JP2017031493A - ステンレス鋼管の製造方法 - Google Patents
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本実施形態によるマルテンサイト系ステンレス鋼管の製造方法は、鋼材を熱間加工して素管とする工程(熱間加工工程)と、熱間加工後の素管に対して焼入れを実施する工程(焼入れ工程)と、焼入れ後の素管に対して焼戻しを実施する工程(焼戻し工程)とを備える。各工程はたとえば、図1に示す製造設備を用いて実施される。
図1を参照して、製造設備は、加熱炉10と、熱間製管設備20と、焼入れ装置30と、焼戻し装置(熱処理炉)40とを備える。
熱間加工工程では、鋼材を熱間加工して、外径120mm以上、肉厚13mm以上の大型厚肉の素管を製造する。鋼材の化学組成は次の元素を含有する。以下、元素の説明における「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
炭素(C)は不可避に含有される。Cは、焼戻し時にCr炭化物を生成し、高温のCO2ガスに対する鋼の耐食性を低下させる。したがって、本発明において、C含有量は少ない方が好ましい。C含有量は0.06%以下である。好ましいC含有量は0.03%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。脱炭コストを考慮すると、C含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%である。
シリコン(Si)は不可避に含有される。Siは鋼を脱酸する。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、フェライトの生成量が増え、耐力及び靭性が低下する。したがって、Si含有量は1.0%以下である。Si含有量の好ましい上限は0.5%である。脱酸効果をさらに有効に高めるためのSi含有量の好ましい下限は、0.05%である。ただし、Si含有量が0.05%未満であっても、Siは鋼をある程度脱酸する。
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸及び脱硫し、熱間加工性を高める。Mnはさらに、オーステナイト安定化元素として、デルタフェライト(δフェライト)の過剰な形成を抑制する。Mn含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、高温環境における耐食性が低下する。さらに、Ni及びCu等の合金元素の含有量が高い場合においてMn含有量も高ければ、Ms点が過剰に低下する。この場合、焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、十分な量のマルテンサイトを確保できず、鋼の強度(耐力)が低下する。したがって、Mn含有量は0.05〜2.0%である。Mn含有量の好ましい下限は0.07%であり、さらに好ましくは0.09%である。Mn含有量の好ましい上限は0.5%であり、より好ましくは0.4%であり、さらに好ましくは0.3%、もっとも好ましくは0.15%である。
燐(P)は不純物である。Pは、高温のCO2ガスに対する鋼の耐食性を低下させる。したがって、P含有量は低い方が好ましい。P含有量は0.05%以下である。P含有量の好ましい上限は0.03%であり、より好ましくは、0.025%であり、さらに好ましくは0.02%である。
硫黄(S)は不純物である。Sは、熱間加工性を低下する。本発明のステンレス鋼管は、熱間加工時に、フェライトとオーステナイトとからなる2相組織になる。Sは、このような2相組織の熱間加工性を顕著に低下させる。したがって、S含有量は低い方が好ましい。S含有量は0.005%以下である。S含有量の好ましい上限は、0.002%であり、さらに好ましくは0.001%である。
クロム(Cr)は、高温のCO2ガスに対する耐食性を向上する。具体的には、Crは、耐食性を向上する他の元素との相乗効果により、高温CO2ガス環境での耐SCC性を向上する。Cr含有量が低すぎれば上記効果が得られない。しかしながら、Crはフェライト形成元素である。そのため、Cr含有量が高すぎれば、鋼中のフェライト量が増加し、鋼の強度が低下する。したがって、Cr含有量は15.5%〜18.0%である。Cr含有量の好ましい下限は16.0%であり、さらに好ましくは16.5%である。Cr含有量の好ましい上限は17.7%であり、さらに好ましくは17.5%である。
油井において流体の生産が一時停止したとき、油井管内の流体の温度は低下する。このとき、高強度材の硫化物応力腐食割れ感受性は一般的に高くなる。モリブデン(Mo)は、硫化物応力腐食割れ感受性を改善する。Mo含有量が低すぎればこの効果が得られない。一方、Moはフェライト形成元素である。そのため、Mo含有量が高すぎれば、鋼中のフェライト量が増加し、鋼の強度が低下する。したがって、Mo含有量は1.0〜3.5%である。Mo含有量の好ましい下限は2.0%であり、さらに好ましくは2.3%である。Mo含有量の好ましい上限は3.0%であり、さらに好ましくは2.8%である。
銅(Cu)は、オーステナイト形成元素であり、高温でのオーステナイトを安定化して常温でのマルテンサイト量を増加する。Cuはさらに、時効析出により鋼の強度を高める。Cu含有量が低すぎればこの効果が得られない。一方、Cu含有量が高すぎれば、熱間加工性が低下する。Cu含有量が高すぎればさらに、Ms点を低下させる。この場合、焼入時にマルテンサイト組織が安定して得られにくい。したがって、Cu含有量は0.2〜3.5%である。Cu含有量の好ましい下限は0.6%であり、より好ましくは0.8%であり、さらに好ましくは1.0%である。Cu含有量の好ましい上限は3.0%であり、より好ましくは2.6%、さらに好ましくは2.0%である。
ニッケル(Ni)は、オーステナイト形成元素であり、高温でのオーステナイトを安定化して常温でのマルテンサイト量を増加する。そのため、Niは鋼の強度を高める。Niはさらに、高温腐食環境における鋼の耐食性を高め、低温での靭性も高める。Ni含有量が低すぎればこれらの効果が得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、Ms点が大きく低下する。この場合、焼入れ後の残留オーステナイト量が増加する。少量の残留オーステナイトは鋼の靭性を高める。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば多量の残留オーステナイトが生成して鋼の強度が低下する。したがって、Ni含有量は2.5〜7.0%である。Ni含有量の好ましい下限は3.0%であり、より好ましくは3.5%であり、さらに好ましくは4.0%である。Ni含有量の好ましい上限は6.2%であり、さらに好ましくは5.8%である。
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Al含有量が低すぎればこの効果が得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、鋼中に介在物が生じやすくなり、靭性及び耐SSC性が低下する。さらに、フェライト量が増加して鋼の強度が低下する。したがって、Al含有量は0.001〜0.1%である。Al含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Al含有量の好ましい上限は0.070%であり、さらに好ましくは0.050%である。本明細書でいうAl含有量は、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
窒素(N)は不可避に含有される。Nは鋼の強度を高める。しかしながら、N含有量が高すぎれば、冷間加工性が低下する。さらに、鋼中の介在物が増加し、耐食性が低下し、Ms点も低下する。本発明では、耐食性の低下及びMs点の低下を抑制するために、N含有量は0.06%以下である。N含有量の好ましい上限は0.025%であり、より好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.018%以下である。N含有量の過剰な低減は精錬コストを高める。したがって、N含有量の好ましい下限は0.002%である。
酸素(O)は不純物である。Oは、鋼の靭性及び耐食性を低下する。したがって、O含有量は低い方が好ましい。O含有量は、0.01%以下である。O含有量の好ましい上限は0.005%である。
Nb:0〜0.30%
バナジウム(V)及びニオブ(Nb)はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、これらの元素は炭化物を形成して鋼の強度及び靭性を高める。しかしながら、これらの元素の含有量が高すぎれば、炭化物が粗大化する。この場合、鋼の靭性及び耐食性が低下する。したがって、V含有量は0〜0.20%であり、Nb含有量は0〜0.30%である。上記効果を特に有効に得るためのV含有量の好ましい下限は0.005%であり、Nb含有量の好ましい下限は0.005%である。ただし、これらの元素の含有量が0.005%未満であっても、上記効果はある程度得られる。
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Wは、高温環境における耐SCC性を高める。しかしながら、Wの含有量が高すぎれば、フェライト分率が過剰に高くなり、強度が低下する。したがって、W含有量は0〜3.0%である。上記効果を特に有効に得るためのW含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.50%である。W含有量の好ましい上限は2.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。
Mg:0〜0.01%以下
REM:0〜0.1%以下
カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、及び、希土類元素(REM)はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。上述のとおり、熱間加工時における本発明のステンレス鋼は、フェライト及びオーステナイトの2相組織を有する。そのため、熱間加工によりステンレス鋼にキズや欠陥が生成される可能性がある。Ca、Mg及びREMは、熱間加工時におけるキズや欠陥の生成を抑制する。しかしながら、Ca、Mg及びREM含有量が高串レ場、鋼中の介在物が増加する。この場合、鋼の靭性及び耐食性が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.01%であり、Mg含有量は0〜0.01%であり、REM含有量は0〜0.1%である。
続いて、冷却された素管に対して焼入れを実施する。具体的には、焼入れ装置30で素管を850〜1050℃の焼入れ温度に再加熱する。続いて、加熱された素管を焼入れする。焼入れ方法はたとえば、浸漬法、スプレー法等の水冷である。以上の焼入れ工程により、高温でオーステナイトであった部分の大部分がマルテンサイトに変態し、製造後のステンレス鋼管の強度が758MPa以上、さらに好ましくは862MPa以上になる。焼入れ温度は好ましくは900℃以上である。
焼入れされた素管に対して焼戻しを実施する。具体的には、焼戻し装置40を用いて、素管を500℃〜650℃の焼戻し温度で均熱する。
第1の実施の形態では、熱間加工後の素管をいったん常温まで冷却し、その後、素管を再加熱して焼入れを実施する。しかしながら、熱間加工直後の素管に対して、直接焼入れを実施してもよい。
熱間加工工程では、第1の実施の形態と同様に、熱間加工により素管を製造する。しかしながら、製造後の素管を常温まで冷却せずに、そのまま焼入れ工程を実施する。
焼入れ工程では、熱間製管設備20と同一ライン上の水冷装置70を用いて、熱間加工直後の素管に対してインラインで直接焼入れを実施する。つまり、本実施の形態では、インラインで素管を焼入れする。このとき素管温度は850〜1050℃であり、好ましくい素管温度は900℃以上である。以上の焼入れ工程が終了した後、第1の実施の形態と同じ焼戻し工程を実施する。
直接焼入れを実施する場合、熱間加工後の素管温度が850℃未満となる場合がありえる。この場合、補熱炉を用いて素管を850℃以上に再加熱した後、焼入れする方が好ましい。
補熱工程では、熱間加工後の素管を補熱炉70を用いて850℃以上に再加熱する。そして、再加熱された素管に対して水冷装置60による焼入れを実施する。この場合、インラインの補熱炉70により、素管温度を850℃以上に調整できる。そのため、図1の製造設備を用いた製造方法と比較して、製造コストを抑え、生産性を高めつつ、所望の特性のステンレス鋼管を製造できる。
以上の第1〜第3の実施の形態の製造方法で製造されたステンレス鋼管は、上述の鋼材と同じ化学組成を有する。さらに、このステンレス鋼管は、フェライトとマルテンサイトからなる、又は、フェライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなるミクロ組織を有し、758MPa以上の降伏強度を有する。
各鋼管の厚肉中央部から、丸棒引張試験片を採取した。丸棒引張試験片の長手方向は、管軸方向に平行であった。丸棒引張試験片の平行部の直径は6mmであり、標点間距離は40mmであった。採取された丸棒引張試験片に対して、JIS Z2241(2011)に準拠した引張試験を常温、大気中で実施して、降伏強度(0.2%耐力、単位はMPa)を求めた。
JIS Z2242(2005)に準拠して、各鋼管からフルサイズVノッチ試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を実施した。シャルピー衝撃試験は−10℃で3回実施し、3回の試験で得られた吸収エネルギーのうちの最小値を、その試験番号での吸収エネルギーvE-10(J)と定義した。
試験結果を表2に示す。表2を参照して、いずれの試験番号の鋼管においても、化学組成が適切であった。そのため、いずれの試験番号においても、降伏強度が758MPa以上であった。
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.06%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.05〜2%、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Cr:15.5〜18.0%、
Mo:1.0〜3.5%、
Cu:0.2〜3.5%、
Ni:2.5〜7.0%、
Al:0.001〜0.1%、
N:0.06%以下、
O:0.01%以下、
V:0〜0.20%、
Nb:0〜0.30%、
W:0〜3.0%、
Ca:0〜0.01%、
Mg:0〜0.01%、及び、
希土類元素:0〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなる鋼材を熱間加工して、外径120mm以上、肉厚13mm以上の素管とする工程と、
前記素管を850〜1050℃から焼入れする工程と、
焼入れ後の前記素管を焼戻しする工程とを備え、
前記焼戻しする工程は、
前記素管を500〜650℃で保持する工程と、
保持後の前記素管を冷却し、前記素管の温度が500〜400℃の温度域における平均冷却速度を10℃/min以上とする工程とを含む、ステンレス鋼管の製造方法。 - 請求項1に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
前記素管とする工程では、熱間加工後の前記素管を冷却し、
前記焼入れする工程では、冷却された前記素管を850℃以上に加熱した後、焼入れする、ステンレス鋼管の製造方法。 - 請求項1に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
前記焼入れする工程では、熱間加工後の850℃以上の温度の素管に対して直接焼入れする、ステンレス鋼管の製造方法。 - 請求項2に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
前記素管とする工程では、熱間製管設備を用いて前記鋼材を熱間加工し、
前記ステンレス鋼管の製造方法はさらに、
搬送ラインを介して前記熱間製管設備とつながる補熱炉を用いて、熱間加工後の前記素管を850℃以上に加熱する工程を備え、
前記焼入れする工程では、前記補熱炉により加熱された前記素管を焼入れする、ステンレス鋼管の製造方法。
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