このような分離技術に用いられる多孔質膜は、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れることが求められる。
具体的には、多孔質膜の透過性能が高ければ、成分を分離する際に必要な圧力等を低減できるだけではなく、必要な膜面積が小さくすることができる。このため、多孔質膜の設置面積を小さくできるため、多孔質膜を用いた分離技術を実現する装置を小型化することができる。さらに、分離に必要なエネルギも少なくてすみ、多孔質膜の交換費を抑えることができる。これらのことから、コスト面でも有利になる。これらのことから、多孔質膜の透過性能の向上、すなわち、透過抵抗の低減が求められている。
また、多孔質膜は、その分離性能を高めることが可能であれば、除去対象が広がるという利点等がある。具体的には、多孔質膜を水処理用の分離膜として用いる場合には、多孔質膜の分離性能が50nm以上100nm以下程度であれば、その多孔質膜は、精密ろ過膜として、微生物や細菌の除去に適用できる。また、多孔質膜の分離性能が、1nm以上10nm以下程度であれば、その多孔質膜は、限外ろ過膜として、微小病原菌やたんぱく質の除去に適用できる。また、多孔質膜の分離性能が、2nm以下程度であれば、逆浸透膜として、脱塩等に適用できる。除去対象物に合わせて、多孔質膜の分離性能を高めようとすると、一般的には、多孔質膜に形成されている細孔を小さくする。そして、細孔を小さくすることは、多孔質膜の透過性能の低下につながる。このことから、多孔質膜は、一般的に、透過性能が高まれば、分離性能が低下し、また、分離性能が高まれば、透過性能が低下するといったような、透過性能と分離性能とが、いわゆるトレードオフの関係になりやすい。
また、分離膜として用いた多孔質膜は、分離操作中に、破断等の破損によって、リークと呼ばれる、膜透過ではない透過液の通過が発生しないことが求められる。このようなリークが発生すると、多孔質膜による分離機能は失われ、例えば、浄水場等における水処理の分離膜として用いられている場合、原虫や細菌類等が、水処理した後の水に混入し、健康被害が発生するおそれがある。このため、多孔質膜には、このようなリークが発生しないように、破断等が発生しないような充分に高い物理的強度を有することが求められている。多孔質膜に物理的強度を高めるためには、一般的には、多孔質膜の空隙率を低減させて緻密化させることが考えられる。このような緻密化は、分離性能を向上させるときと同様、多孔質膜の透過性能の低下につながる。このことから、多孔質膜は、透過性能と分離性能との関係と同様、透過性能と物理的強度とが、いわゆるトレードオフの関係になりやすい。このトレードオフの関係とは、具体的には、多孔質膜は、一般的に、透過性能が高まれば、物理的強度が低下し、また、物理的強度が高まれば、透過性能が低下するといったような関係である。
以上のことから、多孔質膜は、透過性能と、分離性能及び物理的強度とをともに向上させることは困難である。
特許文献1〜3によれば、上述したように、これらの性能を向上させることができる旨が開示されている。
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1〜3に記載された膜では、透過性能が充分ではなかった。さらに、特許文献2に記載された高分子膜は、三次元網目構造層と球状構造層とを、順次作成した別の層である。このため、特許文献2に記載された高分子膜では、透過性能が充分でないだけではなく、これらの層が剥離してしまうおそれもあった。また、特許文献3に記載の複合中空糸膜も、特許文献2に記載された高分子膜と同様、透過性能が充分でないだけではなく、支持層と分離層とが剥離してしまうおそれもあった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた多孔質膜、及び前記多孔質膜を備える複合膜を提供することを目的とする。また、本発明は、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた多孔質膜を製造する多孔質膜の製造方法を提供することを目的とする。
3次元網目構造を有する多孔質膜は、膜内に細孔を画定する骨格を有する。また、この膜内に形成される細孔の状態、具体的には、細孔の数、細孔の形状、細孔の大きさ、及び空隙率等によって、多孔質膜の、透過性能、分離性能、及び物理的強度は変わると考えられる。一般的には、上述したように、細孔の数が多くて、細孔が大きいような、空隙率の高い多孔質膜は、透過性能が高いと考えられる。しかしながら、このような多孔質膜は、分離性能及び物理的強度が低くなる傾向がある。一方で、分離性能及び物理的強度を高めるためには、多孔質膜を緻密にして、空隙率を低くすることが考えられる。しかしながら、多孔質膜全体を緻密にすると、透過性能が低下すると考えられる。
そこで、本発明者は、多孔質膜を構成する骨格にも、細孔を形成することによって、3次元網目構造としては同じ構造を有し、3次元網目構造の骨格に細孔が形成されていない多孔質膜より、細孔の数が増え、空隙率が高まり、透過抵抗を低減できると考えた。一方で、このような多孔質膜であれば、骨格に細孔を形成することにより空隙率を高めているので、骨格で画定された細孔の数及び前記細孔の大きさは大きく変わらないと考えた。このことにより、空隙率を高めても、分離性能の低下を抑制できると考えた。さらに、このような多孔質膜であれば、同様の3次元網目構造を維持しているので、物理的強度の低下も抑制できると考えた。また、この多孔質膜は、骨格に細孔が形成されていても、ハニカム構造のようになるので、この点でも、物理的強度の低下も抑制できると考えた。
本発明者は、上記のように、多孔質膜の構造を制御することで、透過性能、分離性能、及び物理的強度を制御できることに着目し、後述する本発明に想到するに到った。
また、本発明者は、多孔質膜の構造を制御する際、相分離法を活用して得られる多孔質膜についても検討した。多孔質膜を得る際に用いられる相分離法としては、例えば、非溶剤誘起相分離法(Nonsolvent Induced Phase Separation:NIPS法)や、熱誘起相分離法(Thermally Induced Phase Separation:TIPS法)等が挙げられる。
NIPS法とは、樹脂を溶剤に溶解させた均一な製膜原液を、樹脂を溶解させない非溶剤等の凝固液と接触させることで、製膜原液と凝固液との濃度差を駆動力とした、製膜原液の溶剤と凝固液との置換、すなわち、溶剤交換により、相分離現象を起こさせる方法である。
また、TIPS法とは、温度変化により、相分離現象を起こさせる方法である。TIPS法は、例えば、高温下では樹脂を溶解させることができるが、温度が低下すると溶解できなくなる貧溶媒に、高温下で樹脂を溶解させた製膜原液を、溶解可能な温度以下に冷却させるか、溶解可能な温度以下の凝固液と接触させることで、熱交換により、相分離現象を起こさせる方法等が挙げられる。
このような相分離法による多孔質膜の製造方法は、一般的に、溶剤交換や熱交換等の相分離を起こさせる速度によって、形成される細孔の孔径が変化する。具体的には、相分離を起こさせる速度が速いと、形成される細孔が小さくなる傾向がある。また、相分離を起こさせる速度が遅いと、形成される細孔が大きくなる傾向がある。そして、一般的に、熱交換速度は、溶剤交換速度より速いので、TIPS法のほうが、NIPS法より小さい細孔を形成させることができると考えられる。そこで、発明者は、このような相分離法の条件を操作することによって、多孔質膜の構造を制御し、透過性能、分離性能、及び物理的強度を制御できることに着目し、後述する本発明に想到するに到った。
本発明の一態様に係る多孔質膜は、熱可塑性樹脂を含む多孔質膜であって、前記多孔質膜を構成する骨格が、前記骨格で画定される第1孔より小さい第2孔が形成された骨格である。
このような構成によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた多孔質膜を提供することができる。
このことは、以下のことによると考えられる。
まず、多孔質膜を構成する骨格は、この骨格で画定される第1孔より小さい第2孔を備える。すなわち、前記多孔質膜は、前記骨格と前記第1孔とで、3次元網目構造を構成し、前記骨格に、3次元網目構造を構成する第1孔とは別に、それより小さい第2孔を備える。このことにより、本発明の一態様に係る多孔質膜は、前記第2孔が前記骨格に形成されていない場合より、細孔の数が増え、空隙率が高まり、透過抵抗を低減できると考えられる。よって、透過性能を高めることができると考えられる。
また、前記多孔質膜は、上述したように、透過性能を高めるために、3次元網目構造を構成する第1孔の大きさや数を変化させているのではないので、第2孔が形成されることにより空隙率が高まっていたとしても、分離性能の低下は充分に抑制されると考えられる。このため、空隙率を高めても、分離性能の低下を抑制できると考えられる。
また、前記第2孔は、前記第1孔より小さいので、多孔質膜における3次元網目構造で除去されず、膜内に入ってきた物質によって、前記第2孔が目詰まりすることも抑制できると考えられる。このため、分離操作を行うことにより、前記第2孔が目詰まりすることによる透過性能の低下も抑制できると考えられる。
さらに、前記多孔質膜は、透過性能を高めるために、3次元網目構造を構成する第1孔の大きさや数を変化させているのではないので、前記第2孔が前記骨格に形成されていない場合と同様の3次元網目構造を維持していると考えられる。また、前記骨格も、前記第1孔よりも小さい第2孔が形成されているだけであるので、いわゆるハニカム構造のようになり、骨格の強度低下も抑制される。これらのことから、空隙率を高めても、物理的強度の低下を抑制できると考えられる。
以上のことから、前記第2孔は、分離性能及び物理的強度の低下を抑制しつつ、多孔質膜の空隙率を高め、透過性を高めるために寄与すると考えられる。よって、本発明の一態様に係る多孔質膜は、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れていると考えられる。
また、前記多孔質膜において、前記第2孔は、独立した空間を有することが好ましい。
このような構成によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度により優れた多孔質膜を提供することができる。このことは、以下のことによると考えられる。前記骨格における前記第2孔が、前記第1孔より小さく、独立した空間を有する孔であるので、前記骨格が、骨格自体の強度低下を抑制できる構造、いわゆるハニカム構造がより好適に形成されると考えられる。このため、前記第2孔が前記骨格に形成されていることにより奏される効果、すなわち、分離性能及び物理的強度の低下を抑制しつつ、多孔質膜の空隙率を高め、透過性を高めるために寄与するという効果をより発揮することができると考えられる。よって、透過性能、分離性能、及び物理的強度により優れた多孔質膜が得られると考えられる。
また、前記多孔質膜において、前記骨格は、前記第2孔の孔径が前記骨格の表面から前記骨格の内部に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有し、前記骨格の内部に存在する前記第2孔の平均孔径が0.01〜2μmであることが好ましい。
このような構成によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度により優れた多孔質膜を提供することができる。このことは、以下のことによると考えられる。前記骨格における前記第2孔は、骨格内部に存在する第2孔の平均孔径が0.01〜2μmと小さく、また、骨格表面に存在する第2孔は、それよりも小さい。このことから、前記骨格は、表面が緻密であるので、強度低下を抑制できる構造、いわゆるハニカム構造がより好適に形成されると考えられる。また、前記第2孔としては、表面付近に存在する第2孔が小さいので、多孔質膜における3次元網目構造で除去されず、膜内に入ってきた物質によって、前記第2孔が目詰まりすることも抑制できると考えられる。このため、分離操作を行うことにより、前記第2孔が目詰まりすることによる透過性能の低下も抑制できると考えられる。これらのことから、前記第2孔が前記骨格に形成されていることにより奏される効果、すなわち、分離性能及び物理的強度の低下を抑制しつつ、多孔質膜の空隙率を高め、透過性を高めるために寄与するという効果をより発揮することができると考えられる。よって、透過性能、分離性能、及び物理的強度により優れた多孔質膜が得られると考えられる。
また、前記多孔質膜において、前記多孔質膜は、前記第1孔の孔径が、前記多孔質膜のいずれか一方の表面から前記多孔質膜の内部に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有することが好ましい。
このような構成によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度により優れた多孔質膜を提供することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
まず、前記多孔質膜は、膜内にある前記第1孔の孔径が、前記多孔質膜のいずれか一方の表面から前記多孔質膜の内部に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有するので、前記多孔質膜のいずれか一方の表面付近には、分離性能を高めることができる緻密な層状部部分を備えると考えられる。その一方で、前記多孔質膜は、全体が緻密ではなく、前記緻密な層状部分以外は、比較的大きい孔が形成された部分を備えると考えられる。このため、前記緻密な層状部分により、分離性能を高め、その一方で、多孔質膜全体が緻密ではないので、透過性能の低下も抑制できると考えられる。また、緻密な層状部分を備えることは、前記多孔質膜の物理的強度を高めることにも寄与できると考えられる。これらのことから、透過性能、分離性能、及び物理的強度により優れた多孔質膜が得られると考えられる。
また、前記多孔質膜において、前記骨格は、前記第2孔が占める割合が、10%以上80%未満であることが好ましい。
このような構成によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度により優れた多孔質膜を提供することができる。このことは、前記第2孔が前記骨格に形成されていることにより奏される効果、すなわち、分離性能及び物理的強度の低下を抑制しつつ、多孔質膜の空隙率を高め、透過性を高めるために寄与するという効果をより発揮することができるため
と考えられる。
また、前記多孔質膜が、中空糸膜であることが好ましい。
このような構成によれば、前記多孔質膜を中空糸膜として用いることは、前記多孔質膜を有効に利用できるので、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた多孔質膜を好適に使用できる。例えば、多孔質膜を利用した膜ろ過法を実施するための占有体積あたりの膜面積を、平膜を用いた場合より大きくすることができる。よって、多孔質膜を用いた膜ろ過法を実現する装置の小型化を図ることができる。
また、前記中空糸膜である多孔質膜において、膜間差圧0.1MPaにおける透水量が、2000〜20000L/m2/時であり、分画粒子径が、0.01〜0.5μmであり、引張破断強度が、3〜15N/mm2であり、引張破断伸度が、30%以上であることが好ましい。
このような構成によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度により優れた多孔質膜が得られる。
また、本発明の他の一態様に係る複合膜は、基材と、前記基材の少なくとも一方の表面上に被覆された分離機能層とを備え、前記基材が、前記多孔質膜である。
このような構成によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた複合膜を提供することができる。具体的には、前記複合膜は、前記多孔質膜を基材として用い、この基材上に、前記多孔質膜とは別に、分離機能層を備えるので、この分離機能層によって、分離性能をより高めることができる。さらに、前記複合膜は、基材として、前記多孔質膜を用いるので、透過性能及び物理的強度にも優れる。前記複合膜は、例えば、好適な逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜等として用いることができる。
また、本発明の他の一態様に係る多孔質膜の製造方法は、前記多孔質膜の製造方法であって、熱可塑性樹脂と溶剤とを含む製膜原液を調製する調製工程と、前記製膜原液を膜状に形成する工程と、膜状に形成された前記製膜原液を、前記製膜原液が相分離しない温度の第1凝固液に接触させて、前記第1孔を形成する第1凝固工程と、前記第1凝固液に接触させた前記製膜原液を、前記製膜原液が相分離する温度の第2凝固液に接触させて、前記第2孔を形成する第2凝固工程とを備える。
このような構成によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた多孔質膜を製造する多孔質膜の製造方法を提供することができる。このことは、以下のことによると考えられる。
まず、前記第1凝固工程は、温度変化による相分離が起こらない状態で、膜状に形成された前記製膜原液を第1凝固液と接触させているので、製膜原液内の溶剤と第1凝固液との溶剤交換により、前記製膜原液内の熱可塑性樹脂を凝固させていると考えられる。前記第1凝固工程は、いわゆる非溶剤誘起相分離法に相当するものであると考えられる。非溶剤誘起相分離法は、熱誘起相分離法より、相分離させる速度が遅いので、大きい孔を形成することができ、多孔質膜の骨格で画定される第1孔を形成することができると考えられる。この非溶剤誘起相分離法に相当すると考えられる第1凝固工程で、前記第1孔が形成された後は、前記第2凝固工程で、前記第2孔を形成する。このことから、前記第1凝固工程は、前記第2凝固工程で、前記第2孔を形成することができる程度までの凝固であると考えられる。そして、この第2凝固工程は、前記製膜原液が相分離する温度の第2凝固液に接触させているので、熱交換により、前記製膜原液内の熱可塑性樹脂を凝固させていると考えられる。前記第1凝固工程は、いわゆる熱誘起相分離法に相当するものであると考えられる。熱誘起相分離法は、非溶剤誘起相分離法より、相分離させる速度が速いので、小さい孔を形成することができ、前記第1孔が形成された後の多孔質膜、すなわち、多孔質膜を構成する骨格に、第1孔より小さい第2孔を形成することができると考えられる。以上のことから、上記製造方法によれば、本発明の一態様に係る多孔質膜を好適に製造することができると考えられる。
また、前記多孔質膜の製造方法において、前記調製工程が、前記製膜原液として、特定の温度以上で相溶して一相状態となり、温度低下による相分離を起こす製膜原液を調製する工程であり、前記第1凝固工程が、前記特定の温度以上の第1凝固液に接触させて、前記第1孔を形成する工程であり、前記第2凝固工程が、前記特定の温度未満の第2凝固液に接触させて、前記第2孔を形成する工程であることが好ましい。
このような構成によれば、本発明の一態様に係る多孔質膜をより好適に製造することができる。
本発明によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた多孔質膜、及び前記多孔質膜を備える複合膜を提供することができる。また、本発明によれば、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた多孔質膜を製造する多孔質膜の製造方法を提供することができる。
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本発明の実施形態に係る多孔質膜は、熱可塑性樹脂を含む。そして、この多孔質膜10は、図1に示すように、第1孔11を画定する骨格13を備える。前記多孔質膜10は、この骨格13により、3次元網目構造を構成する。また、前記骨格13は、前記第1孔11より小さい第2孔12が形成された骨格である。すなわち、前記多孔質膜10は、前記多孔質膜10を構成する骨格13に第2孔(気孔)12が形成されている。このような多孔質膜10は、前記第1孔11以外にも、前記骨格13に前記第2孔12を有するので、空隙率が高まり、透過性能が高まると考えられます。そして、前記多孔質膜10は、3次元網目構造を構成する骨格13により画定される第1孔11によって分離性能が決まると考えられるので、前記第2孔12が存在して空隙率が高まっても、分離性能の低下が抑制されると考えられる。さらに、前記骨格13に微細な第2孔12が形成されても、前記骨格13による3次元網目構造は維持されるので、前記多孔質膜10の物理的強度の低下も抑制されると考えられる。これらのことに起因して、前記多孔質膜10は、透過性能と、分離性能及び物理的強度との両方に優れた多孔質膜になると考えられる。
なお、図1は、本実施形態に係る多孔質膜を示す概略断面図である。図1は、前記第1孔11及び前記第2孔12を説明するための図面である。図1には、前記多孔質膜10における前記第1孔11及び前記第2孔12を、円状(球状)に記載しているが、実際には、異なる形状の孔も含まれる。また、図1には、前記第2孔12を、一点鎖線IIで囲まれたところだけ表記し、その他は省略する。
前記第1孔11の孔径R(R1及びR2)は、図1に示すように、前記第2孔12の孔径rより大きい。また、前記多孔質膜10は、前記第1孔11の孔径Rが、前記多孔質膜10のいずれか一方の表面10aから前記多孔質膜10の内部に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有することが好ましい。具体的には、前記第1孔11の孔径R(R1及びR2)は、表面付近に存在する第1孔の孔径R1が、それより内部に存在する第1孔の孔径R2より小さいことが好ましい。このような多孔質膜10は、表面付近には、第1孔11が形成されていても、その孔径R1が小さな孔であるので、分離性能を高めることができる緻密な層状部分になると考えられる。その一方で、その他の部分には、内部に向かって孔径の大きな第1孔が形成されているので、透過性能も高めることができると考えられる。よって、多孔質膜10は、透過性能と分離性能とをともに高めることができると考えられる。
上記のような傾斜構造を有する多孔質膜は、非溶剤誘起相分離法で作製することが好ましい。
前記第2孔12は、それぞれの第2孔同士が連結していてもよいが、それぞれが独立した空間を有する孔であることが好ましい。さらに、このような独立した空間を有する第2孔が、ハニカム構造のように並んでいることが好ましい。このような構造を有する骨格であれば、軽量でありながら、強度の高いものとなる。すなわち、空隙率が高く、かつ、強度の高いものとなる。
前記多孔質膜10の骨格13は、図2に示すように、前記第2孔12の孔径rが、前記骨格13の表面から内部に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有することが好ましい。具体的には、前記第2孔12の孔径r(r1及びr2)は、表面付近に存在する第2孔の孔径r1が、それより内部に存在する第2孔の孔径r2より小さいことが好ましい。このような多孔質膜10の骨格13は、表面付近が緻密になり、空隙率が高く、かつ、強度の高いものとなる。また、表面付近が緻密であるので、目詰まりの発生を抑制することができると考えられる。
なお、図2は、図1に示す多孔質膜の一部を拡大して示す概略断面図である。具体的には、図2は、図1に示す多孔質膜の骨格13の一部である一点鎖線IIで囲まれたところを拡大して示す概略断面図であって、前記第2孔12を説明するための図面である。図2には、図1と同様、前記骨格13に形成される前記第2孔12を、円状(球状)に記載しているが、実際には、異なる形状の孔も含まれる。
前記骨格内部に存在する第2孔の平均孔径は、0.01〜2μmであることが好ましく、0.05〜1μmであることがより好ましく、0.1〜1μmであることがさらに好ましい。この骨格内部に存在する第2孔が小さすぎると、第2孔が存在することによる透過性能の向上効果を奏しにくくなる傾向がある。また、前記第2孔が大きすぎると、物理的強度が低下してしまう傾向がある。このことは、多孔質膜の骨格が、いわゆるハニカム構造を形成しにくくなることによると考えられる。よって、前記骨格内部に存在する第2孔の平均孔径が、上記範囲内であると、透過性能と物理的強度とをともに、より高めることができる。なお、ここでの平均孔径は、孔の直径の平均値であり、例えば、直径の算術平均値等が挙げられる。
前記骨格13は、前記骨格13における前記第2孔12が占める割合、すなわち、前記骨格13の空隙率が、10%以上80%未満であることが好ましく、20%以上80%未満であることがより好ましく、30%以上80%未満であることがさらに好ましい。この空隙率が低すぎると、第2孔の存在量が少なく、第2孔が存在することによる透過性能の向上効果を奏しにくくなる傾向がある。また、前記空隙率が高すぎると、物理的強度が低下してしまう傾向がある。このことは、多孔質膜の骨格が、いわゆるハニカム構造を形成しにくくなることによると考えられる。よって、前記空隙率が、上記範囲内であると、透過性能と物理的強度とをともに、より高めることができる。なお、前記空隙率は、例えば、断面写真から、第2孔が存在している面積を測定し、この面積から算出することができる。
上記のような骨格は、熱誘起相分離法で作製することが好ましい。よって、前記多孔質膜は、後述するように、非溶剤誘起相分離法で、3次元網目構造を形成させ、その後、熱誘起相分離法で、3次元網目構造を有する骨格に、微細な孔を形成させることが好ましい。
前記多孔質膜の形状は、特に限定されない。前記多孔質膜としては、例えば、平膜であってもよいし、中空糸膜であってもよい。この中でも、前記多孔質膜を有効に利用できるという点から、中空糸膜であることが好ましい。例えば、多孔質膜を利用した膜ろ過法を実施するための占有体積あたりの膜面積を、平膜を用いた場合より大きくすることができる。よって、多孔質膜を用いた膜ろ過法を実現する装置の小型化を図ることができる。
前記中空糸膜は、中空糸状であって、長手方向の一方側は開放し、他方側は、開放していても閉じていてもよい。中空糸膜の形状としては、例えば、図3に示すような形状等が挙げられる。なお、図3は、本実施形態に係る多孔質膜の一例を示す部分斜視図である。具体的には、図3は、中空糸膜の形状を示す。
前記中空糸膜の外径R3は、0.5〜7mmであることが好ましく、1〜2.5mmであることがより好ましく、1〜2mmであることがさらに好ましい。このような外径であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさである。
前記中空糸膜の内径R4は、0.4〜3mmであることが好ましく、0.6〜2mmであることが好ましく、0.6〜1.2mmであることがさらに好ましい。中空糸膜の内径が小さすぎると、透過液の抵抗(管内圧損)が大きくなり、流れが不良になる傾向がある。また、中空糸膜の内径が大きすぎると、中空糸膜の形状を維持できず、膜の潰れやゆがみ等が発生しやすくなる傾向がある。
前記中空糸膜の膜厚Tは、0.2〜1mmであり、0.25〜0.5mmであることがより好ましく、0.25〜0.4mmであることがさらに好ましい。中空糸膜の膜厚が薄すぎると、強度不足により、ゆがみ等の変形が発生しやすくなる傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、マクロボイドの発生の抑制が困難になる等、好適な膜構造を得ることが困難になる傾向がある。場合によっては、強度が低下する場合もある。
前記中空糸膜の外径R3、内径R4、及び膜厚Tが、それぞれ上記範囲内であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさであり、前記装置の小型化が図れる。
前記中空糸膜は、膜間差圧0.1MPaにおける透水量が、2000〜20000L/m2/時であることが好ましく、3000〜18000L/m2/時であることがより好ましく、4000〜15000L/m2/時であることがさらに好ましい。透水量が少なすぎると、透過性能が劣る傾向があり、透水量が多すぎると、分離性能が低下する傾向がある。このことから、透水量が上記範囲内であれば、透過性能及び分離性能により優れた中空糸膜が得られる。
なお、膜間差圧0.1MPaにおける透水量は、例えば、以下のようにして求められる。まず、測定対象物である中空糸膜を、エタノール50質量%水溶液に15分間浸漬させ、その後、15分間純水で洗浄するといった湿潤処理を施す。この湿潤処理を施した中空糸膜の一端を封止した、有効長20cmの多孔中空糸膜モジュールを用い、原水として純水を利用し、ろ過圧力が0.1MPa、温度が25℃の条件で濾過して、時間当たりの透水量を測定する。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、単位圧力当たりの透水量に換算して、膜間差圧0.1MPaにおける透水量(L/m2/時:LMH)を得る。
前記中空糸膜は、分画粒子径が、0.01〜0.5μmであることが好ましい。この分画粒子径は、中空糸膜の通過を阻止できる最小粒子の粒子径のことをいい、具体的には、例えば、中空糸膜による阻止率が90%となる粒子径等が挙げられる。このような分画粒子径は、小さければ小さいほど好ましいが、優れた透過性能を維持するためには、0.01μm程度が好ましい。これらのことから、分画粒子径が、0.01〜0.5μmであることが好ましく、0.01〜0.2μmであることがより好ましい。また、前記中空糸膜は、分画分子量が1000〜300000であることが好ましい。中空糸膜の分画粒子径が、大きすぎると、透過性能が高まったとしても、分離性能が低下してしまい、除去対象の適用範囲が狭くなってしまう傾向がある。このことから、中空糸膜の分画粒子径が、上記範囲内であれば、透過性能の低下を抑制しつつ、優れた分離性能を発揮できる。
中空糸膜は、分画粒子径によって、除去対象の適用範囲が異なる。具体的には、分画粒子径が0.05〜0.1μmであれば、精密ろ過膜として、微生物の除去に適用できる。また、分画粒子径が0.001〜0.01μmであれば、限外ろ過膜として、微小病原菌やタンパク質の除去に適用できる。また、分画粒子径が0.002μm以下であれば、逆浸透膜として脱塩等に適用できる。このことから、前記中空糸膜は、分画粒子径が上記範囲内であることによって、精密ろ過膜として微生物の除去にも適用できるような優れた分離性能を有しつつ、優れた透過性能を発揮できる。
前記中空糸膜の強度は、中空糸膜として使用できれば、特に限定されない。前記中空糸膜の強度は、具体的には、引張破断強度で、3N/mm2以上であることが好ましく、3〜15N/mm2であることがより好ましく、3〜10N/mm2であることがさらに好ましく、3〜7N/mm2であることが特に好ましい。また、前記中空糸膜の強度は、具体的には、引張破断伸度で、30%以上であることが好ましく、30〜250%であることがより好ましく、50〜200%であることがさらに好ましく、70〜200%であることが特に好ましい。前記中空糸膜の強度として、引張破断強度や引張破断伸度が、上記範囲内であれば、中空糸膜として好適に使用することができる。特に、水処理に用いられる中空糸膜として、充分な物理的強度が発揮される。
なお、引張破断強度は、所定の大きさに切った中空糸膜を、所定の速度で引っ張り、中空糸膜が破断したときの荷重から求められるものであり、引張破断伸度は、その破断したときの、中空糸膜の伸びを表したものである。
本実施形態に係る多孔質膜は、単一層からなることが好ましい。すなわち、多孔質膜は、膜厚方向に、細孔の大きさ等が異なる、非対称な構造であっても、その素材は、同一な層からなることが好ましい。すなわち、多孔質膜は、形成される細孔が比較的小さい層と、形成される細孔が比較的大きな層とを別々に形成し、それらを積層したものではなく、単一層からなることが好ましい。具体的には、中空糸膜の場合、内周面側から外周面側に向かって、膜内の気孔の大きさ(孔径)が厚み方向で漸次的に小さくなっていく傾斜構造が単一層で形成されていることが好ましい。そうすることによって、分画特性及び気体透過性により優れ、膜内に剥離等の損傷が発生しにくい中空糸膜が得られる。
前記多孔質膜に含まれる熱可塑性樹脂は、中空糸膜を構成することができる熱可塑性樹脂であれば、特に限定されない。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン及びポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリクロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、結晶性セルロース、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルサルホン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、アクリロ二トリルスチレン(AS)樹脂、及びそれらの共重合体等が挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、上記例示した樹脂の中でもフッ素樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。また、前記熱可塑性樹脂としては、例示した樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記熱可塑性樹脂は、強度及び耐薬品性が優れる点から、フッ素樹脂が好ましい。すなわち、前記多孔質膜は、フッ素樹脂を主成分として含む多孔質膜であることが好ましい。なお、ここで主成分とは、多孔質膜に占めるフッ素樹脂の割合が高いことをいい、例えば、多孔質膜に対して、フッ素樹脂が85質量%以上であることが好ましく、90〜100質量%であることがより好ましい。また、前記フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニル樹脂、四フッ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE)、六フッ化プロピレン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、及びフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)等が挙げられる。また、フッ素系樹脂としては、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、及び三フッ化塩化エチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体等も挙げられる。
前記多孔質膜は、前記熱可塑性樹脂以外にも、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、熱硬化性樹脂、及び後述する親水化処理のための界面活性剤等が挙げられる。また、前記多孔質膜は、親水化処理をしてもよい。親水化処理の方法としては、例えば、多孔質膜を構成する材料の親水性を高めてもよいし、多孔質膜を親水化処理により親水性を高めてもよい。また、多孔質膜を構成する材料の親水性を高めるためには、多孔質膜の原料として、親水性を示す材料で製造すればよく、例えば、親水性樹脂を主成分として、多孔質膜を製造すればよい。また、親水化処理は、多孔質膜の親水性を高めることができる処理であれば、特に限定されない。例えば、多孔質膜に親水性樹脂を含浸させる方法等が挙げられる。
前記親水性樹脂としては、多孔質膜に含ませることができる親水性樹脂であれば、特に限定されない。また、前記親水性樹脂は、前記熱可塑性樹脂と同様のものも用いることができる。例えば、前記親水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロース、セルロースアセテート、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルアセテートとの共重合体、及びビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとの共重合体等が挙げられる。前記親水性樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記親水化処理としては、多孔質膜を親水性樹脂に含浸させる方法以外に、多孔質膜を、グリセリン、エチレングリコール、及び界面活性剤等に浸漬させる方法も挙げられる。この方法により、多孔質膜の親水性を付与してもよい。
前記多孔質膜は、上述したように、分離膜として好適に用いることができる。また、この多孔質膜は、単独で用いてもよいし、他の層を積層してもよい。例えば、前記多孔質膜は、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜等の複合膜の基材として好適に用いることができる。
前記複合膜15は、図4に示すように、基材としての多孔質膜10と、前記基材10の表面上に被覆された分離機能層16とを備える。すなわち、本発明の他の実施形態に係る複合膜は、基材と、前記基材の少なくとも一方の表面上に被覆された分離機能層とを備え、前記基材が、前記多孔質膜である。前記分離機能層16は、求める分離性能に応じた層であれば、特に限定されない。前記分離機能層16としては、例えば、RO膜として機能できる層等が挙げられる。この分離機能層16は、単独では、充分な強度を有さなくても、前記多孔質膜10を基材として設けることによって、好適な機能を発揮する複合膜を得ることができる。よって、前記複合膜は、透過性能、分離性能、及び物理的強度に優れた複合膜となる。なお、図4は、本発明の他の一実施形態に係る複合膜を示す概略断面図である。
また、本実施形態に係る多孔質膜の製造方法は、上述の多孔質膜を製造することができれば、特に限定されない。この製造方法としては、例えば、以下のような製造方法が挙げられる。この製造方法としては、熱可塑性樹脂と溶剤とを含む製膜原液を調製する調製工程と、前記製膜原液を膜状に形成する工程(形成工程)と、膜状に形成された前記製膜原液を、前記製膜原液が相分離しない温度の第1凝固液に接触させて、前記第1孔を形成する第1凝固工程と、前記第1凝固液に接触させた前記製膜原液を、前記製膜原液が相分離する温度の第2凝固液に接触させて、前記第2孔を形成する第2凝固工程とを備える方法等が挙げられる。
このような製造方法であれば、まず、温度変化による相分離が起こらない状態で、膜状に形成された前記製膜原液を第1凝固液と接触させる第1凝固工程では、製膜原液内の溶剤と第1凝固液との溶剤交換により、前記製膜原液内の熱可塑性樹脂を凝固させていると考えられる。すなわち、いわゆる非溶剤誘起相分離法に相当する方法である。この方法は、熱誘起相分離法と比較して、相分離させる速度が遅く、大きい孔を形成することができるので、この方法により、前記第1孔を形成することができると考えられる。前記第2凝固工程は、前記第1孔より小さい前記第2孔を形成させるので、前記第1凝固工程は、前記第2凝固工程で前記第2孔を形成できる程度までの凝固である。この非溶剤誘起相分離法に相当すると考えられる第1凝固工程で、前記第1孔が形成された後は、前記第2凝固工程で、前記第2孔を形成する。この第2凝固工程は、前記製膜原液が相分離する温度の第2凝固液に接触させているので、熱交換により、前記製膜原液内の熱可塑性樹脂を凝固させる、いわゆる熱誘起相分離法に相当するものであると考えられる。この方法は、非溶剤誘起相分離法と比較して、相分離させる速度が速く、小さい孔を形成することができるので、前記第1孔が形成された後の多孔質膜、すなわち、多孔質膜を構成する骨格に、第1孔より小さい第2孔を形成することができると考えられる。以上のことから、上記製造方法によれば、本発明の一態様に係る多孔質膜を好適に製造することができると考えられる。
以下は、前記多孔質膜の製造方法として、前記多孔質膜の一例である中空糸膜を製造する方法を説明する。前記多孔質膜の製造方法は、形状として中空糸状に形成すること以外、以下の中空糸膜を製造する方法と同様に行うことができ、この方法に限定されるものではない。
前記調製工程は、熱可塑性樹脂と溶剤とを含む製膜原液を調製することができれば、特に限定されない。調製工程としては、具体的には、例えば、製膜原液の原料を、加熱攪拌する方法等が挙げられる。また、加熱攪拌時に、混練することが好ましい。
前記熱可塑性樹脂は、多孔質膜に含まれる熱可塑性樹脂として例示した前記熱可塑性樹脂を用いることができる。
前記溶剤は、少なくとも特定の温度では、前記熱可塑性樹脂を溶解させることができる溶剤であれば、特に限定されない。前記溶剤としては、例えば、前記熱可塑性樹脂と特定の温度以上で相溶して一相状態となり、かつ、温度低下による相分離を起こしうる溶剤等が挙げられる。また、前記溶剤としては、環境負荷及び安全面等の観点から、水溶性溶剤であることが好ましい。具体的には、水溶性溶剤を用いると、中空糸膜を形成した後に、中空糸膜から溶剤を抽出する際、水を使用することができ、抽出した溶剤は生物処理等によって処分が可能になることから、好ましい。前記溶剤としては、具体的には、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、メタノール、アセトン、グリセリン、N−メチルピロリドン、セバシン酸ブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジブチルベンジル、フタル酸ノニルベンジル、フタル酸オクチル、テトラヒドロフラン、安息香酸へキシル、及びカプロラクトン等が挙げられる。前記溶剤としては、上記例示した溶剤の中でも、環境負荷、安全面、及びコスト面等の観点からγ−ブチロラクトンが好ましい。また、前記溶剤としては、上記例示の溶剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記製膜原液は、前記熱可塑性樹脂と前記溶剤とを含んでいればよく、これらからなるものであってもよい。また、前記製膜原液としては、これらの成分以外にも、他の成分を含んでいてもよい。この他の成分としては、例えば、相分離促進剤及び添加剤等が挙げられる。
前記相分離促進剤(相分離開始剤)としては、前記製膜原液の相分離を促進するための添加剤、すなわち、中空糸膜を形成する過程において相分離を促進する開始剤であれば、特に限定されない。前記相分離促進剤としては、前記製膜原液の組成等によっても異なるが、例えば、水、ポリオール系化合物、糖類、ポリオール系化合物及び糖類以外の親水性樹脂(その他の親水性樹脂)、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤等が挙げられる。前記ポリオール系化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール、ブタンジオール、ポリビニルアルコール、及びそれらの誘導体等が挙げられる。また、前記糖類としては、例えば、セルロース、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、エチルセルロース、及びそれらの誘導体等が挙げられる。また、前記その他の親水性樹脂としては、例えば、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、及びポリアクリル酸等が挙げられる。また、前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、モノラウリン酸デカグリセリル等のポリグリセリン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンラウリルエーテルやポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、及びそれらの共重合体等が挙げられる。前記相分離促進剤としては、上記例示化合物の中でも、ポリビニルピロリドンが好ましい。また、前記相分離促進剤は、上記例示化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記添加剤としては、粘度調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、及び染料等の各種添加剤等が挙げられる。また、この添加剤としては、粘度調整としてのフィラーや細孔形成の促進等を目的に必要に応じて添加される成分であり、前記相分離促進剤と共通する成分もある。前記添加剤としては、例えば、シリカ、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、鉄及び亜鉛等の金属酸化物又は水酸化物、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の塩類、及び界面活性剤等が挙げられる。
前記製膜原液は、上限臨界溶解温度(UCST)又は下限臨界溶解温度(LCST)が、0〜100℃であることが好ましい。すなわち、前記製膜原液は、UCST又はLCSTが0〜100℃となるように、前記製膜原液の原料の種類及びその含有量を調整して得られた製膜原液であることが好ましい。上限臨界溶解温度(UCST)又は下限臨界溶解温度(LCST)は、いずれも、相分離開始温度である。上限臨界溶解温度(UCST)は、相溶して一相状態となっている原液の温度を低下させ、樹脂が溶解できなくなり相分離が発生する温度である。すなわち、UCSTは、温度低下による相分離が開始する温度である。また、下限臨界溶解温度(LCST)は、相溶して一相状態となっている原液の温度を上昇させ、樹脂が溶解できなくなり相分離が発生する温度である。すなわち、LCSTは、温度上昇による相分離が開始する温度である。このような相分離温度の少なくともいずれか一方の温度が、0〜100℃であれば、本実施形態に係る多孔質膜を形成する上で、相分離形成に必要な凝固液として、水を使用することができる。このため、相分離開始温度は、0〜100℃であることに限定されないが、この温度範囲であることが好ましい。
なお、相分離開始温度(UCST及びLCST)は、例えば、以下のように測定することができる。まず、ホットプレート上に置いたスライドガラス上に、均一相(一相状態)の製膜原液を置く。この透明な均一相の製膜原液を、降温又は昇温させ、相分離した際に生じる白濁を目視により確認された温度を、相分離開始温度として測定する。なお、降温又は昇温により生じた白濁は、相分離により二相状態になることによる、それぞれの相の屈折率の相違により生じるものである。
前記調製工程は、製膜原液の相分離開始温度が上記範囲内になるように、製膜原液の原料を混合し、加熱状態で混練する方法が好ましい。そうすることによって、製膜原液の原料である各成分が均一に分散された製膜原液が得られ、中空糸膜を好適に製造できると考えられる。また、混練の際に、例えば、二軸混練設備、ニーダー、及びミキサー等を用いることができる。また、前記調製工程が、前記温度低下による相分離が開始する温度(UCST)より高い温度、かつ、前記温度上昇により相分離が開始する温度(LCST)より低い温度で行うことが好ましい。また、ここで得られた製膜原液は、中空糸膜の製造に用いられる。その際、得られた製膜原液は、充分に脱気することが好ましい。そして、ギアポンプ等の計量ポンプで計量した後に、後述する中空糸膜の製造に用いられる。
また、前記製膜原液を膜状に形成する工程(形成工程)は、前記製膜原液を、所定の膜状に形成することができれば、特に限定されない。また、前記中空糸膜の場合、前記製膜原液を中空糸状に押し出す押出工程等が挙げられる。前記押出工程としては、図5に示す中空糸成型用ノズルから前記製膜原液を押し出す工程等が挙げられる。なお、図5は、本発明の実施形態に係る製造方法で用いる中空糸成型用ノズルの一例を示す概略図である。また、図5(a)には、その断面図を示し、図5(b)には、中空糸成型用ノズルの、製膜原液を吐出する吐出口側を示す平面図である。具体的には、ここでの中空糸成型用ノズル21は、円環状の外側吐出口26と、前記外側吐出口26の内側に配置する円状又は円環状の内側吐出口27とを備える。そして、この中空糸成型用ノズル21は、製膜原液を流通させる流通管24の末端に備え、流通管24内を流動してきた製膜原液を、ノズル内の流路22を介して、外側吐出口26から吐出する。また、この中空糸成型用ノズル21は、この外側吐出口26からの製膜原液の吐出と同時に、内部凝固液を、流通管25に流通させ、ノズル内の流路23を介して、内側吐出口27から吐出する。そうすることによって、中空糸成型用ノズル21から押し出された中空糸状の前記製膜原液を前記内部凝固液と接触させる。
そして、この内部凝固液としては、中空糸膜を製造する際に内部凝固液として用いることができる凝固液であれば、特に限定されない。すなわち、前記内部凝固液としては、例えば、中空糸状の前記製膜原液の内周面側から凝固できる凝固液であればよい。前記内部凝固液としては、例えば、ジメチルアセトアミドとグリセリンとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンとグリセリンとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンと水との混合溶剤、ジメチルアセトアミドと水との混合溶剤、ジメチルアセトアミドとエチレングリコールとの混合溶剤、ジメチルホルムアミドと水との混合溶剤等が挙げられる。この中でも、γ−ブチロラクトンとグリセリンとの混合溶剤やジメチルアセトアミドと水との混合溶剤が、中空糸膜の成形性が良いという点から好ましい。
前記内部凝固液の温度としては、前記製膜原液の熱誘起相分離の発生を起こさせないほうがよいという観点から、前記製膜原液のUCSTより高い温度、かつ、LCSTより低い温度であることが好ましい。
前記第1凝固工程は、膜状に形成された前記製膜原液を、前記製膜原液が相分離しない温度の第1凝固液に接触させて、前記第1孔を形成する工程であれば、特に限定されない。具体的には、前記押し出された中空糸状の製膜原液を、前記製膜原液の、前記温度低下による相分離が開始する温度(UCST)より高い温度、かつ、前記温度上昇により相分離が開始する温度(LCST)より低い温度の第1凝固液に接触させる。より具体的には、前記押し出された中空糸状の製膜原液を、貯留槽等に貯留された、前記条件を満たす第1凝固液に浸漬させる工程等が挙げられる。
前記第1凝固液は、熱誘起相分離ではなく、相分離を起こすことができる溶剤であれば、特に限定されない。前記第1凝固液としては、水や、塩類又は溶剤を含有した水溶液等が挙げられる。ここでの塩類としては、例えば、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等の各種の塩類が挙げられる。この中でも、硫酸ナトリウムが好ましい。
前記第1凝固工程は、上述したように、非溶剤誘起相分離法に相当する方法で、前記第1孔を形成する工程である。その後、前記第2凝固工程で、第2孔を形成するので、前記第1凝固工程では、完全に凝固する前に、前記第2凝固工程に移行する。前記第1凝固工程は、前記中空糸状の製膜原液を、前記第1凝固液に接触させている時間が、例えば、30〜200秒間であることが好ましく、30〜150秒間であることがより好ましく、60〜120秒間であることがより好ましい。
前記第2凝固工程は、前記第1凝固液に接触させた前記製膜原液を、前記製膜原液が相分離する温度の第2凝固液に接触させて、前記第2孔を形成する工程であれば、特に限定されない。具体的には、前記第1凝固液に接触させた前記製膜原液を、前記製膜原液の、前記温度低下による相分離が開始する温度(UCST)以下の温度、又は、前記温度上昇により相分離が開始する温度(LCST)以上の温度の第2凝固液に接触させる。より具体的には、前記第1凝固液に接触させた前記製膜原液を、貯留槽等に貯留された、前記条件を満たす第2凝固液に浸漬させる工程等が挙げられる。
前記第2凝固液は、いわゆる熱誘起相分離を起こすことができる溶剤であれば、特に限定されない。前記第2凝固液としては、例えば、温度条件以外は、第1凝固液と同様のもの、及び、前記製膜原液の溶剤の温度条件を調整したもの等が挙げられる。
また、前記多孔質膜(前記中空糸膜)の製造方法は、例えば、前記調製工程、前記第1凝固工程、及び前記第2凝固工程が、以下の工程であることが好ましい。前記調製工程は、前記製膜原液として、特定の温度以上で相溶して一相状態となり、温度低下による相分離を起こす製膜原液を調製する工程であることが好ましい。また、前記第1凝固工程は、前記特定の温度以上の第1凝固液に接触させて、前記第1孔を形成する工程であることが好ましい。また、前記第2凝固工程は、前記特定の温度未満の第2凝固液に接触させて、前記第2孔を形成する工程であることが好ましい。
前記形成工程は、押し出された中空糸状の製膜原液を、前記第1凝固液に接触させる前に、気体、通常、空気中を走行してもよい。すなわち、前記形成工程は、前記押し出された中空糸状の製膜原液を、気体中を走行した後、前記第1凝固液に接触させてもよい。気体中を走行する距離は、特に限定されず、例えば、5〜300mmであることが好ましい。この気体中の走行は、押し出された中空糸状の製膜原液と内部凝固液との溶剤交換を好適に行うことができ、中空糸形状が安定化し、紡糸性が向上する。なお、本実施形態に係る製造方法では、この気体中の走行を行わなくてもよい。また、前記第1凝固工程と前記第2凝固工程との間に、前記第1凝固液に接触させた前記製膜原液を、前記第2凝固液に接触させる前に、上記と同様、気体、通常、空気中を走行してもよい。
また、本実施形態に係る製造方法は、前記形成工程により形成された中空糸膜を、長手方向に延伸してもよい。この延伸方法は、特に限定されないが、例えば、水浴中、例えば、加温した水浴中での延伸処理等が挙げられる。なお、延伸後、延伸にかかる力を開放すると、長手方向に収縮する。このような延伸及び収縮を施すと、中空糸膜は、透過性能が向上する。このことは、膜内に存在する独立孔が開裂し、連通孔となり、膜内の連通性が向上し、透過性能が向上すると考えられる。さらに、このような延伸及び収縮を施すと、中空糸膜の繊維の方向が均質化し、強度が向上するという利点もある。なお、本実施形態に係る製造方法では、この延伸及び収縮を行わなくてもよい。
また、本実施形態に係る多孔質膜は、膜ろ過に供することができる。前記多孔質膜としては、膜の形状にかかわらず、膜ろ過に供することができる。例えば、前記多孔質膜が平膜であっても、中空糸膜であっても、膜ろ過に供することができるが、以下、中空糸膜を用いた場合について説明する。具体的には、例えば、中空糸膜を用いて、以下のようにモジュール化し、このモジュール化されたものを用いて、膜ろ過に用いることができる。より具体的には、本実施形態に係る中空糸膜は、所定本数束ねられ、所定長さに切断されて、所定形状のケーシングに充填され、中空糸束の端部はポリウレタン樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂によりケーシングに固定されて、モジュールとなる。なお、このモジュールの構造としては、中空糸膜の両端が開口固定されているタイプ、中空糸膜の一端が開口固定され、他端が密封されているが、固定されていないタイプ等、種々の構造のものが知られており、本実施形態に係る中空糸膜は、いずれのモジュールの構造においても使用可能である。
また、本実施形態に係る中空糸膜は、上記のようにモジュール化され、例えば、図6に示すような膜ろ過装置に組み込むことができる。なお、図6は、本実施形態に係る中空糸膜を備えた膜ろ過装置の一例を示す概略図である。膜ろ過装置31は、上記のように中空糸膜をモジュール化した膜モジュール32を備える。そして、この膜モジュール32は、例えば、中空糸膜の上端部33は中空部を開口しており、下端部34は中空部をエポキシ系樹脂にて封止しているものが挙げられる。また、膜モジュール32は、例えば、有効膜長さ100cmの中空糸膜を70本用いてなるもの等が挙げられる。そして、この膜ろ過装置31は、導入口35から、処理対象物である液体を、膜モジュール32によるろ過が施された液体(ろ過水)等が導出口36から排出される。そうすることによって、中空糸膜を用いたろ過が実施される。なお、膜ろ過装置31に導入された空気は、空気抜き口37から排出される。
本実施形態に係る中空糸膜は、このようにモジュール化されて、浄水処理、飲料水製造、工業水製造、排水処理等の各種用途に用いられる。
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
まず、熱可塑性樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略することがある)(アルケマ株式会社製のKynar741)と、溶剤として、γ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)と、相分離促進剤として、ポリビニルピロリドン(PVP:BASFジャパン株式会社製のソカランK−90P)と、添加剤として、ポリエチレングリコール(PEG:三洋化成工業株式会社製のPEG−600)とを、質量比30:56:7:7になるように混合物を調製した。この混合物を、95℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解した。そうすることによって、製膜原液が得られた。
この製膜原液の相分離開始温度(UCST及びLCST)を、以下のようにして測定した。まず、ホットプレート上に置いたスライドガラスとカバーガラスとの間に、均一相(一相状態)である温度、例えば、95℃に調整した製膜原液を配置した。その後、1℃ずつ降温又は昇温させたときの、製膜原液の状態を目視で確認した。白濁が確認できた温度を相分離開始温度(UCST及びLCST)として測定した。なお、ここでは、測定温度範囲を0〜100℃とした。
この結果、前記製膜原液は、100℃まで昇温させても、均一相状態を維持したので、LCSTは100℃より高い(>100℃)ことがわかった。また、UCSTは、76℃であった。
前記製膜原液を、混練した後に、図5に示すような二重環構造のノズル(中空糸膜形成用ノズル)から押し出した。このとき、内部凝固液として、γ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とを65℃の恒温下で質量比15:85になるように混合し、製膜原液と同時吐出した。
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、5cmの空走距離を経て、第1凝固液である水温80℃の水中に、80秒間浸漬させた。ここで製膜原液が完全に凝固する前に、再度、5cmの空走距離を経て、第2凝固液である水温30℃の水中に、前記製膜原液(前記第1凝固液に浸漬させて、凝固させた後、前記第2凝固液に浸漬させた製膜原液)を完全に凝固させた。具体的には、前記第2凝固液に、300秒間浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られる。
次いで、得られた中空糸膜を水中で洗浄した。そうすることによって、溶剤(γ−ブチロラクトン)と相分離促進剤(ポリビニルピロリドン)と添加剤(ポリエチレングリコール)が、中空糸膜から抽出除去される。
このようにして得られた中空糸膜の外径は、1.3mm、内径は0.8mmであり、膜厚が、0.25mmであった。
また、実施例1に係る中空糸膜の膜構造を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS−3000N)を用いて確認した。その結果を、図7〜9に示す。まず、図7は、実施例1に係る中空糸膜の断面の一部を拡大した走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、図8は、実施例1に係る中空糸膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、図9は、実施例1に係る中空糸膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
これらの図から、実施例1に係る中空糸膜は、外周面付近には、緻密な層状部分が形成されており、それ以外の部分は、それより疎な部分が形成されていることがわかった。また、実施例1に係る中空糸膜は、中空糸膜の多孔質体を構成する骨格に、骨格により画定される第1孔より小さい第2孔が形成されていることがわかった。また、前記骨格は、第2孔が骨格表面付近から内部にむかって大きくなる傾斜構造を有することがわかった。実施例1に係る中空糸膜は、上記のような二重相分離構造を有する。
また、実施例1に係る中空糸膜の第1孔及び第2孔の孔径や、骨格の空隙率は、図7〜9の写真を画像解析することによって算出した。具体的には、図7〜9に示す写真を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、中空糸膜の第1孔及び第2孔の孔径、及び骨格の空隙率を算出した。孔径については、SEM写真で確認できないものは、0.01μm未満(<0.01μm)とした。また、二重相分離構造を有していない場合、すなわち、骨格に第2孔が形成されていない場合、空隙率としては、「−」と評価する。
また、得られた中空糸膜の透水量は、中空糸膜を用いた、以下のような操作における、単位時間当たりのろ過液の量を測定し、この得られた量と、膜面積とから算出した。
この中空糸膜を用いて図6に示すような膜ろ過装置31を作製した。膜ろ過装置31に装填されている膜モジュール32は、有効膜長さ100cm、中空糸本数70本からなり、上端部33をエポキシ系樹脂で封止されている。上端部33は中空糸膜の中空部が開口しており、下端部34は中空糸膜の中空部をエポキシ系樹脂にて封止されている。この膜ろ過装置31は、導入口35を経て、中空糸膜の外周面側より、純水をろ過し、上端部の内周面側にある導出口36よりろ過水を得た。この際、膜間差圧0.1MPaになるように調整した。
この測定方法により得られた透水量、すなわち、膜間差圧0.1MPaにおける透水量は、8000L/m2/時であった。
また、得られた中空糸膜の分画粒子径を、以下の方法で測定した。
異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子(日揮触媒化成株式会社製の、カタロイドSI−550、カタロイドSI−45P、カタロイドSI−80P等)の阻止率を測定し、その測定値を元にして、下記の近似式において、Rが90となるSの値を求め、これを分画粒子径とした。
R=100/(1−m×exp(−a×log(S)))
上記式中のaおよびmは、中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。なお、限外濾過膜領域については、90%以上除去することが可能であった標準ポリエチレンオキシド(トーソー株式会社製、TSKgel)の分子量(重量平均分子量)を記載した。
この測定方法により得られた分画粒子径が、0.1μmであった。
また、得られた中空糸膜の強度を測定した。具体的には、中空糸膜の引張破断強度と引張破断伸度とを測定した。
中空糸膜の引張破断強度は、以下のように測定した。
まず、得られた中空糸膜を、長さ5cmになるように切断した。この切断した中空糸膜を、強度を測定する試験片とした。
次に、オートグラフ(株式会社島津製作所製のAG−Xplus)を用いて、25℃の水中で、試験片を100mm/分の速度で引っ張る引張試験を行った。その際、破断したときの荷重から、引張破断強度を求めた。
この測定方法により得られた引張破断強度が、5.2N/mm2であった。
また、中空糸膜の引張破断伸度は、以下のように測定した。
上記引張試験において、破断したときの、試験片の伸びから、引張破断伸度を求めた。
この測定方法により得られた引張破断伸度が、60%であった。
以上の製造条件や結果等は、表1に示す。
[実施例2]
前記第1凝固液の温度を80℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。この中空糸膜を走査型電子顕微鏡で確認したところ、二重相分離構造が確認された。製造条件や結果等は、表1に示す。
[実施例3]
製膜原液の原料として、熱可塑性樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略することがある)(アルケマ株式会社製のKynar741)と、溶剤として、γ−ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)と、相分離促進剤として、ポリビニルピロリドン(PVP:BASFジャパン株式会社製のソカランK−90P)と、添加剤として、ポリエチレンオキサイド(PEO:明成化学工業株式会社製のアルコックスL−11)とを用い、それらの質量比を25:62:10:3にし、第1凝固液の温度を60℃に、第2凝固液の温度を30℃にしたこと以外、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。この中空糸膜を走査型電子顕微鏡で確認したところ、二重相分離構造が確認された。製造条件や結果等は、表1に示す。
[実施例4]
第1凝固液の温度を40℃にしたこと以外、実施例3と同様にして中空糸膜を得た。この中空糸膜を走査型電子顕微鏡で確認したところ、二重相分離構造が確認された。製造条件や結果等は、表1に示す。
[比較例1]
内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、前記第1凝固液に浸漬させて、前記製膜原液を完全に凝固させ、前記第2凝固液に浸漬させないこと以外、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。
また、比較例1に係る中空糸膜の膜構造を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS−3000N)を用いて確認した。その結果を、図10に示す。図10は、比較例1に係る中空糸膜の断面の一部を拡大した走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図10からわかるように、比較例1に係る中空糸膜は、実施例1に係る中空糸膜とは異なり、中空糸膜の多孔質体を構成する骨格に、骨格により画定される第1孔より小さい第2孔が形成されていないことがわかった。すなわち、比較例1に係る中空糸膜には、上記のような二重相分離構造が確認されなかった。
[比較例2]
前記第1凝固液の温度を40℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。この中空糸膜を走査型電子顕微鏡で確認したところ、二重相分離構造が確認されなかった。製造条件や結果等は、表1に示す。
[比較例3]
前記第2凝固液の温度を80℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。この中空糸膜を走査型電子顕微鏡で確認したところ、二重相分離構造が確認されなかった。製造条件や結果等は、表1に示す。
表1からわかるように、第1孔と第2孔とが形成された二重相分離構造を有する中空糸膜(実施例1〜4)であれば、そうでない場合(比較例1〜3)と比較して、透過性能、分離性能、及び物理的強度の全てに優れた中空糸膜となった。