JP2023090677A - 疎水性多孔質中空糸膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】乾燥させた状態からでも薬液や親水性樹脂を使用することなく、高い透水性能、高精度なろ過性能、タンパク質に対する低吸着性を発現可能な疎水性多孔質中空糸膜を提供すること。【解決手段】有機高分子樹脂からなる疎水性多孔質中空糸膜であって、水銀圧入法により測定した細孔直径(D)と細孔容積(Vp)のLog微分細孔容積分布グラフにおいて、細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲と、細孔直径が0.2μm以上10μm未満の範囲とに、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークをそれぞれ有することを特徴とする疎水性多孔質中空糸膜を提供する。【選択図】図1
Description
本発明は、排水処理、浄水処理、工業用水製造などの水処理用途、ならびに食品、医薬の製造などの用途に用いられる精密ろ過膜や限外ろ過膜に関するものである。
精密ろ過膜や限外ろ過膜などの分離膜は、水処理用途や食品・医薬用途において、清澄化、濃縮、分離といった目的で使用されているが、近年、分離膜の適用範囲拡大に伴い、ろ過難度の高い被ろ過液や高精度な分離が要求される用途への適用が検討されており、ろ過性と分離性を両立した分離膜への要求は一層高まっている。
分離膜が浄水処理などの水処理用途で用いられる場合、処理しなければならない水量が大きいため、分離膜としては、単位体積あたりの有効膜面積を大きくすることができる多孔質中空糸膜が多く採用されている。また、多孔質中空糸膜はその形状から耐圧性が高く、平膜よりも高いろ過一次圧をかけることができ、多くの処理水を得ることができる点からも好適に採用されている。さらに、中空糸膜の透水性能を高くすることができれば、必要膜面積が小さくなり、装置がコンパクトになるため設備費が節約でき、膜交換費用やプラントの設置敷地面積の点からも有利になってくる。
また、水処理分野ではコストに対する要求も厳しく、その要求は分離膜やモジュールの価格に加え、輸送時における重量削減にも及んでいる。重量削減のためにはモジュール内に液体を封入しないこと、すなわち輸送先で簡便に透水性が発現することが必要とされている。この課題に対しては通常、薬剤や親水化樹脂を利用した親水化処理により解決される。
特に疎水性の有機高分子樹脂からなる分離膜においては、細孔内に水が侵入しにくいため、通常は細孔内を効率的に水に置換する処理、つまり親水化処理が必要である。分離膜の親水化方法としては、例えば分離膜をエタノールに浸漬した後、水に置換する方法(特許文献1)や、予め分離膜内に界面活性剤水溶液を充填させた後、乾燥させて細孔壁面に界面活性剤を保持させておく方法(特許文献2)がある。また、分離膜の樹脂素材に親水性樹脂を混合し水への濡れ性を高めておく方法(特許文献3)などが提案されている。
また、疎水性の有機高分子樹脂からなる分離膜は、親水性の有機高分子樹脂からなる分離膜と比較して、一般的に膜面が疎水性相互作用により汚染されやすいといった問題がある。特に医薬品や食品の製造工程においてタンパク質等の生理活性物質の分離・精製に使用される場合、分離膜面へのタンパク質等の吸着は回収率の低下を招くと同時に、分離膜の孔の閉塞によるろ過速度の急激な低下を引き起こしやすかった。これに対し、分離膜の樹脂素材に親水性の有機高分子樹脂を混合し、吸着性を抑制する方法が提案されている。しかしながら、親水性の有機高分子樹脂は、疎水性の有機高分子樹脂と比較して耐薬品性が劣るため、タンパク質等の吸着を抑制し分離・精製を安定に行うことは困難であった。
特許文献1や特許文献2のようにアルコールや界面活性剤等の薬剤を用いる方法では、分離膜内に残存した薬剤が処理水に混入する可能性があり、特に飲料水用途等では処理水の安全性が懸念される。特許文献3の分離膜に親水性樹脂を混合する方法では、薬剤を使用せずに親水化が可能となるが、親水性樹脂は耐薬品性に劣るものが多く、耐久性に問題がある。
本発明の目的は、疎水性の多孔質中空糸膜が乾燥状態からでも、薬液や親水性樹脂を使用することなく、処理水が多孔質中空糸膜に侵入し、高い透水性能、高精度なろ過性能、タンパク質に対する低吸着性を発現可能な疎水性多孔質中空糸膜を提供することである。
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、疎水性の有機高分子樹脂であっても、特定の多孔質構造および細孔状態を有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち本発明は以下の構成である。
[1]有機高分子樹脂からなる疎水性多孔質中空糸膜であって、水銀圧入法により測定した細孔直径(D)と細孔容積(Vp)のLog微分細孔容積分布グラフにおいて、細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲と、細孔直径が0.2μm以上10μm未満の範囲とに、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークをそれぞれ有することを特徴とする疎水性多孔質中空糸膜。
[2]100kPaろ過圧下、25℃における純水の透過性能が式(1)を満足することを特徴とする[1]に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
(乾燥時透過性能r/湿潤時透過性能w)×100 ≧ 80(%)・・・式(1)
式(1)において、乾燥時透過性能rは、中空糸膜を30℃下、24時間以上乾燥させた中空糸膜の純水透過性能(m3/m2/hr)を表し、湿潤時透過性能wは、50%エタノールで20分浸漬後、流水透過を20分行った後の湿潤中空糸膜の純水透過性能(m3/m2/hr)を表す。
[1]有機高分子樹脂からなる疎水性多孔質中空糸膜であって、水銀圧入法により測定した細孔直径(D)と細孔容積(Vp)のLog微分細孔容積分布グラフにおいて、細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲と、細孔直径が0.2μm以上10μm未満の範囲とに、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークをそれぞれ有することを特徴とする疎水性多孔質中空糸膜。
[2]100kPaろ過圧下、25℃における純水の透過性能が式(1)を満足することを特徴とする[1]に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
(乾燥時透過性能r/湿潤時透過性能w)×100 ≧ 80(%)・・・式(1)
式(1)において、乾燥時透過性能rは、中空糸膜を30℃下、24時間以上乾燥させた中空糸膜の純水透過性能(m3/m2/hr)を表し、湿潤時透過性能wは、50%エタノールで20分浸漬後、流水透過を20分行った後の湿潤中空糸膜の純水透過性能(m3/m2/hr)を表す。
[3]疎水性多孔質中空糸膜は、中空糸膜100重量%に対し水分量2重量%以上10重量%以下の範囲において、前記膜表面と水との接触角が70°以上130°以下である[1]または[2]に記載の疎水性多孔質中空糸膜である。
[4]前記細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲における平均細孔直径(d1)が0.02μm以上0.08μm以下であり、細孔比表面積Sp0.01-0.2(m2/g)と細孔容積Vp0.01-0.2(cm3/g)の関係が式(2)を満足することを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜。
Sp0.01-0.2/Vp0.01-0.2 ≧ 100・・・式(2)
式(2)において、Sp0.01-0.2は水銀圧入法により求める細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲の細孔比表面積(S)を表し、Vp0.01-0.2は水銀圧入法により求める細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲の細孔容積(Vp)を表す。
[5]前記疎水多孔質中空糸膜は、少なくとも一方の表面の表面側に球状構造体の層を有する[1]~[4]に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
[6]前記球状構造体を構成する球状体の平均直径が1μm以上15μm以下である[1]~[5]に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
[4]前記細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲における平均細孔直径(d1)が0.02μm以上0.08μm以下であり、細孔比表面積Sp0.01-0.2(m2/g)と細孔容積Vp0.01-0.2(cm3/g)の関係が式(2)を満足することを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜。
Sp0.01-0.2/Vp0.01-0.2 ≧ 100・・・式(2)
式(2)において、Sp0.01-0.2は水銀圧入法により求める細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲の細孔比表面積(S)を表し、Vp0.01-0.2は水銀圧入法により求める細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲の細孔容積(Vp)を表す。
[5]前記疎水多孔質中空糸膜は、少なくとも一方の表面の表面側に球状構造体の層を有する[1]~[4]に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
[6]前記球状構造体を構成する球状体の平均直径が1μm以上15μm以下である[1]~[5]に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
[7]疎水性多孔質中空糸膜は、100kPaろ過圧下、25℃における純水の乾燥時透過性能rが3.0m3/m2/hr以上20.0m3/m2/hr以下であり、空隙率が50%以上70%以下であり、分画粒子径が0.1μm以上1.0μm以下であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜である。
[8]前記有機高分子樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂であることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜。
[9]タンパク質をろ過するタンパク質含有溶液のろ過方法であって、[1]~[8]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜を用いる、タンパク質含有溶液のろ過方法。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜またはタンパク質含有溶液のろ過方法を備えた浄水器カートリッジ。
[8]前記有機高分子樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂であることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜。
[9]タンパク質をろ過するタンパク質含有溶液のろ過方法であって、[1]~[8]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜を用いる、タンパク質含有溶液のろ過方法。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜またはタンパク質含有溶液のろ過方法を備えた浄水器カートリッジ。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜によれば、アルコールや界面活性剤等の薬剤を用いた通液前の親水化工程や、親水性樹脂を使用した分離膜の予めの親水化処理がなくても、乾燥させた状態からの通液が可能であり、かつ高い透水性能を発現することができる。
従って、親水化に関する工程や処理が不要となるため、親水化工程に用いる薬剤が処理水側に混入するといった安全性の問題も無く、また親水性樹脂による多孔質中空糸膜の耐薬品性の低下の懸念もなくなるといった効果を奏する。
さらに、タンパク質に対する低吸着性を発現可能な疎水性多孔質中空糸膜が得られ、タンパク質等の吸着を抑制し分離・精製を安定に行うことができる。
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
<多孔質中空糸膜の有機高分子樹脂>
本発明の実施形態において、疎水性の多孔質中空糸膜は有機高分子樹脂からなる。疎水性とは、水との親和性が小さいことを表す。本発明の疎水性多孔質中空糸膜の表面は水をはじきやすく、撥水性を示す。
<多孔質中空糸膜の有機高分子樹脂>
本発明の実施形態において、疎水性の多孔質中空糸膜は有機高分子樹脂からなる。疎水性とは、水との親和性が小さいことを表す。本発明の疎水性多孔質中空糸膜の表面は水をはじきやすく、撥水性を示す。
有機高分子樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート等のポリエステル類、ポリウレタン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリビニルアセタール類、ポリアミド類、ポリスチレン類、ポリスルホン類、セルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル類、ポリカーボネート類等の単独成分、これらから選ばれる2種以上のポリマーアロイやブレンド物、又は上記ポリマーを形成するモノマーの共重合体等が挙げられるが、上記の例に限定されるものではない。この中でも、耐熱性、耐薬品性等に優れた樹脂成分として、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、もしくは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂が挙げられる。この中でも特に、溶媒との相溶性が高く、均一な製造原液を容易に作製できる、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよびフッ化ビニリデン共重合体のうちの少なくとも1つを含有する樹脂を意味する。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有してもよい。
フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマー等との共重合体である。このような共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、要求される分離膜の強度と透水性能によって適宜選択すればよいが、重量平均分子量が大きくなると透水性能が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下する。このため、重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましい。特に多孔質中空糸膜が薬液洗浄に晒される水処理用途の場合、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましく、さらに15万以上60万以下が好ましい。
多孔質中空糸膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分として含有することが好ましく、中空糸膜においてポリフッ化ビニリデン系樹脂が占める割合は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上であることが更に好ましい。
<多孔質中空糸膜の平均細孔直径>
多孔質中空糸膜の平均細孔直径とは、中空糸膜の空孔や細孔の平均直径である。本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、水銀圧入法により測定した細孔直径(D)の0.01μm以上0.2μm未満の範囲における細孔容積(Vp)と、細孔直径(D)の0.2μm以上10μm未満の範囲における細孔容積(Vp)の、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークを有することが特徴であり、本発明の多孔質中空糸膜は、大きさとタイプが異なる2種類の細孔を有する。ここで、細孔直径(D)の0.01μm以上0.2μm未満の範囲における平均細孔直径(d1)は0.08μm以下であることが好ましく、細孔直径(D)の0.2μm以上10μm未満の範囲における平均細孔直径(d2)は1.2μm以上であることが好ましい。
多孔質中空糸膜の平均細孔直径とは、中空糸膜の空孔や細孔の平均直径である。本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、水銀圧入法により測定した細孔直径(D)の0.01μm以上0.2μm未満の範囲における細孔容積(Vp)と、細孔直径(D)の0.2μm以上10μm未満の範囲における細孔容積(Vp)の、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークを有することが特徴であり、本発明の多孔質中空糸膜は、大きさとタイプが異なる2種類の細孔を有する。ここで、細孔直径(D)の0.01μm以上0.2μm未満の範囲における平均細孔直径(d1)は0.08μm以下であることが好ましく、細孔直径(D)の0.2μm以上10μm未満の範囲における平均細孔直径(d2)は1.2μm以上であることが好ましい。
水銀圧入法では、多孔質中空糸膜の細孔に水銀が圧入されるように水銀に圧力pをかけ、圧力の増分dpに対するセル内の水銀の体積変化dVを測定することによって、下記式(3)から、細孔分布関数F(r)を求める。
ここで、rは細孔半径,σは水銀の表面張力(0.484N/m)、θは平らな多孔質膜表面上の水銀の接触角(141.3°)を表す。
平均細孔直径(d)は、下記式(4)によって求めることができる。2種類の細孔の平均細孔直径は、各細孔に合わせて、区間0.01μmから0.2μmと、区間0.2μmから10μmの2つの区間で求める。
<多孔質中空糸膜の比表面積、細孔容積>
上述のとおり、本発明の多孔質中空糸膜は細孔直径(D)の0.01μm以上0.2μm未満の範囲における細孔容積(Vp)と、細孔直径(D)の0.2μm以上10μm未満の範囲における細孔容積(Vp)とに、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークをそれぞれ有することが特徴である。図1に本発明の多孔質中空糸膜のLog微分細孔容積分布のグラフを示す。Log微分細孔容積(dVp/dlogD)は、差分細孔容積(dVp)を細孔直径の対数扱いの差分値dlogDで割った値を求め、これを各区間の細孔直径に対してプロットしたものであり、この値が0.2cm3/gと高いことは、特定の細孔直径の孔を多く有することを表す。すなわち、本発明の多孔質中空糸膜は、細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の孔径の小さい範囲と、細孔直径(D)が0.2μm以上10μm未満の範囲の孔径の大きな範囲に、多数の孔を有することが特徴である。
上述のとおり、本発明の多孔質中空糸膜は細孔直径(D)の0.01μm以上0.2μm未満の範囲における細孔容積(Vp)と、細孔直径(D)の0.2μm以上10μm未満の範囲における細孔容積(Vp)とに、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークをそれぞれ有することが特徴である。図1に本発明の多孔質中空糸膜のLog微分細孔容積分布のグラフを示す。Log微分細孔容積(dVp/dlogD)は、差分細孔容積(dVp)を細孔直径の対数扱いの差分値dlogDで割った値を求め、これを各区間の細孔直径に対してプロットしたものであり、この値が0.2cm3/gと高いことは、特定の細孔直径の孔を多く有することを表す。すなわち、本発明の多孔質中空糸膜は、細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の孔径の小さい範囲と、細孔直径(D)が0.2μm以上10μm未満の範囲の孔径の大きな範囲に、多数の孔を有することが特徴である。
ここで、細孔直径0.01μm以上0.2μm未満の範囲に存在する細孔ピークは、多孔質膜を構成する構造体間の間隙(細孔)ではなく、構造体の表面に存在する微細孔と示唆される。以下、水銀圧入法による細孔直径の測定データにて説明する。
本発明の水銀圧入による細孔直径の測定においては、細孔直径0.01μm以上10μm未満の範囲において細孔容積Vp(cm3/g)と比表面積Sp(m2/g)を測定する。ここで、細孔容積Vpに対して比表面積Spが大きいほど、細孔直径が小さく比表面積が大きい構造であることが分かる。
そして、細孔直径が0.01μm以上0.2μm未満の範囲において比表面積Sp/細孔容積Vpが大きいことは多孔質中空糸膜の構造体に微細孔が存在することを意味する。水銀圧入法では水銀が圧入可能な細孔のみを測定することから、微細孔は構造体において被処理液と接触する表面に存在し、構造体に凹凸を形成しているといえる。後述の表面粗さの測定で示されるデータは数μm以上であることからも、直径0.01μm以上0.2μm未満の細孔は構造体の表面に存在することが示唆される。
本発明の多孔質中空糸膜は、細孔直径0.01μm以上0.2μm未満の範囲における比表面積Sp0.01-0.2(m2/g)と細孔容積Vp0.01-0.2(cm3/g)の関係が、Sp0.01-0.2/Vp0.01-0.2≧100であることが好ましい。0.2μm未満の微細領域において単位容積あたりの比表面積が100以上と大きく、多孔質中空糸膜を構成する構造体表面に微細な凹凸を多く有することにより、より撥水性を高くすることができる。
一方で、細孔直径0.2μm以上10μm未満の範囲における比表面積Sp0.2-10(m2/g)と細孔容積Vp0.2-10(cm3/g)の関係は、Sp0.2-10/Vp0.2-10 ≦ 5が好ましい。0.2μm以上の比較的大きな細孔領域において単位容積あたりの比表面積が5以下と小さく、構造体の間に大きな空隙を有する構造とすることで、より透水性を高くすることができる。すなわち、本発明の多孔質中空糸膜は、巨視的には構造体の間に大きな空隙(細孔)を有しつつ、微視的には構造体表面に微細な凹凸を有することが好ましい。
本発明の多孔質中空糸膜は高い疎水性を示すが、撥水性の高い固体表面は、微細な凹凸を有することで、特に固体表面の接触角θが90°以上の場合に、より接触角が大きくなり撥水性が高くなることが知られており、さらに撥水性表面に微細な凹凸を有することで液体の流れに対する抵抗が減少することが知られている。参考文献としては、フラクタル表面構造と親水性・撥水性の物理、Journal of The Vacuum Society of ジャパン、2015 年 58 巻 11号 p. 424-430、および撥水性微細構造による抵抗減少効果に関する研究、日本機械学会論文集(B 編)2009年75巻758号p. 1960-1966がある。
一方で、細孔直径0.2μm以上10μm未満の範囲における比表面積Sp0.2-10(m2/g)と細孔容積Vp0.2-10(cm3/g)の関係は、Sp0.2-10/Vp0.2-10 ≦ 5が好ましい。0.2μm以上の比較的大きな細孔領域において単位容積あたりの比表面積が5以下と小さく、構造体の間に大きな空隙を有する構造とすることで、より透水性を高くすることができる。すなわち、本発明の多孔質中空糸膜は、巨視的には構造体の間に大きな空隙(細孔)を有しつつ、微視的には構造体表面に微細な凹凸を有することが好ましい。
本発明の多孔質中空糸膜は高い疎水性を示すが、撥水性の高い固体表面は、微細な凹凸を有することで、特に固体表面の接触角θが90°以上の場合に、より接触角が大きくなり撥水性が高くなることが知られており、さらに撥水性表面に微細な凹凸を有することで液体の流れに対する抵抗が減少することが知られている。参考文献としては、フラクタル表面構造と親水性・撥水性の物理、Journal of The Vacuum Society of ジャパン、2015 年 58 巻 11号 p. 424-430、および撥水性微細構造による抵抗減少効果に関する研究、日本機械学会論文集(B 編)2009年75巻758号p. 1960-1966がある。
すなわち本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、0.2μm以上10μm未満の比較的大きな空隙(細孔)を有することに加え、多孔質中空糸膜を形成する構造体の表面に微細な凹凸を有することで撥水性を高めて、膜表面とろ過対象液の接触を低減することにより、親水化工程を施さなくても乾燥状態から高い透水性能を発現でき、かつタンパク質の吸着性を抑制できる。
本発明の多孔質中空糸膜は、細孔直径(D)の0.01μm以上0.2μm未満の範囲における細孔容積(Vp)と、細孔直径(D)の0.2μm以上10μm未満の範囲における細孔容積(Vp)の、それぞれにLog微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークを有することが特徴であるが、該範囲に特定のピークを有さないブロードな孔径分布を有する分離膜であっても、平均細孔直径(d1、d2)、比表面積(Sp)、細孔容積(Vp)の算出は可能である。しかしながら、平均細孔直径が大きく、比表面積(Sp)/細孔容積(Vp)も小さくなるため、本発明の効果は得られない。
また、本発明の多孔質中空糸膜は、細孔直径が0.01μm以上0.2μm未満の範囲に存在するLog微分細孔容積分布において、最大ピーク値を示す細孔直径(Dp0.01-0.2)と半値全幅(FWHM0.01-0.2)の関係が、Dp0.01-0.2/FWHM0.01-0.2≧0.5が好ましく、Dp0.01-0.2/FWHM0.01-0.2≧0.7がより好ましく、Dp0.01-0.2/FWHM0.01-0.2≧0.9がさらに好ましい。この値が大きく、0.2μm未満の微細領域においてシャープな孔径分布を有することにより、構造体表面の撥水性がより高くなり、安定して高い透水性と吸着抑制の効果を発現することが可能となる。
また、本発明の多孔質中空糸膜は、細孔直径0.2μm以上10μm未満の範囲に存在するLog微分細孔容積分布において、最大ピーク値を示す細孔直径(Dp0.2-10)と半値全幅(FWHM0.2-10)の関係が、Dp0.2-10/FWHM0.2-10≧1.2が好ましく、Dp0.2-10/FWHM0.2-10≧1.6がより好ましく、Dp0.2-10/FWHM0.2-10≧2.0がさらに好ましい。この値が大きく、0.2μm以上の比較的大きな細孔領域においてシャープな孔径分布を有することにより、高い透水性と分画性能の両立が可能となる。
<多孔質膜表面の球状構造>
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、ろ過一次側の膜表面側に球状構造体の層を有することが好ましい。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、ろ過一次側の膜表面側に球状構造体の層を有することが好ましい。
球状構造体とは、中空糸膜の長さ方向に垂直な(つまり中空糸膜の径方向に平行な)断面において、球状体が三次元的に連結した構造である。球状体は略球状ないし略楕円状であり、連結状態は特に限定されず隣接する球状体が2つ以上連結されていても良い。多孔質中空糸膜の長さ方向に平行な断面の形状については、特に限定されず、略円形や、柱状形など任意の形状を取り得る。柱状形とは、多孔質中空糸膜の長さ方向に平行な断面において、アスペクト比(長手長さ/短手長さ)が3以上の固形分であり、典型的には多数の柱状の固形分が互いにその一部を共有することで連結した構造を有している。多孔質中空糸膜の長さ方向に柱状形の固形分が存在する場合、物理的強度がより高くなる。具体的な球状体の平均直径の測定方法については後述する。
疎水性多孔質中空糸膜にこのような球状構造体の層を有することにより、固形部である球状体の間、すなわち柱状構造体に空隙が形成され、空隙は収縮しにくく、高い透水性能を維持できる。また、球状構造体を形成することにより、網目状構造からなる多孔質中空糸膜に比べて高い強度を実現することができる。
また、本発明の疎水性多孔質中空糸膜において、球状体およびその球状構造体はポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有することが好ましい。多孔質中空糸膜の一部分を図2に例示する。多孔質中空糸膜のろ過一次側の表面とは、図2における外表面11および内表面12をいう。本発明の多孔質中空糸膜は、外表面11および/または内表面12の表面側に球状構造体の層を有する。
多孔質中空糸膜の外表面11と内表面12の間の内部は、特に構造を限定しないが、球状体で構成された球状構造体の層を支持するものであればよい。また、表面の構造が内部まで拡がっていてもよい。本発明において、少なくとも一方の表面の表面側とは、中空糸膜の外表面11と内表面12のうち少なくとも一方の表面に、かつ、少なくとも表面側に球状構造体の層が存在することをいう。
球状構造体の一部分を図3に模式的に示す。図3の球状構造体2においては、複数の球状体20が連結している。球状体20は、略球状ないし略楕円状である。図3に示すように、球状体20は他の球状体20と連結しているため、その球面または楕円体面の全体を観察することはできない。しかし、1つ1つの球状体の外径に表れている形状から、各球状体の球形状が外挿される。
球状体間の連結は、球状体同士が直接接着することで形成されていても良いし、球状体の間の非球状な部分、たとえば、球状体のくびれ21によって形成されていてもよい。
球状体間の細孔22は上述した球状構造体の固形部間の空隙すなわち細孔である。図3では、球状体間の細孔は周囲を完全に閉じられていないが、細孔とは球状体で囲まれた空間であればよい。さらに、球状構造体を構成する各球状体の表面には、微細な凸凹が多数あり、それらが形成する微小な凸凹が球状体表面の細孔23となる。
前記球状体の平均直径は、1~15μmの範囲が好ましく、より好ましくは1.5~10μm、さらに好ましくは2~8μmの範囲にある。
本発明の疎水性多孔質膜は、細孔直径Dが0.01μm以上0.2μm未満の範囲と、細孔直径Dが0.2μm以上10μm未満の範囲とに、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークを有するのであるが、球状体間の細孔22は細孔直径が0.2μm以上10μm未満の範囲を対象とする。そして、球状体の表面にある微細な凸凹、つまり球状体表面の細孔23は、細孔直径が0.01μm以上0.2μm未満の範囲を対象とする。
前記球状構造体を構成する球状体の直径は、中空糸膜の断面を球状構造体が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡等を用いて写真を撮り、10個以上、好ましくは20個以上の任意の球状体の直径Rを測定し、平均して求める。
球状体の平均直径を算出するときは、くびれ21により連結する球状体(輪郭部が確認できる球状体)については、その長径方向に直線を引き、その大きさを直径Rとする。
連結している球状体の場合、図3に示すように、球状体同士の連結部分が入らないように球状体の長径方向に中心を通る直線を引き、その大きさを直径Rとする。この時、長径方向に引いた直線と交わる球状体の輪郭部は2か所あり、その各交点での接線が略平行に対向する。連結している球状体において、球状体の中心が隣接する球状体と重なる場合は、輪郭部が略平行に対向していない構造(図3符号X1に相当)であり、球状体の直径は測定しない。
また、電子顕微鏡写真の奥行き方向に2つの組織が重なって見える場合、その奥側の組織(図3符号X2に相当)の球状体の直径は測定しない。そして、手前側の球状体の輪郭線を奥側と手前側の2つの球状体の境界線として、手前側の球状体の直径のみ測定して算出する。
なお、判定に用いられる電子顕微鏡写真の端で組織が途切れている場合、その端の球状体の直径は測定しないこととする。このように測定された球状体の平均直径が大きいほど、球状構造体を構成する球状体間の細孔22は大きくなりやすい。
球状体の密度は103~108個/mm2の範囲が好ましく、より好ましくは104~106個/mm2の範囲である。球状体の密度が103個/mm2以上であることで高い強度と耐圧性が実現でき、108個/mm2以下であることで高い透水性能が得られる。
なお、球状体の密度は、直径の測定と同様に写真を撮り、1つ1つの球状体の外径に表れている形状から各球状体の球形状を外挿して、単位面積あたりの球状体の個数を計測する。
なお、球状体の密度は、直径の測定と同様に写真を撮り、1つ1つの球状体の外径に表れている形状から各球状体の球形状を外挿して、単位面積あたりの球状体の個数を計測する。
<球状構造による圧力損失低減効果>
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、ろ過一次側表面側に有機高分子樹脂の球状構造体の層を有することが好ましい。ここで、多孔質膜の液体ろ過において多孔質膜の表面から内部に向かって液体が流れる際を考えると、流入部である多孔質膜表面の細孔部分において急激に流路が狭くなるため、流入部での圧力損失が生じ、流れが阻害されることになる。すなわち、球状構造体を構成する各球状体の球面形状や球状構造体の球状体間の細孔状態が、細孔部分の流入部の形状となる。この流入部の圧力損失は下記式(5)で表され、流入部の損失係数(ζ)に依存することが知られている。
ΔP=ζ×V2/2g ・・・・・・式(5)
ここで、ΔP:流入部の圧力損失、ζ:入口部の損失係数、V:流速、g:重力加速度 。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、ろ過一次側表面側に有機高分子樹脂の球状構造体の層を有することが好ましい。ここで、多孔質膜の液体ろ過において多孔質膜の表面から内部に向かって液体が流れる際を考えると、流入部である多孔質膜表面の細孔部分において急激に流路が狭くなるため、流入部での圧力損失が生じ、流れが阻害されることになる。すなわち、球状構造体を構成する各球状体の球面形状や球状構造体の球状体間の細孔状態が、細孔部分の流入部の形状となる。この流入部の圧力損失は下記式(5)で表され、流入部の損失係数(ζ)に依存することが知られている。
ΔP=ζ×V2/2g ・・・・・・式(5)
ここで、ΔP:流入部の圧力損失、ζ:入口部の損失係数、V:流速、g:重力加速度 。
図4に示すように、損失係数(ζ)は流路部の形状によって決まる値であり、流入部の壁面が角端(90°)の場合はζ=0.5となるが(図4(a))、壁面端部が円形でかつ曲率半径が大きくなるにつれて損失係数は小さくなる(図4(b)から(d))。
すなわち、本発明の疎水性多孔質中空糸膜において、ろ過一次側の表面層に球状構造の各球状体が存在する場合、球状構造体の細孔は流入部での圧力損失が少なく、液体の流れに対する阻害が小さい構造である。このような球状体および球状構造体を表面層に有することで、多孔質中空糸膜内部に液体が流入しやすくなり、親水化処理を施さなくても、乾燥状態から高い透水性能を発現する効果をより高くすることができる。
球状構造体の球状体間の隙間、つまり細孔との関係であるが、各球状体の曲率が大きいほど、つまり球状体の直径が適度に大きいほど、球状体間の空隙である細孔が大きくなり、透水性を高くすることができるが、球状体の直径が大きすぎると細孔が大きくなりすぎ、分画性能が低くなる。一方で、球状体の直径が小さすぎると細孔が小さくなり、透水性が低くなる。本発明の球状体およびその球状構造体は、細孔直径が0.2μm以上10μm未満の範囲となる球状体およびその球状構造体が好ましい。
<多孔質中空糸膜表面の接触角、粗さ>
本発明の多孔質中空糸膜は、水との接触角が大きく強い疎水性を有する。具体的には、本発明の多孔質中空糸膜は、中空糸膜100重量%に対し水分量2重量%以上10重量%以下の範囲において、膜表面と水との接触角が、70°以上130°以下、好ましくは80°以上125°以下、より好ましくは90°以上120°以下である。この範囲にあることで、本発明の効果がより高くなる。
本発明の多孔質中空糸膜は、水との接触角が大きく強い疎水性を有する。具体的には、本発明の多孔質中空糸膜は、中空糸膜100重量%に対し水分量2重量%以上10重量%以下の範囲において、膜表面と水との接触角が、70°以上130°以下、好ましくは80°以上125°以下、より好ましくは90°以上120°以下である。この範囲にあることで、本発明の効果がより高くなる。
多孔質中空糸膜の表面の空孔は、表面の粗さ評価によって定量化できる。すなわち、多孔質中空糸膜の表面の粗さ評価における平均長さRSmが球状および柱状構造体間の平均間隔の指標となり、二乗平均平方根高さRqが球状および柱状構造体間に存在する間隙の深さの指標となる。具体的には、平均長さRSmは5μm以上20μm以下、好ましくは7μm以上18μm以下、より好ましくは9μm以上16μm以下であり、二乗平均平方根高さRqは0.5μm以上5μm以下、好ましくは1.0μm以上4μm以下、より好ましくは1.5μm以上3μm以下である。疎水性多孔質中空糸膜の表面が、このような巨視的な粗さの範囲にあり、構造体間に適度な間隔が存在することで、高い透水性能と分画性能を発現することができる。
特に、本発明の疎水性多孔質中空糸膜が、ろ過一次側表面に球状構造体の層を有する場合、球状体はお互いが密に存在しすぎず、かつ球状および柱状構造体に含まれる間隙が表面から深い位置まで存在することにより、流入部の圧力損失がより小さくなるため好ましい。
多孔質中空糸膜表面の平均長さRSm、および二乗平方根高さRqは、例えば、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、VK-7200)を用いて、線粗さ測定(JIS B 0601―2001)を行うことで測定可能である。
<多孔質中空糸膜の空隙率>
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、高い透水性能を示すことから、空隙率は50%以上70%以下が好ましく、55%以上から65%以下であることがより好ましい。空隙率が小さすぎると十分な透水性能を得ることが困難であり、大きすぎると膜の強度や耐圧性が低下し、膜ろ過中に多孔質中空糸膜の変形(破断、折れ、潰れ)が発生し易くなるため実使用における耐久性に欠ける。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、高い透水性能を示すことから、空隙率は50%以上70%以下が好ましく、55%以上から65%以下であることがより好ましい。空隙率が小さすぎると十分な透水性能を得ることが困難であり、大きすぎると膜の強度や耐圧性が低下し、膜ろ過中に多孔質中空糸膜の変形(破断、折れ、潰れ)が発生し易くなるため実使用における耐久性に欠ける。
空隙率は、水銀圧入法により、連通孔に水銀が圧入される前の嵩密度Daを求め、次式によって求める。
Da=(m0-m1)/ρ
ここで、m0は空の測定セル内に水銀を満たしたときの水銀の重量,m1は試料をセル内に入れ、水銀をセル内に導入したときの水銀の重量,ρは水銀の密度を表す。)
更に水銀が圧入されて連通孔が完全に水銀で置換される前と後の体積変化V1から、真密度Dtを次式によって求め、
Dt=W/(W/Da-V1)
ここで、Wは試料重量を表す。空隙率は式(6)をもって算出される値である。
空隙率(%)=(Dt-Da)/Dt ×100・・・式(6) 。
Da=(m0-m1)/ρ
ここで、m0は空の測定セル内に水銀を満たしたときの水銀の重量,m1は試料をセル内に入れ、水銀をセル内に導入したときの水銀の重量,ρは水銀の密度を表す。)
更に水銀が圧入されて連通孔が完全に水銀で置換される前と後の体積変化V1から、真密度Dtを次式によって求め、
Dt=W/(W/Da-V1)
ここで、Wは試料重量を表す。空隙率は式(6)をもって算出される値である。
空隙率(%)=(Dt-Da)/Dt ×100・・・式(6) 。
<分画粒子径>
本発明の多孔中空糸膜の分画粒子径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下、さらに好ましくは、0.3μm以上1.0μm以下である。分画粒子径が0.1μmより小さいと、微粒子除去は可能となるが、膜細孔の透過抵抗が大きくなり、実用に適した透過性能の高い多孔質膜が得られにくい。一方、分画粒子径が2.0μmより大きいと濁質などの成分が処理水に漏洩する可能性が高くなる。
本発明の多孔中空糸膜の分画粒子径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下、さらに好ましくは、0.3μm以上1.0μm以下である。分画粒子径が0.1μmより小さいと、微粒子除去は可能となるが、膜細孔の透過抵抗が大きくなり、実用に適した透過性能の高い多孔質膜が得られにくい。一方、分画粒子径が2.0μmより大きいと濁質などの成分が処理水に漏洩する可能性が高くなる。
<純水透過性能>
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、親水化工程を施さない乾燥状態からのろ過であっても、100kPa、25℃における純水の透過性能、つまり透水性能が、下記式(7)を満足することが好ましい。
(乾燥時透過性能r/湿潤時透過性能w)×100 ≧ 80(%)・・・式(7)
上式において、乾燥時透過性能rは、乾燥中空糸膜の純水透水性能(m3/m2/hr)を表し、湿潤時透過性能wは、湿潤中空糸膜の純水透水性能(m3/m2/hr)を表す。式(7)の割合(%)が大きいほど、乾燥時透過性能rと湿潤時透過性能wの差が小さいことを表す。すなわち、疎水性で水をはじきやすい多孔質中空糸膜が水を透水しやすいことを示している。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、親水化工程を施さない乾燥状態からのろ過であっても、100kPa、25℃における純水の透過性能、つまり透水性能が、下記式(7)を満足することが好ましい。
(乾燥時透過性能r/湿潤時透過性能w)×100 ≧ 80(%)・・・式(7)
上式において、乾燥時透過性能rは、乾燥中空糸膜の純水透水性能(m3/m2/hr)を表し、湿潤時透過性能wは、湿潤中空糸膜の純水透水性能(m3/m2/hr)を表す。式(7)の割合(%)が大きいほど、乾燥時透過性能rと湿潤時透過性能wの差が小さいことを表す。すなわち、疎水性で水をはじきやすい多孔質中空糸膜が水を透水しやすいことを示している。
なお、乾燥中空糸膜の乾燥方法は特に制限されないが、乾燥中空糸膜は、多孔質中空糸膜100重量%に対し水分量は2重量%以上10重量%以下の範囲であり、おおむね4~6重量%である。水分量は乾燥中空糸膜の重量と、絶乾中空糸膜の重量から算出される。30℃の真空乾燥機にて24時間以上乾燥した中空糸膜の重量を絶乾中空糸膜の重量とし、乾燥中空糸膜の重量との差分から水分量を算出し、水分量÷乾燥中空糸膜重量×100とすることで水分量(重量%)を算出する。
本発明において、乾燥中空糸膜は、多孔質中空糸膜を30℃下24時間以上乾燥させた乾燥状態の中空糸膜を指し、湿潤中空糸膜とは、50%エタノールへの浸漬処理を20分施した後に流水洗浄処理を20分行った湿潤状態の中空糸膜を指す。
また本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、ろ過圧力を高くすることで上記式(7)の値が高くなることも好ましい。具体的には、200kPa、25℃における純水透過性能の式(7)の値は≧85(%)が好ましく、300kPa、25℃における純水透過性能の式(7)の値は≧90(%)が好ましい。ろ過圧力を高くすることで疎水性多孔質中空糸膜の内部の流路がより効率的に使用されるようになるためと考えられる。
本発明の中空糸膜は、100kPa加圧下、25℃における純水透過性能が3.0m3/m2/hr以上20.0m3/m2/hr以下 、好ましくは4.0m3/m2/hr以上18m3/m2/hr以下、更に好ましくは5.0m3/m2/hr以上15.0m3/m2/hr以下の範囲にあることが好ましい。
従来、多くの疎水性多孔質中空糸膜は、乾燥すると、乾燥前に比べて著しく透水性能が低下するので、湿潤化する際にアルコールや界面活性剤等の薬剤を使用したり、多孔質中空糸膜の素材に親水性樹脂を混合させたりする必要があったが、本発明の多孔質中空糸膜はこのような処理が不要となるため、工程削減、コスト面、耐薬品性の面から優れている。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜の外径と膜厚は、膜の耐久性(破断強度、耐折れ性、耐圧性)を損なわない範囲で、膜モジュールとして透水量が目標値になるように決めればよい。即ち、外径が小さいほど充填本数が増え膜面積の点で有利になるが、中空部を通液時の圧力損失が高くなるという問題がある。また、外圧式の中空糸膜モジュールではろ過運転時の膜間差圧が高まると中空糸膜が座屈する場合があるが、中空糸膜の外径/内径比が大きいほど耐圧性が高まり座屈が発生しにくくなる。
従って、おおよその目安を示すならば、中空糸膜の外径は、好ましくは0.3~3mm、より好ましくは0.4 ~2.5mm、更に好ましくは、0.5~2.0mmである。また、外径/内径比は好ましくは1.5以上、より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは2.0以上である。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は実質上、マクロボイドを有しないことが好ましい。ここで、マクロボイドとは、中空糸膜断面において、膜実質部分に観察される長径が50μm以上の空孔である。実質上有しないとは、断面において10個/mm2以下、より好ましくは5個/m m2以下であり、全く有しないことが、もっとも好ましい。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜の破断強度は0.2~2kg/mm2、好ましくは0.3~1.5kg/mm2、さらに好ましくは0.4~1kg/mm2の範囲にあり、かつ、破断伸度が10~250%、好ましくは20~200%、さらに好ましくは30~150%の範囲にあることが好ましい。この範囲にあることにより、通常の使用条件で、十分な透水性能を発揮するとともに、中空糸膜の破断が起こりにくい。
<タンパク質の透過率>
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、タンパク質を含む被ろ過液を濾過した際のタンパク質の透過率が95%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましい。
本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、タンパク質を含む被ろ過液を濾過した際のタンパク質の透過率が95%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましい。
一般に疎水性多孔質中空糸膜は、疎水性相互作用により膜表面にタンパク質が吸着しやすく透過性が低いため、結果的にろ過中にファウリングが進行することが知られている。しかしながら、本発明の疎水性多孔質中空糸膜を用いてタンパク質含有溶液のろ過性を評価した結果、タンパク質の吸着が少なく、高い透過性を示すことが明らかとなった。これは、本発明の疎水性多孔質中空糸膜が構造体表面に微細な凹凸があり、高い撥水性を示すことで、膜表面とタンパク質含有溶液との接触性が低くなり、タンパク質の吸着が抑制されたためと考えられる。このため本発明の疎水性多孔質中空糸膜は、タンパク質含有溶液の分離・精製において、特に異物除去や除菌等のろ過工程に好適に用いることができる。
また、上記のとおり、本発明の疎水性多孔質中空糸膜が球状構造体の層を有する場合、網目状構造からなる多孔質中空糸膜に比べて高い強度を実現することができるため、高線速度で原液を循環させてろ過するクロスフロー方式において、より好適に用いることができる。
<疎水性多孔質中空糸膜の製造方法>
次に、本発明の疎水性多孔質中空糸膜の中でも特にポリフッ化ビニリデン系樹脂から中空糸膜を得るための方法について述べるが、本発明はこれらの製造方法例によってなんら限定されるものではない。
次に、本発明の疎水性多孔質中空糸膜の中でも特にポリフッ化ビニリデン系樹脂から中空糸膜を得るための方法について述べるが、本発明はこれらの製造方法例によってなんら限定されるものではない。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂から中空糸膜を製造する方法としては、熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法、溶融抽出法、延伸開孔法等が挙げられるが、このうち熱誘起相分離法あるいは非溶媒誘起相分離法を利用することが好ましい。
熱誘起相分離とは、高温で溶解した樹脂溶液を冷却することにより固化せしめる相分離であり、非溶媒誘起相分離とは、樹脂溶液を非溶媒に接触させることにより固化せしめる相分離である。
熱誘起相分離法を利用して中空糸膜を製造する場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の溶媒としては、樹脂の貧溶媒が好ましく、シクロヘキサノン、イソホロン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等のアルキルケトン、エステル等の比較的樹脂の溶解度が高い貧溶媒が特に好ましく採用される。
また非溶媒誘起相分離法を利用して中空糸膜を製造する場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の溶媒としては、樹脂の良溶媒が好ましく、この良溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびその混合溶媒が挙げられる。他方、非溶媒は、樹脂の非溶媒であり、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびその混合溶媒等が挙げられる。
熱誘起相分離法および非溶媒誘起相分離法では、樹脂の溶解度が高い良溶媒あるいは貧溶媒を用いることにより、疎水性樹脂と溶媒を分子レベルで混合させられるため、相分離で固化させる際に、疎水性樹脂の分子間に溶媒分子が介在しやすくなり、結果的に構造体の各球状体表面の凹凸が形成されやすい。
また、熱誘起相分離法には主に2種類の相分離機構がある。一つは高温時に均一に溶解した樹脂溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因で樹脂の濃厚相と希薄相に分離する液-液相分離法、もう一つが高温時に均一に溶解した樹脂溶液が、降温時に樹脂の結晶化が起こりポリマー固体相とポリマー希薄溶液相に相分離する固-液相分離法である。前者の方法では主にスポンジ状の三次元網目構造が、後者の方法では球状構造が形成される。
本発明では、後者の相分離機構により球状構造を形成させることが好ましい。球状構造の場合、固形部がバルキーであるため、固形部間の空隙が収縮しにくく、高い純水透過性能を維持できることも好ましい理由である。このことから固-液相分離が誘起される樹脂濃度および溶媒を選択することが好ましく採用される。
冷却する際は冷却浴を用いることが好ましく、樹脂溶液の溶媒と同じか、構造体表面に微細凹凸を形成させるために、前記樹脂の非溶媒を低濃度で含有し、相分離速度を制御することが好ましい。凝固浴組成は、特に相分離速度の制御として、樹脂溶液の溶媒の変性物を添加することが好ましく、樹脂溶液の溶媒としてγ―ブチロラクトンを用いた場合はその加水分解物であるγ―ヒドロキシ酪酸を添加することで、樹脂溶液と冷却浴の相溶性を大きく変化させることなく相分離速度をより精密に制御することが可能となり、球状構造表面の微細凹凸形成を促進できる。冷却浴に対する樹脂溶液の溶媒の変性物の添加量は、好ましくは5~20重量%、より好ましくは6~17重量%、さらに好ましくは7~15重量%である。
ここで、本発明の非溶媒誘起相分離法あるいは熱誘起相分離法を利用して製造された疎水性多孔質中空糸膜は、空隙を拡大し透水性能を向上させるために延伸することも好ましく採用される。延伸の条件は、好ましくは50~120℃、より好ましくは60~100℃の温度範囲で、好ましくは1.1~2倍の延伸倍率である。50℃未満では、安定して均質に延伸することが困難であり、120℃を超える温度では、中空糸膜が軟化し構造体表面の微細凹凸構造や中空部がつぶれてしまうことがある。また、延伸は温度制御が容易であるため液体中で行うことが好ましいが、スチーム等の気体中で行っても構わない。液体としては水や樹脂溶液溶媒の水溶液を用いる方法が簡便で好ましいが、90℃程度以上で延伸する場合には、低分子量のポリエチレングリコール等を用いることも好ましい。
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
(1)純水透過性能
純水の透過性能は、乾燥時透過性能rと湿潤時透過性能wとを評価する。
<乾燥時透過性能r>
多孔質中空糸膜を30℃の送風定温乾燥器にて24時間以上静置し、中空糸膜の水分が乾燥機内30℃空気と十分平衡に達した乾燥状態とした後、有効長が10cmの片端開放型の多孔質中空糸膜モジュールを作製した。
純水の透過性能は、乾燥時透過性能rと湿潤時透過性能wとを評価する。
<乾燥時透過性能r>
多孔質中空糸膜を30℃の送風定温乾燥器にて24時間以上静置し、中空糸膜の水分が乾燥機内30℃空気と十分平衡に達した乾燥状態とした後、有効長が10cmの片端開放型の多孔質中空糸膜モジュールを作製した。
原水として蒸留水を利用し、ろ過圧力100kPa、温度25℃ の条件で多孔質中空糸膜の外側から内側にろ過(外圧ろ過)して時間当たりの透水量を測定した後、ろ過圧力200kPa、ろ過圧力300kPaにて同様の測定を行い、各ろ過圧力における単位膜面積、単位時間当たりの純水の透過量、つまり透水量に換算した数値を算出した。
<湿潤時透過性能w>
多孔質中空糸膜を用いて、有効長が10cmの片端開放型の多孔質中空糸膜モジュールを作製した。モジュールを50%エタノール水溶液に20分浸漬後、蒸留水での流水洗浄処理を20分行い、湿潤状態とした多孔質中空糸膜のモジュールを得た。このモジュールを用いて乾燥時透過性能rと同様の測定を行い、各ろ過圧力における単位膜面積、単位時間当たりの透水量に換算した数値を算出した。
<湿潤時透過性能w>
多孔質中空糸膜を用いて、有効長が10cmの片端開放型の多孔質中空糸膜モジュールを作製した。モジュールを50%エタノール水溶液に20分浸漬後、蒸留水での流水洗浄処理を20分行い、湿潤状態とした多孔質中空糸膜のモジュールを得た。このモジュールを用いて乾燥時透過性能rと同様の測定を行い、各ろ過圧力における単位膜面積、単位時間当たりの透水量に換算した数値を算出した。
(2)多孔質分離膜表面と水との接触角測定
多孔質中空糸膜表面の接触角測定においては、乾燥状態の中空糸膜を用い、長さ方向に切れ込みを入れて開き平板状にして測定した。室温25℃、相対湿度50%の雰囲気において多孔質中空糸膜表面と水の接触角を自動接触角計(協和界面科学株式会社製、DM500)を用いて測定した。接触角の測定は、θ/2法にて静的接触角をコンピュータでの画像解析により自動算出した。なお、液適量は1.0μlとし、蒸留水の多孔質分離膜表面への着滴開始から10秒後に接触角を測定した。
多孔質中空糸膜表面の接触角測定においては、乾燥状態の中空糸膜を用い、長さ方向に切れ込みを入れて開き平板状にして測定した。室温25℃、相対湿度50%の雰囲気において多孔質中空糸膜表面と水の接触角を自動接触角計(協和界面科学株式会社製、DM500)を用いて測定した。接触角の測定は、θ/2法にて静的接触角をコンピュータでの画像解析により自動算出した。なお、液適量は1.0μlとし、蒸留水の多孔質分離膜表面への着滴開始から10秒後に接触角を測定した。
(3)多孔質中空糸膜表面の粗さ測定
多孔質中空糸膜表面の粗さ測定は、乾燥状態の中空糸膜を用い、長さ方向に切れ込みを入れて開き平板状にし、室温25℃、相対湿度50%の雰囲気において、レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、VK-7200)を用いて、線粗さ測定(JIS B 0601―2001)を行うことで測定した。具体的には、多孔質中空糸膜の任意の表面200μm×200μmの範囲において、任意の場所で長さ50μmの線粗さ測定を5カ所行い、平均長さRSmおよび二乗平方根高さRqを測定した。この測定を5カ所の多孔質中空糸膜表面について行い、全25カ所の測定値を平均した。
多孔質中空糸膜表面の粗さ測定は、乾燥状態の中空糸膜を用い、長さ方向に切れ込みを入れて開き平板状にし、室温25℃、相対湿度50%の雰囲気において、レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、VK-7200)を用いて、線粗さ測定(JIS B 0601―2001)を行うことで測定した。具体的には、多孔質中空糸膜の任意の表面200μm×200μmの範囲において、任意の場所で長さ50μmの線粗さ測定を5カ所行い、平均長さRSmおよび二乗平方根高さRqを測定した。この測定を5カ所の多孔質中空糸膜表面について行い、全25カ所の測定値を平均した。
(4)水銀圧入法による細孔分布測定
多孔質中空糸膜を次の方法により絶乾した。水で湿潤した状態の中空糸膜は、-20℃で約50時間凍結乾燥した後、さらに常温で約8時間真空乾燥した。この絶乾多孔質中空糸膜を約5mmの長さに切断し、試料重量を電子天秤((株)島津製作所製AW220)で秤量した。細孔直径(D)の分布はマイクロメリテックス社製ポアサイザー9320により測定した。試験片を装置付属の約5cm3のガラス製のセルに封入し減圧下に水銀を注入した後、装置付属の耐圧容器中でオイルを介して約4kPa~207MPa(細孔直径約7nm~350μmに対応)の範囲で昇圧することで行った。水銀の表面張力は484dyn/cm、水銀の接触角は141.3°を用いて計算した。
多孔質中空糸膜を次の方法により絶乾した。水で湿潤した状態の中空糸膜は、-20℃で約50時間凍結乾燥した後、さらに常温で約8時間真空乾燥した。この絶乾多孔質中空糸膜を約5mmの長さに切断し、試料重量を電子天秤((株)島津製作所製AW220)で秤量した。細孔直径(D)の分布はマイクロメリテックス社製ポアサイザー9320により測定した。試験片を装置付属の約5cm3のガラス製のセルに封入し減圧下に水銀を注入した後、装置付属の耐圧容器中でオイルを介して約4kPa~207MPa(細孔直径約7nm~350μmに対応)の範囲で昇圧することで行った。水銀の表面張力は484dyn/cm、水銀の接触角は141.3°を用いて計算した。
(5)破断強度、破断伸度
引っ張り試験機(TENSILON(登録商標)/RTM-100、東洋ボールドウィン株式会社製)を用い、測定長さ50mmの試料を、25℃の雰囲気中で引っ張り速度50mm/分で、試料を変えて5回以上試験し、破断強度、破断伸度の平均値を求めることで算出した。
引っ張り試験機(TENSILON(登録商標)/RTM-100、東洋ボールドウィン株式会社製)を用い、測定長さ50mmの試料を、25℃の雰囲気中で引っ張り速度50mm/分で、試料を変えて5回以上試験し、破断強度、破断伸度の平均値を求めることで算出した。
(6)球状体の直径の測定
各例で作製した多孔質中空糸膜について、その長手方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で撮影した。撮影された画像から、表面から厚み方向20μmまでの領域に存在する任意の10個の球状構造を形成する球状体を選択し、それぞれの長径と短径を測定した。上記撮影を5箇所で行い、それぞれ任意の10個の球状構造について長径と短径を求め、合計50個の長径と合計50個の短径とを得た。ついで、合計100個の径の平均値を算出し、球状体の平均直径とした。測定対象とする球状体については上述のとおりである。
各例で作製した多孔質中空糸膜について、その長手方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で撮影した。撮影された画像から、表面から厚み方向20μmまでの領域に存在する任意の10個の球状構造を形成する球状体を選択し、それぞれの長径と短径を測定した。上記撮影を5箇所で行い、それぞれ任意の10個の球状構造について長径と短径を求め、合計50個の長径と合計50個の短径とを得た。ついで、合計100個の径の平均値を算出し、球状体の平均直径とした。測定対象とする球状体については上述のとおりである。
(7)分画粒子径
異なる大きさのポリスチレンラテックス微粒子水溶液を用いた阻止率測定を、少なくとも3種類以上の粒子に対して行い、それぞれの測定値から直線近似し阻止率が90%となる粒子径を分画粒子径とした。
異なる大きさのポリスチレンラテックス微粒子水溶液を用いた阻止率測定を、少なくとも3種類以上の粒子に対して行い、それぞれの測定値から直線近似し阻止率が90%となる粒子径を分画粒子径とした。
(8)タンパク質の透過率
多孔質中空糸膜を30℃の送風定温乾燥器にて24時間以上静置し、中空糸膜の水分が乾燥機内30℃空気と十分平衡に達した乾燥状態とした後、有効長が10cmの片端開放型の多孔質中空糸膜モジュールを作製した。
多孔質中空糸膜を30℃の送風定温乾燥器にて24時間以上静置し、中空糸膜の水分が乾燥機内30℃空気と十分平衡に達した乾燥状態とした後、有効長が10cmの片端開放型の多孔質中空糸膜モジュールを作製した。
原水として、コラーゲンペプチド(ヘルシーカンパニー株式会社製、おさかなコラーゲン)の1重量%50℃水溶液、またはゼラチン(新田ゼラチン株式会社製、NITTA classics シルバー)の1重量%25℃水溶液を用い、原水側と透過側のろ過差圧30kPa、原水側の膜面線速度1m/秒の条件で多孔質中空糸膜の外側から内側にろ過(外圧ろ過)して、原液と透過液の吸光度から下記式にて透過率(%)を算出した。
透過率(%)=ろ過液の吸光度/原液の吸光度×100・・・式(8)
なお、コラーゲンペプチド水溶液を用いた場合は波長275nmにおける吸光度の値を、ゼラチン水溶液を用いた場合は波長280nmにおける吸光度の値を用いる。
本測定においてタンパク質の透過率が高いことは、多孔質中空糸膜へのタンパク質の吸着が少ないことを意味する。
透過率(%)=ろ過液の吸光度/原液の吸光度×100・・・式(8)
なお、コラーゲンペプチド水溶液を用いた場合は波長275nmにおける吸光度の値を、ゼラチン水溶液を用いた場合は波長280nmにおける吸光度の値を用いる。
本測定においてタンパク質の透過率が高いことは、多孔質中空糸膜へのタンパク質の吸着が少ないことを意味する。
<実施例1>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ-ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を130℃で静置、脱泡後、配管内で107℃に降温した後、吐出口温度100℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に85重量%のγ-ブチロラクトン水溶液を注入した。乾式長10cmで、γ-ブチロラクトン78重量%、γ-ヒドロキシ酪酸12重量%、水10重量%の水溶液からなる温度5℃の凝固浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸し、多孔質中空糸膜を得た。
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38重量%とγ-ブチロラクトン62重量%を150℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を130℃で静置、脱泡後、配管内で107℃に降温した後、吐出口温度100℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に85重量%のγ-ブチロラクトン水溶液を注入した。乾式長10cmで、γ-ブチロラクトン78重量%、γ-ヒドロキシ酪酸12重量%、水10重量%の水溶液からなる温度5℃の凝固浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸し、多孔質中空糸膜を得た。
細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲と細孔直径が0.2μm以上10μm未満の範囲とにそれぞれピークがあり、多孔質構造体の球状体表面に微細な凸凹が存在した。透水性が良好であり、タンパク質成分、コラーゲンペプチドの透過率は99(%)と良好であった。得られた多孔質中空糸膜の構造等の評価結果と性能とを表1に示す。
<実施例2>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー36重量%とγ-ブチロラクトン61重量%を150℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を120℃で静置、脱泡後、配管内で100℃に降温した後、吐出口温度98℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に85重量%のγ-ブチロラクトン水溶液を注入した。乾式長10cmで、γ-ブチロラクトン84重量%、γ-ヒドロキシ酪酸6重量%、水10重量%の水溶液からなる温度5℃の凝固浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸し、多孔質中空糸膜を得た。得られた多孔質中空糸膜の球状構造等の評価結果と性能とを表1に示す。
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー36重量%とγ-ブチロラクトン61重量%を150℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を120℃で静置、脱泡後、配管内で100℃に降温した後、吐出口温度98℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に85重量%のγ-ブチロラクトン水溶液を注入した。乾式長10cmで、γ-ブチロラクトン84重量%、γ-ヒドロキシ酪酸6重量%、水10重量%の水溶液からなる温度5℃の凝固浴中で固化させた後、水洗して90℃の水中で1.5倍に延伸し、多孔質中空糸膜を得た。得られた多孔質中空糸膜の球状構造等の評価結果と性能とを表1に示す。
<比較例1>
実施例1のポリマー溶液を、110℃で静置、脱泡後、配管内で102℃に降温した後、吐出口温度100℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に85重量%のγ-ブチロラクトン注入液を注入した。乾式長4cmで、γ-ブチロラクトン85重量%、水15重量%の水溶液からなる温度9℃の凝固浴中で固化させた後、水洗して85℃の水中で1.5倍に延伸し、多孔質中空糸膜を得た。細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲にはピークがなく、多孔質構造体の球状体表面に微細な凸凹は存在しなかった。透水性は、(乾燥時透過性能r/湿潤時透過性能w)の比が72%と低く、タンパク質成分、コラーゲンペプチドの透過率は91(%)であり多孔質分離膜にタンパク質成分が吸着しやすかった。得られた多孔質中空糸膜の球状構造等の評価結果と性能とを表2に示す。
実施例1のポリマー溶液を、110℃で静置、脱泡後、配管内で102℃に降温した後、吐出口温度100℃の中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出し、更に二重管状口金の内側の管から、中空部に85重量%のγ-ブチロラクトン注入液を注入した。乾式長4cmで、γ-ブチロラクトン85重量%、水15重量%の水溶液からなる温度9℃の凝固浴中で固化させた後、水洗して85℃の水中で1.5倍に延伸し、多孔質中空糸膜を得た。細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲にはピークがなく、多孔質構造体の球状体表面に微細な凸凹は存在しなかった。透水性は、(乾燥時透過性能r/湿潤時透過性能w)の比が72%と低く、タンパク質成分、コラーゲンペプチドの透過率は91(%)であり多孔質分離膜にタンパク質成分が吸着しやすかった。得られた多孔質中空糸膜の球状構造等の評価結果と性能とを表2に示す。
<比較例2>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー39重量%、ジフェニルカーボネート40重量%、γ-ブチロラクトン15重量%、1,3-プロピレングリコール5重量%、塩化リチウム1重量%を200℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を180℃で静置、脱泡後、中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出した。乾式長10cmで、1-オクタノール100重量%の0℃の凝固浴中で固化させた後、エタノールで洗浄し、多孔質中空糸膜を得た。得られた多孔質中空糸膜の構造等の評価結果と性能とを表2に示す。
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー39重量%、ジフェニルカーボネート40重量%、γ-ブチロラクトン15重量%、1,3-プロピレングリコール5重量%、塩化リチウム1重量%を200℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を180℃で静置、脱泡後、中空糸成型用二重管状口金の外側の管から吐出した。乾式長10cmで、1-オクタノール100重量%の0℃の凝固浴中で固化させた後、エタノールで洗浄し、多孔質中空糸膜を得た。得られた多孔質中空糸膜の構造等の評価結果と性能とを表2に示す。
1 多孔質中空糸膜
2 球状構造体
11 外表面
12 内表面
20 球状体
21 球状体のくびれ
22 球状体間の細孔
23 球状体表面の細孔
25 細孔の流入孔
26 多孔質膜の構造体
V1 1次側流速
V2 細孔内流速
X1 輪郭部が略平行に対向しない球状体
X2 手前の輪郭部に隠れた奥側の球状体
R 球状体の直径
2 球状構造体
11 外表面
12 内表面
20 球状体
21 球状体のくびれ
22 球状体間の細孔
23 球状体表面の細孔
25 細孔の流入孔
26 多孔質膜の構造体
V1 1次側流速
V2 細孔内流速
X1 輪郭部が略平行に対向しない球状体
X2 手前の輪郭部に隠れた奥側の球状体
R 球状体の直径
Claims (10)
- 有機高分子樹脂からなる疎水性多孔質中空糸膜であって、水銀圧入法により測定した細孔直径(D)と細孔容積(Vp)のLog微分細孔容積分布グラフにおいて、細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲と、細孔直径が0.2μm以上10μm未満の範囲とに、Log微分細孔容積(dVp/dlogD)が0.2cm3/g以上のピークをそれぞれ有することを特徴とする疎水性多孔質中空糸膜。
- 100kPaろ過圧下、25℃における純水の透過性能が式(1)を満足することを特徴とする請求項1に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
(乾燥時透過性能r/湿潤時透過性能w)×100 ≧ 80(%)・・・式(1)
式(1)において、乾燥時透過性能rは、中空糸膜を30℃下、24時間以上乾燥させた中空糸膜の純水透過性能(m3/m2/hr)を表し、湿潤時透過性能wは、50%エタノールで20分浸漬後、流水透過を20分行った後の湿潤中空糸膜の純水透過性能(m3/m2/hr)を表す。 - 疎水性多孔質中空糸膜の膜表面が、前記疎水性多孔質中空糸膜100重量%に対し水分量2重量%以上10重量%以下の範囲において、前記膜表面と水との接触角が70°以上130°以下である請求項1または2に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
- 前記細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲における平均細孔直径(d1)が0.02μm以上0.08μm以下であり、細孔比表面積Sp0.01-0.2(m2/g)と細孔容積Vp0.01-0.2(cm3/g)の関係が式(2)を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
Sp0.01-0.2/Vp0.01-0.2 ≧ 100・・・式(2)
式(2)において、Sp0.01-0.2は水銀圧入法により求める細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲の細孔比表面積(S)を表し、Vp0.01-0.2は水銀圧入法により求める細孔直径(D)が0.01μm以上0.2μm未満の範囲の細孔容積(Vp)を表す。 - 前記疎水多孔質中空糸膜は、少なくとも一方の表面の表面側に球状構造体の層を有する請求項1または2に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
- 前記球状構造体を構成する球状体の平均直径が1μm以上15μm以下である請求項5に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
- 前記疎水性多孔質中空糸膜は、100kPaろ過圧下、25℃における純水の乾燥時透過性能rが3.0m3/m2/hr以上20.0m3/m2/hr以下であり、空隙率が50%以上70%以下であり、かつ分画粒子径が0.1μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
- 前記有機高分子樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の疎水性多孔質中空糸膜。
- タンパク質をろ過するタンパク質含有溶液のろ過方法であって、請求項1~8のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜を用いる、タンパク質含有溶液のろ過方法。
- 請求項1~8のいずれかに記載の疎水性多孔質中空糸膜を備えた浄水器カートリッジ。
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