JP4924469B2 - 炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維の製造方法 - Google Patents

炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維の製造方法 Download PDF

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本発明は生産性に優れ、圧縮強度と引張弾性率に優れた炭素繊維の製造方法に関し、前記炭素繊維の製造に用いられる炭素繊維前駆体繊維の製造方法に関する。
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、従来からのスポーツ用途や航空・宇宙用途に加え、自動車や土木・建築、圧力容器および風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されつつあり、更なる高性能化と低コスト化両立の要請が高い。例えば、航空機用途では、軽量化のために構造材料部材の多くが炭素繊維強化プラスチックに置き換えられつつあり、そのため圧縮強度と引張弾性率が高いレベルで両立した炭素繊維が求められている。
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル(以下、PANと略記することがある)系炭素繊維は、その前駆体となるPAN系重合体からなる紡糸溶液を湿式紡糸、乾式紡糸または乾湿式紡糸して炭素繊維前駆体繊維(以下、前駆体繊維と略記することがある)を得た後、それを200〜400℃の温度の酸化性雰囲気下で加熱して耐炎化繊維へ転換し、少なくとも1000℃の温度の不活性雰囲気下で加熱して炭素化することによって工業的に製造されている。
炭素繊維は、炭素化工程における最高温度を高くするほど、得られる炭素繊維の引張弾性率は高くできるものの、炭素網面の成長に伴い、得られる炭素繊維の圧縮強度は低下する。すなわち、炭素繊維の引張弾性率と圧縮強度とは、トレードオフの関係にある。このトレードオフの関係にある圧縮強度と引張弾性率を両立するため、炭化温度の制御以外で、炭素繊維の引張弾性率を向上させるためには、焼成時に繊維を延伸することにより得られる炭素繊維の配向度を高めることが有効であることが知られている。しかし、単に延伸倍率を高めるだけでは、毛羽の発生や糸切れを誘発し、操業性の低下や得られる炭素繊維の品位の低下が避けられない。焼成条件を制御することにより延伸の安定化を図る技術(特許文献1および特許文献2参照)や、ポリアクリロニトリルの分子量を大きくして焼成工程における延伸性を向上させる技術(特許文献3参照)も提案されている。
PAN系炭素繊維の生産性向上は、炭素繊維前駆体繊維の紡糸、耐炎化あるいは炭素化のいずれの観点からも行われている。中でも前駆体繊維の生産性向上については、従来技術には次に示す問題があった。すなわち、前駆体繊維を得る際の紡糸においては、口金孔数とPAN系重合体溶液の特性にともなう凝固糸を引き取る限界速度(以下、可紡性とも記述する)とその凝固構造に伴う限界延伸倍率によって生産性が制限されている。すなわち、多フィラメントの炭素繊維前駆体繊維を得るに際し、引き取り速度と延伸倍率とで決まる最終的な紡糸速度がどれほど高められるかで制限されている。生産性を向上させるために紡糸速度を高めると延伸性低下が起こり、生産工程が不安定化しやすく、紡糸速度を下げると生産工程は安定化するものの生産性は低下するため、生産性の向上と生産工程の安定化の両立が困難であるという問題があった。
限界紡糸ドラフト率に大きな影響を与えるものに紡糸方法があり、紡糸方法の観点から説明する。乾式紡糸法は、紡糸溶液を口金孔から高温度の気体雰囲気中に吐出して溶媒を蒸発させて濃縮・固化させる方法であり、引き取り速度は溶媒の蒸発律速となるため、引き取り速度の高速化に伴い長大な紡糸筒が必要になるなどの欠点がある。
また、湿式紡糸法は、紡糸溶液を凝固浴内にある口金孔から凝固浴に吐出させる方法であるが、紡糸溶液が口金孔から吐出された直後から凝固が進行するため、引き取り速度の高速化に従って実質の紡糸ドラフト率は高くなるが、口金面で糸切れが発生するという問題があり、引き取り速度を高く設定することには限界がある。
また、乾湿式紡糸法は、紡糸溶液が一旦空気中(エアーギャップ)に吐出されてから凝固浴中に導かれるので、実質的な紡糸ドラフト率はエアーギャップ内にある原液流で吸収され高速紡糸が可能であることから、これまでいくつかの提案がなされている。例えば、流下式凝固浴を用いて、凝固浴抵抗をできるだけ軽減することにより引き取り速度を向上させる技術が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、この提案では、引き取り速度を大幅に向上することができるものの、(1)特殊形状の紡糸口金であるため単繊維繊度が小さい前駆体繊維が得られないこと、(2)凝固浴の構造が複雑で工業的に実現できる技術でないこと、および(3)流下筒出のスリットと通過する糸束の太さ等の関係で操作や操業性が悪化することなどの問題があった。
特開2004−91961号公報 特開2004−197278号公報 国際公開第07/069511号パンフレット 特開昭64―77618号公報
本発明の目的は、生産性に優れ、プロセス性を損なうことなく、圧縮強度と引張弾性率が共に優れた炭素繊維の製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、前記炭素繊維の製造に用いられる炭素繊維前駆体繊維の製造方法を提供することにある。
上記の目的を達成するための本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、重量平均分子量Mw(P)が30万〜100万であり、Z平均分子量MzとMwとの比で示される多分散度Mz(P)/Mw(P)が2.7〜6であるポリアクリロニトリル系重合体が濃度5重量%以上30重量%未満で溶媒に溶解してなる紡糸溶液を紡糸して膨潤糸を得、その膨潤糸を前延伸し、乾燥熱処理した後、さらに後延伸して、次式を満たす繊維の重量平均分子量Mw(F)を有する炭素繊維前駆体繊維を得る炭素繊維前駆体繊維の製造方法である。
0.8≦Mw(F)/Mw(P)≦1
また、上記の目的を達成するための本発明の炭素繊維の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、前記した製造方法によって得られた炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において延伸比0.8〜1.2で延伸しながら耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化工程で得られた繊維を、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において延伸比1〜1.3で延伸しながら予備炭化する予備炭化工程と、予備炭化工程で得られた繊維を1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において延伸比0.96〜1.05で延伸しながら炭化する炭化工程を順次経て炭素繊維を得る炭素繊維の製造方法である。
本発明により製造された炭素繊維前駆体繊維を用いることにより、炭素繊維製造工程における生産性に優れ、プロセス性を損なうことなく、炭素繊維製造工程における繊維の高延伸を安定して実現することができる。その結果、本発明によれば、圧縮強度、引張弾性率および品位の優れた炭素繊維を低コストで製造することができる。
本発明者らは、特定の分子量分布を有するPAN系重合体を用いることによって優れた可紡性を与える炭素繊維前駆体繊維の製造技術を既に提案している(特願2007−269822号)。その検討の中で、紡糸溶液におけるPAN系重合体の分子量に対して、前駆体繊維におけるPAN系重合体の分子量の低下が少ない、すなわち、紡糸溶液から繊維に至る過程で分子鎖の切断が少ないことが、意外にも炭素繊維を製造するための焼成延伸工程における高い延伸性を有することを見出し、本発明に到達した。
なお、本発明では、重量平均分子量をMw、Z平均分子量をMz、Z+1平均分子量をMZ+1、数平均分子量をMnと略記し、繊維を構成する全PAN系重合体について言うときには添え字(F)を付け、紡糸溶液における全PAN系重合体について言うときには、添え字(P)を付記する。
本発明において、PAN系重合体とはアクリロニトリル(以下、ANと略記する)が70mol%以上である組成の重合体を80重量%以上含めば良く、かかる組成の重合体以外の重合体を20重量%以下含む重合体組成物であっても良い。
重量平均分子量Mw(P)が30万〜100万であり、Z平均分子量Mz(P)とMw(P)との比で示される多分散度Mz(P)/Mw(P)が2.7〜6であるPAN系重合体が濃度5重量%以上30重量%未満で溶媒に溶解してなる紡糸溶液を紡糸して膨潤糸を得る。紡糸溶液におけるPAN系重合体の多分散度Mz(P)/Mw(P)を高める、すなわち、分子量分布が高分子量側を中心にブロードとなることで、紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフト率を高めることができ、炭素繊維を低コスト化できるだけでなく、高分子量のPANが製糸工程での延伸時の応力を優先的に負担することで前駆体繊維の分子量低下抑制が可能となる。得られた膨潤糸を加熱下で延伸し、乾燥熱処理して後、さらに加圧水蒸気下で後延伸する。常法の製糸条件を適用しても製糸操業性に問題を生じないが、さらに、製糸工程での延伸張力を制御して、紡糸溶液におけるPAN系重合体の分子鎖を極力切断することなく繊維化する。具体的には、得られる前駆体繊維において繊維の重量平均分子量Mw(F)が次式を満たすように製糸工程での延伸張力を制御することによって、炭素繊維を製造するための焼成工程における延伸時の繊維の破断を抑制できるのである。
0.8≦Mw(F)/Mw(P)≦1
特許文献3で開示されているように、ポリアクリロニトリルの分子量がある程度大きくなると焼成工程における延伸性が向上するが、Mw(F)/Mw(P)が0.8未満であると、分子量相応のPAN系前駆体繊維と同程度に焼成工程における延伸時に繊維が破断してしまう。かかる関係式を満たすことにより、炭素繊維を製造するための焼成工程における延伸時の繊維の破断が抑制されるという効果が生み出される作用については定かでは無いが、次のように推定している。Mw(P)よりもMw(F)の方が小さくなるということは、紡糸溶液から前駆体繊維に繊維化される工程中で分子鎖が切断されていることを意味し、何らかの分子量分布の再調整が行われていることになる。その際、重合体における高分子量側の成分はより劣化される機会が多く、高分子量成分が張力を伝播することで、部分的ではなく均一な分子配列を伴うため、焼成時の繊維の破断が抑制されると推定している。しかし、Mw(P)とMw(F)の差が大きい場合、分子鎖が切断された部分は炭素化する過程で欠陥となるため、焼成工程での延伸性が低下すると推定している。
本発明では、重量平均分子量Mw(P)が30万〜100万、好ましくは32万〜45万であるPAN系重合体が溶媒に溶解してなる紡糸溶液を用いる。Mw(P)が30万未満の低分子量のPAN系重合体の場合、繊維軸方向の分子同士のつながりが低下するため、焼成工程における延伸性を向上させるという本発明の効果が減少する。また、Mw(P)は高い方が好ましいが、分子鎖の長さではなく、繊維化された後の伸びきり鎖長が重要である。Mw(P)が100万を越えるような高分子量のPAN系重合体では絡み合いが多く、伸びきり鎖長を大きくするためにはポリマー濃度を下げて準希薄溶液で絡み合いを下げて延伸することもできるが、本発明のもう一つの目的である高生産性と乖離してしまう。Mw(P)は、重合時のモノマー、ラジカル開始剤および連鎖移動剤などの量を変えることにより制御できる。
紡糸溶液中のPAN系重合体の多分散度Mz(P)/Mw(P)は2.7〜6、好ましくは3.0〜5.8、より好ましくは3.2〜5.5とする。Mz(P)/Mw(P)が2.7未満では、歪み硬化が弱くPAN系重合体の吐出安定性向上が不足する一方で、Mz(P)/Mw(P)が6を越えると絡み合いが大きくなりすぎて、吐出が困難となる場合がある。
本発明において、各種平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCと略記する)法で測定され、ポリスチレン換算値として得られるものである。なお、多分散度Mz/Mwは、次の意味を有する。すなわち、数平均分子量(以下、Mnと略記する)は、高分子化合物に含まれる低分子量物の寄与を敏感に受ける。これに対して、Mwは、高分子量物の寄与を敏感に受け、Mzは、高分子量物の寄与をさらに敏感に受ける。そのため、分子量分布であるMw/Mnや多分散度であるMz/Mwを用いることにより分子量分布の広がりを評価することができる。Mw/Mnが1であるとき単分散であり、大きくなるにつれて分子量分布が低分子量側を中心にブロードになることを示すのに対して、Mz/Mwは大きくなるにつれて、分子量分布が高分子量側を中心にブロードになることを示す。
上記のように、Mw/MnとMz/Mwの示すところが異なるため、Mw/Mnが大きくても、Mz/Mwが2.7以上になるということでは必ずしもない。
また、前記分子量の分布においては、Mw(P)の5倍以上の分子量成分の含有率が1〜4%であるPAN系重合体を用いるのが好ましい。Mw(P)の5倍以上の含有率分子量が1%未満では、歪み硬化が弱くPAN系重合体を含む紡糸溶液の口金からの吐出安定性向上度合が不足する場合があり、4%を超える場合には、歪み硬化が強すぎて、PAN系重合体の吐出安定性向上度合が不足する場合がある。かかる観点から、Mw(P)の5倍以上の分子量の含有率は1.2〜3.8%であることがより好ましく、1.5〜3.6%であることがさらに好ましい。Mw(P)の5倍以上の分子量成分の含有率は、GPC法により測定されるポリスチレン換算分子量の対数と、屈折率差によって描く分子量分布曲線から得られる値であり、分子量分布全体の積分値に対するポリスチレン換算分子量の5倍以上の分子量であるピーク面積の積分値が占める割合を示したものである。屈折率差は、単位時間当たりに溶出された分子の重量にほぼ対応するため、ピーク面積の積分値が重量混合率にほぼ対応する。
上記したようなPAN系重合体を用いることにより、生産性の向上と安定化の両立を達成できる炭素繊維前駆体繊維を製造することができるメカニズムは、必ずしも明確になった訳ではないが、次のように考えられる。口金孔直後でPAN系重合体が伸長変形する際に、超高分子量物と高分子量物が絡み合い、超高分子量物を中心に絡み合う間の分子鎖が緊張することで伸長粘度の急激な増大、すなわち、歪み硬化が起きる。PAN系重合体溶液の細化に伴い細化部分の伸長粘度が高くなり、流動安定化するため紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフト率を高めることができ、ひいては製糸速度を高めることができる。上記のようなPAN系重合体を溶媒に溶解させた溶液を用いることにより、20000mm/分もの高速で糸を曳いても糸が切れることはなく、曳糸長としては測定ができないほどとすることができる。
また、Mw(P)/Mn(P)は、小さいほど炭素繊維の構造欠陥となりやすい低分子成分の含有量が少ないため、小さいほど好ましく、Mz(P)/Mw(P)よりもMw(P)/Mn(P)が小さいことが好ましい。すなわち、高分子量側にも、低分子量側にもブロードであっても、吐出安定性低下は少ないが、低分子量側はなるべくシャープであることが好ましく、Mz(P)/Mw(P)がMw(P)/Mn(P)に対して、1.5倍以上であることがより好ましく、1.8倍以上であることがさらに好ましい。本発明者らの検討によると、通常、ANの重合でよく行われている、水系懸濁、溶液法などのラジカル重合においては、分子量分布として低分子量側に裾を引いているため、Mw/MnがMz/Mwよりも大きくなる。そのため、重合開始剤の種類と割合や逐次添加など、特殊な条件で重合を行うか、一般的なラジカル重合を用いる場合、2種以上のPAN系重合体を混合する方法があり、重合体を混合する方法が簡便である。混合する種類は、少ないほど簡便であり、吐出安定性の観点からも2種で十分なことが多い。
混合する重合体のMwは、Mwの大きいPAN系重合体をA成分とし、Mwの小さいPAN系重合体をB成分とすると、A成分のMwは好ましくは100万〜1500万であり、より好ましくは100万〜500万であり、B成分のMwは15万〜90万であることが好ましい。A成分とB成分のMwの差が大きいほど、混合された重合体のMz(P)/Mw(P)が大きくなる傾向があるため好ましい態様であるが、A成分のMwが1500万より大きいときはA成分の生産性は低下する場合があり、B成分のMwが15万未満のときは前駆体繊維の強度が不足する場合があり、Mz(P)/Mw(P)は10以下とすることが現実的である。
具体的には、A成分とB成分の重量平均分子量比は、4〜45であることが好ましく、20〜45であることがより好ましい。
また、A成分とB成分の重量比は、0.003〜0.3であることが好ましく、0.005〜0.2であることがより好ましく、0.01〜0.1であることが更に好ましい。A成分とB成分の重量比が0.003未満では、歪み硬化が不足することがあり、また0.3より大きいときは重合体溶液の吐出粘度が上がりすぎて吐出困難となることがある。A成分とB成分の重量平均分子量比やA成分とB成分の重量比は、GPCにより測定された分子量分布のピークをショルダーやピーク部分でピーク分割し、それぞれのピークのMwおよびピークの面積比を算出することにより測定される。
A成分とB成分の重合体を混合する場合、両重合体を混合してから溶媒で希釈する方法、重合体それぞれを溶媒に希釈したもの同士を混合する方法、溶解しにくい高分子量物であるA成分を溶媒に希釈した後にB成分を混合溶解する方法、および高分子量物であるA成分を溶媒に希釈したものとB成分を構成する単量体を混合して単量体を溶液重合することにより混合する方法などを採用することができる。混合には、混合槽で攪拌する方法やギヤポンプなどで定量してスタティックミキサーで混合する方法、二軸押出機を用いる方法などが好ましく採用できる。高分子量物を均一に溶解させる観点から、高分子量物であるA成分を初めに溶解する方法が好ましい。特に、炭素繊維前駆体製造用とする場合には、高分子量物であるA成分の溶解状態が極めて重要であり、わずかであっても未溶解物が存在していた場合には異物として認識され、フィルター濾材に濾過されるか、濾過させないほど小さいときには炭素繊維内部にボイドを形成することがある。
具体的には、A成分の溶媒に対する重合体濃度、すなわちA成分と溶媒のみからなる溶液を仮想したときの、その溶液中におけるA成分の重合体濃度を好ましくは0.1〜5重量%になるようにした後、B成分を混合する、あるいは、B成分を構成する単量体を混合して重合する。上記のA成分の重合体濃度は、より好ましくは0.3〜3重量%であり、さらに好ましくは0.5〜2重量%である。上記のA成分の重合体濃度は、より具体的には、重合体の集合状態として、重合体がわずかに重なり合った準希薄溶液とすることが好ましく、B成分を混合する、あるいは、B成分を構成する単量体を混合して重合する際に、混合状態が均一となりやすいため、孤立鎖の状態となる希薄溶液とすることが更に好ましい態様である。希薄溶液となる濃度は、重合体の分子量と溶媒に対する重合体の溶解性によって決まる分子内排除体積によって決まるとみられるため、一概には決められないが、本発明においては概ね前記範囲にすることにより凝集してフィルター濾材内に堆積することが少ない。上記の重合体濃度が5重量%を超える場合は、A成分の未溶解物が存在することがあり、0.1重量%未満の場合は、分子量にもよるが希薄溶液となっているため効果が飽和していることが多い。
上記のように、A成分の溶媒に対する重合体濃度を好ましくは0.1〜5重量%になるようにした後、それにB成分を混合溶解する方法でもかまわないが、工程省略の観点から高分子量物を溶媒に希釈したものとB成分を構成する単量体を混合して単量体を溶液重合することにより混合する方法を採用する方が好ましい。
A成分の溶媒に対する重合体濃度を0.1〜5重量%になるようにする方法としては、希釈による方法でも重合による方法でも構わない。希釈する場合は、均一に希釈できるまで撹拌することが重要であり、希釈温度としては50〜120℃が好ましく、希釈時間は希釈温度や希釈前濃度によって異なるため、適宜設定すればよい。希釈温度が50℃未満の場合は、希釈に時間がかかることがあり、120℃を超える場合は、A成分が変質する恐れがある。また、重合体の重なり合いを希釈する工程を減らし、均一に混合する観点から、前記のA成分の製造から前記のB成分の混合開始、あるいは、B成分を構成する単量体の重合開始までの間、A成分の溶媒に対する重合体濃度を0.1〜5重量%の範囲に制御することが好ましい。具体的には、A成分を溶液重合により製造する際に、重合体濃度が5重量%以下で重合を停止させ、それにB成分を混合する、あるいは、B成分を構成する単量体を混合しその単量体を重合する方法である。通常、溶媒に対する仕込み単量体の割合が少ないと、溶液重合により高分子量物を製造することは困難なことが多いため仕込み単量体の割合を多くするが、重合体濃度が5重量%以下の段階では、重合率が低く、未反応単量体が多く残存していることになる。未反応単量体を揮発除去してから、B成分を混合してもかまわないが、工程省略の観点からその未反応単量体を用いてB成分を溶液重合することが好ましい。
本発明で好適に用いられるA成分としては、PANと相溶性を有することが望ましく、相溶性の観点からPAN系重合体であることが好ましい。組成としては、ANが好ましくは93〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%であり、ANと共重合可能な単量体を7モル%以下なら共重合させてもよいが、共重合成分の連鎖移動定数がANより小さく、必要とするMwを得にくい場合は、共重合成分の量をなるべく減らすことが好ましい。
ANと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
A成分であるPAN系重合体を製造するための重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法などから選択することができるが、ANや共重合成分を均一に重合する目的からは、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いて重合する場合、溶媒としては、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPANが可溶な溶媒が好適に用いられる。必要とするMwを得にくい場合は、連鎖移動定数の大きい溶媒、すなわち、塩化亜鉛水溶液による溶液重合法、あるいは水による懸濁重合法も好適に用いられる。
本発明で好適に用いられるB成分であるPAN系重合体の組成としては、ANが好ましくは93〜100モル%であり、より好ましくは93〜100モル%である。ANと共重合可能な単量体を7モル%以下なら共重合させてもよいが、共重合成分量が多くなるほど耐炎化工程で共重合部分での熱分解による分子断裂が顕著となり、得られる炭素繊維の引張強度が低下する。
ANと共重合可能な単量体としては、耐炎化を促進する観点から、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
B成分であるPAN系重合体を製造するための重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法などから選択することができるが、ANや共重合成分を均一に重合する目的からは、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いて重合する場合、溶媒としては、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPANが可溶な溶媒が好適に用いられる。中でも、PANの溶解性の観点から、ジメチルスルホキシドを用いることが好ましい。これらの重合に用いる原料は、全て濾過精度1μm以下のフィルター濾材を通した後に用いることが好ましい。
前記したPAN系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPAN系重合体が可溶な溶媒に溶解し、紡糸溶液とする。溶液重合を用いる場合、重合に用いられる溶媒と紡糸溶媒を同じものにしておくと、得られたPAN系重合体を分離し紡糸溶媒に再溶解する工程が不要となる。
紡糸溶液におけるPAN系重合体の重合体濃度は、5〜30重量%の範囲であることが好ましく、14〜25重量%であることがより好ましく、18〜23重量%であることが最も好ましい。かかる重合体濃度が5重量%未満では溶媒使用量が多くなり経済的でなく、凝固浴内での凝固速度を低下させ内部にボイドが生じて緻密な構造が得られないことがある。一方、重合体濃度が30重量%を超えると粘度が上昇し、紡糸が困難となる傾向を示す。紡糸溶液の重合体濃度は、使用する溶媒量により調製することができる。
本発明において重合体濃度とは、PAN系重合体の溶液中に含まれるPAN系重合体の重量%である。具体的には、PAN系重合体の溶液を計量した後、PAN系重合体を溶解せずかつPAN系重合体溶液に用いる溶媒と相溶性のあるものに、計量したPAN系重合体溶液を脱溶媒させた後、PAN系重合体を計量する。重合体濃度は、脱溶媒後のPAN系重合体の重量を、脱溶媒する前のPAN系重合体の溶液の重量で割ることにより算出する。
また、45℃の温度における紡糸溶液の粘度は、15〜200Pa・sの範囲であることが好ましく、20〜150Pa・sであることがより好ましく、30〜100Pa・sであることが最も好ましい。溶液粘度が15Pa・s未満では、紡糸糸条の賦形性が低下するため、口金から出た糸条を引き取る速度、すなわち可紡性が低下する傾向を示す。また、溶液粘度は200Pa・sを超えるとゲル化し易くなり、フィルター濾材が閉塞しやすくなる傾向を示す。PAN系重合体溶液である紡糸溶液の粘度は、重合開始剤や連鎖移動剤の量などにより制御することができる。
本発明において45℃の温度におけるPAN系重合体溶液の粘度は、B型粘度計により測定することができる。具体的には、ビーカーに入れたPAN系重合体溶液を、45℃の温度に温度調節された温水浴に浸して調温した後、B型粘度計として、例えば、(株)東京計器製B8L型粘度計を用い、ローターNo.4を使用し、PAN系重合体溶液の粘度が0〜1,00Pa・sの範囲はローター回転数6r.p.m.で測定し、またその紡糸溶液の粘度が100〜1,000Pa・sの範囲はローター回転数0.6r.p.m.で測定する。
本発明では、上記したような紡糸溶液を紡糸するに先立ち、フィルター濾材に通し、重合体原料および各工程において混入した不純物を除去することが好ましい。フィルター濾材の濾過精度は1〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましく、1〜3μmがさらに好ましい。本発明において、フィルター濾材の濾過精度とは、フィルター濾材を通過する間に95%を捕集することができる球粒子の粒子径(直径)で定義する。そのため、フィルター濾過精度とその開孔径とは関係があり、開孔径を狭くすることで濾過精度を高めることが一般的である。かかる濾過精度が10μmより大きいと、得られる紡糸溶液中の異物が増大し、焼成延伸工程における延伸性が低下して圧縮強度および引張弾性率に優れた炭素繊維が得られない場合がある。一方、濾過精度が1μmよりも小さいと異物だけでなく、紡糸溶液中に含まれる超高分子量成分を選択的に濾過・閉塞し、Mw(F)/Mw(P)を低下させる場合がある。 本発明では、前記した紡糸溶液を、乾式、湿式、または乾湿式紡糸法により紡糸することにより、炭素繊維前駆体繊維を製造することができる。中でも乾湿式紡糸法は、前記した特定の分子量分布を有するPAN系重合体の特性を発揮させるため、好ましく用いられる。
紡糸に用いる口金孔径は、0.05mm〜0.3mmであることが好ましく、0.1〜0.15mmであることがより好ましい。口金孔径が0.05mmより小さい場合、口金吐出時に剪断応力がかかり、分子間の絡み合いが解消されるだけでなく、極端な場合、分子鎖の切断を起こすため、焼成工程における分子間および結晶子間のつながりの発達が困難となり、焼成工程における延伸性の効果を得にくい場合がある。また、一方、口金孔径が0.3mmを超えると1.5dtex以下の単繊維繊度の繊維を得るためには過剰な延伸なしには困難であり、分子鎖の切断が生じ、繊維の分子量低下が起きることがある。
本発明において、凝固浴には、PAN系重合体溶液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記のPAN系重合体を溶解せず、かつPAN系重合体溶液に用いた溶媒と相溶性があるものが好ましく、具体的には、水を使用することが好ましい。凝固浴としての条件は、膨潤糸における単繊維の断面ができるだけ真円に近くなるように制御することが好ましく、溶媒の濃度は、臨界浴濃度といわれる濃度以下であることが好ましい。溶媒の濃度が高いとその後の溶媒洗浄工程が長くなり、生産性が低下する。例えば、溶媒にジメチルスルホキシドを用いた場合は、ジメチルスルホキシド水溶液の濃度を5〜55重量%とするのが好ましく、5〜30重量%とすることがより好ましい。凝固浴の温度は、繊維側面ができるだけ平滑となるように制御することが好ましく、具体的には、−10〜30℃とすることが好ましく、−5〜5℃とすることがより好ましい。
紡糸溶液を凝固浴中に導入して凝固させ糸条を形成して膨潤糸とした後、駆動源を持ったローラーで引き取るが、その膨潤糸の引取速度は、20〜500m/分であることが、前記した特定の分子量分布を有するPAN系重合体の特性を発揮させる観点から好ましい。その引き取り速度が20m/分未満では生産性が落ち、また引き取り速度が500m/分を超えると凝固浴の液面揺れが顕著になり、得られる繊度にムラが生じる傾向がある。
引き取られた膨潤糸を、引き続き前延伸し、乾燥熱処理して後、さらに後延伸して、炭素繊維前駆体繊維が得られる。
前延伸は、空気中または温水浴中で行うのが一般的であり、通常、凝固後の糸条に残存する溶媒を水洗工程により除去した後に、浴中または空気中で延伸を行なう。なお、凝固後の糸条の水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良い。また、後延伸は、乾熱延伸であっても加熱媒体中での延伸であっても良く、それらの組み合わせでもよいが、通常、加熱媒体中で行うのが一般的である。
本発明では、前延伸や後延伸での張力を制御することにより、次式を満たす繊維の重量平均分子量Mw(F)を有する炭素繊維前駆体繊維が得られる。
0.8≦Mw(F)/Mw(P)≦1
本発明において前延伸工程とは、凝固浴引取ローラー出から乾燥熱処理までに延伸する工程を指す。前延伸する際には、張力を1.5〜3mN/dtex、好ましくは1.8〜2.8mN/dtex、より好ましくは2〜2.8mN/dtexとするのがよい。前延伸での張力が3mN/dtexよりも大きくなると、均一な延伸ができなくなり、分子配向の均一性が保てなくなるばかりか、分子鎖の切断に繊維の分子量低下を起こすことが多い。従来知見では、分子配向させるために延伸倍率を上げていたが、製糸工程全体の張力を下げることが重要である。しかし、前延伸での延伸張力が1.5mN/dtexよりも小さくなると、得られる前駆体繊維の分子配向が不十分となり、得られる炭素繊維のストランド引張弾性率が低下することがある。
前延伸での張力は延伸温度と延伸倍率によって制御できるが、PAN系重合体の種類によって変わるので、張力を合わせることが重要である。なお、前延伸での張力とは、前延伸工程中のローラー出箇所で張力を測定し、その中で最大の張力を意味する。乾湿式紡糸で複数の延伸浴中で前延伸を行う場合、最大延伸張力発現箇所は、最後部の浴である場合が多い。一方、湿式紡糸の場合は、凝固浴出の引取ローラー付近である場合が多い。張力は、張力計により走行する糸条を挟み込んで荷重を測定し、測定箇所の工程糸条を定長絶乾させて絶乾繊度(dtex)を測定し、荷重を絶乾繊度で割って求めることができる。
前延伸での延伸温度は、好ましくは60〜95℃、より好ましくは65〜85℃、更に好ましくは65〜75℃とする。張力を下げる観点から延伸温度は高い程好ましいが、95℃よりも高い場合、単繊維間で接着が発生し、品位が低下することがある一方で、60℃よりも低い場合、延伸性が悪くなり生産性が低下することがある。前延伸を複数の延伸浴中で行う場合、延伸温度とは、その中で最大浴槽温度を指す。
前延伸での延伸倍率は、1〜5倍であることが好ましく、1〜3倍であることがより好ましい。延伸張力を下げるためには延伸倍率が小さい方がよいが、延伸倍率が1倍未満であると分子配向緩和が生じ、強度、耐熱性ともに劣ったものになることが多い一方、5を超える延伸倍率であると、良好な寸法安定性が保てなくなるばかりか、単繊維間接着が起こり、製糸性が低下するだけでなく、炭素繊維を得る場合の焼成工程においても、毛羽が発生し、物性低下となりやすい。前延伸での延伸倍率とは、前延伸工程の最終ローラ回転速度を凝固浴出の引取ローラー回転速度で割った値である。 上記した前延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、前延伸された糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。シリコーン油剤を用いる場合、耐熱性の高いアミノ変性シリコーン等の変性されたシリコーンを含有するものを用いることが好ましい。
前延伸された糸条は次に乾燥熱処理される。乾燥熱処理での最高温度は160〜200℃であることが好ましく、165〜198℃であることがより好ましく、175〜195であることが更に好ましい。乾燥熱処理での処理時間は10秒から200秒が好ましい結果を与える。乾燥熱処理での最高温度が160℃を下回ると、得られる炭素繊維前駆体繊維の緻密性が不十分となり、本発明の効果が得にくくなる場合がある。また、乾燥熱処理での最高温度が200℃を超えると、単繊維間の融着が顕著となり、炭素繊維とした場合に、得られる炭素繊維の引張強度が低下することがある。
生産性の向上や結晶配向度の向上として、乾燥熱処理された糸条を後延伸して炭素繊維前駆体繊維を得る。後延伸は加熱媒体中で行うのが一般的である。加熱熱媒としては、例えば、加圧水蒸気あるいは過熱水蒸気が操業安定性やコストの面で好適に用いられる。後延伸での張力は1.8〜6mN/dtexであることが好ましく、3〜6mN/dtexであることがより好ましく、4〜5.8mN/dtexであることが更に好ましい。後延伸での張力が6mN/dtexよりも大きくなると、分子鎖の切断に繊維の分子量低下を起こしやすく、焼成工程における延伸性の効果を得にくい。後延伸での張力を1.8mN/dtexよりも小さくするためには、延伸倍率を下げるか、もしくは加圧水蒸気を加熱媒体として用いる場合、その圧力を上げる手法があるが、前者は生産性を損ない、後者は溶断による延伸切れが発生しやすい。加圧水蒸気を加熱媒体として用いる場合、後延伸での張力は、延伸倍率と加圧水蒸気圧によって制御できるが、PAN系重合体の種類によって変わるので、張力を合わせることが重要である。後延伸での張力は、延伸チューブなどの延伸ゾーンから出た直後の走行する糸条を張力計により挟み込んで荷重を測定し、測定箇所の糸条を定長絶乾させて絶乾繊度(dtex)を測定し、荷重を絶乾繊度で割って求めることができる。後延伸での延伸倍率は4〜10倍であることが好ましく、4.5〜8倍であることがより好ましく、4.8〜6倍であることがさらに好ましい。加熱媒体として加圧水蒸気を用いて後延伸を行う場合、用いる加圧水蒸気の水蒸気圧は0.35〜0.7MPaが好ましく、0.36〜0.6MPaがより好ましく、0.36〜0.54MPaがさらに好ましい。
前延伸および後延伸の全体に亘る延伸倍率、いわゆるトータル延伸倍率は、得られる炭素繊維の力学物性を高める目的から、好ましくは8〜15倍、より好ましくは10〜14.5倍、更に好ましくは11〜14倍とする。トータル延伸倍率が8倍を下回ると、得られる炭素繊維前駆体繊維の配向度が低下し、続く炭素繊維を製造するための焼成工程において、高い延伸性が得られないことが多い。また、トータル延伸倍率が15倍を超えると、延伸中におけるフィラメント切れが顕著となり、得られる炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維の品位が低下することが多い。
このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維は、単繊維繊度が、好ましくは0.1〜1.2dtex、より好ましくは0.2〜1.0dtex、さらに好ましくは0.3〜0.8dtexである。前駆体繊維の単繊維繊度が小さすぎると、ローラーやガイドとの接触による糸切れ発生などにより、製糸工程および炭素繊維の焼成工程のプロセス安定性が低下することがある。一方、単繊維繊度が大きすぎると、耐炎化後の各単繊維における内外構造差が大きくなり、続く炭化工程でのプロセス性低下や、得られる炭素繊維の引張強度および引張弾性率が低下することがある。本発明における単繊維繊度(dtex)とは、単繊維10,000mあたりの重量(g)である。
得られる炭素繊維前駆体繊維は、通常、連続繊維(フィラメント)の形状である。また、その1糸条(マルチフィラメント)当たりのフィラメント数は、好ましくは1,000〜3,000,000本、より好ましくは12,000〜3,000,000本、さらに好ましくは24,000〜2,500,000本、最も好ましくは24,000〜2,000,000本である。本発明で得られる炭素繊維前駆体繊維は、延伸性が高いことから単繊維繊度を小さくできるため、マルチフィラメントとして所望の総繊度にしようとすると、1糸条あたりのフィラメント数を増やすことになる。ただし、1糸条あたりのフィラメント数は、生産性の向上の目的からは多い方が好ましいが、あまりに多すぎると、束内部まで均一に耐炎化処理できないことがある。
次に、本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
本発明では、上記のような炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において延伸比0.8〜1.2で延伸しながら耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化工程で得られた繊維を、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において延伸比1〜1.3で延伸しながら予備炭化する予備炭化工程と、予備炭化工程で得られた繊維を1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において延伸比0.96〜1.05で延伸しながら炭化する炭化工程を順次経て炭素繊維を得ることができる。
耐炎化する際の延伸比は、0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.20、より好ましくは0.85〜1.1とする。耐炎化する際の延伸比が0.8を下回ると、得られる耐炎化繊維の配向度が不十分となり、また、得られる炭素繊維のストランド引張弾性率が低下する。また、耐炎化する際の延伸比が1.2を超えると、毛羽発生、糸切れ発生により、プロセス性が低下する。
耐炎化の処理時間は、10〜100分の範囲で適宜選択することができるが、続く予備炭化のプロセス性、および、得られる炭素繊維の力学物性向上の目的から、得られる耐炎化繊維の比重が1.3〜1.38の範囲となるように設定することが好ましい。
予備炭化、および、炭化は、不活性雰囲気中で行なわれるが、用いられる不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、および、キセノンなどが用いられる。経済的な観点からは、窒素が好ましく用いられる。
予備炭化の温度は、300〜800℃とする。なお、予備炭化における昇温速度は、500℃/分以下に設定されることが好ましい。
予備炭化を行う際の延伸比は、1〜1.3、好ましくは1.1〜1.3、より好ましくは1.10〜1.20とする。予備炭化を行う際の延伸比が1を下回ると、得られる予備炭化繊維の配向度が不十分となり、炭素繊維のストランド引張弾性率が低下する。また、予備炭化を行う際の延伸比が1.3を超えると、毛羽発生や糸切れ発生により、プロセス性が低下する。
炭化の温度は、1,000〜2,000℃、好ましくは1,200〜1800℃、より好ましくは1,300〜1,600℃とする。一般に炭化の最高温度が高いほど、ストランド引張弾性率は高まるものの、引張強度は1,500℃付近で極大となるため、両者のバランスを勘案して、炭化の温度を設定する。
炭化を行う際の延伸比は、0.96〜1.05、好ましくは0.97〜1.05、より好ましくは0.98〜1.03とする。炭化を行う際の延伸比が0.96を下回ると、得られる炭素繊維の配向度や緻密性が不十分となり、ストランド引張弾性率が低下する。また、炭化を行う際の延伸比が1.05を超えると、毛羽発生や糸切れ発生により、プロセス性が低下する。
得られた炭素繊維はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アンモニウムのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維の炭化度に応じて適宜選択することができる。
電解処理により、得られる繊維強化複合材料において炭素繊維マトリックスとの接着性が適正化することができ、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないという問題が解消され、得られる繊維強化複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
電解処理の後、炭素繊維に集束性を付与するため、サイジング処理を施すこともできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂等との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本発明により得られる炭素繊維は、プリプレグとしてオートクレーブ成形、織物などのプリフォームとしてレジントランスファーモールディングで成形、およびフィラメントワインディングで成形するなど種々の成形法により、航空機部材、圧力容器部材、自動車部材、釣り竿およびゴルフシャフトなどのスポーツ部材として好適に用いられる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本実施例で用いた測定方法を次に説明する。
<各種分子量:Mz、Mw、Mn>
測定しようとする重合体が濃度0.1重量%でジメチルホルムアミド(0.01N−臭化リチウム添加)に溶解した検体溶液を作製する。得られた検体溶液について、GPC装置を用いて、次の条件で測定したGPC曲線から分子量の分布曲線を求め、Mz、Mw、Mnを算出する。測定は三回行い、Mz、Mw、Mnの値を平均して用いる。
・カラム :極性有機溶媒系GPC用カラム
・流速 :0.5ml/min
・温度 :75℃
・試料濾過 :メンブレンフィルター(0.45μmカット)
・注入量 :200μl
・検出器 :示差屈折率検出器
Mwは、分子量が異なる分子量既知の単分散ポリスチレンを少なくとも6種類用いて、溶出時間―分子量の検量線を作成し、その検量線上において、該当する溶出時間に対応するポリスチレン換算の分子量を読み取ることにより求める。
本実施例では、GPC装置として(株)島津製作所製CLASS−LC2010を、カラムとして東ソー(株)製TSK−GEL−α―M(×2)+東ソー(株)製TSK−guard Column αを、ジメチルホルムアミドおよび臭化リチウムとして和光純薬工業(株)製を、メンブレンフィルターとしてミリポアコーポレーション製0.45μ−FHLP FILTERを、示差屈折率検出器として(株)島津製作所製RID−10AVを、検量線作成用の単分散ポリスチレンとして、分子量184,000、427,000、791,000および1,300,000、1,810,000、4,240,000のものを、それぞれ用いた。
<工程張力測定>
張力計により走行する糸条を挟み込んで荷重を測定し、測定箇所の工程糸条を定長絶乾させて絶乾繊度(dtex)を測定し、荷重を絶乾繊度で割って張力を求める。本実施例では、張力計として、エイコー測器(株)製、型番:HS−3000を使用した。
<炭素繊維前駆体繊維の品位等級の基準>
検査項目は、6000フィラメントの繊維束を1m/分の速度で1ライン走行させながら毛玉・毛羽の個数を数え、三段階評価した。評価基準は、下記のとおりである。
・等級1:繊維300m中、1個以内
・等級2:繊維300m中、2〜15個
・等級3:繊維300m中、16個以上。
<耐炎化繊維比重>
耐炎化繊維の比重は、JIS R7601(1986)記載の方法に従い、液置換法により測定する。浸せき液は、エタノールを精製せずに用いる。1.0乃至1.5gの耐炎化繊維を採取し、熱風乾燥機を用い、空気中120℃の温度で2時間乾燥する。乾燥質量A(g)を測定した後、比重既知(比重ρ)のエタノールに浸せきし、エタノール中の繊維質量B(g)を測定し、次式により、耐炎化繊維比重を求める。
耐炎化繊維比重=(A×ρ)/(A−B)
なお、上記エタノールとして、和光純薬社製特級を用いた。
<炭素繊維の品位等級の基準>
検査項目は、焼成後、表面処理・サイジング処理前に24000フィラメントの繊維束を1m/分の速度で1ライン走行させながら、毛玉・毛羽の個数を数え、三段階評価した。評価基準は、下記のとおりである。
・等級1:繊維30m中、1個以内
・等級2:繊維30m中、2〜15個
・等級3:繊維30m中、16個以上。
<炭素繊維束の引張強度および弾性率>
JIS R7601(1986)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求める。測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシ−シクロヘキシル−カルボキシレート(100重量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、炭素繊維または黒鉛化繊維に含浸させ、130℃の温度で30分硬化させて作製する。また、炭素繊維のストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の平均値を引張強度とする。本実施例では、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシ−シクロヘキシル−カルボキシレートとして、ユニオンカーバイド(株)製“ベークライト”(登録商標)ERL4221を用いた。
[実施例1]
AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびジメチルスルホキシド130重量部を混合し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が1000ppmになるまで窒素置換した後、ラジカル開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.002重量部を投入し、撹拌しながら下記の条件(重合条件Aと呼ぶ。)の熱処理を行った。
重合条件A
・ 70℃の温度で2時間保持
・ 70℃から30℃へ降温(降温速度120℃/時間)
次に、その反応容器中に、ジメチルスルホキシド240重量部、ラジカル開始剤としてAIBN 0.4重量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部を計量導入した後、さらに撹拌しながら下記の条件(重合条件Bと呼ぶ。)の熱処理を行い、残存する未反応単量体を溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た
重合条件B
(1)30℃から60℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(2)60℃の温度で4時間保持
(3)60℃から80℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(4)80℃の温度で6時間保持
得られたPAN系重合体溶液から約10gを採取し、水に注いでポリマーを沈殿させ、それを95℃の温水で2時間洗浄後、70℃の温度で4時間乾燥して乾燥ポリマーを得た。得られた乾燥ポリマーについて、各種分子量を測定した結果を表1に示す。
得られたPAN系重合体溶液を用いて重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつアンモニウム基をPAN系重合体に導入し、紡糸溶液を得た。得られた紡糸溶液を、濾過精度1μmのフィルター通過後、40℃の温度で、孔数3,000、口金孔径0.15mmの紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約2mmの空間を通過させた後、3℃の温度にコントロールした20重量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により、吐出線速度を7m/分で一定とし、紡糸ドラフト率を4として紡糸し膨潤糸とした。また、吐出線速度を7m/分で一定とし、膨潤糸の巻取り速度を変更することで限界紡糸ドラフト率の測定を行った。
得られた膨潤糸を水洗した後、浴温度65℃の温水浴中で延伸倍率を3倍として前延伸を行って前延伸糸を得た。このとき、前延伸での張力は2.3mN/dtexであった。前延伸糸にアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与し、165℃の温度に加熱したローラーを用いて30秒間乾燥熱処理を行った後、加圧水蒸気の圧力を0.37MPaに設定した加圧水蒸気中で、延伸倍率を5倍として後延伸を行って炭素繊維前駆体繊維を得た。このとき、後延伸での張力は5.3mN/dtexであった。得られた炭素繊維前駆体繊維は、単繊維繊度0.7dtex、フィラメント数3,000で、Mw(F)/Mw(P)は0.90であった。また、得られた炭素繊維前駆体繊維の品位は優れており、製糸工程通過性も安定していた。
得られた炭素繊維前駆体繊維を、4本合糸し、12,000フィラメントとした上で、240〜260℃の温度の温度分布を有する空気中において延伸比1.0で延伸しながらで90分間耐炎化処理し、比重1.35の耐炎化繊維を得た。続いて、得られた耐炎化繊維を昇温速度150℃/分になるように調節した300〜700℃の温度の温度分布を有する窒素雰囲気中において、延伸比1.2で延伸しながら予備炭化処理を行い、予備炭化繊維束を得た。
得られた予備炭化繊維束を、最高温度1,500℃の窒素雰囲気中において、延伸比を0.960から0.001ずつ上げていき、糸切れが生じない最高の延伸比、すなわち、炭化限界延伸比を測定した。このときの限界炭化延伸比は0.997であった。この結果に基づき、得られた予備炭化繊維束を、延伸比0.980で炭化処理を行い連続した炭素繊維束を得た。このときの焼成工程通過性および品位はいずれも良好であった。得られた炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、引張強度は6.2GPaであり、引張弾性率は335GPaであった。
[実施例2]
前延伸での浴温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。このとき、前延伸での張力は1.5mN/dtexであり、前駆体繊維のMw(F)/Mw(P)は0.93であり、限界炭化延伸比は0.998であった。
[実施例3]
後延伸での加圧水蒸気圧を0.39MPaに設定した以外は実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。このとき、後延伸張力は4.4mN/dtexであり、前駆体繊維のMw(F)/Mw(P)は0.93であり、限界炭化延伸比は0.998であった。
[実施例4]
実施例1で得られた膨潤糸を4本合糸して12,000フィラメントとし、後延伸での加圧水蒸気圧を0.49MPaに設定するとともに、前駆体繊維の合糸は行わなかった以外は実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。このとき、後延伸張力は5.3mN/dtexであり、前駆体繊維のMw(F)/Mw(P)は0.90であり、限界炭化延伸比は0.997であった。
[比較例1]
後延伸での加圧水蒸気圧を0.71MPaに設定した以外は実施例1と同様にして紡糸・焼成を行なおうとしたが、後延伸工程での安定性が著しく悪く、糸切れが多発したため、連続した前駆体繊維を得ることができなかった。
[比較例2]
前延伸での浴温度を55℃に変更した以外は実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。このとき、前延伸での張力は3.1mN/dtexであり、前駆体繊維のMw(F)/MwP(P)は0.75であり、限界炭化延伸比は0.983であった。製糸工程・焼成工程ともに毛羽が発生し、特に、焼成工程では操業性が極めて不安定であり、糸切れが多発した。
[比較例3]
後延伸での加圧水蒸気圧を0.34MPaに設定した以外は実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。このとき、後延伸での張力は6.2mN/dtexであり、前駆体繊維のMw(F)/Mw(P)は0.75であり、限界炭化延伸比は0.983であった。製糸工程・焼成工程ともに毛羽が発生し、特に、焼成工程では操業性が極めて不安定であり、糸切れが多発した。
[比較例4]
前延伸での浴温度を55℃に変更し、後延伸での加圧水蒸気圧を0.34MPaに設定した以外は実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。このとき、後延伸での張力は6.2mN/dtexであり、前駆体繊維のMw(F)/Mw(P)は0.65であり、限界炭化延伸比は0.975であった。実施例1と同じ条件では焼成工程を通過しなかったので、炭化延伸比を0.960に下げて炭素繊維を得た。
[比較例5]
紡糸前に用いるフィルターを濾過精度0.8μmのものに変更した以外は実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。このとき、前駆体繊維のMw(F)/Mw(P)は0.70であり、限界炭化延伸比は0.978であった。実施例1と同じ条件では焼成工程を通過しなかったので、比較例4と同様に炭化延伸比を0.960に下げて炭素繊維を得た。
[実施例5]
重合条件Aの(1)における保持時間を1.5時間に変更した以外は、実施例1と同様にして重合・紡糸・焼成を行った。
[実施例6]
反応容器内の空間部を窒素置換する際の酸素濃度を100ppmに変更するとともに、重合条件Aの(1)における保持温度を65℃に変更した以外は、実施例1と同様にして重合・紡糸・焼成を行なった。
[実施例7]
AN100重量部、イタコン酸0.3重量部、連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.003重量部、およびジメチルスルホキシド360重量部を混合し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が100ppmになるまで窒素置換した後、重合開始剤としてAIBN0.003重量部を投入し、撹拌しながら下記の条件(重合条件Cと呼ぶ。)の熱処理を行った。
重合条件C
(1)60℃の温度で3.5時間保持
次に、その反応容器中に、イタコン酸0.7重量部、ジメチルスルホキシド10重量部、重合開始剤としてAIBN 0.4重量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.01重量部を計量導入した後、さらに撹拌しながら下記の条件の熱処理を行い、残存する未反応単量体を溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た。
(2)60℃の温度で4時間保持
(3)60℃から80℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(4)80℃の温度で6時間保持
PAN系重合体溶液を、上記のようにして得たPAN系重合体溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。
[比較例6]
AN100重量部、イタコン酸1重量部、ラジカル開始剤としてAIBN0.4重量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部をジメチルスルホキシド370重量部に均一に溶解し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が100ppmになるまで窒素置換した後、撹拌しながら重合条件Bによる熱処理を行い、溶液重合法により重合して、PAN系重合体溶液を得た。
PAN系重合体溶液を、上記のようにして得たPAN系重合体溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして紡糸・焼成を行った。得られた炭素繊維前駆体繊維の品位は悪く、製糸工程通過性も安定しなかった。焼成工程で毛羽が多く糸切れが発生したため、比較例3と同様に炭化延伸比を下げて炭素繊維を得たが、それでも品位は悪かった。
[比較例7]
AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびラジカル開始剤としてAIBN0.2重量部をジメチルスルホキシド460重量部に均一に溶解し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が100になるまで窒素置換した後、撹拌しながら前記の重合条件Bの熱処理を行い、溶液重合法により重合して、PAN系重合体溶液を得た。得られたPAN系重合体溶液を、重合体濃度が15重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことにより、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を得た。紡糸溶液を、上記のようにして得た紡糸溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして紡糸を行なおうとしたが、後延伸工程を通過させることができなかった。
上記した実験結果などをまとめて、表1および表2に示す。
Figure 0004924469
Figure 0004924469

Claims (7)

  1. 重量平均分子量Mw(P)が30万〜100万であり、Z平均分子量MzとMwとの比で示される多分散度Mz(P)/Mw(P)が2.7〜6であるポリアクリロニトリル系重合体が濃度5重量%以上30重量%未満で溶媒に溶解してなる紡糸溶液を紡糸して膨潤糸を得、その膨潤糸を前延伸し、乾燥熱処理した後、さらに後延伸して、次式を満たす繊維の重量平均分子量Mw(F)を有する炭素繊維前駆体繊維を得る炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
    0.8≦Mw(F)/Mw(P)≦1
  2. 前記ポリアクリロニトリル系重合体は、Mw(P)の5倍以上の分子量成分の含有率が1〜4%である請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  3. 前延伸において、張力を1.5〜3mN/dtexとし、かつ後延伸において、張力を1.8〜6mN/dtexとする請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  4. 前延伸において、加熱温度を60〜95℃、延伸倍率を1〜5倍とし、かつ後延伸において、水蒸気圧0.35〜0.7MPaの加圧水蒸気を用い、延伸倍率を4〜10倍とする請求項3に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  5. 紡糸溶液を、紡糸する前に、濾過精度が1〜10μmのフィルター濾材で濾過する請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  6. 紡糸が乾湿式紡糸である請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって得られた炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において延伸比0.8〜1.2で延伸しながら耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化工程で得られた繊維を、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において延伸比1〜1.3で延伸しながら予備炭化する予備炭化工程と、予備炭化工程で得られた繊維を1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において延伸比0.96〜1.05で延伸しながら炭化する炭化工程を順次経て炭素繊維を得る炭素繊維の製造方法。
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