JP3687346B2 - Nb3 Al系超電導線およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Nb3 Al系超電導線およびその製造方法に関し、特に、金属Nb層と安定化材との間に剥離を発生させる惧れのないNb3 Al系超電導線およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のNb3 Al系超電導線として、たとえば、東北大学発行の平成8年度東北大学金属材料研究所年次報告書に掲載された「大電流容量急熱急冷法Nb3 Al線材の高磁界特性」に示されるような超電導線が知られている。
【0003】
この超電導線は、トータル外径が1mm前後のNb3 Al超電導フィラメントの束を芯材として使用し、これに厚さ0.2mm前後の金属Nb層を被せた構造を有する。
【0004】
この超電導線の周囲には、クエンチ時の保障のために銅、銀等の安定化材が設けられ、通常、この安定化材は、メッキ、テープ材の巻き付け、あるいは押し出し等によって形成される。
【0005】
このタイプの超電導線にとって重要なことは、金属Nb層と安定化材とが強固に密着していることであり、これが不充分になると、最終製品に加工するときの加工性に問題が生ずるようになる。
【0006】
密着不足からくる加工上の問題は、製品を曲げ加工するときに安定化材が剥離する現象となって現れるが、このことは芯材と安定化材との導通性の不足を意味するものであり、延いては、クエンチが発生したときに、安定化材が本来の役割を果たせなくなることを意味するものである。
【0007】
従って、金属Nb層上に安定化材を形成するにあたっては、たとえば、酸洗浄を行うなどして、金属Nb層の表面状態に細心の注意を払う必要がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のNb3 Al系超電導線によると、製品の製造過程においてNb酸化膜(不働態皮膜)が金属Nb層の表面に生成することは不可避的であり、そのうえ、Nb酸化物の場合、結合力が強固であることから、その除去が難しく、また、仮に酸洗浄により酸化膜を除去し得たとしても、その後の水洗浄や搬送等を経るうちに、再度、酸化膜が生成してしまうことになる。
【0009】
Nb酸化膜は密着障壁としての作用が大きく、このため、芯材と安定化材間に充分な密着状態を確保することができず、結果として、製品加工時に芯材と安定化材間に剥離を発生させ、クエンチ時の導通性を低下させるようになる。
【0010】
従って、本発明の目的は、金属Nb層と安定化材間を強固に密着させたNb3 Al系超電導線およびその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を達成するため、Nb3Alのフィラメントによって構成された超電導線束と、前記超電導線束の上に設けられた金属Nb層と、前記金属Nb層の外周に形成された安定化材とから構成され、前記金属Nb層の表面には、厚さが50nm以下である酸化膜を介して、メッキ処理による厚さが少なくとも0.5μm以上である導電性金属膜を密着形成したことを特徴とするNb3を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、Nb3Alのフィラメントにより構成された超電導線束を被覆する金属Nb層を酸液で酸洗浄することによって、前記金属Nb層表面の不純物を除去した後、前記金属Nb層表面を水洗して前記金属Nb層の周囲に安定化材を形成する超電導線の製造方法において、前記安定化材を形成する前に、前記金属Nb層表面へメッキ処理による少なくとも0.5μm以上の厚さの導電性金属膜を形成し、前記水洗における洗浄水として脱気処理をした洗浄水を使用し、前記金属Nb層が、少なくとも前記水洗を終えて前記メッキ処理に至るまでの間、前記金属Nb層を大気から隔離し、前記不純物を50nm以下の厚さに抑制することを特徴とするNb3Al系超電導線の製造方法を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、上記の目的を達成するため、Nb3Alのフィラメントにより構成された超電導線束を被覆した金属Nb層を酸液で酸洗浄することによって、前記金属Nb層表面の不純物を除去した後、前記金属Nb層の周囲に安定化材を形成する超電導線の製造方法において、前記安定化材を形成する前に、前記金属Nb層表面へメッキ処理による少なくとも0.5μm以上の厚さの導電性金属膜を形成し、前記酸液と、前記メッキ処理におけるメッキ液として、同一ないしは類似した化学組成の溶液を使用し、前記酸洗浄と前記メッキ処理を、相互間に水洗処理を介在させることなく連続させ、前記不純物を50nm以下の厚さに抑制することを特徴とするNb3Al系超電導線の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、Nb 3 Alのフィラメントにより構成された超電導線束を被覆する金属Nb層を酸液で酸洗浄することによって、前記金属Nb層表面の不純物を除去した後、前記金属Nb層の周囲に安定化材を形成する超電導線の製造方法において、Nb3Alのフィラメントにより構成された超電導線束を少なくとも0.5μm以上の厚さの金属Nb層で被覆したNb被覆超電導線束を準備し、導電性金属のメッキ液中で前記Nb被覆超電導線束を陽極とし、前記メッキ液を陰極として前記金属Nb層を溶解洗浄し、前記金属Nb層表面の不純物を50nm以下の厚さに除去した後、前記メッキ液中で前記Nb被覆超電導線束を陰極とし、前記メッキ液を陽極として前記金属Nb層の外周に導電性金属膜を形成し、前記不純物を50nm以下の厚さに抑制して前記導電性金属膜の外周に安定化材を形成することを特徴とするNb3Al系超電導線の製造方法を提供するものである。
【0015】
金属Nb層の表面に形成される導電性金属膜は、主に銅メッキ膜によって構成され、その厚さは少なくとも0.5μmであることが望ましい。0.5μm未満になると、このメッキ膜による密着媒体としての効果が不足するようになることから、金属Nb層と安定化材との間に良好な密着状態を作り出せず、曲げ加工時に安定化材が剥離するようになる。
【0016】
導電性金属膜の上限厚さは5μmに設定すべきであり、これを超える厚さは、金属Nb層と安定化材間を密着させるための媒介材としては過剰である。
【0017】
金属Nb層と銅メッキ膜の密着状態は、銅メッキ膜を構成する銅の純度によっても影響を受ける。99.9%以上の純度とすることが望ましく、これを下廻ると充分な密着状態を確保しにくゝなる。
【0018】
超電導線束は、多くの場合、断面円形に成型され、その場合の金属Nb層を加えた外径寸法は、0.1〜10mmの範囲内にあることが実用上から見て好ましい。また、安定化材は銅メッキ膜あるいは銀メッキ膜によって形成すべきであり、その厚さとしては、5〜500μmの範囲内であることが望ましい。従来と同様に、テープ材の巻き付け、あるいは押し出し等によって安定化材を形成することは可能である。
【0019】
金属Nb層と導電性金属膜との間には、Nb酸化膜等の不純物をいっさい存在させないことが理想であるが、現実には有り得ない。このため、本発明においては、“酸化膜等の不純物を実質的に介在させることなく”としているものであり、具体的には50nmの厚さまで、その存在は許される。
【0020】
不純物の厚さが50nm以下であれば、金属Nb層の地肌が露出しているのと実質的に同じであり、従って、金属Nb層とメッキ処理による導電性金属膜とを強固に密着させることができる。不純物の厚さが60nmのレベルになると、良好な密着状態を得ることが難しく、曲げ加工時に安定化材が剥離するようになる。
なお、最も好ましい不純物の厚さは5nm以下である。
【0021】
【0012】と【0013】における酸液、および【0014】におけるメッキ液としては、フッ素化合物を含有することが好ましく、このフッ素化合物としては、たとえば、フッ化水素が使用される。
【0022】
フッ化水素を含有した酸液およびメッキ液を使用するときには、金属Nb層表面のNb酸化膜を効率よく除去することができる。良好な不純物除去効果を得るためには、酸液、メッキ液いずれの場合にも、1重量%(以下、%は重量%とする)以上のフッ化水素を含有することが望ましい。
【0023】
【0012】の製造方法においては、金属Nb層は、少なくとも水洗を終えてメッキ処理に至るまでの間、大気から隔離されるが、この隔離の程度は、たとえば、水洗槽の出口からメッキ槽の入口までを気密的にシールして窒素ガスなどの不活性ガスを封入するような完全隔離が最も望ましいが、これをたとえば、酸洗浄工程を出た後、数秒以内にメッキ槽へ導入することによって大気との接触を極力抑制し、これをもって大気からの隔離とする考え方は可能である。
【0024】
また、完全隔離を行う場合、シールは、酸洗浄槽の出口からメッキ槽の入口までをカバーすることが望ましく、このようにするときには、隔離がより完璧なものとなる。
【0025】
【0013】の製造方法において、酸洗浄とメッキ処理とを連続させる形態としては、両者を直接連結したり、あるいは両者を同じ槽内に設定することなどが好適な例として考えられるが、必要によっては酸洗浄とメッキ処理とを互いに離れた位置に設定してもよい。
【0026】
その場合の酸洗浄部とメッキ処理部間の距離としては、金属Nb層表面の酸化を防止する意味から、酸洗浄を終えた金属Nb層が酸液で濡れていて、従って、付着酸液による浄化機能が維持されている間に、メッキ処理部へ導入できるような距離とすべきである。
【0027】
そして、この製造方法の場合には、酸洗浄の酸液とメッキ処理におけるメッキ液として、同一ないしは類似の溶液を使用することから、酸液によるメッキ液の汚染と、それによるメッキ機能への影響についての心配がなく、これまで、酸液とメッキ液をこのように構成した例はない。
【0028】
【0014】の製造方法は、【0013】をさらに進展させたもので、この場合には、酸洗浄とメッキ処理の区別はなく、金属Nb層はメッキ液によって酸洗浄されることになる。
【0029】
【0013】と【0014】の場合には、従来、酸洗浄後には必ず行ってきたメッキ処理前の水洗が不要となることから、洗浄水の水質チェック等を省略することができ、従って、これによる管理上の利益を得ることができる。
【0030】
また、酸洗浄とメッキ処理を距離を置いて設定するような場合、酸洗浄後の金属Nb層表面は、付着した酸液の浄化機能によって大気による酸化作用から保護されることになるが、水洗の場合には、付着した洗浄水に浄化機能はなく、金属Nb層を保護することはできない。このことからも水洗の省略には意味がある。
【0031】
酸洗浄のための酸液および導電性金属膜形成のためのメッキ液として共用される溶液の中には、フッ素化合物以外に、硫酸銅や硼フッ化銅のような金属の無機塩がメッキ成分として含有させられるが、さらに、この溶液の中に、pH緩衝剤を含有させたり、硝酸等の他の酸を、たとえば、2%程度含有させることは可能である。
【0032】
優れた酸洗浄機能と優れたメッキ機能とを同時に備える溶液の例として、フッ化水素1〜40%、銅の無機塩5〜40%、およびpH緩衝剤成分5〜30%を含む溶液を挙げることができ、特に、この溶液におけるフッ化水素の下限値1%は、金属Nb層表面の酸化膜除去のための重要な要素であり、濃度がこれを下廻ると酸化膜の除去が難しくなる。
【0033】
金属Nb層の表面に導電性金属膜を形成した後、または導電性金属膜上に安定化材を形成する途中、あるいは安定化材を形成した後に、導電性金属膜または安定化材の上から絞り力を付加することは好ましく、このようにするときには、金属Nb層と導電性金属膜間の密着力、延いては金属Nb層と安定化材間の密着力をより強固なものとすることができる。
【0034】
絞り力を加える手段としては、製品外径と近似した内径を有するダイスでの線引きが好適であり、金属Nb層と導電性金属膜とは、メタルフロー的作用によって強固に密着するようになる。また、ダイスによる線引き加工には、電流密度のバラツキ等によるメッキ表面の凹凸を平坦化させる効果があり、この意味からも有用である。
【0035】
導電性金属膜形成後か、導電性金属膜上に安定化材を形成する途中、あるいは安定化材形成後のいずれかの段階において、製品を加熱し、これにより脱水素処理を施す場合には、各層間の密着力を維持するうえにおいて効果がある。このための加熱温度としては、製品の製造段階に応じて50〜600℃の範囲内に設定することができる。
【0036】
この加熱処理は、超電導線を製造する過程において、製品の中に取り込まれた水素を除去するために行われるもので、水素は、製品を繰り返し折り曲げたときに層間剥離の要因となる存在であり、従って、上記の加熱処理は、超電導線としての品質を高めるうえにおいて効果がある。
【0037】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、以下に述べる実施例と参考例において製造されるNb3 Al系超電導線の断面図を示したもので、1は外径が76μmでマトリックス比0.8のNb3 Alフィラメント150本を断面円形に束ねた超電導線束、2は外径が1.25mmとなるように超電導線束1の上に形成された金属Nb層、3は金属Nb層2上に形成された銅メッキ膜、4はメッキにより形成された銅または銀の安定化材を示す。
【0038】
【実施例1〜3】
超伝導線束1の周囲に形成された金属Nb層2の表面を10%濃度のフッ化水素溶液で酸洗浄することにより、金属Nb層表面のNb酸化膜等を除去した後、これを溶存酸素を脱気した洗浄水に浸漬して直ちに水洗し、水洗完了後5秒以内に市販の硼フッ化銅メッキ液に浸漬し、電流密度1A/dm2 の電流を通電することによって、それぞれ0.5μm厚(実施例1)、2.0μm厚(実施例2)、および5.0μm厚(実施例3)の銅メッキ膜(純度99.9%)3を形成した。
【0039】
次に、通常通り、これらの線材を市販のシアン化銅メッキ液またはシアン化銀メッキ液の中に浸漬し、通電することにより、銅メッキ膜3の上に銅(実施例1、2)または銀(実施例3)の安定化材4を50μmの厚さに形成し、これによりそれぞれの実施例におけるNb3 Al系超電導線を製造した。
【0040】
【実施例4】
図2は、この実施例において使用された設備の構造を示したものである。
5は酸洗浄槽、6は酸洗浄槽5に収容された酸液、7は水洗槽、8は洗浄水、9はメッキ槽、10はメッキ液、1′はこれらの中を通過する線材を示し、Nb3 Alフィラメントの超電導線束1と金属Nb層2とから成る。
【0041】
酸液6、洗浄水8およびメッキ液10は、それぞれの槽5、7、9の前後に設けられた液受け5a、5b、7a、7b、9a、9bの中に11、11・・・のようにオーバーフローし、ポンプ12、13、14によって再びそれぞれの槽5、7、9へと戻されるように構成されている。
【0042】
15、16、17は、液受け5b、7a、7b、9aと水洗槽7を覆うように形成された密閉槽を示し、それぞれその内部には窒素ガスが封入されており、これにより線材1′は、これらの個所を通過する間、大気から隔離される。
【0043】
以上の設備を使用し、下記条件のもとで、線材1′の金属Nb層2の表面に純度99.9%の銅メッキ膜3を1μmの厚さに形成した後、さらに、別工程において、市販のシアン化銅メッキ液を使用することにより、銅メッキ膜3の上に50μm厚さの銅安定化材4を形成し、所定のNb3 Al系超電導線を得た。
(1)酸液6:3%濃度のフッ化水素溶液
(2)洗浄水8:脱気水
(3)メッキ液10:硼フッ化銅メッキ液
(4)電流密度:1A/dm2
【0044】
金属Nb層2の表面のNb酸化膜等の不純物は、酸液6によって除去され、これにより清浄化された金属Nb層2は酸洗浄槽5からメッキ槽9に至る間、大気から隔離される。この結果、金属Nb層2の表面にNb酸化膜等が介入する余地はなく、従って、銅メッキ膜3は金属Nb層2の表面へ良好な状態で密着形成されることになる。
【0045】
銅メッキ膜3形成後、仮に、線材1′を高温・高湿の大気中に長期間放置したとしても、金属Nb層2は銅メッキ膜3によって保護されていることから、その後の安定化材4の形成に支障を与える惧れはなく、常に良質の超電導線を製造することができる。
【0046】
図2の装置において、密閉槽15を省略し、密閉槽を16と17だけとすることは可能である。
【0047】
【実施例5】
図3に、この実施例において使用した設備の構造を示す。
この洗浄メッキ装置の特徴は、槽の数を1個とした点と、この1個の槽18を酸洗浄槽19とメッキ槽20とに区分し、さらに、これらの槽19、20をA部において連通させた点と、従来、例外なく使用されていた水洗槽を省略した点にある。
【0048】
酸洗浄槽19とメッキ槽20には、所定量のフッ化水素と硼フッ化銅と硫酸銅とを含有したメッキ液が共通の浴液21として収容されている。
【0049】
22は酸洗浄槽19の中に浸漬された陰極、23はメッキ槽20の中に浸漬された陽極を示し、これらはそれぞれ電源24、25の対応する極性に接続され、一方、これら電源の反対極は線材1′に接続されている。26、27はその接続部である。
【0050】
以上の構成のもと、電源24、25から通電(電流密度:1A/dm2 )することにより、線材1′の金属Nb層2上に1μm厚さの銅メッキ膜(純度99.9%)3を形成し、さらに、別工程において、市販のシアン化銅メッキ液を使用することにより、銅メッキ膜3の上に銅の安定化材4を50μmの厚さにメッキし、これによりNb3 Al系超電導線を製造した。
【0051】
この間、線材1′表面の金属Nb層2は、酸洗浄槽19の中でカソード溶解し、一方、メッキ槽20の中では銅メッキ膜を形成されることになるが、このように同じ浴液21の中で酸洗浄と銅メッキ膜形成が連続して行われる結果、銅メッキ膜3を形成する前に、金属Nb層2の表面にNb酸化膜等が生成することはなく、従って、銅メッキ膜3は強固に密着形成されることになる。
【0052】
そして、金属Nb層2が銅メッキ膜3によって保護されるので、安定化材4を形成するまでの間、これを大気中に晒したとしても、安定化材4の形成に支障をきたすようなことはない。
【0053】
図3の場合のもう一つの利点は、金属Nb層2が浴液21の中に溶解する結果、金属Nb層2の表面がより清浄化されることであり、これによって金属Nb層2と銅メッキ膜3の密着はさらに強固なものとなる。
【0054】
なお、図3の洗浄メッキ装置において、酸洗浄槽19とメッキ槽20の間の隔壁Bを除去することは可能である。また、この装置に使用する浴液21としては、フッ化水素が1〜30%、硼フッ化銅が5〜30%、および硫酸銅が5〜40%の範囲内において調合された溶液が好適であり、実施例5ではフッ化水素濃度を5%に設定したものが使用された。
【0055】
【実施例6】
実施例5の浴液21におけるフッ化水素の濃度を30%とし、他を実施例5と同一条件に設定することにより、所定のNb3 Al系超電導線を製造した。
【0056】
【実施例7】
実施例6における超電導線の銅安定化材4を40μmの厚さに形成し、さらに、この超電導線の外径よりも僅かに小さな内径のダイスを使用して線引を行い、所定のNb3 Al系超電導線を製造した。
【0057】
【参考例1、2】
前述の実施例1〜3において、銅メッキ膜3を0.05μmの厚さ(参考例1)と50μmの厚さ(参考例2)に形成し、他を実施例1〜3と同じ条件に設定することによって、所定のNb3 Al系超電導線を製造した。
【0058】
【参考例3】
実施例5において、浴液21におけるフッ化水素濃度を0.5%とし、他を実施例5と同一条件に設定することにより、Nb3 Al系超電導線を製造した。
【0059】
【参考例4】
実施例1〜3におけるフッ化水素溶液の代わりに5%の硫酸と10%の過酸化水素を含む溶液を使用し、他を実施例1〜3と同一条件に設定することにより、所定のNb3 Al系超電導線を製造した。
【0060】
【参考例5】
実施例1〜3において、洗浄水として脱気処理をしていない洗浄水を使用し、他を実施例1〜3と同一条件に設定することにより、所定のNb3 Al系超電導線を製造した。
【0061】
次に、以上の各実施例および参考例における要点と、これら各例によって得られた超電導線を対象として行った試験の結果を表1に示す。試験は、サンプルを曲率半径5Rで180°に曲げたときの金属Nb層2と銅メッキ膜3間における剥離の発生有無を観察することによって行われた。
【0062】
表1に酸化膜厚さとして示されている数値は、サンプル短片をオージェ分析機に入れて液体窒素で冷却した後、真空中でサンプルを破壊したときの、金属Nb層2の表面または銅メッキ膜3の内面に付着していた酸化膜のオージェ分析結果である。
【0063】
【表1】
【0064】
この表1によれば、本発明による実施例1〜7がいずれも微小剥離ないしは剥離無の評価であるのに比べ、参考例1〜5は2を除けばいずれも剥離有であり、両者間には明確な差が認められる。以下、それぞれについて考察する。
【0065】
なお、実施例1〜3における微小剥離は、クエンチ時の導通性に影響を及ぼすような状態からはほど遠いものであり、実用上問題のない微細なものである。
【0066】
この微小剥離の発生は、金属Nb層2が、水洗槽を出てから銅メッキ膜3を形成するためのメッキ槽に入るまでの僅かの時間(5秒以内)、大気に晒されたことが原因しているものと思われる。
【0067】
実施例4の場合には、酸洗浄後、金属Nb層2の表面に銅メッキ膜3が形成されるまでの間、金属Nb層2を大気から完全に隔離し、さらに、脱気処理によって溶存酸素を除去した洗浄水を使用していることから、残存酸化膜の厚さは4nmと極端に薄く、従って、金属Nb層2と銅メッキ膜3の間は強固に密着しており、剥離の発生はない。
【0068】
実施例5〜7の場合には、酸洗浄と銅メッキ膜のメッキとが同じ浴液の中で行われたことから、金属Nb層2の表面に酸化膜が介在する余地はほとんどなく、従って、これらの場合にも残存酸化膜は4nmと薄く、当然、剥離の発生はない。
【0069】
また、実施例7の場合には、ダイスでの線引きを行っており、線引時に加わる圧力によって金属Nb層2と銅メッキ膜3とは、より強固に密着させられている。
【0070】
参考例1は、銅メッキ膜3の厚さが0.05μmと薄かったことから、銅メッキ膜3が下地メッキないしは密着媒体としての役割を果たせなかったゝめに、剥離が発生したものと推定される。
【0071】
参考例2は、逆に、銅メッキ膜3の厚さを50μmと極端に厚くした例であり、従って、当然、剥離の発生はないが、厚さが過剰であって無意味であり、作業効率も極端に低下することから好ましくない。
【0072】
参考例3は、酸液のフッ化水素濃度を0.5%に設定した例であるが、酸洗浄時の洗浄力が低いために、金属Nb層2の表面に生成している酸化膜を除去できず、従って、酸化膜も80nmと厚くなり、剥離が発生している。
【0073】
参考例4および5は、酸液としてフッ化水素を含有しない酸液を使用した例と、脱気処理をしていない洗浄水を使用した例であるが、それぞれ200nm厚さと60nm厚さの酸化膜を生成させており、剥離が発生している。
【0074】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による超電導線によれば、Nb3 Alの超電導線束を被覆する金属Nb層の表面に、酸化膜等の不純物を実質的に介在させることなくしてメッキ処理による導電性金属膜を密着形成し、この金属膜の上に安定化材を設けることによって超電導線としたものであることから、導電性金属膜の存在が金属Nb層と安定化材間の密着を媒介するように作用することになり、従って、金属Nb層と安定化材との間に強固な密着状態を作り出すことができ、曲げ加工時に安定化材が剥離するようなことはなくなる。
【0075】
また、本発明による超電導線の製造方法によれば、金属Nb層の周囲に安定化材を形成する前に、金属Nb層の表面へメッキ処理による導電性金属膜を形成し、さらに、この導電性金属膜を形成するにあたっては、製品が酸洗浄後の水洗を終えて導電性金属膜形成のためのメッキ処理に至るまでの間、金属Nb層を大気から隔離するか、または、酸洗浄の酸液と導電性金属膜形成のためのメッキ液とを同一ないしは類似した溶液とすることにより、酸洗浄と導電性金属膜形成のためのメッキ処理とを連続させるか、あるいは、酸洗浄を導電性金属膜形成のためのメッキ液で行うかのいずれかによって、導電性金属膜形成以前における金属Nb層表面への酸化膜形成を防止するものであることから、金属Nb層と導電性金属膜とは、これら相互間に酸化膜等の不純物を介在させることなく、強固に密着させられることになる。
【0076】
従って、その後に、導電性金属膜の上に安定化材を形成すれば、導電性金属膜が密着媒体として作用することから、金属Nb層と安定化材とは強力に密着させられることになる。
【0077】
これにより、曲げ加工時における安定化材の剥離は防止され、良質のNb3 Al系超電導線が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】Nb3 Al系超電導線の断面図。
【図2】本発明の超電導線製造方法の実施形態において使用された設備の構造説明図。
【図3】本発明の超電導線製造方法の実施形態において使用された他の設備の構造説明図。
【符号の説明】
1 超電導線束
1′ 線材
2 金属Nb層
3 銅メッキ膜
4 安定化材
5、19 酸洗浄槽
6 酸液
7 水洗槽
8 洗浄水
9、20 メッキ槽
10 メッキ液
15、16、17 密閉槽
19 酸洗浄槽
20 メッキ槽
21 浴液
22 陰極
23 陽極
24、25 電源
Claims (14)
- Nb3Alのフィラメントによって構成された超電導線束と、前記超電導線束の上に設けられた金属Nb層と、前記金属Nb層の外周に形成された安定化材とから構成され、前記金属Nb層の表面には、厚さが50nm以下である酸化膜を介して、メッキ処理による厚さが少なくとも0.5μm以上である導電性金属膜を密着形成したことを特徴とするNb3Al系超電導線。
- 前記導電性金属膜は、厚さが0.5〜5μmの銅メッキ膜であり、前記安定化材は、厚さが5〜500μmの銅メッキ膜あるいは銀メッキ膜であることを特徴とする請求項第1項記載のNb3Al系超電導線。
- 前記銅メッキ膜は、純度が99.9%以上の銅によって構成されたことを特徴とする請求項第2項記載のNb3Al系超電導線。
- 前記金属Nb層を加えた前記超電導線束は、0.1〜10mmの外径を有し、その外周に厚さが0.5〜5μmの前記導電性金属膜と、厚さが5〜500μmの前記安定化材を設けたことを特徴とする請求項第1項記載のNb3Al系超電導線。
- Nb3Alのフィラメントにより構成された超電導線束を被覆する金属Nb層を酸液で酸洗浄することによって、前記金属Nb層表面の不純物を除去した後、前記金属Nb層表面を水洗して前記金属Nb層の周囲に安定化材を形成する超電導線の製造方法において、
前記安定化材を形成する前に、前記金属Nb層表面へメッキ処理による少なくとも0.5μm以上の厚さの導電性金属膜を形成し、
前記水洗における洗浄水として脱気処理をした洗浄水を使用し、
前記金属Nb層が、少なくとも前記水洗を終えて前記メッキ処理に至るまでの間、前記金属Nb層を大気から隔離し、前記不純物を50nm以下の厚さに抑制することを特徴とするNb3Al系超電導線の製造方法。 - 前記酸液は、フッ化水素のようなフッ素化合物を1重量%以上含有することを特徴とする請求項第5項記載のNb3Al系超電導線の製造方法。
- Nb3Alのフィラメントにより構成された超電導線束を被覆する金属Nb層を酸液で酸洗浄することによって、前記金属Nb層表面の不純物を除去した後、前記金属Nb層の周囲に安定化材を形成する超電導線の製造方法において、
前記安定化材を形成する前に、前記金属Nb層表面へメッキ処理による少なくとも0.5μm以上の厚さの導電性金属膜を形成し、
前記酸液と、前記メッキ処理におけるメッキ液として、同一ないしは類似した化学組成の溶液を使用し、前記酸洗浄と前記メッキ処理を、相互間に水洗処理を介在させることなく連続させ、前記不純物を50nm以下の厚さに抑制することを特徴とするNb3Al系超電導線の製造方法。 - 前記酸液の中に陰極を浸漬し、前記メッキ液の中に陽極を浸漬し、
前記酸液の側に位置する前記超電導線束に陽極を接続し、前記メッキ液の側に位置する前記超電導線束に陰極を接続し、
前記酸液中の陰極と前記超電導線束に接続された陽極との間、および前記メッキ液中の陽極と前記超電導線束に接続された陰極との間に通電することを特徴とする請求項第7項記載のNb3Al系超電導線の製造方法。 - 前記溶液は、フッ化水素のようなフッ素化合物を1重量%以上含有することを特徴とする請求項第7項または第8項記載のNb3Al系超電導線の製造方法。
- Nb 3 Alのフィラメントにより構成された超電導線束を被覆する金属Nb層を酸液で酸洗浄することによって、前記金属Nb層表面の不純物を除去した後、前記金属Nb層の周囲に安定化材を形成する超電導線の製造方法において、
Nb3Alのフィラメントにより構成された超電導線束を少なくとも0.5μm以上の厚さの金属Nb層で被覆したNb被覆超電導線束を準備し、
導電性金属のメッキ液中で前記Nb被覆超電導線束を陽極とし、前記メッキ液を陰極として前記金属Nb層を溶解洗浄し、前記金属Nb層表面の不純物を50nm以下の厚さに除去した後、
前記メッキ液中で前記Nb被覆超電導線束を陰極とし、前記メッキ液を陽極として前記金属Nb層の外周に導電性金属膜を形成し、前記不純物を50nm以下の厚さに抑制して前記導電性金属膜の外周に安定化材を形成することを特徴とするNb3Al系超電導線の製造方法。 - 前記メッキ液は、フッ化水素のようなフッ素化合物を1重量%以上含有することを特徴とする請求項第10項記載のNb3Al系超電導線の製造方法。
- 前記超電導線束は、前記導電性金属膜形成後、または前記安定化材形成途中、あるいは前記安定化材形成後のいずれかの段階において、前記導電性金属膜または前記安定化材の上から絞り加工を施されることを特徴とする請求項第5項ないし第11項のいずれかに記載のNb3Al系超電導線の製造方法。
- 前記超電導線束は、前記導電性金属膜形成後、または前記安定化材形成途中、あるいは前記安定化材形成後のいずれかの段階において、所定の温度に加熱され、これにより脱水素処理を施されることを特徴とする請求項第5項ないし第11項のいずれかに記載のNb3Al系超電導線の製造方法。
- 前記導電性金属膜は、銅メッキ膜であり、前記安定化材は、銅メッキ膜あるいは銀メッキ膜であることを特徴とする請求項第5項ないし第13項記載のNb3Al系超電導線の製造方法。
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