JP2013524781A - LysE過剰発現細菌の使用下にL−オルニチンを製造する方法 - Google Patents

LysE過剰発現細菌の使用下にL−オルニチンを製造する方法 Download PDF

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Abstract

本発明の対象は、アミノ酸の高い輸送により特徴づけられる微生物を用いるL−オルニチンの発酵による製法に関する。

Description

L−オルニチンは、その肝機能の刺激作用に関して公知であり、かつ医薬品の成分として及びスポーツ栄養において頻繁に使用されている。
今日ではL−オルニチンは様々な方法により製造されている。1つの方法は、微生物を用いる培養法である。もう1つの方法は、例えば、水酸化バリウムを用いるアルギニンのアルカリ加水分解である(CN1594282A)。もう1つの方法は、アルギナーゼ活性を有する固定化微生物によるアルギニンのバイオトランスフォーメーションである(KR589121B1)。L−シトルリンからL−オルニチンを製造する方法も特許文献(JP42007767B4)に記載されている。
L−オルニチンを培地に排出する点で傑出している微生物は文献に記載されている。前記微生物の例は、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム、バチルス(JP43010996B4、JP57041912B)、エシェリキア(US3668072A)、プロビデンシア(JP03195494)又はアントロバクター(US3574061)の細菌である。
L−オルニチンを生産する微生物は、しばしばアミノ酸L−アルギニン又はL−シトルリンに栄養要求性であることにより傑出している(ブレビバクテリウム、バチルス、コリネバクテリウムに関しては、EP392708B1とKR161147B1に記載されている、大腸菌に関してはUS366072Aに記載されている)。更に、2−チアゾール−アラニン、スルファグアニジン又は2−フルオロピルベートに耐性を有する微生物も記載されている(日本国公開公報第61−119194号)。
EP0393708B1には、オルニトール及びミコフェノール酸に対する低い耐性により傑出しているL−オルニチン生産者が記載されている。前記特性は組み合わされた形で存在していてもよい。
細胞からの能動的拡散によるL−リジン、L−アルギニン及びL−オルニチンのような塩基性アミノ酸の放出は、極めて少ない(Bellmann et al.(Microbiology 2001;147:1765〜74))。このことは、リジンに関してよく記載されている。Vrlijcら(Journal of Bacteriology 1995; 177(14): 4021〜7)により、コリネバクテリウム・グルタミクムの多くの輸送欠陥変異体が研究された。1つの変異体に関して、L−リジン174mMの細胞内濃度が測定されたのに対して、細胞外では0.7mMだけの値が測定された。
Vrlijcら[Molecular Microbiology 1996;22(5);815〜26)及びJournal of Molecular Microbiology and Biotechnology 1999; 1: 327〜336)]及びEP0868527B1には、新規輸送体がL−リジンエクスポーター(LysE)として同定及び記載されている。同定されたLysE null突然変異体は、もはやL−リジンを細胞から輸送することができなかった。LysE遺伝子によりコードされるポリペプチドは、233個のアミノ酸又はアミノ酸残基の長さであり、かつ配列番号2に示されている。リジン生産者中でLysE遺伝子が過剰発現した後に、L−リジンの高い排出が見られた。
Bellmannら(Microbilogy 2001;147:1765〜74)により、グルタミクム中で種々の塩基性アミノ酸の輸送に関して、より詳細にLysEエクスポーターが特徴づけられた。著者らは、該トランスポーターが特にアミノ酸L−リジンとL−アルギニンを細胞から輸送することを証明した。著者らは、LysEがL−オルニチンを細胞から輸送するかどうかも更に調査した。このために、まずはじめに、ATCC13032::argFと称されるLアルギニン−栄養要求性C.コリネバクテリウム・グルタミクム株を製造した。
この株を40g/lグルコース含有のCGXIIと称される最小培地50ml(回分培養)中で培養した。24時間のインキュベーション時間の後に、7.9g/lに相応する60mMのL−オルニチンが測定された。細胞内では、約70分のインキュベーションの間に、約200mMのL−オルニチン濃度が株の細胞内で測定された。LysEが細胞からL−オルニチンを輸送するかどうかを明らかにするために、株13032::argFを複製プラスミドpEC71ysEで形質転換した。この手法により、該株が高いLysE活性を得て、かつそれによりこの株がより高い輸送率で培地中にL−オルニチンを輸送できるようにするのがよい。しかし、前記方法によってL−オルニチン輸送率は高まらなかった。コントロール株(13032::argF)の場合でも、形質転換体(pEC7LysE含有13032::argF)の場合でもこの輸送率(0.6nmol/分(mg乾燥質量)-1)が測定された。著者らは、L−オルニチンがエクスポーターLysEにより輸送されないことを結論付けた。更に彼らは、コリネバクテリウム・グルタミクム中のL−オルニチンにはもう1つの未知の輸送機能(輸送タンパク)があるに違いないことを記載した(Bellmann et al., 2001、1771頁、図5b又は1772頁、21〜28行目)。
C.バクテリウムR中で変異体LysE(配列番号4参照)は同定され、これは配列番号2に記載されている株ATCC13032によるLysE−エクスポーターのアミの酸配列とは、アミノ残基が3個分だけ長くなったN−末端が異なっている。前記アミノ酸残基は以下の通りである:メチオニン、バリン、イソロイシン(MVI)。株RのこのLysEポリペプチドは、EP1266966B1においてループ領域の形状が野生型とは異なるか、又は該ループを形成できず、従ってL−リジン及びL−アルギニンの改善された輸送を達成できる点で野生型タンパク質とは異なる変異体として記載されている。
他のLysE変異体は、Gunji and Yasuedaにより記載されている(Journal of Biotechnology 127, 2006、1〜13)。著者らは、メチロトロフィックバクテリウム、メチロフィルス・メチロトロファスの義務的なL−リジン形成に関心があった。これらはpSEと称されるC.グルタミクムATCC13869からのlysE−遺伝子含有のプラスミドでM.メチロトロファスを形質転換し、M.メチロトロファスのリジン形成を改善した。しかし、著者らはこれらが突然変異した形のlysE遺伝子(lysE24)だけがM.メチロトロファス中で安定した方法で確立できることを見出した。lysE遺伝子のオープンリーディングフレームは、チミン残基の挿入によりlysE24対立遺伝子にシフトし、432bp後にリーディングフレーム末端を生じる。短くなったリーディングフレームは、C.グルタミクムATCC13869の野生型LysEタンパク質よりもC末端でアミノ酸残基が92個分だけ短いLysEタンパク質をコードする。これは141個のアミノ酸残基の長さを有する。短くなったタンパク質の最後の6個のC−末端のアミノ酸(残基135〜141)は、野生型LysE−アミノ酸配列のアミノ酸とは異なる。プラスミド上に変性LysE対立遺伝子(pSE24)を有するM.メチロトロファス株をリジン形成に関して試験した。このために、この株をSEIIcと称される流加回分培養の形で最小培地0.3リットル中で50時間試験した。著者らは、0.55mMのL−リジン及び0.19mMのL−アルギニンの他に、形質転換体はL−オルニチンも僅かな量(0.07mM、11.8mg/lに相応)で形成されていることを見出した。著者らは、突然変異したトランスポーターの変化した基質特異性、又は株の変化した細胞内L−アルギニンプールが、観察されたL−オルニチンの形成を生じた可能性を明らかにした。特許EP1266966B1(発明者:Gunji and Yasueda)は、L−リジン及びL−アルギニンの排出においてLysE24トランスポーターのポジティブな活性を記載している。
本発明の課題
本発明の課題は、L−オルニチンを発酵により製造するための新規方法を提供することである。
本発明の説明
本発明の対象は、L−オルニチンを製造するための方法に関し、該方法は以下:
a)L−オルニチンエクスポーターの活性を有し、かつそのアミノ酸配列が、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも(≧)35%、≧40%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧92%、≧94%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%又は100%、有利には≧70%、特に有利には≧90%、極めて有利には≧96%、及び最も有利には100%同一であるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを過剰発現して存在する、コリネバクテリウム属、バシラス属、ストレプトミセス属、アルスロバクター属及び腸内細菌科から成るグループから選択されるL−オルニチンを排出する細菌を培地中で発酵し、
b)L−オルニチンを前記培地中で蓄積し、その際、発酵ブロスが得られ、
c)その際、過剰発現にはDSM23239に寄託されているプラスミドpEC7LysEを使用せず、
d)かつ、その際場合により、コードされたポリペプチドの長さは、アミノ酸又はアミノ酸残基の≧146〜≦286である
の工程を行うことに特徴づけられる。
≧171〜≦286、≧196〜≦261、≧203〜≦258、≧218〜≦243、≧228〜≦236及び≧228〜≦233アミノ酸又はアミノ酸残基のグループから選択される長さの範囲が有利である。
≧203〜≦258、≧218〜≦243、≧228〜≦236及び≧228〜≦233の長さの範囲ならびに≧228〜≦236及び≧228〜≦233の長さの範囲が特に有利である。
以下にL−オルニチンが記載される場合には、該用語にはその塩、例えば、L−オルニチン一塩酸塩又はL−オルニチン−硫酸塩も含まれる。
本発明による方法には、コリネバクテリウム属、バシラス属、ストレプトミセス属、アルスロバクター属及び腸内細菌科のグループから選択される細菌が使用される。
更に、コリネバクテリウム属は、有利には以下の種類に基づく株が有利である:
コリネバクテリウム・エフィシエンス、例えばタイプ株DSM44549、コリネバクテリウム・グルタミクム、例えば、タイプ株ATCC13032又は株R、及びコリネバクテリウム・アンモニアゲネス、例えば、株ATCC6871。その際、コリネバクテリウム・グルタミクム種が極めて有利である。
コリネバクテリウム・グルタミクム種の幾つかの代表は、他の名称で従来技術からも公知である。これらには、例えば以下のものが含まれる:
株ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラムと称する、
株DSM20137、コリネバクテリウム・リリウムと称する、
株ATCC17965、コリネバクテリウム・メラセコラと称する、
株ATCC14067、ブレビバクテリウム・フラバムと称する、
株ATCC13869、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタムと称する、
株ATCC14020、ブレビバクテリウム・ディバリカツムと称する。
"ミクロコッカス・グルタミクス"という用語は、コリネバクテリウム・グルタミクムにも同様に使用されてきた。コリネバクテリウム・エフィシエンス種の幾つかの代表は、従来技術ではコリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(株FERM BP−1539)とも称されていた。
バシラス属の中では、バシラス・サブチリス種が有利である。
アルスロバクター属の中では、アルスロバクター・シトレウス種が有利である。
腸内細菌科の中では、エシェリキア属、エルウィニア属、プロビデンシア属、パントエア属及びセラチア属が有利である。エシェリキア属のエシェリキア・コリ種、セラチア属のセラチア・マルセッセンス種、及びプロビデンシア属のプロビデンシア・レットゲリ種が特に有利である。
L−オルニチンエクスポーターの過剰発現の手法に使用される細菌又は株(出発株)は、有利には、それを囲む栄養培地中にL−オルニチンを排出し、かつそこに蓄積する能力を既に持っているのが有利である。このために"生産する"という表現も以下に使用される。特に、前記過剰発現の手法に使用される株は、栄養培地中でL−オルニチンを≧0.1g/l、≧0.3g/l、≧1g/l、≧3g/l、≧10g/lまで富化又は蓄積する能力を有する。出発株とは、有利には突然変異及び選択により、組み換えDNA技法又は両方の方法の組み合わせにより製造される株である。
本発明の手法に適切な細菌が、まずL−オルニチンエクスポーターの活性を有し、かつそのアミノ酸配列が配列番号2と少なくとも(≧)35%同一であるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを過剰発現し(その際、場合により、コードされたポリペプチドの長さは上記長さの範囲内にある)、かつ引き続き従来技術に記載されているような更なる遺伝子操作により、前記細菌にL−オルニチンを生産させることにより得られることは明らかであり説明するまでもない。上記のようなポリヌクレオチドを用いるだけで、野生型(例えば、株ATCC13032、ATCC14067、ATCC13869またはATCC17965のようなもの)を形質転換しても本発明による方法が生じない。
L−オルニチンを排出又は生産するコリネバクテリウム・グルタミクム種の株は、例えば次のものである:ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタムFERM−BP2344及びコリネバクテリウム・グルタミクムFERM−BP2345(US5188947に記載)。
L−オルニチンを排出又は生産するアルスロバクター・シトレウス種の株は、例えば次のものである:アルスロバクター・シトレウスFERM−BP2342(US5188947に記載)。
L−オルニチンを排出又は生産するバシラス・サブチリス種の株は、例えば次のものである:バシラス・サブチリスBOR−32(FERM−P3647)(US5188947に記載)。
L−オルニチンを排出又は生産するプロビデンシア・レットゲリ種の株は、例えば次のものである:プロビデンシア・レットゲリARGA6(EFRMP−11147)(JP03195494に記載)。
L−オルニチンを排出又は生産するエシェリキア・コリ種の株は、例えば次のものである:エシェリキア・コリB−19−19(ATCC21104)(US3668072に記載)。
L−オルニチン生産細菌は、通常アミノ酸L−シトルリン又はL−アルギニンに栄養要求性である。二者択一的に、L−シトルリン又はL−アルギニンにブラディトロフィック(bradytrophic)であるL−オルニチン生産細菌も考慮される。栄養要求及びブラディトロフィックという用語の定義は、WO01/09286の9頁に見出すことができる。ブラディトロフは当該分野では漏出突然変異体とも称される。ブラディトロフ細菌の場合に、特に野生型の活性と比べて、遺伝子産物ArgF(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ)、ArgC(アルギノスクシネートシンターゼ)又はArgH(アルギノスクシネートリアーゼ)の活性が、0よりも大きく(>)、10パーセント以下(≦)、有利には>0かつ≦1%である細菌が使用される。
従来技術では、lysE遺伝子とも称されるポリヌクレオチドが公知である(L−リジンエクスポーターの活性を有するタンパク質又はポリペプチドをコードする)。これらのポリペプチドは、LysEとも省略される。
エクスポーターは、細胞の細胞膜中に存在し、かつ例えば、L−リジン又はL−オルニチンのような代謝物質を該細胞のサイトプラズマから周囲の培地に運搬するタンパク質である。このために必要なエネルギーがアデノシン三リン酸(ATP)の形で提供される場合には、これは第一活性トランスポート又はエクスポートと称される。前記エネルギーがイオングラジエント(例えばナトリウムイオン)の形で提供される場合には、第二活性トランスポート又はエクスポートと称される(Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko and L. Stryer; Biochemie、第5版、378〜384頁、Spektrum Akademicher Verlag、ドイツ、ハイデルベルク、2003)。L−オルニチン排出活性を決定する説明書は、Bellmannら(Microbiology 2001;147:1765〜74)に見出すことができる。
本発明につながる作業では、コリネバクテリウム属のリジンエクスポター、有利にはコリネバクテリウム・グルタミクム及びミクロコッカス、有利にはミクロコッカス・ルテウスは、L−リジンエクスポター活性の他に、L−オルニチンエクスポーターの活性も有する。
本発明の手法に関して、L−オルニチンに対して排出活性を有するポリペプチドをコードし、かつそのアミノ酸配列が配列番号2のアミノ酸配列と、少なくとも(≧)35%、≧40%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧92%、≧94%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、≧100%、有利には≧70%、特に有利には≧90%、極めて有利には≧96%かつ最も有利には≧100%の同一性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が使用され、その際、場合により、コードされたポリペプチドの長さは上記の長さの範囲内にある。
適切なL−オルニチンエクスポーターは、例えば
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032(配列番号2)、
コリネバクテリウム・グルタミクムR(配列番号4)、
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC14067(配列番号5)、
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13869(配列番号7)、
コリネバクテリウム・エフィシエンスYS−314(配列番号9)、
コリネバクテリウム・ジフテリアNCTC13129(配列番号10)、
コリネバクテリウム・ストリアツムATCC6940(配列番号11)、
コリネバクテリウム・アウリムコスムATCC700975(配列番号12)、
コリネバクテリウム・マツルショッティイATCC33806(配列番号13)、
コリネバクテリウム・シュードジェニタリウムATCC33035(配列番号14)、
コリネバクテリウム・アコレンスATCC49725(配列番号15)、
コリネバクテリウム・グルクロナリチクムATCC51867(配列番号16)、
ミクロコッカス・ルテウスNCTC2665(配列番号17)、
コリネバクテリウム・ツブクロステアリクムSK141(配列番号18)及び
コリネバクテリウム・マツルショッティイATCC14266(配列番号19)のリジンエクスポター又はLysEポリペプチドである。
配列番号18と配列番号19は、当該分野ではArgOポリペプチドとも称される。
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC14067及びコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13869のlysE遺伝子のヌクレオチド配列をこの研究で決定した(配列番号6と配列番号8)。コリネバクテリウム・グルタミクムATCC14067とコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13869のアミノ酸配列は配列番号5と配列番号7に記載されている。これらは配列番号2に記載されているC.グルタミクムATCC13032のLysEのアミノ酸配列と同一である。
第1表には、コリネバクテリウム属及びミクロコッカス・ルテウスの様々な代表のLysEポリペプチドの受入番号が記載されていて、これらはNational Center for Biotechnology Information(NCBI、Bethesda、MD、US)のデータバンクから引用することができる。更に、第1表には配列表に記載されているLysEポリペプチドのアミノ酸配列が示されている。最後に、第1表にはコードされたLysEポリペプチドの長さ(アミノ酸の数)が記載されている。
第1表
Figure 2013524781
図1には、第1表中に記載された細菌のLysEポリペプチドのアミノ酸配列の多重比較アライメントが記載されている。図1に示されたアミノ酸配列の比較は、プログラムClone Manager 9、プロフェッショナル版を用いて作成した(Scientific & Educational Software 600 Pinner Weald Way Ste 202 Cary NC 27513 USA)。比較用の参照分子としてATCC13032のLysEポリペプチド(LysE)を使用した。マトリックスのスコア付けには、設定"Blosum 62"(参照:Jermy M. Berg, John L. Tymoczko and L. Stryer; Biochemie、第5版、194〜197頁、Spektrum Akademischer Verlag、ハイデルベルク、ドイツ、2003)を選択した。
場合により従来技術に記載されているプログラム、例えば、プログラムClustalXを使用することもできる[Thompson, J. D., Gibson, T. J., Plewniak, F. Jeanmougin, F. and Higgins, D. G.(1997)、ClustalX Windowsインターフェイス:クオリティー分析ツールにより補助された多重配列アライメント用のフレキシブルな方策、核酸リサーチ、25:4876〜4882頁]。
コリネバクテリウム・グルタミクムRのLysEポリペプチドのアミノ酸残基4〜236(配列番号4参照)は、配列番号2に記載されたC.グルタミクムATCC13032のLysEのアミノ酸配列に相応する。C.グルタミクムRのポリペプチドは、N末端に3個のアミノ酸残基の配列を更に有する(メチオニン−バリン−イソロイシン)。これらの更なる残基は、C.グルタミクムATCC13032(配列番号1参照)中のLysE遺伝子の出発コドンの代わりにlysE遺伝子の更に上流に存在する出発コドンの9個の塩基対が使用される場合に生産される。
C.エフィシエンスYS−314のLysEポリペプチドのアミノ酸配列は、71%、かつC.ジフテリアNCTC13129は44%、コリネバクテリウム・ストリアツムATCC6940は44%、コリネバクテリウム・アウリムコスムATCC700975は42%、コリネバクテリウム・マツルショッティイATCC33806は43%、コリネバクテリウム・シュードジェニタリウムATCC33035は43%、コリネバクテリウム・アコレンスATCC49725は43%、コリネバクテリウム・グルクロナリチクムATCC51867は36%、ミクロコッカス・ルテウスNCTC2665は40%、遺伝子配列表の番号2に記載されているC.グルタミクムATCC13032のLysEのアミノ酸配列と同一である。
C.ツブクロステアリクムSK41のArgOポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列と43%同一である。
更に、C.マツリコッチATCC14266のArgOポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列と44%同一である。同定のパーセンテージは、プログラムClone Manager 9により、設定Blosum 62(図2参照)の使用下にグローバルシーケンス・アライメントを作成することにより作った。
LysE遺伝子、すなわちL−オルニチンエクスポーターの活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、適切なプライマーの使用下にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により生物から単離することもできる。この説明は、特にNewton and Grahamによる実験マニュアル"PCR"(Spektrum Akademischer Verlag、ハイデルベルク、ドイツ、1994)ならびにWO2006/100211の14〜17頁に見出すことができる。
本発明による方法に関して、L−オルニチンエクスポート活性を有し、かつそのアミノ酸配列が、以下のグループ:
a)配列番号2又は配列番号4によるアミノ酸配列、
b)配列番号2によるアミノ酸配列、1つ以上の、最大25個、20個、15個、10個、5個、4個、3個、2個又は1個のアミノ酸の欠失を含む、
c)配列番号2によるアミノ酸配列、1つ以上の、最大25個、20個、15個、10個、5個、4個、3個、2個又は1個のアミノ酸の挿入を含む、
d)配列番号2によるアミノ酸配列、1つ以上の、最大140個、130個、120個、110個、100個、90個、80個、70個、60個、50個、40個、30個、25個、20個、15個、10個、5個、4個、3個、2個又は1個の置換、有利には5個、4個、3個、2個又は1個のアミノ酸の交換(置換)を含む、
e)配列番号2によるアミノ酸配列、N末端及び/又はC末端上の1つ以上の、最大25個、20個、15個、10個、5個、4個、3個、2個又は1個の、有利には最大5個、4個、3個、2個又は1個のアミノ酸の付加を含む
から選択される特徴の1つ以上を含むポリペプチドをコードする遺伝子を使用することが有利である。
場合により、保存的アミノ酸置換が有利である。芳香族アミノ酸の場合には、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが互いに置換されている場合には、保存的置換を意味する。疎水性アミノ酸の場合には、ロイシン、イソロイシン及びバリンが互いに置換される場合には保存的置換を意味する。極性アミノ酸の場合には、グルタミン及びアスパラギンが互いに置換されている場合には、保存的置換を意味する。塩基性アミノ酸の場合には、アルギニン、リジン及びヒスチジンが互いに置換されている場合には、保存的置換を意味する。酸性アミノ酸の場合には、アスパラギン酸とグルタミン酸が互いに置換されている場合には、保存的置換を意味する。ヒドロキシル基含有アミノ酸の場合には、セリンとトレオニンが互いに置換されている場合には、保存的置換を意味する。
更に、ストリンジェントの条件下に、配列番号1と相補的な、有利には配列番号1のコード領域と相補的なヌクレオチド配列とハイブリダイズし、かつL−オルニチンエクスポート活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。その際、コードされたタンパク質のアミノ酸配列は≧70%が配列番号2のアミノ酸配列と同一であり、かつその際、場合により、コードされたポリペプチドの長さは、上記の長さ範囲内に存在する。
核酸又はポリヌクレオチドをハイブリダイズする説明は、それぞれ当業者により特にベーリングマンハイム社(マンハイム、ドイツ、1993)のマニュアル書"The DIG System Users Guide for Filter Hybridization"及びLieblら(International Journal of Systematic Bacteriology 41:255〜260(1991))に見出すことができる。ハイブリダイジングはストリンジェントな条件下に行われる。すなわちハイブリッドだけが形成され、その際、プローブ、つまり配列番号1に相補的な、有利には配列番号1のコード領域に相補的なヌクレオチド配列、及びターゲット配列(つまり前記プローブで処理又は同定されたポリヌクレオチド)を含むポリヌクレオチドは、少なくとも70%同一である。洗浄工程を含むハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、バッファー組成物、温度及び塩濃度を変化させることにより影響又は決定できることが公知である。ハイブリダイジング反応は、一般に洗浄工程よりも比較的に低いストリンジェンシーで実施される(Hybaid Hybridisation Guide, Hybrid Limited, Teddington, UK, 1996)。
ハイブリダイジング反応には、約50℃〜68℃の温度で例えば5×SSCバッファーに相応するバッファーを使用することができる。この場合に、プローブをポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができ、使用されるプローブのヌクレオチド配列に70%未満の同一性を有していてもよい。このようなハイブリッドは僅かにだけ安定性であり、かつストリンジェントな条件下に洗浄により取り除かれる。これは、例えば塩濃度を2×SSC又は1×SSCまで下げ、かつ場合により続いて0.5×SSCが達成される(DIG System User’s Guide for Filter Hybridisation, Boehringer Mannheim、マンハイム、ドイツ、1995)。その際、約50℃〜68℃、約52℃〜68℃、約54℃〜68℃、約56℃〜68℃、約58℃〜68℃、約60℃〜68℃、約62℃〜68℃、約64℃〜68℃、約66℃〜68℃の温度に調節される。約64℃〜68℃又は約66℃〜68℃の温度範囲が有利である。場合により、塩濃度を0.2×SSC又は0.1×SSCに相応する濃度まで下げることもできる。場合により、SSCバッファーは、ドデシル硫酸ナトリウムを0.1%の濃度で含有している。ハイブリダイジング温度を約1〜2℃の段階で50℃〜68℃まで段階的に上げることにより、ポリヌクレオチド断片を単離することができ、これは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%、場合により100%使用されるプローブの配列又は相補配列と同一性を有し、かつL−オルニチンエクスポート活性を有するポリペプチドをコードする。ハイブリダイジングに関する更なる説明は、いわゆる"キット"の形で市販されている(例えば、Roche Diagnostics GmbH社のDIG Easy Hyb(カタログ番号1603558)、マンハイム、ドイツ)。
本発明の手法に関して、L−オルニチンエクスポート活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、L−オルニチン生産性細菌又は出発株又は親株中で過剰発現させ、その際コードされたタンパク質のアミノ酸配列は配列番号2のアミノ酸配列に≧35%同一であり、かつ場合により、コードされたポリペプチドの長さは、上記の範囲内にある。
過剰発現とは、一般に出発株(親株)又は野生型株(これが出発株である場合には)と比べたときの、リボ核酸、タンパク質(ポリペプチド)又は酵素の細胞内濃度又は活性の増大を意味すると解釈される。出発株(親株)とは、過剰発現につながる手法が実施された株を意味すると解釈される。
タンパク質とポリペプチドという用語は、互いに交換可能なものとして用いられる。
過剰発現では、組み換えられた過剰発現の方法が有利である。これらには、in vitroで用意されたDNA分子の使用下に微生物が製造される全ての方法が含まれる。このようなDNA分子の例には、例えばプロモーター、発現カセット、遺伝子、対立遺伝子、コード領域などが含まれる。これらは、形質転換、コンジュゲーション、トランスダクション又は類似した方法により所望の微生物に変換される。
過剰発現の手法により、相応するポリペプチドの活性又は濃度は、過剰発現を導く手法を行う前の菌株中のポリペプチドの活性又は濃度のレベルに対して、一般に少なくとも10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%又は500%、有利には最大1000%、2000%、4000%、100000%又は20000%まで高められる。
場合により、コリネバクテリウム・グルタミクム種の株を使用する際には、株ATCC13032又はATCC14067又はATCC13869又はATCC17965中のL−オルニチン−排出活性は、過剰発現を決定するための適切な基準点である。ATCC13032に基づく又はこれに由来する株を使用する場合には、前記株ATCC13032は適切な基準点である。このための一例は、本発明につながる作業の際に製造される株ATCC13032_Delta_argFRGH/pVWEx1_lysEであり、これは株ATCC13032に基づく。ATCC14067に基づくか又はこれに由来する株を使用する場合には、前記株ATCC14067は適切な基準点である。ATCC13869に基づくか又はこれに由来する株を使用する場合には、前記株ATCC13869は適切な基準点である。更に適切な基準点も相応して生じる。
場合によりエシェリキア・コリ種の株、有利にはエシェリキア・コリ株K12が使用される場合には、株MG1655中のL−オルニチンエクスポート活性は、過剰発現を決定するための適切な基準点である。
過剰発現を達成するために、従来技術では多くの方法が使用可能である。
これらには、遺伝子の発現を操作又は制御するヌクレオチド配列のコピー数の増大及び変性が含まれる。遺伝子の転写は、特にプロモーターにより、及び場合により転写を抑制するタンパク質(リプレッサータンパク質)もしくは促進するタンパク質(アクチベータータンパク質)により制御される。形成されたRNAの翻訳は、特にリボソーム結合部位及び出発コドンにより制御される。プロモーター及びリボソーム結合部位及び場合により出発コドンを含むポリヌクレオチド又はDNA分子は、発現カセットとも称される。
これには、高い触媒活性を有するポリペプチド又は酵素の変異体の使用も含まれる。
コピー数の増大は細菌のサイトプラズマ中で複製されるプラスミドにより行うことができる。このために、従来技術では多くのプラスミドが極めて様々なグループの微生物に関して記載されていて、そのプラスミドは遺伝子の所望するコピー数の増大を設定するために使用できる。エシェリキア属に適切なプラスミドは、例えば、マニュアル書Molecular Biology, Labfax(Ed.: T.A. Brown, Bios Scientific, Oxford, UK,1991)に記載されている。コリネバクテリウム属に適切なプラスミドは、例えば、Tauchら(Journal of Biotechnology 104(1〜3)、27〜40, 2003)又はStansenら(Applied and Environmental Microbiology 71, 5920〜5928(2005))に記載されている。
コリネバクテリウムン・グルタミクムにおけるコピー数を増大させるためのDSM23239に寄託されているプラスミドpEC7LysEの使用は、本発明につながる手法からは除外される。pEC7LysEプラスミドのヌクレオチド配列は決定され、かつ配列番号29に示されている。
更に、少なくとも1個のコピーだけコピー数を増大することは、更なるコピーを細菌の染色体に挿入することにより行うことができる。コリネバクテリウム属、有利にはコリネバクテリウム・グルタミクムに適切な方法は、例えば、特許文献WO03/014330、WO03/040373及びWO04/069996に記載されている。WO03/014330には、本来の遺伝子座に遺伝子をタンデムに倍化するための方法が記載されている。WO03/040373には、更なる遺伝子座で遺伝子の2番目又は3番目のコピーを挿入する方法が記載されている。その際、それぞれの遺伝子座は、それぞれのアミノ酸(本発明の場合にはL−オルニチン)の成長又は生産には必須ではない。本発明による方法において、LysE遺伝子の二番目又は更なるコピーを挿入するための適切な遺伝子座は、例えば遺伝子odh、sucA、dapA、dapB、ddh、lysA、argR、argF、argG及びargHである。WO04/069996(表12と13参照)には、C.グルタミクムの遺伝子間領域及びファージ又はファージ成分をコードする遺伝子が記載されていて、これらはLysE遺伝子の更なるコピーを挿入するために適切である。
エシェリキア属に適切な方法は、例えばファージのatt部位への遺伝子コピーの挿入(Yu and Court, Gene 223, 77〜81(1998))、ファージMuを用いた染色体増幅(例えばEP0332448に記載されている)、又はHamiltonらによる(Journal of Bacteriology 174, 4617〜4622(1989))又はLinkらによる(Journal of Bacteriology 179, 6228〜6237(1997))に記載されている、条件的な複製プラスミドを用いる遺伝子交換方法である。
遺伝子発現の増大は、発現すべき遺伝子に機能的に結合した強いプロモーターを用いて達成することもできる。有利には、天然のプロモーターよりも強いプロモーター、すなわち、野生型又は親株中に存在するプロモーターの使用が挙げられる。このために、従来技術では多くの方法が使用可能である。
コリネバクテリウム属に適切なプロモーターと発現系は、特に特許文献EP0629699A2、US2007/0259408A1(ギャッププロモーター)、WO2006/069711、EP1881076A1、WO2008/088158、WO2009/025470(butAプロモーター、pykプロモーター)、US6861246(dapAプロモーターのMC20とMA16変異体)、及びEP1918378A1(sodプロモーター)及び概要、例えば、"Handbook of Corynebacterium glutamicun"[Eds.:Lothar Eggeling and Michael Bott, CRC Press, Boca Raton, US (2005)]又は、書籍"Corynebacteria, Genomics and Molecular Biology"[Ed.: Andreas Burkovski, Caister Academic Press, Norfolk, UK(2008)]に見出すことができる。コントロールされた、すなわち誘発可能又は抑制可能な発現を可能にするプロモーターは、例えば、Tsuchiya and Morinage(Bio/Technology 6, 428〜430(1988))に記載されている。
エシェリキア属に適切なプロモーターは、長い間公知である。これには、特に従来のプロモーターであるlac−プロモーター、trp−プロモーター、ハイブリッド−プロモーターtac及びtrc、ファージλのプロモーターPL及びPRが属する。同様に、ファージT7のプロモーター、ギアーボックス−プロモーター、nar−プロモーター、又は遺伝子rrsG、rnpB、csrA、csrB、ompA、fusA、pepQ、rpIX又はrpsGのプロモーターを使用することもできる。制御された発現は、例えば、ファージλのcI857−PR−系又はcI857−PL−系(Goetting et al., BioTechniques 24, 362〜366(1998))により可能である。概要は、Makrides(Microbiological Reviews 60(3)、512〜538(1996))又はマニュアル書"Escherichia coli and Salmonella, Cellular and Molecular Biology"[F. C. Neidhardt(Editor in Chief), ASM Press, Washington, US(1996)]に見出すことができる。
このようなプロモーター又は発現カセットは、通常は遺伝子のコード領域の出発コドンの1番目のヌクレオチドの上流1〜1000、有利には1〜500ヌクレオチドの距離で用いられる。1の距離とは、プロモーター又は発現カセットが、コード領域の出発コドンの1番目の塩基の直前に位置することを意味する。
C.グルタミクムでlysE遺伝子の発現を増大するために、適切なプロモーター、例えば、C.グルタミクムからのsodプロモーター(EP1918378Aの配列番号1を参照)又はC.グルタミクムからのgapプロモーター(US2007/0259408の配列番号3を参照)を配列番号1の930位と990位の間に挿入することが有利に挙げられる。
プロモーターとリボソーム結合部位(RBS)を含んでいる発現カセット、例えば、C.グルタミクムのsod−遺伝子の発現単位(EP1918378A1の配列番号2参照)又はUS2007/0259408に記載されていて、かつ配列番号28に記載されている(そこにはPgaRBSと記載されている)C.グルタミクムのgap−遺伝子の発現単位(配列番号3参照)を使用する際に、これはC.グルタミクムの場合には、配列番号1の930位と1001位の間、特に有利には1000位と1001位の間に挿入される。このような発現カセット中の適切なリボソーム結合部位は、例えば、Amador(Microbiology 145, 915〜924(1999))により挙げられているヌクレオチド配列5’−agaaaggagg−3’である。
同様に、複数のプロモーターを所望する遺伝子の前に位置させるか又は発現させるべき遺伝子と機能的に結合させ、かつこのように高められた発現を達成することも可能である。このことは、例えばWO2006/069711に記載されている。
コリネバクテリウム・グルタミクム及びエシェリキア・コリのプロモーターの構造はよく知られている。従って、ヌクレオチドの1つ以上の置換及び/又は1つ以上の挿入及び/又は1つ以上の欠失によって、その配列を変えることでプロモーターの強さを高めることができる。この例は、特に"Herder Lexikon der Biologie"(Spektrum Akademischer Verlag, ハイデルベルク、ドイツ(1994))に見出すことができる。
従ってLysE遺伝子を過剰発現させる適切な手法は、LysE遺伝子のプロモーターの変性又は突然変異である。
コリネバクテリウム・グルタミクム及びエシェリキア・コリのリボソーム結合部位の構造もよく知られていて、かつ例えばAmador(Microbiology 145、915〜924(1999))で及び遺伝子学のテキスト及び教書、例えば、"Gene und klone"(Winnacker、Verlag Chemie、ヴァインハイム、ドイツ(1990))又は"Molecular Genetics of Bacteria"("Dale und Park, Wiley and Sons Ltd. Chichester, UK(2004)")に記載されている。良好な発現遺伝子、すなわち生物中で最も重要な構造遺伝子は、良好なリボソーム結合部位により入手可能である(Amador, Microbiology 145, 915〜924(1999))、すなわち、これはコンセンサス配列に対して高い類似性を有するか又はこれに相当する。文献では、高い発現遺伝子が強いリボソーム結合部位を有することが示されている(Karlin and Mrazek, Journal of Bacteriology 2000; 182(18):5238〜50)。従って遺伝子又はm−RNAの翻訳効率は、リボソーム結合部位の調節により達成できる。
翻訳効率を高めるもう1つの可能性は、発現すべき遺伝子中でコドン出現頻度を調節することである(例えば、Najafabiad et al.;Nucleic Acids Research 2009, 37(21):7014〜7023)。
過剰発現を達成するために、同様に活性化タンパク質の発現を高めるか、又はリプレッサータンパク質の発現を下げる又はスイッチオフすることができる。
LysEの発現に関する活性化タンパク質LysGは、Bellmannら(Microbiology 2001;147:1765〜74)により記載されている。そこには、"ポジティブレギュレーター"と示されている。コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032からのLysGのアミノ酸配列は、配列番号30に記載されている。グローバルシーケンス・アライメントでは、コリネバクテリウム・ジフテリアNCTC13129のLysGポリペプチドのアミノ酸配列は62%、コリネバクテリウム・エフィシエンスYS−314のLysGポリペプチドのアミノ酸配列は81%、かつコリネバクテリウム・グルタミクムRのLysGポリペプチドのアミノ酸配列は94%、配列番号30のアミノ酸配列と同一である。
アクチベータータンパク質の場合に、ポリペプチドは有利には≧(少なくとも)55%、有利には≧80%、特に有利には≧90%、≧92%又は≧94%、とりわけ有利には≧99%及び最も有利には100%配列番号30に記載されているアミノ酸配列のアミノ酸と同一である。
前記過剰発現の手法は、有利には、コピー数の増大、強いプロモーターの使用、プロモーターの突然変異、適切な発現カセットの使用及びアクチベータータンパク質の過剰発現から成るグループから選択され、適切な方法で互いに組み合わせることができる。従って、例えばコピー数の増大又はアクチベータータンパク質の過剰発現を有する適切なプロモーターの使用は、適切なプロモーター又は適切な発現カセットの使用と組み合わせることができる。
同様に、L−オルニチン排出活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドに関する手法の他に、個々の生合成遺伝子を減衰することもできる。
場合により、L−オルニチン生産を改善するために、次のグループ:
a)α−ケトグルタル酸デドロゲナーゼ(EC1.2.4.2)のE1サブユニットをコードするodhA遺伝子、
b)ジヒドロリポアミドスクシニルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.61)をコードするsucA遺伝子、
c)ジヒドロジピコリネート−シンターゼ(DapA、EC4.2.1.52)をコードするdapA遺伝子、
d)ジヒドロジピコリネート−シンターゼ(DapB、EC1.3.1.26)をコードするdapB遺伝子、
e)メソ−ジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ(Ddh,EC1.4.1.16)をコードするddh遺伝子、
f)ジアミノピメレート−デヒドロカルボキシラーゼ(LysA,EC4.1.1.20)をコードするlysA遺伝子、
g)L−アルギニンの生合成のリプレッサー(ArgR)をコードするargR遺伝子、
h)オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ArgF,EC2.1.3.3)をコードするargF遺伝子、
i)アルギニノコハク酸シンターゼ(ArgG,EC6.3.4.5)をコードするargG遺伝子、
j)アルギニノコハク酸リアーゼ(ASAL)(ArgH,EC4.3.2.1)をコードするargH遺伝子、
k)アスパラギン酸キナーゼ(LysC,EC2.7.2.4)をコードするlysC遺伝子及び
l)アスパラギン酸セミアルデヒド−デヒドロゲナーゼ(Asd,EC1.2.1.1)をコードするasd遺伝子
から選択される1つ以上の遺伝子を更に減衰させることが便利である。
有利にはlysA、odhA、argR、argF、argG及びargHから成るグループから選択される1つ以上の遺伝子を減衰することが挙げられる。特に有利には、lysA、odhA及びargFから成るグループから選択される1つ以上の遺伝子の減衰である。遺伝子lysA及び/又はargFの減衰がとりわけ有利である。
これに関連して、"減衰"という用語は、相応のDNAによりコードされた細菌中の1つ以上の酵素(タンパク質)の細胞内活性の減少又はスイッチオフを意味し、これは例えば、減衰したプロモーターを使用するか、又は低い活性を有する相応の酵素をコードする遺伝子又は対立遺伝子を使用することにより、又は相応の遺伝子又は酵素(タンパク質)を不活性化することにより、かつ場合によりこれらの手法を組み合わせて行われる。
コリネバクテリウム・グルタミクム中の様々な強さの公知のプロモーターに関する概要は、Patekら(Journal of Biotechnology 104, 311〜323(2003))に見出すことができる。その他の弱いプロモーターは、2006年12月の定期刊行物Research Disclosure(1616〜1618頁)の情報512057に記載されている。
減衰を発生すると考えられ得る突然変異として、該当する遺伝子のコード領域内の少なくとも1つの塩基対もしくはヌクレチドのトランジション、転位、挿入及び欠失が用いられる。タンパク質又は酵素の活性における突然変異により生じるアミノ酸置換の影響に応じて、ミスセンス突然変異又はノンセンス突然変異と称される。
ミスセンス突然変異は、タンパク質中での所定のアミノ酸の互いの置換を生じ、その際前記置換は、特に非保存的アミノ酸置換である。これによりタンパク質の官能性又は活性が損なわれ、かつ≧0〜75%、≧0〜50%、≧0〜25%、≧0〜10%又は≧0〜5%の値まで下がる。
ノンセンス突然変異は、遺伝子のコード領域中のストップコドンで生じ、かつ従って翻訳の早い中断及びそれによりスイッチオフを生じる。遺伝子中への少なくとも1つの塩基対の挿入又は欠失は、フレームシフト突然変異("frame shift mutaions")を生じ、そのために間違ったアミノ酸が挿入されてしまうか又は翻訳が早く終了してしまう。突然変異がコード領域中のストップコドンで生じる場合には、これは同様に早い翻訳の終了を生じる。ノンセンス突然変異を生じる手法は有利にはポリペプチドのN末端をコードするコード領域の5’−末端で行われる。本明細書の範囲内において、ポリペプチドの全長(化学的に結合したLアミノ酸の数として測定)が100%と称される場合には、ポリペプチドのN末端は、出発アミノ酸(L−ホルミル−メチオニン)から数えてアミノ酸配列のその部分は下流のL−アミノ酸の80%を含む。
in vivoでの突然変異誘発法は、例えば、Methods for General Bacteriologyのマニュアル書(Gerhard et al.(Eds.), American Society for Microbiology, Washington DC, USA, 1981)又はTosaka et al.(Agricultural and Biological Chemistry 42(4), 745〜752(1978))又はKonicek et al.(Folia Microbiologica 33, 337〜343(1988))に記載されている。
in−vitroでの突然変異誘発法に適切な方法は、特に、Millerによるヒドロキシルアミンでの処理[Miller, J. H.:A Short Course in Bacterial Genetics. A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and OxyRated Bacteria, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor ,1992]、突然変異誘発剤オリゴヌクレオチドの使用[T.A. Brown: Gentechnologie fuer Einsteiger, Spektrum Akademischer Verlag, Heidelberg, 1993 und R. M. Horton: PCR−Mediated Recombination and Mutagenesis, Molecular Biotechnology 3, 93〜99(1995)]及び高いエラー率を有するDNA−ポリメラーゼの使用下のポリメラーゼ連鎖反応の使用である。
このようなDNAポリメラーゼは、例えばStratagene(LaJolla, CA, USA)社のMutazyme DNAポリメラーゼ(GeneMorph PCR Mutagenesis Kit, No. 600550)である。
in−vivo又はin−vitroでの突然変異を作成するための更なる説明及び概要は、従来技術及び遺伝子学ならびに分子生物学の公知の教書、例えば、ニッパー(knippers, "Molekulare Genetik", 第6版、Georg Thieme Verlag、シュトュットガルト、ドイツ、1995)、ヴィンナッカー(Winnacker, "Gene und Klone", VCH Verlagsgesellschaft、ヴァインハイム、ドイツ、)、ハーゲマン(Hagemann, "Allgemeine Genetil", Gustav Fischer Verlag、シュトュットガルト、1986)から引用することができる。
遺伝子交換又は対立遺伝子交換の公知の方法を用いて、この基本概念はシュヴァルツァー及びフューラー(Schwarzer and Puehler, Bio/Technology 9、84〜87(1991)において記載されていて、in−vitroで製造された突然変異又は所望の突然変異を含んでいるポリヌクレオチドは染色体に移されている。シェーファーら(Schaefer et al, Gene 145, 69〜73(1994))により、C.グルタミクムのhom−thrRオペロンに欠失を組み込むためにこの方法が使用されている。Nakagawaら(EP1108790)及びOhnishiら[Applied Microbiology and Biotechnology 58(2), 217〜223(2002)]により、単離した対立遺伝子から出発してC.グルタミクムの染色体に種々の突然変異を挿入するために、この方法が使用されている。
目的を定めて遺伝子発現を減少させる1つの方法は、IPTG(イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド)の秤量した量の添加により誘発できるプロモーター、例えばtrcプロモーター又はtacプロモーターの制御下に減衰させるべき遺伝子を設定することから成る。このために適切なベクターは、エッシャリキア・コリ発現ベクターpXK99E[(WO 0226787;ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ、ブラウンシュバイク、ドイツ)においてブダペスト条約に従って、DSM14440(DSMZ、ブルンスヴィック、ドイツ)としてDH5alpha/pXK99Eに2001年7月31日に寄託してある)]、pEKEx2(NCBI Accession No. AY585307)又はpVWEx2[Wendisch, ph. D. thesis, Berichte des Forschungszentrums、Juelich, Juel−3397、ISSN0994〜2952、Juelich、ドイツ(1997)]であり、これはIPTGに依存して、コリネバクテリウム・グルタミクム中でクローン化遺伝子の発現を可能にする。
この方法は、例えば、特許文献WO0226787ではベクターpxk99EdeaDをコリネバクテリウム・グルタミクムのゲノム中へ挿入することによりdeaD遺伝子を規則正しく発現するために使用され、及びSimicら(Applied and Environmental Microbilogy 68:3321〜3327(2002))により、ベクターpK18mobglyA’のコリネバクテリウム・グルタミクム中への挿入により、glyA遺伝子の規則正しい発現のために使用されていた。
遺伝子発現を特異的に減らすもう1つの方法は、アンチセンス技法であり、その際、短いオリゴデスオキシヌクレオチド又はベクターは、より長いアンチセンスRNAを合成するために目的細胞に運ばれる。アンチセンス−RNAは、そこで特異的なmRNAの相補的断片と結合し、かつそれらの安定性が減少するか又は翻訳能力が遮断される。この一例は、Srivastavaら(Applied Environmental Microbiology 2000 Oct.; 66(10):4366〜4371)において専門家により見出すことができる。
延長の速度は、コドンの使用により影響させることができる。親株中では滅多に生じないt−RNA用のコドンの使用により遺伝子発現を減衰させてもよい。これはWO2008049781とWO2009133063に詳細に記載されている。例えば、ATG出発コドンを滅多に生じないコドンGTG又はTTGと交換することは、翻訳に悪影響を与える。それというのも、コドンAUGは例えばコドンGUG及びUUGよりも2〜3倍効果的であるからである[Khudyakov et al., FEBS Letters 232(2):369〜71(1988)Reddy et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 82(17):5656〜60(1985)]。
同様に、L−オルニチン排出活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドに関する前記手法の他に、個々の生合成遺伝子を増強することもできる。
場合により、L−オルニチン生産を改善するために、更に次のグループ:
a)gdh遺伝子によりコードされるグルタメートデヒドロゲナーゼ(EC1.4.1.3)、
b)argJ遺伝子によりコードされるグルタメートN−アセチルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.35及びEC2.3.1.1)、
c)argB遺伝子によりコードされるアセチルグルタメートキナーゼ(EC2.7.2.8)、
d)argC遺伝子によりコードされるN−アセチル−γ−グルタミル−ホスフェートリダクターゼ(EC1.2.1.38)、
e)argD遺伝子によりコードされるアセチル−オルニチンアミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.11)、
f)ptsG遺伝子によりコードされるグルコース取込み系のグルコース−特異的成分EIIB(PtsG)(EC2.7.1.69)、
g)ptsS遺伝子によりコードされるサッカロース取込み系のサッカロース特異的成分EIIB(PtsS)(EC2.7.1.69)、
h)zwf遺伝子によりコードされるグルコース−6−ホスフェート1−デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.49)、
i)pgi遺伝子によりコードされるグルコース−6−ホスフェートイソメラーゼ(EC5.3.1.9)、
j)pfkA遺伝子によりコードされるホスホフルクトキナーゼ(EC2.7.1.11)、
k)fda遺伝子によりコードされるフルクトース−ビスホスフェートアルドラーゼ(EC4.1.2.13)、
l)gap遺伝子によりコードされるグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(EC1.2.1.59)、
m)pgk遺伝子によりコードされるホスホグリセリン酸キナーゼ(EC2.7.2.3)、
n)pyk遺伝子によりコードされるピルビン酸キナーゼ(EC2.7.1.40)、
o)aceE遺伝子によりコードされるピルビン酸デヒドロゲナーゼのE1サブユニット(EC1.2.4.1)、
p)ppc遺伝子によりコードされるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(EC4.1.1.31)、
q)pyc遺伝子によりコードされるピルビン酸カルボキシラーゼ(EC6.4.1.1)、
r)acn遺伝子によりコードされるアコニターゼ(EC4.2.1.3)、及び
s)icd遺伝子によりコードされるイソシトレートデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.42)から選択される1つ以上のタンパク質の酵素活性を増強することが合理的である。
増強という用語には、過剰発現の手法ならびに野生型のタンパク質と比べて増大した触媒活性を有する変異体の使用が含まれる。
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸N−アセチルトランスフェラーゼ及びアセチルグルタミン酸キナーゼのグループから選択される1つ以上の酵素の増強が特に有利である。
列挙された減衰の更なる手法を増強の更なる手法と組み合わせてもよい。
DNA、DNAの消化及びライゲーション、形質転換及び形質転換体の選択を取り扱う説明は、特にサムブルックら[Sambrook et al."Molecular Cloning":実験マニュアル、第二版(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)]による公知のマニュアル書で見出すことができる。
発現又は過剰発現の程度は、遺伝子から転写されたmRNAの量又は濃度の測定により、ポリペプチドの量又は濃度の測定により、及び酵素活性の高さの測定により確定できる。
mRNAの量を決定するために、特に"ノーザンブロッティング"の方法及び定量的RT−PCRが使用される。
定量的RT−PCRでは、ポリメラーゼ連鎖反応が逆転写により行われる。このためにRoche Diagnostics社のLightCycler TM系(Boehringer Mannheim GmbH, Roche Molecular Biochemicals、マンハイム、ドイツ)を、例えば、ユングウィルスら[Jungwirth et al.、FEMS Microbiology Letters 281, 190〜197(2008)]に記載されているように使用することができる。タンパク質の濃度は、1次元及び2次元のタンパク質ゲル分離により、かつ引き続き相応の評価ソフトウェアを用いてゲル中でタンパク質濃度の光学的同定により決定できる。コリネ型細菌においてタンパク質ゲルを調製及び該タンパク質を同定する一般的な方法は、ヘルマンら[Hermann et al.、(Electrophoresis, 22: 1712〜23(2001)]により記載されている。タンパク質濃度は同様に、ウェスタン−ブロット−ハイブリダイジングにより、検出すべきタンパク質に特異的な抗体を用いて、かつ引き続き濃度を決定するための相応のソフトウェアを用いて光学的評価により決定できる[Lohaus and Meyer(1998)Biospektrum 5:32〜39;Lottspeich, Angewandte Chemie 321:2630〜2647(1999)]。
製造された細菌は、L−オルニチンを製造するために連続的に(例えばWO05/021772に記載されているように)、又は不連続的に回分法(回分培養)で、又は流加回分法(供給法)又は繰り返し流加回分法(例えば、US6562601に記載されている)で培養してもよい。公知の培養法に関する一般的な特徴の概要は、クミエル(Chmiel)による教書[BioprocessTechnology 1. Introduction to Bioprocess Engineering(Gustav Fischer Verlag、Stuttgart, 1991)]、又はストルハス(Storhas)による教書[Bioreavtors and Peripheral Equipment(Vieweg Verlag、ブルンスヴィック/ヴィースバーデン、ドイツ、1994)]から入手可能である。
使用すべき培地又は発酵培地は、適切な方法でそれぞれ株の要求を満たさなくてはならない。米国微生物学会のマニュアル書"Manual of Methods for General Bacteriology"(Washington D.C., USA, 1981)には、様々な微生物の培地の説明が含まれている。栄養培地、培地及び発酵培地又は媒質という用語は交換可能である。
炭素源として、糖及び炭水化物、例えばグルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜、テンサイ又はサトウキビ処理からのサッカロース含有溶液、デンプン、デンプン加水分解産物及びセルロース、油および脂肪、例えば大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油およびココナッツ油、脂肪酸、例えばパルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸、アルコール、例えばグリセロール、メタノール及びエタノール、ならびに有機酸、例えば酢酸又は乳酸が使用される。
糖は、グルコース、フルクトース、サッカロース、グルコースとフルクトースから成る混合物ならびにグルコース、フルクトース及びサッカロースの混合物が有利に挙げられる。場合により、サッカロースが特に有利である。アルコールはグリセリンが有利である。
窒素源として、窒素含有の有機化合物、例えばペプトン、イーストエクストラクト、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、大豆粉及び尿素、又は無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが使用される。窒素源は、個々に又は混合物として使用されてもよい。
リン源として、リン酸、リン酸カリウム又はリン酸水素二カリウム又は相応のナトリウム含有塩を使用することもできる。
培地は、更に塩を例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及び鉄のような金属の塩化物又は硫酸塩の形で、例えば、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄を含んでいなくてはならず、これは成長に不可欠なものである。最終的に、基本的な成長物質、例えばアミノ酸、例えばホモセリン及びビタミン、例えば、チアミン、ビオチン又はパントテン酸を前記物質の他に使用してもよい。
前記使用物質は、培地に一回分のバッチの形で添加されるか、又は培養中に適切な方法で供給されてもよい。
培地のpHの調節のために、塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア又はアンモニア水、あるいは酸性化合物、例えばリン酸又は硫酸が適切に使用される。pHは一般に6.0〜8.5、有利には6.5〜8の値に調節される。起泡調整のために消泡剤、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルを使用してもよい。プラスミドの安定性を維持するために、適した選択性作用物質、例えば抗生物質を培地に添加してもよい。発酵は有利には好気条件下に実施される。これを維持するために、酸素または酸素含有ガス混合物、例えば空気を培地中に装入する。過酸化水素で富化した液体を使用することもできる。場合により発酵は高圧で、例えば0.03〜0.2MPaの高圧で実施される。培養温度は、通常は20℃〜45℃であり、かつ有利には25℃〜40℃、特に有利には30℃〜37℃である。回分法では、所望のL−オルニチンの量を得る手法で十分な量が形成されたのが確認されるまで培養が行われる。この目的は、通常は10時間〜160時間の範囲内で達成される。連続的な方法ではより長い培養時間が可能である。細菌の活動により、発酵培地中でL−オルニチンの濃度(蓄積)の富化又は増大が生じる。
適切な発酵培地の例は、特に特許文献JP43010996B4(B.サブチリスに関して)、US3668072A(E.coliに関して)、及びJP57041912B(B.フラバムに関して)に挙げられている。
場合により、本発明による方法では発酵培地の体積は≧0.5リットル、≧1リットル、≧5リットル、≧10リットル、≧50リットル、≧100リットル、≧500リットル、≧1000リットル、有利には≧1リットル、特に有利には≧10リットル、とりわけ有利には≧100リットル、最も有利には≧1000リットルである。
発酵の過程で1つ以上の時点で濃度を測定するためのL−オルニチンの分析は、イオン交換クロマトグラフィーにより、有利にはカチオン交換クロマトグラフィーによるL−アミノ酸の分離により、引き続きニンヒドリンの使用下のポストカラム誘導体化により行われ、これはスパックマンら(Spackman et al)(Analytical Chemistry 30:1190〜1206(1958))に記載されている。ニンヒドリンの代わりに、ポストカラム誘導体化のためにオルト−フタジアルデヒドを使用することもできる。イオン交換クロマトグラフィーに関する概要は、ピッケリング[Pickering(LC,GC(Magazine of Chromatographic Science)7(6)、484〜487(1989)]に見出すことができる。
同様に、例えばオルト−フタルジアルデヒド又はフェニルイソチオシアネートの使用下にプレカラム誘導体化を行うこともでき、かつ生じたアミノ酸誘導体は逆相クロマトグラフィー(RP)により、有利には高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)の形で分離される。このような方法は、例えば、lindrothら(Analytical Chemistry 51:1167〜1174(1979))に記載されている。検出は光度測定により行われる(吸着、蛍光)。
アミノ酸分析に関する文献は特にLottspeichとZorbasによる教書"Bioanalytik"(Spektrum Akademischer Verlag、ハイデルベルク、ドイツ、1998)に見出すことができる。
L−オルニチン濃度(体積あたりに形成されたL−オルニチン)、L−オルニチンの収率(消費された炭素源あたりに形成されたL−オルニチン)、L−オルニチンの形成(体積及び時間あたりに形成されたL−オルニチン)及び特異的L−オルニチンの形成(細胞の乾燥質量又はバイオ乾燥質量及び時間あたりに形成されたL−オルニチン、又は細胞タンパク質及び時間あたりに形成されたL−オルニチン)のグループから選択される1つ以上のパラメーター、もしくは他のプロセスパラメーター及びこれらの組み合わせに関する本発明による方法又は発酵プロセスの性能は、L−オルニチンエクスポート活性を有するタンパク質が過剰発現せずに存在するか又はその際、過剰発現の手法が実施されなかった細菌を用いる方法又は発酵プロセスに対して、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも1.5%又は少なくとも2%高い。
発酵の手法により所望のL−オルニチンを含有する発酵ブロスが得られる。
引き続き、L−オルニチン含有生成物の準備又は製造又は獲得が液体又は固体の形で行われる。
発酵ブロスとは、微生物が一定時間及び一定温度で培養された発酵培地又は栄養培地を意味すると解釈される。発酵培地又は発酵の間に使用される培地は、前記L−オルニチンの生産かつ通常は繁殖又は生存能力を確実にする全ての物質又は成分を含んでいる。
従って、発酵が完了した際に生じる発酵ブロスは次のものを含有する:
a)細菌の細胞の繁殖により生じる細菌のバイオマス(細胞質量)、b)発酵の間に形成されるL−オルニチン、c)発酵の間に形成される有機副生成物、及びd)発酵により消費されなかった使用発酵培地又は出発材料の成分、例えば、ビオチンのようなビタミン、又は硫酸マグネシウムのような塩。
有機副生成物には、L−オルニチンの他に発酵の際に使用された細菌が生産し、かつ場合により排出した物質が属する。これらには、トレハロースのような糖も含まれる。発酵ブロスは、培養容器又は発酵タンクから取り出され、場合により回収され、かつこのために液体又は固体の形でL−オルニチン含有生成物を提供するために使用される。このために"L−オルニチン含有生成物の回収"という用語も使用される。最も簡単な場合には、発酵容器から取り出されたL−オルニチン含有発酵ブロス自体が得られた前記生成物である。
次のグループ:
a)部分的(≧0%〜<80%)から完全(100%)又は殆ど完全に(≧80%、≧90%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%又は≧99%〜<100%)水を除去し、
b)部分的(≧0%〜<80%)から完全(100%)又は殆ど完全に(≧80%、≧90%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%又は≧99%〜<100%)バイオマスを除去し、その際、場合によりこれが除去される前に不活性化され、
c)部分的(≧0%〜<80%)から完全(100%)又は殆ど完全に(≧80%、≧90%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%又は≧99%、≧99.3%又は≧99.7%〜<100%)、発酵の間に形成された有機副生成物を除去し、かつ
d)発酵により消費されなかった使用発酵培地又は出発物質の成分を部分的(>0%)から完全に(100%)又は殆ど完全に(≧80%、≧90%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%、≧99.3%又は≧99.7%〜<100%)除去する
から選択される1つ以上の手法により、発酵ブロスからL−オルニチンの濃縮又は精製が達成される。このように、所望のL−オルニチンの含有量を有する生成物が単離される。
部分的(>0%〜<80%)から完全(100%)に、又は殆ど完全な(≧80%〜<100%)水の除去を乾燥(手法a)と称する。該方法の1変法では、使用発酵培地の水、バイオマス、有機副生成物及び非消費成分の、完全な又は殆ど完全な除去により、純粋な(≧80質量%又は≧90質量%)、又は高度に純粋な(≧95質量%、≧97質量%、又は≧99質量%)L−オルニチン生成物の形成が達成される。a)、b)、c)又はd)による手法に関して多くの技術的な説明は従来技術で入手可能である。
アミノ酸L−オルニチン又はそれらの塩の場合には、従来技術では実質的に3つの異なる生成物が記載されている。
1つのグループは、L−オルニチンHCLを記載していて、その際、イオン交換により細胞を除去した後に発酵培地からL−オルニチンは精製されていて、かつ次に結晶化によりL−オルニチン一塩化物として、及び再結晶化によりL−オルニチン一塩化物として結晶化される(US2988489)。この場合に得られたL−オルニチンHLCは、90%を上回る、有利には95%を上回る、特に有利には98.0%を上回る、極めて有利には99%を上回る純度を有する。
更なる方法は特許明細書EP1995322に記載されている。この場合に、バイオマス含有発酵溶液を>300μmの粒子直径を有する弱酸イオン交換体の上から注ぎ、かつL−オルニチンはこの工程により精製される。相応の粒子直径の選択により、樹脂の遮断がバイオマスにより回避される。細胞分離の効率は99%である。
精製されたL−オルニチンは、次に様々なL−オルニチン塩、例えば、モノ−又はジ−L−オルニチンα−ケトグルタール酸、L−オルニチンL−アスパラギン酸塩などの製造に使用できる。
例えば特許EP0477991には、L−オルニチンL−アスパラギン酸塩の製法が記載されている。この場合に、L−オルニチンとL−アスパラギン酸塩から成る水溶液に水溶性溶剤を添加し、少なくとも90%の飽和又は過飽和溶液が得られる。これを結晶の形成が終わるまで還流下に加熱する。次に、塩結晶が形成されるまで還流下に水と混合可能な溶剤を更に加える。結晶は例えば遠心分離により分離され、かつ引き続き真空中で乾燥させることができる。生成物の純度は通常は98.5%を上回る。
特許JP46003194には、L−オルニチンL−ケトグルタール酸塩の製造法が記載されている。この場合に、例えば、オルニチン−HCLが酸性イオン交換体での吸着、及びアンモニア水での溶出により遊離塩基に変換され、α−ケトグルタール酸塩が添加され、かつ生成物が結晶化されるまで真空下に溶液を蒸発させる。
プラスミドpEC7LysEは、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ、ブラウンシュバイク、ドイツ)においてブダペスト条約に従って、受入番号DSM23239でエシェリキア・コリ株DH5α/pEC7LysE(DM2204)の形で2010年1月15日に寄託されている。
図1は、第1表に挙げたLysEとArgOタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを表す図であり、アライメントギャップは、"−"により示され、アミノ酸の同一性は"*"により特徴づけられる。 図2は、グローバルシーケンス・アライメントにより2個のアミノ酸配列の同一性を決定するための、Scientific社のプログラムClone Manager9と教育用ソフトウェアの設定を表す図である。
実施例
例1:コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032からのLysE遺伝子のクローニングとシーケンシング
株ATCC13032の遺伝子LysEをE.Coli/C.グルタミクムシャトルベクター及び発現ベクターpVWEx1(Peters−Wendisch et al., J. Mol. Microbiol. Biotechnol. (2001) 3(2) :295〜300)中でクローン化した。
クローニングは2工程で実施した。まずポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032からの遺伝子を以下の配列番号1に由来するオリゴヌクレオチド−プライマーにより増幅した。オリゴヌクレオチドは、その5’末端に付加的な制限切断箇所を含んでいる(下線:LysE_1.pに関してはEcoRV、及びLysE_2.pに関してはAvrII又はSspI)。
Figure 2013524781
PCR反応をサーモサイクラー(Mastercycler、エッペンドルフ社、ハンブルク)中で、200μMデスオキシヌクレオチド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、相応のオリゴヌクレオチド0.5μM、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032の、染色体DNA100ng、5倍反応バッファーHF1/5体積及び0.02U/μlPhusion(登録商標)Hot Start DNAポリメラーゼ(Biozym Scientific GmbH, D-31840 Hess. Oldendorf)の存在で、以下の条件下に[98℃で1分間;30サイクル×(98℃で20秒;63℃で20秒;72℃で40秒);72℃で6分]実施した。
761bpのサイズのPCR−lysE断片(配列番号3)を以下に記載するようにpVWEx1中にクローン化した:
ベクターの準備:37℃で1時間インキュベートすることにより、酵素PstI10単位を含有する酵素特異的なバッファー系中でpVWEx1のプラスミドDNA1μgを切断した。この直後に、製造者の指示に従ってQuick Blunting Kit(New England Biolabs GmbH、フランクフルト・アム・マイン)用いて、切断混合物を処理し、かつその後に製造者の指示に従ってQiaExII精製キット(Qiagen AG、ヒルデン、ドイツ)を使用して精製した。次にこのように前処理したベクターを酵素特異的なバッファー系中、10単位×baIを用いて37℃で1時間切断し、かつその後に新たにQiaExII精製キットを用いて精製した。
インサートの準備:lysE−PCR−断片をそれぞれ酵素AvrIIとEcoRV10単位で切断し、かつその後に製造者の指示に従ってQiaExII−精製キットの使用により精製した。
ライゲーション:ベクターとインサートを1:5のモル比で混合し、かつT4DNAリガーゼの使用により16℃で1時間ライゲーションした。ライゲーションミックスのうち3μlを化学成分E.ColiDH5α細胞(サブクローニング効率、Invitrogen GmbH、カールスルーエ)中に形質転換した。
形質転換体をそのカナマイシン耐性を用いて、50μg/mlカナマイシン−スルフェート含有のLB−アガールプレートにおいて同定した。4つの形質転換体からプラスミドDNAを単離し、かつプラスミドをインサートとしての0.75kb断片の存在に関して制限分析により試験した。このように生じた組み換えプラスミドは、pVWEx1_LysEと称した。
プラスミドpVWEx1_LysE中の0.75kb断片のヌクレオチド配列を、Sangerらによるジデオキシ−チェーン・ターミネーション法により決定した[Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(1977)74:5463〜5467]。このために、Eurofins MWG Operon GmbH社(エベルスブルク、ドイツ)のオリゴヌクレオチド−プライマーpVW_l.p(5’−TGA GCG GAT AAC AAT TTC ACA C−3’)及びpVW_2.p(5’−CGA CGG CCA GTG AAT TCG AG−3’)を用いてプラスミドpVWEx1_LysEの完全なインサートをシーケンシングした。
得られたヌクレオチド配列をプログラム(Clone Manager9)を用いて分析し、かつ配列番号20と表記した。
例2:コリネバクテリウム・グルタミクムにおけるargFRGH−領域を欠失するための、ベクターpK18mobsacB_DargFRGHの構築
このためにC.グルタミクムATCC13032からの染色体DNAをTauchら(1995、プラスミド33:168〜179)による方法により単離した。C.グルタミクムからの遺伝子argFRGHの配列に基づき、以下に挙げるオリゴヌクレオチドをargFRGH−欠失構造の製造に選択した。欠失構造は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、特に遺伝子SOEing法(Gene Splicing by Overlap Extension, Horton, Molecular Biotechnology 3:93〜98(1995))により作成された。
Figure 2013524781
記載されているオリゴヌクレオチドプライマーは、Eurofins MWG Operon GmbH社(エベルスベルク、ドイツ)から入手した。
PCR反応は、Phusion(登録商標)Hot Start DNAポリメラーゼ(Biozym Scientific GmbH, D−31840 Hess. Oldendorf)の使用下に、サーモサイクラー(Mastercycler、エッペンドルフ社、ハンブルク)中で実施した。
プライマーargFRGH_d2は、2つの領域から成る。ヌクレオチド配列のうちの一部は、argF遺伝子の出発コドンの1bp上流から19bp下流までの範囲に相補的である。ヌクレオチド配列のもう1つの部分は、argH遺伝子のヌクレオチド1419〜argH遺伝子の5ヌクレオチド下流の範囲に相補的である。
ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、プライマーargFRGH_1とargFRGH_2は、543bpのサイズのDNA断片の増幅を可能にし、かつプライマーargFRGH_3とargFRGH_4は、513塩基対のサイズのDNA断片の増幅を可能にする。増幅物をPCRにより製造し、0.8%濃度のアガロースゲル中で電気泳動により試験し、高純度PCR製品精製キット(製品番号1732676、Roche Diagnostics GmbH、マンハイム、ドイツ)を用いて、アガロースゲルから単離し、かつプライマーargFRGH_1及びargFRGH_4と一緒に更なるPCR反応用のテンプレートとして使用した。このように、1036bpのサイズのDargFRGH欠失誘導体が生じた(配列番号21も参照)。これには、argD遺伝子の3’末端の477bp、argF遺伝子の5’末端の19bp、argH遺伝子の3’末端の15bp及びcg1589リーディング枠の5’末端の420bpが含まれる。このように増幅された生成物を0.8%濃度のアガロースゲル中で電気泳動により試験した。
1.04kbサイズのDargFRGHPCR産物(配列番号21)を酵素NdeIとNsiIで完全に切断した。引き続き、断片をPCR精製キット(Qiagen、ヒルデン)で精製した。このように前処理したDargFRGH−欠失誘導体を移動可能なクローニングベクターpK18mobsacB(Schaefer et al.(1994), Gene 14: 69〜73)と一緒にライゲーションに使用した。これをあらかじめ制限エンドヌクレアーゼXbaI及びPstIで完全に切断しておいた。これによりNdeI切断及びNsiI切断により生じたインサートの末端に互換性のDNA末端が作られる。このように準備されたベクターを、DargFRGH断片とモル比1:5で混合し、かつT4−DNA−リガーゼ(Amersham−Pharmacia、フライブルク、ドイツ)の使用により16℃で1時間ライゲーションした。ライゲーション混合物からは、化学的コンピテントE.Coli DH5α細胞(Subcloning efficiency、Invitrogen GmbH、カールスルーエ)中3μlが形質転換された。形質転換体は、そのカナマイシン耐性を用いてカナマイシン−硫酸含有LB−アガールプレート50μg/mlにおいて同定された。形質転換体の4つからプラスミドDNAを単離し(Qiagen社、ヒルデンのQIAprep Spin Miniprep Kit)、かつ制限分析によりプラスミドをインサートとしての1.04kb断片の存在について試験した。このように生じた組換体プラスミドをpK18mobsacB_DargFRGHと称した。株は、E. Coli_DH5α/pK18mobsacB_DargFRGHと称した。Sangerらによるジデオキシ−チェーン・ターミネーション法により、プラスミドpK18mobsacB_DargFRGH中の1.04kb断片のヌクレオチド配列(配列番号21)の決定を実施した(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (1977) 74:5463〜5467)。このために、プラスミドpK18mobsacB_DargFRGHの完全なインサートを、ユーロフィンズMWGオペロン社(エベルスベルク、ドイツ)のオリゴヌクレオチド−プライマーM13単位(−21)(5’−TGT AAA ACG ACG GCC AGT−3’)及びM13 rev(−49)(5’−GAG CGG ATA ACA ATT TCA CAC AGG−3’)を用いてシーケンス化し、かつ精度について試験した。
例3:株コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032_DargFRGHの製造
例2に挙げられたベクターpK18mobsacB_DargFRGHをSchaeferら[Journal of Microbiology 172:1663〜1666(1990)]のプロトコールによるコンジュゲーションによりコリネバクテリウム・グルタミクム株ATCC13032中に移した。このために、ベクターを予め株E. Coli S17−1中で形質転換しておいた(Simon et al., Biotechnology 1:784〜791)。S17−1中のベクターの同一性は、試験したE. Coli DH5α(例2参照)中での検出に類似した。
ベクターpK18mobsacB又はpK18mobsacB_DargFRGHは、C.グルタミクムATCC13032中では自己複製できず、かつ組み換えの事象の結果染色体に組み込まれた場合にだけ細胞中に含有されたままであった。組み込まれたpK18mobsacB_DargFRGHを有するクローンの選択は、カナマイシン15mg/lとナルディック酸50mg/mlで補充しておいたLBアガール上にコンジュゲーション混合物を塗ることにより行った(Sambrook et al., Molecular Cloning:A Labpratory Manual、第二版、Cold Spring Harbor, New York, 1989)。成長したクローンを25mg/lカナマイシン含有LBアガールプレート上に塗り、かつ33℃で16時間インキュベートした。2番目の組み換え事象によりプラスミドの切除が行われる突然変異体を選択するために、クローンを20時間非選択的にLB−液体培地中で培養し、引き続き10%スクロース含有LBアガール上に塗り、かつ24時間インキュベートした。
プラスミドpK18mobsacB_DargFRGHは、出発プラスミドpK18mobsacBと同様にカナマイシン耐性遺伝子の他に、バシラスサブチリスからのレバン−スクラーゼをコードするsac−遺伝子のコピーを含む。スクロースにより誘発可能な発現は、レバン−スクラーゼの形成を生じ、これはC.グルタミクムにとって毒性の生成物レバンの合成を触媒する。従って、スクロース含有LBアガール上では組み込まれたpK18mobsacB_DargFRGHが再び切除されたクローンだけが成長する。切除は、argFRGHの完全な染色体コピーを切除するか、又はargFRGHの内部欠失を有する不完全なコピーを切除するどちらかと一緒のプラスミドであってもよい。
"スクロースの存在で成長"及び"カナマイシンの存在で成長しない"表現型について、約40〜50個のコロニーを試験した。欠失したargFRGH対立遺伝子が染色体中に残っていることを証明するために、 "スクロースの存在で成長"及び"カナマイシンの存在で成長しない" 表現型を有する約20個のコロニーをInnisら(PCRプロトコール、A Guide to Mothods and Applications, 1990, Academic Press)の標準的なPCR法によりポリメラーゼ連鎖反応を用いて試験した。この場合に、コロニーの染色体DNAから、欠失argFRGH領域の周辺領域を有するDNA断片が増幅される。以下のプライマーオリゴヌクレオチドをPCRに選択した。
Figure 2013524781
完全なargFRGH遺伝子座を有するコントロールクローンでは、プライマーは約5.35kbサイズのDNA断片の増幅を可能にする。欠失したargFRGH遺伝子座を有するクローンでは、約1.04kbのサイズを有するDNA断片が増幅される。
増幅したDNA断片は、電気泳動により、0.8%濃度のアガロースゲル中で同定される。これにより、株が欠失したargFRGH対立遺伝子を染色体上に有することを示すことができた。株は、コリネバクテリウム・グルタミクムDelta_argFRGHと称する。
例4:コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032_Delta_argFRGH中でのlysE遺伝子の発現
電気泳動(Haynes et al., FEMS Microbiology Letters(1989)61:329〜334)により、プラスミドpVWEx1_LysE及び空のプラスミドpVWEx1をL−オルニチン形成株ATCC13032_Delta_argFGH中に挿入した。25μg/mlカナマイシン含有Casoアガールプレート上で形質転換体をそれらのカナマイシン耐性を用いて同定した。引き続き、形質転換されたプラスミドの正確さについて5個の単一クローンを試験した。このために、プラスミドDNAを単離し(Plasmid Isolation Kit, Qiagen)、かつ正確な切断パターンに関してこのDNAを制限分析により試験した。このように、C.グルタミクム株ATCC13032_Delta_argFRGH/pVWEx1_LysEとATCC13032_Delta_argFRGH/pVWEx1が生じた。
例5:コリネバクテリウム・グルタミクムを用いるL−オルニチンの製造
L−オルニチンの生産能力を調べるために、それぞれ株ATCC13032_Delta argFRGH/pVWEx1_LysEの3つのクローンと、株ATCC13032_Delta_argFRGH/pVWEx1の3つのクローンを、試験培地中10ml中でそれぞれ33℃で16時間予備培養した。生産試験のために、それぞれ試験培地10mlを、出発時にOD600(600nmでの光学密度)が0.1であるように得られた予備培地と一緒に接種した。それぞれのクローンを3つの振盪フラスコ中で試験し、各株がそれぞれの培養時間について全部で9個の振盪フラスコにより示されるようにした。試験培地は、Keilhauerらにより記載されているCgXII培地と同じであった(Journal of Bacteriology(1993)175:5593〜5603)。但し、前記培地は更に酵母エキス(Difco)7.5g/l、カナマイシン25μg/ml、1mMIPTG(イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド)及びグルコースの代わりに40g/lサッカロースを含有していた。簡潔にするために、試験培地の組成物は以下の第2表にまとめられている。
第2表
Figure 2013524781
培養を100ml振盪フラスコ中33℃及び200rpmで行った。振盪の振れは5cmであった。24時間後と48時間後にクローンの3つの培養物を回収した。このために、試料を培地から取り出し、かつ光学密度、サッカロース含有量及びL−オルニチン含有量を決定した。サッカロース含有量及びL−オルニチン含有量を決定するために、細胞を短い遠心分離から外した[テーブルトップ遠心分離機タイプ5415D(エッペンドルフ社)、13000rpmで10分、室温]。
光学密度の決定は660nmの波長で、GENiosマイクロタイタークレート光度計(Tecan, Reading UK)を用いて行った。プローブを測定前に脱イオン水で1:100に希釈しておいた。
R−Biopharm AG社(ダルムシュタット、ドイツ)の試験系(カタログ番号19716251035)を使用して、サッカロースの決定を行った。この場合に、サッカロースを調べ、かつ組み合わされた酵素試験(ヘキソキナーゼ/グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)を用いて形成されたグルコースをNADH形成により検出した。
培養上澄み液からの細胞外アミノ酸濃度の定量的測定は、逆相HPLC(Lindroth et al., Analytical Chemistry(1979)51:1167〜1174)により実施した。連結した蛍光検出器(G1321A)が備わったSerie HP1100のHPLC装置を使用し、システムコントロール及びデータ評価は、HP−Chem−Station(ヒューレットパッカード社)を用いて実施した。分析すべきアミノ酸溶液1μLを、オルトフタルアルデヒド/2−メルカプトエタノール即席試薬(Pierce Europe BV, Oud-Beijerland, Niederlande)20μlを用いて自動プレカラム誘導化中で混合した。この場合に生じたチオ置換された蛍光イソインドール(Jones et al., Journal of Chromatography(1983)266:471〜482)を、組み合わされたプレカラム(40×4mm Hypersil ODS 5)及びメインカラム(Hypersil ODS5)において、非極性相(メタノール)を増やしながら勾配プログラムを使用して分離した。前記カラムは、両方ともCS−クロマトグラフィーサービスGmbH(ランゲルヴェーエ、ドイツ)社のものである。極性溶出液は、酢酸ナトリウム(0.1M;pH7.2)であり;流量は0.8mL/分であった。誘導化アミノ酸の蛍光検出は、230nmの励起波長及び450nmの発光波長で行った。L−オルニチン又はL−オルニチンヒドロクロリド濃度は、外部標準と、更なる内部標準であるL−アスパラギンと比較することにより計算した。
L−オルニチンヒドロクロリドのモル質量は、168.6g×mol-1であり、かつL−オルニチンは132.1×mol-1である。
収率を計算するために、形成されたL−オルニチンの量(L−オルニチンヒドロクロリドとして測定)を消費されたサッカロースの量で割った。結果は表3に記載されている。
表3:インキュベーション24時間後(表3A)と48時間後(表3B)のL−オルニチン形成。略語:*:ATCC13032_Delta_argFRGH;Orn−HCL:L−オルニチンヒドロクロリド。
Figure 2013524781
例6:プラスミドpEC7LysEのシーケンシングと寄託
プラスミドpEC7LysEは、Dr.Lothar Eggeling(Forschungszentrum Juelich GmbH, D−52425 Juelich)、刊行物Bellmann et al.(Microbiology(2001) 147, 1765〜1774)の相応の著者から水溶液の形で入手可能である。
Invitrogen GmbH社(ペイズリー、UK)の株DH5αの大腸菌コンピテント細胞[サブクローニング効率、遺伝子タイプ:F−Φ80lacZΔM15Δ(lacZYA−argF)U169 recA1 endA1 hsdR17(rk−、mK+)phoA supE44 λ−thi−1 gyrA96 relA1)]を製造者の指示に従って形質転換するために、得られたDNA溶液のうち一部を使用した。形質転換体の選択は、50μg/mlカナマイシンで補充しておいたLuria−Bertaniアガール上で行った。
1つの形質転換体はエシェリキア・コリDH5α/pEC7LysE(DM2204)と称され、かつドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ、ブラウンシュバイク、ドイツ)においてブダペスト条約に従って受入番号DSM23239として2010年1月15日に寄託してある。
通常のDNAシーケンシング(Walking Service)の範囲内で、MWG Operon GmbH(マルチンスリード、ドイツ)にてDSM23239株からのpEC7LysEプラスミドを完全にシーケンス化した。pEC7LysEの配列は配列番号29に挙げられている。

Claims (9)

  1. L−オルニチンを製造する方法において、該方法は以下:
    a)L−オルニチンエクスポーターの活性を有し、かつそのアミノ酸配列が、配列番号2のアミノ酸配列と≧35%同一であるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを過剰発現して存在する、コリネバクテリウム属、バシラス属、ストレプトミセス属、アルスロバクター属及び腸内細菌科から成るグループから選択されるL−オルニチンを排出する細菌を培地中で発酵し、
    b)L−オルニチンを前記培地中で蓄積し、その際、発酵ブロスが得られ、かつ
    c)その際、過剰発現については、DSM23239に寄託されているプラスミドpEC7LysEは除外され、
    d)かつ、その際場合により、コードされたポリペプチドの長さは、146以上286以下のアミノ酸又はアミノ酸残基である
    の工程を行うことを特徴とする、L−オルニチンを製造する方法。
  2. コードされたポリペプチドは、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
  3. コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)の場合は、過剰発現によってATCC13032又はATCC14067又はATCC13869と比較して、L−オルニチンの排出活性の高さは少なくとも10%だけ高まって存在する、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 過剰発現は、次のグループ:
    a)コピー数を増やすことと、
    b)強力なプロモーターを使用することと、
    c)プロモーターを突然変異させることと、
    d)アクチベータータンパク質を過剰発現させることと、
    から選択される1つ以上の措置によって達成される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
  5. 細菌は、コリネバクテリウム、有利にはコリネバクテリウム・グルタミクムである、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
  6. 次のグループ:
    a)α−ケトグルタル酸デドロゲナーゼ(EC1.2.4.2)のE1サブユニットをコードするodhA遺伝子、
    b)ジヒドロリポアミドスクシニルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.61)をコードするsucA遺伝子、
    c)ジヒドロジピコリネート−シンターゼ(DapA、EC4.2.1.52)をコードするdapA遺伝子、
    d)ジヒドロジピコリネート−シンターゼ(DapB、EC1.3.1.26)をコードするdapB遺伝子、
    e)メソ−ジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ(Ddh,EC1.4.1.16)をコードするddh遺伝子、
    f)ジアミノピメレート−デヒドロカルボキシラーゼ(LysA,EC4.1.1.20)をコードするlysA遺伝子、
    g)L−アルギニンの生合成のリプレッサー(ArgR)をコードするargR遺伝子、
    h)オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ArgF,EC2.1.3.3)をコードするargF遺伝子、
    i)アルギニノコハク酸シンターゼ(ArgG,EC6.3.4.5)をコードするargG遺伝子、
    j)アルギニノコハク酸リアーゼ(ASAL)(ArgH,EC4.3.2.1)をコードするargH遺伝子、
    k)アスパラギン酸キナーゼ(LysC,EC2.7.2.4)をコードするlysC遺伝子及び
    l)アスパラギン酸セミアルデヒド−デヒドロゲナーゼ(Asd,EC1.2.1.11)をコードするasd遺伝子
    から選択される1つ以上の遺伝子を更に弱める、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
  7. 更に、次のグループ:
    a)gdh遺伝子によりコードされるグルタメートデヒドロゲナーゼ(EC1.4.1.3)、
    b)argJ遺伝子によりコードされるグルタメートN−アセチルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.35及びEC2.3.1.1)、
    c)argB遺伝子によりコードされるアセチルグルタメートキナーゼ(EC2.7.2.8)、
    d)argC遺伝子によりコードされるN−アセチル−γ−グルタミル−ホスフェートリダクターゼ(EC1.2.1.38)、
    e)argD遺伝子によりコードされるアセチル−オルニチンアミノトランスフェラーゼ(EC2.6.1.11)、
    f)ptsG遺伝子によりコードされるグルコース取込み系のグルコース−特異的成分EIIB(PtsG)(EC2.7.1.69)、
    g)ptsSによりコードされるサッカロース取込み系のサッカロース特異的成分EIIB(PtsS)(EC2.7.1.69)、
    h)zwf遺伝子によりコードされるグルコース−6−ホスフェート1−デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.49)、
    i)pgi遺伝子によりコードされるグルコース−6−ホスフェートイソメラーゼ(EC5.3.1.9)、
    j)pfkA遺伝子によりコードされるホスホフルクトキナーゼ(EC2.7.1.11)、
    k)fda遺伝子によりコードされるフルクトース−ビスホスフェートアルドラーゼ(EC4.1.2.13)、
    l)gap遺伝子によりコードされるグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(EC1.2.1.59)、
    m)pgk遺伝子によりコードされるホスホグリセリン酸キナーゼ(EC2.7.2.3)、
    n)pyk遺伝子によりコードされるピルビン酸キナーゼ(EC2.7.1.40)、
    o)aceE遺伝子によりコードされるピルビン酸デヒドロゲナーゼのE1サブユニット(EC1.2.4.1)、
    p)ppc遺伝子によりコードされるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(EC4.1.1.31)、
    q)pyc遺伝子によりコードされるピルビン酸カルボキシラーゼ(EC6.4.1.1)、
    r)acn遺伝子によりコードされるアコニターゼ(EC4.2.1.3)、及び
    s)icd遺伝子によりコードされるイソシトレートデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.42)
    から選択される1つ以上の遺伝子を更に増強させる、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
  8. 回分法、流加回分法、繰り返し流加法及び連続的方法のグループから選択される方法である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
  9. L−オルニチン含有発酵ブロスから、L−オルニチン又は液体又は固体L−オルニチン含有生成物を回収する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
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