JP3690686B2 - リゾホスファチジルコリンの製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、一般にリン脂質加水分解の分野に関する。特に、本発明は、リゾホスファチジルコリンを得るためのホスファチジルコリンのホスホリパーゼA2加水分解の改良された方法に関する。本発明は又、リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド、及び脂肪酸を含有する脂質マトリクスの製造方法にも関する。
背景技術
ホスファチジルコリンからリゾホスファチジルコリンへの酵素的転化は、1900年代初期から知られている。蛇毒抽出物によるレシチン分解の初期の発見(ホスファチジルコリン)により、蛇毒溶血作用が細胞膜のレシチン部分に対するものであることが示された。1935年、Hughesは、レシチンのリゾレシチン(リゾホスファチジルコリン)への単一分子膜の加水分解が、pH、温度及びレシチン分子の表面密度のような要因に依存することを示した。単一分子膜中のレシチン分子の密度は、加水分解の効率を非常に減少させる。Hanahanは、卵ホスファチジルコリン及びホスホリパーゼA2のエーテル溶解性複合体が、不飽和脂肪酸及びリゾホスファチジルコリンの遊離を引き起こすことを示した。ホスホリパーゼA2によるホスファチジルコリンの加水分解は、溶媒として95%エチルアルコール、クロロホルム又は石油エーテルを使用した場合には確認できなかった。1963年にDawsonによって行われた実験でも、ホスホリパーゼA2がホスファチジルコリンをリゾホスファチジルコリン及び一つの脂肪酸に加水分解することが報告された。Dawsonは、酵素活性がカルシウムイオンの存在に依存すること及びエーテル又はブタノールの添加がホスホリパーゼA2活性を刺激することを確認した。Unilever Ltd .のBP1,215,868には、ホスホリパーゼA2によるリン脂質の加水分解が、脂質(油類)の存在下で反応を行うことにより、さらに改善されたことが記述されている。
従来技術で開示されたホスファチジルコリン加水分解の工程は、不完全な加水分解や、加水分解反応中、望ましくない副生物を生成することなどを含む、いくつかの欠点を有している。従来方法の欠点は、最終反応生成物中の反応しない出発物質又は望ましくない副生物の存在が、許容不可能なレベルの不純物となるため非常に重大なものである。これらの望ましくない構成成分は、所望の生成物を得るために反応生成物から除去されねばならず、リゾホスファチジルコリンは、従って付加的な精製段階を必要とする。
以上に記載の従来方法では、出発ホスファチジルコリンの約70%のリゾホスファチジルコリンを、最大収率として生成する。Dawsonは、約60%から70%の最大収率になるようなホスファチジルコリンの加水分解におけるホスホリパーゼA2活性を刺激するためには、エーテルの添加が必要であることを示した。このリゾホスファチジルコリンの最大収率は、水性緩衝液中8%ジエチルエーテル(vol./vol.)が反応媒体である場合、すなわちこの反応媒体を使用して2相系が観察される場合に得られた。Dawsonは、リゾホスファチジルコリンの収率を増加させるために、反応媒体中のジエチルエーテルを6%ブタノール(vol./vol.)で置換可能であるが、エタノール及びメチルイソブチルヘキサンではホスファチジルコリンの加水分解の増加には影響しないことも見出した。Dawsonは、ホスファチジルコリンの加水分解に対するエーテル(又はブタノール)の刺激効果は、おそらく脂質界面で配向された緊密に凝集しているホスファチジルコリン分子の表面希釈、及び界面からの阻害的な脂肪酸カルボニル基の遊離によるものであると結論した。この結論は、脂肪酸の添加がホスファチジルコリンの酵素的加水分解を阻害する(Dawson)という証拠により支持された。添加された脂肪酸による反応の阻害は、界面からの脂肪酸遊離の阻害によるものか、又はカルシウムイオン−脂肪酸キレートの形成すなわちホスホリパーゼA2の活性に必要なCa2+イオンの遊離によるものだった。Dawsonは、2相を形成して付加的脂肪酸を融解するためのエーテルのさらなる添加が、ホスファチジルコリンの加水分解を促進しないのに対し、カルシウムイオンを10倍に増加させると部分的にその阻害を緩和したことから、カルシウムイオンの遊離の方が、より説明しやすいと考えた。コブラ毒から精製されたホスホリパーゼA2酵素が、加水分解活性に対してカルシウムイオンの存在に依存していることも示された。ホスホリパーゼA2による加水分解反応におけるカルシウムイオンの要件及びホスファチジルコリンの加水分解により遊離された脂肪酸とのカルシウムイオンの会合は、周知の技術(Novo Nordisk)である。
本発明者らは、薬剤の送達に有用な混合脂質粒子の製造方法及び個々にとってかなり吸収可能なカロリーを提供するための方法(USP 4,874,795及びUSP 5,314,921)を以前に発明している。これらの方法は、特定の分子比でリゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を混合することを含む。簡便ではあるが、これら以前の方法の使用は、高純度リゾホスファチジルコリンの分離のためにはコスト高であり、従って最終混合脂質粒状生成物は高価なものとなる。
上記の先行技術の欠点のため、現時点では、ホスファチジルコリンをより効果的にリゾホスファチジルコリンに転化するための方法が必要である。このような方法は、結果としてホスファチジルコリンのより効率的な使用と最終反応生成物中の望ましくない副生物(グリセロホスファチジルコリンのような)及び汚染物(未加水分解ホスファチジルコリンのような)の量の減少をもたらす。最終生成物がより純粋な状態となる方法の使用は、結果として原材料コストの削減及び最終生成物の精製の必要性を減少させることによる時間の削減をもたらす。リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を含む混合脂質粒子を製造するための単純化された方法も必要である。出発物質としてホスファチジルコリンを利用する方法は、出発物質として精製されたリゾホスファチジルコリンの使用の必要性を減少させ、従って最終混合脂質粒状生成物のための全体としてのコストを減少させる。
発明の要約
本発明の目的は、従来方法よりも、より効率的なリゾホスファチジルコリンの製造方法を提供することにある。例えば、リゾホスファチジルコリンの従来の製造方法では、典型的にはホスファチジルコリン出発物質の60%から70%効率の転化より良好に得ることはできない。本発明は、好適態様において100%効率に近い、ホスファチジルコリンをリゾホスファチジルコリンに転化する方法を提供する。さらに、本発明によるホスファチジルコリンの加水分解では、望ましくない副生物は生じたとしても少量しか生じない。本発明は、100%効率近くホスファチジルコリンを転化することによりリゾホスファチジルコリンの製造コストを減少させる方法を提供する。
本発明は、ホスファチジルコリンの酵素的加水分解の改良を含む。本発明によると、特定の試薬をホスファチジルコリンと結合させると、ホスファチジルコリンをリゾホスファチジルコリンと脂肪酸に酵素的加水分解する効率がそのような試薬を添加しないホスファチジルコリンの加水分解と比較して、増加する。すなわち本発明は、リゾホスファチジルコリンを製造する改良された方法を提供する。リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を含む組成物を製造する改良された方法をも提供する。その改良された方法は、ホスファチジルコリン及びホスファチジルコリンの加水分解を強化する試薬の水性ディスパージョンの酵素的加水分解を含む。リゾホスファチジルコリンの生物学的に好適な形態を提供するために、ホスファチジルコリンを加水分解する酵素は、ホスホリパーゼA2のように、好適にはホスファチジルコリンの2−位から脂肪酸を遊離させる。
本発明の一側面おいて、リゾホスファチジルコリンの製造方法が提供される。試薬及びホスファチジルコリンを水と結合させて、試薬及びホスファチジルコリンの混合物の水性ディスパージョンを水中で形成する。その混合物の水性ディスパージョンを、好適にはカルシウムイオン存在下で、ホスホリパーゼA2と接触させ、反応混合物を形成する。試薬には、モノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル又はグリセロールが可能である。ある態様では、混合物中のホスファチジルコリンは、混合物の約40重量%より少なく、そして好適には混合物の約30重量%である。ある態様では、その方法は、反応混合物中に形成するリゾホスファチジルコリンを回収することも含む。好適には、リゾホスファチジルコリンの回収は、脂肪酸、試薬、又は脂肪酸及び試薬からなる群から選択された反応混合成分から分離することを含む。特に好適な態様では、後者の分離は、アセトンでの抽出を含む。本発明は、従ってさらに精製の必要のない物質的に純粋な生成物を使用できる結果をもたらす前記の成分のすべてからリゾホスファチジルコリンを分離する方法を提供する。前出の態様のすべてにおいて、試薬は、好ましくはモノグリセリド、最も好ましくは8個から22個の炭素原子を有するアシル基をもつモノグリセリドである。
本発明の別の側面での態様では、リゾホスファチジルコリンの製造方法を提供する。試薬、ホスファチジルコリン及び有機溶媒を水と結合し、有機溶媒を含む、試薬及びホスファチジルコリンからなる混合物の水性ディスパージョンを水中に形成する。混合物の水性ディスパージョンを、反応混合物を形成するために、好ましくはカルシウムイオンの存在下で、ホスホリパーゼA2と接触させる。試薬には、モノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル又はグリセロールが可能である。好適態様では、有機溶媒は3級ブチルアルコールである。さらなる態様では、有機溶媒には、ジエチルエーテル、ジエチルエーテルとエタノールとの混合物であって、好ましくは全有機溶媒の約4%のエタノールを含有するもの、3級ブチルアルコールとエタノールとの混合物であって、好ましくは全有機溶媒の約4%のエタノールを含有するもの、又はメチルイソブチルケトンが可能である。
本発明のさらに別の側面においては、水中で水性ディスパージョンを形成するために試薬及びホスファチジルコリンを水で結合させることを含むリゾホスファチジルコリンの製造方法を提供する。その水性ディスパージョンを、ホスホリパーゼA2に接触させ、反応混合物を形成する。その試薬は、試薬が存在しない場合の反応混合物中のホスファチジルコリンのリゾホスファチジルコリンへの転化と比較して、反応混合物中のホスファチジルコリンのリゾホスファチジルコリンへの転化を増強するために効果的な量を存在させる。好ましくは、試薬は、80%又はそれ以上に、さらに好ましくは90%又はそれ以上、さらにより好ましくは95%又はそれ以上、又は最も好ましくは99%又はそれ以上に反応の効率を増加させるために効果的な量を存在させる。試薬は、好ましくはモノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、又はグリセロールである。
好適な試薬、すなわちモノグリセリドは、実際上いかなる量でも、ホスホリパーゼA2によるホスファチジルコリンの加水分解を増強するが、本発明の他の側面においては、リゾホスファチジルコリンの製造方法は、ホスファチジルコリン:モノグリセリドの分子比率が約1:1から約1:5で行われる。好ましくは、モノグリセリドに対するホスファチジルコリンの分子比率は約1:3である。本発明のこれらの態様によると、ホスファチジルコリンの加水分解は、ほぼ100%の効率で進行する。
実質的にいかなるモノグリセリドもホスホリパーゼA2によるホスファチジルコリンの加水分解を増強するために有用である。しかしながら、好適な態様では、本発明における有用なモノグリセリドは、8個から22個の炭素原子からなるアシル基を有する。モノグリセリドのアシル基は、1個から4個の不飽和結合、すなわち炭素−炭素2重結合を含むことが好ましい。従って好ましくは混合物中のモノグリセリドが、1個の不飽和結合を有するアシル基、2個の不飽和結合を有するアシル基、3個の不飽和結合を有するアシル基、4個の不飽和結合を有するアシル基からなる群から選択されたアシル基を含む。最も好ましくは、混合物中のモノグリセリドの50%以上が1個、2個、3個又は4個の不飽和結合を有するアシル基の前記群から選択されたアシル基を含む。従って、本発明によると、特定のモノグリセリドは、ホスファチジルコリンの効果的な加水分解のため、ホスファチジルコリン分子を分離するためにモノグリセリド分子の能力を基本として選択され、そしてさらに、以下に示した脂質マトリクス組成物のような、その反応の有用な最終生成物に所望のアシル基の長さ及び不飽和結合を基本としている。
本発明の別の側面では、リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を含む脂質マトリクス組成物を提供する。ホスファチジルコリン及びモノグリセリドをホスホリパーゼA2に接触させ、そして例えば水の除去により、最終的な脂質複合体を回収する。所望により、モノグリセリド及び/又は脂肪酸を、好適な分子比率の脂質複合体成分を得るために、脂質複合体に添加してもよい。好適な態様では、脂質複合体は、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリド及び脂肪酸の合計の比率が約1:4から1:12の間である。より好適な態様では、脂質複合体は、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリド及び脂肪酸の合計の比率が約1:5から1:6の間である。別の好適な態様では、脂質複合体の成分は、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリド:脂肪酸が1:4:2から1:2:4の間の分子比率で存在する。最も好ましくは、脂質複合体は、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリド:脂肪酸が1:4:2、1:3:3又は1:3:2の分子比率であるリゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸からなる。さらなる態様では、リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を含む脂質マトリクスの製造方法は、天然のトリグリセリドに由来するモノグリセリドの使用を含む。
本発明の別の側面では、試薬及びホスファチジルコリンの混合物を形成するために、試薬及びホスファチジルコリンを結合させて、リゾホスファチジルコリンの製造方法を提供する。試薬には、モノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル又はグリセロールが可能である。混合物は、水中で混合物の水性ディスパージョンを形成するために、水と結合させ、ディスパージョンを反応混合物を形成するために、好ましくはカルシウムイオン存在下で、ホスホリパーゼA2と接触させる。そしてリゾホスファチジルコリンは回収可能となる。
本発明はいかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明の方法により、Small(J.Am.Oil Chemists' Soc.,45:108-119,1968)に記述された、ホスファチジルコリン/リゾホスファチジルコリン/水のラメラ構造は、ホスファチジルコリン/試薬/水からリゾホスファチジルコリン/試薬/脂肪酸/水への逐次酵素的加水分解の間、維持される。ラメラ構造が維持される一連の反応条件を提供することにより、反応全体を通して、ホスファチジルコリン分子がホスホリパーゼA2酵素との接近した状態を維持するので、加水分解反応の効率が増強される。
本発明のこれらの側面及び対象は、発明の詳細な説明においてさらに詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
図1には、モノオレインを添加しない場合の、ホスファチジルコリン加水分解反応混合物中の組成物の経時変化を示す。
図2には、モノオレインを1:3の分子比率で添加した場合の、ホスファチジルコリン加水分解反応混合物中の組成物の経時変化を示す。
発明の詳細な説明
本発明は、ホスファチジルコリン及び試薬をホスホリパーゼA2と接触させることを含むリゾホスファチジルコリンの製造方法である。2−位でのホスファチジルコリンの加水分解によって形成するリゾホスファチジルコリンが、生物学的に好適なリゾホスファチジルコリン(1−位でのホスファチジルコリンの加水分解によって形成されるリゾホスファチジルコリンと比較して)であるため、ホスホリパーゼA2が好適である。形成されたリゾホスファチジルコリンは、ホスファチジルコリンにホスホリパーゼA2が作用することにより遊離する、添加された試薬及び/又は脂肪酸から任意に分離することができる。本方法は、リゾホスファチジルコリンへのホスファチジルコリンの加水分解を、一段階で、十分完全に行うことを可能にする。所望により、試薬はモノグリセリドであることができ、得られたリゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸からなる脂質マトリクスは、反応混合物中に存在するホスホリパーゼA2、微量未反応ホスファチジルコリン、水、有機溶媒、及びいかなる不純物からも分離することができる。
本発明の出発物質は、ホスファチジルコリン、コリンの頭部極性親水性基を含むリン脂質、リン酸及び2つの脂肪酸分子からなる尾部非極性疎水性基に結合したグリセロールである。ホスファチジルコリンは、特定の脂肪酸基、又はさまざまな脂肪酸基の混合物で得ることができる。例えば、Phospholipon▲R▼80(American Lecithin,Oxford,CT)は、頭部極性基に結合したさまざまな脂肪酸アシル基を有するホスファチジルコリン混合物である。
本明細書に開示のとおり、ホスファチジルコリンと試薬と任意の反応成分を含む混合物は、これらの反応成分を結合させることにより調製される。“混合物”という用語は、複数の成分が互いに接触していることを単に意味する。例えば、混合物はホスファチジルコリンと試薬のコロイド混合物であることができ、水又は他の水性溶媒と結合した場合は、ホスファチジルコリンと試薬のコロイド混合物は、水中で分散していると言うことができる。混合物はまた、水中で小粒子としてではなく、より大きなコロイド又は非コロイド複合体として分散されていてもよい。ホスファチジルコリン及び試薬は、二層又は多層構造を形成すると考えられるが、本発明はこの理論に限定されるものではない。従って、混合物が、ホスファチジルコリンをリゾホスファチジルコリンへと転化するホスホリパーゼA2の活性を増強するものである限り、異なる物理的形態又は構造の混合物は、本発明に含まれる。
本発明の方法では、試薬及びホスファチジルコリンを、ホスファチジルコリン及び試薬の混合物の水性ディスパージョンを得るために水と結合させ、そしてディスパージョンを、ホスファチジルコリン分子の加水分解が起こる条件下で、遂次ホスホリパーゼA2と接触させる。水又は実際上ほとんどの水性溶媒中のホスファチジルコリンは、水又は水性溶媒中でディスパージョンを形成すると考えられる。換言すれば、ここで使用される“水”は、ホスファチジルコリン及び試薬の混合物のディスパージョンを形成するために、適合可能な水及び他の水性緩衝液を含むことを意味する。上述のように、このディスパージョンは、二層又は多層の外側に配向させるホスファチジルコリンの頭部極性基を有するラメラ(二層又は多層)構造を含むと考えられる。さらに本発明の試薬と混合され加熱されたとき、ホスファチジルコリンは水性溶媒中でディスパージョンを形成し、同様のラメラ構造を維持すると考えられる。試薬の添加により、いくつかの目的を達成すると考えられる。第一に、試薬の分子は、ホスホリパーゼA2をホスファチジルコリンへ接近させるために、ホスファチジルコリン分子を分離させ、その結果リソホスファチジルコリンへの完全な加水分解を可能とすると考えられる。第二に、試薬の添加は、加水分解反応の間、ラメラ構造を維持すると考えられる。第三に、試薬の添加は、ホスホリパーゼA2による加水分解を増強するために、ホスファチジルコリン二重層の流動性を維持すると考えられる。従って、前述の特徴の1又は2以上を有するいかなる試薬も、ホスファチジルコリンに添加してホスホリパーゼA2による加水分解を促進するのに好適であると考えられる。試薬は、好適にはモノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセロールからなる群から選択される。最も好適には、試薬はモノグリセリドである。
モノグリセリドは、1つの脂肪酸アシル基に結合した頭部グリセロール基を有する。本発明における有用なモノグリセリドの好適なアシル基は、8個から22個の炭素原子数の範囲にある。モノグリセリドのアシル基は、飽和でも不飽和でもよく、好ましくは炭素鎖中に1個から4個の二重結合を有する。モノグリセリドは、ユーザーの要求、及び反応混合物中の不純物の許容限度に応じて、高度に精製されても粗製体で添加されてもよい。本発明に有用なモノグリセリドは、異なるサイズ及び飽和状態の複数のアシル基を有するモノグリセリド分子の混合物であるか、又はモノグリセリドは、例えば、モノオレイン、モノパルミチンのような、単一のアシル基であってもよい。本発明に有用なモノグリセリド混合物の例としては、DimodanTMLSK及びDimodanTMOK(Danisco Ingredients USA,Inc.,New Century,KS)を含む。
ホスホリパーゼA2によるホスファチジルコリン加水分解を増強するために、ジグリセリド分子も本発明の方法に有用である。ジグリセリド分子は、2つの脂肪酸アシル基が結合した頭部グリセロール基からなる。モノグリセリドのアシル基と同様に、ジグリセリドのアシル基は、好ましくは8個から22個の炭素原子が結合した炭素鎖及び1個から4個の不飽和結合を有する。モノグリセリドと同様に、本発明に有用な特定のアシル基、精製物、及びジグリセリド分子の混合物は、個々のユーザーの要求にかかっている。ジグリセリド分子のいかなる組み合わせであっても種類であっても、ホスファチジルコリンの加水分解を増強する限り、本発明の対象となる。
ポリグリセロール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル及びグリセロールのような他の試薬は、ホスファチジルコリン分子の遊離、ラメラ構造及び流動性の維持によりホスファチジルコリンの加水分解を増強できる。そのような化合物は、USP 4,849,132に記載されている。ポリグリセロール脂肪酸エステル分子は、4個から12個重合したグリセロール分子と脂肪酸のモノ−、ジ−又はポリエステルからなる。ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビトール、ソルビタン及びソルバイドと脂肪酸のモノ−、ジ−又はポリエステルからなる。シュクロース脂肪酸エステルは、シュクロースと脂肪酸のモノ−、ジ−又はポリエステルからなる。モノグリセリドのアシル基のように、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びシュクロース脂肪酸エステルは、好ましくは8個から22個の炭素原子及び1個から4個の不飽和結合を有する。上述のように、本発明に有用な特定のアシル基、精製物、及び試薬分子の混合物は、個々のユーザーの要求にかかっている。
ホスファチジルコリンの加水分解を増強するいかなる単一試薬又は異なる試薬の混合物も、本発明に有用であると考えられる。前述の試薬は、さまざまな供給源から商業的に入手可能である。
ホスファチジルコリンは、ホスホリパーゼA2の作用によりリゾホスファチジルコリンに加水分解され、ホスファチジルコリンの頭部のグリセロール基の2−位に結合している脂肪酸のエステル結合を切断する。ホスホリパーゼA2は、さまざまな供給源から精製されてもよく、又は商業的に(例えばLecitaseTM10L,Novo Nordisk,デンマーク)入手することも可能である。ホスホリパーゼA2の完全な活性のために、反応混合物中にCa2+イオンの存在が必要であると考えられる。典型的にはホスホリパーゼA2が活性であるような商業的ホスホリパーゼA2製品では、低レベルのCa2+イオンが存在し、完全な活性のためには、Ca2+イオンを反応混合物中に添加することが好適である。ホスファチジルコリンの加水分解中に、遊離した脂肪酸の酸基にイオン結合することにより、Ca2+イオンが奪われることに注意すべきである。従ってホスホリパーゼA2の完全な活性を維持するために、反応混合物に十分なCa2+イオンを添加することが好適である。本発明において、ユーザーが、カルシウムイオン:ホスファチジルコリンを少なくとも1:1になるように調整することが最も好適である。
ホスホリパーゼA2酵素の完全な活性を維持するために、Ca2+イオンを他のイオンで置換してもよいことが当業者に認識されよう。この反応中で、すべてのイオンがCa2+イオンのかわりになり得るわけではないが、ホスホリパーゼA2活性の維持に適切な特定の種類及び濃度のイオンを、当業者なら容易に試験することができる。
上述のように、リゾホスファチジルコリンを製造する本方法は、ホスファチジルコリン及び試薬の混合物の水性ディスパージョンとホスホリパーゼA2を接触させることを含む。反応混合物の水性な性質がラメラ構造を形成するようにホスファチジルコリン分子の極性部の配向を促進すると考えられる。ラメラ構造は、ホスホリパーゼA2によるリゾホスファチジルコリンへのホスファチジルコリンの効率的加水分解のために好適であると考えられる。従って本発明の方法では、そのような非水性混合物がラメラ構造中のホスファチジルコリン及び試薬分子を配向でき、またホスホリパーゼA2加水分解の特異性が保持されるのであれば、ホスファチジルコリン及び試薬の非水性混合物も利用できると考えられる。
ホスファチジルコリンの最適な加水分解を得るために、pH、時間、温度のような他の反応条件はさまざまであり得る。例えば、ホスホリパーゼA2は、至適pHがpH8から9であるが、これは最大酵素活性を保持するために維持されるべき値である。反応の進行中、脂肪酸は、ホスファチジルコリンの加水分解により遊離し、反応混合物のpHは変化し得る。そのようなpHの変化は、pH8から9の至適範囲を維持するために塩基の添加を必要とするであろう。ホスファチジルコリンの加水分解を阻害することなく、至適範囲にpHを効果的に上昇させるいかなる塩基を使用してもよい。本出願人は、この目的のために水酸化ナトリウム水溶液を成功裡に使用したが、同じ目的のために水酸化ナトリウムの他の形態又は他の塩基類を使用してもよい。使用される特定の反応条件がpHの上昇を引き起こす場合は、至適pHを維持するために酸を添加することも考えられる。
ホスホリパーゼA2によるホスファチジルコリンの加水分解は、さまざまな温度で行われるが、反応が酵素活性の至適温度(70℃から80℃)で行われることが好ましい。そのような温度は、ホスファチジルコリン/試薬二重層構造が流動性であるが、ホスファチジルコリン分子へホスホリパーゼA2が接触する程度に固着性となるという理由から好適である。他の至適温度は、本発明の方法で用いられる特定の反応混合物に応じて、当業者により最低限の実験で決定できる。
反応時間は、ホスファチジルコリンの加水分解が所望のように進行する限り、本方法のユーザーが適宜選択すればよい。その反応を1日から5日間、最も好ましくは2日間行うことが好適である。
上述のように、ホスファチジルコリンの加水分解は、反応混合物中でラメラ構造を維持している場合に、最も効率的であると考えられる。従って反応成分が、反応過程を通じて、ラメラ構造を維持するような量で結合されることが好ましい。本発明の方法に使用されるホスファチジルコリンの量は、全反応成分の重量百分率により定量される。重量百分率は、全反応成分の重量の合計で単一反応成分の重量を除することにより計算される。
反応混合物中のホスファチジルコリン量は、全反応混合物の約40重量%より多くないことが好ましい。約40重量%より多いホスファチジルコリンを含む反応混合物は、ホスファチジルコリンの効率的な加水分解を許容しない非ラメラ二相系に分離する傾向がある。最も好ましくは、ホスファチジルコリンが、全反応混合物の約30重量%存在する場合である。
試薬は、ホスホリパーゼA2によるホスファチジルコリン単独での加水分解量以上に、ホスファチジルコリンの加水分解を増強する任意の重量百分率の量で混合物に添加することができる。最も好ましくは、この試薬はモノグリセリドである。反応混合物中に存在する場合には、事実上モノグリセリドがいかなる量でも、ホスホリパーゼA2によるホスファチジルコリンの加水分解を増強する。好ましくはホスファチジルコリン:モノグリセリドの分子比は、1:0.1から1:10である。リゾホスファチジルコリンの形成量をより多くするために、ホスファチジルコリン:モノグリセリドの分子比を、約1:1から1:5にすることが好適である。最も好ましくは、ホスファチジルコリン:モノグリセリドの分子比が、約1:3である。
ホスファチジルコリン及び試薬とホスホリパーゼA2との反応の所望の最終生成物は、リゾホスファチジルコリン単独、リゾホスファチジルコリンと脂肪酸又は試薬の組み合わせ、又はリゾホスファチジルコリンと脂肪酸及び試薬の組み合わせである。特に、その試薬がモノグリセリドである場合には、好適な最終生成物は、ホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を含む脂質マトリクスである。この脂質マトリクスの実用性は、USP 4,874,795及びUSP 5,314,921に開示されている。
最終生成物が、リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸からなる脂質マトリクス組成物である場合には、脂質マトリクスの構成が、好ましくはリゾホスファチジルコリン:モノグリセリド及び脂肪酸の合計の分子比率が約1:3から1:12で存在することである。最も好ましくは、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリド及び脂肪酸の合計の分子比率が約1:5から1:6である。脂質マトリクスの個々の成分が、相互に特定の分子比率で存在することもまた好適である。従って、好ましくはリゾホスファチジルコリン:モノグリセリド:脂肪酸の分子比率は、1:4:2から1:2:4である。最も好ましくは、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリド:脂肪酸の分子比率は、1:4:2、1:3:3又は1:3:2である。
付加的なモノグリセリド及び脂肪酸は、リゾホスファチジルコリン/モノグリセリド/脂肪酸の混合物に添加し、溶解又は混合してUSP 4,874,795で定義されたような組成物を得ることができる。従って、モノグリセリド及び/又は脂肪酸の分子比を変化させて、所望の生成物を得る場合は、モノグリセリド及び/又は脂肪酸を脂質マトリクスへ添加することができる。
本発明の方法により製造される脂質マトリクスは、特に、薬剤の送達に有用である。所望により、医薬組成物の完全性に悪影響を与えない限り、医薬組成物を脂質マトリクス中に含有させるために、反応混合物にいつでも添加できる。好ましくは所望の医薬組成物を、脂質マトリクスの生成後逐次添加する。
本明細書に開示される方法は、好ましくは反応混合物中で生成したリゾホスファチジルコリンを反応混合物から回収する段階を含む。本明細書中で使用される、“回収”とは、反応混合物の1又は2以上の成分からリゾホスファチジルコリンを回収することを意味する。リゾホスファチジルコリンの実際上の形態はさまざまであり、すなわち、回収されたリゾホスファチジルコリンは、反応混合物のその他の成分と複合させて回収してもよい。例えばリゾホスファチジルコリンの回収は、リゾホスファチジルコリン、脂肪酸及び試薬を含有する脂質複合体を回収することを含む。リゾホスファチジルコリンの回収は、又リゾホスファチジルコリンと試薬、又はリゾホスファチジルコリンと脂肪酸を含有する脂質複合体の回収を含む。リゾホスファチジルコリン又はリゾホスファチジルコリン含有脂質複合体を、回収を考慮して精製することは必要ではない。従って、リゾホスファチジルコリン又はリゾホスファチジルコリン含有脂質複合体は、Ca2+又はホスホリパーゼA2のような、反応混合物中に存在するその他の構成成分を含有してもよい。しかしながら、リゾホスファチジルコリンが“回収”される場合には、その他の物質から十分に分離し、分離したリゾホスファチジルコリン又はリゾホスファチジルコリン含有脂質複合体として有用なものとする。しかし、所望により、回収されたリゾホスファチジルコリン又はリゾホスファチジルコリン含有脂質複合体は精製することができる。
回収段階は、ホスファチジルコリンが、反応混合物の1又は2以上の構成成分から分離される1又は2以上のプロセスを含む。従って、リゾホスファチジルコリンは、脂肪酸、試薬(例えば、モノグリセリド)又は脂肪酸と試薬から分離されてもよい。分離には、反応混合物から所望でない反応成分を分離することと同様に、反応混合物から所望のリゾホスファチジルコリン又はリゾホスファチジルコリン含有脂質複合体を分離することを含む。例えば、反応混合物は、本明細書に記述されるように、その他の反応混合物成分から優先的に分離するためにアセトンで抽出することができる。別の態様では、リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を含有する脂質マトリクスが、所望の最終生成物であり、ホスホリパーゼA2、水、有機溶媒及び過剰のモノグリセリド又は脂肪酸のようなその他の反応成分を、脂質マトリクスから分離することができる。場合によっては、本明細書中に記述されるように、反応混合物を加熱又は乾燥することにより、その他の反応混合物成分から水を分離することができる。ホスファチジルコリンの酵素的加水分解により選択された生成物を分離するその他の方法は、本明細書により提供され、その他についても当業者に周知であろう。
当業者に知られた多くの方法は、異なる溶解性、分子量、分子サイズ又はその他の性質の違いに基づき、その他の反応成分からのリゾホスファチジルコリンの分離に適用できるであろう。例えば、リゾホスファチジルコリンは、シリカゲルクロマトグラフィー法により、その他の成分から分離してもよい。好ましくは、リゾホスファチジルコリンは、アセトンでの反応混合物の抽出により分離できる。この方法は、アセトンにおけるリン脂質の不溶性に基づいている。すなわちリゾホスファチジルコリンが他の反応構成成分から容易に回収される固体として沈殿する。他の分離方法は、当業者にとって周知であろう。
リゾホスファチジルコリン単独、又はこれとモノグリセリド及び/又は脂肪酸との組み合わせを含有する組成物は、化粧品及び皮膚科製剤における乳化剤、酸化防止剤及び界面活性剤として有用である。
以上に開示のように、本発明の方法は又、所望の最終生成物を回収するための、反応混合物から水及び/又は他の溶媒の除去も考慮している。従って、前出のいかなる生成物の製造方法も、上記の分離工程の一部として、又はそれとは分離されたものとして、水又は溶媒の除去を含むことができる。
加水分解反応による所望の生成物が悪影響を受けない限り、水、水性溶媒、又は水性及び有機溶媒の混合物の除去のための従来知られたいかなる方法を使用してもよい。好ましくはリゾホスファチジルコリン又は脂質マトリクス組成物の工業的な生産に見合う方法が用いられる。例えば、溶媒は、加熱、凍結乾燥又はスプレイ乾燥法により、所望の最終生成物から除去してもよい。そのような方法は、ユーザーの要望により、水又は有機溶媒混合物の全て又は一部を除去する程度の時間用いればよい。好ましくは、反応生成物を過熱して水を除去し、リゾホスファチジルコリン又は脂質マトリクスのペーストを得る。
実施例
例1
ホスホリパーゼA2を、Naja naja siamenesis、Crotalus atroxより調製した。それぞれの酵素を2mg/mlずつ含有する保存溶液を、0.74mMのCa2+を含有する10mMのホウ酸緩衝液pH7.4中に調製した。ヘキサン:エタノール(95/5)中の脂質混合物は、大豆ホスファチジルコリン(Phospholipon,Nattermann Phospholipid GMBH,ロット#60020;250μg/ml)、1−パルミトイル−2−(1−[14C−オレオイル])−ホスファチジルコリン(〜800,000 dpm、無視できる物質量)及びモノオレイン[MO](4.54mg/ml)を含むように調製した。6サンプルのホスファチジルコリン[PC]とMOの分子比率は、1:0、1:1、1:2、1:3、1:4及び1:5であった。1mlの“ReactiVial”(Piece,Rockford,IL)中のそれぞれのサンプルは、N2雰囲気下で乾燥させた。0.01Mのホウ酸/Ca2+緩衝液pH7.4を添加して、サンプルを撹拌し、10分間、47℃でカップホーンを備えたBranson超音波発生装置(モデル W−375)のパワーレベル6から7で超音波処理を行った。反応混合物は、0.2ml緩衝液の全量中に250μgのPC及び4μgのそれぞれのホスホリパーゼA2調製物を含有した。モノオレインは、上述の分子比率でサンプル中に存在した。解析のため、等量ずつ除去しつつ30℃の振盪槽中にインキュベートした。5時間で10μlずつ除去したものから測定された放射活性の解析後、1:0及び1:1以外の全ての脂質では、均一に分布していないことが明白であった。すなわち、我々は対応するバイアル内容物のサンプルを得ることができなかった。これは
のサンプルで壁面に接着して凝集を示したというサンプルの知見からも明らかである。全てのバイアルをカップホーン超音波発生装置で再超音波処理し、24時間で再び測定した。1:2のサンプル以外は、
のサンプルの様子は変化せず、測定された放射活性は、これらのサンプルがまだ均一に分散していないことを示した。バイアルに酵素を添加した後約24時間で、100μlの緩衝液をそれぞれのサンプルに添加して、50℃に加熱し、Branson超音波発生装置(モデル W225)を用いて、パワーレベル2から3でマイクロチップをサンプル中に直接入れ、30秒間超音波処理した。全てのサンプルでこれは分散したが、凝集及び少ない放射活性が、逐次1:4及び1:5のサンプルで観察された。この直接的超音波処理の後すぐに、もう一方の等量の酵素をそれぞれのサンプルに添加し、30℃でのインキュベーションを再び行った。解析のための等量除去物は、20μlに増加した。酵素添加後240時間の経過時点で、全ての残ったサンプルを同様に、中間点での等量除去物として、抽出及び分析した。
分析のための等量除去物は、0.6mlのCHCl3:メタノール(2:1)及び0.3mlの2mM EGTA水溶液pH5.25に添加した。薄層クロマトグラフィーで使用されるべき1サンプルあたりそれぞれの種類の25μg最終担体脂質を得るために、有機溶媒は、0.0417mg/mlのPC、0.0417mg/mlのリゾホスファチジルコリン、0.0417mg/mlのオレイン酸[OA]及び0.0417mg/mlのMOを含む。有機相及び水相を分離するために、室温で10分間3000×g、Sorvall SS-34ローターにおいてサンプルを撹拌し、遠心した。下側の有機相をシリンジで除去して小テストチューブに移し、サンプルをN2雰囲気下で乾燥した(水相を乾燥し、放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定したところ、使用可能な800,000dpmの範囲外の<1200dpmであった)。サンプルは2:1のCHCl3:メタノール60μlに再溶解し、N2雰囲気下で20×20 Whatman LK5D(150オングストローム、250μm厚)19チャンネルスコアシリカゲルTLCプレート上のそれぞれのレーンにスポットした。プレートを60:40:1のヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸で展開した。溶媒を大気中で蒸発させ、プレートは、底面から7cmで測定した。60:40:1のCHCl3:メタノール:NH4OHでの第二の展開には、その起源からPCを除去し、PCからMOを除去するために使用した。放射ラベルされたオレイン酸は、前部で7cmより十分上にある。プレートを乾燥し、それぞれのレーンでの放射活性のばらつきを、Berthode Linear Analyser放射活性検知器を用いて測定した。このユニットは、約7%から9%の明らかな効率性を示した。カラ実験において、酵素を、等量のサンプルをインキュベーションした後すぐに抽出混合物に添加した。放射ラベルPCの加水分解が起きなかったことは、抽出媒体中の条件が、ホスホリパーゼ活性の発現をサンプル処理中阻害していたことを示している。
本実験の結果は、以下の表1、図1及び図2に示した。その結果は、放射ラベルホスファチジルコリンからの加水分解した放射ラベルオレイン酸の様相から測定されるように、モノグリセリド添加なしの場合(PC:MOの比率=1:0)は、ホスファチジルコリンからリゾホスファチジルコリンへの最大転化が約70%であるという点で一致した。いかなる分子比率でのモノグリセリドの添加であっても、放射ラベルオレイン酸の様相から測定されるように、生成するリゾホスファチジルコリンの量を増加させた。反応混合物へのモノグリセリドの添加は、実質的に96時間までの間及び96時間の時点を含めて副生物の蓄積を減少させ、PC:MOのどんな分子比率でも副生物を除去できることは注目すべきである。より長い反応時間でも、副生物は減少する。副生物はグリセロホスファチジルコリンであると考えられる。モノグリセリド存在下でのリゾホスファチジルコリン体の増加を確認するための研究は、14C−ラベルコリン基を有するホスファチジルコリンを用いて現在進行中である。
例2
ホスファチジルコリン(Phospholipon▲R▼80、推定分子量785、American Lecithin、約80%ホスファチジルコリン含有)及びモノグリセリド(DimodanTMLSK及びDimodanTMOK、推定分子量356、Danisco Ingredients)を、ホスファチジルコリン:モノグリセリドの分子比率を1:1から1:5で結合させる。好適なホスファチジルコリン:モノグリセリドの分子比率は1:3である。これらを成分を混合し、70℃から80℃で加熱して、いかなる観測可能なシュリーレンも存在しないような、均一な融解物を得る。ホスファチジルコリンが、全反応成分の30重量%になるように十分な水を添加する。均一な反応成分を得るために、反応成分を70℃から80℃の反応温度で混合し、加熱する。PHは、水酸化ナトリウム水溶液で約pH8からpH9に調整し、維持する。LecitaseTM10L、ホスホリパーゼA2(Novo Nordisk,デンマーク)を、Phospholipon▲R▼80の1kgあたり約2ml添加する。おそらく酵素処理中にカルシウムイオンが存在しているため、カルシウムイオンのさらなる添加は必要ない。温度、撹拌及びpHの反応条件は、ホスファチジルコリンの加水分解が完全に行われるまで、2日間維持する。加水分解が完了した後、ペーストを得るために、加熱して水分を除去する。
さらなるモノグリセリド及び脂肪酸を、任意にリゾホスファチジルコリン/モノグリセリド/脂肪酸マトリクスに添加し、USP 4,874,975で定義の組成物を得るために上記方法に従って、撹拌しながら一緒に溶解させる。高純度のリゾホスファチジルコリンを得るために、反応の最終生成物を、アセトンにより沈降させ、上述のリゾホスファチジルコリン/モノグリセリド/脂肪酸加水分解生成物からモノグリセリドと脂肪酸の両方を抽出する。アセトン添加により、リゾホスファチジルコリンは溶液から沈降し、いかなる通常の処理工程によっても回収できる。使用した用語及び表現は、記述上の用語として使用されたものであり、それにより限定を加えるものとして使用されたものではない。また示され記述された特徴又はその一部のいかなる均等物を除外するような用語及び表現の使用として意図したものではない。本発明の範囲内でさまざまな変形が可能であると理解されるべきである。
Claims (25)
- リゾホスファチジルコリンの製造方法であって、試薬とホスファチジルコリンとを水で混合して、水中で試薬とホスファチジルコリンとの混合物の水性ディスパージョンを形成すること、及び
混合物の水性ディスパージョンにホスホリパーゼA2を接触させて反応混合物を形成することからなり、該試薬がモノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びグリセロールからなる群から選択されるものである、前記方法。 - 反応混合物中に形成されたリゾホスファチジルコリンを回収することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
- 回収段階に、脂肪酸、試薬、又は脂肪酸と試薬からなる群から選択された反応混合物成分からリゾホスファチジルコリンを分離することを含む、請求項2に記載の方法。
- 脂肪酸と試薬からのリゾホスファチジルコリンの分離が、アセトンでの抽出を含む、請求項3に記載の方法。
- 試薬がモノグリセリドである、請求項1〜4に記載の方法。
- 試薬が、アシル基を有し、かつアシル基が8個から22個の炭素原子を有するモノグリセリドである、請求項1に記載の方法。
- 試薬及びホスファチジルコリンの混合物の水性ディスパージョンを、カルシウムイオンの存在下においてホスホリパーゼA2に接触させる、請求項1に記載の方法。
- 混合物中のホスファチジルコリンが、混合物の40重量%より少ない、請求項1に記載の方法。
- 混合物中のホスファチジルコリンが、混合物の30重量%である、請求項8に記載の方法。
- リゾホスファチジルコリンの製造方法であって、試薬、ホスファチジルコリン、及び有機溶媒を水と結合させて、有機溶媒を含み、試薬とホスファチジルコリンからなる混合物の水性ディスパージョンを水中で形成させること、ここで溶媒はジエチルエーテル、3級ブチルアルコール、ジエチルエーテル/エタノール混合物、3級ブチルアルコール/エタノール混合物、及びメチルイソブチルケトンからなる群から選択されたものであり、及び
混合物の水性ディスパージョンをホスホリパーゼA2と接触させて反応混合物を形成すること、ここで試薬はモノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びグリセロールからなる群から選択されるものである、前記方法。 - リゾホスファチジルコリンの製造方法であって、ホスファチジルコリン及びモノグリセリドを水と結合させて、ホスファチジルコリン及びモノグリセリドの混合物の水性ディスパージョンを水中で形成すること、ここでホスファチジルコリン:モノグリセリドの比率が1:1から1:5であり、及び
混合物の水性ディスパージョンをホスホリパーゼA2と接触させて反応混合物を形成することを含む、前記方法。 - ホスファチジルコリン:モノグリセリドの比率が1:3である、請求項11記載の方法。
- リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を含有する組成物の製造方法であって、ホスファチジルコリン及びモノグリセリドを含み、水中で水性ディスパージョンを形成する水性混合物とホスホリパーゼA2を接触させること、及び
リゾホスファチジルコリン、モノグリセリド及び脂肪酸を含有する脂質複合体を回収することを含む、前記方法。 - 脂質複合体を回収する段階に、水の除去を含む、請求項13に記載の方法。
- 回収された脂質複合体組成物中において、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリドと脂肪酸との合計の分子比率が1:3と1:12の間にある、請求項13に記載の方法。
- 回収された脂質複合体組成物中において、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリドと脂肪酸との合計の分子比率が1:5と1:6の間にある、請求項15に記載の方法。
- 回収された脂質複合体組成物が、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリド:脂肪酸を1:4:2と1:2:4の間の分子比率で有する、請求項16に記載の方法。
- 回収された脂質複合体組成物が、リゾホスファチジルコリン:モノグリセリド:脂肪酸を1:4:2、1:3:3及び1:3:2からなる群から選択される分子比率で有する、請求項17に記載の方法。
- モノグリセリドが、天然のトリグリセリドに由来するものである、請求項13又は請求項17に記載の方法。
- リゾホスファチジルコリンの製造方法であって、試薬及びホスファチジルコリンを水と結合させて、試薬及びホスファチジルコリンの混合物の水性ディスパージョンを水中で形成すること、及び
混合物の水性ディスパージョンをホスホリパーゼA2と接触させて反応混合物を形成することを含み、ここで試薬を、試薬が存在しない反応混合物でのホスファチジルコリンのリゾホスファチジルコリンへの転化と比較して、反応混合物でのホスファチジルコリンのリゾホスファチジルコリンへの転化を強化するのに効果的な量で存在させ、試薬が、モノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びグリセロールからなる群から選択される、前記方法。 - 試薬を、反応混合物中でのホスファチジルコリンのリゾホスファチジルコリンへの転化が80%又はそれ以上の効果を増大させるのに効果的な量で存在させる、請求項20に記載の方法。
- 試薬を、反応混合物中でのホスファチジルコリンのリゾホスファチジルコリンへの転化が90%又はそれ以上の効果を増大させるのに効果的な量で存在させる、請求項20に記載の方法。
- 試薬を、反応混合物中でのホスファチジルコリンのリゾホスファチジルコリンへの転化が95%又はそれ以上の効果を増大させるのに効果的な量で存在させる、請求項20に記載の方法。
- 試薬を、反応混合物中でのホスファチジルコリンのリゾホスファチジルコリンへの転化が99%又はそれ以上の効果を増大させるのに効果的な量を存在させる、請求項20に記載の方法。
- リゾホスファチジルコリンの製造方法であって、試薬とホスファチジルコリンを結合させて、試薬及びホスファチジルコリンの混合物を形成すること、ここで試薬はモノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロール脂肪酸エステル、シュクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びグリセロールからなる群から選択されるものであり、
混合物を水と結合させて水中で混合物の水性ディスパージョンを形成すること、及び
混合物の水性ディスパージョンをホスホリパーゼA2と接触させて、反応混合物を形成することを含む、前記方法。
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