中空糸膜は、膜内に存在する気孔の数、形状、及び大きさ等によって、透過性能及び分画特性が変わると考えられる。具体的には、分画特性を高めるためには、膜を緻密にすることが考えられる。一方で、膜全体を緻密にすると、透過性能が低下すると考えられる。これらのことから、本発明者等は、本発明に至る際、透過性能と分画特性とをともに優れた中空糸膜を得るためには、まず、分画特性を発現するような緻密な層状の部分、すなわち、分離に直接関与しうる分離層を、膜厚方向に対して薄膜化することが重要であることに着目した。さらに、本発明者等は、本発明に至る際に、分画特性を発現するような緻密な層状の部分、すなわち、分離に直接関与しうる分離層以外の部分の構造にも着目した。特許文献1のような中空糸膜では、中空糸膜内の気孔の孔径が、内外周面側の少なくとも一方の側に向かって漸次的に小さくなる構造によって、一方の側に存在する緻密な層状の部分を有し、そのことで分画特性が優れると考えられる。そして、このような中空糸膜は、緻密な層状の部分以外における気孔が大きいことで、透過性能も優れると考えられる。このような点から、前記中空糸膜は、透過性能及び分画特性にともに優れると考えられる。一方で、特許文献1のような中空糸膜では、緻密な層状の部分以外における気孔が大きいことから、機械的強度が低くなる場合があることに着目した。より具体的には、特許文献1のような中空糸膜では、前記内周面における凸部を基準とした前記中空糸膜の内径RiAに対する、前記内周面における凹部を基準とした前記中空糸膜の内径RiBの比(RiB/RiA)が1.04を超える。このため、特許文献1のような中空糸膜には、薄い部分等が存在し、例えば、緻密な層状の部分以外の部分に薄い部分等が存在することになる。このこと等から、機械的強度が低くなる場合があることに着目した。そして、本発明者等のさらなる検討によれば、このような緻密な層状の部分を有しつつ、緻密な層状の部分以外の構造を後述するように変更することで、優れた透過性能及び分画特性を維持しつつ、機械的強度を高められることを見出した。
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
[中空糸膜]
本発明の一実施形態に係る中空糸膜は、多孔性の中空糸膜であって、フッ化ビニリデン系樹脂と、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体とを含む。そして、前記中空糸膜10は、図1に示すように、前記中空糸膜10内の気孔13が、内周面及び外周面のそれぞれから中央に向かって、漸次的に大きくなる傾斜構造を有し、前記中空糸膜10内の気孔のうち最も大きい気孔14の孔径rmaxが、0.2~10μmである。さらに、前記中空糸膜10は、前記中空糸膜10の内周面11に凹凸がないか、または、前記中空糸膜の内周面11に凹凸があっても、その凹凸が小さい。前記中空糸膜10の内周面11に凹凸がある場合、前記中空糸膜10の内径Riについて、以下のような関係を満たす。図2及び図3に示すような、前記内周面11における凸部を基準とした前記中空糸膜の内径RiAに対する、前記内周面11における凹部を基準とした前記中空糸膜10の内径RiBの比(RiB/RiA)が、1.04以下である。なお、前記中空糸膜10の内周面11に凹凸がない場合は、RiB/RiAが1であるから、前記中空糸膜10におけるRiB/RiAは、1~1.04となる。
前記中空糸膜は、上記の構成から、外周面側の周辺には、分画特性に関与しうると考えられる緻密な層状部分である分離層が形成されていると考えられる。また、前記中空糸膜は、その他の部分、すなわち、中央部分に、比較的大きな気孔が形成されている。よって、前記中空糸膜は、緻密な層状部分により、分画特性を高めて、比較的大きな気孔が形成されている部分によって、膜全体が緻密な場合より、透過性能を高めることができると考えられる。
緻密な層状部分以外の、比較的大きな気孔が形成されている部分に関しても、その表面(内周面)に近い部分に形成されている気孔も、比較的小さい。さらに、前記中空糸膜の内周面は、上記比であることから、平滑性が高いことがわかる。このことから、前記中空糸膜は、厚みが安定していると考えられる。よって、前記中空糸膜は、緻密な層状部分(分離層)以外の部分の厚みも、薄くなりすぎた部分や厚くなりすぎた部分が少なく、安定していると考えられる。これらのことから、前記中空糸膜の機械的強度を高めることができると考えられる。
前記中空糸膜は、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜であっても、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含むことによって、親水性を高めることができると考えられる。また、前記中空糸膜に含有されるポリビニルピロリドン系樹脂が架橋体であることから、ポリビニルピロリドン系樹脂の脱落が抑制され、親水性を高めた効果を維持することができると考えられる。このように親水性を高めることによって、中空糸膜に、上述したような好適な気孔を形成することができ、水を含む液体に対する透過性をより高めることができると考えられる。また、中空糸膜は、フッ化ビニリデン系樹脂を含むので、機械的強度の優れたものが得られる。
以上のことから、透過性能及び分画特性にともに優れ、機械的強度にも優れた中空糸膜が得られると考えられる。また、親水性を高めることによって、耐汚染性も高めることができると考えられる。
なお、図1は、本実施形態に係る中空糸膜10を示す概略断面図である。図1は、前記中空糸膜10内の気孔13が、内周面及び外周面のそれぞれから中央に向かって、漸次的に大きくなる傾斜構造を有することを説明するための図面である。このため、図1では、中空糸膜の厚みと気孔との大きさの関係等は表しておらず、気孔も円状(球状)で表しているが、実際には、異なる形状の気孔も含まれる。図2は、本実施形態に係る中空糸膜を示す部分斜視図である。図2は、前記中空糸膜10の内径Ri、外径Ro、及び膜厚Tを説明するための図である。また、図3は、本実施形態に係る中空糸膜の内径を説明するための図であって、具体的には、前記内周面11における凸部を基準とした前記中空糸膜の内径RiAと前記内周面11における凹部を基準とした前記中空糸膜10の内径RiBを説明するための図である。
本実施形態に係る中空糸膜10は、上述したように、前記中空糸膜10内の気孔13が、内周面及び外周面のそれぞれから中央に向かって、漸次的に大きくなる傾斜構造を有する。すなわち、前記中空糸膜10は、前記中空糸膜10内の気孔の孔径が、前記中空糸膜10の内周面11に存在する気孔の直径(内周面側気孔径)及び前記中空糸膜10の外周面12に存在する気孔の直径(外周面側気孔径)より大きい。また、前記中空糸膜10内の気孔のうち最も大きい気孔14の孔径(最大径)rmaxが、0.2~10μmである。よって、前記中空糸膜10内の気孔13は、前記外周面側気孔径及び前記内周面側気孔径より大きく、前記最大径rmaxが、0.2~10μmであれば、特に限定されない。
前記最大径rmaxは、0.2~10μmであり、0.5~10μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。前記最大径rmaxが小さすぎると、透過性能が低下する傾向がある。また、最大径rmaxが大きすぎると、機械的強度が低下する傾向があり、分画特性も低下する場合がある。なお、前記中空糸膜10内の気孔のうち最も大きい気孔14とは、マクロボイド以外の孔のうち最も大きい孔である。マクロボイドとは、周囲の孔よりも明らかに大きい空孔のことである。また、マクロボイドが存在すると、耐圧性能を著しく低下させることがあり、構造上の欠陥とみなされることが多い。マクロボイドは、例えば、直径で30μm以上の空孔等が挙げられる。このことから、前記中空糸膜は、マクロボイドが存在しないことが好ましい。このような場合は、前記中空糸膜10内の気孔のうち最も大きい気孔14とは、前記中空糸膜10内に存在する孔のうち、最も大きい孔である。また、前記中空糸膜にマクロボイドが存在している場合には、前記中空糸膜10内の気孔のうち最も大きい気孔14とは、マクロボイド以外の孔のうち最も大きい孔である。前記内周側細孔径は、特に限定されないが、例えば、0.01~10μmであることが好ましく、0.01~5μmであることがより好ましく、0.1~5μmであることがさらに好ましい。また、前記外周側細孔径も、特には限定されないが、例えば、0.01~1μmであることが好ましく、0.1~0.5μmであることがより好ましく、0.1~0.3μmであることがさらに好ましい。なお、ここでの直径は、直径の平均値であり、例えば、直径の算術平均値等が挙げられる。
本実施形態に係る中空糸膜の形状は、特に限定されない。前記中空糸膜は、中空糸状であって、長手方向の一方側は開放し、他方側は、開放していても閉じていてもよい。前記中空糸膜の形状としては、例えば、中空糸状であって、長手方向の一方側を開放したままで、他方側を閉じた形状等が挙げられる。また、前記中空糸膜の開放した側の形状としては、例えば、図2に示すような形状である場合等が挙げられる。
前記中空糸膜の外径Roは、0.5~7mmであることが好ましく、1~2.5mmであることがより好ましく、1~2mmであることがさらに好ましい。このような外径であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさである。
前記中空糸膜の内径Riは、0.4~3mmであることが好ましく、0.6~2mmであることが好ましく、0.6~1.2mmであることがさらに好ましい。中空糸膜の内径が小さすぎると、透過液の抵抗(管内圧損)が大きくなり、流れが不良になる傾向がある。また、中空糸膜の内径が大きすぎると、中空糸膜の形状を維持できず、膜の潰れやゆがみ等が発生しやすくなる傾向がある。
前記中空糸膜の膜厚Tは、0.2~1mmであり、0.25~0.5mmであることがより好ましく、0.25~0.4mmであることがさらに好ましい。中空糸膜の膜厚が薄すぎると、強度不足により、ゆがみ等の変形が発生しやすくなる傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、マクロボイドの発生の抑制が困難になる等、好適な膜構造を得ることが困難になる傾向がある。場合によっては、強度が低下する場合もある。一方で、本実施形態に係る中空糸膜は、膜厚を変更しても、高い透水性を維持できるので、強度の観点から、モジュール等の使用環境に応じて比較的厚い膜厚の中空糸膜にすることも可能である。
前記中空糸膜の外径Ro、内径Ri、及び膜厚Tが、それぞれ上記範囲内であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさであり、前記装置の小型化が図れる。
前記中空糸膜の内径Riに関しては、前記内径RiBの前記内径RiAに対する比(RiB/RiA)が、上述したように、1~1.04であり、1~1.02であることが好ましく、1~1.01であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。前記比(RiB/RiA)が大きすぎると、中空糸膜の機械的強度が低下する傾向がある。このことは、前記中空糸膜の内周面上における凹凸が大きいことによると考えられる。このことにより、前記中空糸膜の厚みが不安定になると考えられる。よって、分画特性に関与しうると考えられる緻密な層状部分である分離層以外の部分に、薄い部分や厚い部分が存在することになると考えられる。このことから、中空糸膜の機械的強度が低下すると考えられる。前記比(RiB/RiA)が上記範囲内であると、優れた透過性能及び分画特性を維持しつつ、機械的強度を高めることができる。前記内径RiA及び前記内径RiBは、例えば、前記中空糸膜が径方向にひずんでいる場合もあるので、それぞれ複数個所を測定し、その算術平均値等が挙げられる。具体的には、図6に示すような、内周面に接し、それぞれが平行又は垂直な4本のうち、互いに対向する線間の距離を内径としたときの2つの内径の算術平均値等が挙げられる。
本実施形態に係る中空糸膜は、上述したように、フッ化ビニリデン系樹脂と、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体とを含む、多孔性の中空糸膜である。
前記フッ化ビニリデン系樹脂は、前記中空糸膜の主成分である。具体的には、前記フッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90~99.9質量%であることが好ましい。
前記フッ化ビニリデン系樹脂は、中空糸膜を構成することができるフッ化ビニリデン系樹脂であれば、特に限定されない。前記フッ化ビニリデン系樹脂としては、具体的には、フッ化ビニリデンのホモポリマーや、フッ化ビニリデン共重合体等が挙げられる。前記フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位を分子中に有する共重合体であれば、特に限定されない。前記フッ化ビニリデン共重合体としては、具体的には、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、及び三フッ化塩化エチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体等が挙げられる。前記フッ化ビニリデン系樹脂としては、上記例示の中でも、フッ化ビニリデンのホモポリマーであるポリフッ化ビニリデンが好ましい。また、前記フッ化ビニリデン系樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記フッ化ビニリデン系樹脂の分子量は、中空糸膜の用途等によって異なるが、例えば、重量平均分子量で、50,000~1,000,000であることが好ましい。分子量が小さすぎると、中空糸膜の強度が低下する傾向がある。また、分子量が大きすぎると、中空糸膜の製膜性が低下する傾向がある。また、薬液洗浄に晒される水処理用途に、中空糸膜が用いられる場合、その中空糸膜は、より高い性能が求められるので、強度に優れ、さらに、好適な中空糸膜を得るために、その製膜性に優れていることが求められる。このため、中空糸膜に含まれるフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、100,000~900,000であることが好ましく、150,000~800,000であることがより好ましい。
前記中空糸膜は、前記フッ化ビニリデン系樹脂だけではなく、上述したように、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含む。このように、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含むことによって、前記中空糸膜は親水化されている。前記ポリビニルピロリドン系樹脂は、ビニルピロリドン由来の繰り返し単位を分子中に有する樹脂であれば、特に限定されない。前記ポリビニルピロリドン系樹脂としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルアセテートとの共重合体、及びビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとの共重合体等が挙げられる。前記ポリビニルピロリドン系樹脂としては、上記例示の中でも、ポリビニルピロリドンが好ましい。また、ポリビニルピロリドン系樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の架橋度は、特に限定されない。ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の架橋度としては、例えば、得られた中空糸膜に通水した場合のろ液から前記ポリビニルピロリドン系樹脂が検出されない程度の架橋度等が挙げられる。前記ポリビニルピロリドン系樹脂が検出されない程度とは、具体的には、以下のような程度である。
まず、中空糸膜に純水を流して、フラッシング洗浄をした後に、この洗浄をした中空糸膜に、40体積%のエタノール水溶液を40℃で1時間循環させる。この循環させたエタノール水溶液の、ポリビニルピロリドン系樹脂濃度を測定する。このポリビニルピロリドン系樹脂濃度と、使用した中空糸膜の膜面積とから、膜面積1m2当たりのポリビニルピロリドン系樹脂の抽出量を算出する。この算出した、膜面積1m2当たりの抽出量が、300mg以下であることが好ましく、100mg以下であることがより好ましく、10mg以下であることがさらに好ましい。
前記ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量は、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含有することによる効果が発揮できる量、すなわち、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜を好適に親水化できる量であれば、特に限定されない。具体的には、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量は、前記中空糸膜の質量に対して、0.1質量%以上15質量%未満であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることがさらに好ましい。前記含有量が少なすぎると、中空糸膜の親水性が充分に高まらない傾向がある。このため、耐汚染性が充分に高まらず、また、中空糸膜に、好適な気孔(細孔)を形成することができず、水を含む液体に対する透過性を充分に高めることができない傾向がある。また、前記含有量が多すぎると、透過性能が低下する傾向がある。これは、まず、中空糸膜の成型性が低下し、好適な中空糸膜が形成できにくい傾向があることによると考えられる。また、中空糸膜が、膜内のポリビニルピロリドン系樹脂が膨潤して、膜の細孔の閉塞等による透水性の低下が発生しやすくなるためと考えられる。これらのことから、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量が、前記範囲内であれば、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜を、適度に親水化させることができ、膜の細孔の閉塞等による透水性の低下の発生を抑制しつつ、親水性を高めることができると考えられる。このため、優れた分画特性を維持しつつ、透過性能により優れ、さらに耐汚染性に優れた中空糸膜が得られると考えられる。
前記ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量の測定方法は、特に限定されないが、例えば、以下のように測定することができる。具体的には、得られた中空糸膜を微量窒素分析し、窒素(N)の存在量から測定することができる。より具体的には、まず、得られた中空糸膜と、ポリビニルピロリドン系樹脂単体とをそれぞれ微量窒素分析し、窒素(N)の存在量を測定する。この存在量から、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量を算出する。
前記ポリビニルピロリドン系樹脂のK値は、30~120であることが好ましく、50~120であることがより好ましく、60~120であることがさらに好ましい。なお、前記ポリビニルピロリドン系樹脂のK値は、架橋前(未架橋)のポリビニルピロリドン系樹脂のK値である。また、K値は、分子量と相関する粘性特性値である。このK値は、例えば、カタログ等の記載からもわかるが、例えば、Fikentscherの式を用いて算出することができる。このK値は、例えば、毛細管粘度計により測定される、25℃における相対粘度値を下記のFikentscherの式に適用して算出することができる。
K値=(1.5logηrel-1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel+(c+1.5clogηrel )2)1/2/(0.15c+0.003c2)
式中、ηrelは、測定対象物であるポリビニルピロリドン系樹脂の水溶液の、水に対する相対粘度を示し、cは、測定対象物であるポリビニルピロリドン系樹脂の水溶液の、測定対象物の濃度(質量%)を示す。
前記ポリビニルピロリドン系樹脂のK値が小さすぎると、前記ポリビニルピロリドン系樹脂を架橋しても、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜内に、残存しにくく、中空糸膜の親水性を好適に維持しにくい傾向がある。また、前記ポリビニルピロリドン系樹脂のK値が大きすぎると、製膜性が低下し、好適な中空糸膜を製造しにくくなる傾向がある。これらのことから、上記のようなK値を有するポリビニルピロリドン系樹脂であれば、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜内に、適度に残存しやすく、中空糸膜を、適度に親水化させることができると考えられる。このため、膜の細孔の閉塞等による透水性の低下の発生を抑制しつつ、親水性を高めることができるため、水を含む液体の透過性を向上させることができると考えられる。よって、優れた分画特性を維持しつつ、透過性能により優れ、さらに耐汚染性に優れた中空糸膜が得られると考えられる。
前記中空糸膜には、前記フッ化ビニリデン系樹脂及び前記ポリビニルピロリドン系樹脂以外にも、他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分としては、例えば、後述する相分離促進剤等が挙げられる。
本実施形態に係る中空糸膜の機械的強度は、中空糸膜として使用できれば、特に限定されない。前記中空糸膜の機械的強度を示す指標としては、具体的には、引張強度、引張伸度、破裂圧力、及びつぶれ圧力等が挙げられる。
前記中空糸膜の引張強度は、5~15N/mm2であることが好ましく、5~10N/mm2であることがより好ましく、5~8N/mm2であることがさらに好ましい。また、前記中空糸膜の引張伸度は、30~250%であることが好ましく、50~250%であることがより好ましく、70~250%であることがさらに好ましい。前記中空糸膜の機械的強度として、引張強度及び引張伸度が、それぞれ、上記範囲内であれば、中空糸膜として好適に使用することができる。なお、引張強度は、所定の大きさに切った中空糸膜を、所定の速度で引っ張り、中空糸膜が破断したときの荷重から求められるものである。引張伸度は、その破断したとき(所定の大きさに切った中空糸膜を、所定の速度で引っ張り、中空糸膜が破断したとき)の、中空糸膜の伸びを表したものである。
前記中空糸膜は、上述したように、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体を含むことによって、前記中空糸膜が親水化されている。この中空糸膜は、後述する製造方法で製造されたものであることが好ましい。すなわち、この中空糸膜は、前記架橋体が、架橋前(未架橋)の中空糸膜を形成する際に、前記架橋前の中空糸膜に含ませたポリビニルピロリドン系樹脂を架橋したものであることが好ましい。この架橋体としては、架橋前の中空糸膜に練り込まれたポリビニルピロリドン系樹脂を架橋させたものであることが好ましい。このように、架橋前の中空糸膜を形成する際に、中空糸膜の原料に、フッ化ビニリデン系樹脂とともに、親水性樹脂であるポリビニルピロリドン系樹脂を練り込むことによって、より柔軟で伸縮性に優れた中空糸膜が得られる。このことは、架橋前の中空糸膜を形成する際に、その原料に親水性樹脂を練り込むことで、練り込まれた親水性樹脂が可塑剤として働くことによると考えられる。これに対して、架橋前の中空糸膜を形成する際に、その原料に親水性樹脂を含有させないと、得られた中空糸膜が柔軟性に乏しいものとなる場合がある。
前記中空糸膜は、架橋前の中空糸膜を形成する際に、前記架橋前の中空糸膜に含ませたポリビニルピロリドン系樹脂を架橋した架橋体を含む場合、中空糸膜が柔軟性により優れる。さらに、引張強度及び引張伸度が上記範囲内にあることによって、中空糸膜自体に曲げや変形等が発生しても、破断等による液漏れ、いわゆる糸リークの発生を充分に抑制できる実用性の高い強度が実現できる。この点からも、架橋前の中空糸膜を形成する際に前記架橋前の中空糸膜に含ませたポリビニルピロリドン系樹脂を架橋した架橋体を含むことが好ましい。これらのことから、前記中空糸膜は、前記架橋体を含むことによって、上記のような、引張強度が高いだけではなく、引張伸度も高い中空糸膜となり、中空糸膜として、好適に使用することができる。
前記中空糸膜は、上述したように、膜内の気孔が、内周面及び外周面のそれぞれから中央に向かって、漸次的に大きくなる傾斜構造を有し、前記中空糸膜10内の気孔のうち最も大きい気孔14の孔径(最大径)rmaxが、0.2~10μmである。また、前記内径RiBの前記内径RiAに対する比(RiB/RiA)が、上述したように、1~1.04である。これらのことから、前記中空糸膜は、膜全体の耐圧性能が高く、また、膜の厚みが安定しているため、耐圧性能面においてさらに有利である。このことからも、前記中空糸膜は、機械的強度、例えば、破裂圧力及びつぶれ圧力等も高い。破裂圧力が高まると、運転中の逆洗工程による膜内側からの圧力に対する耐圧性が高まるため、長期間使用しても膜のリーク等が発生しにくくなる。つぶれ圧力が高まると、運転中の膜外部からの水圧等に対する耐圧性が高まるため、長期間使用しても膜が潰れにくくなる。
前記中空糸膜の破裂圧力が、0.5~5MPaであることが好ましく、0.7~4MPaであることがより好ましく、1~3MPaであることがさらに好ましい。前記中空糸膜のつぶれ圧力が、0.2~3MPaであることが好ましく、0.4~2MPaであることがより好ましく、0.5~2MPaであることがさらに好ましい。前記中空糸膜は、その機械的強度として、破裂圧力及びつぶれ圧力が上記範囲内であれば、中空糸膜として好適に使用することができ、膜の寿命も高まる傾向にある。なお、破裂圧力は、中空糸膜をループ状にして、中空糸膜内部から圧力をかけれるような膜モジュールを用意し、中空糸膜の内周側からかかる圧力を徐々に高めるように加圧して、中空糸膜が破裂したときの圧力を表したものである。つぶれ圧力は、中空糸膜の一端を封止した外圧モジュールを作製し、膜を透過不可能な粘性の高い液体を用意し、中空糸膜の外周側にかかる圧力を徐々に高めるよう、前記液体を用いて加圧して、中空糸膜が潰れたときの圧力を表したものである。
これらのことから、前記中空糸膜は、上述したように、膜の構造を制御することにより、上記のような、破裂圧力が高いだけではなく、つぶれ圧力も高い中空糸膜となり、中空糸膜として、好適に使用することができ、膜の寿命も高まる傾向にある。
本実施形態に係る中空糸膜は、膜間差圧0.1MPaにおける透水量が、1000~40000L/m2/時であることが好ましく、3000~30000L/m2/時であることがより好ましく、3500~20000L/m2/時であることがさらに好ましい。前記透水量が少なすぎると、透過性能が劣る傾向がある。前記透水量が多すぎると、分画特性が低下する傾向がある。このことから、前記透水量が上記範囲内であれば、透過性能及び分画特性により優れた中空糸膜が得られる。
なお、膜間差圧0.1MPaにおける透水量としては、例えば、後述するような、湿潤状態での中空糸膜(湿潤処理を施した中空糸膜)における透水量である。膜間差圧0.1MPaにおける透水量は、例えば、以下のようにして求められる。まず、測定対象物である中空糸膜を、エタノール50質量%水溶液に20分間浸漬させ、その後、20分間純水で洗浄するといった湿潤処理を施す。この湿潤処理を施した中空糸膜の一端を封止した、有効長20cmの多孔中空糸膜モジュールを用い、原水として純水を利用し、ろ過圧力が0.1MPa、温度が25℃の条件で濾過して、時間当たりの透水量を測定する。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、単位圧力当たりの透水量に換算して、膜間差圧0.1MPaにおける透水量(L/m2/時:LMH)を得る。
本実施形態に係る中空糸膜は、単一層からなることが好ましい。すなわち、前記中空糸膜は、上述したような構造(例えば、膜内の気孔が、内周面及び外周面のそれぞれから中央に向かって、漸次的に大きくなる傾斜構造、最大径rmaxが上記範囲内であること、及び前記比(RiB/RiA)が上記範囲内であること等)であっても、その素材は、同一な層からなることが好ましい。より具体的には、前記中空糸膜は、前記のような分離層(分画特性に関与しうると考えられる緻密な層状部分である分離層)と支持層(分離層以外の部分)とを別々に形成し、それらを積層したものではなく、単一層からなることが好ましい。そうすることによって、透過性能及び分画特性により優れ、膜内に剥離等の損傷が発生しにくい中空糸膜が得られる。
このことは、以下のことによると考えられる。
上述したような分画特性に関与すると考えられる緻密な層状部分(分離層)が、本実施形態に係る中空糸膜のように、透過性能が高い場合、薄いと考えられる。このような場合、このような緻密な層を別途作製しようとすると、好適に形成できない場合がある。これに対して、緻密な層状部分と、それ以外の部分とを同一の層、すなわち単一層で形成すると、緻密な層状部分を面方向に均一に形成できると考えられる。また、緻密な層状部分と、それ以外の部分とが単一層であれば、その界面での剥離等の発生を充分に抑制できると考えられる。
これらのことから、透過性能及び分画特性により優れ、膜内に剥離等の損傷が発生しにくい中空糸膜が得られると考えられる。
本実施形態に係る中空糸膜は、分画粒子径が、0.5μm以下であることが好ましい。この分画粒子径は、中空糸膜の通過を阻止できる最小粒子の粒子径のことをいい、具体的には、例えば、中空糸膜による阻止率が90%となる粒子径等が挙げられる。このような分画粒子径は、小さければ小さいほど好ましいが、優れた透過性能を維持するためには、0.001μm程度が限度である。このため、分画粒子径の最小値は、0.001μm程度であり、透過性能の点から、0.01μm程度であることが好ましい。これらのことから、分画粒子径が、0.5μm以下であることが好ましく、0.001~0.5μmであることがより好ましく、0.01~0.5μmであることがさらに好ましく、0.02~0.1μmであることが特に好ましい。中空糸膜の分画粒子径が、大きすぎると、透過性能が高まったとしても、分画特性が低下してしまい、除去対象の適用範囲が狭くなってしまう傾向がある。このことから、中空糸膜の分画粒子径が、上記範囲内であれば、透過性能の低下を抑制しつつ、優れた分画特性を発揮できる。
中空糸膜は、分画粒子径によって、除去対象の適用範囲が異なる。具体的には、分画粒子径が0.05~0.1μmであれば、精密ろ過膜として、微生物やウィルスの除去に適用できる。また、分画粒子径が0.001~0.01μmであれば、限外ろ過膜として、微小病原菌やタンパク質の除去に適用できる。また、分画粒子径が0.002μm以下であれば、逆浸透膜として脱塩等に適用できる。
以上のことから、本実施形態に係る中空糸膜は、分画粒子径が上記範囲内であることによって、精密ろ過膜として微生物やウィルスの除去にも適用できるような優れた分画特性を有しつつ、求められる強度を実現できる膜厚においても優れた透過性能を発揮できる。
[中空糸膜の製造方法]
本実施形態に係る中空糸膜の製造方法は、前記中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。前記中空糸膜の製造方法としては、例えば、NIPS法とTIPS法とを併用する方法等が挙げられる。具体的には、NIPS法とTIPS法とを併用、その条件を調整した方法等が挙げられる。この条件の調整としては、例えば、各工程における温度等の調整、及び内部凝固液の調整(内部凝固液を適切なものを選択する方法)等が挙げられる。前記中空糸膜の製造方法としては、後述する方法、すなわち、NIPS法とTIPS法とを併用し、その条件を後述するように調整した方法等が挙げられる。
前記製造方法は、フッ化ビニリデン系樹脂とポリビニルピロリドン系樹脂と含み、温度変化により相分離する製膜原液を調製する工程(調製工程)と、温度変化により前記製膜原液の相分離が開始する相分離開始温度より高い温度で、前記製膜原液を中空糸状に押し出す押出工程と、中空糸状に押し出された前記製膜原液を、前記製膜原液のゲル化温度より高く、かつ、前記相分離開始温度より低い温度の外部凝固液に接触させて、前記製膜原液を凝固させる工程(形成工程)と、凝固された前記製膜原液に含まれるポリビニルピロリドン系樹脂を架橋させる工程(架橋工程)とを備える。
本実施形態に係る製造方法における調製工程は、フッ化ビニリデン系樹脂とポリビニルピロリドン系樹脂と含み、温度変化により相分離する製膜原液を調製することができれば、特に限定されない。前記製膜原液は、フッ化ビニリデン系樹脂とポリビニルピロリドン系樹脂と含んでいればよいが、一般的には、溶剤を含む。また、前記製膜原液は、フッ化ビニリデン系樹脂及び前記ポリビニルピロリドン系樹脂以外にも、後述する相分離促進剤等の他の成分を含んでいてもよい。前記調製工程としては、例えば、製膜原液の原料を、加熱攪拌する方法等が挙げられる。また、加熱攪拌時に、混練することが好ましい。すなわち、製膜原液の原料である、前記フッ化ビニリデン系樹脂、前記ポリビニルピロリドン系樹脂、前記溶剤、及び前記他の成分(相分離促進剤等)を所定の比率になるように混合し、加熱状態で混練する方法が好ましい。そうすることによって、製膜原液の原料である各成分が均一に分散された製膜原液が得られ、中空糸膜を好適に製造できると考えられる。また、混練の際に、例えば、二軸混練設備、ニーダ、及びミキサ等を用いることができる。
前記製膜原液は、上述したように、温度変化により相分離する製膜原液である。前記製膜原液としては、例えば、特定の温度以上で一相状態であり、特定の温度未満で相分離する(すなわち、温度低下による相分離等が起こる)。前記製膜原液に用いられる溶剤としては、例えば、前記フッ化ビニリデン系樹脂の貧溶剤であることが好ましい。前記フッ化ビニリデン系樹脂の貧溶剤とは、例えば、前記フッ化ビニリデン系樹脂と特定の温度以上で相溶して一相状態となり、かつ、温度低下による相溶性低下により相分離を起こしうる溶剤が挙げられる。
前記調製工程が、前記フッ化ビニリデン系樹脂の融点未満であり、かつ、前記製膜原液の相分離が起こらない温度(例えば、前記製膜原液の相分離が開始する相分離開始温度より高い温度)で行うことが好ましい。すなわち、この製膜原液の調製時の温度が、前記フッ化ビニリデン系樹脂の融点未満であり、かつ、相分離開始温度より高い温度であることが好ましい。この製膜原液の調製時の温度としては、例えば、70℃以上であり、かつ、前記フッ化ビニリデン系樹脂の融点未満であることがより好ましく、90~150℃であることがさらに好ましい。この温度が低すぎると、製膜原液の粘度が増大し、好適な膜構造を有する中空糸膜が得られない傾向がある。具体的には、中空糸膜の支持層として働く層に、好適な三次元網目構造が形成できず、その層内に、球晶やマクロボイドが形成されやすく、得られた中空糸膜の強度が低下する傾向がある。また、この温度が高すぎても、好適な膜構造を有する中空糸膜が得られない傾向がある。具体的には、ポリビニルピロリドン系樹脂の熱劣化により、中空糸膜の支持層として働く層に、好適な三次元網目構造が形成できず、その層内に、マクロボイドが形成されやすかったり、反対に、緻密な層になってしまったりする傾向がある。その結果として、分画特性及び透過性能にともに優れた中空糸膜が得られにくい傾向がある。これらのことから、調製工程時の温度が、上記範囲内であれば、前記フッ化ビニリデン系樹脂及び前記ポリビニルピロリドン系樹脂を含む製膜原液を、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の、熱による損傷等の発生を抑制しつつ、好適に得ることができると考えられる。このため、好適な製膜原液が得られるので、透過性能及び分画特性に優れ、強度にも優れた中空糸膜を製造することができると考えられる。
ここで得られた製膜原液は、中空糸膜の製造に用いられる。その際、得られた製膜原液は、充分に脱気することが好ましい。そして、ギアポンプ等の計量ポンプで計量した後に、後述する中空糸膜の製造に用いられる。
前記製膜原液としては、前記フッ化ビニリデン系樹脂及び前記ポリビニルピロリドン系樹脂を含み、さらに、上述したように、前記相分離促進剤等の他の成分を含んでいてもよい。また、前記製膜原液は、前記溶剤を含むことが一般的である。前記製膜原液としては、前記フッ化ビニリデン系樹脂と、前記ポリビニルピロリドン系樹脂と、前記相分離促進剤と、前記溶剤とからなるものであってもよい。
前記フッ化ビニリデン系樹脂及び前記ポリビニルピロリドン系樹脂としては、それぞれ、上述したフッ化ビニリデン系樹脂及び前記ポリビニルピロリドン系樹脂を用いることができる。
前記溶剤は、中空糸膜を製造する際に用いる製膜原液に含まれる溶剤として用いることができる溶剤であれば、特に限定されない。また、前記溶剤としては、上述したように、前記フッ化ビニリデン系樹脂の貧溶剤であることが好ましい。また、この貧溶剤は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と特定の温度以上で相溶して一相状態となり、かつ、温度低下による相分離を起こしうる溶剤であれば、特に限定されない。また、前記貧溶剤としては、水溶性溶剤であることが好ましい。水溶性溶剤であれば、製膜後、中空糸膜から溶剤を抽出する際に、水を使用することが可能であり、抽出した溶剤は、生物処理等によって処分することが可能である。また、前記貧溶剤としては、例えば、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等のカプロラクトン、メタノール、アセトン、及びカプロラクトン等が挙げられる。前記貧溶剤としては、前記例示の溶剤の中でも、環境負荷、安全面、及びコスト面等の観点から、γ-ブチロラクトンが好ましい。また、前記貧溶剤としては、上記例示の溶剤樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記相分離促進剤は、製膜原液の相分離を促進させる効果があれば、特に限定されない。すなわち、前記相分離促進剤は、中空糸膜の多孔質の形成過程において、相分離の開始を促進する役割を担う。前記相分離促進剤としては、前記ポリビニルピロリドン系樹脂以外の親水性樹脂等が挙げられる。前記相分離促進剤としては、例えば、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、及びポリアクリル酸メチル等が挙げられる。この樹脂としては、上記各樹脂の共重合体であってもよい。また、相分離促進剤としては、上記例示化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記相分離促進剤の分子量は、特に限定されず、前記相分離促進剤の種類等によって異なるが、例えば、重量平均分子量で、20,000以上300,000以下であることが好ましく、50,000以上300,000以下であることがより好ましく、50,000以上200,000以下であることがさらに好ましい。また、この重量平均分子量の範囲は、前記相分離促進剤がポリエチレンオキサイドである場合に特に好ましい範囲である。
前記重量平均分子量が小さすぎると、相分離促進効果が大きすぎるため、膜構造の制御が困難になる傾向がある。前記重量平均分子量が大きすぎると、前記中空糸膜に、ポリエチレンオキサイド等の相分離促進剤が残存し、機械的強度が低下する傾向がある。
前記フッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記ポリビニルピロリドン系樹脂との合計質量100質量部に対して、65~80質量部であることが好ましく、65~75質量部であることがより好ましく、68~75質量部であることがより好ましい。前記フッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記ポリビニルピロリドン系樹脂と前記溶剤と前記相分離促進剤との合計質量100質量部に対して、20~35質量部であることが好ましく、20~30質量部であることがより好ましく、20~28質量部であることがより好ましい。
前記ポリビニルピロリドン系樹脂の含有量は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記ポリビニルピロリドン系樹脂との合計質量100質量部に対して、20~35質量部であることが好ましく、25~35質量部であることがより好ましく、25~32質量部であることがより好ましい。前記ポリビニルピロリドン系樹脂の含有量は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記ポリビニルピロリドン系樹脂と前記溶剤と前記相分離促進剤との合計質量100質量部に対して、5~20質量部であることが好ましく、7~20質量部であることがより好ましく、9~15質量部であることがさらに好ましい。
前記溶剤の含有量は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記ポリビニルピロリドン系樹脂との合計質量100質量部に対して、150~250質量部であることが好ましく、150~220質量部であることがより好ましい。前記溶剤の含有量は、前記フッ化ビニリデン系樹脂と前記ポリビニルピロリドン系樹脂と前記溶剤と前記相分離促進剤との合計質量100質量部に対して、45~70質量部であることが好ましく、50~70質量部であることがより好ましく、55~65質量部であることがさらに好ましい。
前記フッ化ビニリデン系樹脂の含有量は、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の含有量に対して、質量比で、1.54~4.38であることが好ましく、1.6~3.91であることがより好ましく、1.67~3.13であることがさらに好ましい。
前記相分離促進剤の含有量は、前記フッ化ビニリデン系樹脂の含有量に対して、0.02質量%以上0.2質量%未満であることが好ましく、0.02~0.15質量%であることがより好ましく、0.04~0.15質量%であることがさらに好ましい。また、この相分離促進剤の含有量範囲は、前記相分離促進剤がポリエチレンオキサイドである場合に特に好ましい範囲である。前記含有量が少なすぎると、水を含む液体に対する透過性、及び機械的強度を充分に高めることができない傾向がある。このことは、相分離が促進されず、好適な傾斜構造を形成することができないことによると考えられる。また、前記含有量が多すぎた場合も、透過性能及び機械的強度が低下する傾向がある。このことは、製膜原液の粘度が増大しすぎたため、相分離が進行しづらくなることによると考えられる。
前記製膜原液における各成分の含有量が、上記範囲内であれば、透過性能及び分画特性にともに優れ、機械的強度にも優れた中空糸膜が好適に得られる。
前記他の成分としては、前記相分離促進剤以外に、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、染料、製膜原液の相分離を促進する添加剤(前記相分離促進剤以外の添加剤)の各種添加剤等が挙げられる。前記製膜原液の相分離を促進する添加剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、水、エタノール、メタノール等の、前記貧溶剤以外の溶剤が挙げられる。
前記製膜原液の前記相分離開始温度は、本実施形態に係る製造方法を実施でき、前記中空糸膜が得られる温度であれば、特に限定されない。前記相分離開始温度は、50~80℃であることが好ましく、55~75℃であることがより好ましい。前記相分離開始温度は、温度変化により前記製膜原液の相分離が開始する温度、すなわち、前記製膜原液の温度を低下させて、相分離が開始する温度である。前記相分離開始温度としては、例えば、前記製膜原液を特定の温度以上にすることによって一相状態(均一相状態)の製膜原液にして、その後、温度低下により、前記製膜原液に不透明な部分が目視で確認できた温度等が挙げられる。前記相分離開始温度の測定方法としては、以下の方法等が挙げられる。まず、温度コントローラ付きの光学顕微鏡のステージ上にスライドガラスとカバーガラスとを置き、そのスライドガラスとカバーガラスとが120℃になるように加熱する。この加熱したスライドガラスとカバーガラスとの間に、均一相状態の製膜原液を挟み込む。そして、このスライドガラスとカバーガラスとの温度を、少しずつ降温又は昇温、例えば、3℃ずつの降温を行い、相分離した際に生じる白濁(2相の屈折率の差に起因)を目視で確認し、その確認した温度を測定する。この温度を、相分離開始温度とする。すなわち、この測定方法は、製膜原液が透明であれば均一相状態であり、白濁していれば相分離状態であるとし、部分的にでも白濁を確認した時点の温度を相分離が開始する温度(相分離開始温度)として、測定する方法である。
前記製膜原液は、ゲル化温度が、20~50℃であることが好ましく、25~45℃であることがより好ましい。前記ゲル化温度としては、例えば、前記製膜原液を、前記相分離開始温度以上に加熱した後、前記製膜原液の温度を低下させながら、前記製膜原液の粘度を測定し、その測定した粘度の上昇において変曲点が観測された温度等が挙げられる。ゲル化温度の測定方法としては、以下の方法等が挙げられる。ティー・エイ・インスツルメント社製のARES-G2を用いて、製膜原液を降温していき、粘度が大きく増加した温度を、原液のゲル化温度とした。具体的には、フラスコに投入した製膜原液を、溶解可能な温度まで昇温した後、一定の降温速度で降温しながら、各温度での原液の粘度を測定し、粘度が大きく増加した時の温度を、原液のゲル化温度とした。
本実施形態に係る製造方法における押出工程は、前記相分離開始温度より高い温度で、前記製膜原液を中空糸状に押し出すとともに、中空糸状の前記製膜原液の内側に内部凝固液を押し出すことによって、中空糸状の前記製膜原液を前記内部凝固液と接触させる工程であれば、特に限定されない。図4に示す中空糸成型用ノズルから前記製膜原液を押し出す工程等が挙げられる。なお、図4は、本実施形態に係る製造方法で用いる中空糸成型用ノズルの一例を示す概略図である。また、図4(a)には、その断面図を示し、図4(b)には、中空糸成型用ノズルの、製膜原液を吐出する吐出口側を示す平面図である。具体的には、ここでの中空糸成型用ノズル21は、円環状の外側吐出口26と、前記外側吐出口26の内側に配置する円状又は円環状の内側吐出口27とを備える。そして、この中空糸成型用ノズル21は、製膜原液を流通させる流通管24の末端に備え、流通管24内を流動してきた製膜原液を、ノズル内の流路22を介して、外側吐出口26から吐出する。また、この中空糸成型用ノズル21は、この外側吐出口26からの製膜原液の吐出と同時に、内部凝固液を、流通管25に流通させ、ノズル内の流路23を介して、内側吐出口27から吐出する。そうすることによって、中空糸成型用ノズル21から押し出された中空糸状の前記製膜原液を前記内部凝固液と接触させる。
前記押出工程において中空糸状に押し出された前記製膜原液の温度(押出温度、製膜温度)が、上述したように、前記製膜原液の相分離が開始する相分離開始温度より高い温度であることが好ましい。また、前記押出温度は、後述する外部凝固液の温度より高いことが好ましい。前記押出温度としては、例えば、70~90℃等が挙げられる。
前記内部凝固液としては、フッ化ビニリデン系樹脂を含む中空糸膜を製造する際に用いることができる内部凝固液であれば、特に限定されない。前記内部凝固液としては、例えば、前記製膜原液との溶解度パラメータ距離(HSP距離)が、20~50MPa1/2であることが好ましく、20~40MPa1/2であることがより好ましく、20~30MPa1/2であることがさらに好ましい。このようなHSP距離を有する内部凝固液を用いることによって、中空糸成型用ノズルから押し出された中空糸状の前記製膜原液の内周面からの凝固を好適に行うことができる。前記HSP距離が小さすぎると、透過性能は高まる傾向にあるが、機械的強度が充分に高まらない傾向がある。これは、膜内周部付近の凝固が遅くなり、膜内周部の粗大孔化が進行しすぎ、前述した前記比(RiB/RiA)が大きくなることによると考えられる。このため、機械的強度面において不利になると考えられる。また、前記HSP距離が大きすぎると、機械的強度は高まる傾向にあるが、透過性能が充分に高まらない傾向がある。これは、膜内周部の凝固が速くなり、膜内周部の細孔構造が緻密になりすぎることによると考えられる。このため、前記HSP距離を調節することによって、内周面側付近の構造が好適な中空糸膜が得られ、透過性能及び分画特性に優れ、機械的強度にも優れた前記中空糸膜をより好適に製造できると考えられる。よって、透過性能及び分画特性に優れ、機械的強度にも優れた前記中空糸膜をより好適に製造できる。
ここで、HSP距離とは、ある物質と別の物質と親和性を評価するパラメータであり、Hansenの三次元溶解性パラメータ(dD,dP,dH)を用いて、下記式で定義される(詳しくは、非特許文献:Hansen,Charles(2007).Hansen Solubility Parameters: A user‘s handbook,Second Edition.Boca Raton,Fla:CRC Press.を参照)。
HSP距離=[4×(dD原液-dD溶剤)2+(dP原液-dP溶剤)2+(dH原液-dH溶剤)2]0.5
ここで、dDはファンデルワールス力、dPはダイポールモーメントの力、dHは水素結合力とされており、上記定義式によって計算される3次元座標上におけるHSP距離が0に近づくほど、その2つの成分は相溶性が高いと判断され、NIPS法における溶剤交換速度が遅くなり、接触面の細孔径は粗大化する。
なお、本明細書で用いている溶解度パラメータは、Hansenのパラメータであるが、Hansenのパラメータに記載されていないものについては、Hoyのパラメータを使用することができる。両方に記載されていないものは、Hansenのパラメータ式で推算することができる(Allan F.M.barton,”CRC Handbook of solubility parameters and other cohesion parameters” CRCCorp.1991を参照)。混合溶剤の場合には、各溶解度パラメータをその質量に基づいて加成法則により計算したパラメータを使用する。
また、溶解度パラメータの一例を、下記表1に示す。
本実施形態においては、上記HSP距離を満足するように、前記製膜原液(具体的には、製膜原液に含まれる溶剤及びポリビニルピロリドン系樹脂等)及び前記内部凝固液を選択することが好ましい。前記内部凝固液は、単一の溶剤からなるものであってもよいし、2種以上の溶剤及び高分子を組み合わせて用いてもよい。前記内部凝固液としては、2種以上の溶剤及び高分子を組み合わせて用いる場合は、例えば、前記製膜原液とHSP距離の遠い溶剤と、前記製膜原液とHSP距離の近い溶剤とを任意の比率で混合し、前記製膜原液とのHSP距離を調節した混合溶剤等が挙げられる。その際に混合する溶剤及び高分子の種類や数に特に制限はない。なお、製膜原液とHSP距離の遠い溶剤としては、例えば、水やグリセリン等が挙げられる。また、製膜原液とHSP距離の近い溶剤としては、例えば、γ-ブチロラクトンやジメチルアセトアミド等が挙げられる。
前記内部凝固液としては、水溶性高分子を含むことが好ましい。前記内部凝固液としては、例えば、水とγ-ブチロラクトンとポリエチレングリコールとの混合溶剤、水とグリセリンとポリエチレングリコールとの混合溶剤、水とグリセリンとポリビニルピロリドンとの混合溶剤、水とγ-ブチロラクトンとグリセリンとポリエチレングリコールとの混合溶剤、水とジメチルホルムアミドとグリセリンとポリエチレングリコールとの混合溶剤が挙げられる。この中でも、前記内部凝固液は、水とγ-ブチロラクトンとグリセリンとポリエチレングリコールとの混合溶剤が、中空糸膜の成形性、性能が良いという点から好ましい。
前記内部凝固液の温度は、内部凝固液の均一性を確保するという観点から、40~100℃であることが好ましい。すなわち、前記内部凝固液の温度としては、40~100℃での間で調整されることが好ましい。
前記内部凝固液は、前記押出温度における粘度が、5~100mPa・sであることが好ましく、6~50mPa・sであることがより好ましく、7~50mPa・sであることがさらに好ましい。このような粘度を有する内部凝固液を用いることによって、中空糸成型用ノズルから押し出された中空糸状の前記製膜原液の内周面からの凝固を好適に行うことができる。前記粘度が小さすぎると、前記中空糸膜の機械的強度が高まらない傾向がある。これは、内部凝固液の粘度が小さすぎると、膜内周部が凝固する際に、膜の内周部が円形を保てず、歪んでしまうためと考えられる。このため、前記粘度を調節することで、内周面側付近の構造が好適な中空糸膜が得られ、透過性能及び分画特性、機械的強度に優れた前記中空糸膜をより好適に製造できると考えられる。よって、透過性能及び分画特性、機械的強度に優れた前記中空糸膜をより好適に製造できる。
本実施形態に係る製造方法における形成工程は、中空糸状に押し出された前記製膜原液を、前記製膜原液のゲル化温度より高く、かつ、前記相分離開始温度より低い温度の外部凝固液に接触させて、前記製膜原液を凝固させる工程であれば、特に限定されない。前記形成工程としては、具体的には、例えば、押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固液と接触させて、中空糸膜を形成する工程等が挙げられる。前記形成工程は、より具体的には、前記押出工程で押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固浴に貯留した外部凝固液に浸漬させる工程等が挙げられる。
前記外部凝固液は、押し出された中空糸状の製膜原液と接触することで、押し出された中空糸状の製膜原液を凝固させることができるものであれば、特に限定されない。前記外部凝固液としては、具体的には、水や、塩類又は溶剤を含有した水溶液等が挙げられる。ここでの塩類としては、例えば、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等の各種の塩類が挙げられる。前記塩類としては、この中でも、硫酸ナトリウムが好ましい。また、塩類を含有した水溶液は、その塩類濃度が、30~300g/Lであることが好ましく、50~300g/Lであることがより好ましく、80~280g/Lであることがさらに好ましい。この塩類濃度は、低すぎても、高すぎても、好適な膜構造の中空糸膜が得られにくくなる傾向がある。具体的には、この塩類濃度が低すぎると、前記形成工程における溶剤交換速度が速くなり、得られた中空糸膜の緻密化が進みすぎて、透過性能が低下する傾向がある。また、この塩類濃度が高すぎると、前記形成工程における溶剤交換速度が遅くなり、得られた中空糸膜の分画特性が低下する傾向がある。
前記外部凝固液の温度は、押し出された中空糸状の製膜原液と接触することで、押し出された中空糸状の製膜原液を凝固させることができる温度であれば、特に限定されない。この外部凝固液の温度としては、前記製膜原液のゲル化温度より高いことが好ましい。また、外部凝固液の温度としては、具体的には、前記溶剤として、前記フッ化ビニリデン系樹脂の貧溶剤を用いた場合、すなわち、前記製膜原液が、温度変化による相分離を起こす場合、前記相分離開始温度よりも低いことが好ましい。前記外部凝固液の温度を、このような温度で行うと、透過性能及び分画特性、機械的強度にともに優れた中空糸膜を、好適に製造することができると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。まず、製膜原液を製造する際、フッ化ビニリデン系樹脂に対する良溶剤を用いるのではなく、上記のような、フッ化ビニリデン系樹脂に対する貧溶剤を用い、中空糸状の製膜原液を、前記温度変化による相分離が起こる温度以下の外部凝固液と接触させる。そうすることで、製膜原液内の溶剤と外部凝固液との溶剤交換が起こり、製膜原液内の樹脂を凝固させる。このため、溶剤交換の速度が、良溶剤を用いた場合、いわゆる、従来のNIPS法より、好適な速度になると考えられる。また、製膜原液温度より低い温度の外部凝固液と接触させることで、TIPS法を併用でき、相分離をさらに促進させることができると考えられる。よって、透過性能及び分画特性、機械的強度に優れた中空糸膜を、好適に製造することができると考えられる。
前記外部凝固液の温度は、上述したように、前記製膜原液のゲル化温度より高く、かつ、前記製膜原液の相分離開始温度より低いことが好ましい。前記外部凝固液の温度としては、具体的には、45~75℃であることが好ましく、50~70℃であることがより好ましい。前記外部凝固液の温度が低すぎると、得られた中空糸膜が緻密化し、非対称な構造が形成されにくくなる傾向がある。また、前記外部凝固液の温度が高く、前記製膜原液の相分離開始温度を超えてしまうと、TIPS法による相分離促進効果を利用できないため、中空糸膜の機械的強度を充分に高めることが出来ない傾向がある。また、前記外部凝固液の温度が高すぎると、製膜原液の粘度が低下することによって、分画特性が低下し、また、透水性能が高まりすぎてしまう傾向がある。さらに、前記外部凝固液の温度が、その沸点以上であると、外部凝固液が沸騰して振動するため、中空糸膜の製造が安定しない傾向がある。
前記形成工程は、押し出された中空糸状の製膜原液を、外部凝固液に接触させる前に、気体、通常、空気中を走行してもよい。すなわち、前記形成工程は、前記押出工程で押し出された中空糸状の製膜原液を、気体中を走行した後、外部凝固液に接触させてもよい。気体中を走行する距離は、特に限定されず、例えば、5~300mmであることが好ましい。この気体中の走行は、押し出された中空糸状の製膜原液と内部凝固液との溶剤交換を好適に行うことができ、中空糸形状が安定化し、紡糸性が向上する。なお、本実施形態に係る製造方法では、この気体中の走行を行わなくてもよい。
本実施形態に係る製造方法は、前記形成工程により形成された中空糸膜を、長手方向に延伸してもよい。この延伸方法は、特に限定されないが、例えば、水浴中、例えば、加温した水浴中での延伸処理等が挙げられる。なお、延伸後、延伸にかかる力を開放すると、長手方向に収縮する。このような延伸及び収縮を施すと、中空糸膜は、透過性能が向上する。このことは、膜内に存在する独立孔が開裂し、連通孔となり、膜内の連通性が向上し、透過性能が向上すると考えられる。さらに、このような延伸及び収縮を施すと、中空糸膜の繊維の方向が均質化し、強度が向上するという利点もある。なお、本実施形態に係る製造方法では、この延伸及び収縮を行わなくてもよい。
本実施形態に係る製造方法は、前記形成工程により形成された中空糸膜を、洗浄してもよい。洗浄方法としては、例えば、中空糸膜を、8 0 ℃ 以上の水浴中にて熱水洗浄する方法などが挙げられる。この熱水洗浄により、中空糸膜の親水性が好適に向上する。このことは、この熱水洗浄により、中空糸膜内のポリビニルピロリドン系樹脂が、膜内で拡散することによると考えられる。
本実施形態に係る製造方法における架橋工程は、凝固された前記製膜原液に含まれるポリビニルピロリドン系樹脂を架橋させる工程であれば、特に限定されない。この架橋工程としては、例えば、中空糸膜(架橋前の中空糸膜)を、ラジカル開始剤を含む水溶液に浸漬させる工程、中空糸膜を強酸や強アルカリに浸漬させる工程、中空糸膜を熱処理する工程、及び中空糸膜に対して放射線処理する工程等が挙げられる。前記架橋工程としては、上記各工程の中でも、フッ化ビニリデン系樹脂の劣化を抑制でき、かつ、取り扱いが容易である点から、中空糸膜を、ラジカル開始剤を含む水溶液に浸漬させる工程が好ましい。ラジカル開始剤を含む水溶液に浸漬させる工程は、その浸漬の際に、又は、浸漬後に、加熱処理をすることが好ましい。また、ラジカル開始剤を含む水溶液としては、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋反応を開始させることができるラジカル開始剤を含む水溶液であればよく、例えば、ラジカル開始剤の5質量%水溶液等が挙げられる。ラジカル開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、及び過酸化水素等が挙げられる。この中でも、透過性能の高い中空糸膜が得られやすいという点で、過酸化水素が好ましい。熱処理する工程における加熱温度は、ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋反応を開始させることができる温度であればよく、例えば、80~200℃程度であることが好ましい。
本実施形態に係る中空糸膜は、膜ろ過に供することができる。具体的には、例えば、中空糸膜を用いて、以下のようにモジュール化し、このモジュール化されたものを用いて、膜ろ過に用いることができる。より具体的には、本実施形態に係る中空糸膜は、所定本数束ねられ、所定長さに切断されて、所定形状のケーシングに充填され、中空糸束の端部はポリウレタン樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂によりケーシングに固定されて、モジュールとなる。なお、このモジュールの構造としては、中空糸膜の両端が開口固定されているタイプ、中空糸膜の一端が開口固定され、他端が密封されているが、固定されていないタイプ等、種々の構造のものが知られており、本実施形態に係る中空糸膜は、いずれのモジュールの構造においても使用可能である。
本実施形態に係る中空糸膜は、上記のようにモジュール化され、例えば、図5に示すような膜ろ過装置に組み込むことができる。なお、図5は、本実施形態に係る中空糸膜を備えた膜ろ過装置の一例を示す概略図である。膜ろ過装置31は、上記のように中空糸膜をモジュール化した膜モジュール32を備える。そして、この膜モジュール32は、例えば、中空糸膜の上端部33は中空部を開口しており、下端部34は中空部をエポキシ系樹脂にて封止しているものが挙げられる。また、膜モジュール32は、例えば、有効膜長さ100cmの中空糸膜を70本用いてなるもの等が挙げられる。そして、この膜ろ過装置31は、導入口35から、処理対象物である液体を、膜モジュール32によるろ過が施された液体(ろ過水)等が導出口36から排出される。そうすることによって、中空糸膜を用いたろ過が実施される。なお、膜ろ過装置31に導入された空気は、空気抜き口37から排出される。
本実施形態に係る中空糸膜は、このようにモジュール化されて、浄水処理、飲料水製造、工業水製造、排水処理等の各種用途に用いられる。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
まず、フッ化ビニリデン系樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略することがある)(アルケマ株式会社製のKynar741)と、溶剤として、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)と、ポリビニルピロリドン系樹脂として、ポリビニルピロリドン(BASFジャパン株式会社製のソカランK-90P、K値:90)と、相分離促進剤として、ポリエチレンオキサイド(明成化学工業株式会社製のアルコックスL-6、重量平均分子量:60,000)とを、質量比25:65:9:1になるように混合物を調製した。なお、γ-ブチロラクトンは、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶剤である。また、前記ポリフッ化ビニリデンの、前記ポリビニルピロリドンに対する含有量は、25/9であり、約2.78である。
上記混合物を95℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解し、混練することによって、製膜原液が得られた。この製膜原液は、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶剤を含むことから、温度変化による相分離する製膜原液であった。このような製膜原液を、図4に示すような、外径1.6mm 、内径0.8mmの二重環構造のノズル(中空糸膜成型用ノズル)から押し出した。このとき、前記製膜原液の温度(押出温度)が80℃となるように押し出した。内部凝固液として、水とγ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とポリエチレングリコール(三洋化成株式会社製のPEG、数平均分子量:20,000)とを80℃の恒温下で質量比42:8:43:7になるように混合し、製膜原液と同時吐出した。この内部凝固液は、前記製膜原液とのHSP距離は、23.5MPa1/2である。また、この内部凝固液の押出温度(製膜温度)における粘度は10mPa・sであった。なお、内部凝固液の粘度測定は、広口ビンに入れた内部凝固液を恒温槽に入れ、液温が押出温度になるように設定し、B型粘度計を用いて粘度の測定を行った。
前記内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、40mmの空走距離を経て、80g/Lの硫酸ナトリウム水溶液からなる65℃の外部凝固液中に浸漬させた。そうすることによって、前記製膜原液が固化され、中空糸膜が得られた。なお、この外部凝固液は、前記ポリフッ化ビニリデンに対する非溶剤である。
次いで、得られた中空糸膜を、延伸処理及び収縮処理をした後に、90℃の熱水で2時間洗浄した。そうすることによって、前記溶剤(γ-ブチロラクトン)と前記ポリビニルピロリドン系樹脂(ポリビニルピロリドン)とが、前記中空糸膜から抽出除去される。その後、得られた架橋前(未架橋)の中空糸膜を、ポリビニルピロリドンを5%過硫酸ナトリウム水溶液中で加熱することによって、架橋化処理(架橋不溶化処理)を施した。このようにして得られた中空糸膜を微量窒素分析することによって、窒素(N)の存在量を測定し、この存在量から、前記ポリビニルピロリドン系樹脂の架橋体の含有量を算出した。その結果、前記中空糸膜は、ポリビニルピロリドンの架橋体の含有量が1.7質量%であった。
このようにして得られた中空糸膜は、外径が1.25mmであり、内径が0.75mmであり、膜厚が0.25mmであった。
実施例1に係る中空糸膜の膜構造を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS-3000N)を用いて確認した。その結果を、図6~10に示す。
まず、図6は、実施例1に係る中空糸膜の断面の顕微鏡写真(マイクロスコープ写真)を示す図である。図7は、実施例1に係る中空糸膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図8は、実施例1に係る中空糸膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図9は、実施例1に係る中空糸膜の断面における中央部付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図10は、実施例1に係る中空糸膜の断面における内周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図8は、図7に示す囲み線71を拡大して示す図である。図9は、図7に示す囲み線72を拡大して示す図である。図10は、図7に示す囲み線73を拡大して示す図である。
これらの図から、実施例1に係る中空糸膜が、多孔性の中空糸膜であって、前記中空糸膜内の気孔の孔径が、分離層から膜中央部にかけて漸次的に大きくなり、膜中央部から膜内周部にかけて、漸次的に小さくなる傾斜構造を有することがわかる。すなわち、前記中空糸膜内の気孔の大きさが厚み方向で順次異なり、前記中空糸膜の中央部で気孔の孔径が最大となっていることがわかる。具体的には、図9に示す、前記中空糸膜の中央部付近の写真を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage-ProPlus)を用いて二値化し、大津方式で閾値を決定して、前記中空糸膜内の気孔のうち最も大きい気孔の孔径(最大径rmax)を算出した。その結果、最大径は、3.6μmであった。また、図6に示すような、マイクロスコープ写真において、X-Y計測にて、前記中空糸膜の内周面における凸部を基準とした内径(中空糸膜の内周面における一番内側で測定したときの平均直径)RiAと、前記中空糸膜の内周面における凹部を基準とした内径(中空糸膜の内周面における一番外側で測定したときの平均直径)RiBとを測定した。なお、前記マイクロスコープ写真は、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のDIGITAL MICROSCOPE VHX-500F)を用いて撮影した。そして、RiAに対するRiBの比(RiB/RiA)を算出した。その結果、RiB/RiAは、1.0であった。
得られた中空糸膜の機械的強度を測定した。具体的には、得られた中空糸膜の、引張強度、引張伸度、破裂圧力、及びつぶれ圧力を測定した。
中空糸膜の引張強度は、以下のように測定した。
まず、得られた中空糸膜を、長さ7cmになるように切断した。この切断した中空糸膜を、引張強度を測定するための試験片とした。次に、オートグラフ(株式会社島津製作所製のAG-Xplus)を用いて、25℃の水中で、前記試験片を100mm/分の速度で引っ張る引張試験を行った。その際、破断したときの荷重から、引張強度を求めた。この測定方法により得られた引張強度が、6.6N/mm2であった。
中空糸膜の引張伸度は、以下のように測定した。
上記引張試験において、破断したときの、前記試験片の伸びから、引張伸度を求めた。この測定方法により得られた引張伸度が、189%であった。
中空糸膜の破裂圧力は、以下のように測定した。
まず、得られた中空糸膜を長さ20cmになるように切断した。この切断した中空糸膜を、破裂圧力を測定するための試験片とした。得られた試験片をループ状にし、前記中空糸膜内部から圧力をかけられるような膜モジュールを用意した。前記膜モジュールを用いて、中空糸膜の内周面側に係る圧力を徐々に高めるように加圧して、中空糸膜が破裂したときの圧力を測定した。この測定方法により得られた破裂圧力が1.32MPaであった。
中空糸膜のつぶれ圧力は、以下のように測定した。
まず、得られた中空糸膜を長さ20cmになるように切断した。この切断した中空糸膜を、破裂圧力を測定するための試験片とした。得られた試験片の一端を封止した外圧モジュールを作製した。また、前記中空糸膜を透過不可能な粘性の高い液体を用意した。前記中空糸膜の外周側にかかる圧力を徐々に高めるよう、前記液体を用いて加圧して、前記中空糸膜が潰れたときの圧力を測定した。この測定方法により得られたつぶれ圧力が0.96MPaであった。
得られた中空糸膜の透水量は、前記中空糸膜を用いた、以下のような操作における、単位時間当たりのろ過液の量を測定し、この得られた量と、膜面積とから算出した。
前記中空糸膜を用いて、図5に示すような膜ろ過装置31を作製した。膜ろ過装置31に装填されている膜モジュール32は、有効膜長さ20cm、中空糸本数20本からなる。上端部33は中空糸膜の中空部が開口しており、下端部34は中空糸膜の中空部をエポキシ系樹脂にて封止されている。この膜ろ過装置31は、導入口35を経て、中空糸膜の外周面側より、純水をろ過し、上端部の内周面側にある導出口36よりろ過水を得た。この際、膜間差圧0.1MPaになるように調整した。
この測定方法により得られた透水量、すなわち、膜間差圧0.1MPaにおける透水量は、4900L/m2/時であった。なお、ここでの測定で用いた中空糸膜は、膨潤状態の中空糸膜であり、ここでの透水量は、湿潤状態での膜間差圧0.1MPaにおける純水の透過速度(Flux)に相当する。
得られた中空糸膜の分画粒子径を、以下の方法で測定した。
異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子(日揮触媒化成株式会社製の、カタロイドSI-550、カタロイドSI-45P、カタロイドSI-80P等)の阻止率を測定し、その測定値を元にして、下記の近似式において、Rが90となるSの値を求め、これを分画粒子径とした。
R=100/(1-m×exp(-a×log(S)))
上記式中のa及びmは、中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。この測定方法により得られた分画粒子径が、0.02μmであった。
これらのことから、実施例1に係る中空糸膜は、透過性能及び分画特性にともに優れ、機械的強度にも優れた中空糸膜であることがわかった。
実施例1における条件や測定結果等を、後述する各実施例及び比較例の場合とともに、下記表2に示す。
[実施例2]
前記製膜原液とのHSP距離が23.5である内部凝固液の代わりに、前記製膜原液とのHSP距離が22.9である内部凝固液を用いたこと以外、実施例1と同様にして、中空糸膜を得た。なお、実施例2で用いた内部凝固液は、実施例1で用いた内部凝固液の成分組成比を、前記製膜原液とのHSP距離が22.9となるように変更した内部凝固液である。実施例2で用いた内部凝固液としては、具体的には、水とγ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とポリエチレングリコール(三洋化成株式会社製のPEG、数平均分子量:20,000)とを80℃の恒温下で質量比36:8:50:6になるように混合して得られた混合液を用いた。
この得られた中空糸膜の、前記中空糸膜内の気孔のうち最も大きい気孔の孔径(最大径rmax)、RiAに対するRiBの比(RiB/RiA)、引張強度、引張伸度、破裂圧力、つぶれ圧力、透水量、及び分画粒子径は、上記実施例1と同様の方法により、測定した。その結果は、表2に示す。また、用いた製膜原液の、相分離開始温度及びゲル化温度、押出温度、内部凝固液の、前記製膜原液とのHSP距離、押出温度における内部凝固液の粘度等も、表2に示す。
この得られた中空糸膜(実施例2に係る中空糸膜)は、実施例1と同様、透過性能及び分画特性にともに優れ、機械的強度にも優れた中空糸膜であることがわかった。
[実施例3]
前記製膜原液とのHSP距離が23.5である内部凝固液の代わりに、前記製膜原液とのHSP距離が26.2である内部凝固液を用いたこと以外、実施例1と同様にして、中空糸膜を得た。なお、実施例3で用いた内部凝固液は、実施例1で用いた内部凝固液の成分組成比を、前記製膜原液とのHSP距離が26.2となるように変更した内部凝固液である。実施例3で用いた内部凝固液としては、具体的には、水とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とポリエチレングリコール(三洋化成株式会社製のPEG、数平均分子量:20,000)とを80℃の恒温下で質量比50:42:8になるように混合して得られた混合液を用いた。
この得られた中空糸膜の、前記中空糸膜内の気孔のうち最も大きい気孔の孔径(最大径rmax)、RiAに対するRiBの比(RiB/RiA)、引張強度、引張伸度、破裂圧力、つぶれ圧力、透水量、及び分画粒子径は、上記実施例1と同様の方法により、測定した。その結果は、表2に示す。また、用いた製膜原液の、相分離開始温度及びゲル化温度、押出温度、内部凝固液の、前記製膜原液とのHSP距離、押出温度における内部凝固液の粘度等も、表2に示す。
この得られた中空糸膜(実施例3に係る中空糸膜)は、実施例1と同様、透過性能及び分画特性にともに優れ、機械的強度にも優れた中空糸膜であることがわかった。
[比較例1]
前記製膜原液とのHSP距離が23.5である内部凝固液の代わりに、前記製膜原液とのHSP距離が17.7である内部凝固液を用いたこと以外、実施例1と同様にして、中空糸膜を得た。なお、比較例1で用いた内部凝固液は、実施例1で用いた内部凝固液の成分組成比を、前記製膜原液とのHSP距離が17.7となるように変更した内部凝固液である。比較例1で用いた内部凝固液としては、具体的には、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とを80℃の恒温下で質量比15:85になるように混合して得られた混合液を用いた。
この得られた中空糸膜の、前記中空糸膜内の気孔のうち最も大きい気孔の孔径(最大径rmax)、RiAに対するRiBの比(RiB/RiA)、引張強度、引張伸度、破裂圧力、つぶれ圧力、透水量、及び分画粒子径は、上記実施例1と同様の方法により、測定した。その結果は、表2に示す。また、用いた製膜原液の、相分離開始温度及びゲル化温度、押出温度、内部凝固液の、前記製膜原液とのHSP距離、押出温度における内部凝固液の粘度等も、表2に示す。
得られた中空糸膜(比較例1に係る中空糸膜)は、図11に示すように、前記中空糸膜の内周面付近の孔径が粗大化していることがわかった。なお、図11は、比較例1に係る中空糸膜の断面における内周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、比較例1に係る中空糸膜は、機械的強度が高まらない傾向が見られた。このことは、RiB/RiAが1.05と大きいことによると考えられる。
[比較例2]
特許文献1に記載の実施例1
具体的には、以下のようにして製造した。
まず、フッ化ビニリデン系樹脂としての、前記ポリフッ化ビニリデンと、溶剤としての、γ-ブチロラクトンと、ポリビニルピロリドン系樹脂としての、前記ポリビニルピロリドンとを、質量比25:62:13になるように混合物を調製した。なお、ポリフッ化ビニリデンの、ポリビニルピロリドンに対する含有量は、25/13であり、約1.92である。
上記混合物を95℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解して得られた製膜原液を、混練した後に、実施例1と同様の二重環構造のノズル(中空糸膜形成用ノズル)から押し出した。このとき、内部凝固液として、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とを65℃の恒温下で質量比15:85になるように混合し、製膜原液と同時吐出した。この内部凝固液は、製膜原液とのHSP距離は、17.7MPa1/2である。
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、40mmの空走距離を経て、180g/Lの硫酸ナトリウム水溶液からなる60℃の外部凝固液中に浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られる。
次いで、得られた中空糸膜を、延伸、収縮処理をした後に、90℃の熱水で2時間洗浄した。そうすることによって、溶剤(γ-ブチロラクトン)とポリビニルピロリドン系樹脂(ポリビニルピロリドン)とが、中空糸膜から抽出除去される。その後、得られた中空糸膜(架橋前の中空糸膜)を、ポリビニルピロリドンを1%過酸化水素溶液中で加熱することによって、架橋化処理(架橋不溶化処理)を施した。このときのポリビニルピロリドンの架橋体の含有量は、1.9質量%であった。
このようにして得られた中空糸膜の外径は、1.3mm、内径は0.8mmであり、膜厚が、0.25mmであった。
この得られた中空糸膜の、前記中空糸膜内の気孔のうち最も大きい気孔の孔径(最大径rmax)、RiAに対するRiBの比(RiB/RiA)、引張強度、引張伸度、破裂圧力、つぶれ圧力、透水量、及び分画粒子径は、上記実施例1と同様の方法により、測定した。その結果は、表2に示す。また、用いた製膜原液の、相分離開始温度及びゲル化温度、押出温度、内部凝固液の、前記製膜原液とのHSP距離、押出温度における内部凝固液の粘度等も、表2に示す。
得られた中空糸膜(比較例2に係る中空糸膜)は、比較例1に係る中空糸膜と同様、前記中空糸膜の内周面付近の孔径が粗大化していた。なお、図11は、比較例1に係る中空糸膜の断面における内周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。また、比較例2に係る中空糸膜は、透過性能及び機械的強度が高まらない傾向が見られた。このことは、まず、RiB/RiAが1.05と大きいことによると考えられる。また、比較例1と比較して、製膜原液の相分離開始温度が低く、外部凝固液温度よりも押出温度が低い状態で製膜されたため、TIPS法由来の相分離促進効果を用いることができなかったことにもよると考えられる。これにより、比較例2に係る中空糸膜における最大径が、実施例1~3に係る中空糸膜だけではなく、比較例1に係る中空糸膜と比較しても、小さくなる傾向が見られた。さらに、比較例2に係る中空糸膜は、実施例1~3に係る中空糸膜だけではなく、比較例1に係る中空糸膜と比較しても、機械的強度が高まらない傾向が見られた。また、比較例2に係る中空糸膜は、比較例1に係る中空糸膜と比較して、透過性能が高まらない傾向が見られた。