JP2019202919A - タンタル酸リチウム基板の製造方法 - Google Patents

タンタル酸リチウム基板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】基板表面の色むら(還元むら)と基板外周部の黒化不良が抑制され、かつ、電気的特性に優れたタンタル酸リチウム(LT)基板の製造法を提供する。【解決手段】チョクラルスキー法で育成したLT結晶を用いてLT基板を製造する方法であって、容器1内のアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉2中に基板の状態に加工されたLT結晶3を埋め込み、大気圧雰囲気下の加熱炉内に容器を配置した後、加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらLT結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してLT基板を製造する方法において、混合粉2中に複数枚埋め込まれるLT結晶3間の距離をL(mm)とし、LT結晶3外周縁部と容器1内壁間との距離をL1(mm)とした場合、L1/Lが、0.4〜1.5の範囲を満たすことを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法に係り、特に、色むら(還元むら)の無い電気的特性に優れたタンタル酸リチウム基板の製造方法に関するものである。
タンタル酸リチウム(以下、LTと略称することがある)結晶は、融点が約1650℃、キュリー温度が約600℃の強誘電体であり、この結晶を用いて製造されたタンタル酸リチウム基板は、主に、携帯電話の送受信用デバイスに用いられる表面弾性波(SAW)フィルター材料として適用されている。
そして、携帯電話の高周波化、各種電子機器の無線LANであるBluetooth(登録商標)(2.45GHz)の普及等により、2GHz前後の周波数領域のSAWフィルターが今後急増すると予測されている。
上記SAWフィルターは、LT等の圧電材料で構成された基板上に、Al、Cu等の金属薄膜で一対の櫛型電極が形成された構造となっており、この櫛型電極がデバイスの特性を左右する重要な役割を担っている。また、上記櫛型電極は、圧電材料上にスパッタリングにより金属薄膜を成膜した後、一対の櫛型パターンを残し、フォトリソグラフ技術により不要な部分をエッチングにより除去することで形成される。
また、上記LT単結晶は、産業的には、主にチョクラルスキー法によって、酸素濃度が数%〜20%程度の窒素−酸素混合ガス雰囲気の電気炉中で育成されており、通常、高融点のイリジウム坩堝が用いられ、育成されたLT単結晶は電気炉内で所定の冷却速度で冷却された後、電気炉から取り出して得られている。
育成されたLT結晶は、無色透明若しくは透明度の高い淡黄色を呈している。育成後、結晶の熱応力による残留歪みを取り除くため、融点に近い均熱下で熱処理を行い、更に単一分極とするためのポーリング処理、すなわち、LT結晶を室温からキュリー温度以上の所定温度まで昇温し、結晶に電圧を印加し、電圧を印加したままキュリー温度以下の所定温度まで降温した後、電圧印加を停止して室温まで冷却する一連の処理を行う。ポーリング処理後、結晶の外径を整えるために外周研削されたLT結晶(インゴットと称する)は、スライス、ラップ、ポリッシュ工程等の機械加工を経て基板となる。最終的に得られた基板はほぼ無色透明で、その体積抵抗率はおよそ1014〜1015Ω・cm程度である。
ところで、このような従来の方法で得られた基板では、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおいて、LT結晶の特性である焦電性のため、プロセスで受ける温度変化によって電荷が基板表面にチャージアップし、これにより生ずる放電が原因となって基板表面に形成した櫛型電極が破壊され、更には基板の割れ等を生じて素子製造プロセスでの歩留まり低下が起きている。
そこで、LT結晶の焦電性による不具合を解消するため、導電率を増大させる技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、アルゴン、水、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素およびこれ等の組合せから選択されたガスの還元雰囲気で基板形状のLT結晶を熱処理することによりその導電性を増大させる方法が提案され、特許文献2では、20Pa以下の減圧雰囲気でLT結晶を熱処理することによりその導電性を増大させる方法が提案されている。また、特許文献3では、基板の状態に加工されたLT結晶をアルミニウム粉末(Al粉)と酸化アルミニウム粉末(Al23粉)との混合粉中に埋め込んで熱処理(還元処理)する方法が提案されている。尚、導電性を増大させたLT基板は、酸素空孔が導入されたことにより光吸収を起こすようになる。そして、観察されるLT基板の色調は、透過光では赤褐色系に、反射光では黒色に見えるため、導電性を増大させる還元処理は黒化処理とも呼ばれており、このような色調の変化現象を黒化と呼んでいる。
特開平11−92147号公報(特許請求の範囲、段落0027参照) 特開2004−152870号公報(請求項4、8、段落0014参照) 特許第4063191号公報(実施例3、8参照) 特願2018−041128号明細書 特願2017−247677号明細書
ところで、1250℃程度と融点が比較的低いニオブ酸リチウム結晶と異なり、融点が約1650℃と高いタンタル酸リチウム結晶に対して特許文献1および特許文献2の方法を適用した場合、LT基板の導電性が十分に増大しないため、焦電性による不具合の改善効果は十分でないという問題があった。
また、近年、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおいての歩留まり向上のため、LT結晶の特性である体積抵抗率をより低くしたい要求があり、例えば、LT基板の体積抵抗率を1×109(Ω・cm)以下にしたい要求がある。
そして、基板の状態に加工されたLT結晶をアルミニウム粉末(Al粉)と酸化アルミニウム粉末(Al23粉)との混合粉中に埋め込んで熱処理する特許文献3の方法では、Al粉の比率を高くすることで体積抵抗率1×109(Ω・cm)程度のLT基板が得られている(実施例3、8参照)。因みに、特許文献3の実施例3においては、Al粉の比率が50重量%に設定されると共に加熱炉内の雰囲気が「不活性ガスの封止条件」に設定され、特許文献3の実施例8においては、Al粉の比率が50重量%に設定されると共に加熱炉内の雰囲気が「真空条件」に設定されている。
しかし、特許文献3の方法では、混合粉中におけるAl粉比率が高くなるに従い、直径1〜5mm程度の黒い点(色むら、すなわち還元むら)が発生し易くなり、Al粉比率の上昇に伴いその発生率が増加して生産性を悪化させてしまう問題が存在した。
このため、上記還元むら(黒い点)の発生原因について、本出願人が調査、分析を行ったところ、特許文献3の方法では、加熱炉内の雰囲気が、上述したように「不活性ガスの封止条件」あるいは「真空条件」に設定されているため、加熱炉内の熱が一か所に溜まって還元むら(黒い点)を起こし易い環境になっていることが原因として考えられ、特に、混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率が20%重量を超えた場合に還元むら(黒い点)の発生率が顕著となることも確認された。
そこで、「不活性ガスの封止条件」あるいは「真空条件」に設定されていた特許文献3における加熱炉内の雰囲気を「大気圧条件」に変更し、加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排する(加熱炉に設けられた給気口から不活性ガスを供給し、加熱炉の排気口から不活性ガスを放出する)と共に、混合粉中におけるAl粉比率を低く設定(20%重量以下)してその効果を調べたところ、焦電性による不具合の改善効果が均一で、還元むら(黒い点)を抑制でき、かつ、再現性と生産効率に優れた条件であることが確認された。
更に、混合粉中におけるアルミニウム粉末の平均粒径をS(μm)とし、酸化アルミニウム粉末の平均粒径を0.9S(μm)〜1.2S(μm)の範囲に設定した場合(特許文献4参照)、アルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末間に隙間空間が形成され易くなるため上記還元むら(黒い点)をより抑制でき、また、加熱炉内に給排する不活性ガスについてその酸素分圧が1×10-10atm以下である不活性ガスを適用した場合(特許文献5参照)、加熱炉内の酸素濃度が低くなるため混合粉中におけるAl粉比率の更なる低減が図れることも本出願人により確認されている。
ところで、本出願人が見出した条件、すなわち、加熱炉内の雰囲気を「大気圧条件」に変更し、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排すると共に、混合粉中におけるAl粉比率を低く設定した条件で製造されたLT基板は、上述したように還元むら(黒い点)が抑制され、焦電性による不具合の改善効果も均一である優れた特性を有する反面、LT基板の中央部に較べて基板外周部が強く還元される傾向にあり、その結果、基板中央部に較べて基板外周部が極端に黒くなる色むら不良(外周部黒化不良)を発生し易い新たな問題が確認されている。
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、上述した還元むら(黒い点)が抑制され、焦電性による不具合の改善効果が均一で、基板外周部が極端に黒くなる色むら不良(外周部黒化不良)の発生も抑制でき、かつ、低コストで再現性と生産効率に優れたLT基板の製造方法を提供することにある。
そこで、上記課題を解決するため、LT基板の中央部に較べて基板外周部が強く還元される原因について本発明者等が鋭意検討を行った結果、基板外周部の色むら不良(外周部黒化不良)を抑制できる本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法であって、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に基板の状態に加工されたタンタル酸リチウム結晶(以下、「基板形状のタンタル酸リチウム結晶」とし、熱処理後の「タンタル酸リチウム基板」と区別する)を埋め込み、かつ、大気圧雰囲気下の加熱炉内に上記容器を配置した後、上記加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらタンタル酸リチウム結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してタンタル酸リチウム基板を製造する方法において、
上記混合粉中に複数枚埋め込まれる基板形状のタンタル酸リチウム結晶間の距離をL(mm)とし、基板形状のタンタル酸リチウム結晶外周縁部と上記容器の内壁間との距離をL1(mm)とした場合、L1/Lが、0.4〜1.5の範囲を満たすことを特徴とする。
第2の発明は、
第1の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記L1/Lが0.75〜1.25の範囲を満たすことを特徴とする。
第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記混合粉中に複数枚埋め込まれる基板形状のタンタル酸リチウム結晶間の距離Lが、0.5mm〜10mmの範囲を満たすことを特徴とする。
次に、本発明に係る第4の発明は、
第1の発明〜第3の発明のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を20重量%以下に設定すると共に、上記アルミニウム粉末の平均粒径をS(μm)とした場合、酸化アルミニウム粉末の平均粒径が0.9S(μm)〜1.2S(μm)の範囲に設定されていることを特徴とする。
第5の発明は、
第4の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記アルミニウム粉末の平均粒径Sが100μmであることを特徴とする。
また、本発明に係る第6の発明は、
第1の発明〜第3の発明のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を20重量%未満に設定すると共に、大気圧雰囲気下の加熱炉内に酸素分圧が1×10-10atm以下である不活性ガスを連続的に給排することを特徴とする。
第7の発明は、
第1の発明〜第6の発明のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記不活性ガスがアルゴンガスで、かつ、加熱炉内に連続的に給排されるアルゴンガスの流量が0.5〜5L/minであることを特徴とする。
本発明方法によれば、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排して加熱炉内の熱が一か所に溜まり難くなっているため、上述した色ムラ(還元ムラ)の発生を抑制できると共に、特許文献3に記載の実施例3や実施例8に較べて混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を低く設定しても体積抵抗率が1×109Ω・cm以下のタンタル酸リチウム基板を製造できる効果を有する。
また、本発明方法によれば、上記混合粉中に複数枚埋め込まれる基板形状のタンタル酸リチウム結晶間の距離をL(mm)とし、基板形状のタンタル酸リチウム結晶外周縁部と上記容器の内壁間との距離をL1(mm)とした場合、L1/Lが0.4〜1.5の範囲を満たすことから基板形状のタンタル酸リチウム結晶外周縁部と容器内壁間距離の最適化が図られているため、タンタル酸リチウム基板の外周部が極端に黒くなる色むら不良(外周部黒化不良)の発生も抑制できる効果を有する。
ステンレス製容器に混合粉を充填し基板形状のLT結晶を埋め込む概要図。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
タンタル酸リチウム(LT)結晶は、結晶内に存在する酸素空孔濃度によって電気伝導度と色が変化する。LT結晶中に酸素空孔が導入されると、チャージバランスをとる必要から一部のTaイオンの価数が5+から4+に変わり、電気伝導性を生じると同時に光吸収を起こす。電気伝導は、キャリアである電子がTa5+イオンとTa4+イオンの間を移動するために生ずると考えられる。結晶の電気伝導度は、単位体積あたりのキャリア数とキャリアの移動度の積で決まる。移動度が同じであれば、電気伝導度は酸素空孔数に比例する。また、光吸収による色変化は、酸素空孔により導入された電子レベルによるものと考えられる。
ところで、LT基板の導電率を高くする場合、酸素分圧が充分に低い不活性ガス中において、基板形状のLT結晶をキュリー温度未満の温度で熱処理してLT結晶中に酸素空孔を導入する特許文献1の方法が考えられる。しかし、一般的に市販されているアルゴンガス(通常、酸素分圧は1×10-6atm程度)であっても、不純物として数ppm以下の酸素が含まれるため、一般的に市販されている不活性ガスを用いた熱処理ではLT基板の導電率を充分に高くすることはできない。
これに対し、基板の状態に加工されたLT結晶をアルミニウム粉末(Al粉)と酸化アルミニウム粉末(Al23粉)との混合粉中に埋め込んで熱処理する特許文献3の方法においては、Al粉の比率を高くする(上述したように実施例3ではAl粉の比率を50重量%に設定しかつ加熱炉内の雰囲気を「不活性ガスの封止条件」に設定し、実施例8ではAl粉の比率を50重量%に設定しかつ加熱炉内の雰囲気を「真空条件」に設定する)ことで体積抵抗率が1×109(Ω・cm)程度のLT基板を得ている。但し、混合粉中におけるAl粉比率が高くなるに従い、上述したように直径1〜5mm程度の黒い点(色むら、すなわち還元むら)が発生し易くなる。
そこで、加熱炉内の雰囲気を「不活性ガスの封止条件」あるいは「真空条件」に設定している特許文献3の上記雰囲気を「大気圧条件」に変更し、加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排すると共に、混合粉中におけるAl粉比率を低く設定(20%重量以下)することで、上記黒い点(還元むら)の発生が抑制されかつ体積抵抗率が1×109Ω・cm以下のLT基板を製造できるようになったが、その反面、この条件で製造されたLT基板においては、基板中央部に較べて基板外周部が強く還元される傾向にあり、その結果、基板中央部に較べて基板外周部が極端に黒くなる色むら不良(外周部黒化不良)を発生し易い新たな問題が確認された。
この問題を解決するため、本発明者等は以下の検討を行った。
まず、上記条件によるLT基板の製造法は、例えばステンレス製の容器内にアルミニウム粉末(Al粉)と酸化アルミニウム粉末(Al23粉)を充填し、基板の状態に加工された複数枚のLT結晶をAl粉とAl23粉との混合粉中に等間隔で埋め込み、かつ、大気圧雰囲気下の加熱炉内に上記容器を配置した後、加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながら350℃〜LT結晶のキュリー温度(約600℃)未満の温度で熱処理してLT基板を製造している。
ここで、基板の状態に加工されたLT結晶の還元は、LT結晶周辺の不活性ガス中に含まれる微量の酸素と上記混合粉中のAl粉との反応により、LT結晶周辺の酸素分圧が大きく低下することにより起こると考えられる。従って、基板形状のLT結晶外周縁部においては、LT結晶間に存在する混合粉中のAl粉の寄与に加えて、LT結晶外周縁部とステンレス製容器内壁間にある混合粉中のAl粉の寄与も受けるため酸素分圧の低下が更に大きくなり、上記LT結晶の中央部と比較して外周縁部の還元が更に進み、「外周部黒化不良」が起こると考えられる。
従来、LT基板の体積抵抗率は1×1010(Ω・cm)〜1×1012(Ω・cm)程度であったが、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおける歩留まり向上のため、上述したように体積抵抗率を1×109(Ω・cm)以下にしたい要求がある。
そして、体積抵抗率が1×1010(Ω・cm)〜1×1012(Ω・cm)程度であった従来のLT基板においては、その色調が反射光で「薄い黒色」であるのに対し、体積抵抗率を1×109(Ω・cm)以下にしたLT基板における色調は、導入された酸素空孔の増大により反射光で「より濃い黒色」になったため、従来、顕在化していなかったLT基板における「外周部黒化不良」が顕在化したと考えられる。
そこで、「外周部黒化不良」を抑制するため本発明者等が鋭意検討を行った結果、基板の状態に加工された複数枚のLT結晶(基板形状のLT結晶)をAl粉とAl23粉との混合粉中に等間隔で埋め込む際、基板形状のLT結晶間の距離(すなわち、LT結晶間に介在する混合粉層の厚さ)に応じて、LT結晶外周縁部とステンレス製容器内壁間との距離の最適化を図ることにより、上記「外周部黒化不良」を抑制できると共に、混合粉中におけるAl粉の比率を従来より低く設定しても体積抵抗率が1×109Ω・cm以下であるLT基板を低コストでかつ再現性よく製造できることを確認するに至った。
すなわち、本発明は、チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法であって、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に基板の状態に加工されたタンタル酸リチウム結晶を埋め込み、かつ、大気圧雰囲気下の加熱炉内に上記容器を配置した後、上記加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらタンタル酸リチウム結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してタンタル酸リチウム基板を製造する方法において、
上記混合粉中に複数枚埋め込まれる基板形状のタンタル酸リチウム結晶間の距離をL(mm)とし、基板形状のタンタル酸リチウム結晶外周縁部と上記容器の内壁間との距離をL1(mm)とした場合、L1/Lが、0.4〜1.5の範囲を満たすことを特徴とするものである。
上述したように基板形状のLT結晶外周縁部においては、LT結晶間に存在する混合粉中のAl粉の寄与に加えて、LT結晶外周縁部と容器内壁間にある混合粉中のAl粉の寄与も受けるため酸素分圧の低下が更に大きくなり、LT結晶の中央部と比較して外周縁部の還元が更に進み、「外周部黒化不良」が起こると考えられる。
そこで、LT結晶外周縁部と容器内壁間における距離の最適化条件を見出すため繰り返し実験を行った。図1は、ステンレス製容器1に混合粉2を充填し基板形状のLT結晶3を埋め込む概要図である。図1に示すように、混合粉2中に複数枚埋め込まれる上記LT結晶3間の距離をL(mm)とし、LT結晶3外周縁部と容器1内壁間との距離をL1(mm)とした。LとL1の比L1/Lが、0.4〜1.5の範囲内になるように配置することで上記「外周部黒化不良」を抑制することが可能となった。上記LT結晶3外周縁部と容器1内壁間の距離L1(mm)が1.5L(mm)を超えた場合、すなわちL1/Lが1.5を超えた場合、LT結晶3外周縁部と容器1内壁間に存在する混合粉2中のAl粉の寄与が大きくなり過ぎてしまい、上記「外周部黒化不良」の抑制が困難となる。他方、LT結晶3外周縁部と容器1内壁間の距離L1(mm)が0.4L(mm)未満となった場合、すなわちL1/Lが0.4未満となった場合、LT結晶3外周縁部と容器1内壁間に介在する混合粉(Al粉)2が少な過ぎるためLT結晶3外周部の黒化が弱くなり(すなわち、黒化処理が弱くなり)、LT基板の外周部が「白化」する問題を生ずる。更に、混合粉2を介して複数枚のLT結晶3を容器1内へ配置する際、および、容器1から処理後のLT基板を取り出す際、取り扱いが困難となる問題も生ずる。
尚、上記LT結晶外周縁部と容器内壁間の距離L1(mm)は、0.75L〜1.25L、すなわちL1/Lが0.75〜1.25の範囲がより好ましい。LT結晶間の距離L(mm)と上記LT結晶外周縁部と容器内壁間の距離L1(mm)を略同等とすることで、LT結晶間に存在する混合粉中のAl粉の寄与とLT結晶外周縁部と容器内壁間に存在する混合粉中のAl粉の寄与が略同等となり、「外周部黒化不良」を安定して抑制できるからである。また、基板の状態に加工された複数枚のLT結晶を等間隔で混合粉中に埋め込むLT結晶間の距離は、LT結晶間に充填される混合粉の均一性、および、生産性の観点から0.5mm〜10mmがよい。LT結晶間の距離が10mmを超えた場合、混合粉中に埋め込まれるLT結晶の枚数が減少するため生産性に劣り、また、上記LT結晶間距離が0.5mm未満の場合、混合粉中にLT結晶を埋め込む際、均一に混合粉を均せなくなるため条件のバラツキが発生する。このため、混合粉中に埋め込むLT結晶間の距離は、0.5mm〜10mmがよく、好ましくは1.5mm〜5mm、より好ましくは2〜3mmである。
次に、混合粉中におけるアルミニウム粉末の平均粒径をS(μm)とし、酸化アルミニウム粉末の平均粒径を0.9S(μm)〜1.2S(μm)の範囲に設定した場合、アルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末間に隙間空間が形成され易くなるため、加熱炉内に給排する不活性ガスは、一般的に市販されているアルゴンガス(酸素分圧は1×10-6atm程度)や窒素ガス等を適用できる。尚、加熱炉内に連続的に給排される不活性ガスの流量は、不活性ガスがアルゴンガスである場合、0.5〜5L/minであることが好ましい。
また、混合粉中におけるアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末の平均粒径が上記条件を満たさない場合(例えば、アルミニウム粉末の平均粒径が100μm、酸化アルミニウム粉末の平均粒径が約50μmの場合)、アルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末間に隙間空間が形成され難いため、加熱炉内に給排する不活性ガスの酸素分圧を1×10-10atm以下とすることが好ましい。尚、不活性ガス中の酸素分圧を1×10-10atm以下とするには低酸素濃度ガスを用いればよいが、低酸素濃度ガスの酸素分圧は1×10-12atm程度であるため、より酸素分圧を下げるには加熱炉の前段に脱酸素炉を設置する方法が挙げられる。
そして、本発明に係る製造方法は、加熱炉内を減圧あるいは真空にすることが無く、密閉容器や減圧処理装置を必要としないため、設備コストの削減も図れる。
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明するが、本発明の技術範囲は下記実施例によって何ら限定されるものではない。
[加熱炉の構成]
実施例1〜13と比較例1〜7で用いられる加熱炉には給気口と排気口が設けられている。また、加熱炉内に配置されるステンレス製容器にはアルミニウム粉末(Al粉)と酸化アルミニウム粉末(Al23粉)との混合粉が充填され、かつ、一般的に市販されているアルゴンガス(酸素分圧は1×10-6atm程度)が給気口を介し加熱炉内に連続的に供給されると共に、排気口を介してアルゴンガス(不活性ガス)が加熱炉外へ連続的に排気されて、加熱炉内は大気圧雰囲気下に調整されている。尚、加熱炉内に給排されるアルゴンガスの流量は2L/minに設定されている。
[LT結晶の育成とインゴットの加工等]
コングルエント組成の原料を用い、チョクラルスキー法により、直径4インチであるLT単結晶の育成を行った。育成雰囲気は、酸素濃度約3%の窒素−酸素混合ガスである。得られたLT結晶のインゴットは、透明な淡黄色であった。
LT結晶のインゴットに対し、熱歪み除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、外周研削、スライス、および研磨を行って42゜RY(Rotated Y axis)の基板の状態に加工されたLT結晶とした。
得られた42゜RYのLT結晶は、無色透明で、体積抵抗率は1×1015Ω・cm、キュリー温度は603℃であった。
[実施例1]
内径が110mmφのステンレス製円筒容器に充填された10重量%のアルミニウム粉末(Al粉)と90重量%の酸化アルミニウム粉末(Al23粉)との混合粉中に、基板の状態に加工された直径100mmφのLT結晶を5mmの間隔で25枚埋め込み、かつ、LT結晶が埋め込まれたステンレス製容器を上記加熱炉内に配置した後、給気口を介し市販されている上記アルゴンガス(酸素分圧は1×10-6atm程度)を加熱炉内に供給した。上記条件から、LT結晶間距離L(mm)は5.0mm、LT結晶外周縁部と容器内壁間距離L1(mm)は5.0mm、L1/L(比率)は1.00(表1参照)となる。
また、Al粉の平均粒径は100μm、Al23粉の平均粒径は95μmのものを用いた。尚、平均粒径は、各粉末をレーザー回折式粒度分布計で測定した値とした。
そして、2L/minの流量で上記アルゴンガスを大気圧雰囲気下の加熱炉内に連続的に給排し、580℃、20時間の熱処理(黒化処理)を行った。
熱処理を行った合計200枚のLT結晶について、処理後のLT基板の体積抵抗率を測定し、かつ、目視検査により色むら(還元むら)及び外周部黒化不良の発生率を調査した。尚、体積抵抗率は、JIS K−6911に準拠した3端子法により測定している。
熱処理(黒化処理)後におけるLT基板の体積抵抗率は4.3×108Ω・cm程度で(200枚の基板の平均値)、LT基板表面の色むら(還元むら)発生率は2.0%、LT基板外周部における「外周部黒化不良」の発生率は1.5%であった。
尚、上記「外周部黒化不良」の発生率が2%以下の場合は良好と判定し、表1に「良」と記載し、上記「外周部黒化不良」の発生率が2%を超えた場合またはLT基板外周部が「白化」した場合は不良と判定し、表1に「不良」と記載した。
[実施例2]
上記ステンレス製円筒容器の内径が108mmφである以外は、実施例1と同一条件によりLT結晶の熱処理(黒化処理)を行った。
尚、LT結晶外周縁部と容器内壁間距離L1(mm)は4.0mm、L1/L(比率)は0.80(表1参照)となる。
熱処理(黒化処理)後におけるLT基板の体積抵抗率は1×109(Ω・cm)以下で、かつ、LT基板表面の色むら(還元むら)発生率は2.0%程度(実施例1と同様)であり、LT基板外周部における「外周部黒化不良」の判定は良であった。
[実施例3〜実施例13、比較例1〜7]
ステンレス製円筒容器の内径(mm)、基板状LT結晶間の距離L(mm)、LT結晶外周縁部と容器内壁間距離L1(mm)、および、L1/L(比率)について、表1に記載した条件に変更した以外は、実施例1と同一条件で実施例3〜実施例13、および、比較例1〜7に係るLT結晶の熱処理(黒化処理)を行った。
尚、熱処理(黒化処理)後における実施例3〜実施例13に係るLT基板の体積抵抗率は1×109(Ω・cm)以下で、LT基板表面の色むら(還元むら)発生率も2.0%程度(実施例1と同様)であり、かつ、LT基板外周部における「外周部黒化不良」の判定は全て「良」であった。
他方、熱処理(黒化処理)後の比較例1〜7に係るLT基板の体積抵抗率は1×109(Ω・cm)以下で、かつ、LT基板表面の色むら(還元むら)発生率も2.0%程度(実施例1と同様)であったが、LT基板外周部における「外周部黒化不良」の判定は全て「不良」であった。
これ等の結果を表1に記載した。
Figure 2019202919
[確認]
(1)アルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に埋め込まれた基板状LT結晶間の距離L(mm)に対して基板状LT結晶外周縁部と容器内壁間距離L1(mm)が0.4L(mm)〜1.5L(mm)、すなわち、L1/L(比率)が0.4〜1.5の範囲となるようLT結晶を配置した実施例1〜13では「外周部黒化不良」の判定が全て「良」(「外周部黒化不良」の発生率が2%以下)であることが確認される。
(2)他方、上記混合粉中に埋め込まれた基板状LT結晶間の距離L(mm)に対して基板状LT結晶外周縁部と容器内壁間距離L1(mm)が0.4L(mm)〜1.5L(mm)の範囲外、すなわちL1/L(比率)が0.4〜1.5の範囲外となるようLT結晶を配置した比較例1〜7では「外周部黒化不良」の判定が全て「不良」(「外周部黒化不良」の発生率が2%を超え、または、LT基板外周部が「白化」している)であることが確認される。
[実施例14]
[加熱炉の構成]
実施例14で用いられる加熱炉には給気口と排気口が設けられ、かつ、加熱炉の前段には加熱炉の給気口に接続された脱酸素炉が設置されていると共に、脱酸素炉を構成する管状炉内にはリボン状のアルミニウム(脱酸素剤)が充填されている。また、加熱炉内に配置されるステンレス製円筒容器にはアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉が充填され、かつ、上記脱酸素炉から酸素分圧を調整したアルゴンガス(不活性ガス)が給気口を介し加熱炉内に連続的に供給されると共に、排気口を介してアルゴンガス(不活性ガス)が加熱炉外へ連続的に排気されて、加熱炉内は大気圧雰囲気下(アルゴンガスの封止条件下にはなっていない)に調整されている。尚、加熱炉内に給排されるアルゴンガスの流量は1L/minに設定されている。
[LT結晶の育成とインゴットの加工等]
実施例1と同様にして基板の状態に加工された下記LT結晶を製造した。
[黒化処理]
内径が110mmφのステンレス製円筒容器に充填された10重量%のアルミニウム粉末(Al粉)と90重量%の酸化アルミニウム粉末(Al23粉)との混合粉中に、基板の状態に加工された直径100mmφのLT結晶を5mmの間隔で25枚埋め込み、かつ、LT結晶が埋め込まれたステンレス製容器を加熱炉内に配置した後、給気口に接続された脱酸素炉からアルゴンガスを加熱炉内に供給した。
尚、アルゴンガスの酸素分圧が1×10-10atmとなるように脱酸素炉の流量を調整した。上記条件から、LT結晶間距離L(mm)は5.0mm、LT結晶外周縁部と容器内壁間距離L1(mm)は5.0mm、L1/L(比率)は1.00(実施例1と同一)となる。
また、Al粉の平均粒径は100μm、Al23粉の平均粒径は52μmのものを用いた。尚、平均粒径は、各粉末をレーザー回折式粒度分布計で測定した値とした。
そして、1L/minの流量で上記アルゴンガスを大気圧雰囲気下の加熱炉内に連続的に給排し、580℃、20時間の熱処理(黒化処理)を行った。
熱処理を行った合計200枚のLT結晶について、処理後のLT基板の体積抵抗率を測定し、かつ、色むらの発生率を調査した。尚、体積抵抗率は、JIS K−6911に準拠した3端子法により測定している。
熱処理(黒化処理)後におけるLT基板の体積抵抗率は0.7×109Ω・cm程度で(200枚の基板の平均値)、LT基板表面の色むら(還元むら)発生率は5.0%、LT基板外周部における「外周部黒化不良」の発生率は2%以下であった。
本発明によれば、基板表面の色むら(還元むら)と基板外周部の黒化不良が抑制され、かつ、電気的特性に優れたタンタル酸リチウム基板を製造できるため、表面弾性波素子(SAWフィルター)用の基板材料に用いられる産業上の利用可能性を有している。
1 ステンレス製容器
2 混合粉
3 基板形状のLT結晶

Claims (7)

  1. チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法であって、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に基板の状態に加工されたタンタル酸リチウム結晶(以下、「基板形状のタンタル酸リチウム結晶」とし、熱処理後の「タンタル酸リチウム基板」と区別する)を埋め込み、かつ、大気圧雰囲気下の加熱炉内に上記容器を配置した後、上記加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらタンタル酸リチウム結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してタンタル酸リチウム基板を製造する方法において、
    上記混合粉中に複数枚埋め込まれる基板形状のタンタル酸リチウム結晶間の距離をL(mm)とし、基板形状のタンタル酸リチウム結晶外周縁部と上記容器の内壁間との距離をL1(mm)とした場合、L1/Lが、0.4〜1.5の範囲を満たすことを特徴とするタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  2. 上記L1/Lが0.75〜1.25の範囲を満たすことを特徴とする請求項1に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  3. 上記混合粉中に複数枚埋め込まれる基板形状のタンタル酸リチウム結晶間の距離Lが、0.5mm〜10mmの範囲を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  4. 上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を20重量%以下に設定すると共に、上記アルミニウム粉末の平均粒径をS(μm)とした場合、酸化アルミニウム粉末の平均粒径が0.9S(μm)〜1.2S(μm)の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  5. 上記アルミニウム粉末の平均粒径Sが100μmであることを特徴とする請求項4に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  6. 上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を20重量%未満に設定すると共に、大気圧雰囲気下の加熱炉内に酸素分圧が1×10-10atm以下である不活性ガスを連続的に給排することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  7. 上記不活性ガスがアルゴンガスで、かつ、加熱炉内に連続的に給排されるアルゴンガスの流量が0.5〜5L/minであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
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