔で、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi が順番に駆動信号yとして供給される。
【0079】
この結果、励磁コイル10Bに駆動信号yに応じた磁力が発生するが、磁路部材12には、すでに永久磁石10Cによる一定の磁力が付与されているから、その励磁コイル10Bによる磁力は永久磁石10Cの磁力を強める又は弱めるように作用すると考えることができる。つまり、励磁コイル10Bに駆動信号yが供給されていない状態では、磁路部材12は、板ばね11による支持力と、永久磁石10Cとの磁力との釣り合った中立の位置に変位することになる。そして、この中立の状態で励磁コイル10Bに駆動信号yが供給されると、その駆動信号yによって励磁コイル10Bに発生する磁力が永久磁石10Cの磁力と逆方向であれば、磁路部材12は電磁アクチュエータ10とのクリアランスが増大する方向に変位する。逆に、励磁コイル10Bに発生する磁力が永久磁石10Cの磁力と同じ方向であれば、磁路部材12は電磁アクチュエータ10とのクリアランスが減少する方向に変位する。
【0080】
このように磁路部材12は、正逆両方向に変位可能であり、磁路部材12が変位すれば主流体室15の容積が変化し、その容積変化によって支持弾性体6の拡張ばねが変形するから、この能動型エンジンマウント1に正逆両方向の能動的な支持力が発生するのである。
【0081】
そして、駆動信号yとなる適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数Wi は、同期式Filtered−X LMSアルゴリズムにしたがった上記(1)式によって逐次更新されるため、ある程度の時間が経過して適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数Wi が最適値に収束した後は、駆動信号yが能動型エンジンマウント1に供給されることによって、エンジン30から能動型エンジンマウント1を介して車体35側に伝達されるアイドル振動やこもり音振動が低減されるようになるのである。
【0082】
以上は車両走行時等に実行される振動低減処理の動作である。その一方、図4に示すような、伝達関数フィルタC^を設定する伝達関数更新処理が実行される。
【0083】
すなわち、まず、そのステップ201において、温度センサ28からの温度検出値tを読み込み、続いて、ステップ202に移行し、予め設定して所定の記憶領域に格納している図5に示すような制御テーブルM1 を参照して、読み込んだ温度検出値tに対応する温度範囲を判定する。
【0084】
ここで、制御テーブルM1 は、図5に示すように、所定の温度範囲毎にそれぞれ伝達関数フィルタC^N が設定されている。図5の場合には、温度範囲は、例えば、第1の温度範囲−50〜0℃,第2の温度範囲0〜50℃,第3の温度範囲50〜100℃,第4の温度範囲100〜150℃,の4つの温度範囲に分割され、それぞれの範囲毎に伝達関数フィルタC^1 〜C^4 が設定されている。この伝達関数フィルタC^1 〜C^4 は、例えば、実験等によって、予め検出することにより設定される。
【0085】
したがって、ステップ202の処理では、温度検出値tが、前記第1〜第4の温度範囲の何れに該当するかを判定し、次いでステップ203に移行して、ステップ202の処理で判定した温度範囲が、予め所定の記憶領域に格納している前回実行時の温度範囲と一致するか否かを判定し、前回の温度範囲と一致する場合には、伝達関数フィルタC^を更新する必要がないから、そのまま処理を終了する。
【0086】
一方、ステップ203の処理で、前回の温度範囲と今回の温度範囲とが一致しない場合には、ステップ204に移行し、対応テーブルM1 を参照して対応する温度範囲に応じた伝達関数フィルタC^N を読み出し、これを、前述の伝達関数フィルタ格納領域に伝達関数フィルタC^として更新記憶する。そして、ステップ202の処理で検出した温度範囲を、前回の温度範囲として所定の記憶領域に更新記憶した後、処理を終了する。
【0087】
なお、前記伝達関数フィルタ格納領域には、例えば出荷時等に同定した伝達関数Cに応じた伝達関数フィルタC^が初期値として格納されているものとする。このように、本実施の形態によれば、能動型エンジンマウント1の温度変化に応じて、現在の温度に応じた伝達関数フィルタC^N を選定し、この伝達関数フィルタC^N に基づいて、振動減衰処理を実行するようになっているから、例えば温度変化等によって、能動型エンジンマウント1の振動の伝達特性が変化した場合でも、現在の温度に応じた伝達関数フィルタC^に基づいて制御振動が発生されて、良好な振動低減制御が実行できるのである。
【0088】
よって、車両の外気温度の変化、或いは、能動型エンジンマウント1が稼働することに伴う、電磁アクチュエータ10の発熱による能動型エンジンマウント1内の温度変化等によって、エンジン1と車体35との間の振動の伝達特性が変化した場合でも、現在の温度に応じた伝達特性に基づく伝達関数フィルタC^に基づき制御振動が発生されるから、良好な振動低減制御を実行することができる。
【0089】
特に、ゴム製の支持弾性体6等の場合には、温度変化によりその特性が大きく変化し、例えば温度が0℃以下となった場合等には硬化してしまい、車体35に伝わるエンジン1の振動を減衰する力が弱くなってしまい、車体35に伝わる振動が大きくなるが、上記実施の形態によれば、予め実験等によって設定した0℃以下における伝達特性に応じた、伝達関数フィルタC^に基づき、振動低減処理が行われるから、支持弾性体6の硬化による振動を減衰する力の低下分を考慮して制御振動が発生されることになって、良好な振動低減制御を実行することができる。
【0090】
また、支持弾性体6の特性変化に係わらず、例えば、温度変化に応じて主流体室15及び副流体室16内の作動流体の特性、或いはその他の部分の特性が変化する場合でも、これらの特性変化をも考慮して、制御テーブルM1 の伝達関数フィルタC^N を設定するようにすれば、これら特性変化にも対処することができる。
【0091】
また、上記第1の実施の形態においては、第1〜第4の温度範囲毎に、対応する伝達関数フィルタC^1 〜C^4 が設定されているから、温度範囲から設定すべき伝達関数フィルタを容易に得ることができ、更新処理に要する処理負荷を軽減することができると共に短時間で更新処理を行うことができる。
【0092】
ここで、本実施の形態では、エンジン30が振動源に対応し、能動型エンジンマウント1が制御振動源に対応し、パルス信号生成器26が基準信号生成手段に対応し、荷重センサ22が残留振動検出手段に対応し、図3の処理が能動制御手段に対応し、温度センサ28が温度検出手段に対応し、図4の処理が伝達関数補正手段に対応している。
【0093】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
本発明の第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態における、伝達関数フィルタC^の補正方法が異なること以外は同様であり、全体的な構成や振動低減処理の処理内容は上記第1の実施の形態と同様であるため、その重複する説明は省略する。
【0094】
この第2の実施の形態においては、伝達関数補正処理では、温度変化に応じて基準となる基準伝達関数フィルタC^* の位相及びゲインを補正するようにしている。
【0095】
つまり、能動型エンジンマウント1に温度変化が生じた場合、その影響を最も受けるのは支持弾性体6であり、そのばね定数が変化することからこれに伴う伝達関数フィルタの位相及びゲインの変化を推定し、これに応じて伝達関数フィルタを補正するようにしている。
【0096】
図6は、第2の実施の形態における制御テーブルM2 を表したものであり、この第2の実施の形態における制御テーブルM2 では、温度範囲毎に、基準伝達関数フィルタC^* に対する、位相の補正値及びゲインの補正値が設定されている。この補正値は、基準伝達関数フィルタC^* の伝達特性を補正する補正値であって、補正後の基準伝達関数フィルタC^* が、各温度範囲毎に応じた伝達関数フィルタとなるように、予め実験等によって求めた値である。また、基準伝達関数フィルタC^* は、例えば、出荷時に同定処理を行うこと等によって設定された伝達関数フィルタである。例えば、−50〜0℃を第1の温度範囲,0〜50℃を第2の温度範囲,50〜100℃を第3の温度範囲、100〜150℃を第4の温度範囲とした場合、第3の温度範囲を基準としたとき、第1及び第2の温度範囲の位相補正値は、位相を進める値+B1 ,+A1 に設定され、第4の温度範囲の位相補正値は位相を遅らせる値−C1 に設定される。また、第1及び第2の温度範囲のゲイン補正値は、×B2 ,×A2 、第4の温度範囲のゲイン補正値は、×C2 に設定され、B2 及びA2 は例えば、“1”よりも小さい値であり且つ、B2 >A2 を満足する値であり、また、C2 は“1”よりも大きい値に設定される。
【0097】
そして、第2の実施の形態における伝達関数補正処理は、図7に示すフローチャートに基づいて実行される。なお、全体的な処理内容は上記第1の実施の形態と同様であるため、同一部分には同一番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0098】
すなわち、まず、温度センサ28からの温度検出値tを読み込み(ステップ201)、続いて、制御テーブルM2 を参照して、対応する温度範囲を特定する(ステップ202)。そして、特定した温度範囲が予め記憶している前回の温度範囲と一致するか否かを判定し(ステップ203)、一致する場合には、そのまま処理を終了する。一方、前回の温度範囲と今回の温度範囲とが一致しない場合には、制御テーブルM2 を参照して、特定した温度範囲に対応する位相補正値及びゲイン補正値を読み出す(ステップ204a)。そして、読み出した位相補正値及びゲイン補正値によって、予め設定した基準伝達関数フィルタC^* を補正し(ステップ204b)、これを前述の伝達関数フィルタ格納領域に更新記憶する。また、ステップ202で判定した温度範囲を、前回の温度範囲として所定の記憶領域に更新記憶する。
【0099】
なお、この伝達関数フィルタ格納領域には、初期値として例えば基準伝達関数フィルタC^* が格納されている。
したがって、この第2の実施の形態のような構成であっても、温度変化に応じた伝達関数フィルタC^に基づいて振動低減処理が実行されるから、上記第1の実施の形態と同等の作用効果を得ることができる。
【0100】
しかも、図6に示すように、温度範囲毎に伝達関数フィルタを保持しておく必要はなく、温度範囲と位相及びゲインの補正値とを記憶するだけで済むから、メモリ容量の低減にも寄与することができる。
【0101】
なお、上記第1及び第2の実施の形態においては、温度範囲を4段階に分けた場合について説明したが、これに限るものではなく、より細かい温度範囲或いはより大まかな温度範囲に分けるようにしてもよい。
【0102】
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。
この第3の実施の形態は、温度センサ28で検出した電磁アクチュエータ10の温度である温度検出値tに基づいて、支持弾性体6の温度を予測し、この予測した支持弾性体6の温度に基づいて、伝達関数フィルタC^を補正するようにしたものである。上記第1及び第2の実施の形態において、その全体的な構成や振動低減処理等の処理内容は同様であるので、その重複する説明は省略する。
【0103】
図8は、第3の実施の形態における伝達関数補正処理の処理手順を示すフローチャートであって、上記第1及び第2の実施の形態における伝達関数補正処理と同一部分には、同一符号を付与している。
【0104】
すなわち、まず、温度センサ28からの温度検出値tを読み込むと(ステップ201)、次に、この温度検出値tをもとに、支持弾性体6の温度を予測する(ステップ201a)。つまり、温度センサ28は、支持弾性体6の温度変化の主な原因である電磁アクチュエータ10のヨーク10Aの温度を検出している。ここで、温度変化の影響を受けやすいのは、例えば支持弾性体6等、温度変化に伴いその振動の伝達関数が大きく変化するゴム等で形成された部分であり、ヨーク10Aと支持弾性体6との間には、熱の伝達特性等によって温度差があることから、この温度差を考慮して支持弾性体6の温度に変換するようになっている。この変換は、例えば予め実験等によって、ヨーク10Aと支持弾性体6との温度の相関関係を表す関係式を求めておき、この関係式と前記温度検出値tとに基づいて支持弾性体6の温度を予測する。
【0105】
そして、変換後の温度予測値に基づいて、制御テーブルM1 における何れの温度範囲に相当するかを判定し(ステップ202)、以後、上記第1の実施の形態と同様に、前回伝達関数補正処理を実行したときの温度範囲と一致する場合には、そのまま処理を終了し、前回の温度範囲と今回の温度範囲とが一致しない場合には、制御テーブルM1 を参照して今回の温度範囲と対応する伝達関数フィルタを選定し、これを伝達関数フィルタ格納領域に更新記憶する(ステップ203,204)。
【0106】
したがって、この場合にも、温度変化に応じた伝達関数フィルタC^に基づいて振動低減処理が実行されるから、上記第1の実施の形態と同等の作用効果を得ることができると共に、特に、支持弾性体6の温度を予測してこの予測温度に基づいて、伝達関数フィルタC^を補正するように、能動型エンジンマウント1のうち、温度変化の影響を受けやすい箇所の温度に応じて、伝達関数フィルタC^を補正するようにしているから、実際の伝達特性に応じてより適切な伝達関数フィルタC^を設定することができ、よって、より良好な振動低減制御を実行することができる。
【0107】
特に、温度変化の影響を受けやすい支持弾性体6等は、その直接その温度を測定するようにすることも考えられるが、支持弾性体6の耐久性の問題等から、支持弾性体6に温度センサを挿入して温度を計測することは困難である。しかしながら、第3の実施の形態によれば、電磁アクチュエータ10の温度から支持弾性体6の温度を予測することができるから、支持弾性体6の耐久性に悪影響を与えることなく、温度を検出することができ効果的である。
【0108】
なお、上記第3の実施の形態においては、上記第1の実施の形態において、支持弾性体6の温度を予測するようにした場合について説明したが、これに限らず、上記第2の実施の形態に適用することもできる。
【0109】
また、上記各実施の形態においては、温度センサ28を、電磁アクチュエータ10に設け、ヨーク10Aの温度を計測するようにした場合について説明したが、これに限らず、例えば、支持弾性体6の表面の温度,或いは主流体室15内の作動流体の温度,或いは能動型エンジンマウント1本体が設置されている場所の温度,等を測定するようにしてもよい。
【0110】
また、上記各実施の形態においては、温度センサ28を設けて、これにより支持弾性体6の温度を検出或いは推測するようにした場合について説明したが、主に、支持弾性体6の温度変化の原因となるのは、ヨーク10Aの発熱によるものであるから、例えばヨーク10Aの発熱が開始するイグニッションスイッチがオン状態となった時点から、支持弾性体6の温度が伝達特性を変化させるべき温度となるまでの経過時間を実験等により検出しておき、イグニッションスイッチがオン状態となった時点から所定時間経過したときに、伝達特性を更新するようにしてもよく、この場合には、例えば温度センサ等を設けることなく、実現することができる。
【0111】
また、上記各実施の形態においては、残留振動を能動型エンジンマウント1に内蔵した荷重センサ22によって検出しているが、これに限定されるものではなく、例えば車室内の乗員足元位置にフロア振動を検出する加速度センサを配設し、その加速度センサの出力信号を残留振動信号eとしてもよい。
【0112】
また、上記各実施の形態においては、伝達関数フィルタC^の初期値、或いは基準伝達関数フィルタC^* として、出荷時等に同定した伝達関数Cに応じた伝達関数フィルタC^を格納するようにした場合について説明したが、例えば、イグニッションスイッチがオン状態となったとき、或いは定期検査時等、出荷時以後にも、同定処理が実行可能であり伝達関数フィルタC^を更新可能なものについては、更新後の伝達関数フィルタC^を、伝達関数フィルタC^の初期値、或いは、基準伝達関数フィルタC^* として設定するようにしてもよい。なお、この同定処理を実行する場合には、例えば、0℃の環境下等ではなく、伝達関数フィルタを設定するにあたって適当な温度のときに設定したものが好ましい。
【0113】
また、上記各実施の形態においては、本発明における能動型振動制御装置をエンジン30から車体35に伝達される振動を低減する車両用の能動型振動制御装置に適用した場合について説明したが、本発明の対象はこれに限定されるものではなく、エンジン30以外で発生する振動を低減するための能動型振動制御装置であっても本発明は適用可能である。
【0114】
また、例えば騒音源としてのエンジン30から車室内に伝達される騒音を低減する能動型騒音制御装置であってもよく、かかる能動型騒音制御装置とする場合には、車室内に制御音を発生するための制御音源としてのラウドスピーカと、車室内の残留騒音を検出する残留騒音検出手段としてのマイクロフォンと、車室内の温度を測定する温度検出手段としての温度センサを設け、上記各実施の形態と同様の演算処理によって得られる駆動信号yに応じてラウドスピーカを駆動させると共に、マイクロフォンの出力を残留騒音信号eとして適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数Wi の更新処理に用い、伝達関数補正処理(伝達関数補正手段)等を実行すれば、上記各実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0115】
また、本発明の適用対象は車両に限定されるものではなく、エンジン30以外で発生する周期的な振動や騒音を低減するための能動型振動制御装置,能動型騒音制御装置や、非周期的な振動や騒音(ランダム・ノイズ)を低減するための能動型振動制御装置,能動型騒音制御装置であっても適用可能であり、適用対象に関係なく上記各実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。例えば、工作機械からフロアや室内に伝達される振動を低減する装置等であっても、本発明は適用可能である。
【0116】
さらに、上記各実施の形態では、駆動信号yを生成するアルゴリズムとして同期式Filtered−X LMSアルゴリズムを適用しているが、適用可能なアルゴリズムはこれに限定されるものではなく、例えば、通常のFiltered−X LMSアルゴリズム等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】能動型エンジンマウントの一例を示す断面図である。
【図3】振動低減処理の概要を示すフローチャートである。
【図4】第1の実施の形態における伝達関数補正処理の概要を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施の形態における制御テーブルM1 の一例である。
【図6】第2の実施の形態における制御テーブルM2 の一例である。
【図7】第2の実施の形態における伝達関数補正処理の概要を示すフローチャートである。
【図8】第3の実施の形態における伝達関数補正処理の概要を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 能動型エンジンマウント
5b オリフィス
10 電磁アクチュエータ
11 板ばね
12 磁路部材
15 主流体室
16 副流体室
22 荷重センサ
25 コントローラ
26 パルス信号生成器
28 温度センサ
30 エンジン
35 車体

Claims (3)

  1. 振動源から発せられる振動と干渉する制御振動を発生可能な制御振動源と、
    前記振動の発生状態を表す基準信号を生成し出力する基準信号生成手段と、
    前記干渉後の振動を検出し残留振動信号として出力する残留振動検出手段と、
    前記基準信号及び前記残留振動信号に基づき、前記制御振動源及び前記残留振動検出手段間の振動の伝達系の伝達関数を含む制御アルゴリズムを用いて、前記振動が低減するように前記制御振動源を駆動する能動制御手段と、を備えた能動型振動制御装置において、
    車両に適用され、前記振動源はエンジンであり、
    前記制御振動源は、前記エンジンと車体側部材との間に介在する支持弾性体を備えた制御振動源であって、
    前記伝達系の温度を検出する温度検出手段と、
    当該温度検出手段で検出した温度に応じて前記伝達関数を補正する伝達関数補正手段と、を備え、
    前記温度検出手段は、前記エンジンが始動してからの経過時間に基づいて、前記支持弾性体の温度を予測するようになっていることを特徴とする能動型振動制御装置。
  2. 前記伝達関数補正手段は、予め前記伝達系の温度に対して所定の温度範囲毎に設定した伝達関数候補のうち、前記温度検出手段で検出した温度が含まれる温度範囲に対応する伝達関数候補を、前記伝達関数として選定するようになっていることを特徴とする請求項1記載の能動型振動制御装置。
  3. 前記伝達関数補正手段は、予め前記伝達系の温度に対して所定の温度範囲毎に設定した、基準伝達関数の特性を補正する補正値のうち、前記温度検出手段で検出した温度が含まれる温度範囲に対応する補正値を選定し、当該補正値をもとに補正した前記基準伝達関数を、前記伝達関数として設定するようになっていることを特徴とする請求項1記載の能動型振動制御装置。
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