JP2023017173A - 炭素繊維束およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高次加工に供する際の操業性に優れる炭素繊維束およびその製造方法を提供する。【解決手段】フィラメント数が25,000~70,000である炭素繊維束であって、炭素繊維束表面に存在する毛羽の本数が0.1~30.0本/mであり、毛羽の断面が二重構造を有する断面である本数の割合が2~28%である炭素繊維束である。【選択図】なし

Description

本発明は、高次加工に供する際の操業性に優れる炭素繊維束およびその製造方法に関する。
炭素繊維束は高い比強度および比弾性率を有するため、複合材料用の強化繊維として航空・宇宙用途をはじめとした幅広い用途に展開されている。最近では自動車用部材や圧力容器などの産業用途にも展開が進んでいる。特に圧力容器においては軽量さと耐圧性が求められることから、比強度に優れる炭素繊維束が使用されることが多く,近年では圧力容器向け炭素繊維束の需要が拡大している。
炭素繊維束から炭素繊維複合材料を製造するにあたって、高次加工性が重要視される。例えばプリプレグやトウプレグなどの中間基材の製造においては、炭素繊維束の開繊性や耐擦過性に優れるほか、炭素繊維束全体または炭素繊維単繊維の破断がなく、操業性が良好であるなどの要件が一般的に需要となる。
炭素繊維束の製造方法について、共重合成分を含むポリアクリロニトリル系共重合体などを繊維化して得たポリアクリロニトリル系前駆体繊維を200-300℃の空気中で酸化する耐炎化工程、最高温度500-1,200℃の不活性雰囲気中で加熱する予備炭素化工程、最高温度1,200-3,000℃の不活性雰囲気中で加熱する炭素化工程を経ることで製造される。例えば先行技術における製造方法として、特許文献1では、炭素繊維束の製造工程における繊維束の折れや撚れを抑制することで、総繊度が60,000~1,000,000dtexの多フィラメントのポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を熱処理して得られる毛羽の発生個所が1mにつき3個以下であることが開示されている。特許文献2では、耐炎化工程で生じる耐炎化繊維断面の二重構造について、二重構造の外側の構造が占める面積が断面全体の面積に対して88~95%となるようにすることで、強度と弾性率をバランス良く発現する炭素繊維束の製造方法が開示されている。特許文献3では、溝ピッチが5~10mmの溝つきローラーを用いて、2つの溝付きローラー間の通過時間が3分以下となるように耐炎化処理を行うことで、前駆体繊維束を二重構造のない均一な耐炎化進行度の耐炎化繊維とし、炭素化工程における操業性に優れる炭素繊維束の製造方法を開示している。特許文献4では、前駆体繊維束の交絡を制御することで、フィラメント数が30,000以上であっても炭素繊維複合材料の成形時の炭素繊維束の形状の安定性に優れ、力学特性に優れる炭素繊維複合材料が得られる炭素繊維束を開示している。特許文献5では、耐炎化繊維束の密度と耐炎化の各段における処理時間が一定の関係となるように耐炎化処理を行うことで、高強度・高弾性率かつ毛羽が少ない炭素繊維束を得ることができるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の耐炎化処理方法が開示されている。
特許第5831563号公報 特開2018-178344号公報 特開2007-314901号公報 国際公開第2019/087766号 特開昭62-86032号公報
しかしながら、これらの先行技術では高次加工においてボビンから巻き出す際の操業性に優れる炭素繊維束は開示されていなかった。特許文献1では、炭素繊維束の毛羽の数が少なく品位に優れる炭素繊維束が開示されているが、その毛羽の性状は制御されておらず、炭素繊維束をボビンから巻きだした際などに毛羽がローラーに巻き付いて残存することで、高次加工時の操業性が悪化する懸念があった。特許文献2では、耐炎化繊維束の断面の二重構造を制御することで、強度と弾性率のバランスに優れる炭素繊維束を開示しているが、炭素繊維束の品位や毛羽の性状は直接的に制御されず、高次加工時の操業性が悪化する可能性があった。特許文献3では、溝付きのローラーを用いて連続的に耐炎化し、次いで炭素化することで品位に優れる炭素繊維束の製造方法が開示されているが、毛羽の性状は制御されておらず、高次加工時の操業性は悪化する懸念があった。特許文献4では、強度と炭素繊維複合材料の成形時の炭素繊維束の形状の安定性に優れる炭素繊維束が開示されているものの、炭素繊維束の毛羽の性状は制御されておらず、連続運転では毛羽が堆積し、高次加工の操業性が悪化する懸念があった。特許文献5では、耐炎化工程おける耐炎化繊維束の密度と耐炎化処理の温度を特定の範囲に制御することで耐炎化処理の時間を短縮する技術が開示されているが、単繊維内部の二重構造も制御されないため、同様に毛羽の性状は制御されていないことから、毛羽の堆積によって高次加工時の操業性が悪化する懸念があった。
以上のように、先行技術では炭素繊維束の製造時の操業性を高める技術が提案されているが、近年、炭素繊維製の圧力容器の需要が拡大していることから、フィラメントワインディングのような成形法では生産性も重要であり、すなわちボビンから炭素繊維束を巻きだす際の操業性が重要である。しかし、炭素繊維束の高次加工時の操業性に優れる炭素繊維束は開示されておらず、炭素繊維束の高次加工に好適に利用できる炭素繊維束の提供が課題である。また、炭素繊維束の高次加工時の操業性の向上には毛羽の堆積の抑制が重要であり、毛羽の本数だけではなく毛羽の性状を堆積しにくいものに制御することが課題である。本発明では、高次加工に供する際の操業性に優れる炭素繊維束およびその製造方法を提供することを目的とする。
かかる本発明の目的を達成するために、本発明は次の構成を有する。
すなわち、本発明の炭素繊維束は、フィラメント数が25,000~70,000である炭素繊維束であって、炭素繊維束表面に存在する毛羽の本数が0.1~30.0本/m以下であり、毛羽の断面が二重構造を有する断面である本数の割合が2~28%である炭素繊維束である。
本発明によれば、高次加工に供する際の操業性に優れる炭素繊維束が得られる。
炭素繊維束に内在する毛羽の断面のうち、内層および外層が存在する構造を示す写真の一例である。 炭素繊維束に内在する毛羽の断面のうち、毛羽の断面の中心部に穴が空いているものを示す写真の一例である。 炭素繊維束に内在する毛羽の断面のうち、曲げによる破断と判断される毛羽を示す写真の一例である。
本発明者らは、高次加工に供する際の操業性に優れる炭素繊維束が得られる要件について鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の炭素繊維束は、毛羽の断面が二重構造を有する断面である本数の割合が2~28%である炭素繊維束である。毛羽の断面が二重構造を有する断面である本数の割合は好ましくは4~26%であり、より好ましくは8~24%である。
毛羽の断面が二重構造を有する断面である毛羽とは、上述の炭素繊維束表面に存在する毛羽を回収して断面を走査電子顕微鏡(以下、SEMと記載することがある)で観察した際に、図1のように内層および外層が存在する構造や図2のように毛羽の断面の中心部に穴が空いているものを指す。ただし、回収した毛羽の断面が図3のように曲げによる破断と判断される毛羽は、炭素繊維束の製造工程で生成された毛羽が炭素繊維束に発生した毛羽ではなく、毛羽を回収する際に曲げ荷重がかかり、曲げ破断となったと考えられるため、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽の割合を算出するための毛羽の総数から除外するものとする。
これらの炭素繊維束表面に存在する毛羽の断面が二重構造を有するメカニズムについては明確に理解できているわけではないが、次のように考えられる。すなわち、耐炎化工程で温度斑が生じた際に特に高温になった部分が、耐炎化繊維束中における平均的な二重構造よりも特異的に二重構造が大きくなり、このような単繊維が破断することで二重構造を持つ毛羽の断面になったと考えられる。このような毛羽が、通常発生する毛羽に一定割合含まれることで、他の毛羽を巻き込むリング状の毛羽が生成してもすぐに破断するため、高次加工時のプロセス性を損なわない。
炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽の割合が28%以下であれば、毛羽に影響する単繊維強度が低い単繊維の割合が減少することで品位が向上し、炭素繊維束の巻き出し時の毛羽の巻き付きを抑制できる。
炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽の割合が2%以上であれば、毛羽が弱い荷重でも破断するため、高次加工するために炭素繊維束を巻き出した際に他の毛羽を巻き込むリング状の毛羽が生成しにくく、高次加工時の操業性に優れる。
炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽は、後述のように耐炎化工程を制御することでかかる範囲に制御される。炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽であるかを判断するためには、詳細は後述するが、ボビンに巻かれた炭素繊維束を引き出し、炭素繊維束表面に存在する毛羽を回収して断面をSEMで観察し、図1のように内層および外層が存在する構造および図2のように毛羽の断面の中心部に穴が空いているものを断面が二重構造を有する毛羽として判断する。
炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合をかかる範囲に制御するためには、耐炎化工程において生じる耐炎化繊維束の断面の二重構造を制御する必要があり、耐炎化工程におけるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の発熱および蓄熱を抑制することが重要で、耐炎化工程における熱処理の温度、耐炎化工程に投入するポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の糸条密度、ポリアクリロニトリル系共重合体の組成、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維の繊度などを制御することで達成される。
本発明の炭素繊維束は、フィラメント数が25,000~70,000であり、好ましくは25,000~60,000であり、より好ましくは40,000~55,000である。フィラメント数とは、繊維束を構成する単繊維の本数のことである。フィラメント数が25,000以上であれば、炭素繊維束の耐荷重が高くなり、繊維束全体が破断しにくいため高次加工時の操業性に優れ、フィラメント数が70,000以下の場合は集束性に優れるため、品位が良好となり高次加工時の操業性に優れる。かかるフィラメント数は、単繊維の本数を数えることで測定できる。かかるフィラメント数を制御するためには、製糸口金の孔数や、口金から吐出された繊維束の分割数を変更し、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束のフィラメント数を変更することで達成される。なお、本発明の炭素繊維束のフィラメント数は炭素繊維束の耐荷重と関連することから、荷重を全体で負担できる炭素繊維束を単位とし、該炭素繊維束を構成する単繊維の本数として定義する。すなわち、集束した単位である炭素繊維束を単に複数合糸した炭素繊維束の場合、該合糸された炭素繊維束の単繊維の本数ではなく、合糸前の炭素繊維束単位に含まれる単繊維の本数として計数する。
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維束表面に存在する毛羽の本数が0.1~30.0本/mであり、好ましくは1.2~28.5本/mであり、より好ましくは1.2~25.1本/mである。毛羽とは、炭素繊維束を構成する単繊維のうち、破断していてかつ破断した端部が観察される単繊維のことである。毛羽の本数が30.0本/m以下であれば、高次加工時の毛羽の巻き付きが少なく、操業性に優れる。毛羽の本数が0.1本/m以上であれば、耐荷重が低く、高次加工時に破断することでリング状の毛羽を形成しない毛羽の時間当たりの出現率のばらつきが小さくなるため、高次加工時の操業性に優れる。かかる毛羽の本数は、明細書に記載の方法によって、炭素繊維束を観察した際に表面に存在している毛羽の本数を数えることで評価される。かかる毛羽の本数を制御するためには、炭素繊維束の製造工程においてガイド等によってポリアクリロニトリル系前駆体繊維束や耐炎化繊維束などの炭素繊維製造工程の途中の繊維束を集束させた状態でプロセスすることや、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の耐炎化工程における熱処理の温度や延伸倍率、予備炭素化および炭素化工程における延伸倍率を制御することで達成される。
本発明の炭素繊維束は、単繊維断面の平均真円度が好ましくは0.84~0.96であり、より好ましくは0.86~0.94であり、さらに好ましくは0.88~0.92である。単繊維断面の平均真円度は、単繊維断面の形状が真円にどれだけ近いかを示す指標であり、炭素繊維単繊維および炭素繊維束の特性に影響する。平均真円度が0.84以上であれば、集束性が良好で品位も良好となることから、高次加工性に優れる炭素繊維束が得られ、平均真円度が0.96以下であれば、繊維間摩擦の低下により単繊維の耐擦過性に優れるため、毛羽が発生しにくく、高次加工時の操業性に優れる炭素繊維束が得られる。かかる平均真円度は明細書に記載のとおり、炭素繊維単繊維断面に垂直な方向から断面形状をSEMで観察し、断面の周長と面積を算出することで、以下の式(2)の定義にしたがって算出する。かかる平均真円度は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、紡糸原液の吐出時の口金の孔の形状や凝固浴の組成などを制御することで達成される。
(真円度)= 4π×(断面積)/(周長) (2)。
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維束の結節強度が好ましくは160~380N/mmであり、より好ましくは170~370N/mmであり、さらに好ましくは180~360N/mmである。結節強度は曲げ応力や圧縮応力などに対する強度の指標である。結節強度が160N/mm以上であれば、製造工程で受ける応力の外乱によって発生する毛羽が少なくなり、品位に優れることから高次加工性に優れ、結節強度が380N/mm以下であれば、高次加工時にリング状の毛羽が堆積しにくくなるために高次加工性に優れる。かかる結節強度は、後述する炭素繊維束の結節強度の測定方法によって測定される。かかる結節強度は、耐炎化工程における単繊維の発熱速度、フィラメント数、単繊維繊度および繊維束の幅を適切に制御することで達成できる。
次に、本発明の炭素繊維束を得ることに好ましい炭素繊維束の製造方法について述べる。
炭素繊維束の製造に際し、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を製糸する。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造に供する原料としては、好ましくはポリアクリロニトリル系重合体を用いる。なお、本発明においてポリアクリロニトリル系重合体とは、少なくともアクリロニトリルが重合体骨格の主構成成分となっているものをいい、主構成成分とは、通常、重合体骨格の90~100質量%を占める構成成分のことをいう。
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、ホモポリマーのガラス転移点が好ましくは-30~110℃であり、より好ましくは-22~30℃であるビニル化合物を共重合成分として含む。好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのメタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルなどを用いることができる。
共重合成分のホモポリマーのガラス転移点は、該共重合成分の高分子鎖中での分子運動性と関係する指標であり、酸素の透過性と関連することから耐炎化工程における耐炎化繊維束断面の二重構造の生成に影響する。共重合成分のガラス転移点が-30℃以上であれば、ポリアクリロニトリル系共重合体全体のガラス転移点が向上し、製糸工程や耐炎化工程における熱処理においてもポリアクリロニトリル系前駆体繊維束が融解しにくく、毛羽が生成しにくく品位に優れる。共重合性分のガラス転移点が110℃以下であれば、高分子鎖中のフラグメントの運動性が向上し、酸素の透過性が向上することで、最終的に断面に二重構造を有する毛羽の比率を制御することができる。かかる共重合成分のホモポリマーのガラス転移点は、共重合成分のみを重合することでホモポリマーを得た後、示差走査熱量測定などの手法によって測定することができる。かかるガラス転移点は、共重合成分の構造を変えることで制御できる。
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、該共重合成分の共重合組成が好ましくは1.8~12.0質量%であり、より好ましくは2.6~5.2質量%である。共重合成分の組成はポリアクリロニトリル系共重合体の酸素の透過性と関連し、耐炎化工程における耐炎化繊維束断面の二重構造の生成に影響する。共重合成分の組成が1.8質量%以上であれば、ポリアクリロニトリル系共重合体の高分子鎖中のフラグメントの運動性が向上し、酸素の透過性が向上することで、最終的に断面に二重構造を有する毛羽の比率を制御することができる。共重合成分の組成が12.0質量%以下であれば、ポリアクリロニトリル系共重合体全体のガラス転移点が向上し、製糸工程や耐炎化工程における熱処理においてもポリアクリロニトリル系前駆体繊維束が融解しにくく、毛羽が生成しにくく品位に優れる。かかる共重合成分の組成は、重合が完了した反応溶液中に残存する共重合成分をガスクロマトグラフィーなどの手法で定量するなどの方法で算出できる。かかる共重合成分の組成を制御するためには、重合開始時のモノマーの組成比を制御すればよい。
ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法としては、公知の重合方法の中から選択することができる。本発明の炭素繊維束を得るのに好適なポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、紡糸原液は、前記したポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいは硝酸・塩化亜鉛・ロダンソーダ水溶液などのポリアクリロニトリルが可溶な溶媒に溶解したものである。
本発明で使用されるポリアクリロニトリル系繊維束の製造方法には特に制限がないが、好ましくは湿式紡糸が用いられ、その後、延伸、水洗、油剤付与、乾燥緻密化,必要あれば後延伸などの工程を経て得ることができる。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造工程における製糸口金の孔数は、前述の炭素繊維束のフィラメント数を達成するために、好ましくは25,000~200,000ホールであり、より好ましくは36,000~160,000ホールであり、さらに好ましくは40,000~120,000ホールである。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、前記凝固浴には、紡糸原液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前述のポリアクリロニトリル系重合体を溶解せず、かつ紡糸原液に用いる溶媒と相溶性があるものを使用することができる。好ましくは凝固促進成分として水を使用する。
ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、好ましくは水洗工程における水浴温度は30~98℃の複数段からなる水洗浴を用い水洗することである。また、水浴延伸工程における延伸倍率は、好ましくは2~6倍である。
水浴延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、好ましくは糸条にシリコーン等からなる油剤を付与する。かかるシリコーン油剤は、好ましくは変性されたシリコーンであり、好ましくは耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものである。
乾燥熱処理工程は、公知の方法を利用することができる。例えば、乾燥温度は100~200℃が例示される。
乾燥された糸条は、得られるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の緻密性や生産性の観点から、好ましくはさらに加圧スチーム中または乾熱下で後延伸される。後延伸時のスチーム圧力または温度や後延伸倍率は、糸切れ、毛羽発生のない範囲で適宜選択して使用するのがよい。
本発明の炭素繊維束の製造方法におけるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維繊度は好ましくは0.6~3.0dtexであり、より好ましくは1.0~2.7dtexであり、さらに好ましくは1.1~2.2dtexである。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維繊度は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束における単繊維の直径を意味している。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維繊度は0.6dtex以上であれば、炭素繊維単繊維の耐荷重が向上するため得られる炭素繊維束の耐擦過性が向上するため、炭素繊維束を巻き出した際に生じる毛羽を抑制できる。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維繊度は3.0dtex以下であれば、耐炎化工程において耐炎化繊維束の総発熱量に対する除熱量を十分に確保することができ、耐炎化繊維束内の温度斑を低減することができ、炭素繊維束表面に存在する特定の毛羽を抑制することができる。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維繊度は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単位長さ当たりの質量と密度およびフィラメント数から計算できる。かかるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造工程における紡糸原液の吐出量や各工程の延伸倍率を制御することで達成できる。
本発明の炭素繊維束の製造方法におけるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束は、単繊維断面の平均真円度が、好ましくは0.84~0.96であり、より好ましくは0.86~0.94であり、さらに好ましくは0.88~0.92である。単繊維断面の平均真円度は、単繊維断面の形状が真円にどれだけ近いかを示す指標であり、単繊維および繊維束の特性に影響する。平均真円度が0.84以上であれば、集束性が良好で品位も良好となり、高次加工性に優れる炭素繊維束が得られ、平均真円度が0.96以下であれば、高次加工時にリング状の毛羽を生成しにくくなり、高次加工性に優れる炭素繊維束が得られる。かかる平均真円度は後述する真円度の測定方法に記載のとおり、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維断面に垂直な方向から断面形状をSEMで観察し、断面の周長と面積を算出することで、式(2)の定義にしたがって算出する。かかる平均真円度は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造において、紡糸原液の吐出時の口金の孔の形状や凝固浴の組成などを制御することで達成される。
本発明の炭素繊維束の製造方法におけるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の酸化性雰囲気下で熱処理する工程(耐炎化工程)における温度は200~300℃であり、好ましくは210~260℃であり、より好ましくは220~245℃である。耐炎化処理の温度が200℃以上であれば、十分な耐炎性を有した耐炎化繊維束を製造できるため、耐炎性の不足による毛羽の発生を抑制することができ、品位が向上することで高次加工性に優れた炭素繊維束を得ることができる。耐炎化処理する温度が300℃以下であれば、発熱速度が過剰に高くならないため、耐炎化繊維束内の温度斑を低減することができ、炭素繊維束表面に存在する断面に二重構造を有する毛羽の比率を特定の範囲に抑制することができることから、高次加工性に優れた炭素繊維束を得ることができる。かかる耐炎化処理の温度を計測するには耐炎化工程の耐炎化炉に熱電対などの温度計を挿入して炉内温度を測定すればよく炉内温度を数点測定した際に温度斑、温度分布があった際は単純平均温度を算出する。かかる耐炎化処理の温度を制御するためには、公知の耐炎化炉で使用される加熱方法において、加熱の出力を制御することで達成される。例として熱風循環式の耐炎化炉であれば、酸化性雰囲気の加熱に使用するヒーターの出力を変更すればよい。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、耐炎化工程における単繊維の発熱速度q(J/g/s)、フィラメント数をN(本)、単繊維繊度をd(dtex)、繊維束の幅をW(mm)としたとき、密度1.22~1.24g/cmとなるまで式(1)で求められる総発熱速度Q(J/m/s)が130~450となるように熱処理するものである。
Q=q×N×d/W/10 ・・・(1)。
耐炎化繊維束の密度は耐炎化反応の進行度合いを示す指標として一般的に用いられている。耐炎化繊維束の密度が1.22~1.24g/cmであることは耐炎化工程の初期であることを意味し、この耐熱性の耐炎化繊維束の発熱速度を適切な範囲に制御することが、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を制御につながり、高次加工するために炭素繊維束を巻き出した際に生じるリング状の毛羽による巻き付きを抑制できるため重要である。
かかる密度が1.22g/cm以上であれば、その後の耐炎化工程において高温で熱処理しても耐炎化繊維束内の急激な発熱速度の上昇を抑制できることから耐炎化繊維束内の温度斑の抑制につながり、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制できる。かかる密度が1.24g/cm以下であれば、耐炎化繊維束の二重構造を十分に制御できる構造であり、後述する発熱速度を制御した際に炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制する効果を十分に高めることができる。
後述の総発熱速度Qで熱処理する密度がかかる範囲であることを確認するためには、耐炎化工程の途中の繊維束を採取して明細書に記載の方法などにより密度を測定すれば良い。例えば耐炎化繊維束の密度が規定より低かった場合、温度を高める、または耐炎化の時間を長くすることで密度を調整できる。
ここで、酸化性雰囲気とは、酸素、二酸化窒素などの公知の酸化性物質を10質量%以上含む雰囲気のことであり、簡便性から空気雰囲気が好ましい。また、耐炎化工程において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの総発熱速度Qは、130~450J/m/sであり、好ましくは140~440J/m/sであり、より好ましくは150~430J/m/sである。総発熱速度Qは耐炎化の進行の速さを示す指標であり、耐炎化工程で得られる耐炎化繊維束の構造や物性と関係する。総発熱速度Qが130J/m/s以上であれば、その後の耐炎化工程や予備炭素化工程において高温で処理した場合にも耐炎化繊維束内の急激な発熱速度の上昇を抑制できることから耐炎化繊維束内の温度斑の抑制につながり、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制できる。総発熱速度Qが450J/m/s以下であれば、該耐炎化工程での耐炎化繊維束の二重構造を十分に制御でき、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制する効果を十分に高めることができる。かかる発熱速度を制御するためには、耐炎化工程の熱処理温度を制御する他、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束に用いるポリアクリロニトリル系共重合体の組成を制御することで達成される。具体的には、耐炎化促進成分として利用されるメタクリル酸、イタコン酸、アクリルアミドなどの添加量を変更すればよい。
本発明に記載の炭素繊維束の製造方法は、耐炎化繊維束の密度が1.22~1.24g/cmとなるように熱処理した後、密度1.32~1.35g/cmとなるまで式(1)で求められる総発熱速度Qが200~600J/m/sとなるように熱処理するものである。
耐炎化繊維束の密度が1.32~1.35g/cmであることは、熱処理によってある程度の耐熱性の獲得が進んだことを意味しており、この耐熱性の耐炎化繊維束の発熱速度を適切な範囲に制御することが、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を制御につながり、高次加工するために炭素繊維束を巻き出した際に生じるリング状の毛羽による巻き付きを抑制できるため重要である。
かかる密度が1.32g/cm以上であれば、その後の耐炎化工程において高温で熱処理しても耐炎化繊維束内の急激な発熱速度の上昇を抑制できることから耐炎化繊維束内の温度斑の抑制につながり、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制できる。
かかる密度が1.35g/cm以下であれば、耐炎化繊維束の二重構造を十分に制御できる構造であり、後述する発熱速度を制御した際に炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制する効果を十分に高めることができる。
総発熱速度Qで熱処理する密度がかかる範囲であることを確認するためには、耐炎化工程の途中の繊維束を採取して明細書に記載の方法などにより密度を測定すれば良い。例えば耐炎化繊維束の密度が規定より低かった場合、温度を高める、または耐炎化の時間を長くすることで密度を調整できる。
また、耐炎化工程において密度1.32~1.35g/cmとなるまでの総発熱速度Qは、200~600J/m/sであり、好ましくは210~590J/m/sであり、より好ましくは230~580J/m/sである。総発熱速度Qは耐炎化の進行の速さを示す指標であり、耐炎化工程で得られる耐炎化繊維束の構造や物性と関係する。
総発熱速度Qが200J/m/s以上であれば、その後の耐炎化工程や予備炭素化工程において高温で処理した場合にも耐炎化繊維束内の急激な発熱速度の上昇を抑制できることから耐炎化繊維束内の温度斑の抑制につながり、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制できる。
総発熱速度Qが600J/m/s以下であれば、該耐炎化工程での耐炎化繊維束の二重構造を十分に制御でき、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制する効果を十分に高めることができる。
かかる発熱速度を制御するためには、耐炎化工程の熱処理温度を制御する他、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束に用いるポリアクリロニトリル系共重合体の組成を制御することで達成される。具体的には、耐炎化促進成分として利用されるメタクリル酸、イタコン酸、アクリルアミドなどの添加量を変更すればよい。
本発明に記載の炭素繊維束の製造方法は、耐炎化繊維束の密度が1.32~1.35g/cmとなるように熱処理した後、密度が1.38~1.50g/cmとなるまで式(1)で求められる総発熱速度Qが300~900J/m/sとなるように熱処理するものである。かかる最終的な耐炎化繊維束の密度は、より好ましくは1.39~1.49g/cmであり、さらに好ましくは1.40~1.48g/cmである。耐炎化繊維束の密度が1.38~1.50g/cmであることは、熱処理によって十分な耐熱性の獲得が進んだことを意味しており、この耐熱性の耐炎化繊維束の発熱速度を適切な範囲に制御することが、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を制御につながり、高次加工するために炭素繊維束を巻き出した際に生じるリング状の毛羽による巻き付きを抑制できるため重要である。
かかる密度が1.38g/cm以上であれば、その後の予備炭素化工程において高温で熱処理しても耐炎化繊維束内の急激な発熱速度の上昇を抑制できることから耐炎化繊維束内の温度斑の抑制につながり、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制できる。
かかる密度が1.50g/cm以下であれば、耐炎化繊維束の単繊維強度を十分に高くでき、後述する発熱速度を制御した際に炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制する効果を十分に高めることができる。
総発熱速度Qで熱処理する密度がかかる範囲であることを確認するためには、耐炎化工程の途中の繊維束を採取して明細書に記載の方法などにより密度を測定すれば良い。例えば耐炎化繊維束の密度が規定より低かった場合、温度を高める、または耐炎化の時間を長くすることで密度を調整できる。また、耐炎化工程において密度1.38~1.50g/cmとなるまでの総発熱速度Qは、300~900J/m/sであり、好ましくは320~880J/m/sであり、より好ましくは340~860J/m/sである。総発熱速度Qは耐炎化の進行の速さを示す指標であり、耐炎化工程で得られる耐炎化繊維束の構造や物性と関係する。
総発熱速度Qが300J/m/s以上であれば、その後の予備炭素化工程において高温で処理した場合にも耐炎化繊維束内の急激な発熱速度の上昇を抑制できることから耐炎化繊維束内の温度斑の抑制につながり、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制できる。
総発熱速度Qが900J/m/s以下であれば、該耐炎化工程での単繊維強度を十分に高く制御でき、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽である割合を抑制する効果を十分に高めることができる。
かかる発熱速度を制御するためには、耐炎化工程の熱処理温度を制御する他、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束に用いるポリアクリロニトリル系共重合体の組成を制御することで達成される。具体的には、耐炎化促進成分として利用されるメタクリル酸、イタコン酸、アクリルアミドなどの添加量を変更すればよい。
本発明の炭素繊維束の製造において、前記ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束製造工程および耐炎化工程に引き続いて、予備炭素化を行う。予備炭素化工程においては、得られた耐炎化繊維束を不活性雰囲気中、最高温度500~1,200℃において、好ましくは密度が1.5~1.8g/cmとなるまで熱処理する。
前記予備炭素化に引き続いて、炭素化を行う。本発明では、炭素化工程において、得られた予備炭化繊維束を不活性雰囲気中、最高温度1,200~1,600℃において製造する。かかる最高温度は、1,200℃以上であれば、炭素繊維単繊維の曲げ応力に対する強度が低下し、高次加工するために炭素繊維束を巻き出した際に生じるリング状の毛羽が破断しやすくなるため巻き付きを抑制できる。かかる最高温度が1,600℃以下であれば、炭素繊維単繊維の耐荷重が増し、炭素繊維束の擦過による毛羽を抑制できるため、炭素繊維束を巻き出した際にした際に生じる毛羽を抑制できる。
以上のようにして得られた炭素繊維束は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。液相電解酸化の方法については特に指定はなく、公知の方法で行えばよい。
かかる電解処理の後、得られた炭素繊維束に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、複合材料に使用されるマトリックス樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
<炭素繊維束表面に存在する毛羽の本数>
炭素繊維束をボビンから無張力で引き出していき、毛羽があれば回収して、その本数が50本となるまで回収する。50本回収するまでに引き出した炭素繊維束の長さを測定し、測定した炭素繊維束の長さから単位長さあたりの本数(本/m)を炭素繊維束表面に存在する毛羽の本数として算出する。
<炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽の割合>
炭素繊維束をボビンから無張力で巻き出し、炭素繊維束表面に存在する毛羽を無作為に50本回収する。回収した毛羽の先端を日立ハイテクノロジーズ社製の走査電子顕微鏡(SEM)「S-4800」を用いて毛羽の先端を正面およびおおよそ斜め45°から観察する。観察した断面のうち、図1のように同心円状に2層に見える構造や図2のように毛羽の断面の中心部に穴が空いているものを、“二重構造を有する断面”と定義する。回収した毛羽の断面が図3のように曲げによる破断と判断される毛羽は、炭素繊維束の製造工程で生成された毛羽が炭素繊維束表面に存在していた毛羽ではなく、毛羽を回収する際に曲げ荷重がかかり、曲げ破断となったと考えられるため、毛羽の総数から除外する。除外した毛羽の本数だけさらに回収し、合計の毛羽数が50本となるまでこの回収操作を繰り返す。このようにして得られた曲げによる破断以外の毛羽の総数に対する“二重構造を有する断面”の総数の割合を炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち断面が二重構造を有する毛羽の割合とする。
<ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の幅W>
耐炎化工程のオーブンに入る直前のローラー上のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の糸幅を定規で測定する。1mおきに3点測定し、その平均値をポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の幅Wとして用いる。なお、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の幅Wを繊維束の幅Wと表記することもある。
<炭素繊維束の結節強度>
長さ150mmの炭素繊維束の両端に長さ25mmの把持部を取り付けて試験体とする。試験体作製の際、0.1×10-3N/デニールの荷重をかけて炭素繊維束の引き揃えを行う。試験体の中点部分に結び目を1カ所作製し、引張時のクロスヘッド速度を100mm/分として束引張試験を行う。測定は計12本の繊維束に対して行い、最大値、最小値の2つの値を除した10本の平均値を測定値として用いる。結節強度には、束引張試験で得られた最大荷重値を、炭素繊維束の平均断面積値で除した値を用いる。最大荷重値は、1回の引張試験中において最も荷重が高くなったときの荷重値である。炭素繊維束の平均断面積値は、測定する炭素繊維束の単位長さあたりの質量(g/m)と密度(g/m)から算出され、密度はo-ジクロロベンゼンを比重液として用いたアルキメデス法により算出する。
<耐炎化繊維束の密度測定>
1.0~3.0gの耐炎化繊維束を採取し、120℃で2時間加熱して乾燥する。次に乾燥させた耐炎化繊維束の空気中での重量C(g)を測定した後、該耐炎化繊維束をエタノールに含浸させ、十分脱泡してから、エタノール溶媒浴中の耐炎化繊維束の重量D(g)を測定し、繊維比重=(C×ρ)/(C-D)により繊維比重を求める。ρは測定温度でのエタノール比重である。
<真円度の測定>
ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束または炭素繊維束を片刃カミソリで繊維軸方向に対して垂直に切断し、得た断面を日立ハイテクノロジーズ社製の走査電子顕微鏡(SEM)「S-4800」を用いて、繊維断面の垂直方向から観察し、異なる視野の画像をランダムに5箇所撮像する。取得した画像について画像解析ソフトウェア「ImageJ」を用いて単繊維断面の外周を選択し、算出される単繊維断面の周長と面積から次の定義にしたがって真円度を算出する。さらに該真円度を各視野につきランダムに5本の単繊維について測定し、計25本の単繊維について真円度を平均したものを平均真円度とする。
(真円度)=4×π×(繊維断面積)/(周長)
<単繊維の発熱速度q>
ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を10mmHg以下の減圧条件下、120℃で1時間乾燥した後、発熱量分析に供する。乾燥したポリアクリロニトリル系前駆体繊維束2mgをアルミ製サンプルパンに秤取する。アルミ製サンプルパンには蓋をせず、熱流束型示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス社製 DSC3100SA)を用いて、10℃/分の昇温速度、エアー供給量100mL/分の条件で室温から300℃まで測定する。得られたデータは150℃での発熱速度をゼロとして、耐炎化工程における耐炎化処理の温度に対応する発熱速度をqとして用いる。
<炭素繊維束の巻き出し時の品位>
炭素繊維束のボビンをクリールに設置し、張力1.6mN/dtex下、10m/minのローラーで引き取ってワインダーで巻き取る。このとき、クリールとローラーの間に発生するリング状の毛羽を10分間カウントし、以下の指標で評価をする。
A:1~2個/10分
B:3~5個/10分
C:6個~/10分
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
アクリロニトリルとメタクリル酸、メタクリル酸ブチルからなるポリアクリロニトリル系共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒として溶液重合法により重合させ、ポリアクリロニトリル系共重合体を製造して紡糸原液を得た。得られた紡糸原液を、孔数70,000の製糸口金から30℃に制御した70質量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴中に導入する湿式製糸法により凝固した繊維束とした。この繊維束を、常法により30~98℃で水洗、延伸を行った。
続いて、この水浴延伸後の繊維束に対して、アミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与し、130℃の加熱ローラーを用いて、乾燥緻密化処理を行い、単繊維本数70,000本のポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を得た。ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維繊度は表2に記載のとおりになるように口金から紡糸原液の吐出量を調節した。
得られたポリアクリロニトリル系前駆体繊維束について、上述の方法で単繊維の発熱速度qを測定した。次に、表2に示す熱処理温度および繊維束の幅の条件を用いて、延伸比1.0で空気雰囲気のオーブン中でポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を熱処理し耐炎化繊維束を得た。
得られた耐炎化繊維束を、温度300~800℃の窒素雰囲気中において、予備炭素化処理を行い、予備炭素化繊維束を得た。得られた予備炭素化繊維束を、窒素雰囲気中において、最高温度1,400℃で炭素化処理を行った。得られた炭素繊維束に、表面処理およびサイジング剤塗布処理を行って最終的な炭素繊維束とした。
表1に得られた炭素繊維束のフィラメント数、単繊維繊度、真円度、結節強度、炭素繊維束表面に存在する毛羽の本数、炭素繊維束表面に存在する毛羽のうち、断面に二重構造を有する毛羽の比率、および炭素繊維束の巻き出し時の品位を示す。炭素繊維束表面に存在する毛羽の本数は1.2本/mであり、毛羽の断面が二重構造を有する断面である本数の割合が2%であった。得られた炭素繊維束の巻き出し時の品位は良好であった。
(実施例2)
共重合組成を変更して製糸工程のフィラメント数を48,000とし、耐炎化工程において密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を240℃とし、耐炎化工程での繊維束の幅を16.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束の巻き出し時の品位は良好であった。
(実施例3)
共重合組成を変更して製糸工程のフィラメント数を50,000とし、耐炎化工程において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を220℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を240℃とし、耐炎化工程の繊維束の幅を18.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束の巻き出し時の品位は良好であった。
(実施例4)
共重合組成をアクリル酸エチルに変更して製糸工程のフィラメント数を36,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維の繊度を2.2dtexとし、耐炎化工程において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を220℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を240℃とし、耐炎化工程における繊維束の幅を21.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束の巻き出し時の品位は良好であった。
(実施例5)
共重合組成を変更して製糸工程のフィラメント数を25,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維の繊度を3.0dtexとし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を220℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を240℃とし、耐炎化工程における繊維束の幅を20.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束の巻き出し時の品位は良好であった。
(実施例6)
共重合組成をアクリル酸エチルに変更して製糸工程のフィラメント数を60,000とし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を220℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を240℃とし、耐炎化工程における繊維束の幅を21.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束の巻き出し時の品位は良好であった。
(実施例7)
共重合組成を変更して製糸工程のフィラメント数を55,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維の繊度を1.1dtexとし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を220℃、耐炎化工程における繊維束の幅を18.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束の巻き出し時の品位は良好であった。
(比較例1)
製糸工程のフィラメント数を50,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維の繊度を0.8dtexとし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を220℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を240℃とし、耐炎化工程における繊維束の幅を8.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束は品位が悪く、巻き出し時のプロセス性は悪かった。
(比較例2)
製糸工程のフィラメント数を60,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維の繊度を1.1dtexとし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を220℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を240℃とし、繊維束の幅を13.5mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束は品位が悪く、巻き出し時のプロセス性は悪かった。
(比較例3)
共重合組成をアクリル酸メチルに変更して製糸工程のフィラメント数を48,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維の繊度を1.1dtexとし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を230℃、密度1.32~1.35g/cmとなるまでの熱処理温度を235℃とし、耐炎化工程における繊維束の幅を15.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束は断面に二重構造が観察される毛羽の比率が高く、巻き出し時のプロセス性は悪かった。
(比較例4)
共重合組成をアクリル酸エチルに変更して製糸工程のフィラメント数を48,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維の繊度を1.1dtexとし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を230℃、密度1.32~1.35g/cmとなるまでの熱処理温度を235℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を250℃とし、耐炎化工程における繊維束の幅を16.0mmとした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束は品位が悪く、巻き出し時のプロセス性は悪かった。
(比較例5)
共重合組成をアクリル酸メチルに変更して製糸工程のフィラメント数を48,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維単繊維の繊度を1.1dtexとし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を230℃、密度1.32~1.35g/cmとなるまでの熱処理温度を235℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を250℃とし、耐炎化工程における繊維束の幅を16.0mmとし、炭素化工程の最高温度を1,800℃とした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束は品位が悪く、巻き出し時のプロセス性は悪かった。
(比較例6)
共重合組成をイタコン酸に変更して製糸工程のフィラメント数を48,000とし、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の単繊維繊度を1.1dtexとし、耐炎化において密度1.22~1.24g/cmとなるまでの熱処理温度を230℃、密度1.32~1.35g/cmとなるまでの熱処理温度を235℃、密度1.38~1.50g/cmとなるまでの熱処理温度を250℃とし、耐炎化工程における繊維束の幅を8.0mmとし、炭素化工程の最高温度を1,800℃とした以外は実施例1と同様にした。得られた炭素繊維束の巻き出し時のプロセス性は悪かった。
Figure 2023017173000001
Figure 2023017173000002
Figure 2023017173000003
Figure 2023017173000004

Claims (5)

  1. フィラメント数が25,000~70,000である炭素繊維束であって、炭素繊維束表面に存在する毛羽の本数が0.1~30.0本/mであり、毛羽の断面が二重構造を有する断面である本数の割合が2~28%である炭素繊維束。
  2. 炭素繊維束の単繊維断面の平均真円度が0.84~0.96である請求項1に記載の炭素繊維束。
  3. 炭素繊維束の結節強度が160~380N/mmである請求項1または2に記載の炭素繊維束。
  4. ホモポリマーのガラス転移点が-30~110℃であるビニル化合物を共重合成分として含み、該共重合成分の共重合組成が1.8~12.0質量%であるポリアクリロニトリル系共重合体を紡糸してなるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束であって、フィラメント数が25,000~70,000であって、単繊維繊度が0.6~3.0dtexであるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束を、200~300℃の酸化性雰囲気下で熱処理する工程において、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の単繊維の発熱速度をq(J/g/s)、フィラメント数をN(本)、単繊維繊度をd(dtex)、繊維束の幅をW(mm)としたときに式(1)で定義されるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の総発熱速度Qについて、密度1.22~1.24g/cmとなるまで式(1)の左辺である総発熱速度Q(J/m/s)が130~450J/m/sとなるように熱処理した後、密度1.32~1.35g/cmとなるまで式(1)で求められる総発熱速度Qが200~600J/m/sとなるように熱処理し、次いで密度1.38~1.50g/cmとなるまで式(1)で求められる総発熱速度Qが300~900J/m/sとなるように熱処理し、該耐炎化繊維束を不活性雰囲気中で最高温度500~1,200℃で熱処理をして予備炭素繊維束とし、該予備炭素化繊維束を不活性雰囲気中で最高温度1,200~1,600℃で熱処理をして炭素繊維束を得る、請求項1から3のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
    Q=q×N×d/W/10 ・・・(1)
  5. 前記ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の単繊維断面の平均真円度が0.84~0.96である請求項4に記載の炭素繊維束の製造方法。
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