JP3620085B2 - 車両の振動低減装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、エンジン等の振動発生源から発生する周期的な振動又は騒音に起因する車室内の振動又は騒音を低減する車両の振動低減装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、車両の振動低減装置として、例えば特公平2−21462号公報に開示されるように、車体振動を低減するための振動を発生する加振機と、車体振動を検出する加速度センサとを備え、該加速度センサの検出信号を受けながら上記加振機から発生する振動の位相やゲイン等を変更するフィードバック制御を行うことにより、車体振動を可及的に低減するようにしたものは知られている。
【0003】
また、近年、車体振動とは別に、エンジン騒音や排気音等に起因する車室内の騒音を低減するいわゆる騒音低減装置も開発され、公知になっている。例えば特開平5−173581号には、車室内の騒音を打ち消す音を発生するスピーカと、車室内の騒音を集音するマイクロホンとを備え、該マイクロホンの信号を受けながら上記スピーカからの発生音の位相やゲイン等を変更するフィードバック制御を行うことが開示されている。尚、騒音は空気中を伝播する振動であり、騒音低減装置は振動低減装置の一種と見做すことができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、エンジンに起因する車室内の振動(騒音を含む)は、エンジン負荷が変化するときにはそれに伴ってそのレベルが大きく変化する。例えば変速機の変速ギヤ位置を走行レンジと非走行レンジとの間で変更するとき、車両に搭載したエアコンのON−OFF切換えをするとき、及びエンジン回転数を急激にかつ大幅に変化させたときなどである。このような場合、従来の振動低減装置におけるフィードバック制御では、変化前後の車両状態でそれぞれ車室内の振動が最小となるように制御するが、振動を低減しても車両状態の変化前後で振動レベルが異なり、その振動レベルの変化が乗員に違和感を与えるという問題がある。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジン負荷が相違する二つの車両状態間で車両状態が変化するとき、その変化前後で振動レベルを略同一にすることにより、乗員に違和感を与えない良好な振動低減効果を発揮できる車両の振動低減装置を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に係わる発明は、車両の振動低減装置として、振動発生源からの周期的な車両振動を低減するための振動を発生するアクチュエータと、車両振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段で検出される車両振動が最小となるように上記アクチュエータから発生する振動の少なくとも位相を変更する制御手段とを備えることを前提とする。そして、更に、エンジン負荷が大きい第1の車両状態とエンジン負荷が小さい第2の車両状態とを判別する車両状態判別手段と、上記第1の車両状態で上記制御手段の制御によりアクチュエータが作動して車両振動を低減したときの振動レベルを記憶する記憶手段と、上記第2の車両状態のときの振動レベルが上記記憶手段に記憶された振動レベルと略同一になるように上記制御手段の制御を規制する規制手段とを備える構成とする。
【0007】
請求項2に係わる発明は、請求項1に係わる発明と同じく、アクチュエータと振動検出手段と制御手段とを備えた車両の振動低減装置において、更に、エンジン負荷が大きい第1の車両状態とエンジン負荷が小さい第2の車両状態とを判別する車両状態判別手段と、上記第2の車両状態でかつ上記アクチュエータが作動していないときの振動レベルを記憶する記憶手段と、上記第2の車両状態のとき上記アクチュエータの作動を中止する一方、上記第1の車両状態のとき上記記憶手段に記憶した振動レベルに近付けるように、上記制御手段の制御を規制する規制手段とを備える構成とする。
【0008】
請求項3及び4に係わる発明は、いずれも請求項1又は2記載の車両の振動低減装置における一つの態様を示す。すなわち、請求項3に係わる発明は、車両振動が車体振動の場合であり、上記アクチュエータは加振機であり、上記振動検出手段は加速度センサである。また、請求項4に係わる発明は、車両振動が車室内騒音の場合であり、上記アクチュエータはスピーカであり、上記振動検出手段はマイクロホンである。
【0009】
請求項5〜7に係わる発明は、いずれも請求項1又は2記載の車両の振動低減装置において、エンジン負荷が相違する第1及び第2の車両状態の具体的態様を示す。すなわち、請求項5に係わる発明では、上記第1の車両状態は変速機の変速ギヤ位置が走行レンジのときであり、上記第2の車両状態は変速機の変速ギヤ位置が非走行レンジのときである。請求項6に係わる発明では、上記第1の車両状態はエアコンの作動時であり、上記第2の車両状態はエアコンの非作動時である。更に、請求項7に係わる発明では、上記第1の車両状態はエンジン回転数が高い高回転域であり、上記第2の車両状態はエンジン回転数が低い低回転域である。
【0010】
請求項8に係わる発明は、請求項1又は2記載の車両の振動低減装置において、その一つの構成要素である記憶手段の好ましい態様を示す。つまり、上記記憶手段は、第1の車両状態で制御手段の制御によりアクチュエータが作動して車両振動を低減したときの振動レベルを記憶する場合(請求項1の場合)、又は第2の車両状態でかつアクチュエータが作動していないときの振動レベルを記憶する場合(請求項2の場合)、燃料タンク内の残量が相互に異なる複数の領域毎に振動レベルを記憶するものである。
【0011】
請求項9に係わる発明は、請求項1又は2記載の車両の振動低減装置において、その一つの構成要素である規制手段の具体的態様を示す。つまり、上記規制手段は、制御信号のゲインを調整するものである。
【0012】
【作用】
上記の構成により、請求項1に係わる発明では、エンジン等の振動発生源から周期的な車両振動(騒音を含む)が発生するときには、その振動を振動検出手段(加速度センサ又はマイクロホン)で検出するとともに、制御手段の制御の下に、検出した振動が最小となるようにアクチュエータ(加振機又はスピーカ)から発生する振動の位相の変更する。このフィードバック制御中には、エンジン負荷が大きい第1の車両状態(例えば変速機の変速ギヤ位置が走行レンジのとき、エアコンの作動時又はエンジン回転数が高い高回転域のとき)とエンジン負荷が小さい第2の車両状態(例えば変速機の変速ギヤ位置が非走行レンジのとき、エアコンの非作動時又はエンジン回転数が低い低回転域のとき)とを車両状態判別手段で判別しながら、上記第1の車両状態で上記制御手段の制御によりアクチュエータが作動して車両振動を低減したときの振動レベルを記憶手段で記憶する。そして、上記第2の車両状態のときには、規制手段で上記制御手段の制御を規制すること(例えば制御信号のゲインの調整)により、そのときの振動レベルが上記記憶手段に記憶した振動レベルつまり第1の車両状態でかつアクチュエータの作動時の振動レベルに近付けられてこれと略同一となる。
【0013】
請求項2に係わる発明では、フィードバック制御中に、エンジン負荷が大きい第1の車両状態とエンジン負荷が小さい第2の車両状態とを車両状態判別手段で判別しながら、上記第2の車両状態でかつアクチュエータが作動していないときの振動レベルを記憶手段で記憶する。そして、上記第2の車両状態のときには、規制手段で制御手段の制御を規制してアクチュエータの作動を中止する一方、上記第1の車両状態のときには、規制手段で制御手段の制御を規制して、そのときの振動レベルが上記記憶手段に記憶した振動レベルつまり第2の車両状態でかつアクチュエータの非作動時の振動レベルに近付けられて略同一となる。
【0014】
請求項8に係わる発明では、記憶手段において、請求項1に係わる発明の如く第1の車両状態でかつアクチュエータの作動時の振動レベルを記憶する場合、又は請求項2に係わる発明の如く第2の車両状態でかつアクチュエータの非作動時の振動レベルを記憶する場合、燃料タンク内の残量が相互に異なる複数の領域毎に振動レベルを記憶し、各領域毎に、この記憶した振動レベルに基づいて第1の車両状態と第2の車両状態との間での振動レベルの均一化が精度良く行われる。
【0015】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1及び図2は本発明の第1実施例に係わる車両の振動低減装置を示す。この振動低減装置は、振動発生源であるエンジンの作動に起因する車室内の騒音を低減するものである。
【0017】
図1において、1は車体、2は車室内騒音を低減するための音を発生するスピーカであって、その作動は振動低減装置の制御部であるANCコントローラ3により制御される。4は車室内の騒音を集音する集音器であるマイクロホンであり、該マイクロホン4の信号は上記ANCコントローラ3に入力される。尚、スピーカ2及びマイクロホン4は、図では1個ずつしか示していないが、各々車室内に複数設けられている。また、スピーカ2はCD、磁気テープ、チューナ等からの音声信号を音に変えて出力する一般のオーディオ用スピーカであって、このような音と上記騒音の打ち消し音とを同時に、または一方のみを出力するようになっている。
【0018】
また、5はエンジン(図示せず)に装着されたイグニッションコイルであって、該イグニッションコイル5からはエンジン回転数と比例するエンジン点火信号が発せられ、この信号もANCコントローラ3に入力される。6は車両に装備されたエアコンのON−OFF切換スイッチ(以下、エアコンスイッチという)、7は自動変速機の変速ギヤ位置を検出するギヤ位置検出手段、8は燃料タンク内の燃料の残量を検出する燃料計であり、これらの機器6〜8から発せられる信号もANCコントローラ3に入力される。
【0019】
上記ANCコントローラ3は、図2に示すように、その中枢部を構成するANCブロック11と、イグニッションコイル5からのエンジン点火信号に基づいてリファレンス信号を生成して上記ANCブロック11に出力するリファレンス信号生成部12と、上記ANCブロック11から出力されるスピーカ駆動信号に対しその上限値及び下限値を定めるリミッタ13とを備えている。上記リファレンス信号生成部12の構成は、特開平5−173581号公報の第4頁右欄第2行目〜第5頁左欄第21行目に詳細に記載している。
【0020】
上記ANCブロック11は、図3に示すように、マイクロホン4からの出力信号を増幅する増幅器21と、該増幅器21で増幅した信号の高周波ノイズを除去するローパスフィルタ22と、該フィルタ22を通過した信号をデジタル化するA/D変換器23と、該A/D変換器23からの信号及び上記リファレンス信号生成部12からの信号(つまりリファレンス信号)が入力される逆位相音生成部24とを備えている。上記逆位相音生成部24は、リファレンス信号に基づき、その信号に含まれる周波数成分がマイクロホン4からのマイクロホン出力信号に含まれなくなるように信号を生成する、つまり車室内の騒音を低減するよう該騒音と逆位相の音(詳しくは逆移相音の信号)を生成するように構成されている。該逆位相音生成部24で生成した信号は、D/A変換器25でアナログ化され、ローパスフィルタ26で高周波ノイズが除去され、増幅器27で増幅された後、スピーカ駆動信号として出力される。ANCブロック11の構成要素である増幅器21,27、ローパスフィルタ22,26及び変換器23,25は、それぞれ車室内に設けられるスピーカ2と同じ個数分ずつ設けられている。
【0021】
上記ANCコントローラ3のうち、特にリファレンス信号生成部12及びANCブロック11により、請求項1にいう、マイクロホン2(振動検出手段)で検出される車室内騒音が最小となるようにスピーカ2(アクチュエータ)から発生する音の位相を変更する制御手段14が構成されている。
【0022】
そして、本発明の特徴として、図2に示すように、ANCコントローラ3は、更にイグニッションコイル5、エアコンスイッチ6、ギヤ位置検出手段7及び燃料計8の各信号が入力されるリミッタ値決定部16と、該決定部16におけるリミッタ値の決定に利用されるデータマップを記憶するマップ記憶部17とを備えている。上記マップ記憶部17は、図4に示すような記憶マップを有し、この記憶マップには、騒音レベルが相違する車両状態毎の騒音レベルを記憶する欄が設けられている。つまり、自動変速機のシフトレンジ(変速ギヤ位置)については、走行レンジ(D,L又はSレンジ)の時の騒音レベルと非走行レンジ(N又はPレンジ)の時の騒音レベルとを記憶する。また、エアコンについては、シフトレンジが走行レンジ又は非走行レンジ毎にそれぞれ作動時(ON時)の騒音レベルと非作動時(OFF時)の騒音レベルとを記憶する。エンジン回転数については、シフトレンジ及びエアコンの状態毎にそれぞれ高回転域の時の騒音レベルと低回転域の時の騒音レベルとを記憶している。更に、燃料タンク内の燃料の残量については、シフトレンジ、エアコン及びエンジン回転数の状態毎にそれぞれ燃料が多い時の騒音レベルと中程度の時の騒音レベルと少ない時の騒音レベルとを記憶している。尚、このような車両状態毎の騒音レベルは、いずれもスピーカ2から音を発生して車室内騒音を低減したときの騒音レベルである。また、イグニッションコイル5、エアコンスイッチ6及びギヤ位置検出手段7は、いずれも請求項1にいう、エンジン負荷が大きい第1の車両状態(シフトレンジが走行レンジのとき、エアコンが作動時のとき又はエンジン回転数が高回転域のとき)とエンジン負荷が小さい第2の車両状態のとき(シフトレンジが非走行レンジのとき、エアコンが非作動時のとき又はエンジン回転数が低回転域のとき)とを判別する車両状態判別手段としての機能を有している。
【0023】
上記リミッタ値決定部16は、エンジン負荷が大きい第1の車両状態のときとエンジン負荷が小さい第2の車両状態のときとでリミッタ13のリミッタ値(詳しくは上限のリミッタ値)を全く異なる方法で決定している。つまり、上記第1の車両状態のときには、ANCブロック11からのスピーカ駆動信号をそのままスピーカ2に通すようにリミッタ値を大きな値に設定する一方、上記第2の車両状態のときには、マップ記憶部17に記憶した第1の車両状態のときの騒音レベルに近付けるように、リミッタ値を小さくしてスピーカ駆動信号のゲインを調整する。よって、上記マップ記憶部17は、請求項1にいう、第1の車両状態で制御手段14の制御によりスピーカ2が作動して車室内騒音(車両振動)が低減したときの騒音レベル(振動レベル)を記憶する記憶手段としての機能を有しており、また、上記リミッタ13及びリミッタ値決定部16により、請求項1にいう、第2の車両状態のとき上記マップ記憶部17に記憶した騒音レベルと略同一になるように上記制御手段14の制御を規制する規制手段18が構成されている。
【0024】
次に、上記リミッタ値決定部16において、エンジン負荷が相違する二つの車両状態のときにリミッタ値を決定する方法について、図5に示すフローチャートに従って説明する。尚、二つの車両状態としては、シフトレンジが走行レンジ(エンジン負荷が大きい車両状態)のときと非走行レンジ(エンジン負荷が小さい車両状態)のときとを想定して説明する。また、このリミッタ値の決定は、制御手段14の制御の下にスピーカ2から音を発生して車室内騒音を低減している最中に行われるものである。
【0025】
図5において、先ず、ステップS1 でマイクロホン4により現時点の騒音レベルVを計測した後、ステップS2 でその騒音レベルVがマップ記憶部17に記憶している最大の騒音レベルVmax に不感帯値kを加算した値よりも大きいか否かを判定する。この判定がYESになるときは、例えば制御開始直後に初めて変速機のシフトレンジを走行レンジに切換えたことなどによってエンジン負荷が大きな車両状態になったときである。この車両状態のときには、ステップS3 で現時点の騒音レベルVを最大の騒音レベルVmax としてマップ記憶部17に記憶し、リターンする。
【0026】
一方、ステップS2 の判定がNOのときには、更にステップS4 で騒音レベルVがマップ記憶部17に記憶している最大の騒音レベルVmax を中心として不感帯域にあるか否かを判定する。ここで、例えば図6(a)に示すように、走行レンジでかつスピーカ2の作動時のときの騒音レベルが、非走行レンジでかつスピーカ2の非作動時のときの騒音レベルよりも低いが、非走行レンジでかつスピーカ2の作動時のときの騒音レベルよりも高い場合には、変速機のシフトレンジを走行レンジから非走行レンジに切換えた当初は、リミッタ値によりスピーカ駆動信号が制限されていないので、そのときの騒音レベルVが不感帯域よりも小さくなる。そして、このときには、ステップS6 でリミッタ値を所定量下げ、リターンする。このリミッタ値の低下に伴ってスピーカ駆動信号のゲインが低下してスピーカ2による車室内騒音の低減効果が減少し、非走行レンジのときの騒音レベルVが上記不感帯域内に入ると、ステップS4 からステップS5 へ移行して、リミッタ値を固定し、リターンする。
【0027】
このような方法でリミッタ値が決定される場合には、制御手段14の制御の下にスピーカ2から音を発生してエンジンに起因する車室内騒音を低減しているときに車両状態が変化したとき、例えばシフトレンジを走行レンジと非走行レンジとの間で変更したときには、図6(b)に示すように、シフトレンジの変更に拘らず、車室内の騒音レベルを略一定に保つことができるので、騒音レベルの変化によって乗員に違和感を与えることはなく、騒音低減効果を有効に高めることができる。しかも、エンジン負荷が異なる二つの車両状態のうち、エンジン負荷が小さい方の車両状態のときにのみ、その騒音レベルを他方の車両状態のときの騒音レベルに近付けるようにリミッタ値を調整するにすぎず、制御が比較的容易であるので、実施化を図る上で非常に有利である。
【0028】
尚、図5に示すフローチャートでは、エンジン負荷が相違する二つの車両状態のとき、具体的にはシフトレンジが走行レンジのときと非走行レンジのとき、エアコンが作動時のときと非作動時のとき、あるいはエンジン回転数が高回転域のときと低回転域のときで騒音レベルを略同一にするようにしたが、図4に示す記憶マップのように、シフトレンジが走行レンジ及び非走行レンジ毎にそれぞれエアコンの作動時の騒音レベルと非作動時の騒音レベルとを記憶し、またシフトレンジ及びエアコンの状態毎にそれぞれエンジン回転数の高回転域の時の騒音レベルと低回転域の時の騒音レベルとを記憶している場合には、これらの状態毎に騒音レベルを略同一にすることが、騒音レベルを低いレベルで均一化する観点から望ましい。また、この観点からは、燃料タンク内の燃料の残量の三段階毎に騒音レベルを記憶し、この燃料の残量に合わせて、エンジン負荷が相違する二つの車両状態で騒音レベルを略同一にすることが望ましい。
【0029】
また、上記第1実施例では、エンジン負荷が小さい車両状態のときの騒音レベルを、エンジン負荷が大きい車両状態のときの騒音レベルに近付けるために、制御手段14から出力されるスピーカ駆動信号の上限値つまりリミッタ値を調整したが、例えば図7(a)に示すように、走行レンジでかつスピーカ2の作動時のときの騒音レベルが、非走行レンジでかつスピーカ2の非作動時のときの騒音レベルよりも高い場合には、非走行レンジでスピーカ2の作動時のときの騒音レベルを、走行レンジでかつスピーカ2の作動時のときの騒音レベルに近付けるために、制御手段14から出力されるスピーカ駆動信号に負の符号をつけるように、つまりスピーカ駆動信号の位相を180度ずらしてスピーカ2の作動により車室内の騒音レベルを高めるようにしても良い。この場合にも、図7(b)に示すように、シフトレンジの変更に拘らず、車室内の騒音レベルを略一定に保つことができるので、騒音レベルの変化によって乗員に違和感を与えることはなく、騒音低減効果を高めることができる。
【0030】
(変形例)
図8は上記リミッタ値決定部16において、エンジン負荷が相違する走行レンジのときと非走行レンジのときとで騒音レベルを略同一するためにリミッタ値を決定する別の方法を示すフローチャートである。
【0031】
図8において、先ず、ステップS11でリミッタ値決定部16にてマイクロホン4の信号及びギヤ位置検出手段7の信号を読み込んだ後、ステップS12で自動変速機のシフトレンジが非走行レンジ(N,Pレンジ)であるか否かを判定する。この判定がYESのときには、更にステップS13でスピーカ2の非作動時であるか否かを判定し、その判定がYESのときには、ステップS14でマップ記憶部17にて現時点つまり非走行レンジでかつスピーカ2の非作動時のときの騒音レベルVをVa として記憶し、リターンする。よって、この変形例の場合、マップ記憶部17は、請求項2にいう、エンジン負荷が小さい第2の車両状態(非走行レンジのとき)でかつスピーカ2の非作動時のときの騒音レベル(振動レベル)を記憶する記憶手段としての機能を有している。
【0032】
一方、上記ステップS13の判定がNOのとき、つまり非走行レンジでかつスピーカが作動しているときには、ステップS15でリミッタ値を零にまで下げてANCブロック11からのスピーカ駆動信号をリミッタ13で遮断し、スピーカ2の作動を中止し、リターンする。また、上記ステップS12の判定がNOの走行レンジのときには、ステップS16で一旦リミッタ値を大きな値に設定することでANCブロック11からのスピーカ駆動信号をそのままスピーカ2に通してスピーカ2を制御手段14の制御の通りに作動させた後、ステップS17で現時点つまり走行レンジでかつスピーカ2の作動時のときの騒音レベルVが、先に(ステップS14)マップ記憶部17に記憶した非走行レンジでかつスピーカ2の非作動時のときの騒音レベルVa から不感帯値kを減算した値よりも小さいか否かを判定する。ここで、例えば図9(a)に示すように、走行レンジでかつスピーカ2の作動時のときの騒音レベルが、非走行レンジでかつスピーカ2の非作動時のときの騒音レベルよりも低い場合には、変速機のシフトレンジを非走行レンジから走行レンジに切換え、その切換えに伴いスピーカ2が非作動状態から作動した当初は、リミッタ値によりスピーカ駆動信号が制限されていないので、そのときの騒音レベルVが不感帯域よりも小さくなる。そして、このときには、ステップS18でリミッタ値を所定量下げ、リターンする。このリミッタ値の低下に伴ってスピーカ駆動信号のゲインが低下してスピーカ2による車室内騒音の低減効果が減少し、走行レンジのときの騒音レベルVが上記不感帯域内に入ると、ステップS17からステップS19へ移行して、リミッタ値を固定し、リターンする。
【0033】
したがって、このような変形例の場合、エンジン負荷が小さい非走行レンジのときにはスピーカ2の作動を中止する一方、エンジン負荷が大きい走行レンジのときには、マップ記憶部17に記憶した騒音レベルVa つまり非走行レンジでかつスピーカ2の非作動時のときの騒音レベルに近付けるように、リミッタ値を調整することにより、シフトレンジの変更に拘らず、車室内の騒音レベルを略一定に保つことができるので、第1実施例の場合と同様に騒音レベルの変化によって乗員に違和感を与えることはなく、騒音低減効果を有効に高めることができる。
【0034】
(第2実施例)
図10は本発明の第2実施例に係わる車両の振動低減装置を示す。この振動低減装置は、振動発生源であるエンジンの振動に起因する車室内の車体振動を低減するものである。
【0035】
図10において、31は車体、32は車体前部のエンジンルーム内に配置されたエンジンであって、該エンジン32は、3個所又は4個所でそれぞれエンジンラバーマウント33(エンジン後部のエンジンラバーマウントのみ図示)を介して車体31(クロスメンバ31a等)に取り付けられている。エンジン後部のエンジンラバーマウント33は、車体振動を低減するための振動を発生するアクチュエータとしての加振機34(詳しくは後述する)を内蔵しており、該加振機34はAEMコントローラ35により制御される。
【0036】
また、36はエンジン後部を支持するクロスメンバ31aに設置されかつ該設置個所の車体振動を検出する振動検出手段としての加速度センサ、37はエンジン32に装着されたイグニッションコイル、38は車両に装備されたエアコンのON−OFF切換スイッチ、39は自動変速機の変速ギヤ位置を検出するギヤ位置検出手段、40は燃料タンク内の燃料の残量を検出する燃料計であり、これらのセンサ・計器類36〜40から発せられる信号はいずれもAEMコントローラ35に入力される。尚、イグニッションコイル37、エアコンのON−OFF切換スイッチ38及びギヤ位置検出手段39は、いずれも請求項1又は請求項2にいう、エンジン負荷が大きい第1の車両状態(シフトレンジが走行レンジのとき、エアコンが作動時のとき又はエンジン回転数が高回転域のとき)とエンジン負荷が小さい第2の車両状態のとき(シフトレンジが非走行レンジのとき、エアコンが非作動時のとき又はエンジン回転数が低回転域のとき)とを判別する車両状態判別手段としての機能を有している。
【0037】
上記加振機34を内蔵するエンジンラバーマウント33の構造は図11に示す。この図において、41はケーシング、42はケーシング41内を上側の主液室43と下側の副液室44とに画成する支持ラバーであって、該支持ラバー42には水平方向に延びる円管45が埋設されているとともに、該円管45内には支軸46が挿通されている。上記支軸46の両端は、図示していないが、ブラケットを介してエンジン32に連結されている一方、ケーシング41は車体31(クロスメンバ31a)に取付けられている。上記支持ラバー42には主液室43と副液室44とを連通するオリフィス47が形成されているとともに、主液室43、副液室44及びオリフィス47には油等の液体が満たされている。そして、エンジン振動に伴い支持ラバー42が振動し、それにより主液室43及び副液室44の容積が変化して両室43,44間で液体がオリフィス47を流動し、その際の流動抵抗により車体振動を減衰させるように構成されている。
【0038】
また、上記ケーシング41内の主液室43上方には加振板51が配置され、該加振板51の周縁はサポートラバー52を介してケーシング41に上下振動可能に支持されている。上記加振板51の上方には、ケーシング41の中心線上に永久磁石53が配置されているととも、該永久磁石53の周囲にコイル54が配置されている。一方、上記円管45には上記加振板51に対向する水平板55が連結されている。そして、上記コイル54に電流が流れると、永久磁石53により発生する磁場との相互作用により加振板51が振動し、この振動が主液室43内の液体を通して水平板55に伝達され、該水平板55が振動するようなっており、コイル54、永久磁石53、加振板51及び水平板55等により、エンジンマウントラバー33のケーシング41内で振動を発生する加振機34が構成されている。
【0039】
そして、上記AEMコントローラ35は、第1実施例のANCコントローラ3と同じ構成になっている(図2及び図3参照)。また、エンジン32の作動に伴って所定周波数のエンジン振動が発生する時には、その振動を加速度センサ36で検出するとともに、AEMコントローラ35の制御の下に、検出した振動が最小となるようにエンジンマウントラバー33内の加振機34から発生する振動の位相を変更する。このフィードバック制御中においては、エンジン負荷が大きい第1の車両状態とエンジン負荷が小さい第2の車両状態とを車両状態判別手段37,38,39で判別しながら、上記第1の車両状態のときに加振機34の作動により車両振動を低減したときの振動レベルを記憶する一方、上記第2の車両状態のときに振動レベルが第1の車両状態でかつ加振機34の作動時の振動レベルに近付けるように加振機34への制御信号のゲインを調整し、あるいは上記第2の車両状態のときに加振機34の作動を中止する一方、上記第1の車両状態のときに振動レベルが上記第2の車両状態でかつアクチュエータの非作動時の振動レベルに近付けるように加振機34への制御信号のゲインを調整することにより、車両状態の変更に拘らず、車体振動レベルを略一定に保つことができ、その結果、乗員に違和感を与えることがなく、騒音低減効果を有効に高めることができる。
【0040】
【発明の効果】
以上の如く、本発明における車両の振動低減装置によれば、エンジン負荷及び振動レベルが相違する二つの車両状態において、アクチュエータから発生する振動によって車両振動を低減したときの振動レベルを略同一にすることができるので、振動レベルの変化に起因する違和感を乗員に与えることがなく、乗員にとって快適な振動低減効果を発揮することができる。
【0041】
特に、請求項8に係わる発明によれば、燃料タンク内の残量が相互に異なる複数の領域毎に上記二つの車両状態間での振動レベルの均一化を精度良く図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係わる振動低減装置の部品配置を示す図である。
【図2】上記振動低減装置のANCコントローラの構成を示すブロック線図である。
【図3】上記ANCコントローラのANCブロックの構成を示すブロック線図である。
【図4】同ANCコントローラのマップ記憶部が有する記憶マップを示す図である。
【図5】リミッタ値の決定方法を示すフローチャート図である。
【図6】走行レンジと非走行レンジとの間の変更時での騒音レベルの変化状態を説明するための図である
【図7】変形例の場合の図6相当図である。
【図8】別の変形例の場合の図5相当図である。
【図9】同変形例の場合の図6相当図である。
【図10】本発明の第2実施例を示す図1相当図である。
【図11】加振機を内蔵するエンジンマウントラバーの縦断面図である。
【符号の説明】
2 スピーカ(アクチュエータ)
3 ANCコントローラ
4 マイクロホン(振動検出手段)
5,37 イグニッションコイル(車両状態判別手段)
6,38 エアコンスイッチ(車両状態判別手段)
7,39 ギヤ位置検出手段(車両状態判別手段)
11 ANCブロック
12 リファレンス信号生成部
13 リミッタ
14 制御手段
16 リミッタ値決定部
17 マップ記憶部(記憶手段)
18 規制手段
34 加振機(アクチュエータ)
35 AEMコントローラ
36 加速度センサ(振動検出手段)
Claims (9)
- 振動発生源からの周期的な車両振動を低減するための振動を発生するアクチュエータと、
車両振動を検出する振動検出手段と、
該振動検出手段で検出される車両振動が最小となるように上記アクチュエータから発生する振動の少なくとも位相を変更する制御手段とを備えた車両の振動低減装置において、
エンジン負荷が大きい第1の車両状態とエンジン負荷が小さい第2の車両状態とを判別する車両状態判別手段と、
上記第1の車両状態で上記制御手段の制御によりアクチュエータが作動して車両振動を低減したときの振動レベルを記憶する記憶手段と、
上記第2の車両状態のときの振動レベルが上記記憶手段に記憶された振動レベルと略同一になるように上記制御手段の制御を規制する規制手段とを備えたことを特徴とする車両の振動低減装置。 - 振動発生源からの周期的な車両振動を低減するための振動を発生するアクチュエータと、
車両振動を検出する振動検出手段と、
該振動検出手段で検出される車両振動が最小となるように上記アクチュエータから発生する振動の少なくとも位相を変更する制御手段とを備えた車両の振動低減装置において、
エンジン負荷が大きい第1の車両状態とエンジン負荷が小さい第2の車両状態とを判別する車両状態判別手段と、
上記第2の車両状態でかつ上記アクチュエータが作動していないときの振動レベルを記憶する記憶手段と、
上記第2の車両状態のとき上記アクチュエータの作動を中止する一方、上記第1の車両状態のとき上記記憶手段に記憶した振動レベルに近付けるように、上記制御手段の制御を規制する規制手段とを備えたことを特徴とする車両の振動低減装置。 - 上記アクチュエータは加振機であり、上記振動検出手段は加速度センサである請求項1又は請求項2記載の車両の振動低減装置。
- 上記アクチュエータはスピーカであり、上記振動検出手段はマイクロホンである請求項1又は請求項2記載の車両の振動低減装置。
- 上記第1の車両状態は変速機の変速ギヤ位置が走行レンジのときであり、上記第2の車両状態は変速機の変速ギヤ位置が非走行レンジのときである請求項1又は請求項2記載の車両の振動低減装置。
- 上記第1の車両状態はエアコンの作動時であり、上記第2の車両状態はエアコンの非作動時である請求項1又は請求項2記載の車両の振動低減装置。
- 上記第1の車両状態はエンジン回転数が高い高回転域であり、上記第2の車両状態はエンジン回転数が低い低回転域である請求項1又は請求項2記載の車両の振動低減装置。
- 上記記憶手段は、燃料タンク内の残量が相互に異なる複数の領域毎に振動レベルを記憶するものである請求項1又は請求項2記載の車両の振動低減装置。
- 上記規制手段は、制御信号のゲインを調整するものである請求項1又は請求項2記載の車両の振動低減装置。
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