JP4048808B2 - 誘電体セラミック組成物および積層セラミック電子部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、誘電体セラミック組成物およびこの誘電体セラミック組成物を用いて構成される積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品に関するもので、特に、積層セラミック電子部品における誘電体セラミック層の誘電率の温度特性を良好にし、かつ信頼性の向上を有利に図り得るようにするための改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサは、複数の積層された誘電体セラミック層と誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された内部電極とが積層された状態となっている積層体を備えている。このような積層セラミックコンデンサにおいて、最近では、コスト低減のため、内部電極に含まれる導電成分を与える金属として、高価な貴金属であるAgやPdに代わって、安価な卑金属であるNiなどが用いられることが多くなっている。
【0003】
また、積層セラミックコンデンサを製造する場合、上述した積層体の生の状態のものを焼成する工程が実施される。上述したように、Niなどを内部電極に用いる場合、この焼成工程では、Niなどが酸化されない還元性雰囲気を適用する必要がある。しかしながら、還元性雰囲気下での焼成によれば、たとえばチタン酸バリウムからなるセラミックは、通常、還元されて半導体化してしまう。
【0004】
この問題を解決するため、たとえば、特公昭57−42588号公報に示されるように、チタン酸バリウム固溶体における、バリウムサイト/チタンサイトの比を化学量論比より過剰にすることによる、誘電体セラミック材料の非還元化技術が開発されている。これ以来、Niなどを内部電極とした積層セラミックコンデンサの実用化が可能となり、その生産量も拡大している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年のエレクトロニクス技術の発展に伴い、電子部品の小型化が急速に進行し、積層セラミックコンデンサについても、小型化かつ大容量化の傾向が顕著になってきている。
【0006】
また、特に積層セラミックコンデンサに対しては、上述の静電容量の増大ばかりでなく、静電容量の温度安定性も求められており、温度特性の良好な高誘電率セラミック材料として、多くの材料が提案され、実用化されている。
【0007】
これらの材料は、いずれもBaTiO3 を主成分とするもので、これに希土類元素を添加し、焼結する過程で、この添加成分をBaTiO3 粒子に拡散させている。得られた焼結体の個々の粒子は、添加成分が拡散していないコア部と添加成分が拡散したシェル部とからなるコアシェル構造をとることが知られており、平坦な誘電率温度特性は、コア部とシェル部との各々の互いに異なる誘電率の温度特性の重ね合わせによって与えられる。
【0008】
このような材料が提供されたことによって、静電容量の温度変化の少ない、また、高い静電容量を有する積層セラミックコンデンサが実現され、市場拡大に貢献している。
【0009】
しかしながら、上述のコアシェル構造は、セラミックの焼結過程における添加成分の拡散の制御によって達成されるものであり、したがって、添加成分が過剰になると、平坦な温度特性が得られない。他方、添加成分の拡散が不十分であれば、信頼性に劣る。そのため、工業的に量産しようとするとき、上述した材料では、焼結と添加成分の拡散について安定した制御を実現することが比較的難しく、得られる誘電率の温度特性も比較的不安定である。
【0010】
さらに、前述したような積層セラミックコンデンサの小型化かつ大容量化の要求を満たすため、積層体に備える誘電体セラミック層をより薄層化し、かつ多層化する必要が生じてきている。
【0011】
しかしながら、薄層化した場合、内部電極間のセラミック粒子の個数が少なくなり、信頼性の低下が著しいため、薄層化に限界がある。そこで、セラミック粒子の粒径を小さくし、それによって、信頼性が高く、しかも誘電率の電界強度の安定性に優れた材料の開発が望まれている。
【0012】
ところが、従来のコアシェル構造をもった材料では、セラミック粒子の粒径を小さくすると、添加成分の拡散が増大し、平坦な温度特性を確保することが比較的困難になる。
【0013】
以上のことから、コアシェル構造を持った材料を用いながら、積層セラミックコンデンサの十分な薄層化や高い温度までの誘電率の十分な安定化を図ることは、実質的に困難あるいは不可能であるのが現状である。
【0014】
同様のことが、上述した積層セラミックコンデンサの場合に限らず、他の積層セラミック電子部品についても言える。
【0015】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、誘電体セラミック組成物およびこの誘電体セラミック組成物を用いて構成される積層セラミック電子部品を提供しようとすることである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る誘電体セラミック組成物は、簡単に言えば、添加成分の拡散によるコアシェル構造を持たない材料であり、そのため、誘電率の温度特性や信頼性に関して、焼成条件の影響を受けにくい材料である。また、この発明に係る誘電体セラミック組成物を用いて、たとえば積層セラミックコンデンサを製造すると、薄層化した場合においても、静電容量の温度特性に関して、EIA規格で規定するX7R特性を満足させることができ、直流電圧に対する静電容量の変化率が小さく、高い信頼性を実現することができる。
【0017】
より具体的には、この発明に係る誘電体セラミック組成物は、一般式:(Ba1-x Cax )m TiO3 +α1 BaO+α2 CaO+βMnO+γMgO+δSiO2 +εLi2 Oで表わされるものであり、0.04≦x≦0.20、1.035<m+α1 +α2 ≦1.07、0.990≦m、0.0001≦β≦0.05、0.0001≦γ≦0.025、0.002≦δ≦0.08、および0.001≦ε≦0.05の条件を満たすことを特徴としている。
【0018】
この発明は、また、複数の積層された誘電体セラミック層および誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された内部電極を含む、積層体を備える、積層セラミック電子部品にも向けられる。この積層セラミック電子部品において、誘電体セラミック層が、上述したような誘電体セラミック組成物からなることを特徴としている。
【0019】
上述の内部電極は、ニッケルまたはニッケル合金を含むことが好ましい。
【0020】
この発明に係る積層セラミック電子部品において、上述の積層体の外表面上には、内部電極に電気的に接続された外部電極が形成され、この外部電極は、導電性金属粉末の焼結体を含む焼結層を備えることが好ましい。
【0021】
また、このような積層セラミック電子部品において、外部電極は、上述の焼結層上に形成された少なくとも1つのめっき層を備えていてもよい。
【0022】
この発明は、積層セラミックコンデンサに対して特に有利に適用される。この場合、複数の内部電極が、静電容量を形成するように、誘電体セラミック層を介して対向するように形成され、内部電極の特定のものに電気的に接続されるように外部電極が形成される。
【0023】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明に係る誘電体セラミック組成物を用いて構成される積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【0024】
積層セラミックコンデンサ1は、全体として直方体形状のチップタイプの電子部品を構成するもので、部品本体となる積層体2を備えている。積層体2は、積層される複数の誘電体セラミック層3と、複数の誘電体セラミック層3の間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成される複数の内部電極4および5とをもって構成される。内部電極4および5は、積層体2の外表面にまで到達するように形成されるが、積層体2の一方の端面6にまで引き出される内部電極4と他方の端面7にまで引き出される内部電極5とが、積層体2の内部において交互に配置されている。
【0025】
積層体2の外表面上であって、端面6および7上には、外部電極8および9がそれぞれ形成されている。外部電極8および9は、端面6および7上に形成される、導電性金属粉末の焼結体を含む焼結層10および11を備えている。また、必要に応じて、焼結層10および11上には、ニッケル、銅などからなる第1のめっき層12および13がそれぞれ形成され、さらにその上には、半田、錫などからなる第2のめっき層14および15がそれぞれ形成される。
【0026】
次に、上述のような積層セラミックコンデンサ1の製造方法について、製造工程順に説明する。
【0027】
まず、誘電体セラミック原料粉末を用意し、これをスラリー化し、このスラリーをシート状に成形して、誘電体セラミック層3のためのセラミックグリーンシートを得る。ここで、誘電体セラミック原料粉末として、後で詳細に説明するように、この発明に係る誘電体セラミック組成物のための原料粉末が用いられる。
【0028】
次に、セラミックグリーンシートの特定のものの各一方主面上に、内部電極4および5を形成する。内部電極4および5は、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等の卑金属、または銀、パラジウム、銀−パラジウム合金等の貴金属を導電成分として含むものであるが、特に、ニッケルまたはニッケル合金を含むことが好ましい。これら内部電極4および5は、通常、上述のような導電成分を含む導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷法などの印刷法や転写法等によって形成されるが、どのような方法によって形成されてもよい。
【0029】
次に、内部電極4または5を形成した誘電体セラミック層3のためのセラミックグリーンシートを、必要数積層するとともに、これらセラミックグリーンシートを、内部電極が形成されない適当数のセラミックグリーンシートによって挟んだ状態とし、これらをプレスすることによって、生の積層体を得る。
【0030】
次に、この生の積層体を、所定の還元性雰囲気中で所定の温度にて焼成し、それによって、図1に示すような焼結後の積層体2を得る。
【0031】
その後、積層体2の両端面6および7上に、内部電極4および5の特定のものと電気的に接続されるように、外部電極8および9を形成する。これら外部電極8および9に備える焼結層10および11の導電材料としては、内部電極4および5と同じ導電材料を用いることができる。焼結層10および11は、通常、導電性金属粉末にB2 O3 −SiO2 −BaO系またはLi2 O−SiO2 −BaO系などのガラスフリットを添加して得られた導電性ペーストを付与し、これを焼き付けることによって形成される。
【0032】
なお、焼結層10および11となるべき導電性ペーストは、通常、上述のように、焼結後の積層体2に付与され、焼き付けられるが、焼成前の生の積層体に付与しておき、積層体2を得るための焼成と同時に焼き付けられてもよい。
【0033】
次に、焼結層10および11の各々上に、ニッケル、銅などのめっきを施し、第1のめっき層10および11を形成する。最後に、これら第1のめっき層10および11上に、半田、錫などのめっきを施し、第2のめっき層12および13を形成し、積層セラミックコンデンサ1を完成させる。
【0034】
このような積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体セラミック層3は、前述したように、一般式:(Ba1-x Cax )m TiO3 +α1 BaO+α2 CaO+βMnO+γMgO+δSiO2 +εLi2 Oで表わされる、誘電体セラミック組成物から構成される。
【0035】
ただし、この誘電体セラミック組成物は、上述の一般式において、
0.04≦x≦0.20、
1.035<m+α1 +α2 ≦1.07、
0.990≦m、
0.0001≦β≦0.05、
0.0001≦γ≦0.025、
0.002≦δ≦0.08、および
0.001≦ε≦0.05
の条件を満たすものである。
【0036】
この誘電体セラミック組成物は、還元性雰囲気中で焼成しても、半導体化することなく、焼結することができる。また、この誘電体セラミック組成物を用いて、前述したような積層セラミックコンデンサ1の誘電体セラミック層3を構成するようにすれば、静電容量の温度特性がEIA規格で規定するX7R特性(−55℃〜+125℃で容量変化が±15%以内)を満足し、直流電圧に対する静電容量の変化率が小さく、絶縁抵抗が高く、信頼性の高いものとすることができる。
【0037】
このような誘電体セラミック組成物の出発原料は、(Ba1-x Cax )m TiO3 で表わされる化合物と、Ba化合物と、Ca化合物と、Mn化合物と、Mg化合物と、Si化合物と、Li化合物とを含むものであるが、誘電体セラミック組成物の原料粉末の製造方法としては、(Ba1-x Cax )m TiO3 で表わされる化合物を実現し得るものであれば、どのような方法が採用されてもよい。
【0038】
たとえば、(Ba1-x Cax )m TiO3 で表わされる化合物は、BaCO3 とTiO2 とCaCO3 とを混合する工程と、この混合物を熱処理することにより、BaCO3 とTiO2 とCaCO3 とを反応させる工程とによって得ることができる。
【0039】
その他、(Ba1-x Cax )m TiO3 で表わされる化合物は、水熱合成法、加水分解法、あるいはゾルゲル法などの湿式合成法によっても得ることができる。
【0040】
そして、(Ba1-x Cax )m TiO3 で表わされる化合物と、添加成分であるBa、Ca、Mn、Mg、SiおよびLiのたとえば各酸化物とを混合し、これらを熱処理することにより、誘電体セラミック組成物のための原料粉末を得ることができる。
【0041】
なお、添加成分であるBa、Ca、Mn、Mg、SiおよびLiの各化合物としては、上述したような酸化物の粉末を用いる以外に、前述したような誘電体セラミック組成物を構成できるものであれば、アルコキシドや有機金属などの溶液や炭酸化物粉末などを用いてもよく、これら用いられる添加成分の形態によって、得られた誘電体セラミック組成物の特性が損なわれることはない。
【0042】
また、この発明に係る誘電体セラミック組成物は、焼成されて、図1に示した積層セラミックコンデンサ1の誘電体セラミック層3となる。このような焼成工程において、内部電極4および5に含まれるニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、銀、パラジウムまたは銀−パラジウム合金のような金属は、誘電体セラミック層3中に拡散する場合もある。しかし、この発明に係る誘電体セラミック組成物によれば、このような金属成分が拡散しても、その電気的特性に実質的な影響がないことを確認している。
【0043】
次に、この発明を、実験例に基づいてより具体的に説明する。この実験例は、この発明に係る組成範囲の限定の根拠を与えるためのものでもある。
【0044】
この実験例において、図1に示すような積層セラミックコンデンサを作製した。
【0045】
まず、出発原料として、高純度のTiO2 、BaCO3 およびCaCO3 を準備し、以下の表1に示すようなCaの含有量すなわち「Ca変性量:x」および「(Ba,Ca)/Ti比:m」となるように秤量した後、混合粉砕した。乾燥後、各粉末を、1000℃以上の温度で加熱し、それによって、平均粒径0.20μmの表1に示すA〜Iの各種類の(Ba1-x Cax )m TiO3 粉末を合成した。
【0046】
【表1】
【0047】
また、BaCO3 粉末、CaCO3 粉末、MgCO3 粉末、MnCO3 粉末、Si2 O粉末およびLi2 O粉末をそれぞれ準備した。
【0048】
次に、これら原料粉末を用いて、表2および表3に示す組成となるように原料粉末を配合し、配合物を得た。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
次に、表2および表3に示した各試料に係る配合物を、1000〜1050℃の温度で2時間熱処理し、仮焼物を得た。
【0052】
次に、各仮焼物に、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノール等の有機溶剤を加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。
【0053】
次に、セラミックスラリーを、ドクターブレード法によって、シート状に成形し、厚み2.8μmの矩形のセラミックグリーンシートを得た。
【0054】
次に、セラミックグリーンシート上に、ニッケルを主体とする導電性ペーストを印刷し、内部電極となるべき導電性ペースト膜を形成した。
【0055】
次に、複数枚のセラミックグリーンシートを、上述の導電性ペースト膜の引き出されている側が互い違いになるように積層し、生の積層体を得た。
【0056】
次に、生の積層体を、窒素雰囲気中において、350℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた後、酸素分圧10-9〜10-12 MPaのH2 −N2 −H2 Oガスからなる還元性雰囲気中において、表4および表5に示す各温度で2時間焼成し、焼結した積層体を得た。
【0057】
次に、焼結された積層体の両端面上に、B2 O3 −SiO2 −BaO系のガラスフリットを含有するとともに銀を導電成分とする導電性ペーストを塗布し、窒素雰囲気中において、600℃の温度で焼き付け、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0058】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、幅が5.0mm、長さが5.7mmおよび厚さが2.4mmであり、内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みは、2.0μmであった。また、有効誘電体セラミック層の数は5であり、1層あたりの対向電極面積は16.3×10-6m2 であった。
【0059】
これら得られた試料について、電気的特性を測定した。
【0060】
静電容量(C)および誘電損失(tanδ)を、自動ブリッジ式測定器によって、JIS規格「5102」に従って測定し、得られた静電容量から誘電率(ε)を算出した。
【0061】
また、絶縁抵抗計を用い、10Vの直流電圧を2分間印加して、25℃での絶縁抵抗(R)を求め、これから比抵抗(logρ)を算出した。
【0062】
また、温度変化に対する静電容量の変化率(容量温度変化率)を、25℃での静電容量を基準とした−55℃〜+125℃の範囲での変化率(ΔC125 /C25)について求めた。
【0063】
また、直流電圧に対する静電容量の変化率(容量電界変化率)を、直流電圧を印加しない場合の25℃での静電容量を基準とし、4Vの直流電圧を印加したときの静電容量の、基準に対する変化率(ΔCDC4V/CDC0V)について求めた。
【0064】
また、高温負荷試験として、温度150℃にて20Vの直流電圧を印加して、その絶縁抵抗の経時変化を測定し、各試料の絶縁抵抗値が105 Ω以下になった時点を故障とし、平均故障時間を求めた。
【0065】
以上の電気的特性の評価結果が表4および表5に示されている。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
表4および表5に示した各電気的特性についての好ましい範囲は、次のとおりである。
【0069】
誘電率については、1500以上であり、誘電損失については、3.0%以下であり、容量温度変化率については、±15%以内であり、容量電界変化率については、絶対値が10%以内である。
【0070】
また、比抵抗(logρ)については、13.0Ω・cm以上であり、平均故障時間は、100時間以上である。
【0071】
また、セラミック粒子の構造を評価するため、焼成後の積層体における誘電体セラミック層の部分を、Arイオンミリングを施して薄片化した後、高分解能電子顕微鏡を用いて、倍率40万倍にて観察した。
【0072】
以下に、この発明において、前述したような組成範囲に限定した理由について説明する。
【0073】
表1ないし表5において、試料記号または試料番号に*を付したものは、この発明に係る組成範囲から外れた試料である。
【0074】
この発明の範囲外にある試料1では、表2に示すように、(Ba1-x Cax )m TiO3 粉末として、「A」が用いられ、この「A」は、表1および表2に示すように、Ca変性量xが、0.04未満の0.03である。そのため、試料1では、表4に示すように、平均故障時間が10時間と短くなっている。
【0075】
他方、同様に、この発明の範囲外にある試料2では、表2に示すように、(Ba1-x Cax )m TiO3 粉末として、「B」が用いられ、この「B」は、表1および表2に示すように、Ca変性量xが0.20を超える0.21となっている。そのため、試料2では、表4に示すように、誘電率が1120と小さく、また、容量温度変化率が−17.2%と大きく、平均故障時間が80時間と比較的短くなっている。
【0076】
また、この発明の範囲外の試料3では、表2に示すように、(Ba1-x Cax )m TiO3 粉末として、「C」が用いられ、この「C」は、表1および表2に示すように、(Ba,Ca)/Ti比mが0.990未満の0.988である。そのため、試料3では、表4に示すように、平均故障時間が測定不能なほど著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障が生じた。
【0077】
また、この発明の範囲外の試料4〜6では、表2に示すように、(Ba,Ca)/Ti比mとBaO含有量α1 とCaO含有量α2 との和、すなわちm+α1 +α2 が、1.07を超える1.072である。そのため、これら試料4〜6では、焼結が不十分であり、表4に示すように、tanδが3.0%より大きく、容量温度変化率が±15%以内の範囲を超え、比抵抗(logρ)が13.0Ω・cmより低く、また、平均故障時間が測定不能な程度に著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障が生じた。
【0078】
他方、同様に、この発明の範囲外にある試料7および8では、表2に示すように、m+α1 +α2 が1.035以下の1.032である。そのため、試料7および8では、表4に示すように、誘電損失が3.0%より大きく、また、容量電界変化率が絶対値で10%を超え、さらに、平均故障時間がそれぞれ40時間および35時間というように短くなった。
【0079】
また、この発明の範囲外にある試料9では、表2に示すように、MnO含有量βが0.0001未満の0.00005である。そのため、試料9では、表4に示すように、比抵抗が13.0Ω・cmより低く、また、平均故障時間が測定不能な程度に著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障が生じた。
【0080】
他方、同様に、この発明の範囲外にある試料10では、表2に示すように、MnO含有量βが0.05を超える0.06である。そのため、試料10では、表4に示すように、容量温度変化率が±15%以内の範囲を外れ、また、比抵抗も13.0Ω・cmより低かった。
【0081】
また、この発明の範囲外にある試料11では、表2に示すように、MgO含有量γが0.0001未満の0.00005である。そのため、試料11では、表4に示すように、誘電損失が3.0%より大きく、また、容量電界変化率が絶対値で10%を超え、比抵抗が13.0Ω・cmより小さく、さらに、平均故障時間が測定不能な程度に著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障が生じた。
【0082】
他方、同様に、この発明の範囲外にある試料12では、表2に示すように、MgO含有量γが0.025を超える0.027である。そのため、試料12では、焼結が不十分であり、表4に示すように、誘電率が950というように低く、誘電損失が12.3%と大きく、容量温度変化率が±15%以内の範囲を超え、比抵抗が13.0Ω・cmより低く、さらに、平均故障時間が測定不能な程度に著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障が生じた。
【0083】
また、この発明の範囲外にある試料13では、表2に示すように、SiO2 含有量δが0.002未満の0.0015である。そのため、試料13では、焼結が不十分であり、表4に示すように、誘電率が980というように低く、誘電損失が13.1%と大きく、容量温度変化率が±15%以内の範囲を超え、比抵抗が13.0Ω・cmより低く、さらに、平均故障時間が測定不能な程度に著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障が生じた。
【0084】
他方、同様に、この発明の範囲外にある試料14では、表2に示すように、SiO2 含有量δが0.08を超える0.085である。そのため、試料14では、表4に示すように、容量温度変化率が±15%以内の範囲を超え、また、平均故障時間が10時間と短かった。
【0085】
また、この発明の範囲外にある試料15では、表2に示すように、Li2 O含有量εが0.001未満の0.0008である。そのため、試料15では、焼結が不十分であり、表4に示すように、誘電率が1020と低く、誘電損失が11.5%と大きく、容量温度変化率が±15%以内の範囲を超え、比抵抗が13.0Ω・cmより低く、また、平均故障時間が測定不能な程度に著しく短く、高温で電圧を印加した瞬間に故障が生じた。
【0086】
他方、同様に、この発明の範囲外にある試料16では、表2に示すように、Li2 O含有量εが0.05を超える0.055である。そのため、試料16では、表4に示すように、容量温度変化率が±15%以内の範囲を超え、また、平均故障時間が60時間と比較的短かった。
【0087】
これらに対して、この発明の範囲内にある試料17〜35では、表1および表2または表3から次のことが明らかである。Ca変性量xは0.04≦x≦0.20の条件を満たしている。(Ba,Ca)/Ti比mは0.990≦mの条件を満たしている。また、この発明の範囲内にある試料17〜35では、表2または表3から次のことが明らかである。(Ba,Ca)/Ti比mとBaO含有量α1 とCaO含有量α2 との和、すなわちm+α1 +α2 は1.035<m+α1 +α2 ≦1.07の関係にある。MnO含有量βは0.0001≦β≦0.05の条件を満たしている。MgO含有量γは0.0001≦γ≦0.025の条件を満たしている。SiO2 含有量δは0.002≦δ≦0.08の条件を満たしている。さらに、Li2 O含有量εは0.001≦ε≦0.05の条件を満たしている。
【0088】
そのため、これら試料17〜35では、表4および表5に示すように、誘電率が1500以上であり、誘電損失が3.0%以下であり、容量温度変化率が±15%以内の範囲にあり、容量電界変化率が絶対値で10%以下であり、比抵抗が13.0Ω・cm以上であり、さらに、平均故障時間が100時間以上であり、信頼性に優れ、また、1200℃以下の温度で焼成可能であった。
【0089】
また、試料17〜35では、焼結後の誘電体セラミック部分を高分解能電子顕微鏡で観察したところ、コアシェル構造を有する粒子はなく、ドメイン構造が端まで形成されていることが確認された。
【0090】
以上、この発明を、積層セラミックコンデンサについて説明したが、この発明に係る誘電体セラミック組成物は、複数の積層された誘電体セラミック層および誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された内部電極を含む、積層体を備える、積層セラミック電子部品であれば、積層セラミックコンデンサ以外の積層セラミック電子部品においても、誘電体セラミック層の材料として有利に用いることができる。
【0091】
【発明の効果】
以上のように、この発明に係る誘電体セラミック組成物によれば、これを焼成して得られた焼結体の誘電率の温度特性が良好であり、かつ直流電圧に対する静電容量の変化が少なく、高い信頼性を与えることができる。
【0092】
また、この発明に係る誘電体セラミック組成物は、還元性雰囲気で焼成されても、半導体化せず、高い比抵抗を与えることができるので、これを焼成して得られた焼結体を用いて、積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品を構成すると、内部電極に含まれる導電成分として、卑金属であるニッケルまたはニッケル合金を問題なく用いることができ、その結果、積層セラミック電子部品のコストダウンを図ることができる。
【0093】
また、この発明に係る誘電体セラミック組成物によれば、これを焼成して得られた焼結体の誘電率の温度特性は、コアシェル構造に基づき平坦化されるのではなく、組成物本来の温度特性に基づき平坦化されるので、焼成温度による誘電率の温度特性の変動を少なくすることができる。そのため、この誘電体セラミック組成物を用いて構成された積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品は、特性のばらつきが小さく、誘電率の温度特性が安定でかつ優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る誘電体セラミック組成物を用いて構成される積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 積層セラミックコンデンサ
2 積層体
3 誘電体セラミック層
4,5 内部電極
8,9 外部電極
10,11 焼結層
12,13,14,15 めっき層
Claims (6)
- 一般式:(Ba1-x Cax )m TiO3 +α1 BaO+α2 CaO+βMnO+γMgO+δSiO2 +εLi2 Oで表わされる、誘電体セラミック組成物であって、
0.04≦x≦0.20、
1.035<m+α1 +α2 ≦1.07、
0.990≦m、
0.0001≦β≦0.05、
0.0001≦γ≦0.025、
0.002≦δ≦0.08、および
0.001≦ε≦0.05
の条件を満たす、誘電体セラミック組成物。 - 複数の積層された誘電体セラミック層および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された内部電極を含む、積層体を備え、
前記誘電体セラミック層は、請求項1に記載の誘電体セラミック組成物からなる、積層セラミック電子部品。 - 前記内部電極は、ニッケルまたはニッケル合金を含む、請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
- 前記積層体の外表面上には、前記内部電極に電気的に接続された外部電極が形成され、前記外部電極は、導電性金属粉末の焼結体を含む焼結層を備える、請求項2または3に記載の積層セラミック電子部品。
- 前記外部電極は、前記焼結層上に形成された少なくとも1つのめっき層を備える、請求項4に記載の積層セラミック電子部品。
- 複数の前記内部電極が、静電容量を形成するように、前記誘電体セラミック層を介して対向するように形成され、前記内部電極の特定のものに電気的に接続されるように前記外部電極が形成され、積層セラミックコンデンサを構成する、請求項4または5に記載の積層セラミック電子部品。
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