JP7319592B2 - タンタル酸リチウム基板の製造方法 - Google Patents

タンタル酸リチウム基板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法に係り、特に、色むら(還元むら)の無い電気的特性に優れたタンタル酸リチウム基板の製造方法に関するものである。
タンタル酸リチウム(以下、LTと略称することがある)結晶は、融点が約1650℃、キュリー温度が約600℃の強誘電体であり、この結晶を用いて製造されたタンタル酸リチウム基板は、主に、携帯電話の送受信用デバイスに用いられる表面弾性波(SAW)フィルター材料として適用されている。
そして、携帯電話の高周波化、各種電子機器の無線LANであるBluetooth(登録商標)(2.45GHz)の普及等により、2GHz前後の周波数領域のSAWフィルターが今後急増すると予測されている。
上記SAWフィルターは、LT等の圧電材料で構成された基板上に、Al、Cu等の金属薄膜で一対の櫛型電極が形成された構造となっており、この櫛型電極がデバイスの特性を左右する重要な役割を担っている。また、上記櫛型電極は、圧電材料上にスパッタリングにより金属薄膜を成膜した後、一対の櫛型パターンを残し、フォトリソグラフ技術により不要な部分をエッチングにより除去することで形成される。
また、上記LT結晶は、産業的には、主にチョクラルスキー法によって、酸素濃度が数%~20%程度の窒素-酸素混合ガス雰囲気の電気炉中で育成されており、通常、高融点のイリジウム坩堝が用いられ、育成されたLT結晶は電気炉内で所定の冷却速度で冷却された後、電気炉から取り出して得られている。
育成されたLT結晶は、無色透明若しくは透明度の高い淡黄色を呈している。育成後、結晶の熱応力による残留歪みを取り除くため、融点に近い均熱下で熱処理を行い、更に単一分極とするためのポーリング処理、すなわち、LT結晶を室温からキュリー温度以上の所定温度まで昇温し、結晶に電圧を印加し、電圧を印加したままキュリー温度以下の所定温度まで降温した後、電圧印加を停止して室温まで冷却する一連の処理を行う。ポーリング処理後、結晶の外径を整えるために外周研削されたLT結晶(インゴットと称する)は、スライス、ラップ、ポリッシュ工程等の機械加工を経て基板となる。最終的に得られた基板はほぼ無色透明で、その体積抵抗率はおよそ1014~1015Ω・cm程度である。
このような従来の方法で得られた基板では、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおいて、LT結晶の特性である焦電性のため、プロセスで受ける温度変化によって電荷が基板表面にチャージアップし、これにより生ずる放電が原因となって基板表面に形成した櫛型電極が破壊され、更には基板の割れ等を生じて素子製造プロセスでの歩留まり低下が起きている。
そこで、LT結晶の焦電性による不具合を解消するため、導電率を増大させる技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、アルゴン、水、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素およびこれ等の組合せから選択されたガスの還元雰囲気でLT基板を熱処理することによりその導電性を増大させる方法が提案され、特許文献2では、20Pa以下の減圧雰囲気でLT基板を熱処理することによりその導電性を増大させる方法が提案されている。また、特許文献3では、基板の状態に加工されたLT結晶をアルミニウム粉末(以下、Al粉と略称することがある)と酸化アルミニウム粉末(以下、Al23粉と略称することがある)との混合粉中に埋め込んで熱処理(還元処理)する方法が提案され、特許文献4では、特許文献3で使用されるAl粉の粒径(粉塵爆発の危険性を回避する観点からAl粉の平均粒径は100μm程度に設定されている)と、Al23粉の粒径(平均粒径は50μm程度である)比率に着目し、Al23粉の粒径をAl粉の粒径と同程度にして混合粉の通気性を向上させることにより、従来の条件よりも少ないAl粉の混合比(Al粉混合比)で導電性を増大させる方法が提案されている。
尚、導電性を増大させたLT基板は、酸素空孔が導入されたことにより光吸収を起こすようになる。そして、観察されるLT基板の色調は、透過光では赤褐色系に、反射光では黒色に見えるため、導電性を増大させる還元処理は黒化処理とも呼ばれており、このような色調の変化現象を黒化と呼んでいる。
特開平11-92147号公報(特許請求の範囲、段落0027参照) 特開2004-152870号公報(請求項4、8、段落0014参照) 特許第4063191号公報(実施例3、8参照) 特開2019-156655号公報(請求項1、段落0017参照)
ところで、1250℃程度と融点が比較的低いニオブ酸リチウム基板と異なり、融点が約1650℃と高いLT基板に対して特許文献1および特許文献2の方法を適用した場合、LT基板の導電性が十分に増大しないため、焦電性による不具合の改善効果は十分でないという問題があった。
また、近年、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおいての歩留まり向上のため、LT結晶の特性である体積抵抗率をより低くしたい要求があり、例えば、LT基板の体積抵抗率を1×109(Ω・cm)以下にしたい要求がある。
そして、基板の状態に加工されたLT結晶をAl粉とAl23粉との混合粉中に埋め込んで熱処理する特許文献3の方法では、Al粉混合比を高くすることにより体積抵抗率1×109(Ω・cm)程度のLT基板が得られている(実施例3、8参照)。但し、上記Al粉混合比が高くなるに従い、直径1~5mm程度の黒い点(色むら、すなわち還元むら)が発生し易くなり、Al粉混合比の上昇に伴いその発生率が増加して生産性を悪化させてしまう問題が存在した。
このため、特許文献4では、上述したようにAl23粉の粒径をAl粉の粒径と同程度にして混合粉の通気性を向上させ、従来の条件よりも少ないAl粉混合比により導電性を増大させて上記還元むらの発生を回避している。
そして、適用するAl23粉の製造メーカーが同一である場合には、特許文献4に記載された方法により混合粉の通気性が向上し、従来の条件よりも少ないAl粉混合比でLT基板の導電性が増大する効果は確認されている。
しかし、特許文献4に記載された方法は、適用するAl23粉の製造メーカーが異なると効果に差異を生ずる場合があった。例えば、Al23粉の粒径をAl粉の粒径と同程度に設定し、かつ、Al粉混合比も同一に設定してLT結晶の熱処理(還元処理)を行った場合、適用するAl23粉の製造メーカーが異なるとLT基板の体積抵抗率に差異を生ずることが判った。
このため、製造メーカーが異なるAl23粉を用いて特許文献4に記載された方法により熱処理(還元処理)を行う場合、Al23粉の品種やAl23粉の粒径毎に、所望とする体積抵抗率に合わせたAl粉混合比の合わせ込み試験を必要とする問題が存在した。
本発明はこの様な問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、適用するAl23粉の製造メーカーが異なる場合においても、Al粉混合比の合わせ込み試験を行うことなく所望とする体積抵抗率のLT基板を製造できる方法を提供することにある。
そこで、本発明者が、製造メーカーが異なる場合にLT基板の体積抵抗率に差異を生ずる原因について分析を行った結果、製造メーカー毎にAl23粉の通気性やAl23粉に含まれる水分量に違いがあり、熱処理(還元処理)後の体積抵抗率に差異が生じていることを発見するに至った。更に、適用するAl23粉の通気性とAl23粉の水蒸気ガス放出量を計測し、体積抵抗率との関係について鋭意研究を行ったところ、これ等三者(すなわち、Al23粉の通気性、Al23粉の水蒸気ガス放出量、および、LT基板の体積抵抗率)に相関があることを見出すに至った。本発明はこのような技術的分析と発見により完成されたものである。
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法であって、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に基板の状態に加工されたタンタル酸リチウム結晶を埋め込み、上記容器を加熱炉内に配置した後、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらタンタル酸リチウム結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してタンタル酸リチウム基板を製造する方法において、
適用する酸化アルミニウム粉末の通気性と水蒸気ガス放出量を計測し、かつ、上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を設定すると共に、計測された酸化アルミニウム粉末の通気性と水蒸気ガス放出量およびアルミニウム粉末の混合比により所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を製造することを特徴とする。
次に、第2の発明は、
第1の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
計測された上記酸化アルミニウム粉末の通気性をX、酸化アルミニウム粉の水蒸気ガス放出量をYとした場合、タンタル酸リチウム基板の所望とする体積抵抗率Zが下記数式(1)を満たすことを特徴とする。
aX+bY+cY2+d=Z (1)
[但し、数式(1)のaは正の係数、bは負の係数、cは正の係数、dは定数である。]
第3の発明は、
第2の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記酸化アルミニウム粉末の通気性Xは、ブレーン空気透過装置を使用して計測された酸化アルミニウム粉末の空気透過時間であることを特徴とする。
第4の発明は、
第2の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記酸化アルミニウム粉末の通気性Xは、パウダーレオメータを使用して計測された酸化アルミニウム粉末の圧力損失であることを特徴とする。
第5の発明は、
第2の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記酸化アルミニウム粉末の水蒸気ガス放出量Yは、カールフィッシャー滴定法により計測された水分量であることを特徴とする。
また、第6の発明は、
第2の発明または第3の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記酸化アルミニウム粉末の空気透過時間が5秒~15秒の範囲に設定されることを特徴とする。
第7の発明は、
第2の発明または第5の発明に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
上記酸化アルミニウム粉末の水分量が0.0~0.4重量%の範囲に設定されることを特徴とする。
更に、第8の発明は、
第1の発明~第7の発明のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法において、
アルミニウム粉末の上記混合比が1~30重量%の範囲に設定されることを特徴とする。
本発明方法は、適用する酸化アルミニウム粉末の通気性と水蒸気ガス放出量を計測し、かつ、アルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中におけるアルミニウム粉末の混合比を設定すると共に、計測された酸化アルミニウム粉末の通気性と水蒸気ガス放出量およびアルミニウム粉末の混合比により所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を製造することを特徴としている。
そして、本発明方法によれば、例えば、適用する酸化アルミニウム粉末の製造メーカーが異なる場合でも、アルミニウム粉末混合比の合わせ込み試験を行う必要がないため、所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を簡便に製造できる効果を有する。
実施例1~12のタンタル酸リチウム基板に係る体積抵抗率の実測データと重回帰分析からの計算値との関係を示すグラフ図。 実施例1~12で適用された酸化アルミニウム粉末の水分量(実測データ)と数式(1)における酸化アルミニウム粉末の水蒸気ガス放出量に係る「bY+cY2」項の計算結果との関係を示すグラフ図。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
本発明は、容器内に充填されたAl粉とAl23粉との混合粉中に基板の状態に加工されたLT結晶を埋め込み、容器を加熱炉内に配置した後、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらLT結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してLT基板を製造する従来法を前提とし、Al23粉の粒径をAl粉の粒径と同程度にして従来の条件よりも少ないAl粉の混合比(Al粉混合比)で導電性を増大させた特許文献4に記載された方法の下記課題を解決するLT基板の製造方法に関するものである。
すなわち、特許文献4に記載された方法では、Al23粉の粒径をAl粉の粒径(粉塵爆発の危険性を回避する観点から上述したように平均粒径は100μm程度に設定されている)と同程度に設定して還元むらの発生を防止するが、適用するAl23粉の製造メーカーが異なると効果に差異を生ずる場合があるため、特許文献4に記載された方法によりLT基板を製造する場合、Al23粉の品種やAl23粉の粒径毎に、所望とする体積抵抗率に合わせたAl粉混合比の合わせ込み試験を必要とする課題が存在した。
本発明は、適用するAl23粉の製造メーカーが異なる場合においても、Al粉混合比の合わせ込み試験を事前に行う必要がなく、所望とする体積抵抗率のLT基板を製造することができる方法に関する。
すなわち、本発明は、チョクラルスキー法で育成したLT結晶を用いてLT基板を製造する方法であって、容器内に充填されたAl粉とAl23粉との混合粉中に基板の状態に加工されたLT結晶を埋め込み、上記容器を加熱炉内に配置した後、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらLT結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してLT基板を製造する方法において、適用するAl23粉の通気性と水蒸気ガス放出量を計測し、かつ、上記混合粉中におけるAl粉の混合比を設定すると共に、計測されたAl23粉の通気性と水蒸気ガス放出量およびAl粉混合比により所望とする体積抵抗率のLT基板を製造することを特徴とするものである。
Al23粉の通気性は、例えば、セメントの比表面積や粉末度を計測するのに一般的に利用される「ブレーン空気透過装置」を用いることで簡便かつ安価に通気性の数値化(空気透過時間として評価)が図れ、あるいは、粉体の流動性を評価する分析装置(例えば「パウダーレオメータFT4」)を用い、Al23粉からなるセルに一定圧力の空気を流しその圧力損失をAl23粉の通気性として評価することもできる。
[ブレーン空気透過装置]
以下、「ブレーン空気透過装置」を用いてAl23粉の通気性を計測する方法について説明する。まず、計測装置(ブレーン空気透過装置)における透過セルの内容積とAl23粉の軽装かさ密度の積から透過セルに投入されるAl23粉の重量を算出する。上記軽装かさ密度は「JIS9301-2-3」の方法で測定することが好ましい。
算出された投入量を測り取った当該Al23粉を上記透過セルに投入し、かつ、一定の圧力でAl23粉を押し固めて評価試料を作成した後、該評価試料を空気が透過する時間(空気透過時間)を上記Al23粉の通気性として計測することができる。
そして、空気が透過する時間(空気透過時間)を、Al23粉の通気性を表す数値とすることによりAl23粉の通気性を定量的に評価することが可能となる。
尚、「ブレーン空気透過装置」を用いてAl23粉の通気性を計測する場合、計測されるAl23粉の空気透過時間は5~15秒の範囲に設定するのが好ましい。
[カールフィッシャー法]
次に、Al23粉の水蒸気ガス放出量は、例えば「カールフィッシャー法」を用いて測定することができる。以下、「カールフィッシャー法」について説明する。
カールフィッシャー法は、試料中に含まれる微量な水分の量を測定する手法の一つである。正確性の高さ、誤差の少なさ、1ppm程度の非常に少ない水分量を測定できる点が特徴である。
カールフィッシャー法による水分測定法は、滴定セル内でヨウ化物イオン・二酸化硫黄・アルコールを主成分とする電解液[カールフィッシャー試薬]が、メタノールの存在下で水と特異的に反応することを利用して物質中の水分を定量するものである。
本発明においては、300℃でAl23粉を加熱し、そのときに放出される水蒸気量をカールフィッシャー法により測定し、用いたAl23粉試料の重量から水分量を重量百分率で算出している。
尚、「カールフィッシャー法」を用いてAl23粉の水蒸気ガス放出量を計測する場合、計測されるAl23粉の水分量は0.0~0.4重量%の範囲に設定するのが好ましい。
[Al粉の混合比(Al粉混合比)]
本発明に係るLT基板の製造方法において、基板の状態に加工されたLT結晶をAl粉とAl23粉との混合粉中に埋め込んで処理する。温度は、350℃~LT結晶のキュリー温度未満(約600℃未満)である。Al粉とAl23粉の混合粉は、処理後におけるLT基板の体積抵抗率に影響を与える。Al粉の比率を高くすることで、Alの酸化反応が促進されて体積抵抗率を小さくすることができる。
例えば、体積抵抗率を1×109(Ω・cm)以下にする場合、特許文献3に係る方法では混合粉中のAl粉混合比が20重量%を超える量に設定する必要があった。しかし、混合粉中のAl粉混合比が20重量%を超えた場合、直径1~5mm程度の上述した黒い点(色むら)の発生が確認され、この色むらは、Al粉混合比に影響を受け、Al粉混合比が上昇するに従い色むらの発生率は高くなる。
本発明に係るLT基板の製造方法において、色むらの発生を確実に抑制するにはAl粉混合比を20重量%以下にし、好ましくは15%重量以下、より好ましくは10重量%以下にするとよい。
[関係式]
本発明においては、計測されたAl23粉の通気性をX[ブレーン空気透過装置を使用して計測された場合は「空気透過時間」、パウダーレオメータを使用して計測された場合は「圧力損失」]、計測されたAl23粉の水蒸気ガス放出量をY[カールフィッシャー法を使用して計測された場合は「水分量」]、および、Al粉の混合比[Al粉混合比]が特定されることで、LT基板の所望とする体積抵抗率Zを得ることが可能となる。
Al粉混合比が10.0%に特定された実施例1~12において、Al23粉の空気透過時間とAl23粉の水分量、および、熱処理後に得られるLT基板の体積抵抗率の関係を調べたところ、一定の関係式で表されることが確認された。
すなわち、計測されたAl23粉の空気透過時間をX、Al23粉の水分量をY、熱処理後に得られるLT基板の体積抵抗率をZとした場合、
aX+bY+cY2+d=Z
で表されることが確認された。
尚、a、b、c、dは係数であり、還元処理の条件(例えば、加熱処理の温度や時間、吸排するガスの流量、投入するLT結晶の厚み等)に左右されるものであり、Al23粉の品種には依存しない。
そして、Al23粉の空気透過時間(X)と体積抵抗率(Z)に着目すると、通気性が良いほどLT結晶から放出される酸素の拡散が速くなるため、空気透過時間(X)が小さいほど体積抵抗率(Z)は小さくなる。すなわち、Al23粉の空気透過時間(X)と体積抵抗率(Z)は正の相関であり、係数aは正の値となる。
他方、Al23粉の水分量(Y)と体積抵抗率(Z)に着目すると、水分量が多いほどAl粉による還元反応が促進されるため、水分量(Y)が大きいほど体積抵抗率(Z)は小さくなる。すなわち、水分量(Y)と体積抵抗率(Z)は負の相関にある。しかし、一定量以上の水蒸気ガスが放出されると、それ(水蒸気ガス)が酸化剤として作用し、LT結晶の還元反応を阻害することが分かった。すなわち、Al23粉の水分量には、多過ぎず少な過ぎない適正な範囲があり、水分量(Y)と体積抵抗率(Z)は下に凸の二次関数にあり、水分量に係る係数bは負の値、水分量の二乗に係る係数cは正の値となる。
このため、計測されたAl23粉の空気透過時間をX、Al23粉の水蒸気ガス放出量をYとした場合、熱処理後に得られるLT基板の体積抵抗率Zは、
aX+bY+cY2+d=Z (1)
[但し、数式(1)のaは正の係数、bは負の係数、cは正の係数、dは定数である。]
で表される。
Al粉混合比が10.0%に特定された実施例1~12において、測定されたLT基板における体積抵抗率のデータを重回帰分析し、数式(1)における係数a、b、c、dの算出を行ったところ、次式の通りとなった。
3.9×107×X-4.3×109×Y+1.2×1010×Y2+8.7×108=Z
そして、製造メーカーが異なるAl23粉を使用する場合、上記関係式を用いることにより上述した合わせ込み試験を事前に行う必要がなくなる。更に、製造メーカーが同一で、製造ロットが相違する場合でも、熱処理後に得られるLT基板の体積抵抗率Zを上記関係式から算出することも可能となる。
[不活性ガス等]
加熱炉内に給排する不活性ガスは、一般的に市販されている低酸素濃度のアルゴンガス(酸素分圧は1×10-6atm程度)や窒素ガス等を適用できる。
尚、加熱炉内に連続的に給排される不活性ガスの流量は、不活性ガスがアルゴンガスである場合、0.5~5L/minであることが好ましい。
そして、本発明に係る製造方法は、加熱炉内を減圧あるいは真空にすることが無く、密閉容器や減圧処理装置を必要としないため、設備コストの削減も図れる。
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明の技術範囲は下記実施例によって何ら限定されるものではない。
[加熱炉の構成]
実施例で用いられる加熱炉には給気口と排気口が設けられている。また、加熱炉内に配置されるステンレス製容器にはAl粉とAl23粉との混合粉が充填され、かつ、一般的に市販されているアルゴンガス(酸素分圧は1×10-6atm程度)が給気口を介し加熱炉内に連続的に供給されると共に、排気口を介してアルゴンガス(不活性ガス)が加熱炉外へ連続的に排気されて、加熱炉内は大気圧雰囲気下(アルゴンガスの封止条件下にはなっていない)に調整されている。尚、加熱炉内に給排されるアルゴンガスの流量は2L/minに設定されている。
[LT結晶の育成とインゴットの加工等]
コングルエント組成の原料を用い、チョクラルスキー法により、直径4インチであるLT結晶の育成を行った。育成雰囲気は、酸素濃度約3%の窒素-酸素混合ガスである。得られたLT結晶のインゴットは、透明な淡黄色であった。
LT結晶のインゴットに対し、熱歪み除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、外周研削、スライス、および研磨を行って42゜RY(Rotated Y axis)の基板の状態に加工されたLT結晶とした。
得られた42゜RYのLT結晶は、無色透明で、体積抵抗率は1×1015Ω・cm、キュリー温度は603℃であった。
[Al23粉]
製造メーカーが異なる平均粒径50~110μmのAl23粉12種類(A~L)を使用した。製造メーカーは、住友化学、日本軽金属、太平洋ランダム、および、デンカの4社であり、これ等製造メーカーからAl23粉を購入した。尚、Al23粉の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計で測定した。
[Al23粉の通気性評価]
Al23粉12種類(A~L)の通気性について、ブレーン空気透過装置(関西機器製作所製:KC-3-A)で測定し、各Al23粉の通気性を評価した。
尚、各Al23粉の軽装かさ密度はJIS9301-2-3に記載の方法で測定した。
また、ブレーン空気透過装置における透過セルの内容積とAl23粉の軽装かさ密度の積から透過セルに投入するAl23粉の重量を決定した。
Al23粉12種類(A~L)に係る通気性の測定結果を表1に示す。
[Al23粉の水蒸気ガス放出量評価]
Al23粉12種類(A~L)の水蒸気ガス放出量(水分量)について、カールフィッシャー法により測定した。
Al23粉12種類(A~L)に係る水蒸気ガス放出量(水分量)の測定結果を表1に示す。
[実施例1]
ステンレス製容器に充填された10重量%のAl粉と90重量%のAl23粉(A)との混合粉中に、基板の状態に加工されたLT結晶を埋め込み、かつ、LT結晶が埋め込まれたステンレス製容器を上記加熱炉内に配置した後、給気口を介し上記アルゴンガスを加熱炉内に供給した。
尚、ブレーン空気透過装置で測定されたAl23粉(A)の通気性(空気透過時間)は「9.0秒」、カールフィッシャー法により測定されたAl23粉(A)の水蒸気ガス放出量(水分量)は「0.10重量%」であった(表1参照)。
そして、2L/minの流量でアルゴンガスを大気圧雰囲気下の加熱炉内に連続的に給排し、580℃、20時間の熱処理(黒化処理)を行った。
基板の状態に加工された合計200枚のLT結晶について同様の熱処理を行い、処理後のLT基板の体積抵抗率を測定し、かつ、色むらの発生率を調査した。尚、体積抵抗率は、JIS K-6911に準拠した3端子法により測定している。
熱処理(黒化処理)後におけるLT基板の体積抵抗率は1.0×109Ω・cm[図1および図2においては「1.0.E+09」と表記する]程度であった。また、色むら(還元むら)は確認されなかった。
測定結果を表1に記載する。
また、Al23粉の空気透過時間をX、Al23粉の水蒸気ガス放出量をYとした場合、下記関係式から計算で求められた体積抵抗率Zも表1に記載する。
3.9×107×X-4.3×109×Y+1.2×1010×Y2+8.7×108=Z
[実施例2~12]
Al23粉(B~L)を用い、実施例1と同様の方法にてLT結晶の熱処理を行った。
各Al23粉(B~L)の通気性(空気透過時間)、水蒸気ガス放出量(水分量)、熱処理後におけるLT基板の体積抵抗率、および、上記関係式から計算で求められた体積抵抗率Zについて表1に記載する。
尚、表1のばらつき[%]は実測値を計算値で割り百分率で表したものである。
Figure 0007319592000001
[確認1]
(1)Al23粉(A~L)に係る通気性(空気透過時間)とLT基板の体積抵抗率との関係について確認する。
(1-1)Al23粉の水分量が同程度である実施例1[Al23粉A(0.10%)]と実施例2[Al23粉B(0.12%)]を比較した場合、実施例1に係るAl23粉Aの空気透過時間(9.0秒)に較べ実施例2に係るAl23粉B(4.5秒)の空気透過時間が短く、これに伴い、実施例1に係るLT基板の体積抵抗率(1.0×109Ω・cm)より実施例2に係るLT基板の体積抵抗率(4.0×108Ω・cm)は低い。
すなわち、Al23粉の水分量が同程度である実施例1と実施例2を比較した場合、Al23粉の空気透過時間が短い方がLT基板の体積抵抗率も低くなっている。
(1-2)従って、Al23粉の空気透過時間(X)とLT基板の体積抵抗率(Z)との関係式は一次直線であると考えられる。
(2)次に、Al23粉(A~L)に係る水蒸気ガス放出量(水分量)とLT基板の体積抵抗率との関係について確認する。
(2-1)Al23粉の空気透過時間が同程度である実施例2[Al23粉B(4.5秒)]と実施例4[Al23粉D(4.0秒)]を比較した場合、実施例2に係るAl23粉Bの水分量(0.12%)に較べ実施例4に係るAl23粉Dの水分量(0.21%)の方が多いが、実施例2に係るLT基板の体積抵抗率(4.0×108Ω・cm)と実施例4に係るLT基板の体積抵抗率(4.2×108Ω・cm)は略同等になっている。
すなわち、Al23粉の空気透過時間が同程度である実施例2と実施例4を比較した場合にはAl23粉における水分量の多少に関係なく各LT基板の体積抵抗率は略同等になっている。
(2-2)他方、Al23粉の空気透過時間が同程度である実施例4[Al23粉D(4.0秒)]と実施例7[Al23粉G(4.3秒)]を比較すると、実施例4に係るAl23粉Dの水分量(0.21%)に較べて実施例7に係るAl23粉Gの水分量(0.88%)の方が多く、これに伴い実施例7に係るLT基板の体積抵抗率(7.2×109Ω・cm)は実施例4に係るLT基板の体積抵抗率(4.2×108Ω・cm)より高くなっている。
すなわち、Al23粉の空気透過時間が同程度である実施例4と実施例7を比較した場合にはAl23粉の水分量が多い方がLT基板の体積抵抗率も高くなっている。
(2-3)これ等のことから、Al23粉の水蒸気ガス放出量(水分量)には多過ぎず少な過ぎない適正な範囲があることが確認され、Al23粉の水蒸気ガス放出量(水分量)とLT基板の体積抵抗率(Z)の関係式は一次直線ではなく、二次曲線の関数であると考えられる。
[関係式の作成]
aX+bY+cY2+d=Z (1)
Al粉混合比が10.0%に特定された実施例1~12において、測定されたLT基板における体積抵抗率のデータを重回帰分析し、数式(1)における係数a、b、c、dの算出を行ったところ、次式の通りとなった。
3.9×107×X-4.3×109×Y+1.2×1010×Y2+8.7×108=Z
実施例1~12のLT基板に係る体積抵抗率の実測データと重回帰分析から計算された計算値との関係を図1のグラフ図に示す。
図1のグラフ図から、重相関係数R(図1のR2=0.9727参照)は0.99であり、空気透過時間(X)、水分量(Y)、体積抵抗率(Z)の間には高い相関があることが確認できた。
[確認2]
次に、水分量(Y)と体積抵抗率(Z)が二次曲線の関係にあることを確認するため、上記数式(1)の「cY2」項を除いた場合における実施例1~12のLT基板に係る体積抵抗率(実測データ)を重回帰分析して係数a、b、dの算出を行ったところ、次式の通りとなった。aX+bY+d=Z
5.8×107×X+7.1×109×Y-5.6×108=Z
このときの重相関係数Rは0.93で数式(1)を用いた場合に比べて低く、また、係数bが正の値、すなわち水分量(Y)が多くなるほど体積抵抗率(Z)が高くなる傾向になっており、上記[確認1]の(2-1)欄で述べた「Al23粉Bの水分量が0.12%である実施例2」と「Al23粉Dの水分量が0.21%である実施例4」との関係(水分量の多少に関係なく各LT基板の体積抵抗率は略同等である)を正しく表せていないことが確認される。
[確認3]
次に、数式(1)「bY+cY2」の重回帰分析の結果から水分量(Y)の多過ぎず少な過ぎない適正な範囲(適正量)を見積もった。
数式(1)「bY+cY2」項について算出した結果を図2に示す。
ここから水分量0.2重量%付近が「bY+cY2」の値がもっとも小さく、水分量がおおよそ0.4重量%以上になると水分量「bY+cY2」項計算結果が[0.0.E+00]を超えている。尚、「bY+cY2」の値が[0.0.E+00]以下であると還元作用が促進され、「bY+cY2」の値が[0.0.E+00]を超えた場合、水分量が酸化剤として作用し上記還元反応を阻害する。
このことから、水分量は「bY+cY2」の値が[0.0.E+00]以下となる0.0~0.4重量%の範囲が好ましく、0.2重量%がより好ましいことが分かる。
本発明方法によれば、適用する酸化アルミニウム粉末の製造メーカーが異なる場合でも、アルミニウム粉末混合比の合わせ込み試験を事前に行うことなく所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を簡便に製造できるため、表面弾性波素子(SAWフィルター)用の基板材料に用いられる産業上の利用可能性を有している。

Claims (8)

  1. チョクラルスキー法で育成したタンタル酸リチウム結晶を用いてタンタル酸リチウム基板を製造する方法であって、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に基板の状態に加工されたタンタル酸リチウム結晶を埋め込み、上記容器を加熱炉内に配置した後、大気圧雰囲気下の加熱炉内に不活性ガスを連続的に給排しながらタンタル酸リチウム結晶のキュリー温度未満の温度で熱処理してタンタル酸リチウム基板を製造する方法において、
    適用する酸化アルミニウム粉末の通気性と水蒸気ガス放出量を計測し、かつ、上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率を設定すると共に、計測された酸化アルミニウム粉末の通気性と水蒸気ガス放出量およびアルミニウム粉末の混合比により所望とする体積抵抗率のタンタル酸リチウム基板を製造することを特徴とするタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  2. 計測された上記酸化アルミニウム粉末の通気性をX、酸化アルミニウム粉の水蒸気ガス放出量をYとした場合、タンタル酸リチウム基板の所望とする体積抵抗率Zが下記数式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
    aX+bY+cY2+d=Z (1)
    [但し、数式(1)のaは正の係数、bは負の係数、cは正の係数、dは定数である。]
  3. 上記酸化アルミニウム粉末の通気性Xは、ブレーン空気透過装置を使用して計測された酸化アルミニウム粉末の空気透過時間であることを特徴とする請求項2に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  4. 上記酸化アルミニウム粉末の通気性Xは、パウダーレオメータを使用して計測された酸化アルミニウム粉末の圧力損失であることを特徴とする請求項2に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  5. 上記酸化アルミニウム粉末の水蒸気ガス放出量Yは、カールフィッシャー滴定法により計測された水分量であることを特徴とする請求項2に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  6. 上記酸化アルミニウム粉末の空気透過時間が5秒~15秒の範囲に設定されることを特徴とする請求項2または3に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  7. 上記酸化アルミニウム粉末の水分量が0.0~0.4重量%の範囲に設定されることを特徴とする請求項2または請求項5に記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
  8. アルミニウム粉末の上記混合比が1~30重量%の範囲に設定されることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のタンタル酸リチウム基板の製造方法。
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