JP2019201600A - 成形性のある乳酸発酵大豆生成物 - Google Patents

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良樹 ▲高▼木
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Abstract

【課題】ケーキなどの固形食品に利用できる大豆を原料とする生成物の提供。【解決手段】流動性を示さない大豆粉砕物を乳酸菌で発酵させた成形性のある乳酸発酵大豆生成物。レトルト処理され、グルテンフリーであり、また、低糖質である乳酸発酵大豆生成物。大豆粉砕物が、大豆全粒粉、呉、おから、乾燥おから、豆乳のいずれかである、乳酸発酵大豆生成物。【選択図】図1

Description

本発明は、大豆を原料とする加工食品に関する。
大豆は、油の原料や豆腐、納豆、豆乳飲料などに利用されている。その他、小麦粉と混合するなど多様性のある利用がなされている。
特許文献1(特開2005−269971号公報)には、小麦粉におから及び濃縮豆乳を加えて主成分材料とし、小麦粉及びおからに濃縮豆乳を混合してパン生地を生成し、このパン生地をイースト菌で発酵し、焼成して形成したパンが開示されている。
特許文献2(特開2005−270066号公報)には、乾燥生大豆を微粉砕し、得られた微粉末を水中に懸濁し、加熱処理し、撹拌しつつ冷却して得る豆乳及びその製造法、並びにその豆乳に乳酸菌を加えて乳酸発酵させたヨーグルト状の発酵食品が開示されている。
特許文献3(特開2013−128455号公報)には、豆乳やおからを原料とした乳酸菌発酵技術が開示されている。
特許文献4(特開平3−224458号公報)には、おからを利用したケーキが開示されている。
特開2005−269971号公報 特開2005−270066号公報 特開2013−128455号公報 特開平3−224458号公報
豆乳などの飲料や、大豆粉やおからを用いたクッキーやケーキが提案されている。また、小麦粉に大豆粉を添加したパンも提案されている。クッキーなどの菓子やスポンジ状のパンでは、小麦粉などに混合して使用されることが多い。大豆のみを主成分とするものがあったが、大豆臭やボソボソ感が強く、口当たりに問題があり、普及していない。
本発明は、ケーキなどの固形食品に利用できる、大豆を原料とする生成物を開発することを目的とする。特に、小麦アレルギーに対して有用な小麦粉を使う必要がない生成物を開発する。
1.流動性を示さない大豆粉砕物を乳酸菌で発酵させた成形性のある乳酸発酵大豆生成物。
2.レトルト処理されている1.記載の乳酸発酵大豆生成物。
3.グルテンフリーであることを特徴とする1.又は2.記載の乳酸発酵大豆生成物。
4.低糖質であることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の乳酸発酵大豆生成物。
5.大豆粉砕物が、大豆全粒粉、呉、おから、乾燥おから、豆乳のいずれかであることを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の乳酸発酵大豆生成物。
6.乳酸菌が海洋由来であることを特徴とする1.〜5.のいずれかに記載の乳酸発酵大豆生成物。
7.1.〜5.のいずれかに記載の乳酸発酵大豆生成物を原料とする加熱加工固形食品。
8.スポンジ状ケーキ、たい焼き、たこ焼き、蒸しパン、パンケーキ、クレープ、包み食品の皮のいずれかであることを特徴とする7.記載の加熱加工固形食品。
1.本発明は、大豆粉砕物を乳酸発酵させることにより、ケーキなどの加熱加工食品用に利用できる成形性を備えた、大豆を原料とする食品原料となる生成物を開発することができた。乳酸菌は各種利用できるが新たに海洋由来の乳酸菌も利用できることとなった。
2.本発明の乳酸発酵大豆生成物は、レトルト処理しても分離することなく、長期保存ができ、利用性に優れている。保存性が高いので、流通が可能となり、家庭や各施設などでグルテンフリーの食品が手軽に提供できるようになる。
3.本発明の乳酸発酵大豆生成物は成形性があるので、各種の焼き菓子などの固形食品を作ることができる。そして、焼き菓子を製造する際に小麦や米粉を使用する必要がないので、グルテンフリーで低糖質の食品を製造することができる。発泡した柔らかなスポンジ状の食品(カステラパン状)もできるので、パンや米飯などに替えて主食としても利用できる。
乳酸発酵大豆生成物は、食品としての加工性が高い。卵などの添加物とのなじみも良く成形性が保持でき、形抜きや型に充填して加熱調理できる。あるいは、柔らかさを調整して、広げてフライパンなどでの加熱調理や薄くのばして包み用に皮状にすることができる。
4.本発明の乳酸発酵大豆生成物を用いた焼き菓子は、豆臭さが軽減し、高繊維質、口当たりも改善したおいしい食品に仕上がる。スポンジ状の食物では、おからのボソボソ感が解消し、しっとり滑らかに仕上がる。
5.さらに、大豆を乳酸発酵させているので、低分子化が進み大豆中のアレルゲンも減少し、大豆アレルギーも低減する。グルコシド型のイソフラボンがアグリコン型のイソフラボンに変化してイソフラボンの体内吸収性が向上する。乳酸発酵によって、短鎖脂肪酸を増加させることができ、抗アレルギー、血中から脂肪が細胞内への取り込みを抑制するなど健康機能の改善に奏する。乳酸菌が含まれているため、腸に良い影響を与える。
本発明は、大豆に含まれる有効成分の体内吸収性を向上させ、悪さ成分を不活化させる健康食品である。
6.豆腐製造過程などで発生する副生産物のおからを付加価値の高い食品として有効利用ができる。
美味しくないから、また腐敗しやすいから、という理由で産業廃棄物として捨てられるおからや、餌料として利用されているおからを、本件の乳酸発酵により、アグリコン型イソフラボンが豊富になり、付加価値のある食料として活用することができる。
本発明の主要工程図 本工程に従った製造例を示す 乳酸発酵ケーキ断面と未発酵ケーキ断面比較 食品の例 商品テストの結果を示す図 乳酸発酵大豆生成物の例 食後血糖値上昇抑制効果1 食後血糖値上昇抑制効果2 中性脂肪値低減効果 乳酸発酵ケーキと未発酵ケーキの比較図 既存食品の例
本発明は、大豆成分を乳酸発酵させた固形物を含む乳酸発酵大豆生成物である。この乳酸発酵大豆生成物は、加熱して固形食品の製造原料とすることに適している。小麦粉などを使用することなく、スポンジ状ケーキやクッキー、餃子の皮などを製造することができる。乳酸発酵大豆生成物は、レトルト処理することにより長期保存ができ、輸送、保存性が改善して、各地の施設などで利用することができる。
本発明の乳酸発酵大豆生成物は、大豆固形分と豆乳成分を乳酸発酵させたものである。液体成分がおからなどの大豆固形分に吸収された状態となっており、しっとりしてはいるが、水分が液だれするようなことがなく、成形して固形の食品に加工することができる。
これに対して、乳酸発酵させない大豆生成物は、水感がべちゃべちゃ感として残る。
本発明の大豆成分は、大豆を粉砕した大豆粉、おからなどと豆乳である。本発明では、固形成分と液体成分の双方を使用する。例えば、大豆を吸水させて破砕した全成分を含むもの。これは、豆腐の製造過程では、おからと豆乳を分離する前の呉(生呉、煮呉)などに該当する。また、乾燥している大豆粉は加水して、給水させて使用する。利用性の良いものとして、分離して流通している乾燥おからと豆乳があり、必要量を適宜利用することができる。
おからは、給水した大豆の細胞膜を壊して豆乳成分を抽出する操作を行い、濾して得られた固形成分である。繊維成分などの固形成分が摩砕されて、繊維が毛羽立った状態にあり、乳酸菌の発酵作用を受けやすく、食品に加工した際には繊維同士が絡み合ってブリッジ構造を形成する。これが、膨張系食品のふわふわ感などの性状に影響していると考えられる。薄くのばして使用する餃子の皮などにも適した材料となる。おからは、乾燥おから、生おから、細かく粉砕して細粒化したおからなどを利用することができる。おからは、豆腐製造副産物であるので、日本各地で容易に入手できる。
大豆粉などの細かな粉粒体を原料とした場合は、短繊維化しているので、さくさく感に優れた食品に向いており、クッキーなどに適している。細粒化したおから粉でも同様である。
大豆固形分と豆乳の比率は、液分70〜95%が加熱加工固形食品用として適切である。例えば、乾燥おから100重量部に対して豆乳1000重量部程度がスポンジ状ケーキ用には良好である。クッキーなど硬めの食品用は豆乳を少なくする。乾燥おから100重量部とすると、豆乳が230〜600重量部程度となる。
なお、生おからの水分含量は80%程度である。生おからを発酵させる場合、生おから100重量部に対して豆乳90重量部が良好である。水分含量は85〜90%に相当する。
生おからのみでも発酵可能であるが、発酵時間が長くなる傾向があり、食味はやや落ちる。
おからと水で発酵させることも可能であるが、発酵時間が長くなり、食味はやや落ちる。
乳酸菌は、通常使用されている乳酸菌が使用できる。本発明者らは、特有の乳酸菌として、海洋性乳酸菌が使用できることを見出した。乳酸発酵は、菌が活性を示す温度範囲において、必要な時間をかければ十分な発酵が得られ、添加量にも比例する。
乳酸菌は、各種利用できるが、例えば次に例示する。
好ましい乳酸菌は、Streptococcus salivarius、Lactococcus lactis、Leuconostoc mesenteroides、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus brevis、Lactobacillus casei、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus delbrueckii 、Lactobacillus sakei、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus acidophiilus、Lactobacillus sanfran、Lactobacillus acidophiilus、Lactobacillus ferciminis、Lactobacillus curvatus、Pediococcus pentosaceus、Pediococcus acidilacticiなど挙げられる。
特に好ましくは、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus pentosus、 Lactobacillus delbrueckiiである。
また、本発明者らは、海洋由来のLactobacillus sp. OCH−1 株(東京海洋大学今田研究室保有株)に優れた作用があることを見出した。乳酸菌は、大豆発酵生成物を作ることができれば特に指定されないが、海洋から分離された乳酸菌は、耐塩性が高いので、より応用範囲が広くなる。例えば、海草や海藻から分離された乳酸菌を用いることができる。
本発明の乳酸発酵大豆生成物は、加熱加工して様々な形に仕上げる固形の食品に適している。
例えば、膨張してスポンジ状になるケーキ、パンケーキ、蒸しパン。クッキー、ウエハース、ビスケット、パイなどの固形の加熱加工食品。スポンジ状ケーキはイースト菌を使う必要はない。おからなどに含まれる繊維が乳酸発酵の影響で細く、柔軟になり、繊維同士が絡み合うことと豆乳の成分が被膜状になってマトリックスを形成し、小さな気泡の状態で閉じ込めているものと考えられる。乳酸発酵していない大豆生成物との対比試験(図3参照)では、乳酸発酵していない材料を用いたケーキでは膨張率も小さく、気泡も揃っておらず肌理が均一ではなかった。気泡のもとは、乳酸発酵によって生じた二酸化炭素の泡や混入している空気である。
得られた食品は、イソフラボンが豊富で優れた食味を呈する。例えば、スポンジ状ケーキでは、体積として1.2〜1.6倍程度まで膨らみ、発泡性が高く、ふっくらとし、外観、質感、食感、食味に優れている。
クレープ、たい焼き、どら焼きなどの餡を包む材料。たこ焼き、お好み焼きやもんじゃ焼きなどの具材と混合して用いる材料。餃子の皮、シュウマイの皮、トルティーヤの皮、春巻きの皮などの包食材の皮。これらの固形食品の例を図4に示す。
加熱調理法は、オーブン、フライパン、鉄板などそれぞれの食品に適した加熱方法を選択することができる。
食品製造の際に、乳酸発酵大豆生成物に添加する材料は、それぞれの食品の製造に通常用いるものを使用することができる。スポンジ菓子やパンケーキ、クッキーなどの製造に使われる小麦粉に添加される成分を使用することができる。例えば野菜粉末、ココアパウダー、インスタントコーヒー粉、等を混ぜると質感を変えることができる。しかしながら、本発明は、小麦粉や米粉などを使う必要がない。
乾燥おからと豆乳を混ぜて、48時間冷蔵保存したもの(A)と乳酸発酵したもの(B)を比較したところ、(A)のおからは水分がなじんでおらず、おから一粒ずつがふっくらしていないが、これに対し、(B)は水分がなじんで、おから一粒ずつがふっくらして余剰水分が無く、ケーキを焼いた時にべちゃっとしたケーキにならない=スポンジの質が向上している。したがって、食品の性状保持に、小麦や米粉などを使う必要がないことが確認されている。
乳酸発酵大豆生成物の添加剤としては貝殻焼成物が優れている。本発明は乳酸発酵しており、酸性化している。酸性を中和する場合、アルカリ性であるホタテ貝殻焼成物が適している。ホタテ貝殻焼成物は乳酸発酵大豆生成物pH(酸味)を中和し、菓子の味を向上することが確認された。重曹を使って中和した場合、後日苦みが出るが、ホタテ貝殻焼成物ではそのような副作用はない。さらに、ホタテ貝殻焼成物は活性酸素を生成し殺菌効果があり腐敗を防止でき、スポンジ状ケーキで実験したところ、腐敗が進まないという好ましい結果が得られた。
乳酸発酵大豆生成物の調整について、主要工程を図1に示す。その製造例を図2に示す。
1.おからなどの大豆固形分と豆乳などの液分を含む大豆粉砕物を準備する工程。
この準備工程では、液分は大豆固形分にほぼ吸収されている状態に調整されている。乾燥大豆固形分と豆乳の比率は、豆乳を70〜95%程度の範囲にする。
スポンジ状ケーキやクッキーに利用する場合は、固形分を多くする。お好み焼きなどに利用する場合は、豆乳分を増やして軟らかめにする。もっとも、軟らかくするときは、乳酸発酵豆乳を準備しておいて、乳酸発酵後でも調整することができる。
例えば、乳酸発酵大豆生成物は、吸水させた大豆を粉砕して得られた生呉またはその後加熱した煮呉である。あるいは、生おからや乾燥おからに豆乳を加えたものである。
2.乳酸菌を添加する工程
前記1.工程で準備した大豆粉砕物に乳酸菌を植え付ける工程。
乳酸菌は通常用いられている種類のほか、本発明では海洋由来の乳酸菌を使用することができる。植菌量は、発酵時間などの要因も考えて適宜決定する。
スターターとなる乳酸菌の培地は培養できるものであれば良く、市販品等でも培養することができる。乳酸菌は、例えばMRS培地を用い20℃〜40℃で好ましくは30〜37℃で培養することができる。
植菌する乳酸菌量は、特に指定されるわけではないが1x103〜1x107 個/mL、好ましくは1x104〜1x106 個/mLとなるように植菌することが、活性、品質の面で安定した乳酸発酵大豆生成物を得ることができる。
発酵温度は乳酸菌が生育できる範囲であれば良いが、好ましくは25℃〜40℃、特に好ましくは32℃〜38℃が良い。
植菌後の培養時間は、植菌量、培養温度によって変動するが、豆乳とおからの混合物に乳酸菌培養液5x105個/mLになるように植菌した場合、37℃で15〜70時間、好ましくは30〜60時間である。
3.乳酸発酵工程
植菌した乳酸菌の活性温度で適宜時間発酵させる。発酵終了後に、塑性物あるいは練状物の乳酸発酵大豆生成物が出来上がる。広口瓶で発酵させた乳酸発酵大豆生成物の例を図6に示す。この乳酸発酵大豆生成物は、加熱加工されて固形食品あるいは保存用のレトルト処理される原材料となる。おからなどの大豆固形分と豆乳を別々に乳酸発酵することができ、加工処理される食品に応じて、発酵後に混合して用いることができる。
発酵条件は、37℃、30〜60時間を目安とする。室温であればこれより長時間になり、スターターの菌量が多ければ短時間になる。
4.加熱加工食品製造工程、レトルト処理工程
上記工程3.で得られた乳酸発酵大豆生成物は、塑性や練り物状態で、そのまま成形したり型にいれて成形する固形食品に利用することができる。あるいは、お好み焼きやたい焼きなどの練生地に利用することができる。これらの食品の種類に応じて、おからなどの乳酸発酵大豆固形物と乳酸発酵豆乳成分を混ぜ合わせて生地を調製することもできる。
乳酸発酵大豆生成物は、レトルト処理することで、長期保存が可能となる。すなわち、レトルト処理することで、3か月以上保存できることが確認されている。レトルト処理することで、利用性が格段に向上する。レトルト処理前後で食品の味に遜色がないことが確認されている。
乳酸発酵大豆生成物に卵等を加えてミキサーで撹拌すると、粘度が高い組成物になる。お好み焼きの生地よりは粘度が高く、パン生地よりは粘度が低い程度に仕上げることができる。硬さの調整は乳酸発酵豆乳や水を加えて調製することができる。
粘度があるので、パンなどに用いるミキサーで、良く撹拌して型などで成形して加熱調理できる。例えば、スポンジ状ケーキの場合、パウンドケーキ用の型に入れて焼き上げる。
本発明の乳酸発酵大豆生成物は、大豆の固形成分と豆乳が一体化しており、水分が分離していない。固形食品製造用に成形や型に入れることができる成形性を備えている。この性質はレトルト処理しても変化せず、長期保存が可能であり、必要な場所で必要な時に利用することができる。
大豆100%であるので、グルテンフリー、低糖質の固形食品に利用できる。乳酸発酵によって大豆臭がほとんどなく、市販のおから菓子のようにカカオやチョコレートなどでマスキングする必要が無い。プレーンの状態で食べることができるので、パンのような感覚で主食として摂取することができる。スポンジ状ケーキのほか、クッキー、お好み焼き、たこ焼き、餃子の皮など小麦粉の代替として広い用途がある。グルテンアレルギーや糖質制限が必要な人の食生活の改善に有用である。
例えば、乾燥おから60gと豆乳500gを混ぜて、A:48時間冷蔵保存したもの、B:乳酸発酵したもの、とを比較したところ、Aのおからは水分がなじんでおらず、おから一粒ずつがふっくらしていない。これに対し、Bは水分がなじんで、おから一粒ずつがふっくらしているので、余剰水分が無い為、ケーキを焼いた時にべちゃっとしたケーキにならず、スポンジの質が向上する。
大豆粉砕物を乳酸発酵することで、粉砕物一粒一粒が水分を抱え込み、その結果、スポンジの質が向上した。乳酸発酵により変性していると見込まれる。
本発明には、次のような機能が確認されている。
(1)グルテンフリー機能:小麦粉の代替であるとともに、代替を超えて新感覚の食品を提供。
(2)大豆アレルギー低減機能:乳酸発酵による低分子化が大豆アレルギーの軽減になっていると考えられる。大豆アレルギーの人に食べてもらった結果、アレルギーが軽減したことが実感された。
乳酸発酵により、大豆アレルゲンが低分子化してアレルギーを起こしにくく、軽減される。これは、味噌や醤油ではアレルギーが起こりにくいのと同じ原理である。そして、味噌や醤油の醸造は、コウジカビと乳酸菌の共同作業であり、乳酸も生成されている。
参考文献:乳酸発酵と酵素消化によるアレルゲン低減化大豆食品の開発と評価, 植田啄也, 矢野えりか, 立垣愛郎, 財満信宏, 森山達哉, 日本栄養・食糧学会近畿支部大会および公開シンポジウム講演抄録集, 56th, 29, 2017年11月01日,
文献URL http://jglobal.jst.go.jp/public/201702287933875135
(3)イソフラボン高含有食品の提供:大豆はイソフラボンを含んでいるがそのままでは体内への吸収性が悪い。本発明ではイソフラボンがアグリコン型に変化し、吸収しやすい化合物に変化する。また、乳酸発酵によってイソフラボン自体も増加することが報告されている。例えば、特開2013−128455号公報の表6には、乳酸発酵させることで、イソフラボンの量が10倍以上になることが示されている。
(4)低糖質食品の提供:小麦粉製の食品と比べて、本発明の乳酸発酵大豆生成物は糖質を90%以上少なくすることができ、低糖質食品として提供できる。
(5)食後血糖値抑制機能:本発明の乳酸発酵大豆生成物は、低糖質であるため食後の血糖値上昇が抑制される。
(6)中性脂肪低減機能:本発明の乳酸発酵大豆生成物の摂取により、中性脂肪が低下する。
大豆蛋白とコレステロールの関係について、次のような参考文献があり、本発明の乳酸発酵大豆生成物でも同様の作用機序が発揮されると想定される。
参照:大豆蛋白質とコレステロール 生活衛生(Seikatsu Eisei) Vol.43 No.412g-134 (1999)
参照:ラットのレシチン摂取によるHDLコレステロールの上昇 Vet Res Commun. 1999 Jan;23(1):1-14.
(製造例)
乳酸発酵大豆生成物は、以下の方法で作ることができる。
生呉又は煮呉に水を加え、スターターとなる乳酸菌培養液を植菌し静置培養する。または、豆乳とおからの混合物に乳酸菌培養液を植菌し静置培養することで乳酸発酵生成物を作る。
生呉又は煮呉に水を加えなくても組成物を作ることができるが、好ましくは、生呉又は煮呉100gに対して水100〜300gを加えた混合物(いわゆる呉汁)に乳酸菌培養液を植菌することで良好な乳酸発酵大豆生成物を得ることができる。
おからは、乾燥させる前の生おからでも乾燥させたおからパウダーでも用いることができる。乳酸菌植菌前は、おからの状態であるため、隙間も多くごわごわしている。
生おから100gに対して豆乳20〜100gを加えた混合物に乳酸菌培養液を植菌することで良好な乳酸発酵大豆生成物を作ることができる。おからパウダーに水を加えるだけでも乳酸発酵大豆生成物は得られるが、おからパウダー50gに対して豆乳100〜600gを加えた混合物に乳酸菌培養液を植菌することで良好な乳酸発酵大豆生成物を得ることができる。おから、豆乳、乳酸菌培養液の添加の順序は、特にこだわらない。
この製造過程では、発酵前は、おから様状態で隙間が多いので、乳酸菌は水分を吸ったおから(呉)を発酵させることができる。この水分を含んだおから(呉)の下部に水(又は豆乳)がある状態になっている。発酵した組成物を、ミキサーで撹拌すると柔らかい練り物状態になる。発酵させずにミキサーで攪拌した場合、やや粗い練り物になる。
スターターとなる乳酸菌の培地は培養できるものであれば良く、市販品等でも培養することができる。乳酸菌は、例えばMRS培地を用い20℃〜40℃で好ましくは30〜37℃で培養することができる。
植菌する乳酸菌量は、特に指定されるものではないが1x103〜1x107 個/mL、好ましくは1x104〜1x106 個/mLとなるように植菌することで、活性、品質の面で安定した乳酸発酵大豆生成物を得ることができる。
発酵温度は乳酸菌が生育できる範囲であれば良いが、好ましくは25℃〜40℃、特に好ましくは32℃〜38℃が良い。
植菌後の培養時間は、植菌量、培養温度によって変動するが、豆乳とおからの混合物に乳酸菌培養液5x105個/mLになるように植菌した場合、37℃で15〜70時間、好ましくは30〜60時間である。
上記の方法で製造した乳酸発酵大豆生成物(固体)は、そのままでは雑菌汚染されるので、常温(室温)下では数日間しか使用できない。このため、商業的に販売するためには保存性の観点からその利用に難点があった。そこで、鋭意検討した結果、この乳酸発酵大豆生成物をレトルト処理することで、料理、焼菓子としての食感、風味を損ねることなく、長期間保存が可能な組成物を得ることができた。
これら乳酸発酵大豆生成物は、イソフラボンが豊富に含まれており、低糖質でかつグルテンフリーの素材であるため、健康に優れた抗小麦アレルギー素材として利用することができる。また、低糖質であるため血糖値の上昇抑制にも効果が期待できる。
上記方法で製造した乳酸発酵大豆生成物、またはそれをレトルト処理した乳酸発酵大豆生成物は、フライパン、オーブン等で加熱することで食感に優れた料理をつくることができる。
例えば、卵、油、糖、ベーキングパウダー、増粘剤、香料を加え、オーブンで焼くことでクッキー、ケーキなどの焼菓子を作ることができる。また、お好み焼き、たい焼き、たこ焼き等の生地として利用することができる。
一般的にパンを作るには、乳酸菌ではなくイースト菌を用いる。乳酸菌を用いた発酵物を加熱して、スポンジ状食品を製造することは、本発明の独自の発想である。乳酸菌発酵大豆生成物から製造したケーキ等の食品は、新しい食感を創造した。
強いて言えば、食感は、ティラミスのような感じである。おから感は全くなく、しっとりとして新鮮な味になる(口の中でとろけるようなイメージ)。すなわち、パンとは全く異なり、通常のパウンドケーキとも異なる。
製造したスポンジ状ケーキを、商品テストした結果、図5に示すように味、商品魅力とも85%以上の高評価を得た。
さらに、乳酸発酵大豆生成物はレトルト処理することにより常温(室温)下で長期保存でき、輸送、保存性が改善して、家庭や各地の施設などで利用することができる。グルテンフリーのパンなどを提供できるので、小麦アレルギー者の生活改善に有用である。乳酸菌として、海洋由来のLactobacillus sp. OCH−1 株(東京海洋大学今田研究室保有株)を使用できることを見出した。
乳酸発酵大豆生成物とレトルト処理物の組成表を表1に示す。
表1に記載した組成に基づいて未発酵大豆生成物と乳酸発酵大豆生成物1〜5を製造した。
(未発酵大豆生成物(比較例))
おからパウダー60g(イオントップバリュ製)と無調整豆乳(キッコーマン製)500gを1000ccの広口瓶に入れて、混合したものを未発酵大豆生成物とする。
(製造例1:乳酸発酵大豆生成物1)
おからパウダー60g(イオントップバリュ製)と無調整豆乳(キッコーマン製)500gを加え、そこに海洋環境で分離したLactobacillus sp. OCH−1 株培養液(東京海洋大学今田研究室保有株)40ml(4.0x105 個/mL濃度)を植菌した。この混合物を37℃、46時間培養して、乳酸発酵大豆生成物1を得た。
(製造例2:乳酸発酵大豆生成物2)
生おから300gに無調整豆乳(キッコーマン製)260gを加え、そこに海洋環境で分離したLactobacillus sp. OCH−1 株培養液(東京海洋大学今田研究室保有株)40ml(4.0x105 個/mL濃度)を植菌した。この混合物を37℃、46時間培養して乳酸発酵大豆生成物2を得た。容器は1000ccの広口瓶を使用した。
(製造例3:乳酸発酵大豆生成物3)
煮呉200gに水300g を加え、Lactobacillus plantarum NBRC15891を20ml(2.8x105個/mL濃度)を植菌した。この混合物を35℃、50時間培養することで乳酸発酵大豆生成物3を得た。
(製造例4:乳酸発酵大豆生成物4)
製造例1で得た乳酸発酵大豆生成物1 250gを500ml容量のレトルト袋に入れ、オートクレーブ(トミー精工製)を用いて120℃、15分間レトルト処理してレトルトされた乳酸発酵大豆生成物4を得た。
(製造例5:乳酸発酵大豆生成物5)
上記製造例4で得られたレトルトされている乳酸発酵大豆生成物4を37℃で三か月間保存して乳酸発酵大豆生成物5を得た。
加工食品の製造例を示す。表2に示す原材料を用いて、スポンジ状ケーキを製造した。表2には、加工食品の評価もあわせて記載する。
比較例として、表1記載の未発酵大豆生成物を使用したスポンジ状ケーキCと、表1記載の乳酸発酵大豆生成物1〜5を使用したスポンジ状ケーキ1〜5を製造した。
スポンジ状ケーキは、それぞれの原材料を容器に入れてスタンドターボハンドミキサー(貝印)を速度1に調整して5分間攪拌し、パウンドケーキの型(18cmタイプ)に入れて、オーブンにて180℃で40分間加熱して製造した。製造したスポンジケーキ1の例を図2(e)に示す。
(食感、食味評価)
各スポンジ状ケーキの評価を表2に示す。評価基準は次のとおりである。
食感及び食味を20人のパネラーが下記評価基準により評価した。

(食感の評価基準)
3点:滑らかな食感で大変良い。おから感がない。
2点:普通。
1点:おから特有のごわごわ感があり、食べた後乾燥感がある。

(食味の評価基準)
3点:大変良い。おからの味がわからない。
2点:普通。
1点:おからの味を感じる。

比較例である未発酵大豆生成物を原材料に用いたスポンジ状ケーキCは、食感、食味ともに、1.75、1.85にとどまるのに対して、本発明の実施例であるスポンジ状ケーキ1〜5は、2.35〜2.8であるので、明らかに食味、食感とも優れていることが認められる。
その他、大豆の豆臭さ、生地の均一性、スポンジの気泡のきめ細やかさ、スポンジの気泡の均一性について評価した。結果を表2に示す。
未発酵大豆生成物を原料とするスポンジケーキCでは、3点満点で1.35〜1.55であるのに対して、本発明の実施例に相当するスポンジ状ケーキ1〜5は2.3〜2.8と大変良い評価を得ている。
大豆の豆臭さは、2.7〜2.8と殆ど大豆臭を感じない程度に改善されている。生地の性状も均一で、気泡もきめ細かく均一に生成されている。
(総合評価)
以上のように、食味、食感の評価に優れ、大豆臭も軽減されているので、一時的な摂取に限らず、継続的に摂取に用いることができる食品が実現できることが確認できた。すなわち、小麦粉や米粉に頼ることがない主食用の食品として利用できる。これによって、おいしいグルテン(小麦)アレルギー対応食品が完成した。
(乳酸発酵に伴う比較評価)
乳酸発酵大豆生成物1を用いたスポンジ状ケーキと未発酵のおからと豆乳を用いたスポンジ状ケーキを2種類作成して、比較評価した例を表3に示す。
スポンジ状ケーキAは、本発明の実施例であって、表1で得られた乳酸発酵大豆生成物1を用い、スポンジ状ケーキBは生おからを用い、スポンジ状ケーキCは生おからと豆乳を用いている。
結果は表3に記載され、図10に状態を示す。
この結果から、スポンジ状ケーキAは嵩高で発泡率も高く、その状態も気泡がきめ細かく、しっとりでふかふかに仕上がり、食感も良くなっている。
これに対し、スポンジ状ケーキBは、ボソボソした食感がある、一方で同時に、おからの粒が水分を抱え込んでいないので、気泡が少なく、べちゃっとしている。スポンジ状ケーキCは、未発酵生おからに無調整豆乳を混ぜて、冷蔵庫で48時間寝かせた後、余剰水分が出てきたので、おからに水分を吸わせてからケーキを作成したが、改善されず、ケーキBよりもさらにべちゃっとした生地になってしまった。
この結果から、乳酸発酵によって、おから成分には、水分が組織に取り込まれていて分離されず、スポンジ全体に均一になっていることが分かる。乳酸発酵させないおからは、原料の時点では外見は同じように見えていても、おからと水分は表面で分離して、できあがりでは、余剰水分が表れて濡れているように水分が感じられる。おからを豆乳に置換してもその傾向は変わらず、悪化する傾向が見られる。この結果、大豆の固形分が乳酸発酵によって、組織が変化し水分とのなじみが向上するものと考えられる。これは、組織の構造変化、微細組織の変化と考えられるが、これが食感や膨張率などの変化に表れていると考えられる。
また、特に、おからは、吸水した大豆を擂り潰すように摩砕して、細胞を壊して豆乳を抽出した固形分であるので、細胞繊維が機械的ダメージを受けており、乳酸菌の活動の影響を受けやすい状態となっていると考えられる。繊維の分解も進み、細い繊維同士の交差もあって、マトリックス状態が生成されて、気泡が小さく均一に生成されて、泡が抜けず、嵩高となって、ふわふわ感のある良好な食感が形成されたと推定される。
[機能性評価]
(食後血糖値評価)
市販のどら焼き一個と乳酸発酵大豆生成物の皮を用いたどら焼きを摂取して、食後血糖値の変化を観察した。乳酸発酵大豆生成物には、表1の乳酸発酵大豆生成物1を用いた。小豆は、無糖の缶詰を使用した。甘味料としてエリスリトールを使用した。
結果を図7に示す。
市販のどら焼きAでは、食後30分で急激に血糖値が上昇し、食後60分まで高止まりして、その後食後90分で乳酸発酵大豆生成物どら焼きと同程度になってその後さらに減少している。
本発明の、乳酸発酵大豆生成物どら焼きBでは、食後60分で少し低下が見られるが、ほぼ横這いで推移し、血中血糖の変化はない。血糖値140mg/dLが高血糖の目安とされているが、本例ではこれを超えることは無かった。
この結果、糖制限が必要な人でもどら焼きを食べることができ、一般の人と一緒に楽しむことができる。したがって、低糖質の小豆餡系の食品に適用して、グルテンフリーで低糖質な食品形態の多様化に貢献できる。
市販のたい焼き2個(A)と乳酸発酵大豆生成物1を用いたたい焼き2個(B)を用いて、摂取後の血糖値の変化を確認した。
市販のたい焼き(A)では、食後30分で血糖値が168mgまで急上昇し、被験者は頭痛、眠気、倦怠感、めまいなどの身体の変化を感じた。食後60分経過で乳酸発酵大豆生成物たい焼き(B)と同程度まで低下し、その後食後90分にかけて上昇し、低下に転じている。
乳酸発酵大豆生成物たい焼き(B)は、食後60分まで緩やかに上昇し、その後食後90分まで低下して、横這いになっている。乳酸発酵大豆生成物たい焼き(B)は、血糖値が安定していることが確認された。当該血糖値試験では、砂糖の代わりにエリスリトール(血糖値が一切上がらない糖アルコール)を使用した。小豆は、無糖の缶詰を使用した。
(中性脂肪値評価)
2016年から開発した本発明の乳酸発酵大豆生成物食品を摂取して2017年の中性脂肪の値を過去の値と比較した。被験者Aの2011年から継続している健康診断の結果を利用した中性脂肪のグラフを図9に示す。その結果、中性脂肪の値は2016年からほぼ半減しており、中性脂肪の減少が確認できた。
なお、乳酸発酵大豆生成物食品は、スポンジ状ケーキとクッキー、ビスケット、たこ焼き、お好み焼き等各種に加工された食品を利用した。詳しい事情は差し控えるが、糖質制限をする生活を続ける中で、本発明の食品を中心に摂取した結果がこのグラフに反映されている。なお、このグラフの値は、健康診断の値を活用しているので、2016年以前は通常人と同様の飲食である。
(市販の大豆加工食品の例)
おからを中心とする大豆系食品はいくつか市販されている。その例を図11に示す。
これらは低糖質、グルテンフリーであるが、ココアパウダー、洋酒、チョコレートなどを含んでおり、マスキングと食味調整がなされている。また、ボソボソ感が残っている場合もあり、味の点や日々の主食の代用としては、継続が難しいと考えられる。これらの市販品には、乳酸発酵大豆生成物が使用されている例は発見できなかった。

Claims (8)

  1. 流動性を示さない大豆粉砕物を乳酸菌で発酵させた成形性のある乳酸発酵大豆生成物。
  2. レトルト処理されている請求項1記載の乳酸発酵大豆生成物。
  3. グルテンフリーであることを特徴とする請求項1又は2記載の乳酸発酵大豆生成物。
  4. 低糖質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の乳酸発酵大豆生成物。
  5. 大豆粉砕物が、大豆全粒粉、呉、おから、乾燥おから、豆乳のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の乳酸発酵大豆生成物。
  6. 乳酸菌が海洋由来であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の乳酸発酵大豆生成物。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載の乳酸発酵大豆生成物を原料とする加熱加工固形食品。
  8. スポンジ状ケーキ、たい焼き、たこ焼き、蒸しパン、パンケーキ、クレープ、包み食品の皮のいずれかであることを特徴とする請求項7記載の加熱加工固形食品。
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