JP3617079B2 - 能動型騒音制御装置及び能動型振動制御装置 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
この発明は、騒音源から発せられた騒音に制御音源から発せられる制御音を干渉させることにより騒音の低減を図る能動型騒音制御装置及び振動源から発せられた振動に制御振動源から発せられる制御振動を干渉させることにより振動の低減を図る能動型振動制御装置に関し、特に、広い周波数帯域に渡って良好な騒音低減効果,振動低減効果が得られるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の能動型騒音制御装置として、英国特許第2149614号や特表平1−501344号に記載のものがある。
これら従来の装置は、航空機の客室やこれに類する閉空間に適用される騒音低減装置であって、閉空間の外部に位置するエンジン等の単一の騒音源は、基本周波数f0 及びその高調波f1 〜fn を含む騒音を発生するという条件の下において作動するものである。
【0003】
具体的には、閉空間内の複数の位置に設置され音圧を検出するマイクロフォンと、その閉空間に制御音を発生する複数のラウドスピーカとを備え、騒音源の周波数f0 〜fn 成分に基づき、それら周波数f0 〜fn 成分と逆位相の信号でラウドスピーカを駆動させ、もって閉空間に伝達される騒音と逆位相の制御音をラウドスピーカから発生させて騒音を打ち消している。
【0004】
そして、ラウドスピーカから発せられる制御音の生成方法として、PROCEEDINGS OF THE IEEE,VOL.63 PAGE 1692,1975,“ADAPTIVE NOISE CANCELLATION :PRINCIPLES AND APPLICATIONS ”で述べられている‘WIDROW LMS’アルゴリズムを多チャンネルに展開したアルゴリズムを適用している。その内容は、上記特許の発明者による論文、“A MULTIPLE ERROR LMS ALGORITHM AND ITS APPLICATION TO THE ACTIVE CONTROL OF SOUND AND VIBRATION ”,IEEE TRANS.ACOUST.,SPEECH,SIGNAL PROCESSING,VOL.ASSP −35,PP.1423−1434,1987 にも述べられている。
【0005】
即ち、LMSアルゴリズムは、適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を更新するのに好適なアルゴリズムの一つであって、例えばいわゆるFiltered−X LMSアルゴリズムにあっては、ラウドスピーカからマイクロフォンまでの伝達関数をモデル化した伝達関数フィルタを全てのラウドスピーカとマイクロフォンとの組み合わせについて設定し、騒音源の騒音発生状態を表す基準信号をそのフィルタで処理した信号(更新用基準信号或いはリファレンス信号)と各マイクロフォンが検出した残留騒音信号とに基づいた所定の評価関数の値が低減するように、各ラウドスピーカ毎に設けられたフィルタ係数可変のディジタルフィルタのフィルタ係数を更新している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような従来の能動型騒音制御装置では、適応ディジタルフィルタのフィルタ係数の更新演算を、騒音源から発せられた騒音の全周波数成分を含む残留騒音信号に基づいて行うようになっていたため、以下のような問題点を有していた。
【0007】
即ち、LMSアルゴリズムによる制御効果はレベルの高い周波数帯域の方が、レベルの低い周波数帯域よりも大きいという特性を有するため、例えば、同一の騒音源から発せられる騒音のレベルが周波数帯域によって一定でない場合や複数の騒音源から発せられる騒音のレベル及び周波数が異なる場合等に、レベルの小さい周波数帯域に人間に不快感を与え易い騒音が存在しても、レベルの高い周波数帯域では大きな低減効果が得られるのに対し、レベルの小さい周波数帯域では大きな低減効果が得られないから、全周波数帯域では確かに騒音低減効果が得られているのに、人間の感覚としては良好な騒音低減効果が得られていないと感じられてしまうという問題点がある。
【0008】
例えば、車両の車輪及び路面間で発生するランダム・ノイズであるロード・ノイズ等が伝達される車室内の騒音は、一般的に高周波帯域ほどレベルが低くなる傾向を有するため、LMSアルゴリズムにより騒音低減制御を実行すると低周波帯域ほど良好な騒音低減効果が得られることになる。そして、かかる場合に、高周波帯域に鋭いピークが存在し、そのピークのレベルが低周波帯域のレベルほどではない場合等には、騒音低減制御の結果、低周波帯域で大きな低減効果が得られると、高周波帯域のピークと低周波帯域とのレベル差が小さくなり、逆に高周波帯域のピークが際立ってしまい、騒音が悪化しているとの錯覚さえ与える可能性がある。なお、車両における高周波帯域の鋭いピークは、例えば駆動力伝達系のギア・ノイズとして発生し易い。
【0009】
また、LMSアルゴリズムを実行する場合には、適応ディジタルフィルタのフィルタ係数の更新量を決めるパラメータである収束係数等を適宜決定する必要があり、例えば収束係数は、大きいほど収束速度が速くなる反面、制御が不安定になり易いという性質を有する。従って、収束係数は、制御の安定性を損なわない範囲で最も大きくすることが望ましいことになるが、騒音源が同一であっても、周波数帯域毎に騒音レベルや自己相関の度合い等が異なるため、制御の安定性が周波数帯域によって異なる場合があり、そのような場合には最も不安定になり易い周波数帯域を基準として収束係数を決定することになる。しかし、これでは他の周波数帯域では収束速度が遅くなり、その分、制御性能の上で損をしてしまうという問題点があった。
【0010】
なお、これら問題点は、騒音低減制御を実行する能動型騒音制御装置に限定されるものではく、LMSアルゴリズム等を利用して振動低減制御を実行する能動型振動制御装置でも同様である。
そこで本発明は、このような従来の技術が有する未解決の課題に着目してなされたものであって、LMSアルゴリズムのような適応アルゴリズムを利用して騒音低減制御,振動低減制御を実行しても、広い周波数帯域に渡って良好な低減効果が期待できる能動型騒音制御装置,能動型振動制御装置を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明である能動型騒音制御装置は、騒音源から発せられた騒音と干渉する制御音を発生可能な制御音源と、前記干渉後の残留騒音を検出し残留騒音信号として出力する残留騒音検出手段と、前記騒音源の騒音発生状態を検出し基準信号として出力する基準信号生成手段と、フィルタ係数可変の適応ディジタルフィルタと、前記基準信号を前記適応ディジタルフィルタでフィルタ処理して前記制御音源を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、前記残留騒音信号を複数の周波数帯域毎の信号に分割する残留騒音信号分割手段と、前記分割された残留騒音信号及び前記基準信号に基づいて前記干渉後の騒音が低減するように適応アルゴリズムに従って前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を更新する適応処理手段と、を備え、前記適応処理手段を、前記基準信号に基づいて前記複数の残留騒音信号に対応した複数の更新用基準信号を生成する更新用基準信号生成手段と、前記複数の周波数帯域毎に前記残留騒音信号及び前記更新用基準信号に基づき且つ前記適応アルゴリズムに従って同一の前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を直接増減することにより逐次更新する複数のフィルタ係数更新手段と、を含んで構成した。
【0015】
また、請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る発明である能動型騒音制御装置において、前記適応ディジタルフィルタを有限インパルス応答型のディジタルフィルタで構成するとともに、前記適応ディジタルフィルタの更新されるフィルタ係数の個数を、前記複数の周波数帯域毎に設定した。
【0016】
そして、請求項3に係る発明は、上記請求項1、2に係る発明である能動型騒音制御装置において、前記適応ディジタルフィルタを更新する際に用いるパラメータを、前記複数の周波数帯域毎に設定した。
【0019】
上記目的を達成するために、請求項4に係る発明である能動型振動制御装置は、振動源から発せられた振動と干渉する制御振動を発生可能な制御振動源と、前記干渉後の残留振動を検出し残留振動信号として出力する残留振動検出手段と、前記振動源の振動発生状態を検出し基準信号として出力する基準信号生成手段と、フィルタ係数可変の適応ディジタルフィルタと、前記基準信号を前記適応ディジタルフィルタでフィルタ処理して前記制御振動源を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、前記残留振動信号を複数の周波数帯域毎の信号に分割する残留振動信号分割手段と、前記分割された残留振動信号及び前記基準信号に基づいて前記干渉後の振動が低減するように適応アルゴリズムに従って前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を更新する適応処理手段と、を備え、前記適応処理手段を、前記基準信号に基づいて前記複数の残留振動信号に対応した複数の更新用基準信号を生成する更新用基準信号生成手段と、前記複数の周波数帯域毎に前記残留振動信号及び前記更新用基準信号に基づき且つ前記適応アルゴリズムに従って同一の前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を直接増減することにより逐次更新する複数のフィルタ係数更新手段と、を含んで構成した。
【0020】
また、請求項5に係る発明は、上記請求項4に係る発明である能動型振動制御装置において、前記適応ディジタルフィルタを有限インパルス応答型のディジタルフィルタで構成するとともに、前記適応ディジタルフィルタの更新されるフィルタ係数の個数を、前記複数の周波数帯域毎に設定した。
【0021】
そして、請求項6に係る発明は、上記請求項4、5に係る発明である能動型振動制御装置において、前記適応ディジタルフィルタを更新する際に用いるパラメータを、前記複数の周波数帯域毎に設定した。
【0022】
【作用】
請求項1に係る発明にあっては、残留騒音信号分割手段によって残留騒音信号が複数の周波数帯域(例えば、低周波帯域及び高周波帯域という二つの帯域)に分割され、それら分割された複数の残留騒音信号が、適応処理手段における適応ディジタルフィルタのフィルタ係数の更新演算に用いられる。すると、各周波数帯域毎の複数の残留騒音信号が個別に適応ディジタルフィルタのフィルタ係数の更新に影響を与えるから、各残留騒音信号にレベル差があったとしても、各周波数帯域に対して騒音低減効果が発揮される。
【0023】
そして、各周波数帯域毎に設けられている適応ディジタルフィルタのフィルタ係数は、適応処理手段に含まれるフィルタ係数更新手段によって逐次更新されるが、フィルタ係数更新手段は、各周波数帯域毎に残留騒音信号及び更新用基準信号に基づき適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を更新するため、各適応ディジタルフィルタのフィルタ係数は、各適応ディジタルフィルタが対応する周波数帯域の騒音を低減可能な最適値に向かって収束していく(例えば、低周波帯域用の適応ディジタルフィルタであれば、低周波帯域の騒音を低減可能な最適値に向かって収束していき、高周波帯域用の適応ディジタルフィルタであれば、高周波帯域の騒音を低減可能な最適値に向かって収束していく)。
【0026】
そして、請求項1に係る発明であれば、適応処理手段に含まれるフィルタ係数更新手段のそれぞれは、残留騒音信号分割手段によって分割された各残留騒音信号と、更新用基準信号生成手段によって生成された各更新用基準信号とに基づき、各周波数帯域毎に同一の適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を直接増減することにより逐次更新するから、その適応ディジタルフィルタは、各周波数帯域の騒音を低減することができる最適値に向かって収束していく。従って、駆動信号生成手段が、基準信号を適応ディジタルフィルタでフィルタ処理して駆動信号を生成し、その駆動信号が制御音源に供給されると、制御音源からは、各周波数帯域の騒音を低減することができる制御音が発生する。
【0027】
ここで、適応ディジタルフィルタを有限インパルス応答型のディジタルフィルタとした場合、その適応ディジタルフィルタに必要なフィルタ係数の個数(タップ数)は各周波数帯域毎に異なり、周波数帯域に存在するモードの数によって略決まる。例えば、単一の周波数成分しか存在しない場合には、タップ数は2で十分なことが判っているし、逆に、打ち消すべき騒音の周波数成分が多数存在する場合には、それに応じてタップ数は多くなる。
【0028】
そこで、請求項2に係る発明のように、適応ディジタルフィルタの更新されるフィルタ係数の個数を各周波数帯域毎に設定すれば、無駄な適応ディジタルフィルタのフィルタ係数の更新演算を行うことがなくなり、効率的な演算が行われる。
さらに、上記請求項1に係る発明のように同一の適応ディジタルフィルタを各周波数帯域毎の残留騒音信号及び更新用基準信号の組合せで逐次更新する場合には、各周波数帯域毎に制御の安定性が異なることから、請求項3に係る発明のように、更新演算に用いるパラメータを各周波数帯域毎に設定すれば、各周波数帯域毎に安定性を損なわない範囲で最も速い収束速度が得られる。
【0029】
ここで、上記請求項1乃至請求項3に係る発明はいずれも騒音を対象としているのに対し、請求項4乃至請求項6に係る発明は振動を対象としている。従って、それら請求項4乃至請求項6に係る発明の作用は、音と振動との違いはあるが、実質的に上記請求項1乃至請求項3に係る発明と同様である。
【0030】
【実施例】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施例の全体構成を示す図であって、この実施例は本発明に係る能動型騒音制御装置を、車両車室内の騒音の低減を図る車両用能動型騒音制御装置1に適用したものである。
【0031】
先ず、構成を説明すると、この車両用能動型騒音制御装置1は、騒音源としての路面及び各車輪2a〜2d(図1には、車両左側の車輪2a,2cのみ図示している。)間から車室6内に伝達される騒音としてのロード・ノイズを低減する装置である。なお、ロード・ノイズとは、走行路面上の凹凸を車輪が通過する際の車輪上下動に起因して発生する騒音であり、通常は多くの周波数成分を含むランダムノイズである。
【0032】
そして、車体9及び各車輪2a〜2d間に介在するサスペンション10a〜10d(図1には、サスペンション10a,10cのみ図示している。)のそれぞれには、各サスペンション10a〜10dの上下方向の振動入力を検出するための加速度センサ5a〜5d(図1には、加速度センサ5a,5cのみ図示している。)が取り付けられていて、各加速度センサ5a〜5dが検出したロード・ノイズの発生状態を表す加速度信号が、基準信号xk (k=1〜K:Kはロード・ノイズの発生状態を表す基準信号xk の個数であり、これは車輪の個数に対応することから、本実施例ではK=4である。)として、コントローラ20に供給されるようになっている。
【0033】
一方、車室6内には、その車室6内に制御音を発生する制御音源としての複数のラウドスピーカ7a〜7d(図1には、ラウドスピーカ7a,7cのみ図示している。)が例えば前部座席の足下位置及び後部座席のヘッドレスト後方に配設されていて、これらラウドスピーカ7a〜7dは、コントローラ20から供給される駆動信号ym (m=1〜M:Mはラウドスピーカ7a〜7dの個数であり、本実施例ではM=4である。)に応じて駆動して制御音を発生するようになっている。
【0034】
さらに、車室6内の各座席の天井には複数のマイクロフォン8a〜8dが配設されていて、配設位置に残留する騒音の音圧を測定し、これを残留騒音信号el (l=1〜L:Lはマイクロフォン8a〜8dの個数であって、本実施例ではL=4である。)としてコントローラ20に供給するようになっている。
ここでコントローラ20は、A/D変換器,D/A変換器等の必要なインタフェース回路やマイクロコンピュータ等から構成されていて、供給される基準信号xk 及び残留騒音信号el に基づいて所定の演算処理を実行し、車室6内に伝達されているロード・ノイズが打ち消されるような制御音がラウドスピーカ7a〜7dから発せられるように、各ラウドスピーカ7a〜7dに駆動信号y1 〜y4 を供給するようになっている。
【0035】
コントローラ20は、基本的には、フィルタ係数可変の適応ディジタルフィルタWkmで各基準信号xk をフィルタ処理(実際には、畳み込み演算)し、その結果を添字m毎に加算することにより駆動信号ym を生成し、それら駆動信号ym を各ラウドスピーカ7a〜7dに供給する一方、適応ディジタルフィルタWkmのフィルタ係数Wkmi (i=0,1,2,…,I−1:Iは適応ディジタルフィルタWkmのタップ数)をFiltered−X LMSアルゴリズムに従って逐次更新する処理を実行するようになっている。なお、駆動信号ym の演算処理は下記の(1)式に、通常のFiltered−X LMSアルゴリズムにおける適応ディジタルフィルタWkmのフィルタ係数Wkmi の更新演算処理は下記の(2)式にそれぞれ示すようになる。
【0036】
ただし、αはフィルタ係数Wkmi の最適値への近似速度やその安定性に関与するパラメータである収束係数であり、(n),(n+1),(n−i)が付く項はそれぞれサンプリング時刻n,n+1,n−iにおける値であることを表している。また、上記(2)式中のrklm は、フィルタ係数Wkmi を更新するための基準信号(更新用基準信号,リファレンス信号)であって、基準信号xk を、ラウドスピーカ7a〜7d及びマイクロフォン8a〜8d間の伝達関数をモデル化したディジタルフィルタである伝達関数フィルタC^lmでフィルタ処理した値に対応する。従って、伝達関数フィルタC^lmのフィルタ係数をC^lmj (j=0,1,2,…,J:Jは伝達関数フィルタC^lmのタップ数である。)とすれば、更新用基準信号rklm は、具体的には、下記の(3)式により演算される。
【0037】
以上は一般的なFiltered−X LMSアルゴリズムを実施した場合のコントローラ20における演算内容であるが、本実施例のコントローラ20は、より詳細には、その機能構成を表すブロック図である図2に示すように構成されている。ただし、図2では、説明及び理解を簡単にするために、
K=L=M=1
としている。
【0038】
即ち、本実施例のコントローラ20は、残留騒音信号eを所定の周波数を境に低周波帯域の残留騒音信号e1 及び高周波帯域の残留騒音信号e2 に分割する残留騒音信号分割部21と、分割された残留騒音信号e1 ,e2 のそれぞれに対応した更新用基準信号r1 ,r2 を生成する更新用基準信号生成部22と、基準信号xに基づいて駆動信号yを演算し出力する駆動信号生成部23と、分割された残留騒音信号e1 ,e2 及び更新用基準信号r1 ,r2 に基づきLMSアルゴリズムに従って適応ディジタルフィルタWフィルタ係数W i を更新するフィルタ係数更新部24と、から構成されている。
【0039】
残留騒音信号分割部21は、その機能構成を表すブロック図である図3に示すように、並列関係にあるローパス・フィルタ21a及びハイパス・フィルタ21bから構成されていて、残留騒音信号eをローパス・フィルタ21aでフィルタ処理した結果が低周波帯域の残留騒音信号e1 となり、残留騒音信号eをハイパス・フィルタ21bでフィルタ処理した結果が高周波帯域の残留騒音信号e2 となるようになっている。
【0040】
これに対し、更新用基準信号生成部22は、その機能構成を表すブロック図である図4(a),(b)又は(c)のいずれかに示すように構成されている。
即ち、更新用基準信号生成部22は、例えば図4(a)に示すように、ラウドスピーカ及びマイクロフォン間の伝達関数をモデル化したディジタルフィルタである伝達関数フィルタC^と、残留騒音信号分割部21が有するローパス・フィルタ21aと同じ通過特性を有するローパス・フィルタ22aと、残留騒音信号分割部21が有するハイパス・フィルタと同じ通過特性を有するハイパス・フィルタ22bと、から構成され、基準信号xと伝達関数フィルタC^のフィルタ係数C^j とが畳み込まれて全周波数帯域の更新用基準信号rが演算され、その更新用基準信号rがローパス・フィルタ22aでフィルタ処理されて低周波帯域の更新用基準信号r1 が演算され、更新用基準信号rがハイパス・フィルタ22bでフィルタ処理されて高周波帯域の更新用基準信号r2 が演算されるようになっている。
【0041】
或いは、更新用基準信号生成部22は、図4(b)に示すように、上記と同様の伝達関数フィルタC^と、分割された残留騒音信号e1 の位相ずれに対応した遅延処理Z−t1 を実行する遅延処理部22cと、分割された残留騒音信号e2 の位相ずれに対応した遅延処理Z−t2 を実行する遅延処理部22dと、から構成され、基準信号xと伝達関数フィルタC^のフィルタ係数C^j とが畳み込まれて全周波数帯域の更新用基準信号rが演算され、その更新用基準信号rが遅延処理部22cで処理されて低周波帯域の更新用基準信号r1 が演算され、更新用基準信号rが遅延処理部22dで処理されて高周波帯域の更新用基準信号r2 が演算されるようになっている。
【0042】
また或いは、更新用基準信号生成部22は、図4(c)に示すように、上記と同様の伝達関数フィルタC^及びローパス・フィルタ22aのそれぞれのフィルタ係数同士を畳み込むことにより作成された伝達関数フィルタC^1 と、伝達関数フィルタC^及びハイパス・フィルタ22bのそれぞれのフィルタ係数同士を畳み込むことにより作成された伝達関数フィルタC^2 と、から構成され、基準信号xと伝達関数フィルタC^1 のフィルタ係数C^1jとが畳み込まれて低周波帯域の更新用基準信号r1 が演算され、基準信号xと伝達関数フィルタC^2 のフィルタ係数C^2jとが畳み込まれて高周波帯域の更新用基準信号r2 が演算されるようになっている。
【0043】
そして、本実施例では、基準信号x及びラウドスピーカの一つの組に対して一つの適応ディジタルフィルタWを設けていて、この適応ディジタルフィルタWで基準信号xをフィルタ処理することにより駆動信号yを演算するようになっているとともに、その一つの適応ディジタルフィルタWを、低周波帯域の残留騒音信号e 1 及び更新用基準信号r 1 が入力されるフィルタ係数更新部24Aと、高周波待機の残留騒音信号e 2 及び更新用基準信号r 2 が入力されるフィルタ係数更新部24Bとで逐次更新するようになっている。
【0044】
なお、適応ディジタルフィルタWのタップ数は、全周波数帯域の騒音を低減するのに十分なタップ数となっている。ただし、本実施例では、フィルタ係数更新部24Aによって更新される適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数W i の個数と、フィルタ係数更新部24Bによって更新される適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数W i の個数とを、各周波数帯域毎に設定している。
【0045】
ここで、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数W i の更新式を下記の(4)式に示す。
この(4)式中、α q は更新演算に用いられるパラメータとしての収束係数であり、添字qは、低周波帯域,高周波帯域を表していた添字“1,2”を一般的に表したものであり、残留騒音信号の分割数Qに応じて1〜Qの値を採るものであり、このように本実施例では、それら収束係数を周波数帯域毎(つまり、低周波帯域,高周波帯域毎)に設定している。
【0046】
なお、K,L,Mが複数の場合には、適応ディジタルフィルタW km のフィルタ係数W kmi の更新式は、下記の(5)式のようになる。
図5はコントローラ20内で実行される処理の流れの概要を示すフローチャートであり、以下、図5に従って本実施例の動作を説明する。ただし、車両は走行中であって、車室6内にはロード・ノイズが伝達されているものとし、説明及び理解を容易にするため、ここでも
K=L=M=1
としている。
【0047】
即ち、この図5に示す処理は所定のサンプリング・クロックに同期して実行されるようになっていて、先ずそのステップ101において基準信号x及び残留騒音信号eが読み込まれ、次いでステップ102に移行し、残留騒音信号eがローパス・フィルタ処理及びハイパス・フィルタ処理されて低周波帯域の残留騒音信号e1 及び高周波帯域の残留騒音信号e2 が演算され、次いでステップ103に移行し、低周波帯域の更新用基準信号r1 及び高周波帯域の更新用基準信号r2 が演算される。更新用基準信号r1 ,r2 の演算は、図4(a)〜(c)のいずれかに従って行われる。
【0048】
そして、ステップ301に移行し、上記(4)式に従って、適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数が更新される。ここで、本実施例では、適応ディジタルフィルタWの更新されるフィルタ係数W i の個数を周波数帯域(つまり、フィルタ係数更新部24A、22B)毎に設定しているため、このステップ301における更新演算は、必要最低限の回数で済み、演算の効率化が図られている。
【0049】
ステップ301の処理を終えたら、ステップ302に移行し、基準信号xと適応ディジタルフィルタWとが畳み込まれて駆動信号yが演算され、これがステップ107においてラウドスピーカに出力される。実際には、各ラウドスピーカ7a〜7dに駆動信号y1 〜y4 が出力される。なお、駆動信号ym がラウドスピーカ7a〜7dに出力されたら、今回のこの処理を終了し、次のサンプリング・クロックのタイミングまで待機した後に、上記ステップ101から再び処理を実行する。
【0050】
このような処理が実行されると、各ラウドスピーカ7a〜7dには次々と駆動信号ym が供給されるため、車室6内にはその駆動信号ym に応じた制御音が発生するようになるが、制御開始直後は、適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数W i が最適値に収束しているとは限らないので、ラウドスピーカ7a〜7dから発せられる制御音によって、ロード・ノイズが低減されるとはいえない。
【0051】
しかし、図5に示す処理が繰り返し実行されると、フィルタ係数更新部24A、24BがLMSアルゴリズムに従い適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数W i を更新するので、そのフィルタ係数W i は最適値に向かって収束していき、車室6内に伝達されるロード・ノイズが制御音によって打ち消されるようになり、車室6内の騒音レベルが低減する。
【0052】
しかも、本実施例にあっては、コントローラ20内において、各マイクロフォン8a〜8dが検出した残留騒音信号el をそのまま用いて演算処理を実行するのではなく、これを複数の周波数帯域の信号に分割し、その分割した各信号毎にFiltered−X LMSアルゴリズムを実行するようになっているため、低周波から高周波に至る広い範囲で騒音低減効果を得ることができる。
【0053】
即ち、ロード・ノイズのようなランダム・ノイズが伝達される車室6内の音圧の周波数特性は、例えば図6に示すように高周波側ほどレベルが低いのが一般的である。従って、その車室6内音圧の生データである残留騒音信号el をそのまま用いてコントローラ20で演算処理を実行してしまうと、上述した問題点のように、低周波側の騒音は良好に低減されるが、高周波側の騒音はそれほど低減されなくなってしまうのである。
【0054】
これに対し、本実施例の構成であれば、同一の適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数W i を、各周波数帯域毎に組となる残留騒音信号e1 、e2 及び更新用基準信号r1 ,r2 に基づいてフィルタ係数更新部24A、24Bが更新し、そして適応ディジタルフィルタWで基準信号xをフィルタ処理して駆動信号yを生成しているから、駆動信号yによってラウドスピーカが駆動されれば、車室6内には、低周波帯域の騒音を低減することができる制御音と、高周波帯域の騒音を低減することができる制御音との両方が確実に発生し、結果として、全周波数帯域に渡って騒音低減効果が得られるのである。このような効果は、図6に○で囲むようにレベルは低いが鋭いピークが存在する場合に特に有益である。その理由は、レベルが低くても周囲に比べて突出している周波数成分は、乗員に耳障りな音として感知され易いからである。
【0055】
また、本実施例にあっては、適応ディジタルフィルタWの更新されるフィルタ係数の個数をフィルタ係数更新部24A、24B別に設定しているため、無駄な更新演算を行うことがなく、演算の効率化が図られる。このことは、残留騒音信号eを分割して更新演算を行う構成としても、大幅な演算負荷の増大を招かないことを意味する。
さらには、本実施例では、収束係数α1 ,α2 を各周波数帯域毎に設定しているため、各周波数帯域毎に、制御の安定性を損なわない範囲で、最も速い収束速度が得られるという効果がある。つまり、各周波数帯域毎に最適な騒音低減制御を行うことができるのである。
【0056】
ここで、本実施例では、ラウドスピーカ7a〜7dが制御音源に対応し、マイクロフォン8a〜8dが残留騒音検出手段に対応し、加速度センサ5a〜5dが基準信号生成手段に対応し、駆動信号生成部23及びステップ302の処理が駆動信号生成手段に対応し、残留騒音信号分割部21及びステップ102の処理が残留騒音信号分割手段に対応し、更新用基準信号生成部22及びステップ103の処理が更新用基準信号生成手段に対応し、フィルタ係数更新部24A、24B及びステップ301の処理がフィルタ係数更新手段に対応し、更新用基準信号生成部22,フィルタ係数更新部24及びステップ103,301の処理が適応処理手段に対応する。
【0072】
なお、上記実施例では、残留騒音信号el を低周波帯域及び高周波帯域の二つの周波数帯域に分割する場合を中心に説明しているが、残留騒音信号el の分割数はこれに限定されるものではなく、三つ以上であってもよい。
【0073】
そして、上記実施例では、制御対象となる騒音をロード・ノイズとしているが、低減し得る騒音はこれに限定されるものではなく、例えばエアコンディショナで発生する空調騒音,吸気管や排気管で発生する吸排気騒音,ドアミラー位置で発生する風切り音等を対象としてもよい。ただし、その場合には、騒音の発生状態を表す基準信号を適宜検出する必要があり、例えば空調騒音であればエアコンプレッサの回転に同期した信号を基準信号とすればよく、吸排気騒音であればエンジンの回転に起因することからエンジンのクランク軸の回転に同期した信号を基準信号とすればよく、風切り音であればドアミラーに振動ピックアップを固定してその出力を基準信号とすればよい。
【0074】
さらに、上記実施例では、制御対象を騒音としているが、低減の対象は騒音に限定されるものではなく、例えば、サスペンション10a〜10d及び車体間に能動的な制御力を発生する制御アクチュエータを介在させるとともに、その車体側に残留振動を検出する加速度センサ(残留振動検出手段)を配設し、そして、かかる制御アクチュエータを上記実施例と同様の基準信号x及び加速度センサの出力信号(残留振動信号)に基づいて制御すれば、各サスペンション10a〜10dから車体側に伝達される振動を低減し得る車両用能動型振動制御装置となる。
【0075】
そして、本発明の適用対象は車両に限定されるものではなく、例えば航空機や建物の室内の騒音を低減する能動型騒音制御装置や、工作機から床に伝達される振動を低減する能動型振動制御装置に適用してもよい。
またさらに、上記各実施例では、適応アルゴリズムとしてLMSアルゴリズム(Filtered−X LMSアルゴリズム)を適用した場合について説明したが、その他の適応アルゴリズム、例えば同期式Filtered−X LMSアルゴリズム(日本音響学会講演論文集 平成4年3月の515〜516頁に詳しい)や、伝達関数フィルタC^を制御中に同定する処理を備えた適応アルゴリズム等であってもよい。
【0076】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1及び請求項4に係る発明によれば、残留騒音信号、残留振動信号を複数の周波数帯域の信号に分割して、適応ディジタルフィルタの更新演算に用いるようにしたため、低周波から高周波に至る広い範囲で騒音低減効果,振動低減効果を得ることができるという効果がある。
【0077】
特に、請求項2及び請求項5に係る発明によれば、無駄な更新演算を行うことがなく、演算の効率化を図ることができるから、請求項1又は請求項4に係る発明を適用しても、大幅な演算負荷の増大を招かないで済むという効果がある。
また、請求項3及び請求項6に係る発明によれば、各周波数帯域毎に最適な制御を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における全体構成図である。
【図2】実施例におけるコントローラの機能構成を示すブロック図である。
【図3】残留騒音信号分割部の機能構成を示すブロック図である。
【図4】更新用基準信号生成部の機能構成を示すブロック図である。
【図5】コントローラ内で実行される処理の概要を示すフローチャートである。
【図6】車室内騒音の周波数特性図である。
【符号の説明】
1 車両用能動型騒音制御装置
5a,5c 加速度センサ(基準信号生成手段)
7a,7c ラウドスピーカ(制御音源)
8a〜8d マイクロフォン(残留騒音検出手段)
20 コントローラ
21 残留騒音信号分割部(残留騒音信号分割手段)
22 更新用基準信号生成部(更新用基準信号生成手段)
23 駆動信号生成部(駆動信号生成手段)
24A,24B フィルタ係数更新部(フィルタ係数更新手段)
Claims (6)
- 騒音源から発せられた騒音と干渉する制御音を発生可能な制御音源と、前記干渉後の残留騒音を検出し残留騒音信号として出力する残留騒音検出手段と、前記騒音源の騒音発生状態を検出し基準信号として出力する基準信号生成手段と、フィルタ係数可変の適応ディジタルフィルタと、前記基準信号を前記適応ディジタルフィルタでフィルタ処理して前記制御音源を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、前記残留騒音信号を複数の周波数帯域毎の信号に分割する残留騒音信号分割手段と、前記分割された残留騒音信号及び前記基準信号に基づいて前記干渉後の騒音が低減するように適応アルゴリズムに従って前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を更新する適応処理手段と、を備え、
前記適応処理手段を、前記基準信号に基づいて前記複数の残留騒音信号に対応した複数の更新用基準信号を生成する更新用基準信号生成手段と、前記複数の周波数帯域毎に前記残留騒音信号及び前記更新用基準信号に基づき且つ前記適応アルゴリズムに従って同一の前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を直接増減することにより逐次更新する複数のフィルタ係数更新手段と、を含んで構成したことを特徴とする能動型騒音制御装置。 - 前記適応ディジタルフィルタを有限インパルス応答型のディジタルフィルタで構成するとともに、前記適応ディジタルフィルタの更新されるフィルタ係数の個数を、前記複数の周波数帯域毎に設定した請求項1に記載の能動型騒音制御装置。
- 前記適応ディジタルフィルタを更新する際に用いるパラメータを、前記複数の周波数帯域毎に設定した請求項1又は請求項2記載の能動型騒音制御装置。
- 振動源から発せられた振動と干渉する制御振動を発生可能な制御振動源と、前記干渉後の残留振動を検出し残留振動信号として出力する残留振動検出手段と、前記振動源の振動発生状態を検出し基準信号として出力する基準信号生成手段と、フィルタ係数可変の適応ディジタルフィルタと、前記基準信号を前記適応ディジタルフィルタでフィルタ処理して前記制御振動源を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、前記残留振動信号を複数の周波数帯域毎の信号に分割する残留振動信号分割手段と、前記分割された残留振動信号及び前記基準信号に基づいて前記干渉後の振動が低減するように適応アルゴリズムに従って前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を更新する適応処理手段と、を備え、
前記適応処理手段を、前記基準信号に基づいて前記複数の残留振動信号に対応した複数の更新用基準信号を生成する更新用基準信号生成手段と、前記複数の周波数帯域毎に前記残留振動信号及び前記更新用基準信号に基づき且つ前記適応アルゴリズムに従って同一の前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を直接増減することにより逐次更新する複数のフィルタ係数更新手段と、を含んで構成したことを特徴とする能動型振動制御装置。 - 前記適応ディジタルフィルタを有限インパルス応答型のディジタルフィルタで構成するとともに、前記適応ディジタルフィルタの更新されるフィルタ係数の個数を、前記複数の周波数帯域毎に設定した請求項4に記載の能動型振動制御装置。
- 前記適応ディジタルフィルタを更新する際に用いるパラメータを、前記複数の周波数帯域毎に設定した請求項4又は請求項5記載の能動型振動制御装置。
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