JP7271844B2 - タンタル酸リチウム基板の製造方法 - Google Patents

タンタル酸リチウム基板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法に係り、特に、色むら(還元むら)の無い電気的特性に優れたタンタル酸リチウム基板の製造方法に関するものである。
タンタル酸リチウム(以下、LTと略称することがある)結晶は、融点が約1650℃、キュリー温度が約600℃の強誘電体であり、この結晶を用いて製造されたタンタル酸リチウム基板は、主に、携帯電話の送受信用デバイスに用いられる表面弾性波(SAW)フィルター材料として適用されている。
そして、携帯電話の高周波化、各種電子機器の無線LANであるBluetooth(登録商標)(2.45GHz)の普及等により、2GHz前後の周波数領域のSAWフィルターが今後急増すると予測されている。
上記SAWフィルターは、LT等の圧電材料で構成された基板上に、Al、Cu等の金属薄膜で一対の櫛型電極が形成された構造となっており、この櫛型電極がデバイスの特性を左右する重要な役割を担っている。また、上記櫛型電極は、圧電材料上にスパッタリングにより金属薄膜を成膜した後、一対の櫛型パターンを残し、フォトリソグラフ技術により不要な部分をエッチングにより除去することで形成される。
また、上記LT結晶は、産業的には、主にチョクラルスキー法によって、酸素濃度が数%~20%程度の窒素-酸素混合ガス雰囲気の電気炉中で育成されており、通常、高融点のイリジウム坩堝が用いられ、育成されたLT結晶は電気炉内で所定の冷却速度で冷却された後、電気炉から取り出して得られている。
育成されたLT結晶は、無色透明若しくは透明度の高い淡黄色を呈している。育成後、結晶の熱応力による残留歪みを取り除くため、融点に近い均熱下で熱処理を行い、更に単一分極とするためのポーリング処理、すなわち、LT結晶を室温からキュリー温度以上の所定温度まで昇温し、結晶に電圧を印加し、電圧を印加したままキュリー温度以下の所定温度まで降温した後、電圧印加を停止して室温まで冷却する一連の処理を行う。ポーリング処理後、結晶の外径を整えるために外周研削されたLT結晶(インゴットと称する)は、スライス、ラップ、ポリッシュ工程等の機械加工を経て基板となる。最終的に得られた基板はほぼ無色透明で、その体積抵抗率はおよそ1014~1015Ω・cm程度である。
このような従来の方法で得られた基板では、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおいて、LT結晶の特性である焦電性のため、プロセスで受ける温度変化によって電荷が基板表面にチャージアップし、これにより生ずる放電が原因となって基板表面に形成した櫛型電極が破壊され、更には基板の割れ等を生じて素子製造プロセスでの歩留まり低下が起きている。
そこで、LT結晶の焦電性による不具合を解消するため、導電率を増大させる技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、アルゴン、水、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素およびこれ等の組合せから選択されたガスの還元雰囲気でLT基板を熱処理することによりその導電性を増大させる方法が提案され、特許文献2では、20Pa以下の減圧雰囲気でLT基板を熱処理することによりその導電性を増大させる方法が提案されている。また、特許文献3では、基板の状態に加工されたLT結晶をアルミニウム粉末(以下、Al粉と略称することがある)と酸化アルミニウム粉末(以下、Al23粉と略称することがある)との混合粉中に埋め込んで熱処理(還元処理)する方法が提案され、特許文献4では、特許文献3で使用されるAl粉の粒径(粉塵爆発の危険性を回避する観点からAl粉の平均粒径は100μm程度に設定されている)と、Al23粉の粒径(平均粒径は50μm程度である)比率に着目し、Al23粉の粒径をAl粉の粒径と同程度にして混合粉の通気性を向上させることにより、従来の条件よりも少ないAl粉の混合比で導電性を増大させる方法が提案されている。
尚、導電性を増大させたLT基板は、酸素空孔が導入されたことにより光吸収を起こすようになる。そして、観察されるLT基板の色調は、透過光では赤褐色系に、反射光では黒色に見えるため、導電性を増大させる還元処理は黒化処理とも呼ばれており、このような色調の変化現象を黒化と呼んでいる。
特開平11-92147号公報(特許請求の範囲、段落0027参照) 特開2004-152870号公報(請求項4、8、段落0014参照) 特許第4063191号公報(実施例3、8参照) 特願2018-041128号明細書(請求項1、段落0017参照)
ところで、1250℃程度と融点が比較的低いニオブ酸リチウム基板と異なり、融点が約1650℃と高いLT基板に対して特許文献1および特許文献2の方法を適用した場合、LT基板の導電性が十分に増大しないため、焦電性による不具合の改善効果は十分でないという問題があった。
また、近年、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおいての歩留まり向上のため、LT結晶の特性である体積抵抗率をより低くしたい要求があり、例えば、LT基板の体積抵抗率を1×109(Ω・cm)以下にしたい要求がある。
そして、基板の状態に加工されたLT結晶をAl粉とAl23粉との混合粉中に埋め込んで熱処理する特許文献3の方法では、Al粉の比率を高くすることで体積抵抗率1×109(Ω・cm)程度のLT基板が得られている(実施例3、8参照)。但し、混合粉中におけるAl粉の比率が高くなるに従い、直径1~5mm程度の黒い点(色むらすなわち還元むら)が発生し易くなり、Al粉比率の上昇に伴いその発生率が増加して生産性を悪化させてしまう問題が存在した。
このため、特許文献4では、上述したようにAl23粉の粒径をAl粉の粒径と同程度にして混合粉の通気性を向上させ、従来の条件よりも少ないAl粉の混合比で導電性を増大させることにより上記還元むらの発生を回避している。
しかしながら、Al23粉は、その製造工程上、細かい粒度別に品種を取り揃えることが困難で、かつ、Al23粉の製造ロット毎にAl23粉の粒径にばらつきが存在するため、特許文献4の方法を用いてLT基板を製造する場合、現実的には各Al23粉の品種やAl23粉の粒径毎に、Al粉の混合比率(Al粉の比率)の合わせ込み試験を行う等、経験則的な理解を必要とする新たな問題が存在した。
本発明はこの様な問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、例えば、Al23粉の製造ロット毎にAl23粉の粒径にばらつきが存在するような場合においても、Al粉の混合比率(Al粉の比率)の合わせ込み試験を事前に行うことなく所望とする体積抵抗率のLT基板を製造できる方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明者は、混合粉の主成分である各種Al23粉の通気性を計測しその数値化を試みると共に、Al粉の混合比率(Al粉の比率)の合わせ込み試験を省略できる方法について鋭意研究を行った。そして、Al23粉の通気性を計測する方法(装置)について調査、実験を繰り返したところ、例えば、セメントの比表面積や粉末度を計測するのに一般的に利用される「ブレーン空気透過装置」や「パウダーレオメータ」等の計測装置を用いることで簡便かつ安価に通気性の数値化が図れることを発見するに至った。例えば、「ブレーン空気透過装置」を用いた場合、計測装置における透過セルの内容積とAl23粉の軽装かさ密度の積から透過セルに投入されるAl23粉の量を算出し、算出された投入量を測り取った当該Al23粉を上記透過セルに投入し、かつ、一定の圧力でAl23粉を押し固めて評価試料を作成した後、該評価試料を空気が透過する時間(空気透過時間)を上記Al23粉の通気性とすることで、一定の作業条件に基づきAl23粉における通気性の数値化が図れることを見出した。本発明はこのような技術分析により完成されたものである。
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法であって、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に基板の状態に加工されたタンタル酸リチウム結晶を埋め込み、上記容器を加熱炉内に配置した後、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらタンタル酸リチウム結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してタンタル酸リチウム基板を製造する方法において、
適用する酸化アルミニウム粉末の通気性を計測し、かつ、上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を設定すると共に、計測された酸化アルミニウム粉末の通気性とアルミニウム粉末の混合比により所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を製造することを特徴とする。
次に、第2の発明は、
第1の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
計測された上記酸化アルミニウム粉末の通気性をX、アルミニウム粉末の上記混合比をYとした場合、タンタル酸リチウム基板の所望とする体積抵抗率Zが下記数式(1)を満たすことを特徴とする。
aX+bY+c=Z (1)
[但し、数式(1)のaは正の係数、bは負の係数、cは定数である。]
第3の発明は、
第2の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記酸化アルミニウム粉末の通気性Xは、ブレーン空気透過装置を使用して計測された酸化アルミニウム粉末の空気透過時間であることを特徴とする。
第4の発明は、
第2の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記酸化アルミニウム粉末の通気性Xは、パウダーレオメータを使用して計測された酸化アルミニウム粉末の圧力損出であることを特徴とする。
また、第5の発明は、
第2の発明または第3の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記酸化アルミニウム粉末の空気透過時間が5秒~15秒の範囲に設定されることを特徴とする。
また、第6の発明は、
第1の発明~第5の発明のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
アルミニウム粉末の上記混合比が1~30重量%の範囲に設定されることを特徴とするものである。
本発明方法は、適用する酸化アルミニウム粉末の通気性を計測し、かつ、アルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を設定すると共に、計測された酸化アルミニウム粉末の通気性とアルミニウム粉末の混合比により所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を製造することを特徴としている。
そして、本発明方法によれば、例えば、酸化アルミニウム粉末の製造ロット毎に酸化アルミニウム粉末の粒径にばらつきが存在するような場合においても、アルミニウム粉末の混合比率(アルミニウム粉末の比率)の合わせ込み試験を事前に行う必要がないため、所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を簡便に製造できる効果を有する。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
本発明は、容器内に充填されたAl粉とAl23粉との混合粉中に基板の状態に加工されたLT結晶を埋め込み、容器を加熱炉内に配置した後、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらLT結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してLT基板を製造する従来法を前提とし、Al23粉の粒径をAl粉の粒径と同程度にして従来の条件よりも少ないAl粉の混合比で導電性を増大させた特許文献4に係る発明の下記課題を解決するLT基板の製造方法に関するものである。
すなわち、特許文献4に係る発明では、Al23粉の粒径をAl粉の粒径(粉塵爆発の危険性を回避する観点から上述したように平均粒径は100μm程度に設定されている)と同程度に設定して還元むらの発生を防止するが、上記Al23粉は、その製造工程上、細かい粒度別に品種を取り揃えることが困難で、Al23粉の製造ロット毎にAl23粉の粒径にばらつきが存在するため、特許文献4に記載の方法を用いてLT基板を製造する場合、現実的には適用するAl23粉の品種やAl23粉の粒径毎に、Al粉の混合比率(Al粉の比率)の合わせ込み試験が必要となる課題が存在した。
本発明は、使用するAl23粉の粒径にばらつきが存在するような場合でも、Al粉の混合比率(Al粉の比率)の合わせ込み試験を事前に行う必要が無く、所望とする体積抵抗率のLT基板を製造することができる方法に関する。
すなわち、本発明は、チョクラルスキー法で育成したLT結晶を用いてLT基板を製造する方法であって、容器内に充填されたAl粉とAl23粉との混合粉中に基板の状態に加工されたLT結晶を埋め込み、上記容器を加熱炉内に配置した後、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらLT結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してLT基板を製造する方法において、適用するAl23粉の通気性を計測し、混合粉中におけるAl粉の比率を設定すると共に、計測されたAl23粉の通気性とAl粉の混合比により所望とする体積抵抗率のLT基板を製造することを特徴とするものである。
Al23粉の通気性は、例えば、セメントの比表面積や粉末度を計測するのに一般的に利用される「ブレーン空気透過装置」を用いることで簡便かつ安価に通気性の数値化(空気透過時間として評価)が図れ、あるいは、粉体の流動性を評価する分析装置(例えば「パウダーレオメータFT4」)を用いることができる。Al23粉からなるセルに一定圧力の空気を流し、その圧力損失をAl23粉の通気性として評価することもできる。
[ブレーン空気透過装置]
以下、「ブレーン空気透過装置」を用いてAl23粉の通気性を計測する方法について説明する。まず、計測装置(ブレーン空気透過装置)における透過セルの内容積とAl23粉の軽装かさ密度の積から透過セルに投入されるAl23粉の重量を算出する。上記軽装かさ密度は「JIS9301-2-3」の方法で測定することが好ましい。
算出された投入量を測り取った当該Al23粉を上記透過セルに投入し、かつ、一定の圧力でAl23粉を押し固めて評価試料を作成した後、該評価試料を空気が透過する時間(空気透過時間)を上記Al23粉の通気性として計測することができる。
そして、空気が透過する時間(空気透過時間)を、Al23粉の通気性を表す数値とすることによりAl23粉の通気性を定量的に評価することが可能となる。
尚、「ブレーン空気透過装置」を用いてAl23粉の通気性を計測する場合、計測されるAl23粉の空気透過時間は5~15秒の範囲に設定するのが好ましい。
[Al粉の混合比率(Al粉の比率)]
本発明に係るLT基板の製造方法において、基板の状態に加工されたLT結晶をAl粉とAl23粉との混合粉中に埋め込んで処理する。温度は、350℃~LT結晶のキュリー温度未満(約600℃未満)である。Al粉とAl23粉の混合粉は、処理後におけるLT基板の体積抵抗率に影響を与える。Al粉の比率を高くすることで、Alの酸化反応が促進されて体積抵抗率を小さくすることができる。例えば、体積抵抗率を1×109(Ω・cm)以下にする場合、特許文献3に係る方法では混合粉中におけるAl粉の比率が20重量%を超える量に設定する必要があった。しかし、混合粉中におけるAl粉の比率が20重量%を超えた場合、直径1~5mm程度の上述した黒い点(色むら)の発生が確認され、この色むらは、Al粉の比率に影響を受け、Al粉の比率が上昇するに従い色むらの発生率は高くなる。本発明に係るLT基板の製造方法において、上記色むらの発生を確実に抑制するにはAl粉の比率を20重量%以下にし、好ましくは15%重量以下、より好ましくは10重量%以下にするとよい。
[関係式]
本発明において、計測されたAl23粉の通気性をX(ブレーン空気透過装置を使用して計測された場合は「空気透過時間」、パウダーレオメータを使用して計測された場合は「圧力損失」)、Al粉の混合比(Al粉の比率)をYとした場合、LT基板の所望とする体積抵抗率Zを得ることが可能となる。
後述する実施例1~6において、Al23粉の空気透過時間と混合粉中におけるAl粉の比率、および、熱処理後に得られるLT基板の体積抵抗率の関係を調査したところ、一定の関係式で表されることが確認されるに至った。
すなわち、計測されたAl23粉の空気透過時間をX、混合粉中におけるAl粉の比率をY、熱処理後に得られるLT基板の体積抵抗率をZとした場合、
aX+bY+c=Z
で表されることが確認された。
尚、a、bは係数であり、還元処理の条件(例えば、加熱処理の温度や時間、給排するガスの流量、投入するLT結晶の厚み等)に左右されるものであり、Al23粉の品種には依存しない。
そして、Al23粉の空気透過時間(X)と体積抵抗率(Z)に着目すると、通気性が良いほどLT結晶から放出される酸素の拡散が速くなるため、空気透過時間(X)が小さいほど体積抵抗率(Z)は小さくなる。すなわち、Al23粉の空気透過時間(X)と体積抵抗率(Z)は正の相関であり、係数aは正の値となる。
他方、混合粉中におけるAl粉の比率(Y)と体積抵抗率(Z)に着目すると、Al粉の混合比が多いほどより強い還元雰囲気が形成されるため、Al粉の量が多いほど体積抵抗率は小さくなる。すなわち、混合粉中におけるAl粉の比率(Y)と体積抵抗率(Z)は負の相関であり、係数bは負の値になる。
そこで、計測されたAl23粉の空気透過時間をX、混合粉中におけるAl粉の比率をYとした場合、熱処理後に得られるLT基板の体積抵抗率Zは、
aX+bY+c=Z (1)
[但し、数式(1)のaは正の係数、bは負の係数、cは定数である。]
で表される。
例えば、実施例1~6において、得られたデータを重回帰分析し、数式(1)における係数a、b、cの算出を行った結果、次式の通りとなった。
8.5×107×X-1.8×109×Y+1.8×108=Z
このとき、Al粉の比率を15重量%以下若しくは10重量%以下とする最適条件(還元むらの発生を防止する条件)を得るには、上記数式のYに「0.15=15重量%」と「0.10=10重量%」を代入することによって、最適なAl23粉(所望とする体積抵抗率Zを得るためのAl23粉の空気透過時間X)を選定することが可能となる。
[不活性ガス等]
加熱炉内に給排する不活性ガスは、一般的に市販されている低酸素濃度のアルゴンガス(酸素分圧は1×10-6atm程度)や窒素ガス等を適用できる。
尚、加熱炉内に連続的に給排される不活性ガスの流量は、不活性ガスがアルゴンガスである場合、0.5~5L/minであることが好ましい。
そして、本発明に係る製造方法は、加熱炉内を減圧あるいは真空にすることが無く、密閉容器や減圧処理装置を必要としないため、設備コストの削減も図れる。
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明の技術範囲は下記実施例によって何ら限定されるものではない。
[加熱炉の構成]
実施例で用いられる加熱炉には給気口と排気口が設けられている。また、加熱炉内に配置されるステンレス製容器にはAl粉とAl23粉との混合粉が充填され、かつ、一般的に市販されているアルゴンガス(酸素分圧は1×10-6atm程度)が給気口を介し加熱炉内に連続的に供給されると共に、排気口を介してアルゴンガス(不活性ガス)が加熱炉外へ連続的に排気されて、加熱炉内は大気圧雰囲気下(アルゴンガスの封止条件下にはなっていない)に調整されている。尚、加熱炉内に給排されるアルゴンガスの流量は2L/minに設定されている。
[LT結晶の育成とインゴットの加工等]
コングルエント組成の原料を用い、チョクラルスキー法により、直径4インチであるLT結晶の育成を行った。育成雰囲気は、酸素濃度約3%の窒素-酸素混合ガスである。得られたLT結晶のインゴットは、透明な淡黄色であった。
LT結晶のインゴットに対し、熱歪み除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、外周研削、スライス、および研磨を行って42゜RY(Rotated Y axis)の基板の状態に加工されたLT結晶とした。
得られた42゜RYのLT結晶は、無色透明で、体積抵抗率は1×1015Ω・cm、キュリー温度は603℃であった。
[Al23粉の通気性評価]
実施例では、平均粒径が50μmのAl23粉(A)と平均粒径が95μmのAl23粉(B)を用いた。尚、平均粒径は、各粉末をレーザー回折式粒度分布計で測定した値とした。
そして、各Al23粉の通気性をパウダーレオメータ(フリーマンテクノロジー社製:パウダーレオメータFT4)とブレーン式空気透過装置(関西機器製作所製:KC-3-A)を用いて計測し、Al23粉の通気性を評価した。
(1)パウダーレオメータを用いた場合
パウダーレオメータのシリンダーにAl23粉を詰め、タッピングとスクリュー撹拌により粉体の詰まり具合を調整した。このときの詰まり具合は、実際混合粉中に基板の状態に加工されたLT結晶を埋め込み熱処理するときにポッド内に投入されたときの混合粉のかさ密度と同程度になるように調整した。
その後、粉体を通気ピストンで圧縮しながら一定の通気速度で粉体中に空気を送り込み、粉体層の圧力損失を計測した。
計測の結果、垂直圧力(粉体に送り込む空気の圧力)が1kPaのとき、圧力損失は、Al23粉(A)が2.73mBar、Al23粉(B)が1.18mBarであった。
(2)ブレーン式空気透過装置を用いた場合
各Al23粉の軽装かさ密度は、JIS9301-2-3に記載の方法で測定した。
ブレーン空気透過装置における透過セルの内容積と、Al23粉の上記軽装かさ密度の積から透過セルに投入するAl23粉の重量を決定した。
Al23粉(A)の場合、軽装かさ密度は0.9026g/cm3であった。透過セルの内容積は6.241cm3であったため、投入重量は5.63gとした。更に、Al23粉を透過セルに投入した後、プッシュプルゲージを用いて100Nの圧力で押し固め、通気性の評価試料とした。尚、上記圧力は、実際混合粉中に基板の状態に加工されたLT結晶を埋め込み熱処理するときにポッド内に投入されたときの混合粉の圧力と同等とした。
計測の結果、空気透過時間は、Al23粉(A)が12.4秒で、Al23粉(B)が5.3秒であり、通気性は平均粒径が大きいAl23粉(B)の方が良い結果となった。
(3)通気性評価手法の確認
パウダーレオメータで計測した「圧力損失」とブレーン空気透過装置で計測した「空気透過時間」との関係を確認した。
「圧力損失」に着目すると、Al23粉(A)は2.73mBar、Al23粉(B)は1.18mBarであり、その差は2.3倍であった。
「空気透過時間」に着目すると、Al23粉(A)は12.4秒、Al23粉(B)は5.3秒であり、その差は2.3倍であった。
このことから、「圧力損失」と「空気透過時間」は1:1の比例関係にあると考えられ、関係式の算出に当たっては「圧力損失」と「空気透過時間」を同様に扱ってよいと考えられる。
尚、下記実施例では、装置がより安価でかつ計測が簡単な「ブレーン式空気透過装置」の計測値を用いている。
[実施例1]
ステンレス製容器に充填された5.0重量%のAl粉と95重量%のAl23粉(A)との混合粉中に、基板の状態に加工されたLT結晶を埋め込み、かつ、LT結晶が埋め込まれたステンレス製容器を上記加熱炉内に配置した後、給気口を介し上記アルゴンガスを加熱炉内に供給した。
尚、上記Al粉の平均粒径は100μmであった。また、平均粒径は各粉末をレーザー回折式粒度分布計で測定した値とした。
そして、2L/minの流量でアルゴンガスを大気圧雰囲気下の加熱炉内に連続的に給排し、580℃、20時間の熱処理(黒化処理)を行った。
基板の状態に加工された合計200枚のLT結晶について同様の熱処理を行い、処理後のLT基板の体積抵抗率を測定し、かつ、色むらの発生率を調査した。尚、体積抵抗率は、JIS K-6911に準拠した3端子法により測定している。
熱処理(黒化処理)後におけるLT基板の体積抵抗率は1.2×109Ω・cm程度であった。また、色むら(還元むら)は確認されなかった。
測定結果を表1に記載する。
[実施例2~3]
Al粉の混合比が15.0重量%(実施例2)および30.0重量%(実施例3)に変更された以外は実施例1と同一の条件で熱処理を行い、処理後のLT基板の体積抵抗率を測定し、かつ、色むらの発生率を調査した。
熱処理(黒化処理)後における実施例2に係るLT基板の体積抵抗率は9.3×108Ω・cm、実施例3に係るLT基板の体積抵抗率は6.8×108Ω・cm程度であった。また、色むら(還元むら)に関し、実施例2は確認されなかったが、実施例3では僅かに確認された。
測定結果を表1に記載する。
[実施例4~6]
Al23粉(A)に代えてAl23粉(B)が適用された以外は実施例1~3と同一の条件で熱処理を行い、処理後のLT基板の体積抵抗率を測定し、かつ、色むらの発生率を調査した。すなわち、Al粉の混合比は、5.0重量%(実施例4)、15.0重量%(実施例5)および30.0重量%(実施例6)である。
熱処理(黒化処理)後における実施例4に係るLT基板の体積抵抗率は5.2×108Ω・cm、実施例5に係るLT基板の体積抵抗率は3.6×108Ω・cm、および、実施例6に係るLT基板の体積抵抗率は9.0×107Ω・cm程度であった。また、色むら(還元むら)に関し、実施例4、5は確認されなかったが、実施例6では僅かに確認された。
測定結果を表1に記載する。
[関係式の作成]
aX+bY+c=Z (1)
実施例1~6の実測データを重回帰分析し、上記数式(1)の係数a、b、cの算出を行った結果、次式の通りとなった。
8.5×107×X-1.8×109×Y+1.8×108=Z
[計算値と実測値]
上記関係式の精度を確認するため、Al粉の混合比を変えた複数の条件で熱処理を行った後に体積抵抗率を測定し、上記関係式より得られた計算値と実測値の比較を行った。
実施例1~6に係る体積抵抗率の計算値と実測値を表1に記載する。
[実施例7~11]
Al23粉(A)を適用し、かつ、Al粉の混合比が7.5重量%(実施例7)、10.0重量%(実施例8)、12.5重量%(実施例9)、20.0重量%(実施例10)、および、25.0重量%(実施例11)とした以外は実施例1と同一の条件で熱処理を行い、処理後のLT基板の体積抵抗率を測定し、かつ、色むらの発生率を調査した。
熱処理(黒化処理)後におけるLT基板の体積抵抗率は、実施例7が1.1×109Ω・cm、実施例8が1.0×109Ω・cm、実施例9が9.5×108Ω・cm、実施例10が8.1×108Ω・cm、実施例11が7.5×108Ω・cm程度であった。また、色むら(還元むら)に関し、実施例7~10では確認されなかったが、実施例11では僅かに確認された。
測定結果を表1に記載すると共に、実施例7~11に係る体積抵抗率の計算値と実測値も表1に記載する。
[実施例12~16]
Al23粉(B)を適用し、かつ、Al粉の混合比が7.5重量%(実施例12)、10.0重量%(実施例13)、12.5重量%(実施例14)、20.0重量%(実施例15)、および、25.0重量%(実施例16)とした以外は実施例1と同一の条件で熱処理を行い、処理後のLT基板の体積抵抗率を測定し、かつ、色むらの発生率を調査した。
熱処理(黒化処理)後における各LT基板の体積抵抗率は、実施例12が4.7×108Ω・cm、実施例13が4.2×108Ω・cm、実施例14が4.0×108Ω・cm、実施例15が3.0×108Ω・cm、実施例16が1.9×108Ω・cm程度であった。また、色むら(還元むら)に関し、実施例12~15では確認されなかったが、実施例16では僅かに確認された。
測定結果を表1に記載すると共に、実施例12~16に係る体積抵抗率の計算値と実測値も表1に記載する。
Figure 0007271844000001
[確 認]
計算値と実測値のばらつきを求めるため、実測値を計算値で割り百分率で表した。ばらつきの計算結果を表1に記載した。
実施例1~16におけるいずれの条件共、ばらつき値は±15%程度であることが確認された。
このことから、Al23粉の通気性X、Al粉の混合比Y、および、体積抵抗率Zの関係を示す下記関係式を用いることにより、Al23粉の製造ロット毎にAl23粉の粒径にばらつきが存在するような場合においても、Al粉の混合比率(Al粉の比率)の合わせ込み試験を事前に行うことなく、短時間に熱処理の条件設定が可能になることが確認された。
尚、パウダーレオメータで計測した「圧力損失」を適用する場合、ブレーン空気透過装置で計測した「空気透過時間」が「圧力損失」の4.5倍になるため、下記関係式のXに「圧力損失」×4.5を代入して条件設定を行うことを要する。
すなわち、Al23粉(A)の「圧力損失」は2.73mBar、Al23粉(A)の「空気透過時間」は12.4秒であり、「空気透過時間」/「圧力損失」=4.5、
Al23粉(B)の「圧力損失」は1.18mBar、Al23粉(B)の「空気透過時間」は5.3秒であり、「空気透過時間」/「圧力損失」=4.5の関係を有する。
8.5×107×X-1.8×109×Y+1.8×108=Z
本発明方法によれば、酸化アルミニウム粉末の製造ロット毎に酸化アルミニウム粉末の粒径にばらつきが存在するような場合においても、アルミニウム粉末の混合比率の合わせ込み試験を事前に行うことなく所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を簡便に製造できるため、表面弾性波素子(SAWフィルター)用の基板材料に用いられる産業上の利用可能性を有している。

Claims (6)

  1. チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法であって、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に基板の状態に加工されたタンタル酸リチウム結晶を埋め込み、上記容器を加熱炉内に配置した後、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらタンタル酸リチウム結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してタンタル酸リチウム基板を製造する方法において、
    適用する酸化アルミニウム粉末の通気性を計測し、かつ、上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を設定すると共に、計測された酸化アルミニウム粉末の通気性とアルミニウム粉末の混合比により所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を製造することを特徴とするタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  2. 計測された上記酸化アルミニウム粉末の通気性をX、アルミニウム粉末の上記混合比をYとした場合、タンタル酸リチウム基板の所望とする体積抵抗率Zが下記数式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
    aX+bY+c=Z (1)
    [但し、数式(1)のaは正の係数、bは負の係数、cは定数である。]
  3. 上記酸化アルミニウム粉末の通気性Xは、ブレーン空気透過装置を使用して計測された酸化アルミニウム粉末の空気透過時間であることを特徴とする請求項2に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  4. 上記酸化アルミニウム粉末の通気性Xは、パウダーレオメータを使用して計測された酸化アルミニウム粉末の圧力損出であることを特徴とする請求項2に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  5. 上記酸化アルミニウム粉末の空気透過時間が5秒~15秒の範囲に設定されることを特徴とする請求項2または3に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  6. アルミニウム粉末の上記混合比が1~30重量%の範囲に設定されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
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