JP5146004B2 - ポリアクリロニトリル系重合体組成物および炭素繊維の製造方法 - Google Patents

ポリアクリロニトリル系重合体組成物および炭素繊維の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高品位な炭素繊維前駆体繊維と炭素繊維の製造に好適なポリアクリロニトリル系重合体組成物およびそのポリアクリロニトリル系重合体組成物を用いた炭素繊維の製造方法に関するものである。
炭素繊維は、他の種類の繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、従来からのスポーツ用途や航空・宇宙用途に加え、自動車、土木・建築、圧力容器および風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されつつあり、更なる生産性の向上や生産安定化の要請が高い。
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル(以下、単にPANと記述することがある。)系炭素繊維は、その前駆体となるPAN系重合体からなる紡糸溶液を湿式紡糸、乾式紡糸または乾湿式紡糸して炭素繊維前駆体繊維を得た後、それを200〜400℃の温度の酸化性雰囲気下で加熱して耐炎化繊維へと転換し、次いでそれを少なくとも1000℃の温度の不活性雰囲気下で加熱して炭素化することによって、工業的に製造されている。
PAN系炭素繊維の生産性向上は、炭素繊維前駆体繊維の紡糸、耐炎化あるいは炭素化のいずれの観点からも行われている。しかしながら、中でもPAN系炭素繊維前駆体繊維の生産性向上は、次に示す問題から困難であった。すなわち、PAN系炭素繊維前駆体繊維を得る際の紡糸においては、PAN系重合体溶液の特性に伴う限界紡糸ドラフト率とその凝固構造に伴う限界延伸倍率によって生産性が制限されており、生産性を向上させるために紡糸速度を高めると延伸性低下が起こり、生産が不安定化し易く、逆に紡糸速度を下げると生産は安定化するものの生産性は低下するため、生産性の向上と安定化の両立が困難であるという問題があった。
上記の限界紡糸ドラフト率に大きな影響を与えるものに紡糸方法があるので、次に紡糸方法の観点から限界紡糸ドラフト率について説明する。
乾式紡糸法は、紡糸溶液を紡糸口金孔から高温度の気体雰囲気中に吐出して溶媒を蒸発させて濃縮、固化させる方法であり、この乾式紡糸法では引き取り速度は溶媒の蒸発律速となるため、引き取り速度の高速化に伴い長大な紡糸筒が必要になるなどの欠点がある。
また、湿式紡糸法は、紡糸溶液を紡糸口金孔から凝固浴に吐出させる方法であるが、この湿式紡糸法では紡糸溶液が紡糸口金孔から吐出された直後から凝固が進行するため、引き取り速度の高速化に従って実質の紡糸ドラフト率が高くなるが、紡糸口金面で糸切れが発生するという問題があり、引き取り速度を高く設定することには限界がある。
また、乾湿式紡糸法は、紡糸溶液が紡糸口金孔から一旦空気中(エアーギャップ)に吐出されてから凝固浴中に導かれるので、実質的な紡糸ドラフト率はエアーギャップ内にある原液流で吸収され高速紡糸が可能であることから、これまでいくつかの提案がなされている。
例えば、流下式凝固浴を用いて、凝固浴抵抗をできるだけ軽減することにより引き取り速度を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案では、引き取り速度を大幅に向上することができるものの、(1)特殊形状の紡糸口金であるため単繊維繊度が小さい前駆体繊維が得られないこと、(2)凝固浴の構造が複雑で工業的に実現できる技術でないこと、および(3)流下筒出のスリットと通過する糸束の太さ等の関係で操作や操業性が悪化することなどの問題があった。
また、紡糸溶液の重合体濃度を制御することにより、紡糸溶液の粘度を下げ、ろ過操作における操作性を良好にし、紡糸ドラフト率を向上させる技術が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、この提案によれば、紡糸ドラフト率が10と向上効果が認められるものの、(1)重合体濃度が低いために溶剤使用量が多くなり経済的でなく、そして(2)凝固浴内での凝固速度を低下せしめ、内部にボイドが生じて緻密な構造が得られないという問題がある。
また一般に、溶融紡糸などの溶融成形において大きい伸長変形下で粘度を高くすることが、不安定流動を抑制する点で有効であることが知られている。その手段の一つとして、超高分子量の重合体を少量加える方法が挙げられる(非特許文献1参照。)。溶融紡糸用重合体として、このような超高分子量の重合体を用いた場合、曳糸性が向上することが知られている。しかしながら、PAN系重合体の一般的な紡糸方法である溶液紡糸へのこの手法の適用は、殆ど行われてこなかった。
PAN系重合体の分子量の分布の異なる2種のポリマーを混合することは、分子量の分布が広く(ブロード)となることを意味する。その分子量の分布を制御する方法としては、これまでいくつかの提案がなされている。例えば、重量平均分子量(以下、単にMwと略記することがある。)が40万以上で、Mwと数平均分子量(以下、単にMnと略記することがある。)の比である分子量分布(Mw/Mn)が7.0以下である分子量の分布を狭くしたポリマーを用いることにより、高強度で高弾性率のPAN系繊維を得る方法が提案されている(特許文献3参照。)。この提案に代表されるように、従来は、分子量の分布を狭くすることが炭素繊維前駆体繊維として好適であると提案されてきた。
特開昭59―21709号公報 特開昭64―77618号公報 日本レオロジー学会誌 215頁 25号(1997年) 特開昭61−97415号公報
そこで本発明は、従来技術である重合体の分子量分布を狭くすることだけからの技術的思想を一新し、適切に分子量分布の制御を行うことにより上記の諸問題点を解決し、紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフト率を高めることができる炭素繊維前駆体繊維製造に好適なポリアクリロニトリル系重合体組成物を提供することを目的とするものある。
また、本発明の他の目的は、そのポリアクリロニトリル系重合体組成物の溶液を用いることにより、生産性を損なうことなく、高品位な炭素繊維を焼成工程でも安定して製造することができる炭素繊維の製造方法を提供することにある。
上記の目的を達成するために、本発明のポリアクリロニトリル系重合体組成物は、次の構成を有するものである。すなわち、本発明のポリアクリロニトリル系重合体組成物は、ポリスチレン換算重量平均分子量が60〜500万で、使用している単量体のn−オクタノ−ル/水分配係数LogPのモル平均値が0.35〜1.6であり、使用している単量体のうちアクリロニトリルが0〜70モル%、カルボン酸基、水酸基またはアミド基を1種以上含有する単量体10〜100モル%から構成されている重合体Aがポリアクリロニトリル系重合体に混合されてなる重合体組成物であって、該重合体Aの該重合体組成物に対する重量混合量が0.1〜10重量%であり、かつ、ポリスチレン換算重量平均分子量が20〜50万であるポリアクリロニトリル系重合体組成物である。
本発明のポリアクリロニトリル系重合体組成物の好ましい態様によれば、本発明で用いられる前記の重合体Aは、25℃の温度でのジメチルスルホキシドへの溶解性が0.1〜50重量%の重合体である。
本発明のポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液は、前記のポリアクリロニトリル系重合体組成物を溶媒に溶解してなる重合体組成物溶液であって、その45℃の温度における粘度は30〜100Pa・sである。
本発明の前記のポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液は、前記の重合体Aの溶媒に対する重合体濃度を0.1〜5重量%になるように調整した後、それにポリアクリロニトリル系重合体を構成する単量体を混合し、該重合体Aの存在下に該単量体を溶液重合することにより製造することができる。
また、本発明において炭素繊維は、前記のポリアクリロニトリル系重合体組成物の溶液、または、前記のポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液、または、前記のポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液の製造方法によって得られたポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液を乾湿式紡糸し、得られた炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化処理し、次いで1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化処理することによって製造することができる。
本発明によれば、紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフト率を高めることができるポリアクリロニトリル系重合体組成物の溶液を用いることにより、生産性を損なうことなく毛羽立ちの少ない高品位な炭素繊維前駆体繊維を製造することができる。そのような高品位な炭素繊維前駆体繊維を用いているので、高品位な炭素繊維を焼成工程でも安定して製造することができる。
本発明者らは、生産性を損なうことなく高品位な炭素繊維前駆体繊維と炭素繊維を製造するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
本発明の炭素繊維前駆体繊維製造用および炭素繊維用に好適なポリアクリロニトリル系重合体組成物は、ポリスチレン換算重量平均分子量が60〜500万で、使用している単量体のn−オクタノ−ル/水分配係数LogPのモル平均値が0.35〜1.6であり、使用している単量体のうちアクリロニトリルが0〜70モル%、カルボン酸基、水酸基またはアミド基を1種以上含有する単量体10〜100モル%から構成されている重合体Aがポリアクリロニトリル系重合体に混合されてなる重合体組成物であって、該重合体Aの該重合体組成物に対する重量混合量が0.1〜10重量%であり、かつ、ポリスチレン換算重量平均分子量が20〜50万であるポリアクリロニトリル系重合体組成物である。
本発明において、混合して用いられる2種以上の重合体、すなわち、使用している単量体のうちアクリロニトリルが0〜70モル%、カルボン酸基、水酸基またはアミド基を1種以上含有する単量体10〜100モル%から構成されている重合体(以下、単に重合体A記述することがある。)と、ポリアクリロニトリル系重合体(以下、単にPAN系重合体と略記することがある。)からなるPAN系重合体組成物は、そのポリスチレン換算重量平均分子量(以下、単にMwと略記することもある。)が20万〜50万であることが重要であり、Mwは好ましくは35万〜50万であり、より好ましくは42万〜48万である。Mwが20万未満では、得られる炭素繊維前駆体繊維の強度が不足し、またMwが50万より大きくなると、PAN系重合体組成物の吐出が困難となる。
本発明において最も重要なことは、PAN系重合体に、Mwの大きい、すなわち、超高分子量成分を含む重合体Aを混合することである。本発明で用いられる重合体AのMwは60万〜500万であることが重要であり、Mwは好ましくは65万〜200万であり、より好ましくは100万〜200万である。そして本発明では、Mwが60万〜500万である重合体Aを全重合体に対して0.1〜10重量%混合することが必要である。その重合体Aの混合割合は、好ましくは1〜10重量%であり、より好ましくは1〜2重量%である。
本発明で用いられる重合体AのMwが60万未満のときは、紡糸速度あるいは紡糸ドラフト率を高めることが困難となり、一方、その重合体AのMwが500万を超える場合には、紡糸速度および紡糸ドラフト率を高めることの効果が飽和する。Mwが60万〜500万である重合体Aの全重合体に対する混合量、すなわち、重合体AのPAN系重合体組成物に占める割合は、その重合体AのMwに強く依存するが、0.1重量%未満では紡糸速度および紡糸ドラフト率を高めることが困難となり、また10重量%より大きいときは、平均分子量への影響が大きくなり低分子量成分を多く含まないとMwが増大する。
また、本発明のポリアクリロニトリル系重合体組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、単にGPCと記述することがある。)法(測定法の詳細は後述する。)で測定されるポリスチレン換算分子量のうち、100万〜1500万である分子量のピーク面積比が全ピーク面積の0.3〜10%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜2%であり、更に好ましくは0.7〜2%である。本発明では、GPC法により測定される分子量は、分子量分布が評価できるが、Mwが60〜500万である重合体Aを全重合体に対して0.1〜10重量%混合することにより、分子量分布を制御することができる。ポリスチレン換算分子量のうち、100万〜1500万である分子量のピーク体積比が全ピーク体積の0.3%未満の場合、紡糸速度を高めることおよび紡糸ドラフト率を高めることが困難となることがあり、またそのピーク体積比が全ピーク体積の10%より大きいときは、平均分子量への影響が大きくなり低分子量成分を多く含まないと全重合体のMwが増大する可能性がある。
本発明のPAN系重合体組成物を用いることにより、生産性の向上と安定化の両立を図りつつ、毛羽立ちの少ない高品位な炭素繊維前駆体繊維を製造することができるメカニズムは、必ずしも明確になった訳ではないが、次のように考えられる。すなわち、紡糸口金孔直後でPAN系重合体組成物溶液が伸長変形する際に、超高分子量成分の重合体Aと他のポリアクリロニトリル系重合体が絡み合い、超高分子量成分の重合体Aを中心に絡み合い間の分子鎖が緊張することにより伸長粘度の急激な増大、すなわち、歪み硬化が起こる。PAN系重合体組成物溶液の細化に伴い細化部分の伸長粘度が高くなり、流動安定化するため紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフト率を高めることができる。
また、本発明で用いられる重合体Aとしては、使用している単量体のn−オクタノ−ル/水分配係数LogP(以下、単にLogPと略記することがある。)のモル平均値が0.35〜1.6であることが重要であり、そのモル平均値はより好ましくは0.35〜1.00である。上述のとおり、超高分子量成分である重合体AとPAN系重合体との絡み合いが必要であると考えられるため、重合体Aは、エマルジョンや分散状態としてではなく、PAN系重合体の溶媒に溶解し、かつ、PAN系重合体と相溶性を有することが必要である。その指標が上記のLogPであり、このLogPの値は、重合体と単量体、および分子量によっても変化するが、本発明では便宜上、重合体を構成する単量体のモル平均値を用いる。その値がアクリロニトリルの0.97に近いことが相溶性の観点から望ましいが、LogPが0.35〜1.6のときは十分相溶して機能する。この値は、小さいほど水溶性であり、大きいほど脂溶性であることを示すものであり、一般的にアクリロニトリルの水溶性は高いものである。そのため、極性の高い官能基を有することが好ましい。LogPを制御するために、極性の低い単量体に極性の高い官能基を付与することや極性の高い単量体に脂溶性の高い官能基を付与することも好ましい態様である。また、重合体としての相溶性を高めることが重要であるので、LogPが0.35〜1.6から外れた範囲の単量体を一部用いて共重合することは問題なく、LogPは、単量体のモル平均値が重要となる。使用する単量体のLogPは、−0.3〜2であるものが好ましく用いられる。
重合体Aは、相溶性の観点からPAN系重合体であることも好ましいが、本発明で用いられる重合体Aは、組成としては、アクリロニトリル(以下、単にANと記述することがある。)が0〜70モル%、カルボン酸基、水酸基またはアミド基を1種以上含有する単量体10〜100モル%から構成されている重合体である。ANが70モル%を超える場合には、PAN系重合体に限定され、重合体組成物設計の自由度が低下するし、分子量が高くなり溶媒への溶解性が低下し、析出しやすい状態となる。
また、重合体の相溶性を示す指標に溶解性パラメーター(SP値)があり、2成分の値が近いと混ざりやすい傾向が知られており、重合体AのSP値をPANのそれに近づけることも有効である。
また、使用する溶媒への重合体Aの25℃での溶解性は0.1重量%以上であることが好ましい。上限は特にないが、20重量%もあれば十分である。使用する溶媒によって、溶解性は変わるが、ジメチルスルホキシドを指標として、重合体Aの25℃の温度でのジメチルスルホキシドへの溶解性が0.1〜50重量%であることが好ましい。
本発明では、重合体Aとして使用可能な単量体として耐炎化を促進する観点から、ANの他に、カルボン酸基、水酸基またはアミド基を1種以上含有する単量体用いられる。例えば、カルボン酸基を含有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、およびアンモニウム塩等が挙げられる。また、アミド基を含有するする単量体としては、アクリルアミド等が挙げられる。また、水酸基を含有する単量体としては、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリブチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、およびポリビニルアルコール等が挙げられる。なかでもアクリル酸(LogP:0.38)、メタクリル酸(LogP:0.73)、イタコン酸(LogP:−0.26)およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩、およびアクリルアミド(LogP:−0.27)が特に好ましく用いられる。
本発明では、耐炎化促進のためカルボン酸基、水酸基またはアミド基を有する単量体のモル比10〜100モル%とする
重合体Aを構成する単量体としては、その他にも、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸の低級アルキルエステル類、アクリルアミドの誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
相溶性が不足している場合には、ANを共重合して、LogPを調整することも好ましい態様である。
本発明において、重合体Aを製造するための重合方法としては、用いられる単量体に応じた公知の超高分子量重合体の製造方法で行えば良い。ラジカル重合の場合、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法などから選択することができ、単量体と重合開始剤などで発生されるラジカル発生量の比率を単量体リッチとする、連鎖移動効果のある成分の量を減らすなどの手段でポリスチレン換算重量平均分子量を高めることができ、60万〜500万に制御することができる。また、重縮合などの逐次重合では、重合時間を長くすることでポリスチレン換算重量平均分子量を高めることができる。
本発明で好適に用いられるPAN系重合体の組成としては、ANが好ましくは98〜100モル%であり、ANと共重合可能な単量体を2モル%以下なら共重合させてもよいが、共重合成分量が多くなるほど共重合部分での熱分解による分子断裂が顕著となり、得られる炭素繊維の引張強度が低下する。
PAN系重合体を構成するANと共重合可能な単量体としては、耐炎化を促進する観点から、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
本発明において、PAN系重合体を製造するための重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法などから選択することができるが、ANや共重合成分を均一に重合する目的からは、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いて重合する場合、溶媒としては、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPANが可溶な溶媒が好適に用いられる。中でも、PAN系重合体の溶解性の観点から、ジメチルスルホキシドを用いることが好ましい。
PAN系重合体のMwは、全重合体(重合体組成物)のMwが20万〜50万になるように適宜調整すればよく、概ね18万〜48万にすることにより調整することができる。
重合体AとPAN系重合体を混合する場合、重合体AとPAN系重合体のポリアクリロニトリル系重合体を混合してから溶媒で希釈する方法、重合体AとPAN系重合体それぞれを溶媒に希釈した溶液同士を混合する方法、溶解しにくい重合体Aを溶媒に希釈した後にPAN系重合体を混合溶解する方法、および重合体Aを溶媒に希釈したものとPAN系重合体を構成する単量体を混合してその単量体を溶液重合することにより混合する方法などを採用することができる。
重合体Aを均一に溶解させる観点から、その超高分子量成分の重合体Aの方をはじめに溶媒に溶解することが好ましい。特に、炭素繊維前駆体製造用とする場合には、超高分子量成分の重合体Aの溶解状態が極めて重要であり、わずかであっても未溶解物が存在していた場合には、異物として認識され炭素繊維内部にボイドを形成することがある。
本発明では、ポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液を製造するに際し、超高分子量成分の重合体Aをはじめに溶媒に溶解した後に、それにPAN系重合体を単に混合溶解する方法でもかまわないが、工程簡略化の観点から、重合体Aを溶媒に希釈し重合体濃度を好ましくは0.1〜5重量%としたものに、PAN系重合体を構成する単量体を混合して重合体Aの存在下に溶液重合することにより両重合体を混合する方法がより好ましい態様である。
重合体Aの全重合体(PAN系重合体組成物)に対する重量混合量(以下、単に全重合体に対する重合体Aの重量混合率とも記述することがある。)の測定は、PAN系重合体と混合する場合は、混合前の重合体Aの重量と混合後のPAN系全重合体組成物の重量を測定し、その重量比から計算することができる。
次に、本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
まず、前記したPAN系重合体組成物を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPAN系重合体が可溶な溶媒に溶解し、紡糸溶液とする。溶液重合を用いる場合、重合に用いられる溶媒と紡糸溶媒を同じものにしておくと、得られたポリアクリロニトリルを分離し紡糸溶媒に再溶解する工程が不要となる。
PAN系重合体組成物溶液の重合体組成物濃度は、15〜30重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは17〜25重量%であり、最も好ましくは19〜23重量%である。重合体組成物濃度が15重量%未満では溶媒使用量が多くなり経済的でなく、凝固浴内での凝固速度を低下させ内部にボイドが生じて緻密な構造が得られないことがある。一方、重合体組成物濃度が30重量%を超えると粘度が上昇し、紡糸が困難となる傾向を示す。紡糸溶液の重合体組成物濃度は、使用する溶媒量により調製することができる。
本発明において重合体組成物濃度とは、PAN系重合体組成物の溶液中に含まれるPAN系重合体組成物の重量%である。具体的には、PAN系重合体組成物の溶液を計量した後、PAN系重合体組成物を溶解せずかつPAN系重合体組成物溶液に用いられる溶媒と相溶性のあるものに、計量したPAN系重合体組成物溶液を脱溶媒させた後、PAN系重合体組成物を計量する。重合体組成物濃度は、脱溶媒後のPAN系重合体組成物の重量を、脱溶媒する前のPAN系重合体組成物の溶液の重量で割ることにより算出することができる。
また、45℃の温度におけるPAN系重合体組成物溶液の粘度は、15〜200Pa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜150Pa・sであり、最も好ましくは30〜100Pa・sである。溶液粘度が15Pa・s未満では、紡糸糸条の賦形性が低下するため、紡糸口金から吐出された糸条を引き取る速度、すなわち可紡性が低下する傾向を示す。また、溶液粘度は200Pa・sを超えるとゲル化し易くなり、安定した紡糸が困難になる傾向を示す。紡糸溶液の粘度は、重合開始剤や連鎖移動剤の量などにより制御することができる。
本発明において45℃の温度におけるPAN系重合体組成物溶液の粘度は、B型粘度計により測定することができる。具体的には、ビーカーに入れたPAN系重合体組成物溶液を、45℃の温度に温度調節された温水浴に浸して調温した後、B型粘度計として、例えば、(株)東京計器製B8L型粘度計を用い、ローターNo.4を使用し、PAN系重合体組成物溶液の粘度が0〜100Pa・sの範囲はローター回転数6r.p.m.で測定し、またその紡糸溶液の粘度が100〜1000Pa・sの範囲はローター回転数0.6r.p.m.で測定する。
本発明では、PAN系重合体組成物溶液を紡糸する前に、高強度な炭素繊維を得る観点から、その溶液を、例えば、目開き1μm以下のフィルターに通し、重合体原料および各工程において混入した不純物を除去することが好ましい。
本発明では、前記したPAN系重合体組成物溶液を、乾湿式紡糸法により紡糸することにより、炭素繊維前駆体繊維を製造することができる。乾湿式紡糸法は、紡糸溶液を口金から一旦空気中に吐出した後、凝固浴中に導入して凝固させる紡糸方法である。口金と凝固浴の間の空気中で紡糸溶液が毛管破断あるいは、凝集破断するため、紡糸糸条が口金を離れて最初に接触するローラー速度が速いほど安定して紡糸できることになり、速くできるほど好ましく、その速度は、50〜500m/分であることが好ましい。
紡糸口金の孔径は0.05mm〜0.3mmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.15mmである。紡糸口金の孔径が0.05mmより小さい場合、紡糸溶液を高圧で紡糸口金から吐出する必要があり、紡糸装置の耐久性が低下し、更にノズルからの紡出が困難となる。一方、紡糸口金の孔径が0.3mmを超えると1.5dtex以下の単繊維繊度の繊維を得ることが困難である。
本発明において、凝固浴には、PAN系重合体組成物溶液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記のPAN系重合体組成物を溶解せず、かつPAN系重合体組成物溶液に用いた溶媒と相溶性があるものが好ましく、具体的には、水を使用することが好ましい。凝固浴としての条件は、凝固糸(単繊維)の断面が真円状となるように制御することが好ましく、溶媒の濃度は、臨界浴濃度以下であることが好ましい。溶媒の濃度が高いとその後の溶媒洗浄工程が長くなり、生産性が低下する。例えば、溶媒にジメチルスルホキシドを用いた場合は、ジメチルスルホキシド水溶液の濃度を好ましくは5〜55重量%とし、更に好ましくは5〜30%とする。凝固浴の温度は、繊維側面が平滑となるように制御ことが好ましく、好適には−10〜30℃とし、更に好ましくは−5〜5℃とする。
PAN系重合体組成物溶液を凝固浴中に導入して凝固させ糸条を形成した後、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程および乾燥工程を経て、炭素繊維前駆体繊維が得られる。また、上記の工程に乾熱延伸工程や蒸気延伸工程を加えてもよい。凝固後の糸条は、水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良いし、溶媒を水洗工程により除去した後に浴中延伸を行っても良い。浴中延伸は、通常、30〜98℃の温度に温調された単一または複数の延伸浴中で行うことが好ましい。そのときの延伸倍率は、1〜5倍であることが好ましく、より好ましくは1〜3倍である。
浴中延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、延伸された繊維糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。シリコーン油剤は、耐熱性の高いアミノ変性シリコーン等の変性されたシリコーンを含有するものを用いることが好ましい。
乾燥工程は、公知の方法を利用することができる。例えば、乾燥温度が70〜200℃で乾燥時間が10秒から200秒の乾燥条件が好ましい結果を与える。生産性の向上や結晶配向度の向上として、乾燥工程後に加熱熱媒中で延伸することが好ましい。加熱熱媒としては、例えば、加圧水蒸気あるいは過熱水蒸気が操業安定性やコストの面で好適に用いられ、延伸倍率は1.5〜10倍であることが好ましい。
このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維の単繊維繊度は、0.01〜1.5dtexであることが好ましく、より好ましくは0.05〜1.0dtexであり、さらに好ましくは0.1〜0.8dtexである。単繊維繊度が小さすぎると、ローラーやガイドとの接触による糸切れ発生などにより、製糸工程および炭素繊維の焼成工程のプロセス安定性が低下することがある。一方、単繊維繊度が大きすぎると、耐炎化後の各単繊維における内外構造差が大きくなり、続く炭化工程でのプロセス性低下や、得られる炭素繊維の引張強度および引張弾性率が低下することがある。本発明における単繊維繊度(dtex)とは、単繊維10,000mあたりの重量(g)である。
本発明において得られる炭素繊維前駆体繊維の結晶配向度は、85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。結晶配向度が85%を下回ると、得られる前駆体繊維の強度が低くなることがある。
得られる炭素繊維前駆体繊維は、通常、連続繊維(フィラメント)の形状である。また、その1糸条(マルチフィラメント)当たりのフィラメント数は、好ましくは1,000〜3,000,000本であり、より好ましくは12,000〜3,000,000本であり、さらに好ましくは24,000〜2,500,000本であり、最も好ましくは24,000〜2,000,000本である。得られる炭素繊維前駆体繊維は、延伸性が高いことから、単繊維繊度が小さいため、1糸条あたりのフィラメント数は、生産性の向上の目的からは多い方が好ましいが、あまりに多すぎると、束内部まで均一に耐炎化処理できないことがある。
次に、前記した方法により製造された炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において、好ましくは延伸比0.8〜2.5で延伸しながら、耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において、好ましくは延伸比0.9〜1.5で延伸しながら予備炭化処理し、1,000〜2,000℃の最高温度の不活性雰囲気中において、好ましくは延伸比0.9〜1.1で延伸しながら、炭化処理して炭素繊維を製造する。
本発明において、予備炭化処理や炭化処理は不活性雰囲気中で行われるが、不活性雰囲気に用いられるガスとしては、窒素、アルゴンおよびキセノンなどを例示することができ、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。また、予備炭化処理では、その温度範囲における昇温速度を500℃/分以下に設定することが好ましい。また、炭化処理における最高温度は、所望する炭素繊維の力学物性に応じて1,200〜3,000℃とすることができるが、一般に炭化処理の最高温度が高いほど、得られる炭素繊維の引張弾性率が高くなるものの、引張強度は1,500℃付近で極大となるため、引張強度と引張弾性率の両方を高めるという目的からは、炭化処理の最高温度は1,200〜1,700℃であることが好ましく、より好ましくは1,300〜1,600℃である。
得られた炭素繊維はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アンモニウムのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維の炭化度に応じて適宜選択することができる。
電解処理により、得られる繊維強化複合材料において炭素繊維マトリックスとの接着性が適正化することができ、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないという問題が解消され、得られる繊維強化複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
電解処理の後、炭素繊維に集束性を付与するため、サイジング処理を施すこともできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂等との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本発明により得られる炭素繊維は、プリプレグとしてオートクレーブ成形、織物などのプリフォームとしてレジントランスファーモールディングで成形、およびフィラメントワインディングで成形するなど種々の成形法により、航空機部材、圧力容器部材、自動車部材、釣り竿およびゴルフシャフトなどのスポーツ部材として好適に用いられる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明の実施例で用いた測定方法を、次に説明する。
<ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)>
測定しようとする重合体をその濃度が0.1重量%となるように、ジメチルホルムアミド(0.01N−臭化リチウム添加)に溶解し、検体溶液を得る。得られた検体溶液について、GPC装置を用いて、次の条件で測定したGPC曲線から分子量の分布曲線を求め、Mwを算出した。測定は3回行い、その値を平均して用いた。
・カラム :極性有機溶媒系GPC用カラム
・流速 :0.5ml/min
・温度 :70℃
・試料濾過:メンブレンフィルター(0.45μmカット)
・注入量 :200μl
・検出器 :示差屈折率検出器
Mwは、分子量が異なる分子量既知の単分散ポリスチレンを少なくとも6種類用いて、溶出時間―分子量の検量線を作成し、その検量線上において、該当する溶出時間に対応するポリスチレン換算の分子量を読み取ることにより求めた。
本発明の実施例では、GPC装置として(株)島津製作所製CLASS−LC2010を、カラムとして東ソー(株)製TSK−GEL−α―M(×2)+東ソー(株)製TSK−guard Column αを、ジメチルホルムアミドおよび臭化リチウムとして和光純薬工業(株)製のものを、メンブレンフィルターとしてミリポアコーポレーション製0.45μm−FHLPFILTERを、示差屈折率検出器として(株)島津製作所製RID−10AVを、検量線作成用の単分散ポリスチレンとして、分子量184000、427000、791000、1300000、1810000および4240000のものを、それぞれ用いた。
<LogP>
幅広く蓄積された測定データに基づいたBiobyte社アルゴリズムを参照したCambridgesoft社のソフトウェアChemdrawを用いて計算された値を用いた。
<紡糸溶液の伸び>
紡糸溶液を口径3cmの100ccポリ容器に入れ、紡糸溶液の中に幅5mm、厚さ0.1mmのスパチュラを1cm投入し、0.2秒で20cm引き上げ、紡糸溶液が曳糸され、破断するまでの距離で三段階評価した。評価基準は、下記のとおりであり、等級○と等級△を合格とし等級×を不合格とした。
・等級×:10cm未満
・等級△:10cm以上20cm未満
・等級○:20cm以上。
<可紡性>
得られたPAN系重合体組成物溶液を、目開き20μmのフィルター通過後、30℃の温度で、孔数500、口金孔径0.15mmの紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約2mmの空間を通過させた後、3℃の温度にコントロールした20重量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により、紡糸し凝固糸とした。このときの吐出線速度は7m/分で一定とし、凝固糸の巻取り速度を変更することで限界紡糸ドラフト率の測定を行った。
<耐炎化指数>
同一温度条件で耐炎化したときの耐炎化の進み易さを評価するために、PAN系重合体組成物の耐炎化後の赤外分光法により測定したアクリドン環吸光度ピーク強度を指標とした。測定手順を次に示す。
1.赤外分光法用錠剤の作製
紡糸溶液をフィルミングして、厚さ100μmのPAN系重合体組成物フィルムを作製した。そのフィルムを240℃の温度で120分熱処理(耐炎化処理)して得られたフィルムを液体窒素により凍結後、粉砕してそれぞれ粉末試料とした。この粉末試料2mgを、KBr300mgと乳鉢ですりつぶしながら混合して混合粉末とし、さらにプレスを用いてそれぞれ赤外分光法用錠剤を作製した。
2.耐炎化指数の測定
前記の赤外分光法用錠剤について、ベースラインの1750cm−1付近の最低吸光度と、アクリドン環を示すと考えられる共役C=Oの1660cm−1バンドの吸光度差を測定し、3回の平均値を用いた。本発明の実施例では、赤外分光器として、Perkin Elmer社製のParagon1000型赤外分光器を用いた。耐炎化の進行に従って共役C=O吸光度が増加するため、大きいほど耐炎化されていることを示され、一定温度条件で比較した場合には、重合体組成による耐炎化の進み易さが評価できる。
[比較例1]
AN100重量部、イタコン酸1重量部、重合開始剤としてAIBN 0.4重量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部をジメチルスルホキシド370重量部に均一に溶解し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を窒素置換した後、撹拌しながら下記の条件で熱処理を行い、溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た。
(1)70℃の温度で4時間保持
(2)70℃の温度から80℃の温度に昇温(昇温速度10℃/時間)
(3)80℃の温度で6時間保持
得られたPAN系重合体溶液について、Mw測定した結果を表1に示す。得られたPAN系重合体溶液を、重合体濃度が20重量%となるように調製して紡糸溶液を作製した。重合体Aが入っていなかったので、紡糸溶液の伸びは悪く、5cm程度で破断し、可紡性も18m/分と満足できるものではなかった。結果を表1に示す。
[比較例2]
仕込み組成を比較例1に対してMw2万のポリエチレングリコール2重量部足して、イタコン酸を抜いたこと以外は、比較例1と同様にしてPAN系重合体組成物溶液を得、紡糸溶液を作製した。このとき、ジメチルスルホキシド300重量部中にポリエチレングリコール2重量部を25℃の温度で12時間溶解し、その溶液にアクリロニトリルなどの残りの成分を追加して重合した。また、ポリエチレングリコールは均一に溶解した。重合体AのMwとLogPが小さかったので、紡糸溶液の伸びは悪く、5cm程度で破断した。結果を表1に示す。
[比較例3]
仕込み組成を比較例2に対してMw350万のポリエチレングリコール2重量部を、Mw2万のポリエチレングリコール2重量部の代わりに用いたこと以外は、比較例2と同様にしてPAN系重合体組成物溶液を得、紡糸溶液を作製した。また、ポリエチレングリコールは均一に溶解した。重合体AのLogPが小さかったので、相溶性が悪かったためか、紡糸溶液の伸びは悪く、5cm程度で破断した。結果を表1に示す。
[比較例4]
仕込み組成を比較例2に対してMw25万のポリアクリル酸2重量部を、Mw2万のポリエチレングリコール2重量部の代わりに用いたこと以外は、比較例2と同様にしてPAN系重合体組成物溶液を得、紡糸溶液を作製した。また、ポリアクリル酸は均一に溶解した。重合体AのMwが小さかったので、紡糸溶液の伸びは悪く、5cm程度で破断した。結果を表1に示す。
[実施例1]
仕込み組成を比較例2に対してMw100万のポリアクリル酸を、Mw2万のポリエチレングリコール2重量部の代わりに用いたこと以外は、比較例2と同様にしてPAN系重合体組成物溶液を得、紡糸溶液を作製した。また、ポリアクリル酸は均一に溶解した。紡糸溶液の伸びが良く、30cm引き上げても破断しなかったため、可紡性を測定したところ、25m/分と比較例1の1.4倍高い値を示した。また、耐炎化指数も1.7と良い値を示し、耐炎化は進行しやすかった。結果を表1に示す。
[実施例2]
仕込み組成を比較例2に対してMw65万であり、アクリロニトリルとアクリルアミドがモル比で65対35の共重合体10重量部を、Mw2万のポリエチレングリコール2重量部の代わりに用いたこと以外は、比較例2と同様にしてPAN系重合体組成物溶液を得、紡糸溶液を作製した。また、アクリロニトリルとアクリルアミドの共重合物は均一に溶解した。紡糸溶液の伸びが良く、15cm程度で破断した。結果を表1に示す。
[実施例3]
仕込み組成を比較例2に対してMw200万であり、アクリロニトリルとメタクリル酸がモル比で1対1の共重合体1重量部を、Mw2万のポリエチレングリコール2重量部の代わりに用いたこと以外は、比較例2と同様にしてPAN系重合体組成物溶液を得、紡糸溶液を作製した。また、アクリロニトリルとメタクリル酸の共重合物は均一に溶解した。紡糸溶液の伸びが良く、15cm程度で破断した。結果を表1に示す。
Figure 0005146004
EG:ポリエチレングリコール
AA:ポリアクリル酸
AN:アクリロニトリル
AAm:アクリルアミド
MA:メタクリル酸

Claims (5)

  1. ポリスチレン換算重量平均分子量が60〜500万で、使用している単量体のn−オクタノ−ル/水分配係数LogPのモル平均値が0.35〜1.6であり、使用している単量体のうちアクリロニトリルが0〜70モル%、カルボン酸基、水酸基またはアミド基を1種以上含有する単量体10〜100モル%から構成されている重合体Aがポリアクリロニトリル系重合体に混合されてなる重合体組成物であって、該重合体Aの該重合体組成物に対する重量混合量が0.1〜10重量%であり、かつ、ポリスチレン換算重量平均分子量が20〜50万であるポリアクリロニトリル系重合体組成物。
  2. 重合体Aの25℃の温度でのジメチルスルホキシドへの溶解性が0.1〜50重量%である請求項1記載のポリアクリロニトリル系重合体組成物。
  3. 請求項1または2に記載のポリアクリロニトリル系重合体組成物を溶媒に溶解してなる重合体組成物溶液であって、その45℃の温度における粘度が30〜100Pa・sであるポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液。
  4. 重合体Aの溶媒に対する重合体濃度を0.1〜5重量%になるように調整した後、それにポリアクリロニトリル系重合体を構成する単量体を混合し、該重合体Aの存在下に該単量体を溶液重合する請求項記載のポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液の製造方法。
  5. 請求項1または2に記載のポリアクリロニトリル系重合体組成物の溶液、または、請求項記載のポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液、または、請求項記載のポリアクリロニトリル系重合体組成物の製造方法によって得られたポリアクリロニトリル系重合体組成物溶液を乾湿式紡糸し、得られた炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化処理し、次いで1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
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