JP2019182947A - 樹脂組成物及びその用途 - Google Patents

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Abstract

【課題】ガスバリア性、透明性、保香性、耐溶剤性、耐油性は損なわれず、二次加工性、柔軟性、及び耐ブロッキング性に優れた樹脂組成物の提供。【解決手段】式(I)で表され、ケン化度が90モル%以上である変性EVOH及び無機粒子からなるブロッキング防止剤を含有する樹脂組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する樹脂組成物及びその用途に関する。
エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、ガスバリア性、透明性、保香性、耐溶剤性、耐油性などに優れており、かかる特性を生かして、食品包装容器、医薬品包装容器、工業薬品包装容器、農薬包装容器等の各種包装容器、燃料容器をはじめとして、広い用途に用いられている。このような成形品を製造する際には、EVOHを溶融成形した後で、二次加工する場合も多い。例えば、機械的強度の向上を目指して延伸したり、容器形状にするためにEVOH層を含むフィルムやシートを熱成形したりすることが広く行われている。
また、近年、より高い延伸倍率で延伸することやより深い絞り形状の成形品を熱成形して得たいという要求が高まっている。さらに、EVOHは弾性率が高い樹脂なので、より柔軟性を有する樹脂が欲しいという要求も高まっている。
このようなことから、EVOHが本来有するガスバリア性、透明性、保香性、耐溶剤性、耐油性などの性能をできるだけ損なわず、二次加工性及び柔軟性が改善された樹脂が求められている。
特許文献1には、エチレン、酢酸ビニル及び2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテートを共重合してからケン化して得られる、2−メチレン−1,3−プロパンジオール単位が共重合された変性EVOHが記載されている。そして、当該変性EVOHは、バリア性、柔軟性及び二次加工性に優れていることについて記載されている。しかしながら、得られたフィルムやシート状等の成形品を重ねたり、ロール状にしたりして保管した場合等において、成形品同士が固着するブロッキングの問題があった。
一方、特許文献2には、EVOH、酸化ケイ素粒子等の無機粒子及び不飽和アルデヒドを含有する樹脂組成物が記載されている。そして、当該樹脂組成物は、溶融成形後の外観特性、耐フィルム破断性、耐ブロッキング性、蒸着欠点抑制性及び蒸着層との密着強度に優れると記載されている。また、特許文献3には、EVOH、酸化ケイ素等の酸化物および高級脂肪酸を含有する樹脂組成物が記載されている。そして、当該樹脂組成物は、耐ブロッキング性、滑り性に優れるとともに、当該樹脂組成物を溶融成形する際に目ヤニの発生が抑制されるため外観性に優れた成形品が得られると記載されている。しかしながら、特許文献2や特許文献3に記載されたEVOH組成物は、柔軟性及び二次加工性が不十分であった。
WO2014/024912号公報 特開2015−054878号 特開2000−265025号
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、EVOHが本来有するガスバリア性、透明性、保香性、耐溶剤性、耐油性などの性能が損なわれることなく、二次加工性及び柔軟性が改善され、しかも耐ブロッキング性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。また、当該樹脂組成物を用いた成形品、フィルム、シート、及び熱収縮フィルムを提供することを目的とする。
上記課題は、下記式(I)で表され、全単量体単位に対するa、b及びcの含有率(モル%)が下記式(1)〜(3)を満足し、かつ下記式(4)で定義されるケン化度(DS)が90モル%以上である変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び平均粒子径が0.3μmを超え20μm以下である無機粒子からなるブロッキング防止剤(B)を含有し、ブロッキング防止剤(B)の含有量が5〜5000ppmである樹脂組成物を提供することによって解決される。
[式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。]
18≦a≦55 (1)
0.01≦c≦20 (2)
[100−(a+c)]×0.9≦b≦[100−(a+c)] (3)
DS=[(X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数)/(X、Y及びZの合計モル数)]×100 (4)
このとき、R、R、R及びRが水素原子であることが好適である。X、Y及びZが、それぞれ独立に水素原子又はアセチル基であることも好適である。
前記無機粒子が無機酸化物粒子であることが好適である。前記無機酸化物粒子が酸化ケイ素粒子又は金属酸化物粒子であることが好適である。
前記樹脂組成物を含む成形品が本発明の好適な実施態様であり、前記樹脂組成物を含む押出成形品がより好適な実施態様である。また、前記樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシートも好適な実施態様である。当該フィルム又はシートが、面積倍率7倍以上に延伸されてなるものであることが好適である。前記フィルム又はシートからなる熱収縮フィルムも好適な実施態様である。
本発明の樹脂組成物は、EVOHが本来有するガスバリア性、透明性、保香性、耐溶剤性、耐油性などの性能が損なわれることなく、二次加工性及び柔軟性が改善されているうえに、耐ブロッキング性にも優れる。したがって、このような樹脂組成物は、成形品、フィルム、シート、熱収縮フィルム等として好適に用いられる。
実施例1で得られた変性エチレン−酢酸ビニル共重合体のH−NMRスペクトルである。 実施例1で得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のH−NMRスペクトルである。
本発明の樹脂組成物に含まれる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、下記式(I)で表され、全単量体単位に対するa、b及びcの含有率(モル%)が下記式(1)〜(3)を満足し、かつ下記式(4)で定義されるケン化度(DS)が90モル%以上であるものである。この変性EVOH(A)は、エチレン単位及びビニルアルコール単位に加えて、共重合体の主鎖に1,3−ジオール構造を有する単量体単位を有することによって、当該単量体単位を含まないEVOHに比べて結晶性が低下しているので、柔軟性及び二次加工性を向上させることができる。また、当該単量体単位を含まないEVOHに比べて結晶化速度も低下しているため、変性EVOH(A)を含有する本発明の樹脂組成物からなる層を有する多層構造体の層間接着性も向上させることができる。さらに、この変性EVOH(A)は、1,3−ジオール構造の強い水素結合力により、結晶性の低下に起因するバリア性の低下を軽減させることができる。すなわち、バリア性能の低下を最小限に抑えながら、接着性、柔軟性、成形性、熱収縮性、層間接着性及び二次加工性を向上させることができる。さらに後述するように、変性EVOH(A)は、低コストで製造することができる。
式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。
式(I)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。R、R、R及びRは同じ基であってもよいし、異なっていてもよい。該アルキル基の構造は特に限定されず、一部に分岐構造や環状構造を有していてもよい。また、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。R、R、R及びRは、好ましくは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、水素原子がより好適である。当該アルキル基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖又は分岐を有するアルキル基が挙げられ、なかでも、メチル基及びエチル基がより好適であり、メチル基がさらに好適である。
式(I)において、X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。X、Y又はZが水素原子である場合には、式(I)が水酸基を有し、X、Y又はZがホルミル基又はアルカノイル基である場合には、式(I)がエステル基を有する。当該アルカノイル基としては、炭素数が2〜5のアルカノイル基であることが好ましく、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基などがより好適であり、アセチル基がさらに好適である。X、Y及びZは、いずれも、水素原子、又は水素原子を含む混合物であることが好ましい。
Xを含む単量体単位は、通常、ビニルエステルをケン化することによって得られる。したがって、Xが、水素原子と、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基との混合物であることが好ましい。単量体(酢酸ビニル)の入手のし易さや製造コストを考慮すれば、Xが、水素原子とアセチル基との混合物であることがより好ましい。
一方、Y及びZを含む単量体単位は、1,3−ジエステル構造を有する不飽和単量体単位を共重合してからケン化することによっても製造できるし、1,3−ジオール構造を有する不飽和単量体単位をそのまま共重合することによっても製造できる。したがって、Y及びZは、いずれも水素原子のみであってもよいし、水素原子とホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基との混合物、より好適には、水素原子とアセチル基との混合物であってもよい。
本発明の樹脂組成物に含まれる変性EVOH(A)は、全単量体単位に対するa、b及びcの含有率(モル%)が下記式(1)〜(3)を満足する。
18≦a≦55 (1)
0.01≦c≦20 (2)
[100−(a+c)]×0.9≦b≦[100−(a+c)] (3)
aは、全単量体単位に対するエチレン単位の含有率(モル%)を示したものであり、18〜55モル%である。エチレン単位含有率が18モル%未満では、変性EVOHの溶融成形性が悪化する。aは、好適には22モル%以上である。一方、エチレン単位含有率が55モル%を超えると、変性EVOH(A)のバリア性が不足する。aは、好適には50モル%以下である。
cは、全単量体単位に対する、式(I)中で右端に示されたY及びZを含む単量体単位の含有率(モル%)を示したものであり、0.01〜20モル%である。cが0.01モル%未満では、変性EVOH(A)の接着性、柔軟性、成形性及び二次加工性が不十分となる。また、得られる熱収縮フィルムの延伸性及び熱収縮性が不十分となる。cは、好適には0.05モル%以上であり、より好適には0.1モル%以上であり、さらに好適には0.5モル%以上である。一方、cが20モル%を超えると、結晶性が極度に低下することによって変性EVOHのバリア性が低下する。cは、好適には10モル%以下であり、より好適には5モル%以下である。特に優れたバリア性を有するためには、cは、2.0モル%以下が好適であり、0.8モル%以下がより好適である。
bは、全単量体単位に対するビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の含有率(モル%)を示したものである。これが下記式(3)を満足する。
[100−(a+c)]×0.9≦b≦[100−(a+c)] (3)
すなわち、本発明の変性EVOH(A)においては、エチレン単位と式(I)中で右端に示されたY及びZを含む単量体単位以外の単量体単位のうちの90%以上がビニルアルコール単位又はビニルエステル単位であるということである。式(3)を満足しない場合、ガスバリア性が不十分となる。好適には下記式(3’)を満足し、より好適には下記式(3”)を満足する。
[100−(a+c)]×0.95≦b≦[100−(a+c)](3’)
[100−(a+c)]×0.98≦b≦[100−(a+c)](3”)
本発明の樹脂組成物に含まれる変性EVOH(A)は、下記式(4)で定義されるケン化度(DS)が90モル%以上である。
DS=[(X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数)/(X、Y及びZの合計モル数)]×100 (4)
ここで、「X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数」は、水酸基のモル数を示し、「X、Y及びZの合計モル数」は、水酸基とエステル基の合計モル数を示す。ケン化度(DS)が90モル%未満になると、十分なバリア性能が得られないばかりか、変性EVOH(A)の熱安定性が不十分となり、溶融成形時にゲルやブツが発生しやすくなる。また、熱安定性が低下することにより、高温成形時のロングラン成形性が低下する傾向がある。ケン化度(DS)は、好適には95モル%以上であり、より好適には98モル%以上であり、さらに好適には99モル%以上である。特に優れたバリア性及び熱安定性を有するためには、ケン化度(DS)は、好適には99モル%以上であり、より好適には99.5モル%以上であり、さらに好適には99.8モル%以上である。
ケン化度(DS)は、核磁気共鳴(NMR)法によって得ることができる。上記a、b及びcで示される単量体単位の含有率も、NMR法によって得ることができる。また、本発明で用いられる変性EVOH(A)は、通常ランダム共重合体である。ランダム共重合体であることは、NMRや融点の測定結果から確認できる。
変性EVOH(A)の製造方法は特に限定されず、例えば、エチレン、下記式(II)で示されるビニルエステル、及び下記式(III)で示される不飽和単量体をラジカル重合させて下記式(IV)で示される変性エチレン−ビニルエステル共重合体を得た後に、それをケン化する方法が挙げられる。
式(II)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は、好適には1〜4である。式(II)で示されるビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニルなどが例示される。経済的観点からは酢酸ビニルが特に好ましい。
式(III)中、R、R、R及びRは式(I)に同じである。R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は、好適には1〜4である。式(III)で示される不飽和単量体としては、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテート、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジプロピオネート、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジブチレートなどが挙げられる。中でも、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテートが、製造が容易な点から好ましく用いられる。2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテートの場合、R、R、R及びRが水素原子であり、R及びRがメチル基である。
式(IV)中、R、R、R、R、R、R、R、a、b及びcは、式(I)〜(III)に同じである。こうして得られた変性エチレン−ビニルエステル共重合体は、その後ケン化処理される。
また、上記式(III)で示される不飽和単量体の代わりに、下記式(V)で示される不飽和単量体を共重合してもよく、この場合はケン化処理によって、上記式(II)で示される不飽和単量体由来の単位のみがケン化されることになる。
式(V)中、R、R、R及びRは、式(I)と同じである。式(V)で示される不飽和単量体としては、2−メチレン−1,3−プロパンジオール、2−メチレン−1,3−ブタンジオールが挙げられる。
本発明で用いられる式(III)及び式(V)で示される不飽和単量体は、ビニルエステル単量体との共重合反応性が高いため、共重合反応が進行しやすい。したがって、得られる変性エチレン−ビニルエステル共重合体の変性量や重合度を高くすることが容易である。また、低重合率で重合反応を停止させても重合終了時に残留する未反応の当該不飽和単量体の量が少ないので、環境面及びコスト面においても優れている。式(III)及び式(V)で示される不飽和単量体は、この点において、アリルグリシジルエーテルや3,4−ジアセトキシ−1−ブテンなど、アリル位に官能基を有する炭素原子が1個だけである他の単量体よりも優れている。ここで、式(III)で示される不飽和単量体は、式(V)で示される不飽和単量体よりも反応性が高い。
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体とを共重合して、変性エチレン−ビニルエステル共重合体を製造する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。また、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を採用できる。無溶媒又はアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度の変性エチレン−ビニルエステル共重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。
溶液重合法において用いられる溶媒は特に限定されないが、アルコールが好適に用いられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールがより好適に用いられる。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とする変性EVOHの粘度平均重合度や、溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との質量比(溶媒/全単量体)は、0.01〜10の範囲、好ましくは0.05〜3の範囲から選択される。
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)又は(V)で示される不飽和単量体とを共重合する際に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、過酸化アセチルなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて使用してもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合触媒により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて調整される。重合開始剤の使用量は、ビニルエステル単量体に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温〜150℃程度が適当であり、好ましくは40℃以上かつ使用する溶媒の沸点以下である。
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)又は(V)で示される不飽和単量体とを共重合する際には、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、連鎖移動剤の存在下で共重合してもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などが挙げられる。なかでも、アルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。重合反応液への連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とする変性エチレン−ビニルエステル共重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル単量体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
こうして得られた変性エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して、変性EVOH(A)を得ることができる。このとき、共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、式(III)で示される不飽和単量体に由来するエステル結合も同時に加水分解され、1,3−ジオール構造に変換される。このように、一度のケン化反応によって種類の異なるエステル基を同時に加水分解することができる。
変性エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化方法としては、公知の方法を採用できる。ケン化反応は、通常、アルコール又は含水アルコールの溶液中で行われる。このとき好適に使用されるアルコールは、メタノール、エタノールなどの低級アルコールであり、より好ましくはメタノールである。ケン化反応に使用されるアルコール又は含水アルコールは、その質量の40質量%以下であれば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの他の溶媒を含んでもよい。ケン化に使用される触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。ケン化を行う温度は限定されないが、20〜120℃の範囲が好適である。ケン化の進行に従ってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、変性EVOH(A)を得ることができる。
変性EVOH(A)は、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、エチレン、上記式(II)で示されるビニルエステル、及び上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体と共重合可能な、他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含んでもよい。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
本発明の変性EVOH(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
ここで、変性EVOH(A)が、異なる2種類以上の変性EVOHの混合物からなる場合、a、b、cで示される単量体単位の含有率、ケン化度、MFRは、配合質量比から算出される平均値を用いる。
本発明の樹脂組成物は、平均粒子径が0.3μmを超え20μm以下である無機粒子からなるブロッキング防止剤(B)を含有する。これにより、前記樹脂組成物の耐ブロッキング性が向上する。前記平均粒子径が0.3μm以下の場合には、耐ブロッキング性が不十分になる。一方、前記平均粒子径が20μmを超える場合には、得られる成形品の表面に凹凸が生じて、外観不良となる。前記平均粒子径は、10μm以下が好ましい。ブロッキング防止剤(B)は、無機粒子の凝集物(二次粒子)からなるものであっても構わない。この場合、当該凝集物の平均粒子径(平均二次粒子径)が上記範囲であればよい。前記凝集物を構成する無機粒子の平均一次粒子径は1〜300nmであることが好ましい。本発明において、前記無機粒子の平均粒子径は、樹脂組成物中の無機粒子の直径(最長径)を測定することにより求められ、具体的には後述する実施例に記載された方法等により測定される。
ブロッキング防止剤(B)を構成する前記無機粒子が無機酸化物粒子であることが好ましい。そして、当該無機酸化物粒子が酸化ケイ素粒子又は金属酸化物粒子であることが好ましい。前記金属酸化物粒子を構成する金属は、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、セリウム、タングステン、モリブデン、チタン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。ブロッキング防止剤(B)として用いられる無機酸化物粒子を構成する無機酸化物として具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛及びこれらの複合体等を挙げることができ、酸化ケイ素が好ましい。ブロッキング防止剤(B)として、1種類の無機粒子を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
本発明の樹脂組成物中における、ブロッキング防止剤(B)の含有量は5〜5000ppmである。当該含有量が5ppm未満の場合、耐ブロッキング性が不十分になる。当該含有量は、50ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましい。一方、ブロッキング防止剤(B)の含有量が5000ppmを超える場合、成形物にゲルやフィッシュアイ等が多発する。当該含有量は、3000ppm以下が好ましい。
本発明において、変性EVOH(A)にブロッキング防止剤(B)を含有させる方法は特に限定されず、変性EVOH(A)にブロッキング防止剤(B)を加えて押出機等で溶融混練する方法、変性EVOH(A)を溶融混練している際にブロッキング防止剤(B)の分散液を添加する方法、変性EVOH(A)の水/アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、フェノール等)混合溶液にブロッキング防止剤(B)を直接或いは水分散液(0.1〜10質量%程度)として加えて混合した後、析出物を乾燥させる方法等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物に含まれる変性EVOH(A)の、20℃、85%RHにおける酸素透過速度が100cc・20μm/m・day・atm以下であることが好適である。酸素透過速度は、より好適には10cc・20μm/m・day・atm以下であり、さらに好適には5cc・20μm/m・day・atm以下である。本発明では、上記のように、1,3−ジオール構造を有する単量体単位を有する変性EVOH(A)に所定量のブロッキング防止剤(B)を含有させることにより、ガスバリア性と、二次加工性及び柔軟性とが両立されているうえに、耐ブロッキング性にも優れた樹脂組成物とすることができる。
本発明の効果が阻害されない範囲であれば、本発明の樹脂組成物はさらに変性EVOH(A)及びブロッキング防止剤(B)以外の他の成分を含有していてもよく、例えば、変性EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂、可塑剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、金属塩、充填剤、各種繊維などの補強剤などが挙げられる。これらの成分を含有する樹脂組成物は、後述するとおり、変性EVOH(A)を用いた熱収縮フィルム及び燃料容器等において好適に用いられる。
なかでも、本発明の樹脂組成物がさらにアルカリ金属塩を含有することが好ましい。このようにアルカリ金属塩を含有する樹脂組成物とすることによって、変性EVOH(A)以外の樹脂と積層した時の層間接着性がさらに良好になる。アルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されないが、ナトリウム塩及びカリウム塩が好適である。アルカリ金属塩のアニオン種も特に限定されない。カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホウ酸塩、水酸化物等として添加することができる。前記樹脂組成物中のアルカリ金属塩の含有量は、アルカリ金属元素換算で10〜500ppmであることが好ましい。アルカリ金属塩の含有量が10ppm未満の場合には層間接着性を向上させる効果が十分得られない場合があり、より好適には50ppm以上である。一方、アルカリ金属塩の含有量が500ppmを超える場合には溶融安定性が不十分になる場合があり、より好適には300ppm以下である。
本発明の樹脂組成物がさらにリン酸化合物を含有することも好ましい。このようにリン酸化合物を含有する樹脂組成物とすることによって、溶融成形時の着色を防止することができる。本発明に用いられるリン酸化合物は特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよいが、第1リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの中でもリン酸2水素ナトリウム及びリン酸2水素カリウムが好ましい。前記樹脂組成物中のリン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で5〜200ppmであることが好ましい。リン酸化合物の含有量が5ppm未満の場合には、溶融成形時の耐着色性が不十分になる場合がある。一方、リン酸化合物の含有量が200ppmを超える場合には溶融安定性が不十分になる場合があり、より好適には160ppm以下である。
本発明の樹脂組成物がさらにホウ素化合物を含有してもよい。このようにホウ素化合物を含有する樹脂組成物とすることによって、加熱溶融時のトルク変動を抑制することができる。本発明に用いられるホウ素化合物としては特に限定されず、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と記載する場合がある)が好ましい。前記樹脂組成物中のホウ素化合物の含有量は、好適にはホウ素元素換算で20〜2000ppm以下であることが好ましい。ホウ素化合物の含有量が20ppm未満の場合には、加熱溶融時のトルク変動の抑制が不十分になる場合があり、より好適には50ppm以上である。一方、ホウ素化合物の含有量が2000ppmを超える場合にはゲル化しやすく、成形性が悪化する場合があり、より好適には1000ppm以下である。
また、本発明の効果が阻害されない範囲あれば、溶融安定性等を改善するために、ハイドロタルサイト化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系熱安定剤、高級脂肪族カルボン酸の金属塩(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)の一種以上を前記樹脂組成物に0.001〜1質量%含有させても構わない。
本発明の樹脂組成物が含有してもよい他の成分の具体的な例としては次のようなものが挙げられる。
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチル−ハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等。
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等。
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等。
帯電防止剤:ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等。
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等。
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等。
充填剤:グラスファイバー、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等。
本発明の樹脂組成物は、変性EVOH(A)を50質量%以上含むことが好適である。バリア性の観点からは、前記樹脂組成物が、変性EVOH(A)を75質量%以上含むことがより好適であり、95質量%以上含むことがさらに好適であり、98質量%以上含むことが特に好適である。
変性EVOH(A)に他の成分を含有させる方法は特に限定されず、公知の方法が採用される。変性EVOH(A)に対して、ブロッキング防止剤(B)と他の成分とを同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。例えば、変性EVOH(A)、ブロッキング防止剤(B)及び他の成分を同時に溶融混練する方法や、他の成分が溶解した溶液に変性EVOH(A)を浸漬させることによって変性EVOH(A)に他の成分を含有させてから、当該変性EVOH(A)とブロッキング防止剤(B)を溶融混練する方法が採用される。
本発明の樹脂組成物を含む成形品が本発明の樹脂組成物の好適な実施態様である。本発明の樹脂組成物は、EVOHが本来有するガスバリア性、透明性、保香性、耐溶剤性、耐油性などの性能が損なわれることなく、EVOH以外の樹脂に対する接着性、二次加工性及び柔軟性が改善されている。しかも、本発明の樹脂組成物からなる層を含むフィルムやシート等の成形品を重ねたり、ロール状にしたりして保管した際に成形品同士が固着(ブロッキング)しにくい。前記樹脂組成物を成形する方法は特に限定されない。ブロッキング防止剤(B)を含む変性EVOH(A)溶液を用いて成形することもできるが、前記樹脂組成物を溶融成形することが好ましい。溶融成形することにより、フィルム、シート、容器、パイプ、繊維等、各種の成形物が得られる。なかでも前記樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシートは、耐ブロッキング性や柔軟性が要求され、溶融成形後に延伸加工することが多いことから、本発明の樹脂組成物を使用するのに適した用途である。溶融成形方法としては、押出成形、射出成形、インフレーション成形、プレス成形、ブロー成形などの方法が例示される。なかでも、前記樹脂組成物を含む押出成形品がより好適な実施態様である。
本発明の樹脂組成物を含む成形品は、当該樹脂組成物からなる層(以下、樹脂組成物層と略記することがある)と変性EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂からなる層(以下、他の熱可塑性樹脂層と略記することがある)とを有し、最外層に当該樹脂組成物層を配置した多層構造体として使用されることがあり、当該多層構造体も耐ブロッキング性に優れた樹脂組成物を提供する本発明の実施態様である。このとき、前記樹脂組成物層と前記他の熱可塑性樹脂層とが接着性樹脂層を介して接着されていてもよい。前記樹脂組成物層はバリア性を担っており、その厚みは、通常3〜250μm、好適には10〜100μmである。一方、変性EVOH(A)以外の他の熱可塑性樹脂は特に制限されず、要求される透湿性、耐熱性、ヒートシール性、透明性などの性能や用途を考慮して適宜選択される。多層構造体全体の厚さは特に限定されないが、通常15〜6000μmである。前記樹脂組成物層と前記他の熱可塑性樹脂層とを有する積層フィルム又は積層シートも本発明の実施態様である。
他の熱可塑性樹脂層に使用される変性EVOH(A)以外の他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのポリオレフィン;ポリアミド;ポリエステル;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;アクリル樹脂;ポリ塩化ビニリデン;ポリアセタール;ポリカーボネートなどが例示される。
前記接着性樹脂層に用いられる接着性樹脂としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンを用いることが好ましい。このような接着性樹脂は、変性EVOH(A)との接着性にも、変性EVOH(A)以外の他の熱可塑性樹脂のうち、カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を含有しないものとの接着性にも優れている。
多層構造体は各種の製造方法によって得ることができ、共押出法、ドライラミネート法、サンドラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、溶液コート法などを採用することができる。これらの内、共押出法は、本発明の樹脂組成物と前記他の熱可塑性樹脂を、押出機より同時に押出して溶融状態下に積層し、ダイス出口から多層フィルム状に吐出する方法である。
前記接着性樹脂層の接着性樹脂として用いられるカルボキシル基を含有するポリオレフィンとしては、アクリル酸やメタクリル酸を共重合したポリオレフィンなどが挙げられる。このとき、アイオノマーに代表されるようにポリオレフィン中に含有されるカルボキシル基の全部あるいは一部が金属塩の形で存在していてもよい。カルボン酸無水物基を有するポリオレフィンとしては、無水マレイン酸やイタコン酸でグラフト変性されたポリオレフィンが挙げられる。また、エポキシ基を含有するポリオレフィン系樹脂としては、グリシジルメタクリレートを共重合したポリオレフィンが挙げられる。これらカルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンのうちでも、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物で変性されたポリオレフィン、特にポリエチレン及びポリプロピレンが接着性に優れる点から好ましい。
こうして得られた溶融成形品は、さらに二次加工に供されることが好ましい。本発明の樹脂組成物は、二次加工性に優れる。しかも、二次加工に供される本発明の樹脂組成物層を有するフィルムやシートは耐ブロッキング性に優れるため、取扱易い。二次加工の方法としては、一軸延伸、二軸延伸、延伸ブロー成形、熱成形、圧延などが例示される。特に、高い倍率で延伸された前記樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシートが本発明の好適な実施態様である。具体的には、面積倍率7倍以上に延伸されてなるフィルム又はシートが特に好適な実施態様である。二次加工に先立って、放射線照射などによる架橋を施してもよい。
こうして得られた本発明の成形品は、バリア性、柔軟性及び二次加工性に優れているので、フィルム、カップ、ボトル等、様々な形状に成形され、各種の容器などとして好適に用いることができる。
なかでも、前記樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシートを熱成形してなる熱成形品が、好適な実施態様である。本発明でいう熱成形とは、フィルム又はシート等を加熱して軟化させた後に、金型形状に成形することをいう。成形方法としては、真空あるいは圧空を用い、必要に応じてプラグを併用して金型形状に成形する方法(ストレート法、ドレープ法、エアスリップ法、スナップバック法、プラグアシスト法など)やプレス成形する方法などが好適なものとして挙げられる。成形温度、真空度、圧空の圧力又は成形速度等の各種成形条件は、プラグ形状や金型形状又は原料フィルムや原料シートの性質等により適当に設定される。前記多層フィルム又は多層シートを熱成形する際の成形温度は特に限定されるものではなく、前記多層フィルム又は多層シートの構成によって適宜調整する。例えば、成形温度としては、130〜200℃であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物を用いた熱収縮フィルム及び燃料容器も本発明の好適な実施態様である。以下、これらについて説明する。
本発明の樹脂組成物からなる層を有する熱収縮フィルムは本発明の好適な実施態様である。当該熱収縮フィルムはバリア性、延伸性及び熱収縮性に優れ、しかも生産性にも優れている。以下、当該熱収縮フィルムについて説明する。
ブロッキング防止剤(B)を含む変性EVOH(A)溶液を用いて成形することによりフィルムを得ることもできるが、前記樹脂組成物を溶融成形することによりフィルムを得ることが好ましい。前記熱収縮フィルムは、樹脂組成物層のみからなる単層フィルムであってもよい。単層フィルムの製造に採用される溶融成形方法としては、押出成形、インフレーション成形などの方法が例示される。単層フィルムの厚みは、3〜5000μmが好適であり、10〜500μmがより好適である。こうして得られたフィルムは、後述する延伸工程に供される。
前記熱収縮フィルムは、前記樹脂組成物からなる層と、変性EVOH(A)以外の他の熱可塑性樹脂からなる層とを有する多層フィルムであってもよい。このとき、一方の外層に前記樹脂組成物層を、他方の外層に前記他の熱可塑性樹脂層を配置する構成が好適である。前記樹脂組成物層と前記他の熱可塑性樹脂層とが接着性樹脂層を介して接着されてなることも好ましい。
延伸前の多層フィルムにおける、前記樹脂組成物層の厚みは、3〜250μmが好適であり、10〜100μmがより好適である。一方、前記他の熱可塑性樹脂層の厚みは特に制限されず、要求される透湿性、耐熱性、ヒートシール性、透明性などの性能や用途を考慮して適宜選択される。延伸前の多層フィルム全体の厚みは特に限定されないが、通常15〜6000μmである。
前記熱収縮フィルムの他の前記熱可塑性樹脂層に用いられる変性EVOH(A)以外の他の熱可塑性樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン(ブロック又はランダム)共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、或いはこれらを無水マレイン酸又は不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したものなどのポリオレフィン;ポリエステル;ポリアミド(共重合ポリアミドも含む);ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;アクリル樹脂;ポリスチレン;ポリビニルエステル;ポリエステルエラストマー;ポリウレタンエラストマー;塩素化ポリスチレン;塩素化ポリプロピレン;芳香族ポリケトン又は脂肪族ポリケトン、及びこれらを還元して得られるポリアルコール;ポリアセタール;ポリカーボネート等が挙げられる。なかでも、ヒートシール性及び熱収縮性が優れる観点からはエチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリエチレンが好適に用いられ、突刺強度や耐ピンホール性等の機械強度が優れる観点からはポリアミドが好適に用いられる。
前記熱収縮フィルムを構成する他の熱可塑性樹脂層には接着性樹脂が50質量%未満含有されていてもよいし、接着性樹脂層には前記他の熱可塑性樹脂が50質量%未満含有されていてもよい。前記熱収縮フィルムが複数種類の他の熱可塑性樹脂層を有していても構わない。
変性EVOH(A)以外の他の熱可塑性樹脂からなる層としてポリアミド層を用いる場合、接着性樹脂層を介さず、ポリアミド層と前記樹脂組成物層とが隣接する構成が好ましい。このような構成とすることで優れたバリア性と耐突き刺し強度とが得られる。さらに前記樹脂組成物層に代えて汎用のバリア性樹脂を用いた場合に比べ、収縮後における透明性が優れる。
熱収縮フィルムに用いられる多層フィルムの製膜方法として既存の各種方法が採用され、具体的には多層構造体の製造方法として上述した方法などが採用される。接着性樹脂としては、多層構造体に用いられる接着性樹脂として上述したものが使用される。
こうして得られた延伸前の単層又は多層のフィルムの、20℃、85%RHにおける酸素透過速度が100cc・20μm/m・day・atm以下であることが好適である。酸素透過速度は、より好適には10cc・20μm/m・day・atm以下であり、さらに好適には5cc・20μm/m・day・atm以下である。
得られた単層又は多層のフィルムを延伸する。延伸は、一軸延伸であってもよいし、二軸延伸であってもよい。二軸延伸は、同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。延伸方法としては、テンター延伸法、チューブラー延伸法、ロール延伸法などが例示される。前記熱収縮フィルムは、高い倍率で延伸されたものであることが好適である。具体的には、面積倍率7倍以上に延伸されてなる熱収縮フィルムが特に好適である。延伸温度は、通常50〜130℃である。フィルムを延伸する前に、放射線照射などによる架橋を施してもよい。収縮性をより高める観点からは、フィルムを延伸した後に、速やかに冷却することが好適である。
こうして得られた本発明の熱収縮フィルムの、20℃、85%RHにおける酸素透過速度が50cc・20μm/m・day・atm以下であることが好適である。酸素透過速度は、より好適には10cc・20μm/m・day・atm以下であり、さらに好適には5cc・20μm/m・day・atm以下である。
本発明の熱収縮フィルムは、バリア性、延伸性、熱収縮性及び層間接着性に優れ、しかも生産性にも優れている。したがって、食品包装容器、医薬品包装容器、工業薬品包装容器、農薬包装容器等の各種包装容器の材料として好適に用いられる。
本発明の樹脂組成物からなる層を有する燃料容器も本発明の好適な実施態様である。このような変性EVOH(A)及びブロッキング防止剤(B)を含有する樹脂組成物からなる層を用いることにより、前記燃料容器は、優れた耐衝撃性及び燃料のバリア性を有するとともに、二次加工性にも優れ、なおかつ低コストで製造できる。以下、当該燃料容器について説明する。
本発明の樹脂組成物を成形して、前記燃料容器が得られる。当該燃料容器は、前記樹脂組成物からなる層のみからなる単層容器であってもよいし、さらに、その他の材料の層を積層した多層容器であってもよい。力学的強度及び燃料のバリア性をさらに高めるためには、多層容器とすることが好適である。前記燃料容器は、前記樹脂組成物層と、変性EVOH(A)以外の他の熱可塑性樹脂からなる層とを有する多層容器であることが好適である。
前記樹脂組成物層と、前記他の熱可塑性樹脂層とを積層する場合には、両層の間に接着性樹脂層を配置することが好ましい。
燃料容器の前記他の熱可塑性樹脂層に用いられる熱可塑性樹脂としては、多層構造体に用いられる変性EVOH(A)以外の他の熱可塑性樹脂として上述したものが使用される。なかでもポリオレフィンであることが好適である。この場合には、上述した、多層にすることによって得られる効果が特に優れている。さらに、通常の条件下だけでなく、高湿度下での燃料のバリア性も向上する。
なかでも、高密度ポリエチレンが特に好適に使用される。本発明における高密度ポリエチレンとは、たとえばチグラー触媒を用い、低圧法又は中圧法により得られるもので、密度0.93g/cm以上、好適には0.94g/cm以上のものである。密度は、通常0.965g/cm以下である。本発明において高密度ポリエチレンの好適なメルトインデックス(MI)は、(190℃、2160g荷重下で測定した値)は、0.001〜0.6g/10分、好適には0.005〜0.1g/10分である。
このような高密度ポリエチレン層を、前記樹脂組成物層に積層することにより、耐衝撃性及び燃料のバリア性がさらに優れた燃料容器を得ることができる。
前記燃料容器の接着性樹脂層に使用される樹脂は特に限定されるものではないが、ポリウレタン系、ポリエステル系一液型あるいは二液型硬化性接着剤;カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンを用いることが好ましい。なかでも、前記樹脂組成物との接着性にも、前記他の熱可塑性樹脂のうち、カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を含有しないものとの接着性にも優れている点から、後者がより好ましい。
カルボキシル基を含有するポリオレフィンとしては、多層構造体に用いられる接着性樹脂として上述したものが使用される。
前記他の熱可塑性樹脂層をT及び接着性樹脂層をADと表すとき、具体的には、樹脂組成物層/AD/T等が好適な構成として挙げられる。
これらの各層の厚みはとくに限定されるものではないが、前記他の熱可塑性樹脂層の合計厚みは好適には300〜10000μm、より好適には500〜8000μm、さらに好適には800〜6000μmである。接着性樹脂層の合計厚みは好適には5〜1000μm、より好適には10〜500μm、さらに好適には20〜300μmである。樹脂組成物層の合計厚みは好適には5〜1000μm、より好適には20〜800μm、さらに好適には50〜600μmである。また全体厚みは好適には300〜12000μm、より好適には500〜8500μm、さらに好適には1000〜7000μmである。なお、これらの厚みは燃料容器の胴部における平均厚みをいう。全体厚みが大きすぎると質量が大きくなりすぎ、自動車等の燃費に悪影響を及ぼし、燃料容器のコストも上昇する。一方全体厚みが小さすぎると剛性が保てず、容易に破壊されてしまう問題がある。したがって、容量や用途に対応した厚みを設定することが重要である。
なお、本発明において燃料容器を形成する各層に各種の添加剤を配合することもできる。このような添加剤としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー等が挙げられ、具体的には、前記樹脂組成物に添加することができるものとして前述したようなものが挙げられる。
前記燃料容器を成形する方法は、特に限定されるものではない。例えば、一般のポリオレフィンの分野において実施されている成形方法、例えば、押出成形、ブロー成形、射出成形、熱成形等を挙げることができる。なかでも、ブロー成形法及び熱成形法が好適である。
また、熱成形法によって製造する場合には、前記樹脂組成物層を有するシートを熱成形して熱成形シートを得た後、二つの熱成形シートの端部同士をヒートシールすることによって接合して燃料容器を製造する。このとき、前記樹脂組成物層を有する多層シートを使用すれば、多層容器を製造することができる。前記多層シートを作製する方法は特に限定されず、例えばTダイ成形、共押出成形、ドライラミネート成形等を採用することができ、特に共押出成形が好適である。
このときの熱成形方法としては、熱成形品の成形方法として上述した方法が採用される。成形温度は特に限定されるものではなく、前記樹脂組成物層を有するシートの構成によって適宜調整する。例えば、成形温度としては、130〜200℃であることが好ましく、135〜195℃であることがより好ましく、140〜190℃であることがさらに好ましい。
これまで、このような方法によって多層の燃料容器を製造する場合においては、EVOH層に対して容器形状に二次加工する際に延展効果が働き、EVOH層の容器内における厚みが均一とならないことがあった。特に容器の角部などにおいてEVOH層にネッキング現象が起こった場合には、その部位におけるEVOH層の厚みが容器全体のEVOH層厚みの平均値に対して著しく薄くなり、容器全体のバリア性を損なうことがあった。本発明の変性EVOH(A)及びブロッキング防止剤(B)を含有する樹脂組成物は、層間接着性、柔軟性及び延伸性に優れていることから、二次加工性に優れているため、このような問題を低減することができる。
なお、上記熱成形の作業性を向上させる観点からは、ヒートシール部分が多少大きめになるような条件で熱成形を行い、熱成形を行った後に、不要な部分をカッターなどで切断することが好ましい。このようにして得られた熱成形シートからなる上底面及び下底面を、前記熱成形シートの端部同士をヒートシールして接合することによって、前記燃料容器が得られる。
得られた成形品や成形途中のパリソンやシートなどの容器前駆体に対して、放射線照射などによる架橋を施してもよい。
本発明における燃料容器とは、自動車、オートバイ、船舶、航空機、発電機及び工業用、農業用機器に搭載された燃料容器、もしくは、これら燃料容器に燃料を補給するための携帯用容器、さらには、これらを稼動するために用いる燃料を保管するための容器を意味する。また燃料としてはレギュラーガソリン、メタノール、エタノール、トルエン又はMTBE等をブレンドしたガソリン、バイオディーゼル燃料が代表例としてあげられるが、その他の重油、軽油、灯油なども例示される。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
製造例1
(1)変性EVAcの合成
ジャケット、攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた250L加圧反応槽に、酢酸ビニル(式(II)において、Rがメチル基:以下、VAcと称する)を120kg、メタノール(以下、MeOHと称することがある)を18kg、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテート(式(III)において、R、R、R及びRが水素原子で、R及びRがメチル基:以下、MPDAcと称する)を0.9kg仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで反応槽圧力(エチレン圧力)が3.4MPaとなるようにエチレンを導入した。反応槽内の温度を60℃に調整した後、開始剤として36gの2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製「V−65」)をメタノール溶液として添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を3.4MPaに、重合温度を60℃に維持した。6時間後にVAcの重合率が45%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応のVAcを除去した後、MPDAc由来の構造単位が共重合により導入された変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、変性EVAcと称することがある)にMeOHを添加して20質量%MeOH溶液とした。
(2)変性EVAcのケン化
ジャケット、攪拌機、窒素導入口、還流冷却器及び溶液添加口を備えた500L反応槽に(1)で得た変性EVAcの20質量%MeOH溶液を仕込んだ。この溶液に窒素を吹き込みながら60℃に昇温し、変性EVAc中の酢酸ビニルユニットに対し0.5等量の水酸化ナトリウムを2規定のMeOH溶液として添加した。水酸化ナトリウムMeOH溶液の添加終了後、系内温度を60℃に保ちながら2時間攪拌してケン化反応を進行させた。その後酢酸を添加してケン化反応を停止した。その後、60〜80℃で加熱攪拌しながら、イオン交換水を添加し、反応槽外にMeOHを留出させ、変性EVOHを析出させた。析出した変性EVOHを収集し、ミキサーで粉砕した。得られた変性EVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20:粉末1kgに対して水溶液20Lの割合)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。次いで、酢酸0.5g/L及び酢酸ナトリウム0.1g/Lを含有する水溶液10Lに4時間攪拌浸漬してから脱液し、これを60℃で16時間乾燥させることで変性EVOHの粗乾燥物を得た。得られた変性EVOHのメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は1.5g/10分であった。
(3)変性EVOH含水ペレットの製造
ジャケット、攪拌機及び還流冷却器を備えた80L攪拌槽に、(2)で得た変性EVOHの粗乾燥物、水、MeOHを仕込み、80℃に昇温して溶解させた。この溶解液を径4mmの管を通して5℃に冷却した水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることで変性EVOHの含水ペレットを得た。得られた変性EVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社製ハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、60質量%であった。
(4)変性EVOH組成物ペレットの製造
上記(3)で得た変性EVOHの含水ペレットを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣が除去された、変性EVOHの含水ペレットを得た。当該含水ペレットを酢酸ナトリウム濃度0.5g/L、酢酸濃度0.8g/L、リン酸濃度0.005g/Lの水溶液(浴比20)に投入し、定期的に攪拌しながら4時間浸漬させた。これを脱液し、80℃で3時間、及び105℃で16時間乾燥させることによって、変性EVOH組成物ペレットを得た。
(5)変性EVAc中の各構造単位の含有量
変性EVAc中の、エチレン単位含有率(式(IV)におけるaモル%)、酢酸ビニル由来の構造単位の含有量(式(IV)におけるbモル%)及びMPDAc由来の構造単位の含有量(式(IV)におけるcモル%)は、ケン化前の変性EVAcをH−NMR測定して算出した。
まず、(1)において得られた変性EVAcのMeOH溶液を少量サンプリングし、イオン交換水中で変性EVAcを析出させた。析出物を収集し、真空下、60℃で乾燥させることで変性EVAcの乾燥品を得た。次に、得られた変性EVAcの乾燥品を内部標準物質としてテトラメチルシランを含むジメチルスルホキシド(DMSO)−d6に溶解し、500MHzのH−NMR(日本電子株式会社製:「GX−500」)を用いて80℃で測定した。
図1に、変性EVAcのH−NMRスペクトルの一例として、実施例1で得られた変性EVAcのスペクトルを示す。当該スペクトル中の各ピークは、以下のように帰属される。
・0.6〜1.0ppm:末端部位エチレン単位のメチレンプロトン(4H)
・1.0〜1.85ppm:中間部位エチレン単位のメチレンプロトン(4H)、MPDAc由来の構造単位の主鎖部位メチレンプロトン(2H)、酢酸ビニル単位のメチレンプロトン(2H)
・1.85〜2.1ppm:MPDAc由来の構造単位のメチルプロトン(6H)と酢酸ビニル単位のメチルプロトン(3H)
・3.7〜4.1ppm:MPDAc由来の構造単位の側鎖部位メチレンプロトン(4H)
・4.4〜5.3ppm:酢酸ビニル単位のメチンプロトン(1H)
上記帰属にしたがい、0.6〜1.0ppmの積分値をx、1.0〜1.85ppmの積分値をy、3.7〜4.1ppmの積分値をz、4.4〜5.3ppmの積分値をwとした場合、エチレン単位の含有量(a:モル%)、ビニルエステル単位の含有量(b:モル%)及びMPDAc由来の構造単位の含有量(c:モル%)は、それぞれ以下の式にしたがって算出される。
a=(2x+2y−z−4w)/(2x+2y+z+4w)×100
b=8w/(2x+2y+z+4w)×100
c=2z/(2x+2y+z+4w)×100
上記方法により算出した結果、エチレン単位の含有量(a)は27.0モル%、ビニルエステル単位の含有量(b)は72.5モル%、MPDAc由来の構造単位の含有量(c)は0.5モル%であった。変性EVAcにおけるa、b及びcの値は、ケン化処理後の変性EVOHにおけるa、b及びcの値と同じである。
(6)変性EVOHのケン化度
ケン化後の変性EVOHについても同様にH−NMR測定を行った。上記(2)で得られた変性EVOHの粗乾燥物を、内部標準物質としてテトラメチルシラン、添加剤としてテトラフルオロ酢酸(TFA)を含むジメチルスルホキシド(DMSO)−d6に溶解し、500MHzのH−NMR(日本電子株式会社製:「GX−500」)を用いて80℃で測定した。図2に、変性EVOHのH−NMRスペクトルの一例として、実施例1で得られた変性EVOHのH−NMRスペクトルを示す。1.85〜2.1ppmのピーク強度が大幅に減少していることから、酢酸ビニルに含まれるエステル基に加え、MPDAc由来の構造単位に含まれるエステル基もケン化されて水酸基になっていることが明らかである。実施例1で得られたH−NMRスペクトルからもこのような1.85〜2.1ppmのピーク強度の減少が見られた。ケン化度は酢酸ビニル単位のメチルプロトン(1.85〜2.1ppm)と、ビニルアルコール単位のメチンプロトン(3.15〜4.15ppm)のピーク強度比より算出した。実施例1の変性EVOHのケン化度は99.9モル%以上であった。
(7)変性EVOHの融点
上記(4)で得られた変性EVOH組成物ペレットについて、JIS K 7121に準じて、30℃から215℃まで10℃/分の速度にて昇温した後100℃/分で−35℃まで急冷して再度−35℃から195℃まで10℃/分の昇温速度にて測定を実施した(セイコー電子工業株式会社製示差走査熱量計(DSC)「RDC220/SSC5200H」)。温度の校正にはインジウムと鉛を用いた。2ndランのチャートから前記JISにしたがって融解ピーク温度(Tpm)を求め、これを変性EVOHの融点とした。融点は187℃であった。
(8)変性EVOH組成物中のナトリウム塩含有量とリン酸化合物含有量
上記(4)で得られた変性EVOH組成物ペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後蓋をし、湿式分解装置(株式会社アクタック製:「MWS−2」)により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することで分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX製)に移し純水でメスアップした。この溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製「OPTIMA4300DV」)により含有金属の分析を行い、ナトリウム元素及びリン元素の含有量を求めた。ナトリウム塩含有量は、ナトリウム元素換算値で150ppmであり、リン酸化合物含有量は、リン酸根換算値で10ppmであった。
製造例2〜17
製造例1(1)における重合条件を表1に示すとおりに変更した以外は製造例1と同様にして、EVAc、EVOH及びEVOH組成物ペレットの作製及び分析を行った。結果を表1に示す。
実施例1
(1)樹脂組成物ペレットの製造
製造例1で得た変性EVOH組成物ペレットに対して、150ppmとなる量の平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径2μmである二酸化ケイ素粒子を添加し、両者がよく混ざるようにタンブラー(NISSUI KAKO社製)で5分間混ぜた。次に、二軸押出機の原料供給部に得られた混合物を10kg/時間で投入し、押出機内樹脂温度250℃で混練して押出すことにより、二酸化ケイ素粒子及び変性EVOH(A)を含有する樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレット中の二酸化ケイ素粒子の二次粒子径を以下のとおり求めた。白金パラジウムを蒸着した樹脂組成物ペレットをHITACHI製電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)「SU8010」を用い、加速電圧1.0kV、焦点距離:32mmの条件で観察した。一視野中で確認できた全凝集物(二次粒子)の粒子径を求めた。なお、凝集物(二次粒子)の粒子径として、当該凝集物の最長径を用いた。測定された二酸化ケイ素粒子の粒子径(二次粒子径)は2〜20μmであった。
このときの二軸押出機の仕様を以下に示す。
形式:二軸押出機
L/D:45.5
口径:30mmφ
スクリュー:同方向完全噛合型
回転数:300rpm
モーター容量:DC22KW
ヒーター:13分割タイプ
ダイスホール数:5穴(3mmφ)
(2)単層フィルムの作製
得られた樹脂組成物ペレットを用いて、株式会社東洋精機製作所製20mm押出機「D2020」(D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=2.0、スクリュー:フルフライト)を用いて以下の条件にて単層製膜を行い、単層フィルムを得た。
シリンダー温度:供給部175℃、圧縮部190℃、計量部190℃
ダイ温度:190℃
スクリュー回転数:40〜100rpm
吐出量:0.4〜1.5kg/時間
引取りロール温度:80℃
引取りロール速度:0.8〜3.2m/分
フィルム厚み:20〜150μm
なお、本明細書中の他の実施例及び比較例では、EVOHの融点にしたがって、以下の通り押出機の温度条件を設定した。
シリンダー温度:
供給部:175℃
圧縮部:EVOHの融点+30〜45℃
計量部:EVOHの融点+30〜45℃
ダイ温度:EVOHの融点+30〜45℃
(3)耐ブロッキング性評価
得られたロール状の単層フィルムを20℃、80%RHで24時間静置した後に手で当該フィルムを巻き出して、以下の基準に従って評価した。
A:フィルムを引き出す際にほとんど抵抗を感じることなくブロッキングが生じていなかった。
B:フィルムを引き出す際に若干抵抗が感じられてブロッキングが若干生じていた。
C:フィルムを引き出す際に大きな抵抗が感じられてブロッキングが著しく生じていた。
(4)延伸試験
得られた厚み150μmの単層フィルムを株式会社東洋精機製作所製パンタグラフ式二軸延伸装置にかけ、80℃で2×2倍〜4×4倍の延伸倍率において同時二軸延伸を行うことにより熱収縮フィルムを得た。フィルムが破れずに、ムラ及び局部的偏肉がなく延伸できた最大の延伸倍率を最大延伸倍率とした。その結果、4×4倍(面積倍率16倍)の延伸倍率においても、伸縮ムラ及び局部的偏肉がなく延伸できた。また、3×3倍の延伸倍率(面積倍率9倍)で延伸して得られた熱収縮フィルムを、以下の基準に従い評価した。その結果を表2に示す。
A:延伸ムラ及び局部的偏肉が認められず、外観が良好であった。
B:フィルムに破れは生じなかったが、延伸ムラ又は局部的偏肉が生じた。
C:延伸ムラ又は局部的偏肉が生じたうえに、フィルムに破れが生じた。
(5)シュリンク試験
得られた延伸倍率3×3の熱収縮フィルム(単層)を10cm×10cmにカットし、80℃の熱水に10秒浸漬させ、シュリンク率(%)を下記のように算出した。
シュリンク率(%)={(S−s)/S}×100
S:シュリンク前のフィルムの面積
s:シュリンク後のフィルムの面積
上記のシュリンク率を以下の基準に従い評価した。その結果を表2に示す。
A:80%以上
B:70%以上80%未満
C:70%未満
(6)酸素透過速度測定
上記(2)で得られた延伸前の厚さ20μmの単層フィルムを20℃、85%RHの条件下で3日間調湿後、同条件下で酸素透過速度の測定(Mocon社製「OX−TORAN MODEL 2/21」)を行った。その結果を表2に示す。
実施例2〜8、比較例6、11、15、19
EVOH(EVOH組成物)の種類、ブロッキング防止剤の含有量を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物、単層フィルム、延伸フィルム及び熱収縮フィルムの作製及び評価を行った。結果を表2に示す。
比較例1〜5、7〜10、12〜14、16〜18
EVOH(EVOH組成物)の種類を表2に示すとおりに変更したこと及びブロッキング防止剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物、単層フィルム、延伸フィルム及び熱収縮フィルムの作製及び評価を行った。結果を表2に示す。
1,3−ジオール構造を有する単量体単位を有する変性EVOH(A)に、所定量のブロッキング防止剤(B)を含有させてなる本発明の樹脂組成物(実施例1〜8)は、酸素バリア性、延伸性及び熱収縮性に優れるとともに耐ブロッキング性にも優れていた。一方、変性EVOH(A)に対して、ブロッキング防止剤(B)を添加しなかった場合(比較例1〜4、7〜9、12、13、16、17)、ロールからフィルムを引き出す際に大きな抵抗が感じられてブロッキングが著しく生じていた。未変性EVOHを用いた場合(比較例5、6、10、11、14、15、18、19)、延伸性及び熱収縮性が著しく低かった。

Claims (10)

  1. 下記式(I)で表され、全単量体単位に対するa、b及びcの含有率(モル%)が下記式(1)〜(3)を満足し、かつ下記式(4)で定義されるケン化度(DS)が90モル%以上である変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び平均粒子径が0.3μmを超え20μm以下である無機粒子からなるブロッキング防止剤(B)を含有し、ブロッキング防止剤(B)の含有量が5〜5000ppmである樹脂組成物。
    [式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。]
    18≦a≦55 (1)
    0.01≦c≦20 (2)
    [100−(a+c)]×0.9≦b≦[100−(a+c)] (3)
    DS=[(X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数)/(X、Y及びZの合計モル数)]×100 (4)
  2. 、R、R及びRが水素原子である請求項1に記載の樹脂組成物。
  3. X、Y及びZが、それぞれ独立に水素原子又はアセチル基である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
  4. 前記無機粒子が無機酸化物粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
  5. 前記無機酸化物粒子が酸化ケイ素粒子又は金属酸化物粒子である請求項4に記載の樹脂組成物。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を含む成形品。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物を含む押出成形品。
  8. 請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシート。
  9. 7倍以上に延伸されてなる請求項8に記載のフィルム又はシート。
  10. 請求項8又は9に記載のフィルム又はシートからなる熱収縮フィルム。
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