JP6881090B2 - 炭素繊維束 - Google Patents

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本発明は、高性能な炭素繊維束に関するものである。さらに詳しくは、外的因子によって欠陥が増加しても引張強度への影響が出にくい、品質の安定した炭素繊維束に関するものである。
炭素繊維は極めて高い比強度および比弾性率を有するため、複合材料の強化繊維として様々な産業分野で近年盛んに利用されている。特に軽量化が重視されている分野において、従来の金属材料から炭素繊維複合材料への置き換えが加速している。具体的には、従来の主流であるスポーツ用途や航空・宇宙用途に加え、自動車や土木・建築、圧力容器および風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されており、更なる高性能化と低コスト化両立の要請が強い。また、炭素繊維の市場規模は今後年率10%以上の成長が続くとみられており、供給能力の向上も重要である。すなわち、高性能かつ低コストな炭素繊維を安定的に供給していくことが炭素繊維メーカー共通の課題であるといえる。
炭素繊維は脆性材料であるため、わずかな欠陥があると、これを起点として破壊が起こる。そのため炭素繊維が開発されて以降、欠陥の低減には多くの力が割かれてきており、主流であるポリアクリロニトリル系炭素繊維に関して述べると、初めて工業生産が開始した1971年には3GPa程度であった引張強度が、主に欠陥抑制によって現在では7GPa程度という高いレベルに引き上げられている。しかしながら、欠陥の生成要因は完全に明確になっているわけではないため、何らかの外的因子によって引張強度が変動した場合、その要因把握と対策に膨大な時間と労力が必要となることが多い。
炭素繊維の欠陥を抑制する試みとして、特許文献1ではポリアクリロニトリル系重合体の高分子量化、油剤の2段付与、前駆体繊維の緻密化、製造プロセスのクリーン化ならびに細繊度化を組み合わせること、特許文献2ではクリーン化、緻密化ならびに電解処理を組み合わせることが提案されている。
また、特許文献3では炭素繊維の欠陥によらない強度向上手段として、特定の焼成条件をとることにより破壊靱性を向上させることが提案されている。
特開平11−241230号公報 特公平8−6210号公報 特許第5907321号
特許文献1ならびに2によると欠陥が非常に少ない炭素繊維が得られるため、ベースとなる引張強度は向上するものの、何らかの外的因子によって欠陥が増加した場合、元から存在する欠陥が非常に少ないことから、引張強度が変動しやすいという問題があった。また、特許文献3によると破壊靱性の向上により高強度な炭素繊維となるが、外的因子により欠陥が増加した場合の引張強度の変動しやすさが改善するものではない。
そこで本発明の課題は、炭素繊維に一定量の欠陥をあらかじめ含ませておくことで、外的因子によって欠陥が増加しても引張強度への影響が出にくい、品質の安定した炭素繊維束を提供することである。
上記の課題を解決するために、本発明の炭素繊維束は、ループ強度σとストランド強度σの2.5乗の比σ/σ 2.5が0.150以上であって、ストランド強度σが5.5GPa以上である炭素繊維束である。ここで、本発明のループ強度σとは、平均単繊維直径dと単繊維ループ法で評価される破断直前のループ幅Wの比d/Wと樹脂含浸ストランド引張試験により評価されるストランド弾性率Eとの積E×d/Wのことを指し、本発明のストランド強度σとは、樹脂含浸ストランド引張試験により評価される引張強度のことを指す(本発明で断りなく引張強度という場合には、ストランド強度のことを指す)。
本発明の炭素繊維束は、制御された一定量の欠陥をあらかじめ含むことで、外的因子によって欠陥が増加しても引張強度への影響が出にくく、その結果、品質の安定した炭素繊維束となる。
本発明の炭素繊維束は、ループ強度σとストランド強度σの2.5乗の比σ/σ 2.5が0.150以上であって、ストランド強度が5.5GPa以上である炭素繊維束である。ここで、ループ強度σは、平均単繊維直径dと単繊維ループ法で評価される破断直前のループ幅Wの比d/Wと樹脂含浸ストランド引張試験により評価されるストランド弾性率Eとの積E×d/Wのことを指し、ストランド強度σは、樹脂含浸ストランド引張試験により評価される引張強度のことを指す。上記単繊維ループ法とは、単繊維をループ状に変形させることで単繊維に与えた歪みと単繊維破断や座屈などの破壊挙動との関係を調べる手法である。単繊維をループ状に変形させると、単繊維の内側には圧縮歪み、外側には引張歪みが与えられる。引張破壊の前に圧縮座屈が起こることから、単繊維ループ法は、従来は炭素繊維の単繊維圧縮強度の試験方法として用いられることが多かったが、圧縮座屈が起こっても試験を継続すると、最終的に引張破壊することが分かった。このとき引張破壊はループの頂点近傍で起こるため、単繊維ループ法による引張破壊は極めて短い試長の引張試験と同様の意味をもつ。引張試験の試長が極めて短い場合、当該試長に欠陥が含まれる確率が低下するため、欠陥の影響を受けにくくなり、炭素繊維の基質そのものの強度、すなわちある種の到達可能引張強度を評価することができる。d/Wは引張歪みに比例する値であり、この値とストランド弾性率Eとの積は、引張強度に相当する値であると言える。一方、ストランド強度は炭素繊維の基質そのものにも影響を受けるが、同時に欠陥の影響も強く受けることが知られている。そのため、炭素繊維が含む欠陥が増加すると、ループ強度σはほとんど影響を受けないのに対してストランド強度σは低下する。そこで本発明者らが試行錯誤的に欠陥の量を表現するのに最も適したパラメーターを探索したところ、比σ/σ 2.5が最適であると分かった。かかる比σ/σ 2.5は炭素繊維が含む欠陥が少ないと小さくなり、欠陥が多いと大きくなるという挙動を示す。かかる比σ/σ 2.5が0.150以上であると、炭素繊維が含む欠陥の量が多く、外的因子によって欠陥が増加しても、引張強度への影響が小さい、品質の安定した炭素繊維束となる。かかる比σ/σ 2.5は0.160以上であることが好ましく、0.165以上であることがより好ましい。欠陥量を表現する指標としてかかる比σ/σ 2.5が適切な理由について、完全に明らかになったわけではないが、次のように考えている。すなわち、炭素繊維の単繊維引張強度は式(1)に示すグリフィスの式に従うことが広く知られている。
単繊維引張強度=破壊靱性値/形状係数/(π×欠陥サイズ)0.5 ・・・(1)
ストランド強度は単繊維引張強度とほぼ比例関係があることを考慮すると、式(1)からストランド強度σは欠陥サイズの−0.5乗に比例すると考えることができる。一方、ループ強度σは欠陥の影響を受けないため、前記比σ/σ 2.5は、σ/σ 2.5∝1/(欠陥サイズ−0.52.5=欠陥サイズ1.25のような欠陥サイズ依存性を示すと考えられる。単位長さ当たりの欠陥の数と破壊を引き起こす欠陥サイズの間には正の相関が存在する。つまり、単位長さ当たりの欠陥の数が増加すると、破壊を引き起こす欠陥サイズは大きくなる。正確な関係が明確にはなっていないが、両者の関係が欠陥サイズ1.25∝欠陥量のような関係にあることで、最終的に前記比σ/σ 2.5がσ/σ 2.5∝欠陥量、という比例関係になっているものと考えている。つまり、前記比σ/σ 2.5は欠陥量の尺度と考えられ、かかる比が0.150以上であるということは、炭素繊維に含まれる欠陥の量が、通常の炭素繊維製造プロセスにおいて想定される外的因子による欠陥の変動量に対して相対的に大きく、トータルでの欠陥の量の変化率が小さくなるため、引張強度が変動しにくい品質の安定した炭素繊維束になると考えられる。
次に、炭素繊維中に欠陥を導入する方法について説明する。材料の表面に傷を導入する手法としては、サンドブラストなどの手法が一般的である。しかしながら、直径数μmと極めて細い炭素繊維の単繊維一本一本の表面に丁度良い大きさの欠陥を導入することは非常に困難であり、繊維自身の破壊という結果に終わる。炭素繊維という極めて微細な対象物に制御しつつ欠陥を導入する手法は一般には知られていない。そこで本発明者らが検討した結果、紡糸溶液を低温で長時間保管してから紡糸に供することで、最終的に得られる炭素繊維の欠陥が増加傾向を示すことが分かった。この理由は明確ではないが、紡糸溶液を上記のような環境におくことで、ポリアクリロニトリル系重合体の分子鎖同士のからみあいの緩和時間が長くなり、からみあいがほどけにくくなることで、紡糸溶液中に不均質な領域が生成し、かかる不均質領域がその後の構造形成過程において周囲とは異なる変形挙動をとることで、最終的に炭素繊維の欠陥になっているものと考えている。前記低温での保管の具体的な方法としては、不活性ガス雰囲気下において25〜35℃の温度で24時間以上保管することである。このとき、全体の温度を均一にするために回転数5rpmまでの低速で攪拌したり、熱交換器を有する配管中を循環させたりすることもできるが、単純に静置しても十分な効果が得られる。かかる保管温度および時間は、ポリアクリロニトリル系重合体の組成や分子量、使用する溶媒、紡糸溶液の濃度などによって変化するが、ループ強度σとストランド強度σの2.5乗の比σ/σ 2.5が本発明の範囲になるように試行錯誤によって適宜調整すればよい。
本発明の炭素繊維束は、ループ強度σとストランド強度σの比σ/σが2.3以上であることが好ましく、2.4以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましい。ループ強度σが欠陥の影響を受けないのに対して、前記の式(1)から、ストランド強度σは欠陥サイズの−0.5乗に比例するため、前記比σ/σはσ/σ∝1/(欠陥サイズ−0.5)=欠陥サイズ0.5のように、欠陥サイズを反映するものと考えられる。既に述べたとおり、単位長さ当たりの欠陥の数と破壊を引き起こす欠陥サイズの間には正の相関が存在することから、単位長さ当たりの欠陥の数が増加すると、破壊を引き起こす欠陥サイズは大きくなる。そのため、前記比σ/σ 2.5に加え、σ/σも欠陥量を示す尺度であると捉えることができる。比σ/σ 2.5と比σ/σの関係性は不明確であるものの、欠陥サイズやその破壊強度が分布を有することを考慮すると、両者は欠陥分布の異なる位置をそれぞれ重点的に反映する指標であると考えられる。かかる比σ/σが2.3以上であれば、炭素繊維に含まれる欠陥の量が、通常の炭素繊維製造プロセスにおいて想定される外的因子による欠陥の変動量に対して相対的に大きく、外的因子による欠陥量の変化率が小さくなるため、引張強度が変動しにくい品質の安定した炭素繊維束になると考えられる。かかる比σ/σは、先述した比σ/σ 2.5の制御方法と同様にして調整することができる。
本発明の炭素繊維束は、平均単繊維直径が4.4〜6.0μmであることが好ましい。平均単繊維直径の下限は5.0μmであることがより好ましい。また、平均単繊維直径の上限は5.5μmであることがより好ましい。炭素繊維束の単繊維直径を小さくするために、その元となる炭素繊維前駆体繊維束の単繊維直径を小さくすると、紡糸工程における毛羽発生量が増加しやすくなり、炭素繊維前駆体からなる繊維束の品位が低下する傾向にある。単繊維直径が4.4μm以上であれば、紡糸工程における毛羽発生量の増加は顕著でなく、品位の低下が抑制できる。単繊維直径が5.0μm以上であれば、紡糸工程における毛羽発生量の増加を効果的に抑制できるうえ、生産性も高めやすい。単繊維直径が6.0μm以下であれば均一性の高い炭素繊維束が得られる。また、単繊維直径が5.5μm以下であれば、品位と物性のバランスの良い炭素繊維束となりやすい。炭素繊維束の単繊維直径dは、口金からの原液吐出量や延伸比など、公知の方法により制御できる。
本発明の炭素繊維束は、ループ強度σが14.6GPa以上であることが好ましく、15.0GPa以上であることがより好ましく、15.2GPa以上であることがさらに好ましい。先述したとおりループ強度は炭素繊維の基質そのものの強度に対応することから、かかるループ強度が高いということは、炭素繊維の基質が強く、ある一定量の欠陥が存在するときの引張強度が向上することを意味する。それ故、欠陥量が一定の場合、ループ強度が高まるとストランド強度も高まる傾向にある。かかるループ強度が14.6GPa以上であるとストランド強度を効果的に高めることができる。かかるループ強度の上限に特に制約はないが、19.0GPaを上限とすれば十分である。なお、かかるループ強度は、この後で例示する炭素繊維束の製造方法および公知の情報(例えば、特許第5907321号)に基づいて制御することができる。
本発明の炭素繊維束は、ストランド強度σが5.5GPa以上であって、6.0GPa以上であることが好ましい。外的因子による引張強度への影響の小さい、品質の安定した炭素繊維束であっても、元の引張強度が低ければ工業的な利用価値は損なわれるが、ストランド強度が5.5GPa以上であれば、工業的な利用価値が高いものとなる。
次に、本発明の炭素繊維束を得るための製造方法の一例について説明する。
炭素繊維前駆体繊維束は、ポリアクリロニトリル系重合体が溶媒に溶解されてなる紡糸溶液を紡糸して得ることができる。ポリアクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリルのみから得られる単独重合体だけではなく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体を用いたポリアクリロニトリル系共重合体を用いても良い。具体的にポリアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを90〜100質量%で、共重合可能な単量体を10質量%未満、含有することが好ましい。
アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。前記したループ強度σとストランド強度σの2.5乗の比σ/σ 2.5が本発明の範囲になる処理条件(温度、時間)は用いる単量体によって変化するが、かかる比が0.150以上となるように処理条件を適宜調整することができる。
前記したポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、硝酸、塩化亜鉛水溶液、ロダンソーダ水溶液などポリアクリロニトリル系重合体が可溶な溶媒に溶解し、紡糸溶液とする。ポリアクリロニトリル系重合体の製造に溶液重合を用いる場合、重合に用いられる溶媒と紡糸溶媒を同じものにしておくと、得られたポリアクリロニトリル系重合体を分離し、紡糸溶媒に再溶解する工程が不要となり、好ましい。前記したループ強度σとストランド強度σの2.5乗の比σ/σ 2.5が本発明の範囲になる処理条件(温度、時間)は用いる溶媒によって変化するが、かかる比が0.150以上となるように処理条件を適宜調整することができる。
紡糸溶液は、適宜フィルターを通してろ過してもよい。用いるフィルターおよびろ過条件は、公知の範囲で実施すればよい。
紡糸溶液を凝固浴中に導入して凝固させ、得られた凝固糸を、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程および乾燥工程を通過させることにより、炭素繊維前駆体繊維束が得られる。紡糸方法としては湿式または乾湿式紡糸法など公知の方法を用いればよい。なかでも特に、乾湿式紡糸法は、得られる炭素繊維束の機械特性を高めやすく好ましい。凝固糸は、水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良いし、溶媒を水洗工程により除去した後に浴中延伸を行っても良い。浴中延伸は、通常、30〜98℃の温度に温調された単一または複数の延伸浴中で行うことが好ましい。また、上記の工程に乾熱延伸工程や蒸気延伸工程を加えても良い。
このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束が含む単繊維の平均繊度は、0.5〜1.5dtexであることが好ましく、0.5〜1.1dtexであることがより好ましく、0.5〜0.8dtexであることがさらに好ましい。単繊維繊度を0.5dtex以上とすることで、ローラーやガイドとの接触による糸切れ発生を抑え、製糸工程および炭素繊維束の焼成工程のプロセス安定性を維持することが出来る。また、単繊維繊度を1.5dtex以下とすることで、耐炎化後の各単繊維における内外構造差を小さくし、続く炭素化工程でのプロセス性や得られる炭素繊維束の引張強度および引張弾性率を向上させることが出来る。単繊維繊度が1.1dtex以下であれば、耐炎化処理速度をそれほど低下させなくても内外構造差が抑制しやすく、0.8dtex以下とすれば十分である。
得られる炭素繊維前駆体繊維束は、通常、連続繊維の形状である。また、その1糸条あたりのフィラメント数は、好ましくは1,000〜36,000本である。
上記のようにして得た炭素繊維前駆体繊維束は、耐炎化工程に供される。本発明において、耐炎化工程とは、炭素繊維前駆体繊維束を200〜300℃の温度の酸素含有雰囲気下において熱処理することをいう。耐炎化工程で得られた繊維束を予備炭素化する予備炭素化工程においては、得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中、最高温度500〜1000℃において、比重が1.5〜1.8になるまで熱処理することが好ましい。予備炭素化工程の延伸倍率は繊維束のたるみが発生したり品位が低下したりしない範囲で適宜設定すればよい。
予備炭素化された繊維束を不活性雰囲気中、最高温度1000〜3000℃において炭素化することが好ましい。炭素化工程の最高温度は、得られる炭素繊維束のストランド弾性率を高める観点からは、高い方が好ましいが、高すぎると高強度領域の強度が低下する場合があり、両者を勘案して設定するのがよい。より好ましい最高温度は1200〜2000℃であり、さらに好ましくは、1200〜1600℃である。
以上のようにして得られた炭素繊維束は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、表面処理が施され、酸素原子を含む官能基が導入される。表面処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。本発明において、液相電解酸化の方法については特に制約はなく、公知の方法で行えばよい。
かかる表面処理の後、得られた炭素繊維束に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、複合材料に使用されるマトリックス樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本実施例で用いた測定方法を次に説明する。
<炭素繊維束の比重測定>
測定する炭素繊維束について、1mサンプリングし、比重液をo−ジクロロエチレンとしてアルキメデス法で測定した。3回測定を行い、平均値を用いた。
<平均単繊維直径d> JIS R7607(2000年)に準じて実施した。具体的には、測定する多数本の炭素フィラメントからなる炭素繊維束について、単位長さ当たりの質量A(g/m)および比重B(−)を求めた。求めたAおよびBの値ならびに測定する炭素繊維束のフィラメント数Cから、炭素繊維束の平均単繊維直径d(μm)を、下記式で算出した。
平均単繊維直径(μm)=((A/B/C)/π)(1/2)×2×10
<単繊維ループ法>
長さ約10cmの単繊維をスライドガラス上に置き、中央部にグリセリンを1〜2滴たらして単繊維両端部を繊維周方向に軽くねじることで単繊維中央部にループを作り、その上にカバーガラスを置いた。これを顕微鏡のステージに設置し、トータル倍率が100倍、フレームレートが15フレーム/秒の条件で動画撮影を行った。ループが視野から外れないようにステージを都度調節しながら、ループさせた繊維の両端を指でスライドガラス方向に押しつけつつ逆方向に一定速度で引っ張ることで、単繊維が破断するまで歪をかけた。コマ送りにより破断直前のフレームを特定し、画像解析により破断直前のループの横幅W(μm)を測定した。平均単繊維直径d(μm)をWで除してd/Wを算出した。試験は20回行い、d/Wの平均値を求め、その値にストランド弾性率(GPa)を乗ずることによりE×d/Wを求め、かかる値をループ強度σ(GPa)とした。
<ストランド引張試験>
炭素繊維樹脂含浸ストランドの引張弾性率(ストランド弾性率)および引張強度(ストランド強度σ)は、JIS R7608(2008)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求めた。ストランド弾性率Eは歪み範囲0.1〜0.6%の範囲で測定した。なお、試験片は、次の樹脂組成物を炭素繊維束に含浸し、130℃の温度で35分間熱処理の硬化条件により作製した。
[樹脂組成]
・3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシ−シクロヘキサン−カルボキシレート(100質量部)
・3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3質量部)
・アセトン(4質量部)。
また、引張試験の測定本数は6本とし、各測定結果の算術平均値をその炭素繊維束のストランド弾性率およびストランド強度とした。なお、後述の実施例および比較例においては、上記の3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシ−シクロヘキサン−カルボキシレートとして、ユニオンカーバイド(株)製、“BAKELITE(登録商標)”ERL−4221(あるいは同等品の“セロキサイド(登録商標)”2021P(株式会社ダイセル製))を用いた。ひずみは伸び計を用いて測定した。
[実施例1]
アクリロニトリル99.0質量%とイタコン酸1.0質量%からなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒として溶液重合法により重合させ、ポリアクリロニトリル系共重合体を含む紡糸溶液を得た。得られた紡糸溶液を窒素雰囲気下、30℃の一定温度にて168時間静置したあと、フィルター濾過を行わずに紡糸口金から一旦空気中に吐出し、ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条を得た。この凝固糸条を、常法により水洗した後、2槽の温水浴中で、3.5倍の延伸を行った。続いて、この水浴延伸後の繊維束に対して、アミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与し、160℃の加熱ローラーを用いて、乾燥緻密化処理を行った。単繊維本数12000本としてから、加圧スチーム中で3.7倍延伸することにより、製糸全延伸倍率を13倍とし、その後交絡処理を行って、結晶配向度93%、単繊維本数12000本の炭素繊維前駆体繊維束を得た。炭素繊維前駆体繊維束の単繊維繊度は0.7dtexであった。
次に、第1耐炎化工程を耐炎化温度250℃、耐炎化時間11分の条件を用いて、第2耐炎化工程を耐炎化温度280℃、耐炎化時間6分の条件を用いて、空気雰囲気のオーブン中で炭素繊維前駆体繊維束を延伸比1で延伸しながら耐炎化処理し、耐炎化繊維束を得た。ここで、特許第5907321号の記載を参考にして、第1耐炎化工程終了時の繊維束において赤外スペクトルで評価される1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比は1.04、第2耐炎化工程終了時の繊維束において赤外スペクトルで評価される1370cm−1のピーク強度に対する1453cm−1のピーク強度の比は0.70、かつ、赤外スペクトルにおける1370cm−1のピーク強度に対する1254cm−1ピーク強度の比は0.61となるように条件を微調整した。
得られた耐炎化繊維束を、最高温度800℃の窒素雰囲気中において、延伸比1.17で延伸しながら予備炭素化処理を行い、予備炭素化繊維束を得た。得られた予備炭素化繊維束を、窒素雰囲気中において、最高温度1500℃、延伸比0.98で延伸しながら炭素化処理を行った。得られた炭素繊維束の評価結果を表1に示す。また、重合を除く一連の実験操作(すなわち、30℃における保管〜炭素化処理、のことを指す)を5バッチ行った際のストランド強度のCV値とその判定結果も表1に示す。なお判定基準は、CV値が3.5%以下のとき◎、3.5より大きく5以下のとき○、5より大きいとき△、と定めた。
[実施例2]
30℃における保管時間を72時間とした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。評価結果を表1に示す。また、重合を除く一連の実験操作(すなわち、30℃における保管〜炭素化処理、のことを指す)を5バッチ行った際のストランド強度のCV値も表1に示す。
[実施例3]
30℃における保管時間を310時間とした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。評価結果を表1に示す。また、重合を除く一連の実験操作(すなわち、30℃における保管〜炭素化処理、のことを指す)を5バッチ行った際のストランド強度のCV値も表1に示す。
[比較例1]
紡糸溶液を30℃における保管を行うことなく、紡糸に先立ち紡糸溶液を濾過精度が1μmのフィルター濾材を通過させて濾過を行った後すみやかに紡糸に供し、予備炭素化処理における延伸比を0.90にした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。評価結果を表1に示す。また、重合を除く一連の実験操作(すなわち、30℃における保管〜炭素化処理、のことを指す)を5バッチ行った際のストランド強度のCV値も表1に示す。
[比較例2]
予備炭素化処理における延伸比を1.17にした以外は、比較例1と同様にして炭素繊維束を得た。評価結果を表1に示す。また、重合を除く一連の実験操作(すなわち、30℃における保管〜炭素化処理、のことを指す)を5バッチ行った際のストランド強度のCV値も表1に示す。
[実施例4]
予備炭素化処理における延伸比を0.90にした以外は、実施例1と同様にして前駆体繊維束を得た。つづいて、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。評価結果を表1に示す。また、重合を除く一連の実験操作(すなわち、30℃における保管〜炭素化処理、のことを指す)を5バッチ行った際のストランド強度のCV値も表1に示す。
[参考例1〜3]
市販品である“トレカ(登録商標)”T800S(東レ(株)製)および“トレカ(登録商標)”T1100G(東レ(株)製)、“トレカ(登録商標)”T700S(東レ(株)製)の物性を表1に示した。
実施例1と比較例1を比較すると、ストランド強度は6.2GPaで同一であるが、ループ強度σとストランド強度σの2.5乗の比σ/σ 2.5がそれぞれ0.164と0.129と大きく異なり、実施例1の方が欠陥を多量に含むことを示している。その結果、紡糸工程以降を同じ条件で5回繰り返し、5バッチ分の炭素繊維を束を作製したとき、N=5でのストランド強度のバラツキのCV値がそれぞれ3.3%、5.0%と、前記比が0.150以上の実施例1ではCV値が小さくなることが見て取れる。また、実施例2〜4および比較例2からも同様の結果が読み取れる。すなわち、前記比を0.150以上とすることで、外部因子による強度バラツキの小さい、品質の安定した炭素繊維束が得られることが分かった。さらに、参考例から分かる通り、現在市販されている代表的な高強度炭素繊維は、本発明の上記比の範囲から外れており、本発明の炭素繊維束が従来にない特徴を有する炭素繊維束であることを示している。
Figure 0006881090

Claims (5)

  1. ループ強度σとストランド強度σの2.5乗の比σ/σ 2.5が0.150以上であって、ストランド強度σが5.5GPa以上である炭素繊維束。
  2. ループ強度σとストランド強度σの比σ/σが2.3以上である、請求項1に記載の炭素繊維束。
  3. 平均単繊維直径が4.4〜6.0μmである、請求項1または2に記載の炭素繊維束。
  4. ループ強度σが14.6GPa以上である請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維束。
  5. ストランド強度σが6.0GPa以上である請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維束。
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