JP3669642B2 - 車両用懸架装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、車軸を介して車輪を回転自在に支持するナックルと、車体にナックルを接続する懸架部材と、懸架部材の上下動を緩衝する緩衝手段とを備えた車両用懸架装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
前部が車体左右方向に対して傾斜した軸線により上下動自在に枢支され、後部がナックルに接続されたセミトレーリングアーム式サスペンションは、部品点数が少なく且つ車体への取付点が少ないコンパクトな構造であるため、居住空間を有効に利用するうえで好都合である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来のセミトレーリングアーム式サスペンションは、トレーリングアームの車体への取付点が車軸よりも車体前方に配置されているために、旋回時に大きなサイドフォースが加わる旋回外輪がトーアウトしてしまうだけでなく、車体への取付点が車輪よりも車体内側に配置されているために、制動時に車輪に加わるブレーキフォースにより左右の車輪がトーアウトしてしまい、そのために安定性が確保し難い問題がある。また、従来のセミトレーリングアーム式サスペンションは、前後コンプライアンスが充分でないために乗り心地が悪い問題がある。尚、トーションビーム式サスペンションについても同様の問題を有する。
【0004】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたもので、上記各問題を解決し得る車両用懸架装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1記載に記載された発明は、車軸を介して車輪を回転自在に支持するナックルと、車体にナックルを接続する懸架部材と、懸架部材の上下動を緩衝する緩衝手段とを備えた車両用懸架装置において、ナックルを車軸の前方及び後方に配置した少なくとも2個の弾性ブッシュで懸架部材に連結するとともに前記少なくとも2個の弾性ブッシュの軸線を側面視で車体前後方向に向けて配置してなり、車軸の後方に配置した弾性ブッシュの軸直角方向の剛性を車軸の前方に配置した弾性ブッシュの軸直角方向の剛性よりも高く設定するとともに、前記少なくとも2個の弾性ブッシュの軸方向の剛性を軸直角方向の剛性よりも低く設定したことを特徴とする
【0006】
【作用】
請求項1の構成によれば、路面の凹凸等により車輪に車体後方への衝撃が入力したときに、弾性ブッシュの変形により懸架部材に対してナックルが移動できるため、前後コンプライアンスが確保されて乗り心地が向上する。また車両が旋回すると旋回外輪に車体外側から内側に向けてサイドフォースが作用し、旋回内輪に車体内側から外側に向けてサイドフォースが作用するが、前記サイドフォースによって車軸の前方に配置した柔らかい弾性ブッシュが車軸の後方に配置した硬い弾性ブッシュよりも大きく変形することにより、旋回外輪がトーインするとともに旋回内輪がトーアウトするため、旋回外輪及び旋回内輪が何れも旋回方向に転舵されて安定性が向上する。しかも車軸の前後の弾性ブッシュの軸方向の剛性を軸直角方向の剛性よりも低く設定したので、前後コンプライアンスが充分に確保されて乗り心地が一層向上する。
【0007】
【実施例】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施例について説明する。
【0008】
図1〜図5は本発明の第1実施例を示すもので、図1は左後輪の懸架装置の後面図、図2は図1の2−2線矢視図、図3は図1の3方向矢視図、図4は旋回時の作用説明図、図5は制動時の作用説明図である。
【0009】
図1〜図3は、本発明をセミトレーリングアーム式サスペンションに適用した実施例を示すもので、車輪Wを車体Bに支持する懸架装置Sはトレーリングアーム1を備える。トレーリングアーム1は車体前方側において左右一対のゴムブッシュジョイント2,3を介して車体Bに上下揺動自在に枢支される。左右一対のゴムブッシュジョイント2,3は共通の軸線L0 を有しており、その軸線L0 は車体内側が車体後方に向けて角度αだけ傾斜している。即ち、トレーリングアーム1は所謂セミトレーリングアームである。
【0010】
トレーリングアーム1は概略板状の本体部4を備えており、その本体部4の後部にはスプリングシート5とダンパー取付ブラケット6とが設けられる。スプリングシート5と車体Bとがサスペンションスプリング7により接続されるとともに、ダンパー取付ブラケット6と車体Bとがダンパー8により接続される。サスペンションスプリング7及びダンパー8は車輪Wの上下動を緩衝する緩衝手段9を構成する。ナックル10に固定した車軸11にボールベアリング12を介してハブ13が回転自在に支持されており、このハブ13に車輪Wのホイール14が固定される。
【0011】
ナックル10はトレーリングアーム1に3個のゴムブッシュジョイント15,16,17を介して連結される。車軸11の前下方に配置された第1ゴムブッシュジョイント15は、トレーリングアーム1の本体部4に二股状に形成した支持部18と、ナックル10に形成したアーム19とを接続する。車軸11の上方に配置された第2ゴムブッシュジョイント16は、トレーリングアーム1の本体部4の2本の支柱20,20の上端に二股状に形成した支持部21と、ナックル10に形成したアーム22とを接続する。車軸11の後下方に配置された第3ゴムブッシュジョイント17は、トレーリングアーム1の本体部4に二股状に形成した支持部23と、ナックル10に形成したアーム24とを接続する。このように、車軸11の下方及び上方にゴムブッシュジョイント15,16,17を振り分けて配置することにより、車輪Wのキャンバ剛性を確保することができる。
【0012】
図2から明らかなように、第1ゴムブッシュジョイント15、第2ゴムブッシュジョイント16及び第3ゴムブッシュジョイント17の軸線L1 ,L2 ,L3 は、何れも側面視で車体前後方向に配置されている。また、図3から明らかなように、第1ゴムブッシュジョイント15の軸線L1 は車体前後方向に配置されているのに対し、第2ゴムブッシュジョイント16及び第3ゴムブッシュジョイント17の軸線L2 ,L3 は車後方側が車体外側に拡開している。
【0013】
前記第1、第2及び第3ゴムブッシュジョイント15〜17は、何れも軸線L1 ,L2 ,L3 方向の剛性が、軸線L1 ,L2 ,L3 に直交する方向の剛性よりも低く設定されている。従って、ナックル10はトレーリングアーム1に対して車体前後方向に比較的に小さな荷重で移動可能である。また、第1ゴムブッシュジョイント15の軸線L1 に直交する方向の剛性は、第3ゴムブッシュジョイント17の軸線L3 に直交する方向の剛性よりも小さく設定されている。尚、第2ゴムブッシュジョイント16及び第3ゴムブッシュジョイント17の剛性は同一に設定されている。
【0014】
次に、前述の構成を備えた本発明の実施例の作用について説明する。
【0015】
車両の走行時に車輪Wが小石に乗り上げたような場合、車輪Wに作用する上向きの荷重成分はサスペンションスプリング7及びダンパー8の伸縮により吸収される。また、車体後ろ向きの荷重成分は、トレーリングアーム1を車体Bに接続する2個のゴムブッシュジョイント2,3の変形と、ナックル10をトレーリングアーム1に接続する3個のゴムブッシュジョイント15〜17の変形とにより吸収される。このとき、3個のゴムブッシュジョイント15〜17は軸線L1 〜L3 を車体前後方向に向けて配置されており、しかもその車体前後方向の剛性が軸直角方向の剛性よりも低く設定されているため、車輪W及びナックル10はトレーリングアーム1に対して車体前後方向に容易に移動することができる。その結果、前後コンプライアンスが増加して乗り心地が向上する。更に、ダンパー8には車体後ろ向きの荷重成分が入らないため、ダンパーフリクションの影響を排除することができる。
【0016】
図4に示すように、車両が例えば右旋回するとき、遠心力により車体が左方向(旋回外側)に振られるため、接地荷重が大きい旋回外輪である左車輪Wには車体外側から内側に向くサイドフォースFL が作用するとともに、接地荷重が小さい旋回内輪である右車輪Wには車体内側から外側に向くサイドフォースFR が作用する。
【0017】
旋回外輪である左車輪WにサイドフォースFL が作用すると、車軸11の前方に位置する第1ゴムブッシュジョイント15の軸線L1 に直交する方向の剛性は比較的に低いため、その第1ゴムブッシュジョイント15の位置においてナックル10は車体内側に大きく変位する。一方、車軸11の後方に位置する第3ゴムブッシュジョイント17の軸線L3 に直交する方向の剛性は比較的に高いため、その第3ゴムブッシュジョイント17の位置においてナックル10は車体内側に小さく変位する。その結果、旋回外輪である左車輪Wは実線で示すようにトーインする。このとき、第2ゴムブッシュジョイント16は車軸11の略上方に位置するため、第1ゴムブッシュジョイント15及び第3ゴムブッシュジョイント17とは逆方向に変形するが、車軸11の略上方に位置する第2ゴムブッシュジョイント16の変形はトーイン・トーアウトに殆ど影響を及ぼさない。
【0018】
旋回内輪である右車輪WにサイドフォースFR が作用すると、車軸11の前方に位置する低剛性の第1ゴムブッシュジョイント15の位置においてナックル10は車体外側に大きく変位し、車軸11の後方に位置する高剛性の第3ゴムブッシュジョイント17の位置においてナックル10は車体外側に小さく変位する。その結果、旋回内輪である右車輪Wは実線で示すようにトアウトする。この場合も、第2ゴムブッシュジョイント16は車軸11の略上方に位置するため、その変形はトーイン・トーアウトに殆ど影響を及ぼさない。
【0019】
而して、旋回に伴うサイドフォースにより左右の車輪W,Wが車両の旋回方向に転舵され、しかも遠心力により接地荷重が増加する旋回外輪が大きくトーインするために旋回時の安定性が向上する。尚、車両が左旋回する場合にも、前述と同様にして左右の車輪W,Wが車両の旋回方向に転舵され、旋回時の安定性が向上する。
【0020】
図5に示すように、制動により左右の車輪W,WにブレーキフォースFが作用すると、車軸11の前方に位置する第1ゴムブッシュジョイント15の位置においてナックル10は車体後方に変位するが、車軸11の上方及び後方に位置する第2、第3ゴムブッシュジョイント16,17の位置においてナックル10は車体後外側に斜めに変位する。その結果、左右の車輪W,Wは何れも実線位置にトーインして制動時の安定性が向上する。
【0021】
次に、図6に基づいて本発明の第2実施例を説明する。尚、図6において、前記第1実施例の部材に対応する部材には第1実施例と同じ符号が付してある。
【0022】
第2実施例は本発明をトーションビーム式サスペンションに適用したものであって、車体左右方向に配置されたアクスルビーム25の左右両端部が、同軸に配置されたサスペンションスプリング7及びダンパー8よりなる緩衝手段9により上下動自在に支持される。アクスルビーム25の左右両端部にはそれぞれ支持部18,21,23が設けられており、前端の支持部18と車体Bとがアクスルビーム25の前後動を規制するトレーリングアーム26により接続される。尚、符号27は左右の車輪W,Wの上下動の位相差により捩じれて復元力を発生するスタビライザであり、符号28はアクスルビーム25の上下方向の移動を許容しながら左右方向の移動を規制するバーナルロッドである。
【0023】
アクスルビーム25の支持部18,21,23とナックル10とが3個のゴムブッシュジョイント15,16,17により接続される。3個のゴムブッシュジョイント15,16,17の配置、構造及び剛性配分は第1実施例のそれと同一である。
【0024】
而して、この第2実施例によっても、第1実施例と同様に前後コンプライアンスの確保、旋回時の安定性の確保及び制動時の安定性の確保が可能となる。
【0025】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0026】
例えば、第1実施例のトレーリングアーム1は軸線L0 が車体左右方向に対して角度αだけ傾斜したセミトレーリングアームであるが、本発明は前記セミトレーリングアームに代えてフルトレーリングアーム(前記角度αを0°としたもの)に対しても適用することができる。また、第2ゴムブッシュジョイント16の軸線L2 は平面視で車体前後方向に配置しても良く、その軸線L2 に直交する方向の剛性も任意に設定することができる。
【0027】
【発明の効果】
以上のように、請求項1に記載された発明によれば、ナックルが弾性ブッシュを介して懸架部材に連結されているので、車輪に車体後方への衝撃が入力すると弾性ブッシュの変形によりナックルが懸架部材に対して後方に移動することができ、これにより前後コンプライアンスが確保されて乗り心地が向上する。また車軸の後方に配置した弾性ブッシュの軸直角方向の剛性を車軸の前方に配置した弾性ブッシュの軸直角方向の剛性よりも高く設定したので、車両の旋回時に車輪にサイドフォースが作用すると、車軸の前方に配置した弾性ブッシュが車軸の後方に配置した弾性ブッシュよりも大きく変形することにより、旋回外輪がトーインするとともに旋回内輪がトーアウトする。その結果、旋回外輪及び旋回内輪が何れも旋回方向に転舵されて安定性が向上する。しかも車軸の前後の弾性ブッシュの軸方向の剛性を軸直角方向の剛性よりも低く設定したので、車輪に車体後方への衝撃が入力すると弾性ブッシュが軸方向に変形して前後コンプライアンスが確保される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 左後輪の懸架装置の後面図
【図2】 図1の2−2線矢視図
【図3】 図1の3方向矢視図
【図4】 旋回時の作用説明図
【図5】 制動時の作用説明図
【図6】 第2実施例に係る、前記図3に対応する図
【符号の説明】
1 トレーリングアーム(懸架部材)
9 緩衝手段
10 ナックル
11 車軸
15 第1ゴムブッシュジョイント(弾性ブッシュ
17 第3ゴムブッシュジョイント(弾性ブッシュ)
25 アクスルビーム(懸架部材)
B 車体
1
3 軸線
W 車輪

Claims (1)

  1. 車軸(11)を介して車輪(W)を回転自在に支持するナックル(10)と、車体(B)にナックル(10)を接続する懸架部材(1,25)と、懸架部材(1,25)の上下動を緩衝する緩衝手段(9)とを備えた車両用懸架装置において、
    ナックル(10)を車軸(11)の前方及び後方に配置した少なくとも2個の弾性ブッシュ(15,17)で懸架部材(1,25)に連結するとともに前記少なくとも2個の弾性ブッシュ(15,17)の軸線(L1 ,L3 )を側面視で車体前後方向に向けて配置してなり、車軸(11)の後方に配置した弾性ブッシュ(17)の軸直角方向の剛性を車軸(11)の前方に配置した弾性ブッシュ(15)の軸直角方向の剛性よりも高く設定するとともに、前記少なくとも2個の弾性ブッシュ(15,17)の軸方向の剛性を軸直角方向の剛性よりも低く設定したことを特徴とする車両用懸架装置
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