JP2014141761A - 炭素繊維束およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた引張弾性率、接着強度の炭素繊維を提供すること、また、そのような炭素繊維を用いることで、極めて少ない量の炭素繊維使用量の炭素繊維強化複合材料においても優れた機械強度を発現させること。
【解決手段】ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化、予備炭素化されてなる予備炭素化繊維束を、1200〜2000℃の不活性雰囲気中において、張力13〜18mN/dtexで炭素化する、炭素化時の予備炭素化繊維束の束強度の試長依存性係数mPBが10〜40の炭素繊維束の製造方法、ないし、結晶子サイズLc(nm)が1.7〜5.6であり、かつ結晶配向度π002(%)が、3.1×Lc+82<π002<3.1×Lc+83を満たし、かつ束強度の試長依存性係数mCBが12〜40の炭素繊維束である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、引張弾性率、マトリックスに対する接着強度などの機械的特性と、不連続繊維への加工性及び炭素繊維束としての均一性を高いレベルで両立した炭素繊維束およびその製造方法に関する。
炭素繊維束は、その高い比強度、比弾性率から繊維強化複合材料の強化繊維として航空機に用いられ、航空機の軽量化に貢献してきた。近年、この流れは加速しており、適用部材の拡大、大型部材への適用が進められつつあり、特にストランド弾性率を中心とした、さらなる機械的特性の向上、さらには炭素繊維束としての安定した機械的特性の発現が求められている。
また、従来の航空機やスポーツ用途に加え、自動車、風車、電子機器筐体などの産業用途へと、近年、益々その適用範囲が拡がりつつある。産業用途においては、炭素繊維の高い機械的特性はそのままに、金属材料や、ガラス繊維強化複合材料など現行材料と同等の経済性が求められている。そのニーズに応えるためには、高価な炭素繊維のコストダウンだけではなく、さらなる炭素繊維の機械的特性の向上による構造部材の軽量化(部材使用量の削減)を図り、その軽量化に伴う炭素繊維使用量の低減が望まれている。また、炭素繊維のコストだけではなく、炭素繊維強化複合材料のコストを考慮すると、炭素繊維強化複合材料の成形コストが重要であり、産業用途で特に多用される不連続繊維への炭素繊維の加工性向上が重要である。
さきに述べた炭素繊維の使用量低減のためには、炭素繊維強化複合材料の剛性を支配する炭素繊維の引張弾性率の向上が最も効果的であり、また、炭素繊維の引張強度やマトリックスに対する接着強度と炭素繊維の引張弾性率との両立が重要である。
最も広く利用されているポリアクリロニトリル系炭素繊維束は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を200〜300℃の酸化性雰囲気下で耐炎化繊維へ転換する耐炎化工程、300〜3000℃の不活性雰囲気下で炭素化する炭素化工程を経て、工業的に製造される。炭素繊維束の引張弾性率は、炭素化工程における最高温度を高くするほど、高くできることが知られている。しかしながら、炭素化工程の最高温度を上げることによって、炭素繊維内部の結晶子サイズが増大し、得られる炭素繊維束の引張強度や接着強度は低下することが知られている。すなわち、炭素化工程の最高温度の制御を行う限り、炭素繊維束の引張弾性率と、引張強度や接着強度はいわゆるトレードオフの関係にある。そのため、炭素化工程の最高温度の制御以外で、引張弾性率を高める技術が必要である。
炭素繊維束の引張弾性率を炭素化工程の最高温度の制御に依らず向上させるためには、焼成時の延伸張力を高くすることにより、得られる炭素繊維束の配向度を高めることが有効であることが知られている。しかし、単に延伸張力を高めるだけでは、毛羽の発生や糸切れを誘発し、操業性の低下や、得られる炭素繊維束の品位の低下が避けられない。これまでに、高い延伸張力での焼成を安定して行うための技術がいくつか提案されている。
特許文献1には、単繊維強度分布から算出される束強度が特定の範囲である炭素繊維を黒鉛化することにより、安定して黒鉛化する技術が提案されている。しかしながら、該提案技術は、処理温度が2000℃以上の黒鉛化の技術であり、2000℃以下の炭素化工程での延伸には何ら着目されておらず、それらに着目する思想もなかったと言える。また、炭素繊維の単繊維強度分布を狭くすることが有効であり、その一つの指標であるワイブル係数mが5以上とすることが示されているが、このような強度分布の小さい炭素繊維を得るには、生産性の低下、ひいてはコストアップが避けられないのが実状である。
特許文献2には、ポリアクリロニトリル系重合体の分子量を高めることで、高い延伸張力においても毛羽の発生を抑制できる技術が提案されている。しかしながら、該提案技術では、ポリアクリロニトリル系重合体の分子量を高めることから、ポリアクリロニトリル前駆体繊維を製造する製糸工程における延伸性の低下、前駆体繊維の品位の低下が避けられず、結果として前駆体繊維の生産性が低下し、ひいては得られる炭素繊維のコストがアップしてしまうという観点で問題あった。また、高分子量化による炭素化工程における延伸張力の向上効果は小さく、引張弾性率と引張強度や接着強度を高いレベルで両立できるものではなかった。
また、特許文献3には、炭素化工程において複数の炭素化炉を用いて各々条件を設定して処理する技術が、特許文献4及び5には、耐炎化工程、予備炭素化工程において高延伸する技術が提案されている。しかしながら、該技術は、引張弾性率向上に効果的な炭素化工程での延伸や、延伸時の繊維束の束強度には何ら着目されておらず、それらに着目する思想もなかったと言える。
一方、焼成工程における工程通過性を向上させる目的で、前駆体繊維に交絡を加える技術(特許文献6〜9)、および、撚りを加える技術(特許文献10および11)が提案されている。しかしながら、該技術は、焼成工程での延伸には何ら着目されておらず、それらに着目する思想もなかったと言える。
上述したように、従来技術は、得られる炭素繊維の機械特性のみならず、コストや品位も含めた総合的な観点でも市場のニーズを満たすものではなく、さらなる進歩が望まれている。
特開平4−222229号公報 特開2008−308776号公報 特開2005−179794号公報 国際公開2008/063886号パンフレット 特開2004−316052号公報 特開2001−49536号公報 特開平10−195718号公報 特開2000−160436号公報 特公昭47−026964公報 特開昭56−091015号公報 特開2002−001725号公報
本発明は、優れた引張弾性率、引張強度、接着強度を有する炭素繊維束を提供することを目的する。また、そのような炭素繊維束を用いることで、従来の炭素繊維束と比較し、より少ない炭素繊維使用量で優れたコンポジットの機械的特性を発現させることを目的とする。
本発明者らは、予備炭素化繊維束の強度の試長依存性を特定の状態に制御することにより、炭素化工程における最大延伸張力を飛躍的に向上でき、得られる炭素繊維束のストランド弾性率とストランド強度を高いレベルで両立できることを見出した。そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、予備炭素化繊維束の束強度の試長依存性を小さくすることにより、予備炭素化繊維束の、実際の炭素化時の試長における束強度を向上できるためと考えられる。かかる目的を達成する本発明は次の構成を有する。
(i)ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化、予備炭素化されてなる予備炭素化繊維束を、1200〜2000℃の不活性雰囲気中において、張力13〜18mN/dtexで炭素化する炭素繊維束の製造方法であって、炭素化時の予備炭素化繊維束の式(1)から算出される束強度の試長依存性係数mPBが10〜40である炭素繊維束の製造方法。
σP10000/σP10=(10000/10)−1/mPB ・・・式(1)
ここで、σP10000およびσP10はそれぞれ、試長10000mmおよび試長10mmの予備炭素化繊維束の束強度(GPa)である。
(ii)結晶子サイズLc(nm)が1.7〜5.6であり、かつ結晶配向度π002(%)が式(2)を満たし、かつ式(3)から算出される束強度の試長依存性係数mCBが12〜40である炭素繊維束。
3.1×Lc+82<π002<3.1×Lc+83 ・・・式(2)
σC10000/σC10=(10000/10)−1/mCB ・・・式(3)
ここで、σC10000およびσC10はそれぞれ、試長10mおよび試長10mmの炭素繊維束の束強度(GPa)。
本発明によれば、従来、毛羽が発生し断糸に至る高い炭素化延伸比においても、生産性とプロセス性を損なうことなく、高い引張弾性率レベルの炭素繊維束を安定して製造することができる。また、本発明の炭素繊維束は、高いストランド引張弾性率、接着強度を有し、かつ良好な取り扱い性、単繊維間の物性均一性を示し、カット、チョップド化した際に、極少ない使用量で同一性能を付与することができ、炭素繊維強化複合材料の低コスト化が可能となり、圧力容器部材、自動車部材、筐体等に好適に用いられる。また、本発明の炭素繊維束は、良好な単繊維間の物性均一性を示す為、大型部材向けのコンポジットにも好適に用いることができる。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化、予備炭素化されてなる予備炭素化繊維束を、1200〜2000℃の不活性雰囲気中において、張力13〜18mN/dtexで炭素化するものであって、炭素化時の予備炭素化繊維束の式(1)から算出される束強度の試長依存性係数mPBが10〜40である。
σP10000/σP10=(10000/10)−1/mPB ・・・式(1)
ここで、σP500およびσP10はそれぞれ、試長10000mmおよび試長10mmの予備炭素化繊維束の束強度(GPa)。
まず、本発明のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造方法を説明する。
本発明のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束製造に用いられるポリアクリロニトリル系重合体は、極限粘度が1.0〜3.0のものが好ましく、1.5〜2.4のものがより好ましい。極限粘度が1.0を下回るような低分子量のポリアクリロニトリル系重合体の場合、繊維軸方向の分子同士のつながりが低下するため、炭素化工程における延伸性を向上させるという本発明の効果が得られない場合がある。また、極限粘度は高い方が好ましいが3.0を超えるような高分子量のポリアクリロニトリル系重合体は、紡糸原液のゲル化が顕著となる場合ある。ポリアクリロニトリル系重合体の極限粘度は、重合時のモノマー、開始剤および連鎖移動剤などの量を変えることにより制御することができる。具体的には、重合開始時のモノマー濃度を高くする、開始剤濃度を低くする、連鎖移動剤の濃度を少なくすることにより、極限粘度を高めることができる。なお、本発明においてポリアクリロニトリル系重合体とは、少なくともアクリロニトリルが重合体骨格の主構成成分となっているものをいい、主構成成分とは、通常、重合体骨格の85〜100mol%を占めることを言う。
本発明の炭素繊維束製造に用いられるポリアクリロニトリル系重合体は、製糸性向上の観点および、耐炎化処理を効率よく行う観点等から、共重合成分を含むことが好ましい。一般に、共重合成分の量が少ないと、可塑性が低下し製糸延伸性が低下したり、耐炎化処理に時間を要したりする場合がある。また、共重合体の量が多いと耐熱性が低下し、融着が発生したり、耐炎化処理において暴走反応を引き起こしたりする場合がある。好ましい共重合成分の量としては、0.1〜3.0mol%であり、より好ましくは0.1〜1.0mol%、さらに好ましくは0.1〜0.5mol%である。
共重合成分としては、前記観点からカルボキシル基またはアミド基を一つ以上有するものが好ましく例示される。具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミドなどが好ましく例示される。耐熱性の低下を防止するという目的からは、耐炎化促進効果の高いモノマーを少量用いることが好ましく、アミド基よりもカルボキシル基を有する共重合成分を用いることが好ましい。また、含有されるアミド基とカルボキシル基の数は、1つよりも2つ以上であることがより好ましく、その観点からは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸およびメサコン酸が好ましく、イタコン酸、マレイン酸およびメサコン酸がより好ましく、中でも、イタコン酸が最も好ましい。本発明において、製糸性を向上させる目的から、さらに前記共重合成分以外にアクリレートやメタクリレートなどを併用することもできる。
本発明で用いられるポリアクリロニトリル系重合体を製造する重合方法としては、溶液重合、懸濁重合および乳化重合など公知の重合方法を選択することができるが、共重合成分を均一に重合する目的からは、溶液重合を用いることが好ましい。溶液重合で用いられる溶液としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどのポリアクリロニトリルが可溶な溶媒を用いることが好ましい。中でも、生成したポリアクリロニトリル系重合体の溶解性の観点から、ジメチルスルホキシドがより好ましく用いられる。
本発明のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束製造に用いられる紡糸原液は、前記したポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどのポリアクリロニトリルが可溶な溶媒に溶解したものである。溶液重合を用いる場合、重合に用いられる溶媒と紡糸溶媒を同じものにしておくと、得られたポリアクリロニトリル系重合体を分離し紡糸溶媒に再溶解する工程が不要となるため好ましい。本発明に用いるポリアクリロニトリル系重合体は濃度を10質量%以上25質量%未満の紡糸原液とすることが好ましい。該紡糸原液の濃度が10質量%に満たないと、炭素繊維束製造用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の紡糸原液に対する収率が悪く、また、該紡糸原液の濃度が25質量%を超えると、重合体の安定性が低下する場合がある。
本発明の炭素繊維束製造に用いられるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造方法は、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により紡糸口金から吐出させ紡糸する紡糸工程と、該紡糸工程で得られた繊維を水浴中で洗浄する水洗工程と、該水洗工程で得られた繊維を水浴中で延伸する水浴延伸工程と、該水浴延伸工程で得られた繊維を乾燥熱処理する乾燥熱処理工程からなり、必要に応じて、該乾燥熱処理工程で得られた繊維をスチーム延伸するスチーム延伸工程からなる。
本発明では、高いストランド強度を発現する炭素繊維束を得るため、前述紡糸原液を紡糸する前に目開き1μm以下のフィルターに通し、ポリアクリロニトリル系重合体原料および各工程において混入した不純物を除去することが好ましい。紡糸原液を、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により口金から紡出し、凝固浴に導入して繊維を凝固せしめる。得られる炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の緻密性を高め、また得られる炭素繊維束の力学物性を高める目的からは、乾湿式紡糸法を用いることが好ましい。
本発明において、前記凝固浴には、紡糸原液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記ポリアクリロニトリル系重合体を溶解せず、かつ紡糸原液に用いる溶媒と相溶性があるものを使用することができる。具体的には、凝固促進成分として水を使用することが好ましい。凝固浴中に紡糸した繊維糸条を導入して凝固せしめる紡糸工程の後、水洗工程、水浴延伸工程、乾燥熱処理工程および、必要に応じてスチーム延伸工程を経て、炭素繊維束製造用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束が得られる。
水洗工程における水浴温度は10〜60℃の複数段からなる水洗浴を用い水洗することが好ましい。また、水浴中延伸における延伸倍率は、1.3〜5.0倍であることが好ましく、より好ましくは2.0〜4.0倍である。水浴延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。かかるシリコーン油剤は、変性されたシリコーンを用いることが好ましく、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものを用いることができる。
前記した水洗工程、水浴延伸工程、油剤付与工程、乾燥熱処理工程の後、必要に応じ、スチーム延伸を行うことにより、炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束が得られる。
本発明において、乾燥熱処理は、繊維軸方向の結晶性を高める目的から、160〜200℃の温度で行うことが好ましい。乾燥熱処理は、糸条を加熱されたローラーに直接接触させても、加熱された雰囲気を走行させ非接触で乾燥させてもよいが、乾燥効率という観点からは、加熱されたローラーに直接接触させることが好ましく、糸条の含有水分量が1質量%となるまで乾燥し、繊維構造を緻密化させることが好ましい。
また、本発明において、スチーム延伸は、加圧スチーム中において、少なくとも3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは5倍以上延伸することがよい。前記した水洗工程、水浴延伸工程とスチーム延伸工程を含めたトータルの延伸倍率は、繊維軸方向の結晶性を高める観点から、11〜15倍であることが好ましい。延伸倍率が11倍を下回ると、繊維軸方向の結晶性が低くストランド強度が発現しにくく、また、延伸倍率が15倍を超えると延伸切れが顕著となり、得られるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束および炭素繊維束の品位が低下する場合がある。
本発明の炭素繊維束は、前記したポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化、予備炭素化、炭素化することにより得ることができる。
本発明において、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を空気中において耐炎化する温度は、暴走反応を生じない範囲でできるだけ高い温度で行うことが好ましく、具体的には200〜300℃が好ましい。耐炎化の延伸比は、得られる耐炎化繊維の配向性を高める観点で高いほど好ましいが、延伸比が高すぎると、毛羽発生、糸切れ発生によりプロセス性が低下することがあるため、両者を勘案して設定するのがよい。
本発明において、耐炎化の処理時間は、好適には10〜100分の範囲で適宜選択することができるが、続く予備炭素化工程のプロセス性および得られる炭素繊維束の力学物性向上の目的から、得られる耐炎化繊維束の比重が1.3〜1.4の範囲となるように設定することが好ましい。
本発明では、前記耐炎化に引き続いて、予備炭素化を行う。予備炭素化工程においては、得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中、最高温度500〜1300℃において、比重1.5〜1.8g/cmになるまで熱処理することが好ましい。
前記予備炭素化に引き続いて、炭素化を行う。炭素化工程においては、得られた予備炭化繊維束を1200〜2000℃の不活性雰囲気中において、張力13〜18mN/dtexで炭素化し、かつ、その際、予備炭素化繊維束の式(1)から算出される束強度の試長依存性係数mPBが10〜40であることが必須である。
σP10000/σP10=(10000/10)−1/mPB ・・・式(1)
ここで、σP10000およびσP10はそれぞれ、試長10mおよび試長10mmの予備炭素化繊維の束強度(GPa)である。
本発明において、不活性雰囲気に用いられる不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴンおよびキセノンなどが好ましく例示され、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。
炭素化工程の温度は、得られる炭素繊維束のストランド弾性率を高める観点からは、高い方が好ましいが、高すぎるとストランド強度が低下する場合があり、両者を勘案して設定するのが良い。より好ましい温度範囲は1200〜1800℃であり、さらに好ましい温度範囲は、1300〜1600℃である。
炭素化工程の張力は、炭素化炉出側で測定した張力(mN)を、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の絶乾時の総繊度(dtex)で除したものとする。該張力を制御することで、得られる炭素繊維束の結晶子サイズを変化させることなく、配向度を制御することができる。これは式(2)に関連するため、詳しくは後述する。そのため、炭素繊維のストランド弾性率を高める観点からは、該張力は高い方が好ましいが、高すぎると工程通過性や、品位が低下する場合があり、両者を勘案して設定するのが良い。より好ましい張力範囲は15〜18mN/dtexである。
本発明において、予備炭素化繊維束の束強度の試長依存性係数mPBは、式(1)で表されるように特定の試長において後述する方法で測定した束強度の比から算出することができる。該束強度の比が小さいほどmPBが大きくなる関係にある。一般に、炭素繊維のような脆性材料の強度は、測定する際の長さ、すなわち試長によって変化し、該試長が長くなるほど強度が低下することが知られており、mPBが大きいほどその低下が小さいことを意味する。本発明では、mPBを25以上とすることにより、予備炭素化繊維の試長の増加に対する強度低下を抑制することでき、炭素化工程における限界張力の向上を可能とするものである。mPBが40を超えた場合、10mの予備炭素化繊維束の束強度が低下して炭素化工程を通過しない。mPBは、より好ましくは15〜40であり、さらに好ましくは20〜40である。
前記した予備炭素化繊維束の束強度の試長依存性係数mPBを特定の範囲に制御する手段は、前記した数値範囲が達成できれば、どのような方法を採用することもできるが、炭素繊維単繊維の試長依存性係数を高める手法や、予備炭素化繊維束を構成する単繊維間の相互作用を強めることが挙げられる。炭素繊維単繊維の試長依存性係数とは、炭素繊維の単繊維強度分布をワイブル分布で評価したときのワイブル形状係数のことであり、一般的な炭素繊維のワイブル形状係数は3〜6程度の値であり、本発明の範囲であるmPBを25以上とすることは難しい場合があるために、なかでも予備炭素化繊維束を構成する単繊維間の相互作用を強めることが有効である。例えば、炭素化前に繊維束へ撚りや交絡を付与する、単繊維表面の摩擦係数を高めることなどが、好ましく例示できる。
より具体的には、耐炎化する際のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の撚り数を0〜1ターン/mとし、かつ、耐炎化終了後炭素化を行うまでの間において、繊維束に流体交絡処理を行うことが好ましい。
また、同様に、耐炎化する際のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の撚り数を0〜1ターン/mとし、かつ、炭素化する際の予備炭素化繊維束の撚り数を20〜45ターン/mとすることも好ましい。
耐炎化する際のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の撚り数を0〜1ターン/mに制御することにより、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束内に耐炎化反応に必要な空気が十分供給され、単繊維ごとの耐炎化状態が均一となり、いわゆる焼成ムラが小さい状態とすることができ、好ましい。このような焼成ムラの無い耐炎化繊維束に対して、流体交絡処理や、撚りの付与を行うことにより、束強度の試長依存性係数mPBを制御することが容易となり、高い張力で炭素化することが可能となる。一方、耐炎化繊維束に対して、流体交絡処理や撚りの付与を行わなかった場合、炭素繊維の単繊維強度ワイブル形状係数の数値とかかるmPBは同等の値であり、高い張力で炭素化することはできない。
流体交絡処理は、ノズルを用いて流体を繊維束に吹き付けることが好ましく、流体を吹き付けるノズル形状は特に限定されないが、2〜8箇所の噴出孔を有するものが好ましい。噴出口の配置は特に限定されないが、繊維束長手方向と流体の吹き付け方向の成す角が88°〜90°の範囲となるよう繊維束を取り囲むように偶数個の噴出孔を配置し、各々の噴出孔が2孔で1組となるよう対向する位置に配置することが好ましい。
流体交絡処理に用いる流体としては、空気又は窒素などの気体、水などの液体とも用いることができるが、空気が安価な為好ましい
本発明における流体交絡処理は、繊維束の撚り数が0〜1ターン/m、繊維束の張力が2〜5mN/dtexの状態とし、流体の吐出圧力を0.2〜4MPa−Gに設定するのが好ましい。また、より好ましくは該張力が2〜3mN/dtexであり、該吐出圧力が0.25〜0.35MPa−Gである。
流体交絡処理時の張力を前期範囲とすることにより、繊維束がノズルに接触して糸痛みや傷が発生することなく、単繊維の旋回運動が促進され、好ましい交絡を形成することができる。また、流体交絡処理時の流体の吐出圧力を前期範囲とすることにより、流体によって糸痛みや傷が発生することなく、単繊維の旋回運動が促進され、好ましい交絡を形成することができる。
流体交絡処理時の繊維束を構成する単繊維の本数は、12000本以下が好ましく、より好ましくは6000本以下である。該単繊維本数が少ないほど、束全体にムラなく交絡を導入することができる点で好ましい。
予備炭素化繊維束の撚り数を20〜45ターン/mに制御する方法としては、耐炎化終了後または、予備炭素化終了後の予備炭素化繊維束を一旦ボビンに巻き取り、予備炭素化繊維束を巻き出す際にボビンを巻き出し方向に対して直交する面に旋回させる方法や、ボビンに巻き取らず走行中の予備炭素化繊維束に対して回転するローラーやベルトを接触させ撚りを付与する方法が好ましく例示できる。
本発明では、得られた予備炭化繊維束の炭素化工程において、試長10mの予備炭素化繊維束の束強度が0.8〜2.0GPaであることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.0GPaである。試長10mの予備炭素化繊維束の束強度が0.8GPa以上であれば、炭素化工程における限界張力が向上できることがあり、かかる束強度が高いほど好ましいが、2.0GPaが工業的な上限である。予備炭素化繊維束の試長10mmでの束強度を高め、予備炭素化繊維束の試長依存性係数が大きくなるように制御することで試長10mの予備炭素化繊維束の束強度を高めることができる。なお、本発明者らは、炭素化工程は高温での繊維束引張状態であり、かつ繊維の構造変化を伴うにもかかわらず、室温で測定した試長10mの予備炭素化繊維束の束強度と良く比例することを見出し、本発明に至ったのである。
前記製造方法で得られた炭素繊維束は、さらに1500〜3000℃の不活性雰囲気において炭素化し、用途に応じてストランド弾性率や接着強度を適宜調整してもよい。
さらに、その表面改質のため、電解処理を行うことができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アンモニウムのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維束の炭素化度に応じて適宜選択することができる。かかる電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が適正化でき、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題、繊維方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないというような問題が解消され、得られる炭素繊維強化複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
かかる電解処理の後、得られた炭素繊維束に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、炭素繊維強化複合材料に使用されるマトリックス樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
次に本発明の炭素繊維束について説明する。
本発明の炭素繊維束は、結晶子サイズLc(nm)が1.7〜5.6であり、かつ結晶配向度π002(%)が式(2)を満たし、かつ、本発明の炭素繊維束は、式(3)から算出される束強度の試長依存性係数mCBが12〜40であると良い。
3.1×Lc+82<π002<3.1×Lc+83 ・・・式(2)
σC10000/σC10=(10000/10)−1/mCB ・・・式(3)
ここで、σC10000およびσC10はそれぞれ、試長10mおよび試長10mmの炭素繊維束の束強度(GPa)である。
炭素繊維束の結晶子サイズは、炭素繊維中の結晶化の度合いを示すものであり、該サイズが高いほど結晶配向度が高まり引張弾性率発現の観点から好ましいが、炭素繊維の引張強度や接着強度が低下することがあるため、用途に応じて調整するのが良い。本発明の炭素繊維束の結晶子サイズのより好ましい範囲は、1.7〜2.4nmである。該サイズは、炭素化の温度や時間によって制御することができる。
炭素繊維束の結晶配向度は、炭素繊維束の弾性率と良い相関があることが知られており、弾性率を高める観点からは、高いほど好ましい。本発明の炭素繊維束の結晶配向度は、本発明の目的を達成するため、式(2)を満たすことが必須である。前記したとおり、結晶子サイズが高まるほど、結晶配向度が高まる傾向にあるが、本発明の炭素繊維束は、その結晶子サイズと結晶配向度の関係が従来の炭素繊維束と異なり、同一結晶子サイズの時の結晶配向度が高いという特徴を有する。従来の炭素繊維束の結晶子サイズと結晶配向度の関係は、おおよそ3.1×Lc+76≦π002<3.1×Lc+81の範囲内であった。
式(2)を満たす範囲に結晶配向度を制御する方法は、前記したように炭素化における張力を高めることが好ましく例示できる。しかし、従来の炭素繊維束の製造方法では、炭素化における張力を高めると、繊維破断が起こり、ローラーへの巻きつきなどによるプロセス性の低下が生じ、結果として得られる炭素繊維束の品位も低いものであった。
また、本発明の炭素繊維束は、式(3)から算出される束強度の試長依存性係数mCBが12〜40であると良い。
σC10000/σC10=(10000/10)−1/mCB ・・・式(3)
ここで、σC10000およびσC10はそれぞれ、試長10mおよび試長10mmの炭素繊維束の束強度(GPa)である。
本発明において、炭素繊維束の束強度の試長依存性係数mCBは、式(3)で表されるように特定の試長において後述する方法で測定した束強度の比から算出することができる。該束強度の比が小さいほどmCBが大きくなる関係にある。一般に、炭素繊維のような脆性な材料の強度は、測定する際の長さ、すなわち試長によって変化し、該試長が長くなるほど強度が低下することが知られているが、mCBが大きいほどその低下が小さいことを意味する。本発明の炭素繊維束は、mCBが12〜40であり、従来の炭素繊維と比較して試長の増加に対する強度低下が小さい特徴を有する。
炭素繊維束を複合材料に加工する際には、炭素繊維束をボビンから引き出し、ローラーで搬送することが必須であるが、近年の部材の大型化、加工法の多様化、高度化により、搬送距離の長スパン化、搬送速度、搬送張力の増加が進展している。本発明の炭素繊維束は、試長が長くなっても束強度の低下が小さく、安定しているという特徴を有することから、炭素繊維強化複合材料加工時のプロセス性に優れる。
本発明の炭素繊維束の束強度の試長依存性係数mCBは、より好ましくは20〜40であり、さらに好ましくは25〜40である。
本発明の炭素繊維束は試長10mの炭素繊維束の束強度が1.9〜4.0GPaであることが好ましく、より好ましくは2.2〜4.0GPaであり、さらに好ましくは2.6〜4.0GPaである。試長10mの炭素繊維束の束強度が1.9GPa以上であれば、複合材料加工時のプロセス性に優れ、かかる束強度が高いほど好ましいが、4.0GPaが工業的な上限である。炭素繊維束の試長10mmでの束強度を高め、炭素繊維束の試長依存性係数が大きく制御するほど試長10mの炭素繊維束の束強度を高めることができる。
また、本発明の炭素繊維束は試長10mmの炭素繊維束を用いた束強度のワイブル形状係数m’が25〜40であることが好ましく、より好ましくは27〜40であり、さらに好ましくは29〜40である。m’が25未満であると複合材料加工時のプロセス性に劣る場合があり、m’が40を超えると試長10mmの炭素繊維束の束強度を低下させることがある。炭素繊維束の試長10mmにおける束強度のワイブル形状係数m’は、単繊維の引張強度50点を強度順にワイブルプロットをして、その傾きから求める。ワイルブルプロットで用いる、累積破壊確率を求めるためのランク法は、対称試料累積分布法を用いる。
本発明の炭素繊維束を構成する炭素繊維1本の1mあたりに存在する単繊維破断端数が0.015〜0.2個/m・本であることが好ましい。該破断端数は、後述する方法で測定でき、炭素繊維束の品位の指標である。本発明の炭素繊維束は、従来の炭素繊維束と比較し、同一結晶子サイズの時の結晶配向度が高く、かつ、高い結晶配向度の割には品位にも優れると言う特徴を有する。炭素繊維束に対する張力を一定にした場合、通常の炭素化工程では一定確率で炭素繊維単繊維の破断が起こり、残りの炭素繊維で荷重を受け持つため、炭素化工程中の炭素繊維束全体の単繊維数のうち破断した単繊維数の割合が多くなるほどさらなる単繊維の破断を誘起しやすくなり、最終的には炭素繊維束全体の破断が起こりやすくなる。本発明の炭素繊維束では、単繊維のいくつかの破断が起こっても残りの単繊維の破断を誘起しにくいために、単繊維破断端数が増えても、炭素繊維束全体の破断はなくプロセスすることができる。また、該破断端数を前記範囲にすることにより、炭素繊維束を炭素繊維強化複合材料に加工する際のプロセス性低下を抑制することができ、より好ましい範囲は、0.09〜0.2個/m・本である。
前記した特徴を得る手段としては、前記したように予備炭素化繊維の試長依存性係数を制御しつつ、炭素化における張力を高める方法が好ましく例示できる。
本明細書に記載の各種物性値の測定方法は以下の通りである。
<予備炭素化繊維束および炭素繊維束の試長10mmにおける束強度σP10、σC10、炭素繊維束の試長10mmにおける束強度のワイブル形状係数m’>
試長10mmの束強度は、JIS L1013(2010年)に基づき、以下の手順で測定する。測定に供する繊維束を、試長10mmに調整したゴムフェイスを貼り付けたエアーチャックを用いて引張試験機に取り付ける。クロスヘッド速度200mm/分で引張試験を行い、最高強度を束強度とした。50回の測定の算術平均値を10mmの束強度σP10、σC10とする。炭素繊維束の試長10mmにおける束強度のワイブル形状係数m’は、単繊維の引張強度50点を強度順にワイブルプロットをして、その傾きから求めた。ワイルブルプロットで用いる、累積破壊確率を求めるためのランク法は、対称試料累積分布法を用いる。
なお、後述の実施例および比較例においては、上記引張試験機として、エーアンドディー製テンシロン万能引張試験機RTC−1210Aを用いる。
<予備炭素化繊維束および炭素繊維束の試長10mにおける束強度σP10000、σC10000、試長依存性係数mPB、mCB
試長10mの束強度は、以下の手順で測定する。1組の駆動ロールを、該ロールの頂点間距離が10mとなるように設置する。測定に供する繊維束を両駆動ロールに掛け、片方の駆動ロールは停止したまま、もう片方の駆動ロールを70mm/分で回転させ、引張試験を行う。引張試験中の繊維束の張力をテンションメーターで測定し、断糸に至るまでの間の最高張力を束強度とする。10回の測定の算術平均値を10mの束強度σP10000、σC10000とした。なお、駆動ロール上で繊維束がスリップしないよう、適宜、接触角、ロール材質を選択する。試長依存性係数mPB、mCBは、式(1)と式(2)にそれぞれ束強度σP10、σC10、束強度σP10000、σC10000を代入することで計算する。
<炭素繊維束の結晶子サイズLc及び結晶配向度π002
測定に供する炭素繊維を引き揃え、コロジオン・アルコール溶液を用いて固めることにより、長さ4cm、1辺の長さが1mmの四角柱の測定試料を用意する。用意された測定試料について、広角X線回折装置を用いて、次の条件により測定を行う。
1.結晶子サイズLcの測定
・X線源:CuKα線(管電圧40kV、管電流30mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=10〜40°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.02°、計数時間2秒。
得られた回折パターンにおいて、2θ=25〜26°付近に現れるピークについて、半値幅を求め、この値から、次のシェラー(Scherrer)の式により結晶子サイズを算出する。
結晶子サイズ(nm)=Kλ/βcosθ
但し、
K:1.0、λ:0.15418nm(X線の波長)
β:(β −β 1/2
β:見かけの半値幅(測定値)rad、β:1.046×10−2rad
θ:Braggの回析角。
2.結晶配向度π002の測定
上述した結晶ピークを円周方向にスキャンして得られる強度分布の半値幅から次式を用いて計算して求める。
π002=(180−H)/180
但し、
H:見かけの半値幅(deg)
上記測定を3回行い、その算術平均を、その炭素繊維の結晶子サイズ及び配向度とする。
なお、後述の実施例および比較例においては、上記広角X線回折装置として、島津製作所製XRD−6100を用いる。
<炭素繊維束破断端数>
炭素繊維束の破断端数は以下の通りにして求める。鏡面加工を施した2本の固定ガイドを30cmの間隔で横方向に配置し、測定に供する炭素繊維束をテープで該ガイドに固定する。ガイド間の30cmの炭素繊維束のすべての単繊維について培養針を用いて束を広げながら、破断部の個数をカウントする。束を広げる際に、単繊維が破断してしまった場合は、その部分はカウントから除外する。なお、測定は3回行い、3回の総カウント数から炭素繊維束破断端数は次式により定義される。
炭素繊維束破断端数(個/m・本)=3回のすべての単繊維の破断部の総カウント数(個)/炭素繊維束フィラメント数(本)×100/30/3。
<炭素繊維の単繊維引張強度とワイブル形状係数m
炭素繊維の単繊維引張強度は、JIS R7606(2000年)に基づいて、以下の通りにして求める。つまり、まず、20cm程度の炭素繊維の束をほぼ4等分し、4つの束から順番に単糸をサンプリングして束全体からできるだけまんべんなくサンプリングする。サンプリングした単糸は、穴あき台紙に接着剤を用いて固定する。単糸を固定した台紙を引張試験機に取り付け、ゲージ長25mm、歪速度1mm/分、試料数50で引張試験をおこなう。炭素繊維の引張強度は以下の式で定義される。
引張強度=(得られる強度)/(単繊維の断面積)。
単繊維の断面積は、測定する繊維束について、単位長さ当たりの質量(g/m)を密度(g/m)で除して、さらにフィラメント数で除して求める。密度は、比重液をo−ジクロロエチレンとしてアルキメデス法で測定した。ワイブル形状係数は、単繊維の引張強度50点を強度順にワイブルプロットをして、その傾きから求めた。ワイルブルプロットで用いる、累積破壊確率を求めるためのランク法は、対称試料累積分布法を用いる。
<各繊維束の比重>
測定する繊維束について、1mサンプリングし、比重液をo−ジクロロエチレンとしてアルキメデス法で測定した。試料数は3で試験を行った。
<フックドロップ法による交絡度(CF値)>
フックドロップ法による繊維束の交絡度は、JIS L1013(2010年)に基づいて、以下の通りにして求める。すなわち、測定に供する繊維束を垂下装置の上部にクリップで固定し、繊維束下端にクリップで50gの錘をぶらさげ、試料を垂直にたらす。試料上部固定端から1cm下に、繊維束を2分割するように、直径0.6mmの表面を滑らかに仕上げた重さ10gのフックを挿入し、その降下距離を50回測定し、その算術平均値より下記式で算出する。
交絡度(CF値)=1000/フック降下距離の50回算術平均値(mm)。
<炭素繊維のストランド引張強度および引張弾性率>
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
以下に記載する実施例1〜7および比較例1〜29は、次の包括的実施例に記載の実施方法において、表1に記載の各条件を用いて行ったものである。
包括的実施例:
アクリロニトリル99.5mol%とイタコン酸0.5mol%からなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒とし、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを開始剤として溶液重合法により重合させ、ポリアクリロニトリル系共重合体を製造した。製造されたポリアクリロニトリル系重合体に、アンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込み、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基をポリアクリロニトリル系共重合体に導入し、紡糸原液を得た。得られた紡糸原液を、40℃で、直径0.15mm、孔数3,000の紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約4mmの空間を通過させた後、3℃にコントロールした35%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条とした。
この凝固糸条を、常法により水洗した後、水浴延伸工程を独立した2槽の温水槽を用い、3.5倍の延伸を行い、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与した後、160℃の加熱ローラーを用いて、乾燥緻密化処理を行い、次いで、加圧スチーム中で3.7倍延伸することにより、製糸全延伸倍率を13倍とし、単繊維繊度0.7dtex、単繊維本数3,000本のポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得た。次に、得られたアクリル系繊維を4本合糸し、単繊維本数12,000本とし、温度240〜260℃の空気中において、延伸比1.0で延伸しながらで耐炎化処理し、比重1.34〜1.36g/cmの表1記載の耐炎化繊維束を得た。得られた耐炎化繊維束に、表1記載の流体圧でエアーを吹き付けた後、同表記載の撚り数を加えた後、窒素雰囲気中で温度300〜800℃に温度勾配のついた炉において、延伸比1.15で延伸しながら予備炭素化処理を行い、表1記載の予備炭素化繊維束を得た。得られた予備炭素化繊維束を、窒素雰囲気中において、表1記載の炭素化温度の炭素化炉にて、表1記載の張力で炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維束について、炭素繊維単繊維強度(単繊維引張強度)(GPa)、ストランド引張弾性率(GPa)、結晶子サイズLc(nm)、結晶配向度π002(%)炭素繊維単繊維ワイブル形状係数m、炭素繊維束ワイブル形状係数m’、試長依存性係数mCB、及び炭素繊維束強度σC10000(GPa)、炭素繊維CF値を測定した。各測定結果を表2に示す。
[実施例1]
包括的実施例記載の方法で表1記載の耐炎化繊維束を得、表1記載の流体圧でエアーを噴きつけ、交絡を導入した後、包括的実施例の方法で予備炭素化処理を行い、次いで、表1記載の炭素化温度及び張力で炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。また、結晶配向度は式(2)を満足し、束強度の試長依存性係数mCBが高いものであった。
[実施例2]
包括的実施例記載の方法で表1記載の耐炎化繊維束を得、表1記載の流体圧でエアーを噴きつけ、交絡を導入した後、表1記載の撚り数の撚りを加え、包括的実施例の方法で予備炭素化処理を行い、次いで、表1記載の炭素化温度及び張力で炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。また、結晶配向度は式(2)を満足し、束強度の試長依存性係数mCBが高いものであった。
[実施例3]
表1記載の流体圧でエアーを噴きつけ、交絡を導入した後、表1記載の撚り数の撚りを加え、張力を表1記載の条件とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は低下傾向を示したが、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。また、結晶配向度は式(2)を満足し、束強度の試長依存性係数mCBが高いものであった。
[実施例4]
包括的実施例記載の方法で表1記載の耐炎化繊維束を得、表1記載の流体圧でエアーを噴きつけ、交絡を導入した後、包括的実施例の方法で予備炭素化処理を行い、次いで、表1記載の炭素化温度及び張力で炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。また、結晶配向度は式(2)を満足し、束強度の試長依存性係数mCBが高いものであった。
[実施例5]
包括的実施例記載の方法で表1記載の耐炎化繊維束を得、表1記載の撚り数の撚りを加え、包括的実施例の方法で予備炭素化処理を行い、次いで、表1記載の炭素化温度及び張力で炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。また、結晶配向度は式(2)を満足し、束強度の試長依存性係数mCBが高いものであった。
[実施例6]
表1記載の流体圧でエアーを噴きつけ、交絡を導入した後、表1記載の撚り数の撚りを加え、張力を表1記載の条件とした以外は、実施例5と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は低下傾向を示したが、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。また、結晶配向度は式(2)を満足し、束強度の試長依存性係数mCBが高いものであった。
[実施例7]
実施例6で得た炭素繊維束を、炭素化温度2500℃及び延伸比を1.0として窒素中で追加炭素化した以外は、実施例6と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。また、結晶配向度は式(2)を満足し、束強度の試長依存性係数mCBが高いものであった。
[比較例1]
エアー吹き付けによる交絡及び撚りを加えなかった以外は包括的実施例記載の方法で予備炭素化繊維束を得た。次いで、特許文献10に倣い、炭素化工程を3炉に分けて、第1炭素化炉を最高温度1000℃、張力2.5mN/dtex、第2炭素化炉を最高温度1200℃、張力2.5mN/dtex、第3炭素化炉を表1記載の炭素化温度及び張力で炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であったが、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は毛羽が多いものであった。また、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例2]
比較例1と同様に予備炭素化繊維束を得た。次いで、特許文献10に倣い、炭素化工程を3炉に分けて、第1炭素化炉を最高温度1000℃、張力2.5mN/dtex、第2炭素化炉を最高温度1200℃、張力2.5mN/dtex、第3炭素化炉を表1記載の炭素化温度及び張力で炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例3]
第3炭素化炉の温度を表1記載の条件とした以外は、比較例1と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であったが、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は毛羽が多いものであった。また、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例4]
エアー吹き付けによる交絡及び撚りを加えなかった以外は包括的実施例記載の方法で予備炭素化繊維束を得た。次いで、表1記載の炭素化温度及び張力で炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例5]
炭素化温度を表1記載の条件とした以外は、比較例4と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例6]
炭素化温度及び張力を表1記載の条件とした以外は、比較例4と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例7]
比較例4と同様に予備炭素化繊維束を得た。次いで、表1記載の張力で炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例8]
炭素化温度及び張力を表1記載の条件とした以外は、比較例4と同様に炭素繊維束を得た。炭化素工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例9]
炭素化温度及び張力を表1記載の条件とした以外は、比較例4と同様に炭素繊維束を得た。炭化素工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例10]
炭素化温度及び張力を表1記載の条件とした以外は、比較例4と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例11]
炭素化温度及び張力を表1記載の条件とした以外は、比較例4と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例12]
炭素化温度及び張力を表1記載の条件とした以外は、比較例4と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は低下傾向を示したが、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例13]
比較例4と同様に予備炭素化繊維束を得た。次いで、表1記載の張力で炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例14]
特許文献3に倣い、開始剤濃度を低減して重合を行ったこと、エアー吹き付けによる交絡及び撚りを加えなかった以外は包括的実施例記載の方法で予備炭素化繊維束を得た。次いで、表1記載の炭素化温度及び張力で炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例15]
炭素化温度を変更した以外は比較例14と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例16]
炭素化温度を変更した以外は比較例14と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは低く、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例17]
比較例16と同様に予備炭素化繊維束を得た。次いで、表1記載の張力で炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例18]
炭素化温度及び張力を変更した以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは高かったものの、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例19]
実施例6と同様に予備炭素化繊維束を得た。次いで、表1記載の張力で炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例20]
流体圧を表1記載の条件とした以外は、実施例1と同様に予備炭素化繊維束を得て、炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例21]
流体圧及び撚り数を表1記載の条件とした以外は、実施例1と同様に予備炭素化繊維束を得て、炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例22]
流体圧及び撚り数を表1記載の条件とした以外は、実施例1と同様に予備炭素化繊維束を得て、炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例23]
流体圧及び撚り数を表1記載の条件とした以外は、実施例1と同様に予備炭素化繊維束を得て、炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例24]
特許文献9に倣い、炭素化炉入り側において、張力下で表1記載の条件の流体圧で交絡を導入、撚りを加えなかった以外は、実施例5同様に炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例25]
特許文献7,8に倣いポリアクリロニトリル系前駆体繊維に表1記載の撚り数を付与した後、
包括的実施例に従い耐炎化、予備炭化を行い、実施例5同様の炭素化条件にて炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例26]
アミノ変性シリコーン系シリコーン油剤として、アミノ変性シリコーン50質量部、エポキシ変性シリコーン25質量部、ポリエーテル変性シリコーン25質量部、反応性界面活性剤として旭電化工業(株)製アデカリアソープNE−10を30質量部、水4000質量部からなる油剤とした以外は、包括的実施例に従い製糸、耐炎化、予備炭化を行い、実施例5同様の炭素化条件にて炭素化処理を行った。炭素化工程において即座に断糸し、炭素繊維束を得ることは出来なかった。
[比較例27]
炭素化温度を表1記載の条件とした以外は、実施例7と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。しかしながら、束強度の試長依存性係数mCBは高いものの、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
[比較例28]
炭素化温度を表1記載の条件とした以外は、実施例7と同様に炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の、ストランド弾性率・品位は良好なものであった。また、束強度の試長依存性係数mCBは高いものの、結晶配向度は式(2)を満足しなかった。
Figure 2014141761
Figure 2014141761
本発明によれば、従来、毛羽が発生し断糸に至る高い炭素化延伸比においても、生産性とプロセス性を損なうことなく、高い引張弾性率レベルの炭素繊維を安定して製造することができる。
本発明により得られる炭素繊維束は、高いストランド引張弾性率、接着強度を有し、かつ良好な取り扱い性、単繊維間の物性均一性を示す。従って、本発明の炭素繊維束は、カット、チョップド化した際に、極少ない使用量で同一性能を付与することができ、炭素繊維強化複合材料の低コスト化が可能となり、圧力容器部材、自動車部材、筐体等に好適に用いられる。また、良好な単繊維間の物性均一性を示す為、大型部材向けのコンポジットにも好適に用いることができる。

Claims (8)

  1. ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を耐炎化、予備炭素化されてなる予備炭素化繊維束を、1200〜2000℃の不活性雰囲気中において、張力13〜18mN/dtexで炭素化する炭素繊維束の製造方法であって、炭素化時の予備炭素化繊維束の式(1)から算出される束強度の試長依存性係数mPBが10〜40である炭素繊維束の製造方法。
    σP10000/σP10=(10000/10)−1/mPB ・・・式(1)
    ここで、σP10000およびσP10はそれぞれ、試長10mおよび試長10mmの予備炭素化繊維束の束強度(GPa)
  2. 耐炎化する際のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の撚り数が0〜1ターン/mであり、かつ、耐炎化終了後炭素化を行うまでの間において、繊維束に流体交絡処理を行う、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
  3. 耐炎化する際のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の撚り数が0〜1ターン/mであり、かつ、炭素化する際の予備炭素化繊維束の撚り数が20〜45ターン/mである、請求項1または2のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  4. 請求項1または2のいずれかに記載の製造方法で得られた炭素繊維束に、さらに1500〜3000℃の不活性雰囲気中において炭素化する炭素繊維束の製造方法。
  5. 結晶子サイズLc(nm)が1.7〜5.6であり、かつ結晶配向度π002(%)が式(2)を満たし、かつ式(3)から算出される束強度の試長依存性係数mCBが12〜40である炭素繊維束。
    3.1×Lc+82<π002<3.1×Lc+83 ・・・式(2)
    σC10000/σC10=(10000/10)−1/mCB ・・・式(3)
    ここで、σC10000およびσC10はそれぞれ、試長10mおよび試長10mmの炭素繊維束の束強度(GPa)
  6. 試長10mの炭素繊維束の束強度が1.9〜4.0GPaである、請求項5に記載の炭素繊維束。
  7. 炭素繊維1本の1mあたりに存在する単繊維破断端数が0.015〜0.2個/m・本である、請求項5または6のいずれかに記載の炭素繊維束。
  8. 結晶子サイズLcが1.7〜2.4nmである、請求項5〜7のいずれかに記載の炭素繊維束。
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