JP2021161438A - 継目無鋼管 - Google Patents

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Abstract

【課題】758MPa以上の降伏強度と優れた耐SSC性とを有し、管端部に加工表面を形成しても、加工表面に表面疵が形成されにくい、継目無鋼管を提供する。【解決手段】本開示による継目無鋼管は、化学組成が、質量%で、C:0.15〜0.45%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.05〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.0050%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.25〜2.00%、Ti:0.002〜0.030%、Al:0.005〜0.100%、N:0.0100%以下、及び、O:0.0050%以下を含有し、降伏強度が758MPa以上である。肉厚をDとした場合、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置において、地きずが2.0個/100cm2以下である。【選択図】なし

Description

本開示は、継目無鋼管に関し、さらに詳しくは、油井用鋼管としての使用が想定された継目無鋼管に関する。
油田や天然ガス田の採掘のために、油井用鋼管が使用される。継目無鋼管が油井用鋼管として使用される場合、油井やガス井(以下、油井及びガス井を総称して、単に「油井」という)の深さに応じて、継目無鋼管は複数連結される。近年、油井の深井戸化により、油井用鋼管の高強度化が要求されている。具体的には、80ksi級(降伏強度が80〜95ksi未満、つまり、552〜655MPa未満)や、95ksi級(降伏強度が95〜110ksi未満、つまり、655〜758MPa未満)の油井用鋼管が広く利用されており、最近ではさらに、110ksi以上(降伏強度が110ksi以上、つまり、758MPa以上)の油井用鋼管が求められ始めている。
深井戸の多くは、腐食性を有する硫化水素を含有するサワー環境である。本明細書において、サワー環境とは、硫化水素を含み、酸性化した環境を意味する。なお、サワー環境では、二酸化炭素を含む場合もある。このようなサワー環境で使用される油井用鋼管は、高強度だけでなく、耐硫化物応力割れ性(耐Sulfide Stress Cracking性:以下、耐SSC性という)も要求される。
油井用鋼管に求められる耐SSC性を高める技術が、特開2000−256783号公報(特許文献1)、特開2000−297344号公報(特許文献2)、特開2005−350754号公報(特許文献3)、特開2012−26030号公報(特許文献4)、及び、国際公開第2010/150915号(特許文献5)に開示されている。
特許文献1に開示された高強度油井用鋼は、重量%で、C:0.2〜0.35%、Cr:0.2〜0.7%、Mo:0.1〜0.5%、V:0.1〜0.3%を含む。析出している炭化物の総量が2〜5重量%であり、そのうちMC型炭化物の割合が8〜40重量%で、かつ旧オーステナイト粒度がASTMに規定される粒度番号で11番以上である。上記高強度油井用鋼は、靭性と耐SSC性に優れる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に開示された油井用鋼は、質量%で、C:0.15〜0.3%、Cr:0.2〜1.5%、Mo:0.1〜1%、V:0.05〜0.3%、Nb:0.003〜0.1%を含む低合金鋼からなる。析出している炭化物の総量は1.5〜4質量%であり、炭化物の総量に占めるMC型炭化物の割合が5〜45質量%、M236型炭化物の割合が製品の肉厚をt(mm)とした時(200/t)質量%以下である。上記油井用鋼は、靭性と耐SSC性に優れる、と特許文献2には記載されている。
特許文献3に開示された低合金油井管用鋼は、質量%で、C:0.20〜0.35%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.05〜1.0%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Al:0.005〜0.10%、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.5〜1.0%、Ti:0.002〜0.05%、V:0.05〜0.3%、B:0.0001〜0.005%、N:0.01%以下、O(酸素):0.01%以下を含有する。半価幅Hと水素拡散係数D(10-6cm2/s)が式(30H+D≦19.5)を満足する。上記低合金油井管用鋼は、降伏応力(YS)が861MPa以上という高強度であっても、優れた耐SSC性を有する、と特許文献3には記載されている。
特許文献4に開示された油井用鋼管は、質量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.4〜0.8%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.01〜0.1%、Cr:0.3〜0.8%、Mo:0.5〜1.0%、Nb:0.003〜0.015%、Ti:0.002〜0.05%、B:0.003%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を持つ。この油井用鋼管のミクロ組織は、焼戻しマルテンサイト相を主相とし、20μm×20μmの領域に含まれるアスペクト比3以下かつ炭化物形状を楕円としたときの長径300nm以上のM3CあるいはM2Cの数が10個以下であり、M236が質量%で1%未満であり、粒内に針状のM2Cが析出しており、大きさ1μm以上の炭化物として析出するNbの量が質量%で0.005%未満である。上記油井用鋼管は、降伏強度が862MPa以上であっても耐SSC性に優れる、と特許文献4には記載されている。
特許文献5に開示された油井用継目無鋼管は、質量%で、C:0.15〜0.50%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.3〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.01%以下、Cr:0.1〜1.7%、Mo:0.4〜1.1%、V:0.01〜0.12%、Nb:0.01〜0.08%、B:0.0005〜0.003%を含み、かつMoのうち、固溶Moとして0.40%以上含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する。この油井用継目無鋼管のミクロ組織は、焼戻しマルテンサイト相を主相とし、旧オーステナイト粒が粒度番号で8.5以上であり、略粒子状のM2C型析出物が0.06質量%以上分散してなる組織を有する。上記油井用継目無鋼管は、110ksi級の高強度と優れた耐SSC性とを兼備する、と特許文献5には記載されている。
特開2000−256783号公報 特開2000−297344号公報 特開2005−350754号公報 特開2012−26030号公報 国際公開第2010/150915号
上記特許文献1〜5は、鋼材の耐SSC性を高める技術を提案する。しかしながら、上記特許文献1〜5に提案される技術以外の他の技術によって、758MPa以上(110ksi以上)の降伏強度と、優れた耐SSC性とを有する継目無鋼管が得られてもよい。
ところで、油井用鋼管としての使用が想定された継目無鋼管の管端部には、切削加工が実施される場合がある。この場合、継目無鋼管の管端部には、切削加工によって加工表面が形成される。なお、本明細書において「加工表面」とは、凹凸を有さない単一の曲面によって構成されていてもよく、凹凸を有する形状であってもよく、凹凸を有し、かつ、テーパを有する形状であってもよい。すなわち、油井用鋼管としての使用が想定された継目無鋼管の管端部は、切削加工によってその形状が変えられ、加工表面が形成される場合がある。
一方、継目無鋼管の管端部に形成された加工表面には、表面疵が確認される場合がある。加工表面に表面疵が確認されると、継目無鋼管の外観品質が低下する。そのため、加工表面に表面疵が確認された場合、継目無鋼管のうち、加工表面を含み、切削加工を実施した領域全体を切り落とす。その結果、新たに得られた継目無鋼管の管端部に対して、再度切削加工を実施する。このようにして、表面疵が確認されない加工表面を有する継目無鋼管を得るまで、継目無鋼管の管端部に対する切削加工と、切り落としとを繰り返し実施する。
したがって、油井用鋼管としての使用が想定された継目無鋼管では、管端部に形成した加工表面に表面疵が確認された場合、継目無鋼管の歩留りが低下する。そのため、管端部に形成された加工表面には、表面疵の発生が低減できた方が好ましい。しかしながら、上記特許文献1〜5では、継目無鋼管の管端部に形成された、加工表面の表面疵について、言及がない。
本開示の目的は、758MPa以上(110ksi以上)の降伏強度と、優れた耐SSC性とを有し、管端部に加工表面を形成しても、加工表面に表面疵が生じにくい、継目無鋼管を提供することである。
本開示による継目無鋼管は、
質量%で、
C:0.15〜0.45%、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:0.30〜1.50%、
Mo:0.25〜2.00%、
Ti:0.002〜0.030%、
Al:0.005〜0.100%、
N:0.0100%以下、
O:0.0050%以下、
V:0〜0.30%、
Nb:0〜0.100%、
B:0〜0.0040%、
Co:0〜0.50%、
W:0〜0.50%、
Cu:0〜0.50%、
Ni:0〜0.50%、
Ca:0〜0.0100%、
Mg:0〜0.0100%、
Zr:0〜0.0100%、
希土類元素:0〜0.0015%、及び、
残部がFe及び不純物からなる化学組成と、
758MPa以上の降伏強度とを有し、
前記継目無鋼管の肉厚をDと定義したとき、
前記継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置において、地きずが2.0個/100cm2以下である。
本開示による継目無鋼管は、758MPa以上(110ksi以上)の降伏強度と、優れた耐SSC性とを有し、管端部に加工表面を形成しても、加工表面に表面疵が生じにくい。
まず、本発明者らは、化学組成に着目して、758MPa以上(110ksi以上)の降伏強度と優れた耐SSC性とを両立することを検討した。その結果、本発明者らは、質量%で、C:0.15〜0.45%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.05〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.0050%以下、Cr:0.30〜1.50%、Mo:0.25〜2.00%、Ti:0.002〜0.030%、Al:0.005〜0.100%、N:0.0100%以下、O:0.0050%以下、V:0〜0.30%、Nb:0〜0.100%、B:0〜0.0040%、Co:0〜0.50%、W:0〜0.50%、Cu:0〜0.50%、Ni:0〜0.50%、Ca:0〜0.0100%、Mg:0〜0.0100%、Zr:0〜0.0100%、希土類元素:0〜0.0015%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する継目無鋼管であれば、110ksi以上の降伏強度と優れた耐SSC性とを両立できる可能性があると考えた。
ところで、上述のとおり、油井用鋼管としての使用が想定された継目無鋼管には、管端部に切削加工を実施することによって、加工表面を形成する場合がある。上述のとおり、加工表面は、凹凸を有していてもよく、テーパを有していてもよく、凹凸とテーパとを両方有していてもよい。一方、上述の化学組成を有する継目無鋼管では、加工表面に表面疵が確認される場合があった。なお、本明細書において、加工表面に確認される表面疵とは、肉眼で確認可能であって、線状の疵を意味する。上述のとおり、加工表面に表面疵が確認された場合、継目無鋼管の管端部のうち、加工表面を含む領域、すなわち切削加工が実施された領域を全て切り落とす。その後、新たに得られた継目無鋼管の管端部に対して、再度切削加工を実施して、新たに加工表面を形成する。このようにして、表面疵が確認されない加工表面が得られるまで、継目無鋼管の管端部に対して、切削加工と切り落としとを、繰り返し実施する。
一方、このようにして、継目無鋼管の管端部に対して切削加工と切り落としとを繰り返し実施した場合、継目無鋼管の管軸方向の長さが徐々に短くなる。すなわち、継目無鋼管の管端部に形成された加工表面に、表面疵が確認された場合、継目無鋼管の歩留りが低下する。したがって、継目無鋼管の管端部に対して、切削加工を実施して加工表面を形成する場合、加工表面には表面疵が生じにくい方が好ましい。そこで本発明者らは、上述の化学組成を有する継目無鋼管を種々製造し、管端部に加工表面を形成して、加工表面に表面疵が発生するのを低減させる手法について詳細に検討した。
まず本発明者らは、上述の化学組成を有する継目無鋼管の管端部に形成された、加工表面に表面疵が生じるか否かについて、一定の確率が存在することを知見した。具体的に、同一の化学組成を有し、同一の製造方法によって製造された複数の継目無鋼管のうち、一部の継目無鋼管の加工表面にのみ表面疵が確認され、残りの継目無鋼管の加工表面には表面疵が確認されない、という現象が確認された。このことから、加工表面に表面疵が生じる確率を低減できれば、継目無鋼管の歩留りを高められる可能性がある。
次に本発明者らは、管端部に形成された加工表面のうち、特に表面疵が生じやすい領域について、調査及び検討を行った。上述のとおり、管端部に形成される加工表面は、凹凸やテーパを含む場合がある。そのため、加工表面を得るための切削加工では、その加工深さが、継目無鋼管の管軸方向において変化する場合がある。その結果、得られた加工表面は、継目無鋼管の外表面からの深さ位置について、継目無鋼管の管軸方向で変化する。そこで本発明者らは、継目無鋼管の外表面からの深さ位置に着目して、加工表面に生じる表面疵について、詳細に検討した。その結果、上述の化学組成を有する継目無鋼管では、管端部に形成された加工表面のうち、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置(D:肉厚)において、表面疵が特に生じやすいことが明らかになった。
上述の化学組成を有する継目無鋼管では、加工表面のうち外表面から0.3D深さ位置において、表面疵が特に生じやすい理由について、詳細は明らかになっていない。しかしながら、本発明者らは次のように考えている。上述の化学組成を有し、油井用鋼管としての使用が想定された継目無鋼管を製造する場合、通常、まず、素材に対して穿孔圧延を実施して、中空素管を製造する。しかしながら、製造条件によっては、素材の一部に介在物の集積帯が形成される場合がある。この場合、素材の一部に形成された介在物の集積帯が穿孔圧延によって引き延ばされ、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置に介在物が偏在する可能性がある。その結果、偏在した介在物のうちの一部によって、加工表面に表面疵が確認されるのではないか、と本発明者らは考えている。
このように、加工表面に表面疵が形成される際には、介在物が関与していることが推測される。しかしながら、全ての介在物が、加工表面に表面疵を生じさせるものではない。たとえば、介在物の種類やサイズ等によって、その影響は異なるものと考えられる。しかしながら、どのような介在物に起因して、加工表面に表面疵が生じるのか、詳細は明らかになっていない。そのため、加工表面における表面疵の発生を低減しようとする場合、どのような介在物を低減すれば効果的であるのか、特定するのは困難である。一方、上述のとおり、介在物は継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置に偏在している可能性がある。したがって、加工表面に表面疵が生じるのを低減するのであれば、単純に継目無鋼管の全体の介在物の個数密度を低減するよりも、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置における介在物の偏在を緩和する方が、効果的ではないかと推測される。
そこで本発明者らは、上述の化学組成を有する継目無鋼管において、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置における、表面疵の原因となり得る介在物の偏在の指標について、種々検討した。その結果、JIS G 0556(2014)に準拠した方法で測定した地きずの個数密度であれば、表面疵の原因となり得る介在物の偏在を、程度良く定量化できることが明らかになった。そこで本実施形態では、上述の化学組成を有する継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置において、JIS G 0556(2014)に準拠して求めた地きずを2.0個/100cm2以下とする。その結果、本実施形態による継目無鋼管は、110ksi以上の降伏強度と優れた耐SSC性とを有し、かつ、管端部に加工表面を形成しても、加工表面に生じる表面疵を低減することができる。
なお、上述の化学組成を有する継目無鋼管において、外表面から0.3D深さ位置におけるJIS G 0556(2014)に準拠して求めた地きずが2.0個/100cm2以下である場合に、加工表面の表面疵を低減できる理由について、その詳細は明らかになっていない。しかしながら、この効果については、後述する実施例によって証明されている。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による継目無鋼管の要旨は、次のとおりである。
[1]
継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.15〜0.45%、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:0.30〜1.50%、
Mo:0.25〜2.00%、
Ti:0.002〜0.030%、
Al:0.005〜0.100%、
N:0.0100%以下、
O:0.0050%以下、
V:0〜0.30%、
Nb:0〜0.100%、
B:0〜0.0040%、
Co:0〜0.50%、
W:0〜0.50%、
Cu:0〜0.50%、
Ni:0〜0.50%、
Ca:0〜0.0100%、
Mg:0〜0.0100%、
Zr:0〜0.0100%、
希土類元素:0〜0.0015%、及び、
残部がFe及び不純物からなる化学組成と、
758MPa以上の降伏強度とを有し、
前記継目無鋼管の肉厚をDと定義したとき、
前記継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置において、地きずが2.0個/100cm2以下である、
継目無鋼管。
[2]
[1]に記載の継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
V:0.01〜0.30%、及び、
Nb:0.001〜0.100%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
継目無鋼管。
[3]
[1]又は[2]に記載の継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
B:0.0001〜0.0040%を含有する、
継目無鋼管。
[4]
[1]〜[3]のいずれか1項に記載の継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
Co:0.01〜0.50%、及び、
W:0.01〜0.50%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
継目無鋼管。
[5]
[1]〜[4]のいずれか1項に記載の継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
Cu:0.01〜0.50%、及び、
Ni:0.01〜0.50%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
継目無鋼管。
[6]
[1]〜[5]のいずれか1項に記載の継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
Ca:0.0001〜0.0100%、
Mg:0.0001〜0.0100%、
Zr:0.0001〜0.0100%、及び、
希土類元素:0.0001〜0.0015%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
継目無鋼管。
[7]
[1]〜[6]のいずれか1項に記載の継目無鋼管であって、
前記継目無鋼管は、油井用鋼管である、
継目無鋼管。
以下、本実施形態による継目無鋼管について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[化学組成]
本実施形態による継目無鋼管の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.15〜0.45%
炭素(C)は鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の降伏強度を高める。Cはさらに、製造工程中の焼戻し時において、炭化物の球状化を促進し、鋼材の耐SSC性を高める。炭化物が分散されればさらに、鋼材の降伏強度が高まる。C含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靭性が低下し、焼割れが発生しやすくなる。したがって、C含有量は0.15〜0.45%である。C含有量の好ましい下限は0.17%であり、さらに好ましくは0.19%であり、さらに好ましくは0.20%である。C含有量の好ましい上限は0.43%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.38%である。
Si:0.05〜1.00%
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Si含有量は0.05〜1.00%である。好ましいSi含有量の下限は0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の好ましい上限は0.85%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%である。
Mn:0.05〜1.50%
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸する。Mnはさらに、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の降伏強度を高める。Mn含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、Mnは、P及びS等の不純物とともに、粒界に偏析する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Mn含有量は0.05〜1.50%である。Mn含有量の好ましい下限は0.07%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Mn含有量の好ましい上限は1.40%であり、さらに好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.20%である。
P:0.030%以下
燐(P)は不純物である。すなわち、P含有量の下限は0%超である。Pは粒界に偏析して、鋼材の耐SSC性を低下させる。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
S:0.0050%以下
硫黄(S)は不純物である。すなわち、S含有量の下限は0%超である。Sは粒界に偏析して、鋼材の耐SSC性を低下させる。したがって、S含有量は0.0050%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
Cr:0.30〜1.50%
クロム(Cr)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の降伏強度を高める。Crはさらに、焼戻し軟化抵抗を高めて高温焼戻しを可能とし、鋼材の耐SSC性を高める。Cr含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、鋼材中の旧γ粒界に粗大な炭化物が生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Cr含有量は0.30〜1.50%である。Cr含有量の好ましい下限は0.35%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.50%である。Cr含有量の好ましい上限は1.40%であり、さらに好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.20%である。
Mo:0.25〜2.00%
モリブデン(Mo)は焼戻し軟化抵抗を高めて高温焼戻しを可能とし、鋼材の耐SSC性を高める。Mo含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、鋼材中に粗大な炭化物が生成し、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Mo含有量は0.25〜2.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0.30%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.50%である。Mo含有量の好ましい上限は1.90%であり、さらに好ましくは1.80%であり、さらに好ましくは1.70%である。
Ti:0.002〜0.030%
チタン(Ti)は窒化物を形成し、ピンニング効果により、結晶粒を微細化する。その結果、鋼材の降伏強度が高まる。Ti含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ti含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti窒化物が多量に形成し、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Ti含有量は0.002〜0.030%である。Ti含有量の好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.004%である。Ti含有量の好ましい上限は0.028%であり、さらに好ましくは0.025%である。
Al:0.005〜0.100%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Al含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られず、鋼材の耐SSC性が低下する。一方、Al含有量が高すぎれば、粗大な酸化物系介在物が生成して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Al含有量は0.005〜0.100%である。Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%である。なお、本明細書にいう「Al」含有量は「酸可溶Al」、つまり、「sol.Al」の含有量を意味する。
N:0.0100%以下
窒素(N)は不可避に含有される。すなわち、N含有量の下限は0%超である。NはTiと結合して窒化物を形成し、ピンニング効果により結晶粒を微細化する。このようにして、Nは鋼材の降伏強度を高める。一方、N含有量が高すぎれば、粗大な窒化物が形成され、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、N含有量は0.0100%以下である。N含有量の好ましい上限は0.0090%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%である。上記効果を有効に得るためのN含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
O:0.0050%以下
酸素(O)は不純物である。すなわち、O含有量の下限は0%超である。Oは粗大な酸化物を形成し、鋼材の耐SSC性を低下させる。したがって、O含有量は0.0050%以下である。O含有量の好ましい上限は0.0048%であり、さらに好ましくは0.0045%である。O含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、O含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
本実施形態による継目無鋼管の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による継目無鋼管に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素]
本実施形態による継目無鋼管の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、V及びNbからなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の強度を高める。
V:0〜0.30%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは焼戻し軟化抵抗を高めて高温焼戻しを可能とし、鋼材の耐SSC性を高める。Vはさらに、C及び/又はNと結合して、炭化物、窒化物又は炭窒化物(以下、「炭窒化物等」という)を形成する。炭窒化物等は、ピンニング効果により鋼材のサブ組織を微細化し、鋼材の耐SSC性を高める。Vはさらに、Cと結合して微細な炭化物を形成し、鋼材の降伏強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靭性が低下する。したがって、V含有量は0〜0.30%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。V含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Nb:0〜0.100%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、NbはC及び/又はNと結合して、炭窒化物等を形成する。炭窒化物等は、ピンニング効果により鋼材のサブ組織を微細化し、鋼材の耐SSC性を高める。Nbはさらに、Cと結合して微細な炭化物を形成し、鋼材の降伏強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、炭窒化物等が過剰に生成して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.100%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。Nb含有量の好ましい上限は0.095%であり、さらに好ましくは0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Bを含有してもよい。
B:0〜0.0040%
ホウ素(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、Bは鋼材中に固溶して鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の降伏強度を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が高すぎれば、鋼材中に粗大な窒化物が生成して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、B含有量は0〜0.0040%である。B含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。B含有量の好ましい上限は0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Co及びWからなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、サワー環境中で保護性の腐食被膜を形成し、水素侵入を抑制する。
Co:0〜0.50%
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Co含有量は0%であってもよい。含有される場合、Coはサワー環境中で保護性の腐食被膜を形成し、水素侵入を抑制する。このようにして、Coは鋼材の耐SSC性を高める。Coが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Co含有量が高すぎれば、鋼材の焼入れ性が低下して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の降伏強度が低下する。したがって、Co含有量は0〜0.50%である。Co含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Co含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
W:0〜0.50%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wはサワー環境中で保護性の腐食被膜を形成し、水素侵入を抑制する。このようにして、Wは鋼材の耐SSC性を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、W含有量が高すぎれば、鋼材中に粗大な炭化物が生成して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、W含有量は0〜0.50%である。W含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。W含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cu及びNiからなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の焼入れ性を高める。
Cu:0〜0.50%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の降伏強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、鋼材の焼入れ性が高くなりすぎ、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜0.50%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Cu含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
Ni:0〜0.50%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、Niは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の降伏強度を高める。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、局部的な腐食が促進され、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Ni含有量は0〜0.50%である。Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ni含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg、Zr、及び、希土類元素(REM)からなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材中のSを硫化物として無害化して、鋼材の耐SSC性を高める。
Ca:0〜0.0100%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは鋼材中のSを硫化物として無害化し、鋼材の耐SSC性を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が高すぎれば、鋼材中の酸化物が粗大化して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.0100%である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0006%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
Mg:0〜0.0100%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは鋼材中のSを硫化物として無害化し、鋼材の耐SSC性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が高すぎれば、鋼材中の酸化物が粗大化して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Mg含有量は0〜0.0100%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0006%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
Zr:0〜0.0100%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは鋼材中のSを硫化物として無害化し、鋼材の耐SSC性を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が高すぎれば、鋼材中の酸化物が粗大化して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、Zr含有量は0〜0.0100%である。Zr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0006%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Zr含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
希土類元素(REM):0〜0.0015%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは鋼材中のSを硫化物として無害化し、鋼材の耐SSC性を高める。REMはさらに、鋼材中のPと結合して、結晶粒界におけるPの偏析を抑制する。そのため、Pの偏析に起因した、鋼材の耐SSC性の低下が抑制される。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が高すぎれば、酸化物が粗大化して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。したがって、REM含有量は0〜0.0015%である。REM含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。REM含有量の好ましい上限は0.0014%であり、さらに好ましくは0.0013%であり、さらに好ましくは0.0012%である。
なお、本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)〜原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1種以上の元素を意味する。また、本明細書におけるREM含有量とは、これらの元素の合計含有量を意味する。
[降伏強度]
本実施形態による継目無鋼管の降伏強度は758MPa以上(110ksi以上)である。本明細書でいう降伏強度は、引張試験で得られた0.6%伸び時の応力(0.6%耐力)を意味する。本実施形態による継目無鋼管は、降伏強度が110ksi以上であっても、上述の化学組成を満たすことで、優れた耐SSC性を有する。なお、本実施形態による継目無鋼管の降伏強度の上限は、特に限定されない。本実施形態における降伏強度の上限は、たとえば、1000MPa(145ksi)である。
本実施形態による継目無鋼管の降伏強度は、次の方法で求めることができる。ASTM E8/E8M(2013)に準拠した方法で、引張試験を行う。本実施形態による継目無鋼管の肉厚中央部から、丸棒試験片を作製する。丸棒試験片の大きさは、たとえば、平行部直径8.9mm、平行部長さ35.6mmである。なお、丸棒試験片の軸方向は、継目無鋼管の管軸方向と平行である。丸棒試験片を用いて、常温(25℃)、大気中にて引張試験を実施して、得られた0.6%耐力を降伏強度(MPa)と定義する。
[地きず]
本実施形態による継目無鋼管は、継目無鋼管の肉厚をDと定義したとき、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置において、地きずが2.0個/100cm2以下である。ここで、本明細書において、地きずの個数密度は、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置まで切削加工を実施して、JIS G 0556(2014)に準拠した方法で得られる地きずの個数密度を意味する。なお、本明細書において、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置とは、継目無鋼管の外表面から、管径方向に、0.3Dだけ内表面側の位置を意味する。
上述のとおり、油井用鋼管としての使用が想定された継目無鋼管では、管端部に対して切削加工を実施して、加工表面を形成する場合がある。この場合、加工表面のうち、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置と重複する領域では、表面疵が生じやすい。そこで、本実施形態による継目無鋼管では、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置までを切削加工をして、JIS G 0556(2014)に準拠した方法で定義される、地きずの個数密度を2.0個/100cm2以下にまで低減する。その結果、本実施形態による継目無鋼管では、110ksi以上の降伏強度と、優れた耐SSC性とを有し、さらに、管端部に対して切削加工を実施して得られた加工表面において、表面疵が生じにくい。
継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置における地きずの個数密度の好ましい上限は1.9個/100cm2であり、さらに好ましくは1.8個/100cm2である。地きずの個数密度は少ない方が好ましい。すなわち、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置における地きずの個数密度は0.0個/100cm2であってもよい。
上述のとおり、本実施形態による継目無鋼管の地きずの個数密度は、JIS G 0556(2014)に準拠した方法で求めることができる。具体的には、次の方法で求めることができる。本実施形態による継目無鋼管のうち、任意の領域を特定する。任意の領域は、たとえば、管軸方向に150mmであり、管周方向に全周である。特定した領域について、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ(Dは肉厚)まで切削加工を実施する。切削加工によって得られた表面を、JIS G 0556(2014)に準拠した方法で観察し、肉眼で判定可能な全ての地きずの数を求める。全ての観察領域で得られた地きずの数と、観察領域の面積の合計とを用いて、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置における地きずの個数密度(個/100cm2)を得る。
[耐SSC性]
本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成と、110ksi以上の降伏強度とを有し、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置において、地きずが2.0個/100cm2以下である。その結果、本実施形態による継目無鋼管は、優れた耐SSC性を有する。本実施形態では、NACE TM0177−2005 Method Aに準拠した方法によって、継目無鋼管の耐SSC性を評価する。具体的には、次のとおりに評価する。
本実施形態による継目無鋼管の肉厚中央部から丸棒試験片を作製する。丸棒試験片の大きさは、たとえば、径6.35mm、平行部の長さ25.4mmである。なお、丸棒試験片の軸方向は、継目無鋼管の管軸方向と平行である。試験溶液は、5.0質量%塩化ナトリウムと0.41質量%酢酸ナトリウムと2.5質量%酢酸とを含む混合水溶液(NACE solution B)とする。丸棒試験片に対して、実降伏応力の90%に相当する応力を負荷する。
試験容器に24℃の試験溶液を、応力を負荷された丸棒試験片が浸漬するように注入し、試験浴とする。試験浴を脱気した後、0.01atmのH2Sガスと0.99atmのCO2ガスとの混合ガスを試験浴に吹き込み、試験浴に混合ガスを飽和させる。混合ガスが飽和した試験浴を、24℃で720時間保持する。720時間保持後の丸棒試験片を、肉眼によって観察する。観察の結果、丸棒試験片に割れが確認されない場合、優れた耐SSC性を有すると評価する。なお、本明細書において、「割れが確認されない」とは、試験後の試験片を肉眼によって観察した場合、割れが確認されないことを意味する。
[継目無鋼管の形状]
本実施形態による継目無鋼管の形状は、継目無鋼管であれば特に限定されない。すなわち、外径、肉厚、及び、長さについては、特に限定されない。本実施形態による継目無鋼管が油井用鋼管である場合、好ましい肉厚は9〜60mmである。本実施形態による継目無鋼管は、たとえば、15mm以上の厚肉の油井用鋼管であっても、110ksi以上の降伏強度と、優れた耐SSC性とを有し、かつ、管端部に加工表面を形成した場合であっても、加工表面に表面疵が生じにくい。
[加工表面]
上述のとおり、油井用鋼管としての使用が想定された継目無鋼管では、管端部に対して切削加工を実施して、加工表面を得る場合がある。上述のとおり、本明細書において「加工表面」とは、凹凸を有さない単一の曲面によって構成されていてもよく、凹凸を有する形状であってもよく、凹凸を有し、かつ、テーパを有する形状であってもよい。具体的には、加工表面とは、特に限定されないが、たとえば、ねじ継手である。継目無鋼管の管端部に切削加工を実施して、ねじ継手を形成した場合、一つの継目無鋼管の管端部に形成されたねじ継手と、他の継目無鋼管の管端部に形成されたねじ継手とをねじ締めすることによって、継目無鋼管同士を連結することができる。この場合、油井の深さに応じて複数の継目無鋼管を連結し、油井やガス井の採掘に利用することができる。この場合さらに、複数の継目無鋼管を連結し、生産流体の運搬に利用することができる。
[製造方法]
以下、本実施形態による継目無鋼管の製造方法を説明する。以下に説明する継目無鋼管の製造方法は、本実施形態による継目無鋼管を製造する方法の一例である。すなわち、本実施形態による継目無鋼管は、以下に説明する製造方法以外の他の製造方法によって、製造されてもよい。本実施形態による継目無鋼管の製造方法の一例は、溶鋼を鋳造して素材(鋳片、鋼塊、又は、鋼片)を製造する製鋼工程と、素材を熱間加工して素管を製造する熱間加工工程と、素管に対して焼入れを実施する焼入れ工程と、焼入れされた素管に対して焼戻しを実施する焼戻し工程とを備える。
[製鋼工程]
製鋼工程では、まず、上述の化学組成を満たす溶鋼を製造する。溶鋼を製造する方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。すなわち、上述の化学組成を満たす溶鋼を製造できれば、製造方法は限定されない。次に、準備された溶鋼を鋳造して、素材を製造する。鋳造する方法は、特に限定されないが、たとえば、連続鋳造法である。連続鋳造法により素材を製造する場合、次の方法で実施するのが好ましい。
連続鋳造機における鋳造速度は1.0〜3.0m/分とするのが好ましい。鋳造速度が遅すぎれば、製造された継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置に、介在物の集積帯が形成される場合がある。この場合、製造された継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置における地きずの個数密度が高くなりすぎる。その結果、製造された継目無鋼管に加工表面を形成した場合、表面疵が形成されやすくなる。一方、鋳造速度が早すぎれば、介在物が浮上できず、素材に介在物が多く含まれる場合がある。この場合、製造された継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置における地きずの個数密度が高くなりすぎる。その結果、製造された継目無鋼管に加工表面を形成した場合、表面疵が形成されやすくなる。
したがって、連続鋳造機における鋳造速度は、1.0〜3.0m/分とするのが好ましい。鋳造速度のさらに好ましい下限は1.1m/分であり、さらに好ましくは1.2m/分である。鋳造速度のさらに好ましい上限は2.9m/分であり、さらに好ましくは2.8m/分である。
連続鋳造法により素材を製造する場合さらに、鋳型内において、溶鋼を電磁撹拌するのが好ましい。具体的には、鋳型内の電磁撹拌を、電流値330〜450Aとして実施することにより、溶鋼内で介在物の集積帯ができにくくなる。鋳型内での電磁撹拌における電流値が低すぎれば、溶鋼の撹拌が不足して、介在物の集積帯が形成されやすくなる。この場合、製造された継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置における地きずの個数密度が高くなりすぎる。その結果、製造された継目無鋼管に加工表面を形成した場合、表面疵が形成されやすくなる。一方、鋳型内での電磁撹拌における電流値が高すぎれば、製造設備に負荷がかかりすぎる場合がある。
したがって、本実施形態では、鋳型内の電磁撹拌を、電流値330〜450Aとするのが好ましい。鋳型内の電磁撹拌における電流値のさらに好ましい下限は340Aであり、さらに好ましくは350Aである。鋳型内の電磁撹拌における電流値のさらに好ましい上限は440Aであり、さらに好ましくは430Aであり、さらに好ましくは400Aである。
以上の方法により、溶鋼を鋳造して、素材を製造する。素材は、断面円形状のビレット(丸ビレット)が好ましい。素材を製造する方法は、特に限定されない。たとえば、連続鋳造法により、溶鋼を丸ビレットに鋳造してもよい。又は、溶鋼を鋳造して、断面矩形状のビレットを製造してもよく、ブルームを製造してもよい。これらの場合、分塊圧延を実施して、断面矩形状のビレット、又は、ブルームから、丸ビレットを製造するのが好ましい。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、製造された素材を熱間加工して素管を製造する。具体的には、まず、丸ビレットを加熱炉で加熱する。加熱温度は特に限定されないが、たとえば、1100〜1300℃である。加熱炉から抽出された丸ビレットに対して熱間加工を実施して、素管を製造する。たとえば、熱間加工としてマンネスマン法を実施し、素管を製造する。この場合、穿孔機により丸ビレットを穿孔圧延する。穿孔圧延する場合、穿孔比は特に限定されないが、たとえば、1.0〜4.0である。穿孔圧延された中空丸ビレットをさらに、マンドレルミル、レデューサ、サイジングミル等により熱間圧延して素管にする。熱間加工工程での累積の減面率はたとえば、20〜70%である。
他の熱間加工方法により、丸ビレットから素管を製造してもよい。たとえば、カップリングのように短尺の厚肉鋼材である場合、エルハルト法等の鍛造により素管を製造してもよい。以上の工程により素管が製造される。素管の肉厚は特に限定されないが、たとえば、9〜60mmである。
熱間加工により製造された素管は空冷されてもよい(As−Rolled)。熱間加工により製造された素管はまた、常温まで冷却せずに、熱間加工後に直接焼入れを実施してもよく、熱間加工後に補熱(再加熱)した後、焼入れを実施してもよい。ただし、直接焼入れ、又は、熱間製管後に補熱した後焼入れを実施する場合、焼割れの抑制を目的として、焼入れ途中に冷却を停止したり、緩冷却を実施したりする方が好ましい。熱間加工後に直接焼入れ、又は、熱間製管後に補熱した後焼入れを実施した場合、残留応力を除去することを目的として、焼入れ後であって次工程の熱処理(焼入れ等)前に、応力除去焼鈍(SR処理)を実施することが好ましい。
[焼入れ工程]
焼入れ工程では、熱間加工によって製造された素管に対して、焼入れを実施する。本明細書において、「焼入れ」とは、A3点以上の素管を急冷することを意味する。焼入れは、周知の方法で実施されればよく、特に限定されない。焼入れ温度は、たとえば、800〜1000℃である。焼入れ温度とは、熱間加工後に直接焼入れを実施する場合、最終の熱間加工を実施する装置の出側に設置した温度計で測定された素管の表面温度に相当する。焼入れ温度とはさらに、熱間加工後に補熱炉又は熱処理炉を用いて焼入れを実施する場合、補熱炉又は熱処理炉の温度に相当する。
焼入れは、たとえば、焼入れ開始温度から素管を連続的に冷却し、素管の温度を連続的に低下して実施する。連続冷却処理の方法は特に限定されず、周知の方法でよい。連続冷却処理の方法はたとえば、水槽に素管を浸漬して冷却する方法や、シャワー水冷又はミスト冷却により素管を加速冷却する方法である。焼入れ時の冷却速度が遅すぎれば、マルテンサイト及びベイナイト主体のミクロ組織とならず、本実施形態で規定する機械的特性が得られない。したがって、本実施形態による継目無鋼管の製造方法では、焼入れ時に素管を急冷する。
具体的には、焼入れ工程において、焼入れ時の素管の温度が800〜500℃の範囲における平均冷却速度を、焼入れ時冷却速度CR800-500(℃/秒)と定義する。より具体的には、焼入れ時冷却速度CR800-500は、焼入れされる素管の断面内で最も遅く冷却される部位(たとえば、素管の外表面及び内表面の両面を強制冷却する場合、肉厚の中央部)において測定された温度から決定される。好ましい焼入れ時冷却速度CR800-500は8℃/秒以上である。この場合、焼入れ後の素管のミクロ組織が、安定してマルテンサイト及びベイナイト主体となる。焼入れ時冷却速度CR800-500のより好ましい下限は10℃/秒である。焼入れ時冷却速度CR800-500の好ましい上限は500℃/秒である。
また、好ましくは、素管に対してオーステナイト域での加熱を複数回実施した後、焼入れを実施する。この場合、焼入れ前のオーステナイト粒が微細化されるため、継目無鋼管の耐SSC性や低温靭性が高まる。複数回焼入れを実施することにより、オーステナイト域での加熱を複数回繰り返してもよいし、焼準及び焼入れを実施することにより、オーステナイト域での加熱を複数回繰り返してもよい。
[焼戻し工程]
焼戻し工程では、焼入れを実施された素管に対して、焼戻しを実施する。本明細書において、「焼戻し」とは、焼入れ後の素管をAc1点以下で再加熱して、保持することを意味する。焼戻し温度は、継目無鋼管の化学組成、及び、得ようとする降伏強度に応じて適宜調整する。つまり、本実施形態の化学組成を有する素管に対して、焼戻し温度を調整して、継目無鋼管の降伏強度を758MPa以上(110ksi以上)に調整する。
焼戻し温度とは、焼入れ後の素管を加熱して、保持する際の炉の温度に相当する。本実施形態による焼戻し工程において、好ましい焼戻し温度は550〜710℃である。焼戻し温度のより好ましい下限は560℃であり、さらに好ましくは570℃である。焼戻し温度のより好ましい上限は700℃であり、さらに好ましくは690℃であり、さらに好ましくは680℃である。
焼戻し時間とは、焼戻し温度で保持される時間を意味する。焼戻し時間が短すぎれば、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイト主体のミクロ組織が得られない場合がある。一方、焼戻し時間が長すぎれば、上記効果は飽和する。したがって、本実施形態の焼戻し工程において、焼戻し時間は10〜180分とするのが好ましい。焼戻し時間のより好ましい下限は15分である。焼戻し時間のより好ましい上限は120分であり、さらに好ましくは90分である。
以上の製造方法によって、本実施形態による継目無鋼管を製造することができる。なお、上述のとおり、以上の製造方法は、本実施形態による継目無鋼管を製造するための方法の一例であり、他の製造方法によって製造されてもよい。
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。なお、表1中の「−」は、各元素の含有量が不純物レベルであることを意味する。
Figure 2021161438
上記溶鋼を用いて、連続鋳造法によって丸ビレットを製造した。具体的に、表2に記載の鋳造速度で、溶鋼から丸ビレットに鋳造した。なお、このとき、鋳型内に対して、表2に記載の電流値で電磁撹拌を実施した。製造した各試験番号の丸ビレットを1250℃で1時間保持した後、マンネスマン−マンドレル方式による熱間圧延を実施して、各試験番号の素管(継目無鋼管)を製造した。このとき、各試験番号の素管の外径(mm)と肉厚(mm)とを表2に示す。
Figure 2021161438
さらに、得られた各試験番号の素管に対して、焼入れを実施した。具体的には、各試験番号の素管を、表2の「焼入れ」欄に記載の焼入れ温度(℃)で焼入れ時間(分)だけ保持した後、シャワー水冷による焼入れを実施した。なお、各試験番号において、焼入れ時冷却速度CR800-500は、いずれも8〜500℃/秒の範囲内であった。ここで、表2に記載の焼入れ温度(℃)は、素管を加熱した熱処理炉の温度(℃)とした。さらに、表2に記載の焼入れ時間(分)は、素管を焼入れ温度で保持した時間(分)とした。
さらに得られた各試験番号の素管に対して、焼戻しを実施した。具体的には、各試験番号の素管を、表2の「焼戻し」欄に記載の焼戻し温度(℃)で焼戻し時間(分)だけ保持する焼戻しを実施した。ここで、表2に記載の焼戻し温度(℃)は、素管を加熱した焼戻し炉の温度(℃)とした。さらに、表2に記載の焼戻し時間(分)は、素管を焼戻し温度で保持した時間(分)とした。以上の製造工程により、各試験番号の継目無鋼管を得た。なお、製造された各試験番号の継目無鋼管の外径と肉厚とは、表2に記載の各試験番号の外径と肉厚と、同様であった。
[評価試験]
以上の工程で製造された継目無鋼管を、各試験番号につきそれぞれ8本以上準備した。準備した継目無鋼管のうち、各試験番号につき1本ずつを特定して、以下に説明する引張試験、地きず試験、耐SSC性評価試験を実施した。さらに、準備した継目無鋼管のうち、各試験番号につき8本ずつを特定して、以下に説明する表面疵評価試験を実施した。
[引張試験]
各試験番号の継目無鋼管について、上述の方法により降伏強度を測定した。具体的に、ASTM E8/E8M(2013)に準拠して、引張試験を実施した。より具体的には、各試験番号の継目無鋼管の肉厚中央部から、平行部直径8.9mm、平行部長さ35.6mmの丸棒試験片を作製した。丸棒試験片の軸方向は、継目無鋼管の管軸方向と平行であった。各試験番号の丸棒試験片を用いて、常温(25℃)、大気中にて引張試験を実施して、各試験番号の継目無鋼管の降伏強度(MPa)を得た。なお、本実施例では、引張試験で得られた0.6%伸び時の応力(0.6%耐力)を、各試験番号の降伏強度とした。さらに、引張試験で得られた一様伸び中の最大応力を引張強度(MPa)とした。得られた降伏強度YS(Yield Strength)(MPa)及び引張強度TS(Tensile Strength)(MPa)を表2に示す。
[地きず試験]
各試験番号の継目無鋼管について、上述の方法により地きずの個数密度を測定した。具体的に、JIS G 0556(2014)に準拠して、地きず試験を実施した。より具体的には、各試験番号の継目無鋼管のうち、継目無鋼管の一方の管端部から、管軸方向に50mm位置から200mm位置まで、150mmの領域を特定する。特定した領域を、管周方向に全周、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置(Dは肉厚)まで切削加工を実施した。得られた切削面に対して、JIS G 0556(2014)に準拠した方法で観察し、肉眼で判定可能な全ての地きずの数を求めた。得られた上記地きずの数と、切削された領域の面積とを用いて、各試験番号の継目無鋼管における外表面から0.3D深さ位置における地きずの個数密度(個/100cm2)を求めた。求めた地きずの個数密度を表2に示す。
[耐SSC性評価試験]
各試験番号の継目無鋼管について、NACE TM0177−2005 Method Aに準拠した方法により、耐SSC性を評価した。具体的に、各試験番号の継目無鋼管の肉厚中央部から、径6.35mm、平行部の長さ25.4mmの丸棒試験片を3本作製した。丸棒試験片は、その軸方向が継目無鋼管の管軸方向と平行になるように作製した。各試験番号の丸棒試験片の軸方向に引張応力を負荷した。このとき、与えられる応力が各試験番号の継目無鋼管の実降伏応力の90%になるように調整した。試験溶液は、5.0質量%塩化ナトリウムと0.41質量%酢酸ナトリウムと2.5質量%酢酸との混合水溶液(NACE solution B)を用いた。
3つの試験容器に24℃の試験溶液をそれぞれ注入し、試験浴とした。応力を負荷した3本の丸棒試験片を、1本ずつ異なる試験浴に浸漬した。試験浴を脱気した後、0.01atmのH2Sガスと0.99atmのCO2ガスとの混合ガスを吹き込み、試験浴に飽和させた。試験浴を24℃で720時間保持した。720時間保持後の各試験番号の丸棒試験片に対して、硫化物応力割れ(SSC)の発生の有無を観察した。具体的には、720時間浸漬後の試験片を肉眼で観察した。観察の結果、3本全ての試験片に割れが確認されなかったものを、「E」(Excellent)と判断した。一方、少なくとも1本の試験片に割れが確認されたものを、「NA」(Not Acceptable)と判断した。耐SSC性評価試験の評価結果を、表2に示す。
[表面疵評価試験]
各試験番号の継目無鋼管について、管端部に加工表面を形成して、加工表面の表面疵の有無を評価した。具体的に、各試験番号につき8本ずつ特定された継目無鋼管の管端部に対して、切削加工を実施して、加工表面を形成した。形成した加工表面は、継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置を含むテーパ面を有する、同一形状のねじ継手であった。得られた加工表面(ねじ継手の表面)を肉眼で観察し、表面疵の有無を評価した。肉眼での観察の結果、各試験番号の継目無鋼管8本のうち、表面疵が確認された継目無鋼管の本数割合を求めた。求めた本数割合を「表面疵評価(%)」として、表2に示す。
[評価結果]
表1及び表2を参照して、試験番号1、及び、4〜16の継目無鋼管は、化学組成が適切であり、上述する好ましい製造方法によって製造された。それにより、試験番号1、及び、4〜16の継目無鋼管は、降伏強度が758MPa以上(110ksi以上)であり、地きず個数密度が2.0個/100cm2以下であった。その結果、耐SSC性試験において、優れた耐SSC性を示した。さらに、表面疵評価試験において、表面疵が確認された継目無鋼管の本数割合が20%以下となり、表面疵の発生を低減することができた。
一方、試験番号2の継目無鋼管は、鋳造速度が速すぎた。それにより、地きず個数密度が2.0個/100cm2を超えた。その結果、表面疵評価試験において、表面疵が確認された継目無鋼管の本数割合が20%を超え、表面疵の発生を低減することができなかった。
試験番号3の継目無鋼管は、鋳造速度が遅すぎた。それにより、地きず個数密度が2.0個/100cm2を超えた。その結果、表面疵評価試験において、表面疵が確認された継目無鋼管の本数割合が20%を超え、表面疵の発生を低減することができなかった。
試験番号17の継目無鋼管は、Mo含有量が低すぎた。その結果、耐SSC性試験において、優れた耐SSC性を示さなかった。
試験番号18の継目無鋼管は、O含有量が高すぎた。その結果、耐SSC性試験において、優れた耐SSC性を示さなかった。さらに、地きず個数密度が2.0個/100cm2を超えた。その結果、表面疵評価試験において、表面疵が確認された継目無鋼管の本数割合が20%を超え、表面疵の発生を低減することができなかった。
試験番号19の継目無鋼管は、S含有量が高すぎた。その結果、耐SSC性試験において、優れた耐SSC性を示さなかった。さらに、地きず個数密度が2.0個/100cm2を超えた。その結果、表面疵評価試験において、表面疵が確認された継目無鋼管の本数割合が20%を超え、表面疵の発生を低減することができなかった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (7)

  1. 継目無鋼管であって、
    質量%で、
    C:0.15〜0.45%、
    Si:0.05〜1.00%、
    Mn:0.05〜1.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.0050%以下、
    Cr:0.30〜1.50%、
    Mo:0.25〜2.00%、
    Ti:0.002〜0.030%、
    Al:0.005〜0.100%、
    N:0.0100%以下、
    O:0.0050%以下、
    V:0〜0.30%、
    Nb:0〜0.100%、
    B:0〜0.0040%、
    Co:0〜0.50%、
    W:0〜0.50%、
    Cu:0〜0.50%、
    Ni:0〜0.50%、
    Ca:0〜0.0100%、
    Mg:0〜0.0100%、
    Zr:0〜0.0100%、
    希土類元素:0〜0.0015%、及び、
    残部がFe及び不純物からなる化学組成と、
    758MPa以上の降伏強度とを有し、
    前記継目無鋼管の肉厚をDと定義したとき、
    前記継目無鋼管の外表面から0.3D深さ位置において、地きずが2.0個/100cm2以下である、
    継目無鋼管。
  2. 請求項1に記載の継目無鋼管であって、
    前記化学組成は、
    V:0.01〜0.30%、及び、
    Nb:0.001〜0.100%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
    継目無鋼管。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の継目無鋼管であって、
    前記化学組成は、
    B:0.0001〜0.0040%を含有する、
    継目無鋼管。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の継目無鋼管であって、
    前記化学組成は、
    Co:0.01〜0.50%、及び、
    W:0.01〜0.50%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
    継目無鋼管。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の継目無鋼管であって、
    前記化学組成は、
    Cu:0.01〜0.50%、及び、
    Ni:0.01〜0.50%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
    継目無鋼管。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の継目無鋼管であって、
    前記化学組成は、
    Ca:0.0001〜0.0100%、
    Mg:0.0001〜0.0100%、
    Zr:0.0001〜0.0100%、及び、
    希土類元素:0.0001〜0.0015%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
    継目無鋼管。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の継目無鋼管であって、
    前記継目無鋼管は、油井用鋼管である、
    継目無鋼管。
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