以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である回転電機10の概略的な縦断面図である。また、図2は、ステータ20の横断面図であり、図3は、ステータコア22を構成する電磁鋼板36の平面図である。さらに、図4は、ティース32に装着されるインシュレータ26の概略斜視図である。なお、発明を分かりやすくするために、各図面における各種寸法は、実際とは異なっており、また、図面間でも一部一致していない。また、電磁鋼板36の寸法も、実際とは大きく異なっており、実際には、電磁鋼板36は、より薄く、また、より多数積層されている。また、以下の説明における「軸方向」、「径方向」、「周方向」とは、いずれも、ステータ20の軸方向、径方向、周方向を意味する。
本実施形態の回転電機10は、ロータ12およびステータ20を備えている。ロータ12は、ロータコア14と、当該ロータコア14に埋め込まれた複数の永久磁石16と、を備えている。ロータコア14の中心には回転軸18が挿通されており、当該回転軸18は、ベアリング(図示せず)等を介してケース(図示せず)に対して回転自在に支持されている。ロータ12は、この回転軸18とともに回転自在となっている。
ロータ12の外側には、ロータ12と同心にステータ20が配されている。ステータ20は、その内周に複数のティース32が形成された略環状のステータコア22と、各ティース32に巻回されたステータコイル24と、ステータコア22およびステータコイル24の間に介在するインシュレータ26と、を備えている。ステータコア22は、略円環状のヨーク30と、当該ヨーク30の内周側に突き出すティース32と、に大別される。ティース32は、内周側に近づくにつれて徐々に幅狭になる略台形の断面を有している。ティース32の周方向の両側面には、インシュレータ26の係止爪48を引っ掛けるための係止用凹部33が形成されている。
ステータコア22は、軸方向に積層された複数の電磁鋼板36(例えばケイ素鋼板)から構成されている。電磁鋼板36は、ステータコア22に対応した形状、すなわち、積層した際にヨーク30を構成する略円環状のヨーク部38と、積層した際にティース32を構成する複数のティース部40と、を有する形状となっている。ティース部40は、周方向に均等に並んでいる。なお、本実施形態では、ティース部40(ひいてはティース32)を15個設けているが、この個数は、適宜変更されてもよい。複数のティース部40のうち、一部のティース部40には、積層した際に係止用凹部33を構成する切り欠き部42が形成されているが、これについては、後に詳説する。
本実施形態のステータコイル24は、平角線からなる巻線を集中巻することで構成される。平角線の表面には、隣接する平角線間の絶縁を確保するためにエナメル加工が施されている。ステータコイル24は、三相のコイル、すなわち、U相コイル、V相コイル、W相コイルを有しており、各相コイルは、複数の単コイルを直列につなぐことで構成され、各単コイルは、巻線を一つのティース32に巻回して構成される。複数のティース32には、U相の単コイル、V相の単コイル、W相の単コイルが、周方向に順に繰り返し並ぶようにセットされている。なお、こうしたステータコイル24の構成は、一例であり、適宜、変更されもよい。例えば、ステータコイル24は、集中巻に限らず、分布巻でもよく、また、巻線は、平角線ではなく、丸線でもよい。
ステータコア22とステータコイル24との間には、インシュレータ26が配される。インシュレータ26は、絶縁性材料、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)などの樹脂材料からなる部材である。インシュレータ26は、図4に示すように、略四角筒状の筒部44と、当該筒部44の周縁から外側に張り出す鍔部46と、に大別される。筒部44は、ティース32に対応する形状を有し、径方向に対向する二面が開口した四角筒状である。ただし、筒部44の軸方向内寸は、ティース32の軸方向長さより、僅かに(2枚の電磁鋼板36の厚み分程度)大きくなっている。この理由については、後に詳説する。
筒部44は、内周側からティース32に挿し込まれ、ティース32の周囲に配置される。筒部44を構成する面のうち、周方向に対向する二面(以下「側面」と呼ぶ)には、係止爪48が形成されている。係止爪48は、インシュレータ26をティース32に装着した際、ティース32の側面に向かって突出する凸部である。この係止爪48の形状や、位置、個数は、ティース32に設けられる係止用凹部33の形状や位置、個数に応じて決められる。本実施形態では、筒部44の両側面それぞれに一つずつ、合計二つの係止爪48を設けている。また、各係止爪48は、軸方向端部近傍に形成されている。
鍔部46は、筒部44の外周側端部から外側に広がっている。鍔部46は、インシュレータ26をティース32に装着した際、ヨーク30の内周面に沿って位置し、当該ヨーク30とステータコイル24との間に介在する。
ステータ20を製造する際には、複数の電磁鋼板36を積層してステータコア22を構成し、そのステータコア22の各ティース32にインシュレータ26を装着した状態で、各インシュレータ26の周囲(ひいてはティース32の周囲)に、予め巻回された単コイルを嵌め込んでいく。このとき、インシュレータ26をティース32に固定するために、従来から、インシュレータ26に係止爪48を、ティース32に係止用凹部33を形成し、両者を係合させていた。しかしながら、従来の技術では、係止用凹部33を、軸方向全体に亘って形成していたため、いくつかの問題があった。これについて、図11、図12を参照して説明する。
図11は、従来のステータコア22の一部斜視図であり、図12は、このステータコア22を構成する電磁鋼板36の平面図である。図11に示すように、従来のステータコア22でも、各ティース32の両側面に、係止用凹部33が形成されていた。ただし、従来のステータコア22の場合、係止用凹部33は、軸方向全体に亘って形成されている。こうした係止用凹部33を構成するために、電磁鋼板36は、図12に示すように、全てのティース部40の両側面に切り欠き部42が形成された形状となっていた。しかし、こうした切り欠き部42は、プレス成形する際に、加工歪が生じ、鉄損悪化の原因となっていた。このような加工歪が生じる切り欠き部42の個数が多ければ多い程、鉄損が悪化する。
また、従来のステータコア22は、ティース32の両側面に形成される係止用凹部33の径方向位置が同じになっている。この場合、ティース32には、局所的に幅が狭い幅狭部が、軸方向全体に亘って存在することになる。こうした幅狭部では、磁気飽和が起こりやすく、出力トルクの低下を招いていた。
そこで、本実施形態では、こうした問題を避けるために、複数のティース部40のうち一部のティース部40にのみ切り欠き部42を形成するとともに、電磁鋼板36を一枚ごとに回転積層させている。より具体的に説明すると、本実施形態では、図3に示すように、15個のティース部40のうち5個のティース部40にのみ、切り欠き部42を設けている。切り欠き部42が形成されるティース部40は、ティース部40、2個おきにあり、周方向に均等に分散している。一つのティース部40には、周方向の両側面に一つずつ、計二つの切り欠き部42が設けられている。全ての切り欠き部42の径方向位置は同じとなっている。
ステータ20を構成する際には、この電磁鋼板36は、一枚ごとに、回転積層する。この回転位相は、ティース32の配置間隔位相(本実施例では360/15=24度)の倍数、かつ、切り欠き部42の配置間隔位相(本実施例では、24×3=72度)以外であれば、特に限定されない。本実施形態では、複数の電磁鋼板36を、一枚ごとに、120度ずつ回転積層する。
このように形成されたステータコア22の形状について、図5を参照して説明する。図5は、周方向に連続して並んだ三つのティース32、すなわち、第一ティース32a、第二ティース32b、第三ティース32c(図2参照)の斜視図である。
既述した通り、本実施形態では、切り欠き部42を、ティース部40、2個おきに形成した電磁鋼板36を、一枚ごとに120度ずつ回転積層している。その結果、一つのティース32の側面には、切り欠き部42によって構成される係止用凹部33が、電磁鋼板36、2枚おきに構成される。
また、その係止用凹部33の軸方向位置は、連続して並ぶ三つのティース32a,32b,32cで互いに異なる。例えば、第一ティース32aの場合、ティース32側面のうち、1枚目、4枚目、7枚目、10枚目の電磁鋼板36の位置に係止用凹部33が形成される。同様に、第二ティース32bの場合、ティース32側面のうち、2枚目、5枚目、8枚目、11枚目の電磁鋼板36の位置に、第三ティース32cの場合、ティース32側面のうち、3枚目、6枚目、9枚目、12枚目の電磁鋼板36の位置に、係止用凹部33が形成される。
ここで、これまでの説明で明らかな通り、本実施形態によれば、係止用凹部33は、各ティース32の側面のうち、軸方向の一部にのみ形成されることになる。換言すれば、磁気飽和を招きやすい幅狭部は、ティース32の軸方向の一部にしか存在しない。その結果、従来技術に比べて、磁気飽和の影響を大幅に低減でき、出力トルクの低下を効果的に防止できる。
また、本実施形態では、切り欠き部42を一部のティース部40にのみ形成している。その結果、全てのティース部40に切り欠き部42を形成する場合に比べて、加工歪の影響が小さく、鉄損を低減できる。さらに、本実施形態において、ステータコア22を構成する複数の電磁鋼板36は、全て同じ形状となっている。その結果、部品種類数が増加せず、また、電磁鋼板36を得るために用いるプレス型も、一種類だけで足りるため、製造コストの増加も防止できる。
次に、このステータ20にインシュレータ26を装着した場合について、図6を参照して説明する。図6は、第一、第二、第三ティース32a,32b,32cにインシュレータ26を装着した際の図5におけるA−A断面図、B−B断面図、および、C−C断面図である。
既述した通り、本実施形態のインシュレータ26の両側面には、係止用凹部33に引っ掛かる係止爪48が設けられている。この係止爪48は、一つの係止用凹部33に対応した形状およびサイズとなっている。また、係止爪48は、一つの側面に一つ、すなわち、一つのインシュレータ26で合計二つ設けられている。係止爪48は、側面の軸方向上端近傍、より具体的には、天面から2〜3枚の電磁鋼板36の厚み分離れた位置に設けられている。
インシュレータ26をティース32に装着する際には、この係止爪48と、対応するティース32の最も上に位置する係止用凹部33の軸方向高さが一致するように、ティース32に対するインシュレータ26の軸方向高さを調節する。そして、その状態で、インシュレータ26をティース32に挿入し、ティース32の根元まで押し込むことで、係止爪48が、最も上に位置する係止用凹部33に嵌り込み、係合する。
ここで、既述した通り、連続する三つのティース32a,32b,32cにおいて、係止用凹部33の軸方向位置は、互いに異なっている。そのため、連続する三つのティース32a,32b,32cに対するインシュレータ26の軸方向高さも互いに異ならせなければならない。すなわち、図6に示すように、第二ティース32bに対するインシュレータ26の軸方向高さは、第一ティース32aに対するインシュレータ26の軸方向高さよりも、1枚の電磁鋼板36の厚み分だけ低くしている。同様に、第三ティース32cに対するインシュレータ26の軸方向高さは、第二ティース32bに対するインシュレータ26の軸方向高さよりも、1枚の電磁鋼板36の厚み分だけ低くしている。かかる構成とすることで、全く同じ形状のインシュレータ26を、係止用凹部33の軸方向位置が異なる3種類のティース32a,32b,32cに装着させることができる。結果として、必要となるインシュレータ26の種類が一つだけで足り、部品種類数を低減できる。
なお、本実施形態の場合、ティース32の軸方向端面と、インシュレータ26の軸方向端面との間に間隙が形成される。しかし、この間隙は、1〜2枚の電磁鋼板36の厚み分(1枚の電磁鋼板36の厚みは、0.2mm〜0.5mm程度)しかないため、当該間隙による影響は、無視できる程度に小さい。また、図6では、インシュレータ26の一つの側面に一つの係止爪48しか設けていないが、係止爪48は、より多数、例えば、ティース32の一側面に形成される係止用凹部33と同数、設けられてもよい。ただし、係止爪48を多数設けた場合には、厳密な寸法精度が要求され、高い加工精度が必要となる。そのため、係止爪48の個数は、インシュレータ26をティース32に固定するための係止力が得られる範囲で、極力少ないことが望ましい。
以上の説明から明らかな通り、本実施形態によれば、電磁鋼板36もインシュレータ26も一種類だけで済むため、部品種類数の増加を防止できる。また、一部のティース部40にのみ切り欠き部42を形成しているため、鉄損を低減でき、また、出力トルクの低下を防止できる。
次に、第二実施形態について、図7、図8を参照して説明する。図7は、第二実施形態における、周方向に連続して並んだ三つのティース32a,32b,32cの斜視図である。また、図8は、図7のティース32a,32b,32cにインシュレータ26を装着した際のD−D断面図、E−E断面図、および、F−F断面図である。
本実施形態でも、第一実施形態と同様に、電磁鋼板36として、図3に図示する電磁鋼板36、すなわち、切り欠き部42が、ティース部40、2個おきに形成された電磁鋼板36を用いる。ただし、本実施形態では、電磁鋼板36のうち複数枚(図示例では4枚)を回転なく積層した鋼板群を複数(図示例では3つ)用意し、この鋼板群ごとに回転積層している。その結果、各ティース32では、切り欠き部42が形成された電磁鋼板36が4枚、軸方向に連続して並び、各ティース32の側面には、4枚の電磁鋼板36の厚み分の長さの係止用凹部33が形成される。この係止用凹部33の軸方向長さは、周方向に連続して並ぶ三つのティース32a,32b,32cで互いに異なる。ここで、図8から明らかな通り、第一ティース32aの係止用凹部33、および、第三ティース32cの係止用凹部33は、互いに上下対称の位置関係となっている。
本実施形態では、この上下対称である点を利用して、第一、第三ティース32a,32cに、第一インシュレータ26aを装着している。また、第二ティース32bには、係止爪48の位置を第一インシュレータ26aと異ならせた第二インシュレータ26bを装着している。
第一インシュレータ26aは、側面のうち軸方向一端近傍に、係止用凹部33に対応した形状の係止爪48が形成されたインシュレータである。この第一インシュレータ26aを第一ティース32aに装着する際には、係止爪48が上側に位置する正立状態とする。一方、第一インシュレータ26aを第三ティース32cに装着する際には、当該第一インシュレータ26aの天地を逆転させ、係止爪48が下側に位置する倒立状態とする。このように、第一インシュレータ26aの天地を適宜、逆転させることで、1種類のインシュレータ26aを、2種類のティース32a,32cに装着することができる。結果として、インシュレータ26の種類数を低減できる。
第二インシュレータ26bは、側面のうち軸方向略中央に、係止用凹部33に対応した形状の係止爪48が形成されたインシュレータである。この第二インシュレータ26bは、第二ティース32bに装着される。つまり、本実施形態によれば、2種類のインシュレータ26a,26bで、3種類のティース32a,32b,32cに対応できる。
また、第二実施形態でも、第一実施形態と同様に、電磁鋼板36は、一種類だけで済むため、部品種類数の増加を防止できる。また、一部のティース部40にのみ切り欠き部42を形成しているため、鉄損を低減でき、また、出力トルクの低下を防止できる。
なお、本実施形態では、2種類のインシュレータ26a,26bを用いたが、第一実施形態と同様に、1種類のインシュレータ26を用いるとともに、当該インシュレータ26のティース32に対する軸方向位置を変更するようにしてもよい。同様に、第一実施形態のティース32にインシュレータ26を装着する際に、当該ティース32の係止用凹部33の軸方向位置に応じて、インシュレータ26の天地を逆転させるようにしてもよい。さらに、ティース32の係止用凹部33の位置や形状に応じて、互いに異なる形状のインシュレータ26を複数用意してもよい。
また、これまで説明した構成は、一例であり、電磁鋼板36の一部にのみ切り欠き部42が形成され、電磁鋼板36を一枚ごとに、または、複数枚ごとに回転積層させるのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、本実施形態では、全ての切り欠き部42の径方向位置を同じにしているが、切り欠き部42の径方向位置は、不均一でもよい。例えば、図9に示すように、一つのティース部40の一側面に形成される切り欠き部42aと、他側面に形成される切り欠き部42bと、の径方向位置を異ならせてもよい。また、本実施形態では、一つのティース部40の両側面に切り欠き部42を設けているが、一つの側面にのみ切り欠き部42を設けてもよい。例えば、図10に示すように、一つのティース部40aの一側面に切り欠き部42cを、また、隣接する他のティース部40bの他側面に切り欠き部42dを、設けてもよい。また、他側面の切り欠き部42dを、無くし、一側面の切り欠き部42cだけにしてもよい。この場合、係止用凹部33は、各ティース32の一側面にのみ形成され、当該一側面に対向する他側面には形成されないことになる。
また、これまでの説明では、ティース部40のうち2個おきのティース部に切り欠き部42を設けているが、切り欠き部42は、複数のティース部40の一部にのみ設けられるのであれば、その他の間隔で設けられてもよい。例えば、切り欠き部42は、ティース部40、1個おき、あるいは、4個おきに設けられてもよい。また、切り欠き部42の配置間隔は、均等でなくてもよく、切り欠き部42は、複数のティース部40のうち1個にのみ設けられてもよいし、逆に、1個のティース部40を除く残り全てのティース部40に切り欠き部42を設けてもよい。いずれにしても、切り欠き部42が形成されていないティース部40が、1個でもあればよい。