JP2013204887A - 熱交換器用フィン及び熱交換器 - Google Patents

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Abstract

【課題】親水性が劣化して結露や着霜による通風抵抗の増大、熱交換効率の低下が生じるまでの期間を延長することが可能な熱交換器用フィンを提供する。
【解決手段】熱交換器1のフィン4はフィン基材4a上に形成された多層塗膜構造10を備える。多層塗膜構造10はフィン基材4a表面に親水性塗膜11を形成した後、親水性塗膜11表面に水溶性塗膜12と新たな親水性塗膜11とを交互に形成して少なくとも二層の親水性塗膜11の間に水溶性塗膜12を有する構造を含む。
【選択図】図2

Description

本発明は、熱交換器用フィン及び熱交換器に関する。
従来、例えば空気調和機の蒸発器といった熱交換器において、空気中の水蒸気が凝縮することにより熱交換器のフィン表面に水滴が付着して所謂結露したり、その水滴が霜になり所謂着霜したりすることが懸念されている。これにより、それら水滴及び霜がフィン表面における熱交換を阻害するとともに熱交換器のフィンの隙間が狭くなり、その隙間を通る空気の抵抗(通風抵抗)が増大する。その結果、フィンの間を通過する空気の量が減少して熱交換器の熱交換効率が低下することが問題となっていた。熱交換器に生じた霜や氷を除去するために除霜運転を実行するという対策も取られているが、除霜運転のために余計なエネルギーを消費してしまうという課題もあった。
そこで、熱交換器のフィン表面に親水性の高い塗装を施すという対策が提案された。これにより、フィン表面において水滴が流れ落ちる作用を高めたり、霜が付着するまでの時間を延長させたりしている。このような対策が施された従来の熱交換機用フィンが特許文献1に開示されている。
親水性塗膜の経時劣化は主に塗膜自体の劣化や塗膜表面に大気中の塵埃や油分などが付着することによる汚染、フィン材自体の劣化により進行する。特許文献1に記載された従来の熱交換機用フィンは基材上に親水性層を形成し、更にその上に所定の摩擦係数を有する潤滑層を形成している。これにより、熱交換器フィン材の親水性塗膜の防汚性、防錆性を高めるとともに親水性の持続期間を長期化するといった対策が取られている。
特開2010−155441号公報
しかしながら、上記従来の熱交換器用フィンのように防汚性を付与した場合でも親水性塗膜の劣化は徐々に進行することが問題となっていた。そして、汚染が進行した後に親水性が回復することはない。熱交換器を用いた機器は一般的に長期間使用されることが多い。高い熱交換効率を維持し続けるために熱交換器用フィン表面の親水性の持続に関して更なる改良が必要であることが課題となっていた。
本発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、塵埃や油分などの汚染物質が親水性塗膜表面に堆積することで親水性が劣化し、結露や着霜による通風抵抗の増大、熱交換効率の低下が生じるまでの期間を延長することが可能な熱交換器用フィン及び熱交換器を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するため、本発明の熱交換器用フィンは、フィン基材上に形成された多層塗膜構造を備え、前記多層塗膜構造が前記フィン基材表面に親水性塗膜を形成した後、前記親水性塗膜表面に水溶性塗膜と新たな親水性塗膜とを交互に形成して少なくとも二層の前記親水性塗膜の間に前記水溶性塗膜を有する構造を含むことを特徴としている。
多層塗膜構造の表面に形成された親水性塗膜は劣化のない初期状態において塗膜表面に付着した水を濡れ広がらせて塗膜表面から排除する機能、すなわち排水性能を有する。一方、塗膜表面に塵埃や油分などの汚染物質が付着することにより塗膜の親水性の低下が進行すると、排水性能も同様に低下する。そして、親水性塗膜は塗膜表面において水の付着、排水が繰り返し起こることにより徐々に親水性の成分が水中に微量に溶解してゆく。これにより、一定の時間が経過した後に親水性塗膜の一部で膜厚が薄くなり、その下層の塗膜が表出する箇所が生じる。
本発明の構成によれば、多層塗膜構造表面の親水性塗膜の直下に水溶性塗膜を形成しているので、水溶性塗膜が付着した水に溶解するようになっている。水に溶解した水溶性塗膜はその直ぐ下層の親水性塗膜の排水性能により親水性塗膜表面から水とともに除去される。水に溶解した水溶性塗膜が除去される際、水溶性塗膜の上層に残存していた親水性塗膜も汚染物質とともに剥離、除去される。水溶性塗膜がきれいに除去されると表面から数えて三層目に形成されていた親水性塗膜が表出し、排水性能が回復する。さらに、その下層に水溶性塗膜と新たな親水性塗膜とが交互に形成されている場合、上記と同様の作用が繰り返される。
また、上記構成の熱交換器用フィンにおいて、前記多層塗膜構造が前記水溶性塗膜表面に形成した保護膜を有することを特徴としている。
水溶性塗膜の表面に例えばディップコート法などの塗膜形成方法を用いて親水性塗膜を形成する場合、水溶性塗膜が親水性塗料の溶媒中に溶解、流出することが懸念される。本発明の構成によれば、水溶性塗膜表面に保護膜を形成することにより水溶性塗膜の溶解が妨げられる。
また、上記構成の熱交換器用フィンにおいて、前記多層塗膜構造が複数種類の前記親水性塗膜を有することを特徴としている。
例えば、金属性のフィンをロウ付け処理で接続する際、ロウ材が含有するフラックスの影響で金属フィンの表面に親水性の層が形成される場合がある。本発明の構成によれば、その親水性層が多層塗膜構造の最下層の親水性塗膜として採用される。
また本発明では、熱交換器が上記熱交換器用フィンを備えることとした。この構成によれば、熱交換器のフィン表面において表層の親水性塗膜の剥離と、その下層の水溶性塗膜の溶解とが生じて、さらにその下層の新たな親水性塗膜の表出とが繰り返され、排水性能が回復する。
本発明の構成によれば、熱交換器用フィンの表面における親水性の持続時間が長期化し、排水性能の維持時間も長期化する。したがって、塵埃や油分などの汚染物質が親水性塗膜表面に堆積することで親水性が劣化し、結露や着霜による通風抵抗の増大、熱交換効率の低下が生じるまでの期間を延長することが可能な熱交換器用フィン及び熱交換器を提供することができる。
本発明の第1実施形態の熱交換器を示す外観概略図である。 本発明の第1実施形態の熱交換器のフィン表面付近を示す断面図である。 本発明の実施例1の熱交換器のフィン表面付近を示す断面図である。 本発明の実施例1及び各比較例の接触角の経時変化を示すグラフである。 本発明の実施例1及び各比較例の保水率の経時変化を示すグラフである。 本発明の実施例1及び各比較例の初期状態と経年劣化後との接触角の比較を示すグラフである。 本発明の実施例1及び比較例1の着霜時間及び除霜時間の比較を示すグラフである。 本発明の第2実施形態の熱交換器のフィン表面付近を示す断面図である。
以下、本発明の実施形態を図1〜図8に基づき説明する。
最初に、本発明の第1実施形態の熱交換器について、図1を用いてその構造の概略を説明する。図1は熱交換器の外観概略図である。なお、以下の説明では、図1における左右方向をX方向とし、上下方向をY方向として説明する。
熱交換器1は、図1に示すように2本のヘッダパイプ2と、複数の偏平チューブ3と、フィン4とを備えている。
ヘッダパイプ2、偏平チューブ3及びフィン4は熱伝導性が比較的高く安価であり、加工性が良好であるなどのメリットを有している例えばアルミニウム、アルミニウム合金で形成されている。これらの構成要素の材料はアルミニウムやアルミニウム合金に限定されるわけではなく、その他、金、銅などといった熱伝導性が比較的高い金属を任意に用いても良いし、要素ごとに材料を替えても良い。
2本のヘッダパイプ2は図1においてY方向に延び、X方向に所定の間隔を空けて平行に配置されている。2本のヘッダパイプ2は各々配管部5を介して不図示の異なる配管に連結されている。ヘッダパイプ2は冷媒が流通可能なように内部に流路が形成され、配管部5に連通している。
複数の偏平チューブ3は図1においてX方向に延び、Y方向に所定の間隔を空けて平行に配列されている。各偏平チューブ3は図1におけるX方向両端が2本のヘッダパイプ2各々に連結されている。偏平チューブ3は冷媒が流通可能なように内部に流路が形成され、ヘッダパイプ2に連通している。
各偏平チューブ3は図1におけるY方向の厚みに対して紙面奥行き方向の幅が広い偏平な形状を有している。偏平チューブ3は図1におけるY方向に沿った(X方向から見た)断面形状及び断面面積が等しい複数の流路を有し、それら複数の流路が紙面奥行き方向に配列されている。
フィン4は図1におけるY方向に隣り合う偏平チューブ3どうしの間に配置されている。フィン4は平板を波形状(コルゲート形状)に成形した部材である。波形状をなすフィン4は図1における山の頂部が上側の偏平チューブ3に接触し、谷の底部が下側の偏平チューブ3に接触するように設けられている。フィン4は波形状をなすことにより外部空気との接触面積が広くなる。なお、フィン4は波形状をなすコルゲートフィンのほか、例えばプレートフィンやルーバーフィンなど他の形状で構成されていても良い。
ヘッダパイプ2、偏平チューブ3及びフィン4は各々ロウ付け処理により接続されている。これにより、熱交換器1の内部を流通する冷媒の漏洩を防止することができ、偏平チューブ3とフィン4との間の熱伝導の効率を高めることができる。なお、各々ロウ付け処理に代えて、溶射処理や熱拡張、溶接などの接続処理方法を用いて各構成要素を連結しても良い。
上記構成の熱交換器1に対して一方の配管部5から冷媒を注入すると、その配管部5に連結されたヘッダパイプ2内部に冷媒が流通する。ヘッダパイプ2内部を流通する冷媒は続いて複数の偏平チューブ3各々の内部に流入する。偏平チューブ3内部を流通する冷媒は偏平チューブ3及びフィン4を介して熱交換器1の外部の空気と熱交換を行う。例えば、熱交換器1を蒸発器として用いる場合、冷媒は外部の空気から熱を奪う。一方、熱交換器1を凝縮器として用いる場合、冷媒は外部の空気に対して熱を放出する。
熱交換器1は、例えば空気調和機に用いられる熱サイクルの室外側ユニットの熱交換器(蒸発器)や冷却庫の冷却装置の蒸発器として用いられる。このとき、熱交換器1の表面の温度が外部の空気の露点よりも低くなると、熱交換器1の表面に結露が発生する。熱交換器1の表面の温度がさらに低くなると、結露した水分が凍結し霜が発生(着霜)する。このような着霜が発生すると、フィン4の隙間が霜で埋まって狭くなり、空気の流れが阻害される可能性が高くなる。その結果、熱交換器1の熱交換効率が低下する虞がある。
このような課題を解決するため、本実施形態の熱交換器1はフィン4の基材上に多層塗膜構造を備えている。
続いて、フィン4の詳細な構造について、図1に加えて図2を用いて説明する。図2は熱交換器1のフィン4の表面付近を示す断面図である。
フィン4は、図2に示すようにそのフィン基材4a上に多層塗膜構造10を備えている。多層塗膜構造10は複数の親水性塗膜11と複数の水溶性塗膜12とを有している。なお以下、複数の親水性塗膜11と複数の水溶性塗膜12との個々の塗膜に対して「a」、「b」、「c」の識別記号を付して説明する場合と、それらを特に限定する必要がないときに親水性塗膜11、水溶性塗膜12と総称して説明する場合とがある。
複数の親水性塗膜11のうち第1親水性塗膜11aはフィン基材4aの表面に直接形成されている。そして、この第1親水性塗膜11aの表面に対して、第1水溶性塗膜12a、第2親水性塗膜11b、第2水溶性塗膜12b、第3親水性塗膜11cの順に塗膜を形成している。すなわち、第1親水性塗膜11aの表面に水溶性塗膜12と新たな親水性塗膜11とを交互に形成している。
なお、多層塗膜構造10は少なくとも二層の親水性塗膜11の間に水溶性塗膜12を有する構造を含んでいれば良い。すなわち、多層塗膜構造10は最小の構造において第1親水性塗膜11a、第1水溶性塗膜12a及び第2親水性塗膜11bを有する。さらに、第3親水性塗膜11cの外側に第3水溶性塗膜、第4親水性塗膜の順に交互に次々と塗膜を形成しても良い。水溶性塗膜及び親水性塗膜の積層回数に制限はなく、処理コストなどを考慮して積層回数を決定することが好ましい。
親水性塗膜11は水溶性塗膜12表面に積層する場合、有機系の親水性塗料を用いることが望ましい。親水性塗膜11は熱交換器1において積層する場合、例えば関西ペイント社製SX−01などの親水性塗料を用いることができる。水溶性塗膜12は水溶性樹脂から構成され、例えばポリアクリル酸系、ポリエチレンオキシド系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系などの水溶性樹脂を用いることができる。
フィン4上に多層塗膜構造10を形成する時期に関して、プレコート処理とポストコート処理との二通りの工程を採用することができる。プレコート処理はフィン4の形状を成形する前の金属材料を展伸するときに製膜処理を行なう。ポストコート処理はフィン4を熱交換器1として組み立てた後に製膜処理を行なう。本実施形態に係る熱交換器1はポストコート処理を採用しているが、プレコート処理を採用することも可能である。
フィン4上に多層塗膜構造10を形成する方法としてはディップコート法を採用している。なお、ディップコート法のほかに、スプレーコート法などの塗膜形成方法を採用することもできる。また、プレコート処理においてはバーコーターによる塗膜形成方法を採用することもできる。
続いて、本実施形態の熱交換器1の実施例1について、図3を用いてその構成を詳細に説明する。図3は実施例1の熱交換器1のフィン4表面付近を示す断面図である。
実施例1の熱交換器1はフィン4上に図3に示す多層塗膜構造10を備えている。多層塗膜構造10はフィン基材4aの表面に直接形成された第1親水性塗膜11a上に水溶性塗膜12と、第2親水性塗膜11bとを備えている。水溶性塗膜12の表面には保護膜13が形成されている。多層塗膜構造10の形成にはディップコート法を採用している。以下、ディップコート法による多層塗膜構造10の形成工程を説明する。
まず、熱交換器1を60℃の温度の市販の強アルカリ脱脂剤(例えば日本パーカライジング社製脱脂剤)の2%溶液中に2分間浸漬することにより脱脂処理を行う。この脱脂処理により、金属材料表面の油分などの汚れを除去し、後に形成する第1親水性塗膜11aを滑らかな均一な塗膜で形成することができる。脱脂処理の後、上水または純水により水洗して脱脂剤を洗い流す。
次に、脱脂処理が施された熱交換器1を70℃の温度の市販の化成処理剤溶液(例えば日本パーカライジング社製化成剤をpH4に調整したもの)中に2分間浸漬することによって化成処理を実施してジルコニア酸化物皮膜による下地膜を形成する。この下地膜によりフィン4に耐食性、耐錆性などを付与する。下地膜の形成方法はこのような酸による化成処理に限らず、エッチング、酸化、金属蒸着などの方法を用いて下地膜を形成しても良い。化成処理後、純水により水洗して化成処理剤を洗い流す。
下地処理を実行した後、第1親水性塗膜11aの形成を実行する。熱交換器1を親水性塗料(例えば関西ペイント社製SX−01など)中に浸漬して引き上げた後、膜厚1μmになるように膜厚管理を行う。膜厚の管理は親水処理前後での重量変化量により管理する。重量管理を行う方法としては、親水性塗料の固形分濃度及び密度、熱交換器1の表面積からウェット時の塗布重量を算出し(SX−01の場合、1.2g/m2)、その重量を初期重量から増加した重量として合算する。
フィン4に親水性塗料が多く残留している場合には遠心力等を用いて余分な塗料を十分に除去して重量測定し、所望の膜厚に相当する重量になるようにする。重量の重量が所望の膜厚に相当する重量に満たない場合には再び親水性塗料中に浸漬し、所望の膜厚に相当する重量になるようにする。所望の膜厚に相当する重量に調整した後、熱交換器1を100℃の乾燥装置内で10分間焼成させる。この工程により親水性塗料が膜化する。
熱交換器1を冷却させた後、水溶性塗膜12の形成を実行する。水溶性塗膜は例えば水溶性PVA系樹脂塗料を用いて形成する。熱交換器1を水溶性樹脂塗料中に浸漬し、第1親水性塗膜11aのときと同様の方法で膜厚0.5μmになるように膜厚調整を実行する。そして、熱交換器1を120℃の乾燥装置内で20分間乾燥させる。この工程により水溶性塗料が膜化する。
水溶性塗膜12を形成した後、その表面に新たに第2親水性塗膜11bを形成するためにそのまま親水性塗料のディップコートを実行すると水溶性塗膜12が親水性塗料中に溶解、流出してしまう可能性がある。このため、ディップコートで第2親水性塗膜11bを形成する場合、水溶性塗膜12の表面に対して保護膜13を形成する工程を導入する。
保護膜13の形成は水溶性塗膜12の種類により適切な方法をとる必要がある。本実施例の場合、形成された水溶性塗膜12の表面部位の水酸基を一部アセタール化して保護膜13を形成する。水溶性塗膜12の表面部位のアセタール化ではpH4に調整した保護剤をスプレーコートにより熱交換器1表面に全方向から塗布し、2分間静置して保護膜13を形成する。保護膜13の形成後、熱交換器1を10秒間純水に浸漬させて未反応の保護剤を除去し、80℃の乾燥装置内で30分間乾燥させる。
熱交換器1を冷却させた後、再びディップコートにより第2親水性塗膜11bの形成を実行する。第2親水性塗膜11bの形成は第1親水性塗膜11aのときと同様の方法でなされ、熱交換器1を親水性塗料に浸漬後1μmの膜厚に調整して100℃の乾燥装置内で10分間焼成させる。
以上の手順により、フィン基材4a上に多層塗膜構造10が形成された熱交換器1を得ることができる。
続いて、多層塗膜構造10の親水性の持続効果について、図4を用いて説明する。図4は実施例1及び各比較例の接触角の経時変化を示すグラフである。
上記実施例1の熱交換器1と同様の工程で二層の親水性塗膜11の間に水溶性塗膜12を有する多層塗膜構造10をアルミニウム板材上に形成したサンプルを作成した(以下図4に係る説明において実施例1と称する)。さらに、比較例として、未処理のアルミニウム板材のサンプル(同様に比較例1と称する)と、アルミニウム板材上に単層の親水性塗膜を形成したサンプル(同様に比較例2と称する)とを作成した。
これら3種類のサンプルを汚染物質(5wt%パルミチン酸および5wt%ヘキサデカノール)雰囲気に1時間曝露した後、1L/minの流水に4時間浸漬させ、80℃の乾燥装置内で16時間乾燥させる試験を20サイクル実施した。この汚染サイクル試験は10年分相当の汚染加速を想定して実施しており、1サイクルごとに半年分相当の汚染と乾湿条件を再現するものである。
1サイクルごとに各サンプルの乾燥重量を精密天秤で測定することにより塗膜の残存量を評価した。また、親水性を表す指標のひとつとして扱われる表面の液滴の接触角をゴニオメータで各サンプルにつき5点測定して評価した。接触角の評価結果を図4に示した(塗膜残存量の結果は図示せず)。図4の横軸はサイクル数を表し、縦軸は接触角を表している。図4から以下のことを理解することができる。
比較例1のアルミニウム板材について、乾燥重量の変化はほとんど見られなかった。接触角は初期状態の69.5度から5サイクル目で110度程度まで上昇し、その後110度程度で一定のまま推移した。比較例2のアルミニウム板材について、乾燥重量は1サイクルごとに減少し、11サイクル以降は初期重量程度まで漸近した。接触角は初期状態の13度程度から8サイクル目で90度程度まで上昇し、その後90度程度で一定のまま推移した。
これらに対して、実施例1のアルミニウム板材について、乾燥重量は初期状態から20サイクル目まで減少を続けた。接触角は12サイクル目まで比較例2と同様であったが、13サイクル目で18度まで減少して親水性が回復した。その後、接触角は20サイクル目にかけて再び90度程度まで上昇した。以上の評価結果から、実施例1のようにアルミニウム板材上に多層塗膜構造10を形成することにより親水性の持続時間を長期化させることができることが分かった。
続いて、多層塗膜構造10の排水性能の評価について、図5及び図6を用いて説明する。図5は実施例1及び各比較例の保水率の経時変化を示すグラフ、図6は実施例1及び各比較例の初期状態と経年劣化後との接触角の比較を示すグラフである。
経時劣化後の排水性能を検証するために、偏平チューブとコルゲートフィンによって構成される面の大きさが100mm×100mmの小型熱交換器に対して前記実施例1の熱交換器1と同様の工程で多層塗膜構造10を形成した熱交換器サンプル(以下図5及び図6に係る説明において実施例1と称する)と、未処理の熱交換器サンプル(同様に比較例1と称する)と、単層の親水性塗膜を形成した熱交換器サンプル(同様に比較例2と称する)とを作成した。これら3種類の熱交換器サンプルに関して排水性能を評価した。
排水性能の評価は初期状態と、10年分相当の汚染加速を行った後の状態との保水率を比較することにより実施した。汚染処理はアルミニウム板材を用いた親水性持続評価と同様に汚染物質(5wt%パルミチン酸および5wt%ヘキサデカノール)雰囲気に曝露することにより実施した。
排水性能の評価では最初に、熱交換器サンプルをそれぞれ上水中に浸漬させ、水中より引き上げた後に測定した重量を初期重量と設定した。初期重量から乾燥状態の熱交換器重量を差し引くことで、初期保水量を算出することができる。次に、引き上げた状態からの経過時間毎に重量を測定し、乾燥状態の熱交換器重量を差し引くと各経過時間での保水量を算出することができる。そして、経過時間ごとの保水率((各経過時間の保水量/初期保水量)×100)を比較評価した。
排水性能を表す指標のひとつとして扱われる保水率の初期の評価結果を図5に示した。図5の横軸は浸漬引上げ後からの経過時間を表し、縦軸はその時間における保水率を表している。図5によれば、実施例1及び比較例2の排水速度(20秒経過時までの保水率の変化を示す線の傾き)及び保水率は比較例1と比較して改善されていることが分かる。
また別の排水性能を表す指標のひとつとして扱われる熱交換器表面の液滴の接触角の評価結果を図6に示した。図6は各熱交換器サンプルにおける初期状態の接触角と経年劣化後(10年相当の汚染試験を実施した後)の接触角とを横方向に延びる棒グラフで表している。図6によれば、接触角は初期状態において実施例1と比較例2とでほぼ同等であるのに対して、経年劣化後において実施例1のほうが比較例2よりも接触角が大きくなっておらずに劣化が少ないことが分かる。以上の評価結果から、実施例1のように熱交換器に多層塗膜構造10を形成することにより排水性能の維持時間を長期化させることができることが分かった。
続いて、多層塗膜構造10の着霜、除霜への影響について、図7を用いて説明する。図7は実施例1及び比較例1の着霜時間及び除霜時間の比較を示すグラフである。
多層塗膜構造10を形成した熱交換器サンプル(実施例1)と未処理の熱交換器サンプル(比較例1)とをエアコンに搭載して着霜時間及び除霜時間を評価した。エアコンはシャープ製既成品を使用し、室外機に同形状、同サイズの実施例1及び比較例1の熱交換器を搭載した。そして、乾球温度2℃、湿球温度1℃の一定環境内にて測定を実施した。
着霜時間及び除霜時間の評価結果を図7に示した。図7は各熱交換器サンプルにおける着霜時間と除霜時間とを横方向に延びる棒グラフで表している。なお、着霜時間とは、エアコンを運転した際に室外機搭載の熱交換器のフィンの70%が霜により埋まってしまうまでの時間(熱交換器を通過する空気量測定値が70%低下した時間)を表している。また、除霜時間とは、エアコンの除霜機能が完了した時間を表している。
図7によれば、実施例1のように多層塗膜構造10を形成することで着霜時間の延長、除霜時間の短縮が実現できていることが分かる。着霜時間が延長した理由としては、排水性能が向上したことによりフィン4表面で結露により生じた着霜の原因となる水滴の排出が促進されたことに起因する。また、除霜時間が短縮した理由も同様に、水滴の排出が促進されたことにより冷媒温度の上昇だけでなく、水による霜の融解も促進されたことに起因すると考えられる。
以上の結果から、実施例1のように熱交換器に多層塗膜構造10を形成することにより着霜を抑制する作用と除霜を促進する作用とが得られることが明確になった。
上記のように、熱交換器1のフィン4は、フィン基材4a表面に第1親水性塗膜11aを形成した後、第1親水性塗膜11a表面に水溶性塗膜12と新たな第2親水性塗膜11bとを交互に形成した二層の親水性塗膜11の間に水溶性塗膜12を有する多層塗膜構造10を備えている。これにより、フィン4の表層の第2親水性塗膜11bが劣化しても、その直下の水溶性塗膜12が露出することで水に溶融してきれいに除去され、第1親水性塗膜11aが表出して排水性能が回復する。したがって、熱交換器1のフィン4表面における親水性の持続時間が長期化し、排水性能の維持時間も長期化する。そして、着霜を抑制する作用と除霜を促進する作用とを向上させることができる。
また、多層塗膜構造10が水溶性塗膜12表面に形成した保護膜13を有するので、例えばディップコート法などの塗膜形成方法を用いて親水性塗膜11を形成する場合に水溶性塗膜12の溶解を妨げることができる。例えば、水溶性塗膜12の表面部位の改質により保護膜13を形成することで短期間の浸水による水溶性塗膜12の溶融を防止することができる。そして、例えば除霜時のドレイン水の排水などのように長期的な浸水が反復して行なわれた場合には水溶性塗膜12が水に溶融する構造を得ることができる。
そして、本発明の上記実施形態の構成によれば、塵埃や油分などの汚染物質が親水性塗膜11表面に堆積することで親水性が劣化し、結露や着霜による通風抵抗の増大、熱交換効率の低下が生じるまでの期間を延長することが可能な熱交換器1のフィン4及び熱交換器1を提供することができる。
次に、本発明の第2実施形態の熱交換器について、図8を用いて説明する。図8は熱交換器のフィン表面付近を示す断面図である。なお、この実施形態の基本的な構成は図1〜図7を用いて説明した前記第1実施形態と同じであるので、第1実施形態と共通する構成要素には前と同じ符号を付し、図面の記載及びその説明を省略するものとする。
第2実施形態の熱交換器1は、図8に示すようにフィン4がそのフィン基材4a上に多層塗膜構造10を備えている。多層塗膜構造10はフィン基材4a表面側から順に第1親水性塗膜11x、第1水溶性塗膜12a、第2親水性塗膜11b、第2水溶性塗膜12b、第3親水性塗膜11cの塗膜を備えている。
ここで、例えばロウ付け処理に用いられるロウ材が含有するフラックスに親水性を付与することができる場合がある。そして、熱交換器1の各構成要素をロウ付け処理により接続することにより、ロウ材のフラックスを第1親水性塗膜11xとして利用することができる。すなわち、第2親水性塗膜11b及び第3親水性塗膜11cに対して、第1親水性塗膜11xを異なる種類の塗膜として形成している。
この構成によれば、多層塗膜構造10は例えばロウ材のフラックスからなる親水性層を多層塗膜構造10の最下層の第1親水性塗膜11xとして採用している。したがって、親水性塗膜11の積層回数を最小限に抑制して多層塗膜構造10を形成することができる。
その結果、熱交換器1のフィン4表面における親水性の持続時間を長期化させ、排水性能の維持時間も長期化させることができる多層塗膜構造10を容易に得ることが可能になる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
本発明は、熱交換器用フィン及び熱交換器において利用可能である。
1 熱交換器
2 ヘッダパイプ
3 偏平チューブ
4 フィン(熱交換器用フィン)
4a フィン基材
10 多層塗膜構造
11、11a、11b、11c、11x 親水性塗膜
12、12a、12b 水溶性塗膜
13 保護膜

Claims (4)

  1. フィン基材上に形成された多層塗膜構造を備え、
    前記多層塗膜構造が前記フィン基材表面に親水性塗膜を形成した後、前記親水性塗膜表面に水溶性塗膜と新たな親水性塗膜とを交互に形成して少なくとも二層の前記親水性塗膜の間に前記水溶性塗膜を有する構造を含むことを特徴とする熱交換器用フィン。
  2. 前記多層塗膜構造が前記水溶性塗膜表面に形成した保護膜を有することを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用フィン。
  3. 前記多層塗膜構造が複数種類の前記親水性塗膜を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換器用フィン。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した熱交換器用フィンを備える熱交換器。
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