(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る始動制御装置が適用されたディーゼルエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるディーゼルエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、いわゆる直列4気筒型のものであり、紙面に直交する方向に列状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dにそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、燃料としての軽油が、後述する燃料噴射弁15からの噴射によって供給される。そして、噴射された燃料(軽油)が、ピストン5の圧縮作用により高温・高圧化した燃焼室6で自着火し(圧縮自己着火)、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動するようになっている。
上記ピストン5は図外のコネクティングロッドを介してクランク軸7と連結されており、上記ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて上記クランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
図2は、上記エンジン本体1を含むパワートレイン系を簡易的に示す図である。この図2に示すように、エンジン本体1のクランク軸7は、クラッチ102を介して手動変速機101と連結されている。つまり、当実施形態のディーゼルエンジンが搭載される車両は、手動で変速操作を行うMT車である。具体的に、上記手動変速機100は、例えば、車両に乗車した運転者の手により操作される図外のシフトレバーと連携されており、このシフトレバーを用いた手動操作に基づき、上記手動変速機100の変速段が選択されるようになっている。
上記クラッチ102は、エンジン本体1のクランク軸7の一端部に取り付けられたフライホイール102aと、手動変速機101の入力軸103に取り付けられたクラッチプレート102bとを有している。そして、運転者がクラッチペダル36(図1)を踏み込むかまたはリリースすることにより、上記フライホイール102aとクラッチプレート102bとが互いに離接され、上記クラッチ102の断続が実現されるようになっている。
再び図1に戻って、当実施形態のディーゼルエンジンの構成について説明する。当実施形態のような4サイクル4気筒のディーゼルエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、各気筒2A〜2Dでの燃焼(そのための燃料噴射)のタイミングは、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、気筒2A,2B,2C,2Dの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる(後述する図4も参照)。
上記エンジン本体1のシリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、各ポート9,10を開閉する吸気弁11および排気弁12とが設けられている。なお、吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
また、上記シリンダヘッド4には、燃料噴射弁15が各気筒2A〜2Dにつき1つずつ設けられている。各燃料噴射弁15は、先端部に複数の噴孔を有した多噴孔型のものであり、その内部に、上記各噴孔に通じる燃料通路と、この燃料通路を開閉するために電磁的に駆動されるニードル状の弁体とを有している(いずれも図示省略)。そして、通電による電磁力で上記弁体が開方向に駆動されることにより、後述するコモンレール40(蓄圧室)から高圧で供給された燃料が上記各噴孔から燃焼室6に向けて直接噴射されるようになっている。なお、当実施形態における燃料噴射弁15は、8〜12個という多数の噴孔を有している。
上記燃料噴射弁15と対向するピストン5の冠面(上面)の中央部には、他の部分(冠面の周縁部)よりも下方に凹んだキャビティ5aが形成されている。このため、ピストン5が上死点の近くにある状態で上記燃料噴射弁15から燃料が噴射された場合、この燃料は、まずキャビティ5aの内部に侵入することになる。
ここで、当実施形態のエンジン本体1は、その幾何学的圧縮比(ピストン5が下死点にあるときの燃焼室容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室容積との比)が14に設定されている。すなわち、一般的な車載用のディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比が18もしくはそれ以上に設定されることが多いのに対し、当実施形態では、幾何学的圧縮比が14というかなり低い値に設定されている。
上記シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
また、上記シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度および回転速度を検出するためのクランク角センサSW2が設けられている。このクランク角センサSW2は、クランク軸7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力する。
具体的に、上記クランクプレート25の外周部には、一定ピッチで並ぶ多数の歯が突設されており、その外周部における所定範囲には、基準位置を特定するための歯欠け部25a(歯の存在しない部分)が形成されている。そして、このように基準位置に歯欠け部25aを有したクランクプレート25が回転し、それに基づくパルス信号が上記クランク角センサSW2から出力されることにより、クランク軸7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
一方、上記シリンダヘッド4には、動弁用のカムシャフト(図示省略)の角度を検出するためのカム角センサSW3が設けられている。カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じて、気筒判別用のパルス信号を出力する。
すなわち、上記クランク角センサSW2から出力されるパルス信号の中には、上述した歯欠け部25aに対応して360°CAごとに生成される無信号部分が含まれるが、その情報だけでは、クランク角を知ることはできても、どの気筒が何行程にあるのか(気筒判別)を認識することができない。そこで、720°CAごとに1回転するカムシャフトの回転に基づきカム角センサSW3からパルス信号を出力させ、その信号が出力されるタイミングと、上記クランク角センサSW2の無信号部分のタイミング(歯欠け部25aの通過タイミング)とに基づいて、気筒判別を行うようにしている。
上記吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された排気ガス(燃焼ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
上記吸気通路28のうち、エンジン本体1から所定距離上流側までの範囲は、気筒2A〜2Dごとに分岐した分岐通路部28aとされており、各分岐通路部28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに接続されている。このサージタンク28bよりも上流側には、単一の通路からなる共通通路部28cが設けられている。
上記共通通路部28cには、各気筒2A〜2Dに流入する空気量(吸気流量)を調節するための吸気絞り弁30が設けられている。吸気絞り弁30は、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路28を遮断するように構成されている。
また、上記吸気絞り弁30とサージタンク28bとの間の共通通路部28cには、吸気流量を検出するためのエアフローセンサSW4が設けられている。
上記クランク軸7には、ベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルの電流を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる発電量の目標値(目標発電電流)に基づき、クランク軸7から駆動力を得て発電を行うように構成されている。
上記シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。上記ピニオンギア34bは、クランク軸7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、上記スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動して上記リングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランク軸7が回転駆動されるようになっている。
図3は、上記燃料噴射弁15に燃料を供給する燃料供給系の概略構成を示すシステム図である。この図3に示すように(部分的には図1にも示すように)、当実施形態のエンジンの燃料供給系には、燃料(軽油)が貯蔵される燃料タンク40と、燃料タンク40と燃料パイプ41を介して接続され、燃料タンク40内の燃料を汲み上げて高圧状態にして送り出すサプライポンプ43と、燃料パイプ41の途中部に設けられ、燃料タンク40から汲み上げられた燃料を加熱しつつ濾過する燃料フィルタ42と、サプライポンプ43から圧送された燃料が通路する燃料供給パイプ44と、燃料供給パイプ44の下流端に接続された単一のコモンレール(蓄圧室)45と、コモンレール45と各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15とを接続する複数の(4本の)分岐パイプ46と、コモンレール45内に蓄えられた燃料の圧力(燃圧)が所定値以上になったときに燃料をコモンレール45から排出させるプレッシャーリミッタ47と、プレッシャーリミッタ47を通じてコモンレール45から排出された燃料を燃料タンク40に戻すためのリターンパイプ48とが含まれる。
上記サプライポンプ43は、エンジンの駆動力を得て作動する機械式のプランジャーポンプである。具体的に、サプライポンプ43の入力軸43aは、エンジン本体1のカムシャフトとベルトまたはギヤ機構等を介して連結されている。そして、上記入力軸43aがカムシャフトと連動して回転することにより、サプライポンプ43に内蔵されたプランジャーが往復運動し、その往復運動に応じてサプライポンプ43から燃料が圧送されるようになっている。
また、上記サプライポンプ43には、プランジャーにより押し出された燃料の一部をレギュレータパイプ50を通じてリターンパイプ48に逃がすことにより、サプライポンプ43からコモンレール45に向けて圧送される燃料の圧力を一定範囲に調節するサクションコントロールバルブ43b(以下、「SCV」と略称する)が内蔵されている。
上記各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15には、噴射されずに残った燃料を燃料タンク40に戻すためのインジェクターリターンパイプ49が接続されている。このインジェクターリターンパイプ49の下流端は、上記レギュレータパイプ50に接続されており、インジェクターリターンパイプ49を通じて排出された燃料が、レギュレータパイプ50およびリターンパイプ48を通じて燃料タンク40に戻されるようになっている。
上記インジェクターリターンパイプ49の途中部には、チェックバルブ55が設けられている。このチェックバルブ55は、それよりも上流側の燃料の圧力が所定値を超えたときに開弁することで、インジェクターリターンパイプ49内の圧力を一定に保つ機能を有している。
上記コモンレール45には、その内部に蓄えられた燃料の圧力(燃圧)を検出するための燃圧センサSW5が設けられている。なお、コモンレール45内の圧力は、燃料噴射弁15に供給される燃料の圧力と同じなので、以下では、上記燃圧センサSW5により検出される圧力のことを指して、「燃料噴射弁15の燃圧」ともいう。
(2)制御系
以上のように構成されたエンジンは、図1に示すように、その各部がECU(エンジン制御ユニット)60により統括的に制御される。ECU60は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
上記ECU60には、各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU60は、エンジンの各部に設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、エアフローセンサSW4、および燃圧センサSW5と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW5からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度、気筒判別情報、吸気流量、燃圧等の種々の情報を取得する。
また、ECU60には、車両に設けられた各種センサ(SW6〜SW9)からの情報も入力される。すなわち、車両には、運転者により踏み込み操作されるクラッチペダル36の状態(クラッチ102の断続)を検出するためのクラッチペダルセンサSW6と、手動変速機101の変速段を検出するためのシフトポジションセンサSW7と、車両の走行速度(車速)を検出するための車速センサSW8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するためのバッテリセンサSW9とが設けられている。ECU60は、これら各センサSW6〜SW9からの入力信号に基づいて、クラッチペダル36のON/OFF、手動変速機101の変速段、車速、バッテリの残容量といった情報を取得する。
上記ECU60は、上記各センサSW1〜SW9からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。具体的に、ECU60は、上記燃料噴射弁15、吸気絞り弁30、オルタネータ32、スタータモータ34、およびSCV43b等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
上記ECU60が有するより具体的な機能について説明する。ECU60は、例えばエンジンの通常運転時に、SCV43b等を制御して燃料噴射弁15の燃圧を所望の値に維持したり、燃料噴射弁15を制御して運転条件に応じた所要量の燃料を燃料噴射弁15から噴射させたり、オルタネータ32を制御して車両の電気負荷やバッテリの残容量等に応じた所要量の電力を発電させたりといった基本的な制御を実行する機能を有する他、いわゆるアイドルストップ機能として、予め定められた特定の条件下でエンジンを自動的に停止させ、または再始動させる機能をも有している。このため、ECU60は、エンジンの自動停止または再始動制御に関する機能的要素として、自動停止制御部61および再始動制御部62を有している。
すなわち、上記自動停止制御部61は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
また、上記再始動制御部62は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを再始動させる制御を実行するものである。
(3)自動停止制御
次に、上記ECU60の自動停止制御部61により実行されるエンジンの自動停止制御の内容をより具体的に説明する。なお、ここでの説明から明らかとなるように、当実施形態では、上記ECU60の自動停止制御部61が、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる燃圧調整手段としての機能を果たしている。
図4は、エンジンの自動停止制御時における各状態量の変化を示すタイムチャートである。本図では、エンジンの自動停止条件が成立した時点をt0としている。この時点t0において自動停止条件が成立すると、その後の時点t1で、吸気絞り弁30が閉方向に駆動され、その開度が、自動停止条件が成立する前に設定されていた通常運転時の開度(図例では80%)から、最終的に全閉(0%)まで低減される。そして、開度が全閉になった後、時点t2で、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する制御(燃料カット)が実行される。
また、燃料カットを実行する時点t2の直後には、燃料噴射弁15の燃圧の目標値である目標燃圧が上昇設定される。ここでは、アイドリング時(自動停止制御の開始前)の目標燃圧をP1、上昇設定後の目標燃圧をP2としている。なお、P1からP2への上昇幅は、例えば10〜数十MPaとされる。
燃料カットを実行した後も、エンジンは惰性によってしばらく回転を続けるため、サプライポンプ43の駆動も継続されている。このため、目標燃圧がP2まで高められると、これに伴い、実燃圧(燃圧センサSW5により検出される実際の燃圧)も徐々に上昇する。当実施形態において、燃圧の上昇は、サプライポンプ43に内蔵されたSCV43bが全閉にされることによって実現される。すなわち、SCV43bが全閉にされると、サプライポンプ43からレギュレータパイプ50を通じてリターンパイプ48に逃がされる燃料の流れ(図2の破線の矢印)が遮断され、サプライポンプ43からの燃料が全てコモンレール45に供給される結果、コモンレール45内の圧力が徐々に上昇していく。そして、このようなSCV43bの閉弁制御が所定期間継続されることにより、燃料噴射弁15の燃圧(実燃圧)がP1からP2まで上昇する。
その後も、エンジンは速度を低下させながら回転を続けるが、その惰性回転が終了する(つまりエンジンが完全停止する)よりも少し前に、吸気絞り弁30が再び開かれる。具体的には、全気筒2A〜2Dにおけるエンジン停止直前の最後の上死点を最終TDCとしたときに、この最終TDCよりも1つ前の上死点通過時(時点t4)に、吸気絞り弁30が開方向に駆動され、その開度が0%を超える所定の開度(例えば10〜30%程度)まで増やされる。
その後、時点t5で最終TDCを迎えた後、エンジンは、一時的にピストンの揺れ戻しにより逆回転するも、一度も上死点を越えることなく、時点t6で完全停止状態に至る。
ここで、上記のように吸気絞り弁30を開く制御を時点t4で実行するのは、エンジンが完全停止したときに圧縮行程にある気筒、つまり停止時圧縮行程気筒(図4では3番気筒2C)のピストン停止位置を、図5(b)に示すように、上死点と下死点との間に位置する基準停止位置Xよりも下死点側に設定された特定範囲Rxにできるだけ収めるためである。なお、基準停止位置Xは、エンジンの形状(排気量、ボア/ストローク比等)や暖機の進行度合い等によって異なり得るが、例えば上死点前(BTDC)90〜75°CAの間のいずれかの位置に設定することができる。例えば、基準停止位置XがBTDC80°CAである場合、上記特定範囲Rxは、BTDC80〜180°CAの範囲となる。
上記停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上記特定範囲Rxで停止していれば、その後エンジンの再始動条件が成立したときに、上記停止時圧縮行程気筒2Cに最初の(エンジン全体として最初の)燃料を噴射する1圧縮始動によって、エンジンを迅速に再始動させることができる。一方、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が上記特定範囲Rxから外れていれば、再始動の開始後、停止時圧縮行程気筒2Cの次に圧縮行程を迎える気筒、つまりエンジン停止時に吸気行程にある停止時吸気行程気筒(図4では4番気筒2D)に燃料を噴射する2圧縮始動によってエンジンを再始動する必要が生じる。このように、ピストン停止位置によって1圧縮始動と2圧縮始動とを使い分けるのは、ピストン停止位置によって停止時圧縮行程気筒2Cでの着火性が異なるからであるが、その詳細については後の「(4)再始動制御」の中で説明する。
上記2圧縮始動は、停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程に移行するまで燃料を燃焼させることができないので、始動の迅速性という点では、当然1圧縮始動の方が有利である。このため、1圧縮始動を高い頻度で実行可能にするには、できるだけ停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を上記特定範囲Rxに収める必要がある。そこで、当実施形態では、図4に示したように、時点t4で吸気絞り弁30を開くようにしている。すなわち、図4の制御によれば、最終TDCの1つ前の上死点(ii)までは(時点t4までは)、吸気絞り弁30の開度が0%とされ、最終TDCの1つ前の上死点(ii)を過ぎると(時点t4を過ぎると)、吸気絞り弁30の開度が0%超の所定開度まで増大される。これにより、最終TDCの1つ前の上死点(ii)から吸気行程を迎える(時点t4〜t5が吸気行程となる)停止時圧縮行程気筒2Cに対する吸気流量が、最終TDCの2つ前の上死点(iii)から吸気行程を迎える(時点t3〜t4が吸気行程となる)気筒、言い換えると、エンジンが完全停止したときに膨張行程にある停止時膨張行程気筒(図4では1番気筒2A)に対する吸気流量よりも増大することになる。
この点について図5(a)(b)を用いてより詳しく説明する。上記のように最終TDCの1つ前の上死点(ii)の通過時に吸気絞り弁30を開くと、上述したように、エンジンが自動停止する直前に、停止時圧縮行程気筒2C内への吸気量が停止時膨張行程気筒2A内への吸気量よりも多くなる。これにより、図5(a)に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5に作用する圧縮空気による押下げ力が大きくなる一方、停止時膨張行程気筒2Aのピストン5に作用する圧縮空気による押下げ力が小さくなる。このため、エンジンが完全停止したときには、図5(b)に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の停止位置が自ずと下死点寄りとなり(停止時膨張行程気筒2Aのピストン5の停止位置は上死点寄りとなり)、結果として、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を、比較的高い頻度で、上記基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rxに停止させることができるようになる。特定範囲Rxでピストン5が停止していれば、エンジンの再始動時には、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射する1圧縮始動によってエンジンを迅速に再始動させることが可能となる。
次に、以上のようなエンジン自動停止制御を司る自動停止制御部61の制御動作の一例について、図6のフローチャートを用いて説明する。図6のフローチャートに示す処理がスタートすると、自動停止制御部61は、各種センサ値を読み込む制御を実行する(ステップS1)。具体的には、水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、エアフローセンサSW4、燃圧センサSW5、クラッチペダルセンサSW6、シフトポジションセンサSW7、車速センサSW8、およびバッテリセンサSW9からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度、気筒判別情報、吸気流量、燃圧、クラッチペダル36の状態、手動変速機101のシフトポジション、車速、バッテリの残容量等の各種情報を取得する。
次いで、自動停止制御部61は、上記ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。ここでは、車速が所定の低車速以下(例えば3km/h以下)であること、手動変速機101のシフトポジションがニュートラルであること、クラッチペダル36がリリースされていること(クラッチがつながっていること)、という3つの要件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する。
上記ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部61は、エンジンを停止させることに対しシステム上の問題がないかどうか、つまり、システム上の制約条件をクリアしているか否かを判定する(ステップS3)。例えば、エンジンが冷間状態にあったり、バッテリの残容量が極端に少ないときなどは、エンジンを自動停止させた後、エンジンを再始動させることが困難になるおそれがある。また、エアコンの負荷(車室内の実際の温度とエアコンの設定温度との差)が大きい場合も、エンジンを停止させることは適当ではない。そこで、このようなシステム上の制約条件をクリアしているか否かが、上記ステップS2で判定される。具体的には、上記ステップS1で取得された各種情報に基づいて、エンジンの冷却水温が25℃以上であること、バッテリの残容量が所定値以上であること、エアコンの負荷が比較的少ないこと、等の複数の要件が全て成立している場合に、システム上の制約条件をクリアしていると判定する。
上記ステップS2でYESと判定されてシステム上の制約条件をクリアしていることが確認された場合、自動停止制御部61は、吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定する制御を実行する(ステップS4)。すなわち、図4のタイムチャートに示したように、制約条件のクリアが判明した直後の時点t1で、吸気絞り弁30の開度を閉方向に駆動し始め、その開度を最終的に0%まで低下させる。
次いで、自動停止制御部61は、燃料噴射弁15からの燃料の供給を停止する燃料カットを実行する(ステップS5)。すなわち、図4のタイムチャートに示したように、吸気絞り弁30が全閉(0%)まで閉じられた後の時点t2で、各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15から噴射すべき燃料の量である目標噴射量をゼロに設定し、全ての燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止することにより、燃料カットを実行する。
上記のように、当実施形態では、自動停止条件が成立すると、システム上の制約条件がクリアされていることを確認し、さらに吸気絞り弁30を閉じてから、燃料カットを実行するようにしている。このため、自動停止条件の成立(時点t0)から燃料カットの実行(時点t2)までの間には、場合にもよるが、概ね0.2〜0.3s(秒)の時間を要する。
上記燃料カットが実行されると、自動停止制御部61は、その直後に、燃料噴射弁15の目標燃圧をP1からP2に増大設定する制御を実行する(ステップS6)。これにより、サプライポンプ43に内蔵されたSCV43bが全閉にされ、これに伴い図4のタイムチャートに示すように、燃料噴射弁15の実際の燃圧(実燃圧)が徐々に上昇し、最終的にP2に達する。
次いで、自動停止制御部61は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかのピストン5が上死点を迎えたときのエンジン回転速度(上死点回転速度)の値が、予め定められた所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS7)。なお、図4に示すように、燃料カット後のエンジン回転速度は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかが圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間の上死点)を迎える度に一時的に落ち込み、圧縮上死点を越えた後に再び上昇するというアップダウンを繰り返しながら徐々に低下していく。よって、上死点回転速度は、エンジン回転速度のアップダウンの谷のタイミングにおける回転速度として測定することができる。
上記ステップS7での上死点回転速度に関する判定は、エンジン停止直前の最後の上死点(最終TDC)より1つ前の上死点の通過タイミング(図4の時点t4)を特定するために行われる。すなわち、エンジンが自動停止する過程で、エンジン回転速度の低下の仕方には一定の規則性があるため、上死点の通過時にそのときの回転速度(上死点回転速度)を調べれば、それが最終TDCの何回前の上死点にあたるのかを推定することができる。そこで、上死点回転速度を常時測定し、それが予め設定された所定範囲、すなわち、最終TDCの1つ前の上死点を通過するときの回転速度として実験等により予め求められた所定範囲の中に入るか否かを判定することにより、上記最終TDCの1つ前の上死点の通過タイミングを特定する。
上記ステップS7でYESと判定されて現時点が最終TDCの1つ前の上死点通過タイミング(図4の時点t4)であることが確認された場合、自動停止制御部61は、吸気絞り弁30を開方向に駆動し始め、その開度を0%超の所定開度(例えば10〜30%程度)まで増大させる制御を実行する(ステップS8)。これにより、時点t4から吸気行程を迎える停止時圧縮行程気筒2Cに対する吸気流量が、その1サイクル前(時点t3〜t4)まで吸気行程であった停止時膨張行程気筒2Aに対する吸気流量よりも増大する。
その後、自動停止制御部61は、エンジン回転速度が0rpmであるか否かを判定することにより、エンジンが完全停止したか否かを判定する(ステップS9)。そして、エンジンが完全停止していれば、自動停止制御部61は、例えば、吸気絞り弁30の開度を、通常運転時に設定される所定の開度(例えば80%)に設定する等して、自動停止制御を終了する。
以上のように、図6に示した自動停止制御によると、最終TDCの1つ前の上死点通過時に(時点t4で)吸気絞り弁30を開くステップS8の制御により、停止時圧縮行程気筒2Cと停止時膨張行程気筒2Aとの吸気流量に差が生じているため、エンジンが完全停止したときには、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が、比較的高い頻度で下死点寄りの特定範囲Rx(図5(b))内に収まることになる。
なお、自動停止制御によってエンジンが完全停止すると、図4の「実燃圧」の欄における最右部分に示すように、燃料噴射弁15の燃圧が時間経過とともに徐々に低下していく。これは、エンジン停止に伴って、エンジンにより機械的に駆動されるサプライポンプ43も停止し、コモンレール45に燃料が供給されなくなる一方、コモンレール45からは、プレッシャーリミッタ47等を通じて少量ずつとはいえ外部に燃料が漏れるからである。
(4)再始動制御
次に、上記ECU60の再始動制御部62により実行されるエンジンの再始動制御の具体的内容について、図7のフローチャートを用いて説明する。なお、ここでの説明から明らかとなるように、当実施形態では、上記ECU60の再始動制御部62が、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxにあるか否かを判定する判定手段としての機能と、エンジン再始動時に燃料を噴射する噴射制御手段としての機能とを兼務している。
図7のフローチャートに示す処理がスタートすると、再始動制御部62は、各種センサ値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS11)。例えば、車両発進のためにクラッチペダル36が踏み込まれたこと、エンジンの冷却水温が所定値(例えば25℃)未満になったこと、バッテリの残容量の低下幅が許容値を超えたこと、エンジンの停止時間(自動停止後の経過時間)が所定時間を越えたこと、等の要件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。
上記ステップS11でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部62は、上述したエンジンの自動停止制御に伴い圧縮行程で停止した停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を、クランク角センサSW2およびカム角センサSW3に基づき特定し、その特定したピストン停止位置が、基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rx(図5(b))にあるか否かを判定する(ステップS12)。
上記ステップS12でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が特定範囲Rxにあることが確認された場合、再始動制御部62は、停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射する1圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS13)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランク軸7に回転力を付与しつつ、燃料噴射弁15から停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として最初の圧縮上死点を迎えるときから燃焼を再開させて、エンジンを再始動させる。
ここで、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置は、上述した自動停止制御(図4、図6)の効果により、比較的多くのケースにおいて、上記特定範囲Rxに収まっていると考えられる。しかしながら、場合によっては、上記ピストン停止位置が特定範囲Rxを外れる(基準停止位置Xよりも上死点側でピストン5が停止する)こともあり得る。このようなときは、上記ステップS12でNOと判定されることになる。
上記ステップS12でNOと判定された場合(つまり停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxよりも上死点側で停止している場合)、再始動制御部62は、吸気行程で停止していた停止時吸気行程気筒2Dに最初の燃料を噴射する2圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS14)。すなわち、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上死点を超えて、次に停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程を迎えるまで、燃料を噴射することなく、スタータモータ34の駆動のみによってエンジンを強制的に回転させる。そして、その時点で燃料噴射弁15から停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射し、噴射した燃料を自着火させることにより、エンジン全体として2回目の圧縮上死点を迎えるときから燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。
以上のように、図7の再始動制御では、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置に応じて、1圧縮始動(S13)と2圧縮始動(S14)とが使い分けられる。以下、1圧縮始動と2圧縮始動の特徴を両者を対比しつつ説明する。
図5(b)に示したように、特定範囲Rxは、予め定められた基準停止位置X(例えばBTDC90〜75°CA間のいずれかの位置)よりも下死点側に設定されている。停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がこのような下死点寄りの特定範囲Rxに停止していれば、ピストン5による圧縮代(上死点までのストローク量)が多いため、エンジン再始動時のピストン5の上昇に伴い、上記気筒2C内の空気は十分に圧縮されて高温・高圧化する。このため、再始動時の最初の燃料を停止時圧縮行程気筒2Cに噴射してやれば、この燃料は、気筒2C内で比較的容易に自着火に至り、燃焼する(1圧縮始動)。
これに対し、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxから上死点側に外れていれば、ピストン5による圧縮代が少なく、ピストン5が上死点まで上昇しても筒内の空気が十分に高温・高圧化しないため、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射しても失火が起きるおそれがある。そこで、このような場合には、停止時圧縮行程気筒2Cではなく停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジンを再始動させる(2圧縮始動)。
上記2圧縮始動では、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が圧縮上死点付近に到達するまでは(つまりエンジン全体として2つ目の圧縮上死点を迎えるあたりまでは)、燃料噴射に基づく燃焼を行わせることができず、エンジン再始動に要する時間、つまり、スタータモータ34の駆動開始時点からエンジンの完爆(例えば回転速度が750rpmに達する状態)までの時間が長くなってしまう。したがって、エンジンを再始動させる際には、できるだけ1圧縮始動によってエンジンを再始動させることが好ましい。
そこで、当実施形態では、少なくとも上記ステップS13で1圧縮始動を行う場合に、燃料噴射弁15にプレ噴射を行わせるようにしている。プレ噴射とは、圧縮上死点付近もしくはそれ以降に噴射される拡散燃焼用の燃料噴射をメイン噴射とした場合に、このメイン噴射よりも前に予備的に噴射される燃料噴射のことである。プレ噴射による燃料は、メイン噴射に基づき主に圧縮上死点以降に生じる拡散燃焼(以下、この燃焼を「メイン燃焼」という)を確実に引き起こすために利用される。すなわち、メイン噴射よりも早い段階で、プレ噴射によって少量の燃料を噴射し、その噴射した燃料を所定の着火遅れの後に燃焼させることにより(以下、この燃焼を「プレ燃焼」という)、筒内温度・圧力を上昇させて、その後に続くメイン燃焼を促進する。
上記のようなプレ噴射を停止時圧縮行程気筒2Cに対し実行すれば、圧縮上死点付近での筒内温度・圧力を故意に高めることができるので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が少々上死点側に近づいても、確実に1圧縮始動によりエンジンを再始動させることができるようになる。上記特定範囲Rxの境界である基準停止位置Xは、このようなプレ噴射による着火性の改善を加味して設定されたものである。つまり、プレ噴射がなかった場合には、上記基準停止位置Xは、図5(b)の例よりも下死点側に設定せざるを得ないが、プレ噴射によって着火性を改善することで、基準停止位置Xをより上死点側に設定することが可能になり、その結果、基準停止位置Xを、例えばBTDC90〜75°CAといった、下死点からかなり離れた位置に設定することが可能となる。これにより、特定範囲Rxが上死点側に拡大するので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がより高い頻度で上記特定範囲Rxに収まることとなり、1圧縮始動による迅速な再始動を行える機会が増える。
ここで、当実施形態におけるプレ噴射は、圧縮上死点前よりも前の所定のクランク角範囲内で複数回(例えば2〜5回のいずれかの回数)実行される。これは、同じ量の燃料であれば、1回のプレ噴射で噴射し切るよりも、複数回のプレ噴射に分けて噴射した方が、ピストン5の冠面に設けられたキャビティ5a内にリッチな混合気を継続的に形成でき、着火遅れを短くできるからである。
この点について図8(a)(b)を用いて詳しく説明する。図8(a)(b)は、プレ噴射により噴射された燃料がキャビティ5a内でどのような挙動を示すかを説明するための図である。
上記プレ噴射は、メイン噴射よりも前であって、かつ噴射した燃料が上記キャビティ5a内に収まるタイミングで行われる。そのタイミングは、例えば、上死点前(BTDC)20〜0°CAの範囲である。図8(a)は、当該クランク角範囲内でプレ噴射を1回だけ行ったケースを示し、図8(b)は、同クランク範囲内で複数回のプレ噴射を行ったケースを示している。
図8(a)に示すように、プレ噴射を1回にした場合には、噴霧Fのペネトレーション(貫徹力)が強いため、キャビティ5aの壁面に沿って噴霧Fが上方に巻き上げられる等により、キャビティ5aの全体、さらにはキャビティ5aの外部へと燃料が拡散し、その結果、キャビティ5a内にリッチな混合気が分布する頻度(空間頻度)が低下する。これに対し、図8(b)に示すように、プレ噴射を複数回にした場合には、プレ噴射1回あたりの噴射量が少なく、噴霧Fのペネトレーションが弱いため、キャビティ5aの底部近辺に多くの燃料が留まる結果(図中のダブルハッチンングの部分)、キャビティ5a内にリッチな混合気が分布する頻度が高くなる。
図9は、8つの噴孔を有する8噴孔の燃料噴射弁15を用いて所定量の燃料をプレ噴射した場合に、噴射後の当量比φがどのように変化するかを説明するための図である。具体的に、図中のA1は、BTDC14°CAの1回のタイミングで6mm3の燃料を噴射した後の当量比φの変化を、A2は、BTDC18°CA以降の3回のタイミングで燃料を2mm3ずつ(合計6mm3)噴射した後の当量比φの変化を、A3は、BTDC18°CA以降の5回のタイミングで燃料を1.2mm3ずつ(合計6mm3)噴射した後の当量比φの変化を、それぞれ示している。なお、図の縦軸は、当量比φ>0.75の混合気がキャビティ5a内にどの程度の頻度で存在するかを示すリッチ混合気比率であり、図の横軸は、圧縮上死点前のクランク角である。
本図に示すように、プレ噴射の回数を1回にした場合(A1)は、噴射直後の当量比φこそ大きいものの、メイン噴射が行われる圧縮上死点付近まで大きい当量比を維持できないことが分かる。これは、先にも述べたように、噴霧のペネトレーションが強過ぎて、噴霧が上方(シリンダヘッド4側)に巻き上げられて拡散するためである。一方、プレ噴射の回数を3回、5回と増やしてやれば(A2,A3)、噴霧のペネトレーションが抑制されるため、キャビティ5a内の特定箇所に多くの燃料が偏在し、その状態が比較的長く継続する。その結果、当量比φの変化も緩やかになり、圧縮上死点(BTDC0°CA)付近まで大きい当量比が維持される。
ここで、混合気の当量比φは、大きい方が(つまり燃料リッチな方が)着火遅れ時間が短くなることが知られている。図10は、混合気の当量比φと着火遅れ時間τとの関係を示す図であり、より具体的には、大気圧の空気をBTDC75°CAのピストン位置から120rpmの回転速度で圧縮することを仮定して、そのときの最高温度、圧力の下で燃料を噴射した場合に、着火遅れ時間τが当量比φによってどのように変化するかを算出した結果である。なお、120rpmという回転速度は、エンジン再始動時における最初の上死点通過時に取り得る回転速度(概ね100〜120rpm程度になる)の一例として設定した。
図10によれば、例えば混合気の当量比φが0.75のとき、着火遅れ時間τは15msとなる。当量比φがこの0.75よりも小さい場合は、当量比φが小さくなるほど(つまり燃料リーンなほど)、着火遅れ時間τが急速に増大する。一方、当量比φが0.75よりも大きい場合は、当量比φが大きいほど(つまり燃料リッチなほど)着火遅れ時間τは短くなるものの、その変化率は緩やかであり、当量比φが0.75より多少大きくても着火遅れ時間τはそれほど変化しない(例えば、φ=1にしてもτは1msしか短くならない)。
このことから、例えば図5(b)の基準停止位置Xの近傍のようなピストン位置(下死点からかなり離れた位置)から圧縮を開始するような場合であっても、φ>0.75の混合気を圧縮上死点付近よりも前につくり出し(図8参照)、それを15ms程度保持すれば、混合気が着火する可能性がある。15msは、回転速度120rpmでは10°CA分にしか過ぎないため、再始動時の最初の圧縮上死点通過時であれば、筒内温度・圧力が最高になる圧縮上死点の近傍で問題なく混合気が着火すると考えられる。
以上のような事情から、当実施形態では、プレ噴射を1回ではなく複数回実施するようにしている。図8に示したように、プレ噴射の回数を複数回にすれば、圧縮上死点に至るまでφ>0.75のリッチな混合気を継続的につくり出せるからである。これにより、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が、基準停止位置Xの近傍のような下死点からかなり離れた位置にある場合(つまりピストン5による圧縮代が少ない場合)でも、プレ噴射された燃料の着火性が確保され、プレ燃焼が確実に引き起こされると考えられる。プレ燃焼が起きれば、停止時圧縮行程気筒2Cの筒内温度・圧力が高められて、その後のメイン噴射による燃料が自着火し易くなるため、1圧縮始動が確実に行われるようになる。
しかも、当実施形態では、エンジンの自動停止制御の途中で(より具体的には燃料カットの直後で、エンジンが惰性で回転している間に)、燃料噴射弁15の燃圧が上昇設定されるので、上記停止時圧縮行程気筒2Cに燃料噴射(プレ噴射およびメイン噴射)を行った際の燃料の微粒化が促進される。これにより、噴射された燃料の着火性がより高められ、自着火に至るまでの着火遅れ時間が短縮される結果、1圧縮始動による始動性が改善される。
ただし、燃圧を上昇させても、エンジンが完全停止した後は、上昇後の燃圧を維持できずに、徐々に燃圧が低下していくことになる。しかしながら、当実施形態では、エンジンの停止時間(エンジンが完全停止した後の経過時間)が所定時間を越えると再始動条件が成立するようになっているので(図7のステップS11)、エンジンの再始動時には、燃圧は極端に低下しておらず、問題なくエンジンを再始動することができる。
図11は、プレ噴射を実行することによる効果を実証するための説明図である。ここでは、一例として、プレ噴射を3回実行し、そのときの燃料噴射率(mm3/deg)の変化を下段に、熱発生率(J/deg)の変化を上段に図示している。具体的には、BTDC18〜10°CAの間に、プレ噴射として1回あたり2mm3の燃料を3回噴射し(下段の波形Ip)、その後、メイン噴射として、プレ噴射よりも多くの(少なくともプレ噴射1回分よりは多くの)燃料を圧縮上死点(BTDC0°CA)で噴射した(下段の波形Im)。そして、そのような燃料噴射に伴いどのような燃焼が生じるかを、熱発生率の変化(上段の波形Bp,Bm)として図示した。
図11に示すように、3回のプレ噴射(Ip)が実行されると、最後のプレ噴射の完了後、所定の着火遅れ時間が経過してから、プレ噴射された燃料の自着火によるプレ燃焼(Bp)が起きる。このプレ燃焼(Bp)は、圧縮上死点(BTDC0°CA)よりも前に生じ、その後熱発生率のピークを迎えてからいったん収束しかけるが、圧縮上死点付近からメイン噴射(Im)が開始されることで、そのメイン噴射された燃料の自着火によるメイン燃焼(Bm)が、引き続いて発生する。このメイン燃焼(Bm)は、プレ燃焼(Bp)によって筒内が高温・高圧化された状態で実行されるメイン噴射(Im)に基づき、ほとんど着火遅れなく燃焼を開始する(拡散燃焼)。
また、図11によれば、プレ燃焼とメイン燃焼とは熱発生率の谷によって分断され、それぞれ独立した燃焼となっている。すなわち、当実施形態において、プレ燃焼(Bp)は、停止時圧縮行程気筒2Cの筒内環境を燃料の自着火に有利な状態に改善する(つまり圧縮上死点付近の筒内温度・圧力を高める)ための燃焼であって、メイン燃焼のようにエンジン始動のためのトルクを発生するための燃焼ではないことが理解できる。
なお、上記プレ噴射およびメイン噴射に基づく燃焼制御は、上記停止時圧縮行程気筒2Cだけでなく、それよりも後に圧縮行程を迎える気筒についても、必要に応じて実行してもよい。エンジン再始動時に最も着火性が厳しいのは、エンジン全体として最初の圧縮上死点(1圧縮TDC)を迎える停止時圧縮行程気筒2Cでの燃焼であるが、少なくとも2回目や3回目の圧縮上死点(2圧縮TDC、3圧縮TDC)を迎える気筒2D、2Bについても、着火性の改善は充分ではないと考えられる。それは、2圧縮TDCや3圧縮TDCでも、エンジン回転速度は充分に速まっていないことから、ピストンリングの隙間からの空気漏れや冷却損失によって筒内の空気が充分に高温・高圧化しない可能性があるためである。そこで、失火を確実に防止する観点から、上記気筒2D,2B等(以下、「後続気筒」という)にもプレ噴射およびメイン噴射に基づく燃焼制御を実行してもよい。
ただし、上記後続気筒が圧縮上死点を迎える2圧縮TDC、3圧縮TDC‥‥では、停止時圧縮行程気筒2Cが圧縮上死点を迎える1圧縮TDCのときよりもエンジン回転速度が速いため、上記後続気筒へのプレ噴射の回数等は、停止時圧縮行程気筒2Cへのそれと必ずしも同一にする必要はない。例えば、停止時圧縮行程気筒2Cへのプレ噴射の回数が4回や5回といった多数回の場合、2圧縮TDC、3圧縮TDC‥‥と進むにつれて、後続気筒へのプレ噴射の回数を減らすとともに、それに伴って各プレ噴射のタイミングや噴射量を調整するようにしてもよい。
また、上記のようなプレ噴射およびメイン噴射に基づく燃焼制御は、停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射する1圧縮始動だけでなく、停止時吸気行程気筒2Dに最初の燃料を噴射する2圧縮始動(図7のステップS14)によってエンジンを再始動する際にも、同様に行うことができる。
(5)作用効果等
以上説明したように、当実施形態では、手動で変速を行うMT車に搭載され、かつアイドルストップ機能を有したディーゼルエンジンにおいて、次のような特徴的な構成を採用した。
ECU(エンジン制御ユニット)60の自動停止制御部61は、運転者の操作(例えば変速操作やクラッチ操作)と車速とに基づくエンジンの自動停止条件が成立すると、その後、システム上の制約条件がクリアされていることを確認した上で、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行し、その燃料カットの実行後(図4の時点t2の後)、エンジンが完全停止するまでの間に、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる制御を実行する。そして、エンジンの自動停止後、再始動条件が成立すると、ECU60の再始動制御部62は、圧縮行程で停止した停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が所定の基準停止位置Xよりも下死点側に設定された特定範囲Rx(図5(b))にあるか否かを判定し、特定範囲Rxにある場合には、燃料噴射弁15から上記停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射することで、エンジンを再始動させる(1圧縮始動)。
このように、上記実施形態では、自動停止条件が成立してエンジンが自動停止される過程で、燃料噴射弁15の燃圧を上昇させる制御が実行されるため、その後にエンジンを再始動させるために燃料噴射弁15から燃料を噴射するときに、比較的高い燃圧によって燃料を微粒化することができ、燃料の着火性を高めることができる。燃料の着火性が高められると、停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射によってエンジンを再始動させる1圧縮始動が可能なピストン停止位置範囲(特定範囲Rx)を上死点側に拡大し得るため、1圧縮始動の機会を増やして、迅速な始動性を確保することができる。
特に、上記実施形態では、自動停止条件の成立に伴い燃料カットが実行された後、エンジンが完全停止する前に、燃圧が上昇設定されるので、燃料噴射弁15に燃料を供給するサプライポンプ43として一般的な機械式のポンプ(エンジンによって機械的に駆動されるポンプ)を用いながらも、燃圧を上昇させる制御を無理なく行うことができる。つまり、エンジンの完全停止後に燃圧を上昇させようとすれば、エンジンとは無関係に動作可能な特殊な(例えば電動式の)サプライポンプを用いる必要が生じるが、上記実施形態のようにエンジンの完全停止の前に燃圧を高めるようにした場合には、上記のような特殊なサプライポンプを用いる必要がないので、余計なコストをかけることなく、確実に燃圧を高めて着火性を改善することができる。しかも、燃料カットの後で燃圧が上昇設定されるため、燃圧を上昇させるために余計な燃料が消費されることがなく、燃費の悪化を効果的に防止することができる。
例えば、上記実施形態とは異なり、燃料カットよりも前(燃料噴射に基づくエンジンの運転が継続されている期間中)に燃圧を上昇させた場合には、燃圧の上昇に伴いサプライポンプ43の仕事が増える(これによりエンジンに与える抵抗力が増大する)ため、燃圧上昇前と同じトルクを得るために燃料噴射弁15からの噴射量を一時的に増やす必要が生じ、燃費の悪化が避けられなくなる。
図12は、上記実施形態との比較のために、燃料カットよりも前に燃圧を上昇させた場合の各状態量の変化を示す図である。なお、本図では、自動停止条件が成立した時点をt0’、吸気絞り弁30の閉弁を開始する時点をt1’、燃料カットの実行時点をt2’としている。また、時点t3’〜t6’は、図4の時点t3〜t6に対応している。
上記図12の比較例では、時点t0’で自動停止条件が成立してから、その後の時点t2’で燃料カットが実行されるまでの間に、燃料噴射弁15の目標燃圧が上昇設定され、これに伴って燃焼噴射弁15の実際の燃圧(実燃圧)が上昇している。すると、このような燃圧の上昇に伴い、燃料噴射弁15からの目標噴射量も上昇設定される(図12において破線で囲んだZの部分参照)。これは、噴射量を増やさないとエンジンのトルクが低下し、アイドリング時に必要な所定の回転速度を維持できなくなるからである。
すなわち、燃圧を上昇させる際には、図3に示したSCV43bが全閉にされるが、このSCV43bが全閉にされると、サプライポンプ43からリターンパイプ48に逃がされる燃料の流れが遮断されるため、サプライポンプ43は、より多くの燃料をコモンレール45に圧送しなければならなくなり、サプライポンプ43の仕事量が増大する。すると、サプライポンプ43からカムシャフトを通じてエンジン本外1に伝わる抵抗力が増大し、エンジンのトルクが減殺される。そこで、これを補うために、図12のZ部に示したように、燃料噴射弁15からの噴射量を増大させる措置が必要になる。しかしながら、噴射量の増大は、一時的にでも燃費の悪化につながるため、当然好ましくない。
これに対し、上記実施形態では、図4に示したように、エンジンの惰性回転中(燃料カットの実行時点t2の直後であって、エンジンが完全停止するよりも前)に燃圧を上昇させるようにした。これにより、上記のような噴射量の増大が必要なくなるため、燃費を何ら悪化させることなく、燃圧を上昇させることができ、再始動時の着火性を改善することができる。
しかも、上記実施形態の構成は、手動変速機101を搭載する車両(MT車)に搭載されるエンジンを対象としている。MT車では、比較的大きな質量をもったフライホイール102aがクランク軸7に取り付けられるため、燃料噴射を停止する燃料カットの後(時点t2以降)でも、エンジンは比較的長い期間にわたって惰性で回転する。このため、たとえ燃料カットの後であっても、エンジンの回転力を利用して燃圧を充分に上昇させることが可能となり、着火性の改善を問題なく図ることができる。
また、上記実施形態では、エンジンが自動停止した後、停止時圧縮行程気筒2Cへの燃料噴射によってエンジンを再始動させる1圧縮始動の際に、例えば図11に示したように、圧縮上死点を過ぎてから熱発生率のピークを迎えるようなメイン燃焼(Bm)を起こさせるメイン噴射(Im)と、このメイン噴射の開始よりも前に熱発生率のピークを迎えるようなプレ燃焼(Bp)を起こさせるプレ噴射(Ip)とが実行される。このような構成によれば、1圧縮始動時の着火性をより改善して、エンジン始動の迅速化をさらに促進することができる。
すなわち、プレ噴射された少量の燃料は、所定の着火遅れの後に自着火により燃焼し(プレ燃焼)、停止時圧縮行程気筒2Cの筒内温度・圧力を上昇させるため、それに引き続いてメイン噴射が実行されたときには、噴射された燃料がほどなく自着火により燃焼する(メイン燃焼)。このように、メイン噴射された燃料の着火性が、それ以前のプレ噴射(プレ燃焼)によって改善されるため、停止時圧縮行程気筒2Cでの圧縮代(上死点までのストローク量)がそれほど多くなくても、停止時圧縮行程気筒2Cでの燃焼は確実に行われる。この結果、1圧縮始動が可能なピストン停止位置範囲(特定範囲Rx)をより上死点側に拡大することができ、エンジン始動の迅速化をさらに促進することができる。
しかも、上記実施形態では、8〜12個という多数の噴孔を有した燃料噴射弁15を用いているため、上記のような燃圧上昇制御(燃料カット前に燃料噴射弁15の燃圧を予め上昇させる制御)による作用との相乗効果により、噴射した燃料の微粒化をさらに促進することができ、燃料の着火性を高めることができる。
さらに、上記実施形態では、ピストン5の冠面に設けられたキャビティ5a内に燃料が収まるようなタイミングでプレ噴射を複数回実行するようにしたため、キャビティ5aの内部に着火し易い(着火遅れ時間の短い)リッチな混合気を確実に形成することができる。この結果、プレ噴射した燃料がより確実に自着火し(プレ燃焼)、そのことがメイン噴射した燃料の自着火(メイン燃焼)を促進するため、1圧縮始動による迅速な再始動の機会をより増やすことができる。
特に、燃料カットの前に予め燃圧を高める上記実施形態の構成において、プレ噴射の回数を1回にした場合には、そのプレ噴射によって比較的多くの燃料が高い燃圧で噴射されることにより、噴霧のペネトレーションが強まり、噴射された燃料がキャビティ5aの外部まで拡散する傾向が強くなる。すると、キャビティ5a内に形成されるリッチな混合気の割合が低下し、着火性が悪化するおそれがある。これに対し、上記実施形態のように、プレ噴射の回数を複数回にした場合には、プレ噴射1回あたりの噴射量が少なくなり、ペネトレーションが弱まるため、燃圧を高めつつも確実にリッチな混合気を形成でき、燃料の着火性を効果的に高めることができる。
また、上記実施形態では、自動停止条件が成立したことに加えて、システム上の制約条件をクリアしている場合に限り、エンジンが自動停止されるようになっている。このため、たとえエンジンの自動停止条件が成立したとしても、エンジンを停止させることがシステム上問題になる場合は(例えばエンジンが極冷間にあるために再始動時の始動性を確保できない場合は)、エンジンは停止されず、むやみにエンジンが自動停止されることによる諸問題を回避することができる。
一方、上記システム上の制約条件には、エンジンの冷却水温が25℃以上という要件が含まれている。この場合は、エンジンの冷却水が比較的低温であってもエンジンが自動停止されるため、その後のエンジン再始動時に着火性を確保できるかが問題となるが、上記実施形態では、エンジンの惰性回転期間を利用して予め燃料噴射弁15の燃圧を上昇させておき、しかもエンジンの再始動時にはプレ噴射を実行するため、上記のようにシステム上の制約条件を緩くしても、着火性の問題を充分にクリアすることができる。
なお、上記実施形態では、自動停止条件が成立してから燃料カットが実行されるまでの間に、ECU60の自動停止制御部61(燃圧調整手段)が、サプライポンプ43に内蔵されたSCV43bを全閉にする制御を実行し、それによって燃料噴射弁15の燃圧を上昇させるものとしたが、本発明における燃圧調整手段の制御は、それほど遅くない応答性で燃圧を上昇できるものであればよく、上記SCV43bを用いた制御に特に限定されない。
また、上記実施形態では、少なくとも停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射する際に、プレ噴射を複数回(例えば2〜5回のいずれか)実行するようにしたが、例えば停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が特定範囲Rxの中でもかなり下死点側にある場合や、エンジンの自動停止後ほとんど時間を空けずに再始動条件が成立したような場合(つまりエンジン停止時間がかなり短い場合)等のように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が圧縮上死点まで上昇したとき(1圧縮TDC時)の筒内温度がかなり高くなると予想される場合には、プレ噴射の回数を1回のみに設定してもよい。
また、上記実施形態では、幾何学的圧縮比が14のエンジン本体1を備えたディーゼルエンジンを例に挙げて本発明の好ましい形態を説明したが、当然ながら、本発明の構成を適用可能なエンジンは、幾何学的圧縮比が14のものに限られない。例えば、幾何学的圧縮比が16未満のディーゼルエンジンであれば、従来から多用されてきたディーゼルエンジンに比べれば圧縮比が低く、相対的に着火性が悪いため、燃圧の上昇設定等によって再始動時の着火性を高める本発明の構成を好適に適用できる余地がある。一方、ディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比は、着火性の限界から、12以上は必要であると考えられる。以上のことから、本発明を好適に適用可能なディーゼルエンジンは、幾何学的圧縮比が12以上16未満のディーゼルエンジンであり、より好ましくは、幾何学的圧縮比が13以上15以下のディーゼルエンジンであるといえる。
また、上記実施形態では、クラッチ102の断続(フライホイール102aとクラッチプレート102bとの離接)を、クラッチペダル36を踏み込むかまたはリリースすることによって実現する3ペダル式のMT車に、本発明の制御装置を適用した例について説明したが、本発明は、このような3ペダル式のMT車に限らず、クラッチ102の断続を自動制御することによりクラッチペダルの省略を可能にした2ペダル式のMT車(いわゆるセミオートマ車)にも適用することができる。
また、本発明は、圧縮自己着火式のエンジンであれば、上記実施形態のようなディーゼルエンジン(軽油を自着火により燃焼させるエンジン)に限らず適用可能である。例えば、最近では、ガソリンを含む燃料を高圧縮比で圧縮して自着火させるタイプのエンジンが研究、開発されているが、このような圧縮自己着火式のガソリンエンジンに対しても、本発明にかかる自動停止・再始動制御を好適に適用することができる。