JP3702996B2 - 切り花の保存処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、切り花の保存処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、バラ等の切り花を、生花と同様な外観を保持したまま長期間に渡る装飾を可能とする処理方法が、例えば特許出願公表平4−505766号公報において提案されている。
この処理方法は、切り花の細胞組織内の水、即ち組織水を脱水した後、ポリエチレングリコールを浸透して、組織水をポリエチレングリコールによって置換し、必要に応じて染色を行うものであり、概ね、図2に示すように、脱水工程、浸透工程、及び乾燥工程を順次経て切り花の処理を行うものである。
【0003】
脱水工程は、底部に分子篩を適量敷き詰め、水よりも比重の小さな溶媒、例えばアセトン等の無水有機溶媒を充填した容器内に切り花を固定して行う。
この工程では、切り花の組織中の水、即ち組織水は次第に溶媒に溶出すると同時に溶媒が組織内に移行するので、切り花の組織は、その機械的構造が維持されたまま、組織水が次第に溶媒に置換されて脱水される。
【0004】
浸透工程は、浸透させるべきポリエチレングリコールを、アセトン及びセロソロブに溶解した浸透溶液を充填した容器内に切り花を固定して行い、この際、ポリエチレングリコールは、分子量の異なるものを適宜配合して使用する。
この際、浸透溶液中に、例えばアクリル繊維用の織物染料のような染料を混合することにより、染料がポリエチレングリコールと共に切り花の組織内に浸透して染色が行われる。
【0005】
浸透工程が所定時間経過後、浸透溶液を排出した後、次の乾燥工程において乾燥を行って、切り花の商品となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の技術では、以下に示すような課題がある。
a.まず、従来技術においては、切り花の種類によっては、染色が均一に行われず、染色のむらが生じる場合があり、この場合には、切り花の商品価値を著しく下げてしまう。
本発明者が鋭意実験して考察した結果、染色のむらが起こる原因は浸透溶液の花弁細胞組織への浸透が、花弁の部分によって不均一なためとの知見を得た。
即ち、脱水工程において細胞組織内の水がアセトン等の無水有機溶媒で置換された後、浸透工程では、その溶媒がポリエチレングリコールを含む浸透溶液で置換されるのであるが、それらの置換速度は細胞組織毎に異なっている。
そのため、浸透工程が所定時間経過した時点において、置換速度が速い細胞組織では、すぐに溶媒が浸透溶液で置換されて、その中に添加されている色素で染色されるが、置換速度が遅い細胞組織では、溶媒と置換された浸透溶液の割合が低いため、色が薄くなる。
【0007】
b.また従来技術においては、脱水工程に関して次のような課題がある。
即ち、上述したように、脱水工程において切り花から溶媒に溶出した水分は、溶媒の比重よりも大きいため、アセトンの比重は溶出した水分により次第に上昇する傾向にある。
分子篩が新しいうちは、溶出した水分の大部分は分子篩に吸着されるため、水分含有量に対応する比重が大幅に上昇することはなく、溶媒による脱水作用が持続する。
しかしながら脱水工程が進行し、溶出した水分の総量が分子篩の水分吸着能力を超えると、吸着されずに残る水分により、溶媒の比重は急激に上昇し、溶媒の脱水能力は急速に失われてしまう。
従来は、このような脱水能力の監視を行っていないため、溶媒の脱水能力が失われているにもかかわらずそのまま脱水工程を進行させてしまう場合があり、効率的な脱水処理が困難である。
【0008】
c.次に、従来の技術では、浸透工程後の切り花を、そのまま乾燥工程において乾燥させるので、次のような課題がある。
即ち、浸透溶液の成分中、アセトンとセロソルブは揮発性であるため、乾燥工程において大気中に拡散するが、高分子物質であるポリエチレングリコールは、そのまま花弁の外側表面に付着状態で残る。
このように花弁の外側表面に付着状態で残ったポリエチレングリコールは、ある湿度以上の場合、大気中の水分を吸収して、触るとべとつくようになるので、このような現象がおこると切り花の商品価値を著しく下げてしまう。
しかしながら、従来は、このような点に対しての対策がなされていない。
本発明は以上のような課題を解決することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために本発明では、まず請求項1に示すように、切り花の組織水を溶媒を用いて脱水する脱水工程と、脱水後にポリエチレングリコールを浸透して、組織水をポリエチレングリコールによって置換する浸透工程を有する切り花の保存処理方法において、染色のための色素を、浸透工程における浸透溶液に添加すると共に、脱水工程における溶媒にも添加するものとした切り花の保存処理方法を提案する。
【0010】
また本発明では請求項2に記載のとおり、上記構成において、脱水工程は、底部に分子篩を適量敷き詰め、水よりも比重の小さな溶媒を充填した容器内に切り花を固定して行うものとし、この工程においては、溶媒の比重の測定により、脱水の進行による脱水能力を監視して、分子篩の交換時点を検出するものとした切り花の保存処理方法を提案する。
【0011】
また本発明では請求項3に記載のとおり、以上の各構成において、浸透工程で組織水がポリエチレングリコールによって置換された切り花を、ポリエチレングリコールを含まない溶媒により洗浄する洗浄工程を設けることを提案する。
【0012】
また本発明では請求項4に記載のとおり、以上の構成において、脱水工程の溶媒はアセトンとし、また請求項5に記載のとおり、以上の構成において、浸透工程と洗浄工程における溶媒は、アセトンとセロソルブの混合溶媒とすることを提案する。
【0013】
請求項1記載の発明では、脱水工程において水と置換された細胞組織内の溶媒に色素が添加されているため、浸透工程において色素を添加して染色を行う際、浸透溶液との置換速度が遅く、溶媒と置換された浸透溶液の割合が低い花弁の部分であっても、色素の濃度は変わらないため、染色むらを避けることができる。
【0014】
請求項2記載の発明では、溶媒の比重の測定により、溶媒の脱水能力を監視することができ、比重が急速に上昇する時点を検出して、その時点で分子篩を新しいものと交換することにより、溶媒の脱水能力を回復させ、継続使用を可能とする。
一方、交換した分子篩は、乾燥させることにより再利用することができる。
【0015】
請求項3記載の発明では、浸透工程後に花弁の外側表面に付着状態で残留したポリエチレングリコールを、溶媒によって洗い落とすことができ、花弁の外側表面の余剰なポリエチレングリコールを取り除くことにより、乾燥工程後のべとつきの発生を防止することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明における切り花の保存処理方法の工程の流れを示す流れ図であり、この処理方法では、脱水工程と、浸透工程と、洗浄工程と、乾燥工程とを有し、脱水工程と浸透工程において染色のための色素を添加するものとしている。
まず脱水工程では、上記従来技術と同様に、適当な大きさ、即ち、同時に処理する切り花の量に対応した大きさの脱水用容器の底部に、花弁から溶出する水分を吸着するための分子篩(商品名 ゼオライト)を2cm程度の厚さで敷き詰め、この脱水用容器内に切り花を固定し、脱水用の溶媒として、水よりも比重の小さな溶媒、この例では100%アセトンを充填して処理を進行させた。
この際、本発明では、所望の染色のための色素を溶媒に添加した。添加した色素と、その濃度の例は後述する浸透工程におけるものと同様としており、後述する。
以上の状態における脱水工程を室温(20〜30℃)にて進行させ、最低で24時間処理した。脱水工程を48時間以上に延長しても特に有益な点は見いだせなかった。
以上の脱水工程を進行させる間、溶媒の比重を常に比重計により測定して監視した。
ある実験において、脱水工程を進行させると、溶媒であるアセトンの比重は、100%アセトンの0.78からゆっくりと増加するが、0.82を越えた時点から急速に上昇し、比重0.85となると脱水の効果は殆ど認められなかった。
このことから、この実験の条件では、溶媒の比重が0.82になった時点の前後において、溶出した水分総量が分子篩の水分吸着能力を越えた時点であると推定できる。
従って、この時点で分子篩を新しいものと交換すれば、溶媒の脱水能力を回復させて継続使用を可能とし、従って無駄な時間を生じることなく、脱水工程を進行することができる。そして交換した分子篩は、乾燥させることにより再利用することができる。
【0017】
以上の脱水工程においては、切り花の細胞組織中の水、即ち組織水は次第にアセトンに溶出すると同時に、アセトンが、溶解している色素と共に組織内に移行するので、切り花の組織は、その機械的構造が維持されたまま、組織水が次第にアセトンに置換されて脱水される。そして組織水と置換された切り花の組織内のアセトンには所定濃度の色素が添加されているため、細胞の組織は色素により染色された状態となる。
【0018】
次いで浸透工程では、浸透させるべきポリエチレングリコールを、アセトン及びセロソロブに溶解した浸透溶液を、切り花を固定した浸透用容器に充填して行った。
浸透溶液は、分子量の異なるポリエチレングリコール(例えばPEG1000とPEG400)を適宜、例えば下記の割合で混合し、これをアセトン:セロソルブ=1:1等の溶媒に溶解して作り、これに脱水工程において溶媒に添加したものと同じ色素を、所定の濃度となるように添加した。
浸透溶液の例
PEG1000 500 g
PEG400 100 ml
アセトン:セロソルブ=1:1の溶媒を加えて全量を1リットルとする。
以上の割合の浸透溶液は15℃以下では固まってしまうので、湯煎にかけるか、又はインキュベータに入れる等により、固化温度以上、例えば25〜35℃程度の処理温度に維持して、24時間ほど処理することにより、最適な浸透効果が得られた。
理論的には、浸透処理を高温で行うことにより処理時間の短縮が期待できるが、実際の実験結果では50℃で12時間の処理を行ったものよりも、室温(20〜30℃)で24時間処理したものの方がポリエチレングリコールの浸透は均一であった。
脱水工程及び浸透工程において添加した色素の例
例1. 色素名:メチルレッド(methyl red)
色 :朱赤
濃度 :3(g/l)
例2. 色素名:タートラジン(tartrazine)
色 :黄
濃度 :1(g/l)
例3. 色素名:アシッドグリーン25(acid green 25)
色 :緑
濃度 :2(g/l)
例4. 色素名:アシッドブルー80(acid blue 80)
色 :青
濃度 :2(g/l)
以上の色素は固体(粉末)であり、濃度は、脱水用の溶媒及び浸透溶液に対する濃度である。
以上の色素は、切り花を原色に染色する場合に夫々単独で用いるが、中間色に染色する場合には、これらの色素を適宜混合すれば良い。
【0019】
以上の浸透工程においては、脱水工程において組織水と置換された細胞組織内のアセトンが、ポリエチレングリコールを含む浸透溶液で置換されるのであるが、その速度は細胞組織毎に異なっている。即ち、置換速度が速い細胞組織ではアセトンがすぐに浸透溶液に置換されるが、置換速度が遅い細胞組織では十分な時間が経過しないとアセトンが浸透溶液に置換されずに細胞組織内に残留してしまう。
このため、浸透溶液にのみ色素を添加し、浸透工程においてのみ染色を行う従来の技術では、浸透工程の処理時間を、全ての細胞組織についてアセトンが浸透溶液に置換されるまでの十分に長い時間としないと、置換速度が遅い細胞組織では、残留するアセトンの分に対応して、細胞組織内に移行する色素の量が減るため、この細胞組織の色素の濃度が低く、従って色が薄くなり、これが染色むらとなっていた。
換言すると、従来の技術において染色のむらが起こる原因は浸透溶液の細胞組織への浸透が部分によって不均一なため、即ち、切り花の花弁の部位によって浸透するポリエチレングリコールの量に差があるということでもある。
これに対して、本発明では、脱水用のアセトンにも色素を添加しているため、組織水と置換された細胞組織内のアセトン自体にも色素が含まれていることになり、置換速度が遅い細胞組織においてアセトンが残留しても、細胞組織内の色素の濃度が変わらないため、染色むらを避けることができる。
但し、脱水工程での色素添加を行う本発明は、染色むらを避けることはできるが、細胞組織の部位による置換速度を速くするものではないから、浸透工程における処理時間は、ポリエチレングリコールの浸透量の不均一による切り花の歪みや部分的な乾燥し過ぎ等の不具合の発生の可能性と、染色を行う切り花の生産性との兼ね合いで決定する必要がある。
即ち、一般的には、染色むらがある製品と、ポリエチレングリコール浸透量が、ある程度不均一ではあるが染色は均一にされている製品を比較した場合、染色むらのある製品の方の評価は著しく低くなるため、ポリエチレングリコールのある程度の不均一さによる影響が実用上無害の場合には、本発明を適用すると、浸透工程における処理時間を延すことなく染色むらを避けることができるため生産性を低下させないという利点がある。
尚、脱水工程における色素の濃度は、浸透工程における色素の濃度と同じか、またやや低い濃度とすることが好適である。
【0020】
次に洗浄工程では、浸透工程を経た切り花を、浸透工程の溶媒と同様に、アセトン:セロソルブ=1:1の溶媒中に所定時間、例えば2〜8時間の間、浸積して、洗浄を行った。
この場合、切り花を、必要以上長い時間溶媒中に浸積すると、浸積工程において花弁の細胞の組織内に浸透したポリエチレングリコール自体も流出してしまうため、時間管理が必要となる。この時間管理は、切り花の種類や大きさ等を条件として予めの実験により得られるデータをもとに浸積時間を設定すれば良い。
【0021】
洗浄工程の後は、上述した従来の技術に記載されるような適宜の乾燥工程を経て切り花を乾燥させることにより、生花と同様な外観を保持したまま長期間に渡る装飾を可能とする切り花の製品を得ることができる。
【0022】
【発明の効果】
本発明は以上のとおりであるので、次のような効果がある。
a.請求項1の発明では、浸透工程における処理時間を延長することなく、染色むらを避けることができ、生産性を低下させることがない。
b.請求項2の発明では、脱水工程において、溶媒の脱水能力が失われているにもかかわらずそのまま脱水工程を進行させてしまうことがなくなり、従って、無駄な時間を生じることなく脱水工程を進行させて、効率的な脱水処理が可能となる。
c.請求項3の発明では、浸透工程後に花弁の外側表面に付着状態で残留したポリエチレングリコールを溶媒によって洗い落とすことができ、花弁の外側表面の余剰なポリエチレングリコールを取り除くことにより、乾燥工程後のべとつきの発生を防止することができ、製品の商品価値を格段に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明における切り花の保存処理方法の工程の流れの実施の形態を示す流れ図である。
【図2】 従来における切り花の保存処理方法の工程の流れ図である。
Claims (5)
- 切り花の組織水を溶媒を用いて脱水する脱水工程と、脱水後にポリエチレングリコールを浸透して、組織水をポリエチレングリコールによって置換する浸透工程を有する切り花の保存処理方法において、染色のための色素を、浸透工程における浸透溶液に添加すると共に、脱水工程における溶媒にも添加することを特徴とする切り花の保存処理方法
- 脱水工程は、底部に分子篩を適量敷き詰め、水よりも比重の小さな溶媒を充填した容器内に切り花を固定して行うものとし、この工程においては、溶媒の比重の測定により、脱水の進行による脱水能力を監視して、分子篩の交換時点を検出することを特徴とする請求項1に記載の切り花の保存処理方法
- 浸透工程において組織水がポリエチレングリコールによって置換された切り花を、ポリエチレングリコールを含まない溶媒により洗浄する洗浄工程を設けたことを特徴とする請求項1記載の切り花の保存処理方法
- 脱水工程における溶媒はアセトンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の切り花の保存処理方法
- 浸透工程と洗浄工程における溶媒は、アセトンとセロソルブの混合溶媒としたことを特徴とする請求項1又は3に記載の切り花の保存処理方法
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