本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、ストッパゴムのインナブラケットへの打ち当たりによる異音や、ストッパゴムがインナブラケットから離隔する際に生じる異音、更にはストッパゴムがインナブラケットから離れた状態で変形するなどして生じる異音などを、何れも防ぐことができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
即ち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されており、該第一の取付部材が側方に開口する嵌着筒部を備えていると共に、該嵌着筒部の周上の一部には該嵌着筒部の開口端面から側方に突出するストッパゴムが設けられて、該ストッパゴムが該嵌着筒部に嵌入装着されるインナブラケットに重ね合わされるようにした防振装置において、前記ストッパゴムが前記インナブラケットの前記嵌着筒部への嵌入装着によって弾性変形されて、該ストッパゴムが該インナブラケットに該ストッパゴム自体の弾性による付勢状態で当接して重ね合わされるようにしたことを、特徴とする。
このような本発明の第一の態様に従う構造とされた防振装置によれば、インナブラケットと第二の取付部材側との当接によって、第一の取付部材と第二の取付部材の相対変位量を制限するストッパ手段が構成されて、本体ゴム弾性体の過大な変形による損傷などが防止される。更に、インナブラケットと第二の取付部材側との当接時の打音が、ストッパゴムの内部摩擦に基づく緩衝作用などによって低減乃至は解消される。
また、ストッパゴムがインナブラケットに付勢状態で当接して重ね合わされることにより、振動入力時に、ストッパゴムがインナブラケットから離れることなく当接状態に保持され易くなって、ストッパゴムのインナブラケットへの打ち当たりによる異音及びストッパゴムがインナブラケットから離れる時や離れた状態で発生する異音が防止される。しかも、インナブラケットの第一の取付部材への装着によりストッパゴムが弾性変形せしめられて、ストッパゴム自体の弾性によってストッパゴムがインナブラケット側に付勢されることから、特別な付勢手段や接着工程などを要することなく、簡単な構造で異音を効果的に防ぐことができる。
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記ストッパゴムにおける前記インナブラケットへの重ね合わせ面が、該インナブラケットにおける該ストッパゴムへの重ね合わせ面に対して相対的に傾斜せしめられているものである。
第二の態様によれば、インナブラケットが第一の取付部材に装着されて、ストッパゴムとインナブラケットが重ね合わされることにより、ストッパゴムがインナブラケットと沿う形状に弾性変形せしめられて、ストッパゴムの弾性に基づく付勢力が発揮される。しかも、ストッパゴムとインナブラケットの重ね合わせ面を相対的に傾斜する形状とすることで、それらストッパゴムとインナブラケットが広い面で重ね合わされて、ストッパ手段において面圧の分散化による耐久性の向上も図られ得る。
本発明の第三の態様は、第二の態様に記載された防振装置において、前記ストッパゴムが突出先端側に行くに従って前記嵌着筒部の内周側に傾斜せしめられているものである。
第三の態様によれば、ストッパゴムが嵌着筒部の内周側に傾斜していることで、インナブラケットを嵌着筒部に嵌入装着することによって、ストッパゴムを容易に弾性変形させることができる。特に、インナブラケットにおけるストッパゴムへの重ね合わせ面を、嵌着筒部への挿入方向と略平行な面とすることが可能であり、嵌着筒部への挿入方向と略直交する方向にストッパ手段を設けることで、インナブラケットの嵌着筒部からの抜けが回避されて、耐荷重性に優れたストッパ手段が実現される。
本発明の第四の態様は、第三の態様に記載された防振装置において、前記ストッパゴムの傾斜部分における前記嵌着筒部の内周側への傾斜角度が一定とされているものである。
第四の態様によれば、例えば、ストッパゴムを成形するための金型が、嵌着筒部を覆う被覆ゴムなどを成形する金型と一体とされて、嵌着筒部の開口方向で脱型されるように型割りされている場合にも、ストッパゴムの傾斜部分における傾斜角度が略一定とされていることにより、脱型方向に対してアンダーカット構造となるストッパゴムを、比較的容易に金型から抜き出すことができる。
本発明の第五の態様は、第三の態様に記載された防振装置において、前記ストッパゴムの傾斜部分における前記嵌着筒部の内周側への傾斜角度が突出先端側に行くに従って大きくされているものである。
第五の態様によれば、ストッパゴムがインナブラケットに重ね合わされることによって、インナブラケットにおけるストッパゴムへの重ね合わせ面が非傾斜の平面であっても、付勢力をストッパゴムの基端部の弾性だけでなく突出先端側の弾性によっても得ることができる。従って、振動入力時にインナブラケットから離れ易いストッパゴムの突出先端側が、インナブラケットへの当接状態に保持され易くなって、ストッパゴムがインナブラケットに打ち当てられることによる異音や、ストッパゴムがインナブラケットから離れる時に生じる異音、更には離れた状態で生じる異音などが、何れも有効に防止される。
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか一つの態様に記載された防振装置において、前記ストッパゴムが前記嵌着筒部の周方向に広がる板形状とされているものである。
第六の態様によれば、ストッパゴムとインナブラケットの重ね合わせ面を、嵌着筒部の周方向で大きく確保することができて、ストッパ手段において面圧の分散化による耐久性の向上が図られる。
本発明の第七の態様は、第一〜第六の何れか一つの態様に記載された防振装置において、前記ストッパゴムの突出基端部には前記嵌着筒部の外周側に開口する支持凹部が幅方向両端に形成されており、該嵌着筒部が該支持凹部で外周側に露出しているものである。
第七の態様によれば、嵌着筒部の露出する支持凹部が幅方向の両端に形成されていることから、ストッパゴムの突出基端部において薄肉となる箇所を少なくしながら、本体ゴム弾性体の加硫成形時に、嵌着筒部を支持凹部の形成部分において金型で支持することができる。従って、ストッパゴムの基端部の弾性による付勢力を十分に大きく得ることができると共に、ゴム弾性体の成形時に嵌着筒部を幅方向の両端でバランス良く安定して支持することができる。
本発明の第八の態様は、第一〜第七の何れか一つの態様に記載された防振装置において、前記嵌着筒部が被覆ゴムで覆われており、該被覆ゴムにおいて該嵌着筒部の軸方向端面を覆う端面被覆部から軸方向外方へ突出して前記ストッパゴムが一体形成されていると共に、該ストッパゴムにおける前記インナブラケットへの重ね合わせ面の基端縁が該嵌着筒部の軸方向端面上に位置せしめられて、該基端縁より内周側の該端面被覆部が内周側に向かって軸方向内方に傾斜した傾斜端面をもって形成されており、該傾斜端面に対して該インナブラケットが嵌入方向で押し当てられるようにしたものである。
第八の態様によれば、嵌着筒部に嵌入されるインナブラケットが、被覆ゴムの端面被覆部を介して嵌着筒部へ当接することで嵌入端が確実に規定され得る。また、傾斜端面の外周縁部となるストッパゴムの基端縁が、嵌着筒部の外周面よりも内周側に位置せしめられていることから、インナブラケットの当接に伴う端面被覆部の弾性変形により、ストッパゴムをインナブラケット側に押し付ける方向の力が及ぼされる。これにより、ストッパゴムのインナブラケットへの打ち当たりによる異音や、ストッパゴムがインナブラケットから離れる時に生じる異音、更には離れた状態で生じる異音などが、より効果的に防止される。しかも、端面被覆部におけるインナブラケットへの当接面が傾斜端面とされていることから、インナブラケットの端面被覆部への当接に伴う局所的な応力集中が緩和されると共に、端面被覆部の弾性変形によるストッパゴムのインナブラケット側への押付力が一層効率的に生ぜしめられ得る。
本発明の第九の態様は、第一〜第八の何れか一つの態様に記載された防振装置において、前記ストッパゴムが前記本体ゴム弾性体と一体形成されていると共に、該ストッパゴムの突出基端部には前記インナブラケットへの重ね合わせ面と反対側の面に開口して幅方向に延びる変形許容溝が形成されており、該変形許容溝の溝内面が溝幅方向に滑らかな湾曲形状とされていると共に、該変形許容溝の開口部が該ストッパゴムと該本体ゴム弾性体の各表面と滑らかに連続しているものである。
第九の態様によれば、ストッパゴムと本体ゴム弾性体を一体形成することで、部品点数の少ない簡単な構造とすることができる。更に、ストッパゴムの基端部に形成される変形許容溝によって、ストッパゴムの基端部において自由表面が大きく確保されており、インナブラケットの装着によるストッパゴムの弾性変形などに対して、ストッパゴムの基端部に作用する引張応力が低減されて、耐久性の向上が図られ得る。
本発明の第十の態様は、第一〜第九の何れか一つの態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材が筒形状を有する前記第二の取付部材の一方の開口側に配されており、該第一の取付部材の前記嵌着筒部に嵌着される前記インナブラケットと該第二の取付部材側との前記ストッパゴムを介した当接によって該第一の取付部材と該第二の取付部材の相対的な接近変位量を制限するバウンドストッパ手段が構成されるようにしたものである。
第十の態様によれば、簡単な構造によってバウンドストッパ手段を構成して、第一の取付部材と第二の取付部材の過大な接近変位による本体ゴム弾性体の損傷などを防ぐことができる。しかも、付勢された当接状態でインナブラケットに重ね合わされるストッパゴムによって、インナブラケットと第二の取付部材側との当接時の打音が低減されると共に、ストッパゴムのインナブラケットへの打ち当たりによる異音や、ストッパゴムがインナブラケットから離れる時に生じる異音、更には離れた状態で生じる異音なども防止される。
本発明によれば、第一の取付部材の嵌着筒部にインナブラケットが嵌入装着されることで、ストッパゴムが弾性変形されて、ストッパゴムがインナブラケットに対して付勢された当接状態で重ね合わされるようになっている。これにより、振動入力時にストッパゴムがインナブラケットから離れることなく当接状態に保持され易くなっており、ストッパゴムがインナブラケットに打ち当てられることによる異音およびインナブラケットから離隔される時や離隔された状態での異音などの発生が防止されている。更に、ストッパゴムは、ストッパゴム自体の弾性によってインナブラケット側に付勢されることから、ストッパゴムを付勢するための特別な付勢手段や接着などを要することなく、簡単な構造で異音の発生を防止することができる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜4には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10を示す。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が、本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、マウント中心軸方向である図1中の上下方向を言う。
より詳細には、第一の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金などで形成された高剛性の部材であって、図3に示すように、マウント中心軸と略直交する方向に延びて側方に開口する略矩形筒形状の嵌着筒部18を備えている。一方、第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材であって、上下に延びる薄肉大径の略円筒形状を有している。
そして、第二の取付部材14の上開口側に第一の取付部材12が配されて、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が、本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側端部が第一の取付部材12に加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面が第二の取付部材14に加硫接着されている。
さらに、本体ゴム弾性体16には、大径凹所28が形成されている。大径凹所28は、開口側である下方に向かって次第に大径となる逆向きの略すり鉢形状を有しており、本体ゴム弾性体16の大径側の端面に開口している。
さらに、第一の取付部材12の嵌着筒部18は、被覆ゴム32で覆われている。被覆ゴム32は、嵌着筒部18の表面を略全体に亘って覆うゴム層であって、本体ゴム弾性体16と一体形成されている。なお、嵌着筒部18の開口端面は、被覆ゴム32の端面被覆部33で覆われている。また、嵌着筒部18の内周面を覆う被覆ゴム32は、嵌着筒部18の長さ方向中央から両側の開口に向かって次第に薄肉となっており、被覆ゴム32の内周面が嵌着筒部18の開口に向かって次第に拡開するテーパ面で構成されている。
また、本体ゴム弾性体16および被覆ゴム32の端面被覆部33には、ストッパゴム35が一体形成されている。ストッパゴム35は、嵌着筒部18の下壁部における周方向(図2中、上下方向)に所定の幅をもって、略一定の厚さ寸法で広がる板形状のゴム弾性体であって、嵌着筒部18の一方の端面被覆部33から軸方向外方に向かって突出している。
さらに、本実施形態では、ストッパゴム35の上面の基端縁36が、嵌着筒部18の下壁部内周面を覆う被覆ゴム32の上面に対して下方に位置しており、それらストッパゴム35の基端縁36と嵌着筒部18の下壁部内周面を覆う被覆ゴム32の上面とが、ストッパゴム35の突出先端側に行くに従って次第に嵌着筒部18の外周側に下傾する傾斜端面37で繋がっている。また、傾斜端面37におけるストッパゴム35側の端縁が、嵌着筒部18の軸方向端面上に位置して、後述するインナブラケット44の嵌入方向投影において嵌着筒部18の下壁部と重なり合っており、傾斜端面37が嵌着筒部18の外周面よりも内周側に設けられている。要するに、本実施形態では、ストッパゴム35の基端縁36よりも内周側に位置する被覆ゴム32の端面被覆部33は、嵌着筒部18の軸方向外方の面が、内周側に向かって軸方向内方に傾斜した傾斜端面37とされている。なお、傾斜端面37は、嵌着筒部18の下壁部内周面を覆う被覆ゴム32の上面に、滑らかに連続して繋がっていると共に、ストッパゴム35の上面に、幅方向(図2中、上下方向)に延びる折れ線をもって繋がっている。
ここにおいて、図3に示すように、ストッパゴム35は、基端板部38がマウント中心軸と略直交する方向に広がっていると共に、先端板部39が突出先端側に行くに従って嵌着筒部18の内周側に傾斜している。本実施形態では、ストッパゴム35が嵌着筒部18の下壁部から側方に突出して設けられて、先端板部39が突出先端側に向かって略一定の傾斜角度(θ)で上傾している。更に、本実施形態では、ストッパゴム35の先端板部39が、厚さ寸法が略一定の略平板形状とされて、上面と下面の両方が互いに略同じ角度で傾斜する傾斜面とされており、先端板部39の突出方向の弾性主軸が、突出先端側に行くに従って次第に上傾している。更にまた、ストッパゴム35は、突出先端部が第二の取付部材14よりも外周側まで突出する長さで形成されている。なお、ストッパゴム35における先端板部39の傾斜角度(θ)の大きさは、特に限定されるものではなく、後述するインナブラケット44の下面の形状や、ストッパゴム35の型抜き性などを考慮して適宜に設定される。
さらに、ストッパゴム35の基端板部38とそれに繋がる被覆ゴム32には、下面に開口する一対の支持凹部40,40が形成されている。支持凹部40は、図1,4に示すように、ストッパゴム35の幅方向両端部に形成されており、ストッパゴム35の下面および幅方向外面に開口している。また、支持凹部40の形成部分において、嵌着筒部18の一部が被覆ゴム32から露出している。
更にまた、ストッパゴム35の基端板部38には、変形許容溝42が形成されている。変形許容溝42は、嵌着筒部18の外周側となる基端板部38の下面に開口して、基端板部38の幅方向全長に亘って連続して延びており、本実施形態では、両端部が一対の支持凹部40,40に繋がっている。更に、変形許容溝42は、略一定の溝断面形状で延びており、溝内面が溝幅方向に折れ点を持たない滑らかな湾曲形状とされていると共に、開口部がストッパゴム35の下面および被覆ゴム32の下面に滑らかに連続している。なお、被覆ゴム32の下面は、本体ゴム弾性体16の外周面に滑らかに連続して繋がっている。
なお、本体ゴム弾性体16,被覆ゴム32,ストッパゴム35は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備える一体加硫成形品として形成されている。即ち、第一の取付部材12と第二の取付部材14がセットされた図示しない金型のキャビティに、ゴム材料が充填されて加硫成形されることにより、被覆ゴム32とストッパゴム35を備える本体ゴム弾性体16が形成される。本実施形態では、嵌着筒部18が開口端部の複数箇所で金型によって支持された状態でゴム弾性体が加硫成形されることから、嵌着筒部18が被覆ゴム32に形成される一対の支持凹部40,40と複数の切欠き43において外部に露出している。なお、嵌着筒部18は、上面および下面の幅方向両端部と、上下中央部分の開口端面および幅方向外面とが、一対の支持凹部40,40および複数の切欠き43を通じて外部に露出している。
かくの如き構造とされたエンジンマウント10には、図5,6に示すように、インナブラケット44とアウタブラケット46が装着される。即ち、インナブラケット44は、鉄やアルミニウム合金などで形成された高剛性の部材であって、第一の取付部材12の嵌着筒部18に圧入固定される略矩形ロッド状の嵌入部48と、嵌入部48から側方に突出する取付部50とを、一体で備えている。なお、取付部50における嵌入部48とは反対側の端部に、図示しないボルト孔が形成されている。また、取付部50の下面は、マウント中心軸と略直交して広がる平面とされて、ストッパゴム35の上面に対して相対的に傾斜している。更に、取付部50の下面は、嵌入部48の下面よりも下方に突出しており、嵌入部48が嵌着筒部18に圧入装着された状態で、ストッパゴム35の基端縁36と略同じ上下位置に位置決めされる。
アウタブラケット46は、インナブラケット44と同様に高剛性の部材であって、略円筒形状を有する圧入筒部52を有している。更に、圧入筒部52は厚肉大径とされており、上端面の周上の一部が、後述する車両装着状態でインナブラケット44と上下に対向するストッパ当接面54とされている。なお、図中には明示されていないが、アウタブラケット46には、後述する車両ボデーへの取付部分が、圧入筒部52に一体又は別体で固設されている。
そして、インナブラケット44の嵌入部48が第一の取付部材12の嵌着筒部18に嵌入されると共に、第二の取付部材14がアウタブラケット46の圧入筒部52に圧入されることにより、インナブラケット44とアウタブラケット46がエンジンマウント10に取り付けられる。更に、インナブラケット44の取付部50が図示しないパワーユニットに固定されると共に、アウタブラケット46が図示しない車両ボデーに固定されることにより、エンジンマウント10がパワーユニットと車両ボデーの間に介装されて、パワーユニットが車両ボデーによって防振支持される。なお、インナブラケット44における取付部50の下部が、嵌着筒部18の軸方向端面に被覆ゴム32の端面被覆部33を介して当接することにより、嵌入端が規定される。また、車両への装着状態では、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に、パワーユニットの静的な分担支持荷重が軸方向に入力されることから、第一の取付部材12と第二の取付部材14が軸方向で相対的に接近変位せしめられる。
また、インナブラケット44の取付部50の下面と、アウタブラケット46のストッパ当接面54とが、上下に所定の距離を隔てて対向配置されており、それらインナブラケット44とアウタブラケット46の対向面間にストッパゴム35が差し入れられている。そして、第一の取付部材12と第二の取付部材14が軸方向の振動入力によって接近方向に大きく相対変位せしめられると、インナブラケット44の取付部50とアウタブラケット46が、ストッパゴム35を介して当接する。これにより、第一の取付部材12と第二の取付部材14の相対変位量を制限するバウンドストッパ手段が構成されて、第一の取付部材12と第二の取付部材14の過大な接近変位が防止されることから、本体ゴム弾性体16の損傷などが回避される。
しかも、インナブラケット44とアウタブラケット46が、ストッパゴム35を介して当接することにより、当接時の打音が低減乃至は防止される。加えて、ストッパゴム35は、嵌着筒部18の周方向に所定の幅を有する板形状とされていることから、アウタブラケット46の周方向の広い範囲に亘って、インナブラケット44とアウタブラケット46の間に差し入れられており、面圧の分散化によるストッパゴム35の耐久性の向上が図られる。なお、本実施形態では、図6に示すように、ストッパゴム35の幅方向中央部分が、アウタブラケット46の外周端までは達しない長さとされているが、ストッパゴム35は、幅方向の全体に亘って、アウタブラケット46よりも外周まで延び出していても良い。
さらに、インナブラケット44における取付部50の下面は、インナブラケット44の第一の取付部材12への装着状態において、ストッパゴム35における基端板部38の上面と略同じ上下位置で、マウント中心軸と略直交して広がることから、突出先端側に行くに従って上傾する先端板部39の上面に押し当てられる。これにより、ストッパゴム35は、図5,6に示すように、インナブラケット44によって先端側を押し下げられて、略マウント中心軸直交方向に広がる非傾斜形状に弾性変形せしめられた状態で、インナブラケット44の取付部50に重ね合わされる。その結果、ストッパゴム35は、インナブラケット44の取付部50に対して、それ自体の弾性力によって付勢された状態で当接して重ね合わされる。なお、ストッパゴム35の基端板部38に形成された変形許容溝42が、ストッパゴム35のインナブラケット44への重ね合わせ面と反対側の面に開口している。また、ストッパゴム35の先端板部39の上面と、インナブラケット44の取付部50の下面との相対的な傾斜角度(θ)は、好適には3°≦θ≦20°、より好適には5°≦θ≦15°となるように設定される。これによれば、インナブラケット44の嵌着筒部18への嵌入装着時にストッパゴム35が著しく邪魔になるのを防ぎつつ、ストッパゴム35のインナブラケット44側への付勢力を十分に得ることができる。
このように、ストッパゴム35がインナブラケット44に付勢状態で当接して重ね合わされていることにより、振動入力時にも、ストッパゴム35がインナブラケット44に対する当接状態に保持され易くなっており、ストッパゴム35がインナブラケット44から離れた後に打ち当てられるのを防止できる。本実施形態では、ストッパゴム35の先端板部39が、突出先端側に行くに従って嵌着筒部18の内周側に傾斜する傾斜板形状とされていることにより、インナブラケット44が装着されることで、ストッパゴム35の全体がインナブラケット44に略隙間なく重ね合わされて、打音の発生がより効果的に防止される。また、ストッパゴム35がインナブラケット44に対する当接状態に保持されることにより、ストッパゴム35がインナブラケット44から離れる際に、それらの重ね合わせ面の密着当接状態からの離隔に起因して生じる異音や、ストッパゴム35がインナブラケット44から離れた状態で変形して生じる異音なども、有効に防止される。
しかも、本実施形態では、ストッパゴム35の上面と被覆ゴム32の内周面とを繋ぐ傾斜端面37が、インナブラケット44の嵌入方向に対して傾斜する傾斜面とされていると共に、嵌着筒部18の外周面よりも内周側に設けられている。そして、インナブラケット44の嵌着筒部18への装着によって、インナブラケット44の取付部50が、傾斜端面37に嵌入方向で押し当てられるようになっている。これにより、インナブラケット44の傾斜端面37への当接に伴う端面被覆部33の弾性変形によって、ストッパゴム35がインナブラケット44の取付部50により強く押し当てられることから、ストッパゴム35のインナブラケット44に対する打ち当たりに起因する異音やインナブラケット44からの離隔時に生じる異音、更にはインナブラケット44からの離隔状態で生じる異音などが、より効果的に低減される。加えて、端面被覆部33におけるインナブラケット44との当接面が、インナブラケット44の嵌入方向に対して傾斜していることにより、当接に伴う応力が局所的に集中するのを防いで、耐久性の向上などが図られる。
さらに、ストッパゴム35のインナブラケット44側への付勢は、インナブラケット44を第一の取付部材12に装着するだけで、ストッパゴム35自体の弾性によって実現されることから、特別な付勢手段や接着などは必要とされず、部品点数や製造工程数の増加などが回避される。しかも、ストッパゴム35の先端板部39が略平板形状とされていることにより、ストッパゴム35を形成するための金型が、嵌着筒部18の開口方向(図3中、左右方向)に型割りされる場合に、アンダーカット構造となるストッパゴム35から金型を比較的容易に取り外すことができて、少ない型割り数でストッパゴム35を備えた本体ゴム弾性体16を加硫成形することができる。
また、本実施形態では、ストッパゴム35の基端板部38の幅方向両端に支持凹部40が形成されて、被覆ゴム32およびストッパゴム35の成形時に、嵌着筒部18が外部に露出する支持凹部40の形成部分において、第一の取付部材12が金型で支持されるようになっている。これにより、ストッパゴム35の基端板部38において、嵌着筒部18を金型で支持するための薄肉部分を最小限に抑えて、ストッパゴム35の弾性によるインナブラケット44側への付勢力を有効に得ることができると共に、被覆ゴム32およびストッパゴム35の成形時には、嵌着筒部18の幅方向両端部分を、金型によってバランス良く安定して支持することができる。
また、ストッパゴム35の基端板部38の下面には変形許容溝42が開口しており、基端板部38の自由表面が大きくされていることから、インナブラケット44の装着によるストッパゴム35の弾性変形状態で基端板部38に作用する応力が低減されて、基端板部38の耐久性の向上が図られる。
なお、本実施形態では、ストッパゴム35の基端部に、マウント中心軸と略直交して広がる基端板部38が設けられているが、ストッパゴムの全体が、マウント中心軸直交方向に対して傾斜していても良い。
図7には、本発明に従う構造とされた防振装置の第二の実施形態として、自動車用のエンジンマウント60を示す。エンジンマウント60は、ストッパゴム62を備えている。なお、以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。また、エンジンマウント60において図中に明示されない部分(被覆ゴム32の一対の支持凹部40,40や複数の切欠き43など)や、エンジンマウント60に取り付けられるインナブラケット44およびアウタブラケット46については、第一の実施形態と同様の構造を採用可能である。
より詳細には、ストッパゴム62は、略一定の幅寸法で嵌着筒部18の開口端部から突出する板形状とされており、マウント中心軸直交方向に対する傾斜角度の小さい基端板部64と、傾斜角度の大きい先端板部66とを一体で備えて、突出方向の中間部分において厚さ方向に折れた形状とされている。要するに、ストッパゴム62は、全体がマウント中心軸直交方向に対して傾斜していると共に、突出方向で傾斜角度が二段階に変化しており、突出先端部分の傾斜角度が基端部分よりも大きくされている。本実施形態の基端板部64と先端板部66は、互いに略同じ厚さとされていると共に、それぞれが略一定の厚さとされて、上面と下面が略同じ角度で傾斜している。
このような構造を有するエンジンマウント60においても、第一の実施形態と同様に、第一の取付部材12にインナブラケット44が取り付けられると共に、第二の取付部材14にアウタブラケット46が取り付けられる。そして、インナブラケット44の第一の取付部材12への装着状態において、インナブラケット44の取付部50がストッパゴム62に押し当てられて、ストッパゴム62がマウント中心軸と略直交して広がる非傾斜の略平板形状に弾性変形せしめられる。これにより、ストッパゴム62は、インナブラケット44に、それ自体の弾性によって付勢された状態で当接せしめられて、ストッパゴム62のインナブラケット44への打ち当たりなどによる異音の発生が防止される。
本実施形態では、ストッパゴム62の傾斜角度が突出方向で段階的に変化しており、先端板部66の傾斜角度が基端板部64よりも大きくされている。これにより、インナブラケット44の第一の取付部材12への装着によって、ストッパゴム62の基端部の弾性による付勢力に加えて、ストッパゴム62における基端板部64と先端板部66の境界部分の弾性による付勢力も発揮される。それ故、インナブラケット44から離隔し易いストッパゴム62の先端側において、ストッパゴム62の弾性に基づく付勢力を有効に得ることができて、インナブラケット44への当接状態がより一層保持され易くなることで、異音が有利に防止される。
図8には、本発明に従う構造とされた防振装置の第三の実施形態として、自動車用のエンジンマウント70を示す。エンジンマウント70は、ストッパゴム72を備えている。
より詳細には、ストッパゴム72は、略一定の幅寸法で嵌着筒部18の開口端部から突出する板形状とされており、突出先端側に行くに従って次第に嵌着筒部18の内周側に傾斜している。更に、ストッパゴム72は、略全体がマウント中心軸直交方向に対して傾斜していると共に、マウント中心軸直交方向に対する傾斜角度が、突出先端側に行くに従って次第に大きくされて、厚さ方向に湾曲している。なお、本実施形態のストッパゴム72は、略一定の厚さを有しており、突出方向に延びる弾性主軸も先端側に行くに従って上方へ湾曲している。
このような構造を有するエンジンマウント70においても、第一, 第二の実施形態と同様に、第一の取付部材12にインナブラケット44が取り付けられると共に、第二の取付部材14にアウタブラケット46が取り付けられる。そして、インナブラケット44の第一の取付部材12への装着状態において、インナブラケット44の取付部50がストッパゴム72に押し当てられて、ストッパゴム72がマウント中心軸と略直交して広がる非傾斜の略平板形状に弾性変形せしめられる。これにより、ストッパゴム72がインナブラケット44に付勢状態で当接せしめられて、ストッパゴム72のインナブラケット44への打ち当たりなどによる異音の発生が防止される。
本実施形態では、ストッパゴム72の傾斜角度が突出方向で徐々に変化しており、先端側の傾斜角度が基端側よりも大きくされている。これにより、ストッパゴム72が、突出方向の略全体に亘ってインナブラケット44側に付勢された状態で押し当てられることから、ストッパゴム72のインナブラケット44への当接状態がより一層保持され易くなって、異音が効果的に防止される。特に、インナブラケット44から離隔し易いストッパゴム72の先端側においても、ストッパゴム72の弾性に基づく付勢力が有効に発揮されることから、インナブラケット44への当接状態がより安定して保持されて、異音が有利に防止される。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ストッパゴムの表面に部分的な凹凸や波形などを設けることにより、バウンドストッパ手段において緩衝作用の向上を図ることもできる。
さらに、ストッパゴムの厚さは、突出方向で徐々に或いは段階的に、更には部分的に変化していても良く、ストッパゴムの上面と下面は、必ずしも互いに同じ傾斜角度で広がっていなくても良い。具体的には、例えば、ストッパゴムを基端側に行くに従って次第に厚肉とすることにより、ストッパゴムの基端部分の弾性によって、ストッパゴムをインナブラケットにより大きな付勢力で押し当てることも可能である。
また、例えば、ストッパゴムが略マウント中心軸直交方向に、或いは突出先端側に行くに従って嵌着筒部の外周側に傾斜して広がっていると共に、インナブラケットにおけるストッパゴムへの当接面が、マウント中心軸直交方向に対して、ストッパゴムの突出先端側に行くに従って下傾する傾斜面とされた構造も採用され得る。この場合には、インナブラケットの第一の取付部材への装着によって、ストッパゴムの先端側がインナブラケットに当接して押し下げられることで、ストッパゴムがインナブラケットに付勢状態で当接して重ね合わされる。要するに、ストッパゴムは、必ずしも嵌着筒部の内周側に傾斜する形状に限定されず、第一の取付部材に装着されたインナブラケットに付勢状態で当接するようになっていれば、任意の形状が採用され得る。
また、ストッパゴムの上面は、例えば、嵌着筒部の下壁部上面を覆う被覆ゴムの表面に対して、略同一平面で、或いはそれよりも上方に位置して広がっていても良く、インナブラケットの形状に応じて任意に設定される。
また、ストッパゴムや被覆ゴムは、本体ゴム弾性体とは別体で形成されていても良い。更に、ストッパゴムは、必ずしも前記実施形態に示すようなゴム単体で形成されたものには限定されず、例えば、金属や樹脂,弾性の異なるゴムなどで形成された弾性部材が内部や表面に固着されていても良い。この場合には、インナブラケットの第一の取付部材への装着状態において、ストッパゴム自体の弾性による付勢力に加えて、弾性部材の弾性による付勢力が作用することで、ストッパゴムのインナブラケットに対する付勢状態での当接が、より有利に実現され得る。
また、前記実施形態では、本発明に係る防振装置の例として、所謂ソリッドタイプのエンジンマウントを示したが、例えば、内部に非圧縮性流体を封入された流体室を備えて、流体の流動作用などに基づいた防振効果を利用する流体封入式防振装置や、流体封入式防振装置の一種である能動型や特性切替型の流体封入式防振装置などにも、本発明を適用することができる。
本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、例えば、サブフレームマウントやボデーマウント、デフマウントなどにも適用可能である。更に、本発明は、自動車用の防振装置にのみ適用されるものではなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などに用いられる防振装置にも、好適に適用され得る。