JP3664386B2 - 植物の葉の保存処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物の葉の保存処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、バラ等の切り花を、生花と同様な外観を保持したまま長期間に渡る装飾を可能とする処理方法が、例えば特許出願公表平4−505766号公報において提案されている。
【0003】
この処理方法は、切り花の細胞組織内の水、即ち組織水を色素と共に脱水した後、ポリエチレングリコールを浸透して、組織水をポリエチレングリコールによって置換し、色素により染色を行うものであり、概ね、脱水工程、浸透工程、及び乾燥工程を順次経て切り花の処理を行うものである。
【0004】
脱水工程は、底部に分子篩を適量敷き詰め、水よりも比重の小さな脱水溶媒、例えばアセトン等の無水有機溶媒を充填した容器内に切り花を固定して行う。この工程では、切り花の組織中の水、即ち組織水は次第に脱水溶媒に溶出すると同時に脱水溶媒が組織内に移行するので、切り花の組織は、その機械的構造が維持されたまま、組織水が次第に脱水溶媒に置換されて脱水される。
【0005】
浸透工程は、浸透させるべきポリエチレングリコールを、アセトン及びセロソロブに溶解した浸透溶液を充填した容器内に切り花を固定して行い、この際、ポリエチレングリコールは、分子量の異なるものを適宜配合して使用する。この際、浸透溶液中に、例えば従来はアクリル繊維用の織物染料のような染料を混合することにより、色素がポリエチレングリコールと共に切り花の組織内に浸透して染色が行われる。
【0006】
浸透工程が所定時間経過後、浸透溶液を排出し、次の乾燥工程において乾燥を行って切り花の保存処理が完了し、このように処理された切り花を、葉と共にかご等に詰め合わせて商品とする。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
切り花と共に詰め合わせる葉は、一般に、花弁と比較して厚みがあり、また葉脈が障壁となるため、葉質(葉の厚さ、堅さ、葉色等)によっては、脱水が完全には行われず、またクロロフィル(葉緑素)の溶出も不十分となって色が完全には抜けないというような問題を生じる。
【0008】
本発明者は、従来からの脱水溶媒としてのアセトンと共に、他の候補となる溶媒の性状を鋭意検討した結果、脱水工程における浸透性と、クロロフィルの溶出力と、浸透溶液との馴染み易さ等を考慮することにより、上述したような課題を解決する植物の葉の保存処理方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために本発明では、植物の葉のみを脱水溶媒に浸漬して、その組織水を脱水した後、ポリエチレングリコールとアセトンを含む浸透溶液に浸漬して、組織水をポリエチレングリコールによって置換し、色素により染色を行う保存処理方法において、脱水溶媒は、アセトンにエチルアルコールを混合したものを使用し、色素は、緑色色素又は青色色素に黄色色素を加えたものを使用することを特徴とする植物の葉の保存処理方法を提案するものである。
【0010】
この場合、例えば緑色色素はアシッドグリーン 25 、青色色素はアシッドブルー 80 、黄色色素は、タートラジンというように食用色素を適用することができる。
【0011】
多くの化合物を溶解するアセトンは、水を良く溶解すると共に、クロロフィル(葉緑素)の溶出力も強く、また組織水を置き換えるポリエチレングリコールや染色するための色素と良く混和するため脱水溶媒及び浸透溶液を構成する溶媒として適しているが、葉は、花弁と比較して厚みがあり、また葉脈が障壁となるため、葉質によってはアセトンのみでは脱水溶媒の浸透力が不十分となる場合がある。
【0012】
そこで本発明では、脱水力はアセトンと同等であるが、浸透力がアセトンよりも高いエチルアルコールに着目し、このエチルアルコールをアセトンに混合したものを脱水溶媒として使用することにより、葉からの脱水を良好に行えるようにしたものである。
【0013】
ところが、上述したとおりクロロフィル(葉緑素)の溶出力については、エチルアルコールよりもアセトンの方が強いこと、また脱水工程に続く浸透工程においては、アセトンを含む浸透溶液を使用するという理由により、アセトンに対するエチルアルコールの混合割合を余り大きくすることは好ましくなく、20〜50%程度の範囲が適当である。しかしながらアセトンに対するエチルアルコールの混合割合は、植物の葉質に応じて適宜に設定することができる。
【0014】
クロロフィルを溶出させた葉は、アシッドグリーン25又はアシッドブルー80等の緑色色素又は青色色素に、タートラジン等の黄色色素を加えることにより、自然の葉のような緑色を再現することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明における植物の葉の保存処理方法の工程の流れを示す流れ図であり、この処理方法では、脱水工程と、浸透工程と、洗浄工程と、乾燥工程とを有し、浸透工程において染色のための色素を添加するものとしている。
【0016】
まず脱水工程では、適当な大きさ、即ち、同時に処理する葉の量に対応した大きさの脱水用容器の底部に、葉から溶出する水分を吸着するための分子篩(商品名ゼオライト)を2cm程度の厚さで敷き詰め、この脱水用容器内に葉を固定し、アセトンとエチルアルコールを等量混合したものを脱水溶媒として充填して処理を進行させた。
【0017】
以上の脱水工程を室温(20〜30℃)にて進行させ、最低で24時間処理した。脱水工程を48時間以上に延長しても特に有益な点は見いだせなかった。
以上の脱水工程を進行させる間、脱水溶媒の比重を常に比重計により測定して監視した。
ある実験において、脱水工程が進行すると、脱水溶媒の比重はゆっくりと増加するが、ある値を越えた時点から急速に上昇し、これ以降は脱水の効果が殆ど認められなくなった。
【0018】
このことから、脱水溶媒としてのアセトンとエチルアルコールの混合割合に応じて、脱水の効果が認められなくなる比重、即ち、値が急速に上昇した時点比重を、予めの実験により求めて設定しておき、脱水溶媒の比重を比重計により監視して、その比重が、設定された比重になった時点において、溶出した水分総量が分子篩の水分吸着能力を越えた時点であると推定する。そして、この時点で分子篩を新しいものと交換することにより、脱水溶媒の脱水能力を回復させて継続使用を可能とし、従って無駄な時間を生じることなく、脱水工程を進行することができる。そして交換した分子篩は、乾燥させることにより再利用することができる。
【0019】
以上の脱水工程においては、葉の細胞組織中の水、即ち組織水は次第にアセトンとエチルアルコールの脱水溶媒に溶出すると同時に、アセトンとエチルアルコールが組織内に移行するので、葉の組織は、その機械的構造が維持されたまま、組織水が次第にアセトンとエチルアルコールを混合した脱水溶媒に置換されて脱水される。
【0020】
次いで浸透工程では、浸透させるべきポリエチレングリコールを、アセトン及びセロソロブに溶解し、これに染色用の色素を添加した浸透溶液を、葉を固定した浸透用容器に充填して行った。
浸透溶液は、分子量の異なるポリエチレングリコール(例えばPEG1000とPEG400)を適宜、例えば下記の割合で混合し、これをアセトン:セロソルブ=1:1等の溶媒に溶解して作った。
浸透溶液の例
PEG1000 500 g
PEG400 100 ml
アセトン:セロソルブ=1:1の溶媒を加えて全量を1リットルとする。
以上の割合の浸透溶液は15℃以下では固まってしまうので、湯煎にかけるか、又はインキュベータに入れる等により、固化温度以上、例えば25〜35℃程度の処理温度に維持して、24時間ほど処理することにより、最適な浸透効果が得られた。
理論的には、浸透処理を高温で行うことにより処理時間の短縮が期待できるが、実際の実験結果では50℃で12時間の処理を行ったものよりも、室温(20〜30℃)で24時間処理したものの方がポリエチレングリコールの浸透は均一であった。
【0021】
浸透工程において添加した染色用の色素の例
植物の葉で見られる自然な緑色を再現するために、次のような色素を用いた。 まず、緑色色素であるアシッドグリーン25(acid green 25)では、自然でない青みが残るため、このアシッドグリーン25を基本色素として、これに黄色色素であるタートラジン(tartrazine)を加えることにより、植物の葉で見られる自然な緑色を再現することができた。
緑色色素としては、上記アシッドグリーン25に代えて、青色色素であるアシッドブルー80(acidblue 80)を基本色素とし、これに黄色色素であるタートラジンを加えることによっても、植物の葉で見られる自然な緑色を再現することができた。
【0022】
この実施の形態では、色素は、浸透溶液にのみ加えて、浸透工程においてのみ染色を行っているが、浸透溶液に加えて、脱水溶媒にも色素を加えて、脱水工程と浸透工程のいずれにおいても染色を行うようにすることができる。
【0023】
次に洗浄工程では、浸透工程を経た切り花を、浸透工程の溶媒と同様に、アセトン:セロソルブ=1:1の溶媒中に所定時間、例えば2〜8時間の間、浸漬して、洗浄を行った。
この場合、葉を、必要以上長い時間溶媒中に浸漬すると、浸透工程において葉の細胞の組織内に浸透したポリエチレングリコール自体も流出してしまうため、時間管理が必要となる。この時間管理は、葉の種類や大きさ等を条件として予めの実験により得られるデータをもとに浸漬時間を設定すれば良い。
【0024】
上記洗浄工程の後は、上述した従来の技術に記載されるような適宜の乾燥工程を経て葉を乾燥させることにより、自然の葉と同様な外観を保持したまま長期間に渡る装飾を可能とする葉の製品を得ることができ、これを切り花と共にかご等に詰め合わせて商品とすることができる。
【0025】
【発明の効果】
本発明は以上のとおりであるので、次のような効果がある。
a.脱水力はアセトンと同等であるが、浸透力がアセトンよりも高いエチルアルコールに着目し、このエチルアルコールをアセトンに混合したものを脱水溶媒として使用することにより、葉からの脱水を良好に行え、しかもアセトンのクロロフィル溶出力を有効に利用することにより、脱水とクロロフィルの溶出を良好に行うことができる。
b.クロロフィルを溶出させた葉は、アシッドグリーン25又はアシッドブルー80等の緑色色素又は青色色素に、タートラジン等の黄色色素を加えることにより、自然の葉のような緑色を再現することができる。
c.こうして、染色むらがなく、自然な色合いで長期保存が可能な葉を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明における切り花の保存処理方法の工程の流れの実施の形態を示す流れ図である。

Claims (4)

  1. 植物の葉のみを脱水溶媒に浸漬して、その組織水を脱水した後、ポリエチレングリコールとアセトンを含む浸透溶液に浸漬して、組織水をポリエチレングリコールによって置換し、色素により染色を行う保存処理方法において、脱水溶媒は、アセトンにエチルアルコールを混合したものを使用し、色素は、緑色色素又は青色色素に黄色色素を加えたものを使用することを特徴とする植物の葉の保存処理方法
  2. 緑色色素は、アシッドグリーン25である請求項1に記載の植物の葉の保存処理方法
  3. 青色色素は、アシッドブルー80である請求項1に記載の植物の葉の保存処理方法
  4. 黄色色素は、タートラジンである請求項1に記載の植物の葉の保存処理方法
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