JP2019151956A - 炭素繊維束および炭素繊維ならびに炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

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治己 奥田
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Abstract

【課題】取り扱い性や高次加工性に優れる、半永久的な撚りを有する炭素繊維束を提供すること。【解決手段】片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、46ターン/m以上の撚りが残存し、かつ、ストランド弾性率が200GPa以上の炭素繊維束である。また、繊維軸がらせん形状を描いており、該らせんのピッチが22mm/周以下であり、かつ、単繊維弾性率が200GPa以上の炭素繊維、および該炭素繊維を含んでなる炭素繊維束である。かかる炭素繊維束は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化処理した後、予備炭素化処理、炭素化処理を順に行う炭素繊維束の製造方法であって、炭素化処理中の繊維束の撚り数を46ターン/m以上とすることにより製造される。【選択図】 なし

Description

本発明は、半永久的な撚り癖を有し、取り扱い性や高次加工性に優れる炭素繊維束および、かかる炭素繊維束から得られる炭素繊維の単繊維、およびかかる炭素繊維束の製造方法に関する。
炭素繊維は比強度、比弾性率に優れ、繊維強化複合材料の強化繊維として用いることにより部材の大幅な軽量化が可能となることから、エネルギー利用効率の高い社会の実現に不可欠な材料の一つとして幅広い分野で利用されている。近年、自動車や電子機器筐体などを初めとしたコスト意識の強い分野においても適用が進んでおり、成形コストまで含めた最終部材コストの低減が強く求められている。また、炭素繊維強化複合材料の成形コストに占める手作業の割合は未だに高く、大幅な低コスト化のために製造工程を自動化する取り組みが世界的に進められている。そのような中、繊維束としての取り扱い性に優れ、毛羽などの発生が少ない高次加工性に優れた炭素繊維束が要望されている。
炭素繊維束としての取り扱い性や高次加工性を高めるため、現在、サイジング剤を付与して繊維束の収束性を高めることが一般的である。具体的には、サイジング剤が繊維表面を被覆することにより、単繊維が相互に収束し、取り扱い時に繊維束としての形態が安定化するほか、高次加工時のローラーやガイドとの擦過に対する耐性が高まり、毛羽発生が抑制される。しかしながら、用途によっては収束性と同時に拡がり性も求められたり、高温での成形加工を伴う用途においてはサイジング付着量を少なくすることが好まれたりする場合があり、サイジング剤による収束性の付与は、必ずしも常に十分な効果を与えるわけではなかった。そこで、サイジング剤を付与する前の炭素繊維束自身に収束性をもたせることができれば、収束性を十分持たせた上で、サイジング剤の付着量を含めた設計の自由度が高まる可能性がある。
合成繊維では、例えば撚りや編み込みなど、繊維束の形態に工夫することにより収束性をもたせ、取り扱い性や高次加工性を高める例は数多く知られている。繊維強化複合材料の分野においても、撚りを活用する例は存在し、例えば、繊維強化樹脂ストランドの製造工程において、マトリックス樹脂を含浸させながら繊維束に撚りを付与することで、製造プロセスにおける毛羽の堆積が抑制される結果、製造効率を高める技術が提案されている(特許文献1)。また、最終製品として撚りを利用する例として、撚りを加えた炭素繊維束をマトリックス樹脂で固めた炭素繊維製のワイヤー(特許文献2)や、炭素繊維束を2本以上撚り合わせた縫い糸(特許文献3)、炭素繊維に撚りをかけた状態で巻き取った巻物(特許文献4)などが提案されている。また、炭素繊維自身に着目したものとしては、耐炎化工程のプロセス性および生産性を高める目的で、ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束に撚りをかけた状態で耐炎化、予備炭素化、炭素化と通過させる技術(特許文献5)、高張力時における毛羽発生を抑制する目的で、予備炭素化処理後の繊維束に交絡または撚りを加える技術(特許文献6)が提案されている。また、炭素繊維束の成形加工時に、繊維束の拡がりを抑制するために、水で濡らすことによって毛細管力で一時的に収束性を付与することは一般的に行われている。
特開2006−231922号公報 国際公開第2014/196432号 特表2008−509298号公報 特開2002−001725号公報 特開昭58−087321号公報 特開2014−141761号公報
しかしながら、背景技術には次のような課題がある。
特許文献1〜3によれば最終成形品中における炭素繊維束の収束性は高められるものの、撚りを付与する前の炭素繊維束の収束性には何ら効果を奏するものではない。
また、特許文献4は、ボビンに巻き取られた状態の繊維束として収束性は高いものの、繊維束を引き出す際に常に一定の張力を付与しておかないと、強制的に撚りを付与された繊維束が、撚りを解く方向に捻れることにより、局所的にループが形成されるなど絡まりの原因となりやすい問題がある。
また、特許文献5で開示されている実施例によると、得られる炭素繊維束には撚り癖が残存すると推定されるものの、かかる撚り癖が炭素繊維束の収束性に与える影響に関して何ら示唆も言及もなく、さらに、撚りを付与される繊維束あたりのフィラメント数が最高で6,000本と少ないため、撚りによる収束性の向上効果は不十分である。
また、特許文献6で開示されている実施例によると、得られる炭素繊維束には撚り癖が残存すると推定されるものの、かかる撚り癖が炭素繊維束の収束性に与える影響に関して何ら示唆も言及もなく、さらに、用いた前駆体繊維の単繊維繊度が0.7dtexと細いため、得られる炭素繊維束の単繊維直径も細く、ガイドやローラーとの接触時に毛羽が発生しやすいという課題があった。
また、炭素繊維束を水で濡らすことにより一時的な収束性を付与する手法は実施しやすいものの、水分を除去するために乾燥工程を追加する必要がある。
すなわち、背景技術として、最終製品としての炭素繊維束や、その製造過程における繊維束に撚りを付与する思想はあったが、炭素繊維束の取り扱い性や高次加工性、炭素繊維強化複合材料の機械的特性を向上させるために炭素繊維束の撚り形状を積極的に制御・適正化する思想は提案されていない。
上記の課題を解決するため、本発明の一態様として、片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、46ターン/m以上の撚りが残存し、かつ、ストランド弾性率が200GPa以上の炭素繊維束を提供する。
また、本発明の好ましい態様として、フィラメント数が10,000本以上である炭素繊維束を提供する。
また、本発明の好ましい態様として、繊維束全体のバルク測定により評価される結晶子サイズLと結晶配向度π002が式(1)を満たす炭素繊維束を提供する。
π002>4.0×L+73.2 ・・・式(1)。
また、本発明の好ましい態様として、単繊維直径が6.1μm以上である炭素繊維束を提供する。
さらに、本発明の別の態様として、繊維軸がらせん形状を描いており、該らせんのピッチが22mm/周以下であり、かつ、単繊維弾性率が200GPa以上の炭素繊維を含んでなる炭素繊維束を提供する。
さらに、本発明の別の態様として、繊維軸がらせん形状を描いており、該らせんのピッチが22mm/周以下であり、かつ、単繊維弾性率が200GPa以上の炭素繊維を提供する。
さらに、本発明の別の態様として、ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化処理した後、予備炭素化処理、炭素化処理を順に行う炭素繊維束の製造方法であって、炭素化処理中の繊維束の撚り数を46ターン/m以上とする炭素繊維束の製造方法を提供する。
本発明の炭素繊維束は半永久的な撚りを有しているため、繊維束としての取り扱い性や高次加工性に優れる。
本発明の一態様である炭素繊維束は、片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、46ターン/m以上の撚りが残存する。本発明において、固定端とは繊維束の長手方向を軸とした回転ができないように固定された繊維束上の任意の部分であり、粘着テープなどを用いて繊維束の回転を拘束することなどによって作製できる。自由端とは、連続した繊維束をその長手方向に垂直な断面で切断したときに出現する端部のことを指し、何にも固定されておらず、繊維束の長手方向を軸とした回転が可能な端部のことである。片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、撚りが残存するとは、炭素繊維束が半永久的な撚りを有することを意味する。本発明者らが検討したところ、炭素繊維束が半永久的な撚りを有する場合、繊維束が捌けることなく自ずと収束するため、繊維束としての取り扱い性を向上させる効果があることがわかった。また、炭素繊維束が半永久的な撚りを有することにより、炭素繊維束を高次加工する際に、単繊維レベルでの破断、いわゆる毛羽が生じても、長い毛羽に成長しにくく、高次加工性が高まることもわかった。これは、毛羽が繊維束の長手方向に向かって進行しようとする際、毛羽の根元が撚りに内包されるため、その進行が阻害されるためである。また、半永久的な撚りを有さない一般的な炭素繊維束に強制的に撚りを付与した場合、繊維束に常に張力をかけておかないと、強制的な撚りを付与された炭素繊維束同士がさらに高次の撚りを形成し、ロープを編むように折りたたまれてしまう場合があるのに対して、炭素繊維束が半永久的な撚りを有する場合は、張力の有無によらず、高次の撚りを形成することはなく、しなやかで取り扱い性の高い炭素繊維束となる。片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、撚りが解けることなく、結果的に46ターン/m以上の撚りが残存する場合に特に取り扱い性や高次加工性向上の効果が大きくなることがわかった。残存する撚り数は多いほど収束性が高くなるため好ましいが、加撚する製造プロセスの制約上、500ターン/m程度が上限である。残存する撚り数は46〜120ターン/mであることが好ましく、46〜80ターン/mであることがより好ましい。片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、46ターン/m以上の撚りが残存する炭素繊維束は、後述する本発明の炭素繊維束の製造方法に従って作製することができる。残存する撚り数は、炭素化工程における繊維束の撚り数を調整することにより制御することができる。残存する撚り数の詳しい評価手法は後述するが、繊維束上の任意の箇所をテープなどでしっかりと固定して固定端とした後に、固定端から離れた位置で繊維束を切断して自由端を形成し、固定端が最上部に来るように繊維束を懸垂させてしばらく静置したあと、自由端を把持して解撚していき、完全に解撚するまでに要した撚り数を長さ1mあたりに規格化したものを、本発明における、残存する撚り数とする。
本発明の炭素繊維束は、ストランド弾性率が200GPa以上である。ストランド弾性率が高いほど、炭素繊維強化複合材料とした際に炭素繊維による補強効果が大きく、高剛性な炭素繊維強化複合材料が得られる。炭素化工程において張力を付与しなければ、繊維束が収縮することにより、局所的に撚り癖に類似した形状を有する炭素繊維束が得られる場合があるものの、このようにして得られた炭素繊維束はストランド弾性率が低くなりやすく、工業的に有用であるとはいえない。ストランド弾性率が200GPa以上であれば、炭素繊維強化複合材料の剛性を高めやすく、今後成長が期待される産業用途などにおけるニーズに応えることができる。ストランド弾性率は240GPa以上であることが好ましく、280GPa以上であることがより好ましく、350GPa以上であることがさらに好ましい。ストランド弾性率はJIS R7608(2004年)に記載の、樹脂含浸ストランドの引張試験に準拠して評価することができる。炭素繊維束が撚りを有する場合は、かかる撚り数と同数の撚りを逆方法に付与することで解撚したものを評価に供する。ストランド弾性率は、炭素化処理における張力や最高温度といった公知の手法により制御することができる。
本発明の炭素繊維束は、フィラメント数が10,000本以上であることが好ましく、20,000本以上であることがより好ましい。撚り数が同じであれば、フィラメント数が大きいほど撚りの中心軸と繊維束の外周との距離が大きくなるため、撚りが安定しやすく、取り扱い性や高次加工性が高めやすいほか、炭素化工程において高い張力をかけても毛羽発生や破断を抑制しやすく、ストランド弾性率および単繊維弾性率を効果的に高めることができる。フィラメント数は繊維束の密度と目付、平均単繊維直径から計算することができる。フィラメント数の上限に特に制限はなく、目的の用途に応じて設定すればよい。
本発明の炭素繊維束は、繊維束全体のバルク測定により評価される結晶子サイズLと結晶配向度π002が式(1)を満たすことが好ましい。
π002>4.0×L+73.2 ・・・式(1)。
結晶子サイズLおよび結晶配向度π002とは、炭素繊維中に存在する結晶子のc軸方向の厚みおよび結晶子の繊維軸を基準とした配向角を表す指標であり、広角X線回折により評価される。詳しい評価手法は後述する。一般的に、結晶子サイズLが大きいほど炭素繊維とマトリックスとの接着強度が低下する傾向にあるため、結晶子サイズLに対して結晶配向度π002を相対的に高めるほど、接着強度の低下を抑制しつつ、ストランド弾性率を効果的に高めることができる。炭素化工程において張力を付与しなければ、繊維束が収縮することにより、局所的に撚り癖に類似した形状を有する炭素繊維束が得られる場合があるものの、このようにして得られた炭素繊維束は結晶子サイズLに対して結晶配向度π002が低くなりやすく、工業的に有用であるとはいえない。式(1)を満たす炭素繊維束は、炭素繊維強化複合材料の剛性を高めやすく、今後成長が期待される産業用途などにおけるニーズに応えることができる。本発明の炭素繊維束において、式(1)における定数項は73.8であることがより好ましく、74.4であることがさらに好ましい。式(1)を満たす炭素繊維束は、後述する本発明の炭素繊維束の好ましい製造方法により得られる。
本発明における結晶子サイズLは1.7〜8nmであることが好ましく、1.7〜3.8nmであることがより好ましく、2.0〜3.2nmであることがさらに好ましく、2.3〜3.0nmであることが最も好ましい。結晶子サイズLが大きいと炭素繊維内部の応力負担が効果的に行われるため、ストランド弾性率を高めやすいが、結晶子サイズLが大きすぎると、応力集中原因となり、ストランド強度や圧縮強度が低下することがあるため、必要とするストランド弾性率およびストランド強度、圧縮強度のバランスにより定めるとよい。結晶子サイズLは、主に炭素化処理以降の処理時間や最高温度によって制御することができる。
また、本発明における結晶配向度π002は80〜95%であることが好ましく、80〜90%であることがより好ましく、82〜90%であることがさらに好ましい。結晶配向度π002が高いと、繊維軸方向の応力負担能力が高まるため、ストランド弾性率を高めやすい。結晶配向度π002は、炭素化工程における温度や時間に加えて、延伸張力によって制御することができるが、炭素化工程における延伸張力を高めすぎると、繊維破断が増加してローラーへの巻き付き原因となったり、繊維束全体が破断してプロセス不能となったりすることがあり、従来の炭素繊維束の製造方法では取り得る延伸張力には限界があった。一方、後述する本発明の好ましい製造方法によると、繊維破断を抑制しつつ、高い延伸張力を付与することが可能となる。
本発明の炭素繊維束の単繊維直径は6.1μm以上であることが好ましく、6.5μm以上であることがより好ましく、6.9μm以上であることがさらに好ましく、7.1μm以上であることが最も好ましい。単繊維直径の評価法は後述する。単繊維直径が大きいほど単繊維自身の曲げに対する抵抗が強く、いわゆるコシが強くなるため、繊維束全体の収束性に有利に働くことが、本発明者らの検討の結果わかった。単繊維直径が6.1μm以上であれば、収束性や取り扱い性に対する効果が満足できるレベルとなる。単繊維直径の上限は特にないが、現実的に15μm程度である。単繊維直径は炭素繊維前駆体繊維束の紡糸時の口金からの吐出量や延伸比などにより制御できる。
また、本発明において、炭素繊維束を構成する炭素繊維一本一本のことを単に炭素繊維と呼称する。
本発明の別の態様である炭素繊維は、繊維軸がらせん形状を描いており、かつ該らせんのピッチが22mm/周以下である。本発明において、らせん形状とはコイルばねのように、回転しながら回転面に垂直な方向に進行する3次元的な曲線のことである。らせん形状を描いているかどうかの判断の詳細は後述するが、一定の長さに切り出した炭素繊維を白い紙などの平面上に静置して、目視観察することにより行うことができる。炭素繊維の繊維軸がらせん形状を描いている場合、紙面に平行方向から観察すると、ある一定間隔で炭素繊維が紙面に最接近するため、かかる接近の頻度をピッチと定義する。本発明の炭素繊維束は特定の撚り癖を有するため、構成する単繊維一本一本の繊維軸がらせん形状を描いており、かつ該らせんのピッチが22mm/周以下となる。したがって、その成形加工過程や最終利用形態として繊維束の撚りが強制的に解かれていたり、撚りが解かれた上でシート状に拡げられていたり、さらには単繊維一本として取り出されていたりすることによって、繊維束としての撚りが確認できない場合であっても、炭素繊維の繊維軸がらせん形状を描いており、かつ該らせんのピッチが上記範囲内であれば、本発明の炭素繊維束を経て得られたものであるといえる。また、本発明の炭素繊維束が繊維束として、あるいは上記した種々の存在形態としてマトリックス樹脂に含浸されている場合であっても、マトリックス樹脂を除去して取り出した炭素繊維の繊維軸が上記特徴を有していれば、本発明の炭素繊維束を経て得られたものであると識別できる。マトリックス樹脂の取り出し方としては、例えば溶媒により除去したり、不活性雰囲気中で概ね400℃以上の温度で熱分解したりする等の公知の方法を用いればよい。前記らせんのピッチは18mm/周以下であることがより好ましく、15mm/周以下であることがさらに好ましい。
本発明の別の態様である当該炭素繊維は、単繊維弾性率が200GPa以上である。上記したとおり、本発明の炭素繊維束はストランド弾性率が200GPa以上であるため、それを構成する炭素繊維一本一本の単繊維弾性率もまた200GPa以上である。したがって、上記と同様に、その成形加工過程や最終利用形態として繊維束の形態を成していないか、あるいは、マトリックス樹脂に含浸されていることによって、ストランド弾性率を評価できない場合であっても、単繊維弾性率を測定することにより、本発明の炭素繊維束を経て得られたものであると識別できる。単繊維弾性率は240GPa以上であることが好ましく、280GPa以上であることがより好ましく、350GPa以上であることがさらに好ましい。
以下、本発明の炭素繊維束の製造方法を説明する。
本発明の炭素繊維束のもととなる炭素繊維前駆体繊維束は、ポリアクリロニトリル系重合体の紡糸溶液を紡糸して得ることができる。
ポリアクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリルのみから得られる単独重合体だけではなく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体を用いても良い。具体的に、ポリアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを90〜100質量%、共重合可能な単量体を10質量%未満、含有することが好ましい。
アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
前記したポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、硝酸、塩化亜鉛水溶液、ロダンソーダ水溶液などポリアクリロニトリル系重合体が可溶な溶媒に溶解し、紡糸溶液とする。ポリアクリロニトリル系重合体の製造に溶液重合を用いる場合、重合に用いられる溶媒と紡糸溶媒を同じものにしておくと、得られたポリアクリロニトリル系重合体を分離し、紡糸溶媒に再溶解する工程が不要となり、好ましい。
先述のようにして得た紡糸溶液を湿式、または乾湿式紡糸法により紡糸することにより、炭素繊維前駆体繊維束を製造することができる。なかでも特に、乾湿式紡糸法は、前記した特定の分子量分布を有するポリアクリロニトリル系重合体の特性を発揮させるため、好ましく用いられる。
紡糸溶液を凝固浴中に導入して凝固させ、得られた凝固繊維束を、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程および乾燥工程を通過させることにより、炭素繊維前駆体繊維束が得られる。凝固繊維束は、水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良いし、溶媒を水洗工程により除去した後に浴中延伸を行っても良い。浴中延伸は、通常、30〜98℃の温度に温調された単一または複数の延伸浴中で行うことが好ましい。また、上記の工程に乾熱延伸工程や蒸気延伸工程を加えても良い。
炭素繊維前駆繊維束が含む単繊維の平均繊度は、0.8dtex以上であることが好ましく、0.9dtex以上であることがより好ましく、1dtex以上であることがさらに好ましく、1.1dtex以上であることが最も好ましい。前駆体繊維束の単繊維の平均繊度が高いほど、ローラーやガイドとの接触による繊維束の破断発生を抑え、製糸工程および耐炎化ならびに予備炭素化、炭素化工程のプロセス安定性を維持しやすい。前駆体繊維束の単繊維の平均繊度が0.8dtex以上であれば、プロセス安定性を維持しやすい。前駆体繊維束の単繊維の平均繊度が高すぎると、耐炎化工程において均一に処理することが難しくなる場合があり、製造プロセスが不安定となったり、得られる炭素繊維束の力学的特性が低下したりすることがある。前駆体繊維束の単繊維の平均繊度は、口金からの紡糸溶液の吐出量や延伸比など、公知の方法により制御できる。
得られる炭素繊維前駆体繊維束は、通常、連続繊維の形態である。また、その1糸条あたりのフィラメント数は、1,000〜36,000本であることが好ましい。前駆体繊維束は耐炎化処理を行う前に合糸して最終的な炭素繊維束の好ましいフィラメント数である10,000本以上としても良く、後述の方法により耐炎化繊維束とした後、予備炭素化処理を行う前に合糸して10,000本以上としても良く、後述する方法により予備炭素化繊維束とした後、炭素化処理を行う前に合糸して10,000本以上としても良い。
本発明の炭素繊維束は、前記した炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化処理した後、予備炭素化処理、炭素化処理を順に行うことにより得ることができる。
炭素繊維前駆体繊維束の耐炎化は、空気雰囲気中において、200〜300℃の温度範囲で行うことが好ましい。
本発明では、前記耐炎化に引き続いて、予備炭素化を行う。予備炭素化工程においては、得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中、最高温度500〜1000℃において、比重1.5〜1.8g/cmになるまで熱処理することが好ましい。
さらに、前記予備炭素化に引き続いて、炭素化を行う。炭素化工程においては、得られた予備炭素化繊維束を、不活性雰囲気中、最高温度1000〜3000℃において熱処理することが好ましい。炭素化工程における最高温度は、得られる炭素繊維束のストランド弾性率を高める観点からは、高い方が好ましいが、高すぎると炭素繊維とマトリックスとの接着強度が低下する場合があり、トレードオフを考慮して設定するのが良い。上記理由から、炭素化工程における最高温度は、1400〜2500℃とすることがより好ましく、1700〜2000℃とすることがさらに好ましい。
また、本発明において、炭素化工程における張力は炭素繊維束が安定に得られる範囲内で自由に設定すれば良いが、1〜18mN/dtexとすることが好ましく、3〜18mN/dtexとすることがより好ましく、5〜18mN/dtexとすることがさらに好ましい。炭素化工程の張力は、炭素化炉出側で測定した張力(mN)を、用いた炭素繊維前駆体繊維束の単繊維の平均繊度(dtex)とフィラメント数との積である総繊度(dtex)で除したものとする。該張力を制御することで、得られる炭素繊維束の結晶子サイズLに大きな影響を与えることなく、結晶配向度π002を制御することができ、先述の式(1)を満たす炭素繊維束が得られる。炭素繊維束のストランド弾性率を高める観点からは、該張力は高い方が好ましいが、高すぎると工程通過性や、得られる炭素繊維の品位が低下する場合があり、両者を勘案して設定するのが良い。撚りを付与せずに炭素化工程における張力を高めると、単繊維破断が生じ、毛羽が増加することにより、炭素化工程の通過性が低下したり、繊維束全体が破断することにより、必要な張力を維持できなかったりする場合があるが、炭素化工程において、繊維束に撚りが付与されていれば、毛羽が抑制されるため、高い張力を付与することが可能となる。
本発明の炭素繊維束の製造方法において、炭素化処理中の繊維束の撚り数を46ターン/m以上とする。撚り数は46〜120ターン/mとすることが好ましく、46〜80ターン/mとすることがより好ましい。かかる撚り数を上記範囲に制御することで、得られる炭素繊維束に特定の撚り癖を付与でき、収束性に優れ、炭素繊維束としての取り扱い性ならびに高次加工性の高い炭素繊維束となる。かかる撚り数の上限に特に制限はないが、加撚工程が煩雑となることを避けるため、500ターン/m程度を一応の上限とするのが好ましい。かかる撚り数は、前駆体繊維束または耐炎化繊維束、予備炭素化繊維束を一旦ボビンに巻き取った後、該繊維束を巻き出す際にボビンを巻き出し方向に対して直交する面に旋回させる方法や、ボビンに巻き取らず走行中の繊維束に対して回転するローラーやベルトを接触させて撚りを付与する方法などにより制御することができる。
本発明において、炭素化処理中の繊維束のフィラメント数は10,000本以上であることが好ましく、15,000本以上であることがより好ましく、20,000本以上であることがさらに好ましい。炭素化処理中の繊維束の撚り数が同じであれば、フィラメント数が大きいほど撚りの中心軸と繊維束の外周との距離が大きくなるため、前記した撚りの効果が発現しやすく、収束性に優れた炭素繊維束が得やすいほか、別の効果として、炭素化工程において高い張力をかけても毛羽発生や破断を抑制しやすく、得られる炭素繊維束のストランド弾性率を効果的に高めることができる。フィラメント数は繊維束の密度と目付、平均単繊維直径から計算することができる。フィラメント数の上限は特になく、目的の用途に応じて設定すればよい。
本発明において、不活性雰囲気に用いられる不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴンおよびキセノンなどが好ましく例示され、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。
前記製造方法で得られた炭素繊維束は、さらに最高3000℃までの不活性雰囲気において追加の炭素化処理を行い、用途に応じてストランド弾性率を適宜調整してもよい。
以上のようにして得られた炭素繊維束は、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着強度を向上させるために、表面処理が施され、酸素原子を含む官能基を導入しても良い。表面処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。本発明において、液相電解酸化の方法については特に制約はなく、公知の方法で行えばよい。
かかる電解処理の後、得られた炭素繊維束の取り扱い性や高次加工性をさらに高めるため、あるいは炭素繊維とマトリックス樹脂との接着強度を高めるため、サイジング剤を付着させることもできる。サイジング剤は、炭素繊維強化複合材料に使用されるマトリックス樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。また、取り扱い性や高次加工性の観点から、付着量などを微調整しても良い。
本明細書に記載の各種物性値の測定方法は以下の通りである。
<片端を固定端、もう一方を自由端としたときに残存する撚り数>
水平面から60cmの高さの位置にガイドバーを設置し、炭素繊維束の任意の位置をガイドバーにテープで貼り付けることによって固定端とした後、固定端から50cm離れた箇所で炭素繊維束を切断し、自由端を形成する。自由端はテープに挟み込むように封入して、単繊維単位にほどけないように処理する。回数を数えながら自由端を回転させてゆき、完全に解撚されるまでに回転させた回数n(ターン)を記録する。以下の式により、残存する撚り数を算出する。上記測定を3回実施した平均を、本発明における残存する撚り数とする。 残存する撚り数(ターン/m)=n(ターン)/0.5(m)。
<炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率>
炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率は、JIS R7608(2004年)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求める。ただし、炭素繊維束が撚りを有する場合、撚り数と同数の逆回転の撚りを付与することにより解撚してから評価する。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド強度およびストランド弾性率とする。なお、ストランド弾性率を算出する際の歪み範囲は0.1〜0.6%とする。
<炭素繊維束の結晶子サイズL及び結晶配向度π002
測定に供する炭素繊維束を引き揃え、コロジオン・アルコール溶液を用いて固めることにより、長さ4cm、1辺の長さが1mmの四角柱の測定試料を用意する。用意された測定試料について、広角X線回折装置を用いて、次の条件により測定を行う。
1.結晶子サイズLの測定
・X線源:CuKα線(管電圧40kV、管電流30mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=10〜40°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.02°、計数時間2秒。
得られた回折パターンにおいて、2θ=25〜26°付近に現れるピークについて、半値幅を求め、この値から、次のシェラー(Scherrer)の式により結晶子サイズを算出する。
結晶子サイズ(nm)=Kλ/βcosθ
但し、
K:1.0、λ:0.15418nm(X線の波長)
β:(β −β 1/2
β:見かけの半値幅(測定値)rad、β:1.046×10−2rad
θ:Braggの回析角。
2.結晶配向度π002の測定
上述した結晶ピークを円周方向にスキャンして得られる強度分布の半値幅から次式を用いて計算して求める。
π002=(180−H)/180
但し、
H:見かけの半値幅(deg)
上記測定を3回行い、その算術平均を、その炭素繊維の結晶子サイズ及び結晶配向度とする。
なお、後述の実施例および比較例においては、上記広角X線回折装置として、島津製作所製XRD−6100を用いる。
<炭素繊維束の単繊維直径>
炭素繊維束の単位長さ当たりの質量(g/m)を密度(g/m)で除して、さらにフィラメント数で除して求める。
<炭素繊維束の密度>
測定する炭素繊維束について、1mサンプリングし、比重液をo−ジクロロエチレンとしてアルキメデス法で測定する。試料数は3で試験を行う。
<単繊維の繊維軸のらせんのピッチ>
評価しようとする炭素繊維の単繊維を、長さ5〜20cmの任意の長さに切断して、コピー用紙上に静置する。静電気の影響により単繊維がコピー用紙に張り付く場合は、一般的な手法で除電してから行う。単繊維がほぼ直進するように、ピンセットや針を用いて修正する。単繊維の進行方向に直交し、かつ紙面に平行な方向から目視観察し、単繊維が紙面に平行な方向から見ても、紙面の鉛直方向から見ても正弦波の軌跡を描いている場合、かかる単繊維はらせん形状をとっているものと判断する。次いで、紙面から高さ500μm以上に存在する極大点と次の極大点との間の距離(極大点間距離)を定規などで計測する。単繊維が複数の極大点間距離を有する場合、全て記録する。10個の極大点間距離が記録されるまで上記操作を繰り返し、極大点間距離の平均値を求める。続いて、以下の式により、らせんのピッチを求める。
らせんのピッチ(mm/周)=10×極大点間距離の平均値(cm)。
<炭素繊維の単繊維弾性率>
炭素繊維の単繊維弾性率は、JIS R7606(2000年)を参考とし、以下の通りにして求める。まず、長さ20cm程度の炭素繊維の束をほぼ4等分し、4つの束から順番に単繊維をサンプリングして束全体からできるだけまんべんなくサンプリングする。サンプリングした単繊維を、10、25、50mmの穴あき台紙に固定する。固定にはニチバン株式会社製のエポキシ系接着剤“アラルダイト速硬化タイプ”を用い、塗布後、室温で24時間静置して硬化させる。単繊維を固定した台紙を株式会社エー・アンド・デイ製の引張試験機“テンシロンRTF−1210”に取り付け、10、25、50mmの各ゲージ長にて、歪速度40%/分、試料数15で引張試験をおこなう。各単繊維の応力(MPa)−歪み(%)曲線において、歪み0.3〜0.7%の範囲の傾き(MPa/%)から、次の式により、見かけの単繊維弾性率を算出する。
見かけの単繊維弾性率(GPa)=歪み0.3から0.7%の範囲の傾き(MPa/%)/10
次いで、ゲージ長10、25、50mmのそれぞれについて、見かけの単繊維弾性率の平均値Eapp(GPa)を計算し、その逆数1/Eapp(GPa−1)を縦軸(Y軸)、ゲージ長L(mm)の逆数1/L(mm−1)を横軸(X軸)としてプロットする。かかるプロットにおけるY切片を読み取り、その逆数をとったものがコンプライアンス補正後の単繊維弾性率であり、本発明における単繊維弾性率は、この値を採用する。
<炭素繊維束の取り扱い性>
評価対象の炭素繊維束の繊維軸方向に30cm離れた位置を右手と左手で別々に把持する。右手と左手の把持部が接触するまで近づけてゆき、繊維束の一部がロープのように高次の撚りを形成する場合は、取り扱い性が不良(×)とし、評価を打ち切る。前記操作において取り扱い性が不良とならなかった場合、続けて、右手と左手の間隔を20cmの距離に近づけた後、繊維束の様子を目視観察しながら、両手を鉛直方向に複数回上下させる。右手と左手の把持部の鉛直方向の高さを常に同じに保つため、両手の鉛直方向への移動は同じタイミングで行う。上下させる距離は10cmとし、1秒に1往復させる速度で20回繰り返す。このとき、繊維束が単繊維単位に拡がる場合を収束性不足のため取り扱い性が不良(×)とし、評価を打ち切る。官能評価であるため厳密な線引きは難しいが、繊維束のどこか一部でも繊維軸に垂直方向に5cm以上拡がった場合は、単繊維単位に拡がったとみなす。繊維軸に垂直方向に5cm以上拡がらなくても、繊維束のどこか一部でも、より小さな繊維束に分割された場合は、取り扱い性がやや不良(△)とし、評価を打ち切る。ここまでの操作で取り扱い性が不良あるいはやや不良とならなかった場合、取り扱い性は良好(○)とする。ただし、一定以上の単繊維直径である場合、単繊維の屈曲に対する抵抗、いわゆるコシ、が強い傾向にあり、上記実験操作の際に、繊維束全体に適度なコシがあり、取り扱いがしやすい傾向にあった。そこで、官能的ではあるものの、実際の実験操作において適度なコシがあり、取り扱いがしやすい場合を、特に良好(◎)とする。評価対象の炭素繊維束がサイジング処理されている場合、オーブン中でサイジング剤を焼き飛ばすか、溶媒中で洗浄することによって除去してから評価する。評価は極力風の少ない室内で行い、繊維束の中央部は重力で懸垂させることとする。
以下に記載する実施例1〜16および比較例1〜6は、次の包括的実施例に記載の実施方法において、表1に記載の各条件を用いて行ったものである。
包括的実施例:
アクリロニトリル99質量%およびイタコン酸1質量%からなるモノマー組成物を、ジメチルスルホキシドを溶媒として溶液重合法により重合させ、ポリアクリロニトリル系重合体を含む紡糸溶液を得た。得られた紡糸溶液を濾過したのち、紡糸口金から一旦空気中に吐出し、ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条を得た。また、その凝固糸条を水洗した後、90℃の温水中で3倍の浴中延伸倍率で延伸し、さらにシリコーン油剤を付与し、160℃の温度に加熱したローラーを用いて乾燥を行い、4倍の延伸倍率で加圧水蒸気延伸を行い、単繊維繊度1.1dtexの炭素繊維前駆体繊維束を得た。次に、得られた前駆体繊維束を4本合糸し、単繊維本数12,000本とし、空気雰囲気230〜280℃のオーブン中で延伸比を1として熱処理し、耐炎化繊維束に転換した。
[実施例1]
包括的実施例記載の方法で耐炎化繊維束を得たのち、得られた耐炎化繊維束に加撚処理を行い、100ターン/mの撚りを付与し、温度300〜800℃の窒素雰囲気中において、延伸比0.97として予備炭素化処理を行い、予備炭素化繊維束を得た。次いで、かかる予備炭素化繊維束に、表1に示す条件で炭素化処理を施した後、付着量が1.0質量%となるようにサイジング剤を付与し、炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例2]
撚り数を75ターン/mとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例3]
撚り数を50ターン/mとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例4]
炭素化処理における最高温度を1900℃とした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例5]
撚り数を75ターン/mとした以外は、実施例4と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例6]
撚り数を50ターン/mとした以外は、実施例4と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例7]
炭素化処理における張力を8.0mN/dtexとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例8]
炭素化処理における張力を8.2mN/dtexとした以外は、実施例2と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例9]
炭素化処理における張力を7.8mN/dtexとした以外は、実施例3と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例10]
炭素化処理における張力を5.4mN/dtexとした以外は、実施例4と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例11]
炭素化処理における張力を6.1mN/dtexとした以外は、実施例5と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例12]
炭素化処理における張力を5.2mN/dtexとした以外は、実施例6と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例13]
加撚処理を行う対象を予備炭素化繊維束に変更し、炭素化処理における張力を10.2mN/dtexとした以外は、実施例12と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例14]
包括的実施例において前駆体繊維束の合糸本数を8本とし、単繊維本数を24,000本とした以外は、実施例5と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例15]
包括的実施例において前駆体繊維束の単繊維繊度を0.8dtexとした以外は、実施例6と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[実施例16]
撚り数を75ターン/mとし、炭素化処理における張力を7.1mN/dtexとした以外は、実施例15と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[比較例1]
撚り数を15ターン/mとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[比較例2]
撚り数を30ターン/mとした以外は、実施例4と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[比較例3]
撚り数を20ターン/mとし、炭素化処理における張力を10.3mN/dtexとした以外は、実施例4と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、得られた炭素繊維束の品位は悪かった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[比較例4]
撚り数を0ターン/mとし、炭素化処理における張力を7.5mN/dtexとした以外は、実施例4と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、得られた炭素繊維束の品位は悪かった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[比較例5]
撚り数を0ターン/mとし、炭素化処理における張力を5.4mN/dtexとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、得られた炭素繊維束の品位は悪かった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[比較例6]
包括的実施例において前駆体繊維束の単繊維繊度を0.8dtexとし、撚り数を45ターン/mとし、炭素化処理における張力を10.3mN/dtexとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。炭素化工程においてローラーへの毛羽の巻き付きが発生し、得られた炭素繊維束の品位は悪かった。得られた炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。
[参考例1]
東レ株式会社製“トレカ(登録商標)”T700Sの炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。なお、繊維束の取り扱い性、片端を自由端としたときの撚り数、らせんのピッチについては、評価前に炭素繊維束を室温のトルエンに1時間浸漬したのち、室温のアセトンに1時間浸漬する操作を2回繰り返し、風の少ない冷暗所で24時間以上自然乾燥させたものを用いた。
[参考例2]
東レ株式会社製“トレカ(登録商標)”M35Jの炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。なお、繊維束の取り扱い性、片端を自由端としたときの撚り数、らせんのピッチについては、評価前に炭素繊維束を室温のトルエンに1時間浸漬したのち、室温のアセトンに1時間浸漬する操作を2回繰り返し、風の少ない冷暗所で24時間以上自然乾燥させたものを用いた。
[参考例3]
東レ株式会社製“トレカ(登録商標)”M40Jの炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。なお、繊維束の取り扱い性、片端を自由端としたときの撚り数、らせんのピッチについては、評価前に炭素繊維束を室温のトルエンに1時間浸漬したのち、室温のアセトンに1時間浸漬する操作を2回繰り返し、風の少ない冷暗所で24時間以上自然乾燥させたものを用いた。
[参考例4]
東レ株式会社製“トレカ(登録商標)”M46Jの炭素繊維束ならびに無作為に取り出した単繊維の評価結果を表1に記載する。なお、繊維束の取り扱い性、片端を自由端としたときの撚り数、らせんのピッチについては、評価前に炭素繊維束を室温のトルエンに1時間浸漬したのち、室温のアセトンに1時間浸漬する操作を2回繰り返し、風の少ない冷暗所で24時間以上自然乾燥させたものを用いた。
Figure 2019151956
本発明の炭素繊維束は特定の半永久的な撚り癖を有し、かつ高いストランド弾性率を有することから、繊維束としての収束性が高く、炭素繊維強化複合材料への加工時に取り扱い性や高次加工性に優れる他、高剛性な炭素繊維強化複合材料を得ることができる。そのため、炭素繊維強化複合材料の加工コスト低減と高性能化を両立する炭素繊維束として産業上の利用価値が高い。

Claims (7)

  1. 片端を固定端、もう一方を自由端としたとき、46ターン/m以上の撚りが残存し、かつ、ストランド弾性率が200GPa以上の炭素繊維束。
  2. フィラメント数が10,000本以上である、請求項1に記載の炭素繊維束。
  3. 繊維束全体のバルク測定により評価される結晶子サイズLと結晶配向度π002が式(1)を満たす、請求項1または2に記載の炭素繊維束。
    π002>4.0×L+73.2 ・・・式(1)
  4. 単繊維直径が6.1μm以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維束。
  5. 繊維軸がらせん形状を描いており、該らせんのピッチが22mm/周以下であり、かつ、単繊維弾性率が200GPa以上の炭素繊維を含んでなる炭素繊維束。
  6. 繊維軸がらせん形状を描いており、該らせんのピッチが22mm/周以下であり、かつ、単繊維弾性率が200GPa以上の炭素繊維。
  7. ポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化処理した後、予備炭素化処理、炭素化処理を順に行う炭素繊維束の製造方法であって、炭素化処理中の繊維束の撚り数を46ターン/m以上とする炭素繊維束の製造方法。
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