JP2024049374A - 多孔質中空糸膜およびその製造方法 - Google Patents

多孔質中空糸膜およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】擦過による分離性低下を防ぐことができる多孔質中空糸膜を提供すること。【解決手段】熱可塑性樹脂からなり、2つ以上の領域を有する多孔質中空糸膜であって、球状構造体を有し、かつ中空糸膜の長手方向に垂直な断面における空隙率が50%以上80%未満であるA領域、中空糸膜の長手方向に垂直な断面における空隙率が5%以上20%未満の緻密構造からなるB領域を含む多孔質中空糸膜。【選択図】図3

Description

本発明は、排水処理、浄水処理、工業用水製造などの水処理用途、ならびに食品、医薬の製造などの用途に用いられる多孔質中空糸膜およびその製造方法に関するものである。
精密ろ過膜や限外ろ過膜などの分離膜は、水処理用途や食品・医薬用途において、清澄化、濃縮、分離といった目的で使用されているが、近年、分離膜の適用範囲拡大に伴い、ろ過難度の高い高濁度の被ろ過液や高精度な分離が要求される用途への適用が検討されており、ろ過安定性(目詰まりしにくさ)、機械的耐久性、分離性を兼ね備えた分離膜への要求は一層高まっている。
分離膜を用いたろ過プロセスにおいてはろ過液を多く得たいため、単位体積あたりの有効膜面積を大きくすることができる中空糸膜が一般に多く採用されている。中空糸膜はその形状から耐圧性が高く、平膜よりも高いろ過一次圧をかけることができ、多くの処理水を得ることができる点からも好適に採用されている。
中空糸膜を用いたろ過方式としては、膜の内表面側から外表面側に向けてろ過する内圧ろ過方式と、外表面側から内表面側に向けてろ過する外圧ろ過方式がある。これらのうち、被ろ過液と接触する側の表面積が大きく取れて、より単位表面積当たりの濁質負荷量を小さくでき、中空部での濁質体積による流路閉塞も起こらない外圧ろ過方式が、特に高濁度の被ろ過液に対して好適に用いられる。
中空糸膜は糸束状で容器内に充填され中空糸膜モジュールとして使用されるのが一般的であるが、濁質を多く含む被ろ過液をろ過する場合、ろ過の継続に伴って被ろ過液の濁質濃度が高くなり中空糸膜への負荷が大きくなるため、中空糸膜には糸切れしない高い強伸度が必要である。また、中空糸膜の洗浄工程で実施される逆洗やエアスクラビングによって、中空糸膜表面は濁質および中空糸膜同士の接触にさらされるため、分離性低下を防ぐために分離機能層には高い耐久性が求められる。
ろ過安定性と機械的強度に優れた多孔質中空糸膜として、例えば、球状構造体が三次元的に連結した多孔質中空糸膜が開示されている(特許文献1)。
また、機械的強度と分離性を兼ね備えた中空糸膜としては、例えば、球状構造体の多孔質中空糸膜の表面に分離機能層を積層させる方法が開示されている(特許文献2)。
分離機能層の耐久性を高め長期にわたって分離性を維持するために、例えば分離機能層に使用する熱可塑性樹脂の分子量を大きくして耐久性を高める方法(特許文献3)や、多孔質中空糸膜の開孔率の傾斜度を制御して耐久性を高める方法(特許文献4)などが提案されている。
国際公開第2016/006611号 特開2006-263721号公報 特開2016-196006号公報 国際公開第2015/053366号
しかしながら、特許文献1ではろ過安定性と機械的強度に優れるものの分離性向上に課題があり、一方、特許文献2のように中空糸膜の外表面に分離機能層を設ける場合では、特に高濁度の被ろ過液に対して好適に行われる外圧ろ過方式において擦過による分離性低下が懸念される。特許文献3や特許文献4のように、分離機能層の物性や孔構造により耐久性を高める提案がされているものの抜本的な課題解決にはなっておらず、被ろ過液中に予期せず擦過性の高い濁質(例えば無機粒子など)が含まれた場合には、以前として分離機能層の破損が懸念される。
本発明の目的は、擦過による分離性低下を防ぐことができる多孔質中空糸膜を提供することである。
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の球状構造と緻密構造が積層された多孔質中空糸膜とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち本発明は以下の構成である。
(1)熱可塑性樹脂からなり、2つ以上の領域を有する多孔質中空糸膜であって、球状構造体を有し、かつ中空糸膜の長手方向に垂直な断面における空隙率が50%以上80%未満であるA領域、中空糸膜の長手方向に垂直な断面における空隙率が5%以上20%未満の緻密構造からなるB領域を含む多孔質中空糸膜。
(2)最外表面側が前記A領域である(1)に記載の多孔質中空糸膜。
(3)最内表面側が前記B領域である(1)または(2)に記載の多孔質中空糸膜。
(4)前記A領域を構成する球状構造体の平均直径が0.5μm以上15μm以下である(1)~(3)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
(5)前記B領域を構成する構造体太さの平均が1μm以上25μm以下である(1)~(4)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
(6)前記A領域の最外表面における平均長さRSmが5μm以上20μm以下、二乗平均平方根高さRqが0.5μm以上5μm以下である(1)~(5)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
(7)前記B領域の中空糸膜の長手方向に垂直な断面における平均孔径が0.01μm以上1.0μm以下である(1)~(6)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
(8)前記A領域の厚みが5μm以上300μm以下である(1)~(7)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
(9)前記B領域の厚みが1μm以上100μm以下である(1)~(8)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
(10)前記A領域とB領域の間に、平均孔径が1.0μm以上2.0μm以下であり、かつ断面における空隙率が20%以上40%以下の中間領域(C領域)を有する(1)~(9)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
(11)前記C領域の厚みが1μm以上100μm以下である(10)に記載の多孔質中空糸膜。
(12)熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂である(1)~(11)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
(13)(1)~(12)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜を用いた液体のろ過方法。
(14)(1)~(12)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜を用いた膜ろ過装置。
(15)多孔質中空糸膜の製造方法であって、
(a)ポリフッ化ビニリデン系樹脂を有機溶媒に溶解してポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を得る工程、
(b)工程(a)で得られたポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を中空糸形状に成型し、凝固浴中で固化させて中空糸成型物を得る工程、
(c)工程(b)で得られた中空糸成型物に、70~100重量%の有機溶媒を含む溶液を含浸させる工程、
(d)工程(c)で得られた中空糸成型物を、非溶媒、あるいは30重量%以下の有機溶媒を含む溶液中で加熱する工程、
を有し、本製造方法で用いる有機溶媒がHansen溶解度パラメーターの分散項(δD)が16MPa1/2以上19MPa1/2以下かつ、
極性項(δP)が11MPa1/2以上17MPa1/2以下かつ、水素結合項(δH)が7MPa1/2以上12MPa1/2以下
である多孔質中空糸膜の製造方法。
(16)工程(d)の後に、洗浄および冷却する工程を有する(15)に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
(17)工程(c)と工程(d)の間に、非溶媒、あるいは30重量%以下の有機溶媒を含む溶液で洗浄する工程、
を有する(15)または(16)に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
(18)工程(d)において同時に延伸を行う、(15)~(17)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
(19)有機溶媒がγ―ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドのいずれかである(15)~(18)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
(20)工程(d)で得られた中空糸成型物が固液型熱誘起相分離による球状構造を有している(15)~(19)のいずれかに記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
本発明の多孔質中空糸膜によれば、濁質を多く含む被ろ過液を外圧ろ過方式でろ過する工程において、被ろ過液側に球状構造を有し、それよりも内表面側に分離性を担う緻密領域が形成されていることにより、緻密領域の擦過が抑制できる。
従って、長期使用に際しても安定的に高い除去性の発現が可能となるため、濁質がろ過液側に混入するといった品質低下の懸念がなくなるといった効果を奏する。
本発明の実施形態の多孔質中空糸膜の斜視図である。 本発明の実施形態の球状構造の斜視図である。 本発明の実施形態の多孔質中空糸膜の長手方向に垂直な断面の電子顕微鏡写真である。 本発明の実施形態の多孔質中空糸膜の長手方向に垂直な断面の電子顕微鏡写真である。
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
<多孔質中空糸膜の有機高分子樹脂>
本発明の実施形態において、多孔質中空糸膜は有機高分子樹脂からなる。
有機高分子樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート等のポリエステル類、ポリウレタン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリビニルアセタール類、ポリアミド類、ポリスチレン類、ポリスルホン類、セルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル類、ポリカーボネート類等の単独成分、これらから選ばれる2種以上のポリマーアロイやブレンド物、又は上記ポリマーを形成するモノマーの共重合体等が挙げられるが、上記の例に限定されるものではない。この中でも、耐熱性、耐薬品性等に優れた樹脂成分として、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、もしくは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂が挙げられる。この中でも特に、有機溶媒との相溶性が高く、均一な製造原液を容易に作製できる有機高分子樹脂であることが好ましい。
有機高分子樹脂としては、熱可塑性樹脂であることが好ましく、熱可塑性樹脂の中でも特に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよびフッ化ビニリデン共重合体のうちの少なくとも1つを含有する樹脂を意味する。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有してもよい。
フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマー等との共重合体である。このような共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、要求される分離膜の強度と透過性能によって適宜選択すればよいが、重量平均分子量が大きくなると透過性能が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下する。このため、重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましい。特に多孔質中空糸膜が薬液洗浄に晒される水処理用途の場合、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましく、さらに15万以上60万以下が好ましい。
多孔質中空糸膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分として含有することが好ましく、中空糸膜においてポリフッ化ビニリデン系樹脂が占める割合は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上であることが更に好ましい。
<多孔質中空糸膜の球状構造体の領域:A領域>
本発明の多孔質中空糸膜は、被ろ過液側の表面に球状構造体の空隙率の高い領域を有することが特徴である。本発明においては、この球状構造体の領域をA領域とする。A領域の空隙率は50%以上80%以下であり、より好ましくは55%以上75%未満である。空隙率がこの範囲にあることで高い透過性能と強伸度が両立できる。具体的な空隙率の測定方法については後述する。
球状構造体とは、球状体が三次元的に連結した構造である。球状体は略球状ないし略楕円状であり、連結状態は特に限定されず隣接する球状体が2つ以上連結されていても良い。具体的な球状体の平均直径の測定方法については後述する。
多孔質中空糸膜にこのような球状構造体の領域を有することにより、固形部である球状体の間、すなわち球状構造体に空隙が形成され、空隙は収縮しにくく、高い透過性能を維持できる。また、球状構造体を形成することにより、網目状構造からなる多孔質中空糸膜に比べて連結点が大きいため、高い強度を実現することができる。また、本発明の多孔質中空糸膜において、球状体およびその球状構造体はポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有することが好ましい。多孔質中空糸膜の一部分を図1に例示する。外圧ろ過方式における多孔質中空糸膜の被ろ過液側の表面とは、図1における外表面11をいう。本発明の多孔質中空糸膜は、外表面11の表面側に球状構造体の領域を有する。
球状構造体の一部分を図2に模式的に示す。図2の球状構造体2においては、複数の球状体20が連結している。
球状体20は、略球状ないし略楕円状である。図2に示すように、球状体20は他の球状体20と連結しているため、その球面または楕円体面の全体を観察することはできない。しかし、1つ1つの球状体の外径に表れている形状から、各球状体の球形状が外挿される。球状体の球形状を外挿するためには、外径に表れている輪郭部分が外挿後の球形状に対し50%以上存在することが必要である。
球状体間の連結は、球状体同士が直接接着することで形成されていても良いし、球状体の間の非球状な部分、たとえば、球状体のくびれ21によって形成されていてもよい。
球状体間の空隙22は上述した球状構造体の固形部間の空隙すなわち細孔である。図2では、球状体間の細孔は周囲を完全に閉じられていないが、細孔とは球状体で囲まれた空間であればよい。さらに、球状構造体を構成する各球状体の表面には、微細な凸凹が多数あってもよく、それらが形成する微小な空隙を球状体表面の細孔23をとする。特に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のような水との接触角θが90°以上で疎水性が強く撥水性の高い樹脂の場合は、固体表面に微細な凹凸を有することで、より接触角が大きくなり撥水性が高くなることが知られており、さらに撥水性表面に微細凹凸を有することで液体の流れに対する抵抗が減少することが知られている。
参考文献としては、フラクタル表面構造と親水性・撥水性の物理、Journal of The Vacuum Society of ジャパン、2015年58巻11号p.424-430および 撥水性微細構造による抵抗減少効果に関する研究、日本機械学会論文集(B 編)75巻758号(2009.―10)がある。
本発明における球状体の平均直径は、0.5~15μmの範囲にあり、好ましくは1.0~10μm、さらに好ましくは1.5~8μmの範囲にある。球状体の平均直径がこの範囲内にあることで、実使用に適した除去率が得られる。
前記球状構造体を構成する球状体の直径は、多孔質中空糸膜の長手方向に垂直な断面を球状構造体が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡等を用いて写真を撮り、10個以上、好ましくは20個以上の任意の球状体の直径を測定し、平均して求める。
球状体の平均直径を算出するときは、くびれ21により連結する球状体(輪郭部が確認できる球状体)については、その長径方向に直線を引き、その大きさを直径とする。
連結している球状体の場合、図2に示すように、球状体同士の連結部分が入らないように球状体の長径方向に中心を通る直線を引き、その大きさを直径とする。この時、長径方向に引いた直線と交わる球状体の輪郭部は2か所あり、その各交点での接線が略平行に対向する。連結している球状体において、球状体の中心が隣接する球状体と重なる場合は、輪郭部が略平行に対向していない構造(図2符号X1に相当)であり、球状体の直径は測定しない。
また、電子顕微鏡写真の奥行き方向に2つの組織が重なって見える場合、その奥側の組織(図2符号X2に相当)の球状体の直径は測定しない。そして、手前側の球状体の輪郭線を奥側と手前側の2つの球状体の境界線として、手前側の球状体の直径のみ測定して算出する。
なお、判定に用いられる電子顕微鏡写真の端で組織が途切れている場合、その端の球状体の直径は測定しないこととする。このように測定された球状体の平均直径が大きいほど、球状構造体を構成する球状体間の細孔22は大きくなる。
球状体の密度は10~10個/mmの範囲が好ましく、より好ましくは10~10個/mmの範囲である。球状体の密度が10個/mm以上であることで高い強度と耐圧性が実現でき、10個/mm以下であることで高い透過性能が得られる。
なお、球状体の密度は、直径の測定と同様に写真を撮り、1つ1つの球状体の外径に表れている形状から各球状体の球形状を外挿して、単位面積あたりの球状体の個数を計測する。球状体の密度が10個/mm以下の場合は球状構造を有さない構造と判定する。
<多孔質中空糸膜の球状構造以外の領域>
本発明においては、前記の球状体を有さない部分、あるいは球状体の密度が10個/mm以下のA領域とは異なる緻密構造の領域を有する。その中でも空隙率が5%以上20%未満の緻密な領域を有することが特徴である。本発明においては、この緻密構造の領域をB領域とする。また、B領域の平均孔径は0.01μm以上1.0μm以下が好ましく、0.03μm以上から0.8μm以下が好ましい。この範囲にあることで被処理水中に含まれる微細な濁質に対し高い除去率を示すことができる。
本発明の多孔質中空糸膜におけるB領域は、球状体密度は10個/mm未満であり、A領域よりも中空糸膜の内表面側に存在する。外圧ろ過方式において緻密領域であるB領域がA領域によって保護されるため、高い耐擦過性を示し、長期的な分離性の維持が可能となる。
さらに、本発明の多孔質膜は、A領域とB領域の間に、平均孔径が1.0μm以上2.0μm以下、かつ空隙率が20%以上50%未満のA領域とB領域の中間的な緻密性を有する領域が存在しても良い。本発明においては、この中間領域をC領域とする。C領域は球状体を含んでいても良く、球状体の密度は10個/mm以上10個/mm未満が好ましい。A領域とB領域の間に中間的な構造のC領域を有することで、A領域からB領域に向かって急激に流路が狭くなって膜内部での圧力損失が急増すること防ぎ、透過性能およびろ過安定性が向上する。
また、本発明では各工程の条件を後述する範囲から適宜選択することで、上記A、BおよびC領域以外の構造を有する領域(D領域)を有することができる。D領域の例として、三次元網目構造領域が挙げられる。D領域は本発明の多孔質膜が有する複数の領域において内外どちらの表面に位置してもよく、中間領域に位置してもよい。さらに、内外および中間領域のうち2か所以上に存在してもよい。
<各領域の平均孔径、空隙率>
各領域の平均孔径と空隙率は、球状構造体の観察と同様に多孔質中空糸膜の長手方向に垂直な断面の走査型電子顕微鏡の写真から測定できる。観察倍率は、空孔部が明瞭に視野内に5個、好ましくは10個以上確認できる倍率が好ましく、例えば1000~5000倍を用いればよい。
この断面写真を、多孔質中空糸膜の外表面から内表面に向かって連続的に撮影し、得られた画像を画像処理ソフトを用いて構造部の輪郭が判別可能な閾値で、樹脂からなる構造部と空隙部とで二値化処理する。二値化処理には一般的な画像処理ソフトを用いることが可能であり、例えばImageJ(Wayne Rasband,National Institutes of Health)などのソフトが挙げられる。
平均孔径は、得られた二値化処理後の断面写真を複数枚用いて、30個の孔径の平均値とする。
空隙率は、下記式によって求められる。精度を高めるために、任意の5点以上、好ましくは10点以上の二値化処理後の断面写真について空隙部の占める割合を求め、それらの平均値を用いることが好ましい。
空隙部面積の割合(%)={(空隙部面積)/(写真全体面積)}×100
また、本発明の多孔質中空糸膜は、A領域とB領域の境界、あるいはA領域とC領域の境界において特定範囲の空隙率の傾斜度を有することが好ましい。空隙率の傾斜度とは、A領域と定義された第1の観察視野と、これに隣接するB領域あるいはC領域と定義された第2の観察視野に基づいて算出される。多孔質中空糸膜の外表面側から内表面側にかけて連続的に観察すると、A領域と定義された視野からB領域あるいはC領域と定義された視野に移行する箇所が出現する。この隣接したA領域とB領域あるいはA領域とC領域の視野を用いて傾斜度を算出する。具体的には、下記式により空隙率の傾斜度を算出することができる。
A領域からB領域、あるいはA領域からC領域への空隙率の傾斜度=(A領域(第1の観察視野)の空隙率)/(B領域、あるいはC領域(第2の観察視野)の空隙率)
本発明の多孔質中空糸膜において、A領域からB領域への空隙率の傾斜度は2.5~16.0が好ましく、3.0~13.0がより好ましく、3.5~10.0が特に好ましい。また、A領域からC領域への空隙率の傾斜度は1.1~4.0が好ましく、1.3~3.5がより好ましく、1.5~3.0が特に好ましい。この範囲にあることで高い透過性能と除去性が両立できる。
<構造体太さ>
本発明におけるB領域およびC領域は、分離機能領域としてよく見られる三次元網目構造とは異なり、空隙と空隙の間の構造体太さが大きいことが特徴である。B領域およびC領域の構造体太さが大きいことで、多孔質中空糸膜全体としても高い強伸度を発現することができる。
B領域およびC領域の空隙間の構造体太さは、球状構造体の観察と同様に多孔質中空糸膜の長手方向に垂直な断面の走査型電子顕微鏡の写真から測定できる。得られた二値化処理後の断面写真における任意の1つの空隙に対し、その周囲にある空隙の最も近いものから10個の距離を測定し、平均して求める。この測定を二値化処理後の断面写真を複数枚用いて30個の空隙に対し行い、その平均値を構造体太さとする。
B領域の平均構造体太さは1μm以上25μm以下、好ましくは1.5μm以上20μm以下、より好ましくは2μm以上15μm以下である。また、C領域の平均構造体太さは0.1μm以上5.0μm以下、好ましくは0.3μm以上4.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上3.0μm以下である。平均構造体太さがこの範囲内にあることで、高い強伸度を維持しつつ、実使用に適した除去率が得られる。
また、本発明の多孔質中空糸膜は、A領域とB領域の境界、あるいはA領域とC領域の境界において特定範囲の構造体太さの傾斜度を有することが好ましい。構造体太さの傾斜度とは、A領域と定義された第1の観察視野と、これに隣接するB領域あるいはC領域と定義された第2の観察視野に基づいて算出される。多孔質中空糸膜の外表面側から内表面側にかけて連続的に観察すると、A領域と定義された視野からB領域あるいはC領域と定義された視野に移行する箇所が出現する。この隣接したA領域とB領域あるいはA領域とC領域の視野を用いて傾斜度を算出する。ここで、A領域の構造体太さは上述した球状体の平均直径とする。具体的には、下記式により構造体太さの傾斜度を算出することができる。
A領域からB領域、あるいはA領域からC領域への構造体太さの傾斜度=(A領域(第1の観察視野)の球状体の平均直径)/(B領域、あるいはC領域(第2の観察視野)の構造体太さ)本発明の多孔質中空糸膜において、A領域からB領域への構造体太さの傾斜度は0.20~0.99、好ましくは0.30~0.90、より好ましくは0.40~0.80の範囲にあることが好ましい。また、A領域からC領域への構造体太さの傾斜度は0.40~0.99、好ましくは0.50~0.98、より好ましくは0.60~0.95の範囲にあることが好ましい。この範囲にあることで強伸度と除去性の両立が可能となる。
<糸寸法>
本発明の多孔質中空糸膜の外径と膜厚は、膜の耐久性(破断強度、耐折れ性、耐圧性)を損なわない範囲で、膜モジュールとして透水量が目標値になるように決めればよい。即ち、外径が小さいほど充填本数が増え膜面積の点で有利になるが、中空部を通液時の圧力損失が高くなるという問題がある。また、外圧ろ過方式の中空糸膜モジュールではろ過運転時の膜間差圧が高まると中空糸膜が座屈する場合があるが、中空糸膜の外径/内径比が大きいほど耐圧性が高まり座屈が発生しにくくなる。
従って、おおよその目安を示すならば、中空糸膜の外径は、好ましくは0.3~3mm、より好ましくは0.4 ~2.5mm、更に好ましくは、0.5~2.0mmである。また、外径/内径比は好ましくは1.5以上、より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは2.0以上である。
<各領域の厚み>
本発明の多孔質中空糸膜における、A領域、B領域、C領域の厚みは透過性能と分離性が目標値になるように決めれば良いが、A領域の厚みは5μm以上300μm以下が好ましく、30μm以上250μm以下がより好ましく、50μm以上200μm以下がさらに好ましい。
また、B領域の厚みは1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上80μm以下がより好ましく、10μm以上50μm以下がさらに好ましい。緻密なB領域が1μm以上であることで高い分離特性を発現することができ、100μm以下であることでろ過抵抗が小さくなり透過性能を高くすることができる。
本発明において、A領域とB領域の間にC領域が含まれていても良く、C領域の厚みは1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上80μm以下がより好ましく、10μm以上50μm以下がさらに好ましい。
各領域の厚みが上記範囲にあることにより、多孔質中空糸膜のろ過安定性と耐久性(破断強度、耐折れ性、耐圧性)を高めることができる。
本発明の多孔質中空糸膜は実質上、マクロボイドを有しないことが好ましい。ここで、マクロボイドとは、中空糸膜の長手方向に垂直な断面において、膜実質部分に観察される長径が50μm以上の空孔である。実質上有しないとは、断面において10個/mm以下、より好ましくは5個/mm以下であり、全く有しないことが、もっとも好ましい。
<多孔質中空糸膜表面の接触角、粗さ>
本発明の多孔質中空糸膜は、水との接触角が大きく強い疎水性を有していてもよい。通常、疎水性の多孔質中空糸膜は水に対する濡れ性が低いため、膜内部の細孔に水が流入しにくいが、本発明の多孔質中空糸膜は、被ろ過液側の表面に球状構造体のA領域があり、流入部の圧力損失が小さくなることで、高い透過性能を発現することができる。具体的には、本発明の多孔質中空糸膜は、中空糸膜100重量%に対し水分量2重量%以上10重量%以下の範囲において、多孔質中空糸膜の外表面(A領域)と水との接触角が、70°以上130°以下、好ましくは80°以上125°以下、より好ましくは90°以上120°以下である。この範囲にあることで、本発明の効果がより高くなる。
多孔質中空糸膜の外表面(A領域)は、球状体がお互いに密に存在しすぎず、かつ球状構造体に含まれる間隙が表面から深い位置まで存在することにより、より圧力損失が小さくなるため好ましい。
多孔質中空糸膜の外表面(A領域)における球状構造体中の間隔、つまり多孔質中空糸膜の表面の空孔は、表面の粗さ評価によって定量化できる。すなわち、多孔質中空糸膜の外表面(A領域)の表面の粗さ評価における平均長さRSmが球状体間の平均間隔の指標となり、二乗平均平方根高さRqが球状体間に存在する間隙の深さの指標となる。具体的には、平均長さRSmは5μm以上20μm以下、好ましくは7μm以上18μm以下、より好ましくは9μm以上16μm以下であり、二乗平均平方根高さRqは0.5μm以上5μm以下、好ましくは1.0μm以上4μm以下、より好ましくは1.5μm以上3μm以下である。多孔質中空糸膜の被ろ過液側の外表面(A領域)、このような巨視的な粗さの範囲にあり、球状体間に適度な間隔が存在することで、濁質を含んだ被ろ過液をろ過する際の目詰まり速度を抑えることができ、ろ過抵抗が上昇しにくくなるため、高い透過性能とろ過安定性を発現することができる。
多孔質中空糸膜のろ過一次側表面の平均長さRSm、および二乗平均平方根高さRqは、例えば、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、VK-7200)を用いて、線粗さ測定(JIS B 0601―2001)を行うことで測定可能である。
<分画粒子径>
本発明の多孔中空糸膜の分画粒子径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下、さらに好ましくは、0.3μm以上1.0μm以下である。分画粒子径が0.1μmより小さいと、微粒子除去は可能となるが、膜細孔の透過抵抗が大きくなり、実用に適した透過性能の高い多孔質膜が得られにくい。一方、分画粒子径が2.0μmより大きいと濁質などの成分が処理水に漏洩する可能性が高くなる。
<多孔質中空糸膜の性能>
本発明の疎水性多孔質中空糸膜の破断強度は0.2~3kg/mm、好ましくは0.3~2.5kg/mm、さらに好ましくは0.4~2.0kg/mmの範囲にあり、かつ、破断伸度が10~250%、好ましくは20~200%、さらに好ましくは30~150%の範囲にあることが好ましい。この範囲にあることにより、通常の使用条件で、十分な透過性能を発揮するとともに、中空糸膜の破断を起こさない。
<多孔質中空糸膜の製造方法>
次に、本発明の多孔質中空糸膜の中でも特にポリフッ化ビニリデン系樹脂から中空糸膜を得るための方法について述べるが、本発明はこれらの製造方法例によってなんら限定されるものではない。
本発明の多孔質中空糸膜は以下の工程(a)~(d)にて製造される。
(a)ポリフッ化ビニリデン系樹脂を有機溶媒に溶解してポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を得る工程、
(b)工程(a)で得られたポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を中空糸形状に成型し、凝固浴中で固化させて中空糸成型物を得る工程、
(c)工程(b)で得られた中空糸成型物に、70~100重量%の有機溶媒を含む溶液を含浸させる工程、
(d)工程(c)で得られた中空糸成型物を、非溶媒、あるいは30重量%以下の有機溶媒を含む溶液中で加熱する工程、
を有し、本製造方法で用いる有機溶媒がHansen溶解度パラメーターの分散項(δD)が16MPa1/2以上19MPa1/2以下かつ、
極性項(δP)が11MPa1/2以上17MPa1/2以下かつ、水素結合項(δH)が7MPa1/2以上12MPa1/2以下である。
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法において、有機溶媒としてはHansen溶解度パラメーター(以下、「HSP」とも記載する)の分散項(δD)が16MPa1/2以上19MPa1/2以下かつ、極性項(δP)が11MPa1/2以上17MPa1/2以下かつ、水素結合項(δH)が7MPa1/2以上12MPa1/2以下の有機溶媒を用いる。なお、以降の「有機溶媒」は、特に記載がない限りHSP範囲を満たす溶媒を指し、溶媒は単一溶媒であっても混合溶媒であってもよい。
HSPは物質の溶解性を表す指標である。HSPは溶解性を多次元(典型的には3次元)のベクトルで表し、代表的には分散項(δD)、極性項(δP)、水素結合項(δH)で表すことができる。分散項(δD)は分子間の分散力に由来するエネルギー、極性項(δP)は分子間の極性力に由来するエネルギー、水素結合項(δH)は分子間の水素結合力に由来するエネルギーによる作用を反映している。これらのパラメーターにより、3次元座標上で、物質はそれぞれ固有の1点の座標を持つことになる。2つの分子が、この3次元座標上で近ければ近いほど、お互いは溶解しやすい。なお、これらのパラメーターは“HANSEN SOLBILITY PARAMETERS” A Us
er’s Handbook Second Editionや、“CRC Handbook of Solubility Parameters and Other Cohesion Parameters”Second Edition、“CRC Handbook of Polymer‐Liquid Interaction Parameters and Solubility Parameters” に詳しく記載されている。また、有機溶剤のHSP値はハンセン溶解度パラメータ・ソフトウェアのHSPiP(http://www.hansen-solubility.com/index.php?id)を用いて求めることもできる。
有機溶媒を複数使用する場合のHSP値は、式(1)により、各有機溶媒のHSP
値の加重平均値mとして求めることができる。
m=δ1φ1+δ2φ2・・・(1)
ここでδ1、δ2は各溶媒成分のHSP値でありφ1、φ2は各溶媒成分の体積分率である。
また、溶質に対する良溶媒のほとんどは、溶質のHSP値の座標を中心とした、ある半径の球の内側に内包される傾向にあることが経験的に明らかにされている。つまり、溶質に対しての良溶媒のHSP値のほとんどはこの球内に内包され、溶けない溶媒(貧溶媒)のHSP値の座標は球の外側にくることがHansenにより報告されている。HSPを用いた溶解性評価には、この「Hansenの溶解球」とばれる球が利用され、この球の半径である相互作用半径(R0)に対する、溶質と溶媒のHSP値の距離(Ra)から求められる。Raを計算するには式(2)を用いる。
Ra={4(δD2-δDl)2+(δP2-δP1)2+(δH2-δHl)2}0.5・・・(2)
この値と相互作用半径(R0)を組み合わせることで、系の相対的エネルギー差(RED)が得られる。
RED=Ra/R0・・・(3)
RED<1.0の場合、溶媒は球の内側に存在することを意味し、溶解性が高いことを示す。反対に、RED>1.0の場合は、溶媒は球の外側に存在することを意味し、溶解性が低いことを示す。REDがほぼ1.0の場合は、部分的な溶解が可能であることを示す。
では、これより工程(a)~(d)について、詳細を記す。
<工程(a)、工程(b)>
工程(a)、工程(b)では、調製した均質な樹脂溶液を相分離によって固化させ、中空糸膜を得る。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂から中空糸膜を製造する方法としては、熱誘起相分離法(以下、「TIPS」とも記載する)、非溶媒誘起相分離法(以下、「NIPS」とも記載する)、溶融抽出法、延伸開孔法等が挙げられるが、このうち熱誘起相分離法を利用することが好ましい。
NIPS法は、高温で溶解した樹脂溶液を吐出して非溶媒を含む凝固液に接触させることにより、製膜原液中の溶媒と凝固浴中の非溶媒間に濃度勾配を生じさせ、これを駆動力として非溶媒が製膜原液中の溶媒と置換することで相分離現象が進行するものである。かかるNIPS法では、製膜原液が凝固液と接触した面から多孔質膜内部に向かって濃度勾配が減少する影響から、溶媒から非溶媒への置換速度が接触面から多孔質膜内部にかけて遅くなる。溶媒交換速度が遅いほど相分離は進行し、細孔が粗大化する傾向があることから、一般的にはNIPS法で製造された多孔質膜は、接触面は緻密な細孔が形成されるとともに多孔質膜内部に向かうにつれて細孔の孔径が除々に粗大化する、傾斜構造を有するものとなり易い。また、膜構造は樹脂の濃厚相と希薄相に分離する液-液相分離により、3次元網目構造を形成する。NIPS法において用いる溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミドなどが好ましく用いられている。
3次元網目構造とは、固形分が3次元的に網目状に広がっている構造で、網を形成する固形分で仕切られた細孔およびボイドを有する。
TIPS法は高温で溶解した樹脂溶液を冷却することにより、熱拡散を発生させ、これを駆動力として相分離を進行させるものである。かかるTIPS法では、発生する熱拡散がNIPS法で発生する濃度拡散よりも極めて早い速度で進行するため、多孔質膜の断面方向での相分離進行度がほぼ等しい。そのため、TIPS法で製造された多孔質膜は、多孔質膜の断面方向に比較的均一な孔径を有する細孔が形成された多孔質構造を有するものとなり易い。
TIPS法には主に2種類の相分離機構がある。一つは高温時に均一に溶解した樹脂溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因で樹脂の濃厚相と希薄相に分離する液-液相分離法、もう一つが高温時に均一に溶解した樹脂溶液が、降温時に樹脂の結晶化が起こりポリマー固体相とポリマー希薄溶液相に相分離する固-液相分離法である。前者の方法では主に三次元網目構造が、後者の方法では球状構造が形成される。
本発明では、後者の相分離機構により球状構造を形成させることが好ましい。球状構造の場合、固形部がバルキーであるため、固形部間の空隙が収縮しにくく、高い透過性能を維持できる。また、中空糸膜の強度を高くすることができることも好ましい理由である。このことから固-液相分離が誘起される樹脂濃度および溶媒を選択することが好ましく採用され、その中でもγ‐ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の溶媒として特に好ましく採用される。
まず、工程(a)について、TIPS型の相分離を用いる場合、調製する樹脂溶液の濃度として、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を20~60重量%用いる。より好ましくは25~45重量%である。20重量%以上であると糸の機械的強度が高く、60重量%以下であると透過性能が向上する。溶媒は本発明の製造方法記載のHSPを満たす有機溶媒の中でも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に対し貧溶媒であるものが好ましい。貧溶媒とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を60℃以下では5重量%以下しか溶解できないが、60℃以上かつ樹脂の融点以下で5重量%以上溶解させることができる溶媒である。本発明の製造方法記載のHSPを満たすポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒として、例えばγ‐ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等のアルキルケトン、エステル等の比較的樹脂の溶解度が高い貧溶媒が特に好ましく採用される。
熱誘起相分離法では、高温での樹脂の溶解度が高い貧溶媒を用いることにより、樹脂と溶媒を分子レベルで混合させられるため、相分離で固化させる際に、樹脂の分子間に溶媒分子が介在しやすくなり、結果的に構造体表面に凹凸が形成されやすい。
NIPS型の相分離を用いる場合は調製する樹脂溶液の濃度として、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を5~25重量%用いる。より好ましくは10~20重量%である。5重量%以上であると外側領域の機械的強度が向上し、25重量%以下であると透過性が向上する。溶媒は本発明の製造方法記載のHSPを満たす有機溶媒の中でも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に対し良溶媒を用いる。ここで、良溶媒とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を60℃以下でも5重量%以上溶解させることが可能な溶媒と定義する。本発明の製造方法記載のHSPを満たすポリフッ化ビニリデン系樹脂の良溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等およびその混合溶媒が挙げられる。なお、孔径制御のために、5重量%以下の非溶媒を添加剤として加えてもよい。非溶媒とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に対する非溶媒を指す。例えば、水、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンが好ましく採用されるが、これらによって何ら限定されるものではない。
工程(b)において、中空糸形状の成型には二重管状口金を用い、外側の管からポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を、内側の管から有機溶媒を流しいれ、これらを同時に凝固浴中に投入することで相分離が発現し、樹脂溶液が固化することで中空糸膜が得られる。内側の管から流しいれる有機溶媒は、本特許記載のHSP範囲を満たす溶媒であれば特に限定されないが、樹脂溶液に用いた溶媒と水との混合液が安全性、運転管理の面から好ましく、それらの割合を適宜設定することで、中空部を形成する内壁の平滑性を選択することができる。
凝固浴に用いる有機溶媒はTIPS、NIPSのどちらを発現させる際でも本特許記載のHSP範囲を満たす溶媒であれば特に限定されないが、樹脂溶液に用いた溶媒と水との混合液が安全性、運転管理の面から好ましい。
TIPSを発現する樹脂溶液を固化する際は、凝固浴として冷却浴を用いることが好ましく、その温度は-5~50℃が好ましく、その中でも-5~30℃が好ましく、さらに-5から20℃が好ましい。また、構造体表面に微細凹凸を形成させるために、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の非溶媒を低濃度で含有し、相分離速度を制御することが好ましい。特に相分離速度の制御として、樹脂溶液の溶媒の変性物を添加することが好ましく、樹脂溶液の溶媒としてγ―ブチロラクトンを用いた場合はその加水分解物であるγ―ヒドロキシ酪酸を添加することで、樹脂溶液と冷却浴の相溶性を大きく変化させることなく相分離速度をより精密に制御することが可能となり、球状構造表面の微細凹凸形成を促進できる。冷却浴に対する樹脂溶液の溶媒の変性物の添加量は、好ましくは5~20重量%、より好ましくは6~17重量%、さらに好ましくは7~15重量%である。また、有機溶媒の濃度は60~100重量%が好ましく70~100重量%がより好ましく、80~100重量%がさらに好ましい。
NIPSを発現する樹脂溶液を固化させる際の凝固浴温度は30~95℃が好ましく、40~85℃がより好ましい。また、有機溶媒の濃度は1重量%以下が好ましく、非溶媒の割合が70重量%以上であることが好ましい。
また、工程(b)の後に洗浄および加熱する工程を実施してもよい。とくにγ―ヒドロキシ酪酸を添加した場合は、洗浄を行うことで以降の工程に持ち込まれる量を低減でき、運転管理の面から好ましい。また、本発明のTIPS法を利用して製造された多孔質中空糸膜は、空隙を拡大し透過性能を向上させるために延伸することも好ましい。延伸は温度制御が容易であるため液体中で行うことが好ましく、液浴は非溶媒または本発明の製造方法記載のHSPを満たす溶媒の内、貧溶媒であるものを低濃度含んだ水溶液であることが好ましい。これらは同時に実施してもよいし、別々に実施してもよい。
本発明の外表面側に球状構造体のA領域、内表面側に緻密なB領域を有する多孔質中空糸膜は、上記工程で得られた球状構造体を有する多孔質中空糸膜を工程(c)以降で後処理することによって得ることができる。具体的には、球状構造体を有する多孔質中空糸膜の空孔部に中~高濃度の溶媒および貧溶媒の溶液を含有させた後、非溶媒あるいは低濃度の溶媒および貧溶媒の溶液からなる液浴で洗浄および加熱を行うことにより、多孔質中空糸膜の外表面以外の構造が再構築され、B領域およびC領域が形成される。
<工程(c)>
本工程では、多孔質中空糸膜を高濃度の有機溶媒で満たした浴に浸すことで、膜の細孔内部まで高濃度の有機溶媒を含浸させる。本工程において多孔質中空糸膜に含浸させる有機溶媒は本特許記載のHSPを満たす有機溶媒を用いればよいが、その中でも貧溶媒を用いることが、膜の構造制御を行うために好ましい。有機溶媒の濃度は、70~100重量%、好ましくは80~100重量%、より好ましくは90~100重量%である。また、温度は50℃以下であることが好ましく、浸漬時間は特に限定されないが、5分以上が好ましい。
<工程(d)>
本工程では、工程(c)で高濃度有機溶媒を含んだ膜を加熱することで膜構造を再形成し、膜構造を緻密化させることを目的とする。ここで、加熱時に用いる浴を低濃度の溶媒とすることで、膜表面の高濃度溶媒を洗い流して外表面の構造は維持させ、膜構造を多層化させることにより、図3のような膜構造を発現できる。この浴に用いる溶媒として、樹脂との相溶性に優れる、本発明の製造方法記載のHSPを満たす溶媒を用いることで、短時間で膜の洗浄および構造再構築を行うことができ、その中でも貧溶媒を用いるのが好ましい。ここで用いる液浴は、非溶媒、あるいは濃度30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下の有機溶媒を用いる。加熱時の液浴温度は60~120℃、好ましくは70~100℃未満である。また、加熱時間が短すぎると構造の再構築が不十分となり、逆に長すぎると孔がつぶれ、多孔質ではなくなる。そのため、加熱時間は5~300秒が好ましく、そのなかでも5~180秒が好ましく、さらに5~60秒がより好ましい。このとき、中空部から流しいれる有機溶媒の混合液において、非溶媒の割合を70重量%以上とし、加熱の時間を60~300秒、好ましくは60~180秒とすることで、中空糸内壁においてNIPSを発現させることができる。これにより、図4のように中空糸内表面に3次元網目構造が形成されるため、緻密層が外内両方の層から守られ、外圧式だけでなく内圧式でも優れた耐擦過性を発現させることができる。なお、工程(a)、工程(b)においてNIPSを発現させることで、緻密層の外表面も3次元網目構造とすることもできる。
また、液浴による洗浄工程と加熱工程を別々にし、多孔質中空糸膜の外表面付近の空孔に含まれる有機溶媒濃度を加熱工程前に低下させておくことで、各領域間の境界の空隙率および構造太さの傾斜度を高めることができ、延伸工程と工程(d)における加熱工程を同時に行うことで各領域の空隙率および構造体太さを制御することができる。この場合、洗浄工程の液浴温度は50℃以下とすることが好ましい。
工程(d)において延伸工程を同時に行う場合の延伸倍率は1.1~5倍が好ましく、1.1~4倍がより好ましく、さらに1.1~3倍が好ましい。延伸速度は好ましくは1%/秒~150%/秒、より好ましくは3%/秒~100%/秒である。また、延伸時の温度範囲は好ましくは60~140℃、より好ましくは65~120℃、さらに好ましくは70~100℃が好ましい。50℃未満の低温雰囲気で延伸した場合、安定して均質に延伸することが困難であり、構造的に弱い部分のみが破断する。60~140℃の温度で延伸した場合、球状構造の一部および球状構造と球状構造を連結するポリマー分子の凝集体が均質に延伸され、微細で細長い細孔が多数形成され、強伸度特性を維持したまま透水性能が著しく向上する。140℃を超える温度で延伸した場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点に近くなるため、球状構造が融解してしまい、あまり細孔が形成されずに延伸されるため、透水性能が向上しない。延伸時の液浴は、非溶媒、あるいは濃度30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下の有機溶媒を用いる。また、延伸工程は1段でもよいし、多段であってもよい。
また、工程(d)の後に洗浄および冷却する工程を実施してもよく、その際冷却に用いる浴の濃度は工程(d)で用いる浴と同様で、温度は特に限定されないが、凝固浴と同じが好ましい。冷却浴を用いることで、膜構造を固定することができる。
<膜構造の調整>
工程(c)、(d)において、多孔質中空糸膜に含有させる溶液の有機溶媒の濃度、熱処理浴の有機溶媒の濃度、熱処理浴の温度、さらには延伸倍率および延伸速度を設定することにより、多層厚み、空隙率、構造体太さを適宜形成させることができる。
<ろ過装置およびろ過方法>
上述のようにして得られた本発明の多孔質中空糸膜を用いた膜ろ過装置により、液体のろ過をすることができる。膜ろ過装置としては、例えば、原液タンク、昇圧ポンプ、中空糸膜が充填されたモジュール、ろ過液タンク、逆洗ポンプなどを備えたものが考えられるが、これらに限定されない。ここでモジュールとは、中空糸膜を複数本束ねて円筒状の筐体に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定し、透過液を集液できるようにしたものや、平板状に中空糸膜の両端を固定して透過液を集液できるようにしたものが一般的であるが、これらに限定されない。
液体のろ過方法としては、例えば、工場排液、発酵液、培養液などの原液を、上記膜ろ過装置を用いて操作圧力10kPa~1MPaで運転し、原液中に含まれる有機物などの除去を行うことができるが、これらに限定されない。
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
(1)各層の厚み、空隙率、平均孔径
各例で作製した多孔質中空糸膜について、その長手方向に垂直な断面を外表面側から内表面側にかけて、走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で連続撮影した。撮影された各画像において球状体の数を測定し、球状体の密度を算出した。また、撮影された各画像を構造部と空隙部とで二値化処理することで、空隙部面積の合計、および断面空隙部の面積比率(空隙率)をそれぞれ算出した。ここで、空隙部面積の合計、および断面空隙部面積比率は、それぞれ任意の10枚の断面写真について平均値を算出することで求めた。これらの測定結果からA領域、B領域、C領域を明確にし、各領域の厚み(各層の厚み)を測定した。なお、各領域の定義については上述のとおりである。
(2)球状体の直径の測定
上記(1)におけるA領域の画像から、任意の10個の球状構造を形成する球状体を選択し、それぞれの長径と短径を測定した。上記測定を5箇所で行い、それぞれ任意の10個の空状構造について長径と短径を求め、合計50個の長径と合計50個の短径とを得た。ついで、合計100個の平均値を算出し、球状体の直径とした。測定対象とする球状体については上述のとおりである。
(3)平均孔径
上記(1)におけるB領域、C領域の画像について、任意の30個の空隙を選択し、それぞれの長径と短径を測定し、平均値を平均孔径とした。
(4)構造体太さの測定
上記(1)におけるB領域、C領域の画像から、任意の空隙を選択し、その周囲にある空隙に対し、最も近いものから10個の距離を測定した。この測定を1画像の任意の10個の空隙に対して行い、合計100個の空隙間の距離を測定した。これを任意の10枚の断面写真について実施し、全ての空隙間の距離の平均値を構造体太さとした。
(5)多孔質中空糸膜表面と水との接触角測定
多孔質中空糸膜表面の接触角測定においては、乾燥状態の中空糸膜を用い、長さ方向に切れ込みを入れて開き平板状にして測定した。室温25℃、相対湿度50%の雰囲気において多孔質中空糸膜表面と水の接触角を自動接触角計(協和界面科学株式会社製、DM500)を用いて測定した。接触角の測定は、θ/2法にて静的接触角をコンピュータでの画像解析により自動算出した。なお、液適量は1.0μlとし、蒸留水の多孔質分離膜表面への着滴開始から10秒後に接触角を測定した。
(6)多孔質中空糸膜表面の粗さ測定
多孔質中空糸膜表面の粗さ測定は、乾燥状態の中空糸膜を用い、長さ方向に切れ込みを入れて開き平板状にし、室温25℃、相対湿度50%の雰囲気において、レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、VK-7200)を用いて、線粗さ測定(JIS B 0601―2001)を行うことで測定した。具体的には、多孔質中空糸膜の任意の表面200μm×200μmの範囲において、任意の場所で長さ50μmの線粗さ測定を5カ所行い、平均長さRSmおよび二乗平均平方根高さRqを測定した。この測定を5カ所の多孔質中空糸膜表面について行い、全25カ所の測定値を平均した。
(7)破断強度、破断伸度
引っ張り試験機(TENSILON(登録商標)/RTM-100、東洋ボールドウィン株式会社製)を用い、測定長さ50mmの試料を、25℃の雰囲気中で引っ張り速度50mm/分で、試料を変えて5回以上試験し、破断強度、破断伸度の平均値を求めることで算出した。
(8)分画粒子径
異なる大きさのポリスチレンラテックス微粒子水溶液を用いた阻止率測定を、少なくとも3種類以上の粒子に対して行い、それぞれの測定値から直線近似し阻止率が90%となる粒子径を分画粒子径とした。
(9)ろ過抵抗上昇度
多孔質中空糸膜を用いて、有効長が10cmの片端開放型の多孔質中空糸膜モジュールを作製した。モジュールを50%エタノール水溶液に20分浸漬後、蒸留水での流水洗浄処理を20分行い、湿潤状態とした多孔質中空糸膜のモジュールを得た。
圧力計を設置した10Lのステンレス製加圧タンクADVANTEC PRESSURE VESSEL DV-10に原水を入れた。原水には、濁質溶液(ベントナイト10ppm、硫酸カルシウム10ppm、フミン酸5ppm)を用いた。原水は多孔質中空糸膜の外表面側から全量ろ過でろ過される。
原水入り加圧タンク(以下、原水タンク)の2方コックと膜モジュールをテフロン(登録商標)チューブで接続した。0.2MPaの圧縮空気をSMCレギュレーター(AF2000-02、AR2000-02G)で50kPaに調整して原水タンクに圧力をかけ、2方コックを開にして膜モジュール内に原水を送液した。
透過水重量をパソコンに接続した電子天秤AND HF-6000で5秒毎に測定し、連続記録プログラムAND RsCom ver.2.40を用いて記録した。本実験で得られるデータは5秒あたりの透過水重量であるから、ろ過抵抗を以下に示す式を用いて算出した。
ろ過抵抗(1/m)=(ろ過圧力(kPa))×10×5×(膜面積(m))×10/[(透過水粘度(Pa・s)×(5秒あたりの透過水重量(g/s))×(透過水密度(g/ml))]
得られたデータから、単位膜面積当たりの総ろ過水量を横軸に、算出したろ過抵抗を縦軸にプロットしたグラフにおいて、単位膜面積当たりの総ろ過量0L/mから50L/mにかけての線形近似の傾きを求めて、ろ過抵抗上昇度(1/m)とした。
<実施例1>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ-ブチロラクトン(δD=19MPa1/2、δP=16.6MPa1/2、δH=7.4MPa1/2)62重量%を150℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を130℃で静置、脱泡後、配管内で102℃に降温した後、吐出口温度100℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に85重量%のγ-ブチロラクトン水溶液を注入した。乾式長10cmで、γ-ブチロラクトン78重量%、γ-ヒドロキシ酪酸12重量%、水10重量%の水溶液からなる温度5℃の浴中で固化させ、中空糸成型物を得た後、水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸した。これを、100重量%のγ-ブチロラクトンに5分間浸漬し、90℃のγ-ブチロラクトン5重量%水溶液に20秒浸漬させた後、水洗することで外側からA領域、C領域、B領域を持つ多孔質中空糸膜を得た。
得られた多孔質中空糸膜を150mmに切って端部を接着剤で封止し、内径40mm×長さ200mmの筒状容器に充填率(中空糸膜の外径断面積の合計/筒状容器の内径断面積)が40%となるように複数本挿入し、さらに活性炭(jacobi社製、AquaSorb(登録商標)MP23)の懸濁液(4g/L)で満たした後、圧縮空気5L/分にて50時間曝気して多孔質中空糸膜の耐擦過性試験を実施した。
得られた多孔質中空糸膜の(1)~(9)の評価結果、耐擦過性試験後の(8)の評価結果を表1に示す。
<実施例2>
実施例1の中空糸成型物を水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸した後、100重量%のγ-ブチロラクトンに5分間浸漬し、90℃のγ-ブチロラクトン5重量%水溶液中で延伸速度20%/秒で3秒間延伸しながら合計20秒間浸漬させた後、水洗することで外側からA領域、C領域、B領域を持つ多孔質中空糸膜を得た。
得られた多孔質中空糸膜について、実施例1に記載の方法にて耐擦過性試験を実施した。
得られた多孔質中空糸膜の(1)~(9)の評価結果、耐擦過性試験後の(8)の評価結果を表1に示す。
<実施例3>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー39重量%とγ-ブチロラクトン61重量%を150℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を120℃で静置、脱泡後、配管内で100℃に降温した後、吐出口温度98℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に85重量%のγ-ブチロラクトン水溶液を注入した。乾式長10cmで、γ-ブチロラクトン84重量%、γ-ヒドロキシ酪酸6重量%、水10重量%の水溶液からなる温度5℃の浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸した。その後、100重量%のγ-ブチロラクトンに5分間浸漬、40℃の蒸留水に10秒間浸漬、95℃の蒸留水に10秒間浸漬の順番で処理し、最後に水洗することで外側からA領域、B領域を持つ多孔質中空糸膜を得た。
得られた多孔質中空糸膜について、実施例1に記載の方法にて耐擦過性試験を実施した。
得られた多孔質中空糸膜の(1)~(9)の評価結果、耐擦過性試験後の(8)の評価結果を表1に示す。
<実施例4>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ-ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を130℃で静置、脱泡後、配管内で102℃に降温した後、吐出口温度100℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に20重量%のγ-ブチロラクトン水溶液を注入した。乾式長10cmで、γ-ブチロラクトン87重量%、水13重量%の水溶液からなる温度5℃の浴中で固化させ、中空糸成型物を得た。この中空糸成型物を、25℃の100重量%のγ-ブチロラクトンに5分間浸漬し、90℃のγ-ブチロラクトン5重量%水溶液に90秒浸漬させた後、水洗することで外側からA領域、B領域、D領域を持つ多孔質中空糸膜を得た。
得られた多孔質中空糸膜について、実施例1に記載の方法にて耐擦過性試験を実施した。
得られた多孔質中空糸膜の(1)~(9)の評価結果、耐擦過性試験後の(8)の評価結果を表1に示す。
<比較例1>
実施例1の中空糸成型物を水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸したもの、すなわち、工程(c)以降を行っておらず、B領域やC領域を有さない多孔質中空糸膜について、実施例1に記載の方法にて耐擦過性試験を実施した。
得られた多孔質中空糸膜前駆体の(1)~(9)の評価結果、耐擦過性試験後の(8)の評価結果を表1に示す。
<比較例2>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435-75S:三酢酸セルロース)を3重量%、N-メチル-2-ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社、商品名イオネットT-20C)を3重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を実施例1の中空糸成型物を水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸したものの外表面に均一に塗布し、すぐに30重量%N-メチル-2-ピロリドン水溶液中で凝固させて中空糸成型物の外表面上に三次元網目構造を形成させた多孔質中空糸膜を作製した。
得られた多孔質中空糸膜について、実施例1に記載の方法にて耐擦過性試験を実施した。
得られた多孔質中空糸膜の(1)~(9)の評価結果、耐擦過性試験後の(8)の評価結果を表1に示す。
Figure 2024049374000002
1 多孔質中空糸膜
2 球状構造体
11 内表面
12 外表面
20 球状体
21 球状体のくびれ
22 球状体間の細孔
23 球状体表面の細孔
X1 平均直径を測定しない球状体
X2 平均直径を測定しない球状体

Claims (20)

  1. 熱可塑性樹脂からなり、2つ以上の領域を有する多孔質中空糸膜であって、球状構造体を有し、かつ中空糸膜の長手方向に垂直な断面における空隙率が50%以上80%未満であるA領域、中空糸膜の長手方向に垂直な断面における空隙率が5%以上20%未満の緻密構造からなるB領域を含む多孔質中空糸膜。
  2. 最外表面側が前記A領域である請求項1に記載の多孔質中空糸膜。
  3. 最内表面側が前記B領域である請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  4. 前記A領域を構成する球状構造体の平均直径が0.5μm以上15μm以下である請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  5. 前記B領域を構成する構造体太さの平均が1μm以上25μm以下である請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  6. 前記A領域の最外表面における平均長さRSmが5μm以上20μm以下、二乗平均平方根高さRqが0.5μm以上5μm以下である請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  7. 前記B領域の中空糸膜の長手方向に垂直な断面における平均孔径が0.01μm以上1.0μm以下である請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  8. 前記A領域の厚みが5μm以上300μm以下である請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  9. 前記B領域の厚みが1μm以上100μm以下である請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  10. 前記A領域とB領域の間に、平均孔径が1.0μm以上2.0μm以下であり、かつ断面における空隙率が20%以上40%以下の中間領域(C領域)を有する請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  11. 前記C領域の厚みが1μm以上100μm以下である請求項10に記載の多孔質中空糸膜。
  12. 熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂である請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜。
  13. 請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜を用いた液体のろ過方法。
  14. 請求項1または2に記載の多孔質中空糸膜を用いた膜ろ過装置。
  15. 多孔質中空糸膜の製造方法であって、
    (a)ポリフッ化ビニリデン系樹脂を有機溶媒に溶解してポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を得る工程、
    (b)前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を中空糸形状に成型し、凝固浴中で固化させて中空糸成型物を得る工程、
    (c)前記工程(b)で得られた中空糸成型物に、70~100重量%の前記有機溶媒を含む溶液を含浸させる工程、
    (d)前記工程(c)で得られた中空糸成型物を、非溶媒、あるいは30重量%以下の前記有機溶媒を含む溶液中で加熱する工程、
    を有し、前記有機溶媒がHansen溶解度パラメーターの分散項(δD)が16MPa1/2以上19MPa1/2以下かつ、
    極性項(δP)が11MPa1/2以上17MPa1/2以下かつ、水素結合項(δH)が7MPa1/2以上12MPa1/2以下
    である多孔質中空糸膜の製造方法。
  16. 前記工程(d)の後に、洗浄および冷却する工程を有する請求項15に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
  17. 前記工程(c)と工程(d)の間に、非溶媒、あるいは30重量%以下の前記有機溶媒を含む溶液で洗浄する工程、
    を有する請求項15または16に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
  18. 前記工程(d)において同時に延伸を行う、請求項15または16に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
  19. 前記有機溶媒がγ―ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドのいずれかである請求項15または16に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
  20. 前記中空糸成型物が固液型熱誘起相分離による球状構造を有している請求項15または16に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
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