JP3643394B2 - 野菜の冷凍保存方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、胡瓜、茄子、キャベツ、白菜、野沢菜、大根等のような従来の冷凍保存方法では野菜の細胞が破壊されて市場性を失うものを、特殊な処理を施した原料野菜を適切に冷凍処理することにより冷凍保存を可能にし、浅漬けやサラダ等の原料として冷凍保存するための方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
既に市販されている胡瓜等の浅漬け用の野菜は、塩分3%〜5%程度に漬け込み、調味料を添加して数時間漬け込んで出荷されており、歯応えがあり、緑色の鮮やかな色調を有する新鮮さを備えた食物繊維としての位置付けから、年々その出荷量が増大してきている。一方、サラダの原料としては、野菜をカットし、殺菌、除菌をした後、出荷されている。
【0003】
従って、上記製品や生野菜は、消費者にそれなりの満足を与えていると云えるものであるが、保存期間が出荷後1週間程度であるため貯蔵性がまったくなく、その市場性を推し量りながら生産出荷しなければならないのが現状である。そのため、原料野菜の作付け変化、天候、産地の時期移動による品質、価格の不安定要因、また、冬期の生産におけるビニールハウス内で燃焼加温することによるコストの高騰等、年間効率的に安定した生産、販売を行うことが極めて困難であり、生鮮な野菜を貯蔵することが急務となっている。
【0004】
そこで、上記従来のサラダや浅漬けを冷凍保存しようとする試みがなされている。しかし、通常、上記原料野菜は凍結時に細胞内に氷結晶を発生するため、解凍後、その組織に氷結晶大の裂傷を招き、このことが解凍された野菜のドリップの発生、歯応えの悪化、鮮度の急速な低下を引き起こしている。このため、従来の窒素ガス急速冷凍技術や、高濃度の塩類によって細胞内の水分を除いた後に冷凍する方法によっても完全なものは得られていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の従来技術における問題点に鑑みて検討されたもので、従来におけるような野菜、漬物等を単に急速冷凍処理するのではなく、原料野菜の細胞内の脱水、および水分子の結晶化を阻止する物質の添加によって野菜の冷凍保存を可能にする方法を提供しようとするものである。
【0006】
本発明はまた、凍結処理による氷結晶の成長を抑制し、細胞膜、細胞壁、細胞内器官の破壊を防止すると共に、解凍後、後工程なしに浅漬けの原料として使用でき、また、細胞内外に補水することによりその形質を復元し、サラダ等の原料野菜としても使用できる野菜の冷凍保存方法を提供し、もって、人類に必要不可欠な新鮮野菜の冷凍保存出荷の幅を大きく広げ、人類食生活の安定を得ることを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明による野菜の冷凍保存方法は、野菜類に単糖、二糖、オリゴ糖および糖アルコールから選定された少なくとも1つと多糖類とを添加して数時間浸漬する第1工程と、第1工程終了後の野菜類を急速冷凍処理する第2工程と、第2工程によって急速冷凍された野菜類を冷凍環境下で貯蔵する第3工程とから構成される。
【0008】
本発明による野菜の冷凍保存方法は、前記第1工程において塩類を併用して添加することもできる。
【0009】
本発明において適用できる単糖としてはブドウ糖、果糖、キシロース、ガラクトース等があり、二糖としてはトレハロース、ショ糖、乳糖、キトビオース、麦芽糖等があり、オリゴ糖としてはフラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、ラフィノース等があり、そして糖アルコールとしてはソルビトール、マンニトール等がある。また、多糖類としてはデキストリン、デキストラン等を適用することができる。
【0010】
【作用】
第1工程において、単糖、二糖、オリゴ糖および糖アルコールのうちの少なくとも1つと多糖類は野菜の細胞内の水分を脱水し、同時に氷結晶抑止物質として細胞の内外に充填される。これにより細胞内外の物質濃度はほぼ均一となる。
【0011】
第2工程においては、第1工程における脱水作用により生じた遊離水を除去した後、野菜を液体窒素等によって急速冷凍処理する。このとき、細胞内の水分は除去され、氷結晶抑止物質が細胞内外に充填されているため、大きな氷結晶が生成されることはなく、細胞膜、細胞壁、さらには細胞内器官に裂傷が生じるのを防止する。そのため、第2工程における急速冷凍処理によって冷凍された原料野菜は、次続する第3工程における冷凍環境下での貯蔵に際し、細胞膜、細胞壁、細胞内器官の裂傷を顧慮することなしに保存することが可能となる。
【0012】
従って、細胞膜、細胞壁、細胞内器官の裂傷を生じることなしに冷凍保存の環境に導入された冷凍原料野菜は、従来の野菜の急速冷凍保存技術の場合とは異なり、冷凍障害をまったく受けることなく、その品質が保たれた状態で保存されることになる。
【0013】
このように冷凍保存された原料野菜は、漬物業者にとって、これを解凍した後ただちに消費者の嗜好に応じた調味料等を添加することにより、従来の新鮮野菜を原料とした浅漬けとまったく同一品質のものを供給できることになる。また、惣菜業者にとっては、上述の如く解凍した野菜の細胞内に水分を補い、糖類や塩類を外へ出すことにより、サラダの原料としての品質を回復し、消費者等に供給できることになる。
【0014】
【実施例】
以下、実施例により本発明による野菜の冷凍保存方法についてより詳細に説明する。
【0015】
本発明の実施にあたって、野菜はどのような種類のものにも適用可能であり、一方、氷結晶抑止物質として添加するものとしては単糖と多糖類との組合せ、糖アルコールと多糖類との組合せ、単糖と糖アルコールと多糖類との組合せ等のような種々な組合せ、あるいはそれらの組合せに塩類を追加して組み合わせて適用することが可能である。また、使用できる単糖としてブドウ糖、果糖、キシロース、ガラクトース等、二糖としてトレハロース、ショ糖、乳糖、キトビオース、麦芽糖等、オリゴ糖としてフラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、ラフィノース等、糖アルコールとしてソルビトール、マンニトール等、多糖類としてデキストリン、デキストラン等を挙げることができる。
【0016】
以下に述べる実施例においては、凍結に対する耐性がまったくない胡瓜を原料野菜として使用した。一方、添加するものとしては糖アルコールと多糖類との組合せおよび糖アルコールと多糖類と塩類との組合せを採用し、糖アルコールとしてソルビトールを、多糖類としてデキストリンをそれぞれ使用した。
【0017】
《 実施例 1 》
* 第1工程 *
1本100g程度の胡瓜を選定し、容積50リットルの樹脂製容器5個がそれぞれ一杯となるまで入れた。各容器の胡瓜の総重量に対して0,5,10,15,20重量%のソルビトールをそれぞれの容器に添加した(このとき、塩類およびデキストリンの添加量は0重量%)。次いで、各容器に重しを乗せ、10℃以下の低温環境下で約24〜48時間放置した。
【0018】
* 第2工程 *
容器を倒立して第1工程によって生じた遊離水を除去した後、胡瓜を容器から取り出して液化窒素連続フリーザー内に置き、液化窒素ガスを放出して−100℃で約10〜30分間急速冷凍した。
【0019】
* 第3工程 *
第2工程により急速冷凍された胡瓜を約10kgづつダンボール箱に入れてエアーブラストフリーザー内に置き、−20℃以下の冷凍環境下で貯蔵した。
【0020】
第3工程により冷凍貯蔵された胡瓜を貯蔵後一ヶ月後に取り出し、室温により解凍し、歯応え、色調、味覚の3点について評価した。その結果を別表1に示す。なお、歯応え、色調、味覚についての評価はそれぞれ次のような基準に従って行った。
【0021】
「歯応え」については、ゼリー強度試験を行い、
3.5 kg 以下 ◎ (処理前とほとんど同等)
3.0 〜 3.5 kg ○ (僅かの劣化)
2.5 〜 3.0 kg △ (感知し得る程度の劣化)
2.5 kg 以下 × (商品性なし)
とした。
【0022】
「色調」については、処理前を色差基準0として、
0 〜 0.5 ◎ (極めて僅かな変色)
0.5 〜 1.5 ○ (僅かな変色)
1.5 〜 3.0 △ (感知し得る程度の変色)
3.0 以下 × (商品性なし)
【0023】
「味覚」については、30人の人にそれぞれ試食して貰い、
処理前と同等と感じたもの 3 点
僅かでも味の低下を感じたもの 2 点
商品価値の限界にあると感じたもの 1 点
商品価値なしと感じたもの 0 点
として、それぞれ採点されたものの平均値が、
2.6 〜 3 点 ◎
1.8 〜 2.6 点 ○
1.0 〜 1.8 点 △
1.0 点 以下 ×
とした。
【0024】
また、表中の「総合評価」については、歯応え、色調、味覚のそれぞれについての評価が、いずれも「◎」であった場合だけを“最適な実施形体”であると評価して「優」、いずれかに「○」があった場合は“良好な実施形体”であると評価して「良」、いずれかに「△」があった場合は“適用可能な実施形体”であると評価して「可」、そして、いずれかに「×」があった場合はすべて“商品性なし”であると評価して「不適」とした。
【0025】
《 実施例 2 》
実施例1と同様に、1本100g程度の胡瓜を容積50リットルの樹脂製容器5個に入れ、各容器の胡瓜の総重量に対して0,5,10,15,20重量%のソルビトールと、5重量%のデキストリンをとそれぞれの容器に添加した(このとき、塩類の添加量は0重量%)。次いで、各容器に重しを乗せ、10℃以下の低温環境下で約24〜48時間放置した。その後、実施例1の第2工程および第3工程の冷凍処理を行って保存した。
【0026】
第1実施例と同様に、貯蔵後一ヶ月後に取り出し、室温により解凍し、歯応え、色調、味覚の3点について評価した。その結果を別表1に示す。
【0027】
《 実施例 3〜5 》
第2実施例で使用したデキストリンの添加量を10重量%、15重量%、20重量%にそれぞれ変更した以外、第2実施例と同様にそれぞれ行われた。その結果を別表1にそれぞれ示す。
【0028】
《 実施例 6〜10 》
第1〜第5実施例の第1工程で添加するものとして、5重量%の塩類を追加して使用した以外、第1〜第5実施例とそれぞれ同様にそれぞれ行われた。それらの結果を別表2にそれぞれ示す。
【0029】
《 実施例 10〜15 》
第1〜第5実施例の第1工程で添加するものとして、10重量%の塩類を追加して使用した以外、第1〜第5実施例とそれぞれ同様にそれぞれ行われた。それらの結果を別表3にそれぞれ示す。
【0030】
第1〜第5実施例の第1工程で添加するものとして、15重量%の塩類を追加して使用した以外、第1〜第5実施例とそれぞれ同様にそれぞれ行われた。それらの結果を別表4にそれぞれ示す。
【0031】
第1〜第5実施例の第1工程で添加するものとして、20重量%の塩類を追加して使用した以外、第1〜第5実施例とそれぞれ同様にそれぞれ行われた。それらの結果を別表5にそれぞれ示す。
【0032】
上述した実施例において総合評価が「優」であった胡瓜の細胞内外の状態を観察したところ、ソルビトールが細胞内に浸透しており、一方、デキストリンは細胞の回りを取り囲むように付着しており、細胞内に氷結晶は認められなかった。これは、多糖類が細胞の回りを取り囲んで細胞内の水分を吸い出すと共に細胞全体を保護し、単糖、二糖、オリゴ糖または糖アルコール(場合によってはそれらに加えて塩類)が細胞内に浸透して細胞膜、細胞壁、細胞内器官の破壊を防止しているためと推考される。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、別表1〜5に示されるように、少なくとも糖アルコールと多糖類とを併用して添加する、または単糖、二糖、オリゴ糖または糖アルコールのうちの1つ以上と多糖類とを併用して添加することにより、野菜の凍結による細胞内の組織破壊や裂傷を防止することができ、長期に渡る冷凍保存を可能にすることによって野菜の安定供給を確保できるものである。
【0034】
また、塩類を少量添加することにより、高価な単糖、二糖、オリゴ糖、糖アルコールまたは多糖類の添加量を少なくすることができ、より安価に冷凍保存することができるものである。
【0035】
更に、添加する塩類の量を0またはほんの少量に抑えることにより、解凍後の野菜中の塩分含有量を0または小さくすることができるため、解凍後、脱塩処理を行うことなく、そのまま原料野菜として使用することができる。
【表1】
Figure 0003643394
【表2】
Figure 0003643394
【表3】
Figure 0003643394
【表4】
Figure 0003643394
【表5】
Figure 0003643394

Claims (2)

  1. 未加工状態の野菜類に単糖、二糖、オリゴ糖および糖アルコールから選定された少なくとも1つとデキストリンおよび/またはデキストランとを添加して数時間浸漬する第1工程と、第1工程終了後の野菜類を急速冷凍処理する第2工程と、第2工程によって急速冷凍された野菜類を冷凍環境下で貯蔵する第3工程とからなることを特徴とする野菜の冷凍保存方法。
  2. 未加工状態の野菜類に塩類と単糖、二糖、オリゴ糖および糖アルコールから選定された少なくとも1つとデキストリンおよび/またはデキストランとを添加して数時間浸漬する第1工程と、第1工程終了後の野菜類を急速冷凍処理する第2工程と、第2工程によって急速冷凍された野菜類を冷凍環境下で貯蔵する第3工程とからなることを特徴とする野菜の冷凍保存方法。
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