JP2013161736A - 燃料電池用膜電極接合体の製造方法および製造装置 - Google Patents

燃料電池用膜電極接合体の製造方法および製造装置 Download PDF

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Abstract

【課題】高分子電解質膜に触媒層を形成して燃料電池用膜電極接合体の製造方法および製造装置を提供する際に、高分子電解質膜に膨潤による皺やピンホールの発生を抑えることを目的とする。
【解決手段】高分子電解質膜41の一方の面にスプレーノズル32から触媒インクを塗布すると共に乾燥させて第一触媒層43を形成した後、第一触媒層43の上にダイノズル37から触媒インクを塗布して第二触媒層44を形成し、第二触媒層44の触媒インクを乾燥させることを特徴とする。
【選択図】図10

Description

本発明は、燃料電池に使用される燃料電池用膜電極接合体を製造する方法および装置に関するものである。
燃料電池は、水素を含む燃料ガスと酸素等を含む酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて電力エネルギーを発生させるものである。燃料電池には、例えば燐酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、酸化物型燃料電池、および高分子電解質型燃料電池などがある。
その中で、例えば高分子電解質型燃料電池は、一般的に複数のセルを積層し、それらをボルトやバンドなどの締結部材で加圧締結することにより、構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assembly)を1対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。
MEAは、高分子電解質膜と、この高分子電解質膜の両面に配置された1対の電極層によって構成されている。1対の電極層の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。1対の電極層はそれぞれ、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、当該触媒層の上に配置される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。ここでは、高分子電解質膜と触媒層との接合体を、膜触媒層接合体(以下、CCM:Catalyst-Coated-Membrane)という。アノード電極に燃料ガスが接触すると共にカソード電極に酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱と水を発生させることができる。
高分子電解質型燃料電池において、燃料電池用膜電極接合体は、例えば図12のフローで製造できる(例えば、特許文献1参照)。
図12は、特許文献1に示される燃料電池用膜電極接合体の製造方法手順を示すフローチャートである。
図12において、まず、ステップS1では、高分子電解質膜41の一方の面に第一形状保持フィルム42を貼り付ける。
ステップS2では、ステップS1の高分子電解質膜41の他方の面に、触媒層40を形成する。
ステップS3では、自然乾燥によって溶剤を揮発させる。
ステップS4では、高分子電解質膜41の触媒層40の上に第二形状保持フィルム45を貼り付ける。
ステップS5では、高分子電解質膜41の一方の面に貼り付けられていた第一形状保持フィルム42を除去する。
ステップS6では、高分子電解質膜41の一方の面に、2つ目の触媒層40を塗布により形成する。
ステップS7では、自然乾燥によって溶剤を揮発させる。
ステップS8では、第二形状保持フィルム45を剥がし、燃料電池用膜電極接合体100が完成する。
従来、このフローチャートにおいて、ステップS2における触媒層40の形成、ステップS6における2つ目の触媒層40の形成の際には、触媒と溶剤を含む触媒インクを高分子電解質膜の上に印刷または塗布し、ステップS3,ステップS7において室温で放置して乾燥させている。
このように、高分子電解質膜に触媒インクを直接に印刷または塗布して燃料電池用膜電極接合体を製造する技術は、高分子電解質膜と触媒層との界面抵抗を極めて低くできることから、理想的な燃料電池用膜電極接合体の製造方法として注目されている。
しかしながら、高分子電解質膜41は、非常に薄く(例えば20μm〜50μm)、少しの湿気でも変形し易い部材である。そのため、高分子電解質膜41は、触媒インクに含まれる溶剤により膨潤し、この膨潤によりその形状が破壊され、皺やピンホールが発生するという課題がある。この皺やピンホールの発生は、燃料電池の発電性能を低下させる要因となる。
そのため、特許文献1では、高分子電解質膜の触媒インクを塗布する面とは反対側の面に、ステップS1において第一形状保持フィルム42を予め貼り付けることで、皺やピンホールの発生を抑えている。
また、皺やピンホールの発生を抑制する製造方法として、液体の塗布および乾燥方法を用いる方法がある(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2では、被塗物としての高分子電解質膜に触媒インクを直接に塗布して触媒層を形成する際に、触媒インクをスプレーノズルなどの粒子発生装置にて粒子化させた状態で高分子電解質膜の上に吹き付けて触媒層を形成する。このとき、粒子発生装置と高分子電解質膜との距離を100mm以上とすることで、高分子電解質膜に到達するまでに触媒インク中に含まれる溶剤を揮発させている。
特許文献2の方法では、1回あたりに形成する触媒層の塗布厚みをできるだけ薄くし、複数回塗り重ねることが好ましい。一例として、塗り重ね回数は2〜100回、生産性の関係を考慮すれば、2〜10回の塗り重ねが良い。
特開2002−289207号公報 特開2004−351413号公報
しかしながら、上記従来の構成では、状況によっては、皺やピンホールの発生が起こる可能性がある。
例えば、特許文献1の技術では、触媒と溶剤を含む触媒インクを高分子電解質膜に印刷または塗布し、室温で放置して乾燥させている。そのため、特許文献1の技術では、高分子電解質膜の一方の面に触媒層を形成するときに、高分子電解質膜に皺やピンホールが発生しやすくなる場合があり、皺やピンホールを十分に抑えられないことがあるという課題を有している。
また、例えば、特許文献2の技術では、高分子電解質膜の膨潤を防ぐために、スプレーノズルなどの粒子発生装置を用いて触媒層の形成を実施している。スプレーノズルなどによる粒子発生装置を用いた触媒層の形成方法では、複数回の塗り重ねやトラバース方式というノズルを前後左右に移動させる塗工が必要となるため、塗布膜に重なりが発生し、膜厚のばらつきが発生してしまう場合がある。このばらつきが発生すると、燃料電池の発電性能を低下させる要因となる。また、複数回の塗り重ねやトラバース方式による塗工のため、触媒層の形成に必要な膜厚を塗工するには時間がかかり、生産性の面で課題となる。
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、高分子電解質膜に膨潤による皺やピンホールの発生を抑えることができる、燃料電池用膜電極接合体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
本発明の燃料電池用膜電極接合体の製造方法は、高分子電解質膜の一方の面にスプレーノズルから触媒インクを塗布すると共に乾燥させて第一触媒層を形成した後、前記第一触媒層の上にダイノズルから触媒インクを塗布して第二触媒層を形成し、前記第二触媒層の触媒インクを乾燥させる、ことを特徴とする。
また、本発明の燃料電池用膜電極接合体の製造装置は、高分子電解質膜の搬送速度と同一速度で同一方向に移動するマスク材と、前記マスク材のマスク孔を介して前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布して第一触媒層を形成するスプレーノズルと、前記高分子電解質膜の他方の面を加熱して前記触媒インクを乾燥する予備加熱装置と、前記第一触媒層の上に触媒インクを塗布して第二触媒層を形成するダイノズルと、前記第二触媒層の触媒インクを乾燥させる本乾燥装置と、を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、高分子電解質膜の膨潤を防ぎ、皺やピンホールの発生を抑制した燃料電池用膜電極接合体を得ることができ、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
本発明の実施の形態1における燃料電池用膜電極接合体の製造装置の構成図 本実施の形態1における第一触媒層を形成する工程の高分子電解質膜とマスク材の配置を示す平面図 本実施の形態1における燃料電池用膜電極接合体の製造方法を示すフローチャート 本実施の形態1における燃料電池用膜電極接合体の製造装置のスプレーノズル32,33a,33b,ダイノズル37と各ポンプの接続図 (a)図2のA−A断面図、(b)図2のB−B断面図、(c)図2のC−C断面図 本実施の形態1におけるマスク材を外す前の第一触媒層の斜視図 (a)本実施の形態1においてマスク材を外す前の搬送方向に沿った第一触媒層とマスク材の配置を示す断面図、(b)本実施の形態1においてマスク材を外す前の搬送方向とは交差する方向に沿った第一触媒層とマスク材の配置を示す断面図、(c)本実施の形態1においてマスク材を外した後の搬送方向とは交差する方向に沿った第一触媒層とマスク材の配置を示す断面図 本実施の形態1におけるマスク材を外した後の第一触媒層の斜視図 本実施の形態1において第一触媒層の上に第二触媒層を形成した後の斜視図 本実施の形態1において第一触媒層の上に第二触媒層を形成した後の搬送方向に沿った断面図 比較例において搬送方向に沿った膜電極接合体の断面図 特許文献1に示される燃料電池用膜電極接合体の製造方法手順を示すフローチャート
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図10と比較例を示す図11に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態における燃料電池用膜電極接合体の製造装置を示す。
図1において、燃料電池用膜電極接合体の製造装置70では、被塗物としての高分子電解質膜41が供給ロール31から引き出され、ロール52,バックアップロール36を経由して巻き取りロール39に巻き取られることで、移送されている。図1における矢印Xは、高分子電解質膜41の移送方向を表している。高分子電解質膜41は、高分子基材の一例である。
ロール52とバックアップロール36との間の搬送経路で、高分子電解質膜41の一方の面に近接してマスク循環装置34が設けられている。マスク循環装置34は、ガイドロール53,54,55,56に掛け渡された無端状のマスク材57が、高分子電解質膜41に近接した経路において高分子電解質膜41と平行かつ同じ速度で移送方向Xに駆動できるよう、駆動源としてのモータ(図示せず)を備えている。マスク材57には、図2のように示すように、マスク孔58a,58b,・・・・を一定間隔で形成している。マスク材57の材質としては、特に限定されるものではないが、ステンレスなどの金属ベルトや、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレンなどの樹脂フィルムを使用することができる。
無端状のマスク材57の内側には、マスク材57のマスク孔58a,58b,・・・・を介して触媒インクを噴霧するための全体塗布用のスプレーノズル32と、エッジ盛り上げ用のスプレーノズル33a,33bが設けられている。さらに、スプレーノズル32,33a,33bよりも下流側には、マスク材57に付着した触媒インクを掻き取るドクターブレード59と、掻き取った後に残ったマスク材をふき取り清掃する清掃装置60が設けられている。
高分子電解質膜41には、例えば、図3のステップS1の横に図示されているように、高分子電解質膜41の他方の面に第一形状保持フィルム42が貼り付けられている。
高分子電解質膜41としては、特に限定されるものではないが、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜(例えば、デュポン(株)製のナフィオン(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)など)を使用することができる。
高分子電解質膜41は、通常、非常に薄く、僅かな湿気でも変形し易い部材である。このため、本実施の形態においては、取扱い性の向上と高分子電解質膜の膨潤による皺やピンホールの抑制を目的として、高分子電解質膜41に第一形状保持フィルム42を貼り付けている。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、第一形状保持フィルム42は必ずしも貼り付ける必要は無い。
触媒インクは、白金系金属触媒と担持したカーボン微粒子を溶媒で混合したインクを用いている。金属触媒としては、例えば、プラチナ、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムなどを用いることができる。カーボン粉末としては、カーボンブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラックなどを用いることができる。溶媒としては、水、エタノール、n−プロパノールおよびn−ブタノールなどのアルコール系、並びに、エーテル系、エステル系およびフッ素系などの有機溶剤を用いることができる。白金系金属触媒インクの溶媒を乾燥させることで、金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層を形成することができる。
また、図4のように、スプレーノズル32,33a,33bには、それぞれ個別に供給ポンプ61,63が接続されている。スプレーノズル32の経路の途中には、流量制御バルブ62が配置されている。スプレーノズル33a,33bは、それぞれダイヤル式のつまみ65を有している。スプレーノズル33a,33bのノズル先端からの触媒インクの吹き付け面積は、つまみ65によるノズル開度の調整により変更可能である。詳細は後述するが、スプレーノズル32,33a,33bから触媒インクを吹き付けることで、第一触媒層43を形成する。
さらに、ロール52とバックアップロール36との間の搬送経路で、高分子電解質膜41の他方の面側には、予備乾燥装置35が設けられている。
ダイノズル37は、バックアップロール36と対向する位置で、通過する高分子電解質膜41に向かって触媒インクを吐出するように、配置されている。すなわち、ダイノズル37は、高分子電解質膜41を間に挟んでバックアップロール36と対向する位置に配置されている。図4に示すように、ダイノズル37には供給ポンプ64が接続されている。ダイノズル37は、供給ポンプ64から供給された触媒インクを、高分子電解質膜41上の第一触媒層43に向けて塗布する。本実施の形態においては、ダイノズル37と供給ポンプ64により、高分子電解質膜41に触媒インクを塗布するダイ式塗布装置が構成されている。詳細は後述するが、ダイノズル37から触媒インクを塗布することで、第二触媒層44を形成する。
ダイノズル37とバックアップロール36は、第一触媒層を形成するスプレーノズル32,33a,33bに対して搬送方向Xの下流側に配置する必要がある。また、スプレーノズル32,33a,33bからダイノズル37およびバックアップロール36までの距離は、膨潤保護層としての第一触媒層43が大気中で十分に乾燥するだけの距離が必要である。ここで、膨潤保護層とは、高分子電解質膜41が水分を含んで膨張するのを保護するための層である。第一触媒層43の乾燥時間は、十分に乾燥させるという観点では長いほど好ましく、例えば30秒以上とすることが望ましいが、搬送速度によってその距離が変化するため、適切に設定することが望ましい。
バックアップロール36と巻き取りロール39の間の搬送経路には、本乾燥装置38が配置されている。
本乾燥装置38は、高分子電解質膜41を包囲するように配置される。本乾燥装置38は、触媒インクを高分子電解質膜41の両面から加熱して乾燥させる装置である。この本乾燥装置38による乾燥により、ダイノズル37から塗布された触媒インクの溶媒が十分に乾燥して、膜厚精度維持層としての第二触媒層44が形成される。ここで、膜厚精度維持層とは、高分子電解質膜41の片面に必要とされる触媒層の最終膜厚の精度を維持するための層である。
高分子電解質膜41の片面に必要とされる触媒層の厚みを最終膜厚とした場合、第二触媒層44の膜厚は、第一触媒層43よりも厚い。第二触媒層44は、最終膜厚から第一触媒層43の膜厚を差し引いた差分の膜厚になるように触媒インクを塗布して、形成する。本実施の形態1においては、最終膜厚が100μmであり、第一触媒層43を膜厚5μmで形成したため、差分である膜厚95μmの第二触媒層44を形成した。
本乾燥装置38としては、例えば、対流式熱風乾燥装置を用いることができる。本乾燥装置38による加熱温度は、予備乾燥装置35と同様に50℃以上かつ140℃以下で設定することが望ましい。また、予備乾燥装置35による加熱温度と、本乾燥装置38による加熱温度との比は、1.0以上かつ2.0以下であることが好ましい。
図3は、高分子電解質膜41の両面に、それぞれ第一触媒層43と第二触媒層44を形成する燃料電池用膜電極接合体の製造工程を示すフローチャートである。図3において、ステップS1〜ステップS6までの工程は、高分子電解質膜41の片面に第一触媒層43と第二触媒層44を形成して巻き取りロール39(図1参照)に巻き取るまでの工程を示す。
図3において、ステップS7〜ステップS11までの工程は、この巻き取りロール39に巻き取ったものを供給ロール31に掛け直して、高分子電解質膜41のもう一方の面に第一触媒層43と第二触媒層44を形成する工程を示す。
ステップS1では、図3のステップS1の横に図示されているように、高分子電解質膜41の他方の面に第一形状保持フィルム42を貼り付けたものを、供給ロール31から引き出す。このときには、巻き取りロール39のモータ(図示せず)を駆動させて、高分子電解質膜41を供給ロール31から巻き取りロール39に向けて間欠的に搬送する。同時に、マスク循環装置34のモータ(図示せず)を同期駆動させ、高分子電解質膜41と同速度且つ同方向にマスク材57を循環させる。具体的な搬送速度(循環速度)としては、1.0m/minとした。
ステップS2,S3では、マスク循環装置34において、マスク材57のマスク孔を介した触媒インクを、高分子電解質膜41にスプレーノズル32,33a,33bで噴霧して、第一触媒層43を形成する。
このとき、第一触媒層43の形成と同時に、予備乾燥装置35によって高分子電解質膜41を反対側の面から加熱しているため、スプレーノズル32,33a,33bによって吐出された触媒インクに含まれる溶剤分が、瞬時に揮発させて乾燥する。そのため、本実施の形態1の製造装置70は、第一触媒層43の形成時の高分子電解質膜41の膨潤を抑制できる。
予備乾燥装置35としては、例えば、熱風発生装置による加熱装置や、遠赤外線ヒータによる加熱装置、誘導加熱方式又は電磁波加熱方式を用いた加熱装置などを用いることができる。
予備乾燥装置35による加熱温度は、低すぎると十分な乾燥が行えず、高すぎると高分子電解質膜41にダメージを与える可能性がある。そのため、予備乾燥装置35による加熱温度は、例えば50℃〜140℃の範囲で設定することが望ましい。
図2は、スプレーノズル32,33a,33bのノズル口付近における高分子電解質膜41とマスク材57の関係を示す。図2では、マスク孔58a,58b,・・・のうちのマスク孔58aの部分は、スプレーノズル32によって触媒インクが塗布済みの状態を示している。図2では、マスク孔58b,・・・の部分は、スプレーノズル32,33a,33bによる触媒インクの塗布前の状態を示している。
スプレーノズル32による塗布範囲は、図5(a)に示すように、マスク孔58a,58b,・・・の搬送方向Xに交差する幅方向のほぼ全ての領域に触媒インクを噴霧できる範囲である。それに、対して、スプレーノズル33a,33bによる塗布範囲は、図5(b)などに示すように、スプレーノズル32に比べて触媒インクを噴霧できる範囲が狭い。
本実施の形態のスプレーノズル32は、高分子電解質膜41の幅方向に対する中心位置に配置されて固定されている。本実施の形態のスプレーノズル33a,33bは、高分子電解質膜41の搬送に同期して、搬送方向Xに交差する幅方向に移動するものである。
また、マスク孔の前縁66fがスプレーノズル32,33a,33bの位置に到着したタイミングで、高分子電解質膜41の搬送は、停止時間T1だけ停止する。
マスク孔の前縁66fがスプレーノズル32,33a,33bの位置に到着したタイミングでは、図2と図5(a)に示すように、スプレーノズル33a,33bは、中央に固定されているスプレーノズル32に近接した位置に配置されている。
そして停止時間T1の間に、スプレーノズル33aは、外側(図2の紙面左側)に向かってマスク孔の側縁66s1まで駆動され、スプレーノズル33bは、外側(図2の紙面右側)に向かってマスク孔の側縁66s2まで駆動される。このとき、スプレーノズル33a,33bは、それぞれ外側に駆動されながら、触媒インクをマスク孔の前縁66fに向かって噴射する。停止時間T1経過時点のスプレーノズル32,33a,33bの位置を、図5(b)に示す。ここで、図5(b)において、マスク孔の側面近傍で形成されている盛り上がり部69については、後述する。
続いて、停止時間T1の経過後に搬送が再開されて、マスク孔58bの内側にはスプレーノズル32から触媒インクが噴霧される。このとき、高分子電解質膜41の反対側が予備乾燥装置35によって加熱されているため、スプレーノズル32から噴霧された触媒インクが高分子電解質膜41に着弾すると、触媒インクの溶媒が迅速に蒸発して乾燥する。
また、このとき、マスク孔58bの内側への触媒インクの噴霧とともに、スプレーノズル33a,33bから触媒インクがマスク孔58bの側縁66s1,66s2へ向かって噴霧される。
マスク孔の後縁66bがスプレーノズル32,33a,33bの位置に到着したタイミングで、高分子電解質膜41の搬送は、停止時間T2だけ停止する。
この停止時間T2の間に、スプレーノズル33aは、内側(図2の紙面右側)に向かってスプレーノズル32近傍まで駆動され、スプレーノズル33bは、内側(図2の紙面左側)に向かってスプレーノズル32近傍まで駆動される。このとき、スプレーノズル33a,33bは、それぞれ内側に駆動されながら、マスク孔の後縁66bに向かって触媒インクを噴射する。停止時間T2経過時のスプレーノズル32,33a,33bの位置を、図5(c)に示す。
本実施の形態1において、マスク材57を介して触媒インクを塗布した状態の斜視図を、図6に示す。また、本実施の形態1において、マスク材57を介して触媒インクを塗布した状態の搬送方向Xに沿った断面図を、図7(a)に示す。また、本実施の形態1において、マスク材57を介して触媒インクを塗布した状態の幅方向の断面図を図7(b)に示す。これらの図からも分かるように、触媒インクがマスク孔よりも広く塗布されることによって、マスク材57の前縁66f,側縁66s1,66s2,後縁66bの近傍に、盛り上がり部69が形成される。
前縁66f,側縁66s1,66s2,後縁66bの近傍の盛り上がり部69は、その幅が最終の触媒層の膜厚精度に影響しない範囲で形成することが必要である。そのため、本実施の形態1の盛り上がり部69の幅は、1mm以上かつ10mm以下(さらに望ましくは1mm以上かつ3mm以下)としている。ここで、盛り上がり部69の幅とは、図7(c)に示す環状壁67のXY平面上の幅である。また、盛り上がり部69の高さは、第一触媒層43の膜厚の2倍以上かつ20倍以下であることが望ましい。本実施の形態1においては、盛り上がり部69の幅を2mmとし、盛り上がり部69の高さを50μmとして形成した。なお、このときの第一触媒層43の膜厚は5μmとして形成した。
ここで、スプレーノズル32にて形成した第一触媒層43の膜厚を変えた場合における、高分子電解質膜41の膨潤発生の有無について、表1に実験結果をまとめる。
この表1から、高分子電解質膜41に膨潤を発生させないためには、第一触媒層43の膜厚を20μm未満にする必要があることが分かった。
Figure 2013161736
なお、スプレーノズル33a,33bのノズル吹き付け幅(直径)は、スプレーノズル32のノズル吹き付け幅に比べて極端に小さく設定されている。具体的なスプレーノズル33a,33bのノズル吹き付け幅は、盛り上がり部69の幅である1mm以上かつ10mm以下(好ましくは1mm以上かつ3mm以下)とした。このノズル吹き付け幅(直径)は、スプレーノズル33a,33bに取り付けられているノズル開度調整用のダイヤル式のつまみ65にて、設定することが可能である。
マスク材57が第一触媒層43から剥離されると、図7(c)と図8に示すように、第一触媒層43の外周部には、盛り上がり部69の一部が残留した環状壁67が形成される。
続いて、ステップS4,S5では、マスク循環装置34を通過した高分子電解質膜41がバックアップロール36を通過するタイミングで、第一触媒層43の上にダイノズル37によって触媒インクを塗布し、本乾燥装置38を通して触媒インクの溶媒を乾燥させて第二触媒層44を形成する。図9に、第二触媒層44形成後の斜視図を示し、図10に、第二触媒層44形成後の搬送方向の断面図を示す。
ここで、第二触媒層44の塗布面積は、第一触媒層43の塗布面積よりも小さいことが必要だが、小さ過ぎても最終的な触媒層の形成に必要な塗布面積を形成できない。そのため、本実施の形態1では、第二触媒層44の塗布面積は、第一触媒層43の塗布面積からそれぞれの四辺にて0.1mm以上かつ5mm以下(さらに望ましくは0.1mm以上かつ2mm以下)だけ内側に小さいことが望ましい。
一般的に、このようにして第一触媒層43の上に第二触媒層44を形成すると、ダイノズル37から触媒インクが塗布された直後に、触媒インクのレベリングが起こり、膜厚が均等に均される。だが、本実施の形態1では、第一触媒層43に環状壁67が存在するため、レベリングの範囲は環状壁67の盛り上がり部分でとどめることができ、第二触媒層44の触媒インクが高分子電解質膜41上に零れることを抑制し、高分子電解質膜41の膨潤による皺やピンホールを防ぐことができる。本実施の形態1では、各四辺において、第一触媒層43よりも第二触媒層44が0.5mm内側に小さくなるように、第二触媒層44を形成した。
ダイノズル37による単位時間当たりの触媒インク吐出量は、スプレーノズル32による単位時間当たりの触媒インク吐出量に比べて多い。そのため、ダイノズル37から吐出された触媒インクが高分子電解質膜41に直接着弾すると、高分子電解質膜41の皺またはピンホールが発生する場合がある。だが、本実施の形態1においてダイノズル37から触媒インクが吐出されるときには、予備乾燥によって乾燥した第一触媒層43の上に触媒インクが着弾するため、高分子電解質膜41の皺やピンホールが発生しない。
更に、第一触媒層43の外周部には、マスク材57のマスク孔の境界部分に触媒インクを盛り上げて形成した第一触媒層43の環状壁67が形成されており、この環状壁67が外側に向かって高くなっている。そのため、ダイノズル37による塗布のタイミングの制御が高精度に実施されなかった場合であっても、外側に向かって高くなっている環状壁67に沿って触媒インクが内側に流れて、高分子電解質膜41の上に零れない。
図11は、第一触媒層43の外周部に環状壁67を形成しなかった場合の比較例を示した図である。図11に示す比較例の場合には、ダイノズル37による塗布のタイミングの制御が高精度に実施されなかったため、第一触媒層43から零れた触媒インクの零れ68が発生し、零れた触媒インクである零れ68によって、高分子電解質膜41に皺やピンホールが発生する場合がある。
このようにしてステップS5において本乾燥が完了した高分子電解質膜41は、反対側の面にも同様にして第一触媒層43と第二触媒層44が形成される。具体的には、まず、ステップS6において、第二形状保持フィルム45(図1参照)をロール94,95(図1参照)で高分子電解質膜41に貼り付けて巻き取りロール39に巻き取る。続いて、ステップS7において、第一形状保持フィルム42を剥離させる。続いて、ステップS8において、高分子電解質膜41の第一形状保持フィルム42が剥離された側(第一触媒層43と第二触媒層44が形成されていない側)をマスク循環装置34の側に向くように供給ロール31に掛け替えて、巻き取りロール39で巻き取るようにセットし、第一触媒層43を形成する。続いて、ステップS8,S9では、第一触媒層43と第二触媒層44をステップS2〜S5と同様に形成する。その後、高分子電解質膜41は、送り動作にて本乾燥装置38へと搬送される。本乾燥装置38にて、高分子電解質膜41の第一面および第二面の両方から加熱されることで触媒インクを乾燥させることができる。ここでの具体的加熱温度は80℃とした。続いて、ステップS10では、ステップS6と同様に、第二形状保持フィルム45を形成して巻き取りロール39で巻き取る。
そして、燃料電池用膜電極接合体100として使用する際には、ステップS11に示すように両面の第二形状保持フィルム45を剥がして完成品となる。
第一形状保持フィルム42および第二形状保持フィルム45としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂などを用いることができる。
予備乾燥装置35は、上記送り動作が行われている間は常に高分子基材を加熱しており、触媒インクが塗布されると、予備乾燥装置35の加熱により触媒インク中に含まれる溶媒が乾燥され、第一触媒層43が形成される。具体的な、予備乾燥装置35での加熱温度は60℃とした。
以上説明したように、本発明では、第一触媒層43の上に第二触媒層44を形成する二段階塗工により、高分子電解質膜41の膨潤による皺やピンホールを抑えることができると共に、ダイノズル37による塗工によって高精度かつ高速、高効率な触媒層を形成することができる。それに対し、触媒層に必要な膜厚をスプレーノズルなどの粒子発生装置で形成した場合、複数回の塗り重ねやトラバース塗工が必要となり、生産性の面で課題を有する。また、スプレーノズル特有の性質として、触媒インクの飛散による材料利用効率の低さも課題となることがある。
本実施の形態における燃料電池用膜電極接合体は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に用いることができる。
なお、スプレーノズル32にて形成される第一触媒層43の厚みは、最終の触媒層の膜厚精度に影響しない範囲で形成することが必要なため、最終の触媒層の形成に必要な膜厚の1/10以上かつ1/50以下の膜厚を形成することが望ましい。
また、高分子電解質膜41が供給ロール31から引き出されて巻き取りロール39に巻き取られるまでの間に高分子電解質膜41の第一面(又は第二面)に第一触媒層43と第二触媒層44を形成するようにしているので、ロール・ツー・ロール方式による燃料電池用膜電極接合体の大量生産が可能である。
また、スプレーノズル32はマスク材57に対して固定されているとしたが、マスク孔の幅方向に移動して触媒インクを塗布するように構成することもできる。
(実施の形態2)
前述の実施の形態1では、盛り上がり部69を形成するためのスプレーノズル33a,33bは、マスク孔の前縁と後縁において高分子電解質膜41の幅方向に移動する構成とした。それに対し、本実施の形態2では、スプレーノズル32がマスク孔の前縁と後縁においてその噴霧量を多くして必要な高さの環状壁67を形成するのに必要な盛り上げ高さを得られるように制御している。
本実施の形態2では、マスク孔の前縁と後縁部分においては、第一触媒層43の端部に盛り上がり部69を形成するために、スプレーノズル32と供給ポンプ61との間に接続されている流量制御バルブ62を用いて、外部から電気的にバルブの開度を調整し、始端と終端部において触媒インクの流量を増やしている。本実施の形態2では、このように、触媒インクの流量を制御することで、図8に示す盛り上がり部69を形成する。
本発明は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に用いることができる。
31 供給ロール
32 スプレーノズル
33a,33b スプレーノズル
34 マスク循環装置
35 予備乾燥装置
36 バックアップロール
37 ダイノズル
38 本乾燥装置
39 巻き取りロール
41 高分子電解質膜
42 第一形状保持フィルム
43 第一触媒層
44 第二触媒層
45 第二形状保持フィルム
57 マスク材
58a,58b,・・・ マスク孔
59 ドクターブレード
60 清掃装置
61,63,64 供給ポンプ
62 流量制御バルブ
66f 前縁
66s1,66s2 側縁
66b 後縁
67 環状壁
68 零れ
69 盛り上がり部
70 製造装置
100 燃料電池用膜電極接合体

Claims (6)

  1. 高分子電解質膜の一方の面にスプレーノズルから触媒インクを塗布すると共に乾燥させて第一触媒層を形成した後、
    前記第一触媒層の上にダイノズルから触媒インクを塗布して第二触媒層を形成し、
    前記第二触媒層の触媒インクを乾燥させる、
    燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  2. 前記第一触媒層を形成する際に、前記高分子電解質膜の他方の面を加熱して前記触媒インクを乾燥させる、
    請求項1記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  3. 前記第一触媒層を形成する際に、マスク材を介して前記スプレーノズルから噴射された触媒インクを前記高分子電解質膜に塗布すると共に、前記マスク材のマスク孔の境界部分に触媒インクを前記マスク材の表面よりも盛り上げて塗布し、前記第一触媒層の外周部分に環状壁を形成する、
    請求項1または2記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  4. 前記第二触媒層を形成する際に、前記第一触媒層の前記環状壁の内側に触媒インクを塗布する、
    請求項3記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  5. 前記第一触媒層を形成する際に、前記マスク孔の境界位置に対応して、前記マスク孔の外側に向かって高くなるように触媒インクを塗布する、
    請求項4記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  6. 高分子電解質膜の搬送速度と同一速度で同一方向に移動するマスク材と、
    前記マスク材のマスク孔を介して前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布して第一触媒層を形成するスプレーノズルと、
    前記高分子電解質膜の他方の面を加熱して前記触媒インクを乾燥する予備加熱装置と、
    前記第一触媒層の上に触媒インクを塗布して第二触媒層を形成するダイノズルと、
    前記第二触媒層の触媒インクを乾燥させる本乾燥装置と、を設けた、
    燃料電池用膜電極接合体の製造装置。
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