JP2018185424A - エレクトロクロミック素子及びそれを用いた調光部材 - Google Patents

エレクトロクロミック素子及びそれを用いた調光部材 Download PDF

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Abstract

【課題】 応答速度を犠牲にすることなく高コントラストとなる色変化を得られるエレクトロクロミック素子及びそれを用いた調光部材を提供する。【解決手段】 透明基材の内に多層膜を形成したエレクトロクロミック素子である。少なくとも透明基材の上に、遷移金属酸化物を含む透明電極層、第1のエレクトロクロミック層、電解質層、金属シアノ錯体を含むエレクトロクロミック層、第2の透明電極層を順に形成し、電解質層は、(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩を含むことを特徴とする。【選択図】 図1

Description

本発明は、電気化学反応により色変化するエレクトロクロミック素子及びそれを用いた調光部材に関する。
エレクトロクロミック素子(ECD)は、電気化学的な酸化還元により色の変化するエレクトロクロミック材料(EC材料)を用いた色可変素子である。色の変化によって反射率を制御する車載用ミラーや、光の透過率を制御して空調効率を高めことのできる車や建物の窓への使用が検討されている。さらには、ディスプレイ、サングラスなどへの使用も検討されている。
上記したように、近年では特に建物用や乗り物用の調光ガラスへのECDの応用が盛んに検討されている。調光ガラスをはじめとするECDの用途では、その色が極めて重要な意味を持つ。特に黒、グレー、ブラウン(茶色)などの遮光性の高い色の実現が望まれている。一方、現在市販化されているECDはその多くが青−透明の色変化である。例えば、酸化タングステンに代表される酸化物(特許文献1)、ビオロゲンに代表される小分子(特許文献2)、PEDOT−PSSに代表される高分子(特許文献3)、金属シアノ錯体に代表される配位高分子(特許文献4)のいずれかをECDの材料として用いて現在市販化されているものは、いずれも青−透明の色変化を示す。
また、最近では有機高分子材料や銀ナノ粒子を利用したECDも開発されている。しかしながら、有機高分子材料は一般的に耐光性に課題を抱えることが多く、調光ガラス用途には向いていない。また、銀ナノ粒子ECDは開発が始まったばかりであり、耐光性などの評価も十分になされていない。
このように耐光性などの観点からは、無機材料に一定の優位性があると考えられる。無機材料のなかでは金属酸化物と金属シアノ錯体がすでに商用化されている。特に、金属シアノ錯体は金属置換により多彩な色の実現が可能であり(特許文献5)、多色化への有力な材料と考えられる。
また、利便性・可搬性・可撓性・コスト等の兼ね合いから、透明な基材として樹脂等を用いたフレキシブル調光フィルムの開発が行われている(特許文献4)。しかしながら、主要なEC材料である遷移金属酸化物である酸化タングステンなどを用いたアプリケーションにおいては、固体電解質を含む種々材料はマグネトロンスパッタ法等による物理プロセスで主に製造されている。つまり、基材としてガラスを用いたバッチプロセスであるために大量生産に課題がある。また、特に固体電解質の作製方法により成膜時の投入熱量等による樹脂基材のダメージを抑制するために冷却装置が必要となるなどプロセス上の設備にも依存して高コストとなり、樹脂基材を用いたフレキシブル調光フィルムについては商業化が困難な実態がある。また、上記したように多色に対応できる樹脂基材による構成を未だ得られていない。
たとえば、DOEの予測データからも代表的な調光ガラスの総称であるSmart Glassは、2020年に26億USドル、2023年に42億ドルの市場規模が見込まれているが、これはLow−Eガラス等と同様に蒸着あるいはスパッタによるバッチプロセスでの製造を前提としているため製造コストと導入・ランニングコストの面で普及の障壁となっており、低コストな材料・プロセス開発が望まれている(非特許文献1)。
特開平08−254717号公報 特開2009−215166号公報 特表2005−519316号公報 特開2011−180469号公報 特開2016−74569号公報
QUADRENNIAL TECHNOLOGY REVIEW, Chapter5, p.160, DOE, 2015
このように、調光材料を用いた多種多様なアプリケーションの普及のためには、多用途のニーズに対応出来る色の選択性(多色性)、耐久性(回数、使用環境)、導入・制御システムの簡便さ、エネルギー使用量の低減が課題として挙げられる。特に着色時と無色透明時との間で高コントラストとなる色変化、ならびに高速応答の可能なエレクトロクロミック材料が望まれており、また、それを利用したエレクトロクロミック素子が望まれている。また、省エネルギー用窓材への応用においては熱エネルギーの高効率制御性の付与に関して、耐光性などの観点から無機材料によるEC材料を具備する形で実現することが望まれている。
本発明はこうした現状を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、応答速度を犠牲にすることなく高コントラストとなる色変化を得られるエレクトロクロミック素子及びそれを用いた調光部材を提供することにある。
発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、無機EC材料として、プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子を水に分散させた分散液を塗布などの手法により形成した電極と、遷移金属酸化物の一つである酸化タングステンによる電極とを組み合わせ、着色−透明のエレクトロクロミック素子を成型可能であることを見出した。特に、酸化タングステンを着色させる手法として既存の固体電解質ではなく、(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩を含む電解質を用いる方法を考案し、これにより従来のプロトン系、リチウム系のみを用いた電解質のみならず、カリウムやナトリウムなど比較的イオン半径の大きいイオン種においても薄膜中への掃引ができることを確認したため、ニーズに応じた種々のエレクトロクロミック材料の組み合わせによる多用途展開が可能となった。
また、従来のプルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子を用いたエレクトロクロミック素子では、高コントラスト化のためには薄膜の重ね塗りなど厚膜化を必要としたが、その厚膜化に応じて応答速度をトレードオフされる傾向があった。それに対して、プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子と酸化タングステンの着色と消色との挙動が酸化還元反応において逆反応であるため、電解質を挟んで組み合わせることで、着色度合いが向上し(高コントラスト化)、かつ、応答速度も担保された。
また、プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の金属原子置換による多色化を可能とし、酸化タングステンによる太陽エネルギーの熱成分である近赤外線/遠赤外線の遮蔽性能(制御能)を付与でき、高耐久性(高耐光性)化も諮れ、従来のプルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子のみを用いたエレクトロクロミック素子では適用できなかった、熱エネルギーを制御する省エネルギー用調光部材への適用が可能となった。
すなわち、本発明によるエレクトロクロミック素子は、透明基材の上に多層膜を形成したエレクトロクロミック素子であって、少なくとも前記透明基材の上に、第1の透明電極層、第1のエレクトロクロミック層、電解質層、第2のエレクトロクロミック層、第2の透明電極層を順に形成し、前記電解質層は、(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩を含み、前記第1のエレクトロクロミック層は遷移金属酸化物を含み、前記第2のエレクトロクロミック層は金属シアノ錯体を含むことを特徴とする、エレクトロクロミック素子。
上記した発明において、前記電解質層は、少なくとも、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、カリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ナトリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのいずれか一種類以上の(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩、および、有機溶媒を含むことを特徴としてもよい。
上記した発明において、前記遷移金属酸化物は、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化チタンのうちの少なくとも一種を含み、前記電解質層によって色変化を可能とすることを特徴としてもよい。
上記した発明において、前記金属シアノ錯体は、Aを陽イオン、Mをバナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる金属原子、M’をバナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる金属原子、xを0〜3の有理数、yを0.3〜1.5の有理数、zを0〜30の有理数として、
xM[M’(CN)6]y・zH2
の一般式で表される群より選ばれる1種又は2種以上からなるプルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子であることを特徴としてもよい。
上記した発明において、前記透明基材が、ガラス又は樹脂シートであることを特徴としてもよい。
また、本発明による調光部材は、上記した発明のうちの1つのエレクトロクロミック素子を用いたことを特徴とする。
以上によれば、金属シアノ錯体と酸化タングステンを適切に組み合わせることで、高コントラストに、かつ、高速に着色及び消色を切り替えることができるエレクトロクロミック素子を提供することができる。
本発明によるエレクトロクロミック素子の一例を示す断面図である。 代表的な金属シアノ錯体の結晶構造を示す図である。 電解質層にHTFSI―炭酸プロピレン溶液を用いた酸化タングステン薄膜のサイクリックボルタモグラムである。 実施例1によるECDの外観写真である。 実施例1によるECDの(a)可視光透過スペクトル及び(b)長波長領域の光透過スペクトルである。 実施例1によるECDの光照射による調光性能の経時変化を示すグラフである。 実施例2によるECDのサイクリックボルタモグラムである。 実施例2によるECDの可視光透過スペクトルである。 実施例2によるECDのサイクル耐性を示すグラフである。 実施例3によるECDの外観写真である。 実施例3によるECDのサイクリックボルタモグラムである。 実施例3によるECDの可視光透過スペクトルである。 実施例3によるECDのサイクル耐性を示すグラフである。 実施例4によるECDの可視光透過スペクトルである。
以下、本発明による1つの実施例であるエレクトロクロミック素子(ECD)について詳細に説明する。
図1に示すように、ECD10は金属シアノ錯体をエレクトロクロミック材料(EC材料)として利用した多層構造を有する。すなわち、遷移金属酸化物を含むエレクトロクロミック層1と、金属シアノ錯体を含むエレクトロクロミック層2と、これらによって挟み込まれた電解質層7と、さらにエレクトロクロミック層1及び2にそれぞれ外側から接続する透明電極層3及び4を含む。さらにその外側に樹脂やガラスなどの透明な材料からなる基材5や6を備えることが好ましい。
エレクトロクロミック層1の遷移金属酸化物としては、後述する電解質層7によって色変化を可能とする材料であり、特に、後述するエレクトロクロミック層2とは酸化状態及び還元状態での着色又は消色の反応を逆にする材料である。例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化チタンなどを使用でき、このうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
エレクトロクロミック層2の金属シアノ錯体としてはプルシアンブルー型金属錯体を用い得るが、電気化学的酸化還元を可逆的に起こすものであれば他の材料であってもよく、上記したようにエレクトロクロミック層1とは、酸化状態及び還元状態での着色及び消色の反応を逆にする材料である。
金属シアノ錯体をEC材料として利用する場合、透明電極上にEC材料による薄膜を形成してこれをエレクトロクロミック層とする製造方法が一般的である。ただし、目的とする色変化を電気化学的に実現できる限りにおいてその製造方法に限定されない。例えば、透明電極に接触させた電解質中に金属シアノ錯体を分散させてエレクトロクロミック層を形成してもよい。
上記したプルシアンブルー型金属錯体とは、その組成がAxM[M’(CN)6]y・zH2Oの一般式で表されるものを言う。また、M、M’が同定されている場合、M−M’シアノ錯体と呼ぶ。例えばM=亜鉛、M’=鉄の場合、亜鉛−鉄シアノ錯体という。
金属シアノ錯体の組成は必要とする色変化挙動に合わせて選ぶことができ、金属原子Mとしては、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる金属原子が好ましく、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛からなる群から選ばれる金属原子がより好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛からなる群から選ばれる金属原子が特に好ましい。また、金属原子M’としては、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる金属原子が好ましく、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、白金からなる群から選ばれる金属原子がより好ましく、鉄、コバルトからなる群から選ばれる金属原子がより好ましい。
Aは使用する金属シアノ錯体から電離して陽イオンとなる、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、アンモニウムからなる群より選ばれる原子である。
プルシアンブルー型金属シアノ錯体としては、上記したA、M、M’の組み合わせによる上記した一般式から選ばれる1種又は2種以上の組成のものを混合して用いることもできる。また、不純物として他の原子等、組成に現れていない材料を含んでいてもよい。
図2に示すように、金属シアノ錯体の結晶構造は、面心立方構造が一般的であるが、必ずしもそれに制限されない。例えば、K0.67Zn[Fe(CN)6]0.67・zH2Oは六方晶となる。また、Mbに配位するシアノ基は6個が一般的であるが、その一部がニトロ基などに置換されていてもよいし、4から8個の範囲内で、他の個数であってもよい。
金属シアノ錯体の望ましい粒径としては、一般論として、小さいことが好ましい。すなわち、電気化学応答速度の観点からは、粒径を小さくすることで比表面積を高めることができる。また平滑な薄膜を形成する観点からも金属シアノ錯体はその粒径を小さくすることが好ましく、ナノ粒子であることが好ましい。例えば、一次平均粒径は500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましい。粒径の下限に特に制限はないが、4nm以上であることが実際的である。ここで、一次粒径とは、一次粒子の直径をいい、例えば、その円相当直径を粉末X線構造解析のピークの半値幅より導出したものとし得る。また、配位子などが粒子表面に吸着している場合には、一次粒径は、配位子を除いたものを一次粒子として導出するものとする。
透明電極層3及び4は導電性材料であるとともに、電気化学素子として使用して腐食などの劣化が実用上問題のある程度に発生しないものであれば特に制限はなく、例えば、インジウム錫酸化物や酸化亜鉛およびそれにアルミニウムなどの金属をドープしたものなどの導電性酸化物、金や白金などの貴金属、ステンレスやアルミニウムなどの不働態被膜による耐腐食性を有する合金や金属などが利用できる。ただし、調光ガラスに用いるなど、素子の目的上、透明である。
また、透明電極層3及び4は平滑な板状体であることが一般的であるが、それに限定されない。特に、エレクトロクロミック層1、2との接触面積を増加させることは、応答速度の向上に資するので、平滑性を意図的に下げてもよい。例えば、平滑な透明電極層3、4の表面に導電性材料を付着させて凹凸を与えてもよい。さらには、エレクトロクロミック層1、2との密着性を向上させる目的や、腐食回避の目的のため、ほかの材料を添加してもよい。また、エレクトロクロミック層1、2と透明電極層3,4との間に導通を得られていればよく、透明電極層3,4の表面のうち、それぞれエレクトロクロミック層1、2とは反対側の表面に、絶縁材料などの他の材料を備えていてもよい。
電解質層7は、少なくとも(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩を含んで構成される。(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩としては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、カリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ナトリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのいずれか一種類以上を選択し得る。また、電解質層7は、有機溶媒を含むことが好ましく、有機溶媒としては例えば、炭酸プロピレンを用い得る。さらにメタクリル酸メチルポリマーなどの透明材料を添加して粘度を高めてもよい。
ECD10は二つの透明電極層3及び4からなる電極間に電圧を印加されることによって駆動する。すなわち、エレクトロクロミック層1及びエレクトロクロミック層2がそれぞれ酸化状態及び還元状態である状態1と、それぞれ還元状態及び酸化状態である状態2との間での色変化を電圧印加により操作できる。
例えば、エレクトロクロミック層1に酸化タングステン、エレクトロクロミック層2に鉄−鉄シアノ錯体を使用し、電解質層7に透明材料を使用した場合は、ECD10として、濃紺色−無色透明の色変化を呈する。酸化タングステンは酸化状態、鉄−鉄シアノ錯体は還元状態において、ともにほぼ無色透明である。よって、ECD10は状態1のときに無色透明となる。また、酸化タングステンは還元状態、鉄−鉄シアノ錯体は酸化状態において、ともに青く着色する。よって、ECD10は状態2のときに濃紺色を呈する。
以下に、ECD10を作製した実施例について詳細に説明する。
[エレクトロクロミック層2]
まず、エレクトロクロミック層2の作製について説明する。ここでは、金属シアノ錯体の分散液を調整し、透明電極4及び基材6の積層体となるITO被膜ガラス基板上に、エレクトロクロミック層2として金属シアノ錯体の薄膜を形成させた。
まず、金属シアノ錯体の分散液の調整例について説明する。
<調整例1:鉄−鉄シアノ錯体(プルシアンブルー)分散液>
鉄−鉄シアノ錯体の分散液を以下の様に調製した。
フェロシアン化ナトリウム・10水和物14.5gを水60mLに溶解した水溶液に、硝酸鉄・9水和物16.2gを水に溶解した水溶液30mLを混合し、5分間攪拌した。析出した青色の鉄−鉄シアノ錯体であるプルシアンブルーの沈殿物を遠心分離し、これを水で3回、続いてメタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥し、試料AFe1を得た。このときの収量は11.0gであり、収率はFe[Fe(CN)6]0.75・3.75H2Oとして97.4%であった。作製した鉄−鉄シアノ錯体の沈殿物を粉末X線回折装置で解析したところ、標準試料データベースから検索されるプルシアンブルーであるFe4[Fe(CN)6]3の回折情報と一致した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、試料AFe1は直径を5〜20nmとするナノ粒子の凝集体であった。
次いで、上記で得た試料AFe1の0.40gを水8mLに懸濁させた。この懸濁液に、フェロシアン化ナトリウム・10水和物を80mg加え、攪拌したところ青色透明溶液へと変化した。このようにして鉄−鉄シアノ錯体の分散液(DFe1)を得た。なお、関連技術の技術移転先である関東化学株式会社の製品(Lot.No.2381401など)を用いることも可能である。
<調整例2:亜鉛−鉄シアノ錯体分散液>
亜鉛−鉄シアノ錯体(M=Zn、M’=Fe)の分散液DZn1及びDZn2を以下の作製方法1及び作成方法2のそれぞれにより調製した。なお、下記の作製方法3とすることもできる。
(作製方法1)
フェロシアン化カリウム・3水和物1.69gを水1000mLに溶解した水溶液と塩化亜鉛0.82gを水1000mLに溶解した水溶液を準備した。液温を10度以下にコントロール可能なマイクロミキサー合成機を使用して140mL/分の速度で合成した。なお、合成部の断面積を直径150μmとするものを使用した。析出した白色の亜鉛−鉄シアノ錯体の沈殿物について、遠心分離を繰り返しながら濃縮し、減圧下で乾燥して粉末試料PZn1を得た。
得られた粉末試料PZn1を粉末X線回折装置で解析したところ、標準試料データベースから検索される亜鉛−鉄シアノ錯体、K0.66Zn[Fe(CN)6]0.66の回折情報と一致した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、この亜鉛−鉄シアノ錯体は直径を50〜200nmとするナノ粒子の凝集体であった。
次いで、粉末試料PZn1の1.5gを水8.5mLに懸濁させ、亜鉛−鉄シアノ錯体の分散液(DZn1)を得た。
(作製方法2)
フェリシアン化カリウム3水和物1.69gを水15mLに溶解した水溶液を用意する。また塩化亜鉛1.09gを水に溶解した水溶液15mLに濃塩酸を10倍希釈した水溶液を200μL添加し、3分間攪拌した。析出した亜鉛−鉄シアノ錯体の沈殿物を、遠心分離法を用いて水で5回洗浄し、スラリー状試料S1を得た。
次いで、スラリー状試料S1を水30mLに懸濁させた。この懸濁液に、フェリシアン化カリウム3水和物0.51gを水10mLに溶解させて加え、一日攪拌した。その後、高速遠心法によって亜鉛−鉄シアノ錯体を二回洗浄し、水40mLに懸濁させ、亜鉛−鉄シアノ錯体の分散液(DZn2)を得た。
(作製方法3)
フェロシアン化カリウム・3水和物1.69gを水1000mLに溶解した水溶液と塩化亜鉛0.82gを水1000mLに溶解した水溶液を冷蔵庫にて液温を10度以下とするまで冷却した。10度以下の冷却を確認後に2つの水溶液を混合し、5分間攪拌した。析出した白色の亜鉛−鉄シアノ錯体の沈殿物を、遠心分離を繰り返しながら濃縮し、減圧下で乾燥して粉末試料PZn3を得た。
得られた粉末試料PZn3を粉末X線回折装置で解析したところ、標準試料データベースから検索される亜鉛−鉄シアノ錯体、K0.66Zn[Fe(CN)6]0.66の回折情報と一致した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、この亜鉛−鉄シアノ錯体は直径を50〜200nmとするナノ粒子の凝集体であった。
次いで、粉末試料PZn3の1.5gを水8.5mLに懸濁させ、亜鉛−鉄シアノ錯体分散液(DZn3)を得た。
さらに、金属シアノ錯体の薄膜の作製について説明する。
<鉄−鉄シアノ錯体薄膜の作製>
調整例1で調製した鉄−鉄シアノ錯体の分散液DFe1を用い、ITO被膜ガラス基板上にスピンコート法により鉄−鉄シアノ錯体薄膜を作製した。より詳細には、スピンコーターに25mm角ITO被膜ガラス基板を設置し、9wt%に調整した分散液DFe1を60μL滴下し、1000rpmで10秒回転させ、次いで1500rpmで10秒回転させて、ITO被膜ガラス基板上に鉄−鉄シアノ錯体薄膜TFe1を作製した。
<亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜の作製>
調整例2で調製した亜鉛−鉄シアノ錯体分散液DZn1およびDZn2を用い、各々について、ITO被膜ガラス基板上にスピンコート法により亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜を作製した。より詳細には、スピンコーターに25mm角ITO被膜ガラス基板を設置し、15wt%に調整した分散液DZn1を60μL滴下し、1000rpmで10秒回転させ、1500rpmで10秒回転させて、ITO被膜ガラス基板上に亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜TZn1を作製した。分散液DZn2においても同様の方法を用い、亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜TZn2を作製した。これらの亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜のうち後述する実施例において、亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜TZn2を使用した。
[エレクトロクロミック層1]
次に、エレクトロクロミック層1の作製について説明する。ここでは、透明電極3及び基材5の積層体となるITO被膜ガラス基板上に、エレクトロクロミック層1として遷移金属酸化物の薄膜を形成させた。
<酸化タングステン薄膜の作製>
遷移金属酸化物として酸化タングステンを用いた薄膜の形成を以下のように行った。まず、蒸着法を用いてITO被膜ガラス基板上に酸化タングステン薄膜TW1を形成されたWO/ITO/ガラス(ジオマテック社製)を用いた。また、作製の高効率プロセス化の観点で、商業用可視光応答型光触媒材料である酸化タングステンスラリー(東芝マテリアル製)の塗布法によって酸化タングステン薄膜TW2を作製した。詳細には当該スラリー90μlをマイクロピペットで量り取り、スピンコーターに設置した25mm角ITO被膜ガラス基板上に滴下し、100rpmで300秒回転させ、次いで1000rpmで10秒回転させて薄膜を形成した。作製した当該薄膜を500℃で1時間保持する熱処理を行うことで安定化させた。比較のために、熱処理を行わずに室温乾燥のみとしてその他を同様の作製方法とした酸化タングステン薄膜TW3も得た。
なお、酸化タングステン薄膜は、原料として塩化タングステン、金属タングステン、などを用いたゾルゲル法、簡便な物理プロセスであるマグネトロンスパッタ法などによっても作製可能である。
一例として、図3にITO被膜ガラス基板上に形成させた酸化タングステン薄膜TW1の電気化学特性を示すグラフを示す。ここでは、対極に白金線、参照極に飽和カロメル電極、電解質に濃度0.00775mol/Lのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(HTFSI)−炭酸プロピレン溶液を用い、スキャンレート5ミリボルト/秒でサイクリックボルタモグラムを取得した。このことから、酸化タングステン薄膜TW1は(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩を電解質として用いた系においても良好な電気化学特性を有することが分かった。
次いで、エレクトロクロミック層1及び2として、上記で作製した酸化タングステン薄膜及び金属シアノ錯体薄膜を組み合わせてECD10を作製し、それぞれについて可視光透過スペクトルの測定などの調査を行った結果について説明する。
[実施例1] 濃紺色−無色透明のエレクトロクロミック素子である酸化タングステン/亜鉛−鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子(ECD)を作製した。詳細には、電極上に酸化タングステン薄膜TW1の形成されたITO被膜ガラス基板と、電極上に亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜TZn2の形成されたITO被膜ガラス基板との間に、ガラス基板を外側にして電解質を挟み込んで、ECDを作製した。電解質としては、濃度0.005mol/Lのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(HTFSI)―濃度0.2mol/Lのカリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)―炭酸プロピレン溶液を用いた。また、電荷量を63ミリクーロンとするように調整した。
図4に作製したECDに電圧を印加した状態の外観写真を示す。なお、作用極を酸化タングステン薄膜TW1側として電位を規定している。同ECDは、0V電圧印加において透明状態(消色)を呈し、−1.7V電圧印加において濃い着色状態を呈した。
図5(a)には、同ECDの上記した透明状態及び着色状態の可視光透過スペクトルを示した。このことより、同ECDは−1.7Vでは濃紺色に着色され、0Vでは無色透明に消色されることが判る。可視光透過率を算出すると、透明状態で79.9%、着色状態で10.4%(ΔT=69.5%)となった。
また、図5(b)には、より長波長領域まで拡げた光透過スペクトルを示した。同図から判るように、金属シアノ錯体に酸化タングステン薄膜を組み合わせることで、同ECDは長波長成分の制御能を発現することができた。
図6に耐光性試験の結果を示す。耐光性試験においては、光量を1000W/m2相当とする光を当て続けて、波長700nmの光の透過率を透明状態及び着色状態のそれぞれにおいて測定した。その結果、1000時間以上の保持後においても透過率を大きく変化させることなく動作することが確認された。
[実施例2]
濃紺色−無色透明のエレクトロクロミック素子として、酸化タングステン/鉄−鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子を作製した。詳細には、電極上に酸化タングステン薄膜TW1の形成されたITO被膜ガラス基板と、電極上に鉄−鉄シアノ錯体薄膜TFe1の形成されたITO被膜ガラス基板との間に、ガラス基板を外側にして電解質を挟み込んで、ECDを作製した。電解質としては、濃度0.1mol/Lのカリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)―炭酸プロピレン溶液に、メタクリル酸メチルポリマーを炭酸プロピレン100重量部に対して30重量部添加して、60℃から80℃の加熱を24時間程度行って粘度を高めたものを用いた。また、電荷量を70ミリクーロンとするように調整した。同ECDは作用極を酸化タングステン薄膜側として電位を規定した。
図7には、同ECDのサイクリックボルタモグラムをスキャンレート5ミリボルト/秒で測定した結果を示した。これより、作製したECDは良好な電気化学反応を示すことが判る。
図8には、同ECDの可視光透過スペクトルを取得した結果を示した。同図に示すように、同ECDは−0.8V電圧印加において濃い着色状態を呈した。さらに、+1.2Vの電圧印加において、無色透明状態に戻った。
図9にサイクル耐性を調べた結果を示す。サイクル試験としては、60秒を1サイクルとして−0.8V及び+1.2Vをそれぞれ30秒間ずつ連続的に印加し続け、透過率変化を測定した。図のように、同ECDは100回程度のサイクルではほとんど劣化を生じないことが判る。
[実施例3]
濃紺色−無色透明のエレクトロクロミック素子である酸化タングステン/鉄−鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子(ECD)を作製した。詳細には、電極上に酸化タングステン薄膜TW2の形成されたITO被膜ガラス基板と、電極上に鉄−鉄シアノ錯体薄膜TFe1の形成されたITO被膜ガラス基板との間に、ガラス基板を外側にして電解質を挟み込んで、ECDを作製した。電解質としては、濃度2.5mol/Lのカリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)―炭酸プロピレン溶液を用いた。また、電荷量を220ミリクーロンとするように調整した。同ECDは作用極を酸化タングステン薄膜側として電位を規定した。
図10に作製したECDに電圧を印加した状態の外観写真を示す。同ECDは、+1.0V電圧印加において透明状態(消色)を呈し、−1.2V電圧印加において濃い着色状態を呈した。
図11には、同ECDのサイクリックボルタモグラムをスキャンレート5ミリボルト/秒で測定した結果を示した。これより、作製したECDは良好な電気化学反応を示すことが判る。
図12には、同ECDの可視光透過スペクトルを取得した結果を示した。同ECDは、−1.2V電圧印加において濃い着色状態を呈した。さらに、+1.0Vの電圧印加において無色透明状態に戻った。
図13にサイクル耐性を調べた結果を示す。サイクル試験としては、60秒を1サイクルとして−1.2V及び+1.0Vをそれぞれ30秒間ずつ連続的に印加し続け、透過率変化を測定した。図のように、同ECDは100回程度のサイクルでは全く劣化を生じないことが判る。
表1には、応答速度を同ECD(本技術)と、既存素子(鉄−鉄シアノ錯体/亜鉛―鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子:既存技術)とで比較した結果を示した。最大透過率の80%を示すまでの時間を応答速度と規定した。同ECDは1枚のみで、既存素子を2枚重ねしたとき以上の濃紺色を示し、かつ、高速に切り替えることが可能であることが判る。
Figure 2018185424
[実施例4]
濃紺色−無色透明のエレクトロクロミック素子である酸化タングステン/鉄−鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子(ECD)を作製した。詳細には、電極上に酸化タングステン薄膜TW3の形成されたITO被膜ガラス基板と、電極上に鉄−鉄シアノ錯体薄膜TFe1の形成されたITO被膜ガラス基板との間に、ガラス基板を外側にして電解質を挟み込んで、ECDを作製した。電解質としては、濃度2.5mol/Lのカリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)―炭酸プロピレン溶液を用いた。また、電荷量を220ミリクーロンとするように調整した。同ECDは作用極を酸化タングステン薄膜側として電位を規定した。
図14には、同ECDの可視光透過スペクトルを取得した結果を示した。同ECDは、−1.2V電圧印加において濃い着色状態を呈した。さらに、+2.4Vの電圧印加において無色透明状態に戻った。同ECDに用いた酸化タングステン薄膜は室温プロセスで形成しており、比較的加熱に弱い樹脂基材などの適用も期待できる。
本発明により、有機エレクトロクロミック材料を使用することなく、透過率の変化幅の大きい高コントラストの着色−消色を行うエレクトロクロミック素子を実現することができる。この素子は、調光ガラス、ディスプレイ、インジケータ、調光ミラーなどへの使用を想定され、特に長波長成分の制御能も有するため、自動車用窓ガラスや建材用窓ガラスなど太陽エネルギーの熱成分である赤外線などの流入量を最適化できる省エネルギー用調光部材としての使用も期待される。
以上、本発明による実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
1、2 エレクトロクロミック層
3、4 透明電極層
5、6 基材
7 電解質層

Claims (6)

  1. 透明基材の上に多層膜を形成したエレクトロクロミック素子であって、
    少なくとも前記透明基材の上に、第1の透明電極層、第1のエレクトロクロミック層、電解質層、第2のエレクトロクロミック層、第2の透明電極層を順に形成し、
    前記電解質層は、(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩を含み、
    前記第1のエレクトロクロミック層は遷移金属酸化物を含み、
    前記第2のエレクトロクロミック層は金属シアノ錯体を含むことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
  2. 前記電解質層は、少なくとも、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、カリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ナトリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのいずれか一種類以上の(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩、および、有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1記載のエレクトロクロミック素子。
  3. 前記遷移金属酸化物は、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化チタンのうちの少なくとも一種を含み、前記電解質層によって色変化を可能とするものであることを特徴する請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック素子。
  4. 前記金属シアノ錯体は、
    Aを陽イオン、
    Mをバナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる金属原子、
    M’を、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる金属原子、
    xを0〜3の有理数、yを0.3〜1.5の有理数、zを0〜30の有理数として、
    xM[M’(CN)6]y・zH2
    の一般式で表される群より選ばれる1種又は2種以上からなるプルシアンブルー型金属錯体であることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載のエレクトロクロミック素子。
  5. 前記透明基材がガラス又は樹脂シートであることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載のエレクトロクロミック素子。
  6. 請求項1乃至5のうちの1つに記載のエレクトロクロミック素子を用いたことを特徴とする調光部材。
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