JP2607985B2 - 摺動部材 - Google Patents

摺動部材

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JP2607985B2
JP2607985B2 JP3159407A JP15940791A JP2607985B2 JP 2607985 B2 JP2607985 B2 JP 2607985B2 JP 3159407 A JP3159407 A JP 3159407A JP 15940791 A JP15940791 A JP 15940791A JP 2607985 B2 JP2607985 B2 JP 2607985B2
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義和 藤沢
誠 辻
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は摺動部材、特に、相手部
材との摺動面を持つ表面層を備えた摺動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種摺動部材として、前記表面
層をPb−Sn系合金より構成したすべり軸受が知られ
ている(特開昭56−96088号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】この種すべり軸受は、
エンジンにおけるクランクシャフトのジャーナル部、コ
ンロッドの大端部等に適用されているが、エンジンが高
速、且つ高出力化の傾向にある現在の状況下では、従来
のすべり軸受の表面層は、そのオイル保持性、つまり保
油性が十分でなく、また初期なじみ性も悪いため耐焼付
き性が乏しいという問題がある。
【0004】本発明は前記に鑑み、表面層の構造を特定
することによって、その表面層に十分な保油性を持た
せ、また表面層の初期なじみ性を良好にし、これにより
表面層の耐焼付き性を向上させた前記摺動部材を提供す
ることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、相手部材との
摺動面を持つ表面層を備えた摺動部材において、前記表
面層は、前記摺動面を形成すべく、頂点を摺動面側に向
けた複数の角錐体状突起よりなるマトリックス部と、上
底面を摺動面側に向けて前記マトリックス部に分散する
複数の角錐台状突起を有し、前記角錐体状突起の高さc
3 は前記角錐台状突起の高さc 3 に略等しいことを特徴
とする。
【0006】
【実施例】図1,図2に示す摺動部材としてのすべり軸
受1は本発明の原形となるものであって、エンジンにお
けるクランクシャフトのジャーナル部、コンロッドの大
端部等に適用される。このすべり軸受1は第1および第
2半体11 ,12 よりなる。両半体11 ,12 は同一構
造を有し、裏金2と、その裏金2の内周面に形成された
ライニング層3と、そのライニング層3の表面に形成さ
れて相手部材xとの摺動面4aを持つ表面層4とを備え
ている。裏金2およびライニング層3間には銅メッキ層
が、またライニング層3および表面層4間にはニッケル
メッキバリヤ層がそれぞれ必要に応じて設けられる。
【0007】裏金2は圧延鋼板より構成され、その厚さ
はすべり軸受1の設定厚さにより決められる。ライニン
グ層3は銅、銅系合金、アルミニウム、アルミニウム系
合金等より構成され、その厚さは50〜500μm、通
常は300μm程度である。表面層4はPb合金より構
成され、その厚さは5〜50μm、通常は20μm程度
である。
【0008】表面層4を構成するPb合金は、80〜9
0重量%のPbと3〜20重量%のSnとを含有し、必
要に応じてCu、In、Ag、Tl、Nb、Sb、N
i、Cd、Te、Bi、Mn、Ca、Baから選択され
る少なくとも一種を10重量%以下含有する。
【0009】Cu、Ni、Mnは表面層4の硬さを向上
させる機能を有するが、その含有量が10重量%を上回
ると、硬さが高くなり過ぎて初期なじみ性が低下する。
Cu等を添加する場合には、表面層4の硬さHmvが1
5〜25になるように、その含有量を調整するのが望ま
しい。
【0010】In、Ag、Tl、Nb、Sb、Cd、T
e、Bi、Ca、Baは、表面層4を軟化して初期なじ
み性を改善する機能を有するが、その含有量が10重量
%を上回ると、表面層4の強度が低下する。In等を添
加する場合には、表面層4の硬さHmvが8〜15にな
るように、その含有量を調整するのが望ましい。
【0011】表面層4は、電気メッキ法により形成され
るもので、メッキ液としては、1リットル当り40〜1
80gのPb2+、1リットル当り1.5〜35gのSn
2+、必要に応じて1リットル当り15g以下のCu2+
含むホウフッ化系メッキ液が用いられる。またメッキ液
の温度は10〜35℃、陰極電流密度は3〜15A/d
2 にそれぞれ設定される。
【0012】図3は、摺動面4aにおけるPb合金の結
晶構造を示す電子顕微鏡写真(10,000倍)である。表面
層4は8重量%のSnと、2重量%のCuとを含有する
Pb合金よりなる。その表面層4は銅合金製ライニング
層3上に形成され、表面層4を形成する際の電気メッキ
処理における陰極電流密度は6A/dm2 に設定され
た。
【0013】図2〜図4に明示するように、表面層4
は、摺動面4aを形成すべく、頂点a1 ,a2 を摺動面
4a側に向けた複数の角錐体状突起、図示例ではPb合
金の四角錐体状結晶61 ,62 を有する。各四角錐体状
結晶61 ,62 はライニング層3より延出する各柱状晶
5の先端部を形成している。
【0014】集合体は、マトリックス部Bを形成する複
数の第1の角錐体状突起としての小形四角錐体状結晶6
1 と、そのマトリックス部Bに分散すると共に頂点a2
側をマトリックス部Bより突出させた複数の第2の角錐
体状突起としての大形四角錐体状結晶62 とより構成さ
れる。
【0015】小形四角錐体状結晶61 の高さc1 は、
0.2μm≦c1 ≦2μmであり、底面積は、0.06
μm2 ≦底面積≦6μm2 である。一方、大形四角錐体
状結晶の高さc2 は、2.5μm≦c2 ≦8μmであ
り、底面積は、9μm2 ≦底面積≦100μm2 であ
る。さらにマトリックス部Bにおける大形四角錐体状結
晶62 の面積率dは、1%≦d≦50%である。
【0016】図5は、表面層4におけるPb合金結晶の
X線回折図であり、ミラー指数で(200)面および
(400)面の回折ピークのみが認められる。
【0017】ここで、結晶面の配向性を表わす指数とし
て配向指数Oeを、 (ただし、hklはミラー指数、Ihklは(hkl)
面の積分強度、ΣIhklはIhklの総和)と定義す
ると、或(hkl)面において、その配向指数Oeが1
00%に近ければ近い程、その(hkl)面と直交する
方向へ配向した結晶面が多いことになる。
【0018】前記Pb合金結晶の(200)面および
(400)面における積分強度Ihklおよび配向指数
Oeは表1の通りである。
【0019】
【表1】
【0020】表1より、Pb合金結晶の(h00)面に
おける配向指数Oeは100%であり、したがってPb
合金結晶は、結晶軸a,b,cにおいて各軸方向に配向
した結晶面、即ち(h00)面を持つことになる。
【0021】このように、結晶面を(h00)面と直交
する方向に配向させると、Pb合金の結晶構造が面心立
方構造であることから、配向方向における原子密度が高
くなるので、表面層4の硬度が増してその耐焼付き性が
向上する。
【0022】図6は、従来例表面層の摺動面におけるP
b合金の結晶構造を示す電子顕微鏡写真(10,000倍)で
ある。この表面層は8重量%のSnと、2重量%のCu
とを含有するPb合金よりなり、表面層は電気メッキ処
理により銅合金製ライニング層上に形成されたもので、
エンジン用クランクシャフトのジャーナル部に適用され
る。
【0023】図7は、従来例表面層におけるPb合金結
晶のX線回折図である。本図からは特定の結晶面への配
向は認められない。種々の(hkl)面における積分強
度Ihklおよび配向指数Oeは表2の通りである。
【0024】
【表2】
【0025】図6および表2から明らかなように、従来
例のPb合金の結晶形状は結晶面がランダムに配向した
不定形状である。これに起因してPb合金の硬度は前記
(h00)面配向のPb合金に比べて低くなる。
【0026】表3は、各種すべり軸受において、本発明
の原形となる例、即ち原形例(1)〜(4)と比較例
(1),(2)に関する表面層の組成、(h00)面に
おける配向指数Oe、結晶構造等を比較したものであ
る。表中、「小形」は小形四角錐体状結晶61 を、また
「大形」は大形四角錐体状結晶62 をそれぞれ意味す
る。
【0027】
【表3】
【0028】原形例(1)は図3に示したPb合金に
当する。原形例(2),(3)は、原形例(1)に比べ
て陰極電流密度を上げた場合に、また原形例(4)は下
げた場合にそれぞれ該当する。
【0029】比較例(1)は図6に示した前記従来例に
おけるPb合金に該当し、その結晶形状は不定形状であ
る。比較例(2)は原形例(4)と略同一の組成を有
し、また比較例(1)と略同様の結晶形状を有する。比
較例(1),(2)の陰極電流密度は不明である。
【0030】図8は、原形例(1)〜(4)および比較
例(1),(2)の焼付きテスト結果を示す。
【0031】焼付きテストは、回転軸に各すべり軸受を
摺擦させ、そのすべり軸受に対する負荷荷重を漸次増加
させることにより行われた。図8は各すべり軸受の表面
層が焼付きを発生したときの面圧を求めたものである。
【0032】テスト条件は次の通りである。回転軸の材
質 JIS S48C材に窒化処理を施したもの、回転
軸の回転数 6000rpm 、給油温度 120℃、給油圧力
3kg/cm2 、負荷荷重 1kg/sec 。
【0033】図8から明らかなように、原形例(1)〜
(4)は、比較例(1),(2)に比べて優れた耐焼付
き性を有する。このような効果が得られる理由は、大形
四角錐体状結晶62 の頂点a2 側を優先的に摩耗させて
表面層4の初期なじみ性を良好にすることができるから
であり、また小形および大形四角錐体状結晶61 ,62
の混在により摺動面4aの表面積が拡大されて、表面層
4に十分な保油性を持たせることができるからである。
【0034】大形四角錐体状結晶62 において、摺動開
始初期に頂点a2 側の優先的摩耗が終了して平坦面(四
角錐台の上底面に相当する)が形成されると、その平坦
面と相手部材との間には常時油膜が存在するので、それ
以後の摺動面4aの摩耗は極めて緩慢に行われる。
【0035】なお、小形四角錐体状結晶61 の高さc1
がc1 <0.2μmでは、摺動面4aの表面積拡大効果
が少なくなるので、表面層4の保油性が低くなる。また
小形四角錐体状結晶61 の高さc1 がc1 >2μmで、
また大形四角錐体状結晶62 の高さc2 がc2 <2.5
μmになると、両結晶61 ,62 の高さc1 ,c2 の差
が少なくなるので、大形四角錐体状結晶62 の優先的摩
耗が十分に行われず、初期なじみ性が低下する。大形四
角錐体状結晶62 の高さc2 がc2 >8μmでは、その
結晶62 自体が粗大化するので表面層4の強度が低下す
る。
【0036】また大形四角錐体状結晶62 の面積率dが
d<1%になると、その結晶62 の優先的摩耗による初
期なじみ性向上効果が低く、一方、d>50%になる
と、粗大結晶量が多くなるので表面層4の強度が低下す
る。
【0037】図9,図10は実施例を示し、Pb合金よ
りなる表面層4は、摺動面4aを形成すべく、頂点a1
を摺動面4a側に向けた複数の角錐体状突起としての小
形四角錐体状結晶61 よりなるマトリックス部Bと、上
底面eを摺動面4a側に向けてマトリックス部Bに分散
する複数の角錐台状突起としての大形四角錐台状結晶7
を有する。
【0038】小形四角錐体状結晶の高さc3 は大形四角
錐台状結晶7の高さc3 に略等しく、その高さc3 は、
0.2μm≦c3 ≦2μmである。小形四角錐体状結晶
1の底面積は0.06μm2 ≦底面積≦6μm2 であ
り、一方、大形四角錐台状結晶7の上底面eの面積は、
1μm2 ≦面積≦30μm2 、下底面の面積は、9μm
2 ≦面積≦100μm2 である。またマトリックスBに
おける大形四角錐台状結晶7の面積率dは、1%≦d≦
50%である。したがって、表面層4は、原形例(1)
〜(4)において、それらの大形四角錐体状結晶6 2
頂点a側が優先的に摩耗した場合と同様の摺動面4aを
有する。
【0039】このように構成すると、摺動面4aの一部
が大形四角錐台状結晶7の上底面eより形成されること
から、摺動開始初期より相手部材と上底面eとの間に油
膜を形成させて初期なじみ性を良好にすると共に安定化
させることができ、また前記同様に表面層4に十分な保
油性を持たせることができる。
【0040】なお、両結晶61 ,7の高さc3 がc3
0.2μmになると、両結晶61 ,7が小さすぎて、摺
動面4aの表面積拡大効果が少なくなるため表面層4の
保油性が低くなる。一方、両結晶61 ,7の高さc3
3 >2μmになると、初期なじみ性が低下する。
【0041】また大形四角錐台状結晶7の面積率dがd
<1%になると、前記油膜形成効果が低下し、一方、d
>50%になると、大形四角錐台状結晶7が比較的粗大
であることに起因して表面層4の強度が低下する。
【0042】さらに、前記結晶61 ,62 または61
7が摺動面4aの一部を形成するものも本発明に包含さ
れる。この場合、摺動面4aにおける前記結晶61 ,6
2 等の面積率は50%以上に設定される。
【0043】前記のように優秀な摺動特性を得るために
は四角錐体状結晶61 ,62 および四角錐台状結晶7の
傾きが問題となる。
【0044】そこで、図4,図11に示すように四角錐
体状結晶61 ,62 の底面側に、それら結晶61 ,62
を突出させて摺動面4aに沿う仮想面Fを規定し、また
四角錐体状結晶61 ,62 の頂点a1 ,a2 と底面中央
部gを通る直線hが、底面中央部gを通り仮想面Fに垂
直な基準線kに対してなす傾き角をθと規定すると、四
角錐体状結晶61 ,62 の傾き角θは0°≦θ≦30°
に設定される。傾き角θがθ>30°になると、表面層
4の保油性および頂点a2 側の優先的摩耗性が低下す
る。
【0045】四角錐台状結晶7の場合の傾き角θは、図
9,図12に示すように上底面中央部nおよび下底面中
央部pを通る直線rと下底面中央部pを通り仮想面Fに
垂直な基準線kとがなす角度として規定される。この場
合にも、傾き角θは、0°≦θ≦30°に設定される。
【0046】前記実施例では、表面層を電気メッキ法に
より形成したが、その他の表面層形成方法としては、P
VD、イオンプレーティング、CVD、スパッタリング
等の気相を介する形成方法を挙げることができる。また
摺動面における角錐体状突起等の形成に当っては、化学
エッチング、電気エッチング、気相エッチング(ボンバ
ード処理)等のエッチング法、転写、切削等の機械加工
等を適用することが可能である。
【0047】本発明はすべり軸受に限らず、他の摺動部
材にも適用される。
【0048】
【発明の効果】本発明によれば、表面層の構造を前記の
ように特定することによって、その表面層の耐焼付き性
を向上させた摺動部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】すべり軸受の原形例の分解平面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】原形例摺動面におけるPb合金の結晶構造を示
す顕微鏡写真である。
【図4】原形例表面層の要部概略斜視図である。
【図5】原形例表面層におけるPb合金結晶のX線回折
図である。
【図6】従来例摺動面におけるPb合金の結晶構造を示
す顕微鏡写真である。
【図7】従来例表面層におけるPb合金結晶のX線回折
図である。
【図8】焼付きテスト結果を示すグラフである。
【図9】実施例表面層の要部概略斜視図である。
【図10】実施例表面層の要部概略縦断面図である。
【図11】四角錐体状結晶の傾き角測定法を示す説明図
である。
【図12】四角錐台状結晶の傾き角測定法を示す説明図
である。
【符号の説明】
1 すべり軸受(摺動部材) 4 表面層 4a 摺動面 6 1 形四角錐体状結晶(角錐体状突起) 7 大形四角錐台状結晶(四角錐台状突起) a 1 頂点 B マトリックス部 3 高さ e 上底面 x 相手部材
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭56−47589(JP,A) 特開 昭56−51589(JP,A) 特開 昭56−96088(JP,A)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 相手部材(x)との摺動面(4a)を持
    つ表面層(4)を備えた摺動部材において、前記表面層
    (4)は、前記摺動面(4a)を形成すべく、頂点(a
    1 )を摺動面側に向けた複数の角錐体状突起(61 )よ
    りなるマトリックス部(B)と、上底面(e)を摺動面
    (4a)側に向けて前記マトリックス部(B)に分散す
    る複数の角錐台状突起(7)を有し、前記角錐体状突起
    (61)の高さc3 は前記角錐台状突起(7)の高さc
    3 に略等しいことを特徴とする摺動部材。
  2. 【請求項2】 前記角錐体状突起(61 )および角錐台
    状突起(7)の高さc3 は、0.μm≦c3 ≦2μm
    である、請求項記載の摺動部材。
  3. 【請求項3】 前記マトリックス部(B)における前記
    角錐台状突起(7)の面積率dは1%≦d≦50%であ
    る、請求項または記載の摺動部材。
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