JP2016033237A - 低温靭性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管およびその製造方法 - Google Patents

低温靭性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低温靭性に優れた、高強度継目無鋼管およびその製造方法を提供する。【解決手段】質量%で、C:0.050%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.20〜1.80%、Cr:15.5〜18.0%、Ni:1.5〜5.0%、Mo:1.0〜3.5%、V:0.02〜0.20%、Al:0.05%以下、N:0.01〜0.15%を含む組成の鋼素材をフェライト単相域に加熱後、所定の冷却停止温度まで加速冷却し、非平衡状態の相分布を得て熱間加工を施し、冷却したのちさらに二相温度域に加熱し急冷する第一段処理と680℃以下に加熱する第二段処理とを施すことにより、肉厚中心部で体積率で、50%以上のM相と、3〜15%のγ相と、残部がF相からなる組織を有し、かつγ相中のNi濃度とM相中のNi濃度との比(CNi)γ/(CNi)Mが1.15以上で、あるいはさらにフェライト相中に、粒径10μm以下の粒状マルテンサイトを、フェライト粒100μm2あたり3個以上分散してなる組織を有する。これにより、比較的少ない加工量で継目無鋼管の組織を肉厚中心部まで微細化することができ、とくに肉厚中心での加工量を大きくできない厚肉継目無鋼管においても、低温靭性の向上が図れる。【選択図】なし

Description

本発明は、高強度ステンレス継目無鋼管およびその製造方法に係り、とくに低温靱性の向上に関する。
近年、原油等のエネルギー価格の高騰や、石油資源の枯渇といった問題から、従来、省みられなかったような深い深度の油田や、硫化水素等を含む厳しい腐食環境(いわゆるサワー環境)下の油田やガス田、さらには極北のような厳しい気象環境下の油田やガス田等の開発が盛んに行われている。
このような環境下で使用される鋼材には、高強度で、かつ優れた耐食性(耐サワー性)、さらには優れた低温靭性を兼ね備えることが要求されている。また、輸送効率、耐圧壊性等を考慮して、従来の薄肉の鋼管に加えて、厚肉の鋼管も要求されるようになっている。
従来から、炭酸ガスCO2、塩素イオンCl等を含む腐食環境下の油田、ガス田では、鋼材としては、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼が多く使用されている。しかし、サワー環境下では、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼では耐食性が不足するため、最近ではC量を低減し、Cr量とNi量を増加させた二相ステンレス鋼の使用も拡大している。
例えば、特許文献1には、耐食性、耐硫化物応力腐食割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、重量%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.1〜1.0%、Cr:10〜15%、Ni:4.0〜9.0%、Cu:0.5〜3%、Mo:1.0〜3%、Al:0.005〜0.2%、N:0.005〜0.1%を含有し、Nieqを−10以上に調整した組成を有する鋼を、熱間加工し室温まで自然放冷したのち、Ac点以上でかつオーステナイト分率が80%になる温度以下で熱処理を施し、さらにオーステナイト分率が60%になる温度以下で熱処理を行なう、としている。これにより、上記した組成と、焼戻しマルテンサイト相、マルテンサイト相、残留オーステナイト相からなり、焼戻しマルテンサイト相、マルテンサイト相の合計の分率が60〜90%で、残部が残留オーステナイト相である組織とを有し、湿潤炭酸ガス環境および湿潤硫化水素環境における耐食性と耐硫化物応力腐食割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼(鋼板)が得られるとしている。
また、特許文献2には、耐食性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、mass%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜1.8%、Cr:15.5〜18%、Ni:1.5〜5%、Mo:1〜3.5%、V:0.02〜0.2%、N:0.01〜0.15%、O:0.006%以下を含有し、Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧19.5およびCr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5を満足する組成を有する鋼管素材を加熱し、熱間加工により造管して、造管後、空冷以上の冷却速度で室温まで冷却して所定寸法の継目無鋼管とし、ついで該継目無鋼管を、850℃以上の温度に再加熱したのち、空冷以上の冷却速度で100℃以下まで冷却し、ついで700℃以下の温度に加熱する焼入れ−焼戻処理を施すとしている。これにより、体積率で10〜60%のフェライト相を含み残部がマルテンサイト相である組織を有し、降伏強さ:654MPa以上で、試験温度:−40℃でのシャルピー衝撃試験吸収エネルギーが50J以上の高靭性を有し、CO2やClを含む、230℃までの高温の厳しい腐食環境下においても充分な耐食性を有する、油井用高強度ステンレス鋼管が得られるとしている。
特開平10−1755号公報 特許第5109222号公報
しかしながら、特許文献1、2に記載された技術は、高々肉厚12.7mmまでの鋼材を対象としており、肉厚15mmを超えるような厚肉鋼材についての言及はない。最近では、油井が高深度化して、油井用として用いられる鋼材では、厚肉鋼材が多用されるようになっている。肉厚が厚くなるにしたがい、通常の熱間加工法では、所望の加工歪を肉厚中心部まで付与することが難しく、肉厚中心部の組織が粗大化する傾向となる。そのため、薄肉鋼材に比べて厚肉鋼材では、肉厚中央部の低温靭性が低下しやすいという問題がある。しかし、特許文献1、2には、厚肉鋼材における、とくに低温靭性の向上についてまでの言及はない。
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決し、継目無鋼管の低温靭性、とくに肉厚中央部の低温靭性に優れた、油井用高強度継目無鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。ここでいう「高強度」とは、降伏強さYS:654MPa以上である場合をいい、「低温靭性に優れた」とは、試験温度:−40℃でシャルピー試験の吸収エネルギーvE−40が50J以上である場合をいうものとする。なお、本発明油井用高強度継目無鋼管の肉厚は比較的厚肉の15mm以上100mm未満とすることが好ましい。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、まず、マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の低温靭性に及ぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、厚肉ステンレス継目無鋼管の低温靭性、とくに肉厚中央部における低温靭性、を向上させるためには、組織を、マルテンサイト相とフェライト相に加えて、安定なオーステナイト相を適正量、含有させた組織とすることが有効であることに思い至った。
そして、本発明者らの更なる研究により、オーステナイト相中のNi濃度と周囲のマルテンサイト相中のNi濃度との比、(CNiγ/(CNiが、オーステナイト相の安定度を制御していることを見出し、加工熱処理を組み合わせて、その比、(CNiγ/(CNiを適正範囲(1.15以上)に調整することにより、安定なオーステナイト相を所定量確保することができることを知見した。また、本発明者らは、厚肉ステンレス継目無鋼管の低温靭性をさらに向上させるためには、フェライト相を微細化した組織とすることも必要であることを知見した。
すなわち、マルテンサイト系ステンレス鋼素材を、フェライト単相となるAc変態点以上に加熱したのち、加速冷却を施してフェライト→オーステナイト変態を抑制した状態で熱間加工を施し組織を調整したうえ、さらに、フェライト+オーステナイトの二相温度に加熱したのち急冷し、さらに焼戻を行う二段階の熱処理を少なくとも1回施すことにより、オーステナイト相にNiが濃化し、所定量のオーステナイト相を安定して確保でき、さらにまた、フェライト相中に粒状のマルテンサイト相が適正量、形成されてフェライト相が分断され細粒化された、組織を容易に得ることができることを知見した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎの通りである。
(1)質量%で、C:0.050%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.20〜1.80%、Cr:15.5〜18.0%、Ni:1.5〜5.0%、Mo:1.0〜3.5%、V:0.02〜0.20%、Al:0.05%以下、N:0.01〜0.15%、O:0.006%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、体積率で、50%以上のマルテンサイト相と、3〜15%のオーステナイト相と、残部がフェライト相からなる組織を有し、かつ前記オーステナイト相中のNi濃度(CNiγ(質量%)と前記マルテンサイト相中のNi濃度(CNi(質量%)との比、(CNiγ/(CNi、が1.15以上であることを特徴とする低温靭性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
(2)(1)において、前記組織が、前記フェライト相中に、前記マルテンサイト相の一部を粒径10μm以下の粒状で、フェライト粒100μm2あたり3個以上含む組織であることを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:3.5%以下を含む組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含む組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種を含む組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
(6)鋼素材に、穿孔圧延を含む熱間加工を施して厚肉継目無鋼管とするにあたり、前記鋼素材を、質量%で、C:0.050%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.20〜1.80%、Cr:15.5〜18.0%、Ni:1.5〜5.0%、Mo:1.0〜3.5%、V:0.02〜0.20%、Al:0.05%以下、N:0.01〜0.15%、O:0.006%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材とし、該鋼素材を加熱温度:1150〜1350℃に加熱後、該加熱された前記鋼素材を、肉厚中心温度で冷却開始温度からの温度差が少なくとも50℃以上で、かつ800℃以上となる冷却停止温度まで、2.0℃/s以上の平均冷却速度で加速冷却したのち、前記穿孔圧延を含む熱間加工を施し、冷却し継目無鋼管とし、しかるのちに、該継目無鋼管に、加熱温度:750〜950℃に再加熱し急冷する第一段処理と、加熱温度:550〜680℃の温度に加熱する第二段処理とからなる熱処理を少なくとも1回施すことを特徴とする低温靱性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
(7)(6)において、前記鋼素材を加熱温度:1150〜1350℃に加熱後、前記熱間加工前の前記加速冷却を施すことなく、前記穿孔圧延を施し、該穿孔圧延の終了の後に冷却を開始し、肉厚中心温度で冷却開始温度からの温度差が少なくとも50℃以上となる温度範囲を2.0℃/s以上の冷却速度で、かつ800℃以上の温度域の冷却停止温度まで加速冷却し、ついで前記穿孔圧延以外の前記熱間加工を施して継目無鋼管とし、しかる後に該継目無鋼管に前記熱処理を施すことを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
(8)(6)または(7)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:3.5%以下を含む組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
(9)(6)ないし(8)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含む組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
(10)(6)ないし(9)のいずれかに前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種を含む組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
本発明によれば、低温靭性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管を、容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、比較的少ない加工量で継目無鋼管の組織を肉厚中心部まで微細化することができ、とくに肉厚中心部での加工量を大きくすることができない厚肉継目無鋼管においても、低温靭性の向上が図れるという効果を奏する。
本発明で使用できる製造設備列の一例を模式的に示す説明図である。
本発明継目無鋼管の製造用設備として好適な、製造設備列の一例を図1に示す。なお、本発明では、この設備列に限定されないことは言うまでもない。
継目無鋼管の製造用設備としては、加熱装置1と、穿孔圧延装置21および圧延装置22とからなる熱間加工装置2と、が例示できるが、本発明では、冷却装置3を、加熱装置1と穿孔圧延装置21の間に、あるいは穿孔圧延装置21と圧延装置22との間に、配設した製造設備列を用いることが好ましい。
本発明で使用する加熱装置1は、鋳片、鋼片等の鋼素材を所定温度に加熱できる、加熱炉であればよく、とくに限定する必要はないが、回転炉床式加熱炉、ワーキングビーム式加熱炉等の常用の加熱炉がいずれも適用できる。また、誘導加熱方式の加熱炉としてもなんら問題はない。
また、本発明で使用する穿孔圧延装置21は、バレル型ロール、コーン型ロール等を用いるマンネスマン傾斜式穿孔機、熱間押出式穿孔機等の、通常公知の穿孔圧延装置がいずれも適用できる。また、熱間圧延装置2の一つである圧延装置22は、目的に応じて、例えば、エロンゲータ221、プラグミル222、リーラ(図示せず)、サイザー223の順で配置された圧延装置、あるいはマンドレルミル、レデューサを配置した圧延装置(図示せず)等の、通常公知の圧延装置がいずれも適用できる。
また、本発明で使用する冷却装置3は、ステンレス鋼組成の鋼素材で、被冷却材の表面、肉厚中心位置で、少なくとも2.0℃/s以上の平均冷却速度を得ることができる冷却能を有する装置とすることが好ましい。冷却能が不足し、上記した平均冷却速度より遅い冷却しかできない場合には、所望の相分布を得ることができず、その後に熱間加工を加えても所望の微細組織を確保できなくなる。なお、冷却速度の上限は、とくに限定する必要ないが、割れ、曲りを防止するという観点から、50℃/sとすることが好ましい。なお、図1では、外面側から冷却が行われている状態が示されているが、これに限定されず、外面側および内面側から冷却してもよいことはいうまでもない。
なお、圧延装置22の出側に、保温装置(図示せず)を配設した装置列としてもよい。保温装置は、熱間加工後の冷却速度を遅くするために、必要に応じて配設する。ステンレス鋼組成の場合、加工後に冷却が速すぎると、非平衡フェライト相がα→γ変態を生じることなく冷却され、所望の微細なオーステナイト粒の生成が得られず、鋼管組織の微細化が達成できなくなる。なお、保温装置は、被冷却材の表面温度で、少なくとも20℃/s以下程度の冷却速度に調整できる保温能があれば十分である。
つぎに、本発明高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法について説明する。
本発明では、鋼素材に、穿孔圧延を含む熱間加工を施して継目無鋼管とする。まず、使用する鋼素材の組成限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%はとくに断わらない限り単に%で記す。
本発明で使用する鋼素材は、C:0.050%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.20〜1.80%、Cr:15.5〜18.0%、Ni:1.5〜5.0%、Mo:1.0〜3.5%、V:0.02〜0.20%、Al:0.05%以下、N:0.01〜0.15%、O:0.006%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
C:0.050%以下
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の強度に関係する重要な元素であり、本発明では所望の強度を確保するために0.005%以上含有することが望ましい。一方、0.050%を超えて含有すると、Ni含有による焼戻時の鋭敏化が増大する。このため、耐食性の観点からはCは少ないほうが望ましい。このようなことから、Cは0.050%以下に限定した。なお、好ましくは0.030〜0.050%である。
Si:0.50%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、0.05%以上含有することが望ましい。0.50%を超える含有は、耐食性を低下させ、さらに熱間加工性をも低下させる。このため、Siは0.50%以下に限定した。なお、好ましくは0.10〜0.30%である。
Mn:0.20〜1.80%
Mnは、強度を増加させる作用を有する元素であり、このような効果を得るためには0.20%以上の含有を必要とする。一方、1.80%を超えて含有すると、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.20〜1.80%に限定した。なお、好ましくは0.20〜1.00%である。
Cr:15.5〜18.0%
Crは、保護皮膜を形成し耐食性を向上させる作用を有し、さらに固溶して鋼の強度を増加させる元素である。このような効果を得るためには、15.5%以上の含有を必要とする。一方、18.0%を超えて多量に含有すると、熱間加工性が低下し、さらに強度が低下する。このため、Crは15.5〜18.0%に限定した。なお、好ましくは16.6〜18.0%である。
Ni:1.5〜5.0%
Niは、保護膜を強固にし、耐食性を高める作用を有する元素であり、さらに固溶して鋼の強度を増加させ、さらに靭性を向上させる元素でもある。このような効果は1.5%以上の含有で認められる。一方、5.0%を超えて含有すると、マルテンサイト相の安定性が低下し、強度が低下する。このため、Niは1.5〜5.0%に限定した。なお、好ましくは2.5〜4.5%である。
Mo:1.0〜3.5%
Moは、Clによる孔食に対する抵抗性を増加させる元素である。このような効果を得るためには、1.0%以上含有する必要がある。一方、3.5%を超える多量の含有は、強度が低下するとともに、材料コストが高騰する。このため、Moは1.0〜3.5%に限定した。なお、好ましくは2.0〜3.5%である。
V:0.02〜0.20%
Vは、強度を増加させるとともに、耐食性を改善する元素である。このような効果を得るためには、0.02%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超えて含有すると、靭性が低下する。このため、Vは0.02〜0.20%に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
Al:0.05%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、0.002%以上含有することが望ましい。一方、0.05%を超えて含有すると、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.05%以下に限定した。なお、Al無添加の場合には、不可避的不純物として0.002%未満程度が許容される。
N:0.01〜0.15%
Nは、耐孔食性を著しく向上される元素であり、このような効果を得るためには0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.15%を超えて含有すると、種々の窒化物を形成し靭性を低下させる。このため、Nは0.01〜0.15の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
O:0.006%以下
O(酸素)は、鋼中では酸化物として存在し、各種特性に悪影響を及ぼす。このため、できるだけ低減することが望ましい。とくに、Oが0.006%を超えて多量に含有すると、熱間加工性、靭性、耐食性の低下が著しくなる。このため、Oは0.006%以下に限定した。
上記した成分が基本の成分であり、本発明では、この基本組成に加えてさらに、選択元素として、Cu:3.5%以下、および/または、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種、を必要に応じて含有できる。
Cu:3.5%以下
Cuは、保護皮膜を強固にし、鋼中への水素の侵入を抑制して、耐硫化物応力腐食割れ性を高める。このような効果は0.5%以上の含有で顕著となる。一方、3.5%を超える含有は、CuSの粒界析出を招き、熱間加工性が低下する。このため、含有する場合には、Cuは3.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.8〜1.2%である。
Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Nb、Ti、Zr、W、Bはいずれも、強度を増加させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果は、Nb:0.03%以上、Ti:0.03%以上、Zr:0.03%以上、W:0.2%以上、B:0.01%以上の含有で認められる。一方、Nb:0.2%、Ti:0.3%、Zr:0.2%、W:3.0%、B:0.01%、をそれぞれ超える含有は、靭性を低下させる。このため、含有する場合は、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、W:3.0%以下、B:0.01%以下に、それぞれ限定することが好ましい。
Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
Ca、REMはいずれも、硫化物系介在物の形状を球状化する作用を有し、介在物周囲のマトリッククスの格子歪を小さくして、介在物系の水素トラップ能を低下させる効果を有する元素であり、必要に応じて1種または2種を含有できる。このような効果は、Ca:0.0005%以上、REM:0.001%以上の含有で顕著となる。一方、Ca:0.01%、REM:0.01%をそれぞれ超えて含有すると、靭性が低下する。このため、含有する場合には、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下、に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、P:0.03%以下、S:0.005%以下が、許容できる。
上記した組成を有する鋼素材の製造方法はとくに限定する必要はない。転炉、電気炉等、常用の溶製炉を使用して、上記した組成の溶鋼を溶製し、連続鋳造法等の常用の鋳造方法で、鋳片(丸鋳片)としたものを鋼素材とすることが好ましい。なお、鋳片を熱間圧延して所定寸法の鋼片として鋼素材としてもよい。また、造塊−分塊圧延法で鋼片とし、鋼素材としてもなんら問題はない。
まず、上記した組成を有する鋼素材を、加熱装置1に装入して、加熱温度:1150〜1350℃に加熱する。
加熱温度:1150〜1350℃
加熱温度が1150℃未満では、フェライト単相組織とすることができず、単相からの変態を利用した組織の微細化を達成することができない。また、変形抵抗が高くなりすぎて、その後の熱間加工が困難となる。一方、1350℃以上では、自重による変形が生じたり、成形(加工)による歪の蓄積が困難となる。このため、鋼素材の加熱温度は1150〜1350℃の範囲の温度に限定した。なお、変形抵抗が小さく加工がしやすいことや、冷却時に温度差を大きくとれるという観点から、好ましくは1200〜1300℃である。
なお、上記した組成範囲の鋼素材では、1200℃以上の温度域でフェライト単相となる。1150℃以上1200℃未満の温度域では、フェライトとオーステナイトの二相組織を呈するが、この温度域ではフェライトが大部分であるため、その後の加工で十分に組織の微細化が達成できる。
本発明では、加熱された鋼素材は、ついで、冷却装置3で、加速冷却を施される。
加速冷却は、加熱後の鋼素材の温度を冷却開始温度とし、該冷却開始温度からの温度差が少なくとも50℃以上で、かつ800℃以上となる冷却停止温度まで、肉厚中心換算で2.0℃/s以上の平均冷却速度で加速冷却する冷却処理とする。以下、とくに断らないかぎり、温度は肉厚中心温度とする。
なお、ここで冷却開始温度とは、冷却開始前の鋼素材の温度であり、950℃以上とすることが好ましい。950℃未満では、冷却後の温度が低くなりすぎて、変形抵抗が高くなり、その後の加工成形が困難となる。本発明では、フェライト相ができるだけ多い組織状態としたうえで、熱間加工を施し組織の微細化を図ることを意図しているので、フェライト相ができるだけ多い組織状態となるように、加速冷却開始温度は高いほうが好ましい。
加速冷却の温度範囲:50℃以上
加速冷却の温度範囲、すなわち、冷却開始温度と冷却停止温度の温度差は、少なくとも50℃以上とする。加速冷却の温度範囲が50℃未満では、顕著な非平衡状態の相分率を確保できなくなり、その後の加工による組織微細化効果が期待できなくなる。このため、加速冷却の温度範囲を50℃以上に限定した。加速冷却の温度範囲が大きいほど、非平衡状態の相分率を確保できやすくなる。なお、好ましくは100℃以上である。
加速冷却の冷却停止温度:800℃以上
冷却停止温度は800℃以上とする。冷却停止温度が800℃未満では、元素の拡散が遅くなり、その後の加工による相変態(α→γ変態)が遅れ、その後の加工による組織微細化効果が期待できなくなる。このため、加速冷却の冷却停止温度は800℃以上に限定した。なお、好ましくは1000〜800℃である。
加速冷却の平均冷却速度:2.0℃/s以上
加速冷却の平均冷却速度は、表面で2.0℃/s以上とする。平均冷却速度が2.0℃/s未満では、非平衡状態の相分率を確保できなくなり、その後の加工による組織微細化効果が期待できなくなる。このため、加速冷却の平均冷却速度は2.0℃/s以上に限定した。なお、好ましくは5〜20℃/sである。また、平均冷却速度の上限は、冷却装置の能力により決定され、とくに限定する必要はないが、割れや曲り防止という観点から50℃/s以下とすることが好ましい。
加速冷却された鋼素材は、ついで穿孔圧延装置221により穿孔圧延を施され中空素材とされ、さらに例えば熱間圧延装置222等により、熱間加工(穿孔圧延以外の熱間圧延)を施されて、所定寸法の継目無鋼管とされる。
なお、加熱後の鋼素材に上記した加速冷却を行うことなく、加熱後直ちに、穿孔圧延装置221により熱間加工(穿孔圧延)を施し中空素材としたのちに、上記した条件と同様の加速冷却を施してもよい。この場合、穿孔圧延後の中空素材の温度は、1050〜1200℃程度と加熱直後より低温となっているが、上記した条件の加速冷却を十分に施すことができ、加速冷却の効果はほとんど変化がないことを確認している。なお、この場合、加速冷却の冷却停止温度は800℃以上とすることが好ましい。
加速冷却後の鋼素材(中空素材をも含む)に施される熱間加工は、フェライト相の多い組織状態で加工することが好ましく、加速冷却の冷却停止温度に対応して、800℃以上、好ましくは1000〜800℃である。また、熱間加工条件は、所定寸法の継目無鋼管とすることができればよく、常用の加工条件が適用でき、とくに限定する必要はない。本発明では、比較的低い加工量(圧下率)でも、所望の組織微細化が可能であるが、組織のより微細化という観点からは累積で50%以上の加工量とすることが好ましい。
なお、熱間加工で所望寸法の継目無鋼管に仕上げられた後の冷却速度は、とくに限定する必要はなく、放冷でもよいが、熱間加工終了後から500℃までの平均で、20℃/s以下とすることが好ましい。熱間加工後に、平均冷却速度で20℃/sを超えて冷却が速くなると、非平衡フェライト相がα→γ変態を生じることなく冷却され、所望の微細なオーステナイト粒の生成が得られず、鋼管組織の微細化が達成できなくなるとともに、生成したオーステナイト相へのNi濃化が進行せず、オーステナイト相の安定度を向上させることができない。
本発明では、上記した条件で得られた継目無鋼管に、さらに加熱温度:750〜950℃に再加熱し急冷する第一段処理と、加熱温度:550〜680℃の範囲の温度に加熱する第二段処理とからなる熱処理を少なくとも1回施す。
第一段処理と第二段処理からなる熱処理は、オーステナイト相にNiを濃化させ、安定したオーステナイト相の含有量を増加させるために行う処理である。
第一段処理は、加熱温度:750〜950℃に再加熱し急冷する処理とする。
第一段処理では、750〜950℃の温度域に加熱する。上記した温度域に再加熱することにより、マルテンサイト相から変態によりオーステナイト相が形成され、また加速冷却時に過冷却されたフェライト相からもオーステナイト相(粒状)が形成され、その後急冷されることにより、形成されたオーステナイトの一部が残留し、それ以外はマルテンサイトに変態する。なお、フェライト相から変態で形成されたオーステナイト相(粒状)はマルテンサイト相(粒状)に変態し、フェライト相中に粒状に分散する。
第一段処理における加熱温度が、750℃未満ではマルテンサイト相からオーステナイト相の形成が認められない。一方、950℃を超えると、形成するオーステナイト相量が多くなり安定性が低下して、所望のオーステナイト相量を残留させることができなくなる。そのため、第一段処理の加熱温度は750〜950℃に限定した。
なお、加熱温度における保持(滞留)時間は、オーステナイトの安定化という観点から60min以下程度とすることが好ましい。また、加熱したのちの急冷は、水冷とすることが好ましい。
上記した第一段処理に引続き、第二段処理を施す。第二段処理は、加熱温度:550〜680℃の範囲の温度に加熱し、放冷する処理とする。第一段処理に引続き行う第二段処理では、第一段処理で形成されたオーステナイト相へのNiの濃化を促進し、オーステナイト相を安定化する。加熱温度が550℃未満では、温度が低く、Niの拡散が遅れ、上記したオーステナイト相へのNiの濃化が遅延する。一方、加熱温度が680℃を超えて高くなると、オーステナイト相が多くなり、Ni量が希薄となりオーステナイトが安定化しない。なお、加熱後の冷却は、オーステナイト相へのNiの濃化という観点からは遅いほうが好ましく、放冷とした。
なお、第一段処理の加熱温度と第二段処理の加熱温度の温度差は、150℃以上とすることが好ましい。この温度差が150℃未満では、第二段処理でのオーステナイト量が多すぎて、オーステナイト相へのNiの濃化が少なく、安定したオーステナイトを確保できないため、顕著な低温靭性の向上が望めない。このため、第一段処理の加熱温度と第二段処理の加熱温度の温度差は、150℃以上に限定することが好ましい。
なお、第一段処理と第二段処理からなる熱処理は、少なくとも1回、好ましくは複数回繰り返すことが好ましい。上記した熱処理を複数回繰り返すことにより、オーステナイト相の安定度がより高くなり、変形時に安定なオーステナイト量が増加し、低温靭性が向上する。
上記した製造方法で得られる継目無鋼管は、上記した組成と少なくとも肉厚中心部である肉厚1/4〜3/4の範囲で、面積率で、50%以上のマルテンサイト相と、3〜15%のオーステナイト相と、残部がフェライト相からなり、あるいはさらに、フェライト相中に、マルテンサイト相の一部を粒径10μm以下の粒状で、フェライト粒100μm2あたり3個以上分散してなる組織を有し、かつオーステナイト相中のNi濃度(CNiγ(質量%)とマルテンサイト相中のNi濃度(CNi(質量%)との比、(CNiγ/(CNi、が1.15以上で、降伏強さYS:654MPa以上で、試験温度:−40℃でシャルピー試験の吸収エネルギーvE−40が50J以上である、低温靭性に優れた高強度ステンレス継目無鋼管である。
以下、本発明高強度ステンレス継目無鋼管の組織限定理由について説明する。
マルテンサイト相:面積率で50%以上
本発明継目無鋼管では、体積率で50%以上のマルテンサイト相を主相とする。マルテンサイト相は、所望の高強度を確保するために重要な相で、体積率で50%未満では、強度が低下して、所望の高強度を確保できない。このため、マルテンサイト相を体積率で50%以上を占める相とした。なお、マルテンサイト相の一部は、フェライト粒内に粒状のマルテンサイト粒として分散させる。
オーステナイト相:体積率で3〜15%
オーステナイト相は靭性に富み、優れた低温靭性を確保するために分散させる。このような効果を得るためには、体積率で3%以上の含有を必要とする。一方、15%を超えて含有すると、強度が低下し、所望の高強度を確保できなくなる。このため、オーステナイト相は体積率で3〜15%の範囲に限定した。
(CNiγ/(CNi:1.15以上
オーステナイト相へのNi濃化は、オーステナイト相の安定化のために重要である。とくにマルテンサイト相中に形成させるオーステナイト相では、周囲のマルテンサイト相に比べてNiが濃化することにより、安定度が増加し、低温靭性が向上する。そのため、オーステナイト相中のNi濃度(CNiγ(質量%)とマルテンサイト相中のNi濃度(CNi(質量%)との比、(CNiγ/(CNi、を1.15以上に限定した。
なお、オーステナイト相、マルテンサイト相のNi濃度は、走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)に付設されたエネルギー分散型X線分光分析装置(EDS)や波長分散型X線分光分析装置(WDS)を用いて測定することができる。なお、オーステナイト相(粒)が1μm以下の場合には、TEM-EDSにより測定することが、測定時間や空間分解能の観点から好適である。
粒径10μm以下の粒状マルテンサイト粒:フェライト粒100μm2あたり3個以上
マルテンサイト相の一部は、フェライト相中に、粒状のマルテンサイト粒として分散させる。フェライト粒中に粒状のマルテンサイト粒を分散させることにより、フェライト粒が分断され、見掛けの微細化が達成されて、低温靭性が向上する。粒状のマルテンサイト粒のうち、フェライト粒を細粒化するという観点から、粒径が10μm以下の粒状マルテンサイト粒をフェライト粒100μm2あたり3個以上、分散させる。本発明では、粒径が10μm超える粒状マルテンサイト粒では、大きすぎてフェライト粒の分断による細粒化には寄与しないとし、粒径が10μm以下の粒状マルテンサイト粒に限定し、フェライト粒100μm2あたり3個以上、分散させるとした。粒径が10μm以下の粒状マルテンサイト粒の分散がフェライト粒100μm2あたり3個未満では、所望のフェライト相の細分化に寄与しない。なお、粒状マルテンサイト粒は、ほぼ楕円形状を呈することが多く、ここでいう「粒径」は長軸を指す。
本発明では、粒状のマルテンサイト粒の適正量を、上記した二段階の熱処理により、フェライト相中に分散させることができるため、熱間加工による歪付加が難しいとくに厚肉の継目無鋼管の肉厚中央部の低温靭性を顕著に向上させることができる。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
表1に示す組成の溶鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳片(スラブ:肉厚260mm)としたのち、該鋳片を孔型圧延して、径:350mmの丸鋼片とし、鋼素材とした。
得られた鋼素材を、加熱装置に装入して加熱温度:1250℃に加熱し、一定時間(45min)保持した。加熱された鋼素材は、水スプレーを利用した冷却装置で、表2に示す冷却開始温度から冷却停止温度までを、表2に示す平均の冷却速度で、加速冷却されたのち、穿孔圧延装置で穿孔圧延を施されて中空素材とされた後に、圧延装置で熱間加工(穿孔圧延および熱間圧延)を施された。
熱間加工後、冷却され、継目無鋼管(外径273mφ×内径209mmφ)とした。なお、一部では、加熱された鋼素材は、穿孔圧延装置で穿孔圧延を施されて中空素材とされた後に、表2に示す穿孔圧延後の加速冷却を施され、しかる後に熱間圧延装置で熱間圧延を施され、冷却されて同じ寸法の継目無鋼管とされた。なお、冷却速度は、放射温度計で表面温度を測定し、その表面温度から伝熱計算により肉厚中央の温度を求め、平均の冷却速度を算出した。
得られた継目無鋼管に、表2に示す条件で第一段処理と第二段処理からなる熱処理を施した。なお、第一段処理は表2に示す加熱温度に加熱した後、水冷し、また、第二段処理は表2に示す加熱温度に加熱したのち、放冷した。一部では、第一段処理と第二段処理をその順に2回繰り返し行った。また、一部では第一段処理と第二段処理を行ったのち、第二段処理を繰り返した。
得られた継目無鋼管から、試験片を採取し、組織観察、引張試験、衝撃試験を実施した。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)組織観察
得られた継目無鋼管から、圧延方向に直交する断面(C断面)が観察面となるように組織観察用試験片を採取し、機械研磨および電解研磨を行い、直ちに、走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:500〜5000倍)を用いて組織を観察した。肉厚中央部について組織を観察し、撮像して、得られた組織写真を用いて画像解析(画像処理)により、フェライト相の組織分率およびフェライト100μm2中の粒状マルテンサイトの個数を測定した。なお、SEM(倍率:500倍)による観察では、フェライト相の組織分率を、また、SEM(倍率:2000倍、5000倍)による観察では、フェライト中の長軸が10μm以下の粒状マルテンサイトの個数を測定し、フェライト100μm2中の個数に換算した。なお、粒状マルテンサイトの界面のうち、80%以上がフェライトとの界面である場合には、粒状マルテンサイトがフェライト粒の中に存在すると判断した。
また、得られた継目無鋼管から、肉厚中央部が観察面となるように、透過型電子顕微鏡(TEM)用試験片(薄膜用)を採取し、機械研磨および電解研磨を行って、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用試験片とし、TEMによる組織観察を行った。電子線回折を行ってオーステナイト粒を特定し、TEMに付設されたエネルギー分散型X線分光分析装置(EDS)により、オーステナイト中のNi濃度(CNiγと、その周囲のマルテンサイトのNi濃度(CNiを測定し、(CNiγ/(CNiを算出した。
また、得られた継目無鋼管から、肉厚中央部が測定面となるように、X線回折用試験片を採取し、機械研磨、電解研磨して、X線回折を行ない、オーステナイト相の体積分率Vγを算出した。なお、X線回折では、オーステナイト相(γ)の(220)面、フェライト相(α)の(211)面の回折X線積分強度を測定し、次式
γ(%)=100/{1+(Iαγ/Iγα)}
ここで、Iα:αの積分強度、
γ:γの積分強度、
α:αの結晶学的理論計算値、
γ:γの結晶学的理論計算値
を用いて換算した。
なお、マルテンサイト相の分率はこれらの相以外の残部とした。
(2)引張試験
得られた継目無鋼管の肉厚中心位置から、圧延方向が引張方向となるように、丸棒引張試験片(平行部6mmφ×GL20mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEL)を求めた。なお、降伏強さYSは0.2%伸びでの強度とした。
(3)衝撃試験
得られた継目無鋼管の肉厚中心位置から、圧延方向と直交する方向(C方向)が試験片長手方向となるように、Vノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施した。試験温度は−40℃とし、吸収エネルギーvE−40(J)を求めた。なお、試験片は各3本とし、それらの平均値を当該鋼管の吸収エネルギーとした。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2016033237
Figure 2016033237
Figure 2016033237
本発明例はいずれも、肉厚:15mm超えの肉厚中央部においても、YS:654MPa以上で、かつvE−40:50J以上と、高強度、高靭性を示す厚肉継目無鋼管となっている。一方、本願の発明範囲を外れる比較例は、所望の高強度が得られていないか、所望の高靭性が得られていないか、あるいは両方とも得られていない。
1 加熱装置
2 熱間加工装置
21 穿孔圧延装置
22 圧延装置
221 エロンゲータ
222 プラグミル
223 サイザー
3 冷却装置

Claims (10)

  1. 質量%で、
    C :0.050%以下、 Si:0.50%以下、
    Mn:0.20〜1.80%、 Cr:15.5〜18.0%、
    Ni:1.5〜5.0%、 Mo:1.0〜3.5%、
    V :0.02〜0.20%、 Al:0.05%以下、
    N :0.01〜0.15%、 O :0.006%以下
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、
    体積率で、50%以上のマルテンサイト相と、3〜15%のオーステナイト相と、残部がフェライト相からなる組織を有し、かつ
    前記オーステナイト相中のNi濃度(CNiγ(質量%)と前記マルテンサイト相中のNi濃度(CNi(質量%)との比、(CNiγ/(CNi、が、1.15以上である
    ことを特徴とする低温靭性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
  2. 前記組織が、前記フェライト相中に、前記マルテンサイト相の一部を粒径10μm以下の粒状で、フェライト粒100μmあたり3個以上含む組織であることを特徴とする請求項1に記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:3.5%以下を含む組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含む組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
  5. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種を含む組成とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管。
  6. 鋼素材に、穿孔圧延を含む熱間加工を施して継目無鋼管とするにあたり、
    前記鋼素材を、質量%で、
    C :0.050%以下、 Si:0.50%以下、
    Mn:0.20〜1.80%、 Cr:15.5〜18.0%、
    Ni:1.5〜5.0%、 Mo:1.0〜3.5%、
    V :0.02〜0.20%、 Al:0.05%以下、
    N :0.01〜0.15%、 O :0.006%以下
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材とし、
    該鋼素材を加熱温度:1150〜1350℃に加熱後、該加熱された前記鋼素材を、肉厚中心温度で冷却開始温度からの温度差が少なくとも50℃以上で、かつ800℃以上となる冷却停止温度まで、2.0℃/s以上の平均冷却速度で加速冷却したのち、前記穿孔圧延を含む熱間加工を施し、冷却し継目無鋼管とし、しかるのちに、該継目無鋼管に、
    加熱温度:750〜950℃に再加熱し急冷する第一段処理と、加熱温度:550〜680℃の温度に加熱する第二段処理とからなる熱処理を少なくとも1回施す
    ことを特徴とする低温靱性に優れた油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
  7. 前記鋼素材を加熱温度:1150〜1350℃に加熱したのち、前記熱間加工前の前記加速冷却を施すことなく、前記穿孔圧延を施し、該穿孔圧延の終了の後に、肉厚中心温度で冷却開始温度からの温度差が少なくとも50℃以上の温度範囲を2.0℃/s以上の冷却速度で、かつ800℃以上の温度域の冷却停止温度まで加速冷却し、ついで、前記穿孔圧延以外の熱間加工を施して継目無鋼管とし、しかる後に該継目無鋼管に前記熱処理を施すことを特徴とする請求項6に記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
  8. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:3.5%以下を含む組成とすることを特徴とする請求項6または7に記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
  9. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、W:3.0%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含む組成とすることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
  10. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種を含む組成とすることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の油井用高強度ステンレス継目無鋼管の製造方法。
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