JP3608709B2 - 抄紙機に使用されるカンバスの汚染防止方法 - Google Patents

抄紙機に使用されるカンバスの汚染防止方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、抄紙機のドライヤと共働して使用されるカンバスに関し、更に詳しくは、抄紙機のドライヤと共働して使用されるカンバスの汚染防止方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、紙の用途も広範囲に拡大し、従来にない機能を持つ紙材料が開発されてきている。
それに応じて抄紙機で製造される紙も多様化され、その種類も多い。
抄紙機で製造される紙は、乾燥工程を経て製品となることから、この乾燥工程は技術的にみて極めて重要な部分に位置付けられる。
【0003】
抄紙機には、この乾燥のため、複数のドライヤが備えられており、該ドライヤの内部には蒸気等の熱媒体が存在し、内部から加熱される構造となっている。
抄紙機のドライヤには、未だ乾燥されていない湿気を有する紙が、連続的に供給されてくる。
この供給されてきた湿紙をドライヤ表面に対して強く押し付ける役割をするのが、いわゆるカンバスである。
【0004】
湿紙は、カンバスにより押し付けられることにより、ドライヤ表面から熱を吸収して含まれている湿気を発散する。
そのためカンバスは、フレキシブルなもので、且つ間隙のある材質、例えば、織布、フエルト(不織布)、編布等で形成されるのが普通である。
カンバス表面を拡大して見ると、その表面にカンバスを構成している糸の間に多数の細かい孔(いわゆるカンバスの目)が形成されていることが分かる。
紙に含まれる水分は、高温のドライヤによって加熱され、そのカンバスの目を通って散逸する。
【0005】
ところで、紙には種々の物質、例えば、パルプ原料自体に含まれるピッチ・タール分、古紙原料からくるホットメルト、インキ・微細せんい、紙の強度や白色度を補助するための諸添加薬剤、塗料等の含有物(異物)が含有されており、このような含有物は、粘着性を有するため、紙がカンバスによりドライヤの表面に強く圧接される際、カンバス面に付着して汚染物質(汚染源)となる。
すなわち、紙に含まれる含有物が、圧力及び熱により変性化してカンバスの表面に固着し、カンバスの目を詰まらせるのである。
【0006】
最近は、天然繊維を素材としたカンバスから、合成繊維を素材としたカンバスに移行しており、そのため耐久性が増すことから寿命が長くなっている。
寿命が延びることは、逆にそれだけ汚染物質の蓄積が増えることでもある。
従って、抄紙機を長く運転すると、これら汚染物質によりカンバスの目が詰まる現象が多く生じる。
【0007】
近年は、抄紙工程で、紙力増強や歩留り向上のために、例えば、紙にポリアクリル系樹脂を添加することが行われているが、特に、カチオン性のものは、強い粘着力によりカンバスに簡単に転移して固着する結果、カンバスの目を詰まらせる。
カンバスが目詰まりを起こすと、通気度は極端に低下して、紙の乾燥効率を悪化させることになる。
すなわち、通常は、ドライヤとカンバスとの間で圧接状態にある湿紙から、カンバスの目を介して十分水分が発散するのであるが、カンバスの目に詰まりが生じてくると、発散した水分は逃げきることができない。
このような状態では、乾燥効率が大きく低下するのである。
【0008】
さらに、カンバス上に蓄積された汚染物質の一部がカンバス表面より新しく供給されてくる紙体に転写され紙を汚染することになる。
また、汚染物質は粘着性を有するためカンバスのガイドロールであるアウトロール上でも蓄積して大きな塊りとなる。
そして、この塊の一部が剥がれて紙上に付着すると、ドライヤと紙が接した際、この粘着性による引張り力が紙に付加されることになり、これが断紙の原因となる。
このような問題を解決するために、カンバスの定期清掃を頻繁に行ったり、取替え期間の間隔を短縮するよう対処法が採られているが、時間やコスト面で負担が大きい。
【0009】
そこでカンバス表面に処理加工を行うことで汚染防止する方法が開発されている。
すなわち、カンバスを撥水性又は撥油性の樹脂、例えば、4フッ化エチレン樹脂で加工処理する方法である。
しかし、加工処理によりカンバスの目が一部詰まる領域ができ、乾燥効率が悪くなる。
しかも、このような防汚加工を施しても、抄紙機の運転中、初期の段階で効果があるだけで、数日後(例えば,5〜6日後)には、効果が低下して未処理のカンバスと全く差がなくなってしまう。
【0010】
以上説明したように、紙に含まれている種々の含有物がカンバスに固着し、運転とともに蓄積されるとカンバスの目が閉じられて水分が蒸発しなくなり結果的に乾燥効率が低下する点、また、カンバスとアウトロール上に蓄積した汚染物質が、逆に新しく供給されてくる紙体を汚染したり、運転中の断紙の原因にもなる点が、抄紙機の技術的な大きな問題となっていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これらの問題点の解決を意図したものである。
即ち、本発明の目的は、カンバスの汚染防止効果を常に維持でき、しかも的確な乾燥効率が保証できるカンバスの汚染防止方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
しかして、本発明者等は、このような課題に対して、鋭意研究を重ねた結果、カンバスにシリコンオイルを常に連続的に供給せしめることにより、カンバスの表面にシリコンが目詰まりを起こさない程度に付着されることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は、(1)、 抄紙機において紙体の乾燥に使用する円筒状ドライヤに対して、該紙体を押圧するためのカンバスに関する汚染防止方法であって、抄紙機の運転により紙体が供給されている状態において、カンバスとドライヤとの間に紙体が圧接される前の段階で、カンバスの直接表面に対して、表面処理剤に含まれるシリコンオイルの供給量が0.1〜100mg/m 2 ・分になるように、散布ノズルから連続的に、50〜80℃に加熱した水で希釈したシリコンオイルを含む乳化水溶液からなる表面処理剤を供給せしめ続ける汚染防止方法に存する。
【0019】
そしてまた、(2)、抄紙機において紙体の乾燥に使用する円筒状ドライヤに対して、該紙体を押圧するためのカンバスに関する汚染防止方法であって、抄紙機の運転により紙体が供給されている状態において、カンバスとドライヤとの間に紙体が圧接される前の段階で、カンバスを案内するカンバスロールの表面に対して、表面処理剤に含まれるシリコンオイルの供給量が0.1〜100mg/m 2 ・分になるように、散布ノズルから連続的に、50〜80℃に加熱した水で希釈したシリコンオイルを含む乳化水溶液からなる表面処理剤を供給せしめ続ける汚染防止方法に存する。
【0024】
そしてまた、(3)、抄紙機において紙体の乾燥に使用する円筒状ドライヤに対して、該紙体を押圧するためのカンバスに関する汚染防止方法であって、順次、以下1)〜4)の工程を含む汚染防止方法に存する。
1)散布ノズルからカンバスに、表面処理剤に含まれるシリコンオイルの供給量が0.1〜100mg/m 2 ・分になるように、50〜80℃に加熱した水で希釈したシリコンオイルを含む乳化水溶液からなる表面処理剤を供給付与するシリコンオイル供給付与工程
2)カンバスの面にシリコンオイルを熱と圧力で浸透付着させるシリコンオイル浸透付着工程
3)カンバスに紙が圧接されてシリコンオイルが紙に転移するシリコンオイル転移工程
4)転移して減耗したカンバスのシリコンオイルを補充するシリコンオイル補充工程
【0025】
そしてまた、(4)、 抄紙機において紙体の乾燥に使用する円筒状ドライヤに対して、該紙体を押圧するためのカンバスに関する汚染防止方法であって、順次、以下の工程1)〜5)を含むこと汚染防止方法に存する。
1)散布ノズルからアウトロールに、表面処理剤に含まれるシリコンオイルの供給量が0.1〜100mg/m 2 ・分になるように、50〜80℃に加熱した水で希釈したシリコンオイルを含む乳化水溶液からなる表面処理剤を供給付与するシリコンオイル供給付与工程
2)アウトロールからカンバスにシリコンオイルを移行させるシリコンオイル移行工程
3)カンバスの面にシリコンオイルを熱と圧力で浸透付着させるシリコンオイル浸透付着工程
4)カンバスに紙が圧接されてシリコンオイルが紙に転移するシリコンオイル転移工程
5)転移して減耗したカンバスのシリコンオイルを補充するシリコンオイル補充工程
本発明は、この目的に沿ったものであれば、上記1〜4の中から選ばれた2つ以上を組み合わせた構成も採用可能である。
【0026】
【作用】
カンバスの表面に一定量ずつ、シリコンオイルを供給し続けることにより、該シリコンオイルがカンバス面に付着される。
カンバスと紙体が互いに圧接されドライヤにより熱を受けることからシリコンオイルはカンバスに浸透付着する。
一方、シリコンオイルは紙体に徐々に移行され減耗してくるが、他方では、カンバスにはシリコンが常に供給付与され続けるので、その消耗分を補充して常に新しいシリコンが付着された状態となる。
従って、紙体に含まれる諸含有物がカンバス表面に固着するのが防止される。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態を挙げ図面に基づいて、本発明を説明する。
まず、本発明に適応される抄紙機の一例について述べる。
図1は、多筒型のドライヤを有する抄紙機を示すものであり、大きくは、ワイヤーパートA、プレスパートB、及びドライパートCよりなる。
概略的に説明すると、ワイヤーパートAでは、フロースプレッタヘッドボックスから、原料(パルプ等)が長網テーブルA1の上に均一にシート状に供給される。
シート状に形成された紙体Wは、長網テーブルを通過する間に水分は略80%程度に減少され、次のプレスパートBに移送される。
【0028】
プレスパートBでは、圧接ローラB1及びエンドレスベルトB2等によりにより上下から紙体が絞り込まれる。
このプレスパートBを通過する間に、紙体の水分は50%程度に減少し、プレスパートを通過した後は、次のドライパート(乾燥部分)Cに移送される。
このドライヤパートでは、紙体Wはその含んでいる湿気の大部分を発散され、その水分は略10%程度に減少される。
具体的には、このドライパートCには、加熱した円筒状ドライヤC1、該ドライヤに紙体を押し付けるためのカンバスC2,C3、該カンバスを案内するためのカンバスローラC4等が配置され、紙体の水分を熱により発散させるのである。
ところで、図に示す抄紙機においては、2つのグループのドライパートを備えている。
【0029】
また図2にその一つのドライパートを拡大して示す。
このドライパートCでは、上下の各カンバスC2,C3が、それぞれ複数のカンバスロールを介して一定の閉ループを描いて走行し、複数のドライヤC1を圧接する構造となっている。
ここで、使用されているドライヤC1は多筒型のもので、上段及び下段に複数個並列配置されている。
前述したように、カンバスC2,C3は、各ドライヤに紙体を押し付ける役割を果たし、各カンバスロールC4の間を順次走行する。
図から明らかなように、インナーカンバスロールC4はカンバスC2,C3の内側に配置され、またアウトロールC5はその外側に配置される。
通常、アウトロールは、移動自在に調節されており、カンバス全体の張力を調整するためにある。
【0030】
さて、以上のような抄紙機のドライパートCにおいては、紙体(実際には湿紙)Wは、カンバスとドライヤの間に添接しながら所定軌道に沿って給送されるものである。
その際、上側のカンバスとドライヤとの間で、また下側のカンバスとドライヤとの間で圧接されて、次第に乾燥されていくのである。
本発明は、このようなドライパートにおいてカンバスの直接表面に対してシリコンオイルを含む表面処理剤を散布することにより達成される。
【0031】
ここで、参考までに図3に薬液、すなわち表面処理剤を散布するために使用する噴射装置を示す。
この薬液噴射装置は、薬液タンク1から送られた表面処理剤を散布ノズルSからドライヤ表面に向けて散布するものである。
必要に応じて、水を流量計2を介して取り入れ、ミキサ3により混合して同時に散布ノズルSから散布することもある。
散布ノズルSを変更することによって、ドライヤに対する散布手法を種々選択することができる。
【0032】
図4〜図6は、表面処理剤の散布状態を模式的に示すものある。
図4は、カンバスの表面に向かって薬液噴射装置の散布ノズル(固定型)からシリコンオイルを散布する状態を示したものであり、図5は、長尺型の散布ノズルを含む薬液噴射装置を使った場合であり、また図6は、移動型の散布ノズルを含む薬液噴射装置を使った場合である。
カンバスの汚染を防止するには、図2のX、Y等で示す位置にて、散布ノズルを図4〜図6のようにセットし、カンバスの表面に向かって表面処理剤を散布するのである。
【0033】
本発明で使用される表面処理剤はシリコンオイルを主成分とするものである。ここでシリコンオイル(シリコーン系オイル)としては、メチルフェニルシリコーンオイル、ジエチルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル等のシリコンオイルが採用される。
そして、表面処理剤であるシリコンオイル(シリコーン系オイル)を散布するには粘性を低下させると共に、スプレーにおける散布性を良くするためにシリコンオイルに界面活性剤を加えて乳化状態にすることが好ましい。
【0034】
シリコンオイルを乳化させるために使用する界面活性剤は、シリコンオイルの15〜70重量%が好ましく、通常は、これにシリコンオイルの4〜15倍の水を加えて表面処理剤とする。
勿論、必要に応じて更に他の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。表面処理剤をカンバスの広範囲に渡って同時に散布するために、該表面処理剤を更に100倍乃至3000倍に薄めて使用する場合もある。
また、スカム・スライムによるノズルの詰まりを極力無くするために希釈する水を50〜80℃に加熱することが好ましい。
この場合、当然、表面処理剤がほぼ同様な温度に加熱される。
【0035】
次に、カンバスに表面処理剤を付与するための一連の工程を示す。
上記図4〜図6で示したように、カンバスにシリコンオイルを含む表面処理剤を連続的に供給付与する(シリコンオイル付与工程)。
カンバスがドライヤに紙体を介して圧接されるため、カンバスに供給付与されたシリコンオイルは、ドライヤからの伝導熱により加熱されて、カンバスに浸透していく。(シリコンオイル浸透付着工程)。
【0036】
供給されるシリコンオイルの量は後述するように少量のため、カンバスが目詰まりを起こすことはない。
抄紙機を連続運転していると、カンバスの表面から内部に浸入し緻密に付着された状態となる。
一方、カンバス表面に付着されたシリコンオイルは、カンバスが紙体に圧接され続けるため、常に一定の量が紙体に転移していく(シリコンオイル転移工程)。
そのため、カンバスに付着されたシリコンオイルは徐々に減耗(損耗)していく。
【0037】
ところが一方では、カンバスにはシリコンオイルが依然として供給し続けられるので、減少した分はすぐ補充されていくことになる(シリコンオイル補充工程)。
このようなシリコンオイルの減少や補充作用は各々が独立した現象ではなく、協働作用により同時に達成されていくものである。
このように、従来の如く、前もってカンバスに汚染防止処理加工を施してあるものを使った場合のように、カンバスを使用するにつれて汚染防止効果が減少していくことはない。
そのため、カンバス面には表面処理剤に含まれる適度のシリコンオイルが常に付与された状態となり連続運転に十分に耐えることができるのである。
【0038】
ここで、図7は、更に、カンバスの表面がシリコンオイルを含む表面処理剤によって、どのように処理されていくのかを模式図で説明した図である。
すなわち、シリコンオイル付与工程においては、
1)カンバスC2の表面にシリコンオイルPが付着する(A)。
次にシリコンオイル浸透付着工程においては、
2)ドライヤによって加熱されてシリコンオイルPがカンバスC2の内部に浸入していく(B)。
3)シリコンオイルPが供給付与され続けるので、シリコンオイルはカンバスC2の内部に更に浸入していく(C)。
シリコンオイル転移工程においては、
4)シリコンオイルPが紙体Wに転移してカンバス面から自然損耗していく(D)。
シリコンオイル補充工程においては、
5)新しいシリコンオイルPが供給付与され、紙体Wに転移することで消耗したシリコンオイルは、速やかに適宜補充される(E)。
【0039】
以上のように、抄紙機の運転中、移動している新しいカンバス面にシリコンオイルを含む表面処理剤を供給付与すると、初期の段階では、作用1)〜3)が遂行される。
次に、シリコンオイルの供給付与を続けていくと、上記4)〜5)工程が遂行される。
もっとも、先述したように、作用4)及び5)は、区別されるものではなく同時に行われるものである。
このように、シリコンオイル付与工程、シリコンオイル浸透付着工程、シリコンオイル転移工程、シリコンオイル補充工程の4つの各工程を経ることにより、上記の各作用が働き、カンバスの汚染防止効果が生じてくることになる。
【0040】
ところで、本発明においては、シリコンオイルをカンバスに対してどれだけの分量供給するのかが重要なポイントである。
その理由としては、シリコンオイルの供給量は、多過ぎるとカンバスの目を埋めて乾燥効率が悪くなるからである。
また、シリコンオイルの供給量は、少な過ぎるとカンバスから減耗する量を常に補充することができないからである。
これらの2つの条件を満足するようにシリコンオイルの供給(散布)がなされなければならない。
【0041】
ここで、シリコンオイルの供給量としては、カンバスの種類、紙質によって多少異なるが、通常は、0.1〜200mg/m ・分であり、好ましくは、1〜100mg/m ・分である。
0.1mg/m ・分より少ないとカンバスに十分浸透しなく、また200mg/m ・分を越えると、シリコンオイルを含む表面処理剤のタレが生じカンバスの目詰まりを起こしたり、紙の油ジミや周辺機器の汚染が生じる。
【0042】
次に、本発明のシリコンオイルの供給量を変えた実験(実施例1〜実施例3)を行ったので、その実例を掲げる。
尚、前処理を施したカンバスを使った実験例(比較例)も示した。
【0043】
〔実施例1〕
図1のような多筒ドライヤ型抄紙機〔(株)小林製作所製〕において、表面処理剤を図6に示す散布装置のノズルよりカンバス表面に連続的に散布する運転を1か月間行った後、その時点のカンバス面の表面状態を観察した。
又、その間に生産した紙(ライナー)の品質について検査も行った。
【0044】
〔使用した表面処理剤〕
ここで使用した表面処理剤は、シリコンオイル対界面活性剤の重量比率を10:5にとり,シリコンオイルの6倍の水で希釈した乳化水溶液である(密度は約1.0g/cc)。
【0045】
〔散布量〕
6cc/分
この時のカンバス表面に紙が当接する面積は50m2 であり、シリコンオイルの供給量は、単位時間・面積当たり、
6cc/分×1.0g/cc÷7.5÷50m20.016g/m2 ・分=16mg/m2 ・分となる。
【0046】
〔結果〕
その結果、カンバスの目にはほとんど詰まりはなく(図11参照)、紙にも上記の汚染物質や表面処理剤のシリコンオイルによる汚れは全く見られなかった。また、この間にドライパートで生じた紙切れは5回程度であり、本技術の適用前の25回/月と較べて激減した。
【0047】
〔実施例2〕
図1のような多筒ドライヤ型抄紙機〔三菱重工業(株)製〕において、表面処理剤を図5に示す散布装置のノズルよりカンバス表面に連続的に散布する運転を1か月間行った後、その時点のカンバスのアウトロールの表面状態を観察した。
又、その間に生産した紙(中芯原紙)の品質についても検査を行った。
〔使用した表面処理剤〕
ここで使用した表面処理剤は、実施例1で用いた表面処理剤を、60℃の温水で200倍に希釈した乳化水溶液である(密度は約1.0g/cc)。
【0048】
〔散布量〕
2400cc/分
この時のカンバス表面に紙が当接する面積は160m2 であり、シリコンオイルの供給量は、単位時間・面積当たり、
2400cc/分×1.0g/cc÷200÷7.5÷160m20.01g/m2 ・分=10mg/m2 ・分となる。
又、その間に生産した紙(下紙印刷紙)の品質についても検査を行った。
【0049】
〔結果〕
その結果、アウトロール表面に汚染物質の蓄積は全くなく(図12参照)、紙にも上記の汚染物質やシリコンオイルの汚れは全く見られなかった。
また、この間にドライパートで生じた紙切れは8回であり、本発明技術の適用前の40回/月から激減した。
【0050】
〔実施例3〕
図1のような多筒ドライヤ型抄紙機〔(株)小林製作所製〕において、表面処理剤を図6に示す散布装置のノズルよりカンバス表面に連続的に散布する運転を1か月間行った後、その時点のカンバス面の表面状態を観察した。
又、その間に生産した紙(下紙印刷紙)の品質についても検査を行った。
【0051】
〔使用した表面処理剤〕
ここで使用した表面処理剤は、シリコンオイル対界面活性剤の重量比率を10:8にとり,シリコンオイルの14倍の水で希釈した乳化水溶液である(密度は約1.0g/cc)。
【0052】
〔散布量〕
2cc/分
この時のカンバス表面に紙が当接する面積90m2 であり、シリコンオイルの供給量は単位時間・面積当たり
2cc/分×1.0g/cc÷15.8÷90m21.41×10-3g /m2 ・分=1.41mg/m2 ・分
【0053】
〔結果〕
その結果、カンバスの目に全く詰まりはなく、紙の表面にも汚染物質の転写やシリコンオイルの付着はなかった。
また紙切れ回数は6回であり、本発明技術適用前の20回/月から激減した。以上、実施例を述べてきたが、表面処理剤を希釈する水を散布寸前に50〜80℃の温水にした場合と、室温(23℃程度)とした場合の両方のケースでノズル散布を行った。
その結果、室温の場合では、ノズルにしばしば(1〜2週間に1回)詰まりが生じたが、温水の方はノズルの詰まりは全くなくより効率よい散布が行えた。
【0054】
〔比較例1〕
図1のような多筒ドライヤ型抄紙機において、撥水剤(テフロン)による防汚加工を施したカンバスを使って運転を1か月間行った後、その時点のカンバス面の表面状態を観察した。
又、その間に生産した紙(中芯原紙)の品質や紙切れによる操作停止回数についてデータを取得した。
【0055】
〔結果〕
その結果、カンバスの目に付着物が詰まった部分が多く(図14参照)、アウトロール表面には同様の付着物が塊りとなって蓄積されていた(図13参照)。
また紙の表面にも、ピッチ、紙粉等の付着物が多い。
また、期間中、ピッチ、紙粉等の付着による製品の品質不良が23回生じ、紙切れも42回生じた。
【0056】
〔比較例2〕
実施例1と同じ条件で運転を1か月間行った後、その時点のカンバスの表面状況を観察した。(観察1)
そして、表面処理剤の散布量を5時間毎に2.5 ,5 ,7.5 , 10, 12.5倍に増やしていきながら、カンバス表面の状況を観察すると共に、その間に生産した紙(ライナー)の品質についても検査を行った。(観察2)
【0057】
〔散布量〕
15,30,45,60,75cc/分
〔シリコンオイルの供給量〕
40,80,120,160,200mg/m2 ・分
【0058】
〔結果〕
その結果、観察1で見られた小さな汚染物質の付着は、観察2においては、散布量を30cc/分(80mg/m2 ・分)にすると殆どなくなっていた。
さらに、散布量を増加してもカンバスの表面状況は変わらなかったが、75cc/分(200mg/m2 ・分)では、余剰な表面処理剤がカンバスから垂れ落ち、カンバスの目詰まりが生じ始め、カンバスの周辺もシリコンオイルで滑り易く作業上危険な状態となった。
【0059】
〔比較例3〕
実施例3と同じ条件で運転を1か月間行った後、その時点のカンバスの表面状況を観察した。(観察1)
そして、表面処理剤の散布量を一定とし、表面処理剤中に含有されるシリコンオイルの重量を5時間毎に1/2,1/4,1/8,1/10,1/20倍に減らしていきながら、カンバス表面の状況を観察すると共に、その間に生産した紙(下級印刷紙)の品質についても検査を行った。(観察2)
【0060】
〔散布量〕
2cc/分
【0061】
〔シリコンオイルの供給量〕
0.71,0.35,0.18,0.14,0.07mg/m2 ・分
【0062】
〔結果〕
その結果、観察1のカンバス表面状態に比べて、観察2においては、散布量を減少するに従ってカンバス上に少しずつ汚染物質が付着するようになったが、0.14mg/m2 ・分までは、カンバスの目詰まりを起こすこともなく紙に影響がでることはなかった。
しかしながら、0.07mg/m2 ・分まで下げると、汚染物質の付着量が急増、カンバスの目詰まりが生じ始め、紙にも、カンバスの汚れが欠点となって現れた。
【0063】
実施例3と本比較例(0.07mg/m2 ・分の場合)を比較するため、抄紙機を停止させてカンバス表面にポリエステル粘着テープ(5cm幅)を当て、汚れ成分を採取した。
その結果を図15に比較して示す。
【0064】
ところで、今まで述べてきたのは、カンバス表面に直接、表面処理剤を供給付与する方法である。
本発明においては、該表面処理剤をカンバスの表面に直接付与する方法の他に、間接的に付与する方法もある。
図8は、表面処理剤をカンバスの表面に間接的に付与する方法の一例を示したものであり、特に、この場合は、引っ込み状態にあるアウトロールに対して散布した例を示す。
図から分かるように、薬液噴射装置の散布ノズル(固定型)Sから、アウトロールの表面に向かってシリコンオイルを含む表面処理剤が散布される。
【0065】
図9は、移動式の散布ノズルSを備えた薬液噴射装置を使って、表面処理剤を散布する例を示す。
図10は、長尺型の散布ノズルSを備えた薬液噴射装置を使って、表面処理剤を散布する例を示す。
これらの例では、引き込み状態に配置されたアウトロールC5に散布することにより(図2のZで示す位置)、アウトロールC5の上下面がカンバスC2により隔離された狭空間となり表面処理剤の散逸が防止される利点がある。
【0066】
ここで、シリコンオイルを含む表面処理剤をアウトロールの表面に間接的に付与するための一連の工程を示す。
〔シリコンオイル付与工程〕
1)アウトロール表面にシリコンオイルPが付着する。
〔シリコンオイル移行工程〕
2)アウトロール表面からカンバスC2にシリコンオイルPが移行して、その結果カンバス表面にシリコンオイルが付着する。
以下、先述べたカンバスに対して、直接、表面処理剤を供給付与する工程と同じである。
このように、シリコンオイル付与工程、シリコンオイル移行工程、シリコンオイル浸透付着工程、シリコンオイル転移工程、シリコンオイル補充工程の5つの各工程を経ることにより、上記の各作用が働き、カンバスの汚染防止効果が生じてくることになる。
【0067】
以上、本発明を説明してきたが、本発明は実施形態にのみ限定されるものではなく、その本質から逸脱しない範囲で、他の色々な変形例が可能であることは言うまでもない。
例えば、カンバスに散布する位置は、抄紙機において、運転に差し支えない範囲で任意選択可能である。
アウトロールにおいても同様である。
【0068】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、この種の抄紙機において、直接又は間接的にカンバスの表面にシリコンオイルを含む表面処理剤を連続供給することで、湿紙からカンバスに汚染物等が付着するのを有効に防止することができる。
またカンバスの目が詰まらないため水分の蒸発を妨げず的確な乾燥効率が得られる。
その結果、カンバスの耐久期間が増大し、カンバスの取替え期間の間隔が長くなり、清掃回数が減少する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、多筒型のドライヤを有するドライパートを備えた抄紙機全体を示す概略図である。
【図2】図2は、図1のドライパートを拡大して示す図である。
【図3】図3は、表面処理剤を散布するために使用する噴射装置を示す。
【図4】図4は、固定型の散布ノズルによる散布状態を示す図である。
【図5】図5は、長尺型の散布ノズルによる散布状態を示す図である。
【図6】図6は、移動型の散布ノズルによる散布状態を示す図である。
【図7】図7は、キャンバスに対するシリコンオイルの付着原理を模式的に示す図である。
【図8】図8は、固定型の散布ノズルによる散布状態を示す図である。
【図9】図9は、移動型の散布ノズルによる散布状態を示す図である。
【図10】図10は、長尺型の散布ノズルによる散布状態を示す図である。
【図11】図11は、実施例1の結果を写真に示す。
【図12】図12は、実施例2の結果を写真に示す。
【図13】図13は、比較例1の結果を写真に示す。
【図14】図14は、比較例1の結果を写真に示す。
【図15】図15は、比較例3の結果を写真に示す。
【符号の説明】
1…薬液タンク
2…流量計
3…ミキサ
A…ワイヤーパート
A1…長網テーブル
B…プレスパート
B1…圧接ローラ
B2…エンドレスベルト
C…ドライパート
C1…ドライヤ(円筒状ドライヤ)
C2…カンバス
C3…カンバス
C4…インナーロール
C5…アウトロール
W…紙体(紙)
P…シリコンオイル(表面処理剤)
S…薬液噴射ノズル

Claims (4)

  1. 抄紙機において紙体の乾燥に使用する円筒状ドライヤに対して、該紙体を押圧するためのカンバスに関する汚染防止方法であって、抄紙機の運転により紙体が供給されている状態において、カンバスとドライヤとの間に紙体が圧接される前の段階で、カンバスの直接表面に対して、表面処理剤に含まれるシリコンオイルの供給量が0.1〜100mg/m 2 ・分になるように、散布ノズルから連続的に、50〜80℃に加熱した水で希釈したシリコンオイルを含む乳化水溶液からなる表面処理剤を供給せしめ続けることを特徴とする汚染防止方法。
  2. 抄紙機において紙体の乾燥に使用する円筒状ドライヤに対して、該紙体を押圧するためのカンバスに関する汚染防止方法であって、抄紙機の運転により紙体が供給されている状態において、カンバスとドライヤとの間に紙体が圧接される前の段階で、カンバスを案内するカンバスロールの表面に対して、表面処理剤に含まれるシリコンオイルの供給量が0.1〜100mg/m 2 ・分になるように、散布ノズルから連続的に、50〜80℃に加熱した水で希釈したシリコンオイルを含む乳化水溶液からなる表面処理剤を供給せしめ続けることを特徴とする汚染防止方法。
  3. 抄紙機において紙体の乾燥に使用する円筒状ドライヤに対して、該紙体を押圧するためのカンバスに関する汚染防止方法であって、順次、以下1)〜4)の工程を含むことを特徴とする汚染防止方法。
    1)散布ノズルからカンバスに、表面処理剤に含まれるシリコンオイルの供給量が0.1〜100mg/m 2 ・分になるように、50〜80℃に加熱した水で希釈したシリコンオイルを含む乳化水溶液からなる表面処理剤を供給付与するシリコンオイル供給付与工程
    2)カンバスの面にシリコンオイルを熱と圧力で浸透付着させるシリコンオイル浸透付着工程
    3)カンバスに紙が圧接されてシリコンオイルが紙に転移するシリコンオイル転移工程
    4)転移して減耗したカンバスのシリコンオイルを補充するシリコンオイル補充工程
  4. 抄紙機において紙体の乾燥に使用する円筒状ドライヤに対して、該紙体を押圧するためのカンバスに関する汚染防止方法であって、順次、以下の工程1)〜5)を含むことを特徴とする汚染防止方法。
    1)散布ノズルからアウトロールに、表面処理剤に含まれるシリコンオイルの供給量が0.1〜100mg/m 2 ・分になるように、50〜80℃に加熱した水で希釈したシリコンオイルを含む乳化水溶液からなる表面処理剤を供給付与するシリコンオイル供給付与工程
    2)アウトロールからカンバスにシリコンオイルを移行させるシリコンオイル移行工程
    3)カンバスの面にシリコンオイルを熱と圧力で浸透付着させるシリコンオイル浸透付着工程
    4)カンバスに紙が圧接されてシリコンオイルが紙に転移するシリコンオイル転移工程
    5)転移して減耗したカンバスのシリコンオイルを補充するシリコンオイル補充工程
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