JP2017002369A - 継目無鋼管及びその製造方法 - Google Patents
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本実施形態の継目無鋼管の化学組成は、次の元素を含有する。
炭素(C)は、鋼の強度を高める。C含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、C含有量が高すぎれば、鋼の低温靭性が低下する。したがって、C含有量は0.21〜0.35%である。C含有量の好ましい下限は0.23%であり、さらに好ましくは0.25%である。C含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.27%である。
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、鋼の低温靭性及び加工性が低下する。したがって、Si含有量は0.10〜0.50%である。Si含有量の好ましい下限は0.15%であり、さらに好ましくは0.20%である。Si含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
マンガン(Mn)は鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Mn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、Mnが粒界に偏析して鋼の低温靭性が低下する。したがって、Mn含有量は0.05〜1.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.30%であり、さらに好ましくは0.40%である。Mn含有量の好ましい上限は0.95%であり、さらに好ましくは0.90%である。
燐(P)は不純物であり、鋼中に不可避的に含有される。Pは粒界に偏析して鋼の低温靭性を低下する。したがって、P含有量は0.025%以下である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。
硫黄(S)は不純物であり、鋼中に不可避的に含有される。SはMnと結合して硫化物系介在物を形成し、鋼の低温靭性を低下する。したがって、S含有量は0.010%以下である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Al含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、その効果が飽和する。Al含有量が高すぎればさらに、粗大なAl系酸化物が多数生成して鋼の低温靭性を低下する。したがって、Al含有量は0.005〜0.100%である。Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.070%であり、さらに好ましくは0.050%である。本明細書において、Al含有量とは、いわゆる酸可溶Al(sol.Al)の含有量を意味する。
窒素(N)は不純物であり、鋼中に不可避に含有される。Nは鋼の低温靭性を低下する。したがって、N含有量は0.010%である。N含有量はなるべく低い方が好ましい。
クロム(Cr)は鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Cr含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば鋼の低温靭性が低下する。したがって、Cr含有量は0.10〜1.30%である。Cr含有量の好ましい下限は0.20%であり、さらに好ましくは0.40%である。Cr含有量の好ましい上限は1.20%であり、さらに好ましくは1.15%である。
モリブデン(Mo)は鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Mo含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、その効果が飽和するとともに、製造コストが嵩む。したがって、Mo含有量は0.05〜1.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Mo含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%である。
チタン(Ti)はNと結合してTi窒化物を形成し、不純物であるNを固定する。Ti窒化物の生成により、結晶粒が微細化され、さらに、鋼の強度が高まる。鋼にBが含有される場合はさらに、TiはB窒化物の生成を抑制するため、Bによる焼入れ性の向上を促進する。Ti含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Ti含有量が高すぎれば、Nb系介在物中にTiが固溶して、Nb系介在物が粗大化する。この場合、鋼の低温靭性が低下する。したがって、Ti含有量は0.002〜0.040%である。Ti含有量の好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.004%である。Ti含有量の好ましい上限は0.035%であり、さらに好ましくは0.030%である。
希土類元素(REM):0.0010〜0.0060%
からなる群から選択される1種又は2種
カルシウム(Ca)及び希土類元素(REM)はいずれも、鋼中の硫化物系介在物を球状化する。これにより、鋼の靭性が高まる。これらの元素含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、これらの元素含有量が高すぎれば、介在物が過剰に多く生成し、鋼の靭性が低下する。したがって、Ca含有量は0.010〜0.0060%であり、REM含有量は0.0010〜0.0060%である。Ca含有量の好ましい下限は0.0015%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。REM含有量の好ましい下限は0.0015%である。REM含有量の好ましい上限は0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。Ca及びREMを含有する場合、Ca及びREMの合計含有量の好ましい上限は0.0060%である。
上述の継目無鋼管の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、V及びNbからなる群から選択される1種又は2種を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも鋼の靭性を高める。
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Vは微細な炭化物を生成して焼戻し軟化抵抗を高め、高温焼戻しを可能とする。これにより、鋼の低温靭性が高まる。Vを少しでも含有すれば、上記効果が得られる。しかしながら、V含有量が高すぎれば、炭化物が過剰に生成して鋼の靭性がかえって低下する。したがって、V含有量は0〜0.30%である。上記効果をさらに有効に得るためのV含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。V含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Nbは炭窒化物を形成したり、Ti及びAlとともに複合炭化物を形成する。これらの炭窒化物及び複合炭化物は、ピン止め効果により細粒化して鋼の低温靭性を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、粗大なNb系介在物が多数生成して、鋼の低温靭性が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.50%である。上記効果をさらに有効に得るためのNb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Nb含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.035%である。
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Bは鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Bが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、B含有量が高すぎれば、粒界に炭窒化物が析出して、鋼の低温靭性が低下する。したがって、B含有量は0〜0.0050%である。上記効果をさらに有効に得るためのB含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。B含有量の好ましい上限は0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
本実施形態の継目無鋼管のミクロ組織は主として焼戻しマルテンサイトからなり、残部はベイナイト、パーライト、フェライト又はこれらの混合相等である。ここで、「主として」とは、ミクロ組織中の焼戻しマルテンサイトの総面積率が90%以上であることを意味する。
上記ミクロ組織ではさらに、旧オーステナイト粒の結晶粒度番号は7.0以上である。旧オーステナイト粒度番号が7.0未満であれば、旧オーステナイト粒が粗いため、低温靭性が低下する。旧オーステナイト粒度番号が7.0以上であれば、結晶粒が十分に微細であるため、優れた低温靭性が得られる。本実施形態では、製管工程において従来よりも低温(1100℃以下)で製管し、かつ、穿孔圧延時に発生する加工発熱を抑制することにより、上記旧オーステナイト結晶粒度番号を実現する。
旧オーステナイト結晶粒度の測定方法は次のとおりである。継目無鋼管から、鋼管長手方向に直交する表面(以下、観察面という)を有する試験片を採取する。試験片の観察面を機械研磨する。その後、ピクラール(Picral)腐食液を用いて観察面をエッチングして、観察面内の旧オーステナイト結晶粒界を現出させる。その後、ASTM E112に準拠して、旧オーステナイト結晶粒度番号を求める。
本実施形態の継目無鋼管において、鋼中の硫化物系介在物のうち、長径が1μm以上の硫化物系介在物(特定硫化物系介在物)の個数TNは5000個/100μm2以下である。さらに、特定硫化物系介在物の平均アスペクト比ARは3.4以下である。以下、個数TN及びアスペクト比ARについて説明する。
硫化物系介在物のうち、長径が1μm以上の特定硫化物系介在物の個数TNは5000個/100μm2以下である。鋼中の介在物のうち、長径が1μm以上である特定硫化物系介在物は、鋼の低温靭性を低下する。したがって、特定硫化物系介在物の個数は少ないほど好ましい。特定硫化物系介在物の個数TNが5000個/100μm2以下であれば、特定硫化物系介在物に起因する低温靭性の低下を抑制でき、優れた低温靭性を維持できる。一方、個数TNが5000個を超えれば、継目無鋼管の低温靭性が低下する。したがって、個数TNは5000個/100μm2以下である。
本実施形態ではさらに、特定硫化物系介在物の平均アスペクト比が3.4以下である。硫化物系介在物が扁平形状であれば、硫化物系介在物と母材との界面から割れが発生しやすいため、低温靭性が低くなる。したがって、特定硫化物系介在物の形状が球状に近いほど、低温靭性の低下を抑制できる。特定硫化物系介在物の平均アスペクト比ARが3.4以下であれば、高強度であっても優れた低温靭性が得られる。
継目無鋼管の圧延方向に対して平行な断面(以下、観察面という)を有する試験片を採取する。観察面を研磨した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察面のうちの任意の視野(全肉厚を含む100mm2以上の面積)において、硫化物系介在物を特定する。具体的には、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いた測定により、硫化物系介在物を同定する。同定された各硫化物系介在物の長径を100〜10,000倍の適切な倍率で測定する。具体的には、硫化物系介在物と母材との界面上の異なる2点を結ぶ直線のうち、最大のものを硫化物系介在物の長径Lと定義する。さらに、定義された長径Lと直交する硫化物系介在物の幅Wを求める。得られた長径L及び幅Wを用いて、アスペクト比を次の式で求める。
アスペクト比=L/W
本実施形態の継目無鋼管の製造方法の一例を説明する。本製造方法は、ビレットを加熱する工程(加熱工程)と、加熱後のビレットを用いて素管を製造する工程(製管工程)と、素管を再加熱する工程(補熱工程)と、素管に対して焼入れを実施する工程(焼入れ工程)と、焼入れ後の素管に対して焼戻しを実施する工程(焼戻し工程)とを備える。補熱工程は実施しなくてもよく、必要に応じて実施される。
初めに、上述の化学組成を有する丸ビレットを準備する。丸ビレットの製造方法は特に限定されない。丸ビレットはたとえば、次の方法により製造される。上記化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼の製造には、たとえば、転炉等を利用する。溶鋼を用いて、連続鋳造法によるブルームを製造する。溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。ブルーム及びインゴットを熱間圧延して、横断面が円形状の丸ビレットを製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により丸ビレットを製造してもよい。以上の方法により丸ビレットを準備する。
加熱されたビレットを穿孔圧延して素管を製造する。製管工程は、穿孔工程と、圧延工程とを備える。圧延工程は、延伸圧延工程と、定径圧延工程とを含む。穿孔工程では、穿孔機を用いて丸ビレットを穿孔圧延して素管にする。延伸圧延工程では、延伸圧延機を用いて、素管を延伸圧延する。延伸圧延機はたとえば、プラグミル、マンドレルミルである。定径圧延工程では、定径圧延機を用いて、素管を定径圧延する。定径圧延機はたとえば、サイザー又はストレッチレデューサである。
補熱工程は必要に応じて実施される。最終圧延終了直後の素管温度がA3変態点(Ar3変態点)未満であれば、焼入れを実施できない。この場合、素管を再加熱して、素管温度をAc3変態点〜1000℃にする。好ましくは、再加熱による素管温度の上限は、Ac3変態点+50℃である。素管の再加熱はたとえば、補熱炉や、インダクションヒータを用いて実施する。
製管後の素管、又は補熱工程後の素管に対して、加速冷却(焼入れ)を実施する。焼入れ処理での焼入れ温度はA3変態点〜1000℃である。さらに、加速冷却時にける素管の冷却速度のうち、焼入れ開始時の素管温度から、素管温度が300℃に至るまでの間の平均冷却速度CRを、15℃/秒以上とする。
焼入れされた素管を、焼戻しして継目無鋼管とする。焼戻し温度は、500℃〜Ac1点であり、所望の力学特性に基づいて調整される。具体的には、焼戻し後の継目無鋼管の降伏強度が862MPa以上となるように、焼戻し温度が調整される。
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。
上述の測定方法に基づいて、各試験番号の継目無鋼管の旧オーステナイト粒度番号を求めた。
上述の測定方法に基づいて、各試験番号の継目無鋼管の特定硫化物系介在物(長径1μm以上の硫化物系介在物)及び特定硫化物系介在物の平均アスペクト比ARを求めた。
各試験番号の継目無鋼管から、弧状引張試験片を採取した。弧状引張試験片の横断面(継目無鋼管の長手方向と垂直な断面)は弧状であり、弧状引張試験片の長手方向は、継目無鋼管の長手方向と平行であった。弧状引張試験片を用いて、API規格の5CT規定に準拠して、常温にて引張試験を実施した。試験結果に基づいて、継目無鋼管の降伏強度YS(MPa)及び引張強度TS(MPa)を求めた。
各試験番号の継目無鋼管から、JIS Z2242の4号試験片に準拠したVノッチ試験片を作製した。Vノッチ試験片の長手方向は、継目無鋼管の圧延方向と垂直とした。Vノッチ試験片の横断面は10mm×10mmであり、Vノッチの深さは2mmであった。Vノッチ試験片を用いて、JIS Z2242に準拠したシャルピー衝撃試験を0℃で実施し、0℃での吸収エネルギーを求めた。
表2に試験結果を示す。表2中の「YS」は降伏強度YS(MPa)を示し、「TS」は引張強度TS(MPa)を示す。「吸収エネルギー」は0℃での吸収エネルギー(J)を示す。
Claims (7)
- 継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.21〜0.35%、
Si:0.10〜0.50%、
Mn:0.05〜1.00%、
P:0.025%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.005〜0.100%、
N:0.010%以下、
Cr:0.10〜1.30%、
Mo:0.05〜1.00%、
Ti:0.002〜0.040%、
V:0〜0.30%、
Nb:0〜0.050%、及び、
B:0〜0.0050%を含有し、さらに、
Ca:0.0010〜0.0060%、及び、
希土類元素:0.0010〜0.0060%からなる群から選択される1種又は2種を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
前記継目無鋼管の組織における旧オーステナイトの結晶粒度番号は7.0以上であり、
前記継目無鋼管中の硫化物系介在物のうち、長径が1μm以上の特定硫化物系介在物の個数は5000個/100μm2以下であり、前記特定硫化物系介在物の平均アスペクト比は3.4以下であり、
862MPa以上の降伏強度を有する、継目無鋼管。 - 請求項1に記載の継目無鋼管であって、
V:0.01〜0.30%、及び、
Nb:0.001〜0.050%からなる群から選択される1種以上を含有する、継目無鋼管。 - 請求項1又は請求項2に記載の継目無鋼管であって、
B:0.0001〜0.0050%を含有する、継目無鋼管。 - 継目無鋼管の製造方法であって、
質量%で、C:0.21〜0.35%、Si:0.10〜0.50%、Mn:0.05〜1.00%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Al:0.005〜0.100%、N:0.010%以下、Cr:0.10〜1.30%、Mo:0.05〜1.00%、Ti:0.002〜0.040%、及び、V:0〜0.30%、Nb:0〜0.050%、B:0〜0.0050%を含有し、さらに、Ca:0.0010〜0.0060%、及び、希土類元素:0.0010〜0.0060%からなる群から選択される1種又は2種を含有し、残部がFe及び不純物からなる丸ビレットを950〜1100℃に加熱する工程と、
前記丸ビレットを、傾斜ロールを有する穿孔機を用いて、傾斜ロールの回転数を20〜75rpmとして穿孔圧延し、さらに、延伸圧延を実施して素管を製造し、最終の圧延時の素管温度を850〜1000℃とする工程と、
前記素管をA3変態点〜1000℃の温度から焼入れし、焼入れ開始時の素管温度から、素管温度が300℃に至るまでの平均冷却速度を15℃/秒以上とする工程と、
焼入れされた前記素管を500℃〜Ac1変態点で焼戻しする工程とを備える、継目無鋼管の製造方法。 - 請求項4に記載の継目無鋼管の製造方法であってさらに、
製造された前記素管をAc3変態点〜1000℃に再加熱する工程を備え、
前記焼入れする工程は、前記Ac3変態点以上に再加熱された前記素管を焼入れする、継目無鋼管の製造方法。 - 請求項4又は請求項5に記載の継目無鋼管の製造方法であって、
前記丸ビレットは、
V:0.01〜0.30%、及び、
Nb:0.001〜0.050%からなる群から選択される1種以上を含有する、継目無鋼管の製造方法。 - 請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の継目無鋼管の製造方法であって、
前記丸ビレットは、
B:0.0001〜0.0050%を含有する、継目無鋼管の製造方法。
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