JP2015006681A - ダイカスト金型用表面処理被膜およびダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法 - Google Patents

ダイカスト金型用表面処理被膜およびダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 焼き付きを長時間抑制することができるダイカスト金型用表面処理被膜およびそのような表面処理被膜のダイカスト金型部材への形成方法を提供すること。【解決手段】 ケイ素酸化物と、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属である第2金属の酸化物、水酸化物、または炭酸塩を含むガラス層によりダイカスト金型用表面処理被膜を形成する。また、ケイ素酸化物と、ケイ素よりも酸化物形成能の高い第2金属の酸化物、水酸化物、または炭酸塩とを、溶媒に混合させることによりガラス層前駆物質を生成し、生成したガラス層前駆物質をダイカスト金型部材に被覆し、ガラス層前駆物質が被覆されたダイカスト金型部材を加熱することにより、ダイカスト金型部材に表面処理被膜を形成する。【選択図】 無し

Description

本発明は、ダイカスト金型部材の表面に被覆されるダイカスト金型用表面処理被膜およびダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法に関する。
ダイカスト金型のキャビティ表面やキャビティ内に設けられるダイカストピン、入子等には高温の金属溶湯が接触するので、接触した金属溶湯が金型材料と反応して焼き付きを形成するおそれがある。金型表面に大量の離型剤を塗布することによってある程度の焼き付きは抑えられるが、離型剤の消費量が増大するために経済的に不利である。また、離型剤の使用量を増加させた場合、離型剤が高温の溶湯に触れてガス化して製品内に混入することにより製品内にガス欠陥を発生させるおそれがある等の問題を引き起こす。したがって、離型剤の消費量を増大させることなく、金型表面での焼き付きを抑えるような技術が要望されている。
特許文献1は、独立気孔(互いに連通していない気孔)が内部や表面に形成された表面処理被膜を金型表面に被覆することにより、金型表面での焼き付きを防止する技術を開示する。金型表面に設けられた表面処理被膜が金属溶湯の焼き付きを抑えることによって、離型剤の消費量を増大させることなく金型表面での金属溶湯の焼き付きを低減できる。また、被膜中の独立気孔により熱膨張や機械的衝撃が分散されるため、表面処理被膜および金型の長寿命化を図ることができる。
特許文献2は、MoやW等の高融点金属、セラミックス(BNやSiO2等)、黒鉛等の粉末を界面活性剤水溶液や低沸点液状油脂肪に混合分散させたものを金型表面に塗布し、加熱処理して金型表面にコーティングした表面処理被膜を開示する。特許文献2に記載の表面処理被膜も、金型表面での金属溶湯の焼き付きを低減する効果を有する。
特開2001−232443号公報 特開2003−10958号公報
特許文献1に記載の表面処理被膜の表面や内部には多数の独立気孔が形成されているために、被膜自体の強度が低下する。このため金型内に射出される金属溶湯によって被膜が剥離されるおそれがある。加えて、被膜中の独立気孔中に金属溶湯が入り込んで固化した場合、製品取り出し時にアンカー効果により製品と一緒に被膜が剥がれるおそれがある。これらのことからわかるように、特許文献1に記載の表面処理被膜の耐久性は低い。また、特許文献2に記載の表面処理膜によれば、セラミックス等の固形粒子のバインダーとして水溶性界面活性剤や低沸点液状油脂肪が用いられているが、これらは熱に弱いので、金属溶湯の注湯時に分解してしまう。そのため固形粒子間の結合力が弱まり、すぐに金型表面から離脱してしまう。
このように、上記特許文献1および2に記載の表面処理被膜は、その耐久性が低く、金属溶湯に晒された場合にすぐに劣化するので、長時間に亘り焼き付きを抑制することができない。本発明は、長時間に亘り焼き付きを抑制することができるダイカスト金型用表面処理被膜、および、そのような効果を有する表面処理被膜のダイカスト金型部材への形成方法を提供することを目的とする。
(課題を解決するための手段)
本発明は、ダイカスト金型部材の表面に被覆され、ケイ素酸化物と、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属である第2金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種とを含むガラス層により構成される、ダイカスト金型用表面処理被膜を提供する。この場合、第2金属が、Mg、Ca、Al、Ti、Ba、およびZrからなる群より選択される少なくとも一種であるのがよい。また、第2金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種は、MgO、Al、TiO、BaO、ZrO、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、Ba(OH)、MgCO、CaCO、およびBaCOからなる群より選択される少なくとも一種であるのがよい。さらに、表面処理被膜中におけるケイ素の原子組成百分率が5at%以上50at%以下であるのがよい。
また、本発明は、ケイ素酸化物と、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属である第2金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種とを、溶媒中で溶媒に混合させることによりガラス層前駆物質を生成する第1工程と、ガラス層前駆物質をダイカスト金型部材に被覆する第2工程と、ガラス層前駆物質が被覆されたダイカスト金型部材を加熱する第3工程と、を含む、ダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法を提供する。この場合、第2金属が、Mg、Ca、Al、Ti、Ba、およびZrからなる群より選択される少なくとも一種であるのがよい。また、第2金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種は、MgO、Al、TiO、BaO、ZrO、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、Ba(OH)、MgCO、CaCO、およびBaCOからなる群より選択される少なくとも一種であるのがよい。
本発明に係る表面処理被膜は、ケイ素酸化物成分を含むガラス層である。このガラス層中には、ケイ素酸化物の他、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属、すなわちケイ素の酸化物生成自由エネルギーよりも低い酸化物生成自由エネルギーを持つ金属(第2金属)の酸化物、水酸化物、あるいは炭酸塩が含有される。ケイ素よりも酸化物形成能の高い第2金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩は安定であるので、第2金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩と金属溶湯との反応性は低い。このような金属溶湯との反応性が低い金属酸化物、金属水酸化物あるいは炭酸塩の混入により、表面処理被膜と金属溶湯との反応性を低下させることができる。よって、金属溶湯の焼き付きの発生を効果的に抑えることができる。
また、本発明に係る表面処理被膜は、ケイ素酸化物と第2金属の酸化物、水酸化物、あるいは炭酸塩が結合したガラス層であり、比較的結合強度が強い膜として金型部材の表面に密着させることができるので、金属溶湯の射出によって簡単に剥離されない。よって、焼き付きの抑制効果を長時間維持することができる。
本発明において、「ダイカスト金型部材」とは、ダイカスト金型や、ダイカストピン、入子、中子等のダイカスト金型内に設置される部品の総称であり、ダイカスト鋳造に用いられる金属溶湯が接触する部材である。また、「ガラス層」とは、金属原子と酸素原子がアモルファス状に結合してなる層状体を主体とする構成物を意味する。
(表面処理被膜の構造)
本発明に係る表面処理被膜は、ケイ素酸化物と、第2金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種とを含むガラス層により構成される。ケイ素酸化物はガラス層の主成分をなすとともに、ガラス層中で第2金属の酸化物、水酸化物、あるいは炭酸塩のバインダーとして機能する。
表面処理被膜中のケイ素の原子組成百分率は5at%以上であるのがよい。5at%未満であると、ケイ素酸化物がバインダーとしての役割を十分に果たさず、ガラス層としての形態を保つことができない。このためダイカスト金型部材への密着性が低下して耐久性が悪化するという問題が発生する。また、ケイ素はアルミニウム等の他の金属との反応性が良好な金属であるため、ケイ素の含有量が多いと表面処理被膜中のケイ素が金属溶湯と反応する頻度が高まり(反応性が高まり)、その結果、表面処理被膜上で焼き付きを起こす可能性が高まる。特に、ケイ素の原子組成百分率が50at%を越えると焼き付きの発生頻度が顕著に高まるという問題が発生する。したがって、上記問題を回避するため、ケイ素の原子組成百分率は、5at%以上であり且つ50at%以下であるのがよい。より好ましくは、ケイ素の原子組成百分率は、10at%以上であり且つ40at%以下であるのがよい。
表面処理被膜中の第2金属は、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属である。言い換えれば、第2金属の酸化物生成自由エネルギーは、ケイ素の酸化物生成自由エネルギーよりも低い。このような金属は、酸化物のエリンガム図に基づいて決定することができる。特に、第2金属は、Mg、Ca、Al、Ti、Ba、およびZrからなる群より選択される少なくとも一種であるのがよい。これらの金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)はより安定であり、ダイカスト鋳造に用いられる金属(アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等)と反応し難いからである。
表面処理被膜中の第2金属の含有量が少なすぎると、ケイ素酸化物と金属溶湯との反応性が高まり、焼き付きを起こす可能性が高まるという問題が発生する。また、第2金属の含有量が多すぎると、被膜中のバインダーとしての役割を担うケイ素酸化物の含有量が相対的に減少するので表面処理被膜の緻密度が低下するとともに、ダイカスト金型部材への密着性が低下するため、耐久性が悪化するという問題が発生する。上記問題を回避するための第2金属の含有量(原子組成百分率)の最適範囲は、含有される金属によって異なるが、概ね0.5at%以上であり且つ40at%以下である。
第2金属がMgである場合、表面処理被膜中のMgの原子組成百分率は、5at%(下限値)以上であり且つ30at%(上限値)以下であるのがよい。より好ましくは、Mgの原子組成百分率は、10at%以上であり且つ25at%以下であるのがよい。第2金属がCaである場合、表面処理被膜中のCaの原子組成百分率は、0.5at%(下限値)以上であり且つ15at%(上限値)以下であるのがよい。より好ましくは、Caの原子組成百分率は、1at%以上であり且つ10at%以下であるのがよい。第2金属がAlである場合、表面処理被膜中のAlの原子組成百分率は、3at%(下限値)以上であり且つ30at%(上限値)以下であるのがよい。より好ましくは、Alの原子組成百分率は、5at%以上であり且つ20at%以下であるのがよい。第2金属がTiである場合、表面処理被膜中のTiの原子組成百分率は、5at%(下限値)以上であり且つ40at%(上限値)以下であるのよがい、より好ましくは、Tiの原子組成百分率は、8at%以上であり且つ30at%以下であるのがよい。第2金属がBaである場合、表面処理被膜中のBaの原子組成百分率は、0.5at%(下限値)以上であり且つ15at%(上限値)以下であるのがよい。より好ましくは、Baの原子組成百分率は、1at%以上であり且つ10at%以下であるのがよい。第2金属がZrである場合、表面処理被膜中のZrの原子組成百分率は、5at%(下限値)以上であり且つ40at%(上限値)以下であるのがよい。より好ましくは、Zrの原子組成百分率は、8at%以上であり且つ30at%以下であるのがよい。
上記した各第2金属の原子組成百分率がそれぞれに示した下限値未満であると、相対的に表面処理被膜中に含まれるケイ素酸化物の含有量が増加し、ケイ素と金属溶湯との反応による焼き付きが起きる可能性が高まる。一方、上記した各第2金属の原子組成百分率がそれぞれに示した上限値を越えると、相対的に表面処理被膜中に含まれるケイ素酸化物の含有量が減少し、ダイカスト金型部材との密着性が低下する。
また、表面処理被膜中の炭素は、被膜形成の過程で無機成分あるいは有機成分として添加される。表面処理被膜中の炭素の原子組成百分率が10%at以下であると、被膜の靱性を高める作用を有するが、10at%以上であると、ダイカスト金型部材への被膜の密着性を低下させる。故に、表面処理被膜中の炭素の原子組成百分率は10at%以下であるのがよい。
また、酸素は、表面処理被膜中にケイ素や第2金属の酸化物、第2金属の水酸化物あるいは炭酸塩として取り込まれる。表面処理被膜中の酸素の含有量が少ないと、ケイ素や第2金属が十分に酸化していない状態で表面処理被膜中に存在している可能性が高い。特に、ケイ素や第2金属の含有量が適正であるにもかかわらず、酸素の含有量が少ない場合は、多くのケイ素や第2金属が酸化していない状態(例えば金属単体の状態)で表面処理被膜中に存在していると推定できる。この場合、酸化していないケイ素や第2金属が金属溶湯と反応して焼き付きが起きる可能性が高まるという問題が発生する。一方、表面処理被膜中の酸素の含有量が多いと、表面処理被膜の密着性が低下するという問題が発生する。上記問題を回避し得る酸素の原子組成百分率は、30at%以上であり且つ70at%以下である。
本発明に係る表面処理被膜は主に非晶質(アモルファス)構造のガラス層であるが、一部結晶化していてもよい。また、第2金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)は、基本的にはガラス層中に取り込まれてケイ素酸化物と化学結合しているが、部分的に固体微粒子の状態で被膜中に存在していてもよい。ただし、その粒子の大きさは、表面処理被膜の膜厚を越えないのがよい。また、第2金属は、ケイ素とによって複合酸化物を形成していてもよい。このような複合酸化物も化学的に十分安定であるので、金属溶湯と反応し難い。よって、反応による焼き付きを効果的に防止できる。
本発明に係る表面処理被膜の膜厚は、10nm以上であり且つ3000nm以下であるのがよく、より好ましくは20nm以上であり且つ1000nm以下である。膜厚が10nm未満であると、耐久性の低下をもたらす。また、膜厚が3000nmを越えると、金属溶湯の接触時に被膜に作用する応力が増大して剥離し易くなる。
本発明に係る表面処理被膜の硬度は、Hv(ビッカース硬度)70以上であるのがよい。好ましくはHv120以上であるのがよい。硬度がHv70未満であると、被膜の表面が柔らかすぎて、例えばダイカスト金型の段取り作業時に被膜を損傷したり、金属溶湯によるエロージョンを受けやすくなるという問題が発生する。
本発明に係る表面処理被膜は、連続した緻密な膜であるのがよい。言い換えれば、表面または内部に微細孔が極力形成されていないのがよい。表面処理被膜の表面または内部に微細孔が形成されている場合、ダイカスト鋳造時にその微細孔に金属溶湯が入り込みんで固化する。すると、鋳造製品の取り出し時に微細孔内の金属に引き摺られて表面処理被膜が剥離されるおそれがある。このため、表面処理被膜は、内部に金属溶湯が入り込まないように連続した緻密な膜であるのがよい。
(表面処理被膜の形成方法)
本発明に係る表面処理被膜は、以下に説明する第1工程、第2工程、および第3工程を経て形成される。
第1工程では、ケイ素酸化物と、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属である第2金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種とを、溶媒に混合させることによりガラス層前駆物質を生成する。ここで言う「ガラス層前駆物質」とは、ケイ素酸化物と第2金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)とがアモルファス状に結合されてなるガラス層が生成される前段階の物質を意味する。従って、ガラス層前駆物質中には、ケイ素酸化物と第2金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)がばらばらに(あるいはイオンとして)存在し、ガラス層としての体をなしていない。
第1工程では、例えば、ケイ素酸化物水溶液に第2金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)を混合させることによりガラス層前駆物質を生成することができる。この場合、シリコーン等のケイ素酸化物が含まれた市販の水溶性離型剤に第2金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)を混合させるようにしてもよい。また、例えば、ゾルゲル法によりケイ素酸化物と第2金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)とを含むゲル状のガラス層前駆物質を生成することもできる。
第1工程で用いる第2金属の酸化物、水酸化物、または炭酸塩は、MgO、Al、TiO、BaO、ZrO、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、Ba(OH)、MgCO、CaCO、BaCOからなる群より選択される少なくとも一種であるのがよい。
第2工程では、ガラス層前駆物質をダイカスト金型部材に被覆する。この場合において、例えばスプレー塗布により液状のガラス層前駆物質をダイカスト金型部材に被覆することができる。ガラス層前駆物質がゲル状であれば、それをそのままダイカスト金型部材の所要部位に被覆することができるし、あるいはダイカストピン等に被覆する場合、ダイカストピンをゲル状のガラス層前駆物質に浸漬することによって、ダイカストピンにガラス状前駆物質を被覆することができる。
第3工程では、ガラス層前駆物質が被覆されたダイカスト金型部材を加熱する。この加熱によって、ガラス層前駆物質中のケイ素酸化物と第2金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)が結合してガラス層が形成される。また、この加熱によってガラス層中のケイ素がダイカスト金型部材の表面に結合し、表面処理被膜がダイカスト金型部材に固着する。加熱温度は300℃以上であり且つ600℃以下であるのがよい。好ましくは、加熱温度は400℃以上であり且つ550℃以下である。加熱温度が300℃未満であると、ケイ素酸化物と第2金属の酸化物(水酸化物、炭酸塩)との結合が不十分となってガラス層が形成されないおそれがあるとともにダイカスト金型部材との密着性が低下するという問題が発生する。一方、加熱温度が600℃を越える場合、金型材料の焼き戻し温度よりも高い温度で加熱されることになり、材料が軟化して強度不足となる。また、400℃〜550℃で加熱された場合、金属溶湯に接触する際の温度変化に起因した表面処理被膜の損傷を防止することができる。
また、ダイカスト金型部材に予め表面処理を施しておいても良い。例えば、ガラス層の被覆部分に、PVD法、プラズマCVD法によって、予めTiAlN、CrN、AlCrN、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)をコーティングしておいてもよい。中でも、耐熱性の高いDLC−Si膜が予めダイカスト金型部材にコーティングされているとさらに良い。
(第1実施例)
まず、熱間ダイス鋼(SKD61)で形成されたダイカストピンを用意した。また、市販の水溶性離型剤(ユシロ化学製)に最大粒径が0.1μm以下の水酸化マグネシウム(Mg(OH))粉末を約1mass%入れて溶解、混合することにより混合液(ガラス層前駆物質)を調整した(第1工程)。なお、使用した水溶性離型剤には、水、有機変性シリコーン(ケイ素酸化物)、合成エステル、ノニオン界面活性剤が含まれる。
次いで、先に用意したダイカストピンを200℃に加熱した状態で回転させながら、混合液(ガラス層前駆物質)をダイカストピンの表面にスプレー塗布した。塗布膜厚が約1μmになるようにスプレー塗布を複数回(例えば5,6回)繰り返した(第2工程)。塗布膜厚は、予め水溶性離型剤に混入させておいた蛍光塗料の蛍光強度を測定することにより求めた。
次いで、混合液(ガラス層前駆物質)がスプレー塗布(被覆)されたダイカストピンを300℃の雰囲気中で15分間加熱し、その後、さらに、500℃の雰囲気中で30分間加熱した(第3工程)。この加熱により混合液中の有機溶媒および水が除去されるとともに、ケイ素酸化物、Mg(OH)、MgOが結合してガラス層が形成された。また、形成されたガラス層がダイカストピンの表面に固着した。このようにして、表面処理被膜としてのガラス層が被覆されたダイカストピン(サンプル1)を作製した。
ダイカストピンの表面に固着したガラス層をEPMA分析、X線回折、FT−IR、およびXPS等の方法で成分分析したところ、SiO(xは正の整数)、MgO、Mg(OH)が含まれていた。また、ガラス層の膜厚は約0.2μmであった。なお、ガラス層の膜厚は、ガラス層が被覆されたダイカストピンを切断してその断面をSEMで撮影した画像(断面SEM画像)から求めた。
(第2実施例)
熱間ダイス鋼(SKD61)からなるダイカストピンを用意した。また、第1実施例と同じ水溶性離型剤に最大粒径が0.1μm以下の水酸化アルミニウム(Al(OH))粉末を約1mass%入れて溶解、混合することにより混合液(ガラス層前駆物質)を調整した(第1工程)。
次いで、第1実施例と同様な方法で第2工程および第3工程を実施し、ダイカストピンの表面にガラス層を固着させた。このようにして、表面処理被膜としてのガラス層が被覆されたダイカストピン(サンプル2)を作製した。ダイカストピンの表面に固着したガラス層を実施例1と同様の方法で成分分析したところ、SiO(xは正の整数)、Al、Al(OH)が含まれていた。また、断面SEM画像から求めたガラス層の膜厚は約0.2μmであった。
(第3実施例)
熱間ダイス鋼(SKD61)からなるダイカストピンを用意した。また、第1実施例と同じ水溶性離型剤に最大粒径が0.1μm以下の炭酸カルシウム(CaCO)粉末を約1mass%入れて溶解、混合することにより混合液(ガラス層前駆物質)を調整した(第1工程)。
次いで、第1実施例と同様な方法で第2工程および第3工程を実施し、ダイカストピンの表面にガラス層を固着させた。このようにして、表面処理被膜としてのガラス層が被覆されたダイカストピン(サンプル3)を作製した。ダイカストピンの表面に固着したガラス層を実施例1と同様の方法で成分分析したところ、SiO(xは正の整数)、CaCO、Ca(OH)が含まれていた。また、断面SEM画像から求めたガラス層の膜厚は約0.2μmであった。
(第4実施例)
まず、PVD法でTiAlN膜が表面にコーティングされたダイカストピン(以下、TiAlNコーティングダイカストピン)を用意した。また、市販のテトラエトキシシラン(Si(OC)とチタンアルコキシド(TiAlO)を、エタノール溶媒を用いて所定量混合した。次いで、混合液をゾルゲル法により加水分解するとともに加熱することによって、SiO:TiOが1:1となる、厚さ0.15μmのゲル状のガラス層前駆物質を形成した(第1工程)。
形成したゲル状のガラス層前駆物質にTiAlNコーティングダイカストピンを浸漬することにより、TiAlNコーティングダイカストピンの表面にガラス状前駆物質を被覆した(第2工程)。
ガラス層前駆物質が被覆されたTiAlNコーティングダイカストピンを450℃の雰囲気中で30分間加熱した(第3工程)。この加熱によりガラス層前駆物質中の有機溶媒が除去されるとともにSiOとTiOが結合してガラス層が形成される。また、形成されたガラス層がTiAlNコーティングダイカストピンの表面に固着した。このようにして、表面処理被膜としてのガラス層が被覆されたTiAlNコーティングダイカストピン(サンプル4)を作製した。
(比較例)
比較例1として、ガラス層が被覆されていないSKD61からなるダイカストピン(サンプル5)を用意した。また、比較例2として、ガラス層が被覆されていないTiAlNコーティングダイカストピン(サンプル6)を用意した。
(焼き付き状況の確認試験)
サンプル1〜6を、それぞれダイカスト金型のキャビティ内にセットし、500tのダイカストマシンを使用してキャビティ内にアルミニウム溶湯(ADC12)を繰り返し射出し鋳造を行った。なお、型開きして鋳物を取り出した後には、通常の水溶性離型剤を塗布した。そして、アルミニウム溶湯のショット数と、各サンプルへのアルミニウム金属の焼き付き状況(凝着状況)を調査した。
試験結果を表1に示す。
Figure 2015006681
表1からわかるように、ガラス層を被覆していないダイカストピン(比較例1)は、アルミニウム溶湯の射出を45ショット繰り返した時点で、製品の許容寸法(60μm)を越える厚みのAlがピンに凝着した。一方、ガラス層を被覆したダイカストピン(実施例1〜3)は、アルミニウム溶湯の射出を105ショット(あるいは150ショット)繰り返した時点でも、許容寸法を越える厚みのAlは凝着しなかった。また、ガラス層を被覆していないTiAlNコーティングダイカストピン(比較例2)は、アルミニウム溶湯の射出を45ショット繰り返した時点で25μmの厚みのAlが凝着したが、ガラス層を被覆したTiAlNコーティングダイカストピン(実施例4)は、アルミニウム溶湯の射出を180ショット繰り返した時点でも15μmの厚みのAlしか凝着しなかった。これらのことから、本実施例のガラス層をダイカスト金型部材に被覆することにより、金属溶湯の焼き付きを長期にわたり効果的に防止できることがわかる。
なお、上記実施例では第2金属としてMg、Al、Caを用いているが、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属であれば、どのような金属を用いても良い。また、ケイ素酸化物および複数の第2金属を用いてガラス層を形成してもよい。本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。

Claims (7)

  1. ダイカスト金型部材の表面に被覆され、ケイ素酸化物と、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属である第2金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種とを含むガラス層により構成される、ダイカスト金型用表面処理被膜。
  2. 請求項1に記載のダイカスト金型用表面処理被膜において、
    前記第2金属が、Mg、Ca、Al、Ti、Ba、およびZrからなる群より選択される少なくとも一種である、ダイカスト金型用表面処理被膜。
  3. 請求項1または2に記載のダイカスト金型用表面処理被膜において、
    前記第2金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種は、MgO、Al、TiO、BaO、ZrO、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、Ba(OH)、MgCO、CaCO、およびBaCOからなる群より選択される少なくとも一種である、ダイカスト金型用表面処理被膜。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のダイカスト金型用表面処理被膜において、
    ケイ素の原子組成百分率が5at%以上50at%以下である、ダイカスト金型用表面処理被膜。
  5. ケイ素酸化物と、ケイ素よりも酸化物形成能の高い金属である第2金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種とを、溶媒に混合させることによりガラス層前駆物質を生成する第1工程と、
    前記ガラス層前駆物質をダイカスト金型部材に被覆する第2工程と、
    前記ガラス層前駆物質が被覆されたダイカスト金型部材を加熱する第3工程と、
    を含む、ダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法。
  6. 請求項5に記載のダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法において、
    前記第2金属が、Mg、Ca、Al、Ti、Ba、およびZrからなる群より選択される少なくとも一種である、ダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法。
  7. 請求項5または6に記載のダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法において、
    前記第2金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種は、MgO、Al、TiO、BaO、ZrO、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、Ba(OH)、MgCO、CaCO、およびBaCOからなる群より選択される少なくとも一種である、ダイカスト金型部材への表面処理被膜の形成方法。
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