JP3603607B2 - 誘電体セラミック、積層セラミックコンデンサおよび積層セラミックコンデンサの製造方法 - Google Patents
誘電体セラミック、積層セラミックコンデンサおよび積層セラミックコンデンサの製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、たとえばニッケルまたはニッケル合金のような卑金属からなる内部電極を有する積層セラミックコンデンサにおいて有利に用いられる誘電体セラミック、この誘電体セラミックを用いて構成された積層セラミックコンデンサ、および、このような積層セラミックコンデンサの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
積層セラミックコンデンサは、複数の積層された誘電体セラミック層と内部電極金属とが積層された状態となっている積層体を備えている。このような積層セラミックコンデンサにおいて、最近では、コスト低減のため、内部電極となる金属として、高価な貴金属であるAgやPdに代わって、安価な卑金属であるNi等が用いられることが多い。
【0003】
Ni等を内部電極に用いる場合には、Ni等が酸化されない還元性雰囲気で焼成する必要がある。しかしながら、還元性雰囲気下での焼成では、チタン酸バリウムからなるセラミックは、通常、還元されて半導体化するので好ましくない。
【0004】
この問題を解決するため、たとえば、特公昭57−42588号公報に示されるように、チタン酸バリウム固溶体における、バリウムサイト/チタンサイトの比を化学量論比より過剰にした誘電体材料の非還元化技術が開発されている。これ以来、Ni等を内部電極とした積層セラミックコンデンサの実用化が可能となり、その生産量も拡大している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、電子部品の小型化が急速に進行し、積層セラミックコンデンサにおいても、小型化、大容量化の傾向が顕著である。また、このような積層セラミックコンデンサに対しては、上述の静電容量の増大ばかりでなく、静電容量の温度安定性も求められており、温度特性の良い高誘電率材料として多くの材料が提案され、実用化されている。
【0006】
これらの材料は、いずれもBaTiO3 を主成分とするもので、これに希土類元素を添加し、焼結する過程で添加成分をBaTiO3 粒子に拡散させている。得られた焼結体の個々の粒子は、添加成分が拡散していないコア部と添加成分が拡散したシェル部とからなるコアシェル構造をとることが知られており、平坦な誘電率の温度特性は、誘電率の温度特性の異なるコア部とシェル部との重ね合わせによって与えられる。
【0007】
このような材料が提供されたことによって、静電容量の温度変化の少ない、また高容量の積層セラミックコンデンサが実現され、市場拡大に大いに貢献している。
【0008】
しかしながら、このコアシェル構造は、セラミックの焼結と添加成分の拡散の制御とによって達成されるものであり、焼結が進むと添加成分の拡散も進行し、平坦な温度特性が得られない。他方、焼結が不十分であれば、温度特性は安定であるが信頼性に劣る。すなわち、上述した材料では、工業的に焼結と拡散の安定した制御は比較的難しく、得られる誘電率の温度特性も不安定である。
【0009】
さらに、前述したような積層セラミックコンデンサの小型大容量化の要求を満たすため、積層体に備える誘電体セラミック層をさらに薄層化し、かつ多層化する必要が生じてきている。しかしながら、薄層化した場合、内部電極間のセラミック粒子の個数が少なくなり、信頼性の低下が著しく、そのため、薄層化には限界がある。そこで、セラミック粒子の粒径を小さくし、信頼性の高い、しかも誘電率の電界強度安定性に優れた材料の開発が望まれている。
【0010】
一方、自動車用電子部品などでは、使用最高温度を高くすることが望まれており、高い温度まで特性が安定していることが望まれている。積層セラミックコンデンサの場合にも、より高い温度(たとえば150℃)まで誘電率の温度特性が安定であり、信頼性が高いことが望まれている。
【0011】
しかしながら、従来のコアシェル構造を持った材料では、BaTiO3 粒子を小さくすると焼結性が増大し、添加成分の拡散も増大し、平坦な温度特性の確保が比較的困難になる。また、BaTiO3 は、高い温度(たとえば150℃)での誘電率の変化が大きく、誘電率の温度特性を高い温度まで安定にさせることが比較的困難である。
【0012】
以上のことから、コアシェル構造を持った材料を用いて、積層セラミックコンデンサの十分な薄層化や高い温度までの誘電率の十分な安定化を図ることは、実質的に困難あるいは不可能であるのが現状である。
【0013】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、誘電体セラミック、積層セラミックコンデンサおよび積層セラミックコンデンサの製造方法を提供しようとすることである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る誘電体セラミックは、簡単に言えば、添加成分の拡散によるコアシェル構造を持たない材料であり、そのため、温度特性や信頼性が添加成分の拡散に影響しない材料である。また、この発明に係る誘電体セラミックを用いて積層セラミックコンデンサを製造すると、静電容量の温度特性に関して、JIS規格で規定するB特性ならびにEIA規格で規定するX7R特性およびX8R特性を満足させることができる。
【0016】
より具体的には、この発明に係る誘電体セラミックは、コアシェル構造を持たず、一般式:{Ba1-x-y Cax Rey O}m TiO2 +αMgO+βMnOによって表されるものである。ここで、
Reは、希土類元素、
αは、0.001≦α≦0.05、
βは、0.001≦β≦0.025、
mは、1.000<m≦1.035、
xは、0.02 ≦x≦0.15、
yは、0.001≦y≦0.06
である。
【0017】
また、この発明に係る誘電体セラミックにおいて、Reは、好ましくは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、およびYbからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素である。
【0018】
また、この発明に係る誘電体セラミックにおいて、さらに、焼結助剤を含有する場合、この焼結助剤は、当該誘電体セラミックのための組成物100重量部に対して、0.2〜5.0重量部含有することが好ましい。
【0019】
上述した焼結助剤は、SiO2 を主成分とするものが有利に用いられる。
【0020】
この発明は、また、上述したような誘電体セラミックを用いて構成される積層セラミックコンデンサにも向けられる。
【0021】
より詳細には、積層セラミックコンデンサは、複数の積層された誘電体セラミック層を有する積層体と、この積層体の端面上の互いに異なる位置に設けられる複数の外部電極とを備え、積層体の内部には、複数の内部電極が、いずれかの外部電極に電気的に接続されるように、それぞれの端縁を端面に露出させた状態で誘電体セラミック層間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成されているものであり、このような積層セラミックコンデンサの積層体に備える誘電体セラミック層が、上述したような誘電体セラミックから構成される。
【0022】
このような積層セラミックコンデンサにおいて、上述の内部電極は、好ましくは、ニッケルまたはニッケル合金を含む。
【0023】
この発明は、また、積層セラミックコンデンサの製造方法にも向けられる。
【0024】
より詳細には、この積層セラミックコンデンサの製造方法は、出発原料として、{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 (ただし、Reは希土類元素)で表される化合物と、Mg化合物と、Mn化合物とを含む混合物を調製する工程と、この混合物を含む複数のセラミックグリーンシート、およびセラミックグリーンシート間の特定の界面に沿ってそれぞれ形成された複数の内部電極を積層したものであって、各内部電極の端縁を端面に露出させている、積層体を作製する工程と、この積層体を焼成する工程と、各内部電極の露出した端縁にそれぞれ電気的に接続されるように積層体の端面上に複数の外部電極を形成する工程とを備えている。
【0025】
上述した積層セラミックコンデンサの製造方法において、好ましくは、{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物中に不純物として含有されるアルカリ金属酸化物の含有量は、0.03wt%以下とされる。
【0026】
また、上述の{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物の平均粒径は、好ましくは、0.1〜0.8μmとされる。
【0027】
このとき、{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物の平均粒径は、0.1μm以上0.3μm以下とされても、0.3μmを超え0.8μm以下とされてもよく、前者の場合には、当該化合物の最大粒径は0.5μm以下とされることがより好ましく、後者の場合には、当該化合物の最大粒径は1.0μm以下とされることがより好ましい。
【0028】
また、この発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法において、{Ba 1-x-y Ca x Re y O}TiO 2 で表される化合物の平均粒径が0.1〜0.8μmであり、走査型電子顕微鏡で観察することによって前記出発原料の粉末の平均粒径を求め、かつ焼成後の前記積層体の断面研磨面を化学エッチングして走査型電子顕微鏡で観察することによって前記誘電体セラミックの平均粒径を求めたとき、(誘電体セラミックの平均粒径)/(出発原料の粉末の平均粒径)の比Rは、0.90≦R≦1.2の範囲内にあることが好ましい。
【0029】
【発明の実施の形態】
この発明に係る誘電体セラミックは、前述したように、金属元素として、Ba、Ca、Re(ただし、Reは希土類元素)、Ti、MgおよびMnを含有する複合酸化物からなることを特徴としている。より特定的には、この発明に係る誘電体セラミックは、一般式:{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 +αMgO+βMnOによって表されるものである。ここで、
Reは、希土類元素、
αは、0.001≦α≦0.05、
βは、0.001≦β≦0.025、
mは、1.000<m≦1.035、
xは、0.02 ≦x≦0.15、
yは、0.001≦y≦0.06
である。
【0030】
このような誘電体セラミックは、還元性雰囲気中で焼成しても、半導体化することなく焼成することができる。また、この誘電体セラミックを用いることにより、静電容量の温度特性がJIS規格で規定するB特性(−25℃〜+85℃で容量変化が±10%以内)ならびにEIA規格で規定するX7R特性(−55℃〜+125℃で容量変化が±15%以内)およびX8R特性(−55℃〜+155℃で容量変化が±15%以内)を満足し、室温ないしは高温での絶縁抵抗の高い、高信頼性で絶縁耐力の優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0031】
上述したReとしては、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、ErもしくはYb、またはこれらの組合せが有利に用いられる。
【0032】
また、この発明に係る誘電体セラミックは、通常、焼結助剤を含有している。この焼結助剤は、当該誘電体セラミックのための組成物100重量部に対して、たとえば0.2〜5.0重量部含有され、また、このような焼結助剤としては、SiO2 を主成分とするものが有利に用いられる。
【0033】
上述した誘電体セラミックは、たとえば、図1に示すような積層セラミックコンデンサ1を製造するために用いられる。
【0034】
図1を参照して、積層セラミックコンデンサ1は、複数の積層された誘電体セラミック層2を有する積層体3と、この積層体3の第1および第2の端面4および5上にそれぞれ設けられる第1および第2の外部電極6および7とを備える。積層セラミックコンデンサ1は、全体として直方体形状のチップタイプの電子部品を構成する。
【0035】
積層体3の内部には、第1の内部電極8と第2の内部電極9とが交互に配置される。第1の内部電極8は、第1の外部電極6に電気的に接続されるように、各端縁を第1の端面4に露出させた状態で誘電体セラミック層2間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成され、第2の内部電極9は、第2の外部電極7に電気的に接続されるように、各端縁を第2の端面5に露出させた状態で誘電体セラミック層2間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成される。
【0036】
このような積層セラミックコンデンサ1において、その積層体3に備える誘電体セラミック層2が、前述したような誘電体セラミックから構成される。
【0037】
この積層セラミックコンデンサ1を製造するため、出発原料として、{Ba1− x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物と、Mg化合物と、Mn化合物とを含む混合物をたとえば湿式混合して調製する工程が実施される。ここで、好ましくは、{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 +αMgO+βMnO(ただし、0.001≦α≦0.05、0.001≦β≦0.025、1.000<m≦1.035、0.02≦x≦0.15、0.001≦y≦0.06)で表される組成の誘電体セラミックが得られるように、上述した各化合物の混合率が選ばれる。
【0038】
上述の{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物の平均粒径は、好ましくは、0.1〜0.8μmとされる。この場合、平均粒径を0.1μm以上0.3μm以下(最大粒径は0.5μm以下が好ましい。)とし、積層セラミックコンデンサ1において、厚みが3μm 以下の薄層の誘電体セラミック層2を有していても、積層セラミックコンデンサ1において125℃までの誘電率の温度特性を安定化させ、また信頼性を高めることができる。他方、平均粒径が0.3μmを超え0.8μm以下(最大粒径は1.0μm以下が好ましい。)の範囲にあり、厚みが3μmを超える積層セラミックコンデンサ1において、150℃の高温まで誘電率の温度特性を安定させることができる。
【0039】
また、上述した{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物中には、ほとんどの場合、Na2 O、K2 O等のアルカリ金属酸化物が不純物として含有されている。このようなアルカリ金属酸化物の含有量は、誘電体セラミックの電気的特性に大きく影響することが、本件発明者によって確認されている。すなわち、アルカリ金属酸化物を0.03wt%以下、より好ましくは0.02wt%以下にすることにより、信頼性の高い誘電体セラミックが得られることが確認されている。
【0040】
また、上述した混合物には、たとえば、SiO2 を主成分とする焼結助剤が、誘電体セラミックのための組成物100重量部に対して、0.2〜5.0重量部添加される。このようなSiO2 を主成分とする焼結助剤を添加することによって、後述する焼成工程において、誘電体セラミックをたとえば1250℃以下といった比較的低温で焼結させることができる。
【0041】
次いで、上述の混合物の粉末に有機バインダおよび溶媒を添加することによって、スラリーが調製され、このスラリーを用いて、誘電体セラミック層2となるセラミックグリーンシートが作製される。
【0042】
次いで、特定のセラミックグリーンシート上に、内部電極8および9となるべき導電性ペースト膜が形成される。この導電性ペースト膜は、たとえば、ニッケル、銅などの卑金属またはその合金を含み、スクリーン印刷法、蒸着法、めっき法などによって形成される。
【0043】
次いで、上述のように導電性ペースト膜を形成したセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートが積層され、プレスされた後、必要に応じてカットされる。このようにして、複数のセラミックグリーンシート、およびセラミックグリーンシート間の特定の界面に沿ってそれぞれ形成された複数の内部電極8および9を積層したものであって、内部電極8および9の各端縁を端面4または5に露出させている、生の状態の積層体3が作製される。
【0044】
次いで、この積層体3は還元性雰囲気下で焼成される。このとき、前述したように、SiO2 を主成分とする焼結助剤を添加しているので、誘電体セラミックを1250℃以下といった比較的低温度で焼結させることができる。そのため、焼成時における内部電極8および9の収縮も小さくなり、誘電体セラミック層2の厚みが薄くても、積層セラミックコンデンサ1の信頼性を高くすることができるとともに、内部電極8および9として、前述のように、ニッケル、銅などの卑金属またはその合金を含むものを問題なく用いることができる。
【0045】
上述のような誘電体セラミックを得るための焼結に際して、(誘電体セラミックの平均粒径)/(出発原料の粉末の平均粒径)の粒径比をRとしたとき、Rは、0.90≦R≦1.2の範囲内にあることが好ましい。これは、セラミック焼結時に顕著な粒成長が生じていないことを意味し、誘電率温度特性の優れた誘電体セラミックを得ることができる。なお、この場合、{Ba 1-x-y Ca x Re y O}TiO 2 で表される化合物の平均粒径は0.1〜0.8μmである。また、この明細書において、「出発原料の粉末の平均粒径」は、走査型電子顕微鏡で観察することによって出発原料の粉末の平均粒径を求めたものであり、「誘電体セラミックの平均粒径」は、焼成後の積層体の断面研磨面を化学エッチングして走査型電子顕微鏡で観察することによって求めたものである。
【0046】
次いで、焼成された積層体3における第1および第2の内部電極8および9の露出した各端縁にそれぞれ電気的に接続されるように、積層体3の第1および第2の端面4および5上に、それぞれ、第1および第2の外部電極6および7が形成される。
【0047】
外部電極6および7の材料組成は、特に限定されるものではない。具体的には、内部電極8および9と同じ材料を使用することができる。また、たとえば、Ag、Pd、Ag−Pd、Cu、Cu合金などの種々の導電性金属粉末の焼結層、または、上記導電性金属粉末とB2 O3 −Li2 O−SiO2 −BaO系、B2 O3 −SiO2 −BaO系、Li2 O−SiO2 −BaO系、B2 O3 −SiO2 −ZnO系などの種々のガラスフリットとを配合した焼結層によって構成されることができる。このような外部電極6および7の材料組成は、積層セラミックコンデンサ1の用途、使用場所などを考慮して適宜選択される。
【0048】
なお、外部電極6および7は、前述のように、その材料となる金属粉末ペーストを焼成後の積層体3上に塗布して焼き付けることによって形成されてもよいが、焼成前の積層体3上に塗布して、積層体3の焼成と同時に焼き付けることによって形成されるようにしてもよい。
【0049】
その後、必要に応じて、外部電極6および7は、Ni、Cu、Ni−Cu合金等からなるめっき層10および11によってそれぞれ被覆される。また、さらに、これらめっき層10および11上に、半田、錫等からなる第2のめっき層12および13が形成されてもよい。
【0050】
次に、この発明をより具体的な実施例に基づき説明する。なお、言うまでもないが、この発明の範囲内における実施可能な形態は、このような実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
【実施例1】
この実施例において作製しようとする積層セラミックコンデンサは、図1に示すような構造の積層セラミックコンデンサ1である。
【0052】
まず、出発原料として、高純度のTiO2 、BaCO3 、CaCO3 、およびRe2 O3 (Reは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbの各元素)を準備して、以下の表1に示すように、CaおよびReを各含有量となるように秤量した後、混合粉砕した。乾燥後、粉末を1000℃以上の温度で加熱し、同じく表1に示す平均粒径を有する{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 を合成した。
【0053】
【表1】
また、SiO2 を主成分とする焼結助剤となる酸化物粉末を得るため、以下の表2に示すモル比の組成割合になるように、各成分の酸化物、炭酸塩および水酸化物を秤量し、混合粉砕した。これら酸化物粉末を、白金るつぼ中において1500℃まで加熱した後、急冷し、粉砕することによって、平均粒径が1μm以下となるようにした。
【0054】
【表2】
また、{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 の(Ba,Ca,Re)/Tiモル比mを調整するためのBaCO3 を準備するとともに、MgOおよびMnOを準備した。
【0055】
次に、これらの原料粉末と焼結助剤とを以下の表3に示す組成になるように配合し、配合物を得た。この配合物にポリビニルブチラール系バインダおよびエタノール等の有機溶剤を加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを調製した。このセラミックスラリーをドクターブレード法によりシート成形し、厚み2.7μmの矩形のグリーンシートを得た。次に、このセラミックグリーンシート上に、Niを主体とする導電性ペーストを印刷し、内部電極を構成するための導電性ペースト膜を形成した。
【0056】
【表3】
次いで、セラミックグリーンシートを、上述の導電性ペースト膜の引き出されている側が互い違いとなるように複数枚積層し、積層体を得た。この積層体を、N2 雰囲気中にて350℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた後、酸素分圧10−9〜10−12 MPaのH2 −N2 −H2 Oガスからなる還元性雰囲気中において表4に示す温度で2時間焼成した。
【0057】
焼成後の積層体の両端面にB2 O3 −Li2 O−SiO2 −BaO系のガラスフリットを含有する銀ペーストを塗布し、N2 雰囲気中において600℃の温度で焼き付け、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0058】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、幅が5.0mm、長さが5.7mm、厚さが2.4mmであり、内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みは2μmであった。また、有効誘電体セラミック層の総数は5であり、1層当たりの対向電極の面積は16.3×10−6m2 であった。
【0059】
これら得られた試料について電気的特性を測定した。
【0060】
静電容量(C)および誘電損失(tanδ)は自動ブリッジ式測定器を用い、JIS規格5102に従って測定し、得られた静電容量から誘電率(ε)を算出した。
【0061】
また、絶縁抵抗(R)を測定するために、絶縁抵抗計を用い、10Vの直流電圧を2分間印加して25℃での絶縁抵抗(R)を求め、比抵抗を算出した。
【0062】
温度変化に対する静電容量の変化率については、20℃での静電容量を基準とした−25℃〜+85℃の範囲での変化率(ΔC/C20)と、25℃での静電容量を基準とした−55℃〜+125℃の範囲での変化率(ΔC/C25)とを示した。
【0063】
また、高温負荷試験として、温度150℃にて直流電圧を20V印加して、その絶縁抵抗の経時変化を測定した。なお、高温負荷試験は、各試料の絶縁抵抗値(R)が105 Ω以下になったときを故障とし、平均寿命時間を評価した。
【0064】
さらに、絶縁破壊電圧は、昇圧速度100V/秒でDC電圧をそれぞれ印加し、破壊電圧を測定した。
【0065】
また、用いた出発原料の平均粒径を、走査型電子顕微鏡で観察することによって求め、また、得られた積層セラミックコンデンサに含まれる誘電体セラミックの平均粒径を、積層体の断面研磨面を化学エッチングし、走査型電子顕微鏡で観察することによって求め、これらの結果から、(誘電体セラミックの平均粒径)/(出発原料の粉末の平均粒径)の粒径比Rを求めた。
【0066】
以上の各結果が、表4に示されている。
【0067】
【表4】
この発明に係る誘電体セラミックの好ましい組成の組合せとしては、一般式:{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 +αMgO+βMnOで表され、α、β、m、x、およびyの各々については、
0.001≦α≦0.05、
0.001≦β≦0.025、
1.000<m≦1.035、
0.02 ≦x≦0.15、および
0.001≦y≦0.06
となるように選ばれる。
【0068】
前述した各特性の好ましい範囲は、誘電率については、1200以上であり、誘電損失については、2.5%以下であり、容量変化率については、−45%以内であり、容量温度変化率における20℃での静電容量を基準とした−25℃〜+85℃の範囲での変化率については、±10%以内であり、同じく25℃での静電容量を基準とした−55℃〜+125℃の範囲での変化率については、±15%以内であり、比抵抗については、13.0Ω・cm以上であり、絶縁破壊電圧については、10kV/mm以上である。
【0069】
表3および表4において、試料番号に*を付したものは、前述の好ましい組成範囲から外れた試料である。
【0070】
表4からわかるように、好ましい組成範囲内にある試料16〜28によれば、温度に対する静電容量の変化率が−25℃〜+85℃の範囲でJIS規格に規定するB特性を満足し、−55℃〜+125℃の範囲でEIA規格に規定するX7R特性を満足する。さらに、高温負荷試験での平均寿命時間は、多くは100時間以上、少なくとも70時間以上と長く、信頼性に優れ、焼成温度も1200℃以下の温度で焼成可能である。以下に、上述の好ましい組成範囲を限定した理由について説明する。
【0071】
試料1のように、Caの添加量xが0.02未満の場合には、電圧による誘電率の変化が大きく、また平均寿命が短くなることがある。一方、試料2のようにCaの添加量xが0.15を超える場合には、比誘電率が小さく、tanδも大きくなることがある。
【0072】
なお、より好ましくは、Caの添加量xが0.05以上の場合である。このときには、特に平均寿命の点で、0.02以上0.05未満よりも有利である。
【0073】
また、試料3のように、Reの添加量yが0.001未満の場合には、平均寿命が短くなることがある。一方、試料4のようにReの添加量yが0.06を超える場合には、温度特性がB特性およびX7R特性を満足しないことがある。
【0074】
また、試料5のように、MgOの添加量αが0.001未満の場合、比抵抗が低く、温度特性がB特性およびX7R特性を満足しないことがある。一方、試料6のように、MgOの添加量αが0.05を超えると、焼結温度が高くなり、また高温負荷試験で故障に至る時間が短くなることがある。
【0075】
また、試料7のように、MnOの添加量βが0.001未満の場合、比抵抗が低くなることがある。一方、試料8のように、MnOの添加量βが0.025を超える場合も、また比抵抗が低く、温度特性がB特性およびX7R特性を満足しないことがある。
【0076】
また、試料9のように、(Ba,Ca,Re)/Ti比mが1.000未満の場合、比抵抗が低くなることがある。試料番号10のように、mが1.000の場合も同様に比抵抗が低くなることがある。両者は、また、高温負荷での故障に至る時間が著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障することがあった。また、試料11のように、(Ba,Ca,Re)/Ti比mが1.035を超えた場合、焼結性が不足し、高温負荷での故障に至る時間が短くなることがある。
【0077】
また、試料12および13のように、焼結助剤の添加量が0の場合、焼結が不十分であり、めっきにおける比抵抗の低下が大きく、高温負荷での故障に至る時間が短くなることがある。一方、試料14のように、焼結助剤の添加量が5.0重量部を超えた場合、焼結助剤に含まれるガラス成分に基づく二次相の生成が増大し、高温負荷での故障に至る時間も短くなることがある。
【0078】
また、{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 中に不純物として含まれるアルカリ金属酸化物の含有量に関して、試料15のように、0.03wt%を超える場合には、高温負荷での故障に至る時間も短くなることがある。
【0079】
なお、試料16のように、平均粒径が0.40μmと比較的大きいものでは、誘電率は大きい。反面、この実施例のように、誘電体セラミック層を薄層化した場合、高温負荷での故障に至る時間が短く、また、高電界下での誘電率の変化が大きくなることがある。他方、試料17のように、平均粒径が0.09μmと小さいものでは、誘電率が低く、誘電率の温度変化が大きくなることがあるが、信頼性は大変良好である。
【0080】
試料18では、セラミックスラリー調製時の粉砕条件を強め、スラリーでの粉末粒径が出発原料粉末より小さくなるようにした。試料18では、粒径比R(=誘電体セラミックの平均粒径/出発原料粉末の平均粒径)が0.85と小さくなり、誘電率が低くなることがある。他方、試料19のように、粒径比Rが1.30と大きく、焼成時に粒成長したものでは、誘電体セラミック層を薄層化した場合には、内部電極間のセラミック粒子の個数が少なくなり、高温負荷での故障に至る時間が短くなることがある。
【0081】
特に、試料20〜28では、誘電率は1280〜1950の範囲にあり、高電界下での静電容量の変化も40%未満と小さく、安定している。また、めっきによる劣化も認められず、高温負荷での故障に至る時間も長く、信頼性に優れており良好である。
【0082】
なお、上記実施例では、{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 原料として、固相法により作製した粉末を用いたが、これを限定するものではなく、アルコキシド法あるいは水熱合成法など湿式合成法により作製された粉末を用いてもよい。
【0083】
また、添加成分であるMg、Mnの各酸化物およびSiO2 を含有する焼結助剤は、酸化物粉末を用いたが、これに限定されるものでなく、この発明の範囲内の誘電体セラミックス相を構成できるものであれば、アルコキシド、有機金属などの溶液を用いてもよく、これによって得られる特性は何ら損なわれるものではない。
【0084】
また、積層コンデンサの内部電極に含まれるNiの粒子表面には、本来、NiOが存在する。酸化しやすい焼成条件によっては、NiOが多く生成し、このNiOは、積層コンデンサの積層体を得るための焼成工程において、積層体を構成する誘電体セラミック中に拡散する場合もある。また、内部電極の焼結を制御する目的でZrO2 成分などを添加することもあり、このような添加物組成は、焼成時に、誘電体セラミック組成に対して最大で数モル%まで拡散する場合がある。この発明に係る誘電体セラミック組成によれば、これら電極成分が拡散しても、その電気的特性に影響がないことも確認している。
【0085】
これらのことは、以下に説明する実施例2においても当てはまるものである。
【0086】
【実施例2】
実施例1と同様、以下の表5に示すように、CaおよびReの各含有量ならびに各平均粒径を有する{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 を合成した。なお、実施例2は、一言で言えば、実施例1の場合に比べて、平均粒径が大きめとなっている点で、実施例1と異なっている。
【0087】
【表5】
また、SiO2 を主成分とする焼結助剤については、実施例1と同様に作製した、前掲の表2に示すものを用いた。
【0088】
次に、実施例1と同様に、以下の表6に示す組成を有するセラミックスラリーを調製した。このセラミックスラリーをドクターブレード法によりシート成形し、厚み8μmの矩形のグリーンシートを得た。次に、このセラミックグリーンシート上に、Niを主体とする導電性ペーストを印刷し、内部電極を構成するための導電性ペースト膜を形成した。
【0089】
【表6】
次いで、実施例1と同様に、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0090】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みは6μmであった。
【0091】
また、以下の点を除いて、実施例1の場合と同様に、これら得られた試料について電気的特性を測定した。実施例1の場合と異なるところは、絶縁抵抗(R)の測定において、60Vの直流電圧を2分間印加して求めた点と、高温負荷試験において、温度150℃にて直流電圧を60V印加して、その絶縁抵抗の経時変化を測定した点とである。
【0092】
この実施例2で得られた諸特性が、表7に示されている。
【0093】
【表7】
実施例1においても述べたように、この発明に係る誘電体セラミックの好ましい組成は、一般式:{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 +αMgO+βMnOで表され、α、β、m、x、およびyの各々については、
0.001≦α≦0.05、
0.001≦β≦0.025、
1.000<m≦1.035、
0.02 ≦x≦0.15、および
0.001≦y≦0.06
となるように選ばれる。
【0094】
表6および表7において、試料番号に*を付したものは、上述の好ましい組成範囲から外れた試料である。
【0095】
表7からわかるように、好ましい組成範囲内にある試料44〜56によれば、温度に対する静電容量の変化率が−25℃〜+85℃の範囲でJIS規格に規定するB特性を満足し、−55℃〜+150℃の範囲でEIA規格に規定するX8R特性を満足する。さらに、高温負荷試験での平均寿命時間はほとんどが100時間以上と長く、焼成温度は1250℃以下の温度で焼成可能である。以下に、上述の好ましい組成範囲を限定した理由について説明する。
【0096】
試料29のように、Caの添加量xが0.02未満の場合には、電圧による誘電率の変化が大きく、また高温負荷試験での平均寿命が短くなることがある。一方、試料30のようにCaの添加量xが0.15を超える場合には、比誘電率が小さく、tanδも大きくなることがある。
【0097】
また、試料31のように、Reの添加量yが0.001未満の場合には、平均寿命が短くなることがある。一方、試料32のようにReの添加量yが0.06を超える場合には、誘電率の温度特性がB特性およびX8R特性を満足せず、また高温負荷試験での平均寿命が短くなることがある。
【0098】
また、試料33のように、MgOの添加量αが0.001未満の場合、焼成時に粒成長し比抵抗が低く、誘電率の温度特性がB特性およびX8R特性を満足しないことがある。一方、試料34のように、MgOの添加量αが0.05を超えると、焼結温度が高くなり、また高温負荷試験で故障に至る時間が短くなることがある。
【0099】
また、試料35のように、MnO添加量βが0.001未満の場合、比抵抗が低くなることがある。一方、試料36のように、MnO添加量βが0.025を超える場合も、また比抵抗が低く、温度特性がB特性およびX8R特性を満足しないことがある。
【0100】
また、試料37のように、(Ba,Ca,Re)/Ti比mが1.000未満の場合、および、試料番号38のように、mが1.000の場合は、いずれも、比抵抗が低くなることがあり、また、両者は、高温負荷での故障に至る時間が著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障することがあった。また、試料39のように、(Ba,Ca,Re)/Ti比mが1.035を超えた場合、焼結性が不足し、高温負荷での故障に至る時間が短くなることがある。
【0101】
また、試料40および41のように、焼結助剤の添加量が0の場合、焼結が不十分であり、めっきにおける比抵抗の低下が大きく、高温負荷での故障に至る時間が短くなることがある。一方、試料42のように、焼結助剤の添加量が5.0重量部を超えた場合、焼結助剤に含まれるガラス成分に基づく二次相の生成が増大し、高温負荷での故障に至る時間も短くなることがある。
【0102】
また、{Ba1−x−y Cax Rey O}m TiO2 中に不純物として含まれるアルカリ金属酸化物の含有量に関して、試料43のように、0.03wt%を超える場合には、高温負荷での故障に至る時間も短くなることがある。
【0103】
また、試料57のように、MgOを含有しない場合、粒径比Rが5.5と焼成時の粒成長が著しく、誘電率の温度変化が大きく好ましくない。また、試料58のように、MnOの添加量が0の場合、比抵抗が低く、高温負荷での故障に至る時間が著しく短く好ましくない。
【0104】
なお、この実施例2では誘電体セラミック層の厚みは6μmであるが、試料44のように、平均粒径が1.20μmと比較的大きいものでは、温度による誘電率の変化に関しては、小さいが、電圧による誘電率の変化が大きく、また、高温負荷での故障に至る時間が短くなることがある。他方、試料45のように、平均粒径が0.25μmと小さいものでは、誘電体セラミック層にかかる電界強度が低いため、誘電率が低く、誘電率の温度変化が大きくなることがある。
【0105】
試料46のように、粒径比R(=誘電体セラミックの平均粒径/出発原料粉末の平均粒径)が0.85と小さいものでは、誘電率が低くなるし、また、誘電率の温度特性変化率が大きい。他方、試料47のように、粒径比Rが1.25と大きく、焼成時に粒成長したものでは、誘電体セラミック層を薄層化した場合には、内部電極間のセラミック粒子の個数が少なくなり、高温負荷での故障に至る時間が短くなる。
【0106】
試料48〜56では、誘電率は1470〜2030の範囲にあり、誘電体セラミック層の厚みが比較的厚い、この実施例2では、高電界下での静電容量の変化も40%未満と小さく、安定している。また、めっきによる劣化も認められず、高温負荷での故障に至る時間も長く、信頼性に優れており良好である。しかしながら、これら試料48〜56のような平均粒径を有するものを、実施例1に示したような2μm以下の誘電体セラミック層の厚みを有する積層セラミックコンデンサに適用した場合には、信頼性の低下が見られることがある。
【0107】
【発明の効果】
この発明に係る誘電体セラミックによれば、コアシェル構造を持たない材料であるにも関わらず、誘電率の温度特性が良く、信頼性の高い誘電体材料とすることができる。また、この誘電体セラミックは、これを得るため、還元性雰囲気中で焼成されても、還元されないので、この誘電体セラミックを用いて、この発明に係る積層セラミックコンデンサを構成すると、内部電極材料として卑金属であるニッケルおよびニッケル合金を用いることができるようになり、積層セラミックコンデンサのコストダウンを図ることができる。
【0108】
また、この発明に係る誘電体セラミックによれば、コアシェル構造に基づき誘電率の温度特性を平坦化するのではなく、組成物本来の温度特性に基づき誘電率の温度特性の平坦化を図るので、温度特性や信頼性が添加成分の拡散状態に影響されず、焼成条件による特性の変動を少なくすることができる。そのため、この誘電体セラミックを用いて得られた、この発明に係る積層セラミックコンデンサは、特性のばらつきが少なく、誘電率の温度特性が安定でかつ優れたものとすることができる。
【0109】
この発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法において、{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物の平均粒径を0.1μm以上0.3μm以下と小さくすることにより、厚み3μm 以下の薄層の誘電体セラミック層を有する積層セラミックコンデンサにおいても、たとえば125℃までの誘電率の温度による変化を小さくすることができ、しかも、誘電体セラミック層中の粒子数を多く確保できるので、信頼性を高めることができる。したがって、小型かつ薄層で大容量の積層セラミックコンデンサを有利に得ることができる。
【0110】
他方、{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物の平均粒径を0.3μmを超え0.8μm以下と比較的大きくすることにより、厚み3μm以上の誘電体セラミック層を有する積層セラミックコンデンサにおいて、たとえば150℃の高温まで、誘電率の温度による変化を小さくすることができ、しかも、信頼性を高めることができる。
【0111】
また、この発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法において、{Ba1−x−y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物中に不純物として含有されるアルカリ金属酸化物の含有量を、0.03wt%以下に抑えると、誘電体セラミック層の信頼性をより高めることができる。
【0112】
また、この発明に係る誘電体セラミックあるいは積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層において、たとえばSiO2 を主成分とする焼結助剤が、誘電体セラミックのための組成物100重量部に対して、0.2〜5.0重量部添加されていると、当該誘電体セラミックの焼成工程において、誘電体セラミックをたとえば1250℃以下といった比較的低温で焼結させることがより容易になる。したがって、積層セラミックコンデンサにおいては、焼成時における内部電極の収縮も小さくなり、誘電体セラミック層の厚みが薄くても、積層セラミックコンデンサの信頼性をより高くすることができるとともに、内部電極として、ニッケル、銅などの卑金属またはその合金を含むものを問題なく用いることができるようになる。
【0113】
また、この発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法において、誘電体セラミック層となる誘電体セラミックの焼結に際して、(誘電体セラミックの平均粒径)/(出発原料の粉末の平均粒径)の粒径比Rを、0.90≦R≦1.2の範囲内にあるように選ぶと、セラミック焼結時に顕著な粒成長が生じず、誘電率温度特性のより優れた誘電体セラミックとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を示す断面図である。
【符号の説明】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
3 積層体
4 第1の端面
5 第2の端面
6 第1の外部電極
7 第2の外部電極
8 第1の内部電極
9 第2の内部電極
Claims (15)
- 一般式:{Ba1-x-y Cax Rey O}m TiO2 +αMgO+βMnOで表される、コアシェル構造を持たない誘電体セラミック。ただし、
Reは、希土類元素、
αは、0.001≦α≦0.05、
βは、0.001≦β≦0.025、
mは、1.000<m≦1.035、
xは、0.02 ≦x≦0.15、
yは、0.001≦y≦0.06
である。 - 前記Reは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、およびYbからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素である、請求項1に記載の誘電体セラミック。
- さらに、焼結助剤を含有し、前記焼結助剤は、当該誘電体セラミックのための組成物100重量部に対して、0.2〜5.0重量部含有する、請求項1または2に記載の誘電体セラミック。
- 前記焼結助剤は、SiO2 を主成分とするものである、請求項3に記載の誘電体セラミック。
- 複数の積層された誘電体セラミック層を有する積層体と、前記積層体の端面上の互いに異なる位置に設けられる複数の外部電極とを備え、前記積層体の内部には、複数の内部電極が、いずれかの前記外部電極に電気的に接続されるように、それぞれの端縁を前記端面に露出させた状態で前記誘電体セラミック層間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成されている、積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体セラミック層が、一般式:{Ba1-x-y Cax Rey O}m TiO2 +αMgO+βMnOで表される、コアシェル構造を持たない誘電体セラミックからなる、積層セラミックコンデンサ。ただし、
Reは、希土類元素、
αは、0.001≦α≦0.05、
βは、0.001≦β≦0.025、
mは、1.000<m≦1.035、
xは、0.02 ≦x≦0.15、
yは、0.001≦y≦0.06
である。 - 前記Reは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、およびYbからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素である、請求項5に記載の積層セラミックコンデンサ。
- 前記誘電体セラミックは、さらに、焼結助剤を含有し、前記焼結助剤は、当該誘電体セラミックのための組成物100重量部に対して、0.2〜5.0重量部含有する、請求項5または6に記載の積層セラミックコンデンサ。
- 前記焼結助剤は、SiO2 を主成分とするものである、請求項7に記載の積層セラミックコンデンサ。
- 前記内部電極は、ニッケルまたはニッケル合金を含む、請求項5ないし8のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
- 出発原料として、{Ba1-x-y Cax Rey O}TiO2 (ただし、Reは希土類元素)で表される化合物と、Mg化合物と、Mn化合物とを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を含む複数のセラミックグリーンシート、および前記セラミックグリーンシート間の特定の界面に沿ってそれぞれ形成された複数の内部電極を積層したものであって、各前記内部電極の端縁を端面に露出させている、積層体を作製する工程と、
前記混合物を焼結させて誘電体セラミックとするように、前記積層体を焼成する工程と、
各前記内部電極の露出した前記端縁にそれぞれ電気的に接続されるように前記積層体の前記端面上に複数の外部電極を形成する工程と
を備える、積層セラミックコンデンサの製造方法。 - 前記{Ba1-x-y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物中に、不純物としてアルカリ金属酸化物が0.03wt%以下の含有量をもって含有される、請求項10に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
- 前記{Ba1-x-y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物の平均粒径が0.1〜0.8μmである、請求項10または11に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
- 前記{Ba1-x-y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物の平均粒径が0.1μm以上0.3μm以下である、請求項12に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
- 前記{Ba1-x-y Cax Rey O}TiO2 で表される化合物の平均粒径が0.3μmを超え0.8μm以下である、請求項12に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
- 走査型電子顕微鏡で観察することによって前記出発原料の粉末の平均粒径を求め、かつ焼成後の前記積層体の断面研磨面を化学エッチングして走査型電子顕微鏡で観察することによって前記誘電体セラミックの平均粒径を求めたとき、(前記誘電体セラミックの平均粒径)/(前記出発原料の粉末の平均粒径)の比Rは、0.90≦R≦1.2の範囲内にある、請求項12ないし14のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
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