JP4035961B2 - 車体振動低減装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は車体振動低減装置に関し、特に自動車エンジンの回転振動に伴う車体振動の低減装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車は車体からエンジンマウントを介してエンジンを支持しており、車体のフロアパネルに座席が取り付けられ乗員が乗車するようになっている。
従って、エンジンの回転振動はエンジンマウント、車体、及びフロアパネルを介して座席に位置する乗員に伝えられることになる。
【0003】
このような自動車の車体振動を低減する装置としては、特開平6-202672号公報に示すように、ニューラルネットを用いて音振状態を検知し、車室下部に設置されたスピーカを用いて車体振動を打ち消すアクティブコントロール装置や、同8-261277号公報に示すように、車両の振動をANC(アクティブノイズ)コントローラにより計算し、スピーカ等からの振動で車体振動及び騒音を打ち消す車両の振動低減装置など多くの従来技術が既に提案されている。
【0004】
一方、自動車の停止時などの際、エンジンはアイドリング運転を行うが、低速で運転されるために走行時と比較してトルク変動が大きくなり、エンジンマウントを介して伝えられたエンジンの振動により車体振動が発生する。この振動がフロアパネルを介して乗員に伝えられることにより、乗員の乗心地が阻害される。
【0005】
このようなアイドリング時の振動制御を、上記の従来技術で行おうとすると、通常アイドル信号が問題となり易い4気筒エンジンの場合、正弦波の周波数は20〜28Hz程度と非常に低いので、マイクとスピーカを用いて、「音波で打ち消す」空気振動伝達方式ではこのような低周波成分を除去することは困難である。
【0006】
また、エンジンマウントや車体振動特性などの改良により振動の発生を抑える技術や、これをさらに改良して、特開平7-186803号公報、同186804号公報、及び同10-187164号公報に示すように、特に構造上トルク変動の大きいディーゼルエンジンを搭載する車両等において、エンジンの振動を吸収し車体に振動を伝えないアクティブエンジンマウントを採用する従来技術も提案されているが、コストが高く又消費電力が大きいなど、アイドル時の振動を低減するには適当な方式ではなかった。
【0007】
一方、アイドリング時の車体振動を低減する装置としては特公平2-21462号公報において、加振機とこの加振機に加振信号を与える信号源との間に該加振信号の位相を制御する手段を設け、予め設定された運転状態が検出されたときだけ、すなわちアイドリング状態が検出されたときだけ、上記の加振機を作動して車体振動を相殺するように構成したものが既に提案されている.
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特公平2-21462号公報においては、振動低減用に専用の加振機を用いており、コストが高くなると共に、構造的にも車両内の空間を一部占有してしまうという問題があった。
【0009】
従って、本発明は、加振機を用いずに、アイドリング運転時の車体振動を低減する装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明に係る車体振動低減装置は、エンジン回転数センサと、車速センサと、車室のフロアパネル上の上下方向の加速度を検出する加速度センサと、該フロアパネル上で振動を減少させたい位置に対して最も振動を低減させられる位置として予め求めた位置に設けられた低音用スピーカと、該エンジン回転数センサ及び車速センサの両出力からアイドル状態であることを検出したとき該エンジン回転数の基本波成分に相当する周波数の正弦波を生成し、該正弦波と該加速度センサの出力信号との位相差に基づいて該スピーカ位置での該正弦波の逆相成分信号であって空気振動を発生しない所定周波数以下の帯域の信号で該スピーカを駆動するコントローラと、を備えたことを特徴としている。
【0011】
すなわち、本発明は、端的に言えばオーディオ用の低音用(低周波)スピーカ(スーパーウーファー)の空気振動力ではなく作動時の反力を利用してフロアパネルの振動を防止するものである。
これを図1を参照して説明すると、まずコントローラは、エンジン回転数センサと車速センサ(いずれも図示せず)の両方の出力からアイドル状態であることを検出する。
【0012】
そして、このアイドル状態において、エンジン回転数センサで得られたエンジン回転数の基本波成分に相当する周波数の正弦波▲1▼(実線)を生成する。この正弦波▲1▼は、低音用スピーカ10が設けられているフロアパネル8上のエンジン振動を示す基準信号と擬制した信号である。
【0013】
そこで今度は、この正弦波▲1▼と加速度センサ12の出力信号▲2▼との位相差Δφを求め、この位相差Δφに基づいて加速度センサ12の出力信号▲2▼を移相することにより、スピーカ10の位置での正弦波▲1▼の逆相成分の成分信号▲3▼(破線)を生成してスピーカ10に与えることができる。
【0014】
このようにすることにより、アイドル運転時の低周波エンジン振動成分は、加速度センサ12で検出された信号▲2▼から生成された逆相成分▲3▼により打ち消されることとなる。
なお、本発明のように、車体振動低減用に低音用スピーカを用いると、専用の加振機を用いる必要が無いと共に、カーオーディオ用の低音用スピーカと兼用することができることになる。
この場合、音楽以外の信号でスピーカを駆動すると、それにより発生する騒音は乗員に対して不快な騒音となってしまうが、ここで問題としているエンジン回転数の基本波成分(4気筒エンジンの場合には2次成分、6気筒エンジンの場合には3次成分等)の場合には周波数が低く、いくらスピーカを駆動しても空気振動は発生せず、実際には騒音を発生させるような問題にはならない。
【0015】
言い換えれば、このような低い周波数の音波による再生は非常に難しく、大型スピーカでも殆ど再生できていないという実情から考えると、車室内においては騒音にならないことが分かる。
ここで、コントローラは、該逆相成分信号に、該スピーカ10と該加速度センサ12との伝達関数に基づいて算出されるゲインを与えるものである。
【0016】
すなわち、加速度センサ12の出力信号から該正弦波▲1▼の逆相成分信号▲3▼を生成するとき、スピーカ10と加速度センサ12との伝達関数G(f)を予め求めておけば、この伝達関数G(f)によって加速度センサ12の出力信号▲2▼の振幅fを可変にできるので、伝達関数G(f)によるゲインFと上記の位相差Δφとを用いればよい。
また、コントローラは、該加速度センサ12の出力信号の振幅が減少しなくなるまで該ゲインFを増加させることができる。これにより、最も効果的な逆相成分信号▲3▼が得られる。
【0017】
さらに、本発明では、ギア位置センサをさらに設けることができ、この場合コントローラは、このギア位置センサの出力信号からギア位置の変更が無いときのみゲイン及び位相を確定させ、そうでないときは最初から同じ動作を繰り返すようにすることができる。
これにより、ギア位置の変動に伴った車体振動の低減を実現することができる。
【0018】
さらに、上記の振動の減少をさせたい位置としては、例えば座席シートであり、これは予めフロアの振動が大きい部位を調べた上で座席シートなどの振動を下げたいポイントとして該スピーカの位置決めを行えばよい。
【0019】
【発明の実施の形態】
図2は、本発明に係る車体振動低減装置を自動車に搭載したときの概略的な側面図を示している。
この実施例において、車両1のエンジン2にはエンジン回転数センサ3が設けられており、また、変速機4には車速センサ5及びギア位置センサ6が設けられている。これらのセンサ3、5、及び6の出力信号は運転席のダッシュボード(図示せず)などに設けられたコントローラ7に送られるようになっている。
【0020】
このコントローラ7は、車両1のフロアパネル8上に設けた座席9の近傍に設けた低音用スピーカ10に対し、パワーアンプ11を介して出力信号を送るようにしており、さらにフロアパネル8に設けた加速度センサ12の出力信号も入力するようになっている。
【0021】
図3は、図2に示した車体振動低減装置の電気系統をブロック図で示したものであり、エンジン回転数センサ3と車速センサ5とギア位置センサ6と加速度センサ12とが各出力信号をコントローラ7に送っており、コントローラ7はパワーアンプ11を介してスピーカに出力信号を送るようになっている。
【0022】
なお、パワーアンプ11は通常の音楽信号を入力することもでき、この場合にはスピーカ10をオーディオ兼用とし、パワーアンプ11において音楽信号入力時とコントローラ7からの出力信号発生時とを切り替えるようにしてもよい。
ここで、座席9の振動を減少させたい場合、スピーカ10の位置としてどこが適当であるかを求めるための振動伝達特性を示したものが図4である。
このような振動伝達特性を利用して、フロアパネル8上で振動を減少させたい位置に対して最も振動を減少させられる位置(フロアパネル共振位置)を事前に求め、スピーカ10を配置する。
【0023】
この図4の振動伝達特性においては、3つのポイントA〜Cにおけるフロアパネル振動が、横軸を周波数(Hz)とし、縦軸をイナータンス(dB)として示されており、問題となる振動低減周波数領域(20〜28Hz)においては、ポイントAが最もイナータンスが大きく、このポイントAをスピーカ10の位置として設定することが好ましいことが分かる。
【0024】
このように設定した本発明に係る車体振動低減装置の動作を、図5に示したコントローラ7の実行プログラムに添って以下説明する。
まずコントローラ7は、車速センサ5の出力信号により車速(V)を検出し(ステップS1)、さらに、車速V=0か否かを判定する(ステップS2)。ここでは、車速V=0のときのみ次のステップS3に進み、そうでないときはこの車体振動低減制御を停止する(スピーカ無出力)。
【0025】
ステップS3においては、エンジン回転数センサ3の出力からエンジン回転数(N)を検出し( ステップ S3)、ステップS4において、このエンジン回転数Nが所定の回転数範囲N1〜N2に収まっているか否かを判定する( ステップ S4)。
この結果、エンジン回転数Nが、N1<N<N2の範囲にある場合には、車速V=0を考慮してエンジン2がアイドル運転状態にあると判定し、次のステップS5に進むが、そうでないときにはこの車体振動低減制御を停止する。
【0026】
このようにアイドル運転状態が検出された後、次にスピーカ10から出力される、エンジン2からの車体振動を低減させるための信号の生成を行う。
まずステップS5においては、コントローラ7はステップS3で検出したエンジン回転数Nに基づき、エンジン回転数の基本波成分に相当する周波数の正弦波(図1▲1▼)を生成する。
【0027】
この実施例では、エンジン2として4気筒を用いているので、エンジン回転2次成分の周波数を求めるため、(N(rpm)/60)×2=周波数(Hz)を求め、この周波数の正弦波を図示の如く生成する。この正弦波は、エンジン2から直接到来した振動波を示すものではないが、スピーカ10により振動を打ち消す対象となる基準波と擬制され得るものである。
【0028】
次にコントローラ7は加速度センサ12の出力信号から加速度(α)(図1▲2▼)を検出する(ステップS6)。このとき、加速度信号の振幅fも検出する。
そして、この加速度αの信号を、好ましくは正弦波に変換し(これは最大値から最大値の間の時間を算出することにより行う)、この加速度信号とステップS5で生成した正弦波との位相差Δφを検出する(ステップS7)。
【0029】
次に、コントローラ7は、ステップS6及びS7で求めた振幅fと位相差Δφとに基づき加速度センサ12の出力信号の逆相成分(図1▲3▼)を生成してスピーカへ出力する(ステップS8)。
これに際しては、図1に示したように、加速度センサ12からスピーカ10への伝達関数G(f)を求めておき、この伝達関数G(f)に対してステップS6で求めた振幅fを適用したゲインFを求めると共に、位相差Δφを加速度センサ12の出力信号に与えれば、上記正弦波の逆相成分が得られる。
【0030】
これは、加速度センサ12の出力信号を反転し、その谷がスピーカ10の位置の正弦波の山に一致するまでずらすことに相当する。これをスピーカ10から出力すれば、エンジン2からの実際の振動をキャンセルすることが可能となる。
そこで、ステップS9では、スピーカ10から逆相成分信号を出力することにより、加速度センサ12における信号振幅のゲインが減少したか否かを判定し、減少していなければステップS8を繰り返し実行するが、減少していればステップS10へ進む。
【0031】
すなわち、ステップS8の演算で用いた位相差ΔφとゲインFが逆相成分信号としては未だ不充分であり、ステップS8を繰り返して、位相φをさらにずらせば最適な位相φ(スピーカ10の位置)を確定することができる。
ステップS10においては、位相φが確定した段階で、今度は逆相成分信号のゲインF(振幅)をΔFだけ増大させ、より低減効果を大きくさせる。
【0032】
この結果、ステップS11においても、ステップS9と同様に加速度センサ12の出力信号振幅が減少したか否かを判定し、これを加速センサ出力が減少しなくなるまで繰り返し、減少しなくなった時点で、今度は逆にゲインFをΔFだけ減少させ(ステップS12)、加速度センサ12の出力信号振幅が減少した最後のゲインF(最適な振幅)を確定させる。
【0033】
そして、コントローラ7はギア位置センサ6の出力信号から、ギア位置の変更が無かったか否かを判定し(ステップS13)、変更があった場合にはステップS1に戻るが、ギア位置が変更されていないことが分かったときにはステップS8で確定した位相φとステップS12で確定したゲインFを固定してスピーカ10へ出力し続けることとなる。
【0034】
このようにして、スピーカ10が駆動されるときに発生する反力がフロアパネル8に伝達されることにより、アイドル時のフロア信号が低減されるが、このとき、スピーカ10を防振ゴムなどによりフロアパネル8に取り付け、その共振周波数を当該周波数に合わせることでフロアパネル8に伝達させる力を増幅させるようにしてもよい。
【0035】
また、車両がアイドル運転から走行などの運転条件に変わった際には、上述の如く、コントローラ7はエンジン回転数及び車速信号から判定してその出力信号を停止することでスピーカは低音用スピーカとしてのみ機能することとなる。
通常、低音用スピーカが分担する周波数領域ではステレオで再生する必要がないため、スピーカ10は1個でもよい。また、通常アイドル振動が問題となり易い4気筒エンジンの場合、正弦波の周波数は20〜28Hzと非常に低い上にフロアパネル8の振動が低減される効果も合わせてアイドル運転時にスピーカ10から発生する騒音が問題となることはない。
【0036】
また、上記の実施例では、フロアパネル8の一点だけ加速度センサ12で感知しているが、フレームボディの場合は周囲が固定されており、振動の周波数が低いのでフレームは単純に同じような振動が起こることとなり、一部の振動を止めれば他の振動も減少することになる。
【0037】
また、スピーカにより発生させる反力は運転席などの振動を低減させたいポイントと、スピーカを設定するポイントの振動の伝達特性により決定されるが、フロアの共振が当該周波数の領域にあるようなときには数ニュートン程度の力で充分な効果が得られる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明した様に、本発明に係る車体振動低減装置によれば、コストやスペースを必要とする加振機を用いずに、オーディオ用として兼用可能な低音用スピーカによってアイドル時のエンジン振動を良好に低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車体振動低減装置の振動低減原理を説明するための図である。
【図2】本発明に係る車体振動低減装置を車両に搭載したときの概略側面図である。
【図3】本発明に係る車体振動低減装置の電気系統を示したブロック図である。
【図4】フロアパネルの各点から運転席までの振動伝達特性を示したグラフ図である。
【図5】本発明に係る車体振動低減装置に用いられるコントローラで実行されるプログラムのフローチャート図である。
【符号の説明】
1 車両
2 エンジン
3 エンジン回転数センサ
4 変速機
5 車速センサ
6 ギア位置センサ
7 コントローラ
8 フロアパネル
9 座席
10 低音用スピーカ
11 パワーアンプ
12 加速度センサ
図中、同一符号は同一または相当部分を示す。
Claims (5)
- エンジン回転数センサと、車速センサと、車室のフロアパネル上の上下方向の加速度を検出する加速度センサと、該フロアパネル上で振動を減少させたい位置に対して最も振動を低減させられる位置として予め求めた位置に設けられた低音用スピーカと、該エンジン回転数センサ及び車速センサの両出力からアイドル状態であることを検出したとき該エンジン回転数の基本波成分に相当する周波数の正弦波を生成し、該正弦波と該加速度センサの出力信号との位相差に基づいて該スピーカ位置での該正弦波の逆相成分信号であって空気振動を発生しない所定周波数以下の帯域の信号で該スピーカを駆動するコントローラと、を備えたことを特徴とする車体振動低減装置。
- 請求項1において、
該コントローラは、該逆相成分信号として、該スピーカと該加速度センサとの伝達関数に基づいて算出されるゲインを与えることを特徴とした車体振動低減装置。 - 請求項2において、
該コントローラは、該加速度センサの出力信号の振幅が減少しなくなるまで該ゲインを増加させて行くことを特徴とした車体振動低減装置。 - 請求項1から3のいずれかにおいて、
ギア位置センサをさらに備え、該コントローラは、該ギア位置センサの出力信号からギア位置の変更がないときのみ該ゲイン及び位相を確定させ、そうでないときには、最初から同じ動作を繰り返すことを特徴とした車体振動低減装置。 - 請求項1から4のいずれかにおいて、
該振動を減少させたい位置が、座席シートであることを特徴とした車体振動低減装置。
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