JP3629527B2 - Nb3Al化合物系超電導線材の製造方法及びその方法により得られる超電導線材 - Google Patents
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- Y02E40/60—Superconducting electric elements or equipment; Power systems integrating superconducting elements or equipment
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Nb3 Al化合物系超電導線材の製造方法に関し、特にNb3 Al化合物系超電導線材外周への強固な安定化材層の付与を含む製造方法及びそれにより得られた超電導線材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Nb3 Al化合物系超電導線材は、超電導線材として一般的なNb3 Sn及びNbTiに比較して、高磁界における臨界電流密度特性に優れているため、物性研究用の高磁界NMRマグネット等の超電導材料として実用化が期待されている。Nb3 Al化合物系超電導線材は、一般に、NbまたはNb合金とAlまたはAl合金からなる複合材を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したシングル線材を複数本組み合わせ、それらの外周を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したマルチ構造を有しており、いかに述べる製法により、線材中にNb3 Al化合物を生成させ、所定の超電導特性を得られるようにしている。
【0003】
Nb3 Al化合物系超電導線材の製法の主なものは現在のところ、拡散法と急熱急冷・変態法の2つである。拡散法はNbとAlを所定の組成で複合し、相互の拡散距離をサブミクロンオーダーまで小さくした後、600〜1050℃位の条件で加熱処理し、固相拡散によりNb3 Al化合物を生成させる方法である(「ジェリーロール法Nb3 Al超電導線材の開発」、住友電気、第139号(1991))。もう一つの急熱急冷・変態法は、やはり所定の組成で複合した線材を1500℃以上まで加熱し、即座に急冷することでNb−Al過飽和固溶体を生成させ、その後600〜1050℃位の温度で再度加熱処理することでNb3 Al相を析出させる方法である(特公平6−44427号、科学技術庁金属材料技術研究所)。
【0004】
ところで、Nb3 Al化合物は1500℃以上もの高温でのみ安定な化合物で、それ以下の温度では化学量論組成からのずれが大きくなるため、臨界電流密度をはじめとする線材特性が低下してしまうという欠点がある。前者の拡散法による線材の場合、加熱処理温度が低いため化学量論組成からのずれにより、高磁界NMRマグネット等への応用を想定した場合、20T以上もの高磁界での臨界電流密度が低く要求特性を満たすことができない。
【0005】
従って、高磁界NMRマグネット用導体などへの適用を考えた場合、現在の諸金属系超電導線材のなかでは、後者の急熱急冷・変態法による線材が唯一の材料となっている。
【0006】
従来の急熱急冷・変態法による製法は、例えば、ジェリーロール法による場合、次のようである。NbまたはNb合金シートとAlまたはAl合金シートを積層密巻きしたのちNbまたはNb合金パイプに詰め、押出加工や伸線加工を経てシングル線を作製する。このシングル線作製においては密巻き時の芯棒は使用しても、使用しなくても構わない。次にシングル線を複数本使用して、再度NbまたはNb合金パイプに組み込み、押出や伸線を経て母材となるNb/Al複合マルチ線材を得る。複合マルチ線材組み込み時においては、Nb/Al複合シングル線以外に、NbまたはNb合金からなるダミー線材を組み合わせて組み込むことも行われている。このNb/Al複合マルチ線材を急熱急冷してNb−Al過飽和固溶体を生成させ、その後変態熱処理を加えてNb3 Al化合物を析出させる。
【0007】
また、従来法における母材用シングル線材の作製法においては、上記に示したジェリーロール法以外にも、NbまたはNb合金パイプにAlまたはAl合金棒を挿入して押出や伸線により作製する方法や、この逆にAlまたはAl合金パイプにNbまたはNb合金棒を挿入して押出や伸線により作成する方法がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
超電導線材を超電導マグネット用導体として使用する場合、運転中のクエンチ時にも線材を焼損しないように、線材の最外周には安定化材層を付与する必要がある。しかし、急熱急冷・変態法で作製した線材は、急熱急冷処理時に線材温度が1,500℃以上になり、例えば、銅(Cu)の融点の1,083℃を超えてしまうために予め安定化材としての銅を表面に付与しておくことができない。従って、急熱急冷・変態法Nb3 Al線材においては線材に安定化材層が複合化されておらず、線材表面はNbで構成されている。
【0009】
ところで、従来の実用超電導線材であるNb−Ti線材やNb3 Sn線材では、CuとNbもしくはNb基合金の複合体を大きな(変形率106 程度)伸線加工を加えることで、Nb表面の酸化膜を破壊して、良好なCu/Nb接合を得ている。
【0010】
一方、急熱急冷処理後に銅を複合化する場合、Nb表面の強固な酸化皮膜のために複合化することが非常に困難である。さらには、空気中や水中においては、Nb表面に直ちに酸化皮膜が生成してしまう。Nb−Ti線材やNb3 Sn線材のように強加工により複合化することも困難である。このような理由から、例えば、電気メッキ等によって線材表面に銅を付与しても、被覆層と線材間の密着性が乏しく、マグネット作製時におけるコイル巻などにおいて簡単に剥離してしまう。
【0011】
そこで本発明の目的は、前述した従来技術の欠点を解消し、いわゆる急熱急冷・変態法においても密着性に優れた安定化材層を複合化できるNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法とその方法により得られた線材を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明では、NbまたはNb合金とAlまたはAl合金からなる複合材を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したシングル線材を複数本組み合わせ、それらの外周を高融点金属またはその合金からなるマトリックスで囲繞したマルチ線材を、所定温度以上に通電加熱後直ちに冷却しNb−Al過飽和固溶体を生成させ、次いで再度熱処理することによりNb3 Al相を析出させる、Nb3 Al化合物系超電導線材の製造方法において、マルチ線材の最外周に安定化材を複合化するに際し、通電加熱後直ちに冷却した後もしくは再度加熱処理後に、物理蒸着法により安定化材層を形成することを特徴とするNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法を提供する。
【0013】
ここで、本発明にいう物理的蒸着法とは、高真空中で蒸着物質を高エネルギー粒子として目的物に衝突させ析出させる方法をいい、蒸着条件、蒸発源等に応じて適宜分類されている、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、スパッター法、電子ビーム加熱法、高周波加熱法、抵抗加熱法を含む。このうち特にイオンプレーティング法は、蒸着物質をプラズマ中を通すことにより、励起及びイオン化して高エネルギー粒子として目的物に衝突させ析出させる方法であり、本発明に好適に使用できるものである。物理蒸着法により安定化材層を形成することにより、Nbのように活性な金属で空気中や液体中では直ちに酸化膜を形成してしまう材料をマトリックスとするマルチ線材の場合であっても、真空中での処理であるためにマルチ線材表面に酸化膜が生成されにくく、かつコーティング物質粒子の衝突によって酸化膜も破壊されるため、金属同士の接触を得やすく、同時に衝突によるマルチ線材表面へのアンカー効果も大きくなるために、安定化材層とマルチ線材との密着が非常に強固となる。
【0014】
本発明の好ましい例では、安定化材層が、銅、銅合金、銀または銀合金のいずれか1つからなり、前記物理蒸着法がイオンプレーティング法である。
【0015】
物理蒸着法による安定化材層はそれ自身で安定化材層全体を構成してもよく、一方、それを比較的薄い膜の第1の安定化材層として形成後、それを下地層としてその外周に第2の安定化材層を形成してもよい。第2の安定化材層は、物理蒸着法によっても、それ以外の電気めっき法または類似の膜形成方法によって形成してもよい。
【0016】
本発明のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法は、1,500℃以上まで通電加熱した後直ちに冷却することでNb−Al過飽和固溶体を生成させ、その後、さらに600〜1,050℃の温度で再度加熱処理することによりNb3 Al相を析出させる、いわゆる急熱急冷・変態法に特に適した方法である。ここで、再度の熱処理の温度は、安定化材層を構成する材料の融点を超えない範囲であれば、安定化材層の材料や熱処理時間に従い600〜1,050℃の範囲内で適宜選択できる。例えば、銀(Ag)よりなる安定化材層のときは、銀の融点(962℃)より僅かに低い温度、好ましくは950℃で熱処理を行えばよい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面を引用しつつ、本発明のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法の実施の形態を説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
図1、図2は、本発明のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法を示す、工程説明図及び詳細フローチャートである。所定の厚さの純Nbシート1、及び所定の厚さの純Alシート2を重ね合わせ、純Nb棒3に隙間なく巻き付け、ジェリーロール積層複合体を作成する(ステップ1)。この複合体をNb管4に挿入し、さらにCu管5に挿入して単芯ビレットとなした後、減面加工(静水圧押出、ダイス伸線)により六角断面線材に加工後、複数本の6角断面線材を外皮のCu層を除去してシングル線6を製作する(ステップ2)。このシングル線6を複数本別のNb管7に組み込み、さらにCu−Ni合金管8に挿入して多芯ビレット9とする(ステップ3)。次いで、この多芯ビレット9を減面加工(静水圧押出、ダイス伸線)により所定の線径に加工後、外皮のCu−Ni合金層を除去し、所定の線径の断面円形Nb/Al複合マルチ線材10を得る(ステップ4)。
【0019】
以上の工程により製作したNb/Al複合線材を、1,500℃以上まで通電加熱した後直ちに冷却することでNb−Al過飽和固溶体を生成させる(急熱急冷・変態化処理)。次いで、この過飽和固溶体線材表面に、物理蒸着法、好ましくはイオンプレーティング法により、所定の厚さの安定化材層(Cu層)11を形成する。なお、この安定化材層を第1の安定化材層(すなわち下地層)とし、その上に第2の安定化材層(Cu層)を形成するようにしてもよいが、この第2の安定化材層は物理蒸着法以外の方法、例えば、電気めっきで行ってもよい。こうして得られた線材を、真空中で600〜1,050℃の温度一定時間、再度加熱処理してNb3 Al相を析出させることにより、表面に安定化材層11が付与されたNb3 Al化合物系超電導線材12を得る(ステップ5)。
【0020】
本発明で好適に使用されるイオンプレーティング法は、真空中でコーティングする物質を蒸発させ、プラズマ中を通すことで励起化、イオン化させた高エネルギー粒子を目的物(被コーティング物)に衝突させて膜を形成させる技術である。このイオンプレーティング法によれば、粒子の持っているエネルギーが非常に大きいため、目的物表面はスパッタクリーニングされると共に比較的高温になり、高エネルギーの析出粒子は、清浄かつ高温の目的物表面上で表面拡散易動度が大きく結晶成長が促進され、付着力の強い膜が形成される。従って、Nbのように活性な金属で空気中や液体中では直ちに酸化膜を形成してしまう材料を目的物とする場合であっても、真空中での処理であるために目的物表面に酸化膜が生成されにくく、かつコーティング物質イオンの衝突によって酸化膜も破壊されるため、金属同士の接触を得やすく、同時に衝突による目的物表面へのアンカー効果も大きくなるために、コーティング層と目的物との密着が非常に強固になる特徴を有する。
【0021】
Nb3 Al化合物系超電導線材におけるマルチ線材Nb表面への安定化材層、例えば、銅(Cu)の付与にあたっては、Nb/Cuという組み合わせにおいては、Cu層はほとんど固溶しないために、単純に表面にコーティングするような方法、例えば、電気メッキによっては、メッキ層と目的物との間の密着力が低く、安定化材としての効果も低い。また、僅かの曲げによってもメッキ層が割れたり剥離したりしてしまうため、安定化材層を形成後の機械加工に耐えられない。
【0022】
これに対し、本発明のイオンプレーティング法を用いた方法によれば、目的物との間に強固な密着力を示す安定化材層が形成できるため、イオンプレーティング法で形成した層のみでも、または、イオンプレーティング法で形成した層を下地層として、その上に電気メッキなどによって第2の安定化材層をコーティングし、安定化材層全体を厚くしても、目的物との密着力を低下させることなく、良好な安定化材層を形成することができる。さらには、このような強固な密着力によって、安定化材層形成後のダイス伸線のような塑性加工にも耐えるような特徴を持つ。
【0023】
なお、物理蒸着は、蒸着チャンバー内に目的物である線材全体を収容し行うか、線材の長手方向の一部を連続的に蒸着チャンバー内に通過させつつ行う等により実施できるものである。
【0024】
【実施例】
本発明の製造方法が、Nb3 Al化合物系超電導線材への安定化材付与に好適であることは、以下の実施例及び比較例の説明によってより明確に理解されよう。
【0025】
〔実施例1〕
厚さ75μmの純Nbシート及び厚さ25μmの純Alシートを重ね合わせ、φ1.5mmの純Nb棒に隙間なく巻き付け、Nb管に挿入し、さらにCu管に挿入した後、減面加工により六角断面線材に加工後、外皮のCuを除去してシングル線を製作した。これを複数本Nb管に組み込み、さらにCu合金管に挿入して減面加工により所定の線径に加工後、外皮のCu合金を除去し、線径1.25mmのNb/Al複合マルチ線材とした。
【0026】
以上の工程により製作したNb/Al複合線材に、通電し、2,000℃まで急熱後直ちに200℃まで冷却することでNb/Al過飽和固溶体線材とした。次いで、この線材にイオンプレーティング処理を行い、表面に約1μm厚の下地Cu層(第1の安定化材層)を形成した。さらにこの上に電気メッキにより約49μm厚のCu層(第2の安定化材層)を形成した。
【0027】
〔実施例2〕
実施例1におけるNb/Al過飽和固溶体線材に、イオンプレーティング処理を行い、表面に約0.1μm厚の下地Cu層(第1の安定化材層)を形成した。さらにこの上に電気メッキにより約50μm厚のCu層(第2の安定化材層)を形成した。
【0028】
〔実施例3〕
実施例1におけるNb/Al過飽和固溶体線材に、スパッター法による蒸着を行い、表面に約1μm厚の下地Cu層(第1の安定化材層)を形成した。さらにこの上に電気メッキにより約49μm厚のCu層(第2の安定化材層)を形成した。
【0029】
〔比較例1〕
実施例1におけるNb/Al過飽和固溶体線材に、電気メッキを用いて表面に約50μm厚のCu層(安定化材層)を形成した。
【0030】
〔比較例2〕
実施例1におけるNb/Al過飽和固溶体線材に、イオンプレーティング処理を行い、表面に約0.05μm厚の下地Cu層(第1の安定化材層)を形成した。さらにこの上に電気メッキにより約50μm厚のCu層(第2の安定化材層)を形成した。
【0031】
実施例1,2,3及び比較例1,2の各線材を、真空中で800℃X10hrの加熱処理を加えて最終的なNb3 Al化合物系超電導線材を得た。
【0032】
実施例及び比較例の各方法で得られた線材を、21〜15Tまでの磁場中において臨界電流特性を評価した。表1には、本発明材及び比較材の線材仕様と、両線材の4.2Kにおける各磁場での臨界電流値を示す。なお、ここでは臨界電流値は1μV/cm基準で求めた結果である。比較例2の18Tにおける測定結果では、最終的にクエンチを発生したものの、当初わずかながら電圧上昇が認められ、超電導状態から常電導状態に遷移する様子が観察された後、急激な電圧上昇、すなわち、クエンチに至った。
【0033】
この結果からもわかるように、本発明の方法に従い、安定化材層の付与方法としてイオンプレーティング法またはスパッタ法による安定化材層付与線材(実施例1〜3)は、17T以下においてもクエンチを発生することなく(すなわち、安定化されており)臨界電流値の測定が可能であるのに対し、単純な電気メッキによる安定化材層付与線材(比較例1)では、18Tにおいてクエンチを発生してしまい(すなわち、不安定化しており)臨界電流値を測定することができなかった。また、実施例1〜3と比較例2との対比により明らかなように、イオンプレーティング法またはスパッター法による安定化材層の厚みも0.1μm以上であれば、クエンチ発生の磁場を低くできることも示している。すなわち、イオンプレーティング法またはスパッター法を使用した安定化材層の付与方法の方が線材の安定化方法として優れていることを示している。
【0034】
【表1】
【0035】
上記実施例において、イオンプレーティング法またはスパッター法により形成した安定化材層の厚みを0.1μm以上とした。これは、実施例に説明した特定構造の超電導線材を高磁界マグネット導体として使用するのであれば、17T以上において安定化していれば十分と考えられるので、17T以上の磁界中で安定性を維持できる厚さとして出願人が特定したものであって、本発明はこれに限定されるものではなく、超電導線材の様々な構造に応じて適宜決定し得るものである。もっとも、この層が薄すぎるときは、イオンプレーティング法またはスパッター法による酸化膜の破壊が十分行われず密着性の高い安定化材層が得られなくなる恐れがある。
【0036】
なお、実施例では、イオンプレーティング法またはスパッター法により形成する安定化材層の材料にCuを用いたが、Cu合金であってもよい。また、Cu、Cu合金以外の材料、例えば、Niを用い、これを第1の安定化材層、すなわち、下地層とし、その上にCuからなる第2の安定化材層をコーティングした複合層としてもよい。例えば、Ni下地層とCuとの組み合わせによれば、NbとNi、及びNiとCuとの間で固溶体を形成し、密着が更に強固になると考えられる。
【0037】
また、安定化材層の材料としては、電気伝導度、熱伝導度がCuと類似しているAgまたはAg合金であってもよい。
【0038】
マトリックス材としては、特に急熱急冷処理時の1500℃以上の温度における十分な強度を有することとNbとの反応性が乏しく、加工性があれば使用可能であり、NbとNb合金の他、例えばTa、Ta合金が有望である。
【0039】
本発明の方法によって得られた超電導線材は、磁場中での高い臨界電流密度が要求されるような用途、例えば、高磁界NMRマグネット用導体としての応用に適している。
【0040】
【発明の効果】
従来、いわゆる急熱急冷・変態法で得た超電導線材表面への安定化材層の複合化は、その特殊な製法による制約から困難であったが、本発明のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法は、これをはじめて可能にしたものであって、他の金属系超電導線材と比較すると高磁界において超電導特性、特に臨界電流密度に優れる、急熱急冷・変態法で得た超電導線材の実用化に、大きく道を開くものであって、その工業的意義は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るNb3 Al化合物系超電導線材の製造工程説明図である。
【図2】本発明に係るNb3 Al化合物系超電導線材の製造工程の詳細フローチャートである。
【符号の説明】
1 Nbシート
2 Alシート
3 Nb棒
4 Nb管
5 Cu管
6 六角断面線材
7 Nb管
8 Cu合金管
9 多芯ビレット
10 マルチ線材
11 安定化材層
【発明の属する技術分野】
本発明は、Nb3 Al化合物系超電導線材の製造方法に関し、特にNb3 Al化合物系超電導線材外周への強固な安定化材層の付与を含む製造方法及びそれにより得られた超電導線材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Nb3 Al化合物系超電導線材は、超電導線材として一般的なNb3 Sn及びNbTiに比較して、高磁界における臨界電流密度特性に優れているため、物性研究用の高磁界NMRマグネット等の超電導材料として実用化が期待されている。Nb3 Al化合物系超電導線材は、一般に、NbまたはNb合金とAlまたはAl合金からなる複合材を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したシングル線材を複数本組み合わせ、それらの外周を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したマルチ構造を有しており、いかに述べる製法により、線材中にNb3 Al化合物を生成させ、所定の超電導特性を得られるようにしている。
【0003】
Nb3 Al化合物系超電導線材の製法の主なものは現在のところ、拡散法と急熱急冷・変態法の2つである。拡散法はNbとAlを所定の組成で複合し、相互の拡散距離をサブミクロンオーダーまで小さくした後、600〜1050℃位の条件で加熱処理し、固相拡散によりNb3 Al化合物を生成させる方法である(「ジェリーロール法Nb3 Al超電導線材の開発」、住友電気、第139号(1991))。もう一つの急熱急冷・変態法は、やはり所定の組成で複合した線材を1500℃以上まで加熱し、即座に急冷することでNb−Al過飽和固溶体を生成させ、その後600〜1050℃位の温度で再度加熱処理することでNb3 Al相を析出させる方法である(特公平6−44427号、科学技術庁金属材料技術研究所)。
【0004】
ところで、Nb3 Al化合物は1500℃以上もの高温でのみ安定な化合物で、それ以下の温度では化学量論組成からのずれが大きくなるため、臨界電流密度をはじめとする線材特性が低下してしまうという欠点がある。前者の拡散法による線材の場合、加熱処理温度が低いため化学量論組成からのずれにより、高磁界NMRマグネット等への応用を想定した場合、20T以上もの高磁界での臨界電流密度が低く要求特性を満たすことができない。
【0005】
従って、高磁界NMRマグネット用導体などへの適用を考えた場合、現在の諸金属系超電導線材のなかでは、後者の急熱急冷・変態法による線材が唯一の材料となっている。
【0006】
従来の急熱急冷・変態法による製法は、例えば、ジェリーロール法による場合、次のようである。NbまたはNb合金シートとAlまたはAl合金シートを積層密巻きしたのちNbまたはNb合金パイプに詰め、押出加工や伸線加工を経てシングル線を作製する。このシングル線作製においては密巻き時の芯棒は使用しても、使用しなくても構わない。次にシングル線を複数本使用して、再度NbまたはNb合金パイプに組み込み、押出や伸線を経て母材となるNb/Al複合マルチ線材を得る。複合マルチ線材組み込み時においては、Nb/Al複合シングル線以外に、NbまたはNb合金からなるダミー線材を組み合わせて組み込むことも行われている。このNb/Al複合マルチ線材を急熱急冷してNb−Al過飽和固溶体を生成させ、その後変態熱処理を加えてNb3 Al化合物を析出させる。
【0007】
また、従来法における母材用シングル線材の作製法においては、上記に示したジェリーロール法以外にも、NbまたはNb合金パイプにAlまたはAl合金棒を挿入して押出や伸線により作製する方法や、この逆にAlまたはAl合金パイプにNbまたはNb合金棒を挿入して押出や伸線により作成する方法がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
超電導線材を超電導マグネット用導体として使用する場合、運転中のクエンチ時にも線材を焼損しないように、線材の最外周には安定化材層を付与する必要がある。しかし、急熱急冷・変態法で作製した線材は、急熱急冷処理時に線材温度が1,500℃以上になり、例えば、銅(Cu)の融点の1,083℃を超えてしまうために予め安定化材としての銅を表面に付与しておくことができない。従って、急熱急冷・変態法Nb3 Al線材においては線材に安定化材層が複合化されておらず、線材表面はNbで構成されている。
【0009】
ところで、従来の実用超電導線材であるNb−Ti線材やNb3 Sn線材では、CuとNbもしくはNb基合金の複合体を大きな(変形率106 程度)伸線加工を加えることで、Nb表面の酸化膜を破壊して、良好なCu/Nb接合を得ている。
【0010】
一方、急熱急冷処理後に銅を複合化する場合、Nb表面の強固な酸化皮膜のために複合化することが非常に困難である。さらには、空気中や水中においては、Nb表面に直ちに酸化皮膜が生成してしまう。Nb−Ti線材やNb3 Sn線材のように強加工により複合化することも困難である。このような理由から、例えば、電気メッキ等によって線材表面に銅を付与しても、被覆層と線材間の密着性が乏しく、マグネット作製時におけるコイル巻などにおいて簡単に剥離してしまう。
【0011】
そこで本発明の目的は、前述した従来技術の欠点を解消し、いわゆる急熱急冷・変態法においても密着性に優れた安定化材層を複合化できるNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法とその方法により得られた線材を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明では、NbまたはNb合金とAlまたはAl合金からなる複合材を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したシングル線材を複数本組み合わせ、それらの外周を高融点金属またはその合金からなるマトリックスで囲繞したマルチ線材を、所定温度以上に通電加熱後直ちに冷却しNb−Al過飽和固溶体を生成させ、次いで再度熱処理することによりNb3 Al相を析出させる、Nb3 Al化合物系超電導線材の製造方法において、マルチ線材の最外周に安定化材を複合化するに際し、通電加熱後直ちに冷却した後もしくは再度加熱処理後に、物理蒸着法により安定化材層を形成することを特徴とするNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法を提供する。
【0013】
ここで、本発明にいう物理的蒸着法とは、高真空中で蒸着物質を高エネルギー粒子として目的物に衝突させ析出させる方法をいい、蒸着条件、蒸発源等に応じて適宜分類されている、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、スパッター法、電子ビーム加熱法、高周波加熱法、抵抗加熱法を含む。このうち特にイオンプレーティング法は、蒸着物質をプラズマ中を通すことにより、励起及びイオン化して高エネルギー粒子として目的物に衝突させ析出させる方法であり、本発明に好適に使用できるものである。物理蒸着法により安定化材層を形成することにより、Nbのように活性な金属で空気中や液体中では直ちに酸化膜を形成してしまう材料をマトリックスとするマルチ線材の場合であっても、真空中での処理であるためにマルチ線材表面に酸化膜が生成されにくく、かつコーティング物質粒子の衝突によって酸化膜も破壊されるため、金属同士の接触を得やすく、同時に衝突によるマルチ線材表面へのアンカー効果も大きくなるために、安定化材層とマルチ線材との密着が非常に強固となる。
【0014】
本発明の好ましい例では、安定化材層が、銅、銅合金、銀または銀合金のいずれか1つからなり、前記物理蒸着法がイオンプレーティング法である。
【0015】
物理蒸着法による安定化材層はそれ自身で安定化材層全体を構成してもよく、一方、それを比較的薄い膜の第1の安定化材層として形成後、それを下地層としてその外周に第2の安定化材層を形成してもよい。第2の安定化材層は、物理蒸着法によっても、それ以外の電気めっき法または類似の膜形成方法によって形成してもよい。
【0016】
本発明のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法は、1,500℃以上まで通電加熱した後直ちに冷却することでNb−Al過飽和固溶体を生成させ、その後、さらに600〜1,050℃の温度で再度加熱処理することによりNb3 Al相を析出させる、いわゆる急熱急冷・変態法に特に適した方法である。ここで、再度の熱処理の温度は、安定化材層を構成する材料の融点を超えない範囲であれば、安定化材層の材料や熱処理時間に従い600〜1,050℃の範囲内で適宜選択できる。例えば、銀(Ag)よりなる安定化材層のときは、銀の融点(962℃)より僅かに低い温度、好ましくは950℃で熱処理を行えばよい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面を引用しつつ、本発明のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法の実施の形態を説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
図1、図2は、本発明のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法を示す、工程説明図及び詳細フローチャートである。所定の厚さの純Nbシート1、及び所定の厚さの純Alシート2を重ね合わせ、純Nb棒3に隙間なく巻き付け、ジェリーロール積層複合体を作成する(ステップ1)。この複合体をNb管4に挿入し、さらにCu管5に挿入して単芯ビレットとなした後、減面加工(静水圧押出、ダイス伸線)により六角断面線材に加工後、複数本の6角断面線材を外皮のCu層を除去してシングル線6を製作する(ステップ2)。このシングル線6を複数本別のNb管7に組み込み、さらにCu−Ni合金管8に挿入して多芯ビレット9とする(ステップ3)。次いで、この多芯ビレット9を減面加工(静水圧押出、ダイス伸線)により所定の線径に加工後、外皮のCu−Ni合金層を除去し、所定の線径の断面円形Nb/Al複合マルチ線材10を得る(ステップ4)。
【0019】
以上の工程により製作したNb/Al複合線材を、1,500℃以上まで通電加熱した後直ちに冷却することでNb−Al過飽和固溶体を生成させる(急熱急冷・変態化処理)。次いで、この過飽和固溶体線材表面に、物理蒸着法、好ましくはイオンプレーティング法により、所定の厚さの安定化材層(Cu層)11を形成する。なお、この安定化材層を第1の安定化材層(すなわち下地層)とし、その上に第2の安定化材層(Cu層)を形成するようにしてもよいが、この第2の安定化材層は物理蒸着法以外の方法、例えば、電気めっきで行ってもよい。こうして得られた線材を、真空中で600〜1,050℃の温度一定時間、再度加熱処理してNb3 Al相を析出させることにより、表面に安定化材層11が付与されたNb3 Al化合物系超電導線材12を得る(ステップ5)。
【0020】
本発明で好適に使用されるイオンプレーティング法は、真空中でコーティングする物質を蒸発させ、プラズマ中を通すことで励起化、イオン化させた高エネルギー粒子を目的物(被コーティング物)に衝突させて膜を形成させる技術である。このイオンプレーティング法によれば、粒子の持っているエネルギーが非常に大きいため、目的物表面はスパッタクリーニングされると共に比較的高温になり、高エネルギーの析出粒子は、清浄かつ高温の目的物表面上で表面拡散易動度が大きく結晶成長が促進され、付着力の強い膜が形成される。従って、Nbのように活性な金属で空気中や液体中では直ちに酸化膜を形成してしまう材料を目的物とする場合であっても、真空中での処理であるために目的物表面に酸化膜が生成されにくく、かつコーティング物質イオンの衝突によって酸化膜も破壊されるため、金属同士の接触を得やすく、同時に衝突による目的物表面へのアンカー効果も大きくなるために、コーティング層と目的物との密着が非常に強固になる特徴を有する。
【0021】
Nb3 Al化合物系超電導線材におけるマルチ線材Nb表面への安定化材層、例えば、銅(Cu)の付与にあたっては、Nb/Cuという組み合わせにおいては、Cu層はほとんど固溶しないために、単純に表面にコーティングするような方法、例えば、電気メッキによっては、メッキ層と目的物との間の密着力が低く、安定化材としての効果も低い。また、僅かの曲げによってもメッキ層が割れたり剥離したりしてしまうため、安定化材層を形成後の機械加工に耐えられない。
【0022】
これに対し、本発明のイオンプレーティング法を用いた方法によれば、目的物との間に強固な密着力を示す安定化材層が形成できるため、イオンプレーティング法で形成した層のみでも、または、イオンプレーティング法で形成した層を下地層として、その上に電気メッキなどによって第2の安定化材層をコーティングし、安定化材層全体を厚くしても、目的物との密着力を低下させることなく、良好な安定化材層を形成することができる。さらには、このような強固な密着力によって、安定化材層形成後のダイス伸線のような塑性加工にも耐えるような特徴を持つ。
【0023】
なお、物理蒸着は、蒸着チャンバー内に目的物である線材全体を収容し行うか、線材の長手方向の一部を連続的に蒸着チャンバー内に通過させつつ行う等により実施できるものである。
【0024】
【実施例】
本発明の製造方法が、Nb3 Al化合物系超電導線材への安定化材付与に好適であることは、以下の実施例及び比較例の説明によってより明確に理解されよう。
【0025】
〔実施例1〕
厚さ75μmの純Nbシート及び厚さ25μmの純Alシートを重ね合わせ、φ1.5mmの純Nb棒に隙間なく巻き付け、Nb管に挿入し、さらにCu管に挿入した後、減面加工により六角断面線材に加工後、外皮のCuを除去してシングル線を製作した。これを複数本Nb管に組み込み、さらにCu合金管に挿入して減面加工により所定の線径に加工後、外皮のCu合金を除去し、線径1.25mmのNb/Al複合マルチ線材とした。
【0026】
以上の工程により製作したNb/Al複合線材に、通電し、2,000℃まで急熱後直ちに200℃まで冷却することでNb/Al過飽和固溶体線材とした。次いで、この線材にイオンプレーティング処理を行い、表面に約1μm厚の下地Cu層(第1の安定化材層)を形成した。さらにこの上に電気メッキにより約49μm厚のCu層(第2の安定化材層)を形成した。
【0027】
〔実施例2〕
実施例1におけるNb/Al過飽和固溶体線材に、イオンプレーティング処理を行い、表面に約0.1μm厚の下地Cu層(第1の安定化材層)を形成した。さらにこの上に電気メッキにより約50μm厚のCu層(第2の安定化材層)を形成した。
【0028】
〔実施例3〕
実施例1におけるNb/Al過飽和固溶体線材に、スパッター法による蒸着を行い、表面に約1μm厚の下地Cu層(第1の安定化材層)を形成した。さらにこの上に電気メッキにより約49μm厚のCu層(第2の安定化材層)を形成した。
【0029】
〔比較例1〕
実施例1におけるNb/Al過飽和固溶体線材に、電気メッキを用いて表面に約50μm厚のCu層(安定化材層)を形成した。
【0030】
〔比較例2〕
実施例1におけるNb/Al過飽和固溶体線材に、イオンプレーティング処理を行い、表面に約0.05μm厚の下地Cu層(第1の安定化材層)を形成した。さらにこの上に電気メッキにより約50μm厚のCu層(第2の安定化材層)を形成した。
【0031】
実施例1,2,3及び比較例1,2の各線材を、真空中で800℃X10hrの加熱処理を加えて最終的なNb3 Al化合物系超電導線材を得た。
【0032】
実施例及び比較例の各方法で得られた線材を、21〜15Tまでの磁場中において臨界電流特性を評価した。表1には、本発明材及び比較材の線材仕様と、両線材の4.2Kにおける各磁場での臨界電流値を示す。なお、ここでは臨界電流値は1μV/cm基準で求めた結果である。比較例2の18Tにおける測定結果では、最終的にクエンチを発生したものの、当初わずかながら電圧上昇が認められ、超電導状態から常電導状態に遷移する様子が観察された後、急激な電圧上昇、すなわち、クエンチに至った。
【0033】
この結果からもわかるように、本発明の方法に従い、安定化材層の付与方法としてイオンプレーティング法またはスパッタ法による安定化材層付与線材(実施例1〜3)は、17T以下においてもクエンチを発生することなく(すなわち、安定化されており)臨界電流値の測定が可能であるのに対し、単純な電気メッキによる安定化材層付与線材(比較例1)では、18Tにおいてクエンチを発生してしまい(すなわち、不安定化しており)臨界電流値を測定することができなかった。また、実施例1〜3と比較例2との対比により明らかなように、イオンプレーティング法またはスパッター法による安定化材層の厚みも0.1μm以上であれば、クエンチ発生の磁場を低くできることも示している。すなわち、イオンプレーティング法またはスパッター法を使用した安定化材層の付与方法の方が線材の安定化方法として優れていることを示している。
【0034】
【表1】
【0035】
上記実施例において、イオンプレーティング法またはスパッター法により形成した安定化材層の厚みを0.1μm以上とした。これは、実施例に説明した特定構造の超電導線材を高磁界マグネット導体として使用するのであれば、17T以上において安定化していれば十分と考えられるので、17T以上の磁界中で安定性を維持できる厚さとして出願人が特定したものであって、本発明はこれに限定されるものではなく、超電導線材の様々な構造に応じて適宜決定し得るものである。もっとも、この層が薄すぎるときは、イオンプレーティング法またはスパッター法による酸化膜の破壊が十分行われず密着性の高い安定化材層が得られなくなる恐れがある。
【0036】
なお、実施例では、イオンプレーティング法またはスパッター法により形成する安定化材層の材料にCuを用いたが、Cu合金であってもよい。また、Cu、Cu合金以外の材料、例えば、Niを用い、これを第1の安定化材層、すなわち、下地層とし、その上にCuからなる第2の安定化材層をコーティングした複合層としてもよい。例えば、Ni下地層とCuとの組み合わせによれば、NbとNi、及びNiとCuとの間で固溶体を形成し、密着が更に強固になると考えられる。
【0037】
また、安定化材層の材料としては、電気伝導度、熱伝導度がCuと類似しているAgまたはAg合金であってもよい。
【0038】
マトリックス材としては、特に急熱急冷処理時の1500℃以上の温度における十分な強度を有することとNbとの反応性が乏しく、加工性があれば使用可能であり、NbとNb合金の他、例えばTa、Ta合金が有望である。
【0039】
本発明の方法によって得られた超電導線材は、磁場中での高い臨界電流密度が要求されるような用途、例えば、高磁界NMRマグネット用導体としての応用に適している。
【0040】
【発明の効果】
従来、いわゆる急熱急冷・変態法で得た超電導線材表面への安定化材層の複合化は、その特殊な製法による制約から困難であったが、本発明のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法は、これをはじめて可能にしたものであって、他の金属系超電導線材と比較すると高磁界において超電導特性、特に臨界電流密度に優れる、急熱急冷・変態法で得た超電導線材の実用化に、大きく道を開くものであって、その工業的意義は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るNb3 Al化合物系超電導線材の製造工程説明図である。
【図2】本発明に係るNb3 Al化合物系超電導線材の製造工程の詳細フローチャートである。
【符号の説明】
1 Nbシート
2 Alシート
3 Nb棒
4 Nb管
5 Cu管
6 六角断面線材
7 Nb管
8 Cu合金管
9 多芯ビレット
10 マルチ線材
11 安定化材層
Claims (8)
- NbまたはNb合金とAlまたはAl合金からなる複合材を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したシングル線材を複数本組み合わせ、それらの外周を高融点金属またはその合金からなるマトリックスで囲繞したマルチ線材を、所定温度以上に通電加熱後直ちに冷却してNb−Al過飽和固溶体を生成させ、次いで再度熱処理することによりNb3 Al相を析出させる、Nb3 Al化合物系超電導線材の製造方法において、前記マルチ線材の最外周に安定化材を複合化するに際し、前記通電加熱後直ちに冷却した後もしくは再度加熱処理後に、物理蒸着法により安定化材層を形成することを特徴とするNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法。
- 前記安定化材層が、銅、銅合金、銀または銀合金のいずれか1つからなり、前記物理蒸着法がイオンプレーティング法であることを特徴とする請求項1に記載のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法。
- 前記物理蒸着法による第1の安定化材層を下地層として、さらにその外周に第2の安定化材層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法。
- NbまたはNb合金とAlまたはAl合金からなる複合材を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したシングル線材を複数本組み合わせ、それらの外周を高融点金属またはその合金マトリックスで囲繞したマルチ構造の線材を、1,500℃以上まで通電加熱した後直ちに冷却することで得られる線材を、さらに600〜1,050℃の温度で加熱することによりNb3 Al化合物を生成する、Nb3 Al化合物系超電導線材の製造方法において、前記マルチ線材の最外周に安定化材を複合化するに際し、前記通電加熱後直ちに冷却した後もしくは追加熱処理後に、物理蒸着法により安定化材層を形成することを特徴とするNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法。
- 前記安定化材層が、銅、銅合金、銀または銀合金のいずれか1つからなり、前記物理蒸着法がイオンプレーティング法であることを特徴とする請求項4に記載のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法。
- 前記物理蒸着法による第1の安定化材層を下地層として、さらにその外周に第2の安定化材層を形成することを特徴とする請求項4または5に記載のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法。
- 前記物理蒸着法による安定化材層の厚さが0.1μm以上である請求項5または6に記載のNb3 Al化合物系超電導線材の製造方法。
- 請求項1ないし7のいずれかの製造方法により得られるNb3 Al化合物系超電導線材。
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