JP2017079629A - チョコレート用油脂組成物、及びこれを含有するチョコレート - Google Patents

チョコレート用油脂組成物、及びこれを含有するチョコレート Download PDF

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Abstract

【課題】チョコレートにおいて、ココアバターが高配合でき、常温流通時にも耐えうる耐熱性を持ち、光沢、艶、食感、風味などが良好であり、継時的なブルーム発現や硬さ変化を抑制できるノーテンパリングチョコレート用油脂の開発
【解決手段】USU及びSSSトリグリセリドを適切な割合で含む油脂組成物又はさらにSUSを含む油脂組成物を特定の割合でチョコレートに配合する。
【選択図】なし

Description

本発明は、チョコレートに使用する油脂組成物及びこれを用いたチョコレートに関する。
一般に、チョコレートはカカオマス、ココア、ココアバター、ココアバター代用脂、甘味料及び粉乳等を適宜混合し、ロール掛け(微細化)、コンチング(精錬)及びテンパリング(温調)処理して製造される。このようなチョコレートは保存中しばしばブルーム現象を起こして、商品価値を損なうという問題がある。このようなブルーム現象には、油脂の不安定結晶に基づくファットブルームと砂糖の再結晶化に基づくシュガーブルームとがあり、特に前者のファットブルームの発生が多いことが知られている。
ファットブルームの防止は、チョコレートを構成する油脂を如何に安定な結晶型に移行させるかという観点からテンパリング処理が施され、その処理が不十分である場合にはファットブルーム発生は広汎な条件下で起こる。このようにテンパリング処理はチョコレート製造上重要な工程となっているが、このテンパリング処理は熟練した技術が必要であることが知られている。
他方このような面倒なテンパリング作業を省略しようとする指向があり、その為、高エライジン酸型ハードバター、ラウリン型ハードバター、ランダムエステル交換型ハードバターを使用する技術等が実施されている。しかし、高エライジン酸型ハードバターは近年の栄養学的見地からトランス脂肪酸の健康に与えるリスクが問題とされ、ラウリン型ハードバターは保存時に加水分解による不快なソーピーフレーバーが発生するリスクがあり、ランダムエステル交換型は保存時のブルームやグレーニングに対する耐性が不十分であり、さらにはこれら全てのハードバターはカカオバターを大量に使用できず、得られる製品の風味面において限界があることが知られている。
上記のようなカカオバターを大量に使用できないという問題点を解決すべく、特許文献1ではアセチル化蔗糖脂肪酸エステルを添加した高エライジン酸型ハードバターをチョコレートに用いることで、従来以上のココアバターの配合が可能とはなったが、いまだ不十分であり、また前記トランス脂肪酸の問題は依然として解決されていない。
上記のような解決策の他に、特許文献2には、構成脂肪酸として炭素数16〜22の飽和脂肪酸をグリセリンの2位に、炭素数16〜18の不飽和脂肪酸をグリセリンの1,3位に結合した混酸型トリグリセリド(USU)を40〜100重量%含有するココアバター代用脂が開示されており、テンパリング作業を実施せずとも、ブルームが観察されないことが示されている。
特許公開2000−41579号公報 特許公開平4―135453号公報
以上のように、トランス酸及びラウリン酸を実質的に含まず、かつ、光沢、艶、食感などが良好であり、常温流通時にも耐えうる耐熱機能を付与することができ、ココアバターが高配合できるノーテンパー型チョコレート用油脂が求められている。本発明者らは、前記特許文献2に開示されたUSUを配合したノーテンパーチョコレートにおいては、その耐熱性は十分でなく、従って常温流通時にはべたつきや商品外観を損なうリスクがあり、また冷却成型時の固化速度が極端に遅く、強力な冷却能を有する設備が不可欠であること、さらには強い冷却能を有さない設備での製造では生産効率が極端に低下し、チョコレート全体が真っ白になるほどのファットブルーム及びグレーニングを発現し、商品価値を著しく損なうことを新たな課題として見出した。
本発明者らは上記課題を解決するために、上記USUに特定のトリアシルグリセロール種を適切な割合で混合することにより、テンパリング作業を実施せずともココアバターが高配合でき、冷却成型時の固化速度が十分に速く、常温流通時にも耐えうる耐熱機能を自在に付与することができ、光沢、艶、食感、風味などが良好となるチョコレートを可能にするチョコレート用油脂を開発し、本発明に至った。さらに驚くべきことに、本発明を用いたチョコレートは、食感がソフトであるにも関わらず、喫食時に強い冷感を感じることができ、従来のソフト食感チョコレートにはない新たな機能をも付与することを可能にした。
すなわち、本発明の第1は、油脂組成物中にUSUトリグリセリドを20〜99重量%、SSSトリグリセリドを1〜20%含有することを特徴とするチョコレート用油脂組成物。但し、S:炭素数16〜22の飽和脂肪酸, U:炭素数18の不飽和脂肪酸、
USU:トリグリセリドの1,3位にUが、2位にSが結合したトリグリセリド
SSS:トリグリセリドの1,2、3位にSが結合したトリグリセリド
本発明の第2は、USUトリグリセリドとSSSトリグリセリドの含有比(SSS/USU)が0.03〜0.300であることを特徴とする第1の発明のチョコレート用油脂組成物。
本発明の第3は、前記油脂組成物中のSSUトリグリセリドの含量が5%未満であることを特徴とする第1又は2の発明のチョコレート用油脂組成物。
本発明の第4は、前記油脂組成物に含まれるSSSトリグリセリドの構成脂肪酸におけるC18〜22の飽和脂肪酸含量が56%以上であることを特徴とする第1乃至3の発明のチョコレート用油脂組成物。
本発明の第5は、前記油脂組成物がUSUトリグリセリドを含有する油脂とSSSトリグリセリドを含有する油脂を少なくとも含み、前者の油脂と後者の油脂の混合比(USU油脂/SSS油脂)が0.01〜0.25であり、前者の油脂と後者の油脂の混合量合計が30〜100%であることを特徴とする第1乃至4の発明のチョコレート用油脂組成物。
本発明の第6は、第1乃至5の発明の油脂組成物を10重量%以上含んでなるチョコレート。
本発明の第7は、チョコレートに含まれる油分中のSUS、USU、SSS各トリグリセリド含量の合計が50〜95%であって、USU/SUS比:0.3〜1.2、SSS/(SUS+USU)比:0.02〜0.14であることを特徴とする第6の発明のチョコレート。
本発明の油脂組成物は、トランス酸及びラウリン酸を実質的に含まないので、トランス脂肪酸の健康リスク、ソーピーフレーバー発生リスク及びブルームやグレーニング発生リスク等、従来のノーテンパー型チョコレート用油脂が抱えていた様々な課題を克服し、かつ、ココアバターとの相溶性が大幅に改善され、さらには冷却成型時の固化速度が十分に速く、常温流通時にも耐えうる耐熱機能を自由自在に付与できる油脂組成物を提供することができる。また本発明の油脂組成物を使用したチョコレート類は、ココアバターを多量に配合できることから風味良好であり、継時的な物性・外観変化も全くない優れたものとなる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の油脂組成物はUSUトリグリセリドが20重量%以上である必要があり、好ましくは30重量%以上,より好ましくは35重量%以上,更に好ましくは50重量%以上、最も好ましくは60重量%以上である。またUSUが99重量%以下である必要があり、好ましくは90重量%以下,より好ましくは80重量%以下、更に好ましくは70重量%以下である。前記USU含量が下限未満又は上限を超える場合は本発明の効果が十分に発揮されず好ましくない。
本発明の油脂組成物はSSSトリグリセリドを1〜20重量%含有する必要があり、好ましくは1.5重量%以上、より好ましくは2重量%以上,更に好ましくは3重量%以上である。また好ましくは15重量%以下,より好ましくは10重量%以下,更に好ましくは5重量%以下である。SSSトリグリセリドが下限未満であると本発明のチョコレートの耐熱性及び固化速度が十分でないだけでなく、徐冷固化時のブルームやグレーニングが抑制できず好ましくない。また上限を超えるとチョコレートの食感が悪化し、さらにはチョコレート製造時の増粘が激しくなり好ましくない。
本発明の油脂組成物中のUSUトリグリセリドとSSSトリグリセリドの含有比(SSS/USU)は0.03〜0.300であることが望ましく、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.06以上である。また好ましくは0.25以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.15以下である。
本発明の油脂組成物中のUSUトリグリセリドとSSSトリグリセリドの含有の合計は、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは35重量%以上、最も好ましくは40重量%以上、更に最も好ましくは45である。また好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下、更に好ましくは85重量%以下、最も好ましくは80重量%以下、更に最も好ましくは75である。
本発明の油脂組成物に含有されるSSSトリグリセリドは、C16〜22の飽和脂肪酸により構成されたトリ飽和トリアシルグリセリドであるが、このSSSトリグリセリドの構成脂肪酸におけるC18〜22の飽和脂肪酸は56重量%以上であることが望ましい。また好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。これが下限未満の場合は、徐冷化におけるブルームやグレーニングが起こりやすくなるため好ましくない。
本発明の油脂組成物に含有されるSSUトリグリセリドは好ましくは5重量%未満、より好ましくは4重量%未満,最も好ましくは3重量%未満である。SSUトリグリセリドが5重量%以上であると、本発明のチョコレートの食感及びブルーム耐性が悪化し好ましくない。
本発明の油脂組成物は、少なくともUSU及びSSSの各トリグリセリドを含むが、USU及びSSSトリグリセリドが実質的に共存している単独の油脂を使用することもできるし、それぞれのトリグリセリドを含有する油脂を二者以上混合して調製することもできる。後者の場合本発明の油脂組成物に対するUSUトリグリセリドを含有する油脂とSSSトリグリセリドを含有する油脂の混合の合計量は30重量%以上が好ましい。またより好ましくは40重量%以上,更に好ましくは50重量%以上、更により好ましくは60重量%以上、最も好ましくは70重量%以上である。またより好ましくは95重量%以下、更に好ましくは90重量%以下、最も好ましくは85重量%以下である。USUトリグリセリドを含有する油脂とSSSトリグリセリドを含有する油脂の混合比(USU油脂/SSS油脂)は好ましくは0.01〜0.25である。またより好ましくは0.015以上,更に好ましくは0.02以上、更により好ましくは0.025以上、またより好ましくは0.20以下、更に好ましくは0.15以下である。
本発明の油脂組成物はUSU及びSSSの各トリグリセリドを含有する必要があり、SSU型トリグリセリドの含有は好適ではないが、それ以外は、どのようなトリグリセリドを含有させることもできる。その他のトリグリセリドとしてUUUが例示でき、この場合、よりソフトな食感を得ることができる。通常UUU型トリグリセリドを含有させると、固化速度が著しく低下するが、SSSを本発明の油脂組成物に含有させることでUUUを含有させない場合と同等の十分な固化速度を得ることができる。またUUUを添加することによりガナッシュと同程度のソフトさを得ることが可能となり、その場合水分を配合しない点で冷蔵保管が不要であり、長期流通が可能となる点で有利である。更に特筆すべきは、UUUを含有させた場合、これまでのソフト食感油脂組成物では継時的な結晶の粗大化並びに硬さの増加が発現していたが、本油脂組成物の油脂組成物であれば、ソフトな食感を維持ながら経時的な結晶の粗大化が一切観察されない点で有利である。
本発明の油脂組成物に混合される、USUを含有する油脂としては例えば、豚脂の他、大豆油、なたね油、ひまわり種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、乳脂、牛脂、豚脂等の植物油脂、動物油脂の1種以上の単独又は混合油、それらの加工油脂(硬化、分別及びエステル交換から選択される1種以上の加工工程を含む)が挙げられる。そのうち特に各種動植物油脂と脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルコールエステルとを用いて製造した酵素エステル交換油及びその分別油が好適に用いられる。
USUを含有する油脂中のUSU含量は好ましくは40重量%以上、またより好ましくは50重量%以上,更に好ましくは60重量%以上、更により好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上である。またより好ましくは90重量%以下である。
SSSを含有する油脂
本発明の油脂組成物に混合される、SSSを含有する油脂としては例えば、大豆油、なたね油、ひまわり種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、乳脂、牛脂、豚脂等の植物油脂、動物油脂の硬化油又は分別油が挙げられる。そのうち特に極度硬化油が好適に用いられる。中でもなたね油又は大豆油の極度硬化油が好適に用いられる。
SSSを含有する油脂中のSSS含量は好ましくは80重量%以上、またより好ましくは90重量%以上,更に好ましくは95重量%以上、更により好ましくは98重量%以上である。
本発明のチョコレートに存在する、SUSトリグリセリドはカカオマス、ココアパウダー、ココアバターなどに由来することもあるし、チョコレートに配合されたパーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂等の植物性油脂又はその分別油が挙げられる。また各種動植物油脂と脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルコールエステルとを用いて製造した酵素エステル交換油及びその分別油が挙げられる。
SUSトリグリセリドがココアバターを主体とするときは本発明のチョコレートの風味が良好となる意味で好ましく、SUSトリグリセリド中のココアバターが70%以上であるとより好ましく、80%以上であるとさらに好ましく、90%以上であると最も好ましい。
また本発明のチョコレートはココアバターの高配合が可能であるが、総油分中ココアバターが10%以上であれば好ましく、20%以上であればより好ましく、30%以上で更に好ましく、40%以上で最も好ましい。総油分中ココアバターが下限未満であるとチョコレートの風味に劣る点で好ましくない。
本発明の油脂組成物に混合される、UUUを含有する油脂は、例えば、菜種油、米糠油、大豆油、綿実油、コーン油、オリーブ油、紅花油、サフラワー油、ごま油、ひまわり油、パーム油、ヤシ油、シア脂等の植物性油脂の1種以上の単独又は混合油、それらの加工油脂(硬化、分別及びエステル交換から選択される1種以上の加工工程を含む)が挙げられる。
本発明の油脂組成物は構成脂肪酸中にトランス酸及びラウリン酸を実質的に含まない。具体的にはラウリン酸含量が5重量%未満、より好ましくは3重量%未満である。またトランス酸含量が5重量%未満、より好ましくは2重量%未満である。ノーテンパー型とは、かかるチョコレート用油脂を用いてチョコレート類を製造する場合において、温度調整処理(テンパリング処理)を省略し、冷却固化させる方法によってもチョコレート類を作製することができるタイプであることを意味する。
以上のようにして得られた本発明の油脂組成物は、単独又は他の油脂を混合してチョコレート用の油脂として使用することができ、テンパリング処理を省略してチョコレートやフィリング等のチョコレートを製造することができる。なお、ここでいうチョコレートとは、規約(「チョコレート類の表示に関する公正規約」)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、準スイートチョコレート、準ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート或いはストロベリーのようなカラーチョコレート、及びチョコレート類さらに油脂加工食品をも含む意味で使用する。
本発明のチョコレートは本発明の油脂組成物を10重量%以上含んでいる必要があり、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは40重量%以上である。油脂組成物の含有が下限未満であると本発明の効果が十分に発揮されず好ましくない。
また本発明のチョコレートの総油分中乳脂肪の割合は20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。総油分中乳脂肪の割合が上限を超える場合はチョコレートの耐熱保型性が低下するため好ましくない。
本発明のチョコレート中のSUS型トリグリセリドとUSU型トリグリセリドの比(USU/SUS比)は0.3〜1.2であれば好ましく。またより好ましくは0.35以上、さらに好ましくは0.40以上,更により好ましくは0.45以上、最も好ましくは0.50以上である。また好ましくは1.1以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.9以下、最も好ましくは0.8以下である。USU/SUS比が下限未満であると、経時的なSUS型トリグリセリドの凝集によるグレーニングが生じ、商品価値を損なうため好ましくない。上限を超えると、チョコレートの耐熱保型性が低下し、また喫食時に冷感を感じにくく好ましくない。
本発明のチョコレート中のSUS型トリグリセリドとUSU型トリグリセリドとSSSトリグリセリドにおけるSSS/(SUS+USU)比が0.02〜0.14であれば好ましい。またより好ましくは0.023以上、さらに好ましくは0.027以上,更により好ましくは0.030以上である。また好ましくは0.12以下、より好ましくは0.10以下、更に好ましくは0.08以下である。
SSS/SUS+USU比が下限未満であると、耐熱性が十分に得られず、十分な固化速度を得られず、さらに、徐冷固化時のブルームやグレーニングを十分に抑制できず商品価値を損なうため好ましくない。また上限を超えると、チョコレートの食感が悪化し、さらにはチョコレート製造時の増粘が激しくなり好ましくない。ここでチョコレート中に存在するSUSトリグリセリドは、チョコレートに配合されるカカオマス、ココアパウダー又はココアバター等のカカオ原料由来であってもよいし、本発明の油脂組成物由来であってもよいが、前者の場合はノーテンパー型のチョコレートでありながらカカオ原料を多量に配合できるため風味良好となる点で有利である。
本発明のチョコレートに含まれる油分中のSUS、USU、SSS各トリグリセリド含量の合計は50〜95%であれば好ましく、より好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上、また好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下である。
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、特に断らない限り%、部は重量基準を示す。
(USU脂の作成)
菜種極度硬化油30部とオレイン酸エチル70部を混合し、既知の方法にて脱色を行った後、この混合物を市販の1,3特異性リパーゼによりエステル交換を行った。このエステル交換反応物を、既知の蒸留操作により脂肪酸エチルを除去してエステル交換油脂を得た。本油脂を既知の方法にて分別することにより高融点部を除去し、精製することにより、USU型トリアシルグリセロールを81重量%含有するUSU脂を得た。
(SSS脂の作成)
菜種油を既知の方法にて極度硬化を実施した後、精製することにより、SSS型トリアシルグリセロールを100重量%含有するSSS脂(菜種極度硬化油)を得た。
(試験1)
USU脂とSSS脂と大豆油を各種比率で配合し、表1に示す実施例及び比較例の油脂を得た。
またUSU脂とSSS脂の混合比(SSS脂/USU脂)及びSSS脂とUSU脂の混合量合計も同時に示した。
表1
Figure 2017079629
実施例及び比較例の油脂のトリグリセリド組成を表2に示した。またUSUトリグリセリドとSSSトリグリセリドの含有比(SSS/USU)及び含有合計量も同時に示した。
表2
Figure 2017079629
実施例1〜5、比較例1〜4の油脂を用いて、表3の配合にて常法に従いチョコレート生地実施例1A〜5A、比較例1A〜4Aを調製した。
表3
Figure 2017079629
実施例及び比較例のチョコレート油分中のトリグリセリド組成を表4に示した。またSUS、USU、SSSトリグリセリド含量の合計、USU/SUS比、SSS/(SUS+USU)比を同時に示した。
表4
Figure 2017079629
表3の割合にて調製したチョコレート生地を、品温60℃になるまで加温後、十分に撹拌した後に、品温45℃にてカップに流し込み、テンパリング処理を施さず5℃、17℃、20℃、25℃で冷却し同温度で30日間保存した。また、17℃で冷却したサンプルを17℃→28℃/日のサイクルで30日間保存した。これら30日保存品の表面状態を観察した。結果を表5に示す。
また17℃保存品の継時的な硬さ変化を調べるため1日保存品と30日保存品の硬さを測定した結果及び30日保存品の食感評価結果を表6に示した。
表5
Figure 2017079629
評価
−:ブルームなし、±:艶消失、+:ややブルーム発生、++:ブルーム発生、
+++:激しくブルーム発生
30日保存品での−及び±を合格とした。また実施例4Aは25℃保存で溶解状態であったがブルームは認められなかったので合格とした。
表6
Figure 2017079629
*チョコレートの硬さはYAMADEN RHEONERにて1mm幅、楔形プランジャーを使用して測定した応力(g)として示した。
表6の結果より、実施例1Aから5Aのチョコレート群では1か月の保存を経過しても、硬さが一定で、ポストハードニングがほとんど起こっていないことが認められた。一方、比較例1では保存期間が長くなるほど硬さが明らかに増していく傾向が確認された。また食感は実施例1A〜5Aでは滑らかな食感が保存期間1か月を過ぎても保たれており、冷感を感じるものであったが、比較例1A,2A、4Aではグレーニングを明らかに感じるものであり、口どけも保存期間が長くなるほど悪化した。また比較例3Aでは食感は実施例1Aと大差ないものの口どけが明らかに悪くなった。
表5の結果より、実施例1Aから5Aのチョコレート群では30日の保存を経過しても、表面のブルームは一切観察されないことが確認された。一方、比較例1A、2A、4Aでは、17℃以上の冷却保存にて固化直後から、5℃保存では継時的なブルームが発現することが確認された。
(試験2)
USU脂とSSS脂を98部対2部の割合で混合して実施例6の油脂を得た。
USU脂とSSS脂を96部対4部の割合で混合して実施例7の油脂を得た。
USU脂とSSS脂を94部対6部の割合で混合して実施例8の油脂を得た。
USU脂を比較例5の油脂とした。
実施例6〜8、比較例5の油脂を用いて、表7の配合にて常法に従いチョコレート生地実施例6A〜8A、比較例5Aを調製した。
表7
Figure 2017079629
(チョコレートの成型)
上記チョコレート生地を品温60℃になるまで加温後、十分に撹拌した後に、品温45℃にてカップに流し込み、テンパリング処理を施さず5℃、17℃、20℃、25℃で冷却し、同温度で60日間保存した。また、17℃で冷却したサンプルを17℃→28℃/日のサイクルで60日間保存した。それぞれ3日保存品と60日保存品の表面状態を観察した。結果を表8に示す。
表8
Figure 2017079629
評価
−:ブルームなし、±:艶消失、+:ややブルーム発生、++:ブルーム発生、
+++:激しくブルーム発生
60日保存品での−及び±を合格とした。
上記結果のように、菜種極度硬化油を含むサンプル群において、いかなる温度帯でもブルームの発現が抑制されることが認められた。一方、菜種極度硬化油を混合しない系では5℃冷却品以外では明らかなブルームが観察された。これらの結果から、菜種極度硬化油を混合することで徐冷条件下や、温度上下のある条件下でもブルーム形成を効果的に抑制できることが明らかとなった。
(試験3)
徐冷固化時にブルーム耐性を有するトリグリセリド種のスクリーニングを行った。また同時にジステアリン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、ステアリン酸等トリグリセリド以外の物質もテストした。
USU脂96部に対し、各トリグリセリド種等4部を添加し表9のように実施例及び比較例の油脂を得た。
表9
Figure 2017079629
実施例9〜12、比較例6〜13の油脂を用いて、表10に基づきチョコレート生地実施例9A〜12A、比較例6A〜13Aを作成した。
表10
Figure 2017079629
(チョコレートの成型)
各チョコレート生地を品温60℃になるまで加温後、十分に撹拌した後に、品温45℃にてカップに流し込み、テンパリング処理を施さずに20℃で60分放置して徐冷固化した後に表面状態を観察した。結果を表11に示す。
表11
Figure 2017079629
評価
−:ブルームなし、±:艶消失、+:ややブルーム発生、++:ブルーム発生、
+++:激しくブルーム発生
表面状態が−及び±のものを合格とした。
上記結果のように、添加したトリグリセリド種等の構成脂肪酸中のC18〜22の飽和脂肪酸含量の高い、菜種極度硬化油、カカオバター極度硬化油、ハイエルシン酸菜種極度硬化油含有させたものに強い徐冷ブルーム耐性が認められた。またパーム低融点部極度硬化油含有させたものにも徐冷ブルーム耐性が認められた。一方、C18〜22の飽和脂肪酸含量の低い油脂には徐冷ブルーム耐性が認められなかった。またジステアリン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、ステアリン酸等トリグリセリド以外の物質にも効果が認められなかった。これらの結果より、徐冷ブルーム耐性を付与できるのは主としてC18〜22の飽和脂肪酸で構成されるトリ飽和トリアシルグリセロールである。

Claims (7)

  1. 油脂組成物中にUSUトリグリセリドを20〜99重量%、SSSトリグリセリドを1〜20%含有することを特徴とするチョコレート用油脂組成物。
    但し、S:炭素数16〜22の飽和脂肪酸, U:炭素数18の不飽和脂肪酸
    USU:トリグリセリドの1,3位にUが、2位にSが結合したトリグリセリド
    SSS:トリグリセリドの1,2、3位にSが結合したトリグリセリドを意味する。
  2. USUトリグリセリドとSSSトリグリセリドの含有比(SSS/USU)が0.03〜0.300であることを特徴とする請求項1に記載のチョコレート用油脂組成物。
  3. 前記油脂組成物中のSSUトリグリセリドの含量が5%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のチョコレート用油脂組成物。
  4. 前記油脂組成物に含まれるSSSトリグリセリドの構成脂肪酸におけるC18〜22の飽和脂肪酸含量が56%以上であることを特徴とする請求項1乃至3に記載のチョコレート用油脂組成物。
  5. 前記油脂組成物がUSUトリグリセリドを含有する油脂とSSSトリグリセリドを含有する油脂を少なくとも含み、前者の油脂と後者の油脂の混合比(USU油脂/SSS油脂)が0.01〜0.25であり、前者の油脂と後者の油脂の混合量合計が30〜100%であることを特徴とする請求項1乃至4に記載のチョコレート用油脂組成物。
  6. 請求項1乃至5に記載の油脂組成物を10重量%以上含んでなるチョコレート。
  7. チョコレートに含まれる油分中のSUS、USU、SSS各トリグリセリド含量の合計が50〜95%であって、USU/SUS比:0.3〜1.2、SSS/(SUS+USU)比:0.02〜0.14であることを特徴とする請求項6に記載のチョコレート。
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