JP7358793B2 - 炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、生産性よく優れたストランド弾性率を発現する炭素繊維束の製造方法に関するものである。
炭素繊維は比強度、比弾性率に優れ、炭素繊維強化複合材料の強化繊維として用いることにより部材の大幅な軽量化が可能となることから、エネルギー利用効率の高い社会の実現に不可欠な材料の一つとして幅広い分野で利用されている。近年、自動車や電子機器筐体などを初めとしたコスト意識の強い分野においても適用が進んでおり、成形コストまで含めた最終部材コストの低減が強く求められている。
最終部材コストは、炭素繊維のコスト低減も一定の効果はあるものの、炭素繊維強化複合材料の弾性率を支配する炭素繊維束のストランド弾性率を高めることにより炭素繊維束の必要量を効果的に低減できるため、コスト低減に有効である。しかしながら、一般にストランド弾性率を高めた炭素繊維束は、その製造過程において高温の熱処理を必要とすることや生産性が低いことなどから、高価であることが多かった。
最も広く利用されているポリアクリロニトリル系炭素繊維束は、炭素繊維前駆体繊維束を200~300℃の酸化性雰囲気下で耐炎化繊維束へ転換する耐炎化工程、300~2000℃の不活性雰囲気下で炭素化する炭素化工程を経て、必要に応じて最高温度3000℃の不活性雰囲気下で黒鉛化する黒鉛化工程を経て工業的に製造される。現在市販されている高弾性率グレードのポリアクリロニトリル系炭素繊維束は高温の黒鉛化工程を経ることにより製造されているが、炭素化工程において高い張力を付与することによってもストランド弾性率を高められることが知られている。
特許文献1および2では撚りを加えることによって炭素化工程における工程通過性を向上させる技術が提案されている。
特許文献3には、交絡や有撚により前炭化繊維束の試長依存性を制御して高張力で炭素化することによって、得られる炭素繊維のストランド弾性率を高める技術が提案されている。
特許文献4には、炭素化工程で2段階の温度域で炭素化を行うことで、伸度の高い炭素繊維束を得る技術が提案されている。
特許文献5には、市販の炭素繊維束をマイクロ波加熱により追加で炭素化処理することにより、高弾性率な炭素繊維束を得る技術が提案されている。
特開昭56-091015号公報 特開2002-001725号公報 特開2014-141761号公報 特開2004-197278号公報 米国特許第8703091号明細書
しかしながら、背景技術には次のような課題がある。
特許文献1および2では、加撚により炭素化工程の工程通過性は向上するものの、炭素化工程での張力付与には何ら着目されておらず、それらに着目する思想もなかったと言える。
特許文献3では、炭素化工程に加えて黒鉛化工程において高温処理することで、ストランド強度とストランド弾性率を両立する炭素繊維束が得られているが、黒鉛化時の張力が低くストランド弾性率向上効果が低かった。
特許文献4では、追炭素化時の張力が低く、ストランド弾性率が十分でなかった。
特許文献5では、追炭素化時の張力が低いことに加えて、加熱方式もマイクロ波加熱方式に限定されており、生産性の高い総繊度の大きな繊維束に適用する際に熱処理斑の観点から高密度化によるコストダウンが困難であった。
上記の目的を達成するために、本発明の炭素繊維束の製造方法は、少なくとも炭素化処理を経て得られた、結晶子サイズが1.5nm以上の原料炭素繊維束を不活性ガス中で追炭素化処理する高弾性率炭素繊維の製造方法であって、追炭素化処理時の最高温度が1500℃以上、張力が5mN/dtex以上であり、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束が1~100T/mの撚りを有する炭素繊維束の製造方法である。
本発明の炭素繊維束の製造方法によって、生産性を低下させることなくストランド弾性率が高い炭素繊維束を得られ、最終的に得られる炭素繊維強化複合材料の弾性率が高い。
本発明の炭素繊維束の製造方法では、公知の方法により得られた、少なくとも炭素化処理を経て得られた炭素繊維束(以下、原料炭素繊維束と呼称する)を用いて、さらに追炭素化処理を行うことを特徴とする。具体的には、本発明の炭素繊維束の製造方法は、少なくとも炭素化処理を経て得られた、結晶子サイズが1.5nm以上の原料炭素繊維束を、不活性ガス中で追炭素化処理する高弾性率炭素繊維の製造方法であって、追炭素化処理時の最高温度が1500℃以上、張力が5mN/dtex以上であり、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束が1~100T/mの撚りを有する炭素繊維束の製造方法である。
本発明において、追炭素化処理は不活性ガス雰囲気の炉内において最高温度1500℃以上で処理を行う。追炭素化処理における最高温度とは、追炭素化処理を行う炉内の最高温度のことを指し、公知の方法、例えば二色温度計などにより測定される。最高温度が1500℃以上であれば、追炭素化処理により実用的に意味のあるストランド弾性率の向上効果が得られる。上記不活性ガス雰囲気に用いられる不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴンおよびキセノンなどが好ましく例示され、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。追炭素化処理における加熱方式は、公知のものから適宜選ぶことができるが、処理の均一性の観点から、雰囲気加熱または輻射加熱によることが好ましい。
本発明において、追炭素化処理における張力は5mN/dtex以上とする。追炭素化処理における張力は8mN/dtex以上が好ましく、11mN/dtex以上がより好ましく、14mN/dtex以上がさらに好ましく、30mN/dtex以上が特に好ましく、50mN/dtex以上が最も好ましい。追炭素化処理における張力は、炭素化炉出側で測定した張力(mN)を、用いた原料炭素繊維束の単繊維繊度(dtex)と追炭素化処理時のフィラメント数との積である総繊度(dtex)で除したものとする。該張力を5mN/dtex以上に制御することで、得られる炭素繊維束の結晶配向度π002を効果的に高めることができ、ストランド弾性率を大きく高めやすい。得られる炭素繊維束のストランド弾性率を高める観点からは、該張力は高い方が好ましいが、高すぎると炭素化処理における工程通過性や、得られる炭素繊維束の品位が低下する場合があるため、該張力は両者を勘案して設定するのが良い。
本発明では、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束の撚り数を1~100ターン/mとする。かかる撚り数は10~90ターン/mとすることが好ましく、20~80ターン/mとすることがより好ましく、30~70ターン/mとすることがさらに好ましい。一般的に、追炭素化処理における張力を高めると、単繊維破断が生じ、毛羽が増加することにより、追炭素化処理の通過性が低下したり、繊維束全体が破断することにより、必要な張力を維持できなかったりする場合がある。かかる撚り数を上記範囲に制御することで、毛羽が抑制されるため、追炭素化処理において高い張力を付与することが可能となる。かかる撚り数は、追炭素化前の原料炭素繊維束を巻き出す際にボビンを旋回させる方法や、走行中の繊維束に対して回転するローラーやベルトを接触させて撚りを付与する方法などにより制御することができる。また、原料炭素繊維束に予め撚りを加えておいてもよい。
本発明では、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束の撚り角を0.2°以上とすることが好ましく、0.7°以上とすることがより好ましく、2.0°以上とすることがさらに好ましく、2.5°以上とすることが最も好ましい。本発明において原料炭素繊維束の撚り角とは、繊維束の長手方向に対して、繊維束の最表面の単繊維の繊維軸方向がなす角のことであり、撚り数と炭素繊維束のフィラメント数、単繊維の直径より算出することができる。具体的な算出方法は後述する。かかる原料炭素繊維束の撚り角を上記範囲に制御することで、高い張力を付与しても単繊維破断が抑制され、高い張力下で安定に追炭素化処理を行うことが可能となる。かかる撚り角は10.0°以下とすることが、生産性の観点で好ましい。
本発明において、追炭素化処理における繊維束のフィラメント数は12,000本以上であることが好ましく、24,000本以上であることがより好ましく、48,000本以上であることがさらに好ましい。追炭素化処理中の繊維束の撚り数が同じであれば、フィラメント数が大きいほど撚りの中心軸と繊維束の外周との距離が大きくなるため、前記した撚りによる毛羽抑制効果が発現しやすく、得られる炭素繊維束のストランド弾性率を効果的に高めることができる。フィラメント数の上限に特に制限はなく、目的の用途に応じて設定すればよい。
本発明において、追炭素化処理における1糸条あたりの繊維束の総繊度は6,000dtex以上であることが好ましく、12,000dtex以上であることがより好ましく、24,000dtex以上であることがさらに好ましい。追炭素化処理時の繊維束の総繊度(dtex)は用いた原料炭素繊維束の単繊維繊度(dtex)と追炭素化処理時のフィラメント数との積である。総繊度が大きいほど撚りの中心軸と繊維束の外周との距離が大きくなり、総繊度が6,000dtex以上であれば、撚りによる毛羽抑制効果が発現しやすく、得られる炭素繊維束のストランド弾性率を効果的に高めることができる。追炭素化処理における繊維束の総繊度の上限は特に制限はなく、目的の用途に応じて設定すればよい。
本発明において、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束は、結晶子サイズLが1.5nm以上である。結晶子サイズLの上限は特に制限はないが、6.0nm以下であれば取り扱いがしやすいため好ましい。結晶子サイズLは、1.5~2.5nmであることが好ましく、1.6~2.4nmがより好ましく、1.6~2.2nmがさらに好ましく、1.6~2.0nmがさらに好ましい。結晶子サイズLとは、炭素繊維中に存在する結晶子のc軸方向の厚みを表す指標であり広角X線回折により評価される。詳しい評価手法は後述する。原料炭素繊維束の結晶子サイズが1.5nm以上であれば、追炭素化した際に結晶子サイズが大きくなりやすくストランド弾性率が高まりやすい。結晶子サイズLが2.5nm以下であれば追炭素化過程における応力集中が抑制され、品位が低下しにくい。追炭素化前の原料炭素繊維束の結晶子サイズは公知の方法によりにより制御される。
本発明において、原料炭素繊維束はバッチ式で供給することが好ましい。本発明においてバッチ式とは、原料炭素繊維束の製造工程と、かかる原料炭素繊維束を高弾性率炭素繊維束に転換する製造工程とが連続していないことを指す。一例として、原料炭素繊維束を一旦ボビンに巻き取ったあと、ボビンから引き出して追炭素化処理に供給することが挙げられる。本発明において、原料炭素繊維束をバッチ式で供給する方法は特に限定されない。例えば、ボビンに巻き取られた状態以外にも、容器に振り込まれた状態、カセに巻かれた状態のものであってもよい。原料炭素繊維束がボビンに巻き取られた状態であれば、加撚しやすいため好ましい。
本発明において、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束は、450℃減量率が0.15%以下であることが好ましく、0.13%以下であることがより好ましく、0.11%以下であることがさらに好ましい。450℃減量率は炭素繊維束に付与されているサイジング剤の付着量を反映しており、規定の質量の炭素繊維束を加熱し、加熱前後の質量変化より評価される。本発明における詳しい評価手法は後述する。炭素繊維束に付着したサイジング剤は追炭素化処理の過程で分解するため、炉内などを汚染する場合があるが、450℃減量率が0.15%以下であればサイジング剤の熱分解物が少なく炉内に滞留しにくいため、得られる炭素繊維束の品位低下や操業性の悪化を抑制できる。
本発明において、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束は、繊維表面の酸素濃度(O/C)が0.05~0.50であることが好ましく、0.07~0.30であることがより好ましい。繊維表面の酸素濃度(O/C)は、表面処理により導入された酸素原子を含む官能基量を反映しており、後述するX線光電子分光法により評価する。繊維表面の酸素濃度(O/C)が0.05以上であれば、追炭素化処理時の繊維束内での応力が均一になりやすく、ストランド弾性率が高まりやすい。繊維表面の酸素濃度(O/C)が0.50以下であれば、過剰な酸化による繊維表面の欠陥により追炭素化時に毛羽の発生や繊維束破断などによる操業性悪化が抑制できる。
本発明において、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束は、ストランド強度が4.0~6.5GPaであることが好ましく、4.5~6.0GPaであることがより好ましく、4.5~5.5GPaであることがさらに好ましい。原料炭素繊維束のストランド強度が4.0以上であれば、追炭素化時に高張力を付与しやすく、高弾性率な炭素繊維束が得られる。ストランド強度が6.5GPa以下で効果が飽和する。
本発明において、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束は、ストランド弾性率が200~300GPaであることが好ましく、210~290GPaであることがより好ましく、220~280GPaであることがさらに好ましい。原料炭素繊維束のストランド弾性率が200GPa以上であれば、追炭素化時の張力が高まりやすく、追炭素化による弾性率向上効果が得られやすい。300GPa以下であれば、追炭素化処理の品位低下が抑制できる。
本発明において、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束は、単繊維直径が5.0~7.5μmであることが好ましく、5.5~7.5μmであることがより好ましく、6.5~7.2μmであることがさらに好ましい。原料炭素繊維束の単繊維直径は5.0μm以上であれば、追炭素化処理で高張力を付与しても単糸破断が生じにくく、7.5μm以下であれば単糸内の結晶配向度が高まりやすく高弾性率な炭素繊維束が得られやすい。
以上のようにして得られた炭素繊維束は、炭素繊維とマトリックスとの接着強度を向上させるために、表面処理を施し、酸素原子を含む官能基を導入しても良い。表面処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。本発明において、液相電解酸化の方法については特に制約はなく、公知の方法で行えばよい。
かかる電解処理の後、得られた炭素繊維束の取り扱い性や高次加工性をさらに高めるため、あるいは炭素繊維とマトリックスとの接着強度を高めるため、サイジング剤を付着させることもできる。サイジング剤は、炭素繊維強化複合材料に使用されるマトリックスの種類に応じて適宜選択することができる。また、取り扱い性や高次加工性の観点から、付着量などを微調整しても良い。さらに、成形温度の高いマトリックスを用いる場合など、サイジング剤の熱分解物による炭素繊維とマトリックスとの接着強度低下が懸念される場合については、サイジング付着量を可能な限り低減することや、サイジング処理を行わなくても良い。
本発明の炭素繊維束の製造方法において得られる炭素繊維束は、ストランド維弾性率が340GPa以上であることが好ましく、350GPa以上であることがより好ましく、360GPa以上であることがさらに好ましく、380GPa以上であることが最も好ましい。本発明において、ストランド弾性率は高いほどよいが340GPa以上であれば、炭素繊維強化複合材料の弾性率を効果的に高められる。ストランド弾性率は、単繊維直径に応じて追炭素化時の張力を高めることや、追炭素化時の最高温度を高めることで高められる。
本発明の炭素繊維束の製造方法において得られる炭素繊維束は、結晶子サイズLが2.2~4.0nmであることが好ましく、2.4~3.8nm以上であることがより好ましく、2.6~3.6nm以上であることがさらに好ましく、2.8~3.6nmであることが最も好ましい。結晶子サイズLが2.2nm以上であれば炭素繊維内部の応力負担が効果的に行われるため、ストランド弾性率を高めやすく、3.5nm以下であれば応力が集中しにくくなりストランド強度や圧縮強度の低下が起こりにくい。結晶子サイズLは、主に炭素化処理以降の処理時間や最高温度によって制御することができる。
本発明の炭素繊維束の製造方法において得られる炭素繊維束は、結晶配向度π002が80~95%であることが好ましく、80~90%であることがより好ましく、82~90%であることがさらに好ましい。結晶配向度π002とは、炭素繊維中に存在する結晶子の繊維軸を基準とした配向角を表す指標であり広角X線回折により評価される。結晶配向度が80%以上であれば、ストランド弾性率とストランド強度のバランスのとれた炭素繊維束となり、95%付近が上限となる。結晶配向度π002は、追炭素化処理工程における最高温度や処理時間に加えて、張力によって制御することができる。
本発明の炭素繊維束の製造方法において得られる炭素繊維束は、結晶子サイズL(nm)と結晶配向度π002(%)が式(1)を満たすことが好ましい。
π002≧4.0×L+73.2 ・・・式(1)。
発明者らが検討したところ、結晶子サイズLが高まるほど結晶配向度π002が高まっていく傾向があり、式(1)は公知の炭素繊維のデータからその関係の上限を経験的に示している。結晶配向度π002が式(1)を満たすことは、結晶子サイズLの割には結晶配向度π002が大きいことを意味しており、ストランド弾性率とストランド強度のバランスに優れた追炭素繊維束が得られる。本発明の追炭素繊維束において、式(1)における定数項は73.5であることがより好ましく、74.0であることがさらに好ましい。式(1)を満たす追炭素繊維は、炭素化処理における張力を高めることにより得ることができる。
本発明の炭素繊維束の製造方法において得られる炭素繊維束は、単繊維直径が5.0μm以上であることが好ましく、5.5μm以上であることがより好ましく、6.0μm以上であることがさらに好ましい。単繊維直径は走査電子顕微鏡観察により評価する。単繊維の断面形状が真円でない場合、円相当直径で代用する。円相当直径は単繊維の実測の断面積と等しい断面積を有する真円の直径のことを指す。単繊維直径が5.0μm以上であれば、成形加工時に樹脂中での単繊維の分散性が高まりやすく複合材料の弾性率が高まりやすい。単繊維直径の上限は特にないが、15μm程度となると著しく単繊維強度や単繊維弾性率が低下することがある。単繊維直径は炭素繊維前駆体繊維束の紡糸時の口金からの吐出量や各工程中の延伸比などにより制御できる。
本明細書に記載の各種物性値の測定方法は以下の通りである。
<炭素繊維束の結晶子サイズL及び結晶配向度π002
測定に供する炭素繊維束を引き揃え、コロジオン・アルコール溶液を用いて固めることにより、長さ4cm、1辺の長さが1mmの四角柱の測定試料を用意する。用意された測定試料について、広角X線回折装置を用いて、次の条件により測定を行う。
1.結晶子サイズLの測定
・X線源:CuKα線(管電圧40kV、管電流30mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=10~40°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.02°、計数時間2秒。
得られた回折パターンにおいて、2θ=25~26°付近に現れるピークについて、半値幅を求め、この値から、次のシェラー(Scherrer)の式により結晶子サイズを算出する。
結晶子サイズ(nm)=Kλ/βcosθ
但し、
K:1.0、λ:0.15418nm(X線の波長)
β:(β -β 1/2
β:見かけの半値幅(測定値)rad、β:1.046×10-2rad
θ:Braggの回析角。
2.結晶配向度π002の測定
上述した結晶ピークを円周方向にスキャンして得られる強度分布の半値幅から次式を用いて計算して求める。
π002=(180-H)/180
但し、
H:見かけの半値幅(deg)
上記測定を3回行い、その算術平均を、その炭素繊維束の結晶子サイズ及び結晶配向度とする。
なお、後述の実施例および比較例においては、上記広角X線回折装置として、島津製作所製XRD-6100を用いた。
<炭素繊維の単繊維直径>
評価したい炭素繊維の単繊維断面を走査電子顕微鏡観察し、断面積を評価する。断面形状が真円から大きく外れる場合は、かかる断面積と同じ断面積を有する真円の直径を算出し、かかる単繊維の単繊維直径とする。単繊維断面の観察数はN=20とし、その平均値を本発明における単繊維直径とする。なお、加速電圧は5keVとする。
なお、本実施例では、走査電子顕微鏡として日立ハイテクノロジーズ社製の走査電子顕微鏡(SEM)“S-4800”を用いた。
<炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率>
炭素繊維束のストランド強度およびストランド弾性率は、JIS R7608(2004年)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求める。ただし、炭素繊維束が撚りを有する場合、撚り数と同数の逆回転の撚りを付与することにより解撚してから評価する。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド強度およびストランド弾性率とする。なお、ストランド弾性率を算出する際の歪み範囲は0.1~0.6%とする。
<炭素繊維束の450℃減量率>
評価対象となる炭素繊維束を質量2.5gとなるよう切断したものを直径3cm程度のカセ巻きにして熱処理前の質量w(g)を秤量する。次いで、温度450℃の窒素雰囲気のオーブン中で15分間加熱し、デシケーター中で室温になるまで放冷した後に加熱後質量w(g)を秤量する。以下の式により、450℃における加熱減量率を計算する。なお、評価は3回行い、その平均値を採用する。
450℃減量率(%)=(w-w)/w×100(%)。
<炭素繊維束の表面酸素濃度(O/C)>
炭素繊維束の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めることができる。まず、溶剤で表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKαを用い、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は282~296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。O1sピーク面積は528~540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出できる。
<原料炭素繊維束の撚り角>
原料炭素繊維束の単繊維直径(μm)およびフィラメント数から以下の式により繊維束全体の直径(μm)を算出した後、原料炭素繊維束に付与された撚り数(ターン/m)から、以下の式により原料炭素繊維束の撚り角(°)を算出する。
繊維束全体の直径(μm)={(単繊維直径)×フィラメント数}0.5
原料炭素繊維束の撚り角(°)=atan(繊維束全体の直径×10-6×π×撚り数)
[実施例1]
ポリアクリロニトリル系の炭素繊維前駆体繊維束を空気雰囲気230~280℃のオーブン中で延伸比を1として熱処理し、耐炎化繊維束に転換し、得られた耐炎化繊維束を窒素雰囲気中において温度300~800℃、延伸比0.97として予備炭素化処理を行い、予備炭素化繊維束を得た。次いで、かかる予備炭素化繊維束に、窒素雰囲気中で最高温度1300℃で炭素化処理を施したのち、最終的にボビンに巻き取ることで表1に記載の原料炭素繊維束を得た。
Figure 0007358793000001
表1に示すボビンに巻かれた状態の原料炭素繊維束を用いて、巻き出し方向に対して直交する面にボビンを旋回させることで加撚処理を行い、50ターン/mの撚りを付与し(撚り角は6.9°)、最高温度1900℃の窒素雰囲気中において、張力20mN/dtexとして追炭素化処理を行い、炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[実施例2]
追炭素化処理時の張力を40mN/dtexとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[実施例3]
追炭素化処理時の張力を60mN/dtexとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[実施例4]
原料炭素繊維束に付与する撚り数を30ターン/m(撚り角は4.1°)とした以外は、実施例3と同様にして炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[実施例5]
表1に記載の原料炭素繊維束を2本合糸してフィラメント数を24000本としたものを、原料炭素繊維束として用いた(撚り角は9.7°)以外は、実施例3と同様にして炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[実施例6]
原料炭素繊維束に付与する撚り数を30ターン/m(撚り角は5.8°)とした以外は、実施例5と同様にして炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[実施例7]
原料炭素繊維束に付与する撚り数を20ターン/m(撚り角は3.9°)とした以外は、実施例5と同様にして炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[実施例8]
追炭素化処理時の最高温度を2350℃とした以外は、実施例6と同様にして炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[比較例1]
追炭素化処理時の張力を1mN/dtexとした以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。追炭素化時の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維束の品位も良好であった。得られた炭素繊維束の評価結果を表2に記載する。
[比較例2]
追炭素化処理時の繊維束を無撚(撚り角は0.0°)とした以外は、実施例3と同様の条件で追炭素化処理を行ったところ、繊維束全体が破断し、炭素繊維束が得られなかった。
Figure 0007358793000002
本発明は、炭素繊維束および炭素繊維強化複合材料の生産性を損なうことなく、優れた炭素繊維強化複合材料の弾性率を発現する炭素繊維束を製造する課題に対して、市販の炭素繊維束に適切な条件で追加の炭素化または黒鉛化処理を施すことにより、優れたストランド強度およびストランド弾性率をバランス良く発現する炭素繊維束を提供する。本発明で得られる炭素繊維束は、かかる特徴を活かし、航空機・自動車・船舶部材や、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途などの一般産業用途に好適に用いられる。

Claims (13)

  1. 少なくとも炭素化処理を経て得られた、結晶子サイズが1.5nm以上、かつストランド弾性率が300GPa以下の原料炭素繊維束を不活性ガス中で追炭素化処理する高弾性率炭素繊維の製造方法であって、追炭素化処理時の最高温度が1500℃以上、張力が5mN/dtex以上であり、追炭素化処理を行う原料炭素繊維束が1~100T/mの撚りを有する炭素繊維束の製造方法。
  2. 追炭素化処理時の張力が11mN/dtex以上である、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
  3. 追炭素化処理時の張力が14mN/dtex以上である、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
  4. 追炭素化処理を雰囲気加熱または輻射加熱によって行う、請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  5. 原料炭素繊維束の450℃減量率が0.15%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  6. 原料炭素繊維束の表面酸素濃度(O/C)が0.05~0.50である、請求項1~5のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  7. 原料炭素繊維束をバッチ式で供給する、請求項1~6のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  8. 原料炭素繊維束をボビンから巻き出して供給する、請求項1~7のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  9. 原料炭素繊維束のストランド強度が4.0~6.5GPa、ストランド弾性率が200~300GPa、単繊維直径が5.0~7.5μmである、請求項1~8のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  10. 原料炭素繊維束の繊維束表面の撚り角が0.2°以上である、請求項1~9のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  11. 原料炭素繊維束の繊維束表面の撚り角が2.0~10.0°である、請求項10に記載の炭素繊維束の製造方法。
  12. 追炭素化処理における1糸条あたりの総繊度が6,000dtex以上である、請求項1~11のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
  13. 得られた炭素繊維束の結晶子サイズL(nm)と結晶配向度π002(%)が式(1)を満たす、請求項1~12のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
    π002≧4.0×L+73.2 ・・・式(1)
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