JP6888260B2 - 炭素繊維束およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭化収率が高く、優れたストランド強度および弾性率をバランス良く発現し、優れた結節強度を有する炭素繊維束、およびその製造方法に関するものである。
炭素繊維束は、複合材料の強化繊維として用途が拡がり、更なる高性能化が強く求められている。特に、圧力容器などの部材を軽量化するため、引張強度、引張弾性率といった力学特性をバランス良く高めることが求められている。それと同時に、炭素繊維束の製造における環境負荷を低減することが必要である。一般的に、ポリアクリロニトリル系炭素繊維束は、前駆体繊維束を200〜300℃の酸化性雰囲気下で熱処理(耐炎化)した後、1000℃以上の不活性雰囲気下で熱処理する工程を経て得られる。その際にポリアクリロニトリルに含まれる炭素、窒素、水素原子が熱分解により脱離するため、炭素繊維束の収率(以下、炭化収率ともいう)は半分ほどになっている。そのため、同等の製造エネルギーで炭素繊維束の収率を高めることが、生産量あたりの製造エネルギー、すなわち、環境負荷を低減する観点から必要となっている。
これまで耐炎化条件の適正化による炭素繊維束の高引張強度化(以下、単に引張強度と述べるものは樹脂含浸ストランド強度のことを示す。樹脂含浸ストランド強度はストランド強度と略記することがある。)あるいは炭化収率向上を目指した技術が多く提案されてきた(特許文献1−5)。
特許文献1では、耐炎化工程で高温処理することで与える熱量(J・h/g)をなるべく小さくして炭素繊維束のストランド強度を向上させる検討がなされている。特許文献2では、耐炎化工程の途中過程で付加した酸素量に応じて耐炎化温度を高い温度に設定すること、特許文献3では、前駆体繊維束が熱暴走しないように加熱と冷却を繰り返すことでなるべく高温で耐炎化することが、耐炎化工程の短時間化のためになされてきた。また、特許文献4、5では耐炎化初期において前駆体繊維束を酸化性雰囲気で加熱した後、250〜300℃の高温加熱ローラーに接触させることで、短時間で耐炎化繊維束の密度を上昇させて炭化収率を高める試みがなされてきた。
特許文献6、7では、繊維軸方向以外の機械的な性能を反映させ、疑似等方材料において十分な機械的性能を発現させる、結節強度の高い炭素繊維束が提案されている。
特開2012−82541号公報 特開昭58−163729号公報 特開平6−294020号公報 特開2013−23778号公報 特開2014−74242号公報 国際公開第2013/157613号公報 特開2015−096664号公報
しかしながら、特許文献1の提案では、耐炎化工程で与える熱量の積算値を小さくしようとしているため、ストランド強度と炭化収率の両立には十分ではなかった。また、特許文献2、3の提案では、耐炎化温度を高温化して耐炎化時間を短時間化しているために、求めるストランド強度を満足できるような耐炎化温度制御を実施してなく、二重構造性による表層への応力集中抑制が課題であった。また、特許文献4、5の提案では、耐炎化工程後半において高温短時間で熱処理するために伝熱効率の高い加熱ローラーを用いて高温で熱処理しているが、高温での熱処理時間が短すぎることやローラー通過時の単繊維間融着による欠陥生成により十分なストランド強度を得られていなかった。特許文献6の提案は、主に焼成工程の調整によって、単繊維径が大きくても結節強度を高められると述べているものの、焼成時の構造斑により効果は限定的であり、不十分であった。特許文献7の提案は、炭素繊維束の表面処理やサイジング剤を主に調整することで結節強度を高められると述べているものの、単繊維径が低いものに限定されており、単繊維径が低い場合破断張力が低下するため、繊維破断により製造工程の品位が低下する問題がある。
本発明は、上述した先行技術における課題を解決すべく、高い炭化収率と優れたストランド強度および弾性率をバランス良く発現し、優れた結節強度を同時に満足する炭素繊維束を、生産性、プロセス性を損なうことなく製造する方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するための本発明の炭素繊維束の製造方法は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下で密度1.32〜1.35g/cmになるまで熱処理した後、密度1.46〜1.50g/cmになるまで酸化性雰囲気下275℃以上295℃以下で熱処理をして耐炎化繊維束を得た後、該耐炎化繊維束を不活性雰囲気中で1200〜3000℃で熱処理をして炭素繊維束を得る、炭素繊維束の製造方法である。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法の好ましい態様によれば、前記密度1.46〜1.50g/cmなるまで酸化性雰囲気下275℃以上295℃以下で熱処理する際の耐炎化繊維束に与える張力は1.6〜4.0mN/dtexである。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法の好ましい態様によれば、前記の耐炎化繊維束の構造規則性度R0はR0=35〜41%である。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法の好ましい態様によれば、前記の炭素繊維束用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下で熱処理する際に、密度1.22〜1.24g/cmになるまで210℃以上245℃未満で熱処理した後、前記密度1.32〜1.35g/cmになるまで行われる熱処理を245℃以上275℃未満で行うものである。
さらに、上記の目的を達成するための本発明の炭素繊維束は、炭素繊維束のストランド強度σ[GPa]は−22.5d+38.3≦σ(d:最終耐炎化繊維束の密度[g/cm])を満たすものである。
また、本発明の炭素繊維束は、ストランド弾性率が240〜280GPa、ストランド強度が5.5GPa以上であり、結節強度A[MPa]が−88B+1360≦A(B:平均単繊維径[μm])である。
また、本発明の炭素繊維束の好ましい様態によれば、平均単繊維径が6.5〜8.0μmである。
また、本発明の炭素繊維束の好ましい様態によれば、結節強度の標準偏差との平均値の比で表される変動係数が7%以下である。
また、本発明の炭素繊維束の好ましい様態によれば、平均引裂可能距離が600〜900mmである。
また、本発明の炭素繊維束の好ましい様態によれば、平均面粗さRaが1.0〜1.8nmである。
また、本発明の炭素繊維束の好ましい様態によれば、二重構造性が90面積%以上である。
本発明によれば、高い炭化収率を満足させるために特定の密度の耐炎化繊維束を得る際に、耐炎化工程で適切な温度プロフィールで後半高温熱処理することにより特定の密度の耐炎化繊維束を得ることができるため、高い炭化収率と優れたストランド強度および弾性率をバランス良く発現し、優れた結節強度を同時に満足した炭素繊維束の製造方法を提供することができる。
平均引裂可能距離の測定方法を示す図である。
本発明の炭素繊維束は、ストランド強度が5.5GPa以上であり、好ましくは5.8GPa以上である。ストランド強度が5.5GPa以上であれば、炭素繊維束を用いて複合材料を製造した際に良好な引張強度を発現するポテンシャルを有する。ストランド強度は高いほど好ましいが、ストランド強度が7.0GPaであれば、十分な複合材料特性が得られる。ストランド強度は、後述する炭素繊維束のストランド引張試験に記載の方法により求めることができる。なお、かかるパラメーターは、後述する本発明の炭素繊維束の製造方法を用いることにより制御することができる。
本発明の炭素繊維束は、樹脂含浸ストランド引張試験における引張弾性率(単に、ストランド弾性率とも略記する。)が240〜280GPaであり、好ましくは245〜275GPaであり、より好ましくは250〜270GPaである。ストランド弾性率が240〜280GPaであれば、ストランド弾性率とストランド強度のバランスに優れるために好ましく、特に、ストランド弾性率を250〜270GPaに制御することで、ストランド強度の優れた炭素繊維束が得られやすい。ストランド弾性率は、後述する炭素繊維束のストランド引張試験に記載の方法により求めることができる。このとき、歪み範囲を0.1〜0.6%とする。炭素繊維束のストランド弾性率は、主に炭素繊維束の製造工程におけるいずれかの熱処理過程で繊維束に張力を付与するか、二重構造性の改善、または炭素化温度を変えることにより制御できる。
また、本発明の炭素繊維束は、炭素繊維束の中点部分に結節部を形成して束引張試験を行って得られる結節強度A[MPa](=N/mm)が−88B+1360≦A(B:平均単繊維径[μm])を満たし、好ましくは−88B+1390≦Aを満たす。かかる結節強度は後述する炭素繊維束の結節強度に記載の方法により求めることができる。結節強度は、繊維軸方向以外の繊維束の力学的性質を反映する指標となるものであり、複合材料を製造する過程する際、炭素繊維束へ曲げ方向が負荷されている。複合材料を効率良く製造しようとフィラメント数を高めると、毛羽が発生して複合材料の製造時の糸速を高めにくくなりやすいが、結節強度が高いことで糸速が高い条件でも品位良く複合材料を得ることができる。かかる結節強度は−88B+1360≦Aを満たす場合には、フィラメントワインディング成形工程の際、ガイドあるいはローラーとの擦過による毛羽を低減し、糸速を高めて成形することが可能である。かかる炭素繊維束の結節強度を高めるには、後述する本発明の炭素繊維束の製造方法において、特に耐炎化工程、予備炭化工程における構造パラメーターを好ましい範囲内に納めるように制御すると良い。
本発明の炭素繊維束は、結節強度の標準偏差と平均値との比で表される変動係数が好ましくは7.0%以下であり、より好ましくは6.0%以下であり、さらに好ましくは5.5%以下である。フィラメントワインディング成形工程の際、結節強度の変動係数が高い場合、結節強度のバラツキが大きい部分で毛羽が発生しやすく、複合材料の製造時の糸速を高めにくくなりやすいが、結節強度の変動係数を抑えることで、品位良く複合材料を得ることができる。かかる結節強度の変動係数は7.0%以下であれば通常のフィラメントワインディング成形工程における毛羽立ちを十分抑制できる。結節強度の変動係数の下限は特になく低いほど効果的に毛羽を抑制し、生産効率を高めることができるが、結節強度の変動係数が2.0%程度で毛羽抑制効果が飽和するため、結節強度の変動係数を2.0%以下に制御することで、効果的に毛羽発生を抑制することができる。結節強度の変動係数は、後述する炭素繊維束の結節強度に記載の方法で求めることができる。変動係数は、炭素繊維単繊維の表面粗さRaを1.8nm以下に制御することで炭素繊維束での応力集中が抑制することや、フィラメント数を減らして焼成工程における単繊維間の構造斑を抑制することで低下する。
本発明の炭素繊維束は、平均単繊維径は6.5〜8.0μmが好ましく、6.7〜8.0μmがより好ましく、7.0〜8.0μmがさらに好ましい。かかる平均単繊維径は小さいほど二重構造性が減少傾向となるが、複合材料を作製する場合に高いマトリックス樹脂粘度により含浸不足を生じて引張強度低下する場合がある。平均単繊維径が6.5〜8.0μmの場合、マトリックス樹脂の含浸不足が生じにくいことや、高い炭化収率とストランド強度の発現が安定的となることから好ましい。かかる平均単繊維径は、炭素繊維束の単位長さ当たりの質量と密度およびフィラメント数から計算できる。
本発明において、炭素繊維束の平均引裂可能距離は好ましくは600〜900mmであり、より好ましくは700〜900mmである。平均引裂可能距離とは、ある繊維束における交絡の程度を示す指標である。繊維束に均一な交絡が強くかかっているほど平均引裂可能距離は短くなり、交絡がかかっていないか、不均一な場合に、平均引裂可能距離は長くなる。炭素繊維束に均一な交絡が強くかかっている場合には、数mオーダーでの長試長の炭素繊維束強度を高めることができる。このため、炭素繊維束の平均引裂可能距離が900mm以下であれば、十分に繊維間に高い張力を伝達することができ、炭素繊維束内の繊維アライメントを高めることができ、複合材料を製造した際の応力伝達をより均一にすることができる。炭素繊維束の平均引裂可能距離が600mm未満である場合には応力集中点ができ、複合材料を製造する際に強度低下を招く恐れがある。かかる炭素繊維束の交絡状態の達成手段は、前記した数値範囲で達成できればどのような手段も採用することができるが、特に、炭素繊維束への流体による交絡処理が好ましく用いられる。
本発明の炭素繊維束は、AFM(原子間力顕微鏡)により測定される単繊維表面の平均面粗さRaが1.8nm以下であることが好ましい(測定法の詳細は後述)。この平均面粗さは、前駆体繊維束の平均面粗さが炭素繊維束においても維持される。かかる平均面粗さは、1.0〜1.8nmであることが好ましく、1.6nm以下であることがさらに好ましい。平均面粗さが1.8nmを超えると、引張時の応力集中点となりやすくストランド強度が低下する。平均面粗さは、低ければ低いほど好ましいが、1.0nm未満となるとほぼ効果が飽和することが多い。炭素繊維束の平均面粗さは、前駆体繊維束の製糸条件を適切に制御する(紡糸法や凝固浴条件)ことや、炭素繊維束の表面処理条件を制御することで制御できる。
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維単繊維の繊維軸方向に垂直な断面の外周部の黒化厚みの断面内の面積割合(以下、二重構造性と記す。)が好ましくは90面積%以上であり、より好ましくは90〜95面積%である。ここで、二重構造性とは炭素繊維単繊維の繊維軸方向と垂直な横断面を光学顕微鏡で観察した際に外周部に見られる黒化厚みの占める面積を、炭素繊維単繊維の繊維軸方向に垂直な断面積全体で割った面積比率(%)である。炭素繊維単繊維の黒化厚みより内部は結晶部分の配向度が低く、ストランド弾性率が低い領域であるため、この二重構造性が高くなるほど、表層応力集中が抑制できるので高いストランド強度を発現できる。しかし、二重構造性が低いと請求項1記載の製造方法を適用しても高い炭化収率・高いストランド強度を発現する効果が小さいことがある。二重構造性が90面積%以上であると外周部の応力負担部分の割合が十分に多いため、表層における応力集中は抑制される。95面積%を超えると表層への応力集中抑制効果が飽和するので、耐炎化工程での過剰な熱処理を避けるために95面積%以下にすることが好ましい。黒化厚みは炭素繊維束を樹脂中に包埋し、繊維軸方向と垂直な横断面を研磨し、該断面を光学顕微鏡により観察することにより、測定可能である(詳細は後述する)。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、高い炭化収率と優れたストランド強度およびストランド弾性率をバランス良く発現し、優れた結節強度を同時に満足して製造するのに好適な耐炎化繊維束を、生産性およびプロセス性を損なうことなく製造する課題に対して、耐炎化工程で適切な温度プロフィールで後半高温熱処理することにより、特定の構造規則性度および密度とすることで、高い炭化収率と優れたストランド強度を発現する炭素繊維束が得られることを見出したものである。この発明を実施するために好適な形態に関して以下に詳述する。
本発明の炭素繊維束の製造方法はアクリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下で密度1.32〜1.35g/cmになるまで熱処理した後、密度1.46〜1.50g/cmになるまで酸化性雰囲気下275℃以上295℃以下で熱処理するものである。すなわち、本発明において、炭素繊維束用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下で1.32〜1.35g/cmになるまで熱処理した後に275℃以上295℃以下の高温で熱処理する。耐炎化繊維束の密度は耐炎化反応の進行度合いを示す指標として一般的に用いられている。かかる密度が1.32g/cm以上であると、耐熱性の高い構造となっているため、高温で熱処理する際に分解しにくく、炭素繊維束のストランド強度が向上する。また、1.35g/cm以下であると、続く耐炎化工程において高温での熱処理時間を長く確保できるため、炭素繊維束のストランド強度を向上させることができる。規定した密度で温度を切り替えるためには、耐炎化工程の途中の繊維束を採取して密度を測定し、調整すれば良い(密度の測定方法は後述する)。例えば耐炎化繊維束の密度が規定より低かった場合、温度を高める、または耐炎化時間を長くすることで密度を調整できる。ここで、酸化性雰囲気とは、酸素、二酸化窒素などの公知の酸化性物質を10質量%以上含む雰囲気のことであり、簡便性から空気雰囲気が好ましい。
本発明において、最終的な耐炎化繊維束の密度は1.46〜1.50g/cmであり、好ましくは1.46〜1.49g/cmであり、更に好ましくは1.47〜1.49g/cmである。密度と炭化収率が相関するため、製造エネルギー低減の観点から高いほど良い。かかる密度が1.46g/cm以上であると炭化収率を十分に高めることができ、1.50g/cm以下であると炭化収率を高める効果が飽和しないため、生産性の観点から効果的である。規定した密度で熱処理を完了させるためには、耐炎化温度と時間を調整すれば良い。
本発明において、前記の密度1.32〜1.35g/cmになるまで行われる熱処理の後に行われる熱処理温度は275℃以上295℃以下であり、好ましくは280℃以上290℃以下である。熱処理温度が275℃以上であると、密度を上げる際に加える熱量を小さくできることでストランド強度が向上し、295℃以下であると構造を分解させることなく耐炎化反応を進めさせられ、ストランド強度を維持できる。熱処理温度を計測するには耐炎化工程の熱処理炉に熱電対などの温度計を挿入して炉内温度を測定すればよい。炉内温度を数点測定した際に温度ムラ、温度分布があった際は単純平均温度を算出する。
本発明において、前記密度1.46〜1.50g/cmなるまで酸化性雰囲気下275℃以上295℃以下で熱処理する際の耐炎化繊維束にかかる耐炎化張力は、好ましくは1.6〜4.0mN/dtexであり、より好ましくは2.5〜4.0mN/dtexであり、更に好ましくは3.0〜4.0mN/dtexである。耐炎化工程の張力(耐炎化張力)は、耐炎化炉出側で測定した張力(mN)をポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の絶乾時の繊度(dtex)で割った値で示すものとする。該張力が1.6mN/dtex以上であると炭素繊維束の配向を十分に高められストランド強度が向上することが多く、該張力が4.0mN/dtex以下であると毛羽による品位低下が小さい傾向がある。
本発明において、前記の高温での熱処理は、耐炎化繊維束の構造規則性度R0が好ましくは35〜41%になるまで、より好ましくは36〜40%になるまで、更に好ましくは37〜39%になるまで行う。R0が41%以下であると炭化収率を十分に高めることができ、構造規則性度R0が35%未満では炭化収率を高める効果が飽和する。ここで構造規則性度R0は、R0=I1600cm−1/(I1600cm−1+I1350cm−1)であり、I1600cm−1は、ラマン分光1600cm−1におけるピーク積分強度であり、I1350cm−1は、ラマン分光1350cm−1におけるピーク積分強度である。1600cm−1は炭素原子間の二重結合由来のピークであり、1350cm−1は耐炎化進行につれて増える構造由来のピークであり、R0が小さくなるほど耐炎化反応が進行していることを示す。規定範囲の構造規則性度R0で熱処理を完了するためには耐炎化繊維束を採取してラマン分光法で測定し、その結果を元に耐炎化時間・温度を調整すればよい。本パラメーターにかかるラマン分光法による分析方法の詳細は後述する。
本発明において、前記の密度1.32〜1.35g/cmになるまで行われる熱処理の前に、炭素繊維束用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下で好ましくは密度が1.22〜1.24g/cm、より好ましくは密度が1.23〜1.24g/cmになるまで、好ましくは210℃以上245℃未満、より好ましくは220℃以上245℃未満、更に好ましくは225℃以上240℃未満で熱処理する。耐炎化繊維束の密度が1.22g/cm以上であると、熱処理により耐炎化過程の化学構造が安定化し、続く熱処理が高温であっても二重構造性が悪化しなくなるためにストランド強度が向上することが多い。また、密度が1.24g/cm以下であると続く熱処理を含めた総熱処理量・時間が減り、ストランド強度・生産性の面で優位となることが多い。温度に関して、210℃以上であると二重構造性が十分に抑制でき、245℃未満であると本発明のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維径に関しては二重構造性が抑制されるのに十分低い耐炎化初期温度であるのでストランド強度が高くなることが多い。
前記の好ましくは密度が1.22〜1.24g/cmになるまで行われる熱処理以降、耐炎化繊維束の密度が好ましくは1.32〜1.35g/cm、より好ましくは1.33〜1.34g/cmになるまで、酸化性雰囲気下で好ましくは245℃以上275℃未満、より好ましくは250℃以上270℃未満で熱処理する。密度が1.32g/cm以上であると、熱処理により耐炎化過程の化学構造がさらに安定化され、続く熱処理がより高温であっても二重構造性が悪化しなくストランド強度が向上することが多い。また、1.35g/cm以下であると続く熱処理を含めた総熱処理量・時間が減り、強度・生産性の面で優位となる。熱処理温度が245℃以上であると総熱処理量・時間が減り、強度・生産性の面で優位となることが多い。熱処理温度が275℃未満であると密度を1.22〜1.24g/cmにした耐炎化繊維束を熱処理しても二重構造性が抑制でき、ストランド強度が発現することが多い。
本発明の炭素繊維束の製造方法で得られる炭素繊維束は、炭素繊維束のストランド強度をσ(GPa)、得られる最終耐炎化繊維束の密度をd(g/cm)としたとき、下式(1)を満足する。
σ≧−22.5d+38.3 ・・・(1)。
一般的に高い炭化収率を得るために耐炎化繊維束の密度を増加させると、炭素繊維束のストランド強度は低下する傾向にある。本発明の炭素繊維束においては、適切な温度プロフィールで後半高温熱処理することにより、特定の密度、構造規則性度とすることで二重構造性が大きく抑制され、かつ、構造が安定化するためストランド強度が発現する。本発明の式(1)においては、「σ≧−22.5d+38.3」が好ましく、より好ましくは「σ≧−22.5d+38.9」である。測定方法は、後述するJISで規定される樹脂含浸ストランド引張試験法により測定を行う。公知の炭素繊維束の製造方法において、上記した耐炎化工程の条件を精密に制御することで式(1)を達成できる。
前記耐炎化工程以外は、基本的に公知の炭素繊維束の製造方法に従えば良いが、本発明の炭素繊維束を得るのに好適な炭素繊維前駆体繊維束の製造方法について概要を述べる。
炭素繊維前駆体繊維束の製造に供する原料としてはポリアクリロニトリル系重合体を用いることが好ましい。なお、本発明においてポリアクリロニトリル系重合体とは、少なくともアクリロニトリルが重合体骨格の主構成成分となっているものをいい、主構成成分とは、通常、重合体骨格の90〜100質量%を占める構成成分のことをいう。炭素繊維前駆体繊維束の製造において、ポリアクリロニトリル系重合体は、製糸性向上の観点および、耐炎化処理を効率よく行う観点等から、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリル酸などの共重合成分を含むことが好ましい。炭素繊維前駆体繊維束の製造において、ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法としては、公知の重合方法の中から選択することができる。本発明の炭素繊維束を得るのに好適なポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、紡糸溶液は、前記したポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいは硝酸・塩化亜鉛・ロダンソーダ水溶液などのポリアクリロニトリルが可溶な溶媒に溶解したものである。本発明の炭素繊維束を得るのに好適なポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造方法について述べる。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を製造するに当たり、製糸方法は乾湿式紡糸法を用い、単繊維表面の平均面粗さの小さい前駆体繊維を得ることが好ましい。製糸工程は、乾湿式紡糸法により紡糸口金から紡糸溶液を吐出させ紡糸する紡糸工程と、該紡糸工程で得られた繊維を水浴中で洗浄する水洗工程と、該水洗工程で得られた繊維を水浴中で延伸する水浴延伸工程と、該水浴延伸工程で得られた繊維を乾燥熱処理する乾燥熱処理工程からなり、必要に応じて、該乾燥熱処理工程で得られた繊維をスチーム延伸するスチーム延伸工程を含んでもよい。
ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、前記凝固浴には、紡糸溶液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、後述するポリアクリロニトリル系重合体を溶解せず、かつ紡糸溶液に用いる溶媒と相溶性があるものを使用することができる。具体的には、凝固促進成分として水を使用することが好ましい。
ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、水洗工程における水浴温度は30〜98℃の複数段からなる水洗浴を用い水洗することが好ましい。
また、水浴延伸工程における延伸倍率は、2〜6倍であることが好ましい。
水浴延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。かかるシリコーン油剤は、変性されたシリコーンを用いることが好ましく、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものを用いることが好ましい。
乾燥熱処理工程は、公知の方法を利用することができる。例えば、乾燥温度は100〜200℃が例示される。
前記した水洗工程、水浴延伸工程、油剤付与工程、公知の方法で行われた乾燥熱処理工程の後、スチーム延伸を行うことにより、炭素繊維束の製造で好適に用いられるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束が得られる。本発明において、スチーム延伸は、加圧スチーム中において、2〜6倍延伸することが好ましい。その後、繊維束に2mN/dtexの張力をかけながら、流体吐出圧力を0.35MPaとした空気により交絡処理を行った。得られる前駆体繊維束の単繊維繊度を調節するには紡糸口金から紡糸溶液を吐出させ紡糸する紡糸工程において紡糸溶液の吐出量を調整すればよい。
本発明の炭素繊維束の製造において、前記ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束製造工程・耐炎化工程に引き続いて、予備炭素化を行うことが好ましい。予備炭素化工程においては、得られた耐炎化繊維を、不活性雰囲気中、最高温度500〜1000℃において、密度が1.5〜1.8g/cmになるまで熱処理することが好ましい。
前記予備炭素化に引き続いて、炭素化を行う。本発明では、炭素化工程において、得られた予備炭化繊維束を不活性雰囲気中、最高温度1000〜3000℃、好ましくは1000〜1800℃、より好ましくは1000〜1600℃において製造する。かかる最高温度は、1000℃以上であれば、炭素繊維束中の窒素含有量が減少し、ストランド強度が安定的に発現する。かかる最高温度が3000℃以下であれば、満足できる炭化収率が得られる。
以上のようにして得られた炭素繊維束は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。液相電解酸化の方法については特に指定はなく、公知の方法で行えばよい。
かかる電解処理の後、得られた炭素繊維束に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、複合材料に使用されるマトリックス樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本明細書に記載の各種物性値の測定方法は以下の通りである。
<炭素繊維束のストランド強度とストランド弾性率>
炭素繊維束のストランド強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求める。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いる。炭素繊維束の樹脂含浸ストランド10本を測定し、その平均値をストランド強度とする。歪みは伸び計を用いて評価する。歪み範囲は0.1〜0.6%である。
<密度測定>
1.0〜3.0gの耐炎化繊維束を採取し、120℃で2時間絶乾する。次に絶乾質量A(g)を測定した後、エタノールに含浸させ十分脱泡してから、エタノール溶媒浴中の繊維質量B(g)を測定し、繊維比重=(A×ρ)/(A−B)により繊維比重を求める。ρは測定温度でのエタノール比重である。
<炭素繊維単繊維の繊維軸方向に垂直な断面の外周部の黒化厚みおよび二重構造性>
測定を行う炭素繊維束を樹脂中に包埋し、繊維軸方向と垂直な横断面を研磨し、該断面を光学顕微鏡の100倍の対物レンズを用い合計1000倍で観察する。研磨面の断面顕微鏡画像から二重構造の黒化厚みを測定する。解析は画像解析ソフトウェアImage Jを用いて行う。まず、単繊維断面像において、黒と白の領域分割を二値化によって行う。単繊維断面内の輝度分布に対し、分布の平均値を閾値として設定し、二値化を行う。得られた二値化像を、繊維直径の方向に対し、表層の一点から、黒から白への線入り領域までの最短距離として測定する。これを同一単繊維の周内5点に対して測定し、平均値をその水準における黒化厚みとして算出する。また、炭素繊維単繊維の繊維軸方向に垂直な断面全体に対する黒化厚み部分の面積比率(%)から二重構造性を算出する。
<炭素繊維束の平均単繊維径>
測定する多数本の炭素フィラメントからなる炭素繊維束について、単位長さ当たりの質量A(g/m)および密度B(g/cm)を求める。測定する炭素繊維束のフィラメント数をCとし、炭素繊維の平均単繊維径(μm)を、下記式で算出を行う。
炭素繊維の平均単繊維径(μm)
=((A/B/C)/π)(1/2)×2×10
<耐炎化繊維束の構造規則性度R0>
測定装置および、測定条件は以下のとおりで行う。
測定装置:レーザーラマン分光光度計(日本分光 NRS−3200)
対物レンズ:100倍
ビーム径:1μm
レーザーパワー:2.5−3.2mW
波長:532nm
測定時間:120秒
測定範囲:1200−1900cm−1
本発明の製造方法において、構造規則性度R0は、R0=I1600cm−1/(I1600cm−1+I1350cm−1)である。ここで、I1600cm−1は、ラマン分光1600cm−1におけるピーク積分強度であり、I1350cm−1は、ラマン分光1350cm−1におけるピーク積分強度である。測定範囲両端を直線で結びバックグラウンドを差し引いたのち、各ピークの基準波数±50cm−1以内に波数がくるように、2つのピークによりフィッティングし、各ピーク強度を決定した。ピークフィッティング関数はフォークト関数を用いた。測定は繊維束内の別々の単繊維5本に対し、各一回行い、構造規則性度R0はその単純平均を用いる。
<炭素繊維束の結節強度とその変動係数>
長さ150mmの炭素繊維束の両端に長さ25mmの把持部を取り付けて試験体とする。試験体作製の際、0.1×10−3N/デニールの荷重をかけて炭素繊維束の引き揃えを行う。試験体の中点部分に結び目を1カ所作製し、引張時のクロスヘッド速度を100mm/分として束引張試験を行う。測定は計12本の繊維束に対して行い、最大値、最小値の2つの値を除した10本の平均値を測定値として用い、10本の標準偏差を結節強度の標準偏差として用いる。結節強度には、束引張試験で得られた最大荷重値を、炭素繊維束の平均断面積値で除した値を用いる。結節強度の変動係数は上記した炭素繊維の結節強度と、結節強度の標準偏差との比をとり、百分率で示される値を用いる。
<平均引裂可能距離>
炭素繊維前駆体繊維束、および炭素繊維束における平均引裂可能距離は、いずれも以下のようにして求められる。すなわち、図1に示すとおり、測定に供する繊維束1を1160mmの長さにカットし、その一端2を水平な台上に粘着テープで固定する(この点を固定点Aと呼ぶ)。該繊維束の固定していない方の一端3を指で2分割し、その一方を緊張させた状態で台上に粘着テープで動かないように固定する(この点を固定点Bと呼ぶ)。2分割した繊維束の一端の他方を、固定点Aを支点として弛みが出ないよう台上に沿って動かし、固定点Bからの直線距離が500mmの位置4で静止させ、台上に粘着テープで動かないように固定する(この点を固定点Cと呼ぶ)。固定点A、B、Cで囲まれた領域を目視で観察し、固定点Aから最も遠い交絡点5を見つけ、固定点Aと固定点Bで結ばれる直線上に投影した距離を最低目盛が1mmの定規で読み取り、引裂可能距離6とする。この測定を30回繰り返し、測定値の算術平均値を平均引裂可能距離とする。本測定方法において、固定点Aから最も遠い交絡点とは、固定点Aからの直線距離が最も遠く、かつ弛みのない3本以上の単繊維が交絡している点のことである。
<平均面粗さ>
評価すべき炭素繊維単繊維を10本試料台にのせ、エポキシ樹脂で固定したものをサンプルとし、原子間力顕微鏡(本発明の実施例においては、ブルカーAXS製、NanoScopeV Dimension Icon)を用いた。また、本発明の実施例においては、下記条件にて3次元表面形状像を得た。
探針:シリコンカンチレバー(オリンパス製、OMCL−AC160TS−W2)
測定モード:タッピングモード
走査速度:1.0Hz
走査範囲:600nm×600nm
分解能:512ピクセル×512ピクセル
測定環境:室温、大気中
単繊維1本に対して、上記条件で3次元表面形状像を測定し、得られた測定画像は、繊維断面の曲率を考慮し、付属のソフトウェア(NanoScope Analysis)により、装置起因のデータのうねりを除去する「フラット処理」、3×3のマトリックスにおいてZデータの中央値から、マトリックス中央の値を置き換えるフィルタ処理である「メディアン8処理」、全画像データから最小二乗法により3次曲面を求めてフィッティングし、面内の傾きを補正する「三次元傾き補正」により画像処理を行ったのち、付属のソフトウェアにより表面粗さ解析を行い、平均面粗さを算出した。ここで、平均面粗さ(Ra)とは、JIS B601(2001年)で定義されている中心線粗さRaを測定面に対し適用できるよう三次元に拡張したもので基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値と定義される。測定は、異なる単繊維10本をランダムにサンプリングし、単繊維1本につき、各1回ずつ、計10回行い、その平均値を値とした。
(実施例1〜6、および比較例1〜13)
アクリロニトリル99質量%とイタコン酸1質量%からなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒として溶液重合法により重合させ、ポリアクリロニトリル系共重合体を製造し紡糸溶液を得た。得られた紡糸溶液を、紡糸口金から一旦空気中に吐出し、3℃にコントロールした35%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条とした。この凝固糸条を、常法により30〜98℃で水洗し、その際3.5倍の延伸を行った。続いて、この水浴延伸後の繊維束に対して、アミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与し、160℃の加熱ローラーを用いて、乾燥緻密化処理を行い、単繊維本数12000本としてから、加圧スチーム中で3.7倍延伸することにより、製糸全延伸倍率を13倍とし、その後、繊維束に2mN/dtexの張力をかけながら、流体吐出圧力を0.35MPaとした空気により交絡処理を行って、単繊維本数12000本の炭素繊維前駆体繊維束を得た。炭素繊維前駆体繊維束の単繊維繊度は表1に記載のとおりになるように口金から紡糸溶液の吐出量を調節した。次に、実施例1〜6、および比較例1〜13については表1に示す耐炎化温度・耐炎化時間の条件を用いて、延伸比1で空気雰囲気のオーブン中で炭素繊維前駆体繊維束を熱処理し耐炎化繊維束を得た。また、表1に得られた耐炎化繊維束の構造規則性度R0を示す。
得られた耐炎化繊維束を、温度300〜800℃の窒素雰囲気中において、予備炭素化処理を行い、予備炭素化繊維束を得た。得られた予備炭素化繊維束を、窒素雰囲気中において、最高温度1350℃で炭素化処理を行った。得られた炭素繊維束に、表面処理およびサイジング剤塗布処理を行って最終的な炭素繊維束とした。
表1に得られた炭素繊維束のストランド強度、ストランド弾性率、炭素繊維単繊維の繊維軸方向に垂直な断面の外周部の黒化厚みの面積%、単繊維径を示す。
比較例1、7、8では、最終炉出の耐炎化繊維束の密度をそれぞれ1.44g/cm、1.41g/cm、1.38g/cmと低くしたため、構造規則性度R0がそれぞれ42、42、43と高くなり、繊維径が減少した。
比較例2では、最終炉出の耐炎化繊維束の密度を1.51g/cmと高くしたところ、ストランド強度が低下した。
比較例3、4では、最終炉の熱処理温度がそれぞれ265℃、274℃と低かったため、密度を上げる際に加える総熱量が大きく、ストランド強度が低下した。
比較例5では、第2炉出での耐炎化繊維束密度を高くしたため、後の高温での熱処理時間が短くなり、ストランド強度が低下した。
比較例6では、第2炉出での耐炎化繊維束密度を低くしたため、後の高温での熱処理時に繊維束破断が起こり、工程を通過しなかった。
比較例9では、最終炉の熱処理温度が305℃と高かったため、繊維束破断が起こり、工程を通過しなかった。
比較例10では、最終炉の熱処理温度が300℃と高かったため、ストランド強度が低下した。
実施例6では、最終炉の延伸比を1.1とした結果、ストランド強度が高いものであった。
比較例11では、第2炉出の耐炎化繊維束の密度が高く、最終炉の熱処理温度が240℃と低かったため、ストランド強度が低下した。
比較例12では、アクリロニトリル96.5質量%、アクリルアミド2.7質量%、メタクリル酸0.8質量%からなる共重合体を用いたが、第2炉出の耐炎化繊維束の密度が高く、最終炉の熱処理温度が240℃と低かったため、ストランド強度が低下した。
比較例13では、製糸工程における交絡処理を付与しなかった以外は実施例1と同様に処理した結果、引裂可能距離が増加し、ストランド強度が低下した。
Figure 0006888260
本発明は、高い炭化収率と優れたストランド強度を同時に満足して製造するのに好適な耐炎化繊維束を、生産性およびプロセス性を損なうことなく製造する課題に対して、耐炎化工程で適切な温度プロフィールで後半高温熱処理することにより、特定の構造規則性度、密度とすることで、高い炭化収率と優れたストランド強度を発現する。本発明で得られる炭素繊維束は、かかる特徴を活かし、航空機・自動車・船舶部材や、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途および圧力容器などの一般産業用途に好適に用いられる。

Claims (11)

  1. ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下で密度1.32〜1.35g/cmになるまで熱処理した後、密度1.46〜1.50g/cmになるまで酸化性雰囲気下275℃以上295℃以下で熱処理をして耐炎化繊維束を得た後、該耐炎化繊維束を不活性雰囲気中で1200〜3000℃で熱処理をして炭素繊維束を得る、炭素繊維束の製造方法。
  2. 密度1.46〜1.50g/cmになるまで酸化性雰囲気下275℃以上295℃以下で熱処理する際の耐炎化繊維束の張力が1.6〜4.0mN/dtexである、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
  3. 前記耐炎化繊維束の構造規則性度R0がR0=35〜41%を満たす、請求項1または2に記載の炭素繊維束の製造方法。
  4. 酸化性雰囲気下で密度1.22〜1.24g/cmになるまで210℃以上245℃未満で熱処理した後、前記密度1.32〜1.35g/cmになるまで行われる熱処理を245℃以上275℃未満で行う、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  5. 前記炭素繊維束のストランド強度σ[GPa]が−22.5d+38.3≦σ( d:最終耐炎化繊維束の密度[g/cm])を満たす、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  6. ストランド弾性率が240〜280GPa、ストランド強度が5.5GPa以上であり、結節強度A[MPa]が−88B+1360≦A(B:平均単繊維径[μm])、かつ730≦A≦920、5.9≦B≦7.5である炭素繊維束。
  7. 平均単繊維径が6.5〜8.0μmである、請求項6に記載の炭素繊維束。
  8. 前記炭素繊維束の結節強度の標準偏差との平均値の比で表される変動係数が7%以下である、請求項6または7に記載の炭素繊維束。
  9. 平均引裂可能距離が600〜900mmである、請求項6〜8のいずれかに記載の炭素繊維束。
  10. 平均面粗さRaが1.0〜1.8nmである、請求項6〜9のいずれかに記載の炭素繊維束。
  11. 前記炭素繊維束の二重構造性が90面積%以上である、請求項6〜10のいずれかに記載の炭素繊維束。
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