JP5076165B2 - 強固に付着した銅めっき安定化材を有するNb−Al系超伝導線材とその製造方法 - Google Patents
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Description
近年、特許文献1に見られるように急熱急冷処理法によって線材化の見通しが得られつつある。この方法の要点は、次の通りである。まずNbとAlとからなるフィラメントを事前に製造しておき、次にこのフィラメントをNbパイプあるいはTaパイプ中に詰め、静水圧押出しにより線材(NbAl/Nb複合体あるいはNbAl/Ta複合体=前駆体)を成形する。しかる後に、通電加熱して一気に2000℃程度に昇温し、直ちに液体Ga浴で急冷してNb−Alの過飽和固溶体となす。次いで適切な形状に加工した後、800℃程度の温度でNb3Alに変態させて製造するというものである。特許文献2には、前駆体の製造方法が詳細に記載されている。
ところでNb自体は、常伝導状態での電気抵抗が大きく、クエンチ時のホットスポットの抑制や線材の発熱溶損防止のための安定化材としての機能を期待できない。この為に超伝導線材の実用化に於いて何某かの安定化材の複合が必要条件となっている。
しかしながら、特許文献8の技術内容には不明なことも多く、明細書の記述では芯線を束ねたその表面にNbを電気めっき、無電解めっき、蒸着等で被覆した後に、さらに、その表面に中間膜を被覆するとしている。原理的にNbの無電解めっきは不可能であり、また水溶液をベースとした公知のNbの電気めっき技術は存在しない。さらに蒸着法でのNbの被覆も些か実現性に無理がある。本発明者らが電気めっき技術に限って技術内容を追試して見ると、提案されている方法には重大な欠点があることを発見した。例えば中間膜としてSn、Ag、Auなどを用いる妥当性の有無に問題がある。つまり、これらの金属は、元々Nbと反応するよりも安定化材の銅、銀との反応性が高く、速やかに安定化材側に拡散する。これらの中間層を電気めっき、無電解めっき法によって被覆し得るとしても、安定化材の被覆時やその後の加熱時に安定化材に膨れを生じ易い。さらに一見健全に見える安定化材が被覆できたとしても90°曲げ試験により、僅か1回の折り曲げで剥離したりする。その理由はNbの表面が極めて不動態化し易く、この状態に於いてNbとの拡散反応層を形成して結合するとは考え難い。さらに一切の開示もないが、残るNi、Pt、Pdとその合金にしても中間膜の被覆に当たり、Nb表面の不動態膜の除去とその後の活性面の維持が容易な蒸着法等を採用しない限り、これらを密着させることが出来ない。つまり無電解めっき法や電気めっき法に於いてはNb表面の不動態膜除去方法やさらには選定しためっき液(浴)の妥当性の有無の問題が一切考慮されていない。またいずれの中間膜被覆方法でも共通の課題となるが、Nb−Al超伝導線材前駆体の製造時に線材表面に付着・拡散しているGa残滓の除去方法の適否がその後に形成する皮膜の密着性に大きく影響することを本発明者らは知見したが、これらに関する開示は一切為されていない。以上のように工業的に見て効果的な銅安定化材の被覆技術が未だ完成されておらず、これが、Nb3Al系の超伝導線材が未だに実用に供せられていない理由となっているものと考えられる。
(a)前記Nb−Al系線材の表面に付着したGa残滓を除去する工程;
(b)工程(a)で得られる、表面のGa残滓が除去されたNb−Al系線材を、該Nb−Al系線材を不動態化させない条件下で脱脂処理し、ついで酸洗浄処理する工程;
(c)工程(b)で得られる、酸洗浄処理されたNb−Al系線材の表面を、ニッケルストライク浴を用いて、Niで電気めっきする工程;
(d)工程(c)で得られる、Niで電気めっきされたNb−Al系線材の表面を、Cuで電気めっきする工程
さらに好ましくは、
(e)工程(d)で得られる、Cuで電気めっきされたNb−Al系線材を、酸化防止雰囲気下400〜700℃でベーキングする工程
を経てNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材を製造する方法を開発し、さらに、該Nb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材を、700℃以上の温度で熱処理する工程を経て、Nb3Al化合物系超伝導線材を製造する方法を開発した。そして、かかる方法およびそれにより得られたNb3Al化合物系超伝導線材が、前記した従来の課題を一挙に解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
[1] 過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材の外周表面に中間層としてのNi皮膜を介して安定化材としてのCu皮膜が密着形成されてなるNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材、
[2] 前記過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材の表面にGa残滓が実質的に存在しない前項[1]に記載のNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材、
[3] Cu皮膜の厚さが40μm以上である前項[1]に記載のNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材、
[4] 線径が0.1mm以上である前項[1]に記載のNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材、
[5] Ni皮膜およびCu皮膜が電気めっき皮膜である前項[1]に記載のNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材、
[6] 液体Ga中で冷却して得られる過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材から、Nb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材を製造する方法であって、
(a)前記Nb−Al系線材の表面に付着したGa残滓を除去する工程;
(b)工程(a)で得られる、表面のGa残滓が除去されたNb−Al系線材を、該Nb−Al系線材を不動態化させない条件下で脱脂処理し、ついで酸洗浄処理する工程;
(c)工程(b)で得られる、酸洗浄処理されたNb−Al系線材の表面を、ニッケルストライク浴を用いて、Niで電気めっきする工程;および
(d)工程(c)で得られる、Niで電気めっきされたNb−Al系線材の表面を、Cuで電気めっきする工程
を含むことを特徴とするNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材の製造方法、
[7] 前記(a)〜(d)の工程に加えて、
(e)工程(d)で得られる、Cuで電気めっきされたNb−Al系線材を、酸化防止雰囲気下400〜700℃でベーキングする工程
を含むことを特徴とする前項[6]に記載の製造方法、
[8] 工程(a)におけるGa残滓の除去を、研磨手段によって行う前項[6]に記載の製造方法、
[9] 工程(b)における不動態化させない条件が、Nb−Al系線材の表面を実質的に酸化させない条件である前項[6]に記載の製造方法、
[10] 工程(c)におけるニッケルストライク浴が、ニッケルの塩化物、硫酸塩およびスルファミン酸塩からなる群から選ばれる1種または2種以上のニッケル塩と、塩酸、硫酸またはスルファミン酸とを含んでなるpH2以下の液である前項[6]に記載の製造方法、
[11] 工程(d)における電気めっきをCuの皮膜の厚さが40μm以上となるように行う前項[6]に記載の製造方法、
[12] 工程(e)におけるベーキングを、酸化防止雰囲気下500〜650℃で行う前項[6]に記載の製造方法、
[13] Nb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材の線径が0.1mm以上である前項[6]に記載の製造方法、
[14] 液体Ga中で冷却して得られる過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材から、Nb3Al化合物系超伝導線材を製造する方法であって、
(a)前記Nb−Al系超伝導線材の表面に付着したGa残滓を除去する工程;
(b)工程(a)で得られる、表面のGa残滓が除去されたNb−Al系線材を、該Nb−Al系線材を不動態化させない条件下で脱脂処理し、ついで酸洗浄処理する工程;
(c)工程(b)で得られる、酸洗浄処理されたNb−Al系線材の表面を、ニッケルストライク浴を用いて、Niで電気めっきする工程;
(d)工程(c)で得られる、Niで電気めっきされたNb−Al系線材の表面を、Cuで電気めっきする工程;
(e)工程(d)で得られる、Cuで電気めっきされたNb−Al系線材を、酸化防止雰囲気下400〜700℃でベーキングする工程;および
(f)工程(e)で得られる、ベーキングされたNb−Al系線材を、700℃以上の温度で熱処理する工程
を含むことを特徴とするNb3Al化合物系超伝導線材の製造方法、
[15] 工程(a)におけるGa残滓の除去を、研磨手段によって行う前項[14]に記載の製造方法、
[16] 工程(b)における不動態化させない条件が、Nb−Al系線材の表面を実質的に酸化させない条件である前項[14]に記載の製造方法、
[17] 工程(c)におけるニッケルストライク浴が、ニッケルの塩化物、硫酸塩およびスルファミン酸塩からなる群から選ばれる1種または2種以上のニッケル塩と、塩酸、硫酸またはスルファミン酸とを含んでなるpH2以下の液である前項[14]に記載の製造方法、
[18] 工程(d)における電気めっきをCuの皮膜の厚さが40μm以上となるように行う前項[14]に記載の製造方法。
[19] 工程(e)におけるベーキングを、酸化防止雰囲気下500〜650℃で行う前項[14]に記載の製造方法。
[20] 工程(f)における熱処理を、700℃〜1000℃の温度で行う前項[14]に記載の製造方法
に関する。
また、本発明の製造方法によれば、そのような銅安定化材が強固に密着した化合物変態前のNb−Al系超伝導線材、ひいては高い臨界温度(Tc)と上部臨界磁界(HC2)を有する優れたNb3Al化合物系超伝導線材を簡便かつ経済的に製造することができる。なぜならば、本発明の製造方法では、Nb−Al系線材への外部安定化材の被覆に於いて、不動態化し易い線材表面に強固に密着した銅安定化材を経済的かつ簡便な汎用の電気めっき技術のみで被覆できるからであり、それによって二次熱処理工程に移行する迄に必然的に派生する諸々の加工工程で付与される各種の作用応力に耐え得る銅安定化材の強固な密着性を実現できるからである。なお、Nb金属の具備する高い活性度がその表面に強固な不動態膜(酸化膜)を形成し、その存在が各種のめっき皮膜に要求される密着性確保の障害となることはよく知られている。また、安定化材の密着性という点では問題のないイオンプレーティング法による成膜手段を採用した従来方法と比較しても、イオンプレーティングの適用には真空チャンバーの利用が必須で生産性に難点を抱えるのに対し、本発明の製造方法では汎用性の高い電気めっき技術により銅安定化材を強固に密着できるので、工業的に有利である。
2 液体Ga浴
3 送出しリール
4 巻取りリール
本発明のNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材の製造方法は、液体Ga中で冷却して得られる過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材から、Nb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材を製造する方法であって、
(a)前記Nb−Al系線材の表面に付着したGa残滓を除去する工程;
(b)工程(a)で得られる、表面のGa残滓が除去されたNb−Al系線材を、該Nb−Al系線材を不動態化させない条件下で脱脂処理し、ついで酸洗浄処理する工程;
(c)工程(b)で得られる、酸洗浄処理されたNb−Al系線材の表面を、ニッケルストライク浴を用いて、Niで電気めっきする工程;
(d)工程(c)で得られる、Niで電気めっきされたNb−Al系線材の表面を、Cuで電気めっきする工程
を含むことを特徴とする。
また、所望により、前記(a)〜(d)の工程に加えて、
(e)工程(d)で得られる、Cuで電気めっきされたNb−Al系超伝導線材を、酸化防止雰囲気下400〜700℃でベーキングする工程
を含むことが好ましい。
図3に示される急熱急冷装置は、送出しリール3、通電キャプスタン1、液体Ga浴(以下、Gaバスともいう)2、および巻取りリール4を具備する急熱急冷装置である。送出しリール3から送出したNbAl/Nb複合線材を通電キャプスタン1とGaバス2間で通電加熱して線材温度を2000℃近くまで昇温させ、その後直ちに40〜50℃程度のGaバス2で急冷して、過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材を生成させ、これを巻取りリール4に巻き取る。
以下、図1および図2を用いて、JR法により製造されるNbAl/Nb複合線材について説明する。
Nb棒(Nbコア)にAlシートとNbシートとを重ね巻き(JR)して、フィラメントの母材となるシングルビレット(a)を作製する。このシングルビレット(a)に静水圧押出を施した後、伸線によりマルチビレット組込み用六角断面モノフィラメント線材を作製する。ついで、この六角断面モノフィラメント線材を多数本Nbパイプに組込み、マルチビレット(b)を作製する。マルチビレット(b)に静水圧押出を施した後、伸線によりNbAl/Nb複合線材(c)を製造する。
(工程a)
工程(a)は、前記の過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材の表面に付着したGa残滓を物理的に除去する工程である。Ga残滓を除去する手段としては、物理的な手段が好ましく、例えば、研磨手段などが挙げられ、より具体的には、例えば、研磨紙で研磨する手段などが挙げられる。また、このような研磨手段は、摩擦熱を抑制するという点で、湿式で行われるのが好ましい。なお、Ga残滓の除去は次工程(b)の直前に行われればよく、物理的手段で除去する場合には、それに先立って、化学的な手段による除去を行っても差支えない。
工程(b)は、工程(a)で得られる、表面のGa残滓が除去されたNb−Al系線材を、該Nb−Al系線材を不動態化させない条件下で脱脂処理し、ついで酸洗浄処理する工程である。
(脱脂処理)
前記脱脂処理は、Nb−Al系線材を不動態化させない条件下で行われるが、この「Nb−Al系線材を不動態化させない条件」とは、Nb−Al系線材の表面を実質的に酸化させない条件を広く意味する。そのため、本発明の効果が大きく損なわれない範囲においてはNb−Al系線材の表面が一部酸化していてもよい。
脱脂手段としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、浸漬脱脂や陰極電解脱脂などの公知の脱脂手段が挙げられる。前記浸漬脱脂に用いる薬剤は公知のものでよく、市販されているいずれのメーカーのものでもよい。メーカー品を用いる場合には、メーカー推奨条件をそのまま適用しても支障がない。
前記陰極電解脱脂に用いる薬剤は公知のものでよく、市販のものであってよいが、好ましくは、商品名パクナエレクターZ−1(カルボン酸塩、炭酸塩およびアミン類の混合物、ユケン工業株式会社製)と水酸化ナトリウムの組み合わせ、ないしは公知の水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合物である。好適な商品名パクナエレクターZ−1と水酸化ナトリウムの組み合わせの陰極電解脱脂処理条件としては、下記表1に示される陰極電解脱脂処理条件が挙げられる。
前記酸洗浄処理は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の酸洗浄処理であってもよいが、好ましくは浸漬による酸処理または陰極電解による酸処理である。例えば、前記酸洗浄処理として、フッ化水素酸を用いる酸浸漬処理を採用する場合には、好ましい酸浸漬処理条件は、46%フッ化水素酸50〜300mL/L、温度20〜30℃および浸漬時間1〜10分間である。
硫酸とフッ化水素酸との混液を用いる陰極電解による酸処理を採用する場合には、好ましい酸処理条件は、下記表3に示される条件である。
工程(c)は、工程(b)で得られる、酸洗浄処理されたNb−Al系線材の表面を、ニッケルストライク浴を用いて、Niで電気めっきする工程である。
前記ニッケルストライク浴は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知のニッケルストライク浴であってよいが、好ましくは、ニッケルの塩化物、硫酸塩およびスルファミン酸塩からなる群から選ばれる1種または2種以上のニッケル塩と、塩酸、硫酸またはスルファミン酸とを含んでなるpH2以下の液であり、より好ましくは、ニッケルの析出と水素還元とを同時に起こせる低効率で多量の水素を発生する塩化物、硫酸塩およびスルファミン酸塩からなる群から選ばれる1種または2種以上のニッケル塩と、塩酸、硫酸またはスルファミン酸塩とを含んでなるpH2以下の液である。このような好ましいニッケルストライク浴としては、より具体的には例えば、塩化物型(ウッド)ニッケルストライク浴、硫酸塩型ニッケルストライク浴、スルファミン酸型ニッケルストライク浴などが挙げられる。
工程(d)は、工程(c)で得られる、Niで電気めっきされたNb−Al系線材の表面を、Cuで電気めっきする工程である。
工程(d)において用いられるCuめっき浴は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知のCuめっき浴であってよい。しかしながら、銅の純度や伸びを必要とするために極力添加剤を含まないものや毒性が少なく、排水処理のやりやすい浴が好ましい。そのため、ホウフッ化銅浴やシアン化銅浴は避ける方がよく、硫酸銅浴やピロリン酸銅浴が好ましく採用されるが、ピロリン酸銅浴は適正なめっき条件が50〜60℃であるため、加熱を要するという難点があり、硫酸銅浴が最も好ましい。硫酸銅浴の好ましい条件は下記表8に示すとおりである。なお、線材のさらなる伸びの特性を要すれば通常の整流電源に替えて、パルス電源ないしPR電源を利用してもよい。
(工程e)
工程(e)は、工程(d)で得られる、Cuで電気めっきされたNb−Al系線材を、酸化防止雰囲気下400〜700℃でベーキングする工程である。本工程により、Nb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線線材におけるNb−Al系線材とNiないしCu皮膜との密着性をより向上させることができるので、前記(a)〜(d)の工程に加えて実施されることが好ましい。そのため、本工程では、Nb−Al系超伝導線材のNb−Al成分をNb3Al化合物に変態させないように、400℃以上700℃未満でベーキングが行われる。前記ベーキングは、好ましくは酸化防止雰囲気下400〜650℃で、特に好ましくは酸化防止雰囲気下500〜650℃で行われる。前記酸化防止雰囲気は、好ましくは、真空または不活性ガス雰囲気である。なお、本工程のベーキングによる線径の変化は通常殆ど認められない。
工程(f)は、工程(e)で得られる、ベーキングされたNb−Al系超伝導線材を、700℃以上の温度で熱処理する工程である。本工程により、Nb−Al系超伝導線材のNb−Al成分をNb3Al化合物に変態させることができる。本工程における熱処理温度は、Nb3Al化合物への変態が可能であり、かつ銅の熔融温度より低い温度であればよく、通常700℃〜1000℃であり、好ましくは700℃を超え1000℃以下の範囲内の温度である。
なお、実施例を示す前に、本発明を完成する過程で行った試験についての実験例を示す。
(実験例1)Nb基材に銅安定化材を強固に付着させる手法の発見に関する試験
試験片として、全て2.5mm厚の純Nb板を幅10mm、長さ50mmに切断したものを利用した。また銅安定化材を被覆するめっき液として硫酸銅浴に暫定固定し、膜厚も0.1mm厚の銅めっきに固定して、めっき工程につきものの脱脂方法、不動態膜除去方法(活性化方法)、不動態化し易い金属や化学的置換を呈す金属に必須とされるストライクめっき(例えばステンレス鋼に必須とされるウッドニッケルストライクめっきや鉄材に直接銅めっきするためのシアン化銅めっきがそうである。)の有効性の有無さらには銅安定化材を被覆して後の熱処理の要否及び条件の妥当性を温度600℃、1時間の加熱条件で確認することとした。
試験条件を下記表9に取りまとめた。なお、表9中の詳細な内容は次の通りである。
前記で得られた各試験片(No.1〜No.16)につき、90°曲げ試験(前記した通り、JIS−H−8504に準拠して行う。以下同じ。)を行った。結果を表10に示す。
表10中の銅安定化密着性評価欄の記号の説明
「◎」・・素材が破壊するまで(6往復繰り返すと破断)90°曲げ試験を繰り返しても銅安定化材には剥離現象は全く認められない。
「○」・・90°曲げ試験を3往復繰り返し、4往復目で始めて銅安定化材の剥離が見られる。
「△」・・90°曲げ試験で1往復目では異常がなかったが2往復目で銅安定化材の剥離がみられる。
「×」・・90°曲げ試験で1往復を終えるまでも耐えきれず90°に曲げただけで銅安定化材の剥離が見られる。
「××」・・90°曲げ試験に迄至らず、600℃に加熱しただけで局所的に銅安定化材に膨れが発生する。
Nb表面に電気めっき技術で被覆した銅安定化材の強固な密着には最終的に熱処理(ベーキング)を行うことが極めて有効であることを知見したが、銅安定化材の熱処理による密着効果が脱水素にあるのかあるいはNb及び銅安定化材への中間膜の同時拡散層形成にあるのかという問題がクリアになっていないと同時に、条件として好ましいベーキング温度範囲が未決定のままである。そこで本発明者等は、実験例1に利用したものと同じ純Nb板を用い、銅安定化材の被覆工程を表9のNo.6の工程を利用して試料を作成し、アルゴン雰囲気炉を用いて、銅めっきのまま、300℃、400℃、500℃、600℃の各温度でベーキングした後、90°曲げ試験により銅安定化材の密着性の評価を行った。結果を表11に示す。
「◎」・・・素材のNbが破断(6往復繰り返し、7往復目に破断)してもNbからの銅安定化材の剥離は全く認められない。
「○」・・・3往復目までは異常がなかったが4往復目に銅安定化材の剥離が見られた。
「△」・・・1往復目までは異常がなかったが2往復目で銅安定化材の剥離が見られた。
これまでは主として純Nbの板材でNbと銅安定化材との密着性を得る手法に限定していたが、実際の過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材では程度の差はあれ、急熱・急冷時に利用したGa残滓がその表面に存在しているのも事実である。そこでこの影響を明らかにするために実際に過飽和固溶体化させたNb−Al系線材を利用して、Ga残滓の除去とそれが銅安定化材の密着性に及ぼす影響とを試験して、本発明を完成することができた。そのようにして完成した発明の具体例についての結果を取りまとめて、以下の実施例1、比較例1、2に於いて説明する。
本実施例では、液体Gaを冷却媒として用いる急熱急冷法により得られたNb−Al系線材を用いた。なお、この線材は0.8mmφ×40mm長さである。線材を#400エメリー紙+#800エメリー紙で表層4μm研磨除去した(工程a)。水洗後、脱脂剤として商品名パクナ100MA35g/L(ユケン工業社製脱脂剤)を用いて、温度70℃、5分の条件で浸漬脱脂し、ついで、97%硫酸200mL/Lおよび46%フッ化水素酸50mL/L、室温、陰極電流密度×時間:3A/dm2×3分の条件で陰極電解による酸処理を行った(工程b)。水洗後、塩化物型Niストライク(ウッド浴)を用いて、塩化ニッケル240g/Lおよび35%塩酸50g/L、室温、陰極電流密度×時間:3A/dm2×3分の条件で電気めっきした(工程c)。水洗後、硫酸銅浴を用いて、硫酸銅160g/L、硫酸120g/Lおよび塩素イオン20mg/L、室温、陰極電流密度×時間:3A/dm2×3時間のめっき条件で、めっき厚が0.1mmとなるように電気めっきした(工程d)。水洗後、アルゴン雰囲気炉、600℃×1時間の条件でベーキングした。このようにして、Nb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材を得た。
Ga残滓の除去工程(a)において、Ga残滓の除去を試みる方法を、研磨処理に代えて、参考例1では、63%硝酸200mL/Lおよび46%フッ化水素酸100mL/L、室温、10分の条件で浸漬処理を、参考例2では、97%硫酸200mL/Lおよび46%フッ化水素酸50mL/L、室温、陽極電流密度×時間:5A/dm2×10分の陽極電解処理を行ったこと、および参考例1〜2のいずれもが線材外径を基準に約8μm表層除去したこと以外は、実施例1と同じ操作をして参考例1〜2のNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材をそれぞれ製造した。
「◎」・・素材のNbが破断しても銅安定化材の剥離は全く認められない。(6往復繰り返し、7往復目に破断)
「△」・・3往復繰り返し4往復目に銅安定化材の剥離が見られる。
「×」・・1往復目では異常がないが2往復目で銅安定化材の剥離が見られる。
実施例1の工程aと同じ操作をして、Ga残滓を#400エメリー紙と#800エメリー紙とを用いて除去した後(工程aの後)、水洗し、ついで陰極電解脱脂した。水洗後、10容量%フッ化水素酸に室温、5分間浸漬し、ついで水洗し、実施例1の工程cと同じ操作をして、ニッケルストライクによる工程cを実施した。水洗後、実施例1で用いたのと同じ硫酸銅浴を用いて、25℃、3A/dm2の条件で、それぞれ50μm、100μm、150μm、200μm、250μmを目標に電気銅めっき皮膜を被覆して5種類の試料を作成した。それぞれに密着性を付与するために500℃で1時間、真空炉中でベーキングした後、さらに800℃で10時間、Nb3Alへの変態化目的で熱処理を行い、目標残留抵抗比(RRR)を測定した。結果を表13に示すが、銅安定化材に必要と見なされる目標残留抵抗比(RRR)を100以上とした場合には、これを満足する銅めっき安定化材の必要膜厚は、100μm以上、より好ましくは150μmであることが分かる。またNbと安定化材となる銅めっき皮膜の界面にニッケル薄膜が介在しても特性に影響しないことも明らかである。銅安定化材の密着力の程度を調査するために、500℃で1時間ベーキングした100μm目標の銅安定化材被覆線材試料をカセットローラーダイスにより伸線加工に供した。伸線前の線材径は、1.05〜1.02mmであったが伸線後には、0.668〜0.697mmと元の平均断面積の約42%の平均断面積にまで伸線されたことになる。しかし前後の線材断面を光学顕微鏡観察してもNbと銅との界面には何ら異常は見られず、また銅めっき皮膜の割れなども一切見られない。参考までに伸線前後の断面ミクロ組織を図5に示す。
そのため、本発明によって、核融合炉用マグネット、加速器用マグネット、高分解能を有する核磁気共鳴(NMR)用マグネットに有用なNb3Al化合物系超伝導線材を工業的有利に製造することができる。
Claims (15)
- 液体Ga中で冷却して得られる過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材から、Nb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材を製造する方法であって、
(a)前記Nb−Al系線材の表面に付着したGa残滓を除去する工程;
(b)工程(a)で得られる、表面のGa残滓が除去されたNb−Al系線材を、該Nb−Al系線材を不動態化させない条件下で脱脂処理し、ついで酸洗浄処理する工程;
(c)工程(b)で得られる、酸洗浄処理されたNb−Al系線材の表面を、ニッケルストライク浴を用いて、Niで電気めっきする工程;および
(d)工程(c)で得られる、Niで電気めっきされたNb−Al系線材の表面を、Cuで電気めっきする工程
を含むことを特徴とするNb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材の製造方法。 - 前記(a)〜(d)の工程に加えて、
(e)工程(d)で得られる、Cuで電気めっきされたNb−Al系線材を、酸化防止雰囲気下400℃以上700℃未満でベーキングする工程
を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。 - 工程(a)におけるGa残滓の除去を、研磨手段によって行う請求項1に記載の製造方法。
- 工程(b)における不動態化させない条件が、Nb−Al系線材の表面を実質的に酸化させない条件である請求項1に記載の製造方法。
- 工程(c)におけるニッケルストライク浴が、ニッケルの塩化物、硫酸塩およびスルファミン酸塩からなる群から選ばれる1種または2種以上のニッケル塩と、塩酸、硫酸またはスルファミン酸とを含んでなるpH2以下の液である請求項1に記載の製造方法。
- 工程(d)における電気めっきをCuの皮膜の厚さが40μm以上となるように行う請求項1に記載の製造方法。
- 工程(e)におけるベーキングを、酸化防止雰囲気下500〜650℃で行う請求項1に記載の製造方法。
- Nb3Al化合物変態前のNb−Al系超伝導線材の線径が0.1mm以上である請求項1に記載の製造方法。
- 液体Ga中で冷却して得られる過飽和固溶体の状態にあるNb−Al系線材から、Nb3Al化合物系超伝導線材を製造する方法であって、
(a)前記Nb−Al系超伝導線材の表面に付着したGa残滓を除去する工程;
(b)工程(a)で得られる、表面のGa残滓が除去されたNb−Al系線材を、該Nb−Al系線材を不動態化させない条件下で脱脂処理し、ついで酸洗浄処理する工程;
(c)工程(b)で得られる、酸洗浄処理されたNb−Al系線材の表面を、ニッケルストライク浴を用いて、Niで電気めっきする工程;
(d)工程(c)で得られる、Niで電気めっきされたNb−Al系線材の表面を、Cuで電気めっきする工程;
(e)工程(d)で得られる、Cuで電気めっきされたNb−Al系線材を、酸化防止雰囲気下400℃以上700℃未満でベーキングする工程;および
(f)工程(e)で得られる、ベーキングされたNb−Al系線材を、700℃以上の温度で熱処理する工程
を含むことを特徴とするNb3Al化合物系超伝導線材の製造方法。 - 工程(a)におけるGa残滓の除去を、研磨手段によって行う請求項9に記載の製造方法。
- 工程(b)における不動態化させない条件が、Nb−Al系線材の表面を実質的に酸化させない条件である請求項9に記載の製造方法。
- 工程(c)におけるニッケルストライク浴が、ニッケルの塩化物、硫酸塩およびスルファミン酸塩からなる群から選ばれる1種または2種以上のニッケル塩と、塩酸、硫酸またはスルファミン酸とを含んでなるpH2以下の液である請求項9に記載の製造方法。
- 工程(d)における電気めっきをCuの皮膜の厚さが40μm以上となるように行う請求項9に記載の製造方法。
- 工程(e)におけるベーキングを、酸化防止雰囲気下500〜650℃で行う請求項9に記載の製造方法。
- 工程(f)における熱処理を、700℃〜1000℃の温度で行う請求項9に記載の製造方法。
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