JP6194704B2 - 炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、抄紙により不連続繊維基材へ加工する際の水分散性と取り扱い性に優れた炭素繊維束の製造方法に関する。
炭素繊維束は繊維強化複合材料の強化繊維として、従来の航空機やスポーツ用途に加え、自動車や電子機器筐体などの産業用途へと、近年、益々その適用範囲が広がりつつある。従来の航空機やスポーツ用途においては、水系エマルジョンのエポキシ樹脂にてサイズ処理した炭素繊維束を熱硬化性樹脂でコンポジット化して用いるのが一般的である。これに対し、産業用途においては低コストかつ、複雑形状への成型が可能で安定した物性を発現するコンポジットが要求され、この要求に対し、炭素繊維束をチョップドとした後、不連続繊維基材へ加工し、熱可塑性樹脂と組み合わせてコンポジット化することで、低コストかつ、複雑形状への成型が可能な熱可塑コンポジットが主流となりつつある。
しかしながら、熱可塑コンポジットにおいて、安定した物性を発現するためには、熱可塑性樹脂との接着性及び、不連続繊維基材へ加工した際の等方性に課題があった。不連続繊維基材の製造方法としては炭素繊維束をチョップ後カーディングマシンにより、外部より力を加えて繊維束を開繊させる方法や、エアの力で散布し基材化するのが一般的である。しかしながら、開繊できる限度としては低く、等方性が低いため、コンポジット物性の低さに問題があった。これを改善する技術として、ガラス繊維においては、繊維束を溶媒中で分散させた後、抄くことによって基材化する抄紙法が一般的である。溶媒としては、コスト面から、水を用いることが好ましいが、炭素繊維においては水に対しての親和性が低いため、分散不良が生じ、品質の安定した基材を得ることが困難であった。
炭素繊維束の分散性を向上する技術として、特許文献1及び2に炭素繊維束にグリセリンを付与することで、ケイ酸カルシウムやセメントへ分散する技術が提案されているが、水系溶媒において分散させると、分散後に再凝集が起こり、等方性の高い基材が得られる技術ではなかった。水系溶媒に分散する技術としては、特許文献3に炭素繊維束にポリビニルピロリドンを付与する技術が提案されているが、抄紙後に繊維同士を固定する糊の役割を果たすバインダー剤の削減を目的としたもので、水系溶媒への分散性は必ずしも高くなかった。これらを改良する技術として特許文献4には、炭素繊維束の製造工程における表面処理において処理量を低下させることで、水への分散後の再凝集を低減する技術が提案されている。しかしながら該技術は表面処理を減らすことで水への分散後の再凝集は低減するものの、水への親和性は十分とは言えず、等方性の高い基材が得られる技術ではなかった。また、表面処理量を低下させることで、炭素繊維表面の官能基量が低下し、熱可塑性樹脂との接着性が低下、熱可塑コンポジットの安定した物性発現を達成できるものではなかった。
熱可塑性樹脂との接着性を向上する技術としては、特許文献5及び6に炭素繊維束をポリウレタンでサイジング処理する技術が提案されているが、熱可塑性樹脂との接着性は向上するものの、熱可塑樹脂との押し出し成型を目的とした技術である為、水系溶媒での分散性は悪く、等方性の高い基材を得られる技術ではなかった。熱可塑性樹脂への接着性と、水系溶媒への分散性を両立する技術として、特許文献7には特定の熱可塑性樹脂組成物でサイジング処理する技術が提案されている。しかしながら、該技術は熱可塑性樹脂への接着性、炭素繊維束の水に対する親和性は向上できるものの、サイジングの均一付着については何ら着目しておらず、水系溶媒への炭素繊維束の分散性は必ずしも優れたものではなく、等方性の高い基材を得られる技術ではなかった。
一方で、サイジングを均一に付着させる技術として、特許文献8には、特定の温度範囲及び処理時間で予備乾燥させた後、特定の温度範囲及び処理時間で乾燥させる2段乾燥とすることで、サイジングの均一付着を狙った技術が提案されている。しかしながら、該技術は熱硬化性サイジングを前提とした技術であり、熱可塑性サイジングにおける均一付着の点で必ずしも優れた技術ではなかった。上述したように、従来技術は、得られる不連続繊維基材の機械特性のみならず、コストや品位も含めた総合的な観点でも市場のニーズを満たすものではなく、更なる進歩が望まれている。
特開平10−251047号公報 特開平11−246248号公報 特開昭57−061800号公報 特開2003−293264号公報 特開昭58−126375号公報 特開2004−011030号公報 特開2011−168945号公報 特開2011−226004号公報
本発明は、水系溶媒において優れた分散性を有する炭素繊維束を提供することを目的とする。また、炭素繊維束を製造、不連続繊維基材へ加工する際の取り扱い性が良好な炭素繊維束を提供することを目的とする。
本発明者らは、熱可塑性サイジングを炭素繊維束に付着させ、特定の熱処理を行うことで、水系溶媒において優れた分散性を発現することを見出した。そのメカニズムについては必ずしも定かではないが、熱可塑性サイジングを付与することで、水に対する親和性を改善し、さらに、特定の熱処理を行うことで、熱可塑性サイジングを適度な溶融状態とすることで、炭素繊維束に対し、均一な被膜を形成したためと考えられる。
上記目的を達成するため、本発明の炭素繊維束の製造方法は次の構成を有する。
熱可塑性サイジングを1.0〜5.0質量%含んでなる熱可塑性サイジング浴に炭素繊維束を浸漬した後、200〜240℃で炭素繊維束に付着した熱可塑性サイジングの減量率が30〜70質量%となるまで熱処理する乾燥工程を経ることで、熱可塑性サイジングを炭素繊維束に0.3〜2.5質量%付着させる炭素繊維束の製造方法であって、乾燥工程前に100〜200℃で炭素繊維束の水分率が2.0質量%以下となるまで熱処理する予備乾燥工程を含む炭素繊維束の製造方法。
本発明によれば、従来の抄紙用炭素繊維束と比較し、高い水分散性、再凝集防止性を示し、優れた等方性の不連続繊維基材を得ることができる。また、熱可塑性樹脂への高い接着性を示す。そのため、自動車や電子機器筐体等に好適に用いられる。また、極めて優れた機械的特性を安定して発現するため、大型部材向けのコンポジットにも好適に用いることができる。
以下本発明の炭素繊維束を製造する方法について詳しく説明する。
本発明の炭素繊維束製造に用いられる重合体は特に限定されないが、優れた機械特性を発現するため、ポリアクリロニトリル系重合体を好適に用いることができる。さらに、用いるポリアクリロニトリル系重合体の極限粘度は、1.5〜10.0のものが好ましい。極限粘度が1.5を下回るような低分子量のポリアクリロニトリル系重合体の場合、炭素繊維物性が低下する場合があり、本発明の効果が得られない場合がある。また、極限粘度は高い方が好ましいが、10.0を超えるような高分子量のポリアクリロニトリル系重合体は、紡糸原液のゲル化が顕著となる場合ある。ポリアクリロニトリル系重合体の極限粘度は、重合時のモノマー、開始剤および連鎖移動剤などの量を変えることにより制御することができる。具体的には、重合開始時のモノマー濃度を高くする、開始剤濃度を低くする、連鎖移動剤の濃度を少なくすることにより、極限粘度を高めることができる。なお、本発明においてポリアクリロニトリル系重合体とは、少なくともアクリロニトリルが重合体骨格の主構成成分となっているものをいい、主構成成分とは、通常、重合体骨格の85〜100mol%を占めることを言う。
本発明の炭素繊維束製造に用いられるポリアクリロニトリル系重合体は、製糸性の観点および、耐炎化時の空気中での熱処理を効率よく行う観点等から、これらに際しての必要な特性を改善するため共重合成分を含むことが好ましい。製糸性の観点から一般に、共重合成分の量が少ないと(極端な例としてポリアクリロニトリル単独では)、可塑性が低下し製糸延伸性が低下する場合がある。共重合体の量が多いと耐熱性が低下し、融着が発生しやすくなる場合がある。好ましい共重合成分の量としては、0.1〜0.5mol%である。また、耐炎化時の空気中での熱処理を効率よく行う観点からは、少なくとも0.1mol%以上の耐炎化促進成分を共重合成分として共重合させることが好ましい。耐炎化促進成分としては、カルボキシル基またはアミド基を一つ以上有するものが好ましく例示される。耐炎化促進成分の共重合量を多くするほど耐炎化反応が促進され、短時間で耐炎化処理でき、生産性を高める目的から好ましい態様である。しかし一方で、該耐炎化促進成分の共重合量が多くなるほど、耐熱性が低下したり、発熱速度が大きくなり暴走反応の危険が生じたりすることがあるため、0.5mol%を超えない範囲とすることが好ましい。
共重合成分である耐炎化促進成分の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸、アクリルアミドおよびメタクリルアミドなどが好ましく例示される。耐熱性の低下を防止するという目的からは、耐炎化促進効果の高いモノマーを少量用いることが好ましく、アミド基よりもカルボキシル基を有する耐炎化促進成分を用いることが好ましい。また、含有されるアミド基とカルボキシル基の数は、1つよりも2つ以上であることがより好ましく、その観点からは、共重合成分である耐炎化促進成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸およびメサコン酸が好ましく、イタコン酸、マレイン酸およびメサコン酸がより好ましく、中でも、イタコン酸が最も好ましい。本発明において、製糸性を向上させる目的から、アクリレートやメタクリレートなど、耐炎化促進成分以外の共重合成分を共重合してもよいが、耐熱性の低下を防止するという目的からは、アクリロニトリル以外の共重合成分のトータル量は0.5mol%を超えないことが好ましい。
本発明で用いられるポリアクリロニトリル系重合体を製造する重合方法としては、溶液重合、懸濁重合および乳化重合など公知の重合方法を選択することができるが、共重合成分を均一に重合する目的からは、溶液重合を用いることが好ましい。溶液重合で用いられる溶液としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどのポリアクリロニトリルが可溶な溶媒を用いることが好ましい。中でも、生成したポリアクリロニトリル系重合体の溶解性の観点から、ジメチルスルホキシドがより好ましく用いられる。
本発明の炭素繊維束製造に用いられる紡糸原液は、前記したポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどのポリアクリロニトリルが可溶な溶媒に溶解したものである。溶液重合を用いる場合、重合に用いられる溶媒と紡糸溶媒を同じものにしておくと、得られたポリアクリロニトリル系重合体を分離し紡糸溶媒に再溶解する工程が不要となるため好ましい。本発明に用いるポリアクリロニトリル系重合体は濃度を10〜25質量%の紡糸原液とすることが好ましい。該紡糸原液の濃度が10質量%に満たないと、炭素繊維束製造用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の紡糸原液に対する収率が悪く、また、該紡糸原液の濃度が25質量%を超えると、重合体の安定性が低下する場合がある。
本発明の炭素繊維束製造に用いられるポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の製造方法は、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により紡糸口金から吐出させ紡糸する紡糸工程と、該紡糸工程で得られた繊維を水浴中で洗浄する水洗工程と、該水洗工程で得られた繊維を水浴中で延伸する水浴延伸工程と、該水浴延伸工程で得られた繊維を乾燥熱処理する乾燥熱処理工程からなり、さらに、必要に応じて、該乾燥熱処理工程で得られた繊維をスチーム延伸するスチーム延伸工程からなる。
本発明では、高強度な炭素繊維束を得るため、前述紡糸原液を紡糸する前に目開き1μm以下のフィルターに通し、ポリアクリロニトリル系重合体原料および各工程において混入した不純物を除去することが好ましい。紡糸原液を、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により口金から紡出し、凝固浴に導入して繊維を凝固せしめる。得られる炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束の緻密性を高め、また得られる炭素繊維束の力学物性を高める目的からは、乾湿式紡糸法を用いることが好ましい。
本発明において、前記凝固浴には、紡糸原液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記ポリアクリロニトリル系重合体を溶解せず、かつ紡糸原液に用いる溶媒と相溶性があるものを使用することができる。具体的には、凝固促進成分として水を使用することが好ましい。凝固浴中に紡糸した繊維糸条を導入して凝固せしめる紡糸工程の後、水洗工程、水浴延伸工程、乾燥熱処理工程および、必要に応じてスチーム延伸工程を経て、炭素繊維束製造用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束が得られる。
水洗工程における水浴温度は10〜60℃の複数段からなる水洗浴を用い水洗することが好ましい。また、水浴中延伸における延伸倍率は、1.3〜5.0倍であることが好ましく、より好ましくは2.0〜4.0倍である。
水浴延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。かかるシリコーン油剤は、変性されたシリコーンを用いることが好ましく、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものを用いることができる。
前記した水洗工程、水浴延伸工程、油剤付与工程、乾燥熱処理工程の後、必要に応じ、スチーム延伸を行うことにより、炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束が得られる。
本発明において、乾燥熱処理は、繊維軸方向の結晶性を高める目的から、160〜200℃の温度で行うことが好ましい。乾燥熱処理は、糸条を加熱されたローラーに直接接触させても、加熱された雰囲気を走行させ非接触で乾燥させてもよいが、乾燥効率という観点からは、加熱されたローラーに直接接触させることが好ましく、糸条の含有水分量が1質量%となるまで乾燥し、繊維構造を緻密化させることが好ましい。
また、本発明において、スチーム延伸は、加圧スチーム中において、少なくとも3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは5倍以上延伸するのがよい。前記した水洗工程、水浴延伸工程とスチーム延伸工程を含めたトータルの延伸倍率は、繊維軸方向の結晶性を高める観点から、11〜15倍であることが好ましい。延伸倍率が11倍を下回ると、繊維軸方向の結晶性が低くストランド引張強度が発現しにくく、また、延伸倍率が15倍を超えると延伸切れが顕著となり、得られる炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維束および炭素繊維束の品位が低下する場合がある。
本発明の炭素繊維束は、前記したポリアクリロニトリル系前駆体繊維を耐炎化、予備炭素化、炭素化することにより、得ることができる。
本発明において、耐炎化は、暴走反応を生じない範囲でできるだけ高い温度で行うことが好ましく、具体的には200〜300℃の空気中において行うことが好ましい。
耐炎化する際の延伸比は得られる耐炎化繊維の配向性を高める観点で高いほど好ましいが、延伸比が高すぎると、毛羽発生、糸切れ発生によりプロセス性が低下することがあるため、両者を勘案して設定するのがよい。
本発明において、耐炎化の処理時間は、好適には10〜100分の範囲で適宜選択することができるが、つづく予備炭素化工程のプロセス性および得られる炭素繊維束の力学物性向上の目的から、得られる耐炎化繊維束の比重が1.3〜1.4の範囲となるように設定することが好ましい。得られた耐炎化繊維束は実質的に無撚りの耐炎化繊維束が好ましい。続いて、最高温度500〜1300℃の予備炭素化炉中で、予備炭素化するが、予備炭素化工程における延伸比は得られる予備炭素化繊維束の配向性を高める観点から高いほど好ましいが、毛羽発生や糸切れ発生によりプロセス性が低下することがあるため、両者を勘案して設定するのがよい。
次いで前記予備炭素化繊維束を最高温度1300〜2000℃で炭素化することにより、炭素繊維束が得られる。なお、本発明においては、予備炭素化工程と、炭素化工程を含むことが好ましく、必要に応じて1300〜3000℃の温度でさらに熱処理してもよい。本発明において、予備炭素化工程、炭素化工程および更なる熱処理は不活性雰囲気中で行われるが、用いられる不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴンおよびキセノンなどが好ましく例示され、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。
さらに、炭素繊維束は、その表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アンモニウムのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維束の炭素化度に応じて適宜選択することができる。かかる電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維とマトリックスとの接着性が適正化でき、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題、繊維方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないというような問題が解消され、得られる複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。次いで、電解処理液を水洗、水分を乾燥した後、熱可塑性サイジングを付与する。
本発明においては、熱可塑性サイジングを1.0〜5.0質量%含んでなる熱可塑性サイジング浴に炭素繊維束を浸漬した後、200〜240℃で炭素繊維束に付着した熱可塑性サイジングの減量率が30〜70質量%となるまで熱処理する乾燥工程を経ることで熱可塑性サイジングを炭素繊維束に0.3〜2.5質量%付着させることを必須とすることで、目的とした水分散性を得ることができる。
熱可塑性サイジングとしては、ポリカーボネイト、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、エラストマーセルロース化合物、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂及び液晶ポリマー、スチレン−無水マレイン酸共重合体の水酸化ナトリウム(部分)中和物の群から選ばれた少なくとも単一又は複数の成分を含んでなる熱可塑性サイジングを用いることができる。さらに、熱可塑性サイジングは、本発明の目的を損なわない範囲で、消泡剤、乳化剤、防腐剤、スライム防止剤、架橋剤、酸化防止剤、耐熱安定剤や種々の熱可塑性樹脂などの成分を含有してもよい。
また、乾燥工程における耐熱性および、水系溶媒に対する親和性の観点で、水溶性ポリウレタン又は水溶性ポリアミドを含む熱可塑性サイジングであることが好ましい。水溶性ポリウレタンおよび/または水溶性ポリアミドは、分子鎖中にポリアルキレングリコールユニットを含有することが更に好ましく、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。これらを併用する場合には、少なくとも一方が分子鎖中にポリアルキレングリコールユニットを含有することが好ましく、両方が該ユニットを有することがより好ましい。ポリアルキレングリコールユニットとは、エチレングリコールをはじめとするアルキレングリコールの繰り返し単位を意味する。
水溶性ポリウレタンおよび/または水溶性ポリアミドは、さらに、直鎖状高分子であることが好ましい。直鎖状とは、実質的に分岐鎖を有しない状態を意味する。熱可塑性サイジングの耐熱性、炭素繊維束の収束性、水系溶媒に対する親和性の観点から、ポリオキシアルキレンユニット73.0〜98.0質量%、芳香族エステルユニット0.5〜15.0質量%、芳香族ウレタンユニット1.5〜10.0質量%を含む熱可塑性サイジングを用いることが最も好ましい。
本発明の炭素繊維束の製造方法に用いるサイジング剤は、芳香族ジイソシアネートに、ポリアルキレングリコールおよび芳香族エステルを含有するポリオールを縮合して得ることができる。ここで、芳香族エステルを含有するポリオールとは、グリコール成分と芳香族ジカルボン酸成分を脱水縮合して得られるものである。芳香族ジイソシアネートと、ポリアルキレングリコールおよび芳香族エステルを含有するポリオールが縮合することで、芳香族ジイソシアネートは芳香族ウレタンユニットを、ポリアルキレングリコールはポリオキシアルキレンユニットを、芳香族エステルを有するポリオールは芳香族エステルユニットを構成する。イソシアネートとアルコールの縮合は重付加(付加重合)反応であり、低分子の生成・分離を伴わないため、本発明のサイジング剤を構成するポリオキシアルキレンユニット、芳香族エステルユニットおよび芳香族ウレタンユニットの質量比には、それぞれのユニットを構成する原料の質量比が反映される。すなわち、各ユニットの質量%は、上記3種の原料の合計質量に対する、各原料の質量%である。
本発明のサイジング剤を得る際に使用できるポリアルキレングリコールは、水系分散媒中で炭素繊維束が高い開繊性を示すために、親水性である必要があり、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、PEG/PPGブロック重合体、PEG/PPGランダム重合体等が挙げられる。なかでも、ポリエチレングリコールが好ましい。また、サイジング剤の取り扱い性、集束性および開繊性を損なわない範囲で、水を除く他のヒドロキシル基を有する化合物を含有することができる。このような化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、カテコール、ビスフェノールA等が挙げられる。なお、上述のとおり、本発明において、サイジング剤に用いるポリウレタン樹脂を構成するポリオキシアルキレンユニットは、ポリエチレングリコールから構成されることが好ましいが、ここで説明される「ポリエチレングリコールからなる」とは、ポリエチレングリコールが全アルキレングリコール成分の90.0質量%以上であることを意味する。
炭素繊維束の取り扱い性、集束性および水系分散媒での開繊性のバランスの観点から、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、6,000以上21,000以下が好ましい。ポリアルキレングリコール成分は分子量により親水性や皮膜の柔軟性が変化する。分子量が適切な範囲にあることで、高い開繊性を示しつつ、より集束性や取り扱い性に優れたサイジング剤を得る事ができる。
なお、ポリアルキレングリコール成分は、異なる重量平均分子量を持つ複数種を混ぜ合わせて使用することもできる。芳香族エステルを含有するポリオールは、グリコールと芳香族カルボン酸の脱水縮合により得ることができる。脱水縮合に使用できるグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェン酸、ウビド酸、2−メチルテレフタル酸、4−メチルフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。集束性と開繊性のバランスに優れたサイジング剤を得られることから、グリコール成分としてはエチレングリコールが好ましく、芳香族ジカルボン酸成分としてはテレフタル酸あるいはイソフタル酸が好ましい。従って、芳香族エステルを含有するポリオールとしては、これらの縮合体であるテレフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)あるいはイソフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)が好ましい。
また、サイジング剤の取り扱い性、集束性および開繊性を損なわない範囲で、他のグリコール、芳香族カルボン酸およびその脱水縮合体を含有することができる。このような化合物としては、たとえば芳香族エステルを含有するポリオールを得るために使用できる上記グリコールおよび芳香族カルボン酸成分が挙げられる。なお、上述のとおり、本発明を構成する芳香族エステルユニットは、テレフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)あるいはイソフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)から構成されることが好ましいが、ここで説明される「テレフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)あるいはイソフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)からなる」とは、当該芳香族エステル成分が全芳香族エステル成分の90.0質量%以上であることを意味する。
本発明における芳香族ジイソシアネートは、構造中に芳香環を含むジイソシアネートを意味し、縮合により芳香族ウレタンユニットを構成する。芳香族ジイソシアネートとしては、フェニルジイソシアネート、メチレンジフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。より柔軟性と強靭性に優れた皮膜が得られることから、トリレンジイソシアネートが好ましい。このように、本発明を構成する芳香族ウレタンユニットは、トリレンジイソシアネートから構成されることが好ましいが、ここで説明される「トリレンジイソシアネートからなる」とは、トリレンジイソシアネートが全芳香族ジイソシアネート成分の90.0質量%以上であることを意味する。
炭素繊維束の集束性と開繊性の両立には、ポリウレタン樹脂を構成する成分であるポリオキシアルキレンユニット、芳香族エステルユニットおよび芳香族ウレタンユニットの構成比が重要である。ポリオキシアルキレンユニットは、サイジング剤に親水性を付与し、炭素繊維束の水系分散媒への開繊性を向上させる。ポリオキシアルキレンユニットは、各ユニットの合計質量に対し、73.0〜98.0質量%含まれる好ましい。この下限値未満の場合、サイジング剤の親水性が不足するため、サイジング剤の分散液自体が製造できなかったり、水系分散媒中で十分な開繊性を示さなかったりする。また、この上限値を超える場合は、取り扱い性や集束性が不足する。より好ましくは85.0〜97.0質量%であり、さらに好ましくは89.0〜94.0質量%である。
芳香族エステルユニットは、炭素繊維束の耐熱性および集束性を向上させる。芳香族エステルユニットは、各ユニットの合計質量に対し、0.5〜15.0質量%含むことが好ましい。この下限値未満であると、炭素繊維束の耐熱性が低下して工程通過性に影響を生じたり、集束性が低下したりする。また、この上限値を超えるとサイジング剤の親水性が不足するために、十分な開繊性を示さない。より好ましくは0.8〜9.0質量%であり、さらに好ましくは3.0〜6.0質量%である。
芳香族ウレタンユニットは、炭素繊維表面に形成される皮膜を柔軟・強靭なものとし、取り扱い性および集束性を向上させる。芳香族ウレタンユニットは、各ユニットの合計質量に対し、1.5〜10.0質量%含むことが好ましい。この下限値未満であると、サイジング剤の柔軟性および強靭性が失われて皮膜が脆くなり、取り扱い性および集束性が低下する。この上限値を超えると、サイジング剤の親水性が不足するために、十分な開繊性を示さない。より好ましくは2.3〜6.5質量%であり、さらに好ましくは3.0〜5.0質量%である。
このように、炭素繊維束が良好な取り扱い性、集束性および開繊性を示すためには、ポリオキシアルキレンユニット、芳香族エステルユニットおよび芳香族ウレタンユニットが、特定の割合で含まれることが重要である。これらのユニットの構成比については、原料の質量比以外にも、例えばIRスペクトルの吸収波長と強度から測定することができる。例えば、ポリオキシアルキレンユニットは1070〜1150cm−1(C−O−C伸縮)に、芳香族エステルユニットは1717〜1750cm−1(エステルC=O伸縮)に、芳香族ウレタンユニットは1690〜1720cm−1(ウレタンC=O伸縮)に特徴的な吸収を示すため、これらの吸収率等からポリオキシアルキレンユニット、芳香族エステルユニットおよび芳香族ウレタンユニットの構成割合を知ることができる。
本発明のサイジング剤に用いるポリウレタン樹脂の構成成分には、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他のユニットを含んでいてもよい。他のユニットとしては、例えば低分子量アルキレングリコール、シクロヘキサンジオール、ヘキサメチレンジアミン等のポリアミン等が挙げられる。本発明におけるサイジング剤は、例えば、以下の方法で製造することができる。すなわち、ジカルボン酸とアルキレングリコールを、加熱して脱水縮合させて芳香族エステルを含有するポリオールを生成させ、これにポリアルキレングリコールを加えて適当な温度まで冷却した後、ジイソシアネートを加えて重付加(付加重合)反応を進めることで得ることができる。
本発明においては、熱可塑性サイジングを付与する際の熱可塑性サイジング浴中の熱可塑性サイジング濃度を1.0〜5.0質量%とすることを必須とする。熱可塑性サイジングを付与する際の濃度を1.0質量%以上とすることで、繊維表面の熱可塑性サイジングの量が十分となり、目的とした水分散性を得ることができ、等方性の低下を防ぐことができる。また、熱可塑性サイジングを付与する際の濃度が5.0質量%以下とすることで、熱可塑性サイジング液の粘度を低くすることができ、炭素繊維束内部まで均一に熱可塑性サイジングを浸透させることができ、目的とする水分散性を得ることができ好ましい。
熱可塑性サイジング付与後の乾燥温度は200〜240℃が必須であり、乾燥温度を200℃以上とすることで、熱可塑性サイジングを十分に溶融することができ、均一な被膜が形成され、目的とした水分散性が得ることができる。また、乾燥温度を240℃以下とすることで、熱可塑性サイジングが発火する危険性を低下することができ、また、熱可塑性サイジングの溶融粘度の低下に伴う熱可塑性サイジングの脱落による付着の不均一化を防ぐことができ、均一な被膜を形成することができ、目的とした水分散性を得ることができる。
更に、乾燥時における熱可塑性サイジングの減量率を30〜70質量%となるまで熱処理することが必須であり、減量率を30質量%以上とすることで、熱可塑性サイジングの溶融が十分となり、均一な被膜を形成することができ、目的とした水分散性を得ることができる。また、減量率を70質量%以下とすることで、分解ガスが多量に発生することによる作業環境の悪化を防ぐことができる。
更に、乾燥後は0.3〜2.5質量%の熱可塑性サイジング付着量とすることが必須である。熱可塑性サイジング付着量が0.3質量%以上とすることで、炭素繊維束の収束性が低下するのを防ぐことができ、良好な取り扱い性を示し、さらに、目的とした水分散性を得ることができる。また、熱可塑性サイジング付着量が2.5質量%以下とすることで、製造コストの上昇を防ぐことができ、さらに、余分な熱可塑性サイジングによる炭素繊維単繊維間のブリッジングを防ぐことができ、目的とした水分散性を得ることができる。
熱可塑性サイジング浴は熱可塑性サイジングの濃度を均一にする点で、循環装置または攪拌装置を具備することが好ましい。また、熱可塑性サイジング浴に浸漬する前に、繊維束を曲面に接触させて糸幅を拡幅した状態において、熱可塑性サイジング浴に浸漬することが好ましく、更に、前記曲面または熱可塑性サイジング付与工程の繊維束が加振されていると、繊維束内部まで熱可塑性サイジングが浸透しやすく好ましい。
乾燥機の形式としては、特に限定されないが、加熱されたローラーに接触させて乾燥する接触方式や、加熱された雰囲気を通過させたり、近赤外線を用いて炭素繊維束を直接加熱したりする非接触方式を用いることができる。熱可塑性サイジングの堆積による炭素繊維束の巻きつきを防止する観点から、非接触方式が好ましく、溶融した熱可塑性サイジングを均一に移動させる観点から、流速1〜10m/secの熱風を炭素繊維束に吹き付け、マイグレーション効果を得られる、熱風乾燥を用いることが更に好ましい。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法は、熱可塑性サイジングを付与した後、100〜200℃で炭素繊維束の水分率が2.0質量%以下となるまで熱処理する予備乾燥工程を経てから、乾燥することが好ましい。水分率を別の乾燥工程で制御することにより、本発明の特徴である、200〜240℃での熱可塑性サイジングの減量率を制御しやすくすることができる。
本発明の炭素繊維束の製造方法により得られる炭素繊維束は良好な収束性により高い取り扱い性を示し、かつ、水系溶媒に対し高い親和性を持つ。従って、本発明の炭素繊維束はカット、チョップドに好適に用いることができ、カット、チョップド化した後、水系溶媒中にて良好な分散性を示し、抄紙により等方性の高い基材とすることができ、該基材は複雑な形状への成型を可能とし、高いコンポジット物性を安定して発現することが可能であり、自動車部材、筐体等に好適に用いられる。また、良好な均一性を示す為、大型部材向けのコンポジットにも好適に用いることができる。
本明細書に記載の各種特性値の測定方法は以下の通りである。
<熱可塑性サイジング付着量>
測定に供する炭素繊維束を約3.5gカットし、質量を測定し、Wとする。次いでカットした炭素繊維束を、450℃の不活性雰囲気中で15分間熱処理した後、室温の不活性雰囲気中で30分冷却し、さらに室温空気中にて30分冷却し、質量を測定しWとし、次式により熱可塑性サイジング付着量(質量%)を求める。
熱可塑性サイジング付着量(質量%)=(W−W×1.00046)/W×100
ここで、1.00046の意味するところは、炭素繊維束を450℃の不活性雰囲気で15分間処理した際の炭素繊維束の熱減量を補正する為の補正係数である。
<炭素繊維束の水分率>
熱可塑性サイジング浴にて熱可塑性サイジングを付与し、100〜200℃で一次乾燥した炭素繊維束を約10gカットし、質量を測定してWとする。次いで、120℃の空気雰囲気下で2時間絶乾した後、室温下で1時間冷却し、質量を測定してWとし、次式により炭素繊維束の水分率(質量%)を求める。
炭素繊維束の水分率(質量%)=(W−W)/W×100。
<炭素繊維束の水分散性>
測定に供する炭素繊維束から、鋭利な刃物を用いて、長さ5mmの炭素繊維束をカットする。次いで、500ml容器に300mlの水を用意し、カットした炭素繊維束を投入し、毎秒1回転の速度で1分間攪拌する。攪拌後、10秒間静置し、炭素繊維束の分散程度を以下の等級判定基準により行い、同測定を3回行った際の等級の算術平均値を炭素繊維束の水分散性とした。
[等級]1:束大が5個以上、
2:束大が2〜4個または束小が10個以上、
3:束大が1個または束小が4〜9個、
4:束大がなし、かつ束小が3個以下、
5:未分散なし
ここで、束大とは単繊維が7〜50本で構成される束で、束小とは単繊維2〜6本で構成される束である。
<熱可塑性サイジングの減量率>
熱可塑性サイジング浴に用いる熱可塑性サイジングを約10g採取し、質量を測定し、W(g)とし、次いで120℃の空気雰囲気下で2時間絶乾した後、室温下で1時間冷却し、質量を測定してW(g)とし、次式により、熱可塑性サイジングの濃度(質量%)を求める。
熱可塑性サイジング濃度(質量%)=W/W×100
この熱可塑性サイジングを入れた、熱可塑性サイジング浴に一定時間に通過させた炭素繊維束の質量をW(kg)とする。また、熱可塑性サイジング浴と同一の濃度とした熱可塑性サイジングを準備し、Wの炭素繊維束を通過させている間に、熱可塑性サイジング浴の液面を一定に維持する様に連続的に投入し、投入量(kg)をWの炭素繊維束が持ち出した熱可塑性サイジングの量W(kg)とする。次いで、次式により熱可塑性サイジングの純分消費量W(kg)を求める。
純分消費量W(kg)=熱可塑性サイジング濃度(質量%)×W(kg)/100
次いで、次式により熱可塑性サイジングの減量率を求める。
減量率(質量%)=(1−(熱可塑性サイジング付着量(質量%)/100/W(kg)×W(kg)))×100
以下に記載する実施例1〜11および比較例1〜5は、次の包括的実施例に記載の実施方法において、表1に記載の各条件を用いて行ったものである。ただし、実施例11は参考実施例である。
[包括的実施例]
アクリロニトリル99.5mol%とイタコン酸0.5mol%からなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒とし、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを開始剤として溶液重合法により重合させ、ポリアクリロニトリル系共重合体を製造した。製造されたポリアクリロニトリル系重合体に、アンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込み、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基をポリアクリロニトリル系共重合体に導入し、紡糸原液を得た。得られた紡糸原液を、40℃で、直径0.15mm、孔数6,000の紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約4mmの空間を通過させた後、3℃にコントロールした35%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条とした。
この凝固糸条を、常法により水洗した後、温水槽を用い、3.5倍の延伸を行い、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与した後、160℃の加熱ローラーを用いて、乾燥緻密化処理を行い、次いで、加圧スチーム中で3.7倍延伸することにより、製糸全延伸倍率を13倍とし、単繊維繊度0.7dtex、単繊維本数6,000本のポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得た。次に、得られた繊維を2本合糸し、単繊維本数12,000本とし、温度240〜260℃の空気中において、延伸比1.0で延伸しながら耐炎化処理し、比重1.35〜1.36の表2記載の耐炎化繊維束を得た。得られた耐炎化繊維束を、温度300〜800℃の温度勾配がついた窒素雰囲気中において、延伸比0.95で弛緩しながら予備炭素化処理を行い、次いで温度1300〜2000℃の温度勾配がついた窒素雰囲気中において、延伸比0.95で炭素化処理を行い、次いで表面処理を行った後、重量平均分子量が6200のポリエチレングリコール(PEG)96.2質量部、テレフタル酸ビス2−ヒドロキシエチル(BHET)1.0質量部を120℃に加熱し、トリレンジイソシアネート(TDI)2.8質量部を加えて撹拌し、得られたアルキレングリコール/芳香族エステル/芳香族ウレタンからなる熱可塑性サイジングを付着させ、130℃の加熱ローラーにて表1記載の水分率となるまで予備乾燥させた後、表1記載の乾燥温度にて乾燥させ、炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束について、水分散性を測定した。測定結果を表2に示す。
[実施例1]包括的実施例記載の方法において、熱可塑性サイジングを表1記載の含有量及び乾燥温度で付着させ、減量率を53質量%として炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例2]乾燥温度を210℃に変更し、減量率を41質量%とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例3]包括的実施例記載の方法において、熱可塑性サイジングを表1記載の含有量及び乾燥温度で付着させ、減量率を63質量%として炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例4]熱可塑性サイジングの含有量を1.0質量%に変更し、減量率を40質量%とした以外は実施例2と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例5]熱可塑性サイジングの含有量を5.0質量%に変更し、減量率を42質量%とした以外は実施例2と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例6]包括的実施例記載の方法において、熱可塑性サイジングを表1記載の含有量及び乾燥温度で付着させ、減量率を30質量%として炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例7]重量平均分子量が6200のポリエチレングリコール(PEG)97.7質量部、トリレンジイソシアネート(TDI)2.3質量部を用いて得られたアルキレングリコール/芳香族ウレタン付加体からなる熱可塑性サイジングに変更し、減量率を70質量%とした以外は、実施例3と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例8]乾燥温度を240℃に変更し、減量率を68質量%とした以外は、実施例3と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例9]予備乾燥温度を200℃に変更し、減量率を55質量%とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例10]予備乾燥温度を100℃に変更し、減量率を51質量%とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[実施例11]予備乾燥温度を90℃に変更し、減量率を48質量%とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は良好な取り扱い性及び水分散性を示した。
[比較例1]熱可塑性サイジングの含有量を0.5質量%に変更し、減量率を55質量%とした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は水に対し分散不良を生じた。また、収束性が低く、取り扱い性が悪かった。
[比較例2]熱可塑性サイジングの含有量を6.0質量%に変更し、減量率を47質量%とした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は水に対し分散不良を生じた。また、炭素繊維束が剛直となり、取り扱い性が悪かった。
[比較例3]乾燥温度を190℃に変更し、減量率を17質量%とした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は水に対し多数の分散不良を生じた。
[比較例4]乾燥温度を245℃に変更し、減量率を82質量%とした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は水に対し分散不良を生じた。
[比較例5]熱可塑性サイジングの代わりにビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(油化シェルエポキシ社製“エピコート(登録商標)”828)からなる熱硬化性サイジングを用い、減量率を45質量%とした以外は実施例1と同様に炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束は、水に対し全く分散しなかった。なお、得られた炭素繊維束中の熱可塑性サイジングの付着量は0.0質量%であったが、熱硬化性サイジングの付着量は1.3質量%であった。
Figure 0006194704
表1中、サイジング剤の「A」は重量平均分子量が6200のポリエチレングリコール(PEG)96.2質量部、テレフタル酸ビス2−ヒドロキシエチル(BHET)1.0質量部を120℃に加熱し、トリレンジイソシアネート(TDI)2.8質量部を加えて撹拌し、得られたアルキレングリコール/芳香族エステル/芳香族ウレタン重付加体からなる熱可塑性サイジング、「B」は重量平均分子量が6200のポリエチレングリコール(PEG)97.7質量部、トリレンジイソシアネート(TDI)2.3質量部を用いて得られたアルキレングリコール/芳香族ウレタン付加体からなる熱可塑性サイジング、「C」はビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(油化シェルエポキシ社製“エピコート(登録商標)”828)からなる熱硬化性サイジングを意味する。
Figure 0006194704
本発明の炭素繊維束の製造方法により得られる炭素繊維束は良好な収束性により高い取り扱い性を示し、かつ、水系溶媒に対し高い親和性を持つ。従って、本発明の炭素繊維束はカット、チョップドに好適に用いることができ、カット、チョップド化した後、水系溶媒中にて良好な分散性を示し、抄紙により当方性の高い基材とすることができる。また、熱可塑性樹脂へ高い接着性を示すため、自動車部材、電子機器筐体等に好適に用いられる。また、極めて優れた機械的特性を安定して発現するため、大型部材向けのコンポジットにも好適に用いることができる。

Claims (3)

  1. 熱可塑性サイジングを1.0〜5.0質量%含んでなる熱可塑性サイジング浴に炭素繊維束を浸漬した後、200〜240℃で炭素繊維束に付着した熱可塑性サイジングの減量率が30〜70質量%となるまで熱処理する乾燥工程を経ることで熱可塑性サイジングを炭素繊維束に0.3〜2.5質量%付着させる炭素繊維束の製造方法であって、乾燥工程前に100〜200℃で炭素繊維束の水分率が2.0質量%以下となるまで熱処理する予備乾燥工程を含む炭素繊維束の製造方法。
  2. 熱可塑性サイジングが水溶性ポリウレタン又は水溶性ポリアミドを含むことを特徴とする請求項1記載の炭素繊維束の製造方法。
  3. 熱可塑性サイジングがポリオキシアルキレンユニット73.0〜98.0質量%、芳香族エステルユニット0.5〜15.0質量%、芳香族ウレタンユニット1.5〜10.0質量%を含む熱可塑性材料であることを特徴とする、請求項1または2記載の炭素繊維束の製造方法。
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