(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る始動制御装置が適用されたディーゼルエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるディーゼルエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、いわゆる直列4気筒型のものであり、紙面に直交する方向に列状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dにそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、燃料としての軽油が、後述する燃料噴射弁15からの噴射によって供給される。そして、噴射された燃料(軽油)が、ピストン5の圧縮作用により高温・高圧化した燃焼室6で自着火し(圧縮自己着火)、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動するようになっている。
上記ピストン5は図外のコネクティングロッドを介してクランクシャフト7と連結されており、上記ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて上記クランクシャフト7が中心軸回りに回転するようになっている。
ここで、図示のような4サイクル4気筒のディーゼルエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、各気筒2A〜2Dでの燃焼(そのための燃料噴射)のタイミングは、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、気筒2A,2B,2C,2Dの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる。
上記シリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室6に開口する吸気ポート9及び排気ポート10と、各ポート9,10を開閉する吸気弁11及び排気弁12とが設けられている。なお、吸気弁11及び排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト等を含む動弁機構13,14により、クランクシャフト7の回転に連動して開閉駆動される。
また、上記シリンダヘッド4には、燃料噴射弁15が各気筒2A〜2Dにつき1つずつ設けられている。各燃料噴射弁15は、蓄圧室としてのコモンレール20に分岐管21を介してそれぞれ接続されている。コモンレール20には、燃料供給ポンプ23から燃料供給管22を通じて供給された燃料(軽油)が高圧状態で蓄えられており、このコモンレール20内で高圧化された燃料が分岐管21を通じて各燃料噴射弁15にそれぞれ供給されるようになっている。
上記燃料噴射弁15は、先端部に複数の噴孔を有した多噴孔型のものであり、その内部に、上記各噴孔に通じる燃料通路と、この燃料通路を開閉するために電磁的に駆動されるニードル状の弁体とを有している(いずれも図示省略)。そして、通電による電磁力で上記弁体が開方向に駆動されることにより、コモンレール20から供給された燃料が上記各噴孔から燃焼室6に向けて直接噴射されるようになっている。なお、本実施形態における燃料噴射弁15は、8〜12個という多数の噴孔を有している。
上記燃料噴射弁15と対向するピストン5の冠面(上面)の中央部には、他の部分(冠面の周縁部)よりも下方に凹んだキャビティ5aが形成されている。このため、ピストン5が上死点の近くにある状態で上記燃料噴射弁15から燃料が噴射された場合、この燃料は、まずキャビティ5aの内部に進入することになる。
ここで、本実施形態のエンジン本体1は、その幾何学的圧縮比(ピストン5が下死点にあるときの燃焼室容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室容積との比)が14に設定されている。すなわち、一般的な車載用のディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比が18もしくはそれ以上に設定されることが多いのに対し、本実施形態では、幾何学的圧縮比が14というかなり低い値に設定されている。
上記シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出するための水温センサSW1が、上記シリンダブロック3に設けられている。
また、上記シリンダブロック3には、クランクシャフト7の回転角度及び回転速度(すなわちエンジン回転速度)を検出するためのクランク角センサSW2が設けられている。このクランク角センサSW2は、クランクシャフト7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力する。
具体的に、上記クランクプレート25の外周部には、一定ピッチで並ぶ多数の歯が突設されており、その外周部における所定範囲には、基準位置を特定するための歯欠け部25a(歯の存在しない部分)が形成されている。そして、このように基準位置に歯欠け部25aを有したクランクプレート25が回転し、それに基づくパルス信号が上記クランク角センサSW2から出力されることにより、クランクシャフト7の回転角度(クランク角)及び回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
一方、上記シリンダヘッド4には、動弁用のカムシャフト(図示省略)の角度を検出するためのカム角センサSW3が設けられている。カム角センサSW3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じて、気筒判別用のパルス信号を出力する。
すなわち、上記クランク角センサSW2から出力されるパルス信号の中には、上述した歯欠け部25aに対応して360°CAごとに生成される無信号部分が含まれるが、その情報だけでは、例えばピストン5が上昇しているときに、それがどの気筒の圧縮行程又は排気行程にあたるのか判別することができない。そこで、720°CAごとに1回転するカムシャフトの回転に基づきカム角センサSW3からパルス信号を出力させ、その信号が出力されるタイミングと、上記クランク角センサSW2の無信号部分のタイミング(歯欠け部25aの通過タイミング)とに基づいて、気筒判別を行うようにしている。
上記吸気ポート9及び排気ポート10には、吸気通路28及び排気通路29がそれぞれ接続されている。すなわち、外部からの吸入空気(新気)が上記吸気通路28を通じて燃焼室6に供給されると共に、燃焼室6で生成された排気ガス(燃焼ガス)が上記排気通路29を通じて外部に排出されるようになっている。
上記吸気通路28のうち、エンジン本体1から所定距離上流側までの範囲は、気筒2A〜2Dごとに分岐した分岐通路部28aとされており、各分岐通路部28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに接続されている。このサージタンク28bよりも上流側には、単一の通路からなる共通通路部28cが設けられている。
上記共通通路部28cには、各気筒2A〜2Dに流入する空気量(吸気流量)を調節するための吸気絞り弁30が設けられている。吸気絞り弁30は、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路28を遮断するように構成されている。
また、上記吸気絞り弁30とサージタンク28bとの間の共通通路部28cには、吸気流量を検出するためのエアフローセンサSW4が設けられている。サージタンク28bには、サージタンク28b内の圧力を検出するインマニ圧センサSW5が設けられている。ここで、サージタンク28b内の圧力は、吸気絞り弁30よりも下流側の吸気通路28内の圧力、すなわち下流側圧力に相当する。
上記クランクシャフト7には、タイミングベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルの電流を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる発電量の目標値(目標発電電流)に基づき、クランクシャフト7から駆動力を得て発電を行うように構成されている。
上記シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。上記ピニオンギア34bは、クランクシャフト7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、上記スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動して上記リングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランクシャフト7が回転駆動されるようになっている。
(2)制御系
以上のように構成されたエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)50により統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
上記ECU50には、各種センサから種々の情報が入力される。すなわち、ECU50は、エンジンの各部に設けられた上記水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、エアフローセンサSW4、及びインマニ圧センサSW5と電気的に接続されており、これら各センサSW1〜SW5からの入力信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別情報、吸気流量、吸気圧力(下流側圧力)等の種々の情報を取得する。
また、ECU50には、車両に設けられた各種センサ(SW6〜SW9)からの情報も入力される。すなわち、車両には、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル36の開度を検出するためのアクセル開度センサSW6と、ブレーキペダル37のON/OFF(ブレーキの有無)を検出するためのブレーキセンサSW7と、車両の走行速度(車速)を検出するための車速センサSW8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するためのバッテリセンサSW9とが設けられている。ECU50は、これら各センサSW6〜SW9からの入力信号に基づいて、アクセル開度、ブレーキの有無、車速、バッテリの残容量といった情報を取得する。
上記ECU50は、上記各センサSW1〜SW9からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。具体的に、ECU50は、上記燃料噴射弁15、吸気絞り弁30、オルタネータ32、及びスタータモータ34と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
上記ECU50が有するより具体的な機能について説明する。ECU50は、例えばエンジンの通常運転時に、運転条件に基づき定められる所要量の燃料を燃料噴射弁15から噴射させたり、車両の電気負荷やバッテリの残容量等に基づき定められる所要発電量をオルタネータ32に発電させる等の基本的な機能を有する他、いわゆるアイドルストップ機能として、予め定められた特定の条件下でエンジンを自動的に停止させ、又は再始動させる機能をも有している。このため、ECU50は、エンジンの自動停止又は再始動制御に関する機能的要素として、自動停止制御部51及び再始動制御部52を有している。
上記自動停止制御部51は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、且つ、エンジンを停止させても支障のない状態であるか(システム条件が成立したか)否かを判定し、両方が確認された場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
例えば、車両が停止状態にあること等の複数の要件が揃い(自動停止条件が成立し)、且つ、エンジンを停止させても支障のない状態である(システム条件が成立した)ことが確認された場合に、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止(燃料カット)する等により、エンジンを停止させる。
上記再始動制御部52は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを再始動させる制御を実行するものである。
例えば、車両を発進させるために運転者がアクセルペダル36を踏み込むなどして、エンジンを始動させる必要が生じたときに、再始動条件が成立したと判定する。そして、スタータモータ34を駆動してクランクシャフト7に回転力を付与しつつ、燃料噴射弁15からの燃料噴射を再開させることにより、エンジンを再始動させる。
(3)自動停止制御
次に、上記ECU50の自動停止制御部51により実行されるエンジンの自動停止制御の内容をより具体的に説明する。図2は、エンジンの自動停止制御時における各状態量の変化を示すタイムチャートである。本図では、エンジンの自動停止条件が成立し、且つ、システム条件が成立した時点をt1としている。なお、図中、「インマニ圧」とあるのは、インマニ圧センサSW5で検出されるサージタンク28b内の圧力(下流側圧力)のことである。
図2に示すように、エンジンの自動停止制御の際には、まず、上記2つの条件の成立時点t1で、吸気絞り弁30が閉方向に駆動され、その開度が、上記条件が成立する前に設定されていた通常運転時の開度(図例では80%)から、最終的に全閉(0%)まで低減される。そして、吸気絞り弁30の開度を全閉にしたまま、時点t2で、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する制御(燃料カット)が実行される。
次いで、上記燃料カットの実行後、エンジン回転速度が徐々に低下する途上で、吸気絞り弁30が再び開かれる。具体的には、全気筒2A〜2Dにおけるエンジン停止直前の最後の上死点を最終TDCとしたときに、この最終TDCよりも1つ前の上死点(2TDC)の通過時(時点t4)に、吸気絞り弁30が開方向に駆動され、その開度が0%を超える所定の開度(図例ではB又はC)まで増やされる。
その後、時点t5で最終TDC(i)を迎えた後、エンジンは、一時的にピストンの揺れ戻しにより逆回転するも、一度も上死点を越えることなく、時点t6で完全停止状態に至る。
ここで、上記のように吸気絞り弁30を開く制御を時点t4で実行するのは、エンジンが完全停止したときに圧縮行程にある気筒、つまり停止時圧縮行程気筒(図2では3番気筒2C)のピストン停止位置を、図3(b)に示すように、上死点と下死点との間に位置する基準停止位置Xよりも下死点側に設定された特定範囲Rxにできるだけ収めるためである。なお、基準停止位置Xは、エンジンの形状(排気量、ボア/ストローク比等)や暖機の進行度合い等によって異なり得るが、例えば上死点前(BTDC)90°CA近傍の位置に設定することができる。例えば、基準停止位置XがBTDC90°CAである場合、上記特定範囲Rxは、BTDC90〜180°CAの範囲となる。
上記停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上記特定範囲Rxで停止していれば、その後エンジンの再始動条件が成立したときに、上記停止時圧縮行程気筒2Cに最初の(エンジン全体として最初の)燃料を噴射する1圧縮始動によって、エンジンを迅速に再始動させることができる。一方、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が上記特定範囲Rxから外れていれば、再始動の開始後、停止時圧縮行程気筒2Cの次に圧縮行程を迎える気筒、つまりエンジン停止時に吸気行程にある停止時吸気行程気筒(図2では4番気筒2D)に燃料を噴射する2圧縮始動によってエンジンを再始動する必要が生じる。このように、ピストン停止位置によって1圧縮始動と2圧縮始動とを使い分けるのは、ピストン停止位置によって停止時圧縮行程気筒2Cでの着火性が異なるからである。
上記2圧縮始動は、停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程に移行するまで燃料を燃焼させることができないので、始動の迅速性という点では、1圧縮始動の方が有利である。このため、1圧縮始動を高い頻度で実行可能にするには、できるだけ停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を上記特定範囲Rxに収める必要がある。そこで、本実施形態では、図2に示したように、時点t4で吸気絞り弁30を開くようにしている。すなわち、図2の制御によれば、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC(ii))までは(時点t4までは)、吸気絞り弁30の開度が0%とされ、2TDC(ii)を過ぎると(時点t4を過ぎると)、吸気絞り弁30の開度が0%超の所定開度まで増大される。これにより、2TDC(ii)から吸気行程を迎える(時点t4〜時点t5が吸気行程となる)停止時圧縮行程気筒2Cに対する流入空気量が、最終TDCの2つ前の上死点(3TDC(iii))から吸気行程を迎える(時点t3〜時点t4が吸気行程となる)気筒、言い換えると、エンジンが完全停止したときに膨張行程にある停止時膨張行程気筒(図2では1番気筒2A)に対する流入空気量よりも増大することになる。
この点について図3(a),(b)を用いてより詳しく説明する。上記のように2TDC(ii)の通過時に吸気絞り弁30を開くと、上述したように、エンジンが自動停止する直前に、停止時圧縮行程気筒2C内への流入空気量(充填量)が停止時膨張行程気筒2A内への流入空気量(充填量)よりも多くなる。これにより、図3(a)に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5に作用する圧縮空気による押下げ力(圧縮された空気が膨張しようとする力)が大きくなる一方、停止時膨張行程気筒2Aのピストン5に作用する圧縮空気による押下げ力が小さくなる(むしろ停止時膨張行程気筒2Aのピストン5に作用する膨張空気による押上げ力が大きくなる)。このため、エンジンが完全停止したときには、図3(b)に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5の停止位置が自ずと下死点寄りとなり(停止時膨張行程気筒2Aのピストン5の停止位置は上死点寄りとなり)、結果として、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を、比較的高い頻度で、上記基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rxに停止させることができるようになる。特定範囲Rxでピストン5が停止していれば、エンジンの再始動時には、停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射する1圧縮始動によってエンジンを迅速に再始動させることが可能となる。
上記のような技術を前提として、本実施形態では、さらに次のような改良が加えられている。
図4は、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中(時点t4〜時点t5)の下流側圧力(インマニ圧センサSW5で検出されるサージタンク28b内の圧力)と、停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程中(時点t3〜時点t4)の下流側圧力との偏差(図中「インマニ圧偏差」と記す)と、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置との相関図である。図5は、2TDCを通過するときのエンジン回転速度(2TDC通過回転速度)と、上記インマニ圧偏差との相関図である。
図4に示される例によれば、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の下流側圧力(インマニ圧)と停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程中の下流側圧力との偏差がαを境にして、αより大きいときは、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置は下死点寄り(およそBTDC102〜138°CAの範囲)となり、αより小さいときは、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置は上死点寄り(およそBTDC73〜60°CAの範囲)となる。
図5に示される例によれば、2TDC通過回転速度が低いほど、上記インマニ圧偏差が大きくなる。図例では、2TDC通過回転速度がn1〜n2rpmを境にして、n1〜n2rpmより低いときは、上記インマニ圧偏差がαより大きくなり、n1〜n2rpmより高いときは、上記インマニ圧偏差がαより小さくなる。
これらを総合すると、2TDC通過回転速度が低いほど、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が下死点寄りとなる。図4、図5に示される例においては、2TDC通過回転速度がn1〜n2rpmより低いときは、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置がおよそBTDC102〜138°CAの範囲となり、1圧縮始動が可能となる。しかし、2TDC通過回転速度がn1〜n2rpmより高いときは、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置がおよそBTDC73〜60°CAの範囲となり、1圧縮始動が難しくなる。
そこで、本実施形態では、1圧縮始動を高い頻度で実行可能にするため、2TDC通過回転速度が高いときでも、上記インマニ圧偏差を大きくして、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を下死点寄りにする対策が講じられている。
図6は、図2の各状態量のうち、「TDC通過回転速度」、「クランク角」及び「インマニ圧」を抜き出し、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程(時点t4〜時点t5)付近におけるこれらの挙動をより詳しく示すタイムチャートである。図2及び図6に実線で示す変化は2TDC通過回転速度が相対的に低い場合のもの、図2及び図6に鎖線で示す変化は2TDC通過回転速度が相対的に高い場合のものである。そして、2TDC通過回転速度として、それが相対的に低い場合は符号Aを付し、相対的に高い場合は符号A’を付した。また、時点t4で開く吸気絞り弁30の開度として、2TDC通過回転速度が相対的に低い場合は符号Bを付し、相対的に高い場合は符号Cを付した。また、2TDC通過回転速度が相対的に低い場合の最終TDCに符号i及び最終TDC通過時点に符号t5を付したのに対し、2TDC通過回転速度が相対的に高い場合の最終TDCに符号i’及び最終TDC通過時点に符号t5’を付した。
上記のように、エンジンの自動停止制御において、停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程中(時点t3〜時点t4)は吸気絞り弁30を閉じておき(開度0%)、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中(時点t4〜時点t5)は吸気絞り弁30を開く(開度0%超)ことにより、停止時圧縮行程気筒2C内への流入空気量が停止時膨張行程気筒2A内への流入空気量よりも多くなり、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を比較的高い頻度で基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rxに停止させることができるようになる。
図2に示したように、時点t4で吸気絞り弁30を開くことにより、吸気絞り弁30よりも下流側の吸気通路28内の圧力、すなわちインマニ圧(下流側圧力)が増大し、停止時圧縮行程気筒2C内への流入空気量が増大する。インマニ圧は最終的に大気圧まで増大するが、大気圧まで増大するにはある程度の時間がかかる。図例では、インマニ圧は、最終TDC(i)通過後(時点t5の後)に大気圧まで増大している。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程はインマニ圧の増大中に(すなわちインマニ圧がまだ大気圧に達していないうちに)終了する。
図6に示したように、2TDC通過回転速度が相対的に低いAのとき、すなわち停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中(時点t4〜時点t5)のエンジン回転速度が相対的に低いと判断されるときは、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程の期間が長くなり、最終TDC(i)を相対的に遅く迎えて、上記吸気行程は相対的に遅い時点t5で終了する。一方、2TDC通過回転速度が相対的に高いA’のとき、すなわち停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中(時点t4〜時点t5’)のエンジン回転速度が相対的に高いと判断されるときは、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程の期間が短くなり、最終TDC(i’)を相対的に早く迎えて、上記吸気行程は相対的に早い時点t5’で終了する。
そして、2TDC通過回転速度が相対的に低いAのときは、時点t4で吸気絞り弁30を開度Bまで開く(図2参照)。この結果、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程終了時点t5ではインマニ圧はcまで増大し、停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程終了時点t4でのインマニ圧aとの偏差(インマニ圧偏差)が相対的に大きくなる。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が十分下死点寄りとなり、1圧縮始動が可能となる。これに対し、いまもし仮に、2TDC通過回転速度が相対的に高いA’のときでも、時点t4で開く吸気絞り弁30の開度をBとすると、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程終了時点t5’ではインマニ圧はbまでしか増大せず、上記インマニ圧aとのインマニ圧偏差が相対的に小さくなる。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が下死点寄りとなり難く、1圧縮始動が難しくなる。
そこで、本実施形態では、2TDC通過回転速度が相対的に高いA’のときは、時点t4で吸気絞り弁30を上記開度Bより大きい開度Cまで開く(図2参照)。この結果、インマニ圧の増大速度が大きくなり、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程終了時点t5’ではインマニ圧はdまで増大し、上記インマニ圧aとのインマニ圧偏差が十分大きくなる。そのため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が十分下死点寄りとなり、1圧縮始動が可能となる。
次に、以上のようなエンジン自動停止制御を司る自動停止制御部51の具体的制御動作の一例について、図7のフローチャートを用いて説明する。
図7のフローチャートに示す処理がスタートすると、自動停止制御部51は、各種センサ値を読み込む制御を実行する(ステップS1)。具体的には、水温センサSW1、クランク角センサSW2、カム角センサSW3、エアフローセンサSW4、インマニ圧センサSW5、アクセル開度センサSW6、ブレーキセンサSW7、車速センサSW8、及びバッテリセンサSW9からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、エンジン回転速度、気筒判別情報、吸気流量、インマニ圧、アクセル開度、ブレーキの有無、車速、バッテリの残容量等の各種情報を取得する。
次いで、自動停止制御部51は、上記ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、車両が停止していること、アクセルペダル36の開度がゼロ(アクセルOFF)であること、ブレーキペダル37が操作中(ブレーキON)であること、等の複数の要件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する。なお、車速については、必ずしも完全停止(車速=0km/h)を条件とする必要はなく、所定の低車速以下(例えば3km/以下)という条件を設定してもよい。
上記ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部51は、エンジンを停止させても支障のない状態であるか否か、つまりシステム条件が成立しているか否かを判定する(ステップS3)。例えば、エンジンの冷却水温が所定値以上であること、バッテリの残容量が所定値以上であること等の複数の要件が全て揃ったときに、システム条件が成立したと判定する。
上記ステップS3でYESと判定されてシステム条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部51は、吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定する制御を実行する(ステップS4)。すなわち、図2のタイムチャートに示したように、上記自動停止条件及びシステム条件が成立した時点t1で、吸気絞り弁30の開度を閉方向に駆動し始め、その開度を最終的に0%まで低下させる。
次いで、自動停止制御部51は、燃料噴射弁15からの燃料の供給を停止する燃料カットを実行する(ステップS5)。すなわち、上記条件が成立した以降の時点t2で、各気筒2A〜2Dの燃料噴射弁15に対する駆動信号を全てOFFにし、各燃料噴射弁15の弁体を全閉位置に維持することにより、燃料カットを実行する。
次いで、自動停止制御部51は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかのピストン5が上死点を迎えたときのエンジン回転速度(上死点通過回転速度)の値が、予め定められた所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS6)。なお、図2に示すように、エンジン回転速度は、4つの気筒2A〜2Dのいずれかが圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間の上死点)を迎える度に一時的に落ち込み、圧縮上死点を越えた後に再び上昇するというアップダウンを繰り返しながら徐々に低下していく。よって、上死点通過回転速度は、エンジン回転速度のアップダウンの谷のタイミングにおける回転速度として測定することができる(図2の「TDC通過回転速度」参照)。
上記ステップS6での上死点通過回転速度に関する判定は、エンジン停止直前の最後の上死点(最終TDC)よりも1つ前の上死点(2TDC)を通過するタイミング(図2の時点t4)を特定するために行われる。すなわち、エンジンを自動停止させる過程において、エンジン回転速度の低下の仕方には一定の規則性があるため、上死点の通過時にそのときの回転速度(上死点通過回転速度)を調べれば、それが最終TDCの何回前の上死点にあたるのかを推定することができる。そこで、上死点通過回転速度を常時測定し、それが予め設定された所定範囲、すなわち、最終TDCの1つ前の上死点(2TDC)を通過するときの回転速度として予め実験等により求められた所定範囲の中に入るか否かを判定することにより、上記2TDCの通過タイミングを特定する。
上記ステップS6でYESと判定されて現時点が2TDC通過タイミングであることが確認された場合、自動停止制御部51は、そのときの(図2の時点t4での)TDC通過回転速度、すなわち2TDC通過回転速度が、予め定められた所定回転速度K1以上か否かを判定する(ステップS7)。この所定回転速度K1は、例えば、図4、図5に示された例の場合、n1〜n2rpmを採用することができる。
そして、2TDC通過回転速度が上記所定回転速度K1未満のときは、2TDC通過回転速度が相対的に低いとき(Aのとき)と判断して、吸気絞り弁30の開度を7%(開度B)とする(ステップS8)。これに対し、2TDC通過回転速度が上記所定回転速度K1以上のときは、2TDC通過回転速度が相対的に高いとき(A’のとき)と判断して、吸気絞り弁30の開度を30%(開度C)とする(ステップS9)。これにより、いずれの場合も、時点t4から吸気行程を迎える停止時圧縮行程気筒2Cに対する流入空気量が、その1サイクル前(時点t3〜時点t4)が吸気行程であった停止時膨張行程気筒2Aに対する流入空気量よりも増大する。しかも、2TDC通過回転速度が相対的に高いA’のときは、時点t4で、吸気絞り弁30を、2TDC通過回転速度が相対的に低いAのときの開度Bより大きい開度Cまで開くので、インマニ圧の増大速度が大きくなり、図6に示したように、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程終了時点t5’ではインマニ圧はdまで増大し、停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程終了時点t4でのインマニ圧aとのインマニ圧偏差が十分大きくなる。
その後、自動停止制御部51は、エンジン回転速度が0rpmであるか否かを判定することにより、エンジンが完全停止したか否かを判定する(ステップS10)。そして、エンジンが完全停止していれば(時点t6)、自動停止制御部51は、例えば、吸気絞り弁30の開度を、通常運転時に設定される所定の開度(例えば80%)に設定する等して、自動停止制御を終了する。
以上のように、この自動停止制御では、時点t4の2TDC通過時に吸気絞り弁30を開くステップS7、S8の制御により、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程と停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程とのインマニ圧偏差が大きくなり、停止時圧縮行程気筒2Cと停止時膨張行程気筒2Aとの流入空気量(充填量)に差が生じているため、エンジンが完全停止したときには、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が、比較的高い頻度で下死点寄りの特定範囲Rx(図3(b))内に収まることになる。しかも、2TDC通過回転速度が高いA’のときは、低いAのときに比べて、時点t4での吸気絞り弁30の開度を大きくしているので(開度C>開度B)、2TDC通過回転速度が高いA’のときでも、上記インマニ圧偏差が十分大きくなり、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を確実に下死点寄りにすることができ、1圧縮始動をより一層高い頻度で実行することが可能となる。
なお、ステップS8の2TDC通過回転速度が相対的に低いAのときの開度7%及びステップS9の2TDC通過回転速度が相対的に高いA’のときの開度30%は、主として、MT(手動変速)車両の場合に好適である。AT(自動変速)車両の場合は、2TDC通過回転速度が相対的に低いAのときの開度は20%及び2TDC通過回転速度が相対的に高いA’のときの開度は30%が好適と考えられる。MT車両のほうがより小さい開度に抑えられているのは、MT車両では、デュアルマスフライホイール(DMF)が組み込まれることが多いので、停止直前での大きなエンジン回転変動(回転数の挙動)に起因して、DMFの弾性部材が大きく回転方向(フライホイールの円周方向)に伸縮し、弾性部材を介して取り付けられたマス(分割したフライホイール部分)が回転方向に暴れるため、AT車両よりも振動の問題が大きくなり易く、そのために、エンジンを自動停止させる過程において、そもそものエンジン回転変動を小さくするためである。したがって、MT車両、AT車両のいずれの場合も、吸気絞り弁30の開度が全開未満の所定開度以下(30%以下)に制限されているのは、エンジンを自動停止させる過程において、エンジンが停止するときの振動を抑制する観点からである。すなわち、1圧縮始動性を高める観点からは、時点t4での吸気絞り弁30の開度は大きいほど好ましく、振動抑制の観点からは、小さいほど好ましいといえる。
ステップS7の所定回転速度K1(例えばn1〜n2rpm)の具体的数値としては、例えば、MT車両の場合で210〜280rpm等が採用可能である(AT車両の場合はこれより高い回転数が好ましい)。
(4)再始動制御
次に、上記ECU50の再始動制御部52により実行されるエンジンの再始動制御の具体的制御動作の一例について、図8のフローチャートを用いて説明する。
図8のフローチャートに示す処理がスタートすると、再始動制御部52は、各種センサ値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS11)。例えば、車両発進のためにアクセルペダル36が踏み込まれたこと(アクセルON)、エンジンの冷却水温が所定値未満になったこと、バッテリの残容量の低下幅が許容値を超えたこと、エンジンの停止時間(自動停止後の経過時間)が所定時間を越えたこと、等の要件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。
上記ステップS11でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部52は、上述したエンジンの自動停止制御に伴い圧縮行程で停止した停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置を、クランク角センサSW2及びカム角センサSW3に基づき特定し、その特定したピストン停止位置が、基準停止位置Xよりも下死点側の特定範囲Rx(図3(b))にあるか否かを判定する(ステップS12)。
上記ステップS12でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が特定範囲Rxにあることが確認された場合、再始動制御部52は、停止時圧縮行程気筒2Cに最初の燃料を噴射する1圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS13)。すなわち、スタータモータ34を駆動してクランクシャフト7に回転力を付与しつつ、燃料噴射弁15から停止時圧縮行程気筒2Cに燃料を噴射して自着火させることにより、エンジン全体として最初の圧縮上死点を迎えるときから燃焼を再開させて、エンジンを再始動させる。
ここで、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置は、上述した自動停止制御(図2、図6、図7)の効果により、比較的多くのケースにおいて、上記特定範囲Rxに収まっていると考えられる。しかしながら、場合によっては、上記ピストン停止位置が特定範囲Rxを外れる(基準停止位置Xよりも上死点側でピストン5が停止する)こともあり得る。このようなときは、上記ステップS12でNOと判定されることになる。
上記ステップS12でNOと判定された場合(つまり停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が特定範囲Rxよりも上死点側で停止している場合)、再始動制御部52は、吸気行程で停止していた停止時吸気行程気筒2Dに最初の燃料を噴射する2圧縮始動によってエンジンを再始動させる制御を実行する(ステップS14)。すなわち、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上死点を超えて、次に停止時吸気行程気筒2Dが圧縮行程を迎えるまで、燃料を噴射することなく、スタータモータ34の駆動のみによってエンジンを強制的に回転させる。そして、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が圧縮上死点付近に近づいた時点で燃料噴射弁15から停止時吸気行程気筒2Dに燃料を噴射し、噴射した燃料を自着火させることにより、エンジン全体として2回目の圧縮上死点を迎えるときから燃焼を再開させ、エンジンを再始動させる。
本実施形態では、少なくとも上記ステップS13で1圧縮始動を行う場合に、燃料噴射弁15にプレ噴射を行わせるようにしている。プレ噴射とは、圧縮上死点付近で噴射される拡散燃焼用の燃料噴射をメイン噴射とした場合に、このメイン噴射よりも前に予備的に噴射される燃料噴射のことである。プレ噴射による燃焼(プレ燃焼)は、メイン噴射に基づく圧縮上死点付近での拡散燃焼(メイン燃焼)を確実に引き起こすために利用される。すなわち、メイン噴射よりも早い段階で、プレ噴射によって少量の燃料を噴射し、その噴射した燃料を所定の着火遅れの後に燃焼(プレ燃焼)させることにより、筒内温度・圧力を上昇させて、その後に続くメイン燃焼を促進する。
上記のようなプレ噴射を停止時圧縮行程気筒2Cに対し実行すれば、圧縮上死点付近での筒内温度・圧力を意図して高めることができるので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が少々上死点側に近づいても、確実に1圧縮始動によりエンジンを再始動させることができるようになる。図3(b)に示した特定範囲Rxの境界である基準停止位置Xは、このようなプレ噴射による着火性の改善を加味して設定されたものである。つまり、プレ噴射がなかった場合には、上記基準停止位置Xは、図3(b)の例よりも下死点側に設定せざるを得ないが、プレ噴射によって着火性を改善することで、基準停止位置Xをより上死点側に設定することが可能になり、その結果、基準停止位置Xを、例えばBTDC90°CA近傍といった、下死点からかなり離れた位置に設定することが可能となる。これにより、特定範囲Rxが上死点側に拡大するので、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5がより高い頻度で上記特定範囲Rxに収まることとなり、1圧縮始動による迅速な再始動を行える機会が増える。
ここで、本実施形態におけるプレ噴射は、圧縮上死点よりも前の所定のクランク角範囲内で複数回(より具体的には2〜5回)実行される。これは、同じ量の燃料であれば、1回のプレ噴射で噴射し切るよりも、複数回のプレ噴射に分けて噴射した方が、ピストン5の冠面に設けられたキャビティ5a内にリッチな混合気を継続的に形成でき、着火遅れを短くできるからである。
(5)作用効果等
以上説明したように、本実施形態では、所定の条件下で自動的にエンジンを停止させたり再始動させたりする、いわゆるアイドルストップ機能を有したディーゼルエンジン、特に再始動時に1圧縮始動が可能なディーゼルエンジンにおいて、次のような特徴的な構成を採用した。
エンジンを自動停止させる過程において、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の該気筒2C内への流入空気量が、停止時膨張行程気筒2Aの吸気行程中の該気筒2A内への流入空気量よりも多くなるように、吸気通路28に設けられた吸気絞り弁30を制御するECU50を設けた。ECU50は、2TDC通過回転速度が高いとき(A’のとき)は、低いとき(Aのとき)に比べて、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の吸気絞り弁30の開度を大きくする(開度Bより大きい開度Cにする)。ここで、吸気行程の開始時点のエンジン回転速度が相対的に高いときはその吸気行程中のエンジン回転速度もまた相対的に高く、吸気行程の開始時点のエンジン回転速度が相対的に低いときはその吸気行程中のエンジン回転速度もまた相対的に低いと推定される。よって、2TDC通過回転速度が高いとき(A’のとき)は、低いとき(Aのとき)に比べて、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中のエンジン回転速度が高いと判断される。
このような構成により、エンジンを自動停止させる過程において、停止時圧縮行程気筒2C内には停止時膨張行程気筒2A内よりも多くの量の空気が流入するため、エンジンが自動停止したときには、停止時圧縮行程気筒2Cには圧縮反力が働き、停止時膨張行程気筒2Aには膨張反力が働く。
その上で、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中のエンジン回転速度が高いとき(2TDC通過回転速度が高いA’のとき)は、低いとき(2TDC通過回転速度が低いAのとき)に比べて、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の吸気絞り弁30の開度が大きくされる(開度Bより大きい開度Cにされる)ので、吸気絞り弁30よりも下流側の吸気通路28内の圧力(インマニ圧)の増大速度が大きくなる。
そのため、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程がインマニ圧の増大中に終了する場合に、たとえ停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中のエンジン回転速度が高くても(2TDC通過回転速度が高くても)、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程終了時のインマニ圧が十分高くなり(図6の「d」)、停止時膨張行程気筒2Aとのインマニ圧偏差が十分大きくなって、停止時圧縮行程気筒2C内に多量の空気が流入する結果、停止時圧縮行程気筒2C内への流入空気量と停止時膨張行程気筒2A内への流入空気量との偏差が十分大きくなる。
よって、エンジンが自動停止したときに停止時圧縮行程気筒2Cに働く圧縮反力及び停止時膨張行程気筒2Aに働く膨張反力が十分大きくなり、結果として、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を安定して下死点寄りに停止させることができ、圧縮自己着火式エンジンを高い頻度で1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。
本実施形態では、ECU50は、エンジンを自動停止させる過程において、吸気絞り弁30の開度を全開未満の所定開度以下に制限しつつ、吸気絞り弁30の制御を行う。
このような構成により、エンジンを自動停止させる過程において、吸気絞り弁30の開度が全開未満の所定開度以下(30%以下)に制限されるので、エンジンが停止するときのNVH(ノイズ(騒音)・バイブレーション(振動)・ハーシュネス(乗り心地))が良好となる。また、エンジンを自動停止させる過程において、新気の導入が相対的に少なくなるので、筒内冷却が抑制され、再始動時の燃料の自己着火性が確保される。また、この構成のように、吸気絞り弁30の開度が相対的に小さい開度に制限される場合は、吸気絞り弁30を時点t4で開いたときにインマニ圧が大気圧まで増大するのに要する時間がより長くなる。しかし、そのような状況下であっても、エンジン回転速度(2TDC通過回転速度)が高いときは、低いときに比べて、吸気絞り弁30の開度が大きくされるので、停止時圧縮行程気筒2C内への流入空気量を十分増大させ、圧縮自己着火式エンジンを高い頻度で1圧縮始動で迅速に再始動させることが可能となる。
本実施形態では、エンジン回転速度を検出可能なクランク角センサSW2が備えられ、ECU50は、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程の開始時点t4に上記センサSW2で検出されたエンジン回転速度(2TDC通過回転速度)を用い、このエンジン回転速度が高いとき(A’のとき)は、低いとき(Aのとき)に比べて、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の吸気絞り弁30の開度を大きくする(開度をBより大きいCにする)。
このような構成により、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程が開始する時点t4で、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中のエンジン回転速度がどの程度高いかが分かるので、遅滞なく、確実に、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の吸気絞り弁30の開度をエンジン回転速度に応じた適正開度まで大きくすることができる。
本実施形態では、圧縮自己着火式エンジンは、幾何学的圧縮比が16未満(より具体的には14)に設定されたディーゼルエンジンである。
このような構成により、幾何学的圧縮比が16未満のディーゼルエンジンは、従来から多用されてきたディーゼルエンジンに比べれば圧縮比が低く、その分、圧縮行程の途中位置に停止するピストン5の圧縮代(停止位置から圧縮上死点までの有効圧縮比)は小さく、燃料の自己着火性が相対的に低いため、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5を安定して下死点寄りに停止させて1圧縮始動の頻度を高めることができるという本実施形態の作用効果は非常に大きいものとなる。
(6)他の実施形態
上記実施形態では、エンジン回転速度を検出可能なクランク角センサSW2で検出された2TDC通過回転速度(停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程の開始時点t4でのエンジン回転速度)に基いて、この2TDC通過回転速度が高いA’のときは、低いAのときに比べて、時点t4で開く吸気絞り弁30の開度を大きくする(開度をBより大きいCにする)ようにしたが(例えばステップS7〜S9参照)、これに限らず、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程の開始時点t4より前のいずれかの時点でのエンジン回転速度、すなわち停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程の開始前に上記センサSW2で検出されたエンジン回転速度を用い、このエンジン回転速度が高いときは、低いときに比べて、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の吸気絞り弁30の開度を大きくする(開度をBより大きいCにする)ようにしてもよい。
このような構成により、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程が開始するより前の時点で、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中のエンジン回転速度がどの程度高いかが分かるので、遅滞なく、確実に、停止時圧縮行程気筒2Cの吸気行程中の吸気絞り弁50の開度をエンジン回転速度に応じた適正開度まで大きくすることができるという効果がより大きくなる。
また、上記実施形態では、2TDC通過回転速度が所定回転速度K1未満のときは、吸気絞り弁30の開度を7%(開度B)とし(ステップS8)、2TDC通過回転速度が所定回転速度K1以上のときは、吸気絞り弁30の開度を30%(開度C)としたが(ステップS9)、図5に示したように、エンジン回転速度とインマニ圧偏差とが線形に相関していることから、時点t4で開く吸気絞り弁30の開度を2段階に切り替える他に、エンジン回転速度(例えば2TDC通過回転速度)に応じて3段階以上の多段階に切り替えてもよく、あるいは、エンジン回転速度(例えば2TDC通過回転速度)が高いほど吸気絞り弁30の開度を大きくするようにしてもよい。
また、上記実施形態では、吸気絞り弁30の開度を0%から0%超のB又はCに切り替える時期を、2TDC(時点t4)としたが、これに限らず、停止時圧縮行程気筒2C内への流入空気量を停止時膨張行程気筒2A内への流入空気量よりも多くすることができる限り、2TDCよりも所定時間前の時点で吸気絞り弁30の開度を切り替えてもよく、また、2TDCよりも所定時間後の時点で吸気絞り弁30の開度を切り替えてもよい。つまり、吸気絞り弁30の開度を切り替える時期を、2TDCの近傍としてもよい。
また、上記実施形態では、自動停止条件及びシステム条件の成立時点t1で吸気絞り弁30の開度を全閉(0%)に設定し、その後、ある程度のインマニ圧の低下が見られる時点t2で、燃料噴射弁15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実行するようにしたが、吸気絞り弁30を全閉にするのと同じ時点t1で燃料カットを実行してもよい。
また、上記実施形態では、圧縮自己着火式エンジンの一例としてディーゼルエンジン(軽油を自己着火により燃焼させるエンジン)を用い、ディーゼルエンジンに本発明に係る自動停止・再始動制御を適用した例を説明したが、圧縮自己着火式エンジンであれば、ディーゼルエンジンに限定されない。例えば、最近では、ガソリンを含む燃料を高圧縮比で圧縮して自己着火させる(HCCI:Homogeneous−Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)タイプのエンジンが研究、開発されているが、このような圧縮自己着火式のガソリンエンジンに対しても、本発明に係る自動停止・再始動制御は好適に適用可能である。