JP7286988B2 - 炭素繊維束およびその製造方法 - Google Patents
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E≧38Lc+190 ・・・(1)。
E≧38Lc+190 ・・・(1)
を満たし、好ましくは上式における切片が191であり、さらに好ましくは切片が192である。式(1)を満たす炭素繊維束は、結晶子サイズLcに対してストランド弾性率Eが十分に高いため、炭素化工程の通過性や炭素繊維束の取り扱い性を損なうことなく、ストランド弾性率Eを効果的に高めることができ、炭素繊維強化複合材料の剛性を高めやすく、今後成長が期待される産業用途などにおけるニーズに応えることができる。式(1)を満たす炭素繊維束は、後述する本発明の炭素繊維束の好ましい製造方法により得られる。
Ti×Za≧1000。
水平面から60cmの高さの位置にガイドバーを設置し、炭素繊維束の任意の位置をガイドバーにテープで貼り付けることによって固定端とした後、固定端から50cm離れた箇所で炭素繊維束を切断し、自由端を形成する。自由端はテープに挟み込むように封入して、単繊維単位にほどけないように処理する。回数を数えながら自由端を回転させてゆき、完全に解撚されるまでに回転させた回数n(ターン)を記録する。以下の式により、残存する撚り数を算出する。上記測定を3回実施した平均を、本発明における残存する撚り数とする。
残存する撚り数(ターン/m)=n(ターン)/0.5(m)。
炭素繊維束のストランド弾性率Eは、JIS R7608(2004年)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求める。ただし、炭素繊維束が撚りを有する場合、撚り数と同数の逆回転の撚りを付与することにより解撚してから評価する。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド弾性率Eとする。なお、ストランド弾性率Eを算出する際の歪み範囲は0.1~0.6%とする。
測定に供する炭素繊維束を引き揃え、コロジオン・アルコール溶液を用いて固めることにより、長さ4cm、1辺の長さが1mmの四角柱の測定試料を用意する。用意された測定試料について、広角X線回折装置を用いて、次の条件により測定を行う。
・X線源:CuKα線(管電圧40kV、管電流30mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=10~40°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.02°、計数時間2秒。
但し、
K:1.0、λ:0.15418nm(X線の波長)
β0:(βE 2-β1 2)1/2
βE:見かけの半値幅(測定値)rad、β1:1.046×10-2rad
θB:Braggの回析角。
後述の実施例および比較例においては、上記広角X線回折装置として、島津製作所製XRD-6100を用いる。
評価対象の炭素繊維束の繊維軸方向に30cm離れた位置を右手と左手で別々に把持する。右手と左手の把持部が接触するまで近づけてゆき、繊維束の一部がロープのように高次の撚りを形成する場合は、取り扱い性が不良(×)とし、評価を打ち切る。前記操作において取り扱い性が不良とならなかった場合、続けて、右手と左手の間隔を20cmの距離に近づけた後、繊維束の様子を目視観察しながら、両手を鉛直方向に複数回上下させる。右手と左手の把持部の鉛直方向の高さを常に同じに保つため、両手の鉛直方向への移動は同じタイミングで行う。上下させる距離は10cmとし、1秒に1往復させる速度で20回繰り返す。このとき、繊維束が単繊維単位に拡がる場合を収束性不足のため取り扱い性が不良(×)とし、評価を打ち切る。官能評価であるため厳密な線引きは難しいが、繊維束のどこか一部でも繊維軸に垂直方向に5cm以上拡がった場合は、単繊維単位に拡がったとみなす。繊維軸に垂直方向に5cm以上拡がらなくても、繊維束のどこか一部でも、より小さな繊維束に分割された場合は、取り扱い性がやや不良(△)とし、評価を打ち切る。ここまでの操作で取り扱い性が不良あるいはやや不良とならなかった場合、取り扱い性は良好(○)とする。ただし、一定以上の単繊維直径である場合、単繊維の屈曲に対する抵抗、いわゆるコシが強い傾向にあり、上記実験操作の際に、繊維束全体に適度なコシがあり、取り扱いがしやすい傾向にあった。そこで、官能的ではあるものの、実際の実験操作において適度なコシがあり、取り扱いがしやすい場合を、特に良好(◎)とする。評価対象の炭素繊維束がサイジング処理されている場合、オーブン中でサイジング剤を焼き飛ばすか、溶媒中で洗浄することによって除去してから評価する。評価は極力風の少ない室内で行い、繊維束の中央部は重力で懸垂させることとする。
長さ2cmに切断した耐炎化繊維もしくは炭素繊維をエポキシ樹脂に包埋し、繊維軸に垂直な断面を湿式研磨処理した後、顕微鏡を用いて観察して写真を撮影する。撮影した写真は画像処理ソフトウェアを用いて解析した。条件によっては外層と内層が一定の範囲にグラデーションを形成したり、外層と内層の境界に中間的な層が形成されリング状に観察されたりする場合があるが、これらの境界部分と外層とが形成するグラデーションの外側端を二重構造の境界と定める。単繊維30本について画像解析を行った。外層比率は耐炎化繊維や炭素繊維の平均断面積a0と内層部分の平均面積a1を求めた後、下記式にしたがって算出する。
外層比率(%)=(1-a1)÷a0×100
アクリロニトリル、イタコン酸、アクリレート系モノマーとしてアクリル酸エチルを93.5:1.0:5.5の質量比で混合した単量体混合物を、ジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒とした溶液重合法により重合し、ポリアクリロニトリル系共重合体溶液を得、紡糸溶液とした。得られた紡糸溶液を孔数3000の口金を用いて一旦空気中に吐出し、空間を通過させた後、DMSOの水溶液からなる凝固浴に導く乾湿式紡糸法により凝固させ、凝固糸とした。得られた凝固糸を水洗した後、温水浴中で2倍に延伸し、シリコーン系油剤を付与し、表面温度が180℃のホットドラムで加熱処理を行った。その後、加圧水蒸気中で4倍に延伸して単繊維繊度2.2dtexの炭素繊維前駆体繊維束を得た。この炭素繊維前駆体繊維束を、熱風循環式オーブンを用いて250℃の空気中で熱処理し、耐炎化繊維束を得た。得られた耐炎化繊維束をエポキシ樹脂(主剤:BUEHLER社製EPO-KWICK RESIN、硬化剤:EPO-KWICK HARDENER)に樹脂包埋し、耐炎化繊維束の繊維軸方向に垂直な面を湿式研磨し、断面を光学顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製工業用正立顕微鏡DM2700M)で観察し、画像処理ソフトウェア(Image J)を用いて外層比率Asを算出した。耐炎化初期温度Tiを230℃として、空気雰囲気230~280℃のオーブン中で延伸比を1として熱処理し、耐炎化繊維束に転換した。得られた耐炎化繊維束に加撚処理を行い、22ターン/mの撚りを付与し、温度300~800℃の窒素雰囲気中において、延伸比0.97として予備炭素化処理を行い、22ターン/mの撚りが残存した予備炭素化繊維束を得た。次いで、かかる予備炭素化繊維束に、表1に示す条件で炭素化処理を施した後、付着量が1.0質量%となるようにサイジング剤を付与し、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
撚り数を87ターン/m、炭素化時の張力を8.0mN/dtexとした以外は実施例1と同様にし、耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
炭素化処理の最高温度を1900℃とした以外は実施例1と同様にし、耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
撚り数を87ターン/m、炭素化時の張力を8.0mN/dtex、炭素化処理の最高温度を1900℃とした以外は実施例1と同様にし、耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
実施例1でポリアクリロニトリル系共重合体の原料をアクリロニトリル、イタコン酸、アクリレート系モノマーとしてアクリル酸エチルの質量比が96.0:1.0:3.0である単量体組成物とした以外は実施例4と同様にして耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性はプロセス上許容できる範囲であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
実施例1でポリアクリロニトリル系共重合体の原料をアクリロニトリル、イタコン酸、アクリレート系モノマーとしてアクリル酸ノルマルブチルの質量比が92.0:1.0:7.0である単量体組成物とした以外は実施例4と同様にして耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
実施例1の紡糸溶液の吐出量を変更して単繊維繊度1.0dtexの炭素繊維前駆体繊維束を得た以外は実施例4と同様にし、耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性はプロセス上許容できる範囲であり、得られた炭素繊維束の品位もやや不良であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
撚り数を0ターン/m、炭素化時の張力を2.0mN/dtexとした以外は実施例1と同様にし、耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、得られた炭素繊維束の品位は悪かった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
撚り数を0ターン/m、炭素化時の張力を2.1mN/dtexとした以外は実施例3と同様にし、耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、得られた炭素繊維束の品位は悪かった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
実施例1でポリアクリロニトリル系共重合体の原料をアクリロニトリル、イタコン酸、アクリレート系モノマーとしてアクリル酸エチルの質量比が97.1:1.0:1.9である単量体組成物とした以外は実施例4と同様にして耐炎化繊維束および炭素繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、得られた炭素繊維束の品位は悪かった。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に記載する。
実施例1でポリアクリロニトリル系共重合体の原料をアクリロニトリル、イタコン酸、アクリレート系モノマーとしてアクリル酸エチルの質量比が99.0:1.0:0である単量体組成物とした以外は実施例4と同様にして耐炎化繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、炭素化過程で糸が切れたため炭素繊維束が得られなかった。
耐炎化初期温度Tiを190℃にした以外は、実施例5と同様にして耐炎化繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、炭素化過程で糸が切れたため炭素繊維束が得られなかった。
耐炎化初期温度Tiを310℃にした以外は、実施例1と同様にして耐炎化処理を行ったが、耐炎化工程で糸が切れてしまい、耐炎化繊維束が得られなかった。
Claims (7)
- 単繊維繊度が1.0~4.0dtexであり、ストランド弾性率Eが250~420GPaであり、繊維束全体のバルク測定により評価される結晶子サイズLcが1.7~6.0nmであり、ストランド弾性率Eと結晶子サイズLcとの関係が式(1)を満たし、片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、2ターン/m以上の撚りが残存しており、単繊維断面の中心側と円周側に観察される断面二重構造のうち、円周側の面積の単繊維断面積に占める割合である外層比率Acが85%以上であるポリアクリロニトリル系炭素繊維束。
E≧38Lc+190 ・・・(1) - 片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、30~120ターン/mの撚りが残存している請求項1に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維束。
- 外層比率Acが91%以上である請求項1または2に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維束。
- アクリロニトリル単位90.0~97.0質量%と構造式CH2=CHCOOCnH2n+1(構造式中、n=2~4であり、アルキル鎖は直鎖である。)で表されるアクリレート系モノマー(X)単位3.0~10.0質量%を含むポリアクリロニトリル系重合体を用いて、単繊維繊度が2.0~6.0dtexである炭素繊維前駆体繊維束を得た後に、耐炎化温度が200℃~300℃である条件において、酸化性雰囲気中で処理する耐炎化処理により単繊維断面の中心側と円周側に観察される断面二重構造のうち、円周側の面積の単繊維断面積に占める割合である外層比率Asが85%以上の耐炎化繊維束を得た後に、該耐炎化処理で得られた耐炎化繊維束を最高温度500~1200℃の不活性雰囲気中において予備炭素化する予備炭素化処理と、該予備炭素化処理で得られた予備炭素化繊維束を1200~3000℃の不活性雰囲気中において炭素化する炭素化処理を順に行う炭素繊維束の製造方法であって、炭素化処理中の繊維束の撚り数を2ターン/m以上、張力を1.5mN/dtex以上とする炭素繊維束の製造方法。
- 耐炎化初期温度Ti(℃)とアクリレート系モノマー(X)単位の質量組成比Za(%)が、Ti×Za≧1000の関係を満たす請求項4に記載の炭素繊維束の製造方法。
- 炭素化処理中の繊維束の撚り数が30~120ターン/mである請求項4または5に記載の炭素繊維束の製造方法。
- 外層比率Asが91%以上である請求項5~7のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
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